蒼月城(@astroimageproc)さん「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶのは止めませんか?」という提言をされています。英語圏のニュアンスでは「コンポジット」は「いわゆるはめ込み合成」を指すため、適切とはいえないのではないか、という趣旨です。

「コンポジット」の意味と日本における用例

Wikipedia コンポジット
https://ja.wikipedia.org/wiki/コンポジット
https://ja.wikipedia.org/wiki/コンポジット

「コンポジット」のWikipediaによる解説。「複数のものを合成あるいは組み合わせたものを表す」とあります。今回の文脈で言えば「映像の合成」が「コラージュ的デジタル合成」に相当します。CG業界では明確にそのように認識されているようです。

一方でアナログテレビの「RCAコンポジット映像信号」では、天体写真的な画像処理に近い(LRGB合成的な)意味で使用されています。その意味では、天体写真の「コンポジット」も同じ流れであり、充分妥当なものだとの見方も可能かもしれません。

天体写真では、フィルム時代から「惑星の画像を印画紙への焼き付ける時に多数枚重ね合わせて画質を向上させる」手法が「コンポジット」と呼ばれていました。アストロアーツ社の画像処理ソフト「ステライメージ」で、画像の重ね合わせ処理を「コンポジット」と呼ぶのもその流れによるものと思われます。

「正しい言葉」と「誤った言葉」

よく言われることですが、言葉は(歴史を振り返ってみると)主に「多数決」です。ある時代に誤用とされた言葉が後世には一般化していることは、ごく普通の事象です。古い言葉の価値を尊び「誤用」を拒む姿勢も、積極的に新しい言葉を生み出したり使用する姿勢も、それぞれに尊重されるべきでしょう。

別の視点では、あくまで筆者の経験上のことですが、「この使い方はスタンダードに照らせば誤りだ、変えるべきだ」という主張は、コミュニティへの貢献というよりはむしろ主張者自身の満足のためになされることも多いように思います(*)。

(*)認知バイアスのある2つのコミュニティの間では、バイアスを都合よく利用するポジショントークや、極端には「詐欺師」が現れるのも「あるある」です。

ただ、今回の蒼月城さんの提言に関していえば、筆者はこの一点で「コンポジットと呼ぶのは止めよう」と思いました。デジタル化された天体写真においては「コンポジット」という言葉を使うのはまずいのではないか?

デジタル天体写真という世界の「すぐ隣」に存在する「CG的な合成」との関係を明確にする意味では、「コンポジット」という言葉はもう使わない方がよいのではないか?例えば、日本におけるハメコミ合成に関する議論が、英語文化圏の人に通じなかったり誤解されるのは、デメリットが大きいのではないでしょうか。

他の言葉でいうと、以前から「ノータッチガイド」という和製英語に対する違和感の表明も散見されます。ノータッチガイドとは「赤道儀の恒星時駆動任せで、ガイドエラーの修正を特に行わない放置撮影」を指す言葉ですが、英語文化圏には全く通じない言葉です。こちらも、何か良い代わりの言葉はないでしょうか?提言をお待ちしています!

まとめ

いかがでしたか?

「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」天体写真界隈の慣習は、40年以上前から続いているものであり、簡単には変わらないでしょう。天リフ的にも「用語の誤りを正し統一すること」には関心はありませんし、ましてや「言葉狩り運動」に参加するつもりは毛頭ありません。

ただ、今後天リフで自ら情報発信する際には「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」ことは一切止めようと考えています。代わりの言葉は筆者的には「スタック(Stacking)」でしょうか。PixInsight文化圏の方なら、蒼月城さんのように「インテグレーション(integration)」がしっくりくるでしょう。

天リフ読者、天文界隈の皆様におかれましては、自らの行為をどのように呼ぶかはご自身の判断です。ただ、今回の蒼月城さんの提言は、傾聴する価値があるのではないかと考えます。

ネットの反応

本記事に関して多くの方からの反応がありました。その一部を引用させていただきます。



「比較明」の呼称は?星ナビ様、東山正宣のツイート

天文界の「コンポジット」の古い話

ノータッチガイド

言葉は生きもの

現在は「優勢→顕性、昇華→凝華、希ガス→貴ガス」だそうです。知らなかった! https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/a5ab6fc969a1d286b27331b821464f8d.pnghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/a5ab6fc969a1d286b27331b821464f8d-150x150.png編集部特選ピックアップ天文コラム蒼月城(@astroimageproc)さんが「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶのは止めませんか?」という提言をされています。英語圏のニュアンスでは「コンポジット」は「いわゆるはめ込み合成」を指すため、適切とはいえないのではないか、という趣旨です。 YouTubeでも何度も言っているんですが、ノイズ低減目的で複数枚の天体写真を重ね合わせることを「コンポジット」と言うのはそろそろ本気で止めませんか?😅 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 「コンポジット」の意味と日本における用例 Wikipedia コンポジット https://ja.wikipedia.org/wiki/コンポジット 「コンポジット」のWikipediaによる解説。「複数のものを合成あるいは組み合わせたものを表す」とあります。今回の文脈で言えば「映像の合成」が「コラージュ的デジタル合成」に相当します。CG業界では明確にそのように認識されているようです。 一方でアナログテレビの「RCAコンポジット映像信号」では、天体写真的な画像処理に近い(LRGB合成的な)意味で使用されています。その意味では、天体写真の「コンポジット」も同じ流れであり、充分妥当なものだとの見方も可能かもしれません。 天体写真では、フィルム時代から「惑星の画像を印画紙への焼き付ける時に多数枚重ね合わせて画質を向上させる」手法が「コンポジット」と呼ばれていました。アストロアーツ社の画像処理ソフト「ステライメージ」で、画像の重ね合わせ処理を「コンポジット」と呼ぶのもその流れによるものと思われます。 「正しい言葉」と「誤った言葉」 よく言われることですが、言葉は(歴史を振り返ってみると)主に「多数決」です。ある時代に誤用とされた言葉が後世には一般化していることは、ごく普通の事象です。古い言葉の価値を尊び「誤用」を拒む姿勢も、積極的に新しい言葉を生み出したり使用する姿勢も、それぞれに尊重されるべきでしょう。 別の視点では、あくまで筆者の経験上のことですが、「この使い方はスタンダードに照らせば誤りだ、変えるべきだ」という主張は、コミュニティへの貢献というよりはむしろ主張者自身の満足のためになされることも多いように思います(*)。 (*)認知バイアスのある2つのコミュニティの間では、バイアスを都合よく利用するポジショントークや、極端には「詐欺師」が現れるのも「あるある」です。 天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 ただ、今回の蒼月城さんの提言に関していえば、筆者はこの一点で「コンポジットと呼ぶのは止めよう」と思いました。デジタル化された天体写真においては「コンポジット」という言葉を使うのはまずいのではないか? デジタル天体写真という世界の「すぐ隣」に存在する「CG的な合成」との関係を明確にする意味では、「コンポジット」という言葉はもう使わない方がよいのではないか?例えば、日本におけるハメコミ合成に関する議論が、英語文化圏の人に通じなかったり誤解されるのは、デメリットが大きいのではないでしょうか。 コンポジットやめよう勢、理解者が多くていいなあ。ノータッチガイドやめよう勢にも、そのくらい”勢い”が欲しいよなあ。(あくまで個人的見解) — hoshirokuman (@hoshirokuman) July 26, 2022 他の言葉でいうと、以前から「ノータッチガイド」という和製英語に対する違和感の表明も散見されます。ノータッチガイドとは「赤道儀の恒星時駆動任せで、ガイドエラーの修正を特に行わない放置撮影」を指す言葉ですが、英語文化圏には全く通じない言葉です。こちらも、何か良い代わりの言葉はないでしょうか?提言をお待ちしています! まとめ 本気で止める勢に参加します。 https://t.co/fmQ9dcmSLI — 黒・天リフ (@black_tenref) July 26, 2022 いかがでしたか? 「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」天体写真界隈の慣習は、40年以上前から続いているものであり、簡単には変わらないでしょう。天リフ的にも「用語の誤りを正し統一すること」には関心はありませんし、ましてや「言葉狩り運動」に参加するつもりは毛頭ありません。 日本でコンポジットと言われる処理は英語では integration あるいは stacking と言われます。この処理は複数枚の画像の平均をとって1枚の画像を作るわけですから、「統合する」とか「足し合わせる」とかいったニュアンスの integration の方がやはりしっくりくるんですよね。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 ただ、今後天リフで自ら情報発信する際には「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」ことは一切止めようと考えています。代わりの言葉は筆者的には「スタック(Stacking)」でしょうか。PixInsight文化圏の方なら、蒼月城さんのように「インテグレーション(integration)」がしっくりくるでしょう。 天リフ読者、天文界隈の皆様におかれましては、自らの行為をどのように呼ぶかはご自身の判断です。ただ、今回の蒼月城さんの提言は、傾聴する価値があるのではないかと考えます。 ネットの反応 本記事に関して多くの方からの反応がありました。その一部を引用させていただきます。 「比較明」の呼称は?星ナビ様、東山正宣のツイート 「比較明ブレンド」かな? (英語圏では何と呼んでいるのだろう?) ちなみに、合成は含意が広いので 地上景色に、別撮り天の川を切り貼り合成した画像は「コラージュ合成」 赤道儀を止めて撮影した地上景色に、時間差で赤道儀追尾した星空を別々に画像処理して合成した星景画像は「固定・追尾合成」 https://t.co/J1oGbTcAYx — 「星ナビ」8月号発売中🎋 (@Hoshinavi) July 28, 2022 天文界の「コンポジット」の古い話 あとは、プリントした複数枚を接写する方法なども。手元にあるものでは1982年秋の「星の手帖」に記事がありますし、もっと古い記事も見た覚えがあるので、それなりに歴史はあるはずです。 pic.twitter.com/RKM0ytahkH — HIROPON (@hiropon_hp2) July...編集部発信のオリジナルコンテンツ