みなさんこんにちは!カメラとなんとかは高感度ほどイイ。というわけで、今回は話題の高感度番長「SONY α7SIII」のレビューです!

こちらの動画で簡単にSONY α7SIIIのすごさと2つの弱点を語っていますが、この記事はその詳細版となります。



記事タイトルは「α7SIII」となっていますが、本記事ではα7SIIIを含む「α7Sシリーズ」の「高感度番長」っぷりをご紹介しています。α7SIIIはα7Sの上位互換(StarEater除く)ですので、α7SIIIはスチル写真における「高感度性能」でもα7Sよりもさらに向上しているという前提でお読み下さい^^

(*)筆者はα7SIIIを導入後まだ日が浅いため、α7SIIIを使用した作例がまだ少ないというのが最大の理由だったり^^;;

ではさっそく進めていきましょう。

目次

最強!高感度番長伝説(1)星空写真の幅を広げる高感度性能

ISO25600が普通に使える・暗所での高感度パワー

満天の星の下、自撮りスナップ。α7S初代(天体改造) EF8-15mmF4L F4 ISO12800 30秒

暗黒の空に浮かび上がる天の川。F4という暗いレンズですが、α7Sシリーズなら安心してISOを上げて適正露出ゾーンに持ち込むことができます。7S初代でさえISO25600までなら安心して使えますし、「アンプグロー(画面左の上下隅がマゼンタにかぶる現象)」が解消されたα7SIIIでは、ISO80000くらいまでならスチルでも使えます(*)。

(*)もちろん、高感度にするほどノイズが増えて画質は悪化します。α7Sシリーズの美点は、高感度域の画像の悪化が光量に対してリニアにより近く、破綻が少ないところにあります。

速いシャッター速度が使えるメリット

星を撮る人を撮る、星空スナップ。α7S初代(天体改造) EF8-15mmF4L 15mm F4 ISO25600 6秒

じっくり腰を落ち着けて撮るディープスカイ撮影と違って、星空写真・特に人物を入れる場合(*)は、機動性が重要です。早いシャッター速度が切れれば、ショット数が増えてチャンスが広がるだけでなく、被写体ブレも少なくなり、雲も流れすぎず、絞りによる被写界深度の選択肢が生まれ、より表現の幅が広がります。

(*)「星空スナップ」は筆者のライフワークの一つです^^

ボディ内手振れ補正による「手持ち星景」の可能性

シンガポールからオーストラリアに向かう機内から。α7S(初代) サムヤン35mmF1.4 F1.4 ISO25600 1/8秒

これも「α7SIII」ではありませんが「α7Sシリーズだから撮れた」であろう作例。飛行機の窓からの倒立したオリオン座です。1/8秒の手持ち撮影でISO25600、高感度番長のα7Sならではです。これがα7SIIIだったら、強力なボディ内手ブレ補正でもう2段は長いシャッター速度が使えたはずで、さらに星空を明瞭に写し撮れることでしょう。

最強!高感度番長伝説(2)星空が動画で撮れる

他製品を圧倒する動画性能

EOS6D 24mmf2.8 ISO25600 1/30秒 動画よりキャプチャ

星空をリアルタイムの動画で撮る。ソニーα7Sシリーズの最大の強みです。その例をごらん頂きましょう。上の画像は天体写真で最も多くのユーザに使用されているキヤノンのEOS6Dの「動画」のキャプチャです。真っ暗です。ほとんど何も写っていません。露出条件は「F2.8 ISO25600 1/30秒」。星景写真の標準といわれている「F2.8 ISO3200 30秒」と比較すると、なんと7段も少ない露出条件です。EOS6Dの動画モードでは、ISO25600も1/30秒もこれが限界。F2.8のレンズでは、もうこれ以上明るく写すことはできません。

EOS6D 24mmf2.8 ISO25600 1/30秒 動画よりキャプチャ後、PSで+5段露出補正

PSの露出補正で5段持ち上げてみました。これは「F2.8 ISO10万 1/4秒」に相当します。一番明るい星がシリウス。ぎりぎり、冬の大三角が見えています。

α7SIII 24mmf2.8 ISO10万 1/4秒 動画よりキャプチャ ほぼ満月の月が右下にあるため背景がかなり明るくなっています。

しかし、ソニーのα7SIIIなら、動画モードでもここまで写ります。オリオン座も冬の大三角も、明瞭にとらえられています。露出条件は「F2.8 ISO10万 1/4秒」。一つ前の「+5段露出補正」の6Dの画像に相当します。

これが、SONY α7Sシリーズの高感度動画の実力なのです(*)。

(*)EOS 6Dの場合、フレームレートより長い露出時間を使用できないことが大きな制約になっていますが、それでも最大ISO25600は星空動画には低すぎます。最近の動画を強く意識したミレーレス一眼ではかなり向上してきていますが、それでもキヤノンR6が「ISO20万 1/8秒」、パナソニックS1Hが「ISO10万 1/2秒」、同S5が「ISO20万 1/2秒」となっています(*)。

画質を実際に見比べたわけではないのですが、少なくともスペック上ではα7SIIIと勝負できるのはパナソニックのS1HとS5くらいです。星空動画ならα7SIIIがオンリーワン、と控えめに断言したいと思います(*)。

(*)S5の星空動画適性はとても気になります。

https://youtu.be/XBCvZAWw3kI?t=285

もうひとつ例を。冒頭の動画からのキャプチャですが、アンドロメダ大星雲のリアルタイム動画です。長時間露出したスチル画像との画質の差は埋めがたいものがあるものの、動画でここまで写るのは驚異的です。

星空の動画を撮るためのハードルは露出10段分

「F2.8 ISO3200 30秒」なら、露出不足気味であっても後処理で星空はしっかり描き出せます。。EOS5DMarkIII(ノーマル) タムロン15-30mmF2.8 F2.8 ISO3200 30秒 PSで+1段露出補正のみ、撮って出し

星空の写真においては「F2.8 ISO3200 30秒」という露出条件が一つの目安となります(*)。これは「そこそこ星がよく見える」場所ならある程度しっかりと星空や天の川を写し出せるレベルです。

(*)空が非常に暗い場所では、もう1〜2段ほど露出時間をかけられます。もちろんもっと明るいレンズでISOを下げて、赤道儀で追尾して露出時間を長くすれば、画質はさらに上がってゆきます。

この露出条件を動画で実現することは可能でしょうか。動画の場合、1フレームの露出時間が必然的に短くなります。一般的な「30p(1秒間に30フレーム)」で撮影する場合、露出時間30秒に対して1/30秒。およそ10段分(1000分の1)も1フレーム当たりの露出時間は短くなってしまうのです。

このハードルをどうやって埋められるかが、星空動画カメラに対する条件になります。

星空動画の現実的な目安は「F1.4 ISO10万 1/4秒」

星空動画では、シャッター速度の選択が重要になります。1/30秒くらいの「普通の」速度にして滑らかな動きを優先するか、星空の写りを重視して1/4秒のような「遅い」速度にするか、うまく使い分けましょう。

30pで「F2.8 ISO3200 30秒」相当の露出条件を得る(*)ために必要なISO値を単純計算すると、10段分でISO320万となります。

(*)ISOを爆上げすると画質も爆下がりしますが、ここではそれはまず置いて、同じ明るさの画像が得られるための条件というお話で。

ISO320万なんて、かなり無理ですよね。α7SIIIでも最大ISOは40万、最近発表されたPENTAXのK-3MarkIIIでもISO160万が最大です。現実にはα7Sシリーズの場合でさえ、ISO10〜20万がなんとか実用になる範囲です。まだ4〜5段分足りません。

そこで必要になるのがまずは「明るいレンズ」です。F1.4のレンズを使えば、まず2段。そして、動画がカクカクすることを我慢して、1フレームの露出を延ばします。α7Sシリーズの場合、最長1/4秒まで使えるのでこれで3段。おお、なんとか届きました!

というわけで、星空を動画で撮るのことはかなり無理目のチャレンジではあるものの、「F1.4 ISO10万 1/4秒」という設定なら、静止画と同じレベルの画像輝度が得られることがわかりました。

冒頭の動画をごらん頂ければ、静止画として鑑賞するのは厳しいものの、動画なら十分「見られる」と評価できるのではないでしょうか。

高感度時の「アンプグロー」がなくなったα7SIII

実は「 ISO10万 1/4秒」という設定は、6年前に発売された「初代α7S」でもすでに実現できていました。この高感度特性に注目した一部の人たちは、すでに星空動画に取り組まれていたのです。しかし、一つ大きな問題がありました。

α7S(天体改造) EF300mmF2.8LIS ISO204800 1/4秒 動画よりキャプチャ

これです。α7S/α7SIIの世代では、ISO80000くらいから、画面の左端に赤い「アンプグロー(*)」が顕著に出てしまうのです。これまではこの「アンプグロー」のせいで、ISO10万以上を使うのにはためらうところがありました。画質が荒れるのはまだ許せても、あるはずのない光が写るのには抵抗が大きいのです。

(*)この光の原因が何なのかは不明です。「アンプグロー」という呼び名が適切でない可能性もありますが、天体写真の世界でこのように呼ばれることが多いので本記事では「アンプグロー」と呼称しています。

α7S(天体改造) EF300mmF2.8LIS ISO204800 1/4秒 動画よりキャプチャ

ところが、α7SIIIではこの「アンプグロー」がきれいさっぱりなくなりました!これは朗報。実際のところアンプグローの存在を別にすると、α7SIIIと初代α7S(天体改造)の高感度動画の画質にはあまり差を感じないのですが、それ以上に「アンプグローがなくなった」ことは大きく思えます。

(*)筆者の初代7Sは天体改造(センサー前の内蔵フィルターを全て除去)しているため「色補正フィルター(人間の視感度に合わせるための水色の色ガラスフィルター)」の露出倍数の分だけ明るく写るというのも差が少ない理由かもしれません。高感度性能の比較はこちらの動画が参考になります。

流星を動画で撮る

α7Sシリーズの高感度動画が生きるシーンを一つご紹介しておきましょう。流星です。動画で流星を撮影すると、スチル写真ではわからなかった流星の「色」、特に「短痕」のあざやかな緑をとらえることができます。

中望遠レンズで放射点付近を撮影すると、肉眼では気が付かないような暗い短い流星を多数とらえることができます。動画による流星の捕捉能力は、肉眼以上かもしれません。

車載カメラによる星空動画

もうひとつ、現在天リフ編集部で取り組んでいるのが車載動画です。車にジンバル経由でα7SIIIを搭載し、星空の下を走ってみようという目論見です。

12月のふたご座流星群はこのスタイルで撮影してみる予定です。お楽しみに!

デジタル一眼としての天体写真適性

USB給電撮影が可能

USB-PD対応のモバイルバッテリでは高速充電が可能です。手持ちのPD対応でないバッテリでも充電は可能でした。カメラの電源がOFFの場合でも充電可能です。

α7SIIIでは、USB-Cで給電しながらの撮影が可能になりました。これは長時間の動画やタイムラプス撮影、寒冷地での撮影にとって非常に大きなメリットです。初代α7Sの場合、専用バッテリの容量が小さく(*)一晩撮るには5個でも心もとなかったのですが、7SIIIなら大容量のモバイルバッテリを持参すれば一晩でも楽勝です。純正のバッテリはお値段も張るので、これはさらに嬉しいところです。

(*)7SIIIはより大型のバッテリが使用されています。7S/7SII用のバッテリとの互換性はありません。

強力なボディ内手振れ補正・手持ち星景の可能性

手持ちで撮ったオリオンの3つ星の等倍拡大。セルフタイマー5枚連写で撮影。撮影者の姿勢は二足直立です。間違って削除してしまったので1枚欠けています。。

 

α7SIIIでは公称5.5段分のボディ内手振れ補正が内蔵されています。24mmレンズなら1/fルール(*)に即すれば、手持ち撮影でも「2秒露出」まで使えることになります。

(*)1/焦点距離(秒) までなら手持ちでも撮れる、とする目安

実際に試してみたのですが、EFマウントのシグマ24mmF1.4(MC-11使用)で使用する限りは、2秒ではまったく星は点になりませんでした。1/4秒ならだいたい点像、1/2秒でときどき点像、くらいの感覚です。あくまで筆者のカメラ保持技術と非純正レンズの組み合わせなので、他の方の結果を知りたいところです。

とはいえ、1/2秒が使えるだけでも大きな前進です。個人的には星空スナップ(*)や飛行機の窓から星空を撮る際に大いに期待しています。

(*)星空と人を撮るときは、被写体ブレのため長い露出時間が使えない場合も多いので、1/2秒は実は使いやすい露出時間かもしれません。

追記2020/11/24)

純正レンズSEL20F18を入手したのでテストしてみました。

1/2秒でほぼ確実に止まり、1秒以上では流れが見え始めますが、場合によっては2秒でも使えることもありそうな印象です。焦点距離の違いを考慮してもシグマ24mmよりも1/2〜1段ほど手振れ補正性能は優秀であるように感じました。やはり純正レンズの方が手振れ補正は最適化されているのでしょうか?(*)。

(*)上記シグマ24mmの検証では手振れ補正の設定で焦点距離をマニュアル入力しています。

バルブタイマーとインターバル撮影の限界

これはちょっと残念なところです。まず、バルブタイマー(*)はありません。シャッター速度の上限も30秒です。

(*)カメラ側の設定でスローシャッター上限よりも長い露出時間を使用できる機能。

フィルムカメラ「ミノルタSR-T101」の機械式のシャッターダイヤル。最長露出時間は1秒。それに比べれば「30秒」が使えるようになったのは良いことです。しかし、30秒止まりで良いというわけではありません。機械的な制限が本来ないはずのデジタルなのですから。

ソニーに限らず(*)、これまで何度も書いているのですが、シャッター速度の上限が30秒というのは、いったい何の事情なのでしょうか。ただの慣例にすぎないとしか思えません。是非とも60秒、90秒、120秒といった長時間露出が、外部機器なしに可能になるようにしてほしいものです。

(*)キヤノンも上限30秒を頑なに貫いています。ただしEOS 6DMarkIIからようやくバルブタイマーが実装されました。ニコンはZIIシリーズで、D810Aと同じ長時間露出設定が可能になりました。オリンパスは2012年発売のE-M5でも最長は60秒です。60秒まで使えるだけでも大違いです。

インターバル撮影では、α7Sは外部アプリの購入が必要だったのですが、α7SIIIではカメラ内の機能で実現されました。恐悦至極です。撮影回数の上限は9999枚。これはグッドです(*)。

(*)他社機では上限999枚という製品もあるようです。

しかし、細かく見ると使えないところもあります。まず、30秒より長い露出時間は不可。まあバルブタイマーがないのでそれはあきらめるしかないとしても・・・

2020年6月21日の部分日食。外部リモコンを使用し5分間隔で撮影。

これが謎仕様なのですが、インターバル間隔の最大秒数が60秒。これでは上の作例のような日食・月食の連続撮影には使えません。せっかくのインターバル撮影機能なのに、これでは片手落ちです。

なぜこのような仕様になったのか不明ですが、ユーザーの声を汲み上げて改良されることを希望するものです。

ブライトモニタリング

α7SIIIには、暗所でのライブビューの表示を明るくすることができる「ブライトモニタリング」という設定が可能になっています。これはα7RIIで初めて(*)実装された機能で、カメラが被写体の明るさを自動的に判断してベストエフォートで明るくしてくれる機能です。

(*)α7無印とα7Sは「III」から実装されました。

カスタムキー割当をしないと使えない(*)のですが、これはなかなか便利。1アクションで画面を明るくできます。ブライトモニタリングをONにすれば、天の川は普通に確認できますし、星景写真の構図はこれだけで十分に合わせられます。

(*)メニューを探してもまず設定方法は見つけられません。「知ってないと設定できるがずがない」級です。ぜひこの設定はマニュアルを参照して最初にやっておくことを推奨します。

ただし、ブライトモニタリング状態でピント拡大するとブライトモニタリングがリセットされることや、ブライトモニタリング中は露出・ホワイトバランスなどの設定が反映されないので、うっかり「モニタで見えているから露出も合っているだろう」と思って撮影すると露出が実はぜんぜん合っていないこともあるので(*)、注意が必要です。

(*)ブライトモニタリング中には動画撮影時の赤枠表示のように、グレー枠で囲むとかしてくれるとわかりやすいのですが。

最強の暗視能力の「動画モード」

実は初代α7Sからある機能なのですが、α7Sシリーズには「裏技?」があります。「静止画モード」ではだいたい「ISO25600万 1/30秒」くらいまで露出設定に反映して画面が明るくなりますが、「動画モード」にすればさらに「ISO40万 1/4秒」まで露出設定の通り画面が明るく表示されます。

つまり、動画モードは最強の暗視ライブビューです。ブライトモニタリングよりも、暗所では最大で「ざっくり4段?」ほど明るくなります。ブライトモニタリングにしてもまだ暗くて被写体が良く見えない場合、動画モードの1/4秒にしてISOを爆上げすれば、かなり暗い天体でもライブビューで視認することができます(*)。

(*)F2.8のレンズならバラ星雲は楽勝、注意深く見ればIC2177でも視認できます。

α7SIIIの2つの大きな問題点

あらかじめお断りしておきますが、SONY α7Sシリーズはオンリーワンの能力を持つ素晴らしいカメラです。筆者は初代7Sと今回の7SIIIのどちらも発売後即買いしています。はっきりいってものすごく気に入っていますし、このカメラでしか撮れないシーンが静止画・動画のどちらでもたくさんあります。α7Sシリーズを不当にdisるつもりはまったくありません。

しかし、冒頭の動画でも触れているように、天体写真という特定の用途においては、このカメラには2つの問題点があります。それを明確にしておきたいと思います。

α7S(初代)のStarEater

一つ目は「StarEater(星喰い)」現象です。この現象については、初代α7Sが発売された少し後に、広く天文界隈やネット上で物議を醸しました。不肖・天リフでも何回かこの問題について記事にしていますが、簡単におさらいしておきましょう。

上の画像は「初代α7S」のStarEaterです。StarEaterが発現する「バルブモード30秒露出」と、発現しない「マニュアルモード30秒露出」の比較です。上の縮小画像では差はわかりませんが、下の拡大画像では明らかな違いがあります。その違いをつぶさに見ていきましょう。

①星が喰われる(消える)

小さな星(微光星)がほぼ消えてしまったり、ぼやけて薄くなってしまったりします。ほかにも、星のエッジが不規則に削られる、1点だった星が2点に割れてしまったり、星に「穴が空く」場合もあります。まさに「星が喰われる」感じです。

②緑の星(GreenStar)の出現

この問題は実はあまり指摘されていなかったのですが、星の色が本来とは違う色になります。特に「緑」の星が多く出現します。夜空にある星には、よほど特殊な例を除くと「緑の星」は存在しません。そんなあり得ないはずの「緑の星」が多数出現します。これを本記事では以下「GreenStar現象(*)」と呼ぶことにします。

(*)後述しますが、数は少ないものの「シアン」「マゼンタ」「黄色」に不自然に転ぶこともあります。緑の星が存在しないことの良解説は↓こちらをご参照ください。

緑色の星はなぜ無いのか?

③輝点ノイズの減少

StarEaterアルゴリズムが発動すると、輝点ノイズ、特に色ノイズが減少します。1ドット角の小さな輝点は、ほとんど全て消えてしまっているのがわかるでしょう。賢明な読者の方々はお気づきかと思いますが、実はこの「輝点ノイズを減らす」作用が「StarEaterアルゴリズム」の意図(*)なのです。

(*)ソニー社に確認したわけではありません。筆者の推測ですが、確度はかなり高いと考えています。

で、何が困るの?

「そこにあるはずのものがなくなってしまったり、本来の姿ではない画像になる」というのはすでに問題なのですが、「1枚画像を鑑賞距離で見る限りは判別できないほどの差である」のも事実です。この作用が「まいったね。これは酷い。」と感じるのか、「なんだ。ノイズも減るし別にいいんじゃないの?」と感じるのかは、各人の目的や価値基準によるでしょう(*)。たとえば、星空と風景を撮る「星景写真」では、あまり大きな問題にはならないかもしれません。一方で、天体の淡い・細かい部分を細密に描写することを目的とする、いわゆる「ディープスカイ天体写真」ではより大きな問題となってしまいます。

(*)ソニー社は後者に近いと判断と推測します。

天体写真におけるStarEaterの実戦的な問題については後節に譲り、ここでは「StarEaterアルゴリズム」のもたらす3つの「作用」をまとめておきます。



  1. 微光星が消えるなど星が「喰われる」
  2. 存在しないはずの「緑の星(GreenStar)」が現れる
  3. 輝点ノイズが減少する

α7SIIIのStarEater

「StarEaterは、ありまーす」

α7SIIIでもStarEaterは発生します。だだし、α7SII世代以降はアルゴリズムが若干改良されたのか、星の喰われ方が少しマシマイルドになったように見えます(*)。上の画像はα7SIIIのStarEaterと、α7S初代のStarEaterなしの画像の比較です。若干改善はされているものの、星が喰われる、GreenStarが現れる、輝点ノイズが減少するという3つの「作用」に変わりはありません。

(*光学系が前出の画像と違う・わずかにガイドに流れがあるなど、星像径がこちらの方がやや大きくなっているため、厳密な比較ではありません。後述するローパスフィルターの有無による差である可能性もあります。筆者の所有するα7S初代はシャッターユニットの故障でそもそも「バルブ」撮影が不可能なため、新規の検証ができないのです。すみません–;;;

4秒以上の露出時間で発現・α7SIIIのStarEater

α7SIIIのM(マニュアル)モードの3.2秒と4秒の比較。StarEaterの3つの作用(星が喰われる、緑の星(GreenStar)が出る、輝度ノイズが減少する)が、左の4秒露出では出ていますが、右の3.2秒露出では出ていません。

α7SII、α7SIIIでは、B(バルブ)モードに加えて、M(マニュアル)モードの4秒よりも長い露出時間で発現します。一方で初代α7Sの場合、M(マニュアル)モードでは発現しません。この違いは非常に重要で、α7S初代では「Mモード30秒縛り」でStarEaterから逃れることができたのですが、α7SII以降の機種の場合、長めの露光時間を必要とする天体写真では事実上StarEaterから逃れられないことを意味します。

StarEaterアルゴリズムは、ノイズ処理の一種です。一般に「ノイズ処理」と画像のディテールの維持はトレードオフの要素です。ノイズを減らす処理は、色にせよ輝度にせよ、ディテールを失う結果になります。だからこそ、PhotoshopのCamera rawも他の画像処理ソフトも、ノイズ低減処理には「スライダー」が付いていて、ユーザー側の判断でその度合を決められるようになっています(*)。

(*)jpeg画像のように、画像処理の仕方をある程度カメラ側に委ねる場合は、設定された「画像の処理プロファイル」に応じてノイズ低減処理が行われます。

しかし、SONY機の場合は「ある露出条件」においては、もれなく「StarEaterアルゴリズム」が付いてきます。逃れる方法はないのです。

StarEaterはどう問題なのか

では、StarEaterはどんなときに、どのくらい問題になるのでしょうか。具体的・実戦的な例を見ていきましょう。

星の色が緑に転ぶ「Green Star」現象

StarEaterの最大の弊害は、星の色が緑に転ぶ「GreenStar」ではないかと感じています。上の画像がその比較です。どちらも同じ光学系・露出条件で撮影したものを、カラーバランスを合わせた後、彩度を強調したものです。α7SIIIでは、StarEaterによって多くの星が緑色になってしまっています。緑になるだけでなく、マゼンタとシアンにころんだ星も存在しています。推測ですが、StarEaterアルゴリズムが赤と青の偽色を削ってしまうのでしょう。

画像処理でこの緑色は低減は可能でしょうが、かなり苦労すると思います。筆者の技術では「彩度を上げない」以外の対処はできませんでした。逆に、StarEaterが発現する場合は彩度を強く上げることが難しくなる、ともいえます。

赤と青の星像径が肥大する(ないしは消失する)

α7SIII シグマ24mmF1.4Art F2.8 各20枚コンポジット ISO16000 ダーク減算 DSSでコンポジット後のリニア画像をPSでカラーバランス・露出補正のみ

StarEaterアルゴリズムは、GチャンネルよりもRチャンネルとBチャンネルにより強くかかるように見えます。上の画像はα7SIIIでStarEaterの発現しない3.2秒と発現する4秒の各チャンネルの比較ですが、Gチャンネルの星像にあまり違いがないのに対して、RとBではより「星が喰われて」薄くなってしまっているように見えます。原因は不明(*)ですが、結果的にRとBがより「ボケ」たようになるようです。

(*)ベイヤーセンサーの場合、R画素とB画素はG画素の半分しかないため、StarEater以前にRとBの星像径はGよりも大きい可能性もあります。断定するにはデータ不足です。GreenStarはこの現象の結果、RとBの星像がボケて「薄く」なることで、Gの輝度が優位になり星色が緑に偏ると推測されます。

追記2020/11/5)初出時の画像が中途半端に強調処理していて差がわかりにくかったので再処理した画像に差し替えています。レンズの表記も誤っていたので修正しました。下が初出時の画像です。

わかりにくい比較画像で恐縮です。α7SIII タムロン15-30mmF2.8 15mm F2.8 シグマ24mmF1.4Art F2.8 各20枚コンポジット ISO16000 ダーク減算

追記2020/12/9)

StarEaterアルゴリズムは輝点ノイズ低減のために存在している→輝点ノイズをダーク減算で補正する「長秒ノイズ低減」を使用した場合は不要なはず?!→気を効かせて「長秒ノイズ低減ON」の時には発動しないかも?

そんな淡い期待で検証してみましたが、結果は変化ありませんでした。

左)長秒ノイズ低減OFF、右)ON α7SIII SEL20F18 F1.8 30秒 ISO3200 撮って出し等倍画像をPSで彩度+80

そもそもこの程度のISO感度(3200)では長秒ノイズ低減の効果もほとんど感じられないという結果になっています。

「アンダーサンプリング」の問題

α7SIII(StarEater発現、ローパスあり、ノーマル機)
α7S初代(StarEaterなし、ローパスなし、天体改造)

実は比較に使用したα7S初代は、天体改造を行っているため「ローパスフィルター(偽色・モアレを防止するため星像をわずかにぼかすフィルター)」が入っていません。このため、当然ですが偽色が出ます。上の画像は、30秒露出の10枚の画像をアニメーションにしたものですが(*)、ローパスなしのα7S初代では、同じ星がコマによってまるで違う色になっていることがわかります。一方で、α7SIIIでは、顕著なGreenStarが出ているものの、星の色の変化はずっと穏やかです。

(*)ガイドが完全だと偽色の変化が確認できないので、少しだけ極軸をズラしています。

ここであらためて指摘しなくてはいけないことは、StarEater以前に、ローパスレスの1200万画素機では偽色の問題が顕著ということです。少なくとも1枚撮りでは(*)、上の例を見る限り星の色を正確に表現することはより困難であるといえるでしょう。

(*)多数枚コンポジットによってこの問題はほぼ解消されるでしょう(コンポジット前の各コマに対して色ノイズ処理を行わない前提)。話がそれますが、偽色が顕著な状態で色ノイズ低減処理をかけると、本来はノイズではないRとBの色情報が削られ、星の色が緑に転びます。StarEater起因のGreenStarよりはずっとおだやかですが、それでもディープスカイでは悪影響を感じるレベルです。

そもそもの話になってしまいますが、StarEaterがなかったとしても、ディープスカイ撮影においては1200万画素のフルサイズセンサーカメラは、昨今の高性能な(星像径の小さい)光学系には画素不足(アンダーサンプリング)による弊害が顕著である、と推測します(*)。

アンダーサンプリングの状態では、星の像はRGBのどれかの画素に集中し「偽色」が出てしまいます。発生した偽色ピクセルに対して色ノイズ低減処理がRとBにより強く作用することで色が失われ、小さな星の色が緑に転ぶのです。そして、この問題をさらに増幅してしまうのがStarEaterであるというのが筆者の仮説です。

高画素モデルでのStarEater

では、より画素ピッチの細かいα7Rシリーズ、α7無印シリーズではどうでしょうか。StarEaterアルゴリズムが星をノイズと認識して消してしまうのは、星が輝点ノイズと区別できないほど小さいからと推測できます。画素ピッチが細かくなれば、星は輝点ノイズと比べて大きくなり「喰われる」ことが少なくなるのではないでしょうか。筆者は実機を所有しておらず比較できていないのですが、StarEaterもGreenStarも、より影響が少なくなるものと推測します(*)。

(*)α7RIIIを所有する知人の情報では、StarEaterもGreenStarもほとんど感じられないそうです。「α7R」や「α7無印」シリーズにおいてはStarEaterがほとんど問題視されていないのはこのためでしょう。

高画素機ほどStarEaterの影響は少ない。この推測が事実なら、ソニー社(*)やソニー機を活用する著名フォトグラファーからそういう発信があると、消費者はより安心できると思います。

(*)公式にソニーがStarEaterの存在を認めた形跡は見当たらないので、可能性はゼロに近いでしょうが。。。

ピント拡大4倍に涙

左)α7SIII 右)α7S。星でピントを合わせる場合、天と地の差になります。8倍でも現実的には不足気味で、理想をいえば15倍は欲しいところ。

冒頭の動画でも思いっきり嘆いていますが、ライブビュー画面での最大拡大表示(ピント拡大)が4倍までになってしまいました。α7SIIまでは8倍だったので、半分に退化したことになります。

ソニーのオートフォーカスは大変優秀なのでマニュアルフォーカスは重視されていないのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。α7SIIIは主に動画をターゲットにしているので(*)静止画の優先度は低いのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。ソニーの製品担当者様やクールなソニー機のユーザーは皆若くて小さな画像でもよく見えるのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。

(*)実は初代α7Sでも「動画モード」の場合の拡大率は最大4倍でした。この仕様が7SIIIでは静止画にまで浸食してしまったのでしょうか。

たいへんくどくて恐縮です。

ピント拡大4倍は中高年にとってはとても辛いです。

ぜひ改良を切にお願いしたいところです(*)。

(*)個人的には優先度はStarEaterより高いと考えています。一般消費者向けのハイエンド製品として、この機能退化はちょっとないのではないかと感じます。

最強!高感度番長伝説(3) α7Sシリーズによるディープスカイ

高画素機ほどStarEaterの影響は少ない。賢明な読者はここでお気づきのことでしょう。そう、高解像度機で影響が少ないのなら、星像径の大きな暗い光学系では、StarEater問題の影響はより小さくなります。それに沿った作例をいくつかごらん頂きましょう。

高感度力・「暗い光学系」でもディープスカイが撮れる

しし座のトリオ銀河。GS-150CC(D-152mm fl=1824 F12) α7S ISO12800 20秒*335) flat*32、ダークなし DSSでrawファイルをコンポジット、FlatAidProでレベル自動補正+対数現像 EQ5GOTO赤道儀 ノーガイド 福岡市今津

α7Sシリーズの高感度が生きるのは、F値の大きな暗い光学系です。上の画像は「F12」という天体写真には一見不向きにしか見えない「暗さ」の純カセグレン望遠鏡「GS150CC」とα7S(初代)で撮影したものです。F値の大きな暗い光学系は、光の回折の影響で星像径が大きくなりますが、逆にそれがアンダーサンプリング問題を軽減してくれます。「暗い」光学系こそα7Sシリーズの「高感度力」が生きるシーンといえるでしょう。1コマあたりわずか20秒ですが、しっかり銀河のディテールを捉えることができました。

「暗い光学系」でもナローバンド

おおいぬ座のミルクポット星雲。FSQ106ED(F8) α7SIII Optolong L-eXtremeフィルター ISO25600 5分×9枚  SXP赤道儀  ASI AIR 福岡県東峰村

上の画像はワンショットナローバンドによるミルクポット星雲です。「StarEater上等」で、α7SIIIで1コマ5分の露出をかけたもの。F8という「暗い」光学系で、しかも絶対光量の少ないナローバンドですが、ISO25600という高感度が普通に使えるα7Sシリーズでは、総露出時間さえ稼げばちゃんと撮影できます(*)。

(*)絶対光量が少ない場合、ISO設定を高感度にしてヒストグラムを左に寄せすぎないことで、画質がより改善するようです。

 

StarEaterの影響を低減する方法(追記11/13)

FSQ106ED(F8) ex1.6使用 α7SIII 2分24枚 ISO12800 、1分8枚 ISO800 フィルターなし FLatAidProで飽和復元合成 SXP赤道儀 福岡県東峰村

「StarEaterは高画素機ほど影響が少ない」ことと同様、最小星像径が大きくなる暗い光学系ではStarEaterの影響は少なくなるようです。上の作例はα7SIIIに口径106mm焦点距離530mmの光学系に1.6倍の「エクステンダー」を装着して撮影したものですが(*)、StarEater・GreenStarの影響はほとんど感じられません。

(*)FSQ106EDの名誉のために補足すると、本来はもうすこし星像径は小さくてもよい気がするのですが。シーイング・スケアリング・ガイド誤差・ピント誤差などで星像がすこし肥大しているのかもしれません。

FSQ106ED(F8) ex1.6使用 α7SIII 2分24枚 ISO12800 DSSでコンポジット、PSで露出補正と彩度強調のみ

「ランニングマン星雲」付近の等倍画像。最小星像径は5px程度です。R/Bチャンネルの星像は若干薄くなっている気もしますが、星の縁や倍率色収差のエッジが削られている様子は見られません。

α7Sシリーズでディープスカイを撮る場合のご参考にしていただければと思います。

モノクロに割り切った撮影

エリダヌスバブル。α7S初代 SIGMA105mmF1.4Art F2.0 Baader Hα7nmフィルター ISO12800 30秒×60×8モザイク

モノクロナローバンドの撮影でもα7Sシリーズは威力を発揮します。モノクロ化してしまう前提なら、偽色もGreenStarも関係ありませんし、モザイク合成なら星像径が肥大することもほとんど問題ではなくなります。光量の少ないナローバンドでは、ISO値を上げても悪影響が少なく、ライブビューでピント・構図が合わせやすい(*)α7Sシリーズは、非常に強力なパートナーになります。

(*)ナローバンドではライブビューで星を視認することが非常に困難になるのですが、α7Sシリーズなら視野内に星が全く見えないことはまずありません。星が1個でも見えていれば、試写画像を元に構図の微調整が可能になります。

「広角星野」は苦手

焦点距離の異なるレンズなので厳密な比較ではありませんが、筆者が「α7Sはブロードバンドの広角星野では冴えない」という体感値はこの画像からきています。同一夜に撮影。左)EOS6D(SEO-SP4) シグマ50mmF1.4 Art F3.5 ISO3200 2分×45 右)α7S(天体改造) サムヤン35mmF1.4 F4 ISO6400 30秒×160 宮崎県五ヶ瀬ハイランド

断言するには情報不足なのですが、以下は個人的感想と考えてください。

前述のアンダーサンプリングの問題のためか、カメラレンズを使用したカラーの「星野写真」には不向きです。星の色があまり出ません。これはStarEaterの問題というよりも1200万画素というアンダーサンプリングがもたらす弊害でしょう。ベイヤーセンサーのカメラで星像径が小さい光学系(*)を使用する場合は、画素ピッチが大きすぎることはかなり不利に感じます。天の川のような微光星の多い領域ではなおさらです。カメラレンズでディープスカイをブロードバンド撮影するなら、筆者は迷いなくα7Sシリーズではなく、より高画素のカメラを選択します。

(*)最小星像径は光学系・F値によっても変わります。一概には言い切れないことにご注意ください。

そのほかのカメラ機能について

天リフはカメラ専門Webサイトではないので、ミラーレスカメラとしてのα7SIIIのいろいろな特長については、ごく個人的な感想にとどめておきます

史上最高レベルのEVF

より大きく、より精細に、より高フレームレート表示が可能になったEVF。iPhone11による同一縮尺実写。左がα7SIII、右がα7S(天体改造)。色味は天体改造機と非改造機なので比較しないでください。

光学ファインダー終了のお知らせ。と言っても過言ではないほどの、最高のEVFです。像が大きい。色合いが自然。動きがなめらか。動きの激しい対象であっても、もうこれなら光学ファインダーに戻ることはないだろうと思えるクオリティです。これだけでも、このカメラは値打ちのある人には値打ちがあるのではないでしょうか。

とはいえ、筆者のような使い方をする場合には、EVFはほぼ使わないのですが・・(*)

(*)唯一EVFを使うのは、他の人の邪魔にならないように背面モニターを光らせたくない場合です。

Image Edge Mobile

Image Edge Mobileの画面。最小限の機能ですが、逆にシンプルで使いやすいアプリです。

スマホから静止画・動画の撮影ができる、きわめてシンプルなアプリです。動画の自撮りのときには特に重宝します。初期接続もQRコードで一発。筆者にとって初めて「これなら使ってもいいな」と思える操作性でした。スマホアプリを使用する人は特にスチル派では少ないと感じていますが、これはもう使わないと損です。お手軽ベランダ撮影の場合でも部屋の中からシャッターを切れるだけでも便利です。

しかし、欲をいえば画面の拡大がしたいところ。等倍表示のみなので、ピントを確認するのは困難です。そもそも、フォーカス制御の機能はないようです。(純正レンズならできるのかもしれません)

キヤノンのカメラ制御アプリ「Camera Connect」の場合は、拡大表示が最大4倍と低いものの、ピント位置をステップ単位で制御できるので望遠レンズでのピント追い込みに有用でした。せめてそれくらいには機能アップしてほしいものです。

特筆すべきは「ミラーモード」の存在。鏡像にすることができるため、RASAのようなプライムフォーカス光学系で電視観望する際に正像で表示することが可能です。

オートピクセルマッピング

https://helpguide.sony.net/ilc/2010/v1/ja/contents/TP0002931056.html

公式サイトによると「ピクセルマッピング」は「イメージセンサーの最適化」を行うための機能とのことです。推測ですが、バイアスを撮像して輝点ノイズを低減するようなことをしているのでしょう。実は初代α7Sにも「ピクセルマッピング」の機能は存在しました(*1)。ただし「完全自動」で、ユーザーの意図とは無関係に定期的に実行されるようになっていたようです(*2)。

(*1) 同様の機能は他社の製品にも存在するようです。

(*2)電源オフ時にメカシャッターが時々動作するのですが、その際に実行されているようです。

7SIIIでは、この「オートピクセルマッピング」を設定でOFFにできるようになっています。具体的にどんな用途を想定しているのかは不明ですが、ダーク減算をする場合には、カメラ内のバイアス情報が変更されてしまわないように「切」にしておき、ライトフレームとダークフレームが同じバイアス情報を使用するようにしたほうがいいのかもしれません(*)。

(*)そもそも筆者の場合はバイアスを撮像したことがないので、差があるのかどうかはよくわかりませんが。。

もう一つ、サイレントモードに設定した際にのみ「オートピクセルマッピング」を「切」にする設定もあります。サイレントモードで「音が出ることがある」ケースを回避できるようにしたのでしょうか。

まあ何が言いたいかというと、こういう限られた?用途に対する細かな気配りと設定を可能にする開発ポリシーがあるのなら、StarEaterもなんとかしてよ、ということです^^

実は4800万画素?!の噂は本当?

α7SIIIは一時期「実は4800画素のクワッドベイヤーセンサーを搭載している?」という噂が出たことがありました。

ソニー「α7S III」は、クアッドベイヤー配列の1200万画素センサーを搭載するが、4800万画素の撮影機能は無効にされる!?

しかし、発売後一ヵ月近く経過した今も、まだ「顕微鏡で拡大したら実は4800万画素だった!」というニュースはまだ眼にしません(*1)。本当のところはわかりませんが、少なくとも実使用においては「実は4800万画素かも?」という兆候(*2)は、筆者は一切確認できませんでした。

(*1)ソニーのイメージセンサーIMX294にもクワッドベイヤー構造であるとの噂があります。

(*2)輝点ノイズの最大輝度が初代α7Sとの比較で1/4になっているかも?という期待をしていたのですが、そんな様子はないようです。

ソニーのクワッドベイヤーセンサーとは、RGBの各画素を4分割し、異なるゲインで読み出すことでダイナミックレンジを拡大できるというものです。ISOを上げてもより白トビしにくくなるなど、天体撮影にとっても有用そうですが、実際にその機能を発揮できるカメラはもう少し先の機種になりそうです(*)。

(*)とはいえ、残念ながら偽色の点では低画素モデルと同じかそれ以上に悪い挙動になる可能性もあるのでディープスカイ撮影適性は不明であると推測します。

どんな人に向いているか

天リフレビュー恒例、脳内ユーザーの声です。年齢、コメントは編集部が創作したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

「リアルタイム星空動画」のほぼ唯一の選択肢

星景写真家前田徳彦さんの動画。α7SIIとα7SIIIでリアルタイム星空動画に取り組んでいらっしゃいます。 

星空のある動画を撮るのなら、α7SIIIはほぼ唯一の選択肢です。機動力を重視した手持ちでもよし、しっかり三脚に固定した撮影でもよし、ジンバルに載せて動きをつけるもよし。

星空のリアルタイム動画は、まだ本格的にやる人が少ないので、今がチャンスかもしれません。多くの人が動画に参入すれば、静止画の表現にも少なからず影響を与えていく可能性すらあります。

お手軽「電視観望」の最終兵器

天体用CMOSカメラを望遠鏡に取り付けて「ライブスタック(*)」機能を使用して星空を「半・リアルタイム」で見る、「電視観望」というスタイルが最近注目されています。

(*)短時間露出の撮影画像をソフトウェア的に「重ね合わせて(コンポジット)」より高画質の画像を得る方法

α7Sシリーズはこの「ライブスタックによる電視観望」と同じ時期から注目されているカメラです。α7Sシリーズなら、星空をよりリアルタイムに近い臨場感で見ることができるのです。強化された最高レベルのEVFは、電視観望でこそ生きるのではないでしょうか。大幅に強化された動画機能を組み合わせれば(*)、より臨場感のある電視観望が可能でしょう。

(*)月のような明るい天体なら、4Kの解像感を生かしたライブ表示が可能でしょう。一方でISOを20万のように爆上げすると、4KもHDもさほど差を感じない画質になります。

電視観望用途でも初代α7Sはまだまだ存在価値があります。公式ストアの新品の販売は終了していますが、中古品なら10万円台前半で入手でき、数万円で天体改造も可能です。「お手軽電視観望」ならこちらも大いにオススメといえます。

お手軽天体写真・星空スナップ

手持ちの1.6秒露出。5.5段のボディ内手振れ補正のある7SIIIならもっと止まって写るはずです。西オーストラリア遠征の初日、パースから移動する途中のパーキングで。三脚を開梱できず手持ちになりました。でボディ内α7S(初代)24mmF1.4解放 ISO32000 1.6秒

α7SIIIなら、肩肘張らなくても、ごく自然に星空が撮れます。ISO25600にして絞りを開放にして露出1秒。運が良ければ手持ちでもOK。星空やその周りの風景・人々を被写体ブレを最小限に抑えた形で撮ることができます。

重い三脚や赤道儀を持たずにフットワーク良くカメラだけで撮り歩く。そんなスタイル(*)にかなり近づくことができるのではないでしょうか。

(*)筆者は個人的にはこんなスタイルに強く憧れるのですが・・・皆さんはいかがですか?

α7SIIIを購入したなら、星空を撮らないと損!

実はこの記事で一番言いたいことはこれかもしれません。α7SIIIは決して「数が出る」カメラではないのですが、それでもいわゆる「天文ファン」よりもはるかに多くの写真愛好家や動画クリエイターが手にすることでしょう。

このカメラを手にしたのなら、星空撮ってみないと損ですよ!?

キレイな星空の下であれば、間違いなく「へー、星空ってなかなかスゴイ被写体なんだね」と感じることでしょう。クリエーターとしての貴方の何かを刺激するはずです。それが1回こっきりで終わったとしても、その経験は今後の創作活動において間違いなくプラスになります。「星空のような暗い被写体がごく普通に見えて、撮れる」というこのカメラの凄さを、ぜひ星空で経験してみてください!

まとめ

α7SIIIで撮影した動画からキャプチャ。24mmF1.4 ISO4万、1/4秒

いかがでしたか?

α7Sシリーズ、その中でもα7SIIIは「強烈な個性を持ったオンリーワンの凄いカメラ」です。圧倒的な高感度性能と動画性能。ボディ内手振れ補正や高性能のAF、史上最高レベルのEVF。どこかのレビュー記事にもありましたが、画素数が不足する以外は完璧に近いカメラ、という表現には強く同意できるものです。そのα7SIIIの高感度性能、特に動画性能が最大に生きるのが天文分野だといえるでしょう。

一方で、画素数の不足の問題が最も顕著に出るのがディープスカイ撮影である、という事実も強調しておかなくてはなりません。昨今の高性能レンズは、波動光学的な限界に近い解像度を叩き出す製品すらあります。センサーの画素よりも星が小さくなってしまう「アンダーサンプリング」の問題は、ガチのディープスカイ天体写真家は今後より強く意識しなくてはならないでしょう。

という極端な2つの個性を持ったα7SIII。カメラは道具です。使いこなすのは人間。そしてその目的は、撮影者の意図したメッセージを自分も含めた「誰かに」伝えることです。尖った個性を持つ新しい道具の選択肢が示されたことに大きな喜びと期待を感じずにはいられません。

それでは皆様のご武運をお祈りします。またお会いしましょう! https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/11/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x576.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/11/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集部天体用カメラ天体用カメラみなさんこんにちは!カメラとなんとかは高感度ほどイイ。というわけで、今回は話題の高感度番長「SONY α7SIII」のレビューです! こちらの動画で簡単にSONY α7SIIIのすごさと2つの弱点を語っていますが、この記事はその詳細版となります。 記事タイトルは「α7SIII」となっていますが、本記事ではα7SIIIを含む「α7Sシリーズ」の「高感度番長」っぷりをご紹介しています。α7SIIIはα7Sの上位互換(StarEater除く)ですので、α7SIIIはスチル写真における「高感度性能」でもα7Sよりもさらに向上しているという前提でお読み下さい^^ (*)筆者はα7SIIIを導入後まだ日が浅いため、α7SIIIを使用した作例がまだ少ないというのが最大の理由だったり^^;; ではさっそく進めていきましょう。 最強!高感度番長伝説(1)星空写真の幅を広げる高感度性能 ISO25600が普通に使える・暗所での高感度パワー 暗黒の空に浮かび上がる天の川。F4という暗いレンズですが、α7Sシリーズなら安心してISOを上げて適正露出ゾーンに持ち込むことができます。7S初代でさえISO25600までなら安心して使えますし、「アンプグロー(画面左の上下隅がマゼンタにかぶる現象)」が解消されたα7SIIIでは、ISO80000くらいまでならスチルでも使えます(*)。 (*)もちろん、高感度にするほどノイズが増えて画質は悪化します。α7Sシリーズの美点は、高感度域の画像の悪化が光量に対してリニアにより近く、破綻が少ないところにあります。 速いシャッター速度が使えるメリット じっくり腰を落ち着けて撮るディープスカイ撮影と違って、星空写真・特に人物を入れる場合(*)は、機動性が重要です。早いシャッター速度が切れれば、ショット数が増えてチャンスが広がるだけでなく、被写体ブレも少なくなり、雲も流れすぎず、絞りによる被写界深度の選択肢が生まれ、より表現の幅が広がります。 (*)「星空スナップ」は筆者のライフワークの一つです^^ ボディ内手振れ補正による「手持ち星景」の可能性 これも「α7SIII」ではありませんが「α7Sシリーズだから撮れた」であろう作例。飛行機の窓からの倒立したオリオン座です。1/8秒の手持ち撮影でISO25600、高感度番長のα7Sならではです。これがα7SIIIだったら、強力なボディ内手ブレ補正でもう2段は長いシャッター速度が使えたはずで、さらに星空を明瞭に写し撮れることでしょう。 最強!高感度番長伝説(2)星空が動画で撮れる 他製品を圧倒する動画性能 星空をリアルタイムの動画で撮る。ソニーα7Sシリーズの最大の強みです。その例をごらん頂きましょう。上の画像は天体写真で最も多くのユーザに使用されているキヤノンのEOS6Dの「動画」のキャプチャです。真っ暗です。ほとんど何も写っていません。露出条件は「F2.8 ISO25600 1/30秒」。星景写真の標準といわれている「F2.8 ISO3200 30秒」と比較すると、なんと7段も少ない露出条件です。EOS6Dの動画モードでは、ISO25600も1/30秒もこれが限界。F2.8のレンズでは、もうこれ以上明るく写すことはできません。 PSの露出補正で5段持ち上げてみました。これは「F2.8 ISO10万 1/4秒」に相当します。一番明るい星がシリウス。ぎりぎり、冬の大三角が見えています。 しかし、ソニーのα7SIIIなら、動画モードでもここまで写ります。オリオン座も冬の大三角も、明瞭にとらえられています。露出条件は「F2.8 ISO10万 1/4秒」。一つ前の「+5段露出補正」の6Dの画像に相当します。 これが、SONY α7Sシリーズの高感度動画の実力なのです(*)。 (*)EOS 6Dの場合、フレームレートより長い露出時間を使用できないことが大きな制約になっていますが、それでも最大ISO25600は星空動画には低すぎます。最近の動画を強く意識したミレーレス一眼ではかなり向上してきていますが、それでもキヤノンR6が「ISO20万 1/8秒」、パナソニックS1Hが「ISO10万 1/2秒」、同S5が「ISO20万 1/2秒」となっています(*)。 画質を実際に見比べたわけではないのですが、少なくともスペック上ではα7SIIIと勝負できるのはパナソニックのS1HとS5くらいです。星空動画ならα7SIIIがオンリーワン、と控えめに断言したいと思います(*)。 (*)S5の星空動画適性はとても気になります。 もうひとつ例を。冒頭の動画からのキャプチャですが、アンドロメダ大星雲のリアルタイム動画です。長時間露出したスチル画像との画質の差は埋めがたいものがあるものの、動画でここまで写るのは驚異的です。 星空の動画を撮るためのハードルは露出10段分 星空の写真においては「F2.8 ISO3200 30秒」という露出条件が一つの目安となります(*)。これは「そこそこ星がよく見える」場所ならある程度しっかりと星空や天の川を写し出せるレベルです。 (*)空が非常に暗い場所では、もう1〜2段ほど露出時間をかけられます。もちろんもっと明るいレンズでISOを下げて、赤道儀で追尾して露出時間を長くすれば、画質はさらに上がってゆきます。 この露出条件を動画で実現することは可能でしょうか。動画の場合、1フレームの露出時間が必然的に短くなります。一般的な「30p(1秒間に30フレーム)」で撮影する場合、露出時間30秒に対して1/30秒。およそ10段分(1000分の1)も1フレーム当たりの露出時間は短くなってしまうのです。 このハードルをどうやって埋められるかが、星空動画カメラに対する条件になります。 星空動画の現実的な目安は「F1.4 ISO10万 1/4秒」 30pで「F2.8 ISO3200 30秒」相当の露出条件を得る(*)ために必要なISO値を単純計算すると、10段分でISO320万となります。 (*)ISOを爆上げすると画質も爆下がりしますが、ここではそれはまず置いて、同じ明るさの画像が得られるための条件というお話で。 ISO320万なんて、かなり無理ですよね。α7SIIIでも最大ISOは40万、最近発表されたPENTAXのK-3MarkIIIでもISO160万が最大です。現実にはα7Sシリーズの場合でさえ、ISO10〜20万がなんとか実用になる範囲です。まだ4〜5段分足りません。 そこで必要になるのがまずは「明るいレンズ」です。F1.4のレンズを使えば、まず2段。そして、動画がカクカクすることを我慢して、1フレームの露出を延ばします。α7Sシリーズの場合、最長1/4秒まで使えるのでこれで3段。おお、なんとか届きました! というわけで、星空を動画で撮るのことはかなり無理目のチャレンジではあるものの、「F1.4 ISO10万 1/4秒」という設定なら、静止画と同じレベルの画像輝度が得られることがわかりました。 冒頭の動画をごらん頂ければ、静止画として鑑賞するのは厳しいものの、動画なら十分「見られる」と評価できるのではないでしょうか。 高感度時の「アンプグロー」がなくなったα7SIII 実は「 ISO10万 1/4秒」という設定は、6年前に発売された「初代α7S」でもすでに実現できていました。この高感度特性に注目した一部の人たちは、すでに星空動画に取り組まれていたのです。しかし、一つ大きな問題がありました。 これです。α7S/α7SIIの世代では、ISO80000くらいから、画面の左端に赤い「アンプグロー(*)」が顕著に出てしまうのです。これまではこの「アンプグロー」のせいで、ISO10万以上を使うのにはためらうところがありました。画質が荒れるのはまだ許せても、あるはずのない光が写るのには抵抗が大きいのです。 (*)この光の原因が何なのかは不明です。「アンプグロー」という呼び名が適切でない可能性もありますが、天体写真の世界でこのように呼ばれることが多いので本記事では「アンプグロー」と呼称しています。 ところが、α7SIIIではこの「アンプグロー」がきれいさっぱりなくなりました!これは朗報。実際のところアンプグローの存在を別にすると、α7SIIIと初代α7S(天体改造)の高感度動画の画質にはあまり差を感じないのですが、それ以上に「アンプグローがなくなった」ことは大きく思えます。 (*)筆者の初代7Sは天体改造(センサー前の内蔵フィルターを全て除去)しているため「色補正フィルター(人間の視感度に合わせるための水色の色ガラスフィルター)」の露出倍数の分だけ明るく写るというのも差が少ない理由かもしれません。高感度性能の比較はこちらの動画が参考になります。 流星を動画で撮る α7Sシリーズの高感度動画が生きるシーンを一つご紹介しておきましょう。流星です。動画で流星を撮影すると、スチル写真ではわからなかった流星の「色」、特に「短痕」のあざやかな緑をとらえることができます。 中望遠レンズで放射点付近を撮影すると、肉眼では気が付かないような暗い短い流星を多数とらえることができます。動画による流星の捕捉能力は、肉眼以上かもしれません。 車載カメラによる星空動画 もうひとつ、現在天リフ編集部で取り組んでいるのが車載動画です。車にジンバル経由でα7SIIIを搭載し、星空の下を走ってみようという目論見です。 12月のふたご座流星群はこのスタイルで撮影してみる予定です。お楽しみに! デジタル一眼としての天体写真適性 USB給電撮影が可能 α7SIIIでは、USB-Cで給電しながらの撮影が可能になりました。これは長時間の動画やタイムラプス撮影、寒冷地での撮影にとって非常に大きなメリットです。初代α7Sの場合、専用バッテリの容量が小さく(*)一晩撮るには5個でも心もとなかったのですが、7SIIIなら大容量のモバイルバッテリを持参すれば一晩でも楽勝です。純正のバッテリはお値段も張るので、これはさらに嬉しいところです。 (*)7SIIIはより大型のバッテリが使用されています。7S/7SII用のバッテリとの互換性はありません。 強力なボディ内手振れ補正・手持ち星景の可能性   α7SIIIでは公称5.5段分のボディ内手振れ補正が内蔵されています。24mmレンズなら1/fルール(*)に即すれば、手持ち撮影でも「2秒露出」まで使えることになります。 (*)1/焦点距離(秒) までなら手持ちでも撮れる、とする目安 実際に試してみたのですが、EFマウントのシグマ24mmF1.4(MC-11使用)で使用する限りは、2秒ではまったく星は点になりませんでした。1/4秒ならだいたい点像、1/2秒でときどき点像、くらいの感覚です。あくまで筆者のカメラ保持技術と非純正レンズの組み合わせなので、他の方の結果を知りたいところです。 とはいえ、1/2秒が使えるだけでも大きな前進です。個人的には星空スナップ(*)や飛行機の窓から星空を撮る際に大いに期待しています。 (*)星空と人を撮るときは、被写体ブレのため長い露出時間が使えない場合も多いので、1/2秒は実は使いやすい露出時間かもしれません。 追記2020/11/24) 純正レンズSEL20F18を入手したのでテストしてみました。 1/2秒でほぼ確実に止まり、1秒以上では流れが見え始めますが、場合によっては2秒でも使えることもありそうな印象です。焦点距離の違いを考慮してもシグマ24mmよりも1/2〜1段ほど手振れ補正性能は優秀であるように感じました。やはり純正レンズの方が手振れ補正は最適化されているのでしょうか?(*)。 (*)上記シグマ24mmの検証では手振れ補正の設定で焦点距離をマニュアル入力しています。 バルブタイマーとインターバル撮影の限界 これはちょっと残念なところです。まず、バルブタイマー(*)はありません。シャッター速度の上限も30秒です。 (*)カメラ側の設定でスローシャッター上限よりも長い露出時間を使用できる機能。 ソニーに限らず(*)、これまで何度も書いているのですが、シャッター速度の上限が30秒というのは、いったい何の事情なのでしょうか。ただの慣例にすぎないとしか思えません。是非とも60秒、90秒、120秒といった長時間露出が、外部機器なしに可能になるようにしてほしいものです。 (*)キヤノンも上限30秒を頑なに貫いています。ただしEOS 6DMarkIIからようやくバルブタイマーが実装されました。ニコンはZIIシリーズで、D810Aと同じ長時間露出設定が可能になりました。オリンパスは2012年発売のE-M5でも最長は60秒です。60秒まで使えるだけでも大違いです。 インターバル撮影では、α7Sは外部アプリの購入が必要だったのですが、α7SIIIではカメラ内の機能で実現されました。恐悦至極です。撮影回数の上限は9999枚。これはグッドです(*)。 (*)他社機では上限999枚という製品もあるようです。 しかし、細かく見ると使えないところもあります。まず、30秒より長い露出時間は不可。まあバルブタイマーがないのでそれはあきらめるしかないとしても・・・ これが謎仕様なのですが、インターバル間隔の最大秒数が60秒。これでは上の作例のような日食・月食の連続撮影には使えません。せっかくのインターバル撮影機能なのに、これでは片手落ちです。 なぜこのような仕様になったのか不明ですが、ユーザーの声を汲み上げて改良されることを希望するものです。 ブライトモニタリング α7SIIIには、暗所でのライブビューの表示を明るくすることができる「ブライトモニタリング」という設定が可能になっています。これはα7RIIで初めて(*)実装された機能で、カメラが被写体の明るさを自動的に判断してベストエフォートで明るくしてくれる機能です。 (*)α7無印とα7Sは「III」から実装されました。 カスタムキー割当をしないと使えない(*)のですが、これはなかなか便利。1アクションで画面を明るくできます。ブライトモニタリングをONにすれば、天の川は普通に確認できますし、星景写真の構図はこれだけで十分に合わせられます。 (*)メニューを探してもまず設定方法は見つけられません。「知ってないと設定できるがずがない」級です。ぜひこの設定はマニュアルを参照して最初にやっておくことを推奨します。 ただし、ブライトモニタリング状態でピント拡大するとブライトモニタリングがリセットされることや、ブライトモニタリング中は露出・ホワイトバランスなどの設定が反映されないので、うっかり「モニタで見えているから露出も合っているだろう」と思って撮影すると露出が実はぜんぜん合っていないこともあるので(*)、注意が必要です。 (*)ブライトモニタリング中には動画撮影時の赤枠表示のように、グレー枠で囲むとかしてくれるとわかりやすいのですが。 最強の暗視能力の「動画モード」 実は初代α7Sからある機能なのですが、α7Sシリーズには「裏技?」があります。「静止画モード」ではだいたい「ISO25600万 1/30秒」くらいまで露出設定に反映して画面が明るくなりますが、「動画モード」にすればさらに「ISO40万 1/4秒」まで露出設定の通り画面が明るく表示されます。 つまり、動画モードは最強の暗視ライブビューです。ブライトモニタリングよりも、暗所では最大で「ざっくり4段?」ほど明るくなります。ブライトモニタリングにしてもまだ暗くて被写体が良く見えない場合、動画モードの1/4秒にしてISOを爆上げすれば、かなり暗い天体でもライブビューで視認することができます(*)。 (*)F2.8のレンズならバラ星雲は楽勝、注意深く見ればIC2177でも視認できます。 α7SIIIの2つの大きな問題点 あらかじめお断りしておきますが、SONY α7Sシリーズはオンリーワンの能力を持つ素晴らしいカメラです。筆者は初代7Sと今回の7SIIIのどちらも発売後即買いしています。はっきりいってものすごく気に入っていますし、このカメラでしか撮れないシーンが静止画・動画のどちらでもたくさんあります。α7Sシリーズを不当にdisるつもりはまったくありません。 しかし、冒頭の動画でも触れているように、天体写真という特定の用途においては、このカメラには2つの問題点があります。それを明確にしておきたいと思います。 α7S(初代)のStarEater 一つ目は「StarEater(星喰い)」現象です。この現象については、初代α7Sが発売された少し後に、広く天文界隈やネット上で物議を醸しました。不肖・天リフでも何回かこの問題について記事にしていますが、簡単におさらいしておきましょう。 上の画像は「初代α7S」のStarEaterです。StarEaterが発現する「バルブモード30秒露出」と、発現しない「マニュアルモード30秒露出」の比較です。上の縮小画像では差はわかりませんが、下の拡大画像では明らかな違いがあります。その違いをつぶさに見ていきましょう。 ①星が喰われる(消える) 小さな星(微光星)がほぼ消えてしまったり、ぼやけて薄くなってしまったりします。ほかにも、星のエッジが不規則に削られる、1点だった星が2点に割れてしまったり、星に「穴が空く」場合もあります。まさに「星が喰われる」感じです。 ②緑の星(GreenStar)の出現 この問題は実はあまり指摘されていなかったのですが、星の色が本来とは違う色になります。特に「緑」の星が多く出現します。夜空にある星には、よほど特殊な例を除くと「緑の星」は存在しません。そんなあり得ないはずの「緑の星」が多数出現します。これを本記事では以下「GreenStar現象(*)」と呼ぶことにします。 (*)後述しますが、数は少ないものの「シアン」「マゼンタ」「黄色」に不自然に転ぶこともあります。緑の星が存在しないことの良解説は↓こちらをご参照ください。 https://astropics.bookbright.co.jp/why-are-there-no-green-stars ③輝点ノイズの減少 StarEaterアルゴリズムが発動すると、輝点ノイズ、特に色ノイズが減少します。1ドット角の小さな輝点は、ほとんど全て消えてしまっているのがわかるでしょう。賢明な読者の方々はお気づきかと思いますが、実はこの「輝点ノイズを減らす」作用が「StarEaterアルゴリズム」の意図(*)なのです。 (*)ソニー社に確認したわけではありません。筆者の推測ですが、確度はかなり高いと考えています。 で、何が困るの? 「そこにあるはずのものがなくなってしまったり、本来の姿ではない画像になる」というのはすでに問題なのですが、「1枚画像を鑑賞距離で見る限りは判別できないほどの差である」のも事実です。この作用が「まいったね。これは酷い。」と感じるのか、「なんだ。ノイズも減るし別にいいんじゃないの?」と感じるのかは、各人の目的や価値基準によるでしょう(*)。たとえば、星空と風景を撮る「星景写真」では、あまり大きな問題にはならないかもしれません。一方で、天体の淡い・細かい部分を細密に描写することを目的とする、いわゆる「ディープスカイ天体写真」ではより大きな問題となってしまいます。 (*)ソニー社は後者に近いと判断と推測します。 天体写真におけるStarEaterの実戦的な問題については後節に譲り、ここでは「StarEaterアルゴリズム」のもたらす3つの「作用」をまとめておきます。 微光星が消えるなど星が「喰われる」 存在しないはずの「緑の星(GreenStar)」が現れる 輝点ノイズが減少する α7SIIIのStarEater 「StarEaterは、ありまーす」 α7SIIIでもStarEaterは発生します。だだし、α7SII世代以降はアルゴリズムが若干改良されたのか、星の喰われ方が少しマシマイルドになったように見えます(*)。上の画像はα7SIIIのStarEaterと、α7S初代のStarEaterなしの画像の比較です。若干改善はされているものの、星が喰われる、GreenStarが現れる、輝点ノイズが減少するという3つの「作用」に変わりはありません。 (*光学系が前出の画像と違う・わずかにガイドに流れがあるなど、星像径がこちらの方がやや大きくなっているため、厳密な比較ではありません。後述するローパスフィルターの有無による差である可能性もあります。筆者の所有するα7S初代はシャッターユニットの故障でそもそも「バルブ」撮影が不可能なため、新規の検証ができないのです。すみません--;;; 4秒以上の露出時間で発現・α7SIIIのStarEater α7SII、α7SIIIでは、B(バルブ)モードに加えて、M(マニュアル)モードの4秒よりも長い露出時間で発現します。一方で初代α7Sの場合、M(マニュアル)モードでは発現しません。この違いは非常に重要で、α7S初代では「Mモード30秒縛り」でStarEaterから逃れることができたのですが、α7SII以降の機種の場合、長めの露光時間を必要とする天体写真では事実上StarEaterから逃れられないことを意味します。 StarEaterアルゴリズムは、ノイズ処理の一種です。一般に「ノイズ処理」と画像のディテールの維持はトレードオフの要素です。ノイズを減らす処理は、色にせよ輝度にせよ、ディテールを失う結果になります。だからこそ、PhotoshopのCamera rawも他の画像処理ソフトも、ノイズ低減処理には「スライダー」が付いていて、ユーザー側の判断でその度合を決められるようになっています(*)。 (*)jpeg画像のように、画像処理の仕方をある程度カメラ側に委ねる場合は、設定された「画像の処理プロファイル」に応じてノイズ低減処理が行われます。 しかし、SONY機の場合は「ある露出条件」においては、もれなく「StarEaterアルゴリズム」が付いてきます。逃れる方法はないのです。 StarEaterはどう問題なのか では、StarEaterはどんなときに、どのくらい問題になるのでしょうか。具体的・実戦的な例を見ていきましょう。 星の色が緑に転ぶ「Green Star」現象 StarEaterの最大の弊害は、星の色が緑に転ぶ「GreenStar」ではないかと感じています。上の画像がその比較です。どちらも同じ光学系・露出条件で撮影したものを、カラーバランスを合わせた後、彩度を強調したものです。α7SIIIでは、StarEaterによって多くの星が緑色になってしまっています。緑になるだけでなく、マゼンタとシアンにころんだ星も存在しています。推測ですが、StarEaterアルゴリズムが赤と青の偽色を削ってしまうのでしょう。 画像処理でこの緑色は低減は可能でしょうが、かなり苦労すると思います。筆者の技術では「彩度を上げない」以外の対処はできませんでした。逆に、StarEaterが発現する場合は彩度を強く上げることが難しくなる、ともいえます。 赤と青の星像径が肥大する(ないしは消失する) StarEaterアルゴリズムは、GチャンネルよりもRチャンネルとBチャンネルにより強くかかるように見えます。上の画像はα7SIIIでStarEaterの発現しない3.2秒と発現する4秒の各チャンネルの比較ですが、Gチャンネルの星像にあまり違いがないのに対して、RとBではより「星が喰われて」薄くなってしまっているように見えます。原因は不明(*)ですが、結果的にRとBがより「ボケ」たようになるようです。 (*)ベイヤーセンサーの場合、R画素とB画素はG画素の半分しかないため、StarEater以前にRとBの星像径はGよりも大きい可能性もあります。断定するにはデータ不足です。GreenStarはこの現象の結果、RとBの星像がボケて「薄く」なることで、Gの輝度が優位になり星色が緑に偏ると推測されます。 追記2020/11/5)初出時の画像が中途半端に強調処理していて差がわかりにくかったので再処理した画像に差し替えています。レンズの表記も誤っていたので修正しました。下が初出時の画像です。 追記2020/12/9) StarEaterアルゴリズムは輝点ノイズ低減のために存在している→輝点ノイズをダーク減算で補正する「長秒ノイズ低減」を使用した場合は不要なはず?!→気を効かせて「長秒ノイズ低減ON」の時には発動しないかも? そんな淡い期待で検証してみましたが、結果は変化ありませんでした。 そもそもこの程度のISO感度(3200)では長秒ノイズ低減の効果もほとんど感じられないという結果になっています。 「アンダーサンプリング」の問題 実は比較に使用したα7S初代は、天体改造を行っているため「ローパスフィルター(偽色・モアレを防止するため星像をわずかにぼかすフィルター)」が入っていません。このため、当然ですが偽色が出ます。上の画像は、30秒露出の10枚の画像をアニメーションにしたものですが(*)、ローパスなしのα7S初代では、同じ星がコマによってまるで違う色になっていることがわかります。一方で、α7SIIIでは、顕著なGreenStarが出ているものの、星の色の変化はずっと穏やかです。 (*)ガイドが完全だと偽色の変化が確認できないので、少しだけ極軸をズラしています。 ここであらためて指摘しなくてはいけないことは、StarEater以前に、ローパスレスの1200万画素機では偽色の問題が顕著ということです。少なくとも1枚撮りでは(*)、上の例を見る限り星の色を正確に表現することはより困難であるといえるでしょう。 (*)多数枚コンポジットによってこの問題はほぼ解消されるでしょう(コンポジット前の各コマに対して色ノイズ処理を行わない前提)。話がそれますが、偽色が顕著な状態で色ノイズ低減処理をかけると、本来はノイズではないRとBの色情報が削られ、星の色が緑に転びます。StarEater起因のGreenStarよりはずっとおだやかですが、それでもディープスカイでは悪影響を感じるレベルです。 そもそもの話になってしまいますが、StarEaterがなかったとしても、ディープスカイ撮影においては1200万画素のフルサイズセンサーカメラは、昨今の高性能な(星像径の小さい)光学系には画素不足(アンダーサンプリング)による弊害が顕著である、と推測します(*)。 アンダーサンプリングの状態では、星の像はRGBのどれかの画素に集中し「偽色」が出てしまいます。発生した偽色ピクセルに対して色ノイズ低減処理がRとBにより強く作用することで色が失われ、小さな星の色が緑に転ぶのです。そして、この問題をさらに増幅してしまうのがStarEaterであるというのが筆者の仮説です。 高画素モデルでのStarEater では、より画素ピッチの細かいα7Rシリーズ、α7無印シリーズではどうでしょうか。StarEaterアルゴリズムが星をノイズと認識して消してしまうのは、星が輝点ノイズと区別できないほど小さいからと推測できます。画素ピッチが細かくなれば、星は輝点ノイズと比べて大きくなり「喰われる」ことが少なくなるのではないでしょうか。筆者は実機を所有しておらず比較できていないのですが、StarEaterもGreenStarも、より影響が少なくなるものと推測します(*)。 (*)α7RIIIを所有する知人の情報では、StarEaterもGreenStarもほとんど感じられないそうです。「α7R」や「α7無印」シリーズにおいてはStarEaterがほとんど問題視されていないのはこのためでしょう。 高画素機ほどStarEaterの影響は少ない。この推測が事実なら、ソニー社(*)やソニー機を活用する著名フォトグラファーからそういう発信があると、消費者はより安心できると思います。 (*)公式にソニーがStarEaterの存在を認めた形跡は見当たらないので、可能性はゼロに近いでしょうが。。。 ピント拡大4倍に涙 冒頭の動画でも思いっきり嘆いていますが、ライブビュー画面での最大拡大表示(ピント拡大)が4倍までになってしまいました。α7SIIまでは8倍だったので、半分に退化したことになります。 ソニーのオートフォーカスは大変優秀なのでマニュアルフォーカスは重視されていないのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。α7SIIIは主に動画をターゲットにしているので(*)静止画の優先度は低いのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。ソニーの製品担当者様やクールなソニー機のユーザーは皆若くて小さな画像でもよく見えるのかもしれませんが、中高年にとってはとても辛いです。 (*)実は初代α7Sでも「動画モード」の場合の拡大率は最大4倍でした。この仕様が7SIIIでは静止画にまで浸食してしまったのでしょうか。 たいへんくどくて恐縮です。 ピント拡大4倍は中高年にとってはとても辛いです。 ぜひ改良を切にお願いしたいところです(*)。 (*)個人的には優先度はStarEaterより高いと考えています。一般消費者向けのハイエンド製品として、この機能退化はちょっとないのではないかと感じます。 最強!高感度番長伝説(3) α7Sシリーズによるディープスカイ 高画素機ほどStarEaterの影響は少ない。賢明な読者はここでお気づきのことでしょう。そう、高解像度機で影響が少ないのなら、星像径の大きな暗い光学系では、StarEater問題の影響はより小さくなります。それに沿った作例をいくつかごらん頂きましょう。 高感度力・「暗い光学系」でもディープスカイが撮れる α7Sシリーズの高感度が生きるのは、F値の大きな暗い光学系です。上の画像は「F12」という天体写真には一見不向きにしか見えない「暗さ」の純カセグレン望遠鏡「GS150CC」とα7S(初代)で撮影したものです。F値の大きな暗い光学系は、光の回折の影響で星像径が大きくなりますが、逆にそれがアンダーサンプリング問題を軽減してくれます。「暗い」光学系こそα7Sシリーズの「高感度力」が生きるシーンといえるでしょう。1コマあたりわずか20秒ですが、しっかり銀河のディテールを捉えることができました。 「暗い光学系」でもナローバンド 上の画像はワンショットナローバンドによるミルクポット星雲です。「StarEater上等」で、α7SIIIで1コマ5分の露出をかけたもの。F8という「暗い」光学系で、しかも絶対光量の少ないナローバンドですが、ISO25600という高感度が普通に使えるα7Sシリーズでは、総露出時間さえ稼げばちゃんと撮影できます(*)。 (*)絶対光量が少ない場合、ISO設定を高感度にしてヒストグラムを左に寄せすぎないことで、画質がより改善するようです。   StarEaterの影響を低減する方法(追記11/13) 「StarEaterは高画素機ほど影響が少ない」ことと同様、最小星像径が大きくなる暗い光学系ではStarEaterの影響は少なくなるようです。上の作例はα7SIIIに口径106mm焦点距離530mmの光学系に1.6倍の「エクステンダー」を装着して撮影したものですが(*)、StarEater・GreenStarの影響はほとんど感じられません。 (*)FSQ106EDの名誉のために補足すると、本来はもうすこし星像径は小さくてもよい気がするのですが。シーイング・スケアリング・ガイド誤差・ピント誤差などで星像がすこし肥大しているのかもしれません。 「ランニングマン星雲」付近の等倍画像。最小星像径は5px程度です。R/Bチャンネルの星像は若干薄くなっている気もしますが、星の縁や倍率色収差のエッジが削られている様子は見られません。 α7Sシリーズでディープスカイを撮る場合のご参考にしていただければと思います。 モノクロに割り切った撮影 モノクロナローバンドの撮影でもα7Sシリーズは威力を発揮します。モノクロ化してしまう前提なら、偽色もGreenStarも関係ありませんし、モザイク合成なら星像径が肥大することもほとんど問題ではなくなります。光量の少ないナローバンドでは、ISO値を上げても悪影響が少なく、ライブビューでピント・構図が合わせやすい(*)α7Sシリーズは、非常に強力なパートナーになります。 (*)ナローバンドではライブビューで星を視認することが非常に困難になるのですが、α7Sシリーズなら視野内に星が全く見えないことはまずありません。星が1個でも見えていれば、試写画像を元に構図の微調整が可能になります。 「広角星野」は苦手 断言するには情報不足なのですが、以下は個人的感想と考えてください。 前述のアンダーサンプリングの問題のためか、カメラレンズを使用したカラーの「星野写真」には不向きです。星の色があまり出ません。これはStarEaterの問題というよりも1200万画素というアンダーサンプリングがもたらす弊害でしょう。ベイヤーセンサーのカメラで星像径が小さい光学系(*)を使用する場合は、画素ピッチが大きすぎることはかなり不利に感じます。天の川のような微光星の多い領域ではなおさらです。カメラレンズでディープスカイをブロードバンド撮影するなら、筆者は迷いなくα7Sシリーズではなく、より高画素のカメラを選択します。 (*)最小星像径は光学系・F値によっても変わります。一概には言い切れないことにご注意ください。 そのほかのカメラ機能について 天リフはカメラ専門Webサイトではないので、ミラーレスカメラとしてのα7SIIIのいろいろな特長については、ごく個人的な感想にとどめておきます 史上最高レベルのEVF 光学ファインダー終了のお知らせ。と言っても過言ではないほどの、最高のEVFです。像が大きい。色合いが自然。動きがなめらか。動きの激しい対象であっても、もうこれなら光学ファインダーに戻ることはないだろうと思えるクオリティです。これだけでも、このカメラは値打ちのある人には値打ちがあるのではないでしょうか。 とはいえ、筆者のような使い方をする場合には、EVFはほぼ使わないのですが・・(*) (*)唯一EVFを使うのは、他の人の邪魔にならないように背面モニターを光らせたくない場合です。 Image Edge Mobile スマホから静止画・動画の撮影ができる、きわめてシンプルなアプリです。動画の自撮りのときには特に重宝します。初期接続もQRコードで一発。筆者にとって初めて「これなら使ってもいいな」と思える操作性でした。スマホアプリを使用する人は特にスチル派では少ないと感じていますが、これはもう使わないと損です。お手軽ベランダ撮影の場合でも部屋の中からシャッターを切れるだけでも便利です。 しかし、欲をいえば画面の拡大がしたいところ。等倍表示のみなので、ピントを確認するのは困難です。そもそも、フォーカス制御の機能はないようです。(純正レンズならできるのかもしれません) キヤノンのカメラ制御アプリ「Camera Connect」の場合は、拡大表示が最大4倍と低いものの、ピント位置をステップ単位で制御できるので望遠レンズでのピント追い込みに有用でした。せめてそれくらいには機能アップしてほしいものです。 特筆すべきは「ミラーモード」の存在。鏡像にすることができるため、RASAのようなプライムフォーカス光学系で電視観望する際に正像で表示することが可能です。 オートピクセルマッピング 公式サイトによると「ピクセルマッピング」は「イメージセンサーの最適化」を行うための機能とのことです。推測ですが、バイアスを撮像して輝点ノイズを低減するようなことをしているのでしょう。実は初代α7Sにも「ピクセルマッピング」の機能は存在しました(*1)。ただし「完全自動」で、ユーザーの意図とは無関係に定期的に実行されるようになっていたようです(*2)。 (*1) 同様の機能は他社の製品にも存在するようです。 (*2)電源オフ時にメカシャッターが時々動作するのですが、その際に実行されているようです。 7SIIIでは、この「オートピクセルマッピング」を設定でOFFにできるようになっています。具体的にどんな用途を想定しているのかは不明ですが、ダーク減算をする場合には、カメラ内のバイアス情報が変更されてしまわないように「切」にしておき、ライトフレームとダークフレームが同じバイアス情報を使用するようにしたほうがいいのかもしれません(*)。 (*)そもそも筆者の場合はバイアスを撮像したことがないので、差があるのかどうかはよくわかりませんが。。 もう一つ、サイレントモードに設定した際にのみ「オートピクセルマッピング」を「切」にする設定もあります。サイレントモードで「音が出ることがある」ケースを回避できるようにしたのでしょうか。 まあ何が言いたいかというと、こういう限られた?用途に対する細かな気配りと設定を可能にする開発ポリシーがあるのなら、StarEaterもなんとかしてよ、ということです^^ 実は4800万画素?!の噂は本当? α7SIIIは一時期「実は4800画素のクワッドベイヤーセンサーを搭載している?」という噂が出たことがありました。 https://cameota.com/sony/32586.html しかし、発売後一ヵ月近く経過した今も、まだ「顕微鏡で拡大したら実は4800万画素だった!」というニュースはまだ眼にしません(*1)。本当のところはわかりませんが、少なくとも実使用においては「実は4800万画素かも?」という兆候(*2)は、筆者は一切確認できませんでした。 (*1)ソニーのイメージセンサーIMX294にもクワッドベイヤー構造であるとの噂があります。 (*2)輝点ノイズの最大輝度が初代α7Sとの比較で1/4になっているかも?という期待をしていたのですが、そんな様子はないようです。 ソニーのクワッドベイヤーセンサーとは、RGBの各画素を4分割し、異なるゲインで読み出すことでダイナミックレンジを拡大できるというものです。ISOを上げてもより白トビしにくくなるなど、天体撮影にとっても有用そうですが、実際にその機能を発揮できるカメラはもう少し先の機種になりそうです(*)。 (*)とはいえ、残念ながら偽色の点では低画素モデルと同じかそれ以上に悪い挙動になる可能性もあるのでディープスカイ撮影適性は不明であると推測します。 どんな人に向いているか 「リアルタイム星空動画」のほぼ唯一の選択肢 星景写真家前田徳彦さんの動画。α7SIIとα7SIIIでリアルタイム星空動画に取り組んでいらっしゃいます。  星空のある動画を撮るのなら、α7SIIIはほぼ唯一の選択肢です。機動力を重視した手持ちでもよし、しっかり三脚に固定した撮影でもよし、ジンバルに載せて動きをつけるもよし。 星空のリアルタイム動画は、まだ本格的にやる人が少ないので、今がチャンスかもしれません。多くの人が動画に参入すれば、静止画の表現にも少なからず影響を与えていく可能性すらあります。 お手軽「電視観望」の最終兵器 天体用CMOSカメラを望遠鏡に取り付けて「ライブスタック(*)」機能を使用して星空を「半・リアルタイム」で見る、「電視観望」というスタイルが最近注目されています。 (*)短時間露出の撮影画像をソフトウェア的に「重ね合わせて(コンポジット)」より高画質の画像を得る方法 α7Sシリーズはこの「ライブスタックによる電視観望」と同じ時期から注目されているカメラです。α7Sシリーズなら、星空をよりリアルタイムに近い臨場感で見ることができるのです。強化された最高レベルのEVFは、電視観望でこそ生きるのではないでしょうか。大幅に強化された動画機能を組み合わせれば(*)、より臨場感のある電視観望が可能でしょう。 (*)月のような明るい天体なら、4Kの解像感を生かしたライブ表示が可能でしょう。一方でISOを20万のように爆上げすると、4KもHDもさほど差を感じない画質になります。 電視観望用途でも初代α7Sはまだまだ存在価値があります。公式ストアの新品の販売は終了していますが、中古品なら10万円台前半で入手でき、数万円で天体改造も可能です。「お手軽電視観望」ならこちらも大いにオススメといえます。 お手軽天体写真・星空スナップ α7SIIIなら、肩肘張らなくても、ごく自然に星空が撮れます。ISO25600にして絞りを開放にして露出1秒。運が良ければ手持ちでもOK。星空やその周りの風景・人々を被写体ブレを最小限に抑えた形で撮ることができます。 重い三脚や赤道儀を持たずにフットワーク良くカメラだけで撮り歩く。そんなスタイル(*)にかなり近づくことができるのではないでしょうか。 (*)筆者は個人的にはこんなスタイルに強く憧れるのですが・・・皆さんはいかがですか? α7SIIIを購入したなら、星空を撮らないと損! 実はこの記事で一番言いたいことはこれかもしれません。α7SIIIは決して「数が出る」カメラではないのですが、それでもいわゆる「天文ファン」よりもはるかに多くの写真愛好家や動画クリエイターが手にすることでしょう。 このカメラを手にしたのなら、星空撮ってみないと損ですよ!? キレイな星空の下であれば、間違いなく「へー、星空ってなかなかスゴイ被写体なんだね」と感じることでしょう。クリエーターとしての貴方の何かを刺激するはずです。それが1回こっきりで終わったとしても、その経験は今後の創作活動において間違いなくプラスになります。「星空のような暗い被写体がごく普通に見えて、撮れる」というこのカメラの凄さを、ぜひ星空で経験してみてください! まとめ いかがでしたか? α7Sシリーズ、その中でもα7SIIIは「強烈な個性を持ったオンリーワンの凄いカメラ」です。圧倒的な高感度性能と動画性能。ボディ内手振れ補正や高性能のAF、史上最高レベルのEVF。どこかのレビュー記事にもありましたが、画素数が不足する以外は完璧に近いカメラ、という表現には強く同意できるものです。そのα7SIIIの高感度性能、特に動画性能が最大に生きるのが天文分野だといえるでしょう。 一方で、画素数の不足の問題が最も顕著に出るのがディープスカイ撮影である、という事実も強調しておかなくてはなりません。昨今の高性能レンズは、波動光学的な限界に近い解像度を叩き出す製品すらあります。センサーの画素よりも星が小さくなってしまう「アンダーサンプリング」の問題は、ガチのディープスカイ天体写真家は今後より強く意識しなくてはならないでしょう。 という極端な2つの個性を持ったα7SIII。カメラは道具です。使いこなすのは人間。そしてその目的は、撮影者の意図したメッセージを自分も含めた「誰かに」伝えることです。尖った個性を持つ新しい道具の選択肢が示されたことに大きな喜びと期待を感じずにはいられません。 それでは皆様のご武運をお祈りします。またお会いしましょう!編集部発信のオリジナルコンテンツ