天文月報2022年8月号に、アマチュア天文家の塩田和生さんによる「皆既日食中の空の明るさに関する研究」という記事が掲載されています。太陽が月によって完全に隠される皆既日食では、「日没後 30 分ぐらい」の空の明るさまで急激に暗くなると言われていますが、定量化できるデータを広く収集し、その結果を説明できるモデルを設定しデータと比較をまとめ、観測者が感じる「明るさ感」にまで踏み込んだ労作となっています。

皆既日食中の空の明るさに関する研究 ―日食ごとの物理的な明るさの違いと感覚的な明るさ感―
https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/item/115-8_537_1.pdf

「本影錐」「照度」「輝度」「ミー散乱」「レイリー散乱」などの専門用語が登場しますが、複雑な数式は特に含まれていません。「空の明るさ」を定量化するプロセスは「夜空の暗さの測定」との共通部分も多く、天文ファンならGoogle検索を片手に?読み進めることができるでしょう。万人にオススメするものではありませんが、アマチュアの強みを生かせる研究の成果事例として「観測」や「データの定量化」に興味のある方には必読ではないかと感じました。

アバウトな研究内容と読みどころ

元記事は15ページ近くあり、筆者の力量では充分なご紹介ができないのが残念なのですが、長い経験(*)から感じた疑問を科学的に明らかにしたい、という塩田さんの情熱にまず感動を禁じ得ません。

(*)「日食のすべて(2012 誠文堂新光社刊、共著)」などの著作があり、日食観測のレジェンドのお一人です。

「(空が)明るく感じる日食と暗く感じる日食があるのはなぜか?」「本影錐の太さと空の明るさ感があまり相関しないのはなぜか?」という疑問から始まり、デジタルカメラ画像を広く収集・解析することで定量的な観測結果をまとめ、大気の散乱モデルからそのデータを検証する。さらには「明るさ感」という感覚的なものを数値化するために建築照明分野の研究も参照する。門外漢の筆者が評するのはあまりにおこがましいですが、これは科学的プロセスそのものといえるでしょう。

「すぐに使える知識」としては、以下の3つをあげておきます。

  1. 皆既日食中の天頂輝度は暗夜の約1000倍(*1)
  2. 皆既日食中の地表の照度は停電時の非常灯の設置基準よりも高く、照明なしにいろいろな作業を充分行える(*2)
  3. 淡いコロナを見るために、皆既前から眼を「暗順応」させておく効果はさほど(ほとんど)ない

(*1)「常用薄明(市民薄明)」終了時くらいの明るさ

(*2)厚い雲に覆われた場合はその限りではなく、相当に暗くなるようです。安全のためには、懐中電灯を準備しておくことが望ましいと考えられます。

1,2については、塩田さんは「2035年の本州横断皆既日食に向けてきちんと伝えることが重要」と書かれています。

今後の皆既日食で・2035年に向けて

今後挑戦する人が増えることを 願っています.

皆既日食は地球を飛び回ったとしても数年に一回くらいしか見られない稀な現象です、この研究は短いスパンで成果を求められるプロの研究者のテーマにはなかなかなりにくいことでしょう。逆に、アマチュアの力が生きる分野といえます。直接的に研究をするのではなくても、さまざまな日食条件・気象条件でのデータを提供するだけでも、研究に役立ててもらえる可能性があります。

筆者が皆既日食を見る機会があれば、食の始めから終わりまでのタイムラプスに挑戦しようと思います。特に、皆既前後の全天raw画像は確実に抑えておこうと思いました!

まとめ

いかがでしたか?

これまで類似の研究事例がほとんどない分野であり、このレポートの内容が科学的に完全に検証された段階ではありませんが、モデルと結果はよく一致しており今後の研究の土台となることでしょう。塩田さんが記事中で「もっと精度の高いモデルをプログラミングが 得意な方に作って欲しい」と書かれているように、この研究に続く方が現れることを期待してピックアップさせていただきました。

実は筆者は皆既日食未体験なのですが、人から話を聞く限り「太陽とその近傍のコロナ」だけではなく、全天の環境全てが最大級の天文ショーであると確信しています。個人的には、高精度な数値モデルを使用して「皆既日食の雰囲気、臨場感」を全天映像でシミュレーションするような技術ができあがると素晴らしいなと思っています。

https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/c35e58f35f57a50eb7749f29aefcd9fd-1024x787.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/c35e58f35f57a50eb7749f29aefcd9fd-150x150.jpg編集部特選ピックアップ皆既日食天文月報2022年8月号に、アマチュア天文家の塩田和生さんによる「皆既日食中の空の明るさに関する研究」という記事が掲載されています。太陽が月によって完全に隠される皆既日食では、「日没後 30 分ぐらい」の空の明るさまで急激に暗くなると言われていますが、定量化できるデータを広く収集し、その結果を説明できるモデルを設定しデータと比較をまとめ、観測者が感じる「明るさ感」にまで踏み込んだ労作となっています。 皆既日食中の空の明るさに関する研究 ―日食ごとの物理的な明るさの違いと感覚的な明るさ感― https://www.asj.or.jp/jp/activities/geppou/item/115-8_537_1.pdf 「本影錐」「照度」「輝度」「ミー散乱」「レイリー散乱」などの専門用語が登場しますが、複雑な数式は特に含まれていません。「空の明るさ」を定量化するプロセスは「夜空の暗さの測定」との共通部分も多く、天文ファンならGoogle検索を片手に?読み進めることができるでしょう。万人にオススメするものではありませんが、アマチュアの強みを生かせる研究の成果事例として「観測」や「データの定量化」に興味のある方には必読ではないかと感じました。 アバウトな研究内容と読みどころ 元記事は15ページ近くあり、筆者の力量では充分なご紹介ができないのが残念なのですが、長い経験(*)から感じた疑問を科学的に明らかにしたい、という塩田さんの情熱にまず感動を禁じ得ません。 (*)「日食のすべて(2012 誠文堂新光社刊、共著)」などの著作があり、日食観測のレジェンドのお一人です。 「(空が)明るく感じる日食と暗く感じる日食があるのはなぜか?」「本影錐の太さと空の明るさ感があまり相関しないのはなぜか?」という疑問から始まり、デジタルカメラ画像を広く収集・解析することで定量的な観測結果をまとめ、大気の散乱モデルからそのデータを検証する。さらには「明るさ感」という感覚的なものを数値化するために建築照明分野の研究も参照する。門外漢の筆者が評するのはあまりにおこがましいですが、これは科学的プロセスそのものといえるでしょう。 「すぐに使える知識」としては、以下の3つをあげておきます。 皆既日食中の天頂輝度は暗夜の約1000倍(*1) 皆既日食中の地表の照度は停電時の非常灯の設置基準よりも高く、照明なしにいろいろな作業を充分行える(*2) 淡いコロナを見るために、皆既前から眼を「暗順応」させておく効果はさほど(ほとんど)ない (*1)「常用薄明(市民薄明)」終了時くらいの明るさ (*2)厚い雲に覆われた場合はその限りではなく、相当に暗くなるようです。安全のためには、懐中電灯を準備しておくことが望ましいと考えられます。 1,2については、塩田さんは「2035年の本州横断皆既日食に向けてきちんと伝えることが重要」と書かれています。 今後の皆既日食で・2035年に向けて 今後挑戦する人が増えることを 願っています. 皆既日食は地球を飛び回ったとしても数年に一回くらいしか見られない稀な現象です、この研究は短いスパンで成果を求められるプロの研究者のテーマにはなかなかなりにくいことでしょう。逆に、アマチュアの力が生きる分野といえます。直接的に研究をするのではなくても、さまざまな日食条件・気象条件でのデータを提供するだけでも、研究に役立ててもらえる可能性があります。 筆者が皆既日食を見る機会があれば、食の始めから終わりまでのタイムラプスに挑戦しようと思います。特に、皆既前後の全天raw画像は確実に抑えておこうと思いました! まとめ いかがでしたか? これまで類似の研究事例がほとんどない分野であり、このレポートの内容が科学的に完全に検証された段階ではありませんが、モデルと結果はよく一致しており今後の研究の土台となることでしょう。塩田さんが記事中で「もっと精度の高いモデルをプログラミングが 得意な方に作って欲しい」と書かれているように、この研究に続く方が現れることを期待してピックアップさせていただきました。 実は筆者は皆既日食未体験なのですが、人から話を聞く限り「太陽とその近傍のコロナ」だけではなく、全天の環境全てが最大級の天文ショーであると確信しています。個人的には、高精度な数値モデルを使用して「皆既日食の雰囲気、臨場感」を全天映像でシミュレーションするような技術ができあがると素晴らしいなと思っています。編集部発信のオリジナルコンテンツ