みなさんこんにちは!

アポクロマート天体望遠鏡はお持ちですか?何枚玉ですか?硝材は何ですか?天文マニアは機材マニア。やっぱりスペックが気になりますよね。

一般に、フローライトやスーパーEDガラス(オハラFPL-53など)のような「松クラス硝材」を使ったアポクロマート望遠鏡と、[無印]EDガラス(オハラFPL-51など)の「竹クラス硝材」を使った望遠鏡には、軸上色収差(*)の補正においては大きな差があり、「松クラス」の硝材1枚は「竹クラス」の硝材2枚分と言われています。

(*)光の波長によって焦点位置がずれることで、色にじみが発生する現象。



特に2枚のレンズから構成される望遠鏡(2枚玉)の場合、「松クラス」と「竹クラス」には明確な差があります。2枚のレンズでは収差補正のための設計の自由度に限界があり「どんなに設計をがんばっても埋められない差がある(*)」のが事実です。

(*)タカハシFOA-60のように、2枚のレンズの間隔を大きく離す設計によって、より高度な収差補正を実現することも可能ですが、製造と調整のハードルが高くなりコスト増となります。

SVBONY SV550 天体望遠鏡 APO 三枚玉アポクロマート屈折式望遠鏡 口径122MM F/7 焦点距離 OTA 鏡筒
https://www.svbony.jp/sv550-apo-refractor-122mm
「FPL-51トリプレット>FPL53ダブレット」。SV550 122MMの商品ページに記載された「挑戦的」なコピー。https://www.svbony.jp/sv550-apo-refractor-122mm

しかし、対物レンズを3枚構成(2枚玉)にした場合はどうでしょうか。今回ご紹介するSVBONY SV550 122MMは、凸凹凸のトリプレット型。FPL-51硝材のレンズを1枚使用していますが、もう1枚レンズを増やすことで「FPL-53の2枚玉に勝る」と謳われています。

筆者は当初「本当かなあ・・」と疑っていたのが正直なところでした。同時に、これまで良く見える天体望遠鏡を低価格で提供されてきたSVBONYさんなら「もしや?」という思いもあり、ぜひ一度この眼で確かめてみたいと思っていました。

そんな中、今回SVBONY様に「協賛(*)」という形で製品の貸与とレビューの機会を頂戴することができました。いわゆる「企業案件」ですが、内容はいつも通り忖度なしです。それでは、SV550 122MMの実力をとくとごらんください!

(*) 記事中に広告枠を掲載することで対価を頂戴する形態

(広告)EDレンズ採用・アポクロマートトリプレット SVBONY SV550 122MM

SV550 122MMの外観

梱包とケース

SV550 122MMは直方体のソフトケースに収納された状態で梱包されていました。梱包箱(ケースを収納する段ボール箱)のサイズは‎83 x 33 x 25 cm。小さくはありませんが、口径比F7とやや短い(焦点距離854mm)こともあって普通に持ち運びできるサイズです。

ソフトケースの内部にはスチロールの間仕切りがあり、鏡筒がすっぽり入るようになっています。ハードケースほどの安心感はないものの、保管・移動のためには十分なものでしょう。

大型・小型にかかわらず、天体望遠鏡を買ったときに困るのが「段ボールとスチロール間仕切りだけ」の製品です。自分でケースをあつらえるのは特に初心者にとってはなかなかハードルが高いものですが、このような商品の発送のための「梱包材」を兼ねたキャリングケースが付属するのは大歓迎です。

対物レンズ

フードを収納した状態で対物レンズを見たところ。レンズ面は当然ですが全面マルチコートです。光軸調整機構はなくパーツの機械精度で光軸を担保する考え方で、近年の屈折式天体望遠鏡ではこちらが主流になっています(*)。

(*)口径が大きくなると光軸調整機構を備えたレンズセル自体が大型化し、コスト増・重量増の要因となります。最高の性能を発揮するために調整機構を持たせるのも1つの設計思想ですが、NC工作機械が進歩した現在では、調整機構を持たせなくても一定の品質が確保できるようになりました。

フード

フードはスライド式になっていて、上の画像のようにけっこう伸ばすことができます。このような伸縮式フードは収納長を短くできるのでとてもグッド。鏡筒の表面の塗装はSVBONY製鏡筒に共通の白の梨地仕上げ。指紋が付きにくくこれもいい感じ。

ただし後述しますが、口径が大きいこともあって深いフードであっても夜露対策は必須です。

鏡筒と鏡筒バンド

広角カメラで撮影したのでちょっとフードが実際より長く写ってしまいました。

鏡筒の重量はバンド込みで6.44kg 。ビクセンSXシリーズなどの中型の赤道儀に普通に搭載可能なサイズ。SV550 122MMとスペックが近い3枚玉鏡筒のタカハシTSA120より若干軽くなっています(*)。3枚玉鏡筒の宿命なのですが、対物レンズが3枚玉になったことによって2枚玉と比較してざっくり対物レンズ1枚分重くなり、フロントヘビーになります。

(*)TSA120の鏡筒重量はカタログ値で約6.7kg(バンドなし・7倍50mmファインダー付き)、手元のタカハシ7倍50mmファインダーは実測590gでしたので鏡筒のみの重量は6.1kg、(鏡筒バンド重量-340gだけ)軽いことになります。ちなみに口径115mmの2枚玉のビクセンSD115SSIIは鏡筒のみの重量が4.4kgです、

重心位置は上の画像のこぶしのあたり。カメラや接眼レンズ、ファインダーを装着するともう少し重心位置は接眼部側に移動しますが「フロントヘビー」であることはしっかり意識した方がよいでしょう(*)。

(*2)アリガタや別売の鏡筒ハンドルを、無造作につかんで鏡筒を持ち上げるとき、重心位置で掴まないと対物側をコツンと床に当ててしまうことがあります。

付属の鏡筒バンドとアリガタ。鏡筒バンドの内側には薄いフェルトが貼ってあります。質感と剛性感は平凡ですが、実用上は十分でしょう。

鏡筒バンドのトップ部にはM6のネジが切ってあります。中央の左右のネジ穴の間隔は実測37.7mm。ここは天文機材で一般的な35mm間隔にしてほしかったところ。

(広告) WiFi天文カメラ SVBONY SC311

接眼部

左の画像の赤いリングの左が接眼部回転機構のクランプ。

接眼部はラックピニオン式。デュアルスピードフォーカサーが標準付属し精密なピント合わせが可能になっています。繰り出しのストロークは約87mmと十分な長さです。

ファインダー脚はビクセン規格のアリミゾが接眼部に1個標準で装着されていますが、追加購入すれば90度離れた位置にもう1個装着することができます。なおファインダーは標準では付属しません。

接眼部には回転機構があります。ガタのないしっかりとした造りですが若干回転が固く、かなり力を入れないと回転しませんでした。ユルユルよりはずっといいのですが、ここはもう少しスムーズになって欲しいところ。

大径のドロチューブの内面には多数の遮光環が配置されていて内面反射の防止に大きく貢献しています。この部分は製品によってはつや消し塗装や微細なスジ状の構造の場合もあるのですが、やはり遮光環を入れるのが最善の策。

接眼部側から対物側を覗いたとき(上画像右)、対物レンズ以外の部分はすべて「暗黒」になるのが理想なのですが、本機はその点で最高レベルといえるでしょう。

ドロチューブ末端のネジはM63、2インチスリーブ差し込みアダプタが付属します。

SV209 0.8xフラットナー

SVBONY SV209 2 インチ 0.8Xフラットナー SV550 122MM APO鏡筒用
https://www.svbony.jp/sv209-focal-reducer-for-sv550-122-apo(*)

(*)SV550シリーズ用の等倍フラットナーも製品型番は「SV209」ですが、こちらは別の製品です。お間違えないように。

別売で専用のフラットナー(といってもx0.8倍のレデューサー)が用意されています。使用することで焦点距離683.2mm f/5.6となり、口径122mmの威力で焦点距離が長い割にはそこそこ明るい写真鏡となります。お値段は3万円強、SVBONY製品としては若干高めの印象を受けますが、他社の同クラスの製品よりはだいぶ安価です。

こちらもしっかりとした高級感のある作りで、レンズ面はこちらも当然ながらフルマルチコート。内面反射防止処理もしっかりしていて、後述しますが周辺光量・像質とも、とても良好でした。鏡筒とあわせて約26万円、口径122mmF5.6の高性能写真鏡がこの価格で手に入るのは素晴らしいことです。

カメラアダプタ側の取付規格はM48ですが、バックフォーカスに注意。M63-48アダプタから数えて55mmが公式仕様です。今回の撮影ではWillium Optics社のRedCat51用のEOSマウントカメラアダプタ(光路長実測10.4mm)を流用してだいたい55mmとなりました。

SVBONY SV195Tリング(*)アダプター[CANON EOSカメラ用 幅48MM]
https://www.svbony.jp/svbony-sv195-wide-48mm-t-ring-for-canon-eos-cameras

SVBONY社で販売されているカメラアダプタでは、こちらの製品が「光路長11mm、M48ネジ」で適合します。

(*)「Tリング規格」は元々タムロン社がカメラマウントのアダプタに採用したM42の規格が始まりで「M42 P0.75」のネジ規格を「T2」と呼びます。ところがM42ではフルサイズのイメージサークルを確保するには若干小さいため、M48のリングが「フルサイズ対応大型Tリング」と呼ばれるようになり、現在では「Tリング」と称して販売されている製品にはM42のものとM48のものが存在しています。「TリングはM42だけではない」ことに注意が必要です。

SV122MM+SV208 0.8xフラットナー+EOS 6Dでのフラット画像。目立つケラレもなく、ヒストグラムの幅も細く十分な周辺光量が確保されていることがわかります。2枚玉・3枚玉のシンプルな構成の天体望遠鏡では、無理に明るさ(=焦点距離の短縮率)を追求するよりも、等倍〜0.8倍程度のフラットナー(レデューサー)がコスト的・周辺光量的・周辺像的にも、バランスのよいものになるといえるでしょう。

フィルターはSV209に付属する「M63-M48アダプター」の対物側に48mm径のものが装着できました。ただしフィルター枠の厚みが大きすぎると正しく装着できないかもしれません。上の画像のOptolong社の「L-eNhance(枠の厚みは実測5mm)」は装着できました。

(広告) WiFiカメラ付きフィールドスコープ SVBONY SA401 25-75X100MM

FPL-51 vs FPL53・昼間の風景で比較する

FSQ106ED & FC76DCUとの比較

左・ポルタII経緯台に搭載したSV550 122MMとSXP赤道儀に搭載したFSQ106ED。右・ポルタIIに搭載したFC76DCU。

まず、昼間の風景で見え味を確認してみました(*)。比較対象はフローライトを1枚使用した2枚玉のタカハシFC-76DCU(焦点距離570mm)と、スーパーEDレンズを2枚使用した4枚玉のFSQ-106ED(x1.6エクステンダー使用で焦点距離800mm)です。この2本は同一口径クラスでは一級品と評価されている高性能天体望遠鏡です。

(*)筆者の眼は強度の近視と乱視、若干の白内障なので、低倍率での見え味の比較にはまったく適さないのですが、過剰倍率の高倍率では飛蚊を除けばそれなりに比較評価が可能です。主にRadian 3mmを装着しSV550は約280倍、FSQ106EDは約267倍、FC76DCUは約190倍で比較しました。

FPL-53 2枚玉とは「大差がない」

SV550 122MM(焦点距離854mm)を若干過積載ですがポルタIIに搭載。約1km先のマンションの看板と電灯を目視して比較しました。この日は比較的安定したシーイングでした。ドロチューブの繰り出し量は約90mmあって十分ですが、直視する場合は延長筒が必要です。

まず、SV550 122MMとFC-76DCUの比較ですが、同一接眼レンズでは焦点距離の差による倍率の差が大きいせいもありますが、収差補正をうんぬんする以前に「比較にならない」感じでした。口径122mmと76mmでは「見える世界が違う」という印象です。瞳径を同じにして星を見ればまた印象も違うのかもしれませんが、眼視においては「口径は大正義」であることを痛感しました。

FSQ-106EDとSV550 122MMの比較では、それなりに両者の特性が見えてきます。ちょうど電灯を固定する「袋ナット」の頭に太陽が反射していて人工星代わりになったのですが、焦点位置での色滲みや焦点内外像を比較すると、確かに軸上色収差の補正についてはFSQ106EDの方が優秀でした。

まあこれはFSQ-106EDがFPL-53を2枚使用していることを考えるとある意味当然です。同じ比較をFC-76DCUでも確認しましたが、こちらは正直言って違いがわからない感じでした。「FPL-53の2枚玉に勝る」がどうかは別としても「大差はないことは事実のようです。

同じ予算ならどちらが幸せなのか?

SV550 122MM(左)とFSQ-106ED(右)の比較イメージ。同一の画像を拡大率を倍率の比率に合わせて加工しています。明るさは2/3段補正とやや誇張していますが、実際に見るともう少し違いがあるような印象を受けました。

もうひとつ、色収差の補正の違いを除いて、FSQ-106EDとSV550 122MMの「どちらが良く見えるか」を問われると、正直SV550 122MMのほうが「良く見える」と感じました。その主な原因は「明るさ」の違いではないかと推測しているのですが(*)、ここでも「口径の差」が効いているようです。



(*)同じ接眼レンズを使用した場合、明るさの違いはF値の違いとなります。SV550 122MMはF7、FSQ-106EDのエクステンダー仕様はF8。49:64≒1:1.3で3割ほどSV550 122MMが明るい勘定になります。

この比較で「FPL-51の三枚玉」に対する評価が一変しました。性能に「大差がない」のであれば、あとはお値段の差。「FPL-51の三枚玉」が「FPL-53の2枚玉」より低価格だとすると(*)、その分だけコスパが高くなることを意味します。同じ価格でより大口径の望遠鏡が手に入るなら、FPL-51の三枚玉の方がより幸せになれるのではないか?この仮説を検証することが本レビューの狙いの1つになりました。

(*)SV550 122MMは記事執筆時点で直販価格229,800円。これはFPL-53クラスを使用した口径100mmクラスの2枚玉アポクロマート鏡筒より少し高いくらいです。

(広告)EDレンズ採用2枚玉アポクロマート SVBONY SV503 102MM

SV550 122MMでベランダ撮影

M42を短秒多数枚で

SV550 122MM SV209x0.8フラットナー(683.2mm f/5.6) EOS6D(天体改造) フィルターなし ISO1250 5秒250枚 ダーク・フラット適用 2xDrizzle、BXT

カメラのイメージセンサーは肉眼よりも単波長(青色)の光に対する感度が高いため、軸上色収差の影響はより顕著になります。眼視では「FPL-53の2枚玉と大きな差はない」と感じたSV550 122MMですが、写真撮影ではどうでしょうか。

まずはベランダから、短秒露光のブロードバンドでオリオン大星雲を撮影してみました。オリオン大星雲はとても明るいので、市街地の短秒露光でも良く写ります 。SV550 122MMはF値=7の「暗め」の鏡筒ですが、別売の専用フラットナー(実はx0.8のレデューサー)を使用すればF値=5.6、焦点距離683.2mmの「まずまず」な明るさになります。

このリザルトを見る限りは青ハロもほとんど感じられず、及第点です。SV550 122MMは写真鏡筒としてもかなりイケてるかも?!

バーティノフマスクの回折像でみる2枚玉と3枚玉の差

バーティノフマスク画像の比較。左・SV550 122MM(FPL-51 3枚玉)+EOS6D(天体改造) 右・SV503 102MM(FPL-51 2枚玉)+ASI294MC+UV/IRカットフィルター

色収差の補正状況をざっくり確認するために、バーティノフマスク(William Optics社製透明バーティノフマスク)による回折像を比較してみました。バーティノフマスクによる一次・二次くらいまでの低次の回折像では(*)、色によるピント位置の違いが光条の曲がりとなって現れます。

(*)高次の回折像ではn次とn+m次の回折像が重なり合ってくるため、色が混ざり合って平均化されて白色の光条に近づいていきます。また、マスクのスリットの幅の広いバーティノフマスクの場合は低次の回折像がより星に近くなり白つぶれしてしまい色によるピント位置の違いが確認できない場合があります。

以前評価したFPL-51の2枚玉のSV503(上画像右)では単波長・長波長でそれぞれ光条がやや曲がっているのに対して、FPL-51の3枚玉のSV550(上画像左)では、曲がりがわずかになっているのがわかります。この画像からも「3枚玉は2枚玉と比較して、より色収差が補正されている」といえるでしょう。

光学系の収差が補正できる「BXT後」の世界

左)スタック直後のfits画像(中央)。右)左の画像にBXT AI4をデフォルトパラメータで適用。星像径が約半分になっています。なお、元画像は2xDrizzle処理を行っているため、raw画像上の星像径はこの半分になります。

ところで、上記の作例は最近話題の「BlurExterminator(BXT)」を使用して画像処理を行っているため、大幅に星像径が小さくなり周辺の流れも補正されています。光学系本来の性能を評価する意味ではBXT適用画像を提示するのはある意味「反則」なのですが、「少々の残存収差はソフトウェアで補正できてしまうBXT後の世界」においては、天体望遠鏡の評価軸が若干シフトすることも事実です。

左)スタック直後のfits画像(隅)。右)左の画像にBXT AI4をデフォルトパラメータで適用。

実はこの時の構成はカメラアダプタの光路長が適切ではなく、最適なバックフォーカスではありませんでした。このため、最周辺では本来の性能よりも若干星像が伸びていてピントも甘くなっています。しかし、この程度であればBXTをかけなかったとしても天体写真用の鏡筒としてまずは十分といえるのではないでしょうか。そしてBXTで処理すれば「ほぼ完璧」な星像になってくれるのです。

SV550 122MMの本来の性能と「BXT後の世界」はどのくらいなのでしょうか。この撮影の後、バックフォーカスが本来の設計仕様になるようにカメラアダプタを取り替えて次の撮影に臨みました。

(広告) 高精度・磁石固定式フィルタードロワー SVBONY SV226

SV550 122MMでディープスカイ撮影

遠征地でブロードバンドガチ撮影・M42オリオン大星雲

オリオン大星雲M42。SVBONY SV550 122MM + SV209x0.8xフラットナー (683.2mm f/5.6) EOS6D SEO-SP4ノーフィルター ISO2500 3分×60枚、ISO400 20秒×20枚、総露光180分、ダーク・フラット適用 ビクセンSXP赤道儀オートガイド 2xDrizzle、飽和復元・BXT

SV550 122MMのベランダでのリザルトではなかなかいい結果でしたが、バックフォーカスが本来の状態ではなかったため真の実力だったとはいえません。また、軸上色収差の本当のところの評価は、空の暗い場所で撮影して極度に強調する「ガチディープスカイ」撮影ではないと見えてきません。そこで遠征地でもう一度しっかりとM42を撮影してみたのが上の作例です。

正直いって写りには全く不満がありません。ただ1つ注文を付けるとすると輝星の周辺の光芒が、鍵十字のように割れていることでしょうか。まあこの程度の割れは普通に起きることですし、好みの範囲でもあるでしょう。

等倍画像を検証する

BXTで処理する前のオリオン大星雲M42の中央・四隅等倍画像比較。2xDrizzleでスタック・SPCCで色合わせ後、1/2に縮小しレベル補正・彩度強調のみを適用。最中心の画像は元画像では完全に飽和したM42の中心部のため、若干中央から外れた場所を使用しています。

前項のM42の作例を、できるだけ元画像の状態を維持して四隅・中央を切り出してレベル補正で強調した、BXT処理前のSV550 122MMの「生画像」です。色収差・色コマなどを強調するため彩度も大幅に強調しています。

一見して、中央から四隅までほぼ均質な星像で目立った流れはなく、非常に優秀な結像状況です。眼を皿のようにして見ると、最周辺にはわずかに倍率色収差と放射状のコマ、像面湾曲による星像の肥大がありますが、十分合格点です。

SPCC後にBXT AI4を適用。パラメーターは全てデフォルトです。

この画像にBXTを適用すると、星像が小さく締まってほぼ完璧な結像となりました。ほとんど文句のつけようがありあせん。いやー、ホントにイイ時代になったものです。

(広告)IMX585センサー搭載・天体用CMOSカメラ SVBONY SV705C

ナローバンドではどうか

はくちょう座の網状星雲NGC6960。SVBONY SV550 122MM + SV209x0.8xフラットナー (683.2mm f/5.6) EOS6D SEO-SP4 L-eXtremeフィルター ISO2500 3分×28枚、総露光84分、ビクセンSXP赤道儀オートガイド 、ダーク・フラット適用 2xDrizzle、BXT

ナローバンドでも撮影してみました。色収差が残存している鏡筒の場合、赤のHα(波長656nm)と青緑のOIII(波長496nmと501nm)の焦点位置が一致しているかどうかが大きな問題となりますが、SV550 122MMでは両者はよく一致しているようです。

「焦点距離683mm」という長焦点(中焦点?)は、この網状星雲の微細なフィラメント構造を描出するのに威力を発揮してくれました。口径8cmや10cm級の屈折鏡筒のフラットナー構成でもこのくらいの焦点距離で使えるのですが「口径122mm」の光量はそれらと比較して豊富で、ナローバンドでそこそこ短い時間でも十分作品にすることができました。

ハート星雲NGC1805。SVBONY SV550 122MM + SV209x0.8xフラットナー (683.2mm f/5.6) EOS6D SEO-SP4 L-eXtremeフィルター ISO2500 3分×30枚、総露光90分、ビクセンSXP赤道儀オートガイド 、ダーク・フラット適用 2xDrizzle、BXT

ナローバンド撮影をもう一つ。カシオペヤ座のハート星雲です。大きく広がった散光星雲ですが、焦点距離683mmで撮ると暗黒帯の複雑な構造が浮かび上がってきて、300〜400mmクラスでのリザルトとは一線を画したものになりました。

SV550 122MMでのディープスカイ撮影は、焦点距離が長めなのでガイドが流れないようにしっかりしたシステムを組む必要があり、決して初心者向けとはいえないのですが、その分「決まった」ときの描写にはハッとさせられるものがあります。短焦点の小型鏡筒とはまた違った世界が楽しめると感じました。

(広告)7nm デュアルナローバンドフィルター SVBONY SV220

SV550 122MMで惑星と月を撮影

木星の撮影

木星。左が12月4日、右が11月26日に撮影。SV550 122MM直焦点(口径 122mm 焦点距離 854mm) セレストロン2.5xバローレンズ ASI678MC ASIAIRで撮像した動画をAutostakkert!でスタック 、ADCなし、デローテーション処理なし

折角の口径122mmなので、惑星と月も撮影してみました。あらかじめイイワケをしておきますが(大汗)、筆者の惑星・月撮影のスキルは初心者レベルなので、中級者・上級者ならこの程度ではないもっとよいリザルトが得られるはずです。

とはいえ、自分史上では最高の木星です^^;; SV550 122MMをパートナーにいろいろ惑星・月を撮影してみたのですが、初心者目線での「よいリザルト」のポイントは2つです。1つは「たくさんの画素で惑星面を撮ること」。ピクセルピッチ2μのASI678MCと、同じく4.6μのASI294MCでは歴然とした差がありました。逆に画素の大きなカメラでは、より倍率の高いバローレンズを使って像を拡大すれば、よい結果が得られると思われます。

もう一つは動画撮像のフレームレートを高くすることです。これまで筆者はASIAIRの内蔵メモリに動画を保存していましたが、40fps程度が限界でした。そこで高速な外付けSSDを接続して使用したところ、100fps程度まで高めることができました。大気の揺らぎの影響を少なくするためにはできるだけ高速なシャッタースピードを使いたいのですが、フレームレートが低いと十分な枚数(=光量)が確保できず、後処理での強調に限界が出てしまいます(*)。

(*)その他にも大気の分散による色収差を補正するADCを入れるとか、木星のような自転の速い天体でも長時間の撮像を可能にするデローテーション処理などの改善の余地があります。

月と金星の撮影・オールランダーの面白さ

左)金星。11月26日撮影。金星は非常に輝度が高いので高速なシャッター速度が使えるため、とても写しやすい天体です。右)月面。11月26日撮影。どんな月齢であっても、月には数々の「名所」があり、お手軽撮影でもかなりいろいろと楽しめます。

惑星や月を専門に「ガチで」撮るのには他により適した機材(大口径の反射系望遠鏡など)がありますが、「口径122mm」の高性能アポクロマート天体望遠鏡には小口径の屈折機とは一味違う高いポテンシャルがあります。さらに眼視で使う場合は、屈折機ならではの高いコントラストと扱いやすさがあり、SV550 122MMは「オールラウンダー」として、おおいに楽しめることを実感できました。

SV550 122MMで眼視観望・口径122mmの威力

オリオン大星雲M42を観望中。賞月観星の見かけ視界100度の接眼レンズXWA20mmで倍率約42倍で。瞳径は約3mm。黒く締まった背景に羽根を広げたような星雲の姿が浮かび上がり、122mmの「中口径」ならではの素晴らしい眺め。

「口径122mm」の高性能アポクロマート屈折のパワーが一番生きるのは、実は「眼視観望」かもしれません。アポクロマート屈折望遠鏡の視界の広さや高いコントラスト、安定した像質、覗きやすさなどは眼視観望向けなのですが、6〜10cmクラスでは口径不足・光量不足で楽しめる天体が限られてしまいます。しかし、口径122mmあればさまざまな星雲・星団や二重星などを、より迫力のある大きな明るい像で楽しむことができます(*)。

(*)口径30cmオーバーの大型ドブソニアン望遠鏡で見ると「別世界」が出現するのですが、「オールラウンダー」として最高の眼視望遠鏡は、12cmクラスの屈折望遠鏡である、と筆者は感じています。

M45すばるを観望中。青く輝く宝石のような星々が視野一杯に。このような広がった大きな星団は屈折望遠鏡の良さが生きる対象。

今回のレビューの最後に、SV550 122mmを使用して眼視観望を一晩楽しむことができました。大型ドブソニアンを使いこなすには、スターホッピングによる手動導入のスキルが必須なのですが、SV550 122MMなら「自動導入」が使えます^^ 写真派の方も、時にはカメラを接眼レンズに換装して、ぜひ眼視観望を楽しんでみてください!「写真のようには見えない」とはいえ、ナマの光を網膜で感じる楽しさは格別なものがあります。

この日の観望については、後日動画を公開予定。お楽しみに!

(広告)カーボン三脚付属経緯台マウント SVBONY SV225経緯台

SV550 122MMの活用ポイント

画像処理

前項のM42の結像評価用の画像から「ランニングマン星雲」を切り出して並べてみました。左がBXT前、右がBXT後です。

SV550 120MMは「ガチな天体写真」の競技場で戦えるのか?(天文雑誌のフォトコンで入選レベルの作品が撮れるか?)。この問いかけには「もちろんYES」と答えることができます。SV550 122MMは、アストログラフとしてもたいへん優秀です。

しかし「上には上がある」のが天文機材の世界。より高価な硝材や非球面を使って、何枚ものエレメントを組み合わせた「超高性能」の望遠鏡と比較すると、SV550 120MMはぶっちゃけ「負けます」(*)。

(*)シーイングやピント合わせの問題の可能性もありますが、SV550 122MMの星像は若干中間輝星・微光星ともにやや大きめな印象を受けました。(手持ちの某社の4枚玉屈折アストログラフの過去画像と比較してみると実は同じくらいだったのですが)。その点、A社の黄色い反射アストログラフや、つい最近発売されたB社の高性能屈折アストログラフのような「針で突いたような点像」というわけではありません。

しかし、ですよ。BXTのような「回折によるボケも含めて結像エラーを補正して、光学系の性能をさらに引き出すツール」を適用すれば、「高性能」と「超高性能」の差は、ほぼ視認不可能なまで小さくなる可能性があります。

この状況を踏まえた上で、「超高性能」な望遠鏡を選ぶのか、「(そこそこ)高性能」な望遠鏡を選ぶのか。それは貴方がお決めになることなのです。その前提として、、、天体写真の画像処理をマスターすることが大きな比重を占めるといえます。

ぜひ手に入れたい「鏡筒ハンドル」

上部のレールはビクセン規格のファインダーアリミゾになっています。
SVBONY SV211 203MM CNC鏡筒ハンドル
https://www.svbony.jp/svbony-sv211-203mm-cnc-barrel-handle

SV550 122MMの鏡筒重量は6.44kgですが、この重量を感覚的にいうと「一人で問題なく架台に脱着できるものの、片手で持つにはやや慎重さを要する」という感じです。このため「鏡筒ハンドル」を装着することをぜひオススメします。

上の画像はSVBONY社純正の鏡筒ハンドルで、重量161gで直販価格5,681円。後になってこちらも借用をお願いすべきだったと後悔しました(*)。このようななんらかの「取っ手」があるかどうかで、赤道に搭載する際の安心感が全く違ってきます。最初の開梱時や運搬時のことを考えると、このハンドルは標準付属にしてもよいのではないかと感じました。

(*)筆者はトップ部にアルカスイスプレートをネジ止めして、トッププレート兼鏡筒ハンドルの代わりにしました。

夜露対策は十分に

左)20時、撮影開始前。フィルターをダブル構成にして十分対策したつもりでしたが。。中)24時、レンズ全面に夜露が付着。ヒーターを4個に増やして寝袋で包んで保温。30分ほどでようやく露が取れました。右)1時、ヒーターの周りを布で巻いてできるだけ保温できるようにしました。この後は無事朝まで完走。

前述の通りフードはそれなりに深く、夜露防止効果が期待できるものなのですが、日本の夜・特に湿度の高い深夜に冷え込む春秋では、夜露が容赦なく襲ってきます。口径122mmのデメリットの一つがヒーターの熱の周りの悪さ。ヒーターを2つ付けても曇るときは曇ってしまいます。十分な熱量のヒーターを複数用意し、できれば段ボールフードや遮熱用の銀マットで巻くことも考えた方がよいでしょう。

どんな人に向いているか

天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

ハイエンド・オールラウンダーとして

SV550 122MMの最大の魅力は、屈折式としては手軽に扱える上限ともいえる122mmの大口径。この口径なら、屈折式としては口径不足を感じることはまずないでしょう。F値「7」は眼視用途にも写真用途にも使用できる「オールラウンダー」です。さまざまな用途に不満なく活用することができるでしょう。

初心者でもなんとか使える・「背伸びした」最初の1本に

初心者が最初に購入する屈折式天体望遠鏡として天リフが一番オススメするのは、お財布に優しく取り回しのしやすい、小型の「口径80mm」のアポクロマート屈折です。しかし、いずれ「もっと大きな口径を!」という思いが湧いてくることでしょう。

そこで「天文趣味を末永く楽しみたい!」という気持ちに確信が持てるのであれば、最初の1本に「少し背伸びして」SV550 122MMを選択するのもアリかもしれません。SV550 122MMは鏡筒バンド込みで重量6.44kg。中型の架台であれば無理なく搭載できるため、架台を含めて45万円程度の予算があれば(*)購入可能です。

(*)もちろん架台もピンキリですので、これより安い構成も、高い構成もあります。

最後の鏡筒に・ダウンサイジングの1本

長年天文趣味を楽しんでいるベテランの方は、おそらくさまざまな望遠鏡を所有されていることでしょう。年齢を重ね、重量級の機材が負担になり、山のような?機材を整理して、まさに「身も心も軽く」したいと考えていらっしゃる方も少なくないかと思います。

かといって、あまり小口径では不満だ。見え味にもこだわりたい。そんな貴方にSV550 122MMはいかがでしょうか。これ1本でオールラウンド。重量も10kg越えの某社3枚玉アポクロマート望遠鏡よりもずっと軽い。口径比「F7」のSV550 122MMは鏡筒も長すぎず、高齢者にとっても「楽に振り回せる」サイズです。

 

まとめ

SV550 122MMは、かなりイケてる「オールラウンダー」。天リフ編集長は「生まれ変わったら最初の1本はコレ!」と言ったとか言わなかったとか^^

いかがでしたか?

「FPL-51」三枚玉は「FPL-53」2枚玉の夢を見るか。そういうイメージを持って臨んだ今回のレビューですが、いざ蓋を開けてみるとそれは「夢」ではなく「現実」でした。きちんと設計・製造された「FPL-51」三枚玉は、「FPL-53」2枚玉に勝るとも劣りません(*)

(*)厳密にはどうなのか?は本記事のレベルでは言及不能ですが「ほぼ同じくらいの性能」「場合によってはよりコスパが高い」と言って間違いないかと思います。

もちろん、3枚玉はよりレンズ部の重量が増えてフロントヘビーになるなど、光学性能以外にもスペック上の差異がいくつかあります。ひとつはっきり言えることは「この望遠鏡はFPL-51だからダメ」「この望遠鏡はFPL-53だからイイ」という、条件反射的な機材選択は正しくない、ということです。

SV550 122MMに即していえば、アマチュアが手軽に運用できる限界口径といえる口径120mmクラスの高性能アポ屈折望遠鏡が、20万円前半で手に入るという「価格破壊」のインパクトは非常に大きいといえるでしょう(*)。

(*)FPL-51三枚玉のコスパのメリットは口径が大きいほど生きてくるのかもしれません。

お安いけど、よく見えてよく写る。そんな選択肢を天文アマチュアにもたらしてくれたSV550 122MM。貴方はどんな風に使いますか?

それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます!

(広告)EDレンズ採用・アポクロマートトリプレット SVBONY SV550 122MM

  • 本記事はSVBONYより協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は注記のないものを除き執筆時(2024年1月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2024/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2024/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-150x150.jpg編集部望遠鏡望遠鏡SVBONYみなさんこんにちは! アポクロマート天体望遠鏡はお持ちですか?何枚玉ですか?硝材は何ですか?天文マニアは機材マニア。やっぱりスペックが気になりますよね。 一般に、フローライトやスーパーEDガラス(オハラFPL-53など)のような「松クラス硝材」を使ったアポクロマート望遠鏡と、EDガラス(オハラFPL-51など)の「竹クラス硝材」を使った望遠鏡には、軸上色収差(*)の補正においては大きな差があり、「松クラス」の硝材1枚は「竹クラス」の硝材2枚分と言われています。 (*)光の波長によって焦点位置がずれることで、色にじみが発生する現象。 特に2枚のレンズから構成される望遠鏡(2枚玉)の場合、「松クラス」と「竹クラス」には明確な差があります。2枚のレンズでは収差補正のための設計の自由度に限界があり「どんなに設計をがんばっても埋められない差がある(*)」のが事実です。 (*)タカハシFOA-60のように、2枚のレンズの間隔を大きく離す設計によって、より高度な収差補正を実現することも可能ですが、製造と調整のハードルが高くなりコスト増となります。 SVBONY SV550 天体望遠鏡 APO 三枚玉アポクロマート屈折式望遠鏡 口径122MM F/7 焦点距離 OTA 鏡筒https://www.svbony.jp/sv550-apo-refractor-122mm しかし、対物レンズを3枚構成(2枚玉)にした場合はどうでしょうか。今回ご紹介するSVBONY SV550 122MMは、凸凹凸のトリプレット型。FPL-51硝材のレンズを1枚使用していますが、もう1枚レンズを増やすことで「FPL-53の2枚玉に勝る」と謳われています。 筆者は当初「本当かなあ・・」と疑っていたのが正直なところでした。同時に、これまで良く見える天体望遠鏡を低価格で提供されてきたSVBONYさんなら「もしや?」という思いもあり、ぜひ一度この眼で確かめてみたいと思っていました。 そんな中、今回SVBONY様に「協賛(*)」という形で製品の貸与とレビューの機会を頂戴することができました。いわゆる「企業案件」ですが、内容はいつも通り忖度なしです。それでは、SV550 122MMの実力をとくとごらんください! (*) 記事中に広告枠を掲載することで対価を頂戴する形態 SV550 122MMの外観 梱包とケース SV550 122MMは直方体のソフトケースに収納された状態で梱包されていました。梱包箱(ケースを収納する段ボール箱)のサイズは‎83 x 33 x 25 cm。小さくはありませんが、口径比F7とやや短い(焦点距離854mm)こともあって普通に持ち運びできるサイズです。 ソフトケースの内部にはスチロールの間仕切りがあり、鏡筒がすっぽり入るようになっています。ハードケースほどの安心感はないものの、保管・移動のためには十分なものでしょう。 大型・小型にかかわらず、天体望遠鏡を買ったときに困るのが「段ボールとスチロール間仕切りだけ」の製品です。自分でケースをあつらえるのは特に初心者にとってはなかなかハードルが高いものですが、このような商品の発送のための「梱包材」を兼ねたキャリングケースが付属するのは大歓迎です。 対物レンズ フードを収納した状態で対物レンズを見たところ。レンズ面は当然ですが全面マルチコートです。光軸調整機構はなくパーツの機械精度で光軸を担保する考え方で、近年の屈折式天体望遠鏡ではこちらが主流になっています(*)。 (*)口径が大きくなると光軸調整機構を備えたレンズセル自体が大型化し、コスト増・重量増の要因となります。最高の性能を発揮するために調整機構を持たせるのも1つの設計思想ですが、NC工作機械が進歩した現在では、調整機構を持たせなくても一定の品質が確保できるようになりました。 フード フードはスライド式になっていて、上の画像のようにけっこう伸ばすことができます。このような伸縮式フードは収納長を短くできるのでとてもグッド。鏡筒の表面の塗装はSVBONY製鏡筒に共通の白の梨地仕上げ。指紋が付きにくくこれもいい感じ。 ただし後述しますが、口径が大きいこともあって深いフードであっても夜露対策は必須です。 鏡筒と鏡筒バンド 鏡筒の重量はバンド込みで6.44kg 。ビクセンSXシリーズなどの中型の赤道儀に普通に搭載可能なサイズ。SV550 122MMとスペックが近い3枚玉鏡筒のタカハシTSA120より若干軽くなっています(*)。3枚玉鏡筒の宿命なのですが、対物レンズが3枚玉になったことによって2枚玉と比較してざっくり対物レンズ1枚分重くなり、フロントヘビーになります。 (*)TSA120の鏡筒重量はカタログ値で約6.7kg(バンドなし・7倍50mmファインダー付き)、手元のタカハシ7倍50mmファインダーは実測590gでしたので鏡筒のみの重量は6.1kg、(鏡筒バンド重量-340gだけ)軽いことになります。ちなみに口径115mmの2枚玉のビクセンSD115SSIIは鏡筒のみの重量が4.4kgです、 重心位置は上の画像のこぶしのあたり。カメラや接眼レンズ、ファインダーを装着するともう少し重心位置は接眼部側に移動しますが「フロントヘビー」であることはしっかり意識した方がよいでしょう(*)。 (*2)アリガタや別売の鏡筒ハンドルを、無造作につかんで鏡筒を持ち上げるとき、重心位置で掴まないと対物側をコツンと床に当ててしまうことがあります。 付属の鏡筒バンドとアリガタ。鏡筒バンドの内側には薄いフェルトが貼ってあります。質感と剛性感は平凡ですが、実用上は十分でしょう。 鏡筒バンドのトップ部にはM6のネジが切ってあります。中央の左右のネジ穴の間隔は実測37.7mm。ここは天文機材で一般的な35mm間隔にしてほしかったところ。 接眼部 接眼部はラックピニオン式。デュアルスピードフォーカサーが標準付属し精密なピント合わせが可能になっています。繰り出しのストロークは約87mmと十分な長さです。 ファインダー脚はビクセン規格のアリミゾが接眼部に1個標準で装着されていますが、追加購入すれば90度離れた位置にもう1個装着することができます。なおファインダーは標準では付属しません。 接眼部には回転機構があります。ガタのないしっかりとした造りですが若干回転が固く、かなり力を入れないと回転しませんでした。ユルユルよりはずっといいのですが、ここはもう少しスムーズになって欲しいところ。 大径のドロチューブの内面には多数の遮光環が配置されていて内面反射の防止に大きく貢献しています。この部分は製品によってはつや消し塗装や微細なスジ状の構造の場合もあるのですが、やはり遮光環を入れるのが最善の策。 接眼部側から対物側を覗いたとき(上画像右)、対物レンズ以外の部分はすべて「暗黒」になるのが理想なのですが、本機はその点で最高レベルといえるでしょう。 ドロチューブ末端のネジはM63、2インチスリーブ差し込みアダプタが付属します。 SV209 0.8xフラットナー SVBONY SV209 2 インチ 0.8Xフラットナー SV550 122MM APO鏡筒用https://www.svbony.jp/sv209-focal-reducer-for-sv550-122-apo(*) (*)SV550シリーズ用の等倍フラットナーも製品型番は「SV209」ですが、こちらは別の製品です。お間違えないように。 別売で専用のフラットナー(といってもx0.8倍のレデューサー)が用意されています。使用することで焦点距離683.2mm f/5.6となり、口径122mmの威力で焦点距離が長い割にはそこそこ明るい写真鏡となります。お値段は3万円強、SVBONY製品としては若干高めの印象を受けますが、他社の同クラスの製品よりはだいぶ安価です。 こちらもしっかりとした高級感のある作りで、レンズ面はこちらも当然ながらフルマルチコート。内面反射防止処理もしっかりしていて、後述しますが周辺光量・像質とも、とても良好でした。鏡筒とあわせて約26万円、口径122mmF5.6の高性能写真鏡がこの価格で手に入るのは素晴らしいことです。 カメラアダプタ側の取付規格はM48ですが、バックフォーカスに注意。M63-48アダプタから数えて55mmが公式仕様です。今回の撮影ではWillium Optics社のRedCat51用のEOSマウントカメラアダプタ(光路長実測10.4mm)を流用してだいたい55mmとなりました。 SVBONY SV195Tリング(*)アダプターhttps://www.svbony.jp/svbony-sv195-wide-48mm-t-ring-for-canon-eos-cameras SVBONY社で販売されているカメラアダプタでは、こちらの製品が「光路長11mm、M48ネジ」で適合します。 (*)「Tリング規格」は元々タムロン社がカメラマウントのアダプタに採用したM42の規格が始まりで「M42 P0.75」のネジ規格を「T2」と呼びます。ところがM42ではフルサイズのイメージサークルを確保するには若干小さいため、M48のリングが「フルサイズ対応大型Tリング」と呼ばれるようになり、現在では「Tリング」と称して販売されている製品にはM42のものとM48のものが存在しています。「TリングはM42だけではない」ことに注意が必要です。 SV122MM+SV208 0.8xフラットナー+EOS 6Dでのフラット画像。目立つケラレもなく、ヒストグラムの幅も細く十分な周辺光量が確保されていることがわかります。2枚玉・3枚玉のシンプルな構成の天体望遠鏡では、無理に明るさ(=焦点距離の短縮率)を追求するよりも、等倍〜0.8倍程度のフラットナー(レデューサー)がコスト的・周辺光量的・周辺像的にも、バランスのよいものになるといえるでしょう。 フィルターはSV209に付属する「M63-M48アダプター」の対物側に48mm径のものが装着できました。ただしフィルター枠の厚みが大きすぎると正しく装着できないかもしれません。上の画像のOptolong社の「L-eNhance(枠の厚みは実測5mm)」は装着できました。 FPL-51 vs FPL53・昼間の風景で比較する FSQ106ED & FC76DCUとの比較 まず、昼間の風景で見え味を確認してみました(*)。比較対象はフローライトを1枚使用した2枚玉のタカハシFC-76DCU(焦点距離570mm)と、スーパーEDレンズを2枚使用した4枚玉のFSQ-106ED(x1.6エクステンダー使用で焦点距離800mm)です。この2本は同一口径クラスでは一級品と評価されている高性能天体望遠鏡です。 (*)筆者の眼は強度の近視と乱視、若干の白内障なので、低倍率での見え味の比較にはまったく適さないのですが、過剰倍率の高倍率では飛蚊を除けばそれなりに比較評価が可能です。主にRadian 3mmを装着しSV550は約280倍、FSQ106EDは約267倍、FC76DCUは約190倍で比較しました。 FPL-53 2枚玉とは「大差がない」 まず、SV550 122MMとFC-76DCUの比較ですが、同一接眼レンズでは焦点距離の差による倍率の差が大きいせいもありますが、収差補正をうんぬんする以前に「比較にならない」感じでした。口径122mmと76mmでは「見える世界が違う」という印象です。瞳径を同じにして星を見ればまた印象も違うのかもしれませんが、眼視においては「口径は大正義」であることを痛感しました。 FSQ-106EDとSV550 122MMの比較では、それなりに両者の特性が見えてきます。ちょうど電灯を固定する「袋ナット」の頭に太陽が反射していて人工星代わりになったのですが、焦点位置での色滲みや焦点内外像を比較すると、確かに軸上色収差の補正についてはFSQ106EDの方が優秀でした。 まあこれはFSQ-106EDがFPL-53を2枚使用していることを考えるとある意味当然です。同じ比較をFC-76DCUでも確認しましたが、こちらは正直言って違いがわからない感じでした。「FPL-53の2枚玉に勝る」がどうかは別としても「大差はない」ことは事実のようです。 同じ予算ならどちらが幸せなのか? もうひとつ、色収差の補正の違いを除いて、FSQ-106EDとSV550 122MMの「どちらが良く見えるか」を問われると、正直SV550 122MMのほうが「良く見える」と感じました。その主な原因は「明るさ」の違いではないかと推測しているのですが(*)、ここでも「口径の差」が効いているようです。 (*)同じ接眼レンズを使用した場合、明るさの違いはF値の違いとなります。SV550...編集部発信のオリジナルコンテンツ