みなさんこんにちは!ソフトフィルター、活用してますか?

昨今の高性能のカメラとレンズで星空を撮ると、肉眼の印象と違って星が小さくなりすぎて(*)星座がわかりにくくなってしまうのですが、それを解決するアイテムが「ソフトフィルター」です。



(*)星はほぼ「面積のない」点光源なので、センサーが高画素になるほど・レンズが高性能になるほど、小さく写ります。

今回ご紹介する「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」は、「周辺の星が歪む」というフロント装着型ソフトフィルターの欠点を解消するだけでなく、枠によるケラレや装着が面倒という従来のクリップ型フィルターの欠点を大幅に改善していて、広くオススメできる製品だと感じています。早速ご紹介していきましょう。

よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター
https://yoshimi.ocnk.net/product/295

「星を滲ませる」ソフトフィルターの効果

まず、ソフトフィルターの効果を簡単に見てみましょう。

左:フィルターなし 右:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」 SONY α7SIII 20mmF1.8G F2.8 30秒 ISO6400 追尾撮影 10枚コンポジット

まず、こちらの作例をごらんください。左がソフトフィルターなし、右がありです。一見してわかるとおり、ソフトフィルターの有無で明るい星の大きさがまるで違っていますね。

左のフィルターなしでは、一等星やオリオン座の三つ星はとりあえず視認できるものの、ぎょしゃ座の五角形やペルセウス座の「流線型」は天の川にうもれてわかりにくくなっています。昔々のフィルム時代はこんなことはなかった(*)のですが、最近のデジカメはスゴイ。星が本来の「点像」として写るのです。

(*)フィルム乳剤の中での散乱やレンズの収差によって、星が滲んで大きくなる傾向がありました。

撮影の主題が「天の川」や「分子雲」である場合は、本来こうあるべきなのですが、「星座」を主題にしたい場合はこれでは寂しいことになってしまいます。右のソフトフィルターありの例では、星が滲んで大きくなり、星座の存在がずっとわかりやすくなります。

左:フィルターなし 右:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」SONY α7SIII 14mmF1.8G F2.8 30秒 ISO3200 追尾撮影 トリミング

もうひとつ作例を。海に沈む「夏の大三角」ですが、左のソフトフィルターなしの例では「大三角」がいまひとつはっきりしませんよね(*)。

(*)ベガが雲に隠れているのもありますが^^;;

あまり強調をしない「1枚撮り」の星景写真では「星座」の存在感が作品により大きな影響を与えます。肉眼で見た星空の印象に近づけたいとお考えなら、ソフトフィルターは有力な手段になるといえます。

装着方法別・ソフトフィルターの4タイプ

というわけで、ソフトフィルターは星空の写真を撮る上でとても重要なアイテムになっていて、数多くの製品がすでに世に出ています。そんなソフトフィルターの仕様を決める重要な要素は2つあって、ひとつはソフト効果の強さ。これについては後に触れるとして、もう一つの「装着方法」を見てみましょう。

フロント装着・ねじ込み型

レンズ前面装着フィルターの例。このように「2枚重ね」も可能ですが、ケラレやゴーストが発生する場合もあります。

最も普及しているタイプで、レンズの全面にねじ込むタイプです。定番はケンコーの「プロソフトン」シリーズです。

左:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」 右:プロソフトンクリア SONY α7SIII 20mmF1.8G F2.8 30秒 ISO1600 追尾撮影

しかし、この「フロント装着型」には大きな欠点があります。それは周辺の星像が楕円形になってしまうこと。上の作例は写野の隅に木星を入れたものですが、フロント装着型では完全な楕円になってしまっています。

もちろん「周辺に明るい星を入れない」ようにすればこの問題は緩和されるのですが、気になりだすと気になるもの^^;; 一方で、リア装着型ではこの問題は大幅に緩和されます。このため、星の描写にこだわる向きには、リア装着型が広く使われています。

フルサイズ焦点距離15mm前後のレンズは、その多くが「出目金型」になります。画像はソニーの14mmF1.8GM。https://pur.store.sony.jp/ichigan/products/SEL14F18GM/SEL14F18GM_purchase/

もうひとつ問題があります。いわゆる「出目金型」の超広角レンズは、そもそもねじ込み式のフィルターを使用することができません。このタイプのレンズでソフトフィルターを使用したい場合は、次項の「リア装着」ないしは大型の「角形フィルター」を使うしかありません。

リア装着・レンズ末端装着型

ソニーの14mmF1.8GMの「リアフィルターホルダー」と「フィルターテンプレート」。https://www.sony.jp/ichigan/products/SEL14F18GM/feature_1.html

レンズの前面にフィルターを装着できない場合、レンズの最後面にフィルターを装着するという手があります。最近は、レンズマウントに専用の「フィルターホルダー」を持つレンズも増えてきました。上はソニーの「14mmF1.8GM」の例ですが、付属の型紙を使用して「シートタイプ」のフィルターを切り取って、差し込むようになっています。

テープでフィルターを貼り付けた例。レンズはタムロン15-30mmF2.8。

フィルターホルダーがない場合、何らか「工夫」して取り付ける必要があります。上の画像は筆者の例ですが、これでは脱着が容易ではありません^^;;;

仮にフィルターホルダーがある場合でも、脱着には神経を使います。ペラペラのシート型フィルターはまさに「吹けば飛ぶ」レベル。筆者も一度経験がありますが、透明なので落としてしまうと発見が困難。撮影現場での脱着はできればやりたくない作業です。

リア装着・クリップ型

https://yoshimi.ocnk.net/product/257

そこでここ数年、急速に広がってきたのが「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」のようなボディ側に装着するフィルター。特にミラーレスカメラと相性が良く(*)、各社マウントに対応した製品が出ています。

(*)レフ機では跳ね上げ式のミラーを強制的に上げた形で装着する必要があり、ライブビューでしか使用できなかったり、そもそも装着できないカメラも存在します。

このような「ボディ装着」タイプのメリットは、レンズ交換が自由になること。いったんボディにフィルターを装着してしまえば、複数のレンズを交換して使用することができます。

しかし、デメリットがないわけではありません。詳細は後述しますが、枠によるケラレ・光路長変化による周辺像の悪化・脱着の際にセンサー部をむき出しで晒す危険などがあります。

フロント装着・角形

https://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/1101760.html

もうひとつ、「角形フィルター」があります。100mm角・150mm角といった大型のフィルターを専用のホルダでレンズの全面に装着します。主に「ハーフND」などのグラデーションフィルターを使用した高度なフィルターワークのために使用されますが、レンズの全面をすっぽり覆ってしまうことができれば、出目金レンズでもソフトフィルターを使用することができます。

ただし、フロント装着型のソフトフィルターの「周辺の星が楕円上に伸びる」欠点からは逃れることはできません。ほかにも比較的高価であること、夜露対策も簡単ではないことから、お手軽撮影にはなかなか敷居が高いといえるでしょう。

「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の特長

前置きが長くなりました。ようやく本題です。「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の特長をみていきましょう。

よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター
https://yoshimi.ocnk.net/product/295

枠によるケラレが極めて少ない

左:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」 右:フィルターなし レベル補正で強く強調してみましたが、差異はほとんど感じられません。SONY α7SIII 20mmF1.8G F2.8 30秒 ISO6400 追尾撮影 周辺減光はプロファイル補正で200%補正。

従来のクリップ型フィルターでは、周辺がフィルター枠によってケラレるという欠点がありました。特にレフ機用の製品では顕著で、光学系によってはトリミングを余儀なくされる場合もありました。

しかし、今回使用した「ソニーFEマウント用」の製品では、事実上ケラレはないといってよいレベルです。強く強調した場合でもフィルター枠に起因するケラレは認識できませんでした(*)。

(*)ボディ内の構造物によるケラレは光学系の特性にも依存します。光束がより平行になる超望遠レンズなどでは若干影響がある可能性があります。フィルター枠によるケラレはレフ機ではより大きくなる可能性があります。本記事の実写作例等はソニーFEマウント用の場合です。

カメラマウントの上からのぞきこんだところ。フィルター枠による遮蔽がほとんどないことがわかります。ボディ側の枠が斜めに見えますが、ボディ手振れ補正機構の関係で電源のOFF状態ではこのようになります。

「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」では、上の画像のように光束を遮らないようフィルター枠が非常に細くなっています。このため、少なくとも、ソニー純正レンズを使用する限りは(*)、枠によるケラレの心配はないといってよいでしょう。

(*)ソニーFEマウントは比較的マウント径が小さく、平行光束では四隅が蹴られてしまいますが、純正レンズはその問題を回避するように設計されているようです。

フィルターが薄く周辺像の悪化が極小

ボディ側にフィルターを置く場合、フィルターの厚みによって光路長が長くなり、ピント位置が移動します。このため、近距離補正機構を持つ広角レンズの場合、像面湾曲の補正が過補正となり周辺像が悪化する場合があります。しかし、極薄のシート型フィルターの場合、その影響は極小になります。

左:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」 右:フィルターなし  SONY α7SIII 14mmF1.8GM F2.8 30秒 ISO6400 追尾撮影 10枚コンポジット

今回使用した「Lee No3/4」の場合、ピント位置の移動はごくわずかで、周辺像の悪化は事実上ないといってよいと思います。上の画像は超広角14mmレンズによる四隅中央の拡大画像比較ですが、悪化は皆無です(*)。周辺像の悪化も、このフィルターでは心配いらないといえるでしょう。



(*)むしろ若干良くなっています。超広角レンズは公差が厳しく、個体差があるのかもしれませんし、微妙なピント位置で差異が出ることもあります。

脱着容易な「マグネット棒」

これが他社にない大きな特長。フィルターを脱着するための「マグネット棒」が付属します。センサー面がむき出しの状態での着脱は神経を使いますが、この治具のおかげでかなり楽になったと感じました(*)。

(*)特に外す操作はワンタッチです。

このマグネット棒の効果は、冬場に指からの湯気でフィルターが曇る危険がほぼなくなる、脱着の際にうっかり落とす心配がかなり減ることにもあります。

豊富なバリエーション

Lee ソフトフィルター。日本ではケンコー・トキナー社が販売しています。https://www.kenko-tokina.co.jp/imaging/filter/soft/4961607398449.html

 

2022/2/7追記)

Lee社は現在ソフトフィルターの生産を終了しており、よしみカメラ社の在庫分でのみの生産となるそうです。No.1〜No.3は人気で品薄になることが予想されます。

2022/2/7追記終わり)

「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」では、台湾・STC社製からクリップタイプフィルター枠」の供給を受け、販売店であるよしみカメラ様がソフトフィルターをカットしてはめ込んで販売する形になります。はめ込まれている「Lee ソフトフィルター」は、効果の小さな「No.1」から効果の大きい「No.5」まで五種類存在しますが、本製品でも何通りかのバリエーションが提供されると聞いています。好みの効果を選べるのは嬉しいですね。

実写作例

「プロソフトンクリア」との効果比較

SONY α7SIII 20mmF1.8G F2.8 30秒 ISO3200 追尾撮影

「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の滲み効果はどれくらいなののでしょうか?定番のプロソフトンA、プロソフトンクリアと比較してみました。その結果、効果の弱い順から、プロソフトンクリア>Lee No.3>Lee No.4>プロソフトンAの順になりました。

「プロソフトンクリア」は「ちょうどよい滲み加減」で定評があります。それと同じ効果を求めるなら、Lee No.3かNo.2が候補になるかと思います。

この結果は、光学系や絞り値によって変わってくることもありますので、あくまで参考程度に考えてくださいね!

星座写真

α7SIII 20mmF1.8G F1.8 30秒22枚 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」追尾撮影

オリオン座からペルセウス座までを広角20mmで撮影してみました。昔ながらの「星座写真」のテイストですが、輝星の滲みがちょうどいい感じ。もっと天の川や暗黒星雲を強調するなら、より効果の弱いNo.2もアリかもしれません。逆に、星座の存在感を派手にしたいなら、No.4やNo.5も面白いかも。

何度も繰り返しになりますが、ソフトフィルターの最適な効果の強さは、自分の表現したいものによって変わってくるといえます。

 

夜景のある星空

α7SIII 20mmF1.8G F1.8 3.2秒 ISO400 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」

ソフトフィルターを使用する場合、夜景などの人工光によるフレアが気になる場合があります。上の作例は薄明中の木星・土星・金星と阿蘇市街の夜景ですが、この程度のフレアであればじゅうぶん許容範囲だといえるでしょう。逆に、これより効果の強いフィルターでは、やや見苦しくなるかもしれません。

α7SIII 20mmF1.8G F1.8 1/30秒 ISO1000  フィルターなし

時刻が異なりますが、フィルターなしの場合。星ではなく夜景が主題になる場合は、ソフトフィルターはないほうがすっきりします。ボディ装着型でありながら脱着が容易な「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」なら、臨機応変にフィルターの有無や効果を切り替えて撮影することができます。

使用上の注意点

ピント位置の移動

左:フィルターなし。ピント位置は無限遠。右:「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」あり。ピント位置は10m前後。画像はハメコミ合成です。

前述の通り、ピント位置はわずかに移動します。とにかく、フィルターを脱着する際はピントを合わせ直すことが重要です。

ちなみに、今回使用した「20mmF1.8G」と「14mmF1.8GM」では、ボディ(α7SIII)側の距離表示が10m〜30m程度でピントが合いました。

脱着

マグネット棒のおかげでフィルター脱着は劇的に楽になりましたが、注意が必要なことには変わりありません。実戦的には「フィルター面に手を触れない(汚れるだけでなく、強く触るとフィルターが外れてしまう」こと、装着時の最後に「倒すようにしてマグネット棒を外す」ことです。

デリケートなフィルターシート

フィルターシートは枠にネジ止めの押さえ爪で固定されているのですが、ブロアなどで強く吹くと外れてしまう場合があります。やさしく取り扱うことが必要です。

製品版ではフィルターは枠に接着される仕様となり、ブロアで外れる心配はなくなりました。しかしデリケートであることには変わりませんので、やさしく取扱かうようにしましょう!

STC社とよしみカメラについて

STC

STC 勝勢科技股份有限公司 Sense-tech Innovation Company
http://www.stcoptics.com/

STCは2010年に設立された「台湾勝勢テクノロジー」の光学製品ブランドです。天体用を含めた様々なフィルター製品を企画・開発・販売しています。

天リフで過去にレビューした上記2製品はいずれもSTC社の製品です。

よしみカメラ

よしみカメラ
https://www.443c.com

STC社の日本の代理店が宮崎県の「(株)よしみカメラ」です。天リフはすでに3年以上スポンサーとしてお世話になっています。

よしみカメラ様は、自社開発を含む様々なカメラ関連製品を取り扱われています。パノラマ撮影の「Nodal Ninja」シリーズや、ガラスの映り込みを防ぐ「忍者レフ」の名前はご存じの方も多いことでしょう。興味のある方はぜひHPをご覧になってください。アイデア溢れる様々なアイテムに出会えると思います!

まとめ

月明りの中、南中した冬の大三角とカノープス。ソフトフィルターを使用することで、大三角の存在感を強調。α7SIII 14mmF1.8GM F1.8 15秒 ISO1600  STCクリップフィルター(Lee No.3)
よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター
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いかがでしたか?

本製品はソニーE/ニコンZ/EOS Rのミラーレス機専用になるものの、リア装着のソフトフィルターはフロント装着と比較してメリットが大きく、本格的に星空の写真を撮ってみたい方だけでなく、これから星空の撮影を始めてみようと考えている方にもオススメできる製品だと感じました!

むき出しのセンサーの前にフィルターを装着するのは確かに緊張するのですが^^;; STC社のフィルター枠はその中でも脱着方法が工夫されていて、少し慣れれば簡単に使うことができるでしょう。

もちろん、ソフトフィルターを含め、フィルターは万能ではなく「目的に応じた使い分け」が大事です。特長と効果をしっかり理解して、貴方の作品作りに生かしてくださいね!

それでは皆様のご武運をお祈りしております。またお会いしましょう!


  • 本記事は よしみカメラ様より機材のサンプル提供を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • レビューした製品はソニーFEマウント専用の試作品です。最終製品では仕様が一部変わる可能性があります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせは製品を取り扱う販売店様にお願いします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2022年1月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg編集部アクセサリフィルター  みなさんこんにちは!ソフトフィルター、活用してますか? 昨今の高性能のカメラとレンズで星空を撮ると、肉眼の印象と違って星が小さくなりすぎて(*)星座がわかりにくくなってしまうのですが、それを解決するアイテムが「ソフトフィルター」です。 (*)星はほぼ「面積のない」点光源なので、センサーが高画素になるほど・レンズが高性能になるほど、小さく写ります。 今回ご紹介する「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」は、「周辺の星が歪む」というフロント装着型ソフトフィルターの欠点を解消するだけでなく、枠によるケラレや装着が面倒という従来のクリップ型フィルターの欠点を大幅に改善していて、広くオススメできる製品だと感じています。早速ご紹介していきましょう。 よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター https://yoshimi.ocnk.net/product/295 「星を滲ませる」ソフトフィルターの効果 まず、ソフトフィルターの効果を簡単に見てみましょう。 まず、こちらの作例をごらんください。左がソフトフィルターなし、右がありです。一見してわかるとおり、ソフトフィルターの有無で明るい星の大きさがまるで違っていますね。 左のフィルターなしでは、一等星やオリオン座の三つ星はとりあえず視認できるものの、ぎょしゃ座の五角形やペルセウス座の「流線型」は天の川にうもれてわかりにくくなっています。昔々のフィルム時代はこんなことはなかった(*)のですが、最近のデジカメはスゴイ。星が本来の「点像」として写るのです。 (*)フィルム乳剤の中での散乱やレンズの収差によって、星が滲んで大きくなる傾向がありました。 撮影の主題が「天の川」や「分子雲」である場合は、本来こうあるべきなのですが、「星座」を主題にしたい場合はこれでは寂しいことになってしまいます。右のソフトフィルターありの例では、星が滲んで大きくなり、星座の存在がずっとわかりやすくなります。 もうひとつ作例を。海に沈む「夏の大三角」ですが、左のソフトフィルターなしの例では「大三角」がいまひとつはっきりしませんよね(*)。 (*)ベガが雲に隠れているのもありますが^^;; あまり強調をしない「1枚撮り」の星景写真では「星座」の存在感が作品により大きな影響を与えます。肉眼で見た星空の印象に近づけたいとお考えなら、ソフトフィルターは有力な手段になるといえます。 装着方法別・ソフトフィルターの4タイプ というわけで、ソフトフィルターは星空の写真を撮る上でとても重要なアイテムになっていて、数多くの製品がすでに世に出ています。そんなソフトフィルターの仕様を決める重要な要素は2つあって、ひとつはソフト効果の強さ。これについては後に触れるとして、もう一つの「装着方法」を見てみましょう。 フロント装着・ねじ込み型 最も普及しているタイプで、レンズの全面にねじ込むタイプです。定番はケンコーの「プロソフトン」シリーズです。 しかし、この「フロント装着型」には大きな欠点があります。それは周辺の星像が楕円形になってしまうこと。上の作例は写野の隅に木星を入れたものですが、フロント装着型では完全な楕円になってしまっています。 もちろん「周辺に明るい星を入れない」ようにすればこの問題は緩和されるのですが、気になりだすと気になるもの^^;; 一方で、リア装着型ではこの問題は大幅に緩和されます。このため、星の描写にこだわる向きには、リア装着型が広く使われています。 もうひとつ問題があります。いわゆる「出目金型」の超広角レンズは、そもそもねじ込み式のフィルターを使用することができません。このタイプのレンズでソフトフィルターを使用したい場合は、次項の「リア装着」ないしは大型の「角形フィルター」を使うしかありません。 リア装着・レンズ末端装着型 レンズの前面にフィルターを装着できない場合、レンズの最後面にフィルターを装着するという手があります。最近は、レンズマウントに専用の「フィルターホルダー」を持つレンズも増えてきました。上はソニーの「14mmF1.8GM」の例ですが、付属の型紙を使用して「シートタイプ」のフィルターを切り取って、差し込むようになっています。 フィルターホルダーがない場合、何らか「工夫」して取り付ける必要があります。上の画像は筆者の例ですが、これでは脱着が容易ではありません^^;;; 仮にフィルターホルダーがある場合でも、脱着には神経を使います。ペラペラのシート型フィルターはまさに「吹けば飛ぶ」レベル。筆者も一度経験がありますが、透明なので落としてしまうと発見が困難。撮影現場での脱着はできればやりたくない作業です。 リア装着・クリップ型 そこでここ数年、急速に広がってきたのが「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」のようなボディ側に装着するフィルター。特にミラーレスカメラと相性が良く(*)、各社マウントに対応した製品が出ています。 (*)レフ機では跳ね上げ式のミラーを強制的に上げた形で装着する必要があり、ライブビューでしか使用できなかったり、そもそも装着できないカメラも存在します。 このような「ボディ装着」タイプのメリットは、レンズ交換が自由になること。いったんボディにフィルターを装着してしまえば、複数のレンズを交換して使用することができます。 しかし、デメリットがないわけではありません。詳細は後述しますが、枠によるケラレ・光路長変化による周辺像の悪化・脱着の際にセンサー部をむき出しで晒す危険などがあります。 フロント装着・角形 もうひとつ、「角形フィルター」があります。100mm角・150mm角といった大型のフィルターを専用のホルダでレンズの全面に装着します。主に「ハーフND」などのグラデーションフィルターを使用した高度なフィルターワークのために使用されますが、レンズの全面をすっぽり覆ってしまうことができれば、出目金レンズでもソフトフィルターを使用することができます。 ただし、フロント装着型のソフトフィルターの「周辺の星が楕円上に伸びる」欠点からは逃れることはできません。ほかにも比較的高価であること、夜露対策も簡単ではないことから、お手軽撮影にはなかなか敷居が高いといえるでしょう。 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の特長 前置きが長くなりました。ようやく本題です。「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の特長をみていきましょう。 よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター https://yoshimi.ocnk.net/product/295 枠によるケラレが極めて少ない 従来のクリップ型フィルターでは、周辺がフィルター枠によってケラレるという欠点がありました。特にレフ機用の製品では顕著で、光学系によってはトリミングを余儀なくされる場合もありました。 しかし、今回使用した「ソニーFEマウント用」の製品では、事実上ケラレはないといってよいレベルです。強く強調した場合でもフィルター枠に起因するケラレは認識できませんでした(*)。 (*)ボディ内の構造物によるケラレは光学系の特性にも依存します。光束がより平行になる超望遠レンズなどでは若干影響がある可能性があります。フィルター枠によるケラレはレフ機ではより大きくなる可能性があります。本記事の実写作例等はソニーFEマウント用の場合です。 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」では、上の画像のように光束を遮らないようフィルター枠が非常に細くなっています。このため、少なくとも、ソニー純正レンズを使用する限りは(*)、枠によるケラレの心配はないといってよいでしょう。 (*)ソニーFEマウントは比較的マウント径が小さく、平行光束では四隅が蹴られてしまいますが、純正レンズはその問題を回避するように設計されているようです。 フィルターが薄く周辺像の悪化が極小 ボディ側にフィルターを置く場合、フィルターの厚みによって光路長が長くなり、ピント位置が移動します。このため、近距離補正機構を持つ広角レンズの場合、像面湾曲の補正が過補正となり周辺像が悪化する場合があります。しかし、極薄のシート型フィルターの場合、その影響は極小になります。 今回使用した「Lee No3/4」の場合、ピント位置の移動はごくわずかで、周辺像の悪化は事実上ないといってよいと思います。上の画像は超広角14mmレンズによる四隅中央の拡大画像比較ですが、悪化は皆無です(*)。周辺像の悪化も、このフィルターでは心配いらないといえるでしょう。 (*)むしろ若干良くなっています。超広角レンズは公差が厳しく、個体差があるのかもしれませんし、微妙なピント位置で差異が出ることもあります。 脱着容易な「マグネット棒」 これが他社にない大きな特長。フィルターを脱着するための「マグネット棒」が付属します。センサー面がむき出しの状態での着脱は神経を使いますが、この治具のおかげでかなり楽になったと感じました(*)。 (*)特に外す操作はワンタッチです。 このマグネット棒の効果は、冬場に指からの湯気でフィルターが曇る危険がほぼなくなる、脱着の際にうっかり落とす心配がかなり減ることにもあります。 豊富なバリエーション   2022/2/7追記) Lee社は現在ソフトフィルターの生産を終了しており、よしみカメラ社の在庫分でのみの生産となるそうです。No.1〜No.3は人気で品薄になることが予想されます。 2022/2/7追記終わり) 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」では、台湾・STC社製からクリップタイプフィルター枠」の供給を受け、販売店であるよしみカメラ様がソフトフィルターをカットしてはめ込んで販売する形になります。はめ込まれている「Lee ソフトフィルター」は、効果の小さな「No.1」から効果の大きい「No.5」まで五種類存在しますが、本製品でも何通りかのバリエーションが提供されると聞いています。好みの効果を選べるのは嬉しいですね。 実写作例 「プロソフトンクリア」との効果比較 「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルター」の滲み効果はどれくらいなののでしょうか?定番のプロソフトンA、プロソフトンクリアと比較してみました。その結果、効果の弱い順から、プロソフトンクリア>Lee No.3>Lee No.4>プロソフトンAの順になりました。 「プロソフトンクリア」は「ちょうどよい滲み加減」で定評があります。それと同じ効果を求めるなら、Lee No.3かNo.2が候補になるかと思います。 この結果は、光学系や絞り値によって変わってくることもありますので、あくまで参考程度に考えてくださいね! 星座写真 オリオン座からペルセウス座までを広角20mmで撮影してみました。昔ながらの「星座写真」のテイストですが、輝星の滲みがちょうどいい感じ。もっと天の川や暗黒星雲を強調するなら、より効果の弱いNo.2もアリかもしれません。逆に、星座の存在感を派手にしたいなら、No.4やNo.5も面白いかも。 何度も繰り返しになりますが、ソフトフィルターの最適な効果の強さは、自分の表現したいものによって変わってくるといえます。   夜景のある星空 ソフトフィルターを使用する場合、夜景などの人工光によるフレアが気になる場合があります。上の作例は薄明中の木星・土星・金星と阿蘇市街の夜景ですが、この程度のフレアであればじゅうぶん許容範囲だといえるでしょう。逆に、これより効果の強いフィルターでは、やや見苦しくなるかもしれません。 時刻が異なりますが、フィルターなしの場合。星ではなく夜景が主題になる場合は、ソフトフィルターはないほうがすっきりします。ボディ装着型でありながら脱着が容易な「よしみカメラプロデュース クリップタイプソフトフィルターNo.3」なら、臨機応変にフィルターの有無や効果を切り替えて撮影することができます。 使用上の注意点 ピント位置の移動 前述の通り、ピント位置はわずかに移動します。とにかく、フィルターを脱着する際はピントを合わせ直すことが重要です。 ちなみに、今回使用した「20mmF1.8G」と「14mmF1.8GM」では、ボディ(α7SIII)側の距離表示が10m〜30m程度でピントが合いました。 脱着 https://youtu.be/2ktZizXqJ54 マグネット棒のおかげでフィルター脱着は劇的に楽になりましたが、注意が必要なことには変わりありません。実戦的には「フィルター面に手を触れない(汚れるだけでなく、強く触るとフィルターが外れてしまう」こと、装着時の最後に「倒すようにしてマグネット棒を外す」ことです。 デリケートなフィルターシート フィルターシートは枠にネジ止めの押さえ爪で固定されているのですが、ブロアなどで強く吹くと外れてしまう場合があります。やさしく取り扱うことが必要です。 製品版ではフィルターは枠に接着される仕様となり、ブロアで外れる心配はなくなりました。しかしデリケートであることには変わりませんので、やさしく取扱かうようにしましょう! STC社とよしみカメラについて STC STC 勝勢科技股份有限公司 Sense-tech Innovation Company http://www.stcoptics.com/ STCは2010年に設立された「台湾勝勢テクノロジー」の光学製品ブランドです。天体用を含めた様々なフィルター製品を企画・開発・販売しています。 天リフで過去にレビューした上記2製品はいずれもSTC社の製品です。 よしみカメラ よしみカメラ https://www.443c.com STC社の日本の代理店が宮崎県の「(株)よしみカメラ」です。天リフはすでに3年以上スポンサーとしてお世話になっています。 よしみカメラ様は、自社開発を含む様々なカメラ関連製品を取り扱われています。パノラマ撮影の「Nodal Ninja」シリーズや、ガラスの映り込みを防ぐ「忍者レフ」の名前はご存じの方も多いことでしょう。興味のある方はぜひHPをご覧になってください。アイデア溢れる様々なアイテムに出会えると思います! まとめ よしみカメラプロデュース】 クリップタイプ ソフトフィルター https://yoshimi.ocnk.net/product/295 いかがでしたか? 本製品はソニーE/ニコンZ/EOS Rのミラーレス機専用になるものの、リア装着のソフトフィルターはフロント装着と比較してメリットが大きく、本格的に星空の写真を撮ってみたい方だけでなく、これから星空の撮影を始めてみようと考えている方にもオススメできる製品だと感じました! むき出しのセンサーの前にフィルターを装着するのは確かに緊張するのですが^^;; STC社のフィルター枠はその中でも脱着方法が工夫されていて、少し慣れれば簡単に使うことができるでしょう。 もちろん、ソフトフィルターを含め、フィルターは万能ではなく「目的に応じた使い分け」が大事です。特長と効果をしっかり理解して、貴方の作品作りに生かしてくださいね! それでは皆様のご武運をお祈りしております。またお会いしましょう! 本記事は よしみカメラ様より機材のサンプル提供を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 レビューした製品はソニーFEマウント専用の試作品です。最終製品では仕様が一部変わる可能性があります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは製品を取り扱う販売店様にお願いします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2022年1月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。  編集部発信のオリジナルコンテンツ