みなさんこんにちは!

貴方の天体望遠鏡の口径は何mmですか?天体望遠鏡はある意味で無限の選択肢を提供できる商品です。口径50mm、60mm、80mm、100mm、、、、口径が少し違うだけで、かなり別の個性を持った商品になります。そして、光学性能的には「口径はデカイほどいい」。でも一般に口径の3乗!に比例してお値段も上がってしまいます。

さらに「屈折式」「反射式」「2枚玉」「3枚玉」「4枚玉」など光学系のバリエーションもあり、まさに選択肢は無限。そんな中で貴方にとって最適な天体望遠鏡は何か。もちろん予算や用途によって最適解はさまざまなのですが、万人向けのリコメンドとして、実はシンプルな解があると天リフでは考えています。



【天体望遠鏡の原点】ビクセンSD81SIIレビュー・2枚玉高性能アポクロマート天体望遠鏡【迷ったらコレ!】

と、ここまでの出だしは本記事の「前編」でもあるこの記事とほぼ同じ^^

何度も繰り返しますが、SD(スーパーED)レンズ採用の2枚玉アポクロマート屈折望遠鏡、これこそが、そのシンプルな解。前回の記事では口径81mmの「ビクセンSD81SII鏡筒」にフォーカスしてご紹介しましたが、この望遠鏡は三兄弟の末弟。ほぼ同じコンセプトで口径違いの「兄」が2機種(ビクセンSD103SDIIとビクセンSD115SII)あるのです。

本記事では、ある程度天体望遠鏡の経験のある読者を想定して、口径違いのこの「SDシリーズ三兄弟」をつぶさに比較していきます。長兄の「ビクセンSD115SII」は実売30万円を越える高級機ですが、それでも「初心者に優しい」SDシリーズの特徴をそのまま継承しています。真ん中の「ビクセンSD103SII」はバランスのいい口径とサイズの、オールラウンダー中のオールラウンダー。そして末弟の「ビクセンSD81SII」は初心者にもオススメできるコンパクトでお手軽な入門機。

この3機種の比較は、初めて天体望遠鏡を購入される方の「いったいどのくらいの口径を選べばいいのか」という疑問に対するヒントになっているかと思います。それでは、早速ビクセンSDシリーズの特長と、三兄弟それぞれの特徴を見ていきましょう!

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目次

シンプルに、基本性能を追求したビクセンSD三兄弟

高い光学性能・SD(スーパーED)レンズ採用

ビクセンSD81SIIの対物レンズ。対物側の凸レンズに、色収差を良好に補正する「SD(スーパーED)ガラス」が使用されています。

天体望遠鏡の性能は、天体の微弱な光を集める「対物レンズ」でほぼ決まります。この対物レンズの設計と材質(*)が肝で、「(スーパー)EDレンズ」や「蛍石(フローライト)」のような高価なガラス材を使うかどうかで、結像性能(特に色ごとに焦点距離が異なる「軸上色収差」の補正)に大きな差が出ます。

(*1)設計については、現代の技術ではもう「ほぼ結論が出た」状態にあり、レンズ間隔を極端に大きく取るなどの設計をしない限り、各社とも大きな差異はありません。もうひとつ、対物レンズが設計通りの精度で研磨・組立されているかどうかもポイントです。

このような「高価なガラス材を使った天体望遠鏡(対物レンズ)」は俗に「アポクロマート鏡筒(略称『アポ』)」と呼ばれています(*2)。ビクセンSD81SIIは、この「アポクロマート」に分類される高性能な天体望遠鏡です。(一方で、高価なガラス材を使用しないものは「アクロマート」と呼ばれます)。

(*)光学理論上はこの説明は正確ではないのですが、便宜的・営業的な呼称としては有用な説明といえるでしょう。このあたりの事情の詳細はこちらをご参照ください。

SD(スーパーED)レンズ(2枚使用、4枚玉)使用、通常のEDレンズ(1枚使用、2枚玉)使用、アクロマートの3つの天体望遠鏡の比較イメージ。青(紫)の滲みの量が大きく違います。ビクセンSDシリーズは上の画像でいうと「左と中の間」くらいに相当します。上段は+2段露出補正をしています。

もう一つ、大事なことがあります。いわゆる「EDレンズ(ガラス)」には、大別すると「(無印)EDレンズ」と「SD(スーパーED)レンズ」の2種類があります(*1)。SD(スーパーED)レンズは蛍石(フローライト)とほぼ同等(*2)ですが「(無印)EDレンズ」はそれらより若干収差補正が劣ります。ビクセンSDシリーズは、もちろんより高性能な「SD(スーパーED)レンズ」です。

(*1)光学硝材(ガラス材)の大手、オハラ社の型番では、EDレンズが「FPL-51」、SD(スーパーED)レンズが「FPL-53」。

(*2)SD(スーパーED)レンズと蛍石(フローライト)は実際の製品の性能においてはほぼ違いはないと考えて差し支えありません。今回のレビューを含めて筆者のこれまでの経験でも、この2つの優劣を感じたことはありません。

では実際に「アクロマート」「(無印)EDレンズのアポクロマート」「SD(スーパーED)レンズのアポクロマート」では、どのくらいの違いがあるのでしょうか。感覚的ではありますが、製品価格の差が納得できるくらいには明確にある(*)、といえるでしょう。

(*)口径80mmの場合、アクロマートとSD(スーパーED)アポの価格差は3〜4倍以上あります。実際のところ、アクロマート製品は初心者用入門機を除いて主流ではなくなってきていて、選択肢が少ないのが現状です。無印ED機(2枚玉)はSD(スーパーED)機の半額程度の製品があり、一定の妥協をする前提なら十分選択の余地があります。無印ED機の場合、若干「色収差(色によってピント位置が異なる現象)」が大きくなり、特に写真撮影では差が出てきます。

コスパの高い「2枚玉」

代表的な天体写真向けの構成の天体望遠鏡を、価格(2023年4月天リフ調べ)と焦点距離でプロットしたグラフ。ビクセンのSDシリーズ三兄弟は補正レンズの価格を含めても最安クラスです。

ビクセンSD81SIIは、最もコストパフォーマンスの高い「2枚玉」になっています。視野中心の性能は、SD(スーパーED)レンズを採用し高精度に製造する技術(*)があれば、2枚構成の対物レンズでもほぼ完璧なレベルになるのです。

(*)SD(スーパーED)レンズや蛍石はガラス材が非常に柔らかく、特に大口径のレンズを高精度に研磨するには高度な技術が必要になります。以前はこのハードルが高く、ごく一部のメーカーしか製品化できなかったのですが、近年は技術の向上が進み広く使用されるようになってきたようです。

難しい話は一切省くと、光学設計上はレンズ枚数を多くするほど結像性能を高めることができます。一方で、レンズの枚数が多くなればなるほど製造が難しくなります。特に天体望遠鏡の対物レンズは、きわめて高精度に研磨(正確な球面に磨き上げること)され、かつ精密に組立られていることが必要になるため、対物レンズの構成枚数が2枚、3枚、4枚と増えるにつれて、製品価格は大きく跳ね上がります。このトレードオフから、天体望遠鏡の対物レンズの構成枚数は今現在でも「2枚玉」が多く採用されています(*)。

(*)天体望遠鏡で最も重要な「視野中心の結像性能」は、2枚あればほぼ十分なレベルになり、3枚のレンズ構成でほぼ「無収差」の光学系が実現可能です。一方でカメラレンズでは、天体望遠鏡ほどの高精度を要求されないため、より多数枚のレンズを複雑に組み合わせた構造になっています。

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高性能なフラットナーとレデューサー

左)フラットナー構成 右)レデューサー構成。上はSD81SIIに装着した状態、下は取り外した状態です。装着するにはドロチューブ末端のリングを外してねじ込みます。なお、カメラアダプターは別売です。

ビクセンSDシリーズのような「2枚玉」の天体望遠鏡は、光軸中心の結像性能に「全振り」した設計となっていて、視野の周辺になるほど残存収差(主に像面湾曲と非点収差)によって結像性能が大きく悪化します。このため、視野全体にわたって高性能が要求される天体写真用途においては「フラットナー」や「レデューサー」と呼ばれる補正レンズを使用して、これらの残存収差を補正することを前提とした設計になっています。

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https://www.vixen.co.jp/product/37246_1/
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ビクセンSD103Sのスポット図。ビクセンHPより引用。 https://www.vixen.co.jp/product/37245_4/

天体写真のデジタル化以前に設計された補正レンズは、性能がいまひとつであることが多かったのですが(*)、2017年発売の上記「SDレデューサーHDキット」は、デジタル時代のスタンダードとして新設計されたもので大変高性能です。他社製品と比較しても最高レベルのひとつといってよいかと思います。

(*)デジタル化によって光学系に要求される性能要件が大幅に高まったのが大きな理由の一つです。「補正レンズ」は対物光学系とのマッチング(光学設計そのものや補正レンズを配置する位置の最適化)がとても重要なのですが、その考慮が不十分な製品では、周辺の流れが目立つことがありました。

「SDレデューサーHDキット」は光学性能だけでなく、反射防止のためのコーティングや塗装も大変上質です。それなりのお値段がしますが(*)、それでも「補正レンズ要らず」の4枚玉、5枚玉の製品よりはトータルコストは安価です。「2枚玉対物レンズ+高性能な補正レンズ」は、最もコスパの高い天体写真用望遠鏡であるといえるでしょう。

(*)フラットナーのみの「SDフラットナーHDキット」が実売約3万円、「SDレデューサーHDキット」が実売約5.6万円です。

「SDレデューサーHDキット」にはフラットナーも含まれていて、構成を組み替えればフラットナーとして使用することもできます(*)。つまり、2通りの焦点距離を選択できることになります。また、最初はフラットナーだけを購入し、後からレデューサーを追加購入することも可能です。

(*)光学系が1群2枚の「フラットナー部」と2群2枚の「レデューサー部」の組み合わせになっていて、レデューサーとして使用する場合は「フラットナー部」と「レデューサー部」の両方を使用する方式になっています。

上記「SDフラットナー・レデューサーHDキット」は、SDシリーズ三兄弟(SD81SII、SD103SII、SD115SII)で共通で使用できるほか(*)、レデューサーHDは同社製AX103S、VC200L鏡筒でも使用できます。

(*)ビクセンSD81SIIのみフラットナー構成で使用する場合は同梱の「スペーサーリング」が必要

豊富な周辺光量

ビクセンSDシリーズのフラット実写。比較のためレベル補正で強調しています。カメラはEOS6Dです。緑字はメーカー公表の周辺光量値。

SDフラットナー・レデューサーHDキットの周辺光量はどうでしょうか。それぞれ、青空に向けて実写したのが上の画像です。メーカー公表の値を併記しましたが、ほぼその通りの結果が得られました。

フルサイズで使用する場合はさすがに「フラット補正不要」とまではいきませんが、フラットナー構成のSD81では90%近くあり、十分な周辺光量が確保されています。APS-Cカメラとフラットナー構成なら極端な強調をしなければフラットは不要かもしれません。

ただしデジタル一眼レフカメラでは、特にレデューサー構成の場合に「ミラーボックスケラレ(*1)」が強く発生します。これはカメラ側の構造に起因するもので避けようのない「宿命」です。フラット補正を行ってもなかなかキレイに補正することが難しいことが多く(*2)、撮影の際には「下辺に重要な対象を置かない」など配慮が必要でしょう。

(*1)跳ね上げ式のミラーの収納スペースの関係で、画面の下辺がケラレる現象。レフ機でなくても、センサー周りの構造によっては発生することがあります。

(*2)後節で触れますが、ライトフレーム撮影時とフラット撮影時の光軸中心がわずかにずれただけでも合わなくなるようです。

錫箔による「星の割れ」がなくなった「SII」世代

左がSDシリーズの前世代モデル。レンズの周囲に3つの銀色の錫箔がはさまっているのがわかります。右はSDシリーズの最新モデル。錫箔の突起がなくなっています。ビクセンHP・中西アキオが語るSD103SII・SD115SIIの魅力より引用 https://www.vixen.co.jp/activity/sd2/

対物レンズは、最大の光学性能を発揮するために各レンズの形状(曲率)や間隔をコンピューターでシミュレーションして、さまざまな収差が最小となるように設計されています。その結果、2枚のレンズは定められた間隔の、ごくわずかの「すき間」を持たせるように配置されています。このすき間の間隔を設計値通りに正確に組み立てるため、ビクセンSD81SIIの以前のバージョン「SD81S」などでは、上の左の画像に見られるような「小さな3つの錫箔」を挟むことで実現していました(*)。

(*)このような実装は、古くから各社の多くの天体望遠鏡で採用されています。ちなみに「すき間」を空ける理由は、近接した面のレンズの曲率を微妙に変えることで、レンズの収差補正を向上させるためです。

81S鏡筒シリーズ スペーサー交換キャンペーンhttps://www.vixen.co.jp/activity/sd81s2_campaign/ に掲載された画像を切り出し

 

ところが、この「錫箔による突起」によってレンズを通過した光が「回折」することで、明るい星のまわりの滲みに6本の影(割れ)が出る問題がありました。

具体的には、上の画像の左が「錫箔あり」の前モデルです。明るい一等星アンタレスの周辺の光芒に6本のスジが入っていることがわかります。眼視で天体を観測する際にはほぼ問題にはならないのですが「星像の美しさ」が問われる天体写真では、あまり歓迎されるものではありませんでした。

しかし、ビクセンSDシリーズの最新モデル「SII」世代では、このような錫箔の代わりにごく薄い円形のスペーサーリングに置き換えられました。この変更により、SDシリーズ鏡筒は天体写真においても死角のない製品となったのです。

旧製品が新製品相当に・「愛機活躍サポートプロジェクト」

特筆すべきことは、マイナーチェンジにおいて「アップグレードサービス(*)」が提供されていることです。古い鏡筒のユーザーであっても改良された新モデル相当への改造を行ってくれるのです。有料サービスですが、今回の「スペーサーを錫箔からリング型に変更」する場合、ビクセンSD81Sは¥17,600(消費税込、送料別)となっています。オーバーホール(分解清掃、グリスアップ、調整)込みでこの価格ですので、とても良心的といえるでしょう。

(*)正式名称はSD81SをSD81SII相当にする改造が「スペーサー交換キャンペーン」、ED81SIIをSD81S相当にする改造が「 デジタル対応SD改造サービス」。「アップグレードサービス」は筆者が簡単な言葉に変換したもので、ビクセン社の正式な呼称ではありません。

『103S/115S 鏡筒シリーズ スペーサー交換』キャンペーン特設サイト
https://www.vixen.co.jp/activity/103s2_115s2_campaign/

さらに、上位モデルの「SD103S/SD115S」「ED103S/ED115S」の場合、2024年6月までの約1年間、改造費用が約40%程度割引になります。旧製品に対してもこのようなサポートが継続的に行われるのはすばらしいことです。歴史のある日本企業の良心、といってもよいのではないでしょうか。

バランスのいい口径比・「F8」は「フォトビジュアル」

西村彗星(C/2023 P1)。F7.9という暗い光学系は淡い彗星は苦手である、と思っていませんか?総露光時間(35分)を確保することで淡い彗星のイオンテールをしっかり捉えることができました。

おそらく、現時点では主にベテランを中心に「F8クラスの鏡筒は暗いので写真撮影に適さない」と考える人の方が多いことでしょう。これはある部分は正しいのですが、ある部分では古い考え方を引きずっています。デジタルカメラが高性能化した現在では「F値が暗くても、それを補うだけの総露光時間をかければ、同じ写り(S/N:ノイズと信号の比)になる」のです。たとえばF4の鏡筒で20分の総露光をかけた場合と、F8の鏡筒で80分の総露光をかけた場合を比べると、S/Nはほぼ同じになります(*)。F値の暗さは総露光時間で補うことができるのです。

(*)センサー固有のノイズを低減する「ダーク補正」を行うことが前提です。ダーク減算は暗い鏡筒ほど効果があります。

つまり、露光時間に比例して光を蓄積できるデジタル天体写真においては、F値を小さくすることは必ずしも必須ではありません。使い方と対象を間違えなければ、「暗い」とされていたF8の天体望遠鏡でも、ちゃんと写真撮影が可能です(*)。さらに、多くの収差はF値が明るくなるほど補正が難しくなるため、限界レベルの光学性能を追求する用途(惑星や月面の観測・撮影)では、逆にF値の大きな光学系の方が有利になります。

(*)正確には、2枚玉・3枚玉の天体望遠鏡は、それ単体では周辺の収差が補正されていないため、「フラットナー」や「レデューサー」と呼ばれる補正レンズが必要です。

ビクセンSD81SIIは、「フラットナー」装着時はF7.9、レデューサー装着時はF6.1です。「すごく明るい」わけではありませんが、十分に天体撮影に使用できるレベルです。しかも眼視用途にも高性能。F8クラスの高性能屈折鏡筒は「無理しない、バランスの良いフォトビジュアル」であるといえるでしょう。

どれを選ぶ?スペックから見るビクセンSD三兄弟の比較

口径・焦点距離以外の光学設計は基本的に同じ・SD(スーパーED)ガラス使用の2枚玉アポ

SD3兄弟(SD81SII、SD103SII、SD115SII)は、光学的には「SD(スーパーED)ガラス使用の屈折式2枚玉アポクロマート」という天体望遠鏡で、大きさ以外はほぼ同じ特性です。乱暴にいうと同じ設計パラメータのガラス材を、口径の分だけ拡大・縮小したものと考えて差し支えありません。

「本体」は、鏡筒バンド・ファインダー・アリガタ・付属品を含まない重量です。

上の表はSD3兄弟の各種パラメータをまとめたものです。F値は全て同じ(素でF=7.7、フラットナー使用時F=7.9、レデューサー使用時でF=6.1)で、基本的には口径の分だけレンズの大きさと鏡筒の太さ・長さが異なります。接眼部と鏡筒バンドのパーツはほぼ同じものが使用されています。

ビクセンHPより引用。https://www.vixen.co.jp/product/26083_6/、https://www.vixen.co.jp/activity/cpplus2023/sd_telescope/

HPの収差図を比較しても3兄弟でほぼ同じ。この図(球面収差図)は、レンズに入射した平行光線の結像位置を色ごとに描いたもので、全ての色の線が直線で一致するのが理想の収差補正状態ですが、わずかに残存する軸上色収差によって色ごとの結像位置が若干異なっています。特に波長436nmのg線(紫)だけが少し飛んでいますが、いかにSD(スーパーED)レンズを使用したとしても、これは2枚玉の宿命。この収差(青ハロ)を押さえ込むには、さらにもう一枚のSDレンズを使用した3枚玉構成が必要になります。しかし、現代レベルの天体写真クオリティを要求したとしても、この程度の収差ならほぼ問題ない十分な性能といえます。

また、眼視用途においてはいずれも92〜95%の「ストレール比(*)」を実現していて「ほぼ完璧な結像」といえるでしょう。

(*)人間の眼の波長毎の感度特性を考慮し、入射した光の何%がエアリーディスク内に収まるかを示した指標。赤や紫の光に対しては人間の眼は相対的に感度が低いため、写真撮影用と眼視用では結像評価の指標がやや異なってきます。

天体望遠鏡は口径が命

上から、ビクセンSD115SII、SD103SII、SD81SII。長兄の115と末弟の81の口径の比率は40%ほどですが、体感的な大きさはまるで異なります。なお、フードの外径はSD115SII、SD103SIIでは同じです。SD115SIIに装着しているデュアルスピードフォカサーとアルカスイスクランプは別売品です。

天体望遠鏡は、口径が大きいほど天体の多く集めることができるため、暗い天体まで見たり撮影したりすることができます。特に肉眼で星を見る眼視用途では、基本的に「天体望遠鏡は口径が命」だと考えて差し支えありません(*)。

(*)写真撮影においては、口径が小さくても露光時間を長くすることで光量の不足をカバーできるため、特に小口径機においては、眼視用途ほどには口径は重要ではありません。

しかし、口径が大きくなるほど望遠鏡は大きく重くなります。天体望遠鏡の主要なパーツである対物レンズの重量は、基本的に口径の三乗に比例するため、口径81mm、103mm、115mmではそれぞれ「1 : 1.62 : 2.02」となります。小さな口径差であっても、重量に大きく効いてくるのです(*)。重量が大きくなると、安定してブレずに使える架台もより高価なものが必要になってきます。

(*)口径81mmのビクセンSD81SIIは鏡筒バンド・プレート込みで3.1kg、口径103mmのSD103SIIは4.4kg。対物レンズ以外のパーツは共通品もあるため、実際には3乗ほどには差は大きくなりません。

口径が大きくなるほど、価格も跳ね上がります。こちらも同じ光学設計であれば「天体望遠鏡の価格は口径の3乗以上に跳ね上がる」とみてよいでしょう。

光学性能だけを重視すれば、口径は大きければ大きいほど良い「大正義」です。しかし、価格や取り回しなどさまざまな要件を考慮すると、どこかで妥協しなくてはなりません。ビクセンSDシリーズの口径は「81mm」「103mm」「115mm」の3段階になっていますが、これはなかなかいい設定になっています。以下、その3つの特徴を見ていきましょう。

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SD81SII 小さくてもよく見える・エントリ向けの口径81mm

初心者にオススメ、コスパの口径81mm

SD81SIIで月を眺めているところ。中・低倍率で月を見る際は口径80mmあれば十分に臨場感を楽しむことができます。
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天体の姿を本格的に眼で見て楽しむにはやはり口径80mmは欲しいところ。口径60mmでは、絶対的な光量が不足してしまい、眼視で天体を観察するときの迫力がはっきり80mmに劣ります。その意味で末弟のSD81SIIは眼視用途においては「最小口径の妥協点」といえるでしょう。口径80mmあれば、散開星団のキラキラがとても美しく、月はもちろん、土星・木星・火星・金星の4大惑星もその神秘的な姿を体感することができます。

実のところ、欲を言えば「できれば100mm」なのですが、価格もサイズも大幅に跳ね上がるのがネック。そこで、80mmが初心者向けにはちょうどいい妥協ポイントなのです。鏡筒も小型軽量なので、小型の架台でも安定して搭載できるのがさらにお財布にも優しいところです。

本格的な天体写真にもチャレンジできる

はくちょう座の網状星雲。ナローバンド撮影では光量が極端に少なくなるため、レデューサーを使用することは大きなアドバンテージになります。ビクセンSD81SII SDレデューサーHDキット(496mmF6.1) α7S(天体改造) 総露光時間2時間30分 ISO25600 1コマ30秒露光×301枚スタック L-eXtreme フィルター SWAT-350赤道儀 フラット補正・ダーク補正適用 熊本県ヒゴタイ公園で撮影

ビクセンSD三兄弟で天体撮影を行う場合、専用の「SDフラットナーHDキット」ないしは「SDレデューサーHDキット」を併用することになります。この「補正レンズ」はデジタル時代の画質基準を十分にクリアしたたいへん上質で高性能なものです。天体撮影においてはSD81SIIは「初心者向け」というよりも、ベテランでも十分満足できるクオリティを発揮します。

一つ注意が必要なことは、SD81SIIでも焦点距離がやや長めであることです。フラットナー構成では焦点距離644mm(F7.9)、レデューサー構成でも496mm(F6.1)あります(*)。このくらいの焦点距離になると架台の精度もそれなりのものが要求されますし、レデューサー構成のF6.1でも露光時間があまり短いと満足のいくクオリティが得られない場合もあります。SDシリーズで初めて天体写真にデビューされる場合は、なるべく明るい(単位面積当たりの輝度が高い)天体からチャレンジされることをオススメします。

(*)その意味では、センサーサイズの小さな天体用CMOSカメラを使用するよりも、フルサイズ・APS-Cセンサーのデジタル一眼カメラがオススメです。

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https://www.vixen.co.jp/product/37246_1/
Vixen 天体望遠鏡 SDレデューサーHDキット
https://www.vixen.co.jp/product/37245_4/

コンパクトで使いやすいが、もう一声大口径が欲しいことも

SD81SIIで木星を撮影。2.5倍バローレンズ、ASI294MCで撮影。約1分間の動画データをAutostakkart!とRegistaxで処理。口径80mmクラスとしては健闘している方とは思いますが、これ以上の解像を求めるならより大口径が欲しくなります。

コンパクトで使いやすい、そして高性能なSD81SIIですが、とはいえ口径は81mmしかありません。用途によっては「もっと大口径!」が欲しくなってくることがあります。その一つが惑星の撮影です。

惑星の撮影で最も大事なことはまずは安定した気流(シーイング)で、これが良ければ小口径でもかなり健闘することができます。しかし、逆にシーイングが良ければ良いほど、口径による分解能の違いが如実に現れてきます(*)。

(*)大口径化に限界のある屈折望遠鏡は、しょせん惑星相手には「竹ヤリ」だという説もあり、なかなか否定できないところです^^;;

もうひとつ、眼視によるディープスカイ天体観望においても、口径80mmクラスには限界があります。とはいえ、こちらもSDシリーズ最大口径でも115mmなので、大型のドブソニアン望遠鏡にはまったく太刀打ちができません。

結局、屈折望遠鏡である以上は、大口径を手に入れても120mmクラスが限界です。屈折望遠鏡の特長である、コントラストの高さ・扱いやすさを生かしつつ、用途に応じて「SD81SIIでいいのか、もう1段大口径のSD103SIIにするのか」を慎重に考えるべきでしょう。

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SD103SII 眼視も写真も満足できる性能・バランスのいい口径103mm

ベストバランス、オールラウンダーの口径103mm

SD103SIIでカリフォルニア星雲を撮影中。SD103SII鏡筒はサイズ的にも同社のSXシリーズ赤道儀とベストマッチです。
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SD81SIIで感じる「もう一段階、口径が大きければ・・」という思いを満たしてくれるのがSD103SIIです。口径103mmあれば、肉眼でも撮影でもオールラウンドにそこそこ満足できるレベルになります。

本体重量はSD81SIIの2.3kgから3.6kgと増加しますが、SD103SIIは口径100mmF8クラスとしては軽め。架台への負担もさほどには大きくはなく、ちょうどいいバランス。オールラウンダー中のオールラウンダーと言っても過言ではありません。

ただし、希望小売価格ベースではSD81SIIの148,500円から264,000円と大幅にアップします。この金額を出せるかどうかが「SD81SIIなのか、SD103SIIを選ぶか」の分かれ目となるともいえます。この2本の鏡筒のどちらを選ぶかは悩ましい選択ですが、メイン機として末永く使うつもりならSD103SII、将来のグレードアップを想定するならSD81SII(*)というのが一つの選択の目安ではないかと個人的には考える次第です^^

(*)SD81SIIのコンパクトさは他に代えがたいメリットでもあります。将来サブ機として使う構想ならSD81SIIの選択もアリです。例えば、皆既日食遠征に持って行くにはSD103SIIはかなり負担になります。

写真撮影にも実力発揮、レデューサー併用がオススメ

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SD103SIIは写真撮影にも好適。フラットナー構成では焦点距離811mm、レデューサー構成では624mm。焦点距離811mmはかなり長めなので「SDレデューサーHDキット」がオススメ(*)。銀河など小さな対象にはフラットナー、広がった天体にはレデューサーと使い分けることができます。まさに「ガチ」な天体写真にも大活躍してくれることでしょう。

(*)SDシリーズ全体に言えることなのですが、フラットナーだけでなくレデューサーも合わせて導入する方が、将来的にも広い用途に使用することができるのでオススメです。

最強の「スーパーサブ機」として

ただし、口径103mmといっても「小口径」のカテゴリであることには変わりありません。レデューサー構成でもF値は6.1なので、淡い天体をにたっぷり露光時間をかけて撮影したい場合には決して最適な鏡筒であるとはいえません。ディープスカイの眼視観望や、惑星のディテールへの挑戦においても同じです。F4〜F2.8クラスの反射アストログラフや、口径20cmオーバーのシュミットカセグレン・ドブソニアンなど「より明るい」「より大口径」の望遠鏡への煩悩からは、なかなか逃れることはできないでしょう^^

この問題?については、誰が解決してくれるものでもありません。たっぶり悩んで、楽しんでくださいね!ひとつだけ慰め?の言葉を贈るとすると、SD103SIIでできないことを実現する新兵器を仮に導入されたとしても、SD103SIIの利便性と高性能が生きる局面はたくさんあるということです。サブ機・スーパーサブ機として末永く活躍してくれることでしょう。

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SD115SII もっと光を!眼視でも満足の口径115mm

屈折望遠鏡の気持ちよさを追求したい人に。口径115mmの威力

SD115SIIでこと座のリング星雲を撮影中。SD三兄弟の最大口径・最長焦点距離のSD115SIIですが「バカでかい」ほどのサイズではなく「一回り大きなSD103」的な感覚です。
Vixen天体望遠鏡SD115SII鏡筒
https://www.vixen.co.jp/product/26087_4/

最後の選択肢、長兄の「SD115SII」です。SD103SIIでもまだ足りない。でも、屈折望遠鏡がいい。そんなさらに大きな口径を求める方向けの、ある意味「究極」の選択肢です。



おそらくSD115SIIが最適の選択肢となる方は決して多くはないことでしょう。SD103SIIとSD115SIIの口径差はわずか12mm。大口径を指向するなら「ほとんど誤差の範囲」といってもいいくらいです。しかし、この「口径を欲張らない大口径」の設定は、中型の赤道儀で無理なく運用できる絶妙のバランス感があります。

本体重量はSD103SIIの3.6kgに対してわずか800g増の4.4kg。少し鏡筒が太くて長いですが、ほとんど同じような感覚で使用することができます。これがもし口径130mmだとすると、SXシリーズ赤道儀ではちょっと運用が難しいサイズになってしまったことでしょう。

ただし、価格は希望小売価格ベースでSD103SIIの264,000円に対して、368,500円とさらにに跳ね上がります。お安くはないですが「手軽に扱える高性能・大口径屈折望遠鏡」としてのSD115SIIは、実は渋いポジションを確保していると言ってよいのではないでしょうか。

写真撮影にはしっかりした架台を

オリオン大星雲中心部。小サイズ(1/1.8インチ)のCMOSカメラを使用する場合は、補正レンズを使用しなくても大きな問題にはなりませんでした。ビクセンSD115SII、補正レンズなしフィルターなしフラットなし、5秒900枚スタック。ASI678MC、UV/IRカットフィルター使用。SXP赤道儀恒星時追尾。福岡市内より撮影

SD115SIIはSD103SIIと比較して、重量はさほど増加していないものの、一回り鏡筒が太く長いため、より風に対するブレの影響を受けてしまいます。フラットナー構成で焦点距離900mmのこの鏡筒をしっかり安定してガイドするには、ビクセンのSXシリーズでも若干力不足かもしれません。

上の作例はそこを割り切ったラッキーイメージング(*1)による撮影です。SD115SIIを「ガチ」なディープスカイの天体写真撮影を主目的に導入するのはちょっと違う気がしますが(*2)、写真撮影「も」する、という用途なら逆に自由な発想でいろいろなやり方を考えることができるでしょう。

(*1)1コマ当たりの露光時間を数秒から5秒程度と極端に短くして、多数枚撮影した画像をスタックすることで、画質を確保する手法

(*2)口径を優先するなら反射式という選択肢があり、明るさを優先するなら写真に全振りしたアストログラフという選択肢があります。

最強の「お手軽オールラウンダー」

木星と土星を撮影。シーイングが今一つで情けない作例ですが、、、SD115SIIをこんなお手軽ベランダ撮影に使用するというのも、贅沢な楽しみ方。ベランダなら風の影響も最小です。SD115SII、2.5倍バロー、ASI678MC。

SD115SIIを選択する場合も、キーワードはやはり「オールラウンド」でしょう。月も惑星もディープスカイも、見たいし撮りたい。なるべく大口径で、そしてライトに。そんなニーズであれば、SD115SIIは「最強の大口径お手軽オールラウンド望遠鏡」として大活躍してくれることでしょう(*)。

(*)個人的には、老後?に気楽に星を楽しみたいという日が来たときには、SD115SIIのような望遠鏡が欲しいなあと思いました^^

繰り返しになりますが、口径115mmは決して大口径ではありません。逆に「ガチに写真を撮りたい」とか「惑星を極めたい」「ディープスカイ天体を眼視でところん見たい」といった「尖ったニーズ」が主なら、他にもっと最適な選択肢があるはず。そのあたりをよく考えてチョイスしてくださいね!

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SD三兄弟でいろいろ検証してみた

天体用CMOSカメラでは「UV/IRカット」に注意

失敗作です・・・SD115SII ASI678MC フィルターなし 10秒露光 総露光時間70分

SD(スーパーED)レンズを使用しているとはいえ、SDシリーズは2枚玉。色収差の補正は完璧ではありません。特に近赤外域ではそれなりにピントがずれてしまうことに注意が必要です。

具体的には、カバーグラスが「素通し」でUV/IRカットフィルターを内蔵していない天体用CMOSカメラを使用する場合、フィルターなしで撮影すると上の作例のように明るい星のまわりに大きな「ハロ」が取り囲んでしまい、ピンボケのような結果になってしまいます。これは、近赤外線の色収差によるものです。

近年、近赤外線が光害に強いことを生かして、積極的にこの波長域を利用する撮影方法が広まっていますが、さすがの2枚玉アポクロマート鏡筒でも近赤外線は色収差をじゅうぶんに補正できていないのです(*)。UV/IRカットフィルターを使用して「有害な」近赤外光をカットしてしまうか、逆に近赤外光のみを通す「IRパス」フィルターを使用するようにしましょう。

(*)このような撮影をする場合、色収差がない反射望遠鏡が有利になります。屈折式でもEDレンズを複数枚使用した鏡筒では、近赤外域の色収差も補正された製品もあります。

デュアルスピードフォーカサーの効果は?

精密なピント合わせのために、デュアルスピードフォーカサーは必須なのかどうか。今回、眼視・ディープスカイ・惑星撮影のそれぞれで、デュアルスピードフォーカサーの有無でどのくらいピントの合わせやすさが違うかを比較してみました(前回の記事もご参考に)。

結論からいって、あると便利だが必須ではない、です。眼視で使用する場合は、デュアルスピードフォーカサーがなくても、普通にピントを追い込むことが可能です。ディープスカイ撮影の場合でも、バーティノフマスクを使用するなら素のままでも特に不便はありませんでした。唯一、惑星の撮影で微妙にピントを追い込みたいとき(現在の状態からわずかだけズラしたいとき)には有効でした。

実際のところ、デュアルスピードフォーカサーを装着したからといって細かなピント調整が劇的に楽になるわけではないのです。ピント調整のラックピニオン機構には一定の「重さ」と「遊び」があるため、減速したからといって細かな調整がスカッとできるわけではないのです。

その意味では、ピント合わせを究極的に追い込みたいのであれば、電動フォーカサーを導入するのが一番です。これならばある程度の再現性を持って、ピントを細かいステップで微調整することができます。

もうひとつ、デュアルスピードフォーカサーの有無によらず、微妙なピント合わせを行うためには「練習」することが大事です。天頂付近では少しだけクランプを締めた状態にしておかないと一気にフォーカス位置が変わってしまうこともあります。さまざまな条件でピント合わせを実際に練習することが、一番の王道ではないかと思います。

52mmフィルターと48mmフィルターのケラレの差

左:「直焦ワイドアダプター60DX」のレンズ側マウント部の上に載せた「M56フィルター変換アダプター48/52」 右)M56フィルター変換アダプター48/52」にデュアルナローバンドフィルター「L-eXtreme」を装着したところ

これまで、ビクセン製の天体望遠鏡は「52mm径」のフィルターに対応していましたが、最近発売された「M56フィルター変換アダプター48/52」によって、より種類の多い「48mm」サイズのフィルターも使用可能になりました。では、48mm径と52mm径で有利・不利はあるのでしょうか。心配なのは、48mm径のフィルターを使用するとケラレるのではないか、ということです。こちらも検証してみました。

Vixen 天体望遠鏡 M56フィルター変換アダプター48/52
https://www.vixen.co.jp/product/37239_3/
SD81SII SDレデューサーHDキット EOS6D(SEO-SP4改造)

青空に向けて52mmフィルター・48mmフィルター(いずれも枠のみでガラス無し)を設置しフラットを撮影しましたが、全くといって違いはありませんでした。フィルターの置かれる場所が、光束が一番絞られた場所だからでしょう。

SDシリーズの場合、径がやや小さい48mmフィルターでもケラレの心配はないといって良いでしょう。

他社製フラットナーを使用してみる

使用したマルチフラットナーx1.04。対物レンズの焦点距離に応じて異なる光路長のアダプタリングを交換して使用します。SD81SIIの場合は「マルチCAリング76」を使用しました。鏡筒への装着は2インチスリーブ。

「2枚玉アポクロマート鏡筒(*)」は光学設計的にはほぼ「枯れて」いて、基本的な設計は各社ともほぼ同じです。

(*)2枚のレンズの間隔を錫箔やスペーサーで1mm以下のごく小さな間隔に近接させた設計の場合。積極的にレンズ間隔を大きくしさらなる収差補正を追求した製品もあります。

このため、レデューサー・フラットナーなどの補正レンズは、ある程度光学設計的に互換性があります。そこで、他社製のフラットナー(高橋製作所の2枚玉フローライト望遠鏡FC・FSシリーズ用の「マルチフラットナーx1.04」)を使用してして撮影してみました。

星が割れない」SII世代のメリットが最も生きる「すばる(M45プレアデス星団)」を撮影してみました。使用したフラットナーは社外品で像質は純正品同様ですが四隅の陰りが若干目立ちました。ビクセンSD81SII タカハシマルチフラットナーx1.04(マルチCAリング76) α7S(天体改造) 総露光時間1時間45分 ISO25600 1コマ30秒露光×209枚スタック SWAT-350赤道儀 フラット補正・ダーク補正適用 APS-C程度にトリミング 熊本県ヒゴタイ公園で撮影

結果は、上の画像の通り、中心像・周辺像ともに、ほぼ満足のいく星像が得られました。ただし、これは専用のアダプタリングで適切なバックフォーカスになるように設定したからです。フラットナー・レデューサーに汎用品を使用する場合、バックフォーカスを適切に設定できるかどうかで大きく結果に違いが出てきます。逆に、バックフォーカスが固定のタイプの場合、マッチングのいい主光学系が限定されてしまうことに注意が必要です。

星像の優劣はほとんどありませんでしたが、周辺光量には若干差がありました。太いリングで十分な光束を確保できる純正品と違って、2インチ(48mm)スリーブ接続のフラットナー(*)は、四隅がやや陰ります。やはり純正品が一番マッチングがよいようです。

(*)使用した「マルチフラットナー1.04x」は、タカハシ純正鏡筒ではそれぞれ専用のアダプタリングが用意されているため、ケラレの心配はありません。

 
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SDシリーズに望むこと

繰り返しになりますが、天リフでは「2枚玉F8クラスのアポクロマート鏡筒」こそ、最初の1本にふさわしいスタンダードだと考えています。その意味ではSDシリーズ鏡筒はど真ん中ストライクです。しかし、「SD三兄弟」には、いくつか要望したいことがあります。一言でいえば「やや古い設計を引きずっている」と思われるいくつかの仕様です。

鏡筒バンドとハンドル

2004年発売のED81Sなどで採用された、鏡筒バンドに標準装備の「ハンドル」。鏡筒を架台に脱着する際にとても使いやすく、非常に先進的な設計でした。この設計思想は広く他社にも拡散し、現在では屈折式天体望遠鏡においてはほぼ常識になりつつあります(*)。

(*)2大国産メーカーのもう一社、高橋製作所の屈折望遠鏡では最上位機種の「TOA-150B」以外は「ハンドル」がありませんが、パーツメーカーから鏡筒バンドとセットでハンドルが提供されています。

標準の出っ張った1/4ネジ(左)は取り外すことができます。右はネジ穴に利用してアルカスイス互換クランプを取り付けたところ。

ところが、現在のニーズから見るとやや不満なところがあります。上の画像(左)のようにハンドルには1/4カメラネジ(オス)が出ていて、これは「カメラ雲台」を装着することを想定されていたのだと推測しますが、現在のトレンドではここは「35mm間隔のM6ないしはM8のネジ穴2個」になってほしいところ(*)。理想を言えば、アルカスイス互換ないしはファインダー規格のアリガタであれば、さらに汎用性が高まるでしょう。なお、上の画像右のように、1点止めならアルカ互換クランプを装着することは可能です。

(*)昨今の写真用途では、ファインダー・ガイドスコープに加えて、ASIAIRのような撮像用デバイスを装着するケースが多くなっています。

接眼部を鏡筒から取り外して鏡筒バンドを引き抜いた状態。(ビクセンSD81SII)

もう一つ。これは善悪ではないのですが、SDシリーズの鏡筒バンドは、接眼部を装着したままでは取り外すことができません。他社の鏡筒バンドの多くは半円形のリングが2本のネジで装着される形なので簡単に鏡筒から取り外すことができますが、SDシリーズの鏡筒バンドは大きなリングにスリ割りを入れ、一箇所のネジで締める構造になっているからです。

接眼部は鏡筒にねじ込まれているので回せば外れるのですが、力の入れ加減に少しコツがいります。力一杯回すと壊してしまいそうな気がしてしまいますし、手を滑らせて落としてしまう可能性や、接眼部を外すことによってチリやゴミが混入する危険もあり、かなり神経を使います。必要に迫られない限りはやるべきではないでしょう。

「必要に迫られる」ことがあるとすれば、別の鏡筒バンドを使いたい場合に限られるでしょう。標準の鏡筒バンドで満足できるのであれば何の問題もありませんが、ちょっと気になってしまう仕様です。

接眼部

ビクセンSD三兄弟の接眼部は、全く同じパーツが使用されています。設計を共通化してコストダウンを図る意味ではとても合理的ですが、末弟のSD81SII目線では「十分な強度と精度」と評価できるのに対して、長兄のSD115SII目線だと「もう少し頑丈で高級感があって欲しい」と思ってしまうところがあります(*)。

(*)SD115SIIが口径115mmでわずか6.3kgという軽量に仕上がっているのは「過剰な強度(重量)の接眼部を使用していない」からでもあります。個人的には「使いやすい眼視鏡筒」の位置づけであれば現在の実装が適切であると思います。

ドロチューブクランプを緩めた状態と完全に締め込んだ状態を重ね合わせてみました。ほんのわずかに光軸のずれが発生していることがわかります。筆者はクランプはごく優しくしか締めないので実際にはこれほどにはずれないのですが、フラット撮像の際はこの「締め具合」も再現させる必要があるでしょう。SD81SII、SDレデューサーHDキット使用。

ピント調整のスムーズさや遊びの少なさでは十分に満足できるものではありますが、一点惜しいのがピント固定クランプを締めるとほんのわずか光軸のセンターがずれてしまうこと(*)。

(*)このような一点止め式のドロチューブクランプによってわずかに光軸のセンターがずれる現象は、一般的に存在するものです。筆者の所有する別の屈折鏡筒(タカハシFC-76DCU)でも同程度のズレがありました。あまり神経質になる必要はありませんが、そういう事象が存在することは認識しておいたほうがよいと思います。

SD81SII、SDレデューサーHDキット使用。

眼視観測・写真撮影の双方において画質の劣化はまったく感じられませんでしたが、撮影時とフラット撮影時のクランプの締め具合が極端に違うと、周辺のフラットが合わなくなることもあるかもしれません(*)。上の画像は「同じフラット画像をほんの少し(20ピクセル)上下にズラして減算したものですが、ミラーボックスによるケラレの部分(下の縁)が明らかに「合わなく」なっています。

(*)逆にこれはビクセンSDシリーズに限らず、フラット撮像一般に言えることではないかと思います。ドロチューブのクランプだけでなく、鏡筒の向き(天頂or水平など)による微妙な光軸中心のずれは、フラットが合わなくなる要因の一つではないかと推測しています。

フードをスライドして伸縮したい

フードを付けた状態(上)と外した状態。(ビクセンSD81SII)

まずはじめに「伸縮式フードを採用しない製品は、基本設計が古い」と言うつもりはありません^^;; 記事の構成上この場所に入れてしまいましたが、伸縮しないフードを採用している製品は他社にも多数あります。本項の意図は「より多くの人にとって使いやすい、よい製品にしてほしい!」というものです。

F8クラスの鏡筒の弱点の一つは、鏡筒がどうしても長めになってしまうこと。持ち運びや収納を考えると、鏡筒が短いことは大きなメリットになります。一方で、フードが浅い(短い)と、結露の心配が大きくなってしまいます。

そこで、十分に長いフードと鏡筒長の短縮化を実現するのが「フードの伸縮化」です。フードをスライドして短くできれば、移動・収納時のスペースが減ります(*)。

(*)皆既日食などの海外遠征では「フードを外して持ち運ぶ」手もありますが、逆に外したフードが結構かさばります。

伸縮式フードのギミックはコストアップ要素になるので同じ価格で実現するのは難しいとは思いますが、SDシリーズのフードが伸縮可能になれば、多くのユーザーにとって将来にわたる大きなメリットとなることでしょう。ぜひ検討をお願いしたいものです。

ファインダーとファインダー脚

左)脚は50mmファインダー用脚 II、ファインダー本体は接眼レンズを交換できない旧モデル 右)脚は50mmファインダー用脚 S、ファインダー本体は最新モデルの暗視野ファインダーII 7倍50mm

ビクセンSDシリーズ(103SII、115SII)に標準付属する口径50mm7倍ファインダーファインダー脚は非常に良くできています。特に、スプリング機構によって上下・左右にスムーズに調整できる構造は特筆もので、筆者がこれまで使用したファインダーの中では最も調整が容易なものでした。これは賞賛に値するといってよいと思います。

さらに、SIIシリーズから標準付属のファインダーの接眼部が交換可能となり、1.25インチ径の天体用CMOSカメラに換装してオートガイド用途にも使用できるようになりました。わざわざオートガイド用のガイド鏡を買い足す必要がなくなり、こちらも大歓迎の仕様変更です。

この暗視野ファインダーIIをガイド鏡として使用する場合は、より安定して「6点ネジ止め」で固定できる「50mmファインダー用脚 S(上画像右)」の使用が推奨されています。恐らく、スプリング固定式の脚では風や振動などでガイド鏡が微妙に動いてしまうことを懸念したのでしょう。50mm用ファインダー脚は元々は同社のVC200LやVMC260Lなどの鏡筒の太いカタディオプトリック式望遠鏡に標準付属しているもので、ファインダー脚も短く支持部もより肉厚になっています(その分重くなっています)。

「50mmファインダー用脚 S」をSD115SIIに装着していますが、脚が短いため鏡筒とのクリアランスが小さく、ガイド鏡のヒーターを装着するとキツキツになりました。また太いフードや露よけヒーターを使用すると視野がケラれる可能性もあります。使い勝手の点では長い脚の方が便利に感じました。

しかし、個人的には「そこまでする必要はないかな」と感じました。もちろんしっかり固定できるに越したことはないのですが、デジタル時代では1コマの露光時間は長くても10分、通常は2分前後。この程度の露光時間であれば、従来型のファンダー脚でも特に問題なく使用することができました。オートガイド用に「S」タイプの脚を買い足すのなら、より軽量な口径30mm程度のガイド鏡を買い足した方が便利かもしれません。

もうひとつ、ファインダーの接眼部が交換式になった副作用がありました。接眼レンズの固定ネジは90°離れた位置に2個付いているのですが「どちらのネジを先に締めるか」で微妙にセンターがズレます。ビクセン社のファインダーは少々狂ったとしても簡単に調整できるので大した問題にはならないのですが、ファインダーの光軸の100%の再現性は基本的には期待できないと考えたほうがよいでしょう(*)。

(*)実は他にも「アリガタ表面の微妙な凹凸」に起因した「ファインダー脚のアリミゾの止めねじの締め方」によるズレもあります。どちらもごく小さなズレで実用上の問題は小さく、あまり神経質になる必要はありません。

フリップミラー

左)フリップミラーは約300g。意外と重量があります。右)フリップミラーの直視側、ミラーを跳ね上げたところ。ぎりぎり光路を遮らないかどうかという感じですが、跳ね上げたミラーの裏面と跳ね上げ機構の内面反射が気になります。ちなみに対物側のスリーブの内側にはネジが切られているのですがこれがなんとΦ49mm。一般的な48mmサイズのフィルターが微妙に装着できない(49mmフィルターは装着可能ですがこの場合2インチスリーブに挿入できませんでした)のも残念なところ。

フリップミラーはビクセンのオリジナル製品で、同様のパーツを標準付属としている他社製品の例は筆者の知る限りありません。天頂ミラーの機能を持ちつつ、カメラと接眼レンズを簡単に切り替えて運用できるアイデア商品です。今回のレビューでも、惑星をCMOSカメラで撮影する際の導入操作に大いに役立ちました。

しかし、2つの光路を独立してピント合わせする機構がない(*)など、使い込んでくると不満な点が出てきてしまいます。

(*)直進側にカメラを装着し、接眼部のラック&ピニオンでピント合わせした後、直交側に接眼レンズを装着しスリーブを「抜き差し」してピント合わせすることになります。そのためには、カメラ側の光路長を適切に設定する必要があります。

さらに、直交側・直進側の光軸(視野の中心位置)が、微妙にドンピシャではありません(*)。拡大率の大きな惑星撮影では問題になるケースがあるかもしれません。

(*)これは個体差も若干あるようです。

フリップミラーは単品購入すると実売9000円前後です。天頂ミラーとして使用できるので標準付属の意味はあると思いますが、フリップミラーがどんなユーザーの用途に必要とされているのかを、改めて見直してもいい時期かもしれません(*)。

(*)天体望遠鏡の標準付属品をどう設定するか、というかなり大きなテーマになるでしょう。観測に最低限必要なものは標準付属とするという考え方なら接眼レンズも付属とすべきですが、現在の商品構成がそうでない以上は、フリップミラー・90度視のプリズム・ミラー、さらにはファインダーも別売でよいのではないかと個人的には思います。

BORG・フリップミラーの情報をまとめました
https://www.tomytec.co.jp/borg/world/howto/00003/0003-02.html
フリップミラーを使用して惑星を撮影中。小サイズセンサーのCMOSカメラで惑星を撮影する場合、フリップミラーを併用すると対象の導入にとても便利ですが、ディープスカイ撮影専用のレデューサー・フラットナーと併用することができません。

さらに、フリップミラーの本来の目的は「カメラと接眼レンズを同時に接続し簡単に切り替えられる」ことにあったはず。なのに、フラットナー・レデューサーを併用する天体撮影には使用することができません。実質的には「月・惑星専用(*)」にしかならないのです。

(*)惑星と同じシステムで惑星状星雲や銀河、明るい星雲を強拡大する場合は、ディープスカイ撮影でも有効です。ただし、ダーク撮像時など直交側からの迷光には注意が必要です。

補正レンズなしでも天体撮影が可能なVSD鏡筒やAX103S鏡筒なら、ディープスカイ天体でも使用できるのですが、現在のフリップミラーはミラーボックスが小さく(カメラとの接続もT2マウントで径が細い)対物光学系の高い性能を生かし切れませんし、跳ね上げたミラーの反射も気になります。

ディープスカイ撮影と眼視の天体観測をフリップミラーで切り替えたいというニーズがどこまであるかという問題はありますが(*)、最近増えてきたデジタル天体観測(電視観望)では潜在ニーズは大きいのではないでしょうか。当初のコンセプトが現代でも通用するような改良を望みたいものです。

(*)正直いって、他社も含めてディープスカイの撮影用システムと眼視用システムを切り替えるのはとても複雑で面倒です。写真撮影機材が眼視機材と全く別に進化してしまって接点がなくなってしまい、結果的にユーザーの分断を生んでしまっていることは、業界全体の課題ではないでしょうか。

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天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

最高のバランス・オールラウンド中のオールラウンド、SD103SII

写真撮影に使用した後、ポルタII経緯台に搭載して西村彗星(C/2023 P1)を観測しました。口径103mmですが軽量な鏡筒は適用範囲が広く使い勝手抜群です。

眼視に写真に活躍する「オールラウンダー」のSDシリーズ鏡筒ですが、その中でもベストバランスなのはSD103SIIです。大きすぎない筐体に満足の口径103mm。眼視にも写真にも多目的に使え、これ1本あれば力不足を感じることはそうはないでしょう。

実売価格は22万円〜24万円と決して安い買い物ではありませんが、しっかりとした光学製品は電子機器とは違って、きちんと手入れすればほぼ一生使うことができます。生涯に対する投資と考えれば、決して高いものではないといえるでしょう。

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初心者にはこれ!・失敗しない最初の1本、SD81SII

ベランダから惑星観望。81mmは「小口径」のカテゴリではありますが、SD(スーパーED)アポクロマートのSDシリーズはびっくりするほどよく見えます^^

SD三兄弟の末弟の口径81mm。コンパクトで取り回しがよく、小さな架台にも搭載可能で高い稼働率が期待できるのがSD81SII。口径的には「もう一声」なところはあるものの、写真撮影ではむしろちょうどよい焦点距離です。価格も実売12.6万円とお手ごろで、特に初心者の最初の1本としてオススメです。

協栄産業・ビクセン SD81SII鏡筒
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スーパーサブ機!・ベテランにも1本、SD81SII

ナローバンドで網嬢星雲を撮影中。SDレデューサーHDキットで焦点距離496mmF6.1は、小型の赤道儀でも運用可能。

SD81SIIはベテランのサブ機としてもオススメ。ベランダでのチョイ見からガチな天体撮影、皆既日食の海外遠征までと、まさにオールラウンド。貴方の「機材打線」を繋げる「最強の8番打者」として活躍してくれることでしょう。

「最初の1本」にSD81SIIを購入されなかったベテランの方は、「最後の1本」として導入されてはいかがでしょうか^^

クラス最軽量・手軽に運用できる満足の口径、SD115SII

こと座のリング星雲を撮影中。小さな惑星状星雲は焦点距離の長いSD115の得意分野です。なお、UV/IRカットフィルターを入れ忘れてしまいリザルトは失敗作に・・・

SD三兄弟の長兄、高いコントラストを誇るSD(スーパーED)アポクロマートの口径115mmは満足の性能。口径115mmはアマチュアが手軽に運用できるほぼ限界サイズといえますが、鏡筒バンド・ファインダーを含めて重量6.3kgのSD115SIIは、その中でも最軽量クラスです。

なるべくシンプルな一つの機材でオールラウンドにいろいろ楽しみたい。でも口径には妥協したくない。そんな長い機材遍歴を経たベテランの方の「最後の1本」にいかがでしょうか?

まとめ

ビクセンSD3兄弟と一晩を過ごした朝、オリオン座が東の空に。オールラウンドなそれぞれに特徴のある鏡筒と、贅沢に過ごすことができました^^

いかがでしたか?

F値「8」クラスのSD(スーパーED)アポクロマート天体望遠鏡は、眼視観望に良し・天体撮影に良しの「フォトビジュアル」天体望遠鏡です。より目的を特化した場合は別の選択肢もありますが、これ一本で広い用途に活用できること、何よりコストパフォーマンスが高いことは、まさに「天体望遠鏡の原点」です

さらに、ビクセンSDシリーズには「口径81mm」「口径103mm」「口径115mm」の3つの選択肢があります。初めて望遠鏡を購入する初心者から、一通りのことを体験したベテランまで、誰にとっても「万能機」として活躍してくれることでしょう。

昨今では4枚玉・5枚玉といったより高い光学性能を追求した新しい設計の天体望遠鏡も増えてきていますが、そんな時代になってもなお色褪せない高コスパの「F8アポ」は、今後も貴方の天文ライフを豊かにしてくれるはず。さまざまな特徴をもった天体望遠鏡が市場を賑わせている今だからこそ、「F8アポ」の良さを見直してみませんか?!

それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます!

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  • 本記事は(株)ビクセンより協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 本記事で使用した望遠鏡は、旧鏡筒を「スペーサー交換キャンペーン」および「 デジタル対応SD改造サービス」で改造したものです。各部の詳細は現在販売されているSD81SII/SD103SII/SD115SIIとは細部で異なる場合があります。
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  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/10/7ab8e34d582df7955ffede30900c7b78-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/10/7ab8e34d582df7955ffede30900c7b78-150x150.jpg編集部望遠鏡望遠鏡ビクセン,SDシリーズみなさんこんにちは! 貴方の天体望遠鏡の口径は何mmですか?天体望遠鏡はある意味で無限の選択肢を提供できる商品です。口径50mm、60mm、80mm、100mm、、、、口径が少し違うだけで、かなり別の個性を持った商品になります。そして、光学性能的には「口径はデカイほどいい」。でも一般に口径の3乗!に比例してお値段も上がってしまいます。 さらに「屈折式」「反射式」「2枚玉」「3枚玉」「4枚玉」など光学系のバリエーションもあり、まさに選択肢は無限。そんな中で貴方にとって最適な天体望遠鏡は何か。もちろん予算や用途によって最適解はさまざまなのですが、万人向けのリコメンドとして、実はシンプルな解があると天リフでは考えています。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2023/08/29/15497/ と、ここまでの出だしは本記事の「前編」でもあるこの記事とほぼ同じ^^ 何度も繰り返しますが、SD(スーパーED)レンズ採用の2枚玉アポクロマート屈折望遠鏡、これこそが、そのシンプルな解。前回の記事では口径81mmの「ビクセンSD81SII鏡筒」にフォーカスしてご紹介しましたが、この望遠鏡は三兄弟の末弟。ほぼ同じコンセプトで口径違いの「兄」が2機種(ビクセンSD103SDIIとビクセンSD115SII)あるのです。 本記事では、ある程度天体望遠鏡の経験のある読者を想定して、口径違いのこの「SDシリーズ三兄弟」をつぶさに比較していきます。長兄の「ビクセンSD115SII」は実売30万円を越える高級機ですが、それでも「初心者に優しい」SDシリーズの特徴をそのまま継承しています。真ん中の「ビクセンSD103SII」はバランスのいい口径とサイズの、オールラウンダー中のオールラウンダー。そして末弟の「ビクセンSD81SII」は初心者にもオススメできるコンパクトでお手軽な入門機。 この3機種の比較は、初めて天体望遠鏡を購入される方の「いったいどのくらいの口径を選べばいいのか」という疑問に対するヒントになっているかと思います。それでは、早速ビクセンSDシリーズの特長と、三兄弟それぞれの特徴を見ていきましょう! シンプルに、基本性能を追求したビクセンSD三兄弟 高い光学性能・SD(スーパーED)レンズ採用 天体望遠鏡の性能は、天体の微弱な光を集める「対物レンズ」でほぼ決まります。この対物レンズの設計と材質(*)が肝で、「(スーパー)EDレンズ」や「蛍石(フローライト)」のような高価なガラス材を使うかどうかで、結像性能(特に色ごとに焦点距離が異なる「軸上色収差」の補正)に大きな差が出ます。 (*1)設計については、現代の技術ではもう「ほぼ結論が出た」状態にあり、レンズ間隔を極端に大きく取るなどの設計をしない限り、各社とも大きな差異はありません。もうひとつ、対物レンズが設計通りの精度で研磨・組立されているかどうかもポイントです。 このような「高価なガラス材を使った天体望遠鏡(対物レンズ)」は俗に「アポクロマート鏡筒(略称『アポ』)」と呼ばれています(*2)。ビクセンSD81SIIは、この「アポクロマート」に分類される高性能な天体望遠鏡です。(一方で、高価なガラス材を使用しないものは「アクロマート」と呼ばれます)。 (*)光学理論上はこの説明は正確ではないのですが、便宜的・営業的な呼称としては有用な説明といえるでしょう。このあたりの事情の詳細はこちらをご参照ください。 もう一つ、大事なことがあります。いわゆる「EDレンズ(ガラス)」には、大別すると「(無印)EDレンズ」と「SD(スーパーED)レンズ」の2種類があります(*1)。SD(スーパーED)レンズは蛍石(フローライト)とほぼ同等(*2)ですが「(無印)EDレンズ」はそれらより若干収差補正が劣ります。ビクセンSDシリーズは、もちろんより高性能な「SD(スーパーED)レンズ」です。 (*1)光学硝材(ガラス材)の大手、オハラ社の型番では、EDレンズが「FPL-51」、SD(スーパーED)レンズが「FPL-53」。 (*2)SD(スーパーED)レンズと蛍石(フローライト)は実際の製品の性能においてはほぼ違いはないと考えて差し支えありません。今回のレビューを含めて筆者のこれまでの経験でも、この2つの優劣を感じたことはありません。 では実際に「アクロマート」「(無印)EDレンズのアポクロマート」「SD(スーパーED)レンズのアポクロマート」では、どのくらいの違いがあるのでしょうか。感覚的ではありますが、製品価格の差が納得できるくらいには明確にある(*)、といえるでしょう。 (*)口径80mmの場合、アクロマートとSD(スーパーED)アポの価格差は3〜4倍以上あります。実際のところ、アクロマート製品は初心者用入門機を除いて主流ではなくなってきていて、選択肢が少ないのが現状です。無印ED機(2枚玉)はSD(スーパーED)機の半額程度の製品があり、一定の妥協をする前提なら十分選択の余地があります。無印ED機の場合、若干「色収差(色によってピント位置が異なる現象)」が大きくなり、特に写真撮影では差が出てきます。 コスパの高い「2枚玉」 ビクセンSD81SIIは、最もコストパフォーマンスの高い「2枚玉」になっています。視野中心の性能は、SD(スーパーED)レンズを採用し高精度に製造する技術(*)があれば、2枚構成の対物レンズでもほぼ完璧なレベルになるのです。 (*)SD(スーパーED)レンズや蛍石はガラス材が非常に柔らかく、特に大口径のレンズを高精度に研磨するには高度な技術が必要になります。以前はこのハードルが高く、ごく一部のメーカーしか製品化できなかったのですが、近年は技術の向上が進み広く使用されるようになってきたようです。 難しい話は一切省くと、光学設計上はレンズ枚数を多くするほど結像性能を高めることができます。一方で、レンズの枚数が多くなればなるほど製造が難しくなります。特に天体望遠鏡の対物レンズは、きわめて高精度に研磨(正確な球面に磨き上げること)され、かつ精密に組立られていることが必要になるため、対物レンズの構成枚数が2枚、3枚、4枚と増えるにつれて、製品価格は大きく跳ね上がります。このトレードオフから、天体望遠鏡の対物レンズの構成枚数は今現在でも「2枚玉」が多く採用されています(*)。 (*)天体望遠鏡で最も重要な「視野中心の結像性能」は、2枚あればほぼ十分なレベルになり、3枚のレンズ構成でほぼ「無収差」の光学系が実現可能です。一方でカメラレンズでは、天体望遠鏡ほどの高精度を要求されないため、より多数枚のレンズを複雑に組み合わせた構造になっています。 高性能なフラットナーとレデューサー ビクセンSDシリーズのような「2枚玉」の天体望遠鏡は、光軸中心の結像性能に「全振り」した設計となっていて、視野の周辺になるほど残存収差(主に像面湾曲と非点収差)によって結像性能が大きく悪化します。このため、視野全体にわたって高性能が要求される天体写真用途においては「フラットナー」や「レデューサー」と呼ばれる補正レンズを使用して、これらの残存収差を補正することを前提とした設計になっています。 Vixen 天体望遠鏡 SDフラットナーHDキットhttps://www.vixen.co.jp/product/37246_1/ Vixen 天体望遠鏡 SDレデューサーHDキットhttps://www.vixen.co.jp/product/37245_4/ Vixen 天体望遠鏡 レデューサーHDhttps://www.vixen.co.jp/product/37247_8/ Vixen 天体望遠鏡 直焦ワイドアダプター60DXhttps://www.vixen.co.jp/product/38751_9/ 天体写真のデジタル化以前に設計された補正レンズは、性能がいまひとつであることが多かったのですが(*)、2017年発売の上記「SDレデューサーHDキット」は、デジタル時代のスタンダードとして新設計されたもので大変高性能です。他社製品と比較しても最高レベルのひとつといってよいかと思います。 (*)デジタル化によって光学系に要求される性能要件が大幅に高まったのが大きな理由の一つです。「補正レンズ」は対物光学系とのマッチング(光学設計そのものや補正レンズを配置する位置の最適化)がとても重要なのですが、その考慮が不十分な製品では、周辺の流れが目立つことがありました。 「SDレデューサーHDキット」は光学性能だけでなく、反射防止のためのコーティングや塗装も大変上質です。それなりのお値段がしますが(*)、それでも「補正レンズ要らず」の4枚玉、5枚玉の製品よりはトータルコストは安価です。「2枚玉対物レンズ+高性能な補正レンズ」は、最もコスパの高い天体写真用望遠鏡であるといえるでしょう。 (*)フラットナーのみの「SDフラットナーHDキット」が実売約3万円、「SDレデューサーHDキット」が実売約5.6万円です。 「SDレデューサーHDキット」にはフラットナーも含まれていて、構成を組み替えればフラットナーとして使用することもできます(*)。つまり、2通りの焦点距離を選択できることになります。また、最初はフラットナーだけを購入し、後からレデューサーを追加購入することも可能です。 (*)光学系が1群2枚の「フラットナー部」と2群2枚の「レデューサー部」の組み合わせになっていて、レデューサーとして使用する場合は「フラットナー部」と「レデューサー部」の両方を使用する方式になっています。 上記「SDフラットナー・レデューサーHDキット」は、SDシリーズ三兄弟(SD81SII、SD103SII、SD115SII)で共通で使用できるほか(*)、レデューサーHDは同社製AX103S、VC200L鏡筒でも使用できます。 (*)ビクセンSD81SIIのみフラットナー構成で使用する場合は同梱の「スペーサーリング」が必要 豊富な周辺光量 SDフラットナー・レデューサーHDキットの周辺光量はどうでしょうか。それぞれ、青空に向けて実写したのが上の画像です。メーカー公表の値を併記しましたが、ほぼその通りの結果が得られました。 フルサイズで使用する場合はさすがに「フラット補正不要」とまではいきませんが、フラットナー構成のSD81では90%近くあり、十分な周辺光量が確保されています。APS-Cカメラとフラットナー構成なら極端な強調をしなければフラットは不要かもしれません。 ただしデジタル一眼レフカメラでは、特にレデューサー構成の場合に「ミラーボックスケラレ(*1)」が強く発生します。これはカメラ側の構造に起因するもので避けようのない「宿命」です。フラット補正を行ってもなかなかキレイに補正することが難しいことが多く(*2)、撮影の際には「下辺に重要な対象を置かない」など配慮が必要でしょう。 (*1)跳ね上げ式のミラーの収納スペースの関係で、画面の下辺がケラレる現象。レフ機でなくても、センサー周りの構造によっては発生することがあります。 (*2)後節で触れますが、ライトフレーム撮影時とフラット撮影時の光軸中心がわずかにずれただけでも合わなくなるようです。 錫箔による「星の割れ」がなくなった「SII」世代 対物レンズは、最大の光学性能を発揮するために各レンズの形状(曲率)や間隔をコンピューターでシミュレーションして、さまざまな収差が最小となるように設計されています。その結果、2枚のレンズは定められた間隔の、ごくわずかの「すき間」を持たせるように配置されています。このすき間の間隔を設計値通りに正確に組み立てるため、ビクセンSD81SIIの以前のバージョン「SD81S」などでは、上の左の画像に見られるような「小さな3つの錫箔」を挟むことで実現していました(*)。 (*)このような実装は、古くから各社の多くの天体望遠鏡で採用されています。ちなみに「すき間」を空ける理由は、近接した面のレンズの曲率を微妙に変えることで、レンズの収差補正を向上させるためです。   ところが、この「錫箔による突起」によってレンズを通過した光が「回折」することで、明るい星のまわりの滲みに6本の影(割れ)が出る問題がありました。 具体的には、上の画像の左が「錫箔あり」の前モデルです。明るい一等星アンタレスの周辺の光芒に6本のスジが入っていることがわかります。眼視で天体を観測する際にはほぼ問題にはならないのですが「星像の美しさ」が問われる天体写真では、あまり歓迎されるものではありませんでした。 しかし、ビクセンSDシリーズの最新モデル「SII」世代では、このような錫箔の代わりにごく薄い円形のスペーサーリングに置き換えられました。この変更により、SDシリーズ鏡筒は天体写真においても死角のない製品となったのです。 旧製品が新製品相当に・「愛機活躍サポートプロジェクト」 特筆すべきことは、マイナーチェンジにおいて「アップグレードサービス(*)」が提供されていることです。古い鏡筒のユーザーであっても改良された新モデル相当への改造を行ってくれるのです。有料サービスですが、今回の「スペーサーを錫箔からリング型に変更」する場合、ビクセンSD81Sは¥17,600(消費税込、送料別)となっています。オーバーホール(分解清掃、グリスアップ、調整)込みでこの価格ですので、とても良心的といえるでしょう。 (*)正式名称はSD81SをSD81SII相当にする改造が「スペーサー交換キャンペーン」、ED81SIIをSD81S相当にする改造が「 デジタル対応SD改造サービス」。「アップグレードサービス」は筆者が簡単な言葉に変換したもので、ビクセン社の正式な呼称ではありません。 『103S/115S 鏡筒シリーズ スペーサー交換』キャンペーン特設サイトhttps://www.vixen.co.jp/activity/103s2_115s2_campaign/ さらに、上位モデルの「SD103S/SD115S」「ED103S/ED115S」の場合、2024年6月までの約1年間、改造費用が約40%程度割引になります。旧製品に対してもこのようなサポートが継続的に行われるのはすばらしいことです。歴史のある日本企業の良心、といってもよいのではないでしょうか。 バランスのいい口径比・「F8」は「フォトビジュアル」 おそらく、現時点では主にベテランを中心に「F8クラスの鏡筒は暗いので写真撮影に適さない」と考える人の方が多いことでしょう。これはある部分は正しいのですが、ある部分では古い考え方を引きずっています。デジタルカメラが高性能化した現在では「F値が暗くても、それを補うだけの総露光時間をかければ、同じ写り(S/N:ノイズと信号の比)になる」のです。たとえばF4の鏡筒で20分の総露光をかけた場合と、F8の鏡筒で80分の総露光をかけた場合を比べると、S/Nはほぼ同じになります(*)。F値の暗さは総露光時間で補うことができるのです。 (*)センサー固有のノイズを低減する「ダーク補正」を行うことが前提です。ダーク減算は暗い鏡筒ほど効果があります。 つまり、露光時間に比例して光を蓄積できるデジタル天体写真においては、F値を小さくすることは必ずしも必須ではありません。使い方と対象を間違えなければ、「暗い」とされていたF8の天体望遠鏡でも、ちゃんと写真撮影が可能です(*)。さらに、多くの収差はF値が明るくなるほど補正が難しくなるため、限界レベルの光学性能を追求する用途(惑星や月面の観測・撮影)では、逆にF値の大きな光学系の方が有利になります。 (*)正確には、2枚玉・3枚玉の天体望遠鏡は、それ単体では周辺の収差が補正されていないため、「フラットナー」や「レデューサー」と呼ばれる補正レンズが必要です。 ビクセンSD81SIIは、「フラットナー」装着時はF7.9、レデューサー装着時はF6.1です。「すごく明るい」わけではありませんが、十分に天体撮影に使用できるレベルです。しかも眼視用途にも高性能。F8クラスの高性能屈折鏡筒は「無理しない、バランスの良いフォトビジュアル」であるといえるでしょう。 どれを選ぶ?スペックから見るビクセンSD三兄弟の比較 口径・焦点距離以外の光学設計は基本的に同じ・SD(スーパーED)ガラス使用の2枚玉アポ SD3兄弟(SD81SII、SD103SII、SD115SII)は、光学的には「SD(スーパーED)ガラス使用の屈折式2枚玉アポクロマート」という天体望遠鏡で、大きさ以外はほぼ同じ特性です。乱暴にいうと同じ設計パラメータのガラス材を、口径の分だけ拡大・縮小したものと考えて差し支えありません。 上の表はSD3兄弟の各種パラメータをまとめたものです。F値は全て同じ(素でF=7.7、フラットナー使用時F=7.9、レデューサー使用時でF=6.1)で、基本的には口径の分だけレンズの大きさと鏡筒の太さ・長さが異なります。接眼部と鏡筒バンドのパーツはほぼ同じものが使用されています。 HPの収差図を比較しても3兄弟でほぼ同じ。この図(球面収差図)は、レンズに入射した平行光線の結像位置を色ごとに描いたもので、全ての色の線が直線で一致するのが理想の収差補正状態ですが、わずかに残存する軸上色収差によって色ごとの結像位置が若干異なっています。特に波長436nmのg線(紫)だけが少し飛んでいますが、いかにSD(スーパーED)レンズを使用したとしても、これは2枚玉の宿命。この収差(青ハロ)を押さえ込むには、さらにもう一枚のSDレンズを使用した3枚玉構成が必要になります。しかし、現代レベルの天体写真クオリティを要求したとしても、この程度の収差ならほぼ問題ない十分な性能といえます。 また、眼視用途においてはいずれも92〜95%の「ストレール比(*)」を実現していて「ほぼ完璧な結像」といえるでしょう。 (*)人間の眼の波長毎の感度特性を考慮し、入射した光の何%がエアリーディスク内に収まるかを示した指標。赤や紫の光に対しては人間の眼は相対的に感度が低いため、写真撮影用と眼視用では結像評価の指標がやや異なってきます。 天体望遠鏡は口径が命 天体望遠鏡は、口径が大きいほど天体の多く集めることができるため、暗い天体まで見たり撮影したりすることができます。特に肉眼で星を見る眼視用途では、基本的に「天体望遠鏡は口径が命」だと考えて差し支えありません(*)。 (*)写真撮影においては、口径が小さくても露光時間を長くすることで光量の不足をカバーできるため、特に小口径機においては、眼視用途ほどには口径は重要ではありません。 しかし、口径が大きくなるほど望遠鏡は大きく重くなります。天体望遠鏡の主要なパーツである対物レンズの重量は、基本的に口径の三乗に比例するため、口径81mm、103mm、115mmではそれぞれ「1 : 1.62 : 2.02」となります。小さな口径差であっても、重量に大きく効いてくるのです(*)。重量が大きくなると、安定してブレずに使える架台もより高価なものが必要になってきます。 (*)口径81mmのビクセンSD81SIIは鏡筒バンド・プレート込みで3.1kg、口径103mmのSD103SIIは4.4kg。対物レンズ以外のパーツは共通品もあるため、実際には3乗ほどには差は大きくなりません。 口径が大きくなるほど、価格も跳ね上がります。こちらも同じ光学設計であれば「天体望遠鏡の価格は口径の3乗以上に跳ね上がる」とみてよいでしょう。 光学性能だけを重視すれば、口径は大きければ大きいほど良い「大正義」です。しかし、価格や取り回しなどさまざまな要件を考慮すると、どこかで妥協しなくてはなりません。ビクセンSDシリーズの口径は「81mm」「103mm」「115mm」の3段階になっていますが、これはなかなかいい設定になっています。以下、その3つの特徴を見ていきましょう。 SD81SII 小さくてもよく見える・エントリ向けの口径81mm 初心者にオススメ、コスパの口径81mm ビクセンVixen 天体望遠鏡 SD81SII鏡筒https://www.vixen.co.jp/product/26083_6/ 天体の姿を本格的に眼で見て楽しむにはやはり口径80mmは欲しいところ。口径60mmでは、絶対的な光量が不足してしまい、眼視で天体を観察するときの迫力がはっきり80mmに劣ります。その意味で末弟のSD81SIIは眼視用途においては「最小口径の妥協点」といえるでしょう。口径80mmあれば、散開星団のキラキラがとても美しく、月はもちろん、土星・木星・火星・金星の4大惑星もその神秘的な姿を体感することができます。 実のところ、欲を言えば「できれば100mm」なのですが、価格もサイズも大幅に跳ね上がるのがネック。そこで、80mmが初心者向けにはちょうどいい妥協ポイントなのです。鏡筒も小型軽量なので、小型の架台でも安定して搭載できるのがさらにお財布にも優しいところです。 本格的な天体写真にもチャレンジできる ビクセンSD三兄弟で天体撮影を行う場合、専用の「SDフラットナーHDキット」ないしは「SDレデューサーHDキット」を併用することになります。この「補正レンズ」はデジタル時代の画質基準を十分にクリアしたたいへん上質で高性能なものです。天体撮影においてはSD81SIIは「初心者向け」というよりも、ベテランでも十分満足できるクオリティを発揮します。 一つ注意が必要なことは、SD81SIIでも焦点距離がやや長めであることです。フラットナー構成では焦点距離644mm(F7.9)、レデューサー構成でも496mm(F6.1)あります(*)。このくらいの焦点距離になると架台の精度もそれなりのものが要求されますし、レデューサー構成のF6.1でも露光時間があまり短いと満足のいくクオリティが得られない場合もあります。SDシリーズで初めて天体写真にデビューされる場合は、なるべく明るい(単位面積当たりの輝度が高い)天体からチャレンジされることをオススメします。 (*)その意味では、センサーサイズの小さな天体用CMOSカメラを使用するよりも、フルサイズ・APS-Cセンサーのデジタル一眼カメラがオススメです。 Vixen 天体望遠鏡 SDフラットナーHDキットhttps://www.vixen.co.jp/product/37246_1/ Vixen 天体望遠鏡 SDレデューサーHDキットhttps://www.vixen.co.jp/product/37245_4/ コンパクトで使いやすいが、もう一声大口径が欲しいことも コンパクトで使いやすい、そして高性能なSD81SIIですが、とはいえ口径は81mmしかありません。用途によっては「もっと大口径!」が欲しくなってくることがあります。その一つが惑星の撮影です。 惑星の撮影で最も大事なことはまずは安定した気流(シーイング)で、これが良ければ小口径でもかなり健闘することができます。しかし、逆にシーイングが良ければ良いほど、口径による分解能の違いが如実に現れてきます(*)。 (*)大口径化に限界のある屈折望遠鏡は、しょせん惑星相手には「竹ヤリ」だという説もあり、なかなか否定できないところです^^;; もうひとつ、眼視によるディープスカイ天体観望においても、口径80mmクラスには限界があります。とはいえ、こちらもSDシリーズ最大口径でも115mmなので、大型のドブソニアン望遠鏡にはまったく太刀打ちができません。 結局、屈折望遠鏡である以上は、大口径を手に入れても120mmクラスが限界です。屈折望遠鏡の特長である、コントラストの高さ・扱いやすさを生かしつつ、用途に応じて「SD81SIIでいいのか、もう1段大口径のSD103SIIにするのか」を慎重に考えるべきでしょう。 SD103SII 眼視も写真も満足できる性能・バランスのいい口径103mm ベストバランス、オールラウンダーの口径103mm Vixen 天体望遠鏡 SD103SII鏡筒https://www.vixen.co.jp/product/26086_7/ SD81SIIで感じる「もう一段階、口径が大きければ・・」という思いを満たしてくれるのがSD103SIIです。口径103mmあれば、肉眼でも撮影でもオールラウンドにそこそこ満足できるレベルになります。 本体重量はSD81SIIの2.3kgから3.6kgと増加しますが、SD103SIIは口径100mmF8クラスとしては軽め。架台への負担もさほどには大きくはなく、ちょうどいいバランス。オールラウンダー中のオールラウンダーと言っても過言ではありません。 ただし、希望小売価格ベースではSD81SIIの148,500円から264,000円と大幅にアップします。この金額を出せるかどうかが「SD81SIIなのか、SD103SIIを選ぶか」の分かれ目となるともいえます。この2本の鏡筒のどちらを選ぶかは悩ましい選択ですが、メイン機として末永く使うつもりならSD103SII、将来のグレードアップを想定するならSD81SII(*)というのが一つの選択の目安ではないかと個人的には考える次第です^^ (*)SD81SIIのコンパクトさは他に代えがたいメリットでもあります。将来サブ機として使う構想ならSD81SIIの選択もアリです。例えば、皆既日食遠征に持って行くにはSD103SIIはかなり負担になります。 写真撮影にも実力発揮、レデューサー併用がオススメ SD103SIIは写真撮影にも好適。フラットナー構成では焦点距離811mm、レデューサー構成では624mm。焦点距離811mmはかなり長めなので「SDレデューサーHDキット」がオススメ(*)。銀河など小さな対象にはフラットナー、広がった天体にはレデューサーと使い分けることができます。まさに「ガチ」な天体写真にも大活躍してくれることでしょう。 (*)SDシリーズ全体に言えることなのですが、フラットナーだけでなくレデューサーも合わせて導入する方が、将来的にも広い用途に使用することができるのでオススメです。 最強の「スーパーサブ機」として ただし、口径103mmといっても「小口径」のカテゴリであることには変わりありません。レデューサー構成でもF値は6.1なので、淡い天体をにたっぷり露光時間をかけて撮影したい場合には決して最適な鏡筒であるとはいえません。ディープスカイの眼視観望や、惑星のディテールへの挑戦においても同じです。F4〜F2.8クラスの反射アストログラフや、口径20cmオーバーのシュミットカセグレン・ドブソニアンなど「より明るい」「より大口径」の望遠鏡への煩悩からは、なかなか逃れることはできないでしょう^^ この問題?については、誰が解決してくれるものでもありません。たっぶり悩んで、楽しんでくださいね!ひとつだけ慰め?の言葉を贈るとすると、SD103SIIでできないことを実現する新兵器を仮に導入されたとしても、SD103SIIの利便性と高性能が生きる局面はたくさんあるということです。サブ機・スーパーサブ機として末永く活躍してくれることでしょう。 SD115SII もっと光を!眼視でも満足の口径115mm 屈折望遠鏡の気持ちよさを追求したい人に。口径115mmの威力 Vixen天体望遠鏡SD115SII鏡筒https://www.vixen.co.jp/product/26087_4/ 最後の選択肢、長兄の「SD115SII」です。SD103SIIでもまだ足りない。でも、屈折望遠鏡がいい。そんなさらに大きな口径を求める方向けの、ある意味「究極」の選択肢です。 おそらくSD115SIIが最適の選択肢となる方は決して多くはないことでしょう。SD103SIIとSD115SIIの口径差はわずか12mm。大口径を指向するなら「ほとんど誤差の範囲」といってもいいくらいです。しかし、この「口径を欲張らない大口径」の設定は、中型の赤道儀で無理なく運用できる絶妙のバランス感があります。 本体重量はSD103SIIの3.6kgに対してわずか800g増の4.4kg。少し鏡筒が太くて長いですが、ほとんど同じような感覚で使用することができます。これがもし口径130mmだとすると、SXシリーズ赤道儀ではちょっと運用が難しいサイズになってしまったことでしょう。 ただし、価格は希望小売価格ベースでSD103SIIの264,000円に対して、368,500円とさらにに跳ね上がります。お安くはないですが「手軽に扱える高性能・大口径屈折望遠鏡」としてのSD115SIIは、実は渋いポジションを確保していると言ってよいのではないでしょうか。 写真撮影にはしっかりした架台を SD115SIIはSD103SIIと比較して、重量はさほど増加していないものの、一回り鏡筒が太く長いため、より風に対するブレの影響を受けてしまいます。フラットナー構成で焦点距離900mmのこの鏡筒をしっかり安定してガイドするには、ビクセンのSXシリーズでも若干力不足かもしれません。 上の作例はそこを割り切ったラッキーイメージング(*1)による撮影です。SD115SIIを「ガチ」なディープスカイの天体写真撮影を主目的に導入するのはちょっと違う気がしますが(*2)、写真撮影「も」する、という用途なら逆に自由な発想でいろいろなやり方を考えることができるでしょう。 (*1)1コマ当たりの露光時間を数秒から5秒程度と極端に短くして、多数枚撮影した画像をスタックすることで、画質を確保する手法 (*2)口径を優先するなら反射式という選択肢があり、明るさを優先するなら写真に全振りしたアストログラフという選択肢があります。 最強の「お手軽オールラウンダー」 SD115SIIを選択する場合も、キーワードはやはり「オールラウンド」でしょう。月も惑星もディープスカイも、見たいし撮りたい。なるべく大口径で、そしてライトに。そんなニーズであれば、SD115SIIは「最強の大口径お手軽オールラウンド望遠鏡」として大活躍してくれることでしょう(*)。 (*)個人的には、老後?に気楽に星を楽しみたいという日が来たときには、SD115SIIのような望遠鏡が欲しいなあと思いました^^ 繰り返しになりますが、口径115mmは決して大口径ではありません。逆に「ガチに写真を撮りたい」とか「惑星を極めたい」「ディープスカイ天体を眼視でところん見たい」といった「尖ったニーズ」が主なら、他にもっと最適な選択肢があるはず。そのあたりをよく考えてチョイスしてくださいね! SD三兄弟でいろいろ検証してみた 天体用CMOSカメラでは「UV/IRカット」に注意 SD(スーパーED)レンズを使用しているとはいえ、SDシリーズは2枚玉。色収差の補正は完璧ではありません。特に近赤外域ではそれなりにピントがずれてしまうことに注意が必要です。 具体的には、カバーグラスが「素通し」でUV/IRカットフィルターを内蔵していない天体用CMOSカメラを使用する場合、フィルターなしで撮影すると上の作例のように明るい星のまわりに大きな「ハロ」が取り囲んでしまい、ピンボケのような結果になってしまいます。これは、近赤外線の色収差によるものです。 近年、近赤外線が光害に強いことを生かして、積極的にこの波長域を利用する撮影方法が広まっていますが、さすがの2枚玉アポクロマート鏡筒でも近赤外線は色収差をじゅうぶんに補正できていないのです(*)。UV/IRカットフィルターを使用して「有害な」近赤外光をカットしてしまうか、逆に近赤外光のみを通す「IRパス」フィルターを使用するようにしましょう。 (*)このような撮影をする場合、色収差がない反射望遠鏡が有利になります。屈折式でもEDレンズを複数枚使用した鏡筒では、近赤外域の色収差も補正された製品もあります。 デュアルスピードフォーカサーの効果は? 精密なピント合わせのために、デュアルスピードフォーカサーは必須なのかどうか。今回、眼視・ディープスカイ・惑星撮影のそれぞれで、デュアルスピードフォーカサーの有無でどのくらいピントの合わせやすさが違うかを比較してみました(前回の記事もご参考に)。 結論からいって、あると便利だが必須ではない、です。眼視で使用する場合は、デュアルスピードフォーカサーがなくても、普通にピントを追い込むことが可能です。ディープスカイ撮影の場合でも、バーティノフマスクを使用するなら素のままでも特に不便はありませんでした。唯一、惑星の撮影で微妙にピントを追い込みたいとき(現在の状態からわずかだけズラしたいとき)には有効でした。 実際のところ、デュアルスピードフォーカサーを装着したからといって細かなピント調整が劇的に楽になるわけではないのです。ピント調整のラックピニオン機構には一定の「重さ」と「遊び」があるため、減速したからといって細かな調整がスカッとできるわけではないのです。 その意味では、ピント合わせを究極的に追い込みたいのであれば、電動フォーカサーを導入するのが一番です。これならばある程度の再現性を持って、ピントを細かいステップで微調整することができます。 もうひとつ、デュアルスピードフォーカサーの有無によらず、微妙なピント合わせを行うためには「練習」することが大事です。天頂付近では少しだけクランプを締めた状態にしておかないと一気にフォーカス位置が変わってしまうこともあります。さまざまな条件でピント合わせを実際に練習することが、一番の王道ではないかと思います。 52mmフィルターと48mmフィルターのケラレの差 これまで、ビクセン製の天体望遠鏡は「52mm径」のフィルターに対応していましたが、最近発売された「M56フィルター変換アダプター48/52」によって、より種類の多い「48mm」サイズのフィルターも使用可能になりました。では、48mm径と52mm径で有利・不利はあるのでしょうか。心配なのは、48mm径のフィルターを使用するとケラレるのではないか、ということです。こちらも検証してみました。 Vixen 天体望遠鏡 M56フィルター変換アダプター48/52https://www.vixen.co.jp/product/37239_3/ 青空に向けて52mmフィルター・48mmフィルター(いずれも枠のみでガラス無し)を設置しフラットを撮影しましたが、全くといって違いはありませんでした。フィルターの置かれる場所が、光束が一番絞られた場所だからでしょう。 SDシリーズの場合、径がやや小さい48mmフィルターでもケラレの心配はないといって良いでしょう。 他社製フラットナーを使用してみる 「2枚玉アポクロマート鏡筒(*)」は光学設計的にはほぼ「枯れて」いて、基本的な設計は各社ともほぼ同じです。 (*)2枚のレンズの間隔を錫箔やスペーサーで1mm以下のごく小さな間隔に近接させた設計の場合。積極的にレンズ間隔を大きくしさらなる収差補正を追求した製品もあります。 このため、レデューサー・フラットナーなどの補正レンズは、ある程度光学設計的に互換性があります。そこで、他社製のフラットナー(高橋製作所の2枚玉フローライト望遠鏡FC・FSシリーズ用の「マルチフラットナーx1.04」)を使用してして撮影してみました。 結果は、上の画像の通り、中心像・周辺像ともに、ほぼ満足のいく星像が得られました。ただし、これは専用のアダプタリングで適切なバックフォーカスになるように設定したからです。フラットナー・レデューサーに汎用品を使用する場合、バックフォーカスを適切に設定できるかどうかで大きく結果に違いが出てきます。逆に、バックフォーカスが固定のタイプの場合、マッチングのいい主光学系が限定されてしまうことに注意が必要です。 星像の優劣はほとんどありませんでしたが、周辺光量には若干差がありました。太いリングで十分な光束を確保できる純正品と違って、2インチ(48mm)スリーブ接続のフラットナー(*)は、四隅がやや陰ります。やはり純正品が一番マッチングがよいようです。 (*)使用した「マルチフラットナー1.04x」は、タカハシ純正鏡筒ではそれぞれ専用のアダプタリングが用意されているため、ケラレの心配はありません。   SDシリーズに望むこと 繰り返しになりますが、天リフでは「2枚玉F8クラスのアポクロマート鏡筒」こそ、最初の1本にふさわしいスタンダードだと考えています。その意味ではSDシリーズ鏡筒はど真ん中ストライクです。しかし、「SD三兄弟」には、いくつか要望したいことがあります。一言でいえば「やや古い設計を引きずっている」と思われるいくつかの仕様です。 鏡筒バンドとハンドル 2004年発売のED81Sなどで採用された、鏡筒バンドに標準装備の「ハンドル」。鏡筒を架台に脱着する際にとても使いやすく、非常に先進的な設計でした。この設計思想は広く他社にも拡散し、現在では屈折式天体望遠鏡においてはほぼ常識になりつつあります(*)。 (*)2大国産メーカーのもう一社、高橋製作所の屈折望遠鏡では最上位機種の「TOA-150B」以外は「ハンドル」がありませんが、パーツメーカーから鏡筒バンドとセットでハンドルが提供されています。 ところが、現在のニーズから見るとやや不満なところがあります。上の画像(左)のようにハンドルには1/4カメラネジ(オス)が出ていて、これは「カメラ雲台」を装着することを想定されていたのだと推測しますが、現在のトレンドではここは「35mm間隔のM6ないしはM8のネジ穴2個」になってほしいところ(*)。理想を言えば、アルカスイス互換ないしはファインダー規格のアリガタであれば、さらに汎用性が高まるでしょう。なお、上の画像右のように、1点止めならアルカ互換クランプを装着することは可能です。 (*)昨今の写真用途では、ファインダー・ガイドスコープに加えて、ASIAIRのような撮像用デバイスを装着するケースが多くなっています。 もう一つ。これは善悪ではないのですが、SDシリーズの鏡筒バンドは、接眼部を装着したままでは取り外すことができません。他社の鏡筒バンドの多くは半円形のリングが2本のネジで装着される形なので簡単に鏡筒から取り外すことができますが、SDシリーズの鏡筒バンドは大きなリングにスリ割りを入れ、一箇所のネジで締める構造になっているからです。 接眼部は鏡筒にねじ込まれているので回せば外れるのですが、力の入れ加減に少しコツがいります。力一杯回すと壊してしまいそうな気がしてしまいますし、手を滑らせて落としてしまう可能性や、接眼部を外すことによってチリやゴミが混入する危険もあり、かなり神経を使います。必要に迫られない限りはやるべきではないでしょう。 「必要に迫られる」ことがあるとすれば、別の鏡筒バンドを使いたい場合に限られるでしょう。標準の鏡筒バンドで満足できるのであれば何の問題もありませんが、ちょっと気になってしまう仕様です。 接眼部 ビクセンSD三兄弟の接眼部は、全く同じパーツが使用されています。設計を共通化してコストダウンを図る意味ではとても合理的ですが、末弟のSD81SII目線では「十分な強度と精度」と評価できるのに対して、長兄のSD115SII目線だと「もう少し頑丈で高級感があって欲しい」と思ってしまうところがあります(*)。 (*)SD115SIIが口径115mmでわずか6.3kgという軽量に仕上がっているのは「過剰な強度(重量)の接眼部を使用していない」からでもあります。個人的には「使いやすい眼視鏡筒」の位置づけであれば現在の実装が適切であると思います。 ピント調整のスムーズさや遊びの少なさでは十分に満足できるものではありますが、一点惜しいのがピント固定クランプを締めるとほんのわずか光軸のセンターがずれてしまうこと(*)。 (*)このような一点止め式のドロチューブクランプによってわずかに光軸のセンターがずれる現象は、一般的に存在するものです。筆者の所有する別の屈折鏡筒(タカハシFC-76DCU)でも同程度のズレがありました。あまり神経質になる必要はありませんが、そういう事象が存在することは認識しておいたほうがよいと思います。 眼視観測・写真撮影の双方において画質の劣化はまったく感じられませんでしたが、撮影時とフラット撮影時のクランプの締め具合が極端に違うと、周辺のフラットが合わなくなることもあるかもしれません(*)。上の画像は「同じフラット画像をほんの少し(20ピクセル)上下にズラして減算したものですが、ミラーボックスによるケラレの部分(下の縁)が明らかに「合わなく」なっています。 (*)逆にこれはビクセンSDシリーズに限らず、フラット撮像一般に言えることではないかと思います。ドロチューブのクランプだけでなく、鏡筒の向き(天頂or水平など)による微妙な光軸中心のずれは、フラットが合わなくなる要因の一つではないかと推測しています。 フードをスライドして伸縮したい まずはじめに「伸縮式フードを採用しない製品は、基本設計が古い」と言うつもりはありません^^;; 記事の構成上この場所に入れてしまいましたが、伸縮しないフードを採用している製品は他社にも多数あります。本項の意図は「より多くの人にとって使いやすい、よい製品にしてほしい!」というものです。 F8クラスの鏡筒の弱点の一つは、鏡筒がどうしても長めになってしまうこと。持ち運びや収納を考えると、鏡筒が短いことは大きなメリットになります。一方で、フードが浅い(短い)と、結露の心配が大きくなってしまいます。 そこで、十分に長いフードと鏡筒長の短縮化を実現するのが「フードの伸縮化」です。フードをスライドして短くできれば、移動・収納時のスペースが減ります(*)。 (*)皆既日食などの海外遠征では「フードを外して持ち運ぶ」手もありますが、逆に外したフードが結構かさばります。 伸縮式フードのギミックはコストアップ要素になるので同じ価格で実現するのは難しいとは思いますが、SDシリーズのフードが伸縮可能になれば、多くのユーザーにとって将来にわたる大きなメリットとなることでしょう。ぜひ検討をお願いしたいものです。 ファインダーとファインダー脚 ビクセンSDシリーズ(103SII、115SII)に標準付属する口径50mm7倍ファインダーとファインダー脚は非常に良くできています。特に、スプリング機構によって上下・左右にスムーズに調整できる構造は特筆もので、筆者がこれまで使用したファインダーの中では最も調整が容易なものでした。これは賞賛に値するといってよいと思います。 さらに、SIIシリーズから標準付属のファインダーの接眼部が交換可能となり、1.25インチ径の天体用CMOSカメラに換装してオートガイド用途にも使用できるようになりました。わざわざオートガイド用のガイド鏡を買い足す必要がなくなり、こちらも大歓迎の仕様変更です。 この暗視野ファインダーIIをガイド鏡として使用する場合は、より安定して「6点ネジ止め」で固定できる「50mmファインダー用脚 S(上画像右)」の使用が推奨されています。恐らく、スプリング固定式の脚では風や振動などでガイド鏡が微妙に動いてしまうことを懸念したのでしょう。50mm用ファインダー脚は元々は同社のVC200LやVMC260Lなどの鏡筒の太いカタディオプトリック式望遠鏡に標準付属しているもので、ファインダー脚も短く支持部もより肉厚になっています(その分重くなっています)。 しかし、個人的には「そこまでする必要はないかな」と感じました。もちろんしっかり固定できるに越したことはないのですが、デジタル時代では1コマの露光時間は長くても10分、通常は2分前後。この程度の露光時間であれば、従来型のファンダー脚でも特に問題なく使用することができました。オートガイド用に「S」タイプの脚を買い足すのなら、より軽量な口径30mm程度のガイド鏡を買い足した方が便利かもしれません。 もうひとつ、ファインダーの接眼部が交換式になった副作用がありました。接眼レンズの固定ネジは90°離れた位置に2個付いているのですが「どちらのネジを先に締めるか」で微妙にセンターがズレます。ビクセン社のファインダーは少々狂ったとしても簡単に調整できるので大した問題にはならないのですが、ファインダーの光軸の100%の再現性は基本的には期待できないと考えたほうがよいでしょう(*)。 (*)実は他にも「アリガタ表面の微妙な凹凸」に起因した「ファインダー脚のアリミゾの止めねじの締め方」によるズレもあります。どちらもごく小さなズレで実用上の問題は小さく、あまり神経質になる必要はありません。 フリップミラー フリップミラーはビクセンのオリジナル製品で、同様のパーツを標準付属としている他社製品の例は筆者の知る限りありません。天頂ミラーの機能を持ちつつ、カメラと接眼レンズを簡単に切り替えて運用できるアイデア商品です。今回のレビューでも、惑星をCMOSカメラで撮影する際の導入操作に大いに役立ちました。 しかし、2つの光路を独立してピント合わせする機構がない(*)など、使い込んでくると不満な点が出てきてしまいます。 (*)直進側にカメラを装着し、接眼部のラック&ピニオンでピント合わせした後、直交側に接眼レンズを装着しスリーブを「抜き差し」してピント合わせすることになります。そのためには、カメラ側の光路長を適切に設定する必要があります。 さらに、直交側・直進側の光軸(視野の中心位置)が、微妙にドンピシャではありません(*)。拡大率の大きな惑星撮影では問題になるケースがあるかもしれません。 (*)これは個体差も若干あるようです。 フリップミラーは単品購入すると実売9000円前後です。天頂ミラーとして使用できるので標準付属の意味はあると思いますが、フリップミラーがどんなユーザーの用途に必要とされているのかを、改めて見直してもいい時期かもしれません(*)。 (*)天体望遠鏡の標準付属品をどう設定するか、というかなり大きなテーマになるでしょう。観測に最低限必要なものは標準付属とするという考え方なら接眼レンズも付属とすべきですが、現在の商品構成がそうでない以上は、フリップミラー・90度視のプリズム・ミラー、さらにはファインダーも別売でよいのではないかと個人的には思います。 BORG・フリップミラーの情報をまとめましたhttps://www.tomytec.co.jp/borg/world/howto/00003/0003-02.html さらに、フリップミラーの本来の目的は「カメラと接眼レンズを同時に接続し簡単に切り替えられる」ことにあったはず。なのに、フラットナー・レデューサーを併用する天体撮影には使用することができません。実質的には「月・惑星専用(*)」にしかならないのです。 (*)惑星と同じシステムで惑星状星雲や銀河、明るい星雲を強拡大する場合は、ディープスカイ撮影でも有効です。ただし、ダーク撮像時など直交側からの迷光には注意が必要です。 補正レンズなしでも天体撮影が可能なVSD鏡筒やAX103S鏡筒なら、ディープスカイ天体でも使用できるのですが、現在のフリップミラーはミラーボックスが小さく(カメラとの接続もT2マウントで径が細い)対物光学系の高い性能を生かし切れませんし、跳ね上げたミラーの反射も気になります。 ディープスカイ撮影と眼視の天体観測をフリップミラーで切り替えたいというニーズがどこまであるかという問題はありますが(*)、最近増えてきたデジタル天体観測(電視観望)では潜在ニーズは大きいのではないでしょうか。当初のコンセプトが現代でも通用するような改良を望みたいものです。 (*)正直いって、他社も含めてディープスカイの撮影用システムと眼視用システムを切り替えるのはとても複雑で面倒です。写真撮影機材が眼視機材と全く別に進化してしまって接点がなくなってしまい、結果的にユーザーの分断を生んでしまっていることは、業界全体の課題ではないでしょうか。 どんな人に向いているか 最高のバランス・オールラウンド中のオールラウンド、SD103SII 眼視に写真に活躍する「オールラウンダー」のSDシリーズ鏡筒ですが、その中でもベストバランスなのはSD103SIIです。大きすぎない筐体に満足の口径103mm。眼視にも写真にも多目的に使え、これ1本あれば力不足を感じることはそうはないでしょう。 実売価格は22万円〜24万円と決して安い買い物ではありませんが、しっかりとした光学製品は電子機器とは違って、きちんと手入れすればほぼ一生使うことができます。生涯に対する投資と考えれば、決して高いものではないといえるでしょう。 協栄産業・ビクセン SD103SII鏡筒[26086]【モデルチェンジ記念特価】https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/vixen-sd103sII.html 初心者にはこれ!・失敗しない最初の1本、SD81SII SD三兄弟の末弟の口径81mm。コンパクトで取り回しがよく、小さな架台にも搭載可能で高い稼働率が期待できるのがSD81SII。口径的には「もう一声」なところはあるものの、写真撮影ではむしろちょうどよい焦点距離です。価格も実売12.6万円とお手ごろで、特に初心者の最初の1本としてオススメです。 協栄産業・ビクセン SD81SII鏡筒https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000008928/ スーパーサブ機!・ベテランにも1本、SD81SII SD81SIIはベテランのサブ機としてもオススメ。ベランダでのチョイ見からガチな天体撮影、皆既日食の海外遠征までと、まさにオールラウンド。貴方の「機材打線」を繋げる「最強の8番打者」として活躍してくれることでしょう。 「最初の1本」にSD81SIIを購入されなかったベテランの方は、「最後の1本」として導入されてはいかがでしょうか^^ クラス最軽量・手軽に運用できる満足の口径、SD115SII SD三兄弟の長兄、高いコントラストを誇るSD(スーパーED)アポクロマートの口径115mmは満足の性能。口径115mmはアマチュアが手軽に運用できるほぼ限界サイズといえますが、鏡筒バンド・ファインダーを含めて重量6.3kgのSD115SIIは、その中でも最軽量クラスです。 なるべくシンプルな一つの機材でオールラウンドにいろいろ楽しみたい。でも口径には妥協したくない。そんな長い機材遍歴を経たベテランの方の「最後の1本」にいかがでしょうか? まとめ いかがでしたか? F値「8」クラスのSD(スーパーED)アポクロマート天体望遠鏡は、眼視観望に良し・天体撮影に良しの「フォトビジュアル」天体望遠鏡です。より目的を特化した場合は別の選択肢もありますが、これ一本で広い用途に活用できること、何よりコストパフォーマンスが高いことは、まさに「天体望遠鏡の原点」です。 さらに、ビクセンSDシリーズには「口径81mm」「口径103mm」「口径115mm」の3つの選択肢があります。初めて望遠鏡を購入する初心者から、一通りのことを体験したベテランまで、誰にとっても「万能機」として活躍してくれることでしょう。 昨今では4枚玉・5枚玉といったより高い光学性能を追求した新しい設計の天体望遠鏡も増えてきていますが、そんな時代になってもなお色褪せない高コスパの「F8アポ」は、今後も貴方の天文ライフを豊かにしてくれるはず。さまざまな特徴をもった天体望遠鏡が市場を賑わせている今だからこそ、「F8アポ」の良さを見直してみませんか?! それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます! 本記事は(株)ビクセンより協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 本記事で使用した望遠鏡は、旧鏡筒を「スペーサー交換キャンペーン」および「 デジタル対応SD改造サービス」で改造したものです。各部の詳細は現在販売されているSD81SII/SD103SII/SD115SIIとは細部で異なる場合があります。 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は注記のないものを除き執筆時(2023年10月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。  編集部発信のオリジナルコンテンツ