スタック?コンポジット?インテグレーション?「天体写真の重ね合わせ」をどう呼ぶか?
YouTubeでも何度も言っているんですが、ノイズ低減目的で複数枚の天体写真を重ね合わせることを「コンポジット」と言うのはそろそろ本気で止めませんか?😅
(つづく)— 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022
天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。
(つづく)
— 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022
目次
「コンポジット」の意味と日本における用例
Wikipedia コンポジット
https://ja.wikipedia.org/wiki/コンポジット
「コンポジット」のWikipediaによる解説。「複数のものを合成あるいは組み合わせたものを表す」とあります。今回の文脈で言えば「映像の合成」が「コラージュ的デジタル合成」に相当します。CG業界では明確にそのように認識されているようです。
一方でアナログテレビの「RCAコンポジット映像信号」では、天体写真的な画像処理に近い(LRGB合成的な)意味で使用されています。その意味では、天体写真の「コンポジット」も同じ流れであり、充分妥当なものだとの見方も可能かもしれません。
天体写真では、フィルム時代から「惑星の画像を印画紙への焼き付ける時に多数枚重ね合わせて画質を向上させる」手法が「コンポジット」と呼ばれていました。アストロアーツ社の画像処理ソフト「ステライメージ」で、画像の重ね合わせ処理を「コンポジット」と呼ぶのもその流れによるものと思われます。
「正しい言葉」と「誤った言葉」
よく言われることですが、言葉は(歴史を振り返ってみると)主に「多数決」です。ある時代に誤用とされた言葉が後世には一般化していることは、ごく普通の事象です。古い言葉の価値を尊び「誤用」を拒む姿勢も、積極的に新しい言葉を生み出したり使用する姿勢も、それぞれに尊重されるべきでしょう。
別の視点では、あくまで筆者の経験上のことですが、「この使い方はスタンダードに照らせば誤りだ、変えるべきだ」という主張は、コミュニティへの貢献というよりはむしろ主張者自身の満足のためになされることも多いように思います(*)。
(*)認知バイアスのある2つのコミュニティの間では、バイアスを都合よく利用するポジショントークや、極端には「詐欺師」が現れるのも「あるある」です。
天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。
(つづく)— 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022
ただ、今回の蒼月城さんの提言に関していえば、筆者はこの一点で「コンポジットと呼ぶのは止めよう」と思いました。デジタル化された天体写真においては「コンポジット」という言葉を使うのはまずいのではないか?
デジタル天体写真という世界の「すぐ隣」に存在する「CG的な合成」との関係を明確にする意味では、「コンポジット」という言葉はもう使わない方がよいのではないか?例えば、日本におけるハメコミ合成に関する議論が、英語文化圏の人に通じなかったり誤解されるのは、デメリットが大きいのではないでしょうか。
コンポジットやめよう勢、理解者が多くていいなあ。ノータッチガイドやめよう勢にも、そのくらい”勢い”が欲しいよなあ。(あくまで個人的見解)
— hoshirokuman (@hoshirokuman) July 26, 2022
他の言葉でいうと、以前から「ノータッチガイド」という和製英語に対する違和感の表明も散見されます。ノータッチガイドとは「赤道儀の恒星時駆動任せで、ガイドエラーの修正を特に行わない放置撮影」を指す言葉ですが、英語文化圏には全く通じない言葉です。こちらも、何か良い代わりの言葉はないでしょうか?提言をお待ちしています!
まとめ
本気で止める勢に参加します。 https://t.co/fmQ9dcmSLI
— 黒・天リフ (@black_tenref) July 26, 2022
いかがでしたか?
「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」天体写真界隈の慣習は、40年以上前から続いているものであり、簡単には変わらないでしょう。天リフ的にも「用語の誤りを正し統一すること」には関心はありませんし、ましてや「言葉狩り運動」に参加するつもりは毛頭ありません。
日本でコンポジットと言われる処理は英語では integration あるいは stacking と言われます。この処理は複数枚の画像の平均をとって1枚の画像を作るわけですから、「統合する」とか「足し合わせる」とかいったニュアンスの integration の方がやはりしっくりくるんですよね。
(つづく)— 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022
ただ、今後天リフで自ら情報発信する際には「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」ことは一切止めようと考えています。代わりの言葉は筆者的には「スタック(Stacking)」でしょうか。PixInsight文化圏の方なら、蒼月城さんのように「インテグレーション(integration)」がしっくりくるでしょう。
天リフ読者、天文界隈の皆様におかれましては、自らの行為をどのように呼ぶかはご自身の判断です。ただ、今回の蒼月城さんの提言は、傾聴する価値があるのではないかと考えます。
ネットの反応
本記事に関して多くの方からの反応がありました。その一部を引用させていただきます。
「比較明」の呼称は?星ナビ様、東山正宣のツイート
「比較明ブレンド」かな?
(英語圏では何と呼んでいるのだろう?)ちなみに、合成は含意が広いので
地上景色に、別撮り天の川を切り貼り合成した画像は「コラージュ合成」
赤道儀を止めて撮影した地上景色に、時間差で赤道儀追尾した星空を別々に画像処理して合成した星景画像は「固定・追尾合成」 https://t.co/J1oGbTcAYx— 「星ナビ」8月号発売中🎋 (@Hoshinavi) July 28, 2022
天文界の「コンポジット」の古い話
あとは、プリントした複数枚を接写する方法なども。手元にあるものでは1982年秋の「星の手帖」に記事がありますし、もっと古い記事も見た覚えがあるので、それなりに歴史はあるはずです。 pic.twitter.com/RKM0ytahkH
— HIROPON (@hiropon_hp2) July 25, 2022
これよりは後になりますが、1976年の藤井旭氏による著「天体写真教室」には方法が図解されていました。 pic.twitter.com/9Wyv9u1hUv
— Lambda (@Lambda86514703) July 26, 2022
あぷらなーと氏によるアルテア15火星RGB合成みたいのが正しくコンポジットだったなあ、と今になって思います。
同種の操作の多枚数多重焼きも同じ呼称でした。フィルムを物理的に重ねて焼く「重ね焼き」との区別もあったかもしれません。 https://t.co/AHOGFCyi39
— Lambda (@Lambda86514703) July 26, 2022
まさに時代が変わったのでしょうね。
当時の合成には、相応の汗と努力が必要でした。
— Lambda (@Lambda86514703) July 26, 2022
ノータッチガイド
そのうち、”天ガ”がパルスモータ駆動を広めた(?)こともあり、スイッチ操作せずに精度よく追尾してくれる良さを表現したのが「ノータッチガイド」という言葉ではないか。そんな気がします。
つづく— botch (@botch96020760) July 27, 2022
そう、今こそ「ノータッチガイド」が可能な時代になったのだ! と言えるわけですよw
言葉はコミュニケーションの道具です。道具に使われないようにしましょうね。
おしまい
— botch (@botch96020760) July 27, 2022
言葉は生きもの
ボクは悪い子なので、趣味では『古い用語』もそのまま使うよ。方言と同じで思い入れがあるし、独特のニュアンスが感じられるから。
無論、本業では『お上の声』は絶対なので、遺伝で言う優性は「顕性」だし、気体から固体になることは昇華ではなく「凝華」だし、HeやNeは希ガスではなく「貴ガス」♪
— あぷらなーと (@PG1wvzio4yvwFXW) July 26, 2022
現在は「優勢→顕性、昇華→凝華、希ガス→貴ガス」だそうです。知らなかった! https://reflexions.jp/tenref/orig/2022/07/26/14105/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/a5ab6fc969a1d286b27331b821464f8d.pnghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/a5ab6fc969a1d286b27331b821464f8d-150x150.png特選ピックアップ天文コラム蒼月城(@astroimageproc)さんが「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶのは止めませんか?」という提言をされています。英語圏のニュアンスでは「コンポジット」は「いわゆるはめ込み合成」を指すため、適切とはいえないのではないか、という趣旨です。 YouTubeでも何度も言っているんですが、ノイズ低減目的で複数枚の天体写真を重ね合わせることを「コンポジット」と言うのはそろそろ本気で止めませんか?😅 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 「コンポジット」の意味と日本における用例 Wikipedia コンポジット https://ja.wikipedia.org/wiki/コンポジット 「コンポジット」のWikipediaによる解説。「複数のものを合成あるいは組み合わせたものを表す」とあります。今回の文脈で言えば「映像の合成」が「コラージュ的デジタル合成」に相当します。CG業界では明確にそのように認識されているようです。 一方でアナログテレビの「RCAコンポジット映像信号」では、天体写真的な画像処理に近い(LRGB合成的な)意味で使用されています。その意味では、天体写真の「コンポジット」も同じ流れであり、充分妥当なものだとの見方も可能かもしれません。 天体写真では、フィルム時代から「惑星の画像を印画紙への焼き付ける時に多数枚重ね合わせて画質を向上させる」手法が「コンポジット」と呼ばれていました。アストロアーツ社の画像処理ソフト「ステライメージ」で、画像の重ね合わせ処理を「コンポジット」と呼ぶのもその流れによるものと思われます。 「正しい言葉」と「誤った言葉」 よく言われることですが、言葉は(歴史を振り返ってみると)主に「多数決」です。ある時代に誤用とされた言葉が後世には一般化していることは、ごく普通の事象です。古い言葉の価値を尊び「誤用」を拒む姿勢も、積極的に新しい言葉を生み出したり使用する姿勢も、それぞれに尊重されるべきでしょう。 別の視点では、あくまで筆者の経験上のことですが、「この使い方はスタンダードに照らせば誤りだ、変えるべきだ」という主張は、コミュニティへの貢献というよりはむしろ主張者自身の満足のためになされることも多いように思います(*)。 (*)認知バイアスのある2つのコミュニティの間では、バイアスを都合よく利用するポジショントークや、極端には「詐欺師」が現れるのも「あるある」です。 天体写真やってる人はそういうはめ込み合成みたいな写真を極端に嫌いますよね。でも一方で、そういう人が得意げに「コンポジット、コンポジット」と言う。なんだか滑稽ですらありませんか。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 ただ、今回の蒼月城さんの提言に関していえば、筆者はこの一点で「コンポジットと呼ぶのは止めよう」と思いました。デジタル化された天体写真においては「コンポジット」という言葉を使うのはまずいのではないか? デジタル天体写真という世界の「すぐ隣」に存在する「CG的な合成」との関係を明確にする意味では、「コンポジット」という言葉はもう使わない方がよいのではないか?例えば、日本におけるハメコミ合成に関する議論が、英語文化圏の人に通じなかったり誤解されるのは、デメリットが大きいのではないでしょうか。 コンポジットやめよう勢、理解者が多くていいなあ。ノータッチガイドやめよう勢にも、そのくらい”勢い”が欲しいよなあ。(あくまで個人的見解) — hoshirokuman (@hoshirokuman) July 26, 2022 他の言葉でいうと、以前から「ノータッチガイド」という和製英語に対する違和感の表明も散見されます。ノータッチガイドとは「赤道儀の恒星時駆動任せで、ガイドエラーの修正を特に行わない放置撮影」を指す言葉ですが、英語文化圏には全く通じない言葉です。こちらも、何か良い代わりの言葉はないでしょうか?提言をお待ちしています! まとめ 本気で止める勢に参加します。 https://t.co/fmQ9dcmSLI — 黒・天リフ (@black_tenref) July 26, 2022 いかがでしたか? 「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」天体写真界隈の慣習は、40年以上前から続いているものであり、簡単には変わらないでしょう。天リフ的にも「用語の誤りを正し統一すること」には関心はありませんし、ましてや「言葉狩り運動」に参加するつもりは毛頭ありません。 日本でコンポジットと言われる処理は英語では integration あるいは stacking と言われます。この処理は複数枚の画像の平均をとって1枚の画像を作るわけですから、「統合する」とか「足し合わせる」とかいったニュアンスの integration の方がやはりしっくりくるんですよね。 (つづく) — 蒼月城_bluemoonlife (@astroimageproc) July 25, 2022 ただ、今後天リフで自ら情報発信する際には「ノイズ低減目的の天体写真を重ね合わせを『コンポジット』と呼ぶ 」ことは一切止めようと考えています。代わりの言葉は筆者的には「スタック(Stacking)」でしょうか。PixInsight文化圏の方なら、蒼月城さんのように「インテグレーション(integration)」がしっくりくるでしょう。 天リフ読者、天文界隈の皆様におかれましては、自らの行為をどのように呼ぶかはご自身の判断です。ただ、今回の蒼月城さんの提言は、傾聴する価値があるのではないかと考えます。 ネットの反応 本記事に関して多くの方からの反応がありました。その一部を引用させていただきます。 「比較明」の呼称は?星ナビ様、東山正宣のツイート 「比較明ブレンド」かな? (英語圏では何と呼んでいるのだろう?) ちなみに、合成は含意が広いので 地上景色に、別撮り天の川を切り貼り合成した画像は「コラージュ合成」 赤道儀を止めて撮影した地上景色に、時間差で赤道儀追尾した星空を別々に画像処理して合成した星景画像は「固定・追尾合成」 https://t.co/J1oGbTcAYx — 「星ナビ」8月号発売中🎋 (@Hoshinavi) July 28, 2022 天文界の「コンポジット」の古い話 あとは、プリントした複数枚を接写する方法なども。手元にあるものでは1982年秋の「星の手帖」に記事がありますし、もっと古い記事も見た覚えがあるので、それなりに歴史はあるはずです。 pic.twitter.com/RKM0ytahkH — HIROPON (@hiropon_hp2) July...編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
こんばんは。
張本人の蒼月城です。
Twitterだと文字数が制限されているので真意が伝わらず、「昔から言ってるんだからいいじゃんか」と逆に多くの方に怒られるかもしれないなと震えながら呟いたんですが、さすが編集長。正確に真意を把握されていて嬉しいです。^^
はめ込み合成やCG合成を嫌うんなら、それとは違う処理ですよと線を引く意味も込めて、別の用語で呼び分けた方が良いと思います。
どう呼ぶかはまた別の問題で、誰もが誤解しない呼び方であれば何と呼んでも良いと思います。
ところで、ノータッチガイドですが、英語圏の人に全く通じないのであればそれはもう完全に日本語なので別に良いんじゃないかと思ってまして、どちらかというと「静観勢」です。(;^_^A
ただ、表記するときには「ガイド無し」あるいは英語圏でよく使われるように「unguided」と書いていまして、APTips番外編「SWAT-330レビュー」の動画でも “unguided” と表記しています。
日本語で代わりとなる言葉を強いて挙げるとすれば「アンガイド」とかは普通過ぎますでしょうか。
あるいは、平仮名で「のおたっちがいど」とか(笑)。平仮名なら日本語だとわかるでしょう、みたいなノリで。(;^_^A
以上、乱文失礼いたしました。
コメントいただきありがとうございます。蒼月城さんのツイートをきっかけに、いろんな方がこの件に反応して考えてくださったようで何よりです。寄せられたご意見の中にもありましたが、「言葉」はコミュニケーションの道具なので、コミュニケーションがよりうまくできて広がること、前提となる相互認識がすり合うこと(意見が一致しないことも含めて)が一番大事ですよね。
その意味では「さすが天文クラスタ!」と思うご意見が多かったです。
「英語圏の人に通じない和製英語」の件、確かにそうかもしれませんね。まるで通じないなら逆に確かめてもらえる。「日本人にしか通じない言葉」だという認識を皆が持っていれば、特に問題ないかもしれません。
今後もキレのあるご発信を楽しみにしております^^
ノータッチガイドの言い換えは
恒星時駆動が最も適切です