シグマ105mmF1.4 DG HSM | Artレビュー【天文用神レンズ?!】
本日6/14に発売されたシグマのArtライン最新レンズ「105mm F1.4 DG HSM | Art」。編集部では即買いして試写してきました!
編集部には同じくシグマの85mmF1.4Artもあります。
この2本を比較しながら、以下レビューをお届けします。
目次
まずは作例
まずは作例からごらん頂きましょう。クリックで大サイズ表示されます。空の条件が良くなく短時間の露出であること、ピント位置が完全ではなかったことを前提としてごらんください。
画像処理は、明瞭度をかなり上げています。また、元画像に明るさの最小値0.2pxと0.4pxを1:1:1くらいでブレンドして星像を小さくしています。ダメージ系強調なしの等倍画像は後の項を参照ください。
天の川中心部。元々明るい領域なので、微光星の色収差はほとんど問題にはならない領域。若干ピン甘なのですが、一見して星像はシャープ感に満ちています。左上は土星ですが、いわゆる「ウニ(状の光条)」がほとんど出ていないのもプラスポイント。
こちらはたった4.5分の総露出ですが、F2.0でこの星像なら大満足です。ダーク・フラットは未使用。周辺減光は非常に素直で、Camera rawの周辺減光補正でほぼ合わせることができました。(レンズプロファイルは6/14時点で未リリースのようです)105mmと短焦点のせいか、ミラーボックスケラレはまったく感じませんでした。
こちらはF2.8で。かなり彩度を上げていますが、それでも星の周りのイヤな色滲みは目立ちません。2.8まで絞るとほぼ隅での流れが収まり、中心部では星像は2*2の4ピクセル、ないしは十字5ピクセルほどにも小さくなります。正直いって6Dの2000万画素ではセンサーがレンズに完全に負けています。
星が滲んでいるのは薄雲の影響。9分露出でも青い馬が出始めています。ギンギンに彩度を上げているため、等倍で見るとさすがに周辺部の青い色コマが目立ちますが、鑑賞サイズならさほど問題にならないレベル。
赤道儀はSWAT-310を使用しました。純正のシンプルフォークにアルカスイスプレートを足してクリアランスと東西バランスを調整しています。全天ほぼ死角がなく、使い勝手は超良好です。
外観編
量販店で自腹購入です。これを買わねば男がすたる。据レンズ食わぬは男の恥。ってな訳ないんですけど^^
星ヲタでなくてもレビューできることはざっと飛ばします。
お時間のある方はこちらのベタ流し開封動画をご覧下さい。
外観はまさに「ミニニーニー(200mmF2)」の趣。フィルター径が105mmもあってレンズキャップが巨大。フードはキヤノンの328シリーズと同様、ネジで横から固定する形になっています。カーボン使用とのことで軽量です。
けっこう存在感のあるケースが付属しますが、通常のカメラバッグには大きすぎて入れにくいこのレンズではとても便利。ストラップが付属しているのもポイント高。
このレンズの天文的売りの一つ、アルカスイス互換の三脚座が付属。回転もスムーズでしっかり固定できます。脱落防止用のネジが着いています。
ボディに6Dを装着し前後のバランスを合わせた状態。悲しいことに若干リアヘビー。ソニーαの場合はちょうどいいのかもしれませんが、三脚座のスライド部分をもう少し長くしてほしかったところ。
SWAT310に載せたところ。純正のシンプルフォークにアルカプレートを追加しバランスとクリアランスを調整しています。構図合わせも楽、焦点距離105mmなので強度の不安もなし。これが一番便利な構成ではないでしょうか。
大口径レンズは露よけ対策がネック。328ほどフードが深くないので心配でしたが、ヒーターのよこたさんの出目金用USBヒーターと、アマゾンの340円のUSBヒーター手袋改造のヒータを2個付けして使用。試写した夜はかなり湿度の高い夜でしたがとりあえず曇りませんでした。
絞り値による星像の違い(1枚画像)
絞りF1.4、2.0、2.8、4.0、5.6の5つの状態での星像を比較してみました。
比較に使用した画像です。元画像を 露出、カラーバランスのみ調整したものです。それ以外の補正は全てなし。
周辺減光はF1.4ではさすがに大きいですが、F2.0なら実用範囲、F2.8ならほとんど問題ないレベルといえるでしょう。実際、今回の作例ではF2.0でもフラットは入れていません。PSの周辺減光調整のみでも十分使えるものでした。
次に、全てのF値の中央・四隅・上下左右端の等倍チャートを見てみましょう。色ずれがわかりやすくなるようにPSで彩度を+40しています。
本来は絞り値ごとにISOを変えるのではなく露出を変えるべきなのですが、時間不足でそこまでやれていないのは許してください^^;;
ではまず、中央だけを比較してみます。
F1.4でわずかに膨らんでいますが、F2.0以降はほとんど差が感じられません。
星像の大きさは面積で最小4ピクセル。センサーが完全にレンズに負けています。2000万画素のEOS6Dではこのレンズの限界性能の評価ははっきりいって無理です。
逆にいえば6Dであれば中心部は開放でも使えるといってよいと思います。
次に中心から18mm、画面の右端。開放はほんの少し流れていますが、F2.0からは点像。APS-Cなら開放も実用域であるといえるかもしれません。
中心から22mm、画面右上隅。F2.8でもやや流れます。F4まで絞ればほぼ完璧な点像。
しかし実際のところはF2.0でも流れが目立つのはほんの最周辺の隅だけです。F2.0で使うのか、F2.8で使うのかは作品のコンセプトと作者の考え一つでしょう。
自分ならF2.0で撮ります。周辺画質の低下には甘んじて、露出時間が1/2で済むメリットを取ります^^
でも、4000万画素クラスのカメラならどうするかはそのとき考えます^^
ご参考までに全部の等倍チャートを載せておきます。
軸上色収差
変態的に強調をかける天体写真では、ほんのわずかの色収差であっても大きな問題になります。特に青や赤に滲む「色ハロ(*)」が残っていると、一般の写真とは比べものにならないほどの悪影響を及ぼしてしまいます。
(*)「色ハロ」という言葉は一般にはあまり聞きません。本稿での造語と思ってください。軸上色収差による色にじみ、色ごとの球面収差による色にじみ、色ごとのコマ収差・非点収差の違いによる周辺部の不規則な色ズレをまとめて「色ハロ」と称しました。余談ですが、これらは本来「倍率の色収差」とは別のものだと理解しているのですが、DPReviewなどでは周辺部の色ハロも「倍率色収差」と呼んでいるように見えます。
上は極端に強調した例ですが、「青ハロ」が強く出ています。また「赤ハロ」も青ハロほどではないものの残っていて、画像全体の印象を大きく損ねてしまっています。
この手のハロは画像処理でかなり軽減することが可能なのですが、画質を損ねずにハロだけ除去するのはかなり高度なテクニックは必要。やはりハロは少ないほどよいのです。
85mmF1.4Artと比較してみました。撮って出しコンポジット後の画像をカラーバランスとレベル補正のみ調整し、まったく同一の強調処理をかけています(*)。
(*)同一対象を同一夜で撮って比較したかったのですが、今回は時間不足でかないませんでした。
この画像を見ると、105mmArtでは青ハロが85mmArtよりもはるかに改善されていることがわかります。FLDガラス2枚の85mmに対して、105mmではFLDガラス32枚に加えてSLDガラスを23枚使っている差が現れているのでしょう(そうでないと困ります^^;)。
2020/2/20修正)FLD,SLDガラスの使用枚数に誤りがありました。訂正しお詫び申し上げます。
「色ハロ」をさらに検証する
しかし、色ハロが皆無なわけではありません。重箱の隅をつついてきましょう^^
冒頭に挙げた作例の等倍チャートを見てみます。
ただし収差の差が明確になるように、明るさの最小値や明瞭度などのダメージ系処理はなしにし、周辺減光補正とレベル調整だけで強調しました。彩度はごらんの通り作例よりも上げています。
一見してわかることをまとめてみました。
- 色ハロは中心部でも存在する。赤ハロが多い(後述しますがこれはピント位置のわずかのズレのせいと推測しています)
- 周辺部では青色の同心円状のコマが目立つ。
- 四隅の収差の出方に差がある。上の画像では左上(*)の流れが最も顕著、右下が少ない。
(*)縦位置画像のため左上ですが、横位置では右上になります。
当方で所有する機材では、85mmArtでは四隅の同心円状(ないしは十字)の流れはほとんど感じませんでしたが、50mmArt、24mmArtでは105mm以上に顕著です。また、四隅の流れ方の違いも同じくらいあり、個体差とはいえ品質の瑕疵とはいえないものではないでしょうか(これは推測にしかすぎませんが)。
ここまで隅をつついてこの程度ですから、コンポジットして強調したレベルで評価しても収差補正は大変優秀である、と言えるのではないでしょうか。
ピント合わせは極めてシビア
ここまで見てきた結果、シグマ105mmF1.4 DG HSM | Artは期待通りの大変優秀なレンズであることがわかりました。しかし、その性能を発揮するために避けては通れない大きな課題があります。ピント合わせです。
上の画像は、キヤノンのスマホ用アプリ「Camera Connect」を使用して、ピント位置をマイクロステップ1段毎に変えて連続撮影したもの。
この画像を見ると、中央部では合焦位置を境に左側では緑ハロが、右側では赤ハロが出ていることがわかります。少しでもピントを外すと色ハロが出てしまう。このレンズを使いこなす上での最大の課題になりそうです
これまで筆者は328でも85mmArtでも、ピントリングを手で回す方法でなんとか運用になっていましたが、105mmArtの場合は手でピントリングを回してライブビュー画面を確認する方法ではピントを合わせられる気がしません。
ピントリングの回転角あたりのフォーカス移動量も、アプリのマイクロステップ単位のフォーカス移動量も、85mmArtと比較して大きい気がします(*)。
(*)単なる推測ですが、フォーカス速度を上げるためにAF群を動かすカムの設定に差があるのでしょうか。
上でご紹介した作例では、これで見る限り赤ハロが若干出ていて右側にずれていたものと推測されます。周辺部の流れは緑ハロ側の方が少ないのですが、星が緑に転んでしまうのも困りもの。このレンズの場合はやはりジャスピン位置、ズレたとしても右側でしょうか。
CameraConnectを使用したピント合わせ
ピントをどうやって追い込むのかは、いろいろ工夫が必要でしょう。バーティノフマスクの使用は必須かもしれません。いずれにしても、PCなりアプリなりを使用することを強く推奨します。
ここで、今回筆者が使用したピント合わせの方法を簡単にご紹介しておきます。(Camera Connectを使用しなくても、PCに接続すればEOS Utilityで同じことが可能です)
CameraConnectはスマホ・タブレットで使用できるのでPCいらずで便利なのですが、いろいろ注意点があります。
- WiFiの接続手順が空前絶後にめんどくさい(というかわかりにくい)。毎回くじけていてそれで使わなくなっていました。
- ライブビューの拡大が5倍までなのでピントを追い込みにくい。iPhoneではかなり苦しい。(このため筆者はiPadの「設定・アクセシビリティ」で、三本指ダブルタップで画面を拡大できるように設定しています)
- カメラ側・レンズがオートフォーカスに設定されていないとマイクロステップMFができない(これに気がつかないと現場で大騒ぎになります:経験者語る)。このためAF動作の割当を変更して親指AFにしておくことが推奨になります。
スマホにせよPCにせよ、事前にしっかり操作を確認しておきましょう。ちなみに、ニコンの場合Wireless Mobile UtilityアプリではMF操作はできないようです。詳しい情報をご存じの方はぜひコメントください!
カメラ本体になぜフォーカスのマイクロステップ駆動機能がないのだろうか?
前々から思っていたことですが、今回105mmArtを使って改めて強く思いました。なぜカメラ本体でフォーカスのステップ制御ができないのでしょうか?
EOSの場合なら、十字キーにフォーカスを割り当てることができれば、劇的に天体撮影は楽になるはず。天体撮影だけでなくても、三脚に固定して風景や静物を撮影する用途では大いに役立つと思うのですが。
USBコネクタに接続するフォーカス制御コントローラとかでもいいです。中国製でそういうのはないのでしょうか。情報をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください!
カメラメーカ様には本機能の搭載を切に望むものであります。
参考記事:シグマ85mmF1.4Artについては以下の記事にいろいろまとめています。
まとめ
特定の個体のたった一夜の撮影での比較なので、この記事だけで105mmArt(85mmArtもです)の評価を決めつけてしまわれないことだけは切にお願いします。
その前提で、デジカメInfo風にまとめてみました^^
シグマ「105mmF1.4 DG HSM | Art」は新たな天文用神レンズ
- 天文界隈では85mmF1.4Artでは軸上色収差(赤ハロ、青ハロ)が問題視されていたが、105mmArtでははるかに良好に補正されている。
- 周辺像は開放では非点収差と色コマが目立つが、F2まで絞ると問題ないレベルまで改善され、F2.8ではほぼ目立たなくなる。天体用途でF2が使えるとするとこれは大きなアドバンテージだ。
- F2.0の場合、全体的な星像の安定感は85mmが若干勝るが、星像の小ささでは85mmを凌駕している。
- 最近の他の高性能レンズ同様、2000万画素レベルのセンサーではこのレンズの性能を完全に引き出すことができない。最微光星の面積はわずか4〜5ドット、ローパスレス改造のカメラでは偽色が目立つため多数枚のコンポジットが前提になろう。
- ピント合わせは極めてシビアだ。しかしこれはレンズのせいではなくこのF値の望遠レンズの宿命だ。AF対応のレンズはソフトまたはアプリでマイクロステップの制御が可能であることを忘れないでほしい。
- ほんのわずかでもピントが前後すると星の周辺を緑または赤のハロが取り巻く結果になる。それはごくわずかだが、安定した結果を求めるならF2.8まで絞る方が無難だろう。
- アルカスイス互換となった三脚座は必要十分な強度で、天体撮影においては非常に強力なサポートとなろう。
- 全体としてシグマには賞賛しかない。ほとんど天体撮影のためとしか思えない巨大で高性能なレンズが提供されたことは驚異であり、ひょっとすると歴史上最初で最後になるのかもしれない。
- 良い点:しっかりした三脚座、よく補正された軸上色収差、F2でも十分運用可能なトップクラスの画質と小さな星像、必要十分な周辺光量。
- 悪い点:重い、ピント合わせが極めてシビア、このレンズをF2.8まで絞って使うときに若干感じる後めたさ。
シグマ「105mmF1.4 DG HSM | Art」は期待値が非常に高く発売が待ち望まれていたレンズですが、評判通りの収差補正と天体適性の高さで人気レンズになりそうですね。
先代?神レンズのアポゾナー135mmと比較すると、焦点距離が短く撮影対象が少なくなる?ことは課題かもしれません。撮影者の創造力でこのポテンシャルを活用していきたいものですね。
https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/06/15/5269/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/06/4a332f05ade4ac7bb3c46c472cb5eac8-1024x524.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/06/4a332f05ade4ac7bb3c46c472cb5eac8-150x150.jpgレビューカメラレンズカメラレンズ本日6/14に発売されたシグマのArtライン最新レンズ「105mm F1.4 DG HSM | Art」。編集部では即買いして試写してきました! 編集部には同じくシグマの85mmF1.4Artもあります。 この2本を比較しながら、以下レビューをお届けします。 まずは作例 まずは作例からごらん頂きましょう。クリックで大サイズ表示されます。空の条件が良くなく短時間の露出であること、ピント位置が完全ではなかったことを前提としてごらんください。 画像処理は、明瞭度をかなり上げています。また、元画像に明るさの最小値0.2pxと0.4pxを1:1:1くらいでブレンドして星像を小さくしています。ダメージ系強調なしの等倍画像は後の項を参照ください。 天の川中心部。元々明るい領域なので、微光星の色収差はほとんど問題にはならない領域。若干ピン甘なのですが、一見して星像はシャープ感に満ちています。左上は土星ですが、いわゆる「ウニ(状の光条)」がほとんど出ていないのもプラスポイント。 こちらはたった4.5分の総露出ですが、F2.0でこの星像なら大満足です。ダーク・フラットは未使用。周辺減光は非常に素直で、Camera rawの周辺減光補正でほぼ合わせることができました。(レンズプロファイルは6/14時点で未リリースのようです)105mmと短焦点のせいか、ミラーボックスケラレはまったく感じませんでした。 こちらはF2.8で。かなり彩度を上げていますが、それでも星の周りのイヤな色滲みは目立ちません。2.8まで絞るとほぼ隅での流れが収まり、中心部では星像は2*2の4ピクセル、ないしは十字5ピクセルほどにも小さくなります。正直いって6Dの2000万画素ではセンサーがレンズに完全に負けています。 星が滲んでいるのは薄雲の影響。9分露出でも青い馬が出始めています。ギンギンに彩度を上げているため、等倍で見るとさすがに周辺部の青い色コマが目立ちますが、鑑賞サイズならさほど問題にならないレベル。 赤道儀はSWAT-310を使用しました。純正のシンプルフォークにアルカスイスプレートを足してクリアランスと東西バランスを調整しています。全天ほぼ死角がなく、使い勝手は超良好です。 外観編 量販店で自腹購入です。これを買わねば男がすたる。据レンズ食わぬは男の恥。ってな訳ないんですけど^^ https://youtu.be/c_EKCPF-4dE 星ヲタでなくてもレビューできることはざっと飛ばします。 お時間のある方はこちらのベタ流し開封動画をご覧下さい。 外観はまさに「ミニニーニー(200mmF2)」の趣。フィルター径が105mmもあってレンズキャップが巨大。フードはキヤノンの328シリーズと同様、ネジで横から固定する形になっています。カーボン使用とのことで軽量です。 けっこう存在感のあるケースが付属しますが、通常のカメラバッグには大きすぎて入れにくいこのレンズではとても便利。ストラップが付属しているのもポイント高。 このレンズの天文的売りの一つ、アルカスイス互換の三脚座が付属。回転もスムーズでしっかり固定できます。脱落防止用のネジが着いています。 ボディに6Dを装着し前後のバランスを合わせた状態。悲しいことに若干リアヘビー。ソニーαの場合はちょうどいいのかもしれませんが、三脚座のスライド部分をもう少し長くしてほしかったところ。 SWAT310に載せたところ。純正のシンプルフォークにアルカプレートを追加しバランスとクリアランスを調整しています。構図合わせも楽、焦点距離105mmなので強度の不安もなし。これが一番便利な構成ではないでしょうか。 大口径レンズは露よけ対策がネック。328ほどフードが深くないので心配でしたが、ヒーターのよこたさんの出目金用USBヒーターと、アマゾンの340円のUSBヒーター手袋改造のヒータを2個付けして使用。試写した夜はかなり湿度の高い夜でしたがとりあえず曇りませんでした。 絞り値による星像の違い(1枚画像) 絞りF1.4、2.0、2.8、4.0、5.6の5つの状態での星像を比較してみました。 比較に使用した画像です。元画像を 露出、カラーバランスのみ調整したものです。それ以外の補正は全てなし。 周辺減光はF1.4ではさすがに大きいですが、F2.0なら実用範囲、F2.8ならほとんど問題ないレベルといえるでしょう。実際、今回の作例ではF2.0でもフラットは入れていません。PSの周辺減光調整のみでも十分使えるものでした。 次に、全てのF値の中央・四隅・上下左右端の等倍チャートを見てみましょう。色ずれがわかりやすくなるようにPSで彩度を+40しています。 本来は絞り値ごとにISOを変えるのではなく露出を変えるべきなのですが、時間不足でそこまでやれていないのは許してください^^;; ではまず、中央だけを比較してみます。 F1.4でわずかに膨らんでいますが、F2.0以降はほとんど差が感じられません。 星像の大きさは面積で最小4ピクセル。センサーが完全にレンズに負けています。2000万画素のEOS6Dではこのレンズの限界性能の評価ははっきりいって無理です。 逆にいえば6Dであれば中心部は開放でも使えるといってよいと思います。 次に中心から18mm、画面の右端。開放はほんの少し流れていますが、F2.0からは点像。APS-Cなら開放も実用域であるといえるかもしれません。 中心から22mm、画面右上隅。F2.8でもやや流れます。F4まで絞ればほぼ完璧な点像。 しかし実際のところはF2.0でも流れが目立つのはほんの最周辺の隅だけです。F2.0で使うのか、F2.8で使うのかは作品のコンセプトと作者の考え一つでしょう。 自分ならF2.0で撮ります。周辺画質の低下には甘んじて、露出時間が1/2で済むメリットを取ります^^ でも、4000万画素クラスのカメラならどうするかはそのとき考えます^^ ご参考までに全部の等倍チャートを載せておきます。 軸上色収差 変態的に強調をかける天体写真では、ほんのわずかの色収差であっても大きな問題になります。特に青や赤に滲む「色ハロ(*)」が残っていると、一般の写真とは比べものにならないほどの悪影響を及ぼしてしまいます。 (*)「色ハロ」という言葉は一般にはあまり聞きません。本稿での造語と思ってください。軸上色収差による色にじみ、色ごとの球面収差による色にじみ、色ごとのコマ収差・非点収差の違いによる周辺部の不規則な色ズレをまとめて「色ハロ」と称しました。余談ですが、これらは本来「倍率の色収差」とは別のものだと理解しているのですが、DPReviewなどでは周辺部の色ハロも「倍率色収差」と呼んでいるように見えます。 上は極端に強調した例ですが、「青ハロ」が強く出ています。また「赤ハロ」も青ハロほどではないものの残っていて、画像全体の印象を大きく損ねてしまっています。 この手のハロは画像処理でかなり軽減することが可能なのですが、画質を損ねずにハロだけ除去するのはかなり高度なテクニックは必要。やはりハロは少ないほどよいのです。 85mmF1.4Artと比較してみました。撮って出しコンポジット後の画像をカラーバランスとレベル補正のみ調整し、まったく同一の強調処理をかけています(*)。 (*)同一対象を同一夜で撮って比較したかったのですが、今回は時間不足でかないませんでした。 この画像を見ると、105mmArtでは青ハロが85mmArtよりもはるかに改善されていることがわかります。FLDガラス2枚の85mmに対して、105mmではFLDガラス32枚に加えてSLDガラスを23枚使っている差が現れているのでしょう(そうでないと困ります^^;)。 2020/2/20修正)FLD,SLDガラスの使用枚数に誤りがありました。訂正しお詫び申し上げます。 「色ハロ」をさらに検証する しかし、色ハロが皆無なわけではありません。重箱の隅をつついてきましょう^^ 冒頭に挙げた作例の等倍チャートを見てみます。 ただし収差の差が明確になるように、明るさの最小値や明瞭度などのダメージ系処理はなしにし、周辺減光補正とレベル調整だけで強調しました。彩度はごらんの通り作例よりも上げています。 一見してわかることをまとめてみました。 色ハロは中心部でも存在する。赤ハロが多い(後述しますがこれはピント位置のわずかのズレのせいと推測しています) 周辺部では青色の同心円状のコマが目立つ。 四隅の収差の出方に差がある。上の画像では左上(*)の流れが最も顕著、右下が少ない。 (*)縦位置画像のため左上ですが、横位置では右上になります。 当方で所有する機材では、85mmArtでは四隅の同心円状(ないしは十字)の流れはほとんど感じませんでしたが、50mmArt、24mmArtでは105mm以上に顕著です。また、四隅の流れ方の違いも同じくらいあり、個体差とはいえ品質の瑕疵とはいえないものではないでしょうか(これは推測にしかすぎませんが)。 ここまで隅をつついてこの程度ですから、コンポジットして強調したレベルで評価しても収差補正は大変優秀である、と言えるのではないでしょうか。 ピント合わせは極めてシビア ここまで見てきた結果、シグマ105mmF1.4 DG HSM | Artは期待通りの大変優秀なレンズであることがわかりました。しかし、その性能を発揮するために避けては通れない大きな課題があります。ピント合わせです。 上の画像は、キヤノンのスマホ用アプリ「Camera Connect」を使用して、ピント位置をマイクロステップ1段毎に変えて連続撮影したもの。 この画像を見ると、中央部では合焦位置を境に左側では緑ハロが、右側では赤ハロが出ていることがわかります。少しでもピントを外すと色ハロが出てしまう。このレンズを使いこなす上での最大の課題になりそうです これまで筆者は328でも85mmArtでも、ピントリングを手で回す方法でなんとか運用になっていましたが、105mmArtの場合は手でピントリングを回してライブビュー画面を確認する方法ではピントを合わせられる気がしません。 ピントリングの回転角あたりのフォーカス移動量も、アプリのマイクロステップ単位のフォーカス移動量も、85mmArtと比較して大きい気がします(*)。 (*)単なる推測ですが、フォーカス速度を上げるためにAF群を動かすカムの設定に差があるのでしょうか。 上でご紹介した作例では、これで見る限り赤ハロが若干出ていて右側にずれていたものと推測されます。周辺部の流れは緑ハロ側の方が少ないのですが、星が緑に転んでしまうのも困りもの。このレンズの場合はやはりジャスピン位置、ズレたとしても右側でしょうか。 CameraConnectを使用したピント合わせ ピントをどうやって追い込むのかは、いろいろ工夫が必要でしょう。バーティノフマスクの使用は必須かもしれません。いずれにしても、PCなりアプリなりを使用することを強く推奨します。 ここで、今回筆者が使用したピント合わせの方法を簡単にご紹介しておきます。(Camera Connectを使用しなくても、PCに接続すればEOS Utilityで同じことが可能です) CameraConnectはスマホ・タブレットで使用できるのでPCいらずで便利なのですが、いろいろ注意点があります。 WiFiの接続手順が空前絶後にめんどくさい(というかわかりにくい)。毎回くじけていてそれで使わなくなっていました。 ライブビューの拡大が5倍までなのでピントを追い込みにくい。iPhoneではかなり苦しい。(このため筆者はiPadの「設定・アクセシビリティ」で、三本指ダブルタップで画面を拡大できるように設定しています) カメラ側・レンズがオートフォーカスに設定されていないとマイクロステップMFができない(これに気がつかないと現場で大騒ぎになります:経験者語る)。このためAF動作の割当を変更して親指AFにしておくことが推奨になります。 スマホにせよPCにせよ、事前にしっかり操作を確認しておきましょう。ちなみに、ニコンの場合Wireless Mobile UtilityアプリではMF操作はできないようです。詳しい情報をご存じの方はぜひコメントください! カメラ本体になぜフォーカスのマイクロステップ駆動機能がないのだろうか? 前々から思っていたことですが、今回105mmArtを使って改めて強く思いました。なぜカメラ本体でフォーカスのステップ制御ができないのでしょうか? EOSの場合なら、十字キーにフォーカスを割り当てることができれば、劇的に天体撮影は楽になるはず。天体撮影だけでなくても、三脚に固定して風景や静物を撮影する用途では大いに役立つと思うのですが。 USBコネクタに接続するフォーカス制御コントローラとかでもいいです。中国製でそういうのはないのでしょうか。情報をお持ちの方がいらっしゃれば、ぜひ教えてください! カメラメーカ様には本機能の搭載を切に望むものであります。 参考記事:シグマ85mmF1.4Artについては以下の記事にいろいろまとめています。 http://reflexions.jp/blog/star/archives/905 まとめ 特定の個体のたった一夜の撮影での比較なので、この記事だけで105mmArt(85mmArtもです)の評価を決めつけてしまわれないことだけは切にお願いします。 その前提で、デジカメInfo風にまとめてみました^^ シグマ「105mmF1.4 DG HSM | Art」は新たな天文用神レンズ 天文界隈では85mmF1.4Artでは軸上色収差(赤ハロ、青ハロ)が問題視されていたが、105mmArtでははるかに良好に補正されている。 周辺像は開放では非点収差と色コマが目立つが、F2まで絞ると問題ないレベルまで改善され、F2.8ではほぼ目立たなくなる。天体用途でF2が使えるとするとこれは大きなアドバンテージだ。 F2.0の場合、全体的な星像の安定感は85mmが若干勝るが、星像の小ささでは85mmを凌駕している。 最近の他の高性能レンズ同様、2000万画素レベルのセンサーではこのレンズの性能を完全に引き出すことができない。最微光星の面積はわずか4〜5ドット、ローパスレス改造のカメラでは偽色が目立つため多数枚のコンポジットが前提になろう。 ピント合わせは極めてシビアだ。しかしこれはレンズのせいではなくこのF値の望遠レンズの宿命だ。AF対応のレンズはソフトまたはアプリでマイクロステップの制御が可能であることを忘れないでほしい。 ほんのわずかでもピントが前後すると星の周辺を緑または赤のハロが取り巻く結果になる。それはごくわずかだが、安定した結果を求めるならF2.8まで絞る方が無難だろう。 アルカスイス互換となった三脚座は必要十分な強度で、天体撮影においては非常に強力なサポートとなろう。 全体としてシグマには賞賛しかない。ほとんど天体撮影のためとしか思えない巨大で高性能なレンズが提供されたことは驚異であり、ひょっとすると歴史上最初で最後になるのかもしれない。 良い点:しっかりした三脚座、よく補正された軸上色収差、F2でも十分運用可能なトップクラスの画質と小さな星像、必要十分な周辺光量。 悪い点:重い、ピント合わせが極めてシビア、このレンズをF2.8まで絞って使うときに若干感じる後めたさ。 シグマ「105mmF1.4 DG HSM | Art」は期待値が非常に高く発売が待ち望まれていたレンズですが、評判通りの収差補正と天体適性の高さで人気レンズになりそうですね。 先代?神レンズのアポゾナー135mmと比較すると、焦点距離が短く撮影対象が少なくなる?ことは課題かもしれません。撮影者の創造力でこのポテンシャルを活用していきたいものですね。 編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
絞り込んでISOを動かせば画質比較にならない。同日、同時間でないとレンズ描写比較にならない。単焦点レンズである。
FLDレンズは3枚搭載です。
ご指摘ありがとうございます。記事訂正しています。