星ナビ記事「おうちで天文・ベランダ撮影」参考資料
本記事は星ナビ2020年7月号の記事「おうちで天文・ベランダ撮影」の補足解説と参考記事リンクです。誌面の関係で具体的なことを詳しく書くことができませんでしたので、この記事を参考にしていただけると幸いです。
フィルターワークについて
天体撮影用のフィルターは、近年ますます多様化してきました。光害カットフィルターだけでも、効果の弱いものからナローバンドに近い強力なものまで、ざっくり5段階くらいは存在します。記事で紹介したサイトロンジャパン社のQBPフィルターは、効果の強いものから2番目くらいの製品です。
QBPフィルターの最大の特徴は、RGBの各バンドの帯域幅に極端な差がなく比較的画像処理がしやすいこと、Rバンドの幅が広めであるため、赤い星雲が「強調されすぎない」ところにあります。一般に輝線星雲では赤のHαが圧倒的に強く、赤の帯域を狭くし過ぎると相対的にOIIIの青緑色の輝線が埋もれてしまうのです。
さらに強力な「ほぼナローバンド」のフィルターが、上の記事で紹介しているSTCのAstro Duoフィルターや、IDASのNBシリーズです。
協栄産業・IDAS NB1フィルター
https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/idas-nb1-52mm.html
これらのフィルターを使用すると、「#うち天」でもかなり淡い星雲までチャレンジできます。反面、絶対光量がさらに少なくなる(露出倍数が大きい)ので、長時間露光が必要になってきます。
数多くあるフィルターの中で、自分の目的にあった製品を選択することが重要です。上の記事では、光害カット効果が強力なものから3段階分の製品を比較しました。LPS-V4フィルターは、QBPよりも帯域が広いフィルターです。
つい最近発売されたサイトロンジャパンの「Comet BP」フィルターも注目の製品です。短波長側(青)の帯域が広いため、光害の強い場所での撮影には向きませんが、比較的市街光の少ない場所にお住まいの方なら、このフィルターを使用してより豊かな色表現にチャレンジするのも面白いでしょう。
光害地で最強なのが本格的なナローバンドフィルターですが、カラー撮影の場合光害による背景の色むらを補正するのが難しくなり、なかなか心折れるところもあります。そこで面白いのが「モノクロHαナローバンド」です。半値幅7nmのHαフィルター1枚あれば、光害地の自宅からでもかなりの撮影が可能です。モノクロなので色かぶりとも無縁。
星ナビの記事ではモノクロ作例もぜひご紹介したかったのですが、紙面の関係上掲載できませんでした。天リフではサービス開始以来「モノクロHαナローバンド」を推しております^^ ぜひ渾身のの連載記事もご参照ください!
連載・モノクロナローバンドで星雲を撮る
https://reflexions.jp/tenref/orig/category/連載/モノクロナローバンドで星雲を撮る/
ノイズ除去ソフトの比較とビフォー・アフター
こちらも紙面の関係で掲載できなかったのですが、最近のはやりのソフトが「Topaz Denoise AI」です。
Topaz DeNoise AI
https://topazlabs.com/denoise-ai-2/
星ナビ記事にも書いた通り、このソフトの真骨頂は「露出2倍分のノイズ低減効果(個人の感想^^;;)」にあります。たっぷり露出をかけたノイズの少ない画像にはあまり効果はありませんが、特に「#うち天」のような悪条件下・短時間露出で荒れた画像を「なんとなくキレイにする」には絶大な効果があります(*)。
(*)上の画像を見ての通り、ノイズは少なくなるものの、ノイズ低減系ソフトの宿命として、なんとなく「塗り絵」っぽさが増すところは仕方がありません。逆にこのあたりは、マスク処理でシャドー部分に強くかけるなどの工夫が生きてきます^^
ディテールの強調効果もなかなかのものです。ガチで長時間かけた画像ならPixInsightのデコンボリューション処理やwavelet処理が勝ると思いますが、お手軽撮影なら現時点では最強でしょう。
Topaz DeNoise AIを含めたノイズ処理ソフトは、以下のHIROPONさんの記事に詳しく比較例が掲載されています。興味のある方はこちらもご参照ください。
光害地でのフラット処理
フラット処理には誰もが簡単にうまくいく「王道」が存在せず、なかなか難しい世界なのですが、ベランダから長焦点で撮影する場合(*)に有効なのが「薄明(青空)」フラットです。上の画像は記事に掲載したM27の作例用のフラットを撮影しているところです。
(*)焦点距離が短くなる(画角が大きくなる)と、空の明るさの方位・高度による差が大きくなりうまくいきません。
青空フラットの活用は、時間に融通が利く「#うち天」ならではといえるでしょう。本番撮影の前の夕方か、翌日の朝に撮影すればOK。遠征だと昼間はまだ現地に着いていないし翌日は夜明けとともに帰宅することが多いのですが、自宅での撮影ならそのままの機材構成で撮るだけです。
[追記]6/5
大事なことが抜けていました。「セルフフラット」です。基本的な考え方は、元画像から星や星雲などの輝度の高い部分の情報を「何らかの手段で」消ししてしまい、その画像でフラット処理をおこなうというものです。
アストロアーツ・セルフフラット補正
http://www.astroarts.co.jp/products/stlimg8/tips/selflat-j.shtml
まず、こちらのリンク先が「ステライメージ8」のスターシャープ機能を使用して星を消し、レベル補正で星雲も飛ばした画像を作り、それをフラット画像として処理する方法です。
この方法は「ぼかし」を使用しないため、ゴミの補正も可能になるのがメリット。
もう一つの方法。こちらはPhotoShopの「輝度選択」と「コンテンツに応じた塗りつぶし」の機能を使用して星消し画像を作り、若干ぼかした後でフラット画像とするものです(*)。
(*)正確には「除算」処理ではなく「減算」で処理しているという点で他の2つの方法とは異なります。
一つ前の方法よりも「恣意的」な要素が増えるため、科学的な手法ではありませんが、比較的容易に処理できるのがメリット。星ナビ記事のM27の作例ではこの方法を使用しています。
最後に、こちらが元祖ですが「ソフトビニングフラット補正」方法。処理を容易にするために事前に画像を1/10ほど縮小(ビニング)してから(*)、「ミニマムフィルター(明るさの最小値)」で星を消します。レベル補正で星雲も消して、少しぼかしてフラットとして使用します。
(*)個人的意見としては「ビニング」することは作業の便宜であり本質ではないので「ソフトビニングフラット」という呼称は若干違和感がなくもないのですが、わかりやすい解説記事で多くの人に活用されている方法です。
ぼかしなしで使用できるならアストロアーツ掲載の方法が一番汎用性があって優れているはずですが、検証したわけではないのでよくわかりません^^;; いずれきっちり比較したいと思います。
[追記]6/5おわり
ステラショット2とGearBoxについて
ステラショット2の極軸補正機能の使用例。スタート地点がしし座のデネボラ付近。上のキャプチャ画像は、2枚目のかみのけ座の下を撮像中の状態。3枚目はほぼ等間隔に、アークツールスの右上を撮像します。マニュアルでは「なるべく天頂に近いところからスタートするように」とありますが、神経質にならなくても合わせてくれるようです。
天文ソフトは日進月歩なので明日にでも競合製品が同じような機能を実装するかも知れませんが、ステラショット2の極軸補正機能は筆者にとっては本当に福音でした。
ただし、リリース直後のバージョンであることもあり、微妙なバグに悩まされました。遭遇した不具合は現時点では皆改修されているのですが「ソフトにはバグがつきもの」であることは、認識しておいた方がよいでしょう(*)。
(*)ここだけの話、ASI AIRも初期バージョン・メジャーアップデート直後はなかなかのものでした^^;;
それと、これだけは明記しなければならないのですが、ステラショットは「撮像したら画像をPCに転送する」という設計思想になっているようです(*)。USB接続なら何の問題もないのですが、WiFi接続の場合はこの転送のタイムラグが無視できないほどの長さになります。冷却CCDよりも長いです。6Dで20〜40秒といったところでしょうか。
(*)Canon・Nikonのデジカメでは「PCにraw画像を転送しない」オプションが追加され、タイムラグ問題はほぼ解決されましたが、CMOSカメラとSONY製デジカメの場合は未対応です。
使用するカメラや撮影方法、ネットワーク環境によっては、この制限は「無線では使えない」という評価を下す方もいらっしゃるかもしれません。少なくともラッキーイメージングは無理です。今後改良される可能性もあるので断定的なことは言えないのですが、要注意です。
こぼれ話
口絵に使用したこの画像ですが、実はiPhone11での撮影です。ポートレードモードで背景をぼかしました。光の良くまわる^^;;;光害地のベランダでの撮影は、スマホでも「記念写真」が簡単に撮れます。筆者は撮影の時は自宅でもフィールドでも、かならずこういった写真を撮るようにしているのですが、記念になるだけでなく「あの時はどんな機材で何したっけ?」というのを思い出す手段にもなります(*)。
(*)老婆心ながら若い人に。記憶は年々薄れていきます。これはもうおじさんが200%保証します。記念写真をたくさん撮っておきましょう^^
上の画像の部分拡大。GearBoxは黒のパーマセルテープで貼り付けていたのですが、ずり落ちそうだったので輪ゴムで補強しました。いい加減なやり方ですが、これはあまりオススメできません。固定が甘いと、撮影中に姿勢変化である瞬間「カクッ」と位置がずれるようで、無人無風のベランダのはずなのに、時折星が2個になってしまうことがありました。初歩的な話ですが、ご参考まで・・・
まとめ
ベランダ撮影は「星野写真」だけに絞っても、いろいろな楽しみ方と撮影対象があります。もちろんフィールドでの満天の星と比較してしまうと圧敗ですが、「移動時間がゼロ」「冬でも部屋でヌクヌク(*)」「飲み食い自在」「ながら撮影OK」など、圧倒的なメリットもあります。
(*)夏は・・エアコンの室外機に晒されて汗だくです。梅雨明けから9月まではシーズンオフかもしれませんね^^;;
控えめに言っても「遠征しないと天体写真は撮れない」という認識はもう過去のものです。ベランダ撮影は楽しみ方を3倍くらいには広げてくれることでしょう^^ あなたも、積極的にベランダ撮影を楽しんでみませんか?
そのほかの作例
誌面の関係で掲載できなかった作例候補を、せっかくなので掲載しておきます。M1以外は全て福岡市の自宅で撮影したものです。
筆者が本格的な赤道儀と鏡筒を購入して間もない頃の撮影。自宅でもらせん星雲の姿をしっかり撮ることができ感激したことを記憶しています。フィルム時代はらせん星雲は「淡い系」だったのですが、強めのネビュラフィルター(*)を使用すれば光害地でも撮りやすい対象です。
(*)LPS-V4はQBPよりは帯域が広いがLPS-P2/D1よりは帯域の狭いフィルターです。
カニ星雲M1をQBPフィルターと口径20cmシュミカセで。F10と暗い光学系ですが、惑星状星雲は輝度が高く短秒露出でもちゃんと写ります。むしろ露出オーバーを気にしなくてはならないほどです。
M5。球状星団も写しやすい対象です。惑星状星雲と同様に、大口径・長焦点が有利です。わずか総露出8分ほどの撮影ですが、しっかり球状星団ですね^^
上の画像の撮って出し1枚画像。遠征地で眼視で見るよりは良く見えているかもしれません^^
筆者がモノクロHαナローバンドを始めた2015年ごろの作例。50分露出は「ややガチ」ですが、ベランダでこんなに撮れてしまうのですっかりハマってしまいました。M8/M20のモノクロHαなら、わざわざ遠征地で撮る意味はほとんどありません。
ただし、筆者のベランダでは南中するともう隣のマンションの灯りに埋もれてしまいます。むしろ視界の開けた場所に移動する「ご近所撮影(近征)」をしたくなるところです。
これが筆者のベランダ環境。隣のマンションは、各階に6個ほど(つまり50個ほど)半月くらいの明るさの常夜灯が灯っています。
変態的な作例で恐縮ですが、近赤外線(720nm<)で撮影したへびつかい座の暗黒星雲b2(*)。長波長の近赤外線は光害の影響を受けにくく、星野撮影も普通に可能です。ただし輝線星雲が写らないので寂しいのですが。
(*)さそり座からいて座にかけての暗黒星雲の一番暗いところです。
近赤外線で撮影するなら、銀河が一番適した対象でしょう。赤ポチは写りませんが、QBPフィルターよりも光害に強いと感じています。カラーのデジカメですが、赤フィルターを付けているのになんとなく星の色が出ているような気がするのは、デジカメのBG画素は赤外線では一定の感度があるからです(*)。
(*)つまりここで見える色の差は本来の星の色ではもはやありません。
最後に「まっとう」なディープスカイRGBの作例です。オリオン大星雲はどんな光害地であってもしっかり写ります。フィルターは「LPS-P2」という弱い方から二番目(*)のフィルターですが、それでもここまで写れば「キレイな天体写真」だと思われませんか?
(*)一番弱い光害カットフィルターは「KENKO スターリーナイト」のような色素系フィルターです。
もちろん周辺の淡い部分は出てきません。が、中心部の輝度の高い部分の構造を描き出す作戦を取れば、光害地であるハンディキャップはずっと小さくなります。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/06/03/11164/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/06/b9b6eae2e5e87bc7d4a4ffd137860608.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/06/b9b6eae2e5e87bc7d4a4ffd137860608-150x150.jpg雑誌・書籍本記事は星ナビ2020年7月号の記事「おうちで天文・ベランダ撮影」の補足解説と参考記事リンクです。誌面の関係で具体的なことを詳しく書くことができませんでしたので、この記事を参考にしていただけると幸いです。 フィルターワークについて 天体撮影用のフィルターは、近年ますます多様化してきました。光害カットフィルターだけでも、効果の弱いものからナローバンドに近い強力なものまで、ざっくり5段階くらいは存在します。記事で紹介したサイトロンジャパン社のQBPフィルターは、効果の強いものから2番目くらいの製品です。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/11/30/7040/ QBPフィルターの最大の特徴は、RGBの各バンドの帯域幅に極端な差がなく比較的画像処理がしやすいこと、Rバンドの幅が広めであるため、赤い星雲が「強調されすぎない」ところにあります。一般に輝線星雲では赤のHαが圧倒的に強く、赤の帯域を狭くし過ぎると相対的にOIIIの青緑色の輝線が埋もれてしまうのです。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/09/28/6458/ さらに強力な「ほぼナローバンド」のフィルターが、上の記事で紹介しているSTCのAstro Duoフィルターや、IDASのNBシリーズです。 協栄産業・IDAS NB1フィルター https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/idas-nb1-52mm.html これらのフィルターを使用すると、「#うち天」でもかなり淡い星雲までチャレンジできます。反面、絶対光量がさらに少なくなる(露出倍数が大きい)ので、長時間露光が必要になってきます。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/12/7301/ 数多くあるフィルターの中で、自分の目的にあった製品を選択することが重要です。上の記事では、光害カット効果が強力なものから3段階分の製品を比較しました。LPS-V4フィルターは、QBPよりも帯域が広いフィルターです。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/05/15/11168/ つい最近発売されたサイトロンジャパンの「Comet BP」フィルターも注目の製品です。短波長側(青)の帯域が広いため、光害の強い場所での撮影には向きませんが、比較的市街光の少ない場所にお住まいの方なら、このフィルターを使用してより豊かな色表現にチャレンジするのも面白いでしょう。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2017/09/11/2008/ 光害地で最強なのが本格的なナローバンドフィルターですが、カラー撮影の場合光害による背景の色むらを補正するのが難しくなり、なかなか心折れるところもあります。そこで面白いのが「モノクロHαナローバンド」です。半値幅7nmのHαフィルター1枚あれば、光害地の自宅からでもかなりの撮影が可能です。モノクロなので色かぶりとも無縁。 星ナビの記事ではモノクロ作例もぜひご紹介したかったのですが、紙面の関係上掲載できませんでした。天リフではサービス開始以来「モノクロHαナローバンド」を推しております^^ ぜひ渾身のの連載記事もご参照ください! 連載・モノクロナローバンドで星雲を撮る https://reflexions.jp/tenref/orig/category/連載/モノクロナローバンドで星雲を撮る/ ノイズ除去ソフトの比較とビフォー・アフター こちらも紙面の関係で掲載できなかったのですが、最近のはやりのソフトが「Topaz Denoise AI」です。 Topaz DeNoise AI https://topazlabs.com/denoise-ai-2/ 星ナビ記事にも書いた通り、このソフトの真骨頂は「露出2倍分のノイズ低減効果(個人の感想^^;;)」にあります。たっぷり露出をかけたノイズの少ない画像にはあまり効果はありませんが、特に「#うち天」のような悪条件下・短時間露出で荒れた画像を「なんとなくキレイにする」には絶大な効果があります(*)。 (*)上の画像を見ての通り、ノイズは少なくなるものの、ノイズ低減系ソフトの宿命として、なんとなく「塗り絵」っぽさが増すところは仕方がありません。逆にこのあたりは、マスク処理でシャドー部分に強くかけるなどの工夫が生きてきます^^ ディテールの強調効果もなかなかのものです。ガチで長時間かけた画像ならPixInsightのデコンボリューション処理やwavelet処理が勝ると思いますが、お手軽撮影なら現時点では最強でしょう。 Topaz DeNoise AIを含めたノイズ処理ソフトは、以下のHIROPONさんの記事に詳しく比較例が掲載されています。興味のある方はこちらもご参照ください。 https://hpn.hatenablog.com/entry/2019/09/25/234052 光害地でのフラット処理 フラット処理には誰もが簡単にうまくいく「王道」が存在せず、なかなか難しい世界なのですが、ベランダから長焦点で撮影する場合(*)に有効なのが「薄明(青空)」フラットです。上の画像は記事に掲載したM27の作例用のフラットを撮影しているところです。 (*)焦点距離が短くなる(画角が大きくなる)と、空の明るさの方位・高度による差が大きくなりうまくいきません。 青空フラットの活用は、時間に融通が利く「#うち天」ならではといえるでしょう。本番撮影の前の夕方か、翌日の朝に撮影すればOK。遠征だと昼間はまだ現地に着いていないし翌日は夜明けとともに帰宅することが多いのですが、自宅での撮影ならそのままの機材構成で撮るだけです。 6/5 大事なことが抜けていました。「セルフフラット」です。基本的な考え方は、元画像から星や星雲などの輝度の高い部分の情報を「何らかの手段で」消ししてしまい、その画像でフラット処理をおこなうというものです。 アストロアーツ・セルフフラット補正 http://www.astroarts.co.jp/products/stlimg8/tips/selflat-j.shtml まず、こちらのリンク先が「ステライメージ8」のスターシャープ機能を使用して星を消し、レベル補正で星雲も飛ばした画像を作り、それをフラット画像として処理する方法です。 この方法は「ぼかし」を使用しないため、ゴミの補正も可能になるのがメリット。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/01/13/7552/#i-6 もう一つの方法。こちらはPhotoShopの「輝度選択」と「コンテンツに応じた塗りつぶし」の機能を使用して星消し画像を作り、若干ぼかした後でフラット画像とするものです(*)。 (*)正確には「除算」処理ではなく「減算」で処理しているという点で他の2つの方法とは異なります。 一つ前の方法よりも「恣意的」な要素が増えるため、科学的な手法ではありませんが、比較的容易に処理できるのがメリット。星ナビ記事のM27の作例ではこの方法を使用しています。 https://astro.allok.biz/image-processing/soft-binning-flat-correction-method/ 最後に、こちらが元祖ですが「ソフトビニングフラット補正」方法。処理を容易にするために事前に画像を1/10ほど縮小(ビニング)してから(*)、「ミニマムフィルター(明るさの最小値)」で星を消します。レベル補正で星雲も消して、少しぼかしてフラットとして使用します。 (*)個人的意見としては「ビニング」することは作業の便宜であり本質ではないので「ソフトビニングフラット」という呼称は若干違和感がなくもないのですが、わかりやすい解説記事で多くの人に活用されている方法です。 ぼかしなしで使用できるならアストロアーツ掲載の方法が一番汎用性があって優れているはずですが、検証したわけではないのでよくわかりません^^;; いずれきっちり比較したいと思います。 6/5おわり ステラショット2とGearBoxについて ステラショット2の極軸補正機能の使用例。スタート地点がしし座のデネボラ付近。上のキャプチャ画像は、2枚目のかみのけ座の下を撮像中の状態。3枚目はほぼ等間隔に、アークツールスの右上を撮像します。マニュアルでは「なるべく天頂に近いところからスタートするように」とありますが、神経質にならなくても合わせてくれるようです。 天文ソフトは日進月歩なので明日にでも競合製品が同じような機能を実装するかも知れませんが、ステラショット2の極軸補正機能は筆者にとっては本当に福音でした。 ただし、リリース直後のバージョンであることもあり、微妙なバグに悩まされました。遭遇した不具合は現時点では皆改修されているのですが「ソフトにはバグがつきもの」であることは、認識しておいた方がよいでしょう(*)。 (*)ここだけの話、ASI AIRも初期バージョン・メジャーアップデート直後はなかなかのものでした^^;; それと、これだけは明記しなければならないのですが、ステラショットは「撮像したら画像をPCに転送する」という設計思想になっているようです(*)。USB接続なら何の問題もないのですが、WiFi接続の場合はこの転送のタイムラグが無視できないほどの長さになります。冷却CCDよりも長いです。6Dで20〜40秒といったところでしょうか。 (*)Canon・Nikonのデジカメでは「PCにraw画像を転送しない」オプションが追加され、タイムラグ問題はほぼ解決されましたが、CMOSカメラとSONY製デジカメの場合は未対応です。 使用するカメラや撮影方法、ネットワーク環境によっては、この制限は「無線では使えない」という評価を下す方もいらっしゃるかもしれません。少なくともラッキーイメージングは無理です。今後改良される可能性もあるので断定的なことは言えないのですが、要注意です。 こぼれ話 口絵に使用したこの画像ですが、実はiPhone11での撮影です。ポートレードモードで背景をぼかしました。光の良くまわる^^;;;光害地のベランダでの撮影は、スマホでも「記念写真」が簡単に撮れます。筆者は撮影の時は自宅でもフィールドでも、かならずこういった写真を撮るようにしているのですが、記念になるだけでなく「あの時はどんな機材で何したっけ?」というのを思い出す手段にもなります(*)。 (*)老婆心ながら若い人に。記憶は年々薄れていきます。これはもうおじさんが200%保証します。記念写真をたくさん撮っておきましょう^^ 上の画像の部分拡大。GearBoxは黒のパーマセルテープで貼り付けていたのですが、ずり落ちそうだったので輪ゴムで補強しました。いい加減なやり方ですが、これはあまりオススメできません。固定が甘いと、撮影中に姿勢変化である瞬間「カクッ」と位置がずれるようで、無人無風のベランダのはずなのに、時折星が2個になってしまうことがありました。初歩的な話ですが、ご参考まで・・・ まとめ ベランダ撮影は「星野写真」だけに絞っても、いろいろな楽しみ方と撮影対象があります。もちろんフィールドでの満天の星と比較してしまうと圧敗ですが、「移動時間がゼロ」「冬でも部屋でヌクヌク(*)」「飲み食い自在」「ながら撮影OK」など、圧倒的なメリットもあります。 (*)夏は・・エアコンの室外機に晒されて汗だくです。梅雨明けから9月まではシーズンオフかもしれませんね^^;; 控えめに言っても「遠征しないと天体写真は撮れない」という認識はもう過去のものです。ベランダ撮影は楽しみ方を3倍くらいには広げてくれることでしょう^^ あなたも、積極的にベランダ撮影を楽しんでみませんか? そのほかの作例 誌面の関係で掲載できなかった作例候補を、せっかくなので掲載しておきます。M1以外は全て福岡市の自宅で撮影したものです。 筆者が本格的な赤道儀と鏡筒を購入して間もない頃の撮影。自宅でもらせん星雲の姿をしっかり撮ることができ感激したことを記憶しています。フィルム時代はらせん星雲は「淡い系」だったのですが、強めのネビュラフィルター(*)を使用すれば光害地でも撮りやすい対象です。 (*)LPS-V4はQBPよりは帯域が広いがLPS-P2/D1よりは帯域の狭いフィルターです。 カニ星雲M1をQBPフィルターと口径20cmシュミカセで。F10と暗い光学系ですが、惑星状星雲は輝度が高く短秒露出でもちゃんと写ります。むしろ露出オーバーを気にしなくてはならないほどです。 M5。球状星団も写しやすい対象です。惑星状星雲と同様に、大口径・長焦点が有利です。わずか総露出8分ほどの撮影ですが、しっかり球状星団ですね^^ 上の画像の撮って出し1枚画像。遠征地で眼視で見るよりは良く見えているかもしれません^^ 筆者がモノクロHαナローバンドを始めた2015年ごろの作例。50分露出は「ややガチ」ですが、ベランダでこんなに撮れてしまうのですっかりハマってしまいました。M8/M20のモノクロHαなら、わざわざ遠征地で撮る意味はほとんどありません。 ただし、筆者のベランダでは南中するともう隣のマンションの灯りに埋もれてしまいます。むしろ視界の開けた場所に移動する「ご近所撮影(近征)」をしたくなるところです。 これが筆者のベランダ環境。隣のマンションは、各階に6個ほど(つまり50個ほど)半月くらいの明るさの常夜灯が灯っています。 変態的な作例で恐縮ですが、近赤外線(720nm<)で撮影したへびつかい座の暗黒星雲b2(*)。長波長の近赤外線は光害の影響を受けにくく、星野撮影も普通に可能です。ただし輝線星雲が写らないので寂しいのですが。 (*)さそり座からいて座にかけての暗黒星雲の一番暗いところです。 近赤外線で撮影するなら、銀河が一番適した対象でしょう。赤ポチは写りませんが、QBPフィルターよりも光害に強いと感じています。カラーのデジカメですが、赤フィルターを付けているのになんとなく星の色が出ているような気がするのは、デジカメのBG画素は赤外線では一定の感度があるからです(*)。 (*)つまりここで見える色の差は本来の星の色ではもはやありません。 最後に「まっとう」なディープスカイRGBの作例です。オリオン大星雲はどんな光害地であってもしっかり写ります。フィルターは「LPS-P2」という弱い方から二番目(*)のフィルターですが、それでもここまで写れば「キレイな天体写真」だと思われませんか? (*)一番弱い光害カットフィルターは「KENKO スターリーナイト」のような色素系フィルターです。 もちろん周辺の淡い部分は出てきません。が、中心部の輝度の高い部分の構造を描き出す作戦を取れば、光害地であるハンディキャップはずっと小さくなります。編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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