みなさんこんにちは!毎日残暑が続きますがいかがお過ごしでしょうか。

天リフ編集部では、ビクセン社より「エクステンダーPHキット」をお借りすることができました。「エクステンダーPHキット」とは、F4のニュートン式反射望遠鏡の焦点距離を約1.4倍に伸ばした「アストログラフ(天体写真用望遠鏡)」として使用するための補正レンズです。

この「エクステンダーPHキット」を、編集部所有のSky-WatherのBKP130(口径130mm,焦点距離650mm、F5)に装着して使用してみました。そのレビューをお届けします!



ビクセンHP エクステンダーPHキット
https://www.vixen.co.jp/product/37238_6/

クラシックの中のクラシック・ニュートン式反射望遠鏡

wikipedia ニュートン式望遠鏡

数ある天体望遠鏡の中で最もクラシックな「ニュートン式反射望遠鏡」。かのニュートン卿が1668年に初号機を製作して以来、なんと350年間基本設計は何も変わっていません。そして今も天体望遠鏡界の一大勢力として現役中の現役。これってすごくないですか?

ニュートン反射の最大の特徴は、なんといっても理論上は軸上完全無収差であること。光軸上(中心像)においては全ての収差が存在せず、完璧な像を結ぶのです。

さらに構造が簡単。放物面の主鏡と平面の副鏡の2つのみ。昔は放物面鏡の研磨が難しく高価格でしたが、製造技術が進歩し比較的高精度な主鏡が低価格で販売されるようになりました。そして現在では、ニュートン式反射望遠鏡はカメラの撒き餌レンズもびっくりな低価格で販売されているのです。口径25cmでも10万円以下の製品がいくつもあります。

しかし、写真用途で使用する場合の大きな弱点が「周辺像」。ニュートン反射はF値の明るい製品を比較的容易に製造できる反面、F値が小さいほど(2乗のオーダーで)「コマ収差」が出てしまうのが難点でした。しかし、この周辺像を大幅に改善する高性能な「コマコレクタ」の出現によって、ニュートン式反射望遠鏡は高性能なアストログラフとしても甦ったのです。

エクステンダーPHキットの概要と特徴

 

デジタル時代の高性能エクステンダー

「エクステンダーPHキット」は、2015年に発売された高性能wynneコマコレクタ「コレクターPH」に引き続いて、今年の2月にビクセンから発売されたニュートン反射用の「主鏡の焦点距離を長くする(1.4倍)タイプ」の補正レンズです。

ビクセンHPより。https://www.vixen.co.jp/product/37238_6/

スポット図をみると光学性能は大変優秀なようです。評価の高い同社の「コレクターPH」よりもさらに良好な結像を示しています(*)。

(*)ただしスポット図は「幾何光学的」計算結果なので、Fが暗いほど回折の影響が無視できなくなります。

左がエクステンダーPH本体。長い筒状の部分が2インチスリーブ規格です。R200SSとは付属の「EX TUBE 66」を介してM56で接続します(右)。

汎用性のあるエクステンダーPH

メーカーのHPの記述によれば、この製品は同社の反射望遠鏡「R200SS用」なのですが、ニュートン式反射望遠鏡はその単純な構成上、理論的にはF値と焦点距離だけで補正レンズの適性が決まります(*)。このため、他社製品を含めて広く使用できる可能性があるのが「裏の?」大きな特長。そのため、接眼部への接続はビクセン標準のM56だけでなく、2インチスリーブにも対応しています。

(*)ニュートン式反射望遠鏡はF値が同じであればコマ収差の出方は同じ。焦点距離が同じであれば像面湾曲の出方も同じです。

実際、販売店やヘビーユーザーからいくつかの鏡筒での使用事例が公開されていて、F4〜F6くらいの範囲なら多くのニュートン反射で好結果が得られるようです(*)。

(*)メーカーHPでは「他社製品への応用につきましては、お客様の責任にてご使用ください」と書かれていますが、2インチスリーブ仕様としたのは汎用性を強く意識した上での好判断といえるでしょう。合焦や接眼部のたわみなと、光学性能だけではない様々な要件もあるため、このような記述になるのは仕方のないことだと思われます。

ユーシートレード店長日記 ビクセン・エクステンダーPH試写結果
http://uctrade.jp/blog-entry-2363.html

こちらのリンク先では他社製20cmF4(BKP200/F800)、20cmF6(タカハシMT-200)の作例がありますが、どちらも優秀な像を示しています。

今回のレビュー記事もその線に沿ったもの。ニュートン反射最安クラスの「Sky-Water BKP130(口径130mm,焦点距離650mm、F5)でエクステンダーPHがどんな性能を発揮するか試してみよう、というものです。

上質な仕上げ

センサー面に近い場所に置かれる補正レンズでは、レンズの表面反射やスリーブ内の内面反射、レンズのコバからの反射による影響(かぶり)が画質の善し悪しを決める大きな要素の一つになります。

スリーブ内には細かなスジの入ったつや消し黒塗装が施されています。スジの入っていないドロチューブ内面との反射の差は歴然。スリーブをもっと太くして遮光環を入れればさらに内面反射は少なくなるでしょうか、そこは汎用性とのトレードオフ。

その点、この製品を含めて、最近発売されたビクセンの補正レンズ群はどれも優秀です。コーティングは反射率0.1%の「ASコーティング」で、こば塗りも手抜かず全レンズに施され、スリーブ内もギザギザと上質なつや消し塗装が施されています。

このエクステンダーと組み合わせる「直焦ワイドアダプター60DX」のつや消し塗装も非常に優秀。M48にせよT2マウントにせよ、ひと時代前からある廉価なカメラアダプタは内面反射処理が現代のデジタル撮影レベルでは不十分なものが多いのですが、その点でもこの製品は合格点です(*)。

(*)海外メーカーは一般に内面反射防止処理に対して「鷹揚」である(なんでそこまで必要なの?)との話を伝え聞くことがあります。筆者の感覚ではぜひお互いのサーフェスを冷水で丁寧に洗浄した上で小一時間は語り合いたい思いなのですが、これは日本の光害が海外よりもはるかにひどくてかぶりが問題になるせいなのでしょうか?

フィルターの装着

フィルターの装着は、世にある2インチスリーブ製品の標準仕様ですが、スリーブ先端に48mm径フィルターをねじ込むのが一つの方法。

なお、直焦ワイドアダプタに52mmフィルターを装着するアダプタリングの開発計画があるのですが(CP+2019で参考出品)、エクステンダーPHの場合は同じ部分にスリーブをねじ込む形になるため、フィルターとの共用は残念ながらできないようです。

BKP130の特徴とエクステンダーPHの接続

BKP130概要

https://www.syumitto.jp/SHOP/SWBKP130.html
シュミット・Sky-Watcher BKP130
https://www.syumitto.jp/SHOP/SWBKP130.html

今回使用した鏡筒。実売価格税込3万切り。セールや中古ならさらに激安になるニュートン反射です。口径130mm、焦点距離650mm。エクステンダーPHを装着すると焦点距離は910mmとなります。この鏡筒が凄いのは、この価格でデュアルスピードフォーカサー(*)が標準で付いてくるところです。

(*)国産品なら鏡筒がもう1個買えてしまうほど。鏡筒バンド・アリガタ・接眼レンズ(28mm)・ファインダーなど部品だけでも元が取れるかも^^;;

斜鏡がむき出しであるとか、主鏡セルの爪の回折が気になるとか、ドロチューブが長すぎて構成によっては主鏡に影を落とすとか、接眼部が緩めでエクステンダーPHがわずかに偏芯してしまうかも?とか、いろいろ気になるところはあるのですが、光学性能には何の問題もありません。この鏡筒がこの値段で買えることだけでも激賞の価値があります(*)。

(*)このクラスの反射望遠鏡では、気に入らないところに手を入れていたらいつの間にか主鏡以外全部入れ替わってしまったという話も漏れ聞きます^^;; 自分のこだわり度に応じて手を入れることでも楽しめる鏡筒です。ちなみに筆者はものぐさなので、何も手を入れず純正ママの状態です。

エクステンダーPHの接続

この画像では「直焦リング(6点ネジ止めのカメラマウントを回転させるためのリング)」を装着した状態ですが、2インチスリーブで運用するときは外してしまっても何の問題もありません。

エクステンダーPHとデジタルカメラを接続したところ。この位置が合焦位置です。エクステンダーPHのスリーブを目一杯に差し込んでしまうと、ドロチューブを目一杯伸ばしてもピントがでませんが、エクステンダーPHは長い鏡胴そのものが2インチサイズなので、10mmほど繰り出しておけばピントが出ます。

ただしニュートン式の宿命ですが、横に突き出たカメラという重量物が、鏡筒のバランスを大きく攪乱することに注意が必要です。あまり重いカメラボディを使用するとスケアリングが狂うかもしれませんし、ミラー・シャッターのショックにも敏感になります(*)。筆者は主に天体用CMOSカメラ、軽量なミラーレスを使用しています。

(*)実は筆者はミラーショックの問題で6Dは一度使用したきりで封印しています。特に短秒多数枚の運用の場合、ミラーショックは大きな問題となります。

今回のシステム構成

M27を撮影中。林のすぐ下に上限の月があり、薄雲も多くて冴えないコンディションでした。

次項の作例はこの構成で撮影しました。赤道儀はAP赤道儀(CoolStep改造)です。ウェイトは3.7kg、AP赤道儀的にはほぼ上限に近い構成です。

カメラはイメージサークルの広さと周辺像の状況を把握する意味で、フルサイズのα7S(天体改造)を使用しました(*)。

(*)エクステンダーでなくコマコレを使用し、APS-Cか4/3センサーを使っても同じような広さの写野にはなります。このあたりの機材の組み合わせにはいろいろな自由度があり、結論のない話です。



いくつかの理由でオートガイドは使用せず、ノーガイド撮影です(*)。そのため露出時間は15秒とし、高ISO(16000)、多数枚での撮影となりました。

(*)最大の理由は雲が多かったためガイド星ロストで撮影が中断してしまうのを懸念したことです。

実写結果と評価

M27

では実写作例を見ていきましょう。まずはM27。

BKP130 エクステンダーPHキット  α7S(天体改造) ISO16000 15秒×80枚(総露出20分) ダーク、フラットなし ダメージ系画像処理なし AP赤道儀(CoolStep改造)ノーガイド 福岡県東峰村小石原

トリミングなしのコンポジット画像、ノートリミングです。フルサイズの四隅がほんの少しけられますが、これは斜鏡径の限界によるものでしょうか。周辺減光はまあ素直です。上の画像は、星消し画像をぼかして減算でフラットを補正しています。

1枚画像をレベル調整で強調したもの。ニュートン反射の宿命で左右の光量が若干違いますが、筆者の感覚ではフルサイズでも少しトリミングすれば使えると判断します。繰り返しになりますが、主鏡・斜鏡の径がより大きな光学系の場合、周辺減光はこれよりも改善するはずです。

上の画像の等倍チャート。中心像がやや甘いのはピントがジャストでなかったからかもしれません。右側は最周辺まで大きな像の崩れもなく、安定した結像です。左側は若干片ボケ気味で同心方向に流れが見られます。これはスケアリング不良・主鏡の光軸不良・ドロチューブにエクステンダーを装着する際のスリーブの偏芯が原因として考えられます。

中央部をトリミングした最終画像。明るさの最小値(0.2px)を4回ほどかけて、星像径を小さくしています。天文雑誌入選レベルでは到底ありませんが、お気軽撮影のリザルトとしてはじゅうぶんではないでしょうか。

M17

BKP130 エクステンダーPHキット  α7S(天体改造) ISO16000 15秒×65枚(総露出16分) ダーク、フラットなし ダメージ系画像処理なし AP赤道儀(CoolStep改造)ノーガイド 福岡県東峰村小石原

もう一つ作例を。この画像は月明下で撮影したものですが、この露出時間では淡いところはほとんど写ってこないため、背景のかぶり的にも大きな問題にはならなかたようです(*)。

(*)長焦点の暗めの光学系で明るい対象を狙う場合、ブロードバンドでも月明かりはさほど大きな問題にはならないようです。むしろシーイングやピントの方が解像感に大きな影響を与えるといえるでしょう。

参考までに、使用した65枚の画像を比較明合成したもの。流れているのは姿勢変化によるたわみによるものと推測します。約50ピクセルほど流れているのですが、65コマの撮影なのでざっくり1コマ当たりの流れは1ピクセル以下。ノーガイド撮影のキモは露出時間の選択です。露出時間を倍にすれば流れてしまったことでしょう。

最後に一つだけ気になった事象があります。上の画像はM17のコンポジット直後の画像の彩度を極端に上げたものですが、中心対称ではない色ハロがほんのわずかに出ています。左上が青、右下が赤になっています(*)。

(*)実戦的にはPhotoshopのフリンジ低減でほぼ除去することができました。

中心対称でないということはスケアリング不良・光軸のずれなどが考えられます。エクステンダーPHは前群と後群がかなり離れた構成になっているため、よりシビアなのかもしれません。

この事象の原因なのかどうかははっきりしませんが、BKP130の接眼部の2インチスリーブ差し込み部は若干クリアランスが大きく、2点でネジ止めする際に偏芯しているのかもしれません。これはあくまで原因の可能性の一つではありますが、この事象を完全に解消するにはひとつひとつの可能性を順につぶしていかねばなりません。かなりの試行錯誤が必要となるでしょう(*)。

(*)BKP130の接眼部にはスケアリングを調整するための押し引きネジがあります。厳密に追い込むためには光軸とスケアリングは別々に調整しなければなりません。

このあたりの課題はエクステンダーPHや特定の鏡筒の問題というよりも、ニュートン反射の宿命でもあります。光軸を90°折り曲げるニュートン反射望遠鏡では、直視型の屈折鏡筒よりもスケアリング・光軸がズレる余地が大きくなってしまいます。「調整にかける時間と労力」「リザルトに対するこだわり」のトレードオフにどう向き合うかは、ニュートン反射を選択する際によく考えておく必要があります。

どんな用途に向いているか

恒例の脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

手が届く長焦点鏡

ビクセン純正の反射望遠鏡R200SSは参考価格税抜127,500円。エクステンダーPHは実売税抜60,975円。合わせても20万円を切ります。焦点距離1m越えの撮影システムをこの価格で組めるのは反射望遠鏡ならでは。この焦点距離なら小型・中型の赤道儀でも対応可能な範囲でしょう。

海外製の安価なニュートン反射ならさらに激安になります。今回のレビューで使用したBKP130なら税込でも3万円切り(*)。200〜300mmクラスのカメラレンズよりも安い価格で、大きく写せる長焦点システムを組むことができます。まさに「手が届く長焦点鏡」です。

(*)筆者は星祭りで中古品を1.3万円でゲットしました^^

屈折機を越える光量を生かす

反射望遠鏡のメリットはなんといっても大口径。屈折機で焦点距離1m越えを実現するのは、価格的にもF値的にも現実的には相当ハードルが高いといえます。

F4のニュートンなら、エクステンダーPHを使用してもF値はまだ5.6です。明るいF値なら、ガイド精度にもより寛容になるだけでなく、少ない総露出時間でのお手軽撮影の道が開けます。

一生ものの補正レンズ

実はこれがエクステンダーPHの最大のメリットではないでしょうか。2インチスリーブ対応なので、F4〜F6のニュートンであれば、数多くの機種に対応可能(*)。鏡筒を乗り換えてもそのまま使える可能性が高くなるため、末永く使うことができます。

(*)個別の機種で全て検証したわけではありません。実際の使用にあたっては、販売店様とよくご相談くださるようお願いします。

他製品との比較

エクステンダーPHを検討される場合「コマコレクタ」との比較は避けて通れません。同じビクセンからは、デジタル時代の品質を満足させるコマコレクタ「コレクタPH」が2015年に発売されています。スポット図も優秀で、ユーザーからも評価の高い製品です。

ビクセンHPより。旧製品よりも中心像・周辺像ともに大きく改善されています。https://www.vixen.co.jp/product/37237_9/
ビクセンHP・コレクターPH
https://www.vixen.co.jp/product/37237_9/

選択のポイントは2つあります。一つは焦点距離と明るさ。コマコレクタの場合は焦点距離が元の状態とほとんど変化せず、そのままの明るさを保つため広く淡い対象には向きますが、反面小さな対象では若干物足りなく感じるかもしれません(*)。

(*)単純にいえば銀河や惑星状星雲を撮るならエクステンダーPH、広がった星雲を撮るならコレクタPHが向いているでしょう。

もうひとつは汎用性。コマコレクタで広いイメージサークルを確保するためには、2インチスリーブのような小径では周辺が蹴られてしまうことがあります。また、口径20cmよりも小さな鏡筒では、そもそものイメージサークルが斜鏡径によって制約されてしまう場合もあります。さらに、ビクセンのコレクターPHの場合はM56接続なので、R200SS以外の機種の場合は接続リングを工夫する必要なこともあるでしょう。

その点、2インチスリーブ対応のエクステンダーPHなら、より多くの鏡筒に対応できるメリットがあります(*)。

(*)エクステンダーはF値を大きくするため、設計上最適なF値・焦点距離からずれた場合でも、像面湾曲・コマ収差などの諸収差の補正が比較的良好であるという意味もあります。

まとめ

ベランダで撮影中。このときの作例がないのはかぶりがあまりに酷くて出せないためです^^;;; ニュートン反射を光害地のベランダで活用するには、長いフードを自作するなどの対策が必要でしょう。

いかがでしたか?

ビクセン・エクステンダーPHキットは、現代品質の高い光学性能を発揮し、新旧含めた数多くのニュートン反射鏡筒に適合する汎用性の高い製品だと感じました!

筆者の個人的願望としては・・・いつの日か25cm、30cm級のニュートン反射で撮影してみたい!でも25cmのニュートンって、実は10万円以下で買えちゃいます。15kgくらいの鏡筒になるので、課題は架台なんですが・・・なんちゃって。ラッキーイメージングならいけるかなあ。そんな妄想も膨らむエクステンダーPHキットなのです。

とにかく、コスパ最強のニュートン反射。そのニュートン反射をハイレベルの写真鏡に変身させる「エクステンダーPHキット」は、天体写真マニアの強い味方になることでしょう。

それでは皆様のご武運をお祈りしております!


  • 本記事は(株)ビクセン様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせは各販売店様にお願いいたします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年8月)のものです。製品仕様および価格は、今後変更される場合があります。
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ビクセン・エクステンダーPHキット・現代に甦るクラシックニュートンhttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg編集部レビュー望遠鏡望遠鏡みなさんこんにちは!毎日残暑が続きますがいかがお過ごしでしょうか。 天リフ編集部では、ビクセン社より「エクステンダーPHキット」をお借りすることができました。「エクステンダーPHキット」とは、F4のニュートン式反射望遠鏡の焦点距離を約1.4倍に伸ばした「アストログラフ(天体写真用望遠鏡)」として使用するための補正レンズです。 この「エクステンダーPHキット」を、編集部所有のSky-WatherのBKP130(口径130mm,焦点距離650mm、F5)に装着して使用してみました。そのレビューをお届けします! ビクセンHP エクステンダーPHキット https://www.vixen.co.jp/product/37238_6/ クラシックの中のクラシック・ニュートン式反射望遠鏡 数ある天体望遠鏡の中で最もクラシックな「ニュートン式反射望遠鏡」。かのニュートン卿が1668年に初号機を製作して以来、なんと350年間基本設計は何も変わっていません。そして今も天体望遠鏡界の一大勢力として現役中の現役。これってすごくないですか? ニュートン反射の最大の特徴は、なんといっても理論上は軸上完全無収差であること。光軸上(中心像)においては全ての収差が存在せず、完璧な像を結ぶのです。 さらに構造が簡単。放物面の主鏡と平面の副鏡の2つのみ。昔は放物面鏡の研磨が難しく高価格でしたが、製造技術が進歩し比較的高精度な主鏡が低価格で販売されるようになりました。そして現在では、ニュートン式反射望遠鏡はカメラの撒き餌レンズもびっくりな低価格で販売されているのです。口径25cmでも10万円以下の製品がいくつもあります。 しかし、写真用途で使用する場合の大きな弱点が「周辺像」。ニュートン反射はF値の明るい製品を比較的容易に製造できる反面、F値が小さいほど(2乗のオーダーで)「コマ収差」が出てしまうのが難点でした。しかし、この周辺像を大幅に改善する高性能な「コマコレクタ」の出現によって、ニュートン式反射望遠鏡は高性能なアストログラフとしても甦ったのです。 エクステンダーPHキットの概要と特徴   デジタル時代の高性能エクステンダー 「エクステンダーPHキット」は、2015年に発売された高性能wynneコマコレクタ「コレクターPH」に引き続いて、今年の2月にビクセンから発売されたニュートン反射用の「主鏡の焦点距離を長くする(1.4倍)タイプ」の補正レンズです。 スポット図をみると光学性能は大変優秀なようです。評価の高い同社の「コレクターPH」よりもさらに良好な結像を示しています(*)。 (*)ただしスポット図は「幾何光学的」計算結果なので、Fが暗いほど回折の影響が無視できなくなります。 汎用性のあるエクステンダーPH メーカーのHPの記述によれば、この製品は同社の反射望遠鏡「R200SS用」なのですが、ニュートン式反射望遠鏡はその単純な構成上、理論的にはF値と焦点距離だけで補正レンズの適性が決まります(*)。このため、他社製品を含めて広く使用できる可能性があるのが「裏の?」大きな特長。そのため、接眼部への接続はビクセン標準のM56だけでなく、2インチスリーブにも対応しています。 (*)ニュートン式反射望遠鏡はF値が同じであればコマ収差の出方は同じ。焦点距離が同じであれば像面湾曲の出方も同じです。 実際、販売店やヘビーユーザーからいくつかの鏡筒での使用事例が公開されていて、F4〜F6くらいの範囲なら多くのニュートン反射で好結果が得られるようです(*)。 (*)メーカーHPでは「他社製品への応用につきましては、お客様の責任にてご使用ください」と書かれていますが、2インチスリーブ仕様としたのは汎用性を強く意識した上での好判断といえるでしょう。合焦や接眼部のたわみなと、光学性能だけではない様々な要件もあるため、このような記述になるのは仕方のないことだと思われます。 ユーシートレード店長日記 ビクセン・エクステンダーPH試写結果 http://uctrade.jp/blog-entry-2363.html こちらのリンク先では他社製20cmF4(BKP200/F800)、20cmF6(タカハシMT-200)の作例がありますが、どちらも優秀な像を示しています。 今回のレビュー記事もその線に沿ったもの。ニュートン反射最安クラスの「Sky-Water BKP130(口径130mm,焦点距離650mm、F5)でエクステンダーPHがどんな性能を発揮するか試してみよう、というものです。 上質な仕上げ センサー面に近い場所に置かれる補正レンズでは、レンズの表面反射やスリーブ内の内面反射、レンズのコバからの反射による影響(かぶり)が画質の善し悪しを決める大きな要素の一つになります。 その点、この製品を含めて、最近発売されたビクセンの補正レンズ群はどれも優秀です。コーティングは反射率0.1%の「ASコーティング」で、こば塗りも手抜かず全レンズに施され、スリーブ内もギザギザと上質なつや消し塗装が施されています。 このエクステンダーと組み合わせる「直焦ワイドアダプター60DX」のつや消し塗装も非常に優秀。M48にせよT2マウントにせよ、ひと時代前からある廉価なカメラアダプタは内面反射処理が現代のデジタル撮影レベルでは不十分なものが多いのですが、その点でもこの製品は合格点です(*)。 (*)海外メーカーは一般に内面反射防止処理に対して「鷹揚」である(なんでそこまで必要なの?)との話を伝え聞くことがあります。筆者の感覚ではぜひお互いのサーフェスを冷水で丁寧に洗浄した上で小一時間は語り合いたい思いなのですが、これは日本の光害が海外よりもはるかにひどくてかぶりが問題になるせいなのでしょうか? フィルターの装着 フィルターの装着は、世にある2インチスリーブ製品の標準仕様ですが、スリーブ先端に48mm径フィルターをねじ込むのが一つの方法。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1100967345441320960 なお、直焦ワイドアダプタに52mmフィルターを装着するアダプタリングの開発計画があるのですが(CP+2019で参考出品)、エクステンダーPHの場合は同じ部分にスリーブをねじ込む形になるため、フィルターとの共用は残念ながらできないようです。 BKP130の特徴とエクステンダーPHの接続 BKP130概要 シュミット・Sky-Watcher BKP130 https://www.syumitto.jp/SHOP/SWBKP130.html 今回使用した鏡筒。実売価格税込3万切り。セールや中古ならさらに激安になるニュートン反射です。口径130mm、焦点距離650mm。エクステンダーPHを装着すると焦点距離は910mmとなります。この鏡筒が凄いのは、この価格でデュアルスピードフォーカサー(*)が標準で付いてくるところです。 (*)国産品なら鏡筒がもう1個買えてしまうほど。鏡筒バンド・アリガタ・接眼レンズ(28mm)・ファインダーなど部品だけでも元が取れるかも^^;; 斜鏡がむき出しであるとか、主鏡セルの爪の回折が気になるとか、ドロチューブが長すぎて構成によっては主鏡に影を落とすとか、接眼部が緩めでエクステンダーPHがわずかに偏芯してしまうかも?とか、いろいろ気になるところはあるのですが、光学性能には何の問題もありません。この鏡筒がこの値段で買えることだけでも激賞の価値があります(*)。 (*)このクラスの反射望遠鏡では、気に入らないところに手を入れていたらいつの間にか主鏡以外全部入れ替わってしまったという話も漏れ聞きます^^;; 自分のこだわり度に応じて手を入れることでも楽しめる鏡筒です。ちなみに筆者はものぐさなので、何も手を入れず純正ママの状態です。 エクステンダーPHの接続 エクステンダーPHとデジタルカメラを接続したところ。この位置が合焦位置です。エクステンダーPHのスリーブを目一杯に差し込んでしまうと、ドロチューブを目一杯伸ばしてもピントがでませんが、エクステンダーPHは長い鏡胴そのものが2インチサイズなので、10mmほど繰り出しておけばピントが出ます。 ただしニュートン式の宿命ですが、横に突き出たカメラという重量物が、鏡筒のバランスを大きく攪乱することに注意が必要です。あまり重いカメラボディを使用するとスケアリングが狂うかもしれませんし、ミラー・シャッターのショックにも敏感になります(*)。筆者は主に天体用CMOSカメラ、軽量なミラーレスを使用しています。 (*)実は筆者はミラーショックの問題で6Dは一度使用したきりで封印しています。特に短秒多数枚の運用の場合、ミラーショックは大きな問題となります。 今回のシステム構成 次項の作例はこの構成で撮影しました。赤道儀はAP赤道儀(CoolStep改造)です。ウェイトは3.7kg、AP赤道儀的にはほぼ上限に近い構成です。 カメラはイメージサークルの広さと周辺像の状況を把握する意味で、フルサイズのα7S(天体改造)を使用しました(*)。 (*)エクステンダーでなくコマコレを使用し、APS-Cか4/3センサーを使っても同じような広さの写野にはなります。このあたりの機材の組み合わせにはいろいろな自由度があり、結論のない話です。 いくつかの理由でオートガイドは使用せず、ノーガイド撮影です(*)。そのため露出時間は15秒とし、高ISO(16000)、多数枚での撮影となりました。 (*)最大の理由は雲が多かったためガイド星ロストで撮影が中断してしまうのを懸念したことです。 実写結果と評価 M27 では実写作例を見ていきましょう。まずはM27。 トリミングなしのコンポジット画像、ノートリミングです。フルサイズの四隅がほんの少しけられますが、これは斜鏡径の限界によるものでしょうか。周辺減光はまあ素直です。上の画像は、星消し画像をぼかして減算でフラットを補正しています。 1枚画像をレベル調整で強調したもの。ニュートン反射の宿命で左右の光量が若干違いますが、筆者の感覚ではフルサイズでも少しトリミングすれば使えると判断します。繰り返しになりますが、主鏡・斜鏡の径がより大きな光学系の場合、周辺減光はこれよりも改善するはずです。 上の画像の等倍チャート。中心像がやや甘いのはピントがジャストでなかったからかもしれません。右側は最周辺まで大きな像の崩れもなく、安定した結像です。左側は若干片ボケ気味で同心方向に流れが見られます。これはスケアリング不良・主鏡の光軸不良・ドロチューブにエクステンダーを装着する際のスリーブの偏芯が原因として考えられます。 中央部をトリミングした最終画像。明るさの最小値(0.2px)を4回ほどかけて、星像径を小さくしています。天文雑誌入選レベルでは到底ありませんが、お気軽撮影のリザルトとしてはじゅうぶんではないでしょうか。 M17 もう一つ作例を。この画像は月明下で撮影したものですが、この露出時間では淡いところはほとんど写ってこないため、背景のかぶり的にも大きな問題にはならなかたようです(*)。 (*)長焦点の暗めの光学系で明るい対象を狙う場合、ブロードバンドでも月明かりはさほど大きな問題にはならないようです。むしろシーイングやピントの方が解像感に大きな影響を与えるといえるでしょう。 参考までに、使用した65枚の画像を比較明合成したもの。流れているのは姿勢変化によるたわみによるものと推測します。約50ピクセルほど流れているのですが、65コマの撮影なのでざっくり1コマ当たりの流れは1ピクセル以下。ノーガイド撮影のキモは露出時間の選択です。露出時間を倍にすれば流れてしまったことでしょう。 最後に一つだけ気になった事象があります。上の画像はM17のコンポジット直後の画像の彩度を極端に上げたものですが、中心対称ではない色ハロがほんのわずかに出ています。左上が青、右下が赤になっています(*)。 (*)実戦的にはPhotoshopのフリンジ低減でほぼ除去することができました。 中心対称でないということはスケアリング不良・光軸のずれなどが考えられます。エクステンダーPHは前群と後群がかなり離れた構成になっているため、よりシビアなのかもしれません。 この事象の原因なのかどうかははっきりしませんが、BKP130の接眼部の2インチスリーブ差し込み部は若干クリアランスが大きく、2点でネジ止めする際に偏芯しているのかもしれません。これはあくまで原因の可能性の一つではありますが、この事象を完全に解消するにはひとつひとつの可能性を順につぶしていかねばなりません。かなりの試行錯誤が必要となるでしょう(*)。 (*)BKP130の接眼部にはスケアリングを調整するための押し引きネジがあります。厳密に追い込むためには光軸とスケアリングは別々に調整しなければなりません。 このあたりの課題はエクステンダーPHや特定の鏡筒の問題というよりも、ニュートン反射の宿命でもあります。光軸を90°折り曲げるニュートン反射望遠鏡では、直視型の屈折鏡筒よりもスケアリング・光軸がズレる余地が大きくなってしまいます。「調整にかける時間と労力」「リザルトに対するこだわり」のトレードオフにどう向き合うかは、ニュートン反射を選択する際によく考えておく必要があります。 どんな用途に向いているか 手が届く長焦点鏡 ビクセン純正の反射望遠鏡R200SSは参考価格税抜127,500円。エクステンダーPHは実売税抜60,975円。合わせても20万円を切ります。焦点距離1m越えの撮影システムをこの価格で組めるのは反射望遠鏡ならでは。この焦点距離なら小型・中型の赤道儀でも対応可能な範囲でしょう。 海外製の安価なニュートン反射ならさらに激安になります。今回のレビューで使用したBKP130なら税込でも3万円切り(*)。200〜300mmクラスのカメラレンズよりも安い価格で、大きく写せる長焦点システムを組むことができます。まさに「手が届く長焦点鏡」です。 (*)筆者は星祭りで中古品を1.3万円でゲットしました^^ 屈折機を越える光量を生かす 反射望遠鏡のメリットはなんといっても大口径。屈折機で焦点距離1m越えを実現するのは、価格的にもF値的にも現実的には相当ハードルが高いといえます。 F4のニュートンなら、エクステンダーPHを使用してもF値はまだ5.6です。明るいF値なら、ガイド精度にもより寛容になるだけでなく、少ない総露出時間でのお手軽撮影の道が開けます。 一生ものの補正レンズ 実はこれがエクステンダーPHの最大のメリットではないでしょうか。2インチスリーブ対応なので、F4〜F6のニュートンであれば、数多くの機種に対応可能(*)。鏡筒を乗り換えてもそのまま使える可能性が高くなるため、末永く使うことができます。 (*)個別の機種で全て検証したわけではありません。実際の使用にあたっては、販売店様とよくご相談くださるようお願いします。 他製品との比較 エクステンダーPHを検討される場合「コマコレクタ」との比較は避けて通れません。同じビクセンからは、デジタル時代の品質を満足させるコマコレクタ「コレクタPH」が2015年に発売されています。スポット図も優秀で、ユーザーからも評価の高い製品です。 ビクセンHP・コレクターPH https://www.vixen.co.jp/product/37237_9/ 選択のポイントは2つあります。一つは焦点距離と明るさ。コマコレクタの場合は焦点距離が元の状態とほとんど変化せず、そのままの明るさを保つため広く淡い対象には向きますが、反面小さな対象では若干物足りなく感じるかもしれません(*)。 (*)単純にいえば銀河や惑星状星雲を撮るならエクステンダーPH、広がった星雲を撮るならコレクタPHが向いているでしょう。 もうひとつは汎用性。コマコレクタで広いイメージサークルを確保するためには、2インチスリーブのような小径では周辺が蹴られてしまうことがあります。また、口径20cmよりも小さな鏡筒では、そもそものイメージサークルが斜鏡径によって制約されてしまう場合もあります。さらに、ビクセンのコレクターPHの場合はM56接続なので、R200SS以外の機種の場合は接続リングを工夫する必要なこともあるでしょう。 その点、2インチスリーブ対応のエクステンダーPHなら、より多くの鏡筒に対応できるメリットがあります(*)。 (*)エクステンダーはF値を大きくするため、設計上最適なF値・焦点距離からずれた場合でも、像面湾曲・コマ収差などの諸収差の補正が比較的良好であるという意味もあります。 まとめ いかがでしたか? ビクセン・エクステンダーPHキットは、現代品質の高い光学性能を発揮し、新旧含めた数多くのニュートン反射鏡筒に適合する汎用性の高い製品だと感じました! 筆者の個人的願望としては・・・いつの日か25cm、30cm級のニュートン反射で撮影してみたい!でも25cmのニュートンって、実は10万円以下で買えちゃいます。15kgくらいの鏡筒になるので、課題は架台なんですが・・・なんちゃって。ラッキーイメージングならいけるかなあ。そんな妄想も膨らむエクステンダーPHキットなのです。 とにかく、コスパ最強のニュートン反射。そのニュートン反射をハイレベルの写真鏡に変身させる「エクステンダーPHキット」は、天体写真マニアの強い味方になることでしょう。 それでは皆様のご武運をお祈りしております! 本記事は(株)ビクセン様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは各販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年8月)のものです。製品仕様および価格は、今後変更される場合があります。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ