本稿をお読みの方には、子供の頃「天文少年」だった、という方が多いのではないでしょうか。

そんな方々がたぶん少年だった35年前の1982年。当時の天文界の様子がうかがえる記事をご紹介します。

ほしぞLoveログ
80年台天文ガイド一気読み(その3)
オークションで手に入れた1980年台の天文ガイド60冊を一気に読み続けているのですが (その1) (その2)、一番面白いのは「どくしゃサロン」というお便りコーナーです。今見るととても興味深いので紹介します。1982年5月号の投稿で、ほぼ原文そのままです。

以前もご紹介している「ほしぞLoveログ」より。

オクで入手された天文ガイドを一気読みされたそうで、その中で「読者サロン」に投稿された19歳の少年の未来予測がほとんど全て当たっていて、当時夢だと思われていたことのほぼ全てが今実現されているという内容です。



編集子も実は元天文少年で、社会人になってからの長いブランクの後この世界に舞い戻ってきて、はっきりいって浦島太郎よりもびっくりしました。

オートガイドや自動導入は当たり前、機材は当時の貨幣価値からすれば飛躍的に高性能で安くなっていて、写真のレベルは当時の天文台以上、眼視マニアは40cmクラスがスタンダード。

天文界35年のびっくりポンなイノベーションの数々は、いずれ「元天文少年だった浦島太郎が感動したことで打線組んでみた」みたいな記事でまとめてみたいと思っているのですが、

今回はさらに先を行って?35年先のアマチュア天文界を大胆に予想してみたいと思います。


その0:現在の主力の多くの方はお星様になっている

これは予測ではなくたぶん厳然たる事実です^^;;
この世界の主力の方々はおそらく現在55歳くらい。35年後には90歳です。編集子を含め多くの方は一線を引退されていることでしょう。
つまり、35年後の天文界は、すっかり人が入れ替わっているということです。

でも、「遠隔自動制御」の技術は今よりはるかに発達しているでしょうから、「所有者はもうお星様になっているのに自動で観測を続けている望遠鏡」が各所で稼働していることでしょう。板垣さん発見の1000個目、2000個目の超新星が生まれているかもしれません。

その1:天文愛好家の公用語は英語になる

日本の多くのアマチュア天文家がどんどん引退していくとどうなるか。若い世代は取り残され、仲間を日本で見つけることは難しくなってきます。若い世代は積極的に海外の仲間とコミュニケーションするようになるでしょう。ビジネスで英語が必須になりつつあるのと同様、天文趣味も英語が必須になることでしょう。

実は編集子、最近北イタリア在住の方からSNSで友だち申請をいただきました。なんでも、自分の住む場所は治安も悪く難民も多く押し寄せていて、周りは天文どころでなくて仲間がいない、だからこうして海外にネットワークを広げたいと思っている、とのこと。日本もそうなる日が近いのかもしれません- -;;

 

その2:星図同定技術とセンサー駆動型オートガイド

のろまな赤道儀をもたもた制御するのではなく、イメージセンサーを細かく迅速に制御するオートガイド技術が実現し、機材のぶれによる問題が完全に解決します。

また、星図同定技術が普及し、自動導入がはるかに便利になり、どんな焦点距離・撮影対象の画像であっても一発でコンポジットできるようになります。

これらの要素技術はすでに実現しているので、たぶん時間の問題で、最も早く実現するでしょう。

その3:「撮影の共同化」が進む



「自分が撮った画像だけでコンポジットする」ことは過去のものになります。「一人で総露出10時間」ではなく、「みんなで総露出時間1000時間」となるのです。

アマチュア・プロを問わず、撮影された画像は全てネットワーク上で共有されリアルタイムでコンポジットされ、あらゆる領域のあらゆる焦点距離による画像が、全てひとつのビューアで閲覧できるようになります。

高精細の全天球画像から切り出された映像によって、従来のプラネタリウムは「天体鑑賞シアター」となるでしょう。

その4:大気圏外への進出

さらに、宇宙ビジネスの発展により「超ド変態」アマチュアは「自動星野撮影衛星」を打ち上げるようになり、従来のような地上からの星野撮影を過去のものとしてしまうでしょう。

でもこの分野が終わりになる訳ではなく、より長焦点・大口径に、可視光だけでなくγ線からミリ波まで、宇宙のより詳細な姿が明らかになるでしょう。

その5:それでも地球でがんばるド変態

光害地で悪条件の中星を撮るド変態がいるように、大気圏外での撮影が一般化しても、そういう人達は「地上からでもここまで撮れる」ことを喜びに、あの手この手に邁進することでしょう。

AO(波面補償光学系)・高フレームレートの動画・多地点同時撮像・ディープラーンニングによる画像処理の4点セットにより、惑星などの高輝度の天体は単一鏡の限界を超えた超高解像度で得られるようになるでしょう。

もしかしたら、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の優劣の最終決着は、35年後にはまだついていないのかもしれません。

その6:日本にほしぞらが還ってくる

35年後は日本の人口は1億人を割込み、さらに大きく減少していくことでしょう。特に地方都市は極端な人口減に見舞われます。

その反面、美しい星空が各地に戻ってくるようになります。四季あふれる日本の風景、日本の星空を求めて、世界中の観光客が「星を見るために日本にやってくる」ようになるでしょう。

その7:眼視への回帰

あらゆる星空の対象が超高精細にあらゆる波長域で撮り尽くされてくると、「これまで自分は何をやっていたのか」と虚脱状態に陥る人達が増えることが予想されます。
その一部は、「やっぱり宇宙は自分の目で見るのが一番」であることに気づき、大気圏外からの究極の眼視体験または身近にある美しい星空を楽しむ暮らしを目指すようになるでしょう。日本各地に美しいほしぞらが戻ってくることがこれを後押しします。

その8:天文愛好家は相変わらず幸福である

35年後の日本と世界がどうなっているかは全くわかりません。もしかしたら、「星」どころでなくなっているのかもしれません。

でも、もし35年後も今のように平和な世の中であれば、天文愛好家は年齢に関係なくピュアであり、いい意味の「変態」であり、金にならない無駄な時間つぶしだと自嘲しながらも、それをたっぷり楽しんでいる幸福な人達のままであろうということは間違いありません。


いかがでしたか?
編集子もあと35年長生きして、是非とも本当の35年後の姿をこの目で確かめてみたいものです。 編集部天文マニア本稿をお読みの方には、子供の頃「天文少年」だった、という方が多いのではないでしょうか。 そんな方々がたぶん少年だった35年前の1982年。当時の天文界の様子がうかがえる記事をご紹介します。 ほしぞLoveログ 80年台天文ガイド一気読み(その3) オークションで手に入れた1980年台の天文ガイド60冊を一気に読み続けているのですが (その1) (その2)、一番面白いのは「どくしゃサロン」というお便りコーナーです。今見るととても興味深いので紹介します。1982年5月号の投稿で、ほぼ原文そのままです。 以前もご紹介している「ほしぞLoveログ」より。 オクで入手された天文ガイドを一気読みされたそうで、その中で「読者サロン」に投稿された19歳の少年の未来予測がほとんど全て当たっていて、当時夢だと思われていたことのほぼ全てが今実現されているという内容です。 編集子も実は元天文少年で、社会人になってからの長いブランクの後この世界に舞い戻ってきて、はっきりいって浦島太郎よりもびっくりしました。 オートガイドや自動導入は当たり前、機材は当時の貨幣価値からすれば飛躍的に高性能で安くなっていて、写真のレベルは当時の天文台以上、眼視マニアは40cmクラスがスタンダード。 天文界35年のびっくりポンなイノベーションの数々は、いずれ「元天文少年だった浦島太郎が感動したことで打線組んでみた」みたいな記事でまとめてみたいと思っているのですが、 今回はさらに先を行って?35年先のアマチュア天文界を大胆に予想してみたいと思います。 その0:現在の主力の多くの方はお星様になっている これは予測ではなくたぶん厳然たる事実です^^;; この世界の主力の方々はおそらく現在55歳くらい。35年後には90歳です。編集子を含め多くの方は一線を引退されていることでしょう。 つまり、35年後の天文界は、すっかり人が入れ替わっているということです。 でも、「遠隔自動制御」の技術は今よりはるかに発達しているでしょうから、「所有者はもうお星様になっているのに自動で観測を続けている望遠鏡」が各所で稼働していることでしょう。板垣さん発見の1000個目、2000個目の超新星が生まれているかもしれません。 その1:天文愛好家の公用語は英語になる 日本の多くのアマチュア天文家がどんどん引退していくとどうなるか。若い世代は取り残され、仲間を日本で見つけることは難しくなってきます。若い世代は積極的に海外の仲間とコミュニケーションするようになるでしょう。ビジネスで英語が必須になりつつあるのと同様、天文趣味も英語が必須になることでしょう。 実は編集子、最近北イタリア在住の方からSNSで友だち申請をいただきました。なんでも、自分の住む場所は治安も悪く難民も多く押し寄せていて、周りは天文どころでなくて仲間がいない、だからこうして海外にネットワークを広げたいと思っている、とのこと。日本もそうなる日が近いのかもしれません- -;;   その2:星図同定技術とセンサー駆動型オートガイド のろまな赤道儀をもたもた制御するのではなく、イメージセンサーを細かく迅速に制御するオートガイド技術が実現し、機材のぶれによる問題が完全に解決します。 また、星図同定技術が普及し、自動導入がはるかに便利になり、どんな焦点距離・撮影対象の画像であっても一発でコンポジットできるようになります。 これらの要素技術はすでに実現しているので、たぶん時間の問題で、最も早く実現するでしょう。 その3:「撮影の共同化」が進む 「自分が撮った画像だけでコンポジットする」ことは過去のものになります。「一人で総露出10時間」ではなく、「みんなで総露出時間1000時間」となるのです。 アマチュア・プロを問わず、撮影された画像は全てネットワーク上で共有されリアルタイムでコンポジットされ、あらゆる領域のあらゆる焦点距離による画像が、全てひとつのビューアで閲覧できるようになります。 高精細の全天球画像から切り出された映像によって、従来のプラネタリウムは「天体鑑賞シアター」となるでしょう。 その4:大気圏外への進出 さらに、宇宙ビジネスの発展により「超ド変態」アマチュアは「自動星野撮影衛星」を打ち上げるようになり、従来のような地上からの星野撮影を過去のものとしてしまうでしょう。 でもこの分野が終わりになる訳ではなく、より長焦点・大口径に、可視光だけでなくγ線からミリ波まで、宇宙のより詳細な姿が明らかになるでしょう。 その5:それでも地球でがんばるド変態 光害地で悪条件の中星を撮るド変態がいるように、大気圏外での撮影が一般化しても、そういう人達は「地上からでもここまで撮れる」ことを喜びに、あの手この手に邁進することでしょう。 AO(波面補償光学系)・高フレームレートの動画・多地点同時撮像・ディープラーンニングによる画像処理の4点セットにより、惑星などの高輝度の天体は単一鏡の限界を超えた超高解像度で得られるようになるでしょう。 もしかしたら、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の優劣の最終決着は、35年後にはまだついていないのかもしれません。 その6:日本にほしぞらが還ってくる 35年後は日本の人口は1億人を割込み、さらに大きく減少していくことでしょう。特に地方都市は極端な人口減に見舞われます。 その反面、美しい星空が各地に戻ってくるようになります。四季あふれる日本の風景、日本の星空を求めて、世界中の観光客が「星を見るために日本にやってくる」ようになるでしょう。 その7:眼視への回帰 あらゆる星空の対象が超高精細にあらゆる波長域で撮り尽くされてくると、「これまで自分は何をやっていたのか」と虚脱状態に陥る人達が増えることが予想されます。 その一部は、「やっぱり宇宙は自分の目で見るのが一番」であることに気づき、大気圏外からの究極の眼視体験または身近にある美しい星空を楽しむ暮らしを目指すようになるでしょう。日本各地に美しいほしぞらが戻ってくることがこれを後押しします。 その8:天文愛好家は相変わらず幸福である 35年後の日本と世界がどうなっているかは全くわかりません。もしかしたら、「星」どころでなくなっているのかもしれません。 でも、もし35年後も今のように平和な世の中であれば、天文愛好家は年齢に関係なくピュアであり、いい意味の「変態」であり、金にならない無駄な時間つぶしだと自嘲しながらも、それをたっぷり楽しんでいる幸福な人達のままであろうということは間違いありません。 いかがでしたか? 編集子もあと35年長生きして、是非とも本当の35年後の姿をこの目で確かめてみたいものです。編集部発信のオリジナルコンテンツ