天リフ眼視推進委員会がお送りする「アイピース探訪」シリーズ。第5回は「賞月観星」の100°(*)アイピース、XWAシリーズです!

(*)XWA3.5mmとXWA5mmは、見かけ視野「110°」です。

「100°アイピース」賞月観星XWAシリーズ

左から賞月観星XWA20mm(税込送別23,600円)、XWA13mm(同23,400円)、XWA5mm(同21,600円)。

「100°アイピース」で宇宙遊泳。経験されたことはありますか?テレビュー社の「イーソス」シリーズが先鞭をつけた「超・広視野」のアイピースの体験は鮮烈です。見かけ視界45度のクラシックアイピースが「覗き穴から星を見る体験」だとすれば、100°アイピースの体験は「目の前の全てが宇宙」。



そんな100°アイピースの体験は素晴らしいものなのですが、いかんせん、これまでは高価格がネックになっていました。テレビューのイーソスシリーズの場合、1本8万円くらいもします。アポ鏡筒が1本買えてしまうほど。観望会や星祭りで覗く機会があったとしても、自分で買うにはかなりのハードルです。

賞月観星・賞月観星XWA(100°~110°)シリーズ接眼レンズ
http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html

しかし、今回ご紹介する「賞月観星XWAシリーズ」はなんとお値段が2万円台前半、従来品の1/3以下、1本の予算で3本買ってまだお釣りが来る価格破壊。そして掲げた目標は「世界トップ級テレビューEthos(イーソス)の見え味を再現すること」。

さて、その実力やいかに?さっそく見ていくことにしましょう。

外装と見口

1.25インチスリーブ対応の製品には、別にもう1個キャップが付属しています。

賞月観星XWAアイピースは金属削り出しの美しい仕上げ。高級感十分です。鏡胴の一部にはゴムローレットが巻かれています(*)。

(*)最も太い部分の直径は、ゴムのローレット部を含めて、XWA20mmが68mm、XWA13mmが61.6mm、XWA5mmが57mm。価格的に双眼望遠鏡でも運用したくなりますが、眼幅には要注意です。20mmの場合は合わない人も出てくるでしょう。

賞月観星XWA20mmは2インチスリーブ専用ですが、13mm以下のタイプは1.25インチ・2インチ両用となっています。切替はごく簡単で、2インチスリーブ部を回すだけで簡単に外すことができ、外すと1.25インチスリーブが現れるようになっています。

焦点位置は残念ながら同焦点ではありません。それぞれの焦点位置にはけっこうな差がありました。他社の100°アイピースも含めて、100°アイピースで同焦点運用が可能な製品は現状ありません。100°アイピースを使う場合はその点も注意が必要です。

上が見口ゴムを伸ばした状態、下が畳んだ状態。左から賞月観星XWA20mm、XWA13mm、XWA5mm。

賞月観星XWAシリーズのアイレンズ側には折りたためるゴム見口(*)が付いていて、メガネ着用なら畳んだ状態で、裸眼なら伸ばした状態で視野全体が見渡せます。アイレリーフは100°アイピースの一般的な長さといってよい15mm。スペック的には短くはないのですが、視野がほどよく見渡せるような眼の位置は短焦点ほどシビアになります。特に5mmは見かけ視野が110°もあることもあって、若干慣れが必要だと感じました。

(*)ちなみに、見口のゴムは薄手で畳みやすいのはいいのですが、借用した個体のうち20mmでゴムが引きつれて一部切れてしまいました。ゴム製品は基本的には消耗品と考えた方がよいですが、見口は簡単に外せるので補修部品との交換は容易です。

コーティング

コーティングは全面マルチコート。反射光の強さから推測して、非常に上質なマルチコートが全ての面に施されています。レンズが6群にもなる100°オーバーアイピースでヌケの良さを実現するには、このレベルは必須といえるでしょう。

反対から見たところ。こちらも素晴らしいクオリティです。

内面反射

アイピース単独の状態で、見口側から筒内をナナメに覗いたところ。ピカピカはしてはいないものの、暗黒ではありません。レンズの押さえリングかスペーサーリングでしょうか、若干内面反射が残った場所が見受けられます。レンズ枚数・部品点数が多くなる100°アイピースでこの価格を実現する上では、仕方のないことかもしれません。

巨大な100°overアイピース

100°オーバーのアイピースはデカくて重い。その常識はまだ誰も覆すことができていません。賞月観星XWAシリーズもその例外ではなく、簡単に言えば500mmペットボトルのお茶と同じくらいの重さで、若干細くて短いくらいでしょう。長焦点になるほど重く、XWA20mmでは700g弱にもなります。

素晴らしい体験をもたらしてくれる100°オーバーアイピースですが「デカくて重い」。このことだけはしっかり認識しておく必要があります。

無理矢理ひっかけて撮影しましたが、超不安定でいまにも落ちそうです^^;;

デカすぎるとこうなる、の例。アイピースが長すぎて、三脚のアイピースホルダーに差すことができません。とは言ってもアイピースホルダーが元々ない三脚もあることですし、長すぎるアイピースがダメとか使えないという話では全くないのですが、100°アイピースのこのサイズは、微妙に使用者に不便を強いてしまうことがある、ということは認識しておくべきでしょう。

他社製品との比較

左から賞月観星XWA20mm、テレビューイーソス17mm、XWA13mm、ニコンNAV-HW12.5mm 、XWA5mm、イーソス6mm。

手持ちのいくつかの100°アイピースと比較してみました。ごらんの通り大きさはどれも似たようなものです(*)。

(*)視野110°の賞月観星XWA5mmはやや長めです。

実視比較は次項に譲るとして、まずコーティングと内面反射を比較してみました。

コーティングについては賞月観星は申し分ありません。より製造年が新しいせいか?イーソス(*)よりもさらに反射率が低く感じられるほどです。

(*)比較したイーソスの個体はかなり年期が入った製品でした。

ただ、鏡胴内の反射については若干他社よりも多く感じました。ナナメから見ると、反射率が高くなっている部分があることがわかります(*)。しかし、価格が他社製品の1/3ほどであることを考慮すれば、ある部分は仕方のないことでしょう。次項でも触れますが、実際の見え味の差は筆者の眼で認識できる範囲ではほとんどありませんでした。

(*)このような比較では反射がより少ないほど良いのは勿論なのですが、実際の使用条件下では光が当たらないような部分が環境光を反射したり、遮光環などで実際には眼にまでは光が入射しないような場合があります。

露出・現像条件は同じです。射出瞳のすぐ外側の光環は望遠鏡側の内面反射です。

鏡筒を空に向けて内面反射を比較したところ。確かにイーソス17mmの方がより反射は少ないですが、その差はこれだけです。眼視用機材としては実用上の差はほとんどないといっても差し支えないかもしれません。

実視レビュー

XWA20mm、13mmでディープスカイ

100°アイピースで見る最高の対象の一つがオリオン大星雲M42ではないでしょうか。100°アイピースの広視野をフラットフィールド(*)で生かすべく、FSQ106ED+エクステンダーx1.6の組み合わせで試してみました。

(*)普通の天体望遠鏡では周辺の像面湾曲と非点収差が十分に補正されていないのが普通です。広い実視野では一般に周辺像は対物側の要因で悪化します。

賞月観星XWA13mmの65倍では、オリオン大星雲が視野いっぱい広がりど迫力。鋭く切れ込んだ暗黒部、小さくまとまったトラペジウムの4つの星、ほのかに縁が赤みを帯びた中心の台形部、そこから3時と8時の方向に羽根のようなスジが広がります。100°アイピースを手にしたらまずオリオン大星雲を見るべきですね^^

最周辺では星像は崩れますが良像範囲(*)は広く80%ほどもあり、これはイーソス17mmと同程度でしょうか。ここまで見えれば何の文句もない感じです(**)。

(*)本記事における「良像範囲」は、かなり主観的な基準となってしまうことをご了承ください。

(**)100°アイピースのナンバーワンと筆者が思っているニコンのNAV-HW12.5mm(Eicを装着して10mmの状態)と比較するとさすがに負けます。このアイピースは最周辺でもほどんど星像が崩れず「良像範囲ほぼ100%」です。

より低倍率となる賞月観星XWA20mmの42倍では、目の前に広がる星屑の群れの中に、ぽっかりと浮かんだM42とランニングマン星雲がすばらしい眺めです。良像範囲は70%くらいでしょうか。見かけ視野で70度分ほどあります。自然に視野中央に視線を置けば、ほぼ全視野良像であるといってよいでしょう。ただし周辺に視線を置いて見たときの像の崩れは13mmよりは大きく、100度の最周辺では急激に星像は崩れます。

(*)焦点距離17mmと20mmの差があるので同列には比較できませんが、イーソス17mmと比較すると像の崩れはやや大きめでした。

視野の最周辺まで完璧な点像を保つアイピースは存在しません。それどころか、普通は星像は像面湾曲でボケて、非点収差で線を引き、倍率色収差で色にじみが出ます。しかし賞月観星を含めて今回使用した100°アイピースは、比較した他のどのアイピースよりどれも良像範囲は広い(70%〜90%以上)ものでした。

XWA5mm、13mmで半月少し前の月

XWA5mmではメガネを外した方が視野全体が覗きやすくより快適でした。ただし筆者の場合は右目限定。左目は乱視のため明らかに見え味に劣りました(TT)

スカイウォッチャーの反射望遠鏡BKP130(口径130mm、焦点距離650mm)で月を見比べてみました。XWA5mmの130倍でも月の全体が視野に入ります。マジっすか。月の周回軌道の宇宙船から見た月面はこんな感じなのでしょうか、さすが見かけ視界110°はスゴイ。さすがに注意深く最周辺を見ると倍率色収差の色づき・像面湾曲によるピント位置のずれ・像の崩れがあるものの(*)ほとんど気にならず、良像範囲は広く月全体がよく見える印象

(*)コマコレクタなしの構成なので対物側の収差も含まれています。

しかし、月全体が見えるとは言っても大きすぎます^^;;; 欠け際を順に眺めていくには、視点を意識してグリグリ動かしていく必要があります。100°overアイピースの広視野はど迫力ですが、ほぼ全視野良像であったとしても、視野全部が「見やすい」わけではありません。細かい部分をじっくり観察するには、見たい部分を視野の中心にもってくる方が確実に眼が楽でよく見えます。これは100°overアイピース一般にいえることだと思います(*)。

(*)極端な話、惑星を観察する場合は100°アイピースのメリットは少なくなります。

イーソス6mmと見え方を比較してみました。中心像は賞月観星5mmのほうがスッキリとシャープな印象ですが、周辺部の色づき方はイーソス6mmのほうがわずかに
少ない感じです。しかし、最周辺の像の崩れはほとんど差がなく良像範囲は90%以上。「良像範囲の見かけ視野の広さ」ではむしろ賞月観星5mmの方がわずかに勝る印象です。なお、欠け際のコントラストは筆者の眼(*)では優劣不明でした。

(*)白内障が少し入っています(TT)

視野の広さは明らかに110度の賞月観星XWAの方が広いです。広すぎて視点を動かさないと円形の視野の端が見えないため、視野の中心がどこにあるのかわからなくなるほどです^^;;

そのせいか眼位置にはより敏感。高倍率でのハイアイポイントのアイピース全般に言えることですが、眼位置にはシビアです(後述)。ある程度慣れないとカゲリで視野全体をうまく捉えることができないかもしれません。背景の暗いディープスカイの場合は視野のカゲリは気づきにくいのですが、明るい月面ではかなり目立ってくるためです。その意味ではより視野が狭く焦点距離の長いイーソス6mmの方がやや覗きやすく感じました。

XWA13mmでも見てみましたが、50倍では月は超余裕で全部見えます。100°の必要があるかと言われれば微妙ですが、この倍率ならば皆既月食の月や細い月と地球照を見たいもの。100°の視野の視野で、背景の星々の中に浮かび上がる月の姿はきっと最高でしょう。



20cmシュミットカセグレンで銀河探訪

マルカリアンチェーンを観望中。

口径20cmのシュミカセC8でいろいろな銀河を観望してみました。このくらいの口径になると、賞月観星XWA20mmで100倍の倍率をかけて、銀河の細かい構造の違いを見るのが面白くなってきます。

ステラナビゲータ11の画面をキャプチャ。視野円は焦点距離2000mmに賞月観星XWA20mm(見かけ視界100°)を装着した状態のシミュレーション。

まずはおおぐま座のM81/82です。事前のシミュレーションではXWA20mmで同一視野に入るという結果だったので大いに期待していました。実際に覗いてみると、たしかにM81/82の両方が視野に入るのですが、いかにも離れすぎでした^^;;

上の画像を見ると「えっ。そんなことないんじゃないの?」と思われるかもしれません。例えば見かけ視野70°のアイピースならその通りでしょう。しかし、100°アイピースの場合、視野円は肉眼の視野の端っこのさらに向こうにあり、眼をギョロつかせないと見ることができないのです。

ステラナビゲータ11の画面をキャプチャ

100°アイピースの視野の中で、ある程度自然に見ることができるのは見かけ視野70°くらいまでではないでしょうか。「並んだ2つ(以上)の対象を面白く気持ちよく見る」ためには、ある程度余裕をもった視野が確保できる焦点距離のチョイスが吉でしょう。

ステラナビゲータ11の画面をキャプチャ

その意味では、しし座のトリオ(M65/66/NGC3628)も同様でした。賞月観星XWA20mmならトリオが3つ同一視野に入るのですが、じっくり対象を観察するなら上の図のように対象を中心近くに持ってくる方がはるかに見やすく面白いです(*)

(*)実際に見てみるとこの状態でもまだM65とM66は「遠い」印象です。

ステラナビゲータ11の画面をキャプチャ

しかし、見かけ視野の広さが大いに生きることもあります。有名なおとめ座の「マルカリアンの鎖(マルカリアンチェーン)」の場合、賞月観星XWA20mmの100倍(実視野約1°)でも大きく視野をはみ出してしまうので、明るく並んだM84とM86からホッピングしていくことになりますが、見かけ視野が広いとこのホッピングが楽になります(*)。「視野外」と「(見にくくても)視野内」には越えられない壁があるのです。

(*)実はC8でマルカリアンチェーンを見たのは今回が初めてでした。口径20cmの100倍で見るM84と86はかなりの迫力。鎖をひとつひとつ辿って、だんだんと銀河が遠く小さくなっていくのは、宇宙の広さを実感する体験でした。

眼位置にシビアな100°アイピース

100°アイピースを覗いた実際のイメージを伝えるのは大変難しいです。よく見かけるのは、単純に100:70:60:50などの視野円を天体写真に描き込んだものですが、これではなかなか伝わりません(*)。

(*)見かけ視界の角度と一致するくらいに眼を近づければかなり近くなります。そのためには90度の視野円の実際の長さの半分の距離に眼を近づける必要があります。

Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA

そこで新たな試みとして、360°全天カメラのTHETA Z1でコリメート撮影してみました(*)。まあこれも違うんですが^^;;; 少なくとも100°アイピースの視野円の端までの実写画像はたぶんこれが初めてでしょう。

(*) 記事執筆後、家人がiPhone11を購入したのですが、これの広角カメラなら100°アイピースの視野円が半分くらいは写せました。これも、アイピースチェック用の最強デバイスかもしれません。

スマホによるコリメート撮影では、見かけ視野60°を越えるともうはみ出してしまいますし、一眼カメラの超広角・御感レンズでは前玉がぶつかるまで近づけてもアイレリーフが足りません。そこで登場したのがTHETA。

この画像を撮ったのには理由があります。100°アイピースの重要な特性を見てもらいたいからです。

全周魚眼レンズによる撮影に相当するため歪曲収差の評価には適していません。また、眼位置のバラツキが存在するため視野のカゲリを比較するにも適しません。

ひとつは100°アイピースの眼位置のシビアさ。眼位置がアイピースに近すぎると画像のようなカゲリが発生します。遠すぎると視野周辺が蹴られてしまいます。

もうひとつは、眼位置が適切でないと視野周辺が色づくこと。遠いときは赤に、近いときは青に色づきます。この傾向は他社製品含めて全て同じでした(*)。

(*)賞月観星XWA20mmは若干この傾向が大きいと感じました。地上風景を見る場合、眼位置が離れ気味になると周辺部がオレンジ色っぽくなる傾向がありました。

バローレンズとの相性

FSQ106EDにx1.6エクステンダーを装着し、この構成でバローレンズを使用しました。

100°アイピースとバローレンズの相性はどうでしょうか。使用したバローはセレストロン製の2インチスリーブの2.5倍のものです。

地上風景に対して、今回テストした他社製品を含めた全ての100°アイピースで、バローあり・なしを比較してみました。結論から言って、100°アイピースとバローの相性は決して良いとはいえませんでした。元々良く見えるのでアイピース全体のアベレージからすると「良く見える」のですが。

筆者がこれまで100°アイピースを使用している中では、バローレンズによる像の悪化を感じたことは特になかったのですが、それは「同じ焦点距離の1本のアイピースのバローあり・なし」での印象だったのでしょう。倍率が同じになるようにした2本のアイピースでバローあり・なしをside by sideで比較すると、明らかにバローなしが良く見えました。

M42でも同じ比較を行ってみました。輝度が低く色を感じにくいディープスカイでは、バローレンズによる像の悪化は昼間の風景ほどには感じられず、十分実用範囲だと感じました(*)。

(*)それでも視野最周辺部での倍率色収差による星像の流れははっきり感じられました。 

賞月観星XWA13mm+バロー2.5倍(163倍) vs 賞月観星5mmバローなし(170倍)

長焦点の100°アイピースにバローを入れたものと、バローなしの短焦点100°アイピースの比較です。13mm+バローでもそれだけで見ると「悪い」と感じるほどではないのですが、周辺にいくほど倍率の色収差が目立ちます(*)。一方でバローなしの5mmでは色づきのないすっきりとした像でその差は歴然。短焦点の100°アイピースは、長焦点+バローでは代用できない価値があると言い切ってよいと感じました。

(*)より長焦点の賞月観星XWA20mm+バロー、イーソス17mm+バローではさらにこの傾向を強く感じました。Nikon NAV-HW12.5mm、イーソス6mm、賞月観星XWA5mmでも同じ傾向で、短焦点ほど倍率色収差は少なく感じました。

賞月観星XWA20mm+バロー2.5倍 vs 賞月観星20mmバローなし

同じ100°アイピースでバローのありなしで比較してみました。倍率がまったく違うのであくまで印象の比較ですが、こちらも倍率色収差による色づきはバローありの方が大きくなります。一方で最周辺部の像の崩れはバローありの方がむしろ少なく感じました(*)。

(*)「同じアイピースならバローありの方が周辺の崩れが少ない」という傾向は他のアイピース(ペンタックスXW20mm、賞月観星原点10mm・20mm)でも感じました。

そのほかの注意点

アイピース重量がバランスに与える影響

スコープテック社のフリーストップ経緯台「ZERO」と口径80mm焦点距離1000mmの屈折鏡筒での使用例。アイピースによってこのくらいバランス位置が変わります。

フリーストップ式の架台を使用する場合、アイピースの重量差によるバランスの調整に留意しなければならない場合があります。上の画像は賞月観星XWA5mmと他社の軽量4mmアイピースそれぞれでバランスが取れている状態ですが、鏡筒の取付位置がけっこう変わっていることがわかります。

特に鏡筒が長い場合はこの差が大きくなります。アイピース交換のたびにアリガタをスライドさせるのは非現実的。カックンしないようにクランプを強めに締めることや、なるべく重量差のないアイピース選びが必要になってくるかもしれません。

他にも赤道儀での90°視運用の場合、対象の位置によってアイピースの向きが変化し、回転方向にカックンすることがあります。思わぬ落下事故に注意が必要です。

アイピースの勘合

左上はA社の2インチ・1.25インチ延長筒。チャックの締め付け部の径の関係で、これらのアイピースでは完全に固定することができませんでした。

賞月観星の問題というよりは、アイピースに一般的に存在する件なのですが、1.25インチスリーブの「段差構造」の相性によっては、アダプタとの取付がうまくできない場合があります。この段差は脱落防止のためなので、背に腹は代えられないところではありますが(*)。

(*)アイピース側の段差は存在するものとして、望遠鏡側の1.25インチメス部分がもっとユニバーサルになってほしいものですね。Baader社のツイストグリップ方式が一番いい線を行っていると感じています。

賞月観星XWAアイピースのラインナップ

http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html
賞月観星・賞月観星XWA(100°~110°)シリーズ接眼レンズ
http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html

賞月観星XWAシリーズは、今回ご紹介した「20mm」「13mm」「5mm」に加えて、9mmと3.5mm、全部で5本あります。全部揃えても111,800円。これって凄くないですか?(*)

(*)ただし重さは2430g。専用のケースの確保が必要ですね^^

http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html

100°アイピースで全部揃えるのはさすがにマニアックすぎますが^^;;、天リフのイチオシはやはり13mmでしょう。F5の鏡筒で瞳径2.6mmの中倍率ですが、見かけ視野の広さは瞳径4mmの低倍率と同じくらい。20mmもいいのですが、少しサイズが大きくなりすぎるのと、広視野になりすぎると対物側にも高性能が要求されるので、お手軽な一本目には13mmがオススメ。1.25インチの接眼部でもOK。2.5倍のバローレンズと組み合わせれば焦点距離5.2mm相当、高倍率での月面観望も圧巻。

どんな人に向いているか

「アイピース探訪」でも定番化、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

五割増しの倍率で100°を体験してみよう

100°アイピースが2万円少しで買える。しかもよく見える。スゴイ時代になりました。眼視観望に関心があって100°アイピースを未体験の方には、大いにオススメできる製品です。清水の舞台から飛び降りる(*)ことなく100°の世界を体験できる。まずは1本、自分の一番好きな鏡筒で出せる一番好きな倍率の「5割増し」に合致するチョイスがオススメです。

(*)筆者の所有するニコンNAV-12.5HWは当時9.5万円だったと記憶しています。清水ダイブは何度もしてはいますが、大冒険でした^^;;

なぜ5割増し?中倍率・高倍率が面白い100°体験

なぜ「5割増し」なのか。私見ですが、100°アイピースを使う場合「これまでよりも広い範囲が見える」ことよりも「同じ範囲がより大きく見える」ことを重視するのがオススメだと思います。

何となく観望界隈には「低倍率ほど(暗い対象は)よく見える」というバイアスがあるように感じていますが(*)、100°アイピースを体験すると、実は必ずしもそうではないことがよくわかることでしょう。天体望遠鏡はやっぱり大きく見えるほど面白い同じ広さをより高い倍率で見られるのが100°アイピースの最大のメリットなのです。

(*)バラ星雲や北アメリカ星雲、M31の周辺部、M101の渦巻き構造、M51子持ち星雲を繋ぐ腕など、極限に暗い対象はその通りなのですが、そこまでするメリットがある対象は決して多くはありません。

もうひとつ、アイピースが良くなっても鏡筒の性能は変わりません。より広い実視野を見ようとすると鏡筒側の周辺の収差も大きくなってしまいます。その意味でも100°アイピースは高めの倍率がオススメです。

価格度外視で最高を求めるなら。。

大変素晴らしい賞月観星XWAですが、個別にライバル製品と比較すると、細かいところでは負けていると感じるところがないわけではありません。最周辺の倍率色収差や星像の崩れ方、内面反射防止処理など・・最高の性能を求めたい眼視マニアが、そういう目的で購入するなら、やはりより高価格の他社製品に軍配を上げざるを得ません。

しかし、おサイフの中身は一般には有限です^^;; 予算上一定の妥協をするのであれば、賞月観星は唯一無二ともいえる選択肢だと思います。

謎に包まれた新ブランド「賞月観星」とは?!

「賞月観星」と「賞」のロゴは登録商標です。
賞月観星・自己紹介
http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/cat_1253383.html

そこで、数年間の苦心を払ってでも、私「賞月観星」がこの業界に提案を投げかけ、いくつかのモデルの製品を開発し、この巨大マーケットに風を吹かせ、少しばかり酸素を注入してはどうかと考えたのです。胡椒の粉を少々加えると言っても良いでしょう。私というこのマイノリティーの非主流派が、多くの望遠鏡を愛好する友人たちにオルタナティブないくつかの選択、及び観賞の異なる注目点を提供しようと考えたわけです。

最近耳にするようになった「賞月観星」は、望月龍さんの個人経営による光学製品のブランドです。上のリンク先の記事や、ブログ「賞月観星」に詰まった、双眼鏡・望遠鏡に対する深く熱い想いを読んでいただければ、望月さんという人物が何を考え、何を善しとし、何を目指して「賞月観星」を立ち上げたかをおわかりいただけることでしょう。

残念ながら筆者の乏しい知識と経験では、望月さんの書かれた内容を十分には理解できていないと思います。しかし、その思いと世に問うた製品をしかと受け止め、読者の皆さんにご紹介していければと考えています。

まとめ

FSQ106EDで西に傾いたオリオン大星雲を観望中。架台はスコープテック社の新型経緯台ZERO。手動導入・手動追尾の経緯台の場合、100°アイピースの見かけ視界の広さは導入・追尾の強い味方になります。

いかがでしたか?

これまで高嶺の花だった100°オーバーの広視野アイピースが、賞月観星XWAの登場で一気に敷居が下がりました。「いつかはイーソス」から「今すぐ賞月観星XWA」へ

100°アイピースはある意味尖りすぎていて、眼視デビュー最初の1本にはお勧めしにくいところもありました。しかし、従来よりもはるかに手頃な価格の賞月観星XWAなら、最初の1本、買い足しの1本、万能常用アイピースとしてもアリかもしれません。デカくて重いですが^^;;

100°アイピースで宇宙遊泳。眼視観望の楽しみを大きく広げてくれる「広視野体験」を、ぜひ一度経験してみてはいかがでしょうか。

次回は、同じく賞月観星の「UWAシリーズ」「UFシリーズ」「SWA原点シリーズ」の3シリーズを一挙ご紹介予定です。お楽しみに!


  • この記事は賞月観星様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で執筆したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 本記事は極力客観的に実視をもとに作成していますが、本記事によって発生した読者様の事象についてはその一切について責任を負いかねますことをご了承下さい。
  • アイピースは使用する鏡筒や接続環、プリズムなどによってピントが出ない場合があります。購入をされる場合は十分に検討ください。接続の組み合わせについてのお問い合わせは、機材をご購入ないしはご購入予定の販売店様にお願いいたします。
  • 記事中の製品名・社名等は各社の商標または登録商標です。
  • 参考文献:「天文アマチュアのための望遠鏡光学・屈折編」 1989 吉田正太郎
  • 機材の価格・仕様は執筆時(2020年2月)のものです。
https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-150x150.jpg編集部レビューアイピースアイピースアイピース探訪天リフ眼視推進委員会がお送りする「アイピース探訪」シリーズ。第5回は「賞月観星」の100°(*)アイピース、XWAシリーズです! (*)XWA3.5mmとXWA5mmは、見かけ視野「110°」です。 「100°アイピース」賞月観星XWAシリーズ 「100°アイピース」で宇宙遊泳。経験されたことはありますか?テレビュー社の「イーソス」シリーズが先鞭をつけた「超・広視野」のアイピースの体験は鮮烈です。見かけ視界45度のクラシックアイピースが「覗き穴から星を見る体験」だとすれば、100°アイピースの体験は「目の前の全てが宇宙」。 そんな100°アイピースの体験は素晴らしいものなのですが、いかんせん、これまでは高価格がネックになっていました。テレビューのイーソスシリーズの場合、1本8万円くらいもします。アポ鏡筒が1本買えてしまうほど。観望会や星祭りで覗く機会があったとしても、自分で買うにはかなりのハードルです。 賞月観星・賞月観星XWA(100°~110°)シリーズ接眼レンズ http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html しかし、今回ご紹介する「賞月観星XWAシリーズ」はなんとお値段が2万円台前半、従来品の1/3以下、1本の予算で3本買ってまだお釣りが来る価格破壊。そして掲げた目標は「世界トップ級テレビューEthos(イーソス)の見え味を再現すること」。 さて、その実力やいかに?さっそく見ていくことにしましょう。 外装と見口 賞月観星XWAアイピースは金属削り出しの美しい仕上げ。高級感十分です。鏡胴の一部にはゴムローレットが巻かれています(*)。 (*)最も太い部分の直径は、ゴムのローレット部を含めて、XWA20mmが68mm、XWA13mmが61.6mm、XWA5mmが57mm。価格的に双眼望遠鏡でも運用したくなりますが、眼幅には要注意です。20mmの場合は合わない人も出てくるでしょう。 賞月観星XWA20mmは2インチスリーブ専用ですが、13mm以下のタイプは1.25インチ・2インチ両用となっています。切替はごく簡単で、2インチスリーブ部を回すだけで簡単に外すことができ、外すと1.25インチスリーブが現れるようになっています。 焦点位置は残念ながら同焦点ではありません。それぞれの焦点位置にはけっこうな差がありました。他社の100°アイピースも含めて、100°アイピースで同焦点運用が可能な製品は現状ありません。100°アイピースを使う場合はその点も注意が必要です。 賞月観星XWAシリーズのアイレンズ側には折りたためるゴム見口(*)が付いていて、メガネ着用なら畳んだ状態で、裸眼なら伸ばした状態で視野全体が見渡せます。アイレリーフは100°アイピースの一般的な長さといってよい15mm。スペック的には短くはないのですが、視野がほどよく見渡せるような眼の位置は短焦点ほどシビアになります。特に5mmは見かけ視野が110°もあることもあって、若干慣れが必要だと感じました。 (*)ちなみに、見口のゴムは薄手で畳みやすいのはいいのですが、借用した個体のうち20mmでゴムが引きつれて一部切れてしまいました。ゴム製品は基本的には消耗品と考えた方がよいですが、見口は簡単に外せるので補修部品との交換は容易です。 コーティング コーティングは全面マルチコート。反射光の強さから推測して、非常に上質なマルチコートが全ての面に施されています。レンズが6群にもなる100°オーバーアイピースでヌケの良さを実現するには、このレベルは必須といえるでしょう。 反対から見たところ。こちらも素晴らしいクオリティです。 内面反射 アイピース単独の状態で、見口側から筒内をナナメに覗いたところ。ピカピカはしてはいないものの、暗黒ではありません。レンズの押さえリングかスペーサーリングでしょうか、若干内面反射が残った場所が見受けられます。レンズ枚数・部品点数が多くなる100°アイピースでこの価格を実現する上では、仕方のないことかもしれません。 巨大な100°overアイピース 100°オーバーのアイピースはデカくて重い。その常識はまだ誰も覆すことができていません。賞月観星XWAシリーズもその例外ではなく、簡単に言えば500mmペットボトルのお茶と同じくらいの重さで、若干細くて短いくらいでしょう。長焦点になるほど重く、XWA20mmでは700g弱にもなります。 素晴らしい体験をもたらしてくれる100°オーバーアイピースですが「デカくて重い」。このことだけはしっかり認識しておく必要があります。 デカすぎるとこうなる、の例。アイピースが長すぎて、三脚のアイピースホルダーに差すことができません。とは言ってもアイピースホルダーが元々ない三脚もあることですし、長すぎるアイピースがダメとか使えないという話では全くないのですが、100°アイピースのこのサイズは、微妙に使用者に不便を強いてしまうことがある、ということは認識しておくべきでしょう。 他社製品との比較 手持ちのいくつかの100°アイピースと比較してみました。ごらんの通り大きさはどれも似たようなものです(*)。 (*)視野110°の賞月観星XWA5mmはやや長めです。 実視比較は次項に譲るとして、まずコーティングと内面反射を比較してみました。 コーティングについては賞月観星は申し分ありません。より製造年が新しいせいか?イーソス(*)よりもさらに反射率が低く感じられるほどです。 (*)比較したイーソスの個体はかなり年期が入った製品でした。 ただ、鏡胴内の反射については若干他社よりも多く感じました。ナナメから見ると、反射率が高くなっている部分があることがわかります(*)。しかし、価格が他社製品の1/3ほどであることを考慮すれば、ある部分は仕方のないことでしょう。次項でも触れますが、実際の見え味の差は筆者の眼で認識できる範囲ではほとんどありませんでした。 (*)このような比較では反射がより少ないほど良いのは勿論なのですが、実際の使用条件下では光が当たらないような部分が環境光を反射したり、遮光環などで実際には眼にまでは光が入射しないような場合があります。 鏡筒を空に向けて内面反射を比較したところ。確かにイーソス17mmの方がより反射は少ないですが、その差はこれだけです。眼視用機材としては実用上の差はほとんどないといっても差し支えないかもしれません。 実視レビュー XWA20mm、13mmでディープスカイ 100°アイピースで見る最高の対象の一つがオリオン大星雲M42ではないでしょうか。100°アイピースの広視野をフラットフィールド(*)で生かすべく、FSQ106ED+エクステンダーx1.6の組み合わせで試してみました。 (*)普通の天体望遠鏡では周辺の像面湾曲と非点収差が十分に補正されていないのが普通です。広い実視野では一般に周辺像は対物側の要因で悪化します。 賞月観星XWA13mmの65倍では、オリオン大星雲が視野いっぱい広がりど迫力。鋭く切れ込んだ暗黒部、小さくまとまったトラペジウムの4つの星、ほのかに縁が赤みを帯びた中心の台形部、そこから3時と8時の方向に羽根のようなスジが広がります。100°アイピースを手にしたらまずオリオン大星雲を見るべきですね^^ 最周辺では星像は崩れますが良像範囲(*)は広く80%ほどもあり、これはイーソス17mmと同程度でしょうか。ここまで見えれば何の文句もない感じです(**)。 (*)本記事における「良像範囲」は、かなり主観的な基準となってしまうことをご了承ください。 (**)100°アイピースのナンバーワンと筆者が思っているニコンのNAV-HW12.5mm(Eicを装着して10mmの状態)と比較するとさすがに負けます。このアイピースは最周辺でもほどんど星像が崩れず「良像範囲ほぼ100%」です。 より低倍率となる賞月観星XWA20mmの42倍では、目の前に広がる星屑の群れの中に、ぽっかりと浮かんだM42とランニングマン星雲がすばらしい眺めです。良像範囲は70%くらいでしょうか。見かけ視野で70度分ほどあります。自然に視野中央に視線を置けば、ほぼ全視野良像であるといってよいでしょう。ただし周辺に視線を置いて見たときの像の崩れは13mmよりは大きく、100度の最周辺では急激に星像は崩れます。 (*)焦点距離17mmと20mmの差があるので同列には比較できませんが、イーソス17mmと比較すると像の崩れはやや大きめでした。 視野の最周辺まで完璧な点像を保つアイピースは存在しません。それどころか、普通は星像は像面湾曲でボケて、非点収差で線を引き、倍率色収差で色にじみが出ます。しかし賞月観星を含めて今回使用した100°アイピースは、比較した他のどのアイピースよりどれも良像範囲は広い(70%〜90%以上)ものでした。 XWA5mm、13mmで半月少し前の月 スカイウォッチャーの反射望遠鏡BKP130(口径130mm、焦点距離650mm)で月を見比べてみました。XWA5mmの130倍でも月の全体が視野に入ります。マジっすか。月の周回軌道の宇宙船から見た月面はこんな感じなのでしょうか、さすが見かけ視界110°はスゴイ。さすがに注意深く最周辺を見ると倍率色収差の色づき・像面湾曲によるピント位置のずれ・像の崩れがあるものの(*)ほとんど気にならず、良像範囲は広く月全体がよく見える印象。 (*)コマコレクタなしの構成なので対物側の収差も含まれています。 しかし、月全体が見えるとは言っても大きすぎます^^;;; 欠け際を順に眺めていくには、視点を意識してグリグリ動かしていく必要があります。100°overアイピースの広視野はど迫力ですが、ほぼ全視野良像であったとしても、視野全部が「見やすい」わけではありません。細かい部分をじっくり観察するには、見たい部分を視野の中心にもってくる方が確実に眼が楽でよく見えます。これは100°overアイピース一般にいえることだと思います(*)。 (*)極端な話、惑星を観察する場合は100°アイピースのメリットは少なくなります。 イーソス6mmと見え方を比較してみました。中心像は賞月観星5mmのほうがスッキリとシャープな印象ですが、周辺部の色づき方はイーソス6mmのほうがわずかに 少ない感じです。しかし、最周辺の像の崩れはほとんど差がなく良像範囲は90%以上。「良像範囲の見かけ視野の広さ」ではむしろ賞月観星5mmの方がわずかに勝る印象です。なお、欠け際のコントラストは筆者の眼(*)では優劣不明でした。 (*)白内障が少し入っています(TT) 視野の広さは明らかに110度の賞月観星XWAの方が広いです。広すぎて視点を動かさないと円形の視野の端が見えないため、視野の中心がどこにあるのかわからなくなるほどです^^;; そのせいか眼位置にはより敏感。高倍率でのハイアイポイントのアイピース全般に言えることですが、眼位置にはシビアです(後述)。ある程度慣れないとカゲリで視野全体をうまく捉えることができないかもしれません。背景の暗いディープスカイの場合は視野のカゲリは気づきにくいのですが、明るい月面ではかなり目立ってくるためです。その意味ではより視野が狭く焦点距離の長いイーソス6mmの方がやや覗きやすく感じました。 XWA13mmでも見てみましたが、50倍では月は超余裕で全部見えます。100°の必要があるかと言われれば微妙ですが、この倍率ならば皆既月食の月や細い月と地球照を見たいもの。100°の視野の視野で、背景の星々の中に浮かび上がる月の姿はきっと最高でしょう。 20cmシュミットカセグレンで銀河探訪 口径20cmのシュミカセC8でいろいろな銀河を観望してみました。このくらいの口径になると、賞月観星XWA20mmで100倍の倍率をかけて、銀河の細かい構造の違いを見るのが面白くなってきます。 まずはおおぐま座のM81/82です。事前のシミュレーションではXWA20mmで同一視野に入るという結果だったので大いに期待していました。実際に覗いてみると、たしかにM81/82の両方が視野に入るのですが、いかにも離れすぎでした^^;; 上の画像を見ると「えっ。そんなことないんじゃないの?」と思われるかもしれません。例えば見かけ視野70°のアイピースならその通りでしょう。しかし、100°アイピースの場合、視野円は肉眼の視野の端っこのさらに向こうにあり、眼をギョロつかせないと見ることができないのです。 100°アイピースの視野の中で、ある程度自然に見ることができるのは見かけ視野70°くらいまでではないでしょうか。「並んだ2つ(以上)の対象を面白く気持ちよく見る」ためには、ある程度余裕をもった視野が確保できる焦点距離のチョイスが吉でしょう。 その意味では、しし座のトリオ(M65/66/NGC3628)も同様でした。賞月観星XWA20mmならトリオが3つ同一視野に入るのですが、じっくり対象を観察するなら上の図のように対象を中心近くに持ってくる方がはるかに見やすく面白いです(*) (*)実際に見てみるとこの状態でもまだM65とM66は「遠い」印象です。 しかし、見かけ視野の広さが大いに生きることもあります。有名なおとめ座の「マルカリアンの鎖(マルカリアンチェーン)」の場合、賞月観星XWA20mmの100倍(実視野約1°)でも大きく視野をはみ出してしまうので、明るく並んだM84とM86からホッピングしていくことになりますが、見かけ視野が広いとこのホッピングが楽になります(*)。「視野外」と「(見にくくても)視野内」には越えられない壁があるのです。 (*)実はC8でマルカリアンチェーンを見たのは今回が初めてでした。口径20cmの100倍で見るM84と86はかなりの迫力。鎖をひとつひとつ辿って、だんだんと銀河が遠く小さくなっていくのは、宇宙の広さを実感する体験でした。 眼位置にシビアな100°アイピース 100°アイピースを覗いた実際のイメージを伝えるのは大変難しいです。よく見かけるのは、単純に100:70:60:50などの視野円を天体写真に描き込んだものですが、これではなかなか伝わりません(*)。 (*)見かけ視界の角度と一致するくらいに眼を近づければかなり近くなります。そのためには90度の視野円の実際の長さの半分の距離に眼を近づける必要があります。 Post from RICOH THETA. - Spherical Image - RICOH THETA そこで新たな試みとして、360°全天カメラのTHETA Z1でコリメート撮影してみました(*)。まあこれも違うんですが^^;;; 少なくとも100°アイピースの視野円の端までの実写画像はたぶんこれが初めてでしょう。 (*) 記事執筆後、家人がiPhone11を購入したのですが、これの広角カメラなら100°アイピースの視野円が半分くらいは写せました。これも、アイピースチェック用の最強デバイスかもしれません。 この画像を撮ったのには理由があります。100°アイピースの重要な特性を見てもらいたいからです。 ひとつは100°アイピースの眼位置のシビアさ。眼位置がアイピースに近すぎると画像のようなカゲリが発生します。遠すぎると視野周辺が蹴られてしまいます。 もうひとつは、眼位置が適切でないと視野周辺が色づくこと。遠いときは赤に、近いときは青に色づきます。この傾向は他社製品含めて全て同じでした(*)。 (*)賞月観星XWA20mmは若干この傾向が大きいと感じました。地上風景を見る場合、眼位置が離れ気味になると周辺部がオレンジ色っぽくなる傾向がありました。 バローレンズとの相性 100°アイピースとバローレンズの相性はどうでしょうか。使用したバローはセレストロン製の2インチスリーブの2.5倍のものです。 地上風景に対して、今回テストした他社製品を含めた全ての100°アイピースで、バローあり・なしを比較してみました。結論から言って、100°アイピースとバローの相性は決して良いとはいえませんでした。元々良く見えるのでアイピース全体のアベレージからすると「良く見える」のですが。 筆者がこれまで100°アイピースを使用している中では、バローレンズによる像の悪化を感じたことは特になかったのですが、それは「同じ焦点距離の1本のアイピースのバローあり・なし」での印象だったのでしょう。倍率が同じになるようにした2本のアイピースでバローあり・なしをside by sideで比較すると、明らかにバローなしが良く見えました。 M42でも同じ比較を行ってみました。輝度が低く色を感じにくいディープスカイでは、バローレンズによる像の悪化は昼間の風景ほどには感じられず、十分実用範囲だと感じました(*)。 (*)それでも視野最周辺部での倍率色収差による星像の流れははっきり感じられました。  賞月観星XWA13mm+バロー2.5倍(163倍) vs 賞月観星5mmバローなし(170倍) 長焦点の100°アイピースにバローを入れたものと、バローなしの短焦点100°アイピースの比較です。13mm+バローでもそれだけで見ると「悪い」と感じるほどではないのですが、周辺にいくほど倍率の色収差が目立ちます(*)。一方でバローなしの5mmでは色づきのないすっきりとした像でその差は歴然。短焦点の100°アイピースは、長焦点+バローでは代用できない価値があると言い切ってよいと感じました。 (*)より長焦点の賞月観星XWA20mm+バロー、イーソス17mm+バローではさらにこの傾向を強く感じました。Nikon NAV-HW12.5mm、イーソス6mm、賞月観星XWA5mmでも同じ傾向で、短焦点ほど倍率色収差は少なく感じました。 賞月観星XWA20mm+バロー2.5倍 vs 賞月観星20mmバローなし 同じ100°アイピースでバローのありなしで比較してみました。倍率がまったく違うのであくまで印象の比較ですが、こちらも倍率色収差による色づきはバローありの方が大きくなります。一方で最周辺部の像の崩れはバローありの方がむしろ少なく感じました(*)。 (*)「同じアイピースならバローありの方が周辺の崩れが少ない」という傾向は他のアイピース(ペンタックスXW20mm、賞月観星原点10mm・20mm)でも感じました。 そのほかの注意点 アイピース重量がバランスに与える影響 フリーストップ式の架台を使用する場合、アイピースの重量差によるバランスの調整に留意しなければならない場合があります。上の画像は賞月観星XWA5mmと他社の軽量4mmアイピースそれぞれでバランスが取れている状態ですが、鏡筒の取付位置がけっこう変わっていることがわかります。 特に鏡筒が長い場合はこの差が大きくなります。アイピース交換のたびにアリガタをスライドさせるのは非現実的。カックンしないようにクランプを強めに締めることや、なるべく重量差のないアイピース選びが必要になってくるかもしれません。 他にも赤道儀での90°視運用の場合、対象の位置によってアイピースの向きが変化し、回転方向にカックンすることがあります。思わぬ落下事故に注意が必要です。 アイピースの勘合 賞月観星の問題というよりは、アイピースに一般的に存在する件なのですが、1.25インチスリーブの「段差構造」の相性によっては、アダプタとの取付がうまくできない場合があります。この段差は脱落防止のためなので、背に腹は代えられないところではありますが(*)。 (*)アイピース側の段差は存在するものとして、望遠鏡側の1.25インチメス部分がもっとユニバーサルになってほしいものですね。Baader社のツイストグリップ方式が一番いい線を行っていると感じています。 賞月観星XWAアイピースのラインナップ 賞月観星・賞月観星XWA(100°~110°)シリーズ接眼レンズ http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/76362468.html 賞月観星XWAシリーズは、今回ご紹介した「20mm」「13mm」「5mm」に加えて、9mmと3.5mm、全部で5本あります。全部揃えても111,800円。これって凄くないですか?(*) (*)ただし重さは2430g。専用のケースの確保が必要ですね^^ 100°アイピースで全部揃えるのはさすがにマニアックすぎますが^^;;、天リフのイチオシはやはり13mmでしょう。F5の鏡筒で瞳径2.6mmの中倍率ですが、見かけ視野の広さは瞳径4mmの低倍率と同じくらい。20mmもいいのですが、少しサイズが大きくなりすぎるのと、広視野になりすぎると対物側にも高性能が要求されるので、お手軽な一本目には13mmがオススメ。1.25インチの接眼部でもOK。2.5倍のバローレンズと組み合わせれば焦点距離5.2mm相当、高倍率での月面観望も圧巻。 どんな人に向いているか 五割増しの倍率で100°を体験してみよう 100°アイピースが2万円少しで買える。しかもよく見える。スゴイ時代になりました。眼視観望に関心があって100°アイピースを未体験の方には、大いにオススメできる製品です。清水の舞台から飛び降りる(*)ことなく100°の世界を体験できる。まずは1本、自分の一番好きな鏡筒で出せる一番好きな倍率の「5割増し」に合致するチョイスがオススメです。 (*)筆者の所有するニコンNAV-12.5HWは当時9.5万円だったと記憶しています。清水ダイブは何度もしてはいますが、大冒険でした^^;; なぜ5割増し?中倍率・高倍率が面白い100°体験 なぜ「5割増し」なのか。私見ですが、100°アイピースを使う場合「これまでよりも広い範囲が見える」ことよりも「同じ範囲がより大きく見える」ことを重視するのがオススメだと思います。 何となく観望界隈には「低倍率ほど(暗い対象は)よく見える」というバイアスがあるように感じていますが(*)、100°アイピースを体験すると、実は必ずしもそうではないことがよくわかることでしょう。天体望遠鏡はやっぱり大きく見えるほど面白い。同じ広さをより高い倍率で見られるのが100°アイピースの最大のメリットなのです。 (*)バラ星雲や北アメリカ星雲、M31の周辺部、M101の渦巻き構造、M51子持ち星雲を繋ぐ腕など、極限に暗い対象はその通りなのですが、そこまでするメリットがある対象は決して多くはありません。 もうひとつ、アイピースが良くなっても鏡筒の性能は変わりません。より広い実視野を見ようとすると鏡筒側の周辺の収差も大きくなってしまいます。その意味でも100°アイピースは高めの倍率がオススメです。 価格度外視で最高を求めるなら。。 大変素晴らしい賞月観星XWAですが、個別にライバル製品と比較すると、細かいところでは負けていると感じるところがないわけではありません。最周辺の倍率色収差や星像の崩れ方、内面反射防止処理など・・最高の性能を求めたい眼視マニアが、そういう目的で購入するなら、やはりより高価格の他社製品に軍配を上げざるを得ません。 しかし、おサイフの中身は一般には有限です^^;; 予算上一定の妥協をするのであれば、賞月観星は唯一無二ともいえる選択肢だと思います。 謎に包まれた新ブランド「賞月観星」とは?! 賞月観星・自己紹介 http://blog.livedoor.jp/forrest1437/archives/cat_1253383.html そこで、数年間の苦心を払ってでも、私「賞月観星」がこの業界に提案を投げかけ、いくつかのモデルの製品を開発し、この巨大マーケットに風を吹かせ、少しばかり酸素を注入してはどうかと考えたのです。胡椒の粉を少々加えると言っても良いでしょう。私というこのマイノリティーの非主流派が、多くの望遠鏡を愛好する友人たちにオルタナティブないくつかの選択、及び観賞の異なる注目点を提供しようと考えたわけです。 最近耳にするようになった「賞月観星」は、望月龍さんの個人経営による光学製品のブランドです。上のリンク先の記事や、ブログ「賞月観星」に詰まった、双眼鏡・望遠鏡に対する深く熱い想いを読んでいただければ、望月さんという人物が何を考え、何を善しとし、何を目指して「賞月観星」を立ち上げたかをおわかりいただけることでしょう。 残念ながら筆者の乏しい知識と経験では、望月さんの書かれた内容を十分には理解できていないと思います。しかし、その思いと世に問うた製品をしかと受け止め、読者の皆さんにご紹介していければと考えています。 まとめ いかがでしたか? これまで高嶺の花だった100°オーバーの広視野アイピースが、賞月観星XWAの登場で一気に敷居が下がりました。「いつかはイーソス」から「今すぐ賞月観星XWA」へ。 100°アイピースはある意味尖りすぎていて、眼視デビュー最初の1本にはお勧めしにくいところもありました。しかし、従来よりもはるかに手頃な価格の賞月観星XWAなら、最初の1本、買い足しの1本、万能常用アイピースとしてもアリかもしれません。デカくて重いですが^^;; 100°アイピースで宇宙遊泳。眼視観望の楽しみを大きく広げてくれる「広視野体験」を、ぜひ一度経験してみてはいかがでしょうか。 次回は、同じく賞月観星の「UWAシリーズ」「UFシリーズ」「SWA原点シリーズ」の3シリーズを一挙ご紹介予定です。お楽しみに! この記事は賞月観星様に機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で執筆したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 本記事は極力客観的に実視をもとに作成していますが、本記事によって発生した読者様の事象についてはその一切について責任を負いかねますことをご了承下さい。 アイピースは使用する鏡筒や接続環、プリズムなどによってピントが出ない場合があります。購入をされる場合は十分に検討ください。接続の組み合わせについてのお問い合わせは、機材をご購入ないしはご購入予定の販売店様にお願いいたします。 記事中の製品名・社名等は各社の商標または登録商標です。 参考文献:「天文アマチュアのための望遠鏡光学・屈折編」 1989 吉田正太郎 機材の価格・仕様は執筆時(2020年2月)のものです。編集部発信のオリジナルコンテンツ