新連載です。
題して「モノクロナローバンドで星雲を撮る」。

第一回は「モノクロナローバンドのココがスゴい!」

モノクロHαナローバンドって、何?

ようこそ。モノクロHαナローバンドの世界へ。

IC2177 α7S EF300mmF2.8LIS BaaderHα7nm ISO12800 30sec*208

最近よく目にする「ナローバンド」。

星ナビでもこの10月号から、ナローバンドの大先達である荒井俊也さんの連載が始まっています。
連載全3回の第1回ですが、充実の内容です。ぜひご覧になってみてください。

深夜道楽
「ナローバンドで星雲を撮る」を連載します。
https://blogs.yahoo.co.jp/toshiyaarai/21740781.html

 

これからここでお話しする「モノクロHαナローバンド」は、この連載で語られる内容のいわば亜流版。
撮影するのは水素のHα輝線(656nm)だけ。色はなし。
それでも、いろいろなメリットがあってスゴいんです。

モノクロHαナローバンドのココがスゴい!

星雲のモクモクがビシビシ出る

モノクロHαナローバンドで撮ると、ブロードバンドの写真とはかなり、ないしはめちゃめちゃ違う写りになります。

星雲の光の主成分はHα

左がモノクロHαナローバンド、右が通常のRGBカラー。
バーナードループの出方がぜんぜん違いますね。
星雲はさまざまな波長で輝いていますが、主成分はなんといってもHα。モノクロHαナローバンドは、星雲のモクモクを一番捉えやすい波長なのです。

モノクロ画像はディテールを表現しやすい

もう一つ、モクモクを出す上でのメリットがあります。
それは「モノクロ」であること。

上の画像は同じ左のモノクロ画像を、それぞれR/G/Bだけにしたもの。モノクロ>G>R>Bの順でディテールが明瞭に認識できることがおわかりでしょうか。
人間の眼は、単色の光、特に赤や青の光に対しては、あまり細かな構造を認識できないのです。

モノクロ画像であるからこそ、より星雲の細かな構造や輝度差をはっきり表現できるのです。

フィルターを一枚買うだけ

SAOカラーでナローバンド撮影するにはフィルターが3枚必要です。

筆者の使用しているナローバンドフィルター。

さらに、フィルター交換をスムーズにするためには、フィルターホイールも欲しくなります。すでに冷却CCDをお使いになっている方ならまだしも、まったく初めてナローバンドをやってみたい方にとっては、3枚のフィルターとフィルターホイールは、小さくない投資額です。

でも、モノクロHαナローバンドなら、Hαフィルターが1枚あれば撮影が始められます!
サイズ・半値幅にもよりますが、Hαフィルターは2万円ぐらいから入手できます。これは相当、お手軽ですね!

光害に強くベランダでもOK!

光害の影響を受けにくくなるのもナローバンドのメリット。半値幅7nmのフィルターの場合、その効果はざっくり波長域の広さベースで計算して1/20程度



FSQ106ED F5 EOS6D(SEO-SP4) ISO3200 Baader Hα7nm 120sec*28 福岡市内ベランダにて

特にHαモノクロナローバンドなら、赤いHα線は大気の散乱の影響を受けにくい上に、光害源となる街灯り自体に赤色光が少ないため、さらに有利。

上の作例は都市圏のベランダで撮影したものですが、M8やM20はもちろん、ネコの手星雲まで広がる淡い領域を撮影することができました。

極端に淡い領域はともかく、そこそこの輝度がある対象なら、ベランダ撮影でも十分な品質が得られるのです。

デジカメでも撮れるよ!

ここで一つ、問題になることがあります。
デジタルカメラは、ベイヤー配列といって、RGBの画素が下の図のように配置されています。

Wikipedia ベイヤーフィルター
https://ja.wikipedia.org/wiki/ベイヤーフィルタ

ベイヤーフィルター(またはベイヤー配列。「バイヤー~」の表記もある)は、受光素子の各ピクセル上にRGB色フィルターを配置する際の配列パターンの一つである

ベイヤー配列の場合、R画素とB画素は全画素の1/4しかありません。ナローバンドで赤系のフィルターを使用した場合、やってきた光の1/4しか活用できないことになってしまいます。

ただでさえ「もっと光を!」と叫びたくなる天体写真。
これでホントにまともな写真が撮れるの??

安心してください。ちゃんと撮れます。

この連載の作例は全部ベイヤー配列のデジタルカメラによるものです。
(カメラによってはIR改造が必須になります)

もちろん、モノクロカメラと比較して1/4ぶん不利になるのはしかたありません。でもその差は「フルサイズ」と「フォーサーズ(4/3)」程度のものです。

高価な天体専用モノクロ冷却カメラは必要ありません、とまではとても言えませんが、このくらいの差なら熱意と工夫で埋められます。そのためのこの連載でもあるのですから!

モノクロなので画像処理が楽

天体写真の画像処理が難しい理由の半分は、それが「カラー」だから。色かぶりを取ったりカラーバランスで悩んでいる間に時間だけが過ぎてゆく・・という経験を多くの人がされているのではないでしょうか。

その点、モノクロは楽です。
星の色が出ないとか、正しい色は何なのか、といった悩みからはいったんオサラバ。色ノイズも関係なし。

段階を経て勉強していくという意味でも、天体写真の画像処理をモノクロから始めるのは実はアリではないか、と思っているくらいです。

色収差?何それ?

ナローバンドでは、色収差の影響が格段に減ります(帯域的には、半値幅7nmならざっくり1/20)。赤ハロ・青ハロに悩まされていたレンズでも、色収差はほとんど気にしなくてよくなります。

キヤノンのEF135mmF2Lを開放で使用。カラー撮影では赤ハロに悩まされるレンズですが、モノクロナローバンドなら無問題。F2の明るさが大いに生きます。

1世代、2世代前の安くなった大口径のカメラレンズを中古で探せば、意外に安く機材を調達できるかも?(沼に近寄るのは自己責任で)

モノクロHαナローバンドのココがだめ

よくないところもはっきりお伝えしておきます。

色がありません。

今の世の中、色がないと(あまり)ウケません。残念。。
あくまで、通好みの(マニアの間だけの)ジャンルです。

この手の天体写真をやる方で「インスタ映え」を目指す方はほとんどいないとは思いますが、地味な世界ではあります・・・

通常のデジカメRGB画像のRチャンネルを、ナローバンドHαの画像で置き換えた例。赤い星雲をさらに強調することができます。

でも、カラーを目指すステップはあります。
デジカメでのHα-RGB合成という手があります。この方法についても、連載で詳しくお話する予定です。

 

いかがでしたか?
手軽に始められて深宇宙の姿をリアルに写し出せる「モノクロHαナローバンド撮影」。
次回は、モノクロHαナローバンド撮影の対象となる、面白い天体をいろいろご紹介する予定です。お楽しみに!

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/09/0a0209cc2f00244756027537ca3ffb77-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/09/0a0209cc2f00244756027537ca3ffb77-150x150.jpg編集部天体写真モノクロナローバンドで星雲を撮る  新連載です。 題して「モノクロHαナローバンドで星雲を撮る」。 第一回は「モノクロHαナローバンドのココがスゴい!」 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/904997642819706880 モノクロHαナローバンドって、何? ようこそ。モノクロHαナローバンドの世界へ。 最近よく目にする「ナローバンド」。 星ナビでもこの10月号から、ナローバンドの大先達である荒井俊也さんの連載が始まっています。 連載全3回の第1回ですが、充実の内容です。ぜひご覧になってみてください。 深夜道楽 「ナローバンドで星雲を撮る」を連載します。 https://blogs.yahoo.co.jp/toshiyaarai/21740781.html   これからここでお話しする「モノクロHαナローバンド」は、この連載で語られる内容のいわば亜流版。 撮影するのは水素のHα輝線(656nm)だけ。色はなし。 それでも、いろいろなメリットがあってスゴいんです。 モノクロHαナローバンドのココがスゴい! 星雲のモクモクがビシビシ出る モノクロHαナローバンドで撮ると、ブロードバンドの写真とはかなり、ないしはめちゃめちゃ違う写りになります。 星雲の光の主成分はHα 左がモノクロHαナローバンド、右が通常のRGBカラー。 バーナードループの出方がぜんぜん違いますね。 星雲はさまざまな波長で輝いていますが、主成分はなんといってもHα。モノクロHαナローバンドは、星雲のモクモクを一番捉えやすい波長なのです。 モノクロ画像はディテールを表現しやすい もう一つ、モクモクを出す上でのメリットがあります。 それは「モノクロ」であること。 上の画像は同じ左のモノクロ画像を、それぞれR/G/Bだけにしたもの。モノクロ>G>R>Bの順でディテールが明瞭に認識できることがおわかりでしょうか。 人間の眼は、単色の光、特に赤や青の光に対しては、あまり細かな構造を認識できないのです。 モノクロ画像であるからこそ、より星雲の細かな構造や輝度差をはっきり表現できるのです。 フィルターを一枚買うだけ SAOカラーでナローバンド撮影するにはフィルターが3枚必要です。 さらに、フィルター交換をスムーズにするためには、フィルターホイールも欲しくなります。すでに冷却CCDをお使いになっている方ならまだしも、まったく初めてナローバンドをやってみたい方にとっては、3枚のフィルターとフィルターホイールは、小さくない投資額です。 でも、モノクロHαナローバンドなら、Hαフィルターが1枚あれば撮影が始められます! サイズ・半値幅にもよりますが、Hαフィルターは2万円ぐらいから入手できます。これは相当、お手軽ですね! 光害に強くベランダでもOK! 光害の影響を受けにくくなるのもナローバンドのメリット。半値幅7nmのフィルターの場合、その効果はざっくり波長域の広さベースで計算して1/20程度。 特にHαモノクロナローバンドなら、赤いHα線は大気の散乱の影響を受けにくい上に、光害源となる街灯り自体に赤色光が少ないため、さらに有利。 上の作例は都市圏のベランダで撮影したものですが、M8やM20はもちろん、ネコの手星雲まで広がる淡い領域を撮影することができました。 極端に淡い領域はともかく、そこそこの輝度がある対象なら、ベランダ撮影でも十分な品質が得られるのです。 デジカメでも撮れるよ! ここで一つ、問題になることがあります。 デジタルカメラは、ベイヤー配列といって、RGBの画素が下の図のように配置されています。 Wikipedia ベイヤーフィルター https://ja.wikipedia.org/wiki/ベイヤーフィルタ ベイヤーフィルター(またはベイヤー配列。「バイヤー~」の表記もある)は、受光素子の各ピクセル上にRGB色フィルターを配置する際の配列パターンの一つである ベイヤー配列の場合、R画素とB画素は全画素の1/4しかありません。ナローバンドで赤系のフィルターを使用した場合、やってきた光の1/4しか活用できないことになってしまいます。 ただでさえ「もっと光を!」と叫びたくなる天体写真。 これでホントにまともな写真が撮れるの?? 安心してください。ちゃんと撮れます。 この連載の作例は全部ベイヤー配列のデジタルカメラによるものです。 (カメラによってはIR改造が必須になります) もちろん、モノクロカメラと比較して1/4ぶん不利になるのはしかたありません。でもその差は「フルサイズ」と「フォーサーズ(4/3)」程度のものです。 高価な天体専用モノクロ冷却カメラは必要ありません、とまではとても言えませんが、このくらいの差なら熱意と工夫で埋められます。そのためのこの連載でもあるのですから! モノクロなので画像処理が楽 天体写真の画像処理が難しい理由の半分は、それが「カラー」だから。色かぶりを取ったりカラーバランスで悩んでいる間に時間だけが過ぎてゆく・・という経験を多くの人がされているのではないでしょうか。 その点、モノクロは楽です。 星の色が出ないとか、正しい色は何なのか、といった悩みからはいったんオサラバ。色ノイズも関係なし。 段階を経て勉強していくという意味でも、天体写真の画像処理をモノクロから始めるのは実はアリではないか、と思っているくらいです。 色収差?何それ? ナローバンドでは、色収差の影響が格段に減ります(帯域的には、半値幅7nmならざっくり1/20)。赤ハロ・青ハロに悩まされていたレンズでも、色収差はほとんど気にしなくてよくなります。 1世代、2世代前の安くなった大口径のカメラレンズを中古で探せば、意外に安く機材を調達できるかも?(沼に近寄るのは自己責任で) モノクロHαナローバンドのココがだめ よくないところもはっきりお伝えしておきます。 色がありません。 今の世の中、色がないと(あまり)ウケません。残念。。 あくまで、通好みの(マニアの間だけの)ジャンルです。 この手の天体写真をやる方で「インスタ映え」を目指す方はほとんどいないとは思いますが、地味な世界ではあります・・・ でも、カラーを目指すステップはあります。 デジカメでのHα-RGB合成という手があります。この方法についても、連載で詳しくお話する予定です。   いかがでしたか? 手軽に始められて深宇宙の姿をリアルに写し出せる「モノクロHαナローバンド撮影」。 次回は、モノクロHαナローバンド撮影の対象となる、面白い天体をいろいろご紹介する予定です。お楽しみに!  編集部発信のオリジナルコンテンツ