星見屋.com Presents企画第二弾!現在入手することのできる最高の「小型屈折望遠鏡」!?ED硝材を2枚使用した口径85mmの「分離式3枚玉」小型望遠鏡、Founder Optics FOT85の真価に迫る、連載企画が始まります!

Founder Optics FOT85望遠鏡とは

これから何回かにわたって、この望遠鏡についてご紹介していきます。

星見屋.com Founder Optiocs FOT85
http://hoshimiya.com/?pid=126042047

この鏡筒は口径85mmの分離式3枚玉アポ屈折。焦点距離は560mm、F値は6.6。製造は台湾、日本の輸入総代理店はスタークラウド北軽井沢観測所。販売は星見屋.com。

この口径ではこれまでなかったハイレベルの収差補正を実現した高性能の望遠鏡です。日本では一昨年末から試験的に販売が開始されていて、使用したユーザの評価は非常に高いようです。

この望遠鏡の製造元である台湾の会社は、これまで主にOEMによる製品やパーツの提供を、世界中の望遠鏡メーカーに対して行っています。高精度の機械・光学製造技術を武器に、よりハイレンジの製品を意欲的に開発・製造しています。

冠せられた「FOUNDER OPTICS」というブランドは、この製品を始めとする超高性能望遠鏡のラインナップに対する名称。日本語訳すれば「創業者光学」となります。これから特徴ある高性能な望遠鏡を創出していくのだ、という意気込みの表れといえるでしょう。

最大の特徴「分離式3枚玉アポ」

「FOUNDER OPTICS FOT85望遠鏡(以下、FOT85と表記します。)」の最大の特徴はEDガラスを2枚使用しレンズ間の距離を大きく離した「分離式3枚玉」にあります。2枚のEDガラスのうち1枚は蛍石と同程度の色収差補正効果があると言われているFPL-53が使用されています(もう一枚はFPL-51)。

レンズ間の距離を大きく離した「分離型」のレンズ構成のメリットは設計の自由度が大きいこと。貼り合わせ型や錫箔分離型の場合は近接する2面の曲率差を大きく変えることは不可能ですが、レンズ間の間隔を離せば曲率の制約がなくなり最適な設計を追い込めるだけでなく、空気の層の存在がレンズ1枚分の自由度をもたらします(「空気レンズ」)。

このように凸・凹・凸の3枚のレンズの硝材・曲率・間隔を最適化することで、屈折望遠鏡の最大の弱点である「色収差」と「色の球面収差」をほとんどゼロに近いレベルにまで補正することができるのです。このレンズの設計は著名な日本の光学設計エンジニアの手によるものだそうです。

FOT85の球面収差図。436nm〜656nmまで、結像位置のズレは0.1mm以下に収まっています。この結像性能は同じ3枚玉分離型の高橋製作所のTOAシリーズには及びませんが、錫箔分離型の3枚玉であるTSAを上回る素晴らしいものです。

おそらく口径85mmクラスでは世界最高レベルの光学性能であると言っても過言ではないのではないでしょうか。実際に眼視で覗いてみても、色収差を認めることはほぼできませんでした。

3枚玉錫箔分離型アポTSAとの比較

3枚玉分離型は、その設計の自由度を生かし収差補正を徹底的に追い込めるメリットがありますが、その反面、分離した3枚のレンズを高い精度で組み上げないと設計性能が出ないため、コストアップの要因になります。

別の設計アプローチとして、古くは高橋FCTシリーズでも使われている凹・凸・凹の3枚のレンズを錫箔でほんのわずかだけ離して重ね合わせた構成があります。凸レンズが1枚なのでEDガラスは1枚しか使えませんし、重ね合わせ面の間隔や曲率差を大きく取ることができないため設計の自由度は高くありませんが、より低コストで製造できる構成です。

高橋製作所HP
http://www.takahashijapan.com/products.html
TSA120の球面収差図:http://www.takahashijapan.com/ct-products/products/prodimg/TSA120/TSA120sa.jpg

 

こちらはその設計によるタカハシTSA120の球面収差図。
真ん中の凸レンズ1枚にスーパーEDガラスを使用。焦点位置のズレは最大のg線で0.4mm弱。前出のTOAの収差図と比較すればその差は歴然ですが、実視性能の評価はTOA同様に非常に高い望遠鏡です。(「ストレール比」と呼ばれる人間の眼の特性に即した性能評価指標では「TOAシリーズと同等のほぼパーフェクトな性能」であると同社のHPでは謳われています)

F値は7.5で焦点距離は900mm。口径は120mmですが、税抜価格39.3万円、鏡筒重量6.7kg(ファインダー込)に収まっているのはこの設計アプローチのメリットと言えましょう。

3枚玉分離型アポTOA130との比較

高橋製作所HP
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http://www.takahashijapan.com/ct-products/products/prodimg/TOA130/TOA130kyumensyusazu1.gif

FOT85と同様の3枚玉分離型の元祖ともいえるタカハシTOA-130の球面収差図。F値は7.7、焦点距離1000mm。FOT85の6.6と比べるとやや暗く、より眼視性能を重視した設計ですが、収差図上の焦点位置のズレは0.01mm以下という凄さです。
このクラスの屈折望遠鏡ではおそらく世界最高性能の一つでしょう。

口径130mmでこの性能を実現したTOAですが、接眼部の小さい眼視用モデル(TOA130NS)でも税抜価格55.8万円、重量10.5kg(ファインダー込、鏡筒バンド含まず)とかなりの価格・重量となります。最高の性能とはいえ、アマチュアが手軽に持ち運びして使用できる「小型望遠鏡」というカテゴリからは少し外れてしまいます。

FOT85の位置づけ

FOT85と、同じく最高レベルの屈折望遠鏡であるタカハシのTSA120、TOA130を比較してきましたが、そこで浮かび上がってくるFOT85の特徴を一言で言えば「ミニTOA」です。

 

設計アプローチとしてはTOA同様の3枚玉分離型で、TOAほど完璧ではないもののTSAを上回る収差補正を実現。口径85mm、重量3.6キロとコンパクト。F値は6.6とTOAよりも一段明るい。

こんなコンセプトの望遠鏡は、これまでになかったものといえるのではないでしょうか。

高精度の製造組立と2段階の製品検査

分離型の3枚玉光学系では、それぞれのレンズエレメントが正しい位置に配置されなければ設計通りの性能を発揮することができず「調整には熟練の職人技が必要で非常に難しい」といわれています。

ところが、FOT85にはそのような調整機構を備えていません。部品の加工レベルで精度を高め、組上げ後の精度を保証するという考え方で作られています。個々の部品に十分な精度を確保し、それらをきちんと組み上げることができれば、十分な品質を出せるはず、という訳です。近年ではコンピュータ制御による超高精度のCNC工作機械の普及によって、高精度で安定した品質の量産加工が可能になったことも後押しになっています。

この時に重要なのが製品検査です。機械である以上は製造時のバラツキから逃れることができませんし、理論上の性能が現実の製品で実現されているかをきちんと検査して、合格したものだけを出荷するという体制が必須になります。

FOT85の場合、日本の輸入代理店が製作した高精度のダブルパス検査装置を使用し、台湾での製造時・日本での製品受け入れ時のそれぞれで全品検査を行っているそうです。

どんなに素晴らしい設計であっても、お客様の手に製品が届いた時点でその設計が製品として実現されていないと意味がありません。設計した性能が実際に実現されているかどうかを製造会社に「丸投げ」するのではなく、完成品の受け入れ時点でも検査を行っていることは特筆すべきことです。

天体望遠鏡のような極めて高い品質が要求される工業製品をグローバルに製品化するべく、製造元・輸入総代理店・販売店が一体となって実現した品質管理体制は、注目すべきことといえるでしょう。

ロンキー画像の比較

FOT85の全品検査で行われている「焦点内外像」と「ロンキー画像」です。編集部でレビュー中のFOT85個体のものです。

レビュー中のFOT85実機の焦点内外像、ロンキー像。

完全に無収差の光学系ではロンキー像は色ズレのない完全な直線になります。ロンキースクリーンが1mm10本(インチ250本)と高密度(*)であることを考慮すると非常に良い結果になっています。

(*)この本は過去に天文ガイド誌で連載されていた「Telescope Design & Test Data File」をまとめたもの。収差図や実機のロンキー画像などが多数掲載されており非常に参考になります(絶版)。テストに使用されているロンキースクリーン密度は上記FOTのロンキースクリーンの約1/3の密度(3倍収差に鈍感)です。

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TOA130のロンキー画像。(ロンキースクリーン 200本/インチ) http://www.takahashijapan.com/ct-products/products/prodimg/TOA130/TOA130RGB1.jpg

こちらはタカハシTOA130のロンキー像。200本/インチとスクリーンの密度が違うのでそれを考慮して比較する必要がありますが、こちらもFOT85同様に素晴らしい結果になっています。

「フォトビジュアル」の意味

FOT85鏡筒を評価する上で、「フォトビジュアル」というコンセプトを改めて明確にしておかねばなりません。

「フォトビジュアル=眼視においても写真においても高性能な望遠鏡」という言葉がいつの頃から高性能望遠鏡に冠せられるようになったかは定かではありませんが、フィルム天体写真の末期に「感度の低いフィルムに対してF値の明るさを追求しつつ、眼視性能を損なわないような光学系」が求められたことが始まりではないかと考えられます。

ある光学系が「フォト」重視なのか「ビジュアル」重視なのかを評価する上で一番の目安は光学系の明るさ(=F値)です。

F値が小さい(=明るい)ほど写真撮影には有利になりますが、逆にF値が小さいほど、収差補正の観点では不利になります。このことを揶揄的に語った言葉に「Fの暗いは七難隠す(=F値の暗い光学系ほどアラが目立たない)」という言葉があるくらいです(*1)。

(*1)例えば球面収差による焦点位置のズレが同じ長さのとき、F値が明るいほど結像部のボケの影響が大きくなります。

明るさと収差補正のトレードオフをいかにしてハイレベルに両立させるか。暗い対象を扱う天体用途において、このことは永遠のテーマといえるでしょう。

上の図は光学系のF値と焦点距離をグラフ化したものです。乱暴にいえば右側ほどビジュアル重視、左側ほどフォト重視の光学系です。

FOT85はこの図では、TOAやTSAのようなビジュアル重視の光学系よりは明るく、FSQほどフォト重視でない位置づけであることがわかります。

像面の平坦性と周辺画質

いくらF値が明るくても、周辺像がボケボケだったり流れてしまっていては、「フォト」用途では使い物になりません。「フォト」性能を評価する上では、中心部と周辺部の画質の差ができるだけ少ないことが重要になります。

3枚玉分離型のアポクロマートであっても、実は「素のまま」では周辺部では「像面湾曲」のため焦点位置がずれてしまいます。上の作例はFOT85の実写画像ですが、周辺部では大きくボケていることがわかります。

この像面湾曲の問題は光軸の中心付近の色収差・球面収差の補正を重視した「ビジュアル用」設計の天体望遠鏡に共通のものです。(前出の3枚玉アポのTOA130,TSA120でもこれは同じです)

光学設計的には、枚数の少ない(2枚玉・3枚玉)レンズ構成においては「ペッツバールの条件」を満たすことが難しく、像面湾曲を十分に補正することができないためです。

目指せ光学設計者!駆け出しエンジニアのレンズ設計&ZEMAX学習帳・写真レンズの歴史2 トリプレットとペッツバール和
http://zemax.seesaa.net/article/399606619.html

このことは、ビジュアル用途では実はあまり大きな問題になりません。人間の眼はごく限られた範囲しか高い解像度を持っていませんし、高倍率で中心部だけを見る場合は像面湾曲があまり問題にならないからです(*2)。

(*2)低倍率・広視野の場合は無視できなくなってきます。

フォト用途では必須の「補正光学系」

Founder Optics D85の純正フラットナー(左)と0.8xレデューサ(右)。

しかしフォト用途ではこの問題は致命的です。この問題の解決には「フラットナー」と呼ばれる補正光学系を像面の近くに配置することが一般的です。前述のタカハシTOAもTSAにも、FOT85にも、純正の「フラットナー」が提供されています。

FOT85+純正フラットナーの等倍画像。画像の中央と四隅を切り出したもの。カメラはEOS6D、ISO1600 20秒*20枚コンポジット。

また、F値の暗い光学系であっても「レデューサー(=縮小光学系)」と呼ばれる補正光学系を付加することで、F値で1段分程度明るくすることができます。3枚玉/2枚玉の光学系の場合は、フラットナーの働きを兼ねた「レデューサ」がよく使用されます。

このように、3枚玉/2枚玉の光学系を「フォト」用途で使用するためには、適切なフラットナーまたはレデューサを使用し像面を平坦にすることが必須条件となります。その上で、周辺部のコマ収差・非点収差・倍率の色収差などのさまざまな収差がよく補正されている必要があるのです。

4枚玉フォトビジュアル、FSQ

レンズをもう一枚増やし4枚玉にすると、像面湾曲も補正された光学系を実現することができます。その代表的なものがタカハシのFSQシリーズです。

高橋製作所HP
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FSQ106EDのレンズ構成図

 

口径106mmF5、4枚玉。フラットナーなしでも像面は平坦でF5と明るく、レデューサを入れればF4を切る明るさ。イメージサークルは中判をカバーするほど広く、周辺まで良像。これ1本あれば眼視も写真も最高レベルの性能が手に入ります。タカハシの一番の売れ筋であるのも納得できる望遠鏡です。

しかし、これほどレンズの間隔を長くした光学系は3枚玉分離型よりもさらに高コストで調整が難しく、非常に高価格なものになります(2018/3/1から価格が改定され税抜52.3万円と、ますます高価格になります)。

上:FSQ106ED 下:Founder Optics D85mm

「フォトビジュアル」の代表格ともいえるFSQですが、実際の使われ方を見ると「フォト」用途で使われることが大半で「ビジュアル」用途にはその1/10も使用されていないのが現状ではないでしょうか。

Baby-Qと呼ばれる口径85mmのFSQ85に至っては、最新の「EDP」モデル(税抜29.5万円)でますますフォト用途に振った製品構成となっていますし、少なくとも編集子は、自分以外のFSQにアイピースが付いた姿を遠征地で見たことがありません

ビジュアル重視のフォトビジュアル

天文趣味を楽しむユーザーが現在「フォト」に大きく偏っている現状では、望遠鏡の性能の多くが「フォト性能」で評価されるのは仕方のない面があります。

しかし、「フォト」と「ビジュアル」をバランス良く両方楽しむ上では、少し評価軸を「ビジュアル」側に振っても良いのではないか?今回ご紹介したFOT85望遠鏡からはそんな方向性を感じます。

実際、デジタルのさらなる高性能化によって、かつてほど「明るい光学系」は必須なものではなくなってきました。当のタカハシからもFC100DLやFOA60のような、よりビジュアルを重視した「長焦点」鏡筒が発売されるなど、若干風向きが変わってきています。

http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/647

勿論、明るいF値が不要になった訳ではなく、フォト用途においては「明るさは正義」であるのは厳然たる事実です。

でも、誰もが皆、明るい光学系で同じような淡い暗い天体を撮影できればそれで良い、というものではないでしょう。明るい光学系には明るい光学系の良さがあり、長焦点には長焦点の良さがあります。それぞれのメリットを生かした、人それぞれの方向性にマッチしたより多様な機器が求められはじめているというべきでしょうか。

また、これはまだ予想の範囲にしかすぎないのですが、「重すぎる機材」に対する揺り戻し、より軽く手軽な機材の再評価も今後(天文ファンの高齢化もあって)進んでいくのではないでしょうか。例えばFSQ106EDの接眼部は重い冷却CCDカメラの装着を考慮し大変に堅牢な構造になっていますが、その結果「軽快」とは言い難い重量になっています。

その点、FOT85は重量3.6kg(ファインダー、鏡筒バンド除く)。ビクセンのポルタII経緯台でも搭載可能な重量です。最高の光学性能を手軽に運用できる、これまでなかった製品といえるでしょう。

まとめ・フォトビジュアル鏡筒FOT85

かなり長い前置きとなりましたが、この連載の本題はFounder Optics FOT85望遠鏡です。

「口径85mmで経験できる最高のビジュアル体験」とは何か。最高レベルの光学性能の85mm望遠鏡はいったいどんな世界を見せてくれるか。決して大口径とはいえない口径85mmで、これまでになかった収差補正が実現されたときに、どんな世界が体験できるのか。これがこの後のレビューの一つの大きなテーマになります。

もうひとつは、この鏡筒が「フォト」用途でどこまでのポテンシャルを見せてくれるかです。3枚玉アポは中心部の性能がいくら高くても、写真用途には良いフラットナー・レデューサとの組み合わせが必須になります。純正・他社製のフラットナー・レデューサが、どこまでの周辺星像を見せてくれるか。これがもう一つの評価ポイントとなります。

2017/1/20調べ。DSQ106EDの価格は2018/3/1からの改定価格。

上の表は今回言及したハイレンジの屈折望遠鏡のスペック・価格のリストです。FOT85の販売予定価格は税抜23万円。同じ口径の高橋FSQ85ED(EDPではない前モデル)との価格差は5.6万円。価格的にもかなり魅力的です。

設計思想・スペック・価格がみな違うこれらの望遠鏡群の中で、このクラスに新たに参入したFounder Optics FOT85はどんなパフォーマンスを見せるのか、期待が高まります。

これから何回かに分けて眼視・写真それぞれの用途でこの鏡筒を仔細にレビューしてゆきます。実際に眼視も写真も楽しむ目的での「フォトビジュアル」鏡筒に興味を持たれている読者の皆様に、その真価をお伝えしていく予定です。ご期待ください!


・本記事は星見屋.com様にご協力いただき、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。

・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

 

 

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/02/f1d183c0d8fda3da17ad31dff4a64333-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/02/f1d183c0d8fda3da17ad31dff4a64333-150x150.jpg編集部Founder Optics FOT85  星見屋.com Presents企画第二弾!現在入手することのできる最高の「小型屈折望遠鏡」!?ED硝材を2枚使用した口径85mmの「分離式3枚玉」小型望遠鏡、Founder Optics FOT85の真価に迫る、連載企画が始まります! Founder Optics FOT85望遠鏡とは これから何回かにわたって、この望遠鏡についてご紹介していきます。 星見屋.com Founder Optiocs FOT85 http://hoshimiya.com/?pid=126042047 この鏡筒は口径85mmの分離式3枚玉アポ屈折。焦点距離は560mm、F値は6.6。製造は台湾、日本の輸入総代理店はスタークラウドと北軽井沢観測所。販売は星見屋.com。 この口径ではこれまでなかったハイレベルの収差補正を実現した高性能の望遠鏡です。日本では一昨年末から試験的に販売が開始されていて、使用したユーザの評価は非常に高いようです。 この望遠鏡の製造元である台湾の会社は、これまで主にOEMによる製品やパーツの提供を、世界中の望遠鏡メーカーに対して行っています。高精度の機械・光学製造技術を武器に、よりハイレンジの製品を意欲的に開発・製造しています。 冠せられた「FOUNDER OPTICS」というブランドは、この製品を始めとする超高性能望遠鏡のラインナップに対する名称。日本語訳すれば「創業者光学」となります。これから特徴ある高性能な望遠鏡を創出していくのだ、という意気込みの表れといえるでしょう。 最大の特徴「分離式3枚玉アポ」 「FOUNDER OPTICS FOT85望遠鏡(以下、FOT85と表記します。)」の最大の特徴はEDガラスを2枚使用しレンズ間の距離を大きく離した「分離式3枚玉」にあります。2枚のEDガラスのうち1枚は蛍石と同程度の色収差補正効果があると言われているFPL-53が使用されています(もう一枚はFPL-51)。 レンズ間の距離を大きく離した「分離型」のレンズ構成のメリットは設計の自由度が大きいこと。貼り合わせ型や錫箔分離型の場合は近接する2面の曲率差を大きく変えることは不可能ですが、レンズ間の間隔を離せば曲率の制約がなくなり最適な設計を追い込めるだけでなく、空気の層の存在がレンズ1枚分の自由度をもたらします(「空気レンズ」)。 このように凸・凹・凸の3枚のレンズの硝材・曲率・間隔を最適化することで、屈折望遠鏡の最大の弱点である「色収差」と「色の球面収差」をほとんどゼロに近いレベルにまで補正することができるのです。このレンズの設計は著名な日本の光学設計エンジニアの手によるものだそうです。 FOT85の球面収差図。436nm〜656nmまで、結像位置のズレは0.1mm以下に収まっています。この結像性能は同じ3枚玉分離型の高橋製作所のTOAシリーズには及びませんが、錫箔分離型の3枚玉であるTSAを上回る素晴らしいものです。 おそらく口径85mmクラスでは世界最高レベルの光学性能であると言っても過言ではないのではないでしょうか。実際に眼視で覗いてみても、色収差を認めることはほぼできませんでした。 3枚玉錫箔分離型アポTSAとの比較 3枚玉分離型は、その設計の自由度を生かし収差補正を徹底的に追い込めるメリットがありますが、その反面、分離した3枚のレンズを高い精度で組み上げないと設計性能が出ないため、コストアップの要因になります。 別の設計アプローチとして、古くは高橋FCTシリーズでも使われている凹・凸・凹の3枚のレンズを錫箔でほんのわずかだけ離して重ね合わせた構成があります。凸レンズが1枚なのでEDガラスは1枚しか使えませんし、重ね合わせ面の間隔や曲率差を大きく取ることができないため設計の自由度は高くありませんが、より低コストで製造できる構成です。 高橋製作所HP http://www.takahashijapan.com/products.html   こちらはその設計によるタカハシTSA120の球面収差図。 真ん中の凸レンズ1枚にスーパーEDガラスを使用。焦点位置のズレは最大のg線で0.4mm弱。前出のTOAの収差図と比較すればその差は歴然ですが、実視性能の評価はTOA同様に非常に高い望遠鏡です。(「ストレール比」と呼ばれる人間の眼の特性に即した性能評価指標では「TOAシリーズと同等のほぼパーフェクトな性能」であると同社のHPでは謳われています) F値は7.5で焦点距離は900mm。口径は120mmですが、税抜価格39.3万円、鏡筒重量6.7kg(ファインダー込)に収まっているのはこの設計アプローチのメリットと言えましょう。 3枚玉分離型アポTOA130との比較 高橋製作所HP http://www.takahashijapan.com/products.html FOT85と同様の3枚玉分離型の元祖ともいえるタカハシTOA-130の球面収差図。F値は7.7、焦点距離1000mm。FOT85の6.6と比べるとやや暗く、より眼視性能を重視した設計ですが、収差図上の焦点位置のズレは0.01mm以下という凄さです。 このクラスの屈折望遠鏡ではおそらく世界最高性能の一つでしょう。 口径130mmでこの性能を実現したTOAですが、接眼部の小さい眼視用モデル(TOA130NS)でも税抜価格55.8万円、重量10.5kg(ファインダー込、鏡筒バンド含まず)とかなりの価格・重量となります。最高の性能とはいえ、アマチュアが手軽に持ち運びして使用できる「小型望遠鏡」というカテゴリからは少し外れてしまいます。 FOT85の位置づけ FOT85と、同じく最高レベルの屈折望遠鏡であるタカハシのTSA120、TOA130を比較してきましたが、そこで浮かび上がってくるFOT85の特徴を一言で言えば「ミニTOA」です。   設計アプローチとしてはTOA同様の3枚玉分離型で、TOAほど完璧ではないもののTSAを上回る収差補正を実現。口径85mm、重量3.6キロとコンパクト。F値は6.6とTOAよりも一段明るい。 こんなコンセプトの望遠鏡は、これまでになかったものといえるのではないでしょうか。 高精度の製造組立と2段階の製品検査 分離型の3枚玉光学系では、それぞれのレンズエレメントが正しい位置に配置されなければ設計通りの性能を発揮することができず「調整には熟練の職人技が必要で非常に難しい」といわれています。 ところが、FOT85にはそのような調整機構を備えていません。部品の加工レベルで精度を高め、組上げ後の精度を保証するという考え方で作られています。個々の部品に十分な精度を確保し、それらをきちんと組み上げることができれば、十分な品質を出せるはず、という訳です。近年ではコンピュータ制御による超高精度のCNC工作機械の普及によって、高精度で安定した品質の量産加工が可能になったことも後押しになっています。 この時に重要なのが製品検査です。機械である以上は製造時のバラツキから逃れることができませんし、理論上の性能が現実の製品で実現されているかをきちんと検査して、合格したものだけを出荷するという体制が必須になります。 FOT85の場合、日本の輸入代理店が製作した高精度のダブルパス検査装置を使用し、台湾での製造時・日本での製品受け入れ時のそれぞれで全品検査を行っているそうです。 どんなに素晴らしい設計であっても、お客様の手に製品が届いた時点でその設計が製品として実現されていないと意味がありません。設計した性能が実際に実現されているかどうかを製造会社に「丸投げ」するのではなく、完成品の受け入れ時点でも検査を行っていることは特筆すべきことです。 天体望遠鏡のような極めて高い品質が要求される工業製品をグローバルに製品化するべく、製造元・輸入総代理店・販売店が一体となって実現した品質管理体制は、注目すべきことといえるでしょう。 ロンキー画像の比較 FOT85の全品検査で行われている「焦点内外像」と「ロンキー画像」です。編集部でレビュー中のFOT85個体のものです。 完全に無収差の光学系ではロンキー像は色ズレのない完全な直線になります。ロンキースクリーンが1mm10本(インチ250本)と高密度(*)であることを考慮すると非常に良い結果になっています。 (*)この本は過去に天文ガイド誌で連載されていた「Telescope Design & Test Data File」をまとめたもの。収差図や実機のロンキー画像などが多数掲載されており非常に参考になります(絶版)。テストに使用されているロンキースクリーン密度は上記FOTのロンキースクリーンの約1/3の密度(3倍収差に鈍感)です。 高橋製作所HP http://www.takahashijapan.com/products.html こちらはタカハシTOA130のロンキー像。200本/インチとスクリーンの密度が違うのでそれを考慮して比較する必要がありますが、こちらもFOT85同様に素晴らしい結果になっています。 「フォトビジュアル」の意味 FOT85鏡筒を評価する上で、「フォトビジュアル」というコンセプトを改めて明確にしておかねばなりません。 「フォトビジュアル=眼視においても写真においても高性能な望遠鏡」という言葉がいつの頃から高性能望遠鏡に冠せられるようになったかは定かではありませんが、フィルム天体写真の末期に「感度の低いフィルムに対してF値の明るさを追求しつつ、眼視性能を損なわないような光学系」が求められたことが始まりではないかと考えられます。 ある光学系が「フォト」重視なのか「ビジュアル」重視なのかを評価する上で一番の目安は光学系の明るさ(=F値)です。 F値が小さい(=明るい)ほど写真撮影には有利になりますが、逆にF値が小さいほど、収差補正の観点では不利になります。このことを揶揄的に語った言葉に「Fの暗いは七難隠す(=F値の暗い光学系ほどアラが目立たない)」という言葉があるくらいです(*1)。 (*1)例えば球面収差による焦点位置のズレが同じ長さのとき、F値が明るいほど結像部のボケの影響が大きくなります。 明るさと収差補正のトレードオフをいかにしてハイレベルに両立させるか。暗い対象を扱う天体用途において、このことは永遠のテーマといえるでしょう。 上の図は光学系のF値と焦点距離をグラフ化したものです。乱暴にいえば右側ほどビジュアル重視、左側ほどフォト重視の光学系です。 FOT85はこの図では、TOAやTSAのようなビジュアル重視の光学系よりは明るく、FSQほどフォト重視でない位置づけであることがわかります。 像面の平坦性と周辺画質 いくらF値が明るくても、周辺像がボケボケだったり流れてしまっていては、「フォト」用途では使い物になりません。「フォト」性能を評価する上では、中心部と周辺部の画質の差ができるだけ少ないことが重要になります。 3枚玉分離型のアポクロマートであっても、実は「素のまま」では周辺部では「像面湾曲」のため焦点位置がずれてしまいます。上の作例はFOT85の実写画像ですが、周辺部では大きくボケていることがわかります。 この像面湾曲の問題は光軸の中心付近の色収差・球面収差の補正を重視した「ビジュアル用」設計の天体望遠鏡に共通のものです。(前出の3枚玉アポのTOA130,TSA120でもこれは同じです) 光学設計的には、枚数の少ない(2枚玉・3枚玉)レンズ構成においては「ペッツバールの条件」を満たすことが難しく、像面湾曲を十分に補正することができないためです。 目指せ光学設計者!駆け出しエンジニアのレンズ設計&ZEMAX学習帳・写真レンズの歴史2 トリプレットとペッツバール和 http://zemax.seesaa.net/article/399606619.html このことは、ビジュアル用途では実はあまり大きな問題になりません。人間の眼はごく限られた範囲しか高い解像度を持っていませんし、高倍率で中心部だけを見る場合は像面湾曲があまり問題にならないからです(*2)。 (*2)低倍率・広視野の場合は無視できなくなってきます。 フォト用途では必須の「補正光学系」 しかしフォト用途ではこの問題は致命的です。この問題の解決には「フラットナー」と呼ばれる補正光学系を像面の近くに配置することが一般的です。前述のタカハシTOAもTSAにも、FOT85にも、純正の「フラットナー」が提供されています。 また、F値の暗い光学系であっても「レデューサー(=縮小光学系)」と呼ばれる補正光学系を付加することで、F値で1段分程度明るくすることができます。3枚玉/2枚玉の光学系の場合は、フラットナーの働きを兼ねた「レデューサ」がよく使用されます。 このように、3枚玉/2枚玉の光学系を「フォト」用途で使用するためには、適切なフラットナーまたはレデューサを使用し像面を平坦にすることが必須条件となります。その上で、周辺部のコマ収差・非点収差・倍率の色収差などのさまざまな収差がよく補正されている必要があるのです。 4枚玉フォトビジュアル、FSQ レンズをもう一枚増やし4枚玉にすると、像面湾曲も補正された光学系を実現することができます。その代表的なものがタカハシのFSQシリーズです。 高橋製作所HP http://www.takahashijapan.com/products.html   口径106mmF5、4枚玉。フラットナーなしでも像面は平坦でF5と明るく、レデューサを入れればF4を切る明るさ。イメージサークルは中判をカバーするほど広く、周辺まで良像。これ1本あれば眼視も写真も最高レベルの性能が手に入ります。タカハシの一番の売れ筋であるのも納得できる望遠鏡です。 しかし、これほどレンズの間隔を長くした光学系は3枚玉分離型よりもさらに高コストで調整が難しく、非常に高価格なものになります(2018/3/1から価格が改定され税抜52.3万円と、ますます高価格になります)。 「フォトビジュアル」の代表格ともいえるFSQですが、実際の使われ方を見ると「フォト」用途で使われることが大半で「ビジュアル」用途にはその1/10も使用されていないのが現状ではないでしょうか。 Baby-Qと呼ばれる口径85mmのFSQ85に至っては、最新の「EDP」モデル(税抜29.5万円)でますますフォト用途に振った製品構成となっていますし、少なくとも編集子は、自分以外のFSQにアイピースが付いた姿を遠征地で見たことがありません。 ビジュアル重視のフォトビジュアル 天文趣味を楽しむユーザーが現在「フォト」に大きく偏っている現状では、望遠鏡の性能の多くが「フォト性能」で評価されるのは仕方のない面があります。 しかし、「フォト」と「ビジュアル」をバランス良く両方楽しむ上では、少し評価軸を「ビジュアル」側に振っても良いのではないか?今回ご紹介したFOT85望遠鏡からはそんな方向性を感じます。 実際、デジタルのさらなる高性能化によって、かつてほど「明るい光学系」は必須なものではなくなってきました。当のタカハシからもFC100DLやFOA60のような、よりビジュアルを重視した「長焦点」鏡筒が発売されるなど、若干風向きが変わってきています。 http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/647 勿論、明るいF値が不要になった訳ではなく、フォト用途においては「明るさは正義」であるのは厳然たる事実です。 でも、誰もが皆、明るい光学系で同じような淡い暗い天体を撮影できればそれで良い、というものではないでしょう。明るい光学系には明るい光学系の良さがあり、長焦点には長焦点の良さがあります。それぞれのメリットを生かした、人それぞれの方向性にマッチしたより多様な機器が求められはじめているというべきでしょうか。 また、これはまだ予想の範囲にしかすぎないのですが、「重すぎる機材」に対する揺り戻し、より軽く手軽な機材の再評価も今後(天文ファンの高齢化もあって)進んでいくのではないでしょうか。例えばFSQ106EDの接眼部は重い冷却CCDカメラの装着を考慮し大変に堅牢な構造になっていますが、その結果「軽快」とは言い難い重量になっています。 その点、FOT85は重量3.6kg(ファインダー、鏡筒バンド除く)。ビクセンのポルタII経緯台でも搭載可能な重量です。最高の光学性能を手軽に運用できる、これまでなかった製品といえるでしょう。 まとめ・フォトビジュアル鏡筒FOT85 かなり長い前置きとなりましたが、この連載の本題はFounder Optics FOT85望遠鏡です。 「口径85mmで経験できる最高のビジュアル体験」とは何か。最高レベルの光学性能の85mm望遠鏡はいったいどんな世界を見せてくれるか。決して大口径とはいえない口径85mmで、これまでになかった収差補正が実現されたときに、どんな世界が体験できるのか。これがこの後のレビューの一つの大きなテーマになります。 もうひとつは、この鏡筒が「フォト」用途でどこまでのポテンシャルを見せてくれるかです。3枚玉アポは中心部の性能がいくら高くても、写真用途には良いフラットナー・レデューサとの組み合わせが必須になります。純正・他社製のフラットナー・レデューサが、どこまでの周辺星像を見せてくれるか。これがもう一つの評価ポイントとなります。 上の表は今回言及したハイレンジの屈折望遠鏡のスペック・価格のリストです。FOT85の販売予定価格は税抜23万円。同じ口径の高橋FSQ85ED(EDPではない前モデル)との価格差は5.6万円。価格的にもかなり魅力的です。 設計思想・スペック・価格がみな違うこれらの望遠鏡群の中で、このクラスに新たに参入したFounder Optics FOT85はどんなパフォーマンスを見せるのか、期待が高まります。 これから何回かに分けて眼視・写真それぞれの用途でこの鏡筒を仔細にレビューしてゆきます。実際に眼視も写真も楽しむ目的での「フォトビジュアル」鏡筒に興味を持たれている読者の皆様に、その真価をお伝えしていく予定です。ご期待ください! ・本記事は星見屋.com様にご協力いただき、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 ・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。    編集部発信のオリジナルコンテンツ