みなさんこんにちは!

「ナイトビジョン」はご存じですか?古くからの天文ファンなら「アイアイ(I.I. Image Intensifier)」と言った方が通じるかもしれませんね。デジタルカメラが一般化するはるか前から存在する、光をアナログ的に増幅する「光電子増倍管」などのデバイスを使用した「暗視装置」です。

今回、アマチュア天文家のNick様より、天体用途専用に改造された「ナイトビジョン」をお借りし試用することができました。結論からいってこれはスゴイ!「何これ、こんなに見えちゃっていいの?」級の「驚愕の体験」を堪能することができました。では早速そのレポートをお届けしましょう!



まずは動画を!

まずは、こちらの動画をごらんください。ナイトビジョンでどんな体験が可能なのかをまとめた動画です。

今回使用した製品

使用したナイトビジョンはヨーロッパのACTinBlack社の「PVS-14」です。暗視スコープは軍事用途に使用できる技術であり、米国製の場合は厳しい輸出規制があり入手が難しくなります。一方で欧州製は一般ユーザーでも普通に購入でき、日本ではNV-Walker社が代理店となっています。最も低価格のゲインコントロール(*1)を搭載しないモデルで税送込みで44万円から。今回使用した製品は「ACT PVS-14(*2) Photonis 4G オートゲート P45 WP(白色蛍光)」という製品で約80万円。

(*1)明るさを調節する機能。ある方が便利ですが、なくても十分楽しめると感じました。

(*2)PVS-14は、そのままでは望遠鏡やカメラレンズを装着することができません。このためインディゴ工房で大幅な改造が施されています。このほかにもさまざまなナイトビジョンが入手可能です。詳細は後節の「ナイトビジョン購入ガイド」を参照ください。

見かけ視野40度・1倍で見る星空

中心に見えるのがはくちょう座の北十字。冬の大三角も視野にすっぽり入るくらいの広さです。

「PVS-14」は標準で焦点距離26mmF1.2の明るいレンズが搭載され、倍率1倍・見かけ視野は40度もあります。肉眼で見るよりも2等級ほど暗い星まで見える感じでしょうか。びっくりするほどたくさんの星が見えます。この感覚は他のどんな機材でも得られない、ナイトビジョンだけの体験といえるでしょう。

ちなみに、デジカメのセンサーに相当するイメージインテンシファイア本体の感光部の大きさは18mm径。デジカメの1インチセンサーにほぼ相当するといえるでしょう。カメラの焦点距離に換算するとフルサイズの場合の2倍くらいになります。

等倍観察でのナイトビジョンは、まさに暗視スコープ。肉眼では真っ暗にしか見えない環境でも、はっきりと見ることができます。「星明かりしかないような暗い場所でも月明かりに照らされたくらいに見える」といえば近い感覚でしょうか。

フィルターワーク

適切なフィルターを使用することで、ナイトビジョンの用途は何倍にも広がります。特に面白いのはHαナローバンドフィルターを使用した赤い星雲の観察。ごらんのように北アメリカ星雲が、大げさではなく「手に取るように」極めて明瞭に見えます。

光害に強いナローバンドですから、この方法なら市街地でも赤い星雲を普通に見ることが可能。ベランダからバーナードループを簡単に見ることができるのです(*)。

(*)自宅の前の道路から電柱の上に浮かぶ北アメリカ青雲を見ましたが「宇宙が街の上に降りてきた」かのような感動を覚えました。

ナイトビジョンはモノクロ、でも眼視感覚に近い

ただし、ナイトビジョンは「モノクロ(*)」です。赤い星雲が赤く見えないのは残念ですが、暗所では人間の眼は色に鈍感なので、むしろ肉眼の感覚により近いといえるでしょう。星空を見る上では全く違和感は感じません。

(*)今回使用したのは「白色蛍光タイプ」ですが、写真で見ると画像のような少し青緑がかった色になります。緑色蛍光のモデルは視感度は高いものの緑の着色が強く、より自然な感覚で楽しむには白色蛍光モデルがオススメです。

ナイトビジョンはその特性上、明るい対象がほんの少し滲む(*)のですが、上の画像を見てもわかるように、むしろ輝星を強調する効果があり、その意味でも肉眼での観望に近い感覚だといえるでしょう。

(*)Photonis製のナイトビジョンは、比較的滲み(ハロー)の小さい製品だそうです。

今回使用したナイトビジョン(改造品)

今回使用した「PVS-14」の「改造品」の詳細を見ていきましょう。販売されている製品に対して大きく手が入っていることをご承知置きください(*)。

(*)改造の詳細はインディゴ工房までお問い合わせをお願いします。

シンプルな「アナログ製品」

電源は単三乾電池1本だけ。

「イメージインテンシファイア(I.I.)」はアナログ技術。このため「PVS-14」はとてもシンプルな製品です。電池を入れて、スイッチオン。あとは通常の光学単眼鏡と同じように対象に向けて接眼レンズを覗くだけ。

ただし、注意点としては昼間の野外のような明るい場所では使用しないこと。撮像素子を傷めてしまう可能性があります。特に直射日光は厳禁(*)。まるでドラキュラのようなシステムですね^^

(*)電源OFFの状態であっても直射日光が厳禁です。

見やすい接眼光学系

右下の丸いダイヤルが電源スイッチです。白いテープは蓄光塗料。使いやすくカスタマイズされています。

接眼レンズ。この部分は元の製品ママです。ハイアイで眼位置に寛容で、一般的な接眼レンズや双眼鏡と比較しても非常に覗きやすくなっています。コリメート撮影の場合でも、スマホのカメラの位置はかなりアバウトでも大丈夫でした。

明るい対物レンズ

左の丸い穴は、ゲインコントロール用。マイナスドライバで調整することができます。

対物側。スリーブの奥に見えるのが標準装備の26mmF1.2レンズ。近赤外を含む長波長側の感度が高いナイトビジョンに最適化するためでしょうか、青いコーティングが採用されています。そのせいか、赤外フィルターを使用した場合でもフレア・ゴーストはあまり気になりませんでした(*)。

(*)可視光域を前提としているカメラレンズの場合は、赤外域ではコーティングの反射特性が大幅に変化(悪化)することがあります。

EFマウント対応

対物側はEFマウント対応に加工されています。上の画像は対物側のパーツを全て外したところ。筐体の奥に見える丸い部分がイメージインテンシファイアの素子です。それをとりかこんでいるのがキヤノンのEFマウント。ここにカメラレンズなどのEFマウント対応の製品が装着できます。

右上はEFマウント対応に加工された2インチスリーブのアダプタ。こちらを装着すれば天体望遠鏡に装着ができます。右下が26mmF1.2の対物レンズ。

フィルターをフロントに装着する場合

2インチスリーブの先端の48mmネジ部にはフィルターを装着することができます。上の画像で装着しているのはHαの半値幅12nmのフィルター。フロント装着なので、半値幅の狭い干渉フィルターを広角レンズで使用する場合、視野周辺でフィルター特性が変化してしまいますが(*)、焦点距離100mm程度ならほぼ気にならないレベルです。

(*)逆に「視野周辺部に対象をもっていくと北アメリカ星雲などのHαの輝線星雲が見えなくなる」という現象を、リアルに体験することができます。

フィルターをリアに装着する場合

①専用治具にフィルターをはめ込む ②治具を感光素子の前のスリーブに挿入し、中央の突起を押してフィルターを落とし込む ③左のリングが専用のフィルター押さえ ④フィルター抑えを装着したところ

カメラレンズや天体望遠鏡で使用する場合は、1.25インチ相当(*)のフィルターを感光素子の直前に装着します。上の画像が装着の手順。専用の治具で挿入し、専用のフィルター押さえ金具で固定します。

今回お借りしたフィルター一式。Hαナローバンド(7nm、12nm)、赤外用シャープカットフィルター各種。48mm径のフィルターは特に制限なく装着できますが、1.25インチのフィルターはフィルター枠のサイズに制限があります。筆者の所有する1.25インチフィルターは枠が大きすぎて挿入できませんでした。

カメラレンズを装着

シグマの50mmF1.4Artを装着。100mm相当の中望遠となり、広がった散光星雲を観察するのにちょうどいい焦点距離でした。

カメラレンズを装着したところ。ナイトビジョン本体には三脚用のネジ穴がないため、三脚座のないカメラレンズの場合は手持ちで使用するか、何らかの固定方法を工夫する必要があります。

天体望遠鏡に装着

天体望遠鏡には2インチスリーブで装着する方法と、EFマウントで装着する方法があります。上の画像はセレストロンC8シュミカセに2インチスリーブ経由で装着したところ。コマコレやレデューサは使用せず、素のままで使用しています(*)。鏡筒の筒外焦点位置によっては合焦しない場合もあるので注意が必要です。

(*)センサーサイズが小さいこともあり、対物側の周辺像悪化の影響はそれほどでもありませんが、このあたりは使う側での様々な工夫の余地があるところです。

一方でEFマウント経由で使用する場合は、当たり前ですがEFマウントのカメラでピントが合う状態であれば大丈夫なはずです。

ナイトビジョンを使用した撮影

ナイトビジョンには、デジタル・アナログともに映像信号を取り出す機能はありません。このため画像を撮影したい場合は、コリメート法で行うことになります。

上の画像は、手持ちの汎用のスマホアダプタをナイトビジョンの接眼部に装着し、iPhone11で撮影しているところ。ナイトビジョンの蛍光面の輝度はそこそこ高いのですが(26mmF1.2でフィルターなしの場合は少し眩しいほどです)、ナローバンドフィルターを使用する場合や暗い光学系を使用する場合は、スマホで撮るには少し暗いかもしれません。

具体的にはiPhone11の場合、F5の光学系(スカイウォッチャーのBKP130)では、フィルターなしなら動画撮影も可能でしたが、ナローバンドの場合はスチルでもナイトモードの5秒露出が必要でした。より古く高感度特性に劣るiPhone7では、暗すぎて撮影できませんでした。ナイトビジョンで撮影をする場合は、低照度に強いスマホが推奨です。

ナイトビジョン実視(実写)ギャラリー

星空と流星を見る

昨年12月のふたご座流星群の際の動画です。SQM値=21.5の好条件の空もあって、非常に多くの星が見えています。ナイトビジョンのスムーズな動画をご覧ください。

ナイトビジョンで流星を見ると、肉眼ではよくわからなかった流星の頭部のディテールを明瞭に見ることができます。短痕を引きながら流れる姿は彗星のようでもあります。標準の26mmF1.2レンズでは8等級程度の星まで見えていました。6等級の流星までほぼ確実に捉えられるため、短時間でも数多くの流星を見ることができました。

面白いのが木々の葉が白っぽく見えていること。肉眼では真っ暗で、木はシルエットにしか見えていませんでした。フィルターは使用していないのですが、近赤外に感度の高いナイトビジョンならではの見え方でしょう。

HII領域を見る

EF300mmF2.8L IS iPhone11コリメート撮影 Hα7nmフィルター

ナイトビジョンとHαナローバンドフィルターを組み合わせると、輝線星雲をまさに「手に取るように」見ることができます。上の画像は300mm望遠レンズの例。肉眼ではこの画像よりは少し暗いですが、それでもほぼ同じように見ることができます。

Sky-Watcher BKP130(F5)   iPhone11コリメート撮影 Hα7nmフィルター

口径130mmF5のニュートン反射で。「F5」は決して明るい光学系ではありませんが、それでも網状星雲がはっきりと。イメージサークル18mmのナイトビジョンでは、F5のニュートン反射であればコマコレクタなしでも周辺のコマ収差はあまり気にならないようです。



シグマ105mmF1.4Art   iPhone11コリメート撮影 Hα7nmフィルター

昇るIC2177と沈む北アメリカ星雲。地上風景と輝線星雲を同一視野で見るのも、なかなかに味わい深い。ガチで南中前後を狙うだけでなく、季節感の中で星雲の姿が楽しめるのもナイトビジョンならでは。

シグマ105mmF1.4Art   iPhone11コリメート撮影 Hα7nmフィルター

左が馬頭星雲とバーナードループ。眼視で見るにはかなりの難物ですが、ナイトビジョンなら楽勝。天文ファンなら思わず声を上げてしまう(*)見え方。

(*)星まつりの会場ではナイトビジョンの前に行列ができ、歓声の連続でした。

バラ星雲は肉眼でも空が良ければ普通に視認できますが「バラっぽい形状」まではなかなか確認できません。ナイトビジョンなら写真でお馴染みの姿に見えます。

セレストロンC8   iPhone11コリメート撮影 Hα7nmフィルター

輝度の高い惑星状星雲であれば、F値の暗さは問題になりません。焦点距離2000mmF10のシュミカセで。亜鈴状星雲の構造が眼視でここまで見えたのは初めての経験。小さなM57リング星雲も、こんなに大きく見えます。

銀河を見る

Sky-Watcher BKP130(F5)   iPhone11コリメート撮影

淡い銀河もナイトビジョンなら鮮明に見えますが、長時間露出のスチル写真と比較すると若干迫力不足は否めません。しかし、この姿が瞬く星々の中にぽっかりと浮かんでいる姿は「眼視」ならではの臨場感と感動を呼びます。

一方、M51子持ち星雲やM64黒目銀河・M104ソンブレロ星雲など、小さくても輝度が高い銀河なら、惑星状星雲同様に長焦点のよい対象となることでしょう。

ナイトビジョンと高感度デジタルカメラの比較

上の動画でも触れていますが、α7Sシリーズのような高感度のデジタルカメラとの比較するとナイトビジョンはどう位置づけられるのでしょうか。

高フレームレートでの画質はナイトビジョンが圧倒

ナイトビジョンには「フレームレート」という概念は存在しません。原理的には飛来した光子をリアルタイムで増幅し蛍光管を光らせているため、「光を蓄積する」という動作ではないからです。

光学系をパンしたときの星像の動きから見ると、ナイトビジョンの「滑らかさ」は、デジタルカメラの30p(枚秒30フレーム)の動画よりもさらに滑らかで、基本的に「カクつく」ことはありません。さらに、デジタルカメラの1/30秒露出での動画と比較すると、「感度(暗い星や星雲の見え方)」においてもナイトビジョンが勝ると感じました。特に、流星を観察するような場合はナイトビジョンの臨場感は圧倒的です。

デジカメでは低フレームレートほど画質が向上

一方で、デジタルカメラで「1/4秒」などのスローシャッター速度に設定すると、星や星雲の見え方はナイトビジョンと同じくらいになります。CMOSセンサーは光子を蓄積できるのです。カメラをしっかり固定した状態では解像感はデジタルカメラの方が上です。さらにデジカメは「カラー」なので、「静止画的な暗視能力」は逆転しているとみてよいでしょう。

しかし「動画的な臨場感」は前述の通りナイトビジョンが上です。デジタルカメラの4p(毎秒4フレーム)の赤い北アメリカ星雲と、色なしのナイトビジョンの北アメリカ星雲を比較すると、どちらがより「感動」するかというと、筆者はナイトビジョンに軍配を上げます。

天体用CMOSカメラの「ライブスタック」のような手法では、総露出時間をさらに延ばして画像のクオリティをどんどん上げることができ、画質の点ではナイトビジョンを圧倒しますが(*)、これは「ライブ映像」というよりもむしろ「静止画」に近いといえます。

(*)ナイトビジョンでもスマートフォンの「ナイトモード」で映像をコンポジットすることは可能ですが、5秒程度の露出時間ではスマートフォンの感度不足を補える程度で、実視と比較して天体の姿をより精細に捉えられるという感じではありませんでした。

それぞれに良さがある

ナイトビジョンによる映像の最大の特徴はライブ感と高感度を高いレベルで両立しているところにあります。一方で、赤い星雲などの色を楽しめるデジタルカメラによるライブ動画、より精細で淡い対象まで描出できるCMOSカメラによるライブスタックは、それぞれ違った別の良さを持っているといえるでしょう。これに眼視と長時間露出の静止画を加えると、一つの天体をなんと5通りの方法で楽しめることになります。

アマチュアの個人の楽しみとしての天体観望はもとより、公共天文台や観望会などでこれらの手法の良さをうまく組み合わせれば(*)、これまでにない幅広い星空体験を実現できることでしょう。

(*)個人的にはより大型の望遠鏡を導入するよりも、小回りの効く中型望遠鏡にさまざまな「電視」手段を組み合わせた方が、より一般の人でも楽しめる面白い演出が可能ではないかと感じています。

CMOSカメラの可能性

半分妄想ですが、ベイヤー配列のカラーCMOSセンサーはRGBのフィルターの存在によってざっくり光量を1/3損していることになります。モノクロセンサーを使用すれば低照度性能は3倍向上するはず。例えばソニーのα7Sシリーズのセンサーの「モノクロ版」が登場すれば、ナイトビジョンの強力なライバルになる可能性があります。

上の動画はα7S(初代)のUV/IRカットフィルター除去改造モデルで、モノクロモードで動画撮影したものですが、これだけでもそこそこの高感度が得られました。ナイトビジョンの高感度にはまだまだ負けていますが、モノクロセンサーならもう少し勝負になるかもしれません。ASI2600MMのような「フルサイズ・モノクロ・低画素」の天体用CMOSカメラでの動画撮影を一度評価してみたいものです。

ナイトビジョン購入ガイド

https://www.nv-walker.com

現在日本で入手可能なナイトビジョンは、米国の輸出制限の関係で欧州製の製品に限られますが、NV-Walker.comなどから入手できます。

購入にあたっては、価格・高感度特性・天体望遠鏡やカメラレンズとの接続などの拡張性・波長特性などのさまざまな検討要素があります。非常に高価な商品でもあり、しっかりと特性を理解して判断する必要があります。

どんな用途で使いたいかも重要です。天体の場合ナイトビジョンの使い方には、①製品標準付属対物レンズによる等倍視、②対物レンズをカメラレンズに換装、③ナイトビジョンを天体望遠鏡にコリメート接続、④天体望遠鏡に直焦点接続の4つのパターンがあります。①だけでも十二分に楽しめますが、やはりせっかくのナイトビジョンの能力をさまざまな光学系で使いたくなってくることでしょう。②③④それぞれ長所短所があります。使用するナイトビジョンによっては今回のような本体の改造が必要になりますが、双眼タイプの「PSV-7」シリーズはCマウント対応のため、カメラレンズ・望遠鏡への接続がより容易に可能なようです。

天体観望用Night Visonを購入検討の方に(PDF)

これらの事情を含めて、自分もぜひナイトビジョンの世界を経験してみたい、という方のために、Nickさんが詳細な購入ガイドを作成されています。ご厚意によりその全文を公開させていただくことができました。ご興味のある方はぜひご参照ください。

ナイトビジョン活用のヒント

一部上記のNickさんの資料と重複しますが、ナイトビジョンを活用する上でのヒントを3点まとめておきます。

光学系

2019年10月小海星フェス会場にて。ナイトビジョンで観望中。

光学系を選ぶのにあたっては、焦点距離と明るさ(F値)が重要になってくることは、通常の天体観察や電視・写真撮影と全く同じです。「極限まで淡い天体を見たい」という方向ならば「より大口径でより明るく」となります。星祭りでNickさんに見せていただいた大口径ドブによる馬頭星雲はまさに圧巻でした。

しかし、筆者の数少ない使用経験ですが「どんな光学系であってもそれぞれの面白さがある」と感じました。もちろん光学系は明るいに越したことはありませんが、どんな光学系で観望しても肉眼視を圧倒する体験となります。

F10の長焦点シュミカセでは、銀河を見ても面白いし惑星状星雲も「肉眼を超越した」ものがあります。「これまでにない面白さ」という点では、より単焦点(広角)による観望も新鮮な体験です。

1台で全ての用途をカバーできる究極の望遠鏡が存在しないのと同様、ナイトビジョンに適した究極の望遠鏡もまた存在しません。色々な機材との組み合わせを試して楽しむことも、ナイトビジョンの醍醐味かもしれません。

フィルター

夜明け前のさそり座。福岡市内自宅ベランダにて。26mmF1.2対物レンズ マルミR2フィルター使用。

フィルターの活用もナイトビジョンの大きなポイントです。ナイトビジョンは天体用CMOSカメラ以上に赤〜近赤外域の感度が高く、Hαナローバンドや赤フィルターを使用すれば、光害の影響を大幅にカットすることができます。

上の画像は筆者の自宅ベランダから見た東天のさそり座ですが、光害まみれの市街地でも、こんなに低いさそり座の姿をはっきりと見ることができました。ナイトビジョンはスイッチオンだけで使用でき、パソコンも、スマホさえも不要です。自宅からの「星空チョイ見」にこれほど簡便で面白い機材はありません。夜中にふと目が覚めたときに、さっと庭に出て天の川と散光星雲を眺めてみる。そんな、なんとも贅沢な楽しみがあります。

対象選び

どんな光学系でも、どんな場所からでも、星空を手軽に楽しめるナイトビジョンですが、そのためには光学系や場所に合った対象選び・フィルター選びもです。散開星団なら焦点距離が長すぎず短すぎない機材を。光害地なら赤フィルターが効果的です。球状星団ならF値が暗くても大口径で。惑星状星雲も場所を選ばず楽しめます。

北アメリカ星雲のような明るい輝線星雲なら、市街地でもナローバンドフィルターを使えばOK。淡い星雲は明るい光学系が有利ですが、網状星雲のような微細構造をもった星雲は、F値が暗くても長焦点が面白かったりします。

今後ナイトビジョンが普及すれば、そんな対象別の楽しみ方のノウハウも広く普及してくるでしょう。逆に、今ならアイデア一つでこれまでなかった楽しみ方が開拓できるかもしれません。

どんな人に向いているか

天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

究極の眼視体験

ナイトビジョンは最安モデルでも50万円。非常に高価です。しかし、この記事をごらんになっているような「ガチマニア」の方々の「生涯投資額」と冷静に比較してみると、全く手の届かない価格ではありません^^;; 13cmの3枚玉アポや50cm級のドブソニアン、究極の5cm双眼鏡と同じくらいです。

これまでになかった新しい扉を開くナイトビジョン。1本いかがでしょうか?

新しい星空体験がもたらす可能性

ナイトビジョンは広い意味では「電視」の最終兵器といえます。控えめにいって、一度体験すると「ナイトビジョンを見ずして死ぬことがなくて良かった」級のインパクトがあります。この体験を自分だけのものにしておくのはもったいない。観望会で、星祭りなどのイベントで、ナイトビジョンを多くの人に体験してもらうことは大いに意味のあることではないでしょうか。公共天文台や星空ツアーなどにおける顧客満足度を上げるツールとしても(*)、大いに活用できるはずです。

(*)天体CMOSカメラによる電視と比較して、操作が簡便であることも大きなメリットでしょう。

まとめ

「すーげー!」「あれ、見えるよ!」ナイトビジョンが手元にあると、つい人に見てもらいたくなります。遠征地のお隣さんにも見てもらいました。

いかがでしたか?

アナログ技術の完成形、ナイトビジョン。躍進中の「CMOS」センサーですら圧倒する高感度性能。スイッチオンで使える簡便さ、単三乾電池1本で動作する省電力。天文マニアにとって垂涎物の「最終兵器」だといえるでしょう。

ネックになるのは最安でも約50万円という価格。しかし「究極の眼視体験」を求めるなら、ナイトビジョンにはプライスレスな価値があると感じました。お金に余裕があれば、これは断然「買い」です。

さらに、最近流行のCMOSセンサーカメラによる「電視」とナイトビジョンの組み合わせることで、従来マニアのものだった「天体観望」の面白さを、広く一般の人に対しても訴求できる可能性があります。今後、公共天文台やアマチュアによる観望会においても、導入が広がる可能性があるのではないでしょうか。

天体観察の新しいフロンティアを拓く「ナイトビジョン」。より多くの方のチャレンジが待たれる分野といえるでしょう!

 

最後になりましたが、機材を貸与いただきましたNick様に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました!

補足)ナイトビジョンとは

Wikipedia 光電子増倍管
Wikipedia 暗視装置

ナイトビジョンの技術的な詳細は上のリンク先を参照ください。ナイトビジョン(暗視装置)は第二次世界大戦のころに実用化され、何世代かの進化とともに、現在では「ヒ化ガリウム(GaAs)素子」を使用した「第3世代」まで進化しています。

しかし、今回使用したPhotonis社のナイトビジョンは、上記に照らせば第2世代の技術であるにもかかわらず、暗視能力は第3世代の製品とほとんど遜色はないようです。第3世代と最新の第2世代では、それぞれに特徴があると考えてよいでしょう。

上の動画は第3世代の製品(左)と第2世代の製品「Photonis 4G INTENS(右)」の比較動画ですが、シャドウの描出は第3世代が勝るものの、ハローやハイライトを含めた階調ではPhotonisが勝っているように見えます。

NV-Waker ナイトビジョン用語説明
https://www.nv-walker.com/glossary

ナイトビジョンの細かなスペックを示す要素には、「EBM(背景の暗さ)」「ハロー(高輝度部の滲み)」「FOM(解像度とS/N比の積、総合的な画像品質)」などがあります。詳細は上のリンク先をご参照ください。


  • 本記事は 「Nick」様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 製品の購入およびお問い合わせは製品を取り扱う販売店様にお願いします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2021年2月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2021/02/0321fbab19ba6521faef45f278e4a24c-1024x576.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2021/02/0321fbab19ba6521faef45f278e4a24c-150x150.jpg編集部天体用カメラ天体用カメラみなさんこんにちは! 「ナイトビジョン」はご存じですか?古くからの天文ファンなら「アイアイ(I.I. Image Intensifier)」と言った方が通じるかもしれませんね。デジタルカメラが一般化するはるか前から存在する、光をアナログ的に増幅する「光電子増倍管」などのデバイスを使用した「暗視装置」です。 今回、アマチュア天文家のNick様より、天体用途専用に改造された「ナイトビジョン」をお借りし試用することができました。結論からいってこれはスゴイ!「何これ、こんなに見えちゃっていいの?」級の「驚愕の体験」を堪能することができました。では早速そのレポートをお届けしましょう! まずは動画を! まずは、こちらの動画をごらんください。ナイトビジョンでどんな体験が可能なのかをまとめた動画です。 今回使用した製品 使用したナイトビジョンはヨーロッパのACTinBlack社の「PVS-14」です。暗視スコープは軍事用途に使用できる技術であり、米国製の場合は厳しい輸出規制があり入手が難しくなります。一方で欧州製は一般ユーザーでも普通に購入でき、日本ではNV-Walker社が代理店となっています。最も低価格のゲインコントロール(*1)を搭載しないモデルで税送込みで44万円から。今回使用した製品は「ACT PVS-14(*2) Photonis 4G オートゲート P45 WP(白色蛍光)」という製品で約80万円。 (*1)明るさを調節する機能。ある方が便利ですが、なくても十分楽しめると感じました。 (*2)PVS-14は、そのままでは望遠鏡やカメラレンズを装着することができません。このためインディゴ工房で大幅な改造が施されています。このほかにもさまざまなナイトビジョンが入手可能です。詳細は後節の「ナイトビジョン購入ガイド」を参照ください。 見かけ視野40度・1倍で見る星空 「PVS-14」は標準で焦点距離26mmF1.2の明るいレンズが搭載され、倍率1倍・見かけ視野は40度もあります。肉眼で見るよりも2等級ほど暗い星まで見える感じでしょうか。びっくりするほどたくさんの星が見えます。この感覚は他のどんな機材でも得られない、ナイトビジョンだけの体験といえるでしょう。 ちなみに、デジカメのセンサーに相当するイメージインテンシファイア本体の感光部の大きさは18mm径。デジカメの1インチセンサーにほぼ相当するといえるでしょう。カメラの焦点距離に換算するとフルサイズの場合の2倍くらいになります。 等倍観察でのナイトビジョンは、まさに暗視スコープ。肉眼では真っ暗にしか見えない環境でも、はっきりと見ることができます。「星明かりしかないような暗い場所でも月明かりに照らされたくらいに見える」といえば近い感覚でしょうか。 フィルターワーク 適切なフィルターを使用することで、ナイトビジョンの用途は何倍にも広がります。特に面白いのはHαナローバンドフィルターを使用した赤い星雲の観察。ごらんのように北アメリカ星雲が、大げさではなく「手に取るように」極めて明瞭に見えます。 光害に強いナローバンドですから、この方法なら市街地でも赤い星雲を普通に見ることが可能。ベランダからバーナードループを簡単に見ることができるのです(*)。 (*)自宅の前の道路から電柱の上に浮かぶ北アメリカ青雲を見ましたが「宇宙が街の上に降りてきた」かのような感動を覚えました。 ナイトビジョンはモノクロ、でも眼視感覚に近い ただし、ナイトビジョンは「モノクロ(*)」です。赤い星雲が赤く見えないのは残念ですが、暗所では人間の眼は色に鈍感なので、むしろ肉眼の感覚により近いといえるでしょう。星空を見る上では全く違和感は感じません。 (*)今回使用したのは「白色蛍光タイプ」ですが、写真で見ると画像のような少し青緑がかった色になります。緑色蛍光のモデルは視感度は高いものの緑の着色が強く、より自然な感覚で楽しむには白色蛍光モデルがオススメです。 ナイトビジョンはその特性上、明るい対象がほんの少し滲む(*)のですが、上の画像を見てもわかるように、むしろ輝星を強調する効果があり、その意味でも肉眼での観望に近い感覚だといえるでしょう。 (*)Photonis製のナイトビジョンは、比較的滲み(ハロー)の小さい製品だそうです。 今回使用したナイトビジョン(改造品) 今回使用した「PVS-14」の「改造品」の詳細を見ていきましょう。販売されている製品に対して大きく手が入っていることをご承知置きください(*)。 (*)改造の詳細はインディゴ工房までお問い合わせをお願いします。 シンプルな「アナログ製品」 「イメージインテンシファイア(I.I.)」はアナログ技術。このため「PVS-14」はとてもシンプルな製品です。電池を入れて、スイッチオン。あとは通常の光学単眼鏡と同じように対象に向けて接眼レンズを覗くだけ。 ただし、注意点としては昼間の野外のような明るい場所では使用しないこと。撮像素子を傷めてしまう可能性があります。特に直射日光は厳禁(*)。まるでドラキュラのようなシステムですね^^ (*)電源OFFの状態であっても直射日光が厳禁です。 見やすい接眼光学系 接眼レンズ。この部分は元の製品ママです。ハイアイで眼位置に寛容で、一般的な接眼レンズや双眼鏡と比較しても非常に覗きやすくなっています。コリメート撮影の場合でも、スマホのカメラの位置はかなりアバウトでも大丈夫でした。 明るい対物レンズ 対物側。スリーブの奥に見えるのが標準装備の26mmF1.2レンズ。近赤外を含む長波長側の感度が高いナイトビジョンに最適化するためでしょうか、青いコーティングが採用されています。そのせいか、赤外フィルターを使用した場合でもフレア・ゴーストはあまり気になりませんでした(*)。 (*)可視光域を前提としているカメラレンズの場合は、赤外域ではコーティングの反射特性が大幅に変化(悪化)することがあります。 EFマウント対応 対物側はEFマウント対応に加工されています。上の画像は対物側のパーツを全て外したところ。筐体の奥に見える丸い部分がイメージインテンシファイアの素子です。それをとりかこんでいるのがキヤノンのEFマウント。ここにカメラレンズなどのEFマウント対応の製品が装着できます。 右上はEFマウント対応に加工された2インチスリーブのアダプタ。こちらを装着すれば天体望遠鏡に装着ができます。右下が26mmF1.2の対物レンズ。 フィルターをフロントに装着する場合 2インチスリーブの先端の48mmネジ部にはフィルターを装着することができます。上の画像で装着しているのはHαの半値幅12nmのフィルター。フロント装着なので、半値幅の狭い干渉フィルターを広角レンズで使用する場合、視野周辺でフィルター特性が変化してしまいますが(*)、焦点距離100mm程度ならほぼ気にならないレベルです。 (*)逆に「視野周辺部に対象をもっていくと北アメリカ星雲などのHαの輝線星雲が見えなくなる」という現象を、リアルに体験することができます。 フィルターをリアに装着する場合 カメラレンズや天体望遠鏡で使用する場合は、1.25インチ相当(*)のフィルターを感光素子の直前に装着します。上の画像が装着の手順。専用の治具で挿入し、専用のフィルター押さえ金具で固定します。 今回お借りしたフィルター一式。Hαナローバンド(7nm、12nm)、赤外用シャープカットフィルター各種。48mm径のフィルターは特に制限なく装着できますが、1.25インチのフィルターはフィルター枠のサイズに制限があります。筆者の所有する1.25インチフィルターは枠が大きすぎて挿入できませんでした。 カメラレンズを装着 カメラレンズを装着したところ。ナイトビジョン本体には三脚用のネジ穴がないため、三脚座のないカメラレンズの場合は手持ちで使用するか、何らかの固定方法を工夫する必要があります。 天体望遠鏡に装着 天体望遠鏡には2インチスリーブで装着する方法と、EFマウントで装着する方法があります。上の画像はセレストロンC8シュミカセに2インチスリーブ経由で装着したところ。コマコレやレデューサは使用せず、素のままで使用しています(*)。鏡筒の筒外焦点位置によっては合焦しない場合もあるので注意が必要です。 (*)センサーサイズが小さいこともあり、対物側の周辺像悪化の影響はそれほどでもありませんが、このあたりは使う側での様々な工夫の余地があるところです。 一方でEFマウント経由で使用する場合は、当たり前ですがEFマウントのカメラでピントが合う状態であれば大丈夫なはずです。 ナイトビジョンを使用した撮影 ナイトビジョンには、デジタル・アナログともに映像信号を取り出す機能はありません。このため画像を撮影したい場合は、コリメート法で行うことになります。 上の画像は、手持ちの汎用のスマホアダプタをナイトビジョンの接眼部に装着し、iPhone11で撮影しているところ。ナイトビジョンの蛍光面の輝度はそこそこ高いのですが(26mmF1.2でフィルターなしの場合は少し眩しいほどです)、ナローバンドフィルターを使用する場合や暗い光学系を使用する場合は、スマホで撮るには少し暗いかもしれません。 具体的にはiPhone11の場合、F5の光学系(スカイウォッチャーのBKP130)では、フィルターなしなら動画撮影も可能でしたが、ナローバンドの場合はスチルでもナイトモードの5秒露出が必要でした。より古く高感度特性に劣るiPhone7では、暗すぎて撮影できませんでした。ナイトビジョンで撮影をする場合は、低照度に強いスマホが推奨です。 ナイトビジョン実視(実写)ギャラリー 星空と流星を見る 昨年12月のふたご座流星群の際の動画です。SQM値=21.5の好条件の空もあって、非常に多くの星が見えています。ナイトビジョンのスムーズな動画をご覧ください。 ナイトビジョンで流星を見ると、肉眼ではよくわからなかった流星の頭部のディテールを明瞭に見ることができます。短痕を引きながら流れる姿は彗星のようでもあります。標準の26mmF1.2レンズでは8等級程度の星まで見えていました。6等級の流星までほぼ確実に捉えられるため、短時間でも数多くの流星を見ることができました。 面白いのが木々の葉が白っぽく見えていること。肉眼では真っ暗で、木はシルエットにしか見えていませんでした。フィルターは使用していないのですが、近赤外に感度の高いナイトビジョンならではの見え方でしょう。 HII領域を見る ナイトビジョンとHαナローバンドフィルターを組み合わせると、輝線星雲をまさに「手に取るように」見ることができます。上の画像は300mm望遠レンズの例。肉眼ではこの画像よりは少し暗いですが、それでもほぼ同じように見ることができます。 口径130mmF5のニュートン反射で。「F5」は決して明るい光学系ではありませんが、それでも網状星雲がはっきりと。イメージサークル18mmのナイトビジョンでは、F5のニュートン反射であればコマコレクタなしでも周辺のコマ収差はあまり気にならないようです。 昇るIC2177と沈む北アメリカ星雲。地上風景と輝線星雲を同一視野で見るのも、なかなかに味わい深い。ガチで南中前後を狙うだけでなく、季節感の中で星雲の姿が楽しめるのもナイトビジョンならでは。 左が馬頭星雲とバーナードループ。眼視で見るにはかなりの難物ですが、ナイトビジョンなら楽勝。天文ファンなら思わず声を上げてしまう(*)見え方。 (*)星まつりの会場ではナイトビジョンの前に行列ができ、歓声の連続でした。 バラ星雲は肉眼でも空が良ければ普通に視認できますが「バラっぽい形状」まではなかなか確認できません。ナイトビジョンなら写真でお馴染みの姿に見えます。 輝度の高い惑星状星雲であれば、F値の暗さは問題になりません。焦点距離2000mmF10のシュミカセで。亜鈴状星雲の構造が眼視でここまで見えたのは初めての経験。小さなM57リング星雲も、こんなに大きく見えます。 銀河を見る 淡い銀河もナイトビジョンなら鮮明に見えますが、長時間露出のスチル写真と比較すると若干迫力不足は否めません。しかし、この姿が瞬く星々の中にぽっかりと浮かんでいる姿は「眼視」ならではの臨場感と感動を呼びます。 一方、M51子持ち星雲やM64黒目銀河・M104ソンブレロ星雲など、小さくても輝度が高い銀河なら、惑星状星雲同様に長焦点のよい対象となることでしょう。 ナイトビジョンと高感度デジタルカメラの比較 上の動画でも触れていますが、α7Sシリーズのような高感度のデジタルカメラとの比較するとナイトビジョンはどう位置づけられるのでしょうか。 高フレームレートでの画質はナイトビジョンが圧倒 ナイトビジョンには「フレームレート」という概念は存在しません。原理的には飛来した光子をリアルタイムで増幅し蛍光管を光らせているため、「光を蓄積する」という動作ではないからです。 光学系をパンしたときの星像の動きから見ると、ナイトビジョンの「滑らかさ」は、デジタルカメラの30p(枚秒30フレーム)の動画よりもさらに滑らかで、基本的に「カクつく」ことはありません。さらに、デジタルカメラの1/30秒露出での動画と比較すると、「感度(暗い星や星雲の見え方)」においてもナイトビジョンが勝ると感じました。特に、流星を観察するような場合はナイトビジョンの臨場感は圧倒的です。 デジカメでは低フレームレートほど画質が向上 一方で、デジタルカメラで「1/4秒」などのスローシャッター速度に設定すると、星や星雲の見え方はナイトビジョンと同じくらいになります。CMOSセンサーは光子を蓄積できるのです。カメラをしっかり固定した状態では解像感はデジタルカメラの方が上です。さらにデジカメは「カラー」なので、「静止画的な暗視能力」は逆転しているとみてよいでしょう。 しかし「動画的な臨場感」は前述の通りナイトビジョンが上です。デジタルカメラの4p(毎秒4フレーム)の赤い北アメリカ星雲と、色なしのナイトビジョンの北アメリカ星雲を比較すると、どちらがより「感動」するかというと、筆者はナイトビジョンに軍配を上げます。 天体用CMOSカメラの「ライブスタック」のような手法では、総露出時間をさらに延ばして画像のクオリティをどんどん上げることができ、画質の点ではナイトビジョンを圧倒しますが(*)、これは「ライブ映像」というよりもむしろ「静止画」に近いといえます。 (*)ナイトビジョンでもスマートフォンの「ナイトモード」で映像をコンポジットすることは可能ですが、5秒程度の露出時間ではスマートフォンの感度不足を補える程度で、実視と比較して天体の姿をより精細に捉えられるという感じではありませんでした。 それぞれに良さがある ナイトビジョンによる映像の最大の特徴はライブ感と高感度を高いレベルで両立しているところにあります。一方で、赤い星雲などの色を楽しめるデジタルカメラによるライブ動画、より精細で淡い対象まで描出できるCMOSカメラによるライブスタックは、それぞれ違った別の良さを持っているといえるでしょう。これに眼視と長時間露出の静止画を加えると、一つの天体をなんと5通りの方法で楽しめることになります。 アマチュアの個人の楽しみとしての天体観望はもとより、公共天文台や観望会などでこれらの手法の良さをうまく組み合わせれば(*)、これまでにない幅広い星空体験を実現できることでしょう。 (*)個人的にはより大型の望遠鏡を導入するよりも、小回りの効く中型望遠鏡にさまざまな「電視」手段を組み合わせた方が、より一般の人でも楽しめる面白い演出が可能ではないかと感じています。 CMOSカメラの可能性 半分妄想ですが、ベイヤー配列のカラーCMOSセンサーはRGBのフィルターの存在によってざっくり光量を1/3損していることになります。モノクロセンサーを使用すれば低照度性能は3倍向上するはず。例えばソニーのα7Sシリーズのセンサーの「モノクロ版」が登場すれば、ナイトビジョンの強力なライバルになる可能性があります。 上の動画はα7S(初代)のUV/IRカットフィルター除去改造モデルで、モノクロモードで動画撮影したものですが、これだけでもそこそこの高感度が得られました。ナイトビジョンの高感度にはまだまだ負けていますが、モノクロセンサーならもう少し勝負になるかもしれません。ASI2600MMのような「フルサイズ・モノクロ・低画素」の天体用CMOSカメラでの動画撮影を一度評価してみたいものです。 ナイトビジョン購入ガイド 現在日本で入手可能なナイトビジョンは、米国の輸出制限の関係で欧州製の製品に限られますが、NV-Walker.comなどから入手できます。 購入にあたっては、価格・高感度特性・天体望遠鏡やカメラレンズとの接続などの拡張性・波長特性などのさまざまな検討要素があります。非常に高価な商品でもあり、しっかりと特性を理解して判断する必要があります。 どんな用途で使いたいかも重要です。天体の場合ナイトビジョンの使い方には、①製品標準付属対物レンズによる等倍視、②対物レンズをカメラレンズに換装、③ナイトビジョンを天体望遠鏡にコリメート接続、④天体望遠鏡に直焦点接続の4つのパターンがあります。①だけでも十二分に楽しめますが、やはりせっかくのナイトビジョンの能力をさまざまな光学系で使いたくなってくることでしょう。②③④それぞれ長所短所があります。使用するナイトビジョンによっては今回のような本体の改造が必要になりますが、双眼タイプの「PSV-7」シリーズはCマウント対応のため、カメラレンズ・望遠鏡への接続がより容易に可能なようです。 天体観望用Night Visonを購入検討の方に(PDF) これらの事情を含めて、自分もぜひナイトビジョンの世界を経験してみたい、という方のために、Nickさんが詳細な購入ガイドを作成されています。ご厚意によりその全文を公開させていただくことができました。ご興味のある方はぜひご参照ください。 ナイトビジョン活用のヒント 一部上記のNickさんの資料と重複しますが、ナイトビジョンを活用する上でのヒントを3点まとめておきます。 光学系 光学系を選ぶのにあたっては、焦点距離と明るさ(F値)が重要になってくることは、通常の天体観察や電視・写真撮影と全く同じです。「極限まで淡い天体を見たい」という方向ならば「より大口径でより明るく」となります。星祭りでNickさんに見せていただいた大口径ドブによる馬頭星雲はまさに圧巻でした。 しかし、筆者の数少ない使用経験ですが「どんな光学系であってもそれぞれの面白さがある」と感じました。もちろん光学系は明るいに越したことはありませんが、どんな光学系で観望しても肉眼視を圧倒する体験となります。 F10の長焦点シュミカセでは、銀河を見ても面白いし惑星状星雲も「肉眼を超越した」ものがあります。「これまでにない面白さ」という点では、より単焦点(広角)による観望も新鮮な体験です。 1台で全ての用途をカバーできる究極の望遠鏡が存在しないのと同様、ナイトビジョンに適した究極の望遠鏡もまた存在しません。色々な機材との組み合わせを試して楽しむことも、ナイトビジョンの醍醐味かもしれません。 フィルター フィルターの活用もナイトビジョンの大きなポイントです。ナイトビジョンは天体用CMOSカメラ以上に赤〜近赤外域の感度が高く、Hαナローバンドや赤フィルターを使用すれば、光害の影響を大幅にカットすることができます。 上の画像は筆者の自宅ベランダから見た東天のさそり座ですが、光害まみれの市街地でも、こんなに低いさそり座の姿をはっきりと見ることができました。ナイトビジョンはスイッチオンだけで使用でき、パソコンも、スマホさえも不要です。自宅からの「星空チョイ見」にこれほど簡便で面白い機材はありません。夜中にふと目が覚めたときに、さっと庭に出て天の川と散光星雲を眺めてみる。そんな、なんとも贅沢な楽しみがあります。 対象選び どんな光学系でも、どんな場所からでも、星空を手軽に楽しめるナイトビジョンですが、そのためには光学系や場所に合った対象選び・フィルター選びも大切です。散開星団なら焦点距離が長すぎず短すぎない機材を。光害地なら赤フィルターが効果的です。球状星団ならF値が暗くても大口径で。惑星状星雲も場所を選ばず楽しめます。 北アメリカ星雲のような明るい輝線星雲なら、市街地でもナローバンドフィルターを使えばOK。淡い星雲は明るい光学系が有利ですが、網状星雲のような微細構造をもった星雲は、F値が暗くても長焦点が面白かったりします。 今後ナイトビジョンが普及すれば、そんな対象別の楽しみ方のノウハウも広く普及してくるでしょう。逆に、今ならアイデア一つでこれまでなかった楽しみ方が開拓できるかもしれません。 どんな人に向いているか 究極の眼視体験 ナイトビジョンは最安モデルでも50万円。非常に高価です。しかし、この記事をごらんになっているような「ガチマニア」の方々の「生涯投資額」と冷静に比較してみると、全く手の届かない価格ではありません^^;; 13cmの3枚玉アポや50cm級のドブソニアン、究極の5cm双眼鏡と同じくらいです。 これまでになかった新しい扉を開くナイトビジョン。1本いかがでしょうか? 新しい星空体験がもたらす可能性 ナイトビジョンは広い意味では「電視」の最終兵器といえます。控えめにいって、一度体験すると「ナイトビジョンを見ずして死ぬことがなくて良かった」級のインパクトがあります。この体験を自分だけのものにしておくのはもったいない。観望会で、星祭りなどのイベントで、ナイトビジョンを多くの人に体験してもらうことは大いに意味のあることではないでしょうか。公共天文台や星空ツアーなどにおける顧客満足度を上げるツールとしても(*)、大いに活用できるはずです。 (*)天体CMOSカメラによる電視と比較して、操作が簡便であることも大きなメリットでしょう。 まとめ いかがでしたか? アナログ技術の完成形、ナイトビジョン。躍進中の「CMOS」センサーですら圧倒する高感度性能。スイッチオンで使える簡便さ、単三乾電池1本で動作する省電力。天文マニアにとって垂涎物の「最終兵器」だといえるでしょう。 ネックになるのは最安でも約50万円という価格。しかし「究極の眼視体験」を求めるなら、ナイトビジョンにはプライスレスな価値があると感じました。お金に余裕があれば、これは断然「買い」です。 さらに、最近流行のCMOSセンサーカメラによる「電視」とナイトビジョンの組み合わせることで、従来マニアのものだった「天体観望」の面白さを、広く一般の人に対しても訴求できる可能性があります。今後、公共天文台やアマチュアによる観望会においても、導入が広がる可能性があるのではないでしょうか。 天体観察の新しいフロンティアを拓く「ナイトビジョン」。より多くの方のチャレンジが待たれる分野といえるでしょう!   最後になりましたが、機材を貸与いただきましたNick様に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました! 補足)ナイトビジョンとは Wikipedia 光電子増倍管 Wikipedia 暗視装置 ナイトビジョンの技術的な詳細は上のリンク先を参照ください。ナイトビジョン(暗視装置)は第二次世界大戦のころに実用化され、何世代かの進化とともに、現在では「ヒ化ガリウム(GaAs)素子」を使用した「第3世代」まで進化しています。 しかし、今回使用したPhotonis社のナイトビジョンは、上記に照らせば第2世代の技術であるにもかかわらず、暗視能力は第3世代の製品とほとんど遜色はないようです。第3世代と最新の第2世代では、それぞれに特徴があると考えてよいでしょう。 上の動画は第3世代の製品(左)と第2世代の製品「Photonis 4G INTENS(右)」の比較動画ですが、シャドウの描出は第3世代が勝るものの、ハローやハイライトを含めた階調ではPhotonisが勝っているように見えます。 NV-Waker ナイトビジョン用語説明 https://www.nv-walker.com/glossary ナイトビジョンの細かなスペックを示す要素には、「EBM(背景の暗さ)」「ハロー(高輝度部の滲み)」「FOM(解像度とS/N比の積、総合的な画像品質)」などがあります。詳細は上のリンク先をご参照ください。 本記事は 「Nick」様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは製品を取り扱う販売店様にお願いします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2021年2月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ