みなさんこんにちは!

フィルターワークの集中連載、前回「輝線星雲を強調する」「光害をカットする」「色を豊かに表現する」というフィルターワークの3つの戦略をお話ししました。

【集中連載】天体写真のフィルターワーク(1)・フィルター選びの3つの戦略

この戦略の実現のために、フィルターの特性と同じくらい重要なことが、カメラのセンサーとカメラ側のフィルターの波長特性です。

カラーのデジタルカメラで撮影する場合、対象からの光は①目的に応じて使用するフィルター②カメラのUV-IRカットフィルター③センサーのカラーフィルターの3つのフィルターを通過することになります。(他にもローパスフィルターやカラーバランス調整用のフィルターが存在することもあります)

上の画像は対象の光がセンサーに到達するまでの模式図です。一般的なデジタルカメラは内部に何種類かのフィルターを持っています

光の入り口でフィルターを使用して必要な光をコントロールしたつもりでも、最終的に光を受け取るカメラのセンサーがその光を感じ取って信号化できなければ意味がありません。得られる画像は、これらの全ての感度特性を組み合わせの結果になるからです。

連載第2回の本記事では、フィルターワークの大前提となる、カメラそのもの波長特性について整理していきましょう。

CMOSセンサーの波長特性

ASI1600MMの波長特性グラフ。出典:http://hoshimiya.com/?pid=125144129

まず、CMOSセンサーそのものがどんな波長特性を持っているのかを見てみましょう。上の図は天体撮影で人気のあるモノクロタイプのCMOSカメラ「ASI1600MM」の波長特性です。可視光の緑色、520nm付近にピークをもつなだらかなカーブになっています。

長波長側は近赤外線(800nm)でもある程度の感度があります。このグラフでは切れていますが、一般にCMOSセンサーは可視光域と比較すると徐々に低下していくものの、感度1000nm(1μ)あたりまで感度があるようです。

短波長側はグラフを外挿すれば300nmあたりまで感度がありそうですが、一般に光学ガラスは350nmより短い波長では急激に透過率が低下するので、使えるとしてもその付近までになります(*)。

(*)ちなみに、写真用の「UV(紫外線カット)フィルター」は370nmないしは390nmより短い波長の光をカットします。

このように「素」のCMOSセンサーの特性は人間の眼よりもはるかに長波長側に敏感で近赤外線まで感度があること、感度のピークは緑付近であることの2つを押さえておけばよいでしょう。

CMOSセンサーの「カラーフィルター」の波長特性

IMX462の波長特性。特に近赤外域の感度が高くなっています。出典:http://hoshimiya.com/?pid=151820207

次に、カラーのデジタルカメラの「素の(*)」特性を見てみましょう。デジタルカメラのセンサーは、色の3原色に対応するR(赤)、G(緑)、B(青)の素子からできています。これは各センサーの表面に「カラーフィルター(マイクロフィルター)」を被せることによって実現されています。

(*)一般向けのデジタルカメラの場合、後述する「IR-UVカットフィルター」や「カラーバランス調整フィルター」によって、人間の視覚により近くなるように調整されています。上記のグラフはこのようなフィルターを持たない「天体用」カメラの特性です。

上の図はソニー製のセンサー「IMX462」を使用した天体用CMOSカメラ「ASI462MC」の波長特性図です。このグラフは、素のCMOSセンサーの感度特性に、センサーのRGB各素子が持つカラーフィルターの特性を加味した結果になっています(*)。

(*)センサーのカラーフィルターは製品によって違いはあるものの、「着色顔料」が使用されているようです。基本的には赤・緑・青の色ガラスフィルターと近い特性(干渉フィルターではない)と考えてよいのではないかと思われます。参考:https://www.fujifilm.com/jp/ja/business/manufacturing-process/semiconductor/image-sensor

この図からわかることは、デジカメ用のカラーフィルターはRGBを完全に分離できているわけではなく、特に近赤外域(>波長650nm)ではRGBいずれの素子も一定の感度を持ってしまう(*)ことです。

(*)特にこのIMX462の場合近赤外域の感度が高く、RGBのいずれも800nm付近の感度がピークになっています。これほどではないにしても、カラーCMOSカメラはB、Gチャンネルであっても近赤外での感度がそれなりにあるものが多いようです。このため、IRカットフィルターを使用せずノーフィルターで撮影すると、この近赤外域の感度の影響で「色の出が悪い」「(近赤外域の色収差による)ハロが出る」などの悪影響があります。

 

デジタルカメラのUV-IRカットフィルター

SONYのCMOSセンサーを使用した監視用途ビデオカメラXCL-SG510Cの波長特性。 出典:https://www.sony.co.jp/Products/ISP/pdf/products/spec_CameraLink_20172018_s.pdf

このようなカラーCMOSセンサーをデジタルカメラに使用する場合、そのままでは赤外域に感度を持つことがさまざまな点で(*)大きな弊害となります。このため、民生用デジタルカメラはほぼ全て「(UV)IRカットフィルター」をセンサーの直前に置くことで、有害な紫外光と赤外光をカットしています。

(*)いちばんの問題は赤外線や紫外線によって視覚的に感じる色と異なってしまうことですが、それ以外にも長波長側の色収差で画質が悪化する、レンズのコーティングや鏡胴の塗装が赤外線では効果を発揮できずフレアが生じる、一部の材質の衣服が透けて写ってしまうためコンプライアンス的?に問題になる、などの弊害があります。

上の画像はネットで見つけたデジタルカメラの波長特性(*)ですが、650nmより長い波長が急峻にカットされていることがわかります。前掲の「素の」カラーセンサーとのこの差が「(UV)IRカットフィルター」によるものです。

(*)各社のデジタルカメラの波長特性については、なぜか公開された情報が皆無に等しい状況です。推測でしかありませんが上図とそれほど大きくは違っていないでしょう。

「僕らのHα線」の微妙な立ち位置

デジカメのIRカットフィルターとHα線の不幸な関係。ほんのわずかな特性の違いでも大幅にHα線の透過率が変わります。なお、A社〜C社の表記は架空のもので実在しません。

「みんな大好き」な赤い星雲のHα線の波長は656nm。天体写真においては、このIRカットフィルターの存在が不運な問題を起こしてしまいます。波長656nmは、ちょうどIRカットフィルターがカットする波長のまさに近傍にあり、「ギリギリ」で大きくカットされてしまうのです。筆者の推測ですが、ニコン・キヤノン・ソニーのカメラの場合、Hα線の透過率は25%は越えないでしょう(*)。これも推測ですが、比較的「赤い星雲が良く写る」といわれるフジやペンタックスKシリーズでも50%以下でしょう。「天体用モデル」として販売されているEOS RaやニコンD810Aでも、80%は越えていないものと推測します。

(*)都市伝説の類かもしれませんが、プロカメラマンが日本代表のユニフォームや商品の鮮やかな青を表現する際に、このような特性にしないと微妙な色かぶりが問題になるからだ、との話もあります。

IRカットフィルターを換装する「天体改造機」

非改造機(左:EOS5DMarkIII)と天体改造機(右:EOS6D SEO-SP4)の比較。カラーバランス補正以外の現像条件は全て同じ。 シグマ24mmF1.4 F2.8 2分 ISO3200 赤道儀で追尾 フィルターなし

そこで登場するのが「天体改造」です。IRカットフィルターが問題ならば取り替えてしまえばいいじゃないかというわけです。上の画像をみてもわかるように、天体改造することで赤い星雲はずっとよく写るようになります。

UV-IRカットフィルターそのものを除去する改造(クリア改造など)もあるのですが、前述の理由で近赤外域の存在はカラー撮影で問題になるため、天体改造では通常はIRカットフィルターを「除去」するのではなく、波長特性がより赤に振れた別のIRカットフィルターに「換装」する形(*)になります。

(*)次回以降に詳細を記述する予定ですが、フィルターを除去してしまうと、光路長の問題でピント位置が移動し、光学系によっては像が悪化するというのも理由の一つです。このため、紫外線・赤外線のカットをしないクリア改造の場合でも、同じ厚みの透明ガラスを入れることが多いようです。

出典:https://www.hayatacamera.co.jp/astrophotography/#summery

上の画像は、天体改造カメラで定評のある「ハヤタ・カメララボ」の天体改造サービスで使用されているIR-UVカットフィルターの波長特性図(HPで公開されている実測データ)です。赤字は編集部で追記したHα線の位置ですが、ちょうどこの656nm付近から長波長側をシャープにカットしていて、「Hαを強調する」という戦略においては理想的ともいえる波長特性です(*)。

(*)特定個体の実測値とのことで個体差があることも考えられます。SII輝線(672nm)の透過率は若干低くなると推測しますが、RGB撮影ではSIIは微弱なので大きな問題ではありません。

短波長側を見ると、カットオフ波長(*)は420nm付近で一般的なデジタルカメラと比較してやや強めのUVカット特性(**)であるといえるでしょう。天体撮影では短波長側の色収差(ハロ)が弊害になることがあるため、このような特性にしているのでしょう。

(*)本記事では便宜的に透過率が50%となる波長を「カットオフ波長」と呼称しています。

(**)フィルム時代によく使用されていた370nmより短い波長をカットするUVフィルター(L-37)ほとんど無色ですが、より強力な紫外線カットフィルターL41(410nm以下をカット)ではわずかに黄色味を帯びていて、人間の視覚に影響を及ぼしはめるレベルです。ちなみに、フィルム時代にプロテクトフィルターを兼ねた「常用フィルター」であったUVフィルターは、デジタルではUV-IRカットフィルターが紫外線をカットしてくれるため、商品としての寿命をほぼ終えています。

最適な「天体改造機」のUV-IRカットフィルター特性は?

出典:SEO-SP4改造で使用されているUIBARフィルターの特性グラフ。https://www.sanki-opt.co.jp/digicam.html#uibar

天体改造機のUV-IRカットフィルターにおいて、長波長・短波長側のカットオフ波長はどのあたりが最適なのかについては、実はこれまで議論されることが少なかったと筆者は感じています。上の画像はもう一つの定評ある天体改造機「SEO-SP4」で使用されている「UIBARフィルター」の波長特性ですが、短波長側は420nm付近がカットオフ波長でHKIRと同じくらい、長波長側では670nmでこちらもHKIRとほぼ同じです(*)。

(*)グラフの目分量によるものなので、実際には正確でない可能性があります。

筆者の私見ですが、長波長側のカットオフ波長670nmは、ほとんどのフィルター戦略において最適な特性だと考えています。考えられる弊害は唯一、SII輝線(672nm)の透過率が50%程になることくらいです(*)。

(*)デジカメではAOOはともかく、SAOをガチで撮る人は少ないでしょうが、ただでさえ弱いSIIが半分になるのは厳しいですね。

一方で、これも検証を伴わない私見ですが、短波長側が420nmというのは、今後見直されてくるかもしれません。より青ハロが少ない光学系が増えてきた昨今、よりB側の感度域を広げ短波長を取り入れることで、色表現がより豊かになる可能性があるかもしれません(*)。

(*)一方で、近赤外域と同じような色分離の問題が起きる可能性もあります。

出典:https://www.syumitto.jp/SHOP/SY0094.html

さらに、フィルターによってはUV-IRフィルターの特性により、そのねらいが十分発揮できない可能性があるかもしれません。上のグラフはサイトロンジャパン社の「Comet BP」フィルターの波長特性ですが、彗星の発するCN輝線(388nm)とC3輝線(405mm)を透過するようにB側の透過域が設定されています。しかし、この波長域は一般的な天体改造機ではかなりの光量がカットされてしまう波長域です。この特性を最大限に生かすためには、天体改造デジタルカメラではなく、UV-IRカットフィルターを持たない天体用CMOSカメラが必要かもしれません。

天体用CMOSカメラのUV-IRカットフィルター選び

出典:https://www.kyoei-osaka.jp/SHOP/baader-uvir-lflt317.html

天体用CMOSカメラで使用するUV-IRカットフィルターを選ぶ際も、同じような注意が必要かもしれません。上の画像は筆者が使用しているBaader 社のUV-IRカットフィルター(Lフィルター)の波長特性です。

まず長波長側をみるとカットオフ波長は690nm付近で若干広め。Rの帯域が一般的な天体改造機より20nmほど広くなるため、RバンドにおけるHαの相対的な強度は10〜20%ほど低くなることでしょう(*)。

(*)Hαは十分強いこともあり、これで問題を感じたことはこれまではありませんが。

短波長側のカットオフは400nm付近。一般的な天体改造機より青ハロが少し多くなるかもしれません。C3輝線(405nm)は透過しますが、CN輝線(388nm)はほとんど透過しないでしょう。

推論の範囲ではありますが、Lフィルターの選択も天体写真のリザルトを左右する要素の一つであるということはいえるのではないかと考えています。今後の検証を待ちたいと思います。

カラーフィルターによる光量ロス

出典:富士フイルム・光学フィルター https://asset.fujifilm.com/www/jp/files/2019-12/10825b6d1310354377e8edc803f309f2/films_sheetfilter_handbook_01.pdf

少し脱線しますが、ベイヤーセンサーでは、色素系カラーフィルターを使用する限り光量損失の問題が常に存在することを最後に指摘しておきます。上の画像は印刷などで使用される「三色分解」用のフィルターの波長特性ですが、最大透過率は50%強しかありません。色素系の「バンドパス」フィルター(*)では、最大透過率をあまり高くすることができないのです。

(*)赤フィルターなどの「シャープカットフィルター」の場合は最大透過率は90%程度です。B画素とG画素はR画素と比較して若干不利であるといえます。

ベイヤーセンサーで使用されているカラーフィルターが上記グラフのような最大透過率が低いものなのかは不明ですが、色素系フィルターである限り光量損失からは逃れることができません。

出典:IDAS BGR Type4 http://icas.to/space/optical-filter/BGRType4/BGR-Type4.htm

一方で、薄膜蒸着式の干渉フィルターでは、最大透過率は80〜95%程度を確保することができます。上のグラフはIDASの最新のLRGB撮影用のカラーフィルター「BGR Type4(*)」の波長特性グラフですが、最大透過率・色の分離いずれも非常に高い性能となっています。

(*)このフィルターは可視光域のRGB撮影だけでなく、フィルターの組み合わせによっては近赤外域で疑似RGB撮影を可能にするという非常に野心的な特性になっています。400nm付近にRの感度があるのも、人間の感度特性に合わせる意図でしょう。ちなみに、色素系のRGBフィルターもLRGB撮影用として販売されていますが、こちらも同様に光量損失の点で不利であるといえるでしょう。

モノクロLRGBとベイヤーセンサーによるワンショットカラーには、同一総露光時間なら圧倒的な画質差があることは広く知られていますが、その理由の一つにはカラーフィルターによる損失によるものもある(*)といえるでしょう。

(*)画質差の最大の理由は「L」画像で光をより多く取り込めることです。フィルターの損失を無視しLRGBの露光時間比率が3:1:1:1の場合、RGGBのベイヤーセンサーとモノクロLRGB撮影の総受光量の差は、RとBで8/3倍、Gで4/3倍となります。

まとめ

カメラとフィルターの組み合わせによる違い。露出補正とカラーバランス以外の強調条件は全て同じです。BKP130 F5コマコレクタ ISo6400 30秒×30枚

いかがでしたか?

フィルターを活用するには、まずカメラの波長特性を知る必要があります。デジタルカメラのセンサーの波長特性は、微妙なところで天体撮影に適さない部分もあるのです。さらには、さまざまな波長特性のフィルターの登場によって、より注意深いカメラとフィルターのマッチングの考慮が必要になってきたといえます。

次回はフィルターを使用することによるさまざまな光学的な「副作用」と、その副作用を最小化するために「フィルターをどこに置くのか」という戦略について解説する予定です。お楽しみに!


  • 本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事執筆および作例撮影においては、よしみカメラ様、国際光器様、ケンコー・トキナー様、SVBONY様(順不同)より機材貸与ないしはサンプル提供をされた機材を使用しています。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年9月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

 

https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/09/86aec12d949063d0de9e6608afb5f04f-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/09/86aec12d949063d0de9e6608afb5f04f-150x150.jpg編集部フィルターみなさんこんにちは! フィルターワークの集中連載、前回は「輝線星雲を強調する」「光害をカットする」「色を豊かに表現する」というフィルターワークの3つの戦略をお話ししました。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/08/24/11532/ この戦略の実現のために、フィルターの特性と同じくらい重要なことが、カメラのセンサーとカメラ側のフィルターの波長特性です。 上の画像は対象の光がセンサーに到達するまでの模式図です。一般的なデジタルカメラは内部に何種類かのフィルターを持っています。 光の入り口でフィルターを使用して必要な光をコントロールしたつもりでも、最終的に光を受け取るカメラのセンサーがその光を感じ取って信号化できなければ意味がありません。得られる画像は、これらの全ての感度特性を組み合わせの結果になるからです。 連載第2回の本記事では、フィルターワークの大前提となる、カメラそのもの波長特性について整理していきましょう。 CMOSセンサーの波長特性 まず、CMOSセンサーそのものがどんな波長特性を持っているのかを見てみましょう。上の図は天体撮影で人気のあるモノクロタイプのCMOSカメラ「ASI1600MM」の波長特性です。可視光の緑色、520nm付近にピークをもつなだらかなカーブになっています。 長波長側は近赤外線(800nm)でもある程度の感度があります。このグラフでは切れていますが、一般にCMOSセンサーは可視光域と比較すると徐々に低下していくものの、感度1000nm(1μ)あたりまで感度があるようです。 短波長側はグラフを外挿すれば300nmあたりまで感度がありそうですが、一般に光学ガラスは350nmより短い波長では急激に透過率が低下するので、使えるとしてもその付近までになります(*)。 (*)ちなみに、写真用の「UV(紫外線カット)フィルター」は370nmないしは390nmより短い波長の光をカットします。 このように「素」のCMOSセンサーの特性は人間の眼よりもはるかに長波長側に敏感で近赤外線まで感度があること、感度のピークは緑付近であることの2つを押さえておけばよいでしょう。 CMOSセンサーの「カラーフィルター」の波長特性 次に、カラーのデジタルカメラの「素の(*)」特性を見てみましょう。デジタルカメラのセンサーは、色の3原色に対応するR(赤)、G(緑)、B(青)の素子からできています。これは各センサーの表面に「カラーフィルター(マイクロフィルター)」を被せることによって実現されています。 (*)一般向けのデジタルカメラの場合、後述する「IR-UVカットフィルター」や「カラーバランス調整フィルター」によって、人間の視覚により近くなるように調整されています。上記のグラフはこのようなフィルターを持たない「天体用」カメラの特性です。 上の図はソニー製のセンサー「IMX462」を使用した天体用CMOSカメラ「ASI462MC」の波長特性図です。このグラフは、素のCMOSセンサーの感度特性に、センサーのRGB各素子が持つカラーフィルターの特性を加味した結果になっています(*)。 (*)センサーのカラーフィルターは製品によって違いはあるものの、「着色顔料」が使用されているようです。基本的には赤・緑・青の色ガラスフィルターと近い特性(干渉フィルターではない)と考えてよいのではないかと思われます。参考:https://www.fujifilm.com/jp/ja/business/manufacturing-process/semiconductor/image-sensor この図からわかることは、デジカメ用のカラーフィルターはRGBを完全に分離できているわけではなく、特に近赤外域(>波長650nm)ではRGBいずれの素子も一定の感度を持ってしまう(*)ことです。 (*)特にこのIMX462の場合近赤外域の感度が高く、RGBのいずれも800nm付近の感度がピークになっています。これほどではないにしても、カラーCMOSカメラはB、Gチャンネルであっても近赤外での感度がそれなりにあるものが多いようです。このため、IRカットフィルターを使用せずノーフィルターで撮影すると、この近赤外域の感度の影響で「色の出が悪い」「(近赤外域の色収差による)ハロが出る」などの悪影響があります。   デジタルカメラのUV-IRカットフィルター このようなカラーCMOSセンサーをデジタルカメラに使用する場合、そのままでは赤外域に感度を持つことがさまざまな点で(*)大きな弊害となります。このため、民生用デジタルカメラはほぼ全て「(UV)IRカットフィルター」をセンサーの直前に置くことで、有害な紫外光と赤外光をカットしています。 (*)いちばんの問題は赤外線や紫外線によって視覚的に感じる色と異なってしまうことですが、それ以外にも長波長側の色収差で画質が悪化する、レンズのコーティングや鏡胴の塗装が赤外線では効果を発揮できずフレアが生じる、一部の材質の衣服が透けて写ってしまうためコンプライアンス的?に問題になる、などの弊害があります。 上の画像はネットで見つけたデジタルカメラの波長特性(*)ですが、650nmより長い波長が急峻にカットされていることがわかります。前掲の「素の」カラーセンサーとのこの差が「(UV)IRカットフィルター」によるものです。 (*)各社のデジタルカメラの波長特性については、なぜか公開された情報が皆無に等しい状況です。推測でしかありませんが上図とそれほど大きくは違っていないでしょう。 「僕らのHα線」の微妙な立ち位置 「みんな大好き」な赤い星雲のHα線の波長は656nm。天体写真においては、このIRカットフィルターの存在が不運な問題を起こしてしまいます。波長656nmは、ちょうどIRカットフィルターがカットする波長のまさに近傍にあり、「ギリギリ」で大きくカットされてしまうのです。筆者の推測ですが、ニコン・キヤノン・ソニーのカメラの場合、Hα線の透過率は25%は越えないでしょう(*)。これも推測ですが、比較的「赤い星雲が良く写る」といわれるフジやペンタックスKシリーズでも50%以下でしょう。「天体用モデル」として販売されているEOS RaやニコンD810Aでも、80%は越えていないものと推測します。 (*)都市伝説の類かもしれませんが、プロカメラマンが日本代表のユニフォームや商品の鮮やかな青を表現する際に、このような特性にしないと微妙な色かぶりが問題になるからだ、との話もあります。 IRカットフィルターを換装する「天体改造機」 そこで登場するのが「天体改造」です。IRカットフィルターが問題ならば取り替えてしまえばいいじゃないかというわけです。上の画像をみてもわかるように、天体改造することで赤い星雲はずっとよく写るようになります。 UV-IRカットフィルターそのものを除去する改造(クリア改造など)もあるのですが、前述の理由で近赤外域の存在はカラー撮影で問題になるため、天体改造では通常はIRカットフィルターを「除去」するのではなく、波長特性がより赤に振れた別のIRカットフィルターに「換装」する形(*)になります。 (*)次回以降に詳細を記述する予定ですが、フィルターを除去してしまうと、光路長の問題でピント位置が移動し、光学系によっては像が悪化するというのも理由の一つです。このため、紫外線・赤外線のカットをしないクリア改造の場合でも、同じ厚みの透明ガラスを入れることが多いようです。 上の画像は、天体改造カメラで定評のある「ハヤタ・カメララボ」の天体改造サービスで使用されているIR-UVカットフィルターの波長特性図(HPで公開されている実測データ)です。赤字は編集部で追記したHα線の位置ですが、ちょうどこの656nm付近から長波長側をシャープにカットしていて、「Hαを強調する」という戦略においては理想的ともいえる波長特性です(*)。 (*)特定個体の実測値とのことで個体差があることも考えられます。SII輝線(672nm)の透過率は若干低くなると推測しますが、RGB撮影ではSIIは微弱なので大きな問題ではありません。 短波長側を見ると、カットオフ波長(*)は420nm付近で一般的なデジタルカメラと比較してやや強めのUVカット特性(**)であるといえるでしょう。天体撮影では短波長側の色収差(ハロ)が弊害になることがあるため、このような特性にしているのでしょう。 (*)本記事では便宜的に透過率が50%となる波長を「カットオフ波長」と呼称しています。 (**)フィルム時代によく使用されていた370nmより短い波長をカットするUVフィルター(L-37)ほとんど無色ですが、より強力な紫外線カットフィルターL41(410nm以下をカット)ではわずかに黄色味を帯びていて、人間の視覚に影響を及ぼしはめるレベルです。ちなみに、フィルム時代にプロテクトフィルターを兼ねた「常用フィルター」であったUVフィルターは、デジタルではUV-IRカットフィルターが紫外線をカットしてくれるため、商品としての寿命をほぼ終えています。 最適な「天体改造機」のUV-IRカットフィルター特性は? 天体改造機のUV-IRカットフィルターにおいて、長波長・短波長側のカットオフ波長はどのあたりが最適なのかについては、実はこれまで議論されることが少なかったと筆者は感じています。上の画像はもう一つの定評ある天体改造機「SEO-SP4」で使用されている「UIBARフィルター」の波長特性ですが、短波長側は420nm付近がカットオフ波長でHKIRと同じくらい、長波長側では670nmでこちらもHKIRとほぼ同じです(*)。 (*)グラフの目分量によるものなので、実際には正確でない可能性があります。 筆者の私見ですが、長波長側のカットオフ波長670nmは、ほとんどのフィルター戦略において最適な特性だと考えています。考えられる弊害は唯一、SII輝線(672nm)の透過率が50%程になることくらいです(*)。 (*)デジカメではAOOはともかく、SAOをガチで撮る人は少ないでしょうが、ただでさえ弱いSIIが半分になるのは厳しいですね。 一方で、これも検証を伴わない私見ですが、短波長側が420nmというのは、今後見直されてくるかもしれません。より青ハロが少ない光学系が増えてきた昨今、よりB側の感度域を広げ短波長を取り入れることで、色表現がより豊かになる可能性があるかもしれません(*)。 (*)一方で、近赤外域と同じような色分離の問題が起きる可能性もあります。 さらに、フィルターによってはUV-IRフィルターの特性により、そのねらいが十分発揮できない可能性があるかもしれません。上のグラフはサイトロンジャパン社の「Comet BP」フィルターの波長特性ですが、彗星の発するCN輝線(388nm)とC3輝線(405mm)を透過するようにB側の透過域が設定されています。しかし、この波長域は一般的な天体改造機ではかなりの光量がカットされてしまう波長域です。この特性を最大限に生かすためには、天体改造デジタルカメラではなく、UV-IRカットフィルターを持たない天体用CMOSカメラが必要かもしれません。 天体用CMOSカメラのUV-IRカットフィルター選び 天体用CMOSカメラで使用するUV-IRカットフィルターを選ぶ際も、同じような注意が必要かもしれません。上の画像は筆者が使用しているBaader 社のUV-IRカットフィルター(Lフィルター)の波長特性です。 まず長波長側をみるとカットオフ波長は690nm付近で若干広め。Rの帯域が一般的な天体改造機より20nmほど広くなるため、RバンドにおけるHαの相対的な強度は10〜20%ほど低くなることでしょう(*)。 (*)Hαは十分強いこともあり、これで問題を感じたことはこれまではありませんが。 短波長側のカットオフは400nm付近。一般的な天体改造機より青ハロが少し多くなるかもしれません。C3輝線(405nm)は透過しますが、CN輝線(388nm)はほとんど透過しないでしょう。 推論の範囲ではありますが、Lフィルターの選択も天体写真のリザルトを左右する要素の一つであるということはいえるのではないかと考えています。今後の検証を待ちたいと思います。 カラーフィルターによる光量ロス 少し脱線しますが、ベイヤーセンサーでは、色素系カラーフィルターを使用する限り光量損失の問題が常に存在することを最後に指摘しておきます。上の画像は印刷などで使用される「三色分解」用のフィルターの波長特性ですが、最大透過率は50%強しかありません。色素系の「バンドパス」フィルター(*)では、最大透過率をあまり高くすることができないのです。 (*)赤フィルターなどの「シャープカットフィルター」の場合は最大透過率は90%程度です。B画素とG画素はR画素と比較して若干不利であるといえます。 ベイヤーセンサーで使用されているカラーフィルターが上記グラフのような最大透過率が低いものなのかは不明ですが、色素系フィルターである限り光量損失からは逃れることができません。 一方で、薄膜蒸着式の干渉フィルターでは、最大透過率は80〜95%程度を確保することができます。上のグラフはIDASの最新のLRGB撮影用のカラーフィルター「BGR Type4(*)」の波長特性グラフですが、最大透過率・色の分離いずれも非常に高い性能となっています。 (*)このフィルターは可視光域のRGB撮影だけでなく、フィルターの組み合わせによっては近赤外域で疑似RGB撮影を可能にするという非常に野心的な特性になっています。400nm付近にRの感度があるのも、人間の感度特性に合わせる意図でしょう。ちなみに、色素系のRGBフィルターもLRGB撮影用として販売されていますが、こちらも同様に光量損失の点で不利であるといえるでしょう。 モノクロLRGBとベイヤーセンサーによるワンショットカラーには、同一総露光時間なら圧倒的な画質差があることは広く知られていますが、その理由の一つにはカラーフィルターによる損失によるものもある(*)といえるでしょう。 (*)画質差の最大の理由は「L」画像で光をより多く取り込めることです。フィルターの損失を無視しLRGBの露光時間比率が3:1:1:1の場合、RGGBのベイヤーセンサーとモノクロLRGB撮影の総受光量の差は、RとBで8/3倍、Gで4/3倍となります。 まとめ いかがでしたか? フィルターを活用するには、まずカメラの波長特性を知る必要があります。デジタルカメラのセンサーの波長特性は、微妙なところで天体撮影に適さない部分もあるのです。さらには、さまざまな波長特性のフィルターの登場によって、より注意深いカメラとフィルターのマッチングの考慮が必要になってきたといえます。 次回はフィルターを使用することによるさまざまな光学的な「副作用」と、その副作用を最小化するために「フィルターをどこに置くのか」という戦略について解説する予定です。お楽しみに! 本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事執筆および作例撮影においては、よしみカメラ様、国際光器様、ケンコー・トキナー様、SVBONY様(順不同)より機材貸与ないしはサンプル提供をされた機材を使用しています。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年9月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。  編集部発信のオリジナルコンテンツ