追記)ステラナビゲータでシミュレーションした画像を元に、続編記事を書いています。こちらもぜひご参照ください。

【続報】スペースXの「Starlink」打ち上げ・星空への影響は?

追記終わり)

昨夜、日本各地で「謎の?数珠つなぎの飛行物体」が目撃されています。

上のツイートはデジタルカメラに中望遠レンズを使用して撮影されたものです。他にも、各種SNSに多数の目撃情報が寄せられています。

スペースX社のスターリンク通信衛星

Yahoo!ニュース・打ち上げ成功:スペースX、スターリンク通信衛星60機を軌道投入
https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20190524-00127177/
出典:SpaceX Starlink Mission webcastより
「光ファイバー網より速い」スターリンク衛星網の実力を英専門家が分析
https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20190524-00127192/

この現象はもう「謎」ではなく、米「スペースX」社が打ち上げた通信衛星「スターリンク」であることがわかっています。上記記事にあるように、日本時間2019年5月24日11:30にファルコン9ロケットで打ち上げられた同衛星が60機、軌道上に放出されました。この衛星は軌道の高度550kmとISSなみに低く、ISS同様かなり明るく見える(肉眼で容易に確認できるくらい)見えるようです。

この衛星の目的は「宇宙インターネット接続網」の実現。最終的には1万2千機の衛星を打ち上げて地球を広く覆って高速・低遅延のインターネット通信網を全世界に実現する計画だそうです。

このような構想は、先のリンク先の記事によるとスペースX社意外にも、アマゾンやOneWebなど複数あるようです。ビジネスとしても、高速インターネット通信網としての技術的観点からも、非常に興味深いチャレンジだと感じますが、本記事では通信衛星スターリンクが「星空」にどのような影響を与えるのかについて考察したいと思います。

「低い・多い」スターリンクの特徴

https://ja.wikipedia.org/wiki/人工衛星#高度による分類

スターリンクは「高度550km」というかなりの「低軌道(*)」の人工衛星に分類されます(上図の水色のエリア)。

(*)ネットの遅延は「光の速度が有限である」というレベルでの問題なので、通信の遅延を小さくするためには、地表に近い方が有利です。

例えば、天体写真でファンを悩ませる(*)「静止衛星」の高度は約3.6万kmですが、これよりも60倍以上も地表に近いことになります。「近い」ということは「地表からより明るく見える」ことを意味します。

(*)静止衛星が多く見られる「天の赤道」付近を撮影すると、必ず衛星の光跡が写り込んでしまうくらいです。

また、地球を周回する人工衛星は8000個以上ともいわれていますが、今回打ち上げられた衛星は60個、今後「年間1000〜2000機のペース」で打ち上げていくそうです。最終的にはなんと1万2千機(*)。人口衛星の過半数以上が「スターリンク」になることになります。

(*)打ち上げにも運用にも膨大なコストがかかることが予想されるため、ビジネスとして軌道に乗れば、という前提です。逆に計画以上に順調なら、これ以上に増える可能性もあると考えるのが自然でしょう。

スターリンクの星空への影響

ここまでの話で、恐らく天文ファンは第一感「えー、、、肉眼で見えるくらいの衛星が、1万個も空に埋めつくされるの??」と感じるかもしれません。筆者の推定ですが、そこまでひどいことにはならないでしょう。でも、星空の様相は「スターリンク以前」と比較して、誰の眼から見ても明らかにこれまでとは異なるようになると予測します。

人工衛星の密度

まず、衛星がどのくらいの密度で地球を覆うかを概算します。地球の表面積は約5.1億平方キロ。1.2万個の衛星が均等に地球を覆うとすると、地表面席4.3万平方キロあたりに人工衛星一個の勘定になります。これは約210km角。

日本地図に約210km角のメッシュを描いてみました。この1メッシュに一個の人工衛星が存在することになります。

スターリンク衛星による太陽電池パドルの展開イメージ 出典:SpaceX Starlink Mission webcastより

スターリンク衛星は、太陽電池を広げたこんな形状をしているそうです。

うーん、うーん。かなり多いですね・・・・

追記)人工衛星の大きさ・明るさは極端にデフォルメしています。実際には、肉眼では点としか見えません。望遠鏡で拡大してやっと形がわかるかどうか程度の大きさと推定されます。

地上から見上げた雰囲気を、イメージ図にしてみました。密度も数もかなりいい加減ですが、空を見上げたときに常時このくらいの数の人工衛星が存在することになります。正確に計算すれば、もうすこしまともな図になるでしょう。(どなたか計算してください・・・お願いします・・・)

うーん。うーん。これはかなり・・・・

最終的に星空はどうなるか

常時このくらいの数の人工衛星が、肉眼ではっきり見える明るさで光られるとなかなか大変なことですが、実際にはそうではありません。人工衛星が地上から見られるのは太陽の光を反射しているからですが、人工衛星から太陽が見えないとき(「地球の影」に入っているとき)には見えないはずです。

太陽が深く沈んでしまった深夜は、上の画像のように衛星は全く見えなくなるはずです。おめでとう、これがこれまでの星空ですね!

しかし、太陽が「深く沈んでいない」状態では、一部の人工衛星にはまだ太陽の光が当たることになり、光り続けることになります。いってみれば人工衛星薄明。「太陽が沈んで、空が真っ暗になったが、人工衛星には光が射して光っている状態」です。

スターリンクが無事1万2千個の衛星の打ち上げを終えた頃には、日没後と夜明け前の空には、賑やかに空一面に飛び交う人工衛星が見られる光景が当たり前のこととなるでしょう。そして人工衛星が見えない「地球の影」の存在が、一般の人も含めて強く意識されるようになるはずです。これまで月食の時にしか意識できなかった「地球の影」が、一晩星空を眺めるだけで実感できるようになるのです。

そして天文ファン、特に天体写真マニアにとっては、月明かりのない時期を求めるのと同様に「地球の影」がいつどこにあるかを常に意識せざるを得なくなります。ひょっとしたら、太陽が深く沈まない夏至の前後は、ほとんど影響のない場所がなくなってしまうかもしれません。

ただし、長焦点の撮影の場合は、画像処理で人工衛星を消すことは今でもあたりまえの技術なので、さほど実害はないと思います。星景写真の場合も、今でも飛行機が空を飛び交っているので、根本的に何かが変わることはないでしょう。「空を飛び交う人工物体」の数が、今よりも(ひょっとしたらかなり)増えるだけです。

ここしばらくの状況

現時点で打ち上げられた衛星はまだ60個。少なくともここ数日は「まるで銀河鉄道」のような光景が夕空に見られるはずです。

スターリンクがどのようにみえるのかの予報も発表されているようです。

ただし、今後人工衛星は、地上からの指令でガスを噴射して、本来あるべき計画上の軌道に配置されていきます。このため「列をなして動いていく」という状況ではなくなってくるものと思われます。また「人工衛星の明るさ」が、今後・最終的に・どうなるかの詳細も不明です。「双眼鏡で見た方がよい」という情報もあり、常に肉眼ではっきり見えるわけでもないのかもしれません。

また、「今後1年で1000個打ち上げる」というペースだとすると、60機の打ち上げが1年で100回以上16回ほどあることになります。ここ数年は、打ち上げのたびに「人工衛星による銀河鉄道」の光景が見られることになるでしょう。これはかなりのエンターテイメントです。次回の打ち上げはこれまでよりもはるかに注目を集めることでしょう。

まとめ・星空に来襲した「黒船」ないしは「銀河鉄道」

正確なシミュレーションを待たないと断言できませんが、「スターリンク」は、人工流星や宇宙広告衛星どころではないインパクトで、星空の世界を一変させてしまうかもしれません。

それに対する善悪については、本記事では極力触れないようにしました。1企業が誰のものでもない宇宙空間に一気に1万個もの衛星を打ち上げるということは、現在の宇宙ビジネスが「やったもの勝ち」という状況であるとも、「多くの人に開かれたフロンティア」であるともいえます。筆者にはそれの善悪を合理的に判断する能力はありませんし、ある部分は誰にも判断できない領域かもしれません。ただ、事実としてそれはすでに始まったことだ、ということはお伝えしたいと思います。

中長期的には、この計画がほんとうにどこまで進捗できるかという課題もあります。1兆円以上ともいわれる打ち上げ費用だけでなく、低高度の人工衛星はいずれ大気の摩擦で減速し地上に落下していく運命にあり、定常的に1.2万個の人工衛星を維持するだけの収益を上げ続けなくてはなりません。

ちょっと熱めの温度で見守りたいと思います。

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/05/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/05/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg編集部新着宇宙開発特選ピックアップ追記)ステラナビゲータでシミュレーションした画像を元に、続編記事を書いています。こちらもぜひご参照ください。 http://reflexions.jp/tenref/orig/2019/05/28/8816/ 追記終わり) 昨夜、日本各地で「謎の?数珠つなぎの飛行物体」が目撃されています。 https://twitter.com/dfuji1/status/1132325417816285184 https://twitter.com/w_coast/status/1132278775813509120 上のツイートはデジタルカメラに中望遠レンズを使用して撮影されたものです。他にも、各種SNSに多数の目撃情報が寄せられています。 スペースX社のスターリンク通信衛星 Yahoo!ニュース・打ち上げ成功:スペースX、スターリンク通信衛星60機を軌道投入 https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20190524-00127177/ 「光ファイバー網より速い」スターリンク衛星網の実力を英専門家が分析 https://news.yahoo.co.jp/byline/akiyamaayano/20190524-00127192/ この現象はもう「謎」ではなく、米「スペースX」社が打ち上げた通信衛星「スターリンク」であることがわかっています。上記記事にあるように、日本時間2019年5月24日11:30にファルコン9ロケットで打ち上げられた同衛星が60機、軌道上に放出されました。この衛星は軌道の高度550kmとISSなみに低く、ISS同様かなり明るく見える(肉眼で容易に確認できるくらい)見えるようです。 この衛星の目的は「宇宙インターネット接続網」の実現。最終的には1万2千機の衛星を打ち上げて地球を広く覆って高速・低遅延のインターネット通信網を全世界に実現する計画だそうです。 このような構想は、先のリンク先の記事によるとスペースX社意外にも、アマゾンやOneWebなど複数あるようです。ビジネスとしても、高速インターネット通信網としての技術的観点からも、非常に興味深いチャレンジだと感じますが、本記事では通信衛星スターリンクが「星空」にどのような影響を与えるのかについて考察したいと思います。 「低い・多い」スターリンクの特徴 スターリンクは「高度550km」というかなりの「低軌道(*)」の人工衛星に分類されます(上図の水色のエリア)。 (*)ネットの遅延は「光の速度が有限である」というレベルでの問題なので、通信の遅延を小さくするためには、地表に近い方が有利です。 例えば、天体写真でファンを悩ませる(*)「静止衛星」の高度は約3.6万kmですが、これよりも60倍以上も地表に近いことになります。「近い」ということは「地表からより明るく見える」ことを意味します。 (*)静止衛星が多く見られる「天の赤道」付近を撮影すると、必ず衛星の光跡が写り込んでしまうくらいです。 また、地球を周回する人工衛星は8000個以上ともいわれていますが、今回打ち上げられた衛星は60個、今後「年間1000〜2000機のペース」で打ち上げていくそうです。最終的にはなんと1万2千機(*)。人口衛星の過半数以上が「スターリンク」になることになります。 (*)打ち上げにも運用にも膨大なコストがかかることが予想されるため、ビジネスとして軌道に乗れば、という前提です。逆に計画以上に順調なら、これ以上に増える可能性もあると考えるのが自然でしょう。 スターリンクの星空への影響 ここまでの話で、恐らく天文ファンは第一感「えー、、、肉眼で見えるくらいの衛星が、1万個も空に埋めつくされるの??」と感じるかもしれません。筆者の推定ですが、そこまでひどいことにはならないでしょう。でも、星空の様相は「スターリンク以前」と比較して、誰の眼から見ても明らかにこれまでとは異なるようになると予測します。 人工衛星の密度 まず、衛星がどのくらいの密度で地球を覆うかを概算します。地球の表面積は約5.1億平方キロ。1.2万個の衛星が均等に地球を覆うとすると、地表面席4.3万平方キロあたりに人工衛星一個の勘定になります。これは約210km角。 日本地図に約210km角のメッシュを描いてみました。この1メッシュに一個の人工衛星が存在することになります。 スターリンク衛星は、太陽電池を広げたこんな形状をしているそうです。 うーん、うーん。かなり多いですね・・・・ 追記)人工衛星の大きさ・明るさは極端にデフォルメしています。実際には、肉眼では点としか見えません。望遠鏡で拡大してやっと形がわかるかどうか程度の大きさと推定されます。 地上から見上げた雰囲気を、イメージ図にしてみました。密度も数もかなりいい加減ですが、空を見上げたときに常時このくらいの数の人工衛星が存在することになります。正確に計算すれば、もうすこしまともな図になるでしょう。(どなたか計算してください・・・お願いします・・・) うーん。うーん。これはかなり・・・・ 最終的に星空はどうなるか 常時このくらいの数の人工衛星が、肉眼ではっきり見える明るさで光られるとなかなか大変なことですが、実際にはそうではありません。人工衛星が地上から見られるのは太陽の光を反射しているからですが、人工衛星から太陽が見えないとき(「地球の影」に入っているとき)には見えないはずです。 太陽が深く沈んでしまった深夜は、上の画像のように衛星は全く見えなくなるはずです。おめでとう、これがこれまでの星空ですね! しかし、太陽が「深く沈んでいない」状態では、一部の人工衛星にはまだ太陽の光が当たることになり、光り続けることになります。いってみれば人工衛星薄明。「太陽が沈んで、空が真っ暗になったが、人工衛星には光が射して光っている状態」です。 スターリンクが無事1万2千個の衛星の打ち上げを終えた頃には、日没後と夜明け前の空には、賑やかに空一面に飛び交う人工衛星が見られる光景が当たり前のこととなるでしょう。そして人工衛星が見えない「地球の影」の存在が、一般の人も含めて強く意識されるようになるはずです。これまで月食の時にしか意識できなかった「地球の影」が、一晩星空を眺めるだけで実感できるようになるのです。 そして天文ファン、特に天体写真マニアにとっては、月明かりのない時期を求めるのと同様に「地球の影」がいつどこにあるかを常に意識せざるを得なくなります。ひょっとしたら、太陽が深く沈まない夏至の前後は、ほとんど影響のない場所がなくなってしまうかもしれません。 ただし、長焦点の撮影の場合は、画像処理で人工衛星を消すことは今でもあたりまえの技術なので、さほど実害はないと思います。星景写真の場合も、今でも飛行機が空を飛び交っているので、根本的に何かが変わることはないでしょう。「空を飛び交う人工物体」の数が、今よりも(ひょっとしたらかなり)増えるだけです。 https://youtu.be/QEIUdMiColU ここしばらくの状況 https://twitter.com/C6H5NH2/status/1132273614336606208 現時点で打ち上げられた衛星はまだ60個。少なくともここ数日は「まるで銀河鉄道」のような光景が夕空に見られるはずです。 https://twitter.com/lizard_isana/status/1132284721830875136 スターリンクがどのようにみえるのかの予報も発表されているようです。 ただし、今後人工衛星は、地上からの指令でガスを噴射して、本来あるべき計画上の軌道に配置されていきます。このため「列をなして動いていく」という状況ではなくなってくるものと思われます。また「人工衛星の明るさ」が、今後・最終的に・どうなるかの詳細も不明です。「双眼鏡で見た方がよい」という情報もあり、常に肉眼ではっきり見えるわけでもないのかもしれません。 また、「今後1年で1000個打ち上げる」というペースだとすると、60機の打ち上げが1年で100回以上16回ほどあることになります。ここ数年は、打ち上げのたびに「人工衛星による銀河鉄道」の光景が見られることになるでしょう。これはかなりのエンターテイメントです。次回の打ち上げはこれまでよりもはるかに注目を集めることでしょう。 まとめ・星空に来襲した「黒船」ないしは「銀河鉄道」 正確なシミュレーションを待たないと断言できませんが、「スターリンク」は、人工流星や宇宙広告衛星どころではないインパクトで、星空の世界を一変させてしまうかもしれません。 それに対する善悪については、本記事では極力触れないようにしました。1企業が誰のものでもない宇宙空間に一気に1万個もの衛星を打ち上げるということは、現在の宇宙ビジネスが「やったもの勝ち」という状況であるとも、「多くの人に開かれたフロンティア」であるともいえます。筆者にはそれの善悪を合理的に判断する能力はありませんし、ある部分は誰にも判断できない領域かもしれません。ただ、事実としてそれはすでに始まったことだ、ということはお伝えしたいと思います。 中長期的には、この計画がほんとうにどこまで進捗できるかという課題もあります。1兆円以上ともいわれる打ち上げ費用だけでなく、低高度の人工衛星はいずれ大気の摩擦で減速し地上に落下していく運命にあり、定常的に1.2万個の人工衛星を維持するだけの収益を上げ続けなくてはなりません。 ちょっと熱めの温度で見守りたいと思います。編集部発信のオリジナルコンテンツ