みなさんこんにちは!

最近矢継ぎ早に?レビュー記事を量産している天リフですが、今度は「経緯台」です。3月20日発売のスコープテック「ZERO(ゼロ)」の評価機をお借りし、じっくり使用することができました。そのレビューをお届けします!

スコープテック ゼロ



スコープテックのHP(スコープタウン)のZERO(ゼロ)のページの情報はたいへん充実しています。商品の特徴・使用事例・各種アクセサリなどが豊富な画像とで解説されています。良いところばかりではなく、商品の弱点やそれを補うための使いこなしのヒントも書かれています。ぜひこちらもご一読されることをオススメします!

ZERO(ゼロ)の特長

使いやすいフリーストップ・微動装置付きマウント

スコープテックの口径80mm焦点距離1000mmの屈折鏡筒を搭載したところ。小口径屈折のように鏡筒が細い場合は、天頂から地平線まで、死角なしで可動できます。

ZERO(ゼロ)は「全周微動装置付き」「フリーストップ」の片持ちフォーク式経緯台マウントです。この形式の架台は直感的に誰にでも操作ができ、高倍率で対象を見る場合でも微動装置で細かく対象を追尾できるのが大きな特長です。

これだけなら「ありきたり」の出だしなのですが、ZERO(ゼロ)は後発製品(*)である利を生かして、さまざまな工夫がこらされています。それを見ていきましょう。

(*)後段でも触れますが、ずばりビクセンのポルタIIがこの形式の架台の先発製品です。

死角の少ない角度可変のフォークアーム

フォークアームは10度刻みで自由に角度を調整可能です。

フォーク式の架台は、鏡筒のフォークアームの角度によっては、鏡筒と三脚などが干渉して可動範囲が制約されてしまいます。この短所をカバーするために、ZERO(ゼロ)のフォークアームは角度可変式となっています。

フォークアームの角度による、最大仰角の差。鏡筒はSky-WatcherのBKP130です。

たとえば、天頂付近に鏡筒を向ける場合、フォークアームの角度がより立っていると、三脚と鏡筒が干渉して、最大仰角が制限されます(上画像右)。こんなときは、フォークアームをより寝かせることで可動範囲が広くなります(上画像左)。

フォークアームの角度による、最小仰角の差。

一方、水平方向に鏡筒を向ける場合は、フォークアームの角度がより寝ていると、鏡筒と水平フォークアームが干渉して、最小仰角が制限されてしまいます(上画像左)。こんなときは、逆にフォークアームをより立てることで可動範囲が広くなります(上画像右)。

このように、フォークアームの角度を可変式にしたことで、より大型の機材を搭載したときでも、より死角が少ない設定が可能になっています。

「菊座ジョイント」による簡単な角度変更

「菊座ジョイント」の歯の数は36個。角度10°刻みで調整が可能。

この「角度可変」のコンセプトをスマートに実現するにはどうすればいいか。ここに大きな工夫がありました。ZERO(ゼロ)では、「菊座ジョイント」方式を採用することで剛性を損なわず簡単な角度調整を実現しています。

菊座ジョイントを緩めた状態と締めた状態。大きなツマミ(アーム固定ネジ)を回して締め込むだけで、一体成形と変わりのない剛性を実現しています。

角度調整はとても簡単。画像右のツマミ(アーム固定ネジ)を一回転半ほど緩めれば、角度を自由に変更できます。締めるのも簡単。あまり強い力を掛けなくてもしっかり固定することができます。

「モバイルポルタマウント」のジョイント部。ZEROよりも歯がやや浅く、歯数は24、角度15°刻みで調整が可能。こちらも一回転半ほどツマミを回せば調整できます。ZEROと違って、ジョイント部を外すことなく緩めるだけで収納ができますが、二カ所あるジョイントの操作が必要です。

モバイルポルタマウント」にも「菊座ジョイント」に似たジョイント機構(*)が採用されています。可変フォークアームを実現する技術として、各社に評価されているのでしょう。ちなみに、ZEROもモバイルポルタも、歯の先端の塗装が剥げやすい(数回使用すると剥げます)という欠点がありますが、これは機構上しかたないことでしょう。

(*)モバイルポルタの場合、凸部の歯の数が少なく(凹部の1/3)、歯の厚みも小さくなっています。

折りたたむとコンパクトに

菊座ジョイントのアーム固定ネジを6回転半ほど回すと外すことができ、三脚台座部のネジに付け替えると、このような収納体勢にすることができます。

「菊座ジョイント」の採用はもうひとつのメリットをもたらしました。フォークアームを分割して、コンパクトに畳むことができるようになったのです(*)。

(*)畳んだときのサイズは500mlのペットボトルより一回りほど大きい程度。細長いので、カメラバッグの望遠ズームレンズ(キヤノンの70-200mmF4)程度のスペースに収納できました。

左からポルタII、ZERO(ゼロ)、モバイルポルタマウント。

先行製品との収納状態の比較。「ポルタII」はフォークアームを畳むことができないので、かなり存在感があります。モバイルポルタはジョイント部のネジを完全に外さずに(緩めるだけで)折りたたみができるのがメリット(*)。

(*)三脚に取り付けたまま持ち運びができるメリットもあります。このあたりは、良し悪しと言うよりも設計コンセプトの違いでしょう。

軽量化と剛性の両立

各部の重量の合計は実測値で1455g。公称値は1440gですが、これはエンブレム(中央の丸い赤いシール)を含まない重量と推測します^^

ZERO(ゼロ)の本体重量は1.44kg。(ビクセンアリガタ含む・微動ハンドル含まず)。これはポルタIIの2/3程度です。にもかかわらず剛性感は上回っていて、実際に地上風景を観察した比較では、より速く振動が収束すると感じました(*)。

(*)振動の量や収束までの時間は搭載する鏡筒や三脚によっても大きく変わってきます。上記の評価は同一鏡筒・同一三脚での比較です。

振動の収束具合について比較した動画をひとつ張っておきます。筆者の実感値とも近く、よいリファレンスになることでしょう。

搭載可能重量7kg

FSQ106ED(総重量9kg)との組み合わせで使用してみました。三脚は「ゼロ用強化三脚」。とりあえず普通に使えましたが、後述するように重すぎる機材を搭載すると、使い方によっては故障の原因にもなりかねず、よい子は真似をしてはいけません。

ZERO(ゼロ)の公称搭載可能重量は7kg。鏡筒重量だけでいえば、10cmクラスの3枚玉アポ鏡筒、12cmクラスの2枚玉鏡筒、20cmクラスの反射鏡筒も搭載可能なスペックです。

一般に片持ちフォーク経緯台では、重量機材を搭載する場合、オフセットしたフォークアーム上にある回転軸にかかる「ナナメ方向にねじる力」が問題になります。これを上手に支えて、アーム全体で受け止めることができるかどうかでフリーストップや微動の滑らかさが大きく変わってきます。

実際に使用してみた感触では、7kgを少し越える程度の搭載機材であっても各部の動作はスムーズで、露骨に渋くなったりたわんだりするようなことはありませんでしたが(*)、メーカー保証外の自己責任になることには注意が必要です。

(*)  ポルタIIにも無理矢理同じ機材を積んでみましたが、これはちょっと怖い感じでした。

搭載可能重量の範囲であっても、実際の使用感は機材の特性(長さ・太さ・重量バランス)によっても変わってくるようです。「短い鏡筒」なら搭載重量を少しオーバーするくらいなら「いける感じ」ですが「長い鏡筒」では使用感が悪くなるようです(*)。

(*)ZEROのHPでは「7kg強のTSA120では、おすすめできない感じ」と書かれています。

いずれにせよ、操作感の評価は個人の感覚によっても変わってきます。実際に販売店のデモ機などで操作感を確認されたがよいでしょう。メーカー指定の搭載重量を超える運用は自己責任となることも、重ねて強調しておきます。

システム構成の柔軟性

M8とM6のネジ穴の間隔は天文機材のデファクトである35mm。各社のアリガタ・三脚に装着することが可能です。3/8のネジ穴は中央の脇にもう一つ開けられていて、カメラ用の3/8<>1/4変換アダプタが収納できる親切設計。

ZERO(ゼロ)の三脚側・鏡筒側の接続仕様は、カメラ機材の標準である「太ネジ(3/8インチUNC)」と、天文機材のデファクトスタンダード(実質標準)である35mm間隔・M8/M6になっています。このため、カメラ三脚やタカハシの鏡筒バンド・各社のアリミゾを使用することができます。

左が45mm用 右が60mm用の三脚アダプタ。それぞれ中央にM10のネジ穴、両脇に35mm間隔M8用のバカ穴があります。https://scopetown.jp/products/zero/

スカイウォッチャー・ビクセンの三脚を接続するためのアダプタも用意されていて、後述しますが、さまざまな三脚が使用できます。

ユーザーを独自規格に囲い込む「クローズアーキテクチャ」をとるべきか、それとも他社製品も使用できることを想定した「オープンアーキテクチャ」をとるべきか。業界・市場の状況によって様々ですが、天文機材という小さなマーケットには、後者がより適していることは明らかでしょう。ZERO(ゼロ)のようなオープンアーキテクチャの製品はユーザーとしては大歓迎ですね(*)。

(*)余談ですが、天体望遠鏡の世界では、架台まわりと接眼レンズではかなりオープンですが、各種リング規格は乱立気味です^^;;これが「リング地獄」・・・

微動ハンドル

左からフレキシブルハンドル370mm、微動短棒、ビクセンポルタ用微動ハンドル。画像のビクセン製のハンドル(ポルタIIなどに付属する止めネジのないタイプ)は同じ穴径6mmですが、勘合の仕様の関係でゼロでは使用することができません。

ZERO(ゼロ)の微動ハンドルは別売になっています。微動ハンドルは鏡筒の長さや接眼部の位置によって使いやすい長さが変わってくるため、別売にして自分で選んでもらうのは合理的な考え方だといえます。

上記のほかにも、より長い490mmと短い250mmのハンドルが用意されています。選択の目安も詳しくこのページに書いてあるので、購入前にはぜひご確認ください。

エンブレムシール

https://scopetown.jp/products/zero/

ZERO(ゼロ)の垂直フォームアームの「フリクション調整ノブ」には「エンブレムシール」が貼り付けられるのですが、これは上記の4種類を購入時に選べるようになっています。お好みのデザインを選んでね、という考え方です(*)。

(*)いずれ本体色も選べるようになると楽しいのですが。現在の黒色塗装は質実剛健でよいのですが、夜間の観測地では地味で目立ちません^^;; 将来のカラバリ展開にも期待したいところです。

シュミット・AZ-ZERO経緯台
https://www.syumitto.jp/SHOP/ST0001.html
中川光学研究室ブログより。http://nakagawa-opticslab.blog.jp/archives/21825908.html

ちなみに、ZERO(ゼロ)には、サイトロンジャパン社とのコラボ製品である「AZ-ZERO経緯台」というバリエーションもあります。こちらのエンブレムはサイトロンジャパンのロゴになっています。

スコープテック社とサイトロンジャパン社・ケンコー・トキナー社の間では、ZERO(ゼロ)の販売提携だけでなく、様々な周辺パーツ群の開発協業の話もあるようです。

ZERO(ゼロ)の「取扱読本」

スコープテック・ゼロ 取扱読本
https://scopetown.jp/wp-content/uploads/2020/02/8735b375f33950827dba0092deb8b3a7.pdf

ZERO(ゼロ)を開発したスコープテック社の、製品に対する強い思い入れとこだわりを感じさせるのが「取扱読本(取り扱い説明書)」です。28ページの中にZERO(ゼロ)の製品と使い方に対する全てが記述されています。PDFファイルとして公開されているので、購入前に詳しく検討することもできます。

ZERO(ゼロ)のエンジニアリング

ZERO(ゼロ)のHPには、エンジニアリングとしてのZERO(ゼロ)の様々な工夫点についても詳しく書かれています。そのいくつかを簡単にご紹介しておきましょう。

CADを使った構造解析

https://scopetown.jp/products/zero/

ZERO(ゼロ)の軽量化の秘密は、フォークアームの構造にあります。「最新のCADを使用し構造解析を行い、軽量化と剛性を高いレベルで両立させた」とあります。実際使ってみても、軽量でありながらビクともしないフォークアームの剛性感はすばらしいものがあります。

これまでの天文機材用の架台でも「肉抜き」による軽量化はもちろん行われていましたが、「重いほど架台は安定する」という認識から一歩進んだ、より積極的な軽量化と剛性の両立のアプローチは注目すべきところでしょう。

滑らかさを実現する軸構造

https://scopetown.jp/products/zero/

片持ちフォーク架台のキモになる部分です。軸にナナメにかかる力をどうやって受け止めるか。ZERO(ゼロ)では「軸を太くする」という重量増加に直結するアプローチではなく、「フリクション調整ノブ」で軸を引っ張り、鏡筒を受けるアリミゾ台座を「引きつける」ことで、重量をアーム全体で受ける構造になっています。

ZEROのフリクション調整ノブ。六角ネジ一つで取り外せますが、この分解は製品保証外なので非推奨です。

フリクション調整ノブとアームの間にはスラストボールベアリングが入っていて、フリーストップのフリクションの調整(*)は非常になめらかで気持ちのよい操作感です。フリーストップ動作を繰り返しても、緩んでくるようなこともありませんでした。

(*)このフリクションの状態は、主に「軽く」締めた状態で使用しました。理由は不明なのですが、ノブを締め込みすぎると振動の減衰周期が長くなり、少し緩めにしておく方が速く収束するようです。逆に、重量機材の場合はフリクションを緩め過ぎた状態でのフリーストップ動作は、架台に無理をかけてしまうことに注意が必要です(次項「中型アポ鏡筒を搭載」を参照)。

品質の担保

生産工程の多くが海外に移転した中、製造段階での品質を確保するのは、現実的には大変なことです。ZERO(ゼロ)の場合はスリック社のタイ工場で生産されているそうですが、試作機と量産機の間に品質のギャップがないよう、かなり厳しいチェックが行われているようです。

編集部で評価した実機は「初回生産の検品前の入荷品」とのことで、垂直方向の微動が若干渋く感じられました(*)。これについては全品検品後に対策が講じられ、3月20日出荷の市販初回ロットでは大幅に改善されているそうです。

(*)ウォームギア・ホイルが気持ちよく動作するためにはギアのかみ合わせに適切なクリアランスが必要になるのですが、ギアの偏芯のように加工精度に誤差があると「緩いところ」と「渋いところ」が現れてしまいます。このとき「緩いところ」に合わせて調整すると「渋いところ」がかなり固くなってしまいます。

今後も高い品質が維持される生産体制・検品体制が維持されることを望みたいと思います。

ZERO(ゼロ)のシステム構成例

中型アポ鏡筒を搭載

M42を観望中。80倍程度の中倍率なら特にストレスなく使えました。

ZERO(ゼロ)はどのくらいの重量まで耐えるのでしょうか。公称搭載重量を大きくオーバーしている、総重量9kg超の口径10.6cmのアポ屈折FSQ106EDを搭載してみました。フォークアームと三脚・アリガタの接続部の強度的には、このくらいの重量なら問題ないようです(*)。

(*)ただし、仕様重量を超える過積載なので、あくまで自己責任でお願いします。

一方で、フリーストップの動作は搭載重量に対してよりシビアに扱う必要があります。水平方向の動作は重心が回転軸の上にある限りは比較的重量に耐えるはずですが、垂直方向の回転軸は搭載荷重を「片持ち」で支える形になるため、一番のウィークポイントになります。特に、フリクション調整ノブを緩めすぎた状態では、上下方向のアームとアリミゾ台座の間に、斜め方向に「すき間」ができた状態になり、この状態でフリーストップ動作を行うと動きが不安定になり故障の原因にもなるそうです。

筆者が使用した際は、若干動作が渋くなるものの普通に使えるように感じましたが、フリクション調整の状態次第では「危険」な運用だったようです。搭載重量オーバーで使用した場合、メーカー保証の対象にもなりませんので、無理な運用はなるべく避け、あくまで自己責任でお願いいたします(*)。

(*)なお、ZEROの「フリクション調整ノブ」は赤道儀の「クランプ」とは構造も位置づけも異なります。「きつく締め込んで固定する」ためのものではなく、あくまで「フリーストップの固さを調整する」ためのものです。締めすぎると微動動作も重くなりますし、緩めすぎると上述のように重量機材の場合には軸の回転が不安定になります。重量機材の場合は少し締め気味で運用するのが良いようです。

フォークアームは35mm間隔M8/M6対応なので、赤道儀で使用していたK-ASTEC社のアリガタをそのまま流用。三脚は最大径38mm径のステンレスパイプを使用した「ZERO用強化三脚」です。

この鏡筒やタカハシのTSA120あたりだと、鏡筒バンドやアリガタを含めると7kgを超えてしまいますが、タカハシのFC-100シリーズケンコーのSE102/120あたりなら余裕でしょう。口径10cmクラスの屈折での星空流しは、「入門レンジ」の8cmとは一線を画するものがあります。より大口径・重量機材が使えるのはZERO(ゼロ)の大きなメリットでしょう。

小型屈折鏡筒を搭載

月と木星などを楽しみました。右は今年から名前が「ペイペイドーム」に変わった福岡ドームです。観望機材一式で総重量約5.5kg。このくらいなら徒歩でも余裕です^^自宅近くの海岸まで徒歩10分、健康のため?ZEROを担いで早朝のお散歩です^^

剛性が高く重量機材が載るZERO(ゼロ)ですが、小型軽量なので軽量機材と組み合わせたライトなお手軽観望にも向いています。小型のアクロマート鏡筒「BORG76」を搭載してみました。三脚は小型軽量のお手軽三脚「ZERO用軽量三脚」です。

ペンタックスのXW20mmで25倍、SVBONYの10mmで50倍。この程度の倍率なら微動装置がなくてもフリーストップだけでもなんとかなる範囲ではありますが、やはり微動つき架台は便利です。三脚は剛性感が少なく頼りない感じではあるのですが、思いのほか振動が速く収束するので不快感はありませんでした。1.9kgと軽量で2段伸縮ですが、ごらんのようにそれなりの地上高があり、比較的楽な姿勢で使用できます。

三脚の長さを調整して、腰掛けてちょうどよい高さにしました。身長との兼ね合いもあり、三脚の高さは注意深く調整するのが吉です。

天頂付近を見るときは姿勢が低くなるので、小型の折りたたみ椅子を使いました。お手軽観望といっても、椅子があるかどうかでずいぶん快適さが変わります。

実はもう1セット「モバイルポルタマウント」も持参。ZERO(ゼロ)よりもさらに軽量な経緯台で、カメラ三脚で使用することを想定した製品です。三脚はさらに軽量な1kgのカメラ用三脚です。架台・三脚とも、ZERO(ゼロ)で使用したセットと比較すると剛性にはずいぶんと差があってかなり揺れるのですが、コンパクトさでは大きく勝ります。「お手軽観望」に徹すれば、こういう組み合わせもアリですね^^

小型ニュートン反射を搭載

Sky-WatcherのBKP130鏡筒。この日は夜露もなく一晩中鏡筒をZEROに搭載して眼視観望に大活躍。ファインダー位置の関係で接眼部をアリガタと同じ向きから少し上向きに設定しました。

口径13cmの小型ニュートン反射は3万円程度で入手できることもあり、撮影派の「撒き餌鏡筒」としても人気ですが、眼視性能もなかなかのものです。この鏡筒は重量3.76kg、ZERO(ゼロ)で使うのには余裕です。実は筆者は「ニュートン反射+経緯台」の組み合わせを使うのは初めてでしたが、実に使いやすいものだと感じました。小型ニュートン反射は経緯台にベストマッチの鏡筒であるともいえます。

赤道儀でニュートン反射を使用する場合、導入対象の位置によっては接眼部があさっての方向を向いてしまうことがあります。眼視用途では鏡筒を回転して見やすい位置に変える操作が必須になります。一方、経緯台なら接眼部の向きは常時一定。しかも、ちょうど立ち位置で導入・観望できる高さです(*)。

(*))ZERO専用軽量三脚を2段伸ばして使用しました。脚が同じ高さの場合、屈折だとどうしても接眼部が低くなるため椅子に腰掛けての観望になりますが、いろんな対象を流す場合、立ったりしゃがんだりするのが結構しんどかったりします^^;;;

フォークアームの角度を調整しているところ。

口径13cmとはいえ、屈折鏡筒よりは太いため、天頂付近を見られるフォークアームの角度設定だと、地平線付近に向けることができません。しかし、この程度の軽量鏡筒なら、フォークアームは鏡筒を搭載した状態で簡単に可変することができます(*)。

(*)鏡筒を体で抱え込んで支えた状態にして、菊座ジョイントの止めネジを緩めて変更しました。重量鏡筒の場合はやや危険を伴うため、くれぐれも自己責任でお願いします。

左が土星、右上が木星、すぐ下が火星です。木星は近くの恒星が紛れ込んで、「五大衛星」であるかのように見えていました^^

夜明け前。集結した木星・火星・土星を順に観望。北西の空でM51を見ていた体勢から鏡筒を向けるのに3秒ほど。この素早い操作感が手動経緯台の真骨頂。自動導入の経緯台も便利ですが、手になじむ手動導入経緯台には、まったく別の軽快さと便利さがありました。

この夜は、後述する「ZERO用軽量三脚」に載せて使用しましたが、100倍程度までなら震動が1秒程度で減衰してくれるので何の問題もありませんでした。ただし、210倍で惑星を見ると、細かな震動が収まるまでには5秒程度かかることがわかります。まあ5秒待てばいいのですが、じっくり高倍率を使うのなら三脚はもう1クラス上の製品を使用したほうが良いかもしれません。

中型シュミットカセグレンを搭載

C8シュミカセ搭載時の可動範囲。フォークアームを倒すとそれなりに上まで向きますが、逆に水平側の干渉が大きくなります。

重量機材を搭載可能なZERO(ゼロ)なのですが、太めの鏡筒の場合はどうしても干渉の問題が出てきます。上の画像はセレストロンの20cmシュミットカセグレン「C8」を搭載した例ですが、天頂方向は三脚、水平方向はZERO本体の水平軸のフリクション調整ノブの頭と干渉するため(*)、フォークアームの角度を調整しても可動域が制限されてしまいます。

(*)フォークアームの長さは水平・垂直軸ともにポルタIIとほぼ同じなのですが、このノブの厚み(27mm程度)の分だけクリアランスに差があります。

もう3cmフォークアームが長ければ・・と感じるところもありますが、長くすると逆に小型鏡筒で使用する場合には無駄な重量と振動を増やすことになります。製品のデザインとしてはやむにやまれぬトレードオフだったものと推測します(*)。

(*)ZEROの販売が好調に推移して「ロングフォークバージョン」が将来出るといいですね^^

制限はあるものの、強度的には十分使える範囲です。筆者の場合、ベランダ運用ではそもそも天頂方向は見られないので、実用範囲です^^

いずれにせよ、太めの鏡筒を載せる場合は注意が必要です。販売店の実機で確認するのがよいと思います。

赤道儀のフォークアームとして



SWAT-310赤道儀の架頭にZERO(ゼロ)を装着して、片持ちフォーク式赤道儀にしてみました。これはなかなか渋い組み合わせですね^^ 1軸のポータブル赤道儀の純正パーツで微動付きのドイツ式・フォーク式に組むと、あれこれパーツが必要になるのですが、ZERO(ゼロ)なら接続用のクランプ・プレートだけあればOK(*)。

(*)架頭部の1/4ネジで直づけも可能ですが、バランスを調整するためにはクランプ・プレート経由にする方がベターです。上記構成ではSWAT赤道儀架台頭部にはユニテック社アルカスイスキャッチャーを、ZERO経緯台底部にはK-ASTEC  DP38-110を使用しています。ビクセン規格のアリガタ・アリミゾも同様の構成を組むことが可能です。

この運用の場合は、フォークアームは「垂直」にします。傾けてしまうと、姿勢変化でバランスが崩れてしまうからです。

EOS6D(SEO-SP4) RedCat51(250mmF4.9) 1分×12枚コンポジット STC Astro Duoフィルター SWAT-310 フォークアームにZERO(ゼロ)を使用 福岡市地行浜にて

実写作例。焦点距離250mmの1分露出の短秒撮影ですが、とりあえず星像は点で合格点。写真撮影に使用する場合、可動部が存在しないパーツなら剛性だけの問題になるのですが、微動・粗動のあるZERO(ゼロ)の場合、バックラッシュや可動部のクリアランスが原因となって、姿勢変化に対して機材が「ずれ」たり、「たわむ(撓む)」可能性があります。目的外の使い方なのでどこまで使えるかは自己責任になりますが、試写した印象では小型鏡筒なら十分実用範囲といえそうです。

何より、2軸で微動が使えるのは望遠撮影ではとても便利。SWATの純正パーツで組んだ場合、赤緯は微動ユニットがありますが、赤経側は本体の高速駆動ボタンよりも素早く動かせるので便利だと感じました。

パノラマ撮影に

ZERO(ゼロ)を手にして真っ先に思ったことは「これはパノラマ雲台としても使えそう」でした。スムーズなフリーストップと高い剛性はまさにうってつけです。しかし・・残念なことに角度目盛がありません。クリックストップまでは望まないにしても、角度目盛さえあれば・・・・

というわけで即席で工作してみました。ZERO(ゼロ)の水平・垂直の回転軸は幅約12mm、全周179mmほどの円筒になっています。紙に手書きで目盛を打って、透明なテープで貼り付けました。矢印も同じく紙製です(*)。

(*)これはぜひシール形式のオプションを用意して欲しいところ。でも、目盛データをPDF化すれば、シール用紙に印刷するだけで簡単に自作できそうですね。

垂直のフォークアームがあまり長くないので、正しくノーダルポイント(*)を出すのはレンズによっては無理かもしれません。しかし、中景・遠景中心のパノラマの場合は少々ずれていても大丈夫です。お手軽パノラマ撮影用途なら問題ないでしょう

(*)カメラの回転によって視差が発生しないように、レンズの主点(ノーダルポイント)が回転軸の上にある必要があります。

EOS6D(SEO SP4) サムヤン35mmF1.4 F2.8 15秒 30度角刻みで縦横3×6=18コマをパノラマ合成 福岡県小石原にて

実写してみました。空の状態が今一つで、ぱっとしない天の川アーチですが^^;; 架台・三脚とも安定度は十分でした。ただし、専用のパノラマ雲台と違って、一定角度での「クリックストップ」はありません(*)。毎コマ、目盛環をライトで照らして角度目盛に合わせて回転させる手間がかかります。

(*) クリックストップがあれば、手の感触だけをたよりに目盛を見なくてもパノラマ撮影が可能になります。

パノラマ撮影専用の雲台はそれなりのお値段です。もちろん専門の製品にはそれだけの価値があるのですが、これが経緯台マウントで代用できれば、おサイフにも優しく活用の幅が広がりますね!

大型カメラ望遠レンズのジンバル雲台として

キヤノンのEF300mmF2.8L ISとEOS5DMArkIIIを搭載したところ。

「経緯台マウント」は天体望遠鏡を載せるためだけのものではありません^^ あまり動きの速くない風景や野鳥などの被写体であれば、ジンバル雲台風に望遠レンズを搭載して一般撮影にも使えそうです。

筆者はカメラ用のジンバル雲台の使用経験がないので、操作感の比較についてはコメントできないのですが、少なくとも自由雲台や2way/3wayのカメラ用雲台を使用するよりはずっと快適です。ただし、レンズを横方向に支える形になるので、うっかり脱落させてしまうと大きな事故になります。レンズと経緯台マウントの接合部の固定だけはしっかりしておくべきでしょう(*)。

(*)カメラ用のジンバル雲台は「横持ち」ではなく、垂直方向にレンズを装着する製品が大半です。

ZERO(ゼロ)の三脚選び

ZEROで使用可能な各社・各種の三脚の比較。青字はスコープテックでZERO用として販売されている製品です。

ZERO(ゼロ)の使いこなしのためには三脚選びがとても重要。ZERO(ゼロ)本体は軽量でありながら高い剛性と耐荷重を持っていますが、ZERO(ゼロ)のどの特長を生かすのかは、組み合わせる三脚次第。いくつかの三脚との組み合わせとその特長をみていきましょう。

小型三脚

本体重量「1.44kg」というZERO(ゼロ)のコンパクトさ・軽量さを生かすのであれば、やたら重い三脚を使うのは考えものです。小さく畳めてそれなりの強度のある三脚をチョイスしましょう。

スコープタウン・ZERO用軽量三脚
https://scopetown.jp/2020/03/3781/
アクセサリートレイが装着できる開き止めがあるのがグッドなところ。ただし三脚を畳んでも開き止めステーのせいであまりコンパクトにならないのがちょっと悲しいところ。三脚台座は3/8太ネジ仕様。

ZERO(ゼロ)用として販売されている軽量(実測1.9kg)、低価格(税込7,700円)の三脚です。スコープテックのHPに「株式会社ケンコー・トキナーを通じて輸入したもの」とありますが、外見からみると「AZ-GTi」や「AZ-PRONT」用の三脚の相当品のようです。

この三脚は決して剛性は高くはなく、組み立てた状態でぐっと力をかけるとすこしたわんでしまいます。筆者は当初「これで大丈夫なの?」という印象をもっていましたが、実際にZERO(ゼロ)と鏡筒を載せてみると、意外なほど振動が速く減衰し、みかけ以上に「使える」三脚です。

重量機材を搭載するのにはオススメしませんが、価格も安くカメラ三脚としても使える(*)汎用性もあり、サブ三脚を兼ねて1本持っておくのも大いにアリと感じました。ZERO用三脚のベストチョイスの一つでしょう。

(*)単体で使う場合は3/8太ネジ専用になります。

ちなみに、三脚トレイが付属するのも嬉しいところ。眼視用途ではアイピースを置くためにほぼ必須に近いアイテムですが、撮影用途でもヒーター用のバッテリやスマホを置いたり、便利に使うことができます。ネジ止めなしで簡単に着脱できるのもとても便利。

ビクセン・ポルタII付属三脚
型番は不明ですが、スペックを見る限り「SXG-AL130」とはまた微妙に異なるようです。三脚台座は45Φ仕様。

編集部で購入したポルタII経緯台の三脚(実測2.8kg)です。ポルタ本体込みでAmazonプライム価格21,891円。若干嵩張りますが、剛性はまあまあ及第点。

ZERO(ゼロ)用の三脚欲しさにあえてポルタIIを購入する方はいないとは思いますが、すでにポルタIIなどビクセン規格の三脚をお持ちであれば、その三脚を流用するのも大いにある選択肢でしょう。ただし、三脚に接続するためのアダプタ(*)が必要になります。

(*)オプションの三脚アダプタ(ビクセン規格の取付部の径が45mm、60mmに対応)

ビクセンAPP-TL130三脚
https://www.vixen.co.jp/product/25191_9/
やや重いですが、3段式で畳むと短くなるのがメリット。三脚台座は45Φ仕様。

隠れたビクセンのヒット商品、AP三脚(実測3.2kg)。3段伸縮で縮脚時にコンパクトでありながら使用時には高さを稼げます。ビクセン規格の赤道儀も搭載可能で汎用性高。天リフ編集部オススメチョイスの一つです。

中型三脚

逆に、ZERO(ゼロ)の剛性と搭載重量のメリットを生かすのなら、三脚はそれに見合った堅牢な製品を選ぶ必要があります。

ZERO用強化三脚
https://scopetown.jp/2020/03/3781/
非常に堅牢なのですが、三角板を固定するのが若干面倒ではあります。剛性感との引き換えなのでこれはいたしかたなし。三脚台座は60Φ仕様。

HPにはまだ正式には公開されていませんが、スコープテック様より借用した「販売予定(*)」の三脚(実測4.8kg)です。後述のSky-WacherのEQ5用三脚よりは一回り細身、丈も低く2段伸縮。

(*)最終的に販売される製品はこの三脚と同じではない可能性があります。

堅固な三角板を3本の足を締め付けることで、トラス構造でビクともしない剛性を発揮します。この三脚ならZERO(ゼロ)の剛性を最大限生かせるでしょう。

ビクセン SXG-HAL130
https://www.vixen.co.jp/product/25161_2/
この重量ならもう少し剛性感が欲しいところもありますが、この価格でこの剛性なら三つ星クラス。三脚台座は45Φ仕様。

編集部所有のビクセンSXシリーズ用の標準三脚(実測5.3kg)。赤道儀とのセットではかなり安価に販売されていて、「価格剛性比」の高いハイパフォーマンス三脚。このくらいの三脚なら、ZERO(ゼロ)の耐荷重限度までの搭載が可能でしょう(*)。

(*)感覚的にはZEROの性能を引き出すにはまだ剛性が若干足りないかも。

お世辞にもコンパクトとはいえませんが、すでにこの三脚を所有しているなら、活用しない手はありません。割安感のあるZERO(ゼロ)とのセット販売を行っている販売店もあるようですし、こちらも有力な選択肢でしょう。

SKY-Wacther EQ5GOTO用三脚
剛性感は紹介した三脚の中でナンバーワンですが、とにかく長い・・・三脚台座は60Φ仕様。

編集部所有のSky-Watcher EQ5用の三脚(実測6.4kg)。ZERO用強化三脚よりさらに重く、ぶっちゃけイヤになるほど長くて重くて存在感がある一方、絶大なる剛性と信頼感のある三脚です。重量的にはZERO(ゼロ)にはいささかオーバースペックかもしれませんが・・・

カーボン三脚・カメラ三脚

K-ASTEC PTP-C22三脚
http://k-astec.com/PTP-C22.html
軽量で高剛性。開脚角度も広く、カーボンのメリットを最大限生かした三脚。やや短いので、観望に使うなら3/8対応のハーフピラーとの併用が推奨。三脚台座は3/8太ネジ仕様。

販売終了品ですが(*)、40mm径パイプを使用した2段カーボン三脚(実測2.2kg)です。太ネジ対応なのでそのままZERO(ゼロ)を搭載することができます。

(*)同等クラスの40mm径の2段ないしは3段のカーボン三脚は、「天文用」と銘打って各社から販売されています。

最大高が高くないので長い鏡筒には向きませんが、軽量な観望システムを目指すならカーボン三脚も選択の一つです。軽量・高い剛性というZERO(ゼロ)の特長の両方を最大化できるでしょう。

ただし、自重が軽いので細かな揺れを拾いやすく、ストーンバッグなどで補強するのが吉。開脚角が広いので三脚と干渉しやすくなるため、ハーフピラーで運用する手もあります(*)。

(*)さらに振動を拾いやすくなるので一長一短ですが。。

ビクセンASG-CB90
https://www.vixen.co.jp/product/25164_3/
APP-TL130よりも2ランクほど剛性感があります。三脚台座は45Φ仕様。

ビクセンのカーボン・アルミハイブリッドの三脚(実測3.4kg)。最大径36mmとややスリムですが、2段目の脚がアルミで補強されていて、剛性感は同クラスのカーボン三脚に勝るほどです(*)。台座がビクセン規格なので同社のハーフピラーもそのまま使うことができます。

(*)メーカーがAXJ赤道儀用の三脚として推奨しているほどです。

ZERO(ゼロ)のメーカー推奨積載重量をオーバーしています!使用される場合は自己責任でお願いします!

この3脚も撮影指向の2段伸縮なので、眼視用にはちょっと長さが足りないのですが、ハーフピラーを使用してFSQ106EDを搭載してみました。ほぼ天頂からほぼ水平までカバーできそうですね。

ちなみに、水平方向の仰角を決定づけるのが、この水平軸のフリクション調整ノブとの干渉。ノブの厚みがもう5mm薄いだけでもずいぶん違うのですが・・(*)

(*)このノブは各部の詳細で触れたとおり専用品なので、薄手の汎用ノブに換装するのは無理だと思われます。

どんなユーザーに向いているか

天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

最初の天体望遠鏡の架台として

スコープテック社の口径80mm 焦点距離1000mmアクロマート鏡筒を搭載。

ZERO(ゼロ)の価格は税込37,800円。2万円の鏡筒と7,700円の三脚を合わせれば6.5万円くらいになってしまいます。この価格は一般的な「入門用天体望遠鏡」としては高めの価格レンジです。

しかし「小型軽量化による稼働率の向上」と、「将来の発展性」を考えると、じゅうぶんアリな選択ではないでしょうか。コンパクトな機材なら、手軽に持ち出して使うことができますし、将来10cm級の屈折望遠鏡や、15cm級の反射望遠鏡にアップグレードすることもできます。

天文ファンの裾野を広げるためには「より安価な入門機」は絶対必要ですが、それと同時に「入門機の多様な選択肢」もまた必要ではないでしょうか。ZERO(ゼロ)の登場によって「価格に見合った価値のある、より上位の入門機」が現れたとみるべきでしょう。

経緯台派のアップグレード機に

実は汎用性が高いポルタII。三脚込みでAmazonプライム価格21,891円は抜群のコスパですが、各部は重量とサイズの増加に対して「鷹揚な」設計。コンパクトなZEROとは違ったコンセプトと考えるべきでしょう。

片持ちフォーク式経緯台には、評価の高いベストセラー機、ビクセンの「ポルタII」が存在します。サブ機・メイン機としてポルタIIを愛用されている眼視派の方も多いことでしょう。ポルタIIも素晴らしい製品ですが、ZERO(ゼロ)と比較すると嵩高で(*)、搭載できる機材の重量に限界があります。

(*)実測してみると、フォークアームの水平部の突き出し・垂直アームの回転軸までの高さともに、ZEROとほぼ同じです。にもかかわらず嵩高に感じるのは、回転軸の径とアームの幅が広いためです。

ZERO(ゼロ)なら、もう1ランク重い鏡筒も搭載可能になり、10cmクラスのアポ屈折や、15cmクラスのニュートン反射・シュミカセもターゲットに入ってきます。ポルタIIの三脚もアダプタを使用すればそのまま使用できますし、アップグレードの有力候補になることでしょう。

お手軽ダウンサイジング

左からモバイルポルタ、ZERO、ポルタII。モバイルポルタとZEROは畳むことでさらにコンパクトになります。価格も考慮すると、実は意外と棲み分けができている気がします。コスパならポルタII、少し値が張っても剛性を保ちつつダウンサイジングしたいならZERO一択でしょう。

ZERO(ゼロ)は、お値段・剛性・搭載重量的には従来製品から「アップグレード」になりますが、本体重量・サイズ的には「ダウンサイジング」になります。ZERO(ゼロ)の重量は本体のみで1.44kg。畳むとさらにコンパクトに。重量機材を載せない場合でも、ポルタIIから二回りほども小型化するのは大きなメリットです。

一家に一台!?「何かと使える」マウント

きわめてマニアックな使用例。ZEROを使って「薄明フラット」を撮影中。ZEROはフリーストップの渋さが簡単に調整でき、緩めるとスルスル稼働します。水平方向にクルクル回転させて空の輝度ムラを平均化しています。この後撮影中にはZEROで観望を楽しみました^^

ZERO(ゼロ)は、三脚・鏡筒のどちらも汎用性の高い接続仕様になっています。「ポータブル赤道儀のフォークアームとして」「パノラマ撮影用雲台として」「カメラ用のジンバル雲台として」など、アイデア次第でさまざまな応用が考えられます。

写真撮影派にも、プラスワンで遠征地にお手軽に持っていくことのできる「撮影しながらお手軽眼視観望」するためのツールとして、ぜひオススメしたいと思います。ガチ天マニアにとっては「一家に一台」ぐらいの勢いではないでしょうか^^

ZERO(ゼロ)の販売店と将来の製品展開

販売店

スコープタウン・取り扱い店舗のご案内
https://scopetown.jp/2019/11/2837/
AstroArts オンラインショップ ・スコープテック・ゼロ・マウントhttps://www.astroarts.co.jp/shop/showcase/mount_scopetech_zero/index-j.shtml

ZERO(ゼロ)は、上記スコープタウンのネットショップと、天文雑誌「星ナビ」の発行元でもあるアストロアーツ社のオンラインショップで購入することが可能です。

ネット以外の実店舗では、以下の天体望遠鏡専門ショップで実機が展示・販売されています。自分の機材を搭載した際の使用感などを実際に確認するには、販売店の店頭で実機に触れる(*)のが一番です。

(*)一時的に製品がない可能性もあるので、事前にご確認されると確実です。

秋葉原・スターベース東京

名古屋・スコーピオ

東京国分寺・アストロショップスカイバード

新宿西落合・シュミット

金沢市・ユーシートレード

福岡県・天文ハウスTOMITA

(*)2020年3月25日現在。取り扱いショップは今後増える可能性があります。その際は随時更新します。

https://scopetown.jp/2019/11/2867/

これらのZERO(ゼロ)を取り扱う販売店は「認定セールス&サービスプロバイダ」と位置づけられていて、オーバーホールや整備、アップグレードなどの有償サービスが販売店でも受けられるような展開を考えられているようです。

現代はネット通販が全盛ですが、天文機材のような専門性の高い商品では実店舗での直接のサービスとコミュニケーションの存在は大きいといえるでしょう。メーカーからもこのような動きが出てきたことに注目したいと思います。

将来の製品展開

赤丸で囲んだ部分が「将来的な製品展開(予定)に関係する」ネジ穴。https://scopetown.jp/2019/11/2867/

ZERO(ゼロ)の本体には、使用されていないネジ穴が各所に存在します。取扱説明書(製品読本)によると「将来的な製品展開(予定)に関係するものです」と書かれています。「ウォームネジの近くのM4穴はモーターを取り付けるためのものなのか?」「アームにエンコーダーや角度センサーを搭載してSkySafariの導入支援ができるようになるといいな」など、いろいろと想像が膨らみます。

さらに、将来の周辺パーツ展開では、数多くの会社・パーツ工房・販売店とも協業して、天文業界全体として盛り上げていく方向を目指したいとのことです。こちらについても大いに期待したいですね。

まとめ

いつでも、どこででも、星を観よう。自分の「眼」で星を観る道具、それが天体望遠鏡です。それを支える架台がZERO(ゼロ)。

いかがでしたか?

初代ポルタの発売(2005年)から、はや15年。ようやく経緯台の世界も次の世代の製品が世に問われるようになったのかというのが実感です(*)。

(*)2005年〜2013年までは筆者にとっては伝聞で、実体験ではないのですが^^;;;

同時に、これまでの天文機材では「小型軽量化」と「耐振動性」というトレードオフに対する切り込みが、まだ甘かったのかもしれないとの印象も受けました。剛性を高くしブレにくくすると、どうしても機材は大型化し重くなります。でも「どこまで削れるのか」「最適なトレードオフはどこにあるのか」を考え抜いて実現すれば、極端な話、重量は半分にできても不思議ではない。そのことをZERO(ゼロ)は実証したといえるのではないでしょうか。

星空の下、天体望遠鏡を自由に振り回すことは、フィジカルな体験でもあります。

自動導入機が全盛の昨今、「もう経緯台の時代ではない」「今さら誰が経緯台を買うのか」そんな意見もないとはいいません。しかし、もっとも純粋に、五感と全身を使って星空に触れることができるのは、やはり手動経緯台です。

さらに「小型軽量の2軸の微動付き架台」は実に様々なシーンで活用できます。ZERO(ゼロ)は、クローズドな「天体望遠鏡専用の架台」だけではなく、オープンアーキテクチャのシステムパーツでもあるのです。

店頭や星祭りなどで、ぜひ一度ZERO(ゼロ)に触れてみてください。手軽に持ち運べてしかも想像の上を行く堅牢さ、そして無限の可能性。あなたの天文ライフに何をもたらしてくれるのかを判断するのは、それからでも遅くはないでしょう。


  • 本記事はスコープテック様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 使用した実機は評価機です。最終製品の仕様は販売開始時点で変更となる可能性があります。
  • 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
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  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年3月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/03/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-6-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/03/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-6-150x150.jpg編集部レビューマウントマウントみなさんこんにちは! 最近矢継ぎ早に?レビュー記事を量産している天リフですが、今度は「経緯台」です。3月20日発売のスコープテック「ZERO(ゼロ)」の評価機をお借りし、じっくり使用することができました。そのレビューをお届けします! https://scopetown.jp/products/zero/ スコープテックのHP(スコープタウン)のZERO(ゼロ)のページの情報はたいへん充実しています。商品の特徴・使用事例・各種アクセサリなどが豊富な画像とで解説されています。良いところばかりではなく、商品の弱点やそれを補うための使いこなしのヒントも書かれています。ぜひこちらもご一読されることをオススメします! ZERO(ゼロ)の特長 使いやすいフリーストップ・微動装置付きマウント ZERO(ゼロ)は「全周微動装置付き」「フリーストップ」の片持ちフォーク式経緯台マウントです。この形式の架台は直感的に誰にでも操作ができ、高倍率で対象を見る場合でも微動装置で細かく対象を追尾できるのが大きな特長です。 これだけなら「ありきたり」の出だしなのですが、ZERO(ゼロ)は後発製品(*)である利を生かして、さまざまな工夫がこらされています。それを見ていきましょう。 (*)後段でも触れますが、ずばりビクセンのポルタIIがこの形式の架台の先発製品です。 死角の少ない角度可変のフォークアーム フォーク式の架台は、鏡筒のフォークアームの角度によっては、鏡筒と三脚などが干渉して可動範囲が制約されてしまいます。この短所をカバーするために、ZERO(ゼロ)のフォークアームは角度可変式となっています。 たとえば、天頂付近に鏡筒を向ける場合、フォークアームの角度がより立っていると、三脚と鏡筒が干渉して、最大仰角が制限されます(上画像右)。こんなときは、フォークアームをより寝かせることで可動範囲が広くなります(上画像左)。 一方、水平方向に鏡筒を向ける場合は、フォークアームの角度がより寝ていると、鏡筒と水平フォークアームが干渉して、最小仰角が制限されてしまいます(上画像左)。こんなときは、逆にフォークアームをより立てることで可動範囲が広くなります(上画像右)。 このように、フォークアームの角度を可変式にしたことで、より大型の機材を搭載したときでも、より死角が少ない設定が可能になっています。 「菊座ジョイント」による簡単な角度変更 この「角度可変」のコンセプトをスマートに実現するにはどうすればいいか。ここに大きな工夫がありました。ZERO(ゼロ)では、「菊座ジョイント」方式を採用することで剛性を損なわず簡単な角度調整を実現しています。 角度調整はとても簡単。画像右のツマミ(アーム固定ネジ)を一回転半ほど緩めれば、角度を自由に変更できます。締めるのも簡単。あまり強い力を掛けなくてもしっかり固定することができます。 「モバイルポルタマウント」にも「菊座ジョイント」に似たジョイント機構(*)が採用されています。可変フォークアームを実現する技術として、各社に評価されているのでしょう。ちなみに、ZEROもモバイルポルタも、歯の先端の塗装が剥げやすい(数回使用すると剥げます)という欠点がありますが、これは機構上しかたないことでしょう。 (*)モバイルポルタの場合、凸部の歯の数が少なく(凹部の1/3)、歯の厚みも小さくなっています。 折りたたむとコンパクトに 「菊座ジョイント」の採用はもうひとつのメリットをもたらしました。フォークアームを分割して、コンパクトに畳むことができるようになったのです(*)。 (*)畳んだときのサイズは500mlのペットボトルより一回りほど大きい程度。細長いので、カメラバッグの望遠ズームレンズ(キヤノンの70-200mmF4)程度のスペースに収納できました。 先行製品との収納状態の比較。「ポルタII」はフォークアームを畳むことができないので、かなり存在感があります。モバイルポルタはジョイント部のネジを完全に外さずに(緩めるだけで)折りたたみができるのがメリット(*)。 (*)三脚に取り付けたまま持ち運びができるメリットもあります。このあたりは、良し悪しと言うよりも設計コンセプトの違いでしょう。 軽量化と剛性の両立 ZERO(ゼロ)の本体重量は1.44kg。(ビクセンアリガタ含む・微動ハンドル含まず)。これはポルタIIの2/3程度です。にもかかわらず剛性感は上回っていて、実際に地上風景を観察した比較では、より速く振動が収束すると感じました(*)。 (*)振動の量や収束までの時間は搭載する鏡筒や三脚によっても大きく変わってきます。上記の評価は同一鏡筒・同一三脚での比較です。 https://youtu.be/Mi0AIZyXG3E 振動の収束具合について比較した動画をひとつ張っておきます。筆者の実感値とも近く、よいリファレンスになることでしょう。 搭載可能重量7kg ZERO(ゼロ)の公称搭載可能重量は7kg。鏡筒重量だけでいえば、10cmクラスの3枚玉アポ鏡筒、12cmクラスの2枚玉鏡筒、20cmクラスの反射鏡筒も搭載可能なスペックです。 一般に片持ちフォーク経緯台では、重量機材を搭載する場合、オフセットしたフォークアーム上にある回転軸にかかる「ナナメ方向にねじる力」が問題になります。これを上手に支えて、アーム全体で受け止めることができるかどうかでフリーストップや微動の滑らかさが大きく変わってきます。 実際に使用してみた感触では、7kgを少し越える程度の搭載機材であっても各部の動作はスムーズで、露骨に渋くなったりたわんだりするようなことはありませんでしたが(*)、メーカー保証外の自己責任になることには注意が必要です。 (*)  ポルタIIにも無理矢理同じ機材を積んでみましたが、これはちょっと怖い感じでした。 搭載可能重量の範囲であっても、実際の使用感は機材の特性(長さ・太さ・重量バランス)によっても変わってくるようです。「短い鏡筒」なら搭載重量を少しオーバーするくらいなら「いける感じ」ですが「長い鏡筒」では使用感が悪くなるようです(*)。 (*)ZEROのHPでは「7kg強のTSA120では、おすすめできない感じ」と書かれています。 いずれにせよ、操作感の評価は個人の感覚によっても変わってきます。実際に販売店のデモ機などで操作感を確認されたがよいでしょう。メーカー指定の搭載重量を超える運用は自己責任となることも、重ねて強調しておきます。 システム構成の柔軟性 ZERO(ゼロ)の三脚側・鏡筒側の接続仕様は、カメラ機材の標準である「太ネジ(3/8インチUNC)」と、天文機材のデファクトスタンダード(実質標準)である35mm間隔・M8/M6になっています。このため、カメラ三脚やタカハシの鏡筒バンド・各社のアリミゾを使用することができます。 スカイウォッチャー・ビクセンの三脚を接続するためのアダプタも用意されていて、後述しますが、さまざまな三脚が使用できます。 ユーザーを独自規格に囲い込む「クローズアーキテクチャ」をとるべきか、それとも他社製品も使用できることを想定した「オープンアーキテクチャ」をとるべきか。業界・市場の状況によって様々ですが、天文機材という小さなマーケットには、後者がより適していることは明らかでしょう。ZERO(ゼロ)のようなオープンアーキテクチャの製品はユーザーとしては大歓迎ですね(*)。 (*)余談ですが、天体望遠鏡の世界では、架台まわりと接眼レンズではかなりオープンですが、各種リング規格は乱立気味です^^;;これが「リング地獄」・・・ 微動ハンドル ZERO(ゼロ)の微動ハンドルは別売になっています。微動ハンドルは鏡筒の長さや接眼部の位置によって使いやすい長さが変わってくるため、別売にして自分で選んでもらうのは合理的な考え方だといえます。 上記のほかにも、より長い490mmと短い250mmのハンドルが用意されています。選択の目安も詳しくこのページに書いてあるので、購入前にはぜひご確認ください。 エンブレムシール ZERO(ゼロ)の垂直フォームアームの「フリクション調整ノブ」には「エンブレムシール」が貼り付けられるのですが、これは上記の4種類を購入時に選べるようになっています。お好みのデザインを選んでね、という考え方です(*)。 (*)いずれ本体色も選べるようになると楽しいのですが。現在の黒色塗装は質実剛健でよいのですが、夜間の観測地では地味で目立ちません^^;; 将来のカラバリ展開にも期待したいところです。 シュミット・AZ-ZERO経緯台 https://www.syumitto.jp/SHOP/ST0001.html ちなみに、ZERO(ゼロ)には、サイトロンジャパン社とのコラボ製品である「AZ-ZERO経緯台」というバリエーションもあります。こちらのエンブレムはサイトロンジャパンのロゴになっています。 スコープテック社とサイトロンジャパン社・ケンコー・トキナー社の間では、ZERO(ゼロ)の販売提携だけでなく、様々な周辺パーツ群の開発協業の話もあるようです。 ZERO(ゼロ)の「取扱読本」 スコープテック・ゼロ 取扱読本 https://scopetown.jp/wp-content/uploads/2020/02/8735b375f33950827dba0092deb8b3a7.pdf ZERO(ゼロ)を開発したスコープテック社の、製品に対する強い思い入れとこだわりを感じさせるのが「取扱読本(取り扱い説明書)」です。28ページの中にZERO(ゼロ)の製品と使い方に対する全てが記述されています。PDFファイルとして公開されているので、購入前に詳しく検討することもできます。 ZERO(ゼロ)のエンジニアリング ZERO(ゼロ)のHPには、エンジニアリングとしてのZERO(ゼロ)の様々な工夫点についても詳しく書かれています。そのいくつかを簡単にご紹介しておきましょう。 CADを使った構造解析 ZERO(ゼロ)の軽量化の秘密は、フォークアームの構造にあります。「最新のCADを使用し構造解析を行い、軽量化と剛性を高いレベルで両立させた」とあります。実際使ってみても、軽量でありながらビクともしないフォークアームの剛性感はすばらしいものがあります。 これまでの天文機材用の架台でも「肉抜き」による軽量化はもちろん行われていましたが、「重いほど架台は安定する」という認識から一歩進んだ、より積極的な軽量化と剛性の両立のアプローチは注目すべきところでしょう。 滑らかさを実現する軸構造 片持ちフォーク架台のキモになる部分です。軸にナナメにかかる力をどうやって受け止めるか。ZERO(ゼロ)では「軸を太くする」という重量増加に直結するアプローチではなく、「フリクション調整ノブ」で軸を引っ張り、鏡筒を受けるアリミゾ台座を「引きつける」ことで、重量をアーム全体で受ける構造になっています。 フリクション調整ノブとアームの間にはスラストボールベアリングが入っていて、フリーストップのフリクションの調整(*)は非常になめらかで気持ちのよい操作感です。フリーストップ動作を繰り返しても、緩んでくるようなこともありませんでした。 (*)このフリクションの状態は、主に「軽く」締めた状態で使用しました。理由は不明なのですが、ノブを締め込みすぎると振動の減衰周期が長くなり、少し緩めにしておく方が速く収束するようです。逆に、重量機材の場合はフリクションを緩め過ぎた状態でのフリーストップ動作は、架台に無理をかけてしまうことに注意が必要です(次項「中型アポ鏡筒を搭載」を参照)。 品質の担保 生産工程の多くが海外に移転した中、製造段階での品質を確保するのは、現実的には大変なことです。ZERO(ゼロ)の場合はスリック社のタイ工場で生産されているそうですが、試作機と量産機の間に品質のギャップがないよう、かなり厳しいチェックが行われているようです。 編集部で評価した実機は「初回生産の検品前の入荷品」とのことで、垂直方向の微動が若干渋く感じられました(*)。これについては全品検品後に対策が講じられ、3月20日出荷の市販初回ロットでは大幅に改善されているそうです。 (*)ウォームギア・ホイルが気持ちよく動作するためにはギアのかみ合わせに適切なクリアランスが必要になるのですが、ギアの偏芯のように加工精度に誤差があると「緩いところ」と「渋いところ」が現れてしまいます。このとき「緩いところ」に合わせて調整すると「渋いところ」がかなり固くなってしまいます。 今後も高い品質が維持される生産体制・検品体制が維持されることを望みたいと思います。 ZERO(ゼロ)のシステム構成例 中型アポ鏡筒を搭載 ZERO(ゼロ)はどのくらいの重量まで耐えるのでしょうか。公称搭載重量を大きくオーバーしている、総重量9kg超の口径10.6cmのアポ屈折FSQ106EDを搭載してみました。フォークアームと三脚・アリガタの接続部の強度的には、このくらいの重量なら問題ないようです(*)。 (*)ただし、仕様重量を超える過積載なので、あくまで自己責任でお願いします。 一方で、フリーストップの動作は搭載重量に対してよりシビアに扱う必要があります。水平方向の動作は重心が回転軸の上にある限りは比較的重量に耐えるはずですが、垂直方向の回転軸は搭載荷重を「片持ち」で支える形になるため、一番のウィークポイントになります。特に、フリクション調整ノブを緩めすぎた状態では、上下方向のアームとアリミゾ台座の間に、斜め方向に「すき間」ができた状態になり、この状態でフリーストップ動作を行うと動きが不安定になり故障の原因にもなるそうです。 筆者が使用した際は、若干動作が渋くなるものの普通に使えるように感じましたが、フリクション調整の状態次第では「危険」な運用だったようです。搭載重量オーバーで使用した場合、メーカー保証の対象にもなりませんので、無理な運用はなるべく避け、あくまで自己責任でお願いいたします(*)。 (*)なお、ZEROの「フリクション調整ノブ」は赤道儀の「クランプ」とは構造も位置づけも異なります。「きつく締め込んで固定する」ためのものではなく、あくまで「フリーストップの固さを調整する」ためのものです。締めすぎると微動動作も重くなりますし、緩めすぎると上述のように重量機材の場合には軸の回転が不安定になります。重量機材の場合は少し締め気味で運用するのが良いようです。 フォークアームは35mm間隔M8/M6対応なので、赤道儀で使用していたK-ASTEC社のアリガタをそのまま流用。三脚は最大径38mm径のステンレスパイプを使用した「ZERO用強化三脚」です。 この鏡筒やタカハシのTSA120あたりだと、鏡筒バンドやアリガタを含めると7kgを超えてしまいますが、タカハシのFC-100シリーズやケンコーのSE102/120あたりなら余裕でしょう。口径10cmクラスの屈折での星空流しは、「入門レンジ」の8cmとは一線を画するものがあります。より大口径・重量機材が使えるのはZERO(ゼロ)の大きなメリットでしょう。 小型屈折鏡筒を搭載 剛性が高く重量機材が載るZERO(ゼロ)ですが、小型軽量なので軽量機材と組み合わせたライトなお手軽観望にも向いています。小型のアクロマート鏡筒「BORG76」を搭載してみました。三脚は小型軽量のお手軽三脚「ZERO用軽量三脚」です。 ペンタックスのXW20mmで25倍、SVBONYの10mmで50倍。この程度の倍率なら微動装置がなくてもフリーストップだけでもなんとかなる範囲ではありますが、やはり微動つき架台は便利です。三脚は剛性感が少なく頼りない感じではあるのですが、思いのほか振動が速く収束するので不快感はありませんでした。1.9kgと軽量で2段伸縮ですが、ごらんのようにそれなりの地上高があり、比較的楽な姿勢で使用できます。 天頂付近を見るときは姿勢が低くなるので、小型の折りたたみ椅子を使いました。お手軽観望といっても、椅子があるかどうかでずいぶん快適さが変わります。 実はもう1セット「モバイルポルタマウント」も持参。ZERO(ゼロ)よりもさらに軽量な経緯台で、カメラ三脚で使用することを想定した製品です。三脚はさらに軽量な1kgのカメラ用三脚です。架台・三脚とも、ZERO(ゼロ)で使用したセットと比較すると剛性にはずいぶんと差があってかなり揺れるのですが、コンパクトさでは大きく勝ります。「お手軽観望」に徹すれば、こういう組み合わせもアリですね^^ 小型ニュートン反射を搭載 口径13cmの小型ニュートン反射は3万円程度で入手できることもあり、撮影派の「撒き餌鏡筒」としても人気ですが、眼視性能もなかなかのものです。この鏡筒は重量3.76kg、ZERO(ゼロ)で使うのには余裕です。実は筆者は「ニュートン反射+経緯台」の組み合わせを使うのは初めてでしたが、実に使いやすいものだと感じました。小型ニュートン反射は経緯台にベストマッチの鏡筒であるともいえます。 赤道儀でニュートン反射を使用する場合、導入対象の位置によっては接眼部があさっての方向を向いてしまうことがあります。眼視用途では鏡筒を回転して見やすい位置に変える操作が必須になります。一方、経緯台なら接眼部の向きは常時一定。しかも、ちょうど立ち位置で導入・観望できる高さです(*)。 (*))ZERO専用軽量三脚を2段伸ばして使用しました。脚が同じ高さの場合、屈折だとどうしても接眼部が低くなるため椅子に腰掛けての観望になりますが、いろんな対象を流す場合、立ったりしゃがんだりするのが結構しんどかったりします^^;;; 口径13cmとはいえ、屈折鏡筒よりは太いため、天頂付近を見られるフォークアームの角度設定だと、地平線付近に向けることができません。しかし、この程度の軽量鏡筒なら、フォークアームは鏡筒を搭載した状態で簡単に可変することができます(*)。 (*)鏡筒を体で抱え込んで支えた状態にして、菊座ジョイントの止めネジを緩めて変更しました。重量鏡筒の場合はやや危険を伴うため、くれぐれも自己責任でお願いします。 夜明け前。集結した木星・火星・土星を順に観望。北西の空でM51を見ていた体勢から鏡筒を向けるのに3秒ほど。この素早い操作感が手動経緯台の真骨頂。自動導入の経緯台も便利ですが、手になじむ手動導入経緯台には、まったく別の軽快さと便利さがありました。 この夜は、後述する「ZERO用軽量三脚」に載せて使用しましたが、100倍程度までなら震動が1秒程度で減衰してくれるので何の問題もありませんでした。ただし、210倍で惑星を見ると、細かな震動が収まるまでには5秒程度かかることがわかります。まあ5秒待てばいいのですが、じっくり高倍率を使うのなら三脚はもう1クラス上の製品を使用したほうが良いかもしれません。 中型シュミットカセグレンを搭載 重量機材を搭載可能なZERO(ゼロ)なのですが、太めの鏡筒の場合はどうしても干渉の問題が出てきます。上の画像はセレストロンの20cmシュミットカセグレン「C8」を搭載した例ですが、天頂方向は三脚、水平方向はZERO本体の水平軸のフリクション調整ノブの頭と干渉するため(*)、フォークアームの角度を調整しても可動域が制限されてしまいます。 (*)フォークアームの長さは水平・垂直軸ともにポルタIIとほぼ同じなのですが、このノブの厚み(27mm程度)の分だけクリアランスに差があります。 もう3cmフォークアームが長ければ・・と感じるところもありますが、長くすると逆に小型鏡筒で使用する場合には無駄な重量と振動を増やすことになります。製品のデザインとしてはやむにやまれぬトレードオフだったものと推測します(*)。 (*)ZEROの販売が好調に推移して「ロングフォークバージョン」が将来出るといいですね^^ 制限はあるものの、強度的には十分使える範囲です。筆者の場合、ベランダ運用ではそもそも天頂方向は見られないので、実用範囲です^^ いずれにせよ、太めの鏡筒を載せる場合は注意が必要です。販売店の実機で確認するのがよいと思います。 赤道儀のフォークアームとして SWAT-310赤道儀の架頭にZERO(ゼロ)を装着して、片持ちフォーク式赤道儀にしてみました。これはなかなか渋い組み合わせですね^^ 1軸のポータブル赤道儀の純正パーツで微動付きのドイツ式・フォーク式に組むと、あれこれパーツが必要になるのですが、ZERO(ゼロ)なら接続用のクランプ・プレートだけあればOK(*)。 (*)架頭部の1/4ネジで直づけも可能ですが、バランスを調整するためにはクランプ・プレート経由にする方がベターです。上記構成ではSWAT赤道儀架台頭部にはユニテック社アルカスイスキャッチャーを、ZERO経緯台底部にはK-ASTEC  DP38-110を使用しています。ビクセン規格のアリガタ・アリミゾも同様の構成を組むことが可能です。 この運用の場合は、フォークアームは「垂直」にします。傾けてしまうと、姿勢変化でバランスが崩れてしまうからです。 実写作例。焦点距離250mmの1分露出の短秒撮影ですが、とりあえず星像は点で合格点。写真撮影に使用する場合、可動部が存在しないパーツなら剛性だけの問題になるのですが、微動・粗動のあるZERO(ゼロ)の場合、バックラッシュや可動部のクリアランスが原因となって、姿勢変化に対して機材が「ずれ」たり、「たわむ(撓む)」可能性があります。目的外の使い方なのでどこまで使えるかは自己責任になりますが、試写した印象では小型鏡筒なら十分実用範囲といえそうです。 何より、2軸で微動が使えるのは望遠撮影ではとても便利。SWATの純正パーツで組んだ場合、赤緯は微動ユニットがありますが、赤経側は本体の高速駆動ボタンよりも素早く動かせるので便利だと感じました。 パノラマ撮影に ZERO(ゼロ)を手にして真っ先に思ったことは「これはパノラマ雲台としても使えそう」でした。スムーズなフリーストップと高い剛性はまさにうってつけです。しかし・・残念なことに角度目盛がありません。クリックストップまでは望まないにしても、角度目盛さえあれば・・・・ https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1240852668265803776 というわけで即席で工作してみました。ZERO(ゼロ)の水平・垂直の回転軸は幅約12mm、全周179mmほどの円筒になっています。紙に手書きで目盛を打って、透明なテープで貼り付けました。矢印も同じく紙製です(*)。 (*)これはぜひシール形式のオプションを用意して欲しいところ。でも、目盛データをPDF化すれば、シール用紙に印刷するだけで簡単に自作できそうですね。 垂直のフォークアームがあまり長くないので、正しくノーダルポイント(*)を出すのはレンズによっては無理かもしれません。しかし、中景・遠景中心のパノラマの場合は少々ずれていても大丈夫です。お手軽パノラマ撮影用途なら問題ないでしょう。 (*)カメラの回転によって視差が発生しないように、レンズの主点(ノーダルポイント)が回転軸の上にある必要があります。 実写してみました。空の状態が今一つで、ぱっとしない天の川アーチですが^^;; 架台・三脚とも安定度は十分でした。ただし、専用のパノラマ雲台と違って、一定角度での「クリックストップ」はありません(*)。毎コマ、目盛環をライトで照らして角度目盛に合わせて回転させる手間がかかります。 (*) クリックストップがあれば、手の感触だけをたよりに目盛を見なくてもパノラマ撮影が可能になります。 パノラマ撮影専用の雲台はそれなりのお値段です。もちろん専門の製品にはそれだけの価値があるのですが、これが経緯台マウントで代用できれば、おサイフにも優しく活用の幅が広がりますね! 大型カメラ望遠レンズのジンバル雲台として 「経緯台マウント」は天体望遠鏡を載せるためだけのものではありません^^ あまり動きの速くない風景や野鳥などの被写体であれば、ジンバル雲台風に望遠レンズを搭載して一般撮影にも使えそうです。 筆者はカメラ用のジンバル雲台の使用経験がないので、操作感の比較についてはコメントできないのですが、少なくとも自由雲台や2way/3wayのカメラ用雲台を使用するよりはずっと快適です。ただし、レンズを横方向に支える形になるので、うっかり脱落させてしまうと大きな事故になります。レンズと経緯台マウントの接合部の固定だけはしっかりしておくべきでしょう(*)。 (*)カメラ用のジンバル雲台は「横持ち」ではなく、垂直方向にレンズを装着する製品が大半です。 ZERO(ゼロ)の三脚選び ZERO(ゼロ)の使いこなしのためには三脚選びがとても重要。ZERO(ゼロ)本体は軽量でありながら高い剛性と耐荷重を持っていますが、ZERO(ゼロ)のどの特長を生かすのかは、組み合わせる三脚次第。いくつかの三脚との組み合わせとその特長をみていきましょう。 小型三脚 本体重量「1.44kg」というZERO(ゼロ)のコンパクトさ・軽量さを生かすのであれば、やたら重い三脚を使うのは考えものです。小さく畳めてそれなりの強度のある三脚をチョイスしましょう。 スコープタウン・ZERO用軽量三脚 https://scopetown.jp/2020/03/3781/ ZERO(ゼロ)用として販売されている軽量(実測1.9kg)、低価格(税込7,700円)の三脚です。スコープテックのHPに「株式会社ケンコー・トキナーを通じて輸入したもの」とありますが、外見からみると「AZ-GTi」や「AZ-PRONT」用の三脚の相当品のようです。 この三脚は決して剛性は高くはなく、組み立てた状態でぐっと力をかけるとすこしたわんでしまいます。筆者は当初「これで大丈夫なの?」という印象をもっていましたが、実際にZERO(ゼロ)と鏡筒を載せてみると、意外なほど振動が速く減衰し、みかけ以上に「使える」三脚です。 重量機材を搭載するのにはオススメしませんが、価格も安くカメラ三脚としても使える(*)汎用性もあり、サブ三脚を兼ねて1本持っておくのも大いにアリと感じました。ZERO用三脚のベストチョイスの一つでしょう。 (*)単体で使う場合は3/8太ネジ専用になります。 ちなみに、三脚トレイが付属するのも嬉しいところ。眼視用途ではアイピースを置くためにほぼ必須に近いアイテムですが、撮影用途でもヒーター用のバッテリやスマホを置いたり、便利に使うことができます。ネジ止めなしで簡単に着脱できるのもとても便利。 ビクセン・ポルタII付属三脚 編集部で購入したポルタII経緯台の三脚(実測2.8kg)です。ポルタ本体込みでAmazonプライム価格21,891円。若干嵩張りますが、剛性はまあまあ及第点。 ZERO(ゼロ)用の三脚欲しさにあえてポルタIIを購入する方はいないとは思いますが、すでにポルタIIなどビクセン規格の三脚をお持ちであれば、その三脚を流用するのも大いにある選択肢でしょう。ただし、三脚に接続するためのアダプタ(*)が必要になります。 (*)オプションの三脚アダプタ(ビクセン規格の取付部の径が45mm、60mmに対応) ビクセンAPP-TL130三脚 https://www.vixen.co.jp/product/25191_9/ 隠れたビクセンのヒット商品、AP三脚(実測3.2kg)。3段伸縮で縮脚時にコンパクトでありながら使用時には高さを稼げます。ビクセン規格の赤道儀も搭載可能で汎用性高。天リフ編集部オススメチョイスの一つです。 中型三脚 逆に、ZERO(ゼロ)の剛性と搭載重量のメリットを生かすのなら、三脚はそれに見合った堅牢な製品を選ぶ必要があります。 ZERO用強化三脚 https://scopetown.jp/2020/03/3781/ HPにはまだ正式には公開されていませんが、スコープテック様より借用した「販売予定(*)」の三脚(実測4.8kg)です。後述のSky-WacherのEQ5用三脚よりは一回り細身、丈も低く2段伸縮。 (*)最終的に販売される製品はこの三脚と同じではない可能性があります。 堅固な三角板を3本の足を締め付けることで、トラス構造でビクともしない剛性を発揮します。この三脚ならZERO(ゼロ)の剛性を最大限生かせるでしょう。 ビクセン SXG-HAL130 https://www.vixen.co.jp/product/25161_2/ 編集部所有のビクセンSXシリーズ用の標準三脚(実測5.3kg)。赤道儀とのセットではかなり安価に販売されていて、「価格剛性比」の高いハイパフォーマンス三脚。このくらいの三脚なら、ZERO(ゼロ)の耐荷重限度までの搭載が可能でしょう(*)。 (*)感覚的にはZEROの性能を引き出すにはまだ剛性が若干足りないかも。 お世辞にもコンパクトとはいえませんが、すでにこの三脚を所有しているなら、活用しない手はありません。割安感のあるZERO(ゼロ)とのセット販売を行っている販売店もあるようですし、こちらも有力な選択肢でしょう。 SKY-Wacther EQ5GOTO用三脚 編集部所有のSky-Watcher EQ5用の三脚(実測6.4kg)。ZERO用強化三脚よりさらに重く、ぶっちゃけイヤになるほど長くて重くて存在感がある一方、絶大なる剛性と信頼感のある三脚です。重量的にはZERO(ゼロ)にはいささかオーバースペックかもしれませんが・・・ カーボン三脚・カメラ三脚 K-ASTEC PTP-C22三脚 http://k-astec.com/PTP-C22.html 販売終了品ですが(*)、40mm径パイプを使用した2段カーボン三脚(実測2.2kg)です。太ネジ対応なのでそのままZERO(ゼロ)を搭載することができます。 (*)同等クラスの40mm径の2段ないしは3段のカーボン三脚は、「天文用」と銘打って各社から販売されています。 最大高が高くないので長い鏡筒には向きませんが、軽量な観望システムを目指すならカーボン三脚も選択の一つです。軽量・高い剛性というZERO(ゼロ)の特長の両方を最大化できるでしょう。 ただし、自重が軽いので細かな揺れを拾いやすく、ストーンバッグなどで補強するのが吉。開脚角が広いので三脚と干渉しやすくなるため、ハーフピラーで運用する手もあります(*)。 (*)さらに振動を拾いやすくなるので一長一短ですが。。 ビクセンASG-CB90 https://www.vixen.co.jp/product/25164_3/ ビクセンのカーボン・アルミハイブリッドの三脚(実測3.4kg)。最大径36mmとややスリムですが、2段目の脚がアルミで補強されていて、剛性感は同クラスのカーボン三脚に勝るほどです(*)。台座がビクセン規格なので同社のハーフピラーもそのまま使うことができます。 (*)メーカーがAXJ赤道儀用の三脚として推奨しているほどです。 この3脚も撮影指向の2段伸縮なので、眼視用にはちょっと長さが足りないのですが、ハーフピラーを使用してFSQ106EDを搭載してみました。ほぼ天頂からほぼ水平までカバーできそうですね。 ちなみに、水平方向の仰角を決定づけるのが、この水平軸のフリクション調整ノブとの干渉。ノブの厚みがもう5mm薄いだけでもずいぶん違うのですが・・(*) (*)このノブは各部の詳細で触れたとおり専用品なので、薄手の汎用ノブに換装するのは無理だと思われます。 どんなユーザーに向いているか 最初の天体望遠鏡の架台として ZERO(ゼロ)の価格は税込37,800円。2万円の鏡筒と7,700円の三脚を合わせれば6.5万円くらいになってしまいます。この価格は一般的な「入門用天体望遠鏡」としては高めの価格レンジです。 しかし「小型軽量化による稼働率の向上」と、「将来の発展性」を考えると、じゅうぶんアリな選択ではないでしょうか。コンパクトな機材なら、手軽に持ち出して使うことができますし、将来10cm級の屈折望遠鏡や、15cm級の反射望遠鏡にアップグレードすることもできます。 天文ファンの裾野を広げるためには「より安価な入門機」は絶対必要ですが、それと同時に「入門機の多様な選択肢」もまた必要ではないでしょうか。ZERO(ゼロ)の登場によって「価格に見合った価値のある、より上位の入門機」が現れたとみるべきでしょう。 経緯台派のアップグレード機に 片持ちフォーク式経緯台には、評価の高いベストセラー機、ビクセンの「ポルタII」が存在します。サブ機・メイン機としてポルタIIを愛用されている眼視派の方も多いことでしょう。ポルタIIも素晴らしい製品ですが、ZERO(ゼロ)と比較すると嵩高で(*)、搭載できる機材の重量に限界があります。 (*)実測してみると、フォークアームの水平部の突き出し・垂直アームの回転軸までの高さともに、ZEROとほぼ同じです。にもかかわらず嵩高に感じるのは、回転軸の径とアームの幅が広いためです。 ZERO(ゼロ)なら、もう1ランク重い鏡筒も搭載可能になり、10cmクラスのアポ屈折や、15cmクラスのニュートン反射・シュミカセもターゲットに入ってきます。ポルタIIの三脚もアダプタを使用すればそのまま使用できますし、アップグレードの有力候補になることでしょう。 お手軽ダウンサイジング ZERO(ゼロ)は、お値段・剛性・搭載重量的には従来製品から「アップグレード」になりますが、本体重量・サイズ的には「ダウンサイジング」になります。ZERO(ゼロ)の重量は本体のみで1.44kg。畳むとさらにコンパクトに。重量機材を載せない場合でも、ポルタIIから二回りほども小型化するのは大きなメリットです。 一家に一台!?「何かと使える」マウント ZERO(ゼロ)は、三脚・鏡筒のどちらも汎用性の高い接続仕様になっています。「ポータブル赤道儀のフォークアームとして」「パノラマ撮影用雲台として」「カメラ用のジンバル雲台として」など、アイデア次第でさまざまな応用が考えられます。 写真撮影派にも、プラスワンで遠征地にお手軽に持っていくことのできる「撮影しながらお手軽眼視観望」するためのツールとして、ぜひオススメしたいと思います。ガチ天マニアにとっては「一家に一台」ぐらいの勢いではないでしょうか^^ ZERO(ゼロ)の販売店と将来の製品展開 販売店 スコープタウン・取り扱い店舗のご案内 https://scopetown.jp/2019/11/2837/ AstroArts オンラインショップ ・スコープテック・ゼロ・マウントhttps://www.astroarts.co.jp/shop/showcase/mount_scopetech_zero/index-j.shtml ZERO(ゼロ)は、上記スコープタウンのネットショップと、天文雑誌「星ナビ」の発行元でもあるアストロアーツ社のオンラインショップで購入することが可能です。 ネット以外の実店舗では、以下の天体望遠鏡専門ショップで実機が展示・販売されています。自分の機材を搭載した際の使用感などを実際に確認するには、販売店の店頭で実機に触れる(*)のが一番です。 (*)一時的に製品がない可能性もあるので、事前にご確認されると確実です。 秋葉原・スターベース東京 名古屋・スコーピオ 東京国分寺・アストロショップスカイバード 新宿西落合・シュミット 金沢市・ユーシートレード 福岡県・天文ハウスTOMITA (*)2020年3月25日現在。取り扱いショップは今後増える可能性があります。その際は随時更新します。 これらのZERO(ゼロ)を取り扱う販売店は「認定セールス&サービスプロバイダ」と位置づけられていて、オーバーホールや整備、アップグレードなどの有償サービスが販売店でも受けられるような展開を考えられているようです。 現代はネット通販が全盛ですが、天文機材のような専門性の高い商品では実店舗での直接のサービスとコミュニケーションの存在は大きいといえるでしょう。メーカーからもこのような動きが出てきたことに注目したいと思います。 将来の製品展開 ZERO(ゼロ)の本体には、使用されていないネジ穴が各所に存在します。取扱説明書(製品読本)によると「将来的な製品展開(予定)に関係するものです」と書かれています。「ウォームネジの近くのM4穴はモーターを取り付けるためのものなのか?」「アームにエンコーダーや角度センサーを搭載してSkySafariの導入支援ができるようになるといいな」など、いろいろと想像が膨らみます。 さらに、将来の周辺パーツ展開では、数多くの会社・パーツ工房・販売店とも協業して、天文業界全体として盛り上げていく方向を目指したいとのことです。こちらについても大いに期待したいですね。 まとめ いかがでしたか? 初代ポルタの発売(2005年)から、はや15年。ようやく経緯台の世界も次の世代の製品が世に問われるようになったのかというのが実感です(*)。 (*)2005年〜2013年までは筆者にとっては伝聞で、実体験ではないのですが^^;;; 同時に、これまでの天文機材では「小型軽量化」と「耐振動性」というトレードオフに対する切り込みが、まだ甘かったのかもしれないとの印象も受けました。剛性を高くしブレにくくすると、どうしても機材は大型化し重くなります。でも「どこまで削れるのか」「最適なトレードオフはどこにあるのか」を考え抜いて実現すれば、極端な話、重量は半分にできても不思議ではない。そのことをZERO(ゼロ)は実証したといえるのではないでしょうか。 自動導入機が全盛の昨今、「もう経緯台の時代ではない」「今さら誰が経緯台を買うのか」そんな意見もないとはいいません。しかし、もっとも純粋に、五感と全身を使って星空に触れることができるのは、やはり手動経緯台です。 さらに「小型軽量の2軸の微動付き架台」は実に様々なシーンで活用できます。ZERO(ゼロ)は、クローズドな「天体望遠鏡専用の架台」だけではなく、オープンアーキテクチャのシステムパーツでもあるのです。 店頭や星祭りなどで、ぜひ一度ZERO(ゼロ)に触れてみてください。手軽に持ち運べてしかも想像の上を行く堅牢さ、そして無限の可能性。あなたの天文ライフに何をもたらしてくれるのかを判断するのは、それからでも遅くはないでしょう。 本記事はスコープテック様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 使用した実機は評価機です。最終製品の仕様は販売開始時点で変更となる可能性があります。 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年3月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ