しばらく間が空いてしまいましたが、古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていく「最強!赤道儀伝説」。第2回はユニテックの「SWAT-310」赤道儀です。
このSWAT-310赤道儀は、昨年来編集部の主力赤道儀として大活躍しています。シンプルな操作性、抜群の安定感と信頼性、そして多彩な拡張性。いきなり結論ですが、平成から令和の「最強ポータブル赤道儀」の一つであると、力強く断言できる逸品です。
では、その詳細をご紹介していきましょう。
SWAT最強!伝説
最強!一軸駆動赤道儀
SWAT赤道儀は、1軸駆動のポータブル赤道儀。「日周運動を追尾する」ための赤経軸駆動だけに割り切った、シンプルな構成。このため、極軸合わせ以外の面倒な設置や操作は一切不要。電源をONにするだけで直ちに追尾を開始します。
しかも、高い剛性と追尾精度で「ノーガイド撮影(ノータッチガイド)」に真価を発揮します(*)。レンズを搭載して対象に向ければ、あとはシャッターを切るだけ。
(*)オートガイド端子を備えているので1軸オートガイドでの運用も可能です。筆者はやったことはありませんが^^;;
SWAT赤道儀は、焦点距離200mm程度までならもう何も考える必要がありません。「1軸駆動に徹する代わりに最高レベルの剛性と精度を実現する」というコンセプトの恩恵です。機材の限界ぎりぎりにチャレンジするのもまた楽しい遊びですが、逆に「あり余るパワーで余裕をかます」のも別の楽しさがあります^^
最強!長焦点鏡筒用ガイドシステム
SWAT-310赤道儀の追尾精度は公称「±7秒角」、搭載重量は10kg。「限界ぎりぎりにチャレンジ」すれば、焦点距離600mmクラス、5〜7kg級の機材が搭載できます(*)。さすがに「何も考えない」わけにはいきませんが、SWAT赤道儀は長焦点システムを運用する十二分なポテンシャルを持っています。
(*)たいていの場合、ボトルネックはSWAT本体ではなく、三脚や赤緯軸システムとなることでしょう。
上記システムで撮影したNGC4565です。フォーク部のたわみもあり、歩留まりは100%ではありませんでしたが、1分露出でもコンポジット後の画像では星はぼぼ丸になっています。SWAT赤道儀の高い追尾精度が発揮された例といえます。
最強!お手軽眼視システム
SWAT赤道儀が活躍するのは写真撮影ばかりではありません。1軸とはいえ赤道儀。目分量で極軸を北に向けるだけでも、お手軽観望には十分な追尾精度です。高倍率でのお手軽観望では「手動追尾」と「自動追尾」では圧倒的な利便性の差があります。
三脚を含めて5キロ程度ですから、天気がよければサッとベランダに出してお気楽観望。これは稼働率が上がりますね。
こちらはもう一回り大きな85mm屈折アポ鏡筒を搭載。SWAT本体的にはこの程度ならまだ余裕の搭載重量。極軸をしっかり合わせておけば、一度対象を導入すればずっと追尾してくれます(当たり前ですが^^;;)。こういう意表を突いた?使い方ができるのもSWAT赤道儀の面白いところ。「ポータブル赤道儀で眼視観望」はいかがでしょうか?
SWAT赤道儀の特徴
それでは、SWAT赤道儀の特徴をあらためて見ていきましょう。
ユニテック社の最初のSWAT赤道儀「SWAT-200」が発売されたのが2012年。以降、幾度となく改良が施され、今回ご紹介するモデル「SWAT-310」は2018年4月に発売された最新のモデルです。
「一軸」駆動赤道儀
「SWAT」とは「Single Way Axis Tracker」の略(*)。この「一軸(Single Way)」というのが重要なコンセプト。
(*)筆者はかなり後になってからようやく知ったのですが^^;;、
「二軸オートガイド」や「自動導入」を実現するには、赤経・赤緯の二つの回転軸と駆動機構が必要になります。それをあえて「一軸」に徹する代わりに、その一軸の精度と剛性を極限まで高める。それがSWAT赤道儀といえるでしょう。
メーカーHPの製品紹介では「ポータブル赤道儀」と謳われていますが、剛性・精度・耐荷重のいずれも中型の本格的な赤道儀と遜色なく、むしろ「一軸」だけ取りだして比較すれば、勝っているかもしれません。
「一軸でできることに徹する」というポリシーは、ユーザーの利用目的とマッチした瞬間、何ものにも代えがたい使い勝手と信頼感をもたらします。何も考えなくても対象に向けてシャッターを切るだけで撮れる。そんな信頼感がSWATにはあります。
高剛性・高精度、追尾誤差公称±7秒角
SWAT-310の筐体はアルミ合金の削り出し加工によるもの(*)で、非常に高い剛性を確保しています。手に取るとバランスウェイトかと思うほどずっしりと重い(重量2.4kg)のですが、極軸以外の可動部分が存在しない筐体は、ビクともしない安定感です。
(*)初代のSWAT-200はダイキャスト加工でしたが、SWAT-300以降はアルミ削り出しになりました。
箱形の筐体の中に組み付けられた赤経軸は、直径106mm・歯数210枚という中型のドイツ式赤道儀よりもむしろ大きなウォームホイルによって駆動されますが、追尾誤差は「±7秒角」が謳われています(*)。
(*)実は筆者は使用しているSWAT-310実機の追尾誤差を厳密に測定したことはないのですが(メーカーサイドでの実測データは後述)、500mmクラスで撮影した結果や他のユーザーの検証事例を見る限り、この基準は全て満たされていると判断してよいと感じています。全個体に対して出荷前に追尾精度の検査が行われているそうです。
この「±7秒角」の追尾精度は非常に高いレベルといえます。後述するPEC機能を搭載したV-specではさらに高精度になるそうです。この精度は600mmくらいの長焦点であっても、露出時間を短めにすればオートガイドなしでも撮影可能になるレベルです(*)。
(*)歯数210枚はウォームギア1回転6.9分、追尾誤差を±7秒角の正弦波と仮定すると約100秒で追尾誤差は最大7秒角。焦点距離600mmでセンサー上の10μは2.8秒角、100*2.8/7=40秒露出までならずれは10μ以内。
SWAT赤道儀の高精度の秘密は「大径のウォームホイル」「ウォームホイールとギアの材質の最適な選択」「ラッピング加工」「エイジング処理」にあります。その詳細は本稿では触れませんが、以下のリンク先を参照してみてください。
重量機材の搭載が可能
SWAT-310はかなりの重量機材が搭載可能です。剛性の高い筐体と赤経架頭が近接しているため、重量物を搭載しても重心が三脚中心から大きくずれることがない合理的なレイアウトになっています。
公称搭載可能重量は10kgですが、実際に使用した感触でもこの重量を搭載した運用がじゅうぶんに可能だと感じました。むしろ、三脚やアリガタ・L字プレート・赤緯軸など、SWAT赤道儀本体以外のシステム全体の強度がネックになるほどです。
SWAT-310は、後述する「赤経軸連動型の目盛環」を搭載している関係で搭載可能重量が10kgに制限されていますが、上位機種のSWAT-350の場合はさらに15kgまで搭載可能とのことです。強度的にも精度的にも「中型赤道儀から赤経軸だけを切り出した製品」と考えてよいでしょう。
汎用性の高い極軸架頭部(ターンテーブル)
SWAT赤道儀の極軸架頭部は「ターンテーブル」と呼ばれ、カメラ雲台や各種アリミゾなどのパーツを装着して使用するようになっています。この「ターンテーブル」には35mm間隔のM8とM6のネジ穴と1/4インチの雄ネジがあって、汎用性の高い仕様となっています。ターンテーブルの接合面の径も77mmと大きく、各種パーツをしっかりと装着することができます。
印象のみの表現になってしまいますが、一言でいうと「ここから先はあなたの好きにしてね」。存在感のある筐体なのに自己主張しない。「赤経駆動は私におまかせください」的な感じです。
さらなる高精度・V-spec
「±7秒角」という高い追尾精度を誇るSWAT赤道儀ですが「V-spec」と呼ばれるさらに高精度を追求したバージョンが現在開発中とのことです。違いはずばり「PEC(*)搭載」です。
(*)Periodic Error Correctionの略。追尾誤差の多くの部分はウォームギアの回転の周期で発生する周期的な誤差であることに着目し、個体単位でエラー量を記憶させておき、駆動時にエラーが相殺されるよう駆動させる機構。
これにより、SWAT-310の追尾精度はさらに向上します。製品仕様と保証精度がまだ確定していないそうですが「起動時に荷重方向を指定しない場合は東西いずれの偏荷重でも±5~6秒角程度、東西いずれかの荷重方向を指定した場合は±4~5秒角程度」という数字が現在の感触だそうです。
このレベルまで赤経軸の追尾誤差が小さくなると、逆にそれ以外の追尾誤差の要因が顕在化してきます。機材の重心変化によるたわみ・沈み込み・大気の屈折(大気差)など、ガイドエラーにはさまざまな要因があり、それらをひとつずつつぶしていかねばなりませんが、一番のキモである赤経追尾の精度が高いことで他のガイドエラーの切り分けも容易になることでしょう。
「起動時の荷重方向の指定」について、詳しく補足しておきます。
上の図はウオームホイル・ギアのかみ合わせの模式図です。ホイル・ギア間の間にわずかなクリアランス(すき間)がある場合、赤道儀のバランスが東西いずれであるかによって、かみ合う面が異なることになります。このため、SWAT赤道儀のピリオディックモーションの挙動は、東西の荷重方向によって異なる場合がほとんどだそうです。
このため、V-specに内蔵されているPECデータは、東側荷重時・西側荷重時それぞれ別の値が搭載されていて、起動時のボタン押下指定によってどちらのPEC情報を使用するか指定するようになっています(*)。この場合の追尾誤差が±4〜5秒角程度(β版での暫定値)。
(*)起動時の荷重指定と実際のバランス方向が逆になると、かえって追尾精度が悪くなることに注意が必要です。
荷重方向を指定しない「ノーマルモード」の場合には、どちらの偏荷重の場合にも対応するよう「バランスのとれた補正」となります。この場合の追尾誤差は±5〜6秒角程度(β版での暫定値)とやや大きくなります。
以下、推測を含む筆者の見解ですが、「荷重方向によってピリオディックエラーの挙動が異なる」ことはある程度一般的な事象かもしれません。ギアの歯切り時点での2つの面の精度差・ギアのラッピング(誤差を減らすためにかみ合わせ状態で研磨処理を行うこと)の際の荷重方向・最終的なギアクリアランスの調整度合など、挙動の違いをもたらす要因はいくつか考えられるでしょう。いずれにしても、自社製品の追尾精度を実際に精密に測定し、最適な補正機構を実装したユニテック社の姿勢には拍手を贈りたいと思います。
ご自分の赤道儀のピリオディックエラーを測定する方法がユニテック社のブログに紹介されています。比較的簡単な方法なので、興味のある方はお試しになってはいかがでしょうか。
SWAT赤道儀のシステム構成例
最小構成
SWAT赤道儀を使用した最もシンプルな構成です。カメラ用三脚にSWAT赤道儀を直づけし、ターンテーブルに自由雲台を装着してカメラを搭載します。
この構成の場合、南中時以外は東西のバランスが崩れますが、SWAT-310の駆動力・保持力にはかなり余裕があるため、小型のポータブル赤道儀と比較すればはるかに安定したガイドが可能です。
しかし重量機材や長焦点・長時間のガイドには限界があります。その場合は後述するドイツ式やフォーク式の構成にして、東西のバランスを調整できるようにするべきでしょう。
SWAT本体と三脚の一番簡単な接続は、SWAT本体の底部に切られた3/8太ネジを使用することです。太ネジであれば一点止めであってもかなり堅固に固定することができます。
もちろん1/4<->3/8のアダプタを使用して細ネジでも装着できますが、重量機材になるほどこの接続は太ネジが推奨です。
もうひとつ、本体底部の2つのM6ネジ穴にアルカスイスプレートを装着し、アルカクランプ仕様の三脚と接続する方法も考えられます。筆者は今年の春に後述の「極軸微動ユニット」を導入するまではこの方法を使用していました。
極軸微動ユニット
とはいえ、最小構成では極軸を正確に合わせるにはかなりの慣れを必要とします。やはり極軸微動ユニットはあるに超したことはありません。
SWAT純正の極軸微動ユニットは、数あるポータブル赤道儀用の同種製品の中でも、接続方法の多様性・堅牢性・微動のスムーズさ、いずれをとってもトップクラスだと思います。「ゴニオ式」と呼ばれる円弧状の部材が擦動する機構は、重量機材であっても安定して支えることができます。
底面の接続は3/8インチ太ネジ。上部のテーパーキャッチャーはM6ネジ2本で簡単に外すことができ、取り外すと35mm間隔のM6/M8穴が現れます。これを使用してアルカクランプなどの汎用パーツに換装することも可能です。
ダブル雲台ベース
オプションの「ダブル雲台ベース」を使用すれば、カメラを2台搭載したり、ドイツ式構成に組むことができます。ダブル雲台ベースは「コ」の字型のプレートで、2つのローレット付きM6ネジでターンテーブルに簡単に装着することができ、十字型のハンドルの付いた2つの1/4ネジでカメラ雲台などを2個装着することができます。
左は、カメラを2台装着した例。ダブル雲台ベースはターンテープルにスライドして装着できるため、極端な重量差がなければある程度バランスの崩れを防ぐことができます(*)。
(*)ただし、カメラ装着状態でスライドさせるのは若干ムリがあります。ダブル雲台ベースのプレート部はビクセンアリガタ互換なので、後述する「アリミゾキャッチャー」をターンテーブルに装着して使用するほうがバランス調整が容易になります。
中は、オプションのウェイトシャフト、バランスウェイトを使用してドイツ式構成に組んだ例。ダブル雲台ベースにはM6のネジ穴が両側に空けられていて、そこにウェイト軸をねじ込んで使用します。
右は、テレスコ工作工房の「ペットボトルアダプタ」を使用した例。この構成でぴったりバランスがとれています。
「ダブル雲台ベース」は希望小売価格9000円と比較的お値頃で汎用性も高く、有力なオプションの一つといえるでしょう。
アルカスイス仕様・フォーク構成
ターンテーブルにアルカクランプを装着すれば、さまざまなアルカスイス互換パーツを装着できるようになります。
上の画像はオプションの「アルカスイスキャッチャー」を装着したところ。一般のカメラ用クランプと比較して、M6のネジで2点止めできる・幅が65mmと広く固定力が高い・ハンドルが長いためターンテーブルと干渉しにくい、というメリットがあります。希望小売価格は税別5500円。
アルカスイス互換のパーツは世の中に数多く販売されていて、その組み合わせは無限。アイデアひとつで多彩な応用が可能です。上の画像は純正オプションの「シンプルフォークユニットDX」を使用した、筆者が愛用しているフォーク式システムの構成例。
「シンプルフォークユニットDX」にはパノラマ雲台が装着されており、汎用品のアルカプレート・クランプを介して、全天死角レスのシステムを組むことができました。
ただし、アルカスイスパーツを使用する場合、個々のパーツの強度にはじゅうぶん考慮が必要です。アルミ合金の場合、肉厚が7〜8mm程度あっても長いプレートは重量機材の搭載によってたわむ可能性があります(*)。
(*)ユニテック社のHPには「焦点距離200mm程度まで」との記述があります。一概にはいえませんが、片持ちフォーク運用の場合は「流れない露出時間」の範囲にとどめるのが吉です。
ビクセンアリガタ仕様・ドイツ式構成
ターンテーブルにビクセン互換アリガタを装着可能にするオプションパーツが「アリミゾキャッチャー」です。オプションの「ダブル雲台ベース」はビクセン規格のアリガタでもあるので、上の画像のようにアリミゾキャッチャーに装着することができます。可動範囲は長くはないものの、スライドが可能なのである程度のバランス調整も可能。
上の構成は、SWATのオプションパーツを駆使してドイツ式赤道儀に組んだ例。赤緯軸は、微動・目盛環対応の「回転ユニット」を使用しました。
「回転ユニット」はかなり本格的な赤緯軸です。中型赤道儀の赤緯軸だけを切り出したくらいの迫力があり、搭載重量限界くらいまでの機材を余裕で積むことが可能でしょう。架頭の仕様は35mm間隔のM6/M8ネジなので、さまざまな天文機材が装着できます。中央は1/4インチネジです。赤経軸側はテーパーキャッチャーを使用する形になっています。
SWAT赤道儀の三脚
ユニテック社からはSWAT赤道儀専用の三脚は特に販売されていません。一般のカメラ三脚の規格である、1/4細ネジないしは3/8太ネジ仕様の三脚をユーザーがチョイスする想定です。
すでにカメラ用の頑丈な三脚をお持ちならそれを使用する手もありますが、「カメラ用」として販売されている三脚の中には天体写真用途では若干固定力が甘いものもあり、新たに購入されるなら、強度的にもコスパ的にも天文系メーカーの三脚がオススメです。
筆者は主にK-ASTEC社のカーボン三脚PTP-C22を使用しています。こちらはパイプ径40mmで非常に堅牢で、SWAT-310とのマッチングは良好です。パイプ径40mmのカーボン三脚は他にもサイトロンジャパンやモアブルーなど各社から同クラスの製品が販売されています。実売価格は4.5万円〜6.5万円といったところです。
コスパを重視するなら、上画像左のビクセン「AP三脚(APP-TL130 直販価格税込19,980円)」がオススメです。剛性・重量的にはカーボン三脚より若干劣るものの、特に架頭部が堅牢でカメラ用三脚よりも良好です。
AP三脚はそのままでは接続することができないのでアダプタが必要になります。上画像右はSWATのオプションパーツ「ビクセン三脚アダプタ」。中央のネジが3/8の太ネジなので強度的にも安心。薄型なので微動雲台と併用する場合に背が高くなりすぎないのもメリット。AP三脚やビクセンのSX系三脚など、45mm径仕様の三脚を使う場合はこちらがオススメです。
三脚アダプタはビクセンからも販売されています。こちらの「雲台アダプター(直販価格税込5,184円)」は、底部に45mm径・60mm径両対応の段差が刻まれていて、ツノつきの状態で三脚にM10ネジで固定することができます。
1/4インチネジが若干短めでやや心もとないのがちょっとマイナスポイントですが、旧規格のGP三脚でも使えるのがメリット。
上左はビクセンのカーボン・アルミハイブリッドの三脚「ASG-CB90」に搭載したところ。この三脚はAP三脚と比較して開き止めステーが強化され、細い方のパイプの内部がアルミで強化されています。この三脚はAXJ赤道儀でも推奨されているくらいなので非常に堅牢。
右はSky-WatcherのEQ5GOTO赤道儀用の三脚に搭載したところ。この三脚でも使用できるのが45mm/60mm規格両対応のビクセンの雲台アダプターの存在意義。44mm径のステンレスパイプはクソ重いですが、堅牢性は抜群。重量機材を搭載するときはこちらを使おうと思っています。
45/60mm両用の三脚アダプタは他にも笠井トレーディングの製品があります。やや重いですがこちらは3/8太ネジ仕様です。
SWAT最強!伝説・その2
最強!海外遠征システム
SWAT-310赤道儀の本体重量は2.4kgと「ポータブル赤道儀」としては重量級ですが、システム重量と搭載可能重量の比率で考えると、比類のないパフォーマンスを発揮します。これが生きるのが海外遠征です。
上のシステムは、筆者が西オーストラリア遠征で使用したSWATシステム。重量級の機材(キヤノンのサンニッパとシグマ105mmF1.4Art)を2台搭載しています。こんな重量級機材でも安心して運用できるのがSWAT赤道儀。
軽量化最優先で、重量のかさむ「極軸微動ユニット」や「回転ユニット(微動付き赤緯軸)」のようなオプションは省略しました。目的に合わせてパーツの構成を臨機応変に変更できるのもSWAT赤道儀ならではです。
300mm望遠で撮影した大マゼラン星雲。1軸駆動・オートガイドなしのシンプルな構成は、パソコンも不要で電源もモバイルUSBバッテリーのみでOK。装備を最小化し、軽量なシステムが組めるのです。
こちらは105mmF1.4Artで撮影した大マゼラン星雲、ワンショットナローバンド。SWAT赤道儀の高精度な追尾能力のおかげで、長い焦点距離や長めの露出時間にもじゅうぶん対応できました。
最強!目盛環モザイクシステム
SWAT-310の大きな特長の一つが赤経駆動と連動した目盛環が搭載されているところ。一度明るい対象で赤経座標を合わておけば、後は目盛環が恒星時で回転していくため、導入のたびに時角を合わせる必要がありません(*)。
(*)上位機種のSWAT-350もそうなのですが、赤経の目盛環は単にフリーで回転するだけ、という製品が多くあります。実用上は赤経駆動と連動しないと目盛環は使い物にならないといってよいと思います。この仕様を実現するためには、赤経軸・ウォームホイール・目盛環の構造をSWAT-350から大きく変更する必要があり、その分SWAT-310の耐荷重は10kgと小さくなっています。
「目盛環」は、自動導入機構を持たない赤道儀にとっては非常に有用です。目盛の刻みは2°ですが、これは500mm望遠レンズの画角5度と比較すると十分に小さい角度です。SWATで写真撮影をする限りは、目盛環だけで対象を容易に導入することができます(*)。
(*)300mmを越える望遠レンズになると、対象によってはカメラのファインダーだけで導入するのが難しくなってきます(周辺に目立った星列がないおとめ座のマルカリアンチェーンや、こぎつね座の亜鈴星雲、IC1396など)。筆者にとっての過去最難はとかげ座のSh2-126でした^^;
もうひとつ、目盛環がきわめて有効なのがモザイク撮影。SWAT-310の場合、モザイク撮影は目盛環だけでOKです。上の画像は105mmレンズを使用して、赤緯方向に15°、赤経方向に10°刻みで9フレームをモザイクしたもの。つなぎ目の誤差は1°角以下です。
最強!銀河座標モザイクシステム
SWAT赤道儀の拡張性を生かし、アルカスイスパーツで組んだ「銀河座標モザイクシステム」。パノラマ撮影システムを約28°傾けたユニットに装着しました。「銀河の極軸合わせ(*)」には目盛環を活用。やや荒っぽい設置ですが、じゅうぶんに実用になりました。
(*)後述しますが、南半球では赤緯軸の目盛環は北半球と逆になってしまうため、そのままでは正しい目盛にならないことに注意が必要です。
上記システムでのリザルト。1コマ4分露出の画像を80フレームモザイク合成しました。とも座からたて座まで、銀経相当で1/3をカバー。残りの部分は今後撮影予定です。
使いこなし(Tips)
SWAT赤道儀をより活用するために。細かい点・弱点とその補完を含めて、これまで使用した中で気づいた点をまとめてみました。
極軸望遠鏡
オプションの極軸望遠鏡は2種類あります。ひとつは光学式の極軸望遠鏡。現在はビクセンの極軸望遠鏡PF-L(*)と専用金具のセットが販売されています。上の画像のように本体裏面のM6のネジ穴を使用して装着します。このネジ穴は4カ所開けられているので、機材と干渉しない位置を選ぶことができます。
(*)ビクセンPF-Lは旧モデルでより倍率の低いPF-LIIに改良されていますが、アプリ「PF-L Assist」を使用すれば旧モデルでも北極星のみを使用した極軸合わせが問題なく可能です。
もうひとつ、電子極軸望遠鏡の「ポールマスターSWAT」が使用できます。この製品はポールマスターと専用アダプタのセット品で、すでにポールマスターをお持ちであればアダプタのみを購入して使用することもできます。
スタンバイ機能
SWAT赤道儀の「V-spec」では「スタンバイ」機能が搭載されています。電源投入直後に1分間ほど高速(16倍速)で駆動させ、短時間で追尾精度を安定させるためのものです(*)。
(*)筆者の経験上でも多くの赤道儀では「電源投入直後・または姿勢を変えた直後」の追尾は安定しません。
実はSWAT赤道儀では、ウォームホイル・ギアのバックラッシュ(かみ合わせの遊び)をわずかに残すような調整がなされています(*)。
(*)ギアの接合部を「強く締め付ける(圧着させる)」とバックラッシュをなくす(小さくする)ことができますが、逆に一定速度で安定して回転することを妨げてしまいます。
スタンバイ機能を持たないV-spec以前のSWAT赤道儀では、このわずかなバックラッシュによって発生する駆動開始の初期状態の不安定さを低減するために、撮影開始のある程度前から電源を投入しておき、動作を安定させておくことが推奨されています(*)。
(*)本体に「電源スイッチ」が存在しないのはそのためでもあります。
一般に赤道儀では「わずかに東側を重くしたほうがよい」と言われていますが、SWAT赤道にもそれがあてはまります。東西のバランスを完全にとってしまうと、動作の安定までに時間がかかる上に追尾精度にも悪影響が出ます。「若干東側を重くする(*)」のが重要なポイントです。
(*)南半球では逆に西側荷重になります。
電源
SWAT赤道儀の電源は、一般的な「外径5.5mm、内径2.1mm、センタープラス」のケーブルで給電します。推奨電圧は6〜12Vで、単三電池6本(9V)の電池ボックスが付属します。
筆者はこれまで5VのUSBモバイルバッテリを使用していましたが、実はこれではパワー不足になることがあり動作保証外となるそうです(*)。上の画像のような5Vを9Vに昇圧するコンバーター内蔵のケーブルを使用するのが推奨とのことです。
(*)16倍速で駆動するとき、機材重量やバランス崩しが大きい場合、冬期などのバッテリの電圧降下時で問題があるそうです。電圧が低いほど駆動トルクは小さくなります。
オートガイド
筆者は基本的にSWATではオートガイドも電子極望も使用しない派で、ここまでの記事は全て「ノーガイド(ノータッチガイド)」撮影を前提で書いてきましたが、SWAT赤道儀は「1軸」ですがオートガイドも可能です。
オートガイドを行うためには、オプションの「リモートコントローラRC01」をSWAT本体に接続し、このコントローラ側にあるST-4対応のガイドケーブル端子を使用します。
高緯度・低緯度地方対応
SWAT赤道儀は約35°傾いたエッジ状の構造になっていて、本体を水平にした場合北緯35°で極軸が合う形になります。
高緯度・低緯度地方で使用する場合は、なんらかの形で傾けてやればよいのですが、オプションの極軸微動ユニットの可動範囲は±8°。三脚側で最大10°傾けるとして、緯度17°〜53°まで対応することになります。この範囲をさらに超えるような場合は、エッジ状のパーツを挟むなり、何らか工夫が必要になるでしょう。
SWATは背面にも1/4インチ・3/8インチのネジ穴が開けられています。この穴は本来は水平に設置してタイムラプス撮影のターンテーブルとして使用するためのものですが、緯度70°〜90°までの極地であればこの体勢で使用するという手もあります(*)。
(*)極地の極低温での動作は不明です^^;;; 極軸望遠鏡が思い切り覗きにくそうですが、極地の星空は一度は見てみたいものの一つですね。
南半球での目盛環
対象の導入にモザイク撮影に大活躍する目盛環ですが、南半球で使用する場合は注意が必要です。南半球では赤経の向きが逆。そのままでは赤経が増える方向が逆になってしまいます。
南半球仕様目盛環
筆者は、南半球でいざ対象を導入しようとしたときに、鏡筒があさっての方向を向くことで気がつきました^^ 帰国後ユニテック様に相談したところ、逆向き目盛のPDFを作ってくださいました。これをシール印刷して目盛環に貼り付ければ南半球仕様になります。次回の遠征の際に試してみたいと思います。
収納ケース
SWATシステムのオプションパーツに「収納ケース」に類するものは特にありません。システムが柔軟であるだけに、汎用の収納システムは存在しないといってよいでしょう。適宜工夫して運搬・収納環境を整備する必要があります。
上の画像は最小システム構成の例。SWAT赤道儀は「スカイメモRS」や「JILVA-170」よりは筐体がコンパクトで収納性は悪くなく、大型のカメラバッグであれば間仕切りを調整すれば上の画像のようになんとか収納できます(*)。
(*)長方形の筐体と、円形の赤経軸が分離できると素晴らしいのですが、これはムリな注文ですね^^
こちらはフルセット構成。プラケースに段ボールで間仕切りを入れて、SWAT本体とパーツ一式を収納しています。このケースにもろもろ一式が全部入ります。上記の総重量は約10kg。
SWATシステムに望むこと
筆者はこれまで1年以上SWAT-310赤道儀を使ってきました。この記事を書いていてあらためて考えたのですが、正直いってSWAT赤道儀にこれ以上望むことは何もありません(*)。これって実は凄いことですよね?
(*)シンプルフォークユニットとダブル雲台ベースに、もう少し厚肉で頑丈なバージョンが欲しいとか、極軸望遠鏡だけで本体価格の1/4以上になるとか、いうのはあるのですが、赤道儀本体についてはホントにもう何も言うことがありません。
ただし・・・一つだけ注意があります。俗に言われる「BORG沼」と同じことがあてはまります。「SWAT沼」です。積み上がったパーツ類の価格を足し上げるといったいお幾らになるんだっけ?いや、考えないでおこう^^ そんな恐怖?がないわけではありません。
SWAT-310は本体だけなら希望小売価格11.5万(税別)とリーズナブルですが、本体だけで済むことはほぼありません。これだけは肝に銘じる必要があります。自分のやりたいことをよく整理して必要なパーツを順に揃えて行くのは基本としても、ひょっとしたら本体分に近いくらいの投資が(いずれ?)発生すると考えておいたほうがよいと思います(*)。
(*)SWAT沼の半分以上は「アリガタ・アリミゾ・三脚沼」です。その意味ではBORGとは違って「浅い沼」だと思います^^
今後のSWATはどんな方向に進むのでしょうか?編集部が信頼できる情報筋^^から入手したところによると、SWAT本体の高精度・耐荷重を生かした「赤緯軸」関連の新パーツが開発中らしいとのこと。SWAT2台で2軸駆動のような「合体ロボ」的な応用も検討中とか。あっと驚く新製品に期待ですね^^
JILVA-170とTOAST赤道儀
最後に、「最強伝説」の文脈でSWAT赤道儀を語るには、避けて通れない2つの製品があります。JILVA-170とTP-2(TOAST)です。
製品のコンセプトやビジネスのスタイルは微妙に異なりますが、この3つの製品は「1軸駆動に徹した超高精度な写真用赤道儀」という立ち位置は同じ、現在に至るまでの経緯はさておき源流も同じです。
筆者はTP-2は使用したことがありませんが、JILVA-170は現役ユーザです。いずれJILVA-170についても「最強・赤道儀伝説」で取り上げたいと考えています。
まとめ
いかがでしたか?
「一軸駆動」に徹することで生まれたSWAT赤道儀。自動導入やIoTなど、様々な電子技術・情報技術を駆使する方向ももちろんありますが、武骨なまでに基本機能に徹底したSWAT赤道儀は、将来にわたって長く活躍してくれることでしょう。
何よりも、SWAT赤道儀の「ターンテーブルから先」をどうするか。SWAT赤道儀でどんなシステムを組んで、どんな天文ライフを過ごすのか。それは全てあなたがお決めになることです。この自由度こそがSWAT赤道儀の最大の魅力ではないでしょうか。
「最強の赤道儀」が天文ファンを熱くする!それではまた次回お会いしましょう。
- 本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
- 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
- 「SWAT-310 V-spec」の仕様・精度は現在開発中のβ版のものです。最終製品の仕様は販売開始時点で変更となる可能性があります。
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- 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年8月)のものです。
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https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/08/23/9283/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-150x150.jpg編集部レビューマウントマウント最強赤道儀伝説しばらく間が空いてしまいましたが、古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていく「最強!赤道儀伝説」。第2回はユニテックの「SWAT-310」赤道儀です。
このSWAT-310赤道儀は、昨年来編集部の主力赤道儀として大活躍しています。シンプルな操作性、抜群の安定感と信頼性、そして多彩な拡張性。いきなり結論ですが、平成から令和の「最強ポータブル赤道儀」の一つであると、力強く断言できる逸品です。
では、その詳細をご紹介していきましょう。
SWAT最強!伝説
最強!一軸駆動赤道儀
SWAT赤道儀は、1軸駆動のポータブル赤道儀。「日周運動を追尾する」ための赤経軸駆動だけに割り切った、シンプルな構成。このため、極軸合わせ以外の面倒な設置や操作は一切不要。電源をONにするだけで直ちに追尾を開始します。
しかも、高い剛性と追尾精度で「ノーガイド撮影(ノータッチガイド)」に真価を発揮します(*)。レンズを搭載して対象に向ければ、あとはシャッターを切るだけ。
(*)オートガイド端子を備えているので1軸オートガイドでの運用も可能です。筆者はやったことはありませんが^^;;
SWAT赤道儀は、焦点距離200mm程度までならもう何も考える必要がありません。「1軸駆動に徹する代わりに最高レベルの剛性と精度を実現する」というコンセプトの恩恵です。機材の限界ぎりぎりにチャレンジするのもまた楽しい遊びですが、逆に「あり余るパワーで余裕をかます」のも別の楽しさがあります^^
最強!長焦点鏡筒用ガイドシステム
SWAT-310赤道儀の追尾精度は公称「±7秒角」、搭載重量は10kg。「限界ぎりぎりにチャレンジ」すれば、焦点距離600mmクラス、5〜7kg級の機材が搭載できます(*)。さすがに「何も考えない」わけにはいきませんが、SWAT赤道儀は長焦点システムを運用する十二分なポテンシャルを持っています。
(*)たいていの場合、ボトルネックはSWAT本体ではなく、三脚や赤緯軸システムとなることでしょう。
上記システムで撮影したNGC4565です。フォーク部のたわみもあり、歩留まりは100%ではありませんでしたが、1分露出でもコンポジット後の画像では星はぼぼ丸になっています。SWAT赤道儀の高い追尾精度が発揮された例といえます。
最強!お手軽眼視システム
SWAT赤道儀が活躍するのは写真撮影ばかりではありません。1軸とはいえ赤道儀。目分量で極軸を北に向けるだけでも、お手軽観望には十分な追尾精度です。高倍率でのお手軽観望では「手動追尾」と「自動追尾」では圧倒的な利便性の差があります。
三脚を含めて5キロ程度ですから、天気がよければサッとベランダに出してお気楽観望。これは稼働率が上がりますね。
こちらはもう一回り大きな85mm屈折アポ鏡筒を搭載。SWAT本体的にはこの程度ならまだ余裕の搭載重量。極軸をしっかり合わせておけば、一度対象を導入すればずっと追尾してくれます(当たり前ですが^^;;)。こういう意表を突いた?使い方ができるのもSWAT赤道儀の面白いところ。「ポータブル赤道儀で眼視観望」はいかがでしょうか?
SWAT赤道儀の特徴
それでは、SWAT赤道儀の特徴をあらためて見ていきましょう。
ユニテック社の最初のSWAT赤道儀「SWAT-200」が発売されたのが2012年。以降、幾度となく改良が施され、今回ご紹介するモデル「SWAT-310」は2018年4月に発売された最新のモデルです。
ユニテック・SWAT-310
https://www.unitec.jp.net/products.htm#SW31
「一軸」駆動赤道儀
「SWAT」とは「Single Way Axis Tracker」の略(*)。この「一軸(Single Way)」というのが重要なコンセプト。
(*)筆者はかなり後になってからようやく知ったのですが^^;;、
「二軸オートガイド」や「自動導入」を実現するには、赤経・赤緯の二つの回転軸と駆動機構が必要になります。それをあえて「一軸」に徹する代わりに、その一軸の精度と剛性を極限まで高める。それがSWAT赤道儀といえるでしょう。
メーカーHPの製品紹介では「ポータブル赤道儀」と謳われていますが、剛性・精度・耐荷重のいずれも中型の本格的な赤道儀と遜色なく、むしろ「一軸」だけ取りだして比較すれば、勝っているかもしれません。
「一軸でできることに徹する」というポリシーは、ユーザーの利用目的とマッチした瞬間、何ものにも代えがたい使い勝手と信頼感をもたらします。何も考えなくても対象に向けてシャッターを切るだけで撮れる。そんな信頼感がSWATにはあります。
高剛性・高精度、追尾誤差公称±7秒角
SWAT-310の筐体はアルミ合金の削り出し加工によるもの(*)で、非常に高い剛性を確保しています。手に取るとバランスウェイトかと思うほどずっしりと重い(重量2.4kg)のですが、極軸以外の可動部分が存在しない筐体は、ビクともしない安定感です。
(*)初代のSWAT-200はダイキャスト加工でしたが、SWAT-300以降はアルミ削り出しになりました。
箱形の筐体の中に組み付けられた赤経軸は、直径106mm・歯数210枚という中型のドイツ式赤道儀よりもむしろ大きなウォームホイルによって駆動されますが、追尾誤差は「±7秒角」が謳われています(*)。
(*)実は筆者は使用しているSWAT-310実機の追尾誤差を厳密に測定したことはないのですが(メーカーサイドでの実測データは後述)、500mmクラスで撮影した結果や他のユーザーの検証事例を見る限り、この基準は全て満たされていると判断してよいと感じています。全個体に対して出荷前に追尾精度の検査が行われているそうです。
この「±7秒角」の追尾精度は非常に高いレベルといえます。後述するPEC機能を搭載したV-specではさらに高精度になるそうです。この精度は600mmくらいの長焦点であっても、露出時間を短めにすればオートガイドなしでも撮影可能になるレベルです(*)。
(*)歯数210枚はウォームギア1回転6.9分、追尾誤差を±7秒角の正弦波と仮定すると約100秒で追尾誤差は最大7秒角。焦点距離600mmでセンサー上の10μは2.8秒角、100*2.8/7=40秒露出までならずれは10μ以内。
SWAT赤道儀の高精度の秘密は「大径のウォームホイル」「ウォームホイールとギアの材質の最適な選択」「ラッピング加工」「エイジング処理」にあります。その詳細は本稿では触れませんが、以下のリンク先を参照してみてください。
SWATブログ・コラム
http://unitec.cocolog-nifty.com/blog/cat23833278/index.html
重量機材の搭載が可能
SWAT-310はかなりの重量機材が搭載可能です。剛性の高い筐体と赤経架頭が近接しているため、重量物を搭載しても重心が三脚中心から大きくずれることがない合理的なレイアウトになっています。
公称搭載可能重量は10kgですが、実際に使用した感触でもこの重量を搭載した運用がじゅうぶんに可能だと感じました。むしろ、三脚やアリガタ・L字プレート・赤緯軸など、SWAT赤道儀本体以外のシステム全体の強度がネックになるほどです。
SWAT-310は、後述する「赤経軸連動型の目盛環」を搭載している関係で搭載可能重量が10kgに制限されていますが、上位機種のSWAT-350の場合はさらに15kgまで搭載可能とのことです。強度的にも精度的にも「中型赤道儀から赤経軸だけを切り出した製品」と考えてよいでしょう。
汎用性の高い極軸架頭部(ターンテーブル)
SWAT赤道儀の極軸架頭部は「ターンテーブル」と呼ばれ、カメラ雲台や各種アリミゾなどのパーツを装着して使用するようになっています。この「ターンテーブル」には35mm間隔のM8とM6のネジ穴と1/4インチの雄ネジがあって、汎用性の高い仕様となっています。ターンテーブルの接合面の径も77mmと大きく、各種パーツをしっかりと装着することができます。
印象のみの表現になってしまいますが、一言でいうと「ここから先はあなたの好きにしてね」。存在感のある筐体なのに自己主張しない。「赤経駆動は私におまかせください」的な感じです。
さらなる高精度・V-spec
「±7秒角」という高い追尾精度を誇るSWAT赤道儀ですが「V-spec」と呼ばれるさらに高精度を追求したバージョンが現在開発中とのことです。違いはずばり「PEC(*)搭載」です。
(*)Periodic Error Correctionの略。追尾誤差の多くの部分はウォームギアの回転の周期で発生する周期的な誤差であることに着目し、個体単位でエラー量を記憶させておき、駆動時にエラーが相殺されるよう駆動させる機構。
これにより、SWAT-310の追尾精度はさらに向上します。製品仕様と保証精度がまだ確定していないそうですが「起動時に荷重方向を指定しない場合は東西いずれの偏荷重でも±5~6秒角程度、東西いずれかの荷重方向を指定した場合は±4~5秒角程度」という数字が現在の感触だそうです。
このレベルまで赤経軸の追尾誤差が小さくなると、逆にそれ以外の追尾誤差の要因が顕在化してきます。機材の重心変化によるたわみ・沈み込み・大気の屈折(大気差)など、ガイドエラーにはさまざまな要因があり、それらをひとつずつつぶしていかねばなりませんが、一番のキモである赤経追尾の精度が高いことで他のガイドエラーの切り分けも容易になることでしょう。
「起動時の荷重方向の指定」について、詳しく補足しておきます。
上の図はウオームホイル・ギアのかみ合わせの模式図です。ホイル・ギア間の間にわずかなクリアランス(すき間)がある場合、赤道儀のバランスが東西いずれであるかによって、かみ合う面が異なることになります。このため、SWAT赤道儀のピリオディックモーションの挙動は、東西の荷重方向によって異なる場合がほとんどだそうです。
このため、V-specに内蔵されているPECデータは、東側荷重時・西側荷重時それぞれ別の値が搭載されていて、起動時のボタン押下指定によってどちらのPEC情報を使用するか指定するようになっています(*)。この場合の追尾誤差が±4〜5秒角程度(β版での暫定値)。
(*)起動時の荷重指定と実際のバランス方向が逆になると、かえって追尾精度が悪くなることに注意が必要です。
荷重方向を指定しない「ノーマルモード」の場合には、どちらの偏荷重の場合にも対応するよう「バランスのとれた補正」となります。この場合の追尾誤差は±5〜6秒角程度(β版での暫定値)とやや大きくなります。
以下、推測を含む筆者の見解ですが、「荷重方向によってピリオディックエラーの挙動が異なる」ことはある程度一般的な事象かもしれません。ギアの歯切り時点での2つの面の精度差・ギアのラッピング(誤差を減らすためにかみ合わせ状態で研磨処理を行うこと)の際の荷重方向・最終的なギアクリアランスの調整度合など、挙動の違いをもたらす要因はいくつか考えられるでしょう。いずれにしても、自社製品の追尾精度を実際に精密に測定し、最適な補正機構を実装したユニテック社の姿勢には拍手を贈りたいと思います。
ご自分の赤道儀のピリオディックエラーを測定する方法がユニテック社のブログに紹介されています。比較的簡単な方法なので、興味のある方はお試しになってはいかがでしょうか。
SWAT赤道儀のシステム構成例
最小構成
SWAT赤道儀を使用した最もシンプルな構成です。カメラ用三脚にSWAT赤道儀を直づけし、ターンテーブルに自由雲台を装着してカメラを搭載します。
この構成の場合、南中時以外は東西のバランスが崩れますが、SWAT-310の駆動力・保持力にはかなり余裕があるため、小型のポータブル赤道儀と比較すればはるかに安定したガイドが可能です。
しかし重量機材や長焦点・長時間のガイドには限界があります。その場合は後述するドイツ式やフォーク式の構成にして、東西のバランスを調整できるようにするべきでしょう。
SWAT本体と三脚の一番簡単な接続は、SWAT本体の底部に切られた3/8太ネジを使用することです。太ネジであれば一点止めであってもかなり堅固に固定することができます。
もちろん1/4<->3/8のアダプタを使用して細ネジでも装着できますが、重量機材になるほどこの接続は太ネジが推奨です。
もうひとつ、本体底部の2つのM6ネジ穴にアルカスイスプレートを装着し、アルカクランプ仕様の三脚と接続する方法も考えられます。筆者は今年の春に後述の「極軸微動ユニット」を導入するまではこの方法を使用していました。
極軸微動ユニット
SWAT・極軸微動ユニット
https://www.unitec.jp.net/option.htm#KBU
とはいえ、最小構成では極軸を正確に合わせるにはかなりの慣れを必要とします。やはり極軸微動ユニットはあるに超したことはありません。
SWAT純正の極軸微動ユニットは、数あるポータブル赤道儀用の同種製品の中でも、接続方法の多様性・堅牢性・微動のスムーズさ、いずれをとってもトップクラスだと思います。「ゴニオ式」と呼ばれる円弧状の部材が擦動する機構は、重量機材であっても安定して支えることができます。
底面の接続は3/8インチ太ネジ。上部のテーパーキャッチャーはM6ネジ2本で簡単に外すことができ、取り外すと35mm間隔のM6/M8穴が現れます。これを使用してアルカクランプなどの汎用パーツに換装することも可能です。
ダブル雲台ベース
SWAT・ダブル雲台ベース
https://www.unitec.jp.net/option.htm#DUB
オプションの「ダブル雲台ベース」を使用すれば、カメラを2台搭載したり、ドイツ式構成に組むことができます。ダブル雲台ベースは「コ」の字型のプレートで、2つのローレット付きM6ネジでターンテーブルに簡単に装着することができ、十字型のハンドルの付いた2つの1/4ネジでカメラ雲台などを2個装着することができます。
左は、カメラを2台装着した例。ダブル雲台ベースはターンテープルにスライドして装着できるため、極端な重量差がなければある程度バランスの崩れを防ぐことができます(*)。
(*)ただし、カメラ装着状態でスライドさせるのは若干ムリがあります。ダブル雲台ベースのプレート部はビクセンアリガタ互換なので、後述する「アリミゾキャッチャー」をターンテーブルに装着して使用するほうがバランス調整が容易になります。
中は、オプションのウェイトシャフト、バランスウェイトを使用してドイツ式構成に組んだ例。ダブル雲台ベースにはM6のネジ穴が両側に空けられていて、そこにウェイト軸をねじ込んで使用します。
右は、テレスコ工作工房の「ペットボトルアダプタ」を使用した例。この構成でぴったりバランスがとれています。
「ダブル雲台ベース」は希望小売価格9000円と比較的お値頃で汎用性も高く、有力なオプションの一つといえるでしょう。
アルカスイス仕様・フォーク構成
ターンテーブルにアルカクランプを装着すれば、さまざまなアルカスイス互換パーツを装着できるようになります。
SWAT・アルカスイスキャッチャー
https://www.unitec.jp.net/option.htm#ASC
上の画像はオプションの「アルカスイスキャッチャー」を装着したところ。一般のカメラ用クランプと比較して、M6のネジで2点止めできる・幅が65mmと広く固定力が高い・ハンドルが長いためターンテーブルと干渉しにくい、というメリットがあります。希望小売価格は税別5500円。
SWAT・シンプルフォークユニットDX
https://www.unitec.jp.net/option.htm#SFDX
アルカスイス互換のパーツは世の中に数多く販売されていて、その組み合わせは無限。アイデアひとつで多彩な応用が可能です。上の画像は純正オプションの「シンプルフォークユニットDX」を使用した、筆者が愛用しているフォーク式システムの構成例。
「シンプルフォークユニットDX」にはパノラマ雲台が装着されており、汎用品のアルカプレート・クランプを介して、全天死角レスのシステムを組むことができました。
ただし、アルカスイスパーツを使用する場合、個々のパーツの強度にはじゅうぶん考慮が必要です。アルミ合金の場合、肉厚が7〜8mm程度あっても長いプレートは重量機材の搭載によってたわむ可能性があります(*)。
(*)ユニテック社のHPには「焦点距離200mm程度まで」との記述があります。一概にはいえませんが、片持ちフォーク運用の場合は「流れない露出時間」の範囲にとどめるのが吉です。
ビクセンアリガタ仕様・ドイツ式構成
SWAT・アリミゾキャッチャー
https://www.unitec.jp.net/option.htm#AC
ターンテーブルにビクセン互換アリガタを装着可能にするオプションパーツが「アリミゾキャッチャー」です。オプションの「ダブル雲台ベース」はビクセン規格のアリガタでもあるので、上の画像のようにアリミゾキャッチャーに装着することができます。可動範囲は長くはないものの、スライドが可能なのである程度のバランス調整も可能。
SWAT・回転ユニット
https://www.unitec.jp.net/option.htm#KU
上の構成は、SWATのオプションパーツを駆使してドイツ式赤道儀に組んだ例。赤緯軸は、微動・目盛環対応の「回転ユニット」を使用しました。
「回転ユニット」はかなり本格的な赤緯軸です。中型赤道儀の赤緯軸だけを切り出したくらいの迫力があり、搭載重量限界くらいまでの機材を余裕で積むことが可能でしょう。架頭の仕様は35mm間隔のM6/M8ネジなので、さまざまな天文機材が装着できます。中央は1/4インチネジです。赤経軸側はテーパーキャッチャーを使用する形になっています。
SWAT赤道儀の三脚
ユニテック社からはSWAT赤道儀専用の三脚は特に販売されていません。一般のカメラ三脚の規格である、1/4細ネジないしは3/8太ネジ仕様の三脚をユーザーがチョイスする想定です。
すでにカメラ用の頑丈な三脚をお持ちならそれを使用する手もありますが、「カメラ用」として販売されている三脚の中には天体写真用途では若干固定力が甘いものもあり、新たに購入されるなら、強度的にもコスパ的にも天文系メーカーの三脚がオススメです。
筆者は主にK-ASTEC社のカーボン三脚PTP-C22を使用しています。こちらはパイプ径40mmで非常に堅牢で、SWAT-310とのマッチングは良好です。パイプ径40mmのカーボン三脚は他にもサイトロンジャパンやモアブルーなど各社から同クラスの製品が販売されています。実売価格は4.5万円〜6.5万円といったところです。
SWAT・ビクセン三脚アダプター
https://www.unitec.jp.net/option.htm#VTA
コスパを重視するなら、上画像左のビクセン「AP三脚(APP-TL130 直販価格税込19,980円)」がオススメです。剛性・重量的にはカーボン三脚より若干劣るものの、特に架頭部が堅牢でカメラ用三脚よりも良好です。
AP三脚はそのままでは接続することができないのでアダプタが必要になります。上画像右はSWATのオプションパーツ「ビクセン三脚アダプタ」。中央のネジが3/8の太ネジなので強度的にも安心。薄型なので微動雲台と併用する場合に背が高くなりすぎないのもメリット。AP三脚やビクセンのSX系三脚など、45mm径仕様の三脚を使う場合はこちらがオススメです。
三脚アダプタはビクセンからも販売されています。こちらの「雲台アダプター(直販価格税込5,184円)」は、底部に45mm径・60mm径両対応の段差が刻まれていて、ツノつきの状態で三脚にM10ネジで固定することができます。
1/4インチネジが若干短めでやや心もとないのがちょっとマイナスポイントですが、旧規格のGP三脚でも使えるのがメリット。
上左はビクセンのカーボン・アルミハイブリッドの三脚「ASG-CB90」に搭載したところ。この三脚はAP三脚と比較して開き止めステーが強化され、細い方のパイプの内部がアルミで強化されています。この三脚はAXJ赤道儀でも推奨されているくらいなので非常に堅牢。
右はSky-WatcherのEQ5GOTO赤道儀用の三脚に搭載したところ。この三脚でも使用できるのが45mm/60mm規格両対応のビクセンの雲台アダプターの存在意義。44mm径のステンレスパイプはクソ重いですが、堅牢性は抜群。重量機材を搭載するときはこちらを使おうと思っています。
45/60mm両用の三脚アダプタは他にも笠井トレーディングの製品があります。やや重いですがこちらは3/8太ネジ仕様です。
SWAT最強!伝説・その2
最強!海外遠征システム
SWAT-310赤道儀の本体重量は2.4kgと「ポータブル赤道儀」としては重量級ですが、システム重量と搭載可能重量の比率で考えると、比類のないパフォーマンスを発揮します。これが生きるのが海外遠征です。
上のシステムは、筆者が西オーストラリア遠征で使用したSWATシステム。重量級の機材(キヤノンのサンニッパとシグマ105mmF1.4Art)を2台搭載しています。こんな重量級機材でも安心して運用できるのがSWAT赤道儀。
軽量化最優先で、重量のかさむ「極軸微動ユニット」や「回転ユニット(微動付き赤緯軸)」のようなオプションは省略しました。目的に合わせてパーツの構成を臨機応変に変更できるのもSWAT赤道儀ならではです。
300mm望遠で撮影した大マゼラン星雲。1軸駆動・オートガイドなしのシンプルな構成は、パソコンも不要で電源もモバイルUSBバッテリーのみでOK。装備を最小化し、軽量なシステムが組めるのです。
こちらは105mmF1.4Artで撮影した大マゼラン星雲、ワンショットナローバンド。SWAT赤道儀の高精度な追尾能力のおかげで、長い焦点距離や長めの露出時間にもじゅうぶん対応できました。
最強!目盛環モザイクシステム
SWAT-310の大きな特長の一つが赤経駆動と連動した目盛環が搭載されているところ。一度明るい対象で赤経座標を合わておけば、後は目盛環が恒星時で回転していくため、導入のたびに時角を合わせる必要がありません(*)。
(*)上位機種のSWAT-350もそうなのですが、赤経の目盛環は単にフリーで回転するだけ、という製品が多くあります。実用上は赤経駆動と連動しないと目盛環は使い物にならないといってよいと思います。この仕様を実現するためには、赤経軸・ウォームホイール・目盛環の構造をSWAT-350から大きく変更する必要があり、その分SWAT-310の耐荷重は10kgと小さくなっています。
「目盛環」は、自動導入機構を持たない赤道儀にとっては非常に有用です。目盛の刻みは2°ですが、これは500mm望遠レンズの画角5度と比較すると十分に小さい角度です。SWATで写真撮影をする限りは、目盛環だけで対象を容易に導入することができます(*)。
(*)300mmを越える望遠レンズになると、対象によってはカメラのファインダーだけで導入するのが難しくなってきます(周辺に目立った星列がないおとめ座のマルカリアンチェーンや、こぎつね座の亜鈴星雲、IC1396など)。筆者にとっての過去最難はとかげ座のSh2-126でした^^;
もうひとつ、目盛環がきわめて有効なのがモザイク撮影。SWAT-310の場合、モザイク撮影は目盛環だけでOKです。上の画像は105mmレンズを使用して、赤緯方向に15°、赤経方向に10°刻みで9フレームをモザイクしたもの。つなぎ目の誤差は1°角以下です。
最強!銀河座標モザイクシステム
SWAT赤道儀の拡張性を生かし、アルカスイスパーツで組んだ「銀河座標モザイクシステム」。パノラマ撮影システムを約28°傾けたユニットに装着しました。「銀河の極軸合わせ(*)」には目盛環を活用。やや荒っぽい設置ですが、じゅうぶんに実用になりました。
(*)後述しますが、南半球では赤緯軸の目盛環は北半球と逆になってしまうため、そのままでは正しい目盛にならないことに注意が必要です。
上記システムでのリザルト。1コマ4分露出の画像を80フレームモザイク合成しました。とも座からたて座まで、銀経相当で1/3をカバー。残りの部分は今後撮影予定です。
使いこなし(Tips)
SWAT赤道儀をより活用するために。細かい点・弱点とその補完を含めて、これまで使用した中で気づいた点をまとめてみました。
極軸望遠鏡
SWAT・極軸望遠鏡PF-L
https://www.unitec.jp.net/option.htm#pf-l
オプションの極軸望遠鏡は2種類あります。ひとつは光学式の極軸望遠鏡。現在はビクセンの極軸望遠鏡PF-L(*)と専用金具のセットが販売されています。上の画像のように本体裏面のM6のネジ穴を使用して装着します。このネジ穴は4カ所開けられているので、機材と干渉しない位置を選ぶことができます。
(*)ビクセンPF-Lは旧モデルでより倍率の低いPF-LIIに改良されていますが、アプリ「PF-L Assist」を使用すれば旧モデルでも北極星のみを使用した極軸合わせが問題なく可能です。
SWAT・電子極軸望遠鏡「ポールマスターSWAT」
https://www.unitec.jp.net/option.htm#PMS
もうひとつ、電子極軸望遠鏡の「ポールマスターSWAT」が使用できます。この製品はポールマスターと専用アダプタのセット品で、すでにポールマスターをお持ちであればアダプタのみを購入して使用することもできます。
スタンバイ機能
SWAT赤道儀の「V-spec」では「スタンバイ」機能が搭載されています。電源投入直後に1分間ほど高速(16倍速)で駆動させ、短時間で追尾精度を安定させるためのものです(*)。
(*)筆者の経験上でも多くの赤道儀では「電源投入直後・または姿勢を変えた直後」の追尾は安定しません。
実はSWAT赤道儀では、ウォームホイル・ギアのバックラッシュ(かみ合わせの遊び)をわずかに残すような調整がなされています(*)。
(*)ギアの接合部を「強く締め付ける(圧着させる)」とバックラッシュをなくす(小さくする)ことができますが、逆に一定速度で安定して回転することを妨げてしまいます。
スタンバイ機能を持たないV-spec以前のSWAT赤道儀では、このわずかなバックラッシュによって発生する駆動開始の初期状態の不安定さを低減するために、撮影開始のある程度前から電源を投入しておき、動作を安定させておくことが推奨されています(*)。
(*)本体に「電源スイッチ」が存在しないのはそのためでもあります。
一般に赤道儀では「わずかに東側を重くしたほうがよい」と言われていますが、SWAT赤道にもそれがあてはまります。東西のバランスを完全にとってしまうと、動作の安定までに時間がかかる上に追尾精度にも悪影響が出ます。「若干東側を重くする(*)」のが重要なポイントです。
(*)南半球では逆に西側荷重になります。
電源
SWAT赤道儀の電源は、一般的な「外径5.5mm、内径2.1mm、センタープラス」のケーブルで給電します。推奨電圧は6〜12Vで、単三電池6本(9V)の電池ボックスが付属します。
筆者はこれまで5VのUSBモバイルバッテリを使用していましたが、実はこれではパワー不足になることがあり動作保証外となるそうです(*)。上の画像のような5Vを9Vに昇圧するコンバーター内蔵のケーブルを使用するのが推奨とのことです。
(*)16倍速で駆動するとき、機材重量やバランス崩しが大きい場合、冬期などのバッテリの電圧降下時で問題があるそうです。電圧が低いほど駆動トルクは小さくなります。
オートガイド
SWAT・リモートコントローラーRC01
https://www.unitec.jp.net/option.htm#rc-01
筆者は基本的にSWATではオートガイドも電子極望も使用しない派で、ここまでの記事は全て「ノーガイド(ノータッチガイド)」撮影を前提で書いてきましたが、SWAT赤道儀は「1軸」ですがオートガイドも可能です。
オートガイドを行うためには、オプションの「リモートコントローラRC01」をSWAT本体に接続し、このコントローラ側にあるST-4対応のガイドケーブル端子を使用します。
高緯度・低緯度地方対応
SWAT赤道儀は約35°傾いたエッジ状の構造になっていて、本体を水平にした場合北緯35°で極軸が合う形になります。
高緯度・低緯度地方で使用する場合は、なんらかの形で傾けてやればよいのですが、オプションの極軸微動ユニットの可動範囲は±8°。三脚側で最大10°傾けるとして、緯度17°〜53°まで対応することになります。この範囲をさらに超えるような場合は、エッジ状のパーツを挟むなり、何らか工夫が必要になるでしょう。
SWATは背面にも1/4インチ・3/8インチのネジ穴が開けられています。この穴は本来は水平に設置してタイムラプス撮影のターンテーブルとして使用するためのものですが、緯度70°〜90°までの極地であればこの体勢で使用するという手もあります(*)。
(*)極地の極低温での動作は不明です^^;;; 極軸望遠鏡が思い切り覗きにくそうですが、極地の星空は一度は見てみたいものの一つですね。
南半球での目盛環
対象の導入にモザイク撮影に大活躍する目盛環ですが、南半球で使用する場合は注意が必要です。南半球では赤経の向きが逆。そのままでは赤経が増える方向が逆になってしまいます。
南半球仕様目盛環
筆者は、南半球でいざ対象を導入しようとしたときに、鏡筒があさっての方向を向くことで気がつきました^^ 帰国後ユニテック様に相談したところ、逆向き目盛のPDFを作ってくださいました。これをシール印刷して目盛環に貼り付ければ南半球仕様になります。次回の遠征の際に試してみたいと思います。
収納ケース
SWATシステムのオプションパーツに「収納ケース」に類するものは特にありません。システムが柔軟であるだけに、汎用の収納システムは存在しないといってよいでしょう。適宜工夫して運搬・収納環境を整備する必要があります。
上の画像は最小システム構成の例。SWAT赤道儀は「スカイメモRS」や「JILVA-170」よりは筐体がコンパクトで収納性は悪くなく、大型のカメラバッグであれば間仕切りを調整すれば上の画像のようになんとか収納できます(*)。
(*)長方形の筐体と、円形の赤経軸が分離できると素晴らしいのですが、これはムリな注文ですね^^
こちらはフルセット構成。プラケースに段ボールで間仕切りを入れて、SWAT本体とパーツ一式を収納しています。このケースにもろもろ一式が全部入ります。上記の総重量は約10kg。
SWATシステムに望むこと
筆者はこれまで1年以上SWAT-310赤道儀を使ってきました。この記事を書いていてあらためて考えたのですが、正直いってSWAT赤道儀にこれ以上望むことは何もありません(*)。これって実は凄いことですよね?
(*)シンプルフォークユニットとダブル雲台ベースに、もう少し厚肉で頑丈なバージョンが欲しいとか、極軸望遠鏡だけで本体価格の1/4以上になるとか、いうのはあるのですが、赤道儀本体についてはホントにもう何も言うことがありません。
ただし・・・一つだけ注意があります。俗に言われる「BORG沼」と同じことがあてはまります。「SWAT沼」です。積み上がったパーツ類の価格を足し上げるといったいお幾らになるんだっけ?いや、考えないでおこう^^ そんな恐怖?がないわけではありません。
SWAT-310は本体だけなら希望小売価格11.5万(税別)とリーズナブルですが、本体だけで済むことはほぼありません。これだけは肝に銘じる必要があります。自分のやりたいことをよく整理して必要なパーツを順に揃えて行くのは基本としても、ひょっとしたら本体分に近いくらいの投資が(いずれ?)発生すると考えておいたほうがよいと思います(*)。
(*)SWAT沼の半分以上は「アリガタ・アリミゾ・三脚沼」です。その意味ではBORGとは違って「浅い沼」だと思います^^
今後のSWATはどんな方向に進むのでしょうか?編集部が信頼できる情報筋^^から入手したところによると、SWAT本体の高精度・耐荷重を生かした「赤緯軸」関連の新パーツが開発中らしいとのこと。SWAT2台で2軸駆動のような「合体ロボ」的な応用も検討中とか。あっと驚く新製品に期待ですね^^
JILVA-170とTOAST赤道儀
最後に、「最強伝説」の文脈でSWAT赤道儀を語るには、避けて通れない2つの製品があります。JILVA-170とTP-2(TOAST)です。
製品のコンセプトやビジネスのスタイルは微妙に異なりますが、この3つの製品は「1軸駆動に徹した超高精度な写真用赤道儀」という立ち位置は同じ、現在に至るまでの経緯はさておき源流も同じです。
筆者はTP-2は使用したことがありませんが、JILVA-170は現役ユーザです。いずれJILVA-170についても「最強・赤道儀伝説」で取り上げたいと考えています。
まとめ
いかがでしたか?
「一軸駆動」に徹することで生まれたSWAT赤道儀。自動導入やIoTなど、様々な電子技術・情報技術を駆使する方向ももちろんありますが、武骨なまでに基本機能に徹底したSWAT赤道儀は、将来にわたって長く活躍してくれることでしょう。
何よりも、SWAT赤道儀の「ターンテーブルから先」をどうするか。SWAT赤道儀でどんなシステムを組んで、どんな天文ライフを過ごすのか。それは全てあなたがお決めになることです。この自由度こそがSWAT赤道儀の最大の魅力ではないでしょうか。
「最強の赤道儀」が天文ファンを熱くする!それではまた次回お会いしましょう。
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「SWAT-310 V-spec」の仕様・精度は現在開発中のβ版のものです。最終製品の仕様は販売開始時点で変更となる可能性があります。
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記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年8月)のものです。
記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部山口
千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
めちゃくちゃ力の入ったレビュー。
ありがとうございます^^
今回も主力はSWATです。2晩撮れればつながる見込みです。