http://www.kokusai-kohki.com/Baader/morpheus.html

天リフ眼視推進委員会がお送りする「アイピース探訪」シリーズ。第1回は「バーダープラネタリウム社」製のモーフィアスシリーズです。

特徴と設計コンセプト

レアアース(ランタン系)ガラス材採用、5群8枚、ファントム・グループ・コーティング

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モーフィアスの光学設計としてのコンセプトはこのタイトルの3点のみ。製品ページを見てもレンズ構成を示す図はこの図のみで、詳細の構成はわかりません。基本的にああだこうだという能書きで性能を語るのではなく、実際に見てくれば良さが分かるはずだよ(*)、というスタンス。武骨です。「これは、良いものである」という自信。「アイピースは使って見てなんぼ」さすがドイツ人です。

(*)念のため能書きを垂れておくと、ランタン系のガラス材は高屈折率・低分散で、レンズの曲率を小さくできるなど収差補正に効果があるガラス材です。5群8枚とレンズエレメントは多めですが、反射率の低いマルチコート「ファントム・グループ・コーティング」が全面にほどこされています。17.5mmのみ、異常分散性を持つEDガラスが3枚使用されています。

実際に使ってみて、その通り能書きで性能を語る必要のない製品だなと感じました。詳しくは実視レビューに書きますが、スペックや投資額のことは一切忘れて観望に専念できる素晴らしいクオリティと使いやすさです。

見かけ視野76°

もう一つ外してはならない特徴が、全焦点距離で76度の広視界。100°アイピースが普通にある昨今、76度は「めちゃめちゃ広い」わけではありませんが、周辺まで自然に見渡せる広さとしては最大級のものでしょう。

個人的感想ではありますが、100度アイピースでは最周辺は「見る」ためのものではなく「そこにも星があることがわかる」という「雰囲気」のためのものです。この「雰囲気」に魔力的なものがあるのも事実ですが、視線を端までぐるぐる回すと逆に疲れますし、視野の端まで見える位置に眼を安定して置くのは慣れたとしてもそれなりの意識が必要です。ストレスなく気軽に楽しむ意味では76度はよい設定だと感じました。

ラインナップとスペック

国際光器オンラインストア・MORPHEUS(モーフィアス)
http://kokusai-kohki.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=1696449&csid=8
国際光器カタログ館・モーフィアスシリーズ
http://www.kokusai-kohki.com/Baader/morpheus.html
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モーフィアスのラインナップは4.5mm〜17.5mmまで全6本。いずれも見かけ視野は76度、アイレリーフは17.5mm〜21mm、重量は345g〜415g、1.25インチ/2インチバレル共用となっています。価格は全種共通の税込34,800円です。

焦点距離

一般にアイピースは√2倍の焦点距離の刻みが多いのですが、モーフィアスは9mmと17.5mmの間に12.5と14の2本があって、より細かく刻まれています。コテコテのマニア以外、6本を全て揃える人は少ないとは思うのですが(*)、刻みが細かいのは所有する鏡筒にあった倍率を選べるため、良いことだと思います。

(*)6本フルセットは10%ほどの割引(196,800円)でしかもアルミケース、Tアダプタ、一回り大きなホルスターケースが付いています。

ただ、願わくば20mmが欲しかった気がします。まあ76°の視野を1.25インチスリーブで実現するのは物理的に無理なのでしょう。

外観

モーフィアスをアイレンズ側から見たところ。アイレンズは短い焦点距離でも同じ大きさで、とても覗きやすくなっています。

モーフィアスは焦点距離が違ってもほぼ同じ外観、仕様になっていて、違いは鏡胴に巻かれたゴム部の上の長さだけ。暗闇で使用した際に、どれがどれかを判別するのに苦労しましたが(*)、同じメーカーの製品を複数使う場合はある意味仕方ないでしょう。

(*)後述しますが、これに対する具体的な対策も施されています。

2インチ・1.25インチ共用、脱着しやすい「ラインパターン」

左)2インチスリーブで装着した状態、右)1.25インチスリーブで装着した状態。どちらでも装着できるので、お手軽観望にはとても便利。

モーフィアスは光学性能だけでなく、使い勝手の配慮が優れています。その一つが2インチ・1.25インチ共用のスリーブ。スリーブ径の異なるアイピースが混在すると運用がめんどくさくなるものですが、モーフィアスならどちらでも使用可能。これは使ってみて便利に感じました(*)。

(*)当然ですが、2インチと1.25インチではスリーブ装着時のピント位置は大きく変わります。

また、スリーブの脱落防止対策として、スリーブに「大きな段」を入れるのではなく、小さなスジを多数彫る形の「ラインパターン」になっています。「ネジを緩めても緩め足りなくてアイピースが外れない」のは観望あるある。かなりイラっと来ますが、ラインパターンならその可能性が激減。「これは良いもの」でした。

 

実視レビュー

販売店の国際光器様よりモーフィアスシリーズをお借りしてまだ日が浅いのですが、遠征地でのディープスカイや、接近中の火星・土星・木星、地上風景などをFSQ106ED、C8、BORG76で実視してみました。その印象を簡単にまとめてみます。

見かけ視界76度、約20mmのアイレリーフ

宿命のライバル?XW-20とモーフィアス17mm。

見かけ視野は76°、この視野は編集部では最も使用頻度の高いPENTAXの XW-20より6度広くなっています。実際に使ってみてもこの差は視野の「余裕」として感じられ、非常に使いやすいものでした。モーフィアスシリーズはこのPENTAX XWシリーズとさまざまな点で似た特徴・価格を持ち、直球でライバル関係にある製品です。

アイレリーフはXWシリーズ同様に20mmほどあるため(焦点距離によって微妙に異なりますが)覗きやすいのが大きな特徴です。ゴム見口を伸ばした状態でメガネをかけてちょうどよいくらいで、かなり余裕があります。ただし、焦点距離が短くなるほど眼の前後左右の位置に敏感になり、正しく合わせないと視野内が陰る「インゲン豆現象」が出ますが、これはハイアイ(アイレリーフが長い)アイピースの宿命でもあります。慣れれば特に問題ないレベルです。

周辺像

モーフィアスの周辺像の崩れの少なさ、像面の平坦さは特筆に値します。XW-20との比較ではいずれもモーフィアスが勝っていました。ただし、周辺では若干の色づき(倍率の色収差)が見られます(*)。ディープスカイ観望では視野周辺に輝星がないかぎりあまり色収差は問題にならないので、これが問題になるとすれば月面の観望のときくらいでしょう。

(*)視野周辺の色づきは「正立プリズム」「天頂プリズム」を使用した場合、より大きくなる場合があります。FSQ106ED+モーフィアス17mmでは、プリズムとミラーではっきりとした色づきの差が見られました。鏡像の不自然さから最近では観望は正立プリズムが使われることが多くなっていますが、色収差をアイピースだけのせいにしてはいけません^^;

中心像

中心像も非常に良好です。M57やM16/17、M8/M20,M22などのディープスカイ、夏の好シーイングの下でC8やFSQ106EDで土星・火星を見てみましたが、星像は尖鋭、コントラストも良好でたんへん満足のいくものでした。

バローレンズとの相性

一般にモーフィアスのようなスマイスレンズを使用したアイピースはバローレンズとの相性が良くないといわれています。それって実際どのくらい影響があるのか?モーフィアスで実視してみました(*)。

(*)バローレンズはセレストロンのLuminous 2.5倍バロー、鏡筒はFSQ106EDです。

その結果、中心像・周辺像ともに極端な悪化はなく、実用上は十分ではないか?との印象を受けました。正直いってブラインドテストをされたときに100%当てる自信はないほどです。有名なアイピース設計者が「完璧なアイピースはその構成が何であれ、バローを付けても完璧なはず」のようなことを書いていましたが、そういうことなのかもしれません(*)。

(*)今回のテストはあくまで筆者の使用機器による主観的な判断です。一般的に保証できることではないことを強くお断りしておきます。

比較に使用したZeiss アッベオルソ4mm(左)24.5mmスリーブの古い個体です。右はモーフィアス4.5mm。

Zeissのアッベオルソ4mmとモーフィアスの4.5mmで、2.5xバローを使用して約350倍の過剰倍率で昼間の風景での比較もしてみましたが、「気持ちアッベオルソ4mmの方が良く見える」印象ですが大きな差は感じませんでした。

このあたり、後述しますが国際光器様ではモーフィアスの無料短期レンタルを実施されています。ご興味のある方は、ぜひご自分の眼でお試しいただくのはいかがでしょうか。

 

 

適した用途

明るい屈折鏡筒の最初の1本に17mm

BORG76にモーフィアス17.5mmを取り付けたところ。倍率30倍、星雲星団巡りに好適。この鏡筒はアクロマートですが、EDやフローライトならさらに収差の少ない像が楽しめます。

焦点距離500mmなら約30倍、800mmなら約46倍。どちらも散開星団の美しい姿を楽しめる倍率です。若干倍率は高めですが、76度の広視野がそれをカバーしてくれるはず。税抜3.5万円の投資になりますが、これ1本だけでもディープスカイが十二分に楽しめます。もう1本買い足すなら思い切って6.5mm(500mmなら約77倍、800mmなら約123倍)をオススメします。「星雲星団は低倍率で」とよく言われますが、これは都市伝説に近いと筆者は考えています。球状星団はもちろんですが、惑星状星雲や系外銀河はけっこう高倍率をかけても見えなくなるほどには暗くはなりませんし、低倍率では見えなかった構造が浮き上がってくるものです。ただし口径が小さい場合はさすがに高倍率では暗くなります。口径mm×1.0〜1.5くらいまでが拡大ディープスカイには妥当でしょう。

月面散歩に

見かけ視野が76°あるので、150倍くらいまでなら月が視野内にすべて収まる勘定です。100°アイピースでの高倍率の月面散歩の素晴らしさはよく語られますが、76度でもそれとあまり遜色なく楽しむことができます。最近は惑星用の高倍率用の超短焦点が流行ですが、月面では広視野の高倍率アイピースがオススメです。焦点距離500mmなら4.5mmで約110倍、焦点距離800mmなら6.5mmで約120倍。お手持ちの鏡筒の焦点距離にあわせて、100倍〜150倍になる広視野アイピースは、月もディープスカイも楽しめる「2本目」として、ずっと使える焦点距離になります。

3本セットで大人買い

ご予算20万で眼視入門、のような太っ腹な方の場合はモーフィアス「6本セット」をオススメしてもいいのですが、個人的にはまず3本セットを推奨します。これで予算の半分、10万円。残りの予算は実際に見て経験してからの分に残しておくのです。資金に余裕がある場合でも、まずは半分くらいの予算は残しておくのが、沼の誘惑の多い世界のでの賢い生き方かもしれませんね。

3本手に入れるとしたら、写真の17,12.5,6.5なのか、17,9,4.5なのか。そのへんはお使いの鏡筒も考慮してたっぷり悩んでください^^

ベテランの、「倍率の谷間」を埋める1本

既に3本、4本とアイピースを所有されているベテランの方には「谷間を埋める1本」としてのモーフィアスのチョイスもあるかもしれません。筆者個人の例ですが、個人所有の主力アイピースは40mm,20mm,10mm,3mmの4本です。14mmと6mmあたりをモーフィアスで埋めることができたら・・・それとも、20mmを17mmでリプレースするか・・などと考えています。

双眼用途に

毎度のことですが、こちらはかなりコアな話になるのでさらりとだけ。モーフィアスは余裕で双眼運用が可能な鏡胴サイズ。しかもイーソスの1/3近くの価格なので、2本買ってもまだおつりが来ます。大事なことなので二度書きます。イーソスの1/3近くの価格なので、2本買ってもまだおつりが来ます。

ヤバイですね。双眼装置は当分こらえることにします^^;;

まだある使い勝手の工夫

アイピース判別の工夫

焦点距離を区別しやすくするための工夫が2つなされています。一つは鏡胴の文字レリーフ「x.xmm MORPHEUS 76°」に施された蓄光性の塗装。暗闇でも薄ぼんやりと焦点距離が読めるのは便利ですが、蓄光部はmm表記の部分だけの方が便利ではないかと思いました。また、120°毎に3カ所に彫られているとさらに便利そうです。

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もう一つの工夫は、付属のホルスター(ウェストケース)に取り付けるステンレスの金具。突起の位置を6通りに設定することができ、手探りで焦点距離を判別しようというアイデアです。

このホルスターは残念ながら今回は使用できなかったのですが、かなり便利そうな気がします。観望の時に一番困るのがアイピースの置き場所。外に出すと夜露が付くし、アルミトランクにいれるのは少し大げさ。こんなふうに腰にぶら下げることができれば、気軽な観望にはうってつけではないでしょうか。さすがに6本のアイピースを腰に巻くと自爆テロのようですが、左右2本、左右真ん中3本なら便利に使えそうと感じました。

防水仕様

モーフィアスは全製品防水仕様。水没はダメですが、夜露や小雨くらいなら大丈夫。これはかなり安心ですね。ちなみに、ライバル?のPENTAX XWシリーズも防水仕様(JIS4級)です。

交換可能な目当て

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アイカップが2種付属します。標準タイプ(上の画像の左2つ)は2段折りたたみ式の円柱型。右の2つは双眼用途に適した「ウイングタイプ」です。

カメラ接続

ASI294MCを取り付けたところ。T-2マウントの延長チューブを使用して拡大率を変更することも可能です。

モーフィアスのアイカップ取り付け部はM43のオスネジとなっていて(*)、この部分にねじ込むT-2マウントなどの変換アダプタが用意されています。

(*)なんとこの仕様までがライバルのXWシリーズと同等です。

これを使用すればカメラを接続した「拡大撮影」や「コリメート撮影」が可能。写真はCMOSカメラASI294MCを接続したところ。バローレンズがなくても手軽に拡大撮影ができますし、コンデジやスマホをコリメート接続するアダプタも自作できそうですね。

開発元・販売元のご紹介

バーダープラネタリウム社

baader planetarium
https://www.baader-planetarium.com

バーダープラネタリウム社はドイツの総合光学メーカー。天体望遠鏡とアイピースなどのアクセサリ、天体用フィルターなど様々な製品を取り扱っています。

国際光器

国際光器オンラインショップ
http://kokusai-kohki.shop-pro.jp

バーダープラネタリウム社の日本総代理店が京都の国際光器様。国際光器様では、現在モーフィアスアイピースのデモ品無料(返送時の送料実費のみ負担)短期レンタルを実施されています。ご興味を持たれた方は、是非利用されてみてはいかがでしょうか。

国際光器オンラインストア・モーフィアス無料レンタル
http://kokusai-kohki.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=2415913&csid=0

また、本記事で言及した「焦点距離表示の120度おきの刻印」「20mmのラインナップ追加」については、バーダープラネタリウム本社に要望として伝えていただけるそうです。製品をより良くするためにも、多くのユーザー様からのフィードバックには価値があります。具体的な進展や有益なフィードバックがあれば、本記事にも追記していく予定です。

国際光器様に関しては、天リフの「ショップ訪問」記事もあわせてごらんください。

【天文ショップ訪問】(9)国際光器(京都府亀岡市)

まとめ

いかがでしたか?
モーフィアスシリーズは、狭すぎず広すぎない76度の見かけ視界と、中心から周辺まで非常に良好な結像性能を持ちながらも、手頃な価格と使い勝手を実現した「高級アイピース」のスタンダードといえるでしょう。

長焦点側が17.5mmまでなのが若干残念ですが、4.5mmの高倍率から中低倍率までを広くカバーできます。予算に余裕があれば最初の1本として眼視入門用にもオススメ。とにかく高性能を使い倒して眼視を楽しみ尽くしたい、そんな初心者からベテランまで末永く使える製品と感じました。


  • この記事は国際光器様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で執筆したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 本記事は極力客観的に実視をもとに作成していますが、本記事によって発生した読者様の事象についてはその一切について責任を負いかねますことをご了承下さい。
  • アイピースは使用する鏡筒や接続環、プリズムなどによってピントが出ない場合があります。購入をされる場合は十分に検討ください。接続の組み合わせについてのお問い合わせは、機材をご購入ないしはご購入予定の販売店様にお願いいたします。
  • 参考文献:「天文アマチュアのための望遠鏡光学・屈折編」 1989 吉田正太郎
  • 機材の価格・仕様は執筆時(2018/7/20)のものです。

 

 

【連載】アイピース探訪(1)バーダー・モーフィアスシリーズhttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-150x150.jpg編集部アイピース探訪レビュー天リフ眼視推進委員会がお送りする「アイピース探訪」シリーズ。第1回は「バーダープラネタリウム社」製のモーフィアスシリーズです。 特徴と設計コンセプト レアアース(ランタン系)ガラス材採用、5群8枚、ファントム・グループ・コーティング モーフィアスの光学設計としてのコンセプトはこのタイトルの3点のみ。製品ページを見てもレンズ構成を示す図はこの図のみで、詳細の構成はわかりません。基本的にああだこうだという能書きで性能を語るのではなく、実際に見てくれば良さが分かるはずだよ(*)、というスタンス。武骨です。「これは、良いものである」という自信。「アイピースは使って見てなんぼ」さすがドイツ人です。 (*)念のため能書きを垂れておくと、ランタン系のガラス材は高屈折率・低分散で、レンズの曲率を小さくできるなど収差補正に効果があるガラス材です。5群8枚とレンズエレメントは多めですが、反射率の低いマルチコート「ファントム・グループ・コーティング」が全面にほどこされています。17.5mmのみ、異常分散性を持つEDガラスが3枚使用されています。 実際に使ってみて、その通り能書きで性能を語る必要のない製品だなと感じました。詳しくは実視レビューに書きますが、スペックや投資額のことは一切忘れて観望に専念できる素晴らしいクオリティと使いやすさです。 見かけ視野76° もう一つ外してはならない特徴が、全焦点距離で76度の広視界。100°アイピースが普通にある昨今、76度は「めちゃめちゃ広い」わけではありませんが、周辺まで自然に見渡せる広さとしては最大級のものでしょう。 個人的感想ではありますが、100度アイピースでは最周辺は「見る」ためのものではなく「そこにも星があることがわかる」という「雰囲気」のためのものです。この「雰囲気」に魔力的なものがあるのも事実ですが、視線を端までぐるぐる回すと逆に疲れますし、視野の端まで見える位置に眼を安定して置くのは慣れたとしてもそれなりの意識が必要です。ストレスなく気軽に楽しむ意味では76度はよい設定だと感じました。 ラインナップとスペック 国際光器オンラインストア・MORPHEUS(モーフィアス) http://kokusai-kohki.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=1696449&csid=8 国際光器カタログ館・モーフィアスシリーズ http://www.kokusai-kohki.com/Baader/morpheus.html モーフィアスのラインナップは4.5mm〜17.5mmまで全6本。いずれも見かけ視野は76度、アイレリーフは17.5mm〜21mm、重量は345g〜415g、1.25インチ/2インチバレル共用となっています。価格は全種共通の税込34,800円です。 焦点距離 一般にアイピースは√2倍の焦点距離の刻みが多いのですが、モーフィアスは9mmと17.5mmの間に12.5と14の2本があって、より細かく刻まれています。コテコテのマニア以外、6本を全て揃える人は少ないとは思うのですが(*)、刻みが細かいのは所有する鏡筒にあった倍率を選べるため、良いことだと思います。 (*)6本フルセットは10%ほどの割引(196,800円)でしかもアルミケース、Tアダプタ、一回り大きなホルスターケースが付いています。 ただ、願わくば20mmが欲しかった気がします。まあ76°の視野を1.25インチスリーブで実現するのは物理的に無理なのでしょう。 外観 モーフィアスは焦点距離が違ってもほぼ同じ外観、仕様になっていて、違いは鏡胴に巻かれたゴム部の上の長さだけ。暗闇で使用した際に、どれがどれかを判別するのに苦労しましたが(*)、同じメーカーの製品を複数使う場合はある意味仕方ないでしょう。 (*)後述しますが、これに対する具体的な対策も施されています。 2インチ・1.25インチ共用、脱着しやすい「ラインパターン」 モーフィアスは光学性能だけでなく、使い勝手の配慮が優れています。その一つが2インチ・1.25インチ共用のスリーブ。スリーブ径の異なるアイピースが混在すると運用がめんどくさくなるものですが、モーフィアスならどちらでも使用可能。これは使ってみて便利に感じました(*)。 (*)当然ですが、2インチと1.25インチではスリーブ装着時のピント位置は大きく変わります。 また、スリーブの脱落防止対策として、スリーブに「大きな段」を入れるのではなく、小さなスジを多数彫る形の「ラインパターン」になっています。「ネジを緩めても緩め足りなくてアイピースが外れない」のは観望あるある。かなりイラっと来ますが、ラインパターンならその可能性が激減。「これは良いもの」でした。   実視レビュー 販売店の国際光器様よりモーフィアスシリーズをお借りしてまだ日が浅いのですが、遠征地でのディープスカイや、接近中の火星・土星・木星、地上風景などをFSQ106ED、C8、BORG76で実視してみました。その印象を簡単にまとめてみます。 見かけ視界76度、約20mmのアイレリーフ 見かけ視野は76°、この視野は編集部では最も使用頻度の高いPENTAXの XW-20より6度広くなっています。実際に使ってみてもこの差は視野の「余裕」として感じられ、非常に使いやすいものでした。モーフィアスシリーズはこのPENTAX XWシリーズとさまざまな点で似た特徴・価格を持ち、直球でライバル関係にある製品です。 アイレリーフはXWシリーズ同様に20mmほどあるため(焦点距離によって微妙に異なりますが)覗きやすいのが大きな特徴です。ゴム見口を伸ばした状態でメガネをかけてちょうどよいくらいで、かなり余裕があります。ただし、焦点距離が短くなるほど眼の前後左右の位置に敏感になり、正しく合わせないと視野内が陰る「インゲン豆現象」が出ますが、これはハイアイ(アイレリーフが長い)アイピースの宿命でもあります。慣れれば特に問題ないレベルです。 周辺像 モーフィアスの周辺像の崩れの少なさ、像面の平坦さは特筆に値します。XW-20との比較ではいずれもモーフィアスが勝っていました。ただし、周辺では若干の色づき(倍率の色収差)が見られます(*)。ディープスカイ観望では視野周辺に輝星がないかぎりあまり色収差は問題にならないので、これが問題になるとすれば月面の観望のときくらいでしょう。 (*)視野周辺の色づきは「正立プリズム」「天頂プリズム」を使用した場合、より大きくなる場合があります。FSQ106ED+モーフィアス17mmでは、プリズムとミラーではっきりとした色づきの差が見られました。鏡像の不自然さから最近では観望は正立プリズムが使われることが多くなっていますが、色収差をアイピースだけのせいにしてはいけません^^; 中心像 中心像も非常に良好です。M57やM16/17、M8/M20,M22などのディープスカイ、夏の好シーイングの下でC8やFSQ106EDで土星・火星を見てみましたが、星像は尖鋭、コントラストも良好でたんへん満足のいくものでした。 バローレンズとの相性 一般にモーフィアスのようなスマイスレンズを使用したアイピースはバローレンズとの相性が良くないといわれています。それって実際どのくらい影響があるのか?モーフィアスで実視してみました(*)。 (*)バローレンズはセレストロンのLuminous 2.5倍バロー、鏡筒はFSQ106EDです。 その結果、中心像・周辺像ともに極端な悪化はなく、実用上は十分ではないか?との印象を受けました。正直いってブラインドテストをされたときに100%当てる自信はないほどです。有名なアイピース設計者が「完璧なアイピースはその構成が何であれ、バローを付けても完璧なはず」のようなことを書いていましたが、そういうことなのかもしれません(*)。 (*)今回のテストはあくまで筆者の使用機器による主観的な判断です。一般的に保証できることではないことを強くお断りしておきます。 Zeissのアッベオルソ4mmとモーフィアスの4.5mmで、2.5xバローを使用して約350倍の過剰倍率で昼間の風景での比較もしてみましたが、「気持ちアッベオルソ4mmの方が良く見える」印象ですが大きな差は感じませんでした。 このあたり、後述しますが国際光器様ではモーフィアスの無料短期レンタルを実施されています。ご興味のある方は、ぜひご自分の眼でお試しいただくのはいかがでしょうか。     適した用途 明るい屈折鏡筒の最初の1本に17mm 焦点距離500mmなら約30倍、800mmなら約46倍。どちらも散開星団の美しい姿を楽しめる倍率です。若干倍率は高めですが、76度の広視野がそれをカバーしてくれるはず。税抜3.5万円の投資になりますが、これ1本だけでもディープスカイが十二分に楽しめます。もう1本買い足すなら思い切って6.5mm(500mmなら約77倍、800mmなら約123倍)をオススメします。「星雲星団は低倍率で」とよく言われますが、これは都市伝説に近いと筆者は考えています。球状星団はもちろんですが、惑星状星雲や系外銀河はけっこう高倍率をかけても見えなくなるほどには暗くはなりませんし、低倍率では見えなかった構造が浮き上がってくるものです。ただし口径が小さい場合はさすがに高倍率では暗くなります。口径mm×1.0〜1.5くらいまでが拡大ディープスカイには妥当でしょう。 月面散歩に 見かけ視野が76°あるので、150倍くらいまでなら月が視野内にすべて収まる勘定です。100°アイピースでの高倍率の月面散歩の素晴らしさはよく語られますが、76度でもそれとあまり遜色なく楽しむことができます。最近は惑星用の高倍率用の超短焦点が流行ですが、月面では広視野の高倍率アイピースがオススメです。焦点距離500mmなら4.5mmで約110倍、焦点距離800mmなら6.5mmで約120倍。お手持ちの鏡筒の焦点距離にあわせて、100倍〜150倍になる広視野アイピースは、月もディープスカイも楽しめる「2本目」として、ずっと使える焦点距離になります。 3本セットで大人買い ご予算20万で眼視入門、のような太っ腹な方の場合はモーフィアス「6本セット」をオススメしてもいいのですが、個人的にはまず3本セットを推奨します。これで予算の半分、10万円。残りの予算は実際に見て経験してからの分に残しておくのです。資金に余裕がある場合でも、まずは半分くらいの予算は残しておくのが、沼の誘惑の多い世界のでの賢い生き方かもしれませんね。 3本手に入れるとしたら、写真の17,12.5,6.5なのか、17,9,4.5なのか。そのへんはお使いの鏡筒も考慮してたっぷり悩んでください^^ ベテランの、「倍率の谷間」を埋める1本 既に3本、4本とアイピースを所有されているベテランの方には「谷間を埋める1本」としてのモーフィアスのチョイスもあるかもしれません。筆者個人の例ですが、個人所有の主力アイピースは40mm,20mm,10mm,3mmの4本です。14mmと6mmあたりをモーフィアスで埋めることができたら・・・それとも、20mmを17mmでリプレースするか・・などと考えています。 双眼用途に 毎度のことですが、こちらはかなりコアな話になるのでさらりとだけ。モーフィアスは余裕で双眼運用が可能な鏡胴サイズ。しかもイーソスの1/3近くの価格なので、2本買ってもまだおつりが来ます。大事なことなので二度書きます。イーソスの1/3近くの価格なので、2本買ってもまだおつりが来ます。 ヤバイですね。双眼装置は当分こらえることにします^^;; まだある使い勝手の工夫 アイピース判別の工夫 焦点距離を区別しやすくするための工夫が2つなされています。一つは鏡胴の文字レリーフ「x.xmm MORPHEUS 76°」に施された蓄光性の塗装。暗闇でも薄ぼんやりと焦点距離が読めるのは便利ですが、蓄光部はmm表記の部分だけの方が便利ではないかと思いました。また、120°毎に3カ所に彫られているとさらに便利そうです。 もう一つの工夫は、付属のホルスター(ウェストケース)に取り付けるステンレスの金具。突起の位置を6通りに設定することができ、手探りで焦点距離を判別しようというアイデアです。 このホルスターは残念ながら今回は使用できなかったのですが、かなり便利そうな気がします。観望の時に一番困るのがアイピースの置き場所。外に出すと夜露が付くし、アルミトランクにいれるのは少し大げさ。こんなふうに腰にぶら下げることができれば、気軽な観望にはうってつけではないでしょうか。さすがに6本のアイピースを腰に巻くと自爆テロのようですが、左右2本、左右真ん中3本なら便利に使えそうと感じました。 防水仕様 モーフィアスは全製品防水仕様。水没はダメですが、夜露や小雨くらいなら大丈夫。これはかなり安心ですね。ちなみに、ライバル?のPENTAX XWシリーズも防水仕様(JIS4級)です。 交換可能な目当て アイカップが2種付属します。標準タイプ(上の画像の左2つ)は2段折りたたみ式の円柱型。右の2つは双眼用途に適した「ウイングタイプ」です。 カメラ接続 モーフィアスのアイカップ取り付け部はM43のオスネジとなっていて(*)、この部分にねじ込むT-2マウントなどの変換アダプタが用意されています。 (*)なんとこの仕様までがライバルのXWシリーズと同等です。 これを使用すればカメラを接続した「拡大撮影」や「コリメート撮影」が可能。写真はCMOSカメラASI294MCを接続したところ。バローレンズがなくても手軽に拡大撮影ができますし、コンデジやスマホをコリメート接続するアダプタも自作できそうですね。 開発元・販売元のご紹介 バーダープラネタリウム社 baader planetarium https://www.baader-planetarium.com バーダープラネタリウム社はドイツの総合光学メーカー。天体望遠鏡とアイピースなどのアクセサリ、天体用フィルターなど様々な製品を取り扱っています。 国際光器 国際光器オンラインショップ http://kokusai-kohki.shop-pro.jp バーダープラネタリウム社の日本総代理店が京都の国際光器様。国際光器様では、現在モーフィアスアイピースのデモ品無料(返送時の送料実費のみ負担)短期レンタルを実施されています。ご興味を持たれた方は、是非利用されてみてはいかがでしょうか。 国際光器オンラインストア・モーフィアス無料レンタル http://kokusai-kohki.shop-pro.jp/?mode=cate&cbid=2415913&csid=0 また、本記事で言及した「焦点距離表示の120度おきの刻印」「20mmのラインナップ追加」については、バーダープラネタリウム本社に要望として伝えていただけるそうです。製品をより良くするためにも、多くのユーザー様からのフィードバックには価値があります。具体的な進展や有益なフィードバックがあれば、本記事にも追記していく予定です。 国際光器様に関しては、天リフの「ショップ訪問」記事もあわせてごらんください。 http://reflexions.jp/tenref/orig/2018/05/22/4959/ まとめ いかがでしたか? モーフィアスシリーズは、狭すぎず広すぎない76度の見かけ視界と、中心から周辺まで非常に良好な結像性能を持ちながらも、手頃な価格と使い勝手を実現した「高級アイピース」のスタンダードといえるでしょう。 長焦点側が17.5mmまでなのが若干残念ですが、4.5mmの高倍率から中低倍率までを広くカバーできます。予算に余裕があれば最初の1本として眼視入門用にもオススメ。とにかく高性能を使い倒して眼視を楽しみ尽くしたい、そんな初心者からベテランまで末永く使える製品と感じました。 この記事は国際光器様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で執筆したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 本記事は極力客観的に実視をもとに作成していますが、本記事によって発生した読者様の事象についてはその一切について責任を負いかねますことをご了承下さい。 アイピースは使用する鏡筒や接続環、プリズムなどによってピントが出ない場合があります。購入をされる場合は十分に検討ください。接続の組み合わせについてのお問い合わせは、機材をご購入ないしはご購入予定の販売店様にお願いいたします。 参考文献:「天文アマチュアのための望遠鏡光学・屈折編」 1989 吉田正太郎 機材の価格・仕様は執筆時(2018/7/20)のものです。    編集部発信のオリジナルコンテンツ