みなさんこんにちは!以前レビューした「分離式3枚玉アポ鏡筒」のFOT104ですが、現在いくつかの補正レンズを使用して写真性能を検証中です。まずは「タカハシ・マルチフラットナーx1.04」の実写結果がまとまりましたので、その結果をレポートしたいと思います。

【分離式3枚玉アポ鏡筒】Founder Optics FOT104レビュー

こちらの前回の記事では「タカハシ・マルチフラットナーx1.04」を使用した簡単な試写結果を掲載しています。今回の記事はその内容のさらなる拡大版です。

タカハシ・マルチフラットナーx1.04とは

ネイチャーショップKYOEI・タカハシ・マルチフラットナーx1.04
https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/takahashi-fcfs-multiflatner.html
レンズはコバ塗り、内面反射処理も上質。リング・スリーブには細かなスジが切ってあり反射防止に貢献しています。

タカハシ・マルチフラットナーx1.04は、2018年8月に発売された比較的新しい製品です。商品解説ページにあるように、従来品と比較して像面湾曲や中心部の色ハロが少ないこと、重量110gとコンパクト、実売税抜2.1万と比較的手頃な価格であることが特徴です。

カメラ側から内筒を覗いたところ。この通り目立った内面反射が多い面は少なく、なかなか良好です。

 

センサー面に近い場所に置かれる補正レンズでは、スリーブやスペーサ、レンズを押さえるリングの反射防止処理が重要になります(*)。この製品の場合、内面は全て細かな「ギザギザ」が入っていて反射率低下に寄与しています。

(*)特に日本のような、市街光の影響が大きい環境で撮らざるを得ない場合は重要です。強く強調した際にリング状のムラが出る場合、内面反射は有力な「容疑者」の一つです。

FOT104に最適なマルチCAリングは?

左からカメラアダプター、マルチCAリング65、マルチフラットナーx1.04

マルチフラットナーx1.04は新旧14機種ものタカハシ製品に対応しています。カメラアダプタと補正レンズ本体の間に入る「マルチCAリング」を交換することで、鏡筒に最適なバックフォーカスが得られる仕組みです。

7種類の「マルチCAリング」。鏡筒との接続は基本はM57ですが、「50」と「65」には接続リングが付属しています。

マルチフラットナーx1.04用の各種リング。全部で7種類あり、2枚玉アポの「FC」「FS」シリーズの旧機種から現行機種を含めた14機種(FC100DZを含めると15機種)に対応します。これらの鏡筒は残存する像面湾曲の特性が似ているため、バックフォーカスの調整のみで好結果が得られる、ということなのでしょう。

この表にはありませんが「FC100DZ(焦点距離800mm)」の適合リングは「マルチCAリング100」になります。

 

バックフォーカスと焦点距離の関係をグラフにしてみると、きれいな曲線上に並びます。このグラフから見ても、最適なバックフォーカス量はほぼ焦点距離で定まる、という推測はあながち外れていないと言えそうです。

等倍チャートの上辺部抜粋。50と65のピントが若干甘いのですが–;;; 周辺像は明らかに65>76>50の順で良好です。EOS6D(SEO-SP4)、2分×5〜9枚コンポジット。

今回使用した鏡筒「FOT104」は、焦点距離650mm(F6.25)です。焦点距離的には「マルチCAリング76」が適合するかと予測しましたが、実写してみたところ最適なリングは「マルチCAリング65」でした。3枚玉分離式アポのFOT104と2枚玉のFC/FSシリーズでは収差特性が同じはずもないので当然ですが、上の実写結果を見る限り「バックフォーカスを適切に調整すれば」3枚玉アポでも適合するという感触を得ました。

等倍四隅チャート。輝度ノイズ低減+10、色ノイズ低減+15、カラーバランス補正、トーンカーブでのみ強調。

マルチCAリングのバックフォーカスは76,65,50でそれぞれ75mm,78mm,84mmです。3mm/6mmのバックフォーカスの差でこの程度は周辺像が変わる(この程度しか変わらない)、という参考になるかと思います。

今回の組み合わせでの、ベストのバックフォーカスが何mmなのかは正確にはわかりませんが、「78mm」はなかなかいい線を行っている印象です。実戦的には改造カメラ・非改造カメラの違いやフィルター位置など様々な要素が関連してくるので一概にはいえませんが、ひとつの目安になればと思います。

フラット画像と星像評価

実写フラット。カラーバランス・レベル調整のみです。

周辺光量はどうでしょうか。マルチフラットナーはレンズ径が決して大きくはないこと、FOT104はF6.25とFC/FSシリーズよりもFが明るいこともあり(*)、周辺減光はそれなりにあります。しかし、減光が素直なのでPhotoShopのcamera rawの収差補正だけでもそれなりに補正が可能です(後半の作例は全て「フラットなし」です)。

(*)2枚玉/3枚玉屈折の場合、Fが明るいほど「焦点面からみた対物レンズの像(=入射瞳)」が大きくなるため、補正レンズによる口径食が大きくなります。

作例の項のM8/20の等倍チャート。EOS6D(SEO-SP4) 2分×20枚。薄明終了直後の撮影で、温度順応不足もあって若干ピントが甘いのですが、中心と周辺の星像差はわずかです。

等倍星像チャート。ちょっとピントが甘かったのですが、フルサイズ最周辺でも星像の差がほとんどないことがわかります。「明るさ」を求めればレデューサなのですが、周辺星像が安定しているのは、やはり光学的にも無理の少ないフラットナーに長があるといえそうです。

FOT104との接続

今回使用した接続システム。

FOT104のドロチューブ末端のネジ規格はM74P1オスです。このため、そのままではタカハシのM72/M55.9とは接続できません。M74/M72の変換リングをいろいろ探したのですが、見つけることができませんでした。これが「リング地獄」なのかっ!

①カメラマウントDX-60W(EOS) [KA20245]、②マルチCAリング65 [KA03203]、③FC/FSマルチフラットナー1.04×[KA00582]、④M72-55.9変換リング[KA19205]、⑤コスモ工房特注制作リング

そこで「コスモ工房」様にお願いしてリングを作って頂きました。こちらが依頼時に提出した「仕様画像」。これに「光路長15mm程度で」とお願いしました。コスモ工房様ではこういった特注リングをリーズナブルな価格で作って頂けるので大変助かります^^ ありがとうございまいした!

FOT104のドロチューブ繰り出しにはかなり余裕があるので、マルチフラットナーx1.04の接続は今回の例以外にもいろいろやり方があるかと思います。

ガイド鏡の取り付け方法

ガイド鏡の取付は、付属のグリップを外して鏡筒バンドのM6ネジ穴を使用してアルカスイスプレートを装着し、アルカクランプを2個重ねしたものを介してタカハシのGT-40を取り付けて使用しました。

他にもファインダー脚を使う、グリップのピカティーニ・レールを使用するなどいろいろな方法が考えられます。

フィルターワーク

ナローバンドをはじめ昨今の天体写真ではフィルターワークは重要です。今回の構成では、48mmフィルターをマルチフラットナーx1.04の対物側に装着して使用しました(*)。

(*)タカハシの鏡筒の場合は、ドロチューブ末端に52mmのフィルターを装着するリングなど、フィルター装着にはいろいろな方法があるようです。

しかし、この取付方法は脱着に若干の問題があり(*)、あまりオススメできないかもしれません。自己責任でお願いします^^;;;

(*)M48ネジが奥まった位置に切ってあるため着脱がかなり窮屈。フィルター挿入の際にレンズを傷つけてしまう危険があります。ねじ込み操作が指で押さえながら回す形になり、うっかり締めすぎると外せなくなる危険もあります。枠が厚いフィルターの場合は、ドロチューブ末端の雄ネジと干渉する可能性もあるかもしれません。タカハシのシステムチャート・取説にもこの方法は言及されておらず、メーカー推奨の方法ではなさそうです。

作例

FOT104+タカハシ・マルチフラットナーx1.04でM8/M20を撮影中。赤道儀はビクセンSXP。

FOT104と今回ご紹介したフラットナーを使用した作例をいくつかご紹介しましょう。

その1.網状星雲

FOT104+タカハシマルチフラットナーx1.04  (マルチCAリング65)EOS 6D(SEO-SP4)  ISO3200 2分×9枚 ダメージ系処理一切なし ダーク・フラットなし SXPオートガイド 福岡県小石原

こちらは前回のレビュー記事でもご紹介した網状星雲の作例。2分9枚のお手軽短時間露出なので淡い「ビカリングの三角形」は出ていませんが、網状星雲の赤と青が鮮やかです。

この領域は微光星がびっしりでうるさくなりがちなのが悩みですが、3枚玉アポFOT104と優秀なフラットナーのお陰で星像径が小さくなり、シャープな仕上がりになりました。

その2.M8/M20

FOT104+タカハシマルチフラットナーx1.04(マルチCAリング65) EOS6D(SEO-SP4) 2分×20枚 ISO3200 フィルターなし ダーク・フラットなし SXPオートガイド 福岡県小石原

いて座のM8、M20と「猫の手」星雲。676mm(650mm×1.04)という焦点距離は、銀河のような小さな天体には短いですが、大きな明るい星雲を迫力ある姿で撮ることができます。RGBブロードバンドならではの赤と青の星雲の対比に注意して処理しました。

1コマあたりの露出時間は2分。早い時間帯のブロードバンドなので、1コマ当たり2分露出ですがヒストグラムは真ん中右寄り。「F値=6.25」を暗いと感じることはありませんでした。

 

その3.M16わし星雲・Hαモノクロナローバンド

FOT104+タカハシマルチフラットナーx1.04(マルチCAリング65) EOS6D 5分*15 ISO6400 Baader 7nm Hα SXPオートガイド トリミング 福岡県小石原

こちらはモノクロHαナローバンドの撮影。さすがにナローバンドで撮ると「F6.25」は暗いと感じるようになります^^;; 1コマ5分ですが、ヒストグラムは左1/4。総露出は75分では背景を滑らかにするにはまだまだ不足。

屈折鏡筒でナローバンド撮影する場合は、ストイックによほど長時間露出をかけるか、明るくて構造が面白い天体を狙うのが吉です。その点、このM16は「創造の柱」があり、好対象といえるでしょう。

フルサイズのデジタルカメラEOS6Dを使用しましたが、ここはやはり小センサーのモノクロCMOSカメラで狙いたいところです。

その4.らせん星雲・Hαモノクロナローバンド

FOT104+タカハシマルチフラットナーx1.04(マルチCAリング65) α7S 30秒×150 ISO16000 Baader 7nm Hα SXPオートガイド トリミング 福岡市内自宅ベランダ

最後に、限界に挑むベランダ撮影^^;; みずがめ座のらせん星雲です。総露出75分、背景はやっぱりザラザラです–;;; それでも左上の「ヒゲ」がしっかり出てきていて、光害地でのナローバンドの威力を発揮。4晩ほど撮り続ければ、それなりの仕上がりになってくるでしょう。

機材的には「適材適所」とは決して言えないチャレンジですが、自宅での撮影なら根気さえあれば撮り増しがいくらでも?効きます。ひとつの対象にじっくり取り組んで「自己新」を更新するスタイルに向いた対象です^^

まとめ

いかがでしたか?

3枚玉アポクロマートは何といっても「色ハロ」が少なくシャープな像を結ぶのが美点。今回の作例でも、強い彩度強調を行っても「色ハロが」気になることは全くありませんでした。

しかし「マッチングの良い補正レンズ」を探し当てるのはなかなか大変です。今回使用した「マルチフラットナーx1.04」は細かなバックフォーカスの調整はできないものの、運良くFOT104に適合するリングを見つけることができ、非常に良い結果が得られたと考えています。

別の他社製品でどういう結果になるかは全く保証できないのですが、屈折アポ鏡筒とフラットナーはバックフォーカスの調整次第である程度汎用的な運用が可能であるといえるかもしれません。今回の例はやや特殊な運用ではありますが、読者の皆さんのご参考に少しでもなればと思います。

少し前までは「(F6〜F8クラスの鏡筒を使用した)フラットナー運用は暗い」という認識が多かったと思います。しかし、少なくとも「ブロードバンドRGB」の撮影では「暗い」と感じることはほとんどありませんでした。むしろ収差の少なさや周辺光量の豊富さ、画像処理のしやすさなどのメリットが大きくなってきます。

FOT104のF値は「6.25」。これは「暗い」ではなく十分に「明るい」。性能を維持したままF値を明るめにできる「3枚玉」のメリットが、写真用途でも生きるのではないでしょうか。

補足)屈折鏡筒と補正レンズ

一般に2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡では、光軸上の色収差と球面収差をいかに小さく補正するかに重点をおいて設計されています。このため、周辺像を悪化させる3つの収差のうち、像面湾曲と非点収差はそれなりに大きく残っているのが普通です(*)。

(*)コマ収差は設計ポリシーにもよりますがほぼ補正されている製品が大半です。

このため、そのままでは写真用途には適しません。そこでなんらかの「補正レンズ」を使用することになります。天体写真フリークにとっては常識なのですが、それについて簡単に解説しておきます。

2枚玉・3枚玉アポの残存収差・像面湾曲と非点収差

典型的な屈折望遠鏡の非点収差図

上の図は典型的な屈折望遠鏡の「非点収差図」。この図は横軸に焦点位置を、縦軸に光軸からの入射角度をとったもので、グラフの曲がりが「像面湾曲」を示し、2本のグラフ(*)のずれが非点収差を示しています。2枚ないしは3枚玉の屈折望遠鏡の場合、像面はこのグラフで示されるとおり凹面になっているのが普通です。

(*)同心方向(M:メリディオナル)と放射方向(S:サジタル)。この2本のグラフが垂直に立った直線になるのが理想です。

このため、写真撮影に使用する場合はF値が小さい(明るい)ほど周辺像がボケてしまい(像面湾曲)、放射方向または同心方向に延びて(非点収差)しまいます。これは構成枚数が2枚・3枚の「自由度の少ない光学系」の宿命(限界)でもあります。色収差・球面収差・コマ収差の補正に優先度をおくと、残りの収差を補正する余地がもうないのです。

フラットナーとは

コプトン光学設計・#005 レンズ設計:ペッツバール和改善事例(2)
https://www.kopton.jp/column/?itm=5
https://www.kopton.jp/column/?itm=5

そこで、焦点面の近くに小さなレンズ(*)をおき、像面湾曲を補正します。この補正レンズが光学系の焦点距離を大きく変えないとき、フラットナーと呼ばれます。上の図は光学設計の基本知識を解説したサイトから引用したものですが、肉厚のメニスカスレンズによって像面湾曲を補正しています(*)。

(*)通常はごく弱い凹(負の屈折力)を持ったレンズで「1群2枚」のような色消しレンズであるのが普通です。

フラットナーは屈折力(パワー)のごく弱いレンズなので球面収差・色収差に与える影響が小さく(*)、少ない構成枚数で高い性能を出すことができ、後述するレデューサよりも安価であるのが一般的です。

(*)商品化されているフラットナーの多くは「1群2枚」のような色消しレンズになっています。一眼レフカメラでは像面とフラットナーの距離をそれなりに取る必要があるため、色収差が問題になってくるためです。

ただし、像面湾曲を補正できたとしても、単純な設計では非点収差は補正できません。比較的古い設計の天体望遠鏡のフラットナーを使用した収差図を見ると(*)、上の図のようにサジタル・メリディオナルの平均が平坦になっているだけで、非点収差は一定量残存しています。

(*)参考・西條善弘「天体望遠鏡徹底ガイドブック」誠文堂新光社刊

ここからは推測なのですが、今回使用した製品など最新のフラットナーを使用した作例を見る限り、周辺像は大変優秀です。非点収差の補正に関しても何らかの対処が行われているのかもしれません(*)。

(*)上図のような非点収差の場合、周辺で星像が円形に「肥大」することになりますが、F値が暗ければ最小星像に対してさほどの違わないという可能性もあります。

レデューサとは

BORG55FL+レデューサー7880セット【6258】
https://www.tomytec.co.jp/borg/products/detail/summary/675/7 
https://www.tomytec.co.jp/borg/products/detail/summary/675/7

フラットナーに焦点距離を短くする機能を持たせたものがレデューサです。レデューサは凸の屈折力を持ちF値を明るくします。このためより収差補正がよりシビアになり、デジタル時代の画質を得るためには3枚以上の構成になるのが普通です。

上の引用画像は天体写真用の小型鏡筒として定評のあるBORG55FLのレデューサ仕様の光路図ですが、対物レンズよりも”重そう”なレンズが四枚も使用されています。

汎用補正レンズはどこまで汎用なのか?

2枚玉・3枚玉アポクロマートのような、構成枚数の少ない屈折望遠鏡は設計の自由度が低いため、同じ焦点距離・F値であれば対物光学系の像面湾曲・非点収差の残存量は「だいたい」同じようなものとなります。このためレデューサ・フラットナーにはある程度の「汎用性」があります(*)。

(*)メーカー・販売店の製品仕様説明には「F6〜F8のアポクロマート鏡筒に適合」のような記述が見られます。

しかし、昨今の高画素のデジタルカメラで十分な性能を発揮するには、「汎用」ベースのフラットナー・レデューサでは対物光学系との「相性」の問題でなかなか厳しいケースも出てきてしまいます(*)。対物光学系に合わせた専用の設計が理想なのですが、そうなると逆にコストが上昇してしまいます。

(*)ネットで「フラットナー」「レデューサ」で検索すると、最適な補正レンズを求めて彷徨う先人達の苦労を数多く見ることができるでしょう。

バックフォーカスの調整機構を持った補正レンズの例。

そこで補正レンズの汎用性を高めるために「バックフォーカス」を調整することでより広い対物光学系に適合させることを狙った製品があります。筆者もいくつか使用したことがありますが、周辺像でも良像が得られる反面、バックフォーカスの最適値を追い込むのはけっこう大変です^^;;(*)

(*)試写して最適な位置を見つけ出すのも大変ですが、毎回の撮影でそれをきちんと再現するのも大変です。改造カメラの場合本来のフランジバックからずれている場合もあり、複数種のカメラで運用する場合さらに面倒^^;;;

その点、今回紹介したタカハシの「マルチフラットナーx1.04」は、タカハシ製品に限定されますが、「専用リング(マルチCAリング)」を交換することで、生産終了品の古い鏡筒を含めて数多くの鏡筒に対応するのは、ユーザーにとって使いやすいものといえるでしょう(*)。

(*)バックフォーカスを意識せずに「汎用補正レンズ」を使用するのは「かなり荒っぽい」運用だと、今回の試写で改めて感じました。もちろん、中心像付近に限れば(イメージサークルが小さければ)ほとんど問題にならないのではありますが。


  • 本記事はスタークラウド合同会社様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 内面反射の実写画像では、わかりやすくするためPhotoshopでシャドウを+30持ち上げています。肉眼で見るともっと黒いです。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせは各メーカー様・販売店様にお願いいたします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年9月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/09/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/09/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-150x150.jpg編集部新着望遠鏡みなさんこんにちは!以前レビューした「分離式3枚玉アポ鏡筒」のFOT104ですが、現在いくつかの補正レンズを使用して写真性能を検証中です。まずは「タカハシ・マルチフラットナーx1.04」の実写結果がまとまりましたので、その結果をレポートしたいと思います。 http://reflexions.jp/tenref/orig/2019/08/19/9218/ こちらの前回の記事では「タカハシ・マルチフラットナーx1.04」を使用した簡単な試写結果を掲載しています。今回の記事はその内容のさらなる拡大版です。 タカハシ・マルチフラットナーx1.04とは ネイチャーショップKYOEI・タカハシ・マルチフラットナーx1.04 https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/takahashi-fcfs-multiflatner.html タカハシ・マルチフラットナーx1.04は、2018年8月に発売された比較的新しい製品です。商品解説ページにあるように、従来品と比較して像面湾曲や中心部の色ハロが少ないこと、重量110gとコンパクト、実売税抜2.1万と比較的手頃な価格であることが特徴です。 カメラ側から内筒を覗いたところ。この通り目立った内面反射が多い面は少なく、なかなか良好です。   センサー面に近い場所に置かれる補正レンズでは、スリーブやスペーサ、レンズを押さえるリングの反射防止処理が重要になります(*)。この製品の場合、内面は全て細かな「ギザギザ」が入っていて反射率低下に寄与しています。 (*)特に日本のような、市街光の影響が大きい環境で撮らざるを得ない場合は重要です。強く強調した際にリング状のムラが出る場合、内面反射は有力な「容疑者」の一つです。 FOT104に最適なマルチCAリングは? マルチフラットナーx1.04は新旧14機種ものタカハシ製品に対応しています。カメラアダプタと補正レンズ本体の間に入る「マルチCAリング」を交換することで、鏡筒に最適なバックフォーカスが得られる仕組みです。 マルチフラットナーx1.04用の各種リング。全部で7種類あり、2枚玉アポの「FC」「FS」シリーズの旧機種から現行機種を含めた14機種(FC100DZを含めると15機種)に対応します。これらの鏡筒は残存する像面湾曲の特性が似ているため、バックフォーカスの調整のみで好結果が得られる、ということなのでしょう。   バックフォーカスと焦点距離の関係をグラフにしてみると、きれいな曲線上に並びます。このグラフから見ても、最適なバックフォーカス量はほぼ焦点距離で定まる、という推測はあながち外れていないと言えそうです。 今回使用した鏡筒「FOT104」は、焦点距離650mm(F6.25)です。焦点距離的には「マルチCAリング76」が適合するかと予測しましたが、実写してみたところ最適なリングは「マルチCAリング65」でした。3枚玉分離式アポのFOT104と2枚玉のFC/FSシリーズでは収差特性が同じはずもないので当然ですが、上の実写結果を見る限り「バックフォーカスを適切に調整すれば」3枚玉アポでも適合するという感触を得ました。 マルチCAリングのバックフォーカスは76,65,50でそれぞれ75mm,78mm,84mmです。3mm/6mmのバックフォーカスの差でこの程度は周辺像が変わる(この程度しか変わらない)、という参考になるかと思います。 今回の組み合わせでの、ベストのバックフォーカスが何mmなのかは正確にはわかりませんが、「78mm」はなかなかいい線を行っている印象です。実戦的には改造カメラ・非改造カメラの違いやフィルター位置など様々な要素が関連してくるので一概にはいえませんが、ひとつの目安になればと思います。 フラット画像と星像評価 周辺光量はどうでしょうか。マルチフラットナーはレンズ径が決して大きくはないこと、FOT104はF6.25とFC/FSシリーズよりもFが明るいこともあり(*)、周辺減光はそれなりにあります。しかし、減光が素直なのでPhotoShopのcamera rawの収差補正だけでもそれなりに補正が可能です(後半の作例は全て「フラットなし」です)。 (*)2枚玉/3枚玉屈折の場合、Fが明るいほど「焦点面からみた対物レンズの像(=入射瞳)」が大きくなるため、補正レンズによる口径食が大きくなります。 等倍星像チャート。ちょっとピントが甘かったのですが、フルサイズ最周辺でも星像の差がほとんどないことがわかります。「明るさ」を求めればレデューサなのですが、周辺星像が安定しているのは、やはり光学的にも無理の少ないフラットナーに長があるといえそうです。 FOT104との接続 FOT104のドロチューブ末端のネジ規格はM74P1オスです。このため、そのままではタカハシのM72/M55.9とは接続できません。M74/M72の変換リングをいろいろ探したのですが、見つけることができませんでした。これが「リング地獄」なのかっ! そこで「コスモ工房」様にお願いしてリングを作って頂きました。こちらが依頼時に提出した「仕様画像」。これに「光路長15mm程度で」とお願いしました。コスモ工房様ではこういった特注リングをリーズナブルな価格で作って頂けるので大変助かります^^ ありがとうございまいした! FOT104のドロチューブ繰り出しにはかなり余裕があるので、マルチフラットナーx1.04の接続は今回の例以外にもいろいろやり方があるかと思います。 ガイド鏡の取り付け方法 ガイド鏡の取付は、付属のグリップを外して鏡筒バンドのM6ネジ穴を使用してアルカスイスプレートを装着し、アルカクランプを2個重ねしたものを介してタカハシのGT-40を取り付けて使用しました。 他にもファインダー脚を使う、グリップのピカティーニ・レールを使用するなどいろいろな方法が考えられます。 フィルターワーク ナローバンドをはじめ昨今の天体写真ではフィルターワークは重要です。今回の構成では、48mmフィルターをマルチフラットナーx1.04の対物側に装着して使用しました(*)。 (*)タカハシの鏡筒の場合は、ドロチューブ末端に52mmのフィルターを装着するリングなど、フィルター装着にはいろいろな方法があるようです。 しかし、この取付方法は脱着に若干の問題があり(*)、あまりオススメできないかもしれません。自己責任でお願いします^^;;; (*)M48ネジが奥まった位置に切ってあるため着脱がかなり窮屈。フィルター挿入の際にレンズを傷つけてしまう危険があります。ねじ込み操作が指で押さえながら回す形になり、うっかり締めすぎると外せなくなる危険もあります。枠が厚いフィルターの場合は、ドロチューブ末端の雄ネジと干渉する可能性もあるかもしれません。タカハシのシステムチャート・取説にもこの方法は言及されておらず、メーカー推奨の方法ではなさそうです。 作例 FOT104と今回ご紹介したフラットナーを使用した作例をいくつかご紹介しましょう。 その1.網状星雲 こちらは前回のレビュー記事でもご紹介した網状星雲の作例。2分9枚のお手軽短時間露出なので淡い「ビカリングの三角形」は出ていませんが、網状星雲の赤と青が鮮やかです。 この領域は微光星がびっしりでうるさくなりがちなのが悩みですが、3枚玉アポFOT104と優秀なフラットナーのお陰で星像径が小さくなり、シャープな仕上がりになりました。 その2.M8/M20 いて座のM8、M20と「猫の手」星雲。676mm(650mm×1.04)という焦点距離は、銀河のような小さな天体には短いですが、大きな明るい星雲を迫力ある姿で撮ることができます。RGBブロードバンドならではの赤と青の星雲の対比に注意して処理しました。 1コマあたりの露出時間は2分。早い時間帯のブロードバンドなので、1コマ当たり2分露出ですがヒストグラムは真ん中右寄り。「F値=6.25」を暗いと感じることはありませんでした。   その3.M16わし星雲・Hαモノクロナローバンド こちらはモノクロHαナローバンドの撮影。さすがにナローバンドで撮ると「F6.25」は暗いと感じるようになります^^;; 1コマ5分ですが、ヒストグラムは左1/4。総露出は75分では背景を滑らかにするにはまだまだ不足。 屈折鏡筒でナローバンド撮影する場合は、ストイックによほど長時間露出をかけるか、明るくて構造が面白い天体を狙うのが吉です。その点、このM16は「創造の柱」があり、好対象といえるでしょう。 フルサイズのデジタルカメラEOS6Dを使用しましたが、ここはやはり小センサーのモノクロCMOSカメラで狙いたいところです。 その4.らせん星雲・Hαモノクロナローバンド 最後に、限界に挑むベランダ撮影^^;; みずがめ座のらせん星雲です。総露出75分、背景はやっぱりザラザラです--;;; それでも左上の「ヒゲ」がしっかり出てきていて、光害地でのナローバンドの威力を発揮。4晩ほど撮り続ければ、それなりの仕上がりになってくるでしょう。 機材的には「適材適所」とは決して言えないチャレンジですが、自宅での撮影なら根気さえあれば撮り増しがいくらでも?効きます。ひとつの対象にじっくり取り組んで「自己新」を更新するスタイルに向いた対象です^^ まとめ いかがでしたか? 3枚玉アポクロマートは何といっても「色ハロ」が少なくシャープな像を結ぶのが美点。今回の作例でも、強い彩度強調を行っても「色ハロが」気になることは全くありませんでした。 しかし「マッチングの良い補正レンズ」を探し当てるのはなかなか大変です。今回使用した「マルチフラットナーx1.04」は細かなバックフォーカスの調整はできないものの、運良くFOT104に適合するリングを見つけることができ、非常に良い結果が得られたと考えています。 別の他社製品でどういう結果になるかは全く保証できないのですが、屈折アポ鏡筒とフラットナーはバックフォーカスの調整次第である程度汎用的な運用が可能であるといえるかもしれません。今回の例はやや特殊な運用ではありますが、読者の皆さんのご参考に少しでもなればと思います。 少し前までは「(F6〜F8クラスの鏡筒を使用した)フラットナー運用は暗い」という認識が多かったと思います。しかし、少なくとも「ブロードバンドRGB」の撮影では「暗い」と感じることはほとんどありませんでした。むしろ収差の少なさや周辺光量の豊富さ、画像処理のしやすさなどのメリットが大きくなってきます。 FOT104のF値は「6.25」。これは「暗い」ではなく十分に「明るい」。性能を維持したままF値を明るめにできる「3枚玉」のメリットが、写真用途でも生きるのではないでしょうか。 補足)屈折鏡筒と補正レンズ 一般に2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡では、光軸上の色収差と球面収差をいかに小さく補正するかに重点をおいて設計されています。このため、周辺像を悪化させる3つの収差のうち、像面湾曲と非点収差はそれなりに大きく残っているのが普通です(*)。 (*)コマ収差は設計ポリシーにもよりますがほぼ補正されている製品が大半です。 このため、そのままでは写真用途には適しません。そこでなんらかの「補正レンズ」を使用することになります。天体写真フリークにとっては常識なのですが、それについて簡単に解説しておきます。 2枚玉・3枚玉アポの残存収差・像面湾曲と非点収差 上の図は典型的な屈折望遠鏡の「非点収差図」。この図は横軸に焦点位置を、縦軸に光軸からの入射角度をとったもので、グラフの曲がりが「像面湾曲」を示し、2本のグラフ(*)のずれが非点収差を示しています。2枚ないしは3枚玉の屈折望遠鏡の場合、像面はこのグラフで示されるとおり凹面になっているのが普通です。 (*)同心方向(M:メリディオナル)と放射方向(S:サジタル)。この2本のグラフが垂直に立った直線になるのが理想です。 このため、写真撮影に使用する場合はF値が小さい(明るい)ほど周辺像がボケてしまい(像面湾曲)、放射方向または同心方向に延びて(非点収差)しまいます。これは構成枚数が2枚・3枚の「自由度の少ない光学系」の宿命(限界)でもあります。色収差・球面収差・コマ収差の補正に優先度をおくと、残りの収差を補正する余地がもうないのです。 フラットナーとは コプトン光学設計・#005 レンズ設計:ペッツバール和改善事例(2) https://www.kopton.jp/column/?itm=5 そこで、焦点面の近くに小さなレンズ(*)をおき、像面湾曲を補正します。この補正レンズが光学系の焦点距離を大きく変えないとき、フラットナーと呼ばれます。上の図は光学設計の基本知識を解説したサイトから引用したものですが、肉厚のメニスカスレンズによって像面湾曲を補正しています(*)。 (*)通常はごく弱い凹(負の屈折力)を持ったレンズで「1群2枚」のような色消しレンズであるのが普通です。 フラットナーは屈折力(パワー)のごく弱いレンズなので球面収差・色収差に与える影響が小さく(*)、少ない構成枚数で高い性能を出すことができ、後述するレデューサよりも安価であるのが一般的です。 (*)商品化されているフラットナーの多くは「1群2枚」のような色消しレンズになっています。一眼レフカメラでは像面とフラットナーの距離をそれなりに取る必要があるため、色収差が問題になってくるためです。 ただし、像面湾曲を補正できたとしても、単純な設計では非点収差は補正できません。比較的古い設計の天体望遠鏡のフラットナーを使用した収差図を見ると(*)、上の図のようにサジタル・メリディオナルの平均が平坦になっているだけで、非点収差は一定量残存しています。 (*)参考・西條善弘「天体望遠鏡徹底ガイドブック」誠文堂新光社刊 ここからは推測なのですが、今回使用した製品など最新のフラットナーを使用した作例を見る限り、周辺像は大変優秀です。非点収差の補正に関しても何らかの対処が行われているのかもしれません(*)。 (*)上図のような非点収差の場合、周辺で星像が円形に「肥大」することになりますが、F値が暗ければ最小星像に対してさほどの違わないという可能性もあります。 レデューサとは BORG55FL+レデューサー7880セット【6258】 https://www.tomytec.co.jp/borg/products/detail/summary/675/7  フラットナーに焦点距離を短くする機能を持たせたものがレデューサです。レデューサは凸の屈折力を持ちF値を明るくします。このためより収差補正がよりシビアになり、デジタル時代の画質を得るためには3枚以上の構成になるのが普通です。 上の引用画像は天体写真用の小型鏡筒として定評のあるBORG55FLのレデューサ仕様の光路図ですが、対物レンズよりも'重そう'なレンズが四枚も使用されています。 汎用補正レンズはどこまで汎用なのか? 2枚玉・3枚玉アポクロマートのような、構成枚数の少ない屈折望遠鏡は設計の自由度が低いため、同じ焦点距離・F値であれば対物光学系の像面湾曲・非点収差の残存量は「だいたい」同じようなものとなります。このためレデューサ・フラットナーにはある程度の「汎用性」があります(*)。 (*)メーカー・販売店の製品仕様説明には「F6〜F8のアポクロマート鏡筒に適合」のような記述が見られます。 しかし、昨今の高画素のデジタルカメラで十分な性能を発揮するには、「汎用」ベースのフラットナー・レデューサでは対物光学系との「相性」の問題でなかなか厳しいケースも出てきてしまいます(*)。対物光学系に合わせた専用の設計が理想なのですが、そうなると逆にコストが上昇してしまいます。 (*)ネットで「フラットナー」「レデューサ」で検索すると、最適な補正レンズを求めて彷徨う先人達の苦労を数多く見ることができるでしょう。 そこで補正レンズの汎用性を高めるために「バックフォーカス」を調整することでより広い対物光学系に適合させることを狙った製品があります。筆者もいくつか使用したことがありますが、周辺像でも良像が得られる反面、バックフォーカスの最適値を追い込むのはけっこう大変です^^;;(*) (*)試写して最適な位置を見つけ出すのも大変ですが、毎回の撮影でそれをきちんと再現するのも大変です。改造カメラの場合本来のフランジバックからずれている場合もあり、複数種のカメラで運用する場合さらに面倒^^;;; その点、今回紹介したタカハシの「マルチフラットナーx1.04」は、タカハシ製品に限定されますが、「専用リング(マルチCAリング)」を交換することで、生産終了品の古い鏡筒を含めて数多くの鏡筒に対応するのは、ユーザーにとって使いやすいものといえるでしょう(*)。 (*)バックフォーカスを意識せずに「汎用補正レンズ」を使用するのは「かなり荒っぽい」運用だと、今回の試写で改めて感じました。もちろん、中心像付近に限れば(イメージサークルが小さければ)ほとんど問題にならないのではありますが。 本記事はスタークラウド合同会社様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 内面反射の実写画像では、わかりやすくするためPhotoshopでシャドウを+30持ち上げています。肉眼で見るともっと黒いです。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは各メーカー様・販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年9月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ