「ダークスカイ・レベル」の提案・「美しい星空」のアウトリーチのために
2020/8/11追記)
NSU(Natural Sky Unit;理想的な自然の星空と見なされるSQM=21.6相当の空の輝度を1としたときの空の明るさのリニア指標)という指標が研究者間ですでに明確に定められていることがわかりました。21.6という値はIAUの公式なRecomendationにもなっています。
このため「SQMは原点の定義がわかりにくく使いにくい」という問題はすでに解決されていることになります。本稿はNSUを使用した形で大幅に改版する予定です。
みなさんこんにちは!「どこに行けば天の川が見られるの?」「星空の名所の○○村って、どのくらい星が見えるの?」そんな質問を受けたことはありませんか?
「自然の星空の美しさ」を一番実感しているのが我々天文クラスタですが、「どのくらい星がよく見えるのか=空の暗さ」を、一般の人に伝えたり客観的に共有したりする手段って、実はなくないですか?
今回の記事は、提言です。一般の人に「空の暗さ=どのくらい星がよく見えるか」を伝えるための、科学的根拠があって、使いやすい・わかりやすい指標を定めませんか?というお話です。
目次
「マイナス17」の提言
今回の提言はとてもシンプルです。天文クラスタで一般的に使われている指標「SQM値(*)」を「マイナス17」した指標を使ってはどうか、というものです。
(*)SQMをご存じのない方に補足しておくと、SQMは「Sky Quality Meter」という商品の名前なのですが、それが転じて空の背景輝度を表す「1平方秒角当たりの等級」の単位の意味で使われたりもします。器械としてのSQMは、空に向けてボタンを押すと数字がデジタル表示されるというシンプルなものです。SQMに表示される値「1平方秒角当たりの等級」は、科学的な根拠が明確で正確に計量可能な値です。測定条件や測定精度については種々の誤差が混入する可能性はありますが、本稿の趣旨の範囲内では「十分信頼できる」と判断してよいと考えています。
理想的な空(大気の吸収もなく人工光も存在しない)のSQM値は、「22.0」であるといわれています。宇宙にはたくさんの星や銀河が光っているので、どんなに暗い空であっても「星の明かり」のため、空は完全な暗黒にはなりません(*)。この上限値が「22(等級)」なのです。
(*)大気の吸収(雲を含む)によって、実際の夜空は「22」よりも暗くなることがあります。筆者の経験では、完全無光害の場所では雲に閉ざされると星明かりが遮られ本当に暗黒の世界になります。
一方で、東京近郊など大都市圏の場合、直接の光が少ない公園や河原などの場所でもSQM値は17前後。これが16になると本も読めるほどの明るさになり、もはや「夜空」の範疇ではなくなります。つまり、地球上のほとんど全ての場所で、星空のSQM値は17から22までの間に位置することになるのです。
しかし、一般の人に「SQM21.9のスゴイ星空なんだよ!!普通は良くてせいぜい21.0なんだけどさ。」って話しても、前提知識を持たない人には1ミリもわかりません。「なんで21.9がスゴイの?」「21.9って何を意味しているの?」その回答と解説を始めてしまうと、せっかく星空に興味を持った一般の方の興味関心をへし折ってしまうことになりかねません。
そこで、SQM値から「17を引いた」数字を基準にしてはどうでしょうか。最高の星空「SQM値=22.0」の場合、17を引くと5になります。一方で星が見えるほぼ限界である「SQM値=17.0」の場合は17を引くとゼロ。17を原点に取ることで、地球上のほぼすべての地点が、0〜5までの5段階のスケールに収まることになります。「五段階評価」なら一般の人にもわかりやすい。「最高レベルの”5″の星空です!」「天の川が見える”レベル4″の星空です」これなら、わかりやすくないですか?
しかも、科学的根拠と客観性は失われません。17を足せばSQM値と同じになりますし、SQM値はその気になれば誰でも自分で測定することが可能です。これって、かなりイケてませんか?
ちなみに、SQM値=17の明るさとは、全天(の半分)に、-1等星を約1.7万個!散りばめた明るさとだいたい同じです。SQM値=22の場合は、五等分の差があるのでこの1/100、-1等星が170個分、-4.5等級の金星なら約7個分です。(地平線近くの大気減光を考慮しない場合)。
追記)天文学的な「等級」の説明をすっとばしてしまいましたが、国立天文台の縣先生のツイートを張っておきます。なんとタイムリーですね^^
等級 https://t.co/3UotCnOaoU
1856年にポグソンの式により等級差の定量的な定義が定まる。これは最も明るい星を1等星、肉眼で見える最も暗い星を6等星とした伝統的な尺度を踏襲。こと座のベガを等級の標準星とするベガ等級ではベガは定義によって0等星である(厳密な定義はベガ等級の項目を参照)。— 縣秀彦 (@agata_naoj) August 5, 2020
大事なネーミング
「SQM値マイナス17」は、かなり使える指標であることはわかりました。しかし、それだけではまだ不足です。一般の人と、この値が「自然の星空の美しさを意味する指標」であることを、わかりやすく・ぶれなく共有するためにはキャッチーでフィットした名前が必要です。
天リフからの提言は「ダークスカイ・レベル(Darksky Level)」です。数値で表現する場合は「4.5」や「3.7」のような小数点付きの値を使用し、小数点以下を切り上げて丸めたものを「ファイブスター(五つ星)」のように五段階の「スターレベル」として使用します(*)。
(*)小数まで正確にアピールしたい場合は「環境省の全国星空継続観察で、最高級のダークスカイ・レベル「4.9」でした」のように表記し、広告のコピーのような用途では「ダークスカイ・レベル五つ星の最高レベルの星空です!」のように使えばよいでしょう。
要は、多くの人が自然に使える直感的で平易なネーミングであること、他の用途ですでに使われているもの(*)ではないことです。「ダークスカイ・レベル」はあくまで案ですが、他に良い案があればぜひお寄せください!
(*)例えば「星空指数」はtenki.jpで天気予報とリンクした数値として使用されています。
誰を巻き込むか
これまで世の中に存在しなかった新たな指標を導入しようとするわけですから、世界の片隅で叫んでいるだけでは広がりません。キーワードは「権威」「コマーシャリズム」「草の根」の3つです。これらをしっかり巻き込まない限り、広まることはないでしょう。
そのためには、「国立天文台」や「環境省」、プラネタリウムや公開天文台などの公共系天文クラスタ、「国際ダークスカイ協会(東京支部)」「宙ツーリズム推進協議会」「星空公団」、「天文雑誌」など、できるだけ多くの企業・団体・個人に賛同され、浸透するようにしなければなりません。まずはこれらの方々に本記事をごらんいただいて、ご意見を伺いたいと考えています。
理想的には一定のコンセンサス形成の後、国立天文台からIAU(国際天文学連合)に対して「ダークスカイレベル」の策定を提案してもらい、天文学アウトリーチと星空保全のための国際的な正式な単位(基準)として認定してもらうことです。
まとめ
いかがでしたか?
SQM値(平方秒角あたりの等級)のたった一つの弱点(*)。それは「原点」の設定が使いにくすぎること。これから「17を引き算」するだけで、誰にとってもわかりやすい「5段階評価」の物差しになります。美しい星空を守り、美しい星空をより多くの人が楽しめるように、「美しい星空を具体的に示す、アウトリーチにより適した指標」を確立しようではありませんか!
(*)実際のところSQM値には、機器の測定誤差・星空自体が均一な明るさでない・空気の透明度の影響との関係の明確化など、未解明の課題が存在しますが、本稿の趣旨に照らせば弱点はこの1点のみです。
本件について、ぜひ多くの方のご意見を伺いたいと思います。天リフとしてもより多くの企業・団体・個人をまきこめるような活動を考えたいと思っています。
謝辞)
本記事の執筆におきましては、リンクを貼っている全てのページの著作者様およびTwitter上で頂戴したご意見に大いに助けられました。深く感謝の意を表します。
参考リンク)
SQM(Sky Quality Meter)
国際光器・スカイクオリティメーター
http://www.kokusai-kohki.com/products/sqm.html
Unihedron社が販売している 夜空の明るさを測定する機器。日本では国際光器が代理店となっています。測定された結果は「1平方秒角当たりの等級」で表示されます。天文クラスタでは「SQM」という単語がこの測定機器を指すだけでなく、明るさの単位の意味で使用されることがあります(*)。販売価格は2〜3万円。
(*)「1平方秒角当たりの等級」という単位に名称(通称)が定義されていないことがむしろ問題です。IAUで「1平方秒角当たりの等級の単位をSQMとする」と正式に決めていただけると話が早いのですが。
ボートル・スケール(Borttle Scale)
https://ja.wikipedia.org/wiki/ボートル・スケール
https://en.wikipedia.org/wiki/Bortle_scale(英語版)
アメリカのアマチュア天文家ジョン・E.ボートルさんが2001年に発表した9段階の数値スケール。天文ファンに馴染みの深い主要な天体の見え方の描写で表現されていて、星空を見る経験の多い人にとっては実感しやすい指標です。その反面、限界等級(NELM)とのリンクが若干現実とずれている(*)、「最高レベルの空」を細分化しすぎているなど、一般のアウトリーチにはマッチしにくい部分があると感じました。
(*)推測ですが「SQM値=20.5の空で6等星が見える」という前提を外挿し、「SQM値=22なら7.5等星まで見える(はず)」という考え方ではないでしょうか。筆者の私見ですが、前者はあながち間違っていないと思うのですが、後者はちょっと厳しいと感じます。
一方でSQM値21.0と21.5と22.0の空はそれぞれ圧倒的に違うのも事実で、むしろ「最微光星では計れない星空のレベル」を記述したことに意義があると感じました。その意味では、本記事で提案している「ダーク・スカイ・レベル」は本当の自然の星空の美しさを語るには、「荒っぽすぎる」とう問題があります。逆に、この基準なら日本の多くの「星空観光」を目指す地点があまねく「レベル5」になるので、アウトリーチにとっては好都合かもしれません。
追記2020/8/8)
英語版Wikipediaのリンクを追加しました。日本語版にはない、SQM値の目安が記載されています。
光害マップ
Light Pollution Map
https://www.lightpollutionmap.info
近年急速に普及しほぼデファクトになりつつある光害マップサイト。全世界の空の明るさを、SQM値とボートルスケールでマップ上に表示して見ることができます。
「SQM値」・光害マップ・ボートルスケールの相互換算
四季星彩・天の川を見るには
https://astro365.exblog.jp/25974172/
「Starlight_365」さんが独自の調査を加味して制作されたSQM・光害マップ・ボートルスケールの相互換算表。400地点以上のSQM値をご自分で計測された上での「見え方」「感じ方」が盛り込まれた労作で、非常に参考になります。
平成30年度 夏の星空観察 デジタルカメラによる夜空の明るさ調査の結果について
https://www.env.go.jp/press/106269.html
環境省が星空公団と共同で呼びかけている「夜空の明るさ調査」。光害の存在を知ってもらい環境保全に対する認識を深める趣旨で実施され、結果を観光・教育に利用することも意識しています(*)。測定結果はSQMと同じ「平方秒角あたりの等級」で公表されています。
測定結果の精度や再現性には一定の限界がある形ですが、客観的な指標で継続的に全国を網羅したことは大きな成果です。
(*)「日本一の星空®」で有名な長野県の阿智村の「日本一」は、ある年度のこの調査結果を根拠としています。
青宙スポット
有志(*)で制作している日本の天体観測地カタログ。「星空を見るのにどのくらい適した条件か」「アクセス・駐車場・トイレなど、星を見る環境としての適性」が地図情報の上に登録されています。SQM値の記載はありませんが、天の川の見え方から類推した換算はじゅうぶん可能でしょう。
(*)天リフでも登録に協力しています。
https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/08/07/11498/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg天文コラム2020/8/11追記) NSU(Natural Sky Unit;理想的な自然の星空と見なされるSQM=21.6相当の空の輝度を1としたときの空の明るさのリニア指標)という指標が研究者間ですでに明確に定められていることがわかりました。21.6という値はIAUの公式なRecomendationにもなっています。 このため「SQMは原点の定義がわかりにくく使いにくい」という問題はすでに解決されていることになります。本稿はNSUを使用した形で大幅に改版する予定です。 みなさんこんにちは!「どこに行けば天の川が見られるの?」「星空の名所の○○村って、どのくらい星が見えるの?」そんな質問を受けたことはありませんか? 「自然の星空の美しさ」を一番実感しているのが我々天文クラスタですが、「どのくらい星がよく見えるのか=空の暗さ」を、一般の人に伝えたり客観的に共有したりする手段って、実はなくないですか? 今回の記事は、提言です。一般の人に「空の暗さ=どのくらい星がよく見えるか」を伝えるための、科学的根拠があって、使いやすい・わかりやすい指標を定めませんか?というお話です。 「マイナス17」の提言 今回の提言はとてもシンプルです。天文クラスタで一般的に使われている指標「SQM値(*)」を「マイナス17」した指標を使ってはどうか、というものです。 (*)SQMをご存じのない方に補足しておくと、SQMは「Sky Quality Meter」という商品の名前なのですが、それが転じて空の背景輝度を表す「1平方秒角当たりの等級」の単位の意味で使われたりもします。器械としてのSQMは、空に向けてボタンを押すと数字がデジタル表示されるというシンプルなものです。SQMに表示される値「1平方秒角当たりの等級」は、科学的な根拠が明確で正確に計量可能な値です。測定条件や測定精度については種々の誤差が混入する可能性はありますが、本稿の趣旨の範囲内では「十分信頼できる」と判断してよいと考えています。 理想的な空(大気の吸収もなく人工光も存在しない)のSQM値は、「22.0」であるといわれています。宇宙にはたくさんの星や銀河が光っているので、どんなに暗い空であっても「星の明かり」のため、空は完全な暗黒にはなりません(*)。この上限値が「22(等級)」なのです。 (*)大気の吸収(雲を含む)によって、実際の夜空は「22」よりも暗くなることがあります。筆者の経験では、完全無光害の場所では雲に閉ざされると星明かりが遮られ本当に暗黒の世界になります。 一方で、東京近郊など大都市圏の場合、直接の光が少ない公園や河原などの場所でもSQM値は17前後。これが16になると本も読めるほどの明るさになり、もはや「夜空」の範疇ではなくなります。つまり、地球上のほとんど全ての場所で、星空のSQM値は17から22までの間に位置することになるのです。 しかし、一般の人に「SQM21.9のスゴイ星空なんだよ!!普通は良くてせいぜい21.0なんだけどさ。」って話しても、前提知識を持たない人には1ミリもわかりません。「なんで21.9がスゴイの?」「21.9って何を意味しているの?」その回答と解説を始めてしまうと、せっかく星空に興味を持った一般の方の興味関心をへし折ってしまうことになりかねません。 そこで、SQM値から「17を引いた」数字を基準にしてはどうでしょうか。最高の星空「SQM値=22.0」の場合、17を引くと5になります。一方で星が見えるほぼ限界である「SQM値=17.0」の場合は17を引くとゼロ。17を原点に取ることで、地球上のほぼすべての地点が、0〜5までの5段階のスケールに収まることになります。「五段階評価」なら一般の人にもわかりやすい。「最高レベルの'5'の星空です!」「天の川が見える'レベル4'の星空です」これなら、わかりやすくないですか? しかも、科学的根拠と客観性は失われません。17を足せばSQM値と同じになりますし、SQM値はその気になれば誰でも自分で測定することが可能です。これって、かなりイケてませんか? ちなみに、SQM値=17の明るさとは、全天(の半分)に、-1等星を約1.7万個!散りばめた明るさとだいたい同じです。SQM値=22の場合は、五等分の差があるのでこの1/100、-1等星が170個分、-4.5等級の金星なら約7個分です。(地平線近くの大気減光を考慮しない場合)。 追記)天文学的な「等級」の説明をすっとばしてしまいましたが、国立天文台の縣先生のツイートを張っておきます。なんとタイムリーですね^^ https://twitter.com/agata_naoj/status/1290939965984002049 大事なネーミング 「SQM値マイナス17」は、かなり使える指標であることはわかりました。しかし、それだけではまだ不足です。一般の人と、この値が「自然の星空の美しさを意味する指標」であることを、わかりやすく・ぶれなく共有するためにはキャッチーでフィットした名前が必要です。 天リフからの提言は「ダークスカイ・レベル(Darksky Level)」です。数値で表現する場合は「4.5」や「3.7」のような小数点付きの値を使用し、小数点以下を切り上げて丸めたものを「ファイブスター(五つ星)」のように五段階の「スターレベル」として使用します(*)。 (*)小数まで正確にアピールしたい場合は「環境省の全国星空継続観察で、最高級のダークスカイ・レベル「4.9」でした」のように表記し、広告のコピーのような用途では「ダークスカイ・レベル五つ星の最高レベルの星空です!」のように使えばよいでしょう。 要は、多くの人が自然に使える直感的で平易なネーミングであること、他の用途ですでに使われているもの(*)ではないことです。「ダークスカイ・レベル」はあくまで案ですが、他に良い案があればぜひお寄せください! (*)例えば「星空指数」はtenki.jpで天気予報とリンクした数値として使用されています。 誰を巻き込むか これまで世の中に存在しなかった新たな指標を導入しようとするわけですから、世界の片隅で叫んでいるだけでは広がりません。キーワードは「権威」「コマーシャリズム」「草の根」の3つです。これらをしっかり巻き込まない限り、広まることはないでしょう。 そのためには、「国立天文台」や「環境省」、プラネタリウムや公開天文台などの公共系天文クラスタ、「国際ダークスカイ協会(東京支部)」「宙ツーリズム推進協議会」「星空公団」、「天文雑誌」など、できるだけ多くの企業・団体・個人に賛同され、浸透するようにしなければなりません。まずはこれらの方々に本記事をごらんいただいて、ご意見を伺いたいと考えています。 理想的には一定のコンセンサス形成の後、国立天文台からIAU(国際天文学連合)に対して「ダークスカイレベル」の策定を提案してもらい、天文学アウトリーチと星空保全のための国際的な正式な単位(基準)として認定してもらうことです。 まとめ いかがでしたか? SQM値(平方秒角あたりの等級)のたった一つの弱点(*)。それは「原点」の設定が使いにくすぎること。これから「17を引き算」するだけで、誰にとってもわかりやすい「5段階評価」の物差しになります。美しい星空を守り、美しい星空をより多くの人が楽しめるように、「美しい星空を具体的に示す、アウトリーチにより適した指標」を確立しようではありませんか! (*)実際のところSQM値には、機器の測定誤差・星空自体が均一な明るさでない・空気の透明度の影響との関係の明確化など、未解明の課題が存在しますが、本稿の趣旨に照らせば弱点はこの1点のみです。 本件について、ぜひ多くの方のご意見を伺いたいと思います。天リフとしてもより多くの企業・団体・個人をまきこめるような活動を考えたいと思っています。 謝辞) 本記事の執筆におきましては、リンクを貼っている全てのページの著作者様およびTwitter上で頂戴したご意見に大いに助けられました。深く感謝の意を表します。 参考リンク) SQM(Sky Quality Meter) 国際光器・スカイクオリティメーター http://www.kokusai-kohki.com/products/sqm.html Unihedron社が販売している 夜空の明るさを測定する機器。日本では国際光器が代理店となっています。測定された結果は「1平方秒角当たりの等級」で表示されます。天文クラスタでは「SQM」という単語がこの測定機器を指すだけでなく、明るさの単位の意味で使用されることがあります(*)。販売価格は2〜3万円。 (*)「1平方秒角当たりの等級」という単位に名称(通称)が定義されていないことがむしろ問題です。IAUで「1平方秒角当たりの等級の単位をSQMとする」と正式に決めていただけると話が早いのですが。 ボートル・スケール(Borttle Scale) https://ja.wikipedia.org/wiki/ボートル・スケール https://en.wikipedia.org/wiki/Bortle_scale(英語版) アメリカのアマチュア天文家ジョン・E.ボートルさんが2001年に発表した9段階の数値スケール。天文ファンに馴染みの深い主要な天体の見え方の描写で表現されていて、星空を見る経験の多い人にとっては実感しやすい指標です。その反面、限界等級(NELM)とのリンクが若干現実とずれている(*)、「最高レベルの空」を細分化しすぎているなど、一般のアウトリーチにはマッチしにくい部分があると感じました。 (*)推測ですが「SQM値=20.5の空で6等星が見える」という前提を外挿し、「SQM値=22なら7.5等星まで見える(はず)」という考え方ではないでしょうか。筆者の私見ですが、前者はあながち間違っていないと思うのですが、後者はちょっと厳しいと感じます。 一方でSQM値21.0と21.5と22.0の空はそれぞれ圧倒的に違うのも事実で、むしろ「最微光星では計れない星空のレベル」を記述したことに意義があると感じました。その意味では、本記事で提案している「ダーク・スカイ・レベル」は本当の自然の星空の美しさを語るには、「荒っぽすぎる」とう問題があります。逆に、この基準なら日本の多くの「星空観光」を目指す地点があまねく「レベル5」になるので、アウトリーチにとっては好都合かもしれません。 追記2020/8/8) 英語版Wikipediaのリンクを追加しました。日本語版にはない、SQM値の目安が記載されています。 光害マップ Light Pollution Map https://www.lightpollutionmap.info 近年急速に普及しほぼデファクトになりつつある光害マップサイト。全世界の空の明るさを、SQM値とボートルスケールでマップ上に表示して見ることができます。 「SQM値」・光害マップ・ボートルスケールの相互換算 四季星彩・天の川を見るには https://astro365.exblog.jp/25974172/ 「Starlight_365」さんが独自の調査を加味して制作されたSQM・光害マップ・ボートルスケールの相互換算表。400地点以上のSQM値をご自分で計測された上での「見え方」「感じ方」が盛り込まれた労作で、非常に参考になります。 平成30年度 夏の星空観察 デジタルカメラによる夜空の明るさ調査の結果について https://www.env.go.jp/press/106269.html 環境省が星空公団と共同で呼びかけている「夜空の明るさ調査」。光害の存在を知ってもらい環境保全に対する認識を深める趣旨で実施され、結果を観光・教育に利用することも意識しています(*)。測定結果はSQMと同じ「平方秒角あたりの等級」で公表されています。 測定結果の精度や再現性には一定の限界がある形ですが、客観的な指標で継続的に全国を網羅したことは大きな成果です。 (*)「日本一の星空®」で有名な長野県の阿智村の「日本一」は、ある年度のこの調査結果を根拠としています。 青宙スポット 有志(*)で制作している日本の天体観測地カタログ。「星空を見るのにどのくらい適した条件か」「アクセス・駐車場・トイレなど、星を見る環境としての適性」が地図情報の上に登録されています。SQM値の記載はありませんが、天の川の見え方から類推した換算はじゅうぶん可能でしょう。 (*)天リフでも登録に協力しています。 https://reflexions.jp/tenref/navi/enjoy/gazing/9835/ 編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
SQMであれ、「ダークスカイレベル」であれ、数値は温度や湿度のように日々変動することが世間一般の人たちに理解されることが必要と思います。
「昨日夜半はいくつだった」とか「冬場の月がない時は平均いくつ前後」とか「18は光害地としてはましなほうだが、水蒸気が発生しやすいのが難点」などのような限定的な使われ方であるべきと思いますが、現状は、環境庁の調査も含めて、絶対的な「きれいさランキング」のように扱われ、数字が独り歩きしているように感じます。
趣旨ごもっともです。星空の見え方が様々な要因で大きく変化することは、広く認識されるべきことですね。「指標が一人歩きしない」ための、より具体的な「肉付け」を充実させていくことは天文メディアの使命だと考えています。
一方、本稿の趣旨は「一人歩きするかもしれない」リスクをいったん脇に置いて、より使いやすく客観的で分かりやすい形にしましょう、という提案になります。ある意味「より一人歩きしやすい」指標を作る結果になります。このリスクはじゅうぶん考慮し、前者の情報を充実させたいと考えています。
★☆ 星空クラス(レベル)
5・21.5=
推奨です。(SQM-16.5 基準)
レベル5 ≒ 21.5 ですと、確かに熾烈な争いになりそう。
一般向けレベル5 ≒ 21.0 が無難ですね。
世界の天文コミュニティでは、SQMはごく普通に普及しています。「俺のところはSQM18でイエローゾーンなんだけど、云々」みたいな会話がごく普通に飛び交っています。会話にSQM値を明示すると、客観的な空の暗さが想像できるし、空の単位角あたりの電子の放射量も算出できる科学的な指標です。SQMに無知なのは日本人だけで、その無知な人が科学的な根拠の欠落した指標を提案しても話が混乱するだけです。これ以上無意味な基準を増やさないで欲しいものです。SQM値から人間の裸眼の極限等級への換算式もあります。換算は引き算すると単純に算出できるというものではないですが。SQM値は光害地での露出時間の計算に必要なので、根拠をもって露出時間を決めようとするときには必須なので、極限等級を知って面白がるという類のものでは無いです。
SQMメーターは、「機器の測定誤差・星空自体が均一な明るさでない」ということに対応しています。より高精度で高価格の狭角計測器は高精度な方位コンパスを内蔵し、全天の輝度分布も計測しますし、計測値の公正値も付属してきます。それどころか、黄道光、ナイトグロー、噴火エアロゾル、天の川、霞などに配慮して計測するようにマニュアルに記載があります。所定の特性のバンドパスフィルターを使用して人間の目の特性に合わせています。GPSと連動させてマップを作ることも可能です。ボートル値への換算式もきちんとあります。ベガを一等星仮定して星の明るさを決めた。という古くからの星の明るさの指標にきちんと載っていて思い付きで計測しているものでは無いです。不明な人が想像する以上に科学的な指標がSQM値です。
シャープキャップのドクターロビンの説明にあるように、SQMは天空からのフォトンをエレクトロンに換算し、背景のバックグラウンドのノイズを求めて、露出時間の決定に重要な役割をする。
https://www.youtube.com/watch?v=3RH93UvP358&t=306s
エレクトロンへの換算サイト
https://tools.sharpcap.co.uk/
肉眼の絶対等級への換算サイト
http://www.unihedron.com/projects/darksky/NELM2BCalc.html
SQMは天頂と低高度では異なるし、黄道光、対日照、オーロラ、エアグローの酸素輝線、天の川の有無で異なる計測値になるのは当然。
CCDで撮影する人に、客観的な空の明るさのADCレベルを提供し、補正するためのツールとして使われているのが本来の使い方であって、
空の「暗さ」を競うもの、あるいは自慢するものではない。
たとえば彼女のように
https://www.youtube.com/watch?v=RrM8X4J5EFs&t=3s
環境省のイベントは、ミスリーディングする危険性が強い。
NSUは、SQM21.6を基準とした相対指標。論文を読んでみたが、
提案者は、もっともらしい説明をしているが、まだ開発途中とかで、人間や計測器やバンド特性などとの関係をきちんと体系化できていないように見える。なぜ21.6が基準になるのかの根本的な裏付の説得力に欠けるように見える。
体系化できて初めて他の指標との換算式が見えてくるのだろう。今は見えない。
NSUの提案者は、結局のところ、SQMのフィルター特性がCIEのVカーブやベッセルのVカーブと異なるから気に入らない。と言っているだけで、何故そのカーブに合っていないといけないのかの説明が無い。CIEのVカーブは、マイナスの青が無いから人間の目の杆体・錐体の特性とも異なるし、ベッセルのVカーブも大差無い。提案者はデジカメで測定と言っているが、デジカメのフィルター特性にはマイナスの青を演算的に算出するトリックがあって、そのままだと乖離してしまう。また赤外バンドは、光ではなく、熱に反応して目の特性とことなってくるから、デジカメにはIRフィルターが入っている。しかるに、CCDのIR特性は急峻だ。天文の世界では低エネルギーのHa輝線と紫外線輝線が主戦場となっている。どのみち、CIEのフィルター特性はそのままでは役に立たない。本人も述べているように、完全に一致するフィルターは無いが、何に一致させるのかは研究者によって異なるだろう。結局、人間の目の特性に一致させるとしたら、市販のデジカメのフィルターをベクトル合成した基準からのズレと強度を語るしか無いと思うが、それで何の役に立つのかは全く分からない。
私の使っているSQMメーターは、Sky Quality Meter – LU-DL-Vなので全天のSQMムラが計測できるタイプ。視野角10度でオリオン座がほぼ入る範囲で計測できることになっている。これで場所ごとのSQMを計測して比較しようとは思っていない。そうではなくて、普段撮影するバックグラウンドの暗さの評価と応用に使いたいと考えたから。背景の単位視野角あたりの電子ボルト値を求めるためで、撮影時に画像データにその都度記録するようにしている。そのため、望遠鏡とパラレルに固定しているし、コンピューターが無いと計測値は見られないので、ハンドヘルドの使い方は面倒。あとからデータを吸い上げる必要がある。
n2068ddさま
本記事の趣旨は一点で、SQMの原点が使いにくいので一般人にもわかりやすい補助指標として定数(本記事の当初提案では17)を減算した指標を導入してはどうかというもので、ベガを基準にした0等の定義、平方秒あたりの等級という指標を否定するものでも代替するなにかが必要だというものでもありません。
現状では「17」という数値になんら理由付けがないので、何かオーソライズされた値を基準に決めたいと思っていた(ないならないでいいのですが、科学的な議論の中に入らずに済む根拠が欲しい)ところでした。
NSUの「21.6」という原点はIAUの公式なRecomendationとなっているようなので、17は16.6(ないしは17.6)という値に再度この提案を整理しようと考えています。ちょっと別件でしばらく着手できませんが、9月中に次の記事をまとめる予定です。
実際のところNSUはあまり知られていないようで(縣先生もご存じありませんでした)、素人レベルで考えても「21.6」が「自然の空の背景輝度である」というのは、前提を明確にしてもなおブレがあるでしょうね。当方としてはこの「21.6」がぶれる要因は明確にして広く知られるべきだと思っていますが、21.6という数字が妥当かどうかの議論はサイエンスコミュニティの仕事だと思っています。SQMの測定値の誤差要因についても同様です。
私の言いたかったことは、最初のコメントに書いたことですが、「すでに世界中に沢山の指標があるので、これ以上新しい基準で混乱させないでほしい。」に尽きます。
たぶんご存知だと思いますが、このような換算表があります。
http://www.darkskiesawareness.org/nomogram.php
MPSAS、NELM、NSU、それにキャンデラ値が数量化された指標。ボートル指標は曖昧で、しかも対数指標ではないので、計測値とリニアーではないけれどもとりあえずは、使われている。
それとこの表にはないですが、金、銀、銅のランク付けもあります。
昔のベータとVHSの無意味な競争のように、「俺が一番高性能で正しい。」と基準を作っても大勢の人が使わないと、すぐに廃れてしまいます。CDに代わるSACDも誰も使わず無視されて死滅しました。4チャンネル規格もそうです。
ここは、正しいか正しくないかよりも、メジャーな指標に載るのが大切なことだと思います。規格を増やしてもユーザーが混乱するだけです。
ちなみに、私の使っているSQMメーターは、NELMとNSU値は自動換算してすぐ表に出してくれます。
こんな感じに。
https://userimg.teacup.com/userimg/6004.teacup.com/tarubosi/img/bbs/0003018_3.jpg
NSUが1.3あたりだそうです。でも、「だからどうなの?」と理解できず。NELMが6.3だったのは、理解できますが、もっと見えていたような気もします。
換算できるんなら、規格はひとつで十分じゃないかと思います。
先日、スターパーティをした場所のSQMは、21.4内外(方位によって値は異なり、天の川を避けた天頂付近で21.87) でしたが、このくらい暗いと、ステファンの5つ子が、10インチのカセグレンで存在が分かり(星と異なり面積のある被写体はね極限等級よりも暗いものまでわかるらしい)、M31のダストレーンが2列はっきりと見え、NGC891の暗黒帯も見えてくるくらいの暗さだと実感しました。
環境省の毎年のマップによると、SQM21を超える地点は非常に少ないらしいし、有名なスポットも意外と明るいんだということが分かりました。それが推測できるのもSQMという共通指標があるためです。3段階評価や5段階評価には、何か有効な意味があるのでしょうか?