みなさんこんにちは!

天体の導入はお得意ですか?スターホッピングの匠の技を身につけなくても、らくらく「手動」天体導入ができる時代が、ついにやってきました!

今回ご紹介する、セレストロン社の「StarSense Explorer 」は、とにかくスゴイ。望遠鏡に取り付けたスマホのアプリ(SkySafari風)が、カーナビのように目的の天体までナビゲートしてくれます。そして鏡筒を振り回すのは「モーター」じゃなくて「あなたの手」。ギュイーンと振って、目的の天体に向けて微調整、そしてロックオン!



この感覚。「これだよ、父さん!僕が欲しかったのはこれなんだよ!」天文マニア5万人が待ち焦がれていた、そしてこれから星空を楽しむ500万人の天文ファン予備軍のための、新時代の天体望遠鏡をさっそくご紹介していきましょう!

StarSense Explorerの使用体験

百聞は一見にしかず

まず、上の動画をごらんになってください!一生懸命編集しました^^ StarSense Explorerをぜひ仮想体験してみましょう!

目標が明快

続いてStarSense Explorerの「何がイイのか」を順にひもといていきましょう。上の画像は目標の天体を指定した直後の状態ですが、オレンジ色の矢印が天体に向かって伸びています。標が常に明確にアプリに表示されているのです。「君の今の目標は火星なんだよ」「その火星はこっちだよ」まさに「勇者よ、まず北にゆけ!」状態です。

導入のプロセスが「見える」

目標に向かうプロセスが可視化されていることは、何かを成し遂げる上でとても重要な要素。StarSense Explorerの場合、望遠鏡の向きを変えると矢印がリアルタイムに変化していき、対象に近づくと対象円と目標天体が表示され、どのくらい近づいているかが一目瞭然になります。「今何をやっているのか」「目標まであとどのくらいなのか」がいつも確認できることで、心折れやすい弱き人間を励ましてくれるのです。

導入の達成感

無事目標の天体が(ほぼ)導入できると、視野円がから変わります。やったぜ、目標クリア!。個人的にはここで画面に花火があがってもいいくらい(*)だと思いました^^

(*)ASI AIRのPoler Alignment機能では、正しく設置できると画面に花火が上がります。

難易度は対象次第・淡い天体を見つける試練

火星を導入して観望。実際の火星はもうすこし小さいです^^;;

しかし本当のご褒美と試練はこれからです。アプリは「ここだ!」と言った。でもゲームはまだ終わっていません。さあ、接眼レンズを覗いてあなたの眼で天体の姿を見てみましょう。惑星のような明るい天体なら、覗いた瞬間にその姿を視野の中に見つけられるはずです!

らせん星雲NGC7293。近傍に目立った星も少なく、かなり難易度が高い対象ですが、空の暗さに助けられ無事視認できました。

一方で、例えば「らせん星雲(NGC7293)」のような淡い天体の場合は、すぐには見つからないことでしょう。視野の中をじっくり探してみましょう。きっとどこかに見えているはず!でも空が良くなかったり、経験が不足している場合は、見られないかもしれません。しかし、これは勇者に課せられた乗り越えるべき「試練」です^^

ご褒美は美しい天体の姿

左からいて座のM8、ペルセウス座の二重星団、土星。肉眼で見た印象に近づけてみました。

目標の天体は見つかりましたか?無事みつけられたら、何だか無上のヨロコビが湧いてくるはず。慎重に、視野の真ん中になるように望遠鏡を調整しましょう。自動追尾してくれるわけではないので、星は少しづつ動いて逃げていきます。ピントをしっかり合わせて、じっくり天体を眺めてみましょう。最大のご褒美は今まさに眼にしている天体のナマの姿なのです!さらにじわじわと感動がこみ上げてくるに違いありません!

「ゲーム感覚」の意味

StarSense Explorerの広告コピーには「望遠鏡を覗かずゲーム感覚で星を探せる!」とあります。筆者は感覚の古い人間なのでしょうか、この「ゲーム感覚」の意味がよくわかりませんでした。しかし実際に使ってみると、「ゲーム感覚」と呼ばれる事象の多くの要素(*)が盛り込まれていることがわかります。

(*)「ゲーム感覚」には明確な定義は存在しないようですが、「目標の可視化」「段階的な難易度設定」「プロセスの可視化」「達成感」「ご褒美と試練」「ペナルティ」「レベルアップ」「誰かのために頑張る」「仲間」などの要素があるようです。定義というより、これはゲームそのものから学んだ方がよさそうですね。

天リフ的には、StarSense Explorerの最大のご褒美は「美しい天体の姿」であることを重ねて強調しておきたいと思います^^

もっと「ご褒美」があってもいいかな?

ここから先は要望レベルなのですが、「レベルアップ」や「ご褒美と試練」など、さらに工夫できる可能性があると感じました。人間が「何らかの”仕事”なり”遊び”を、より楽しく能率的にやるためにゲームの要素をとりいれる」というのが「ゲーミフィケーション」ですが、そんな要素をまだまだ取り入れられる気がします。

導入した天体が「見えた!」のか「見えなかった!」のかをアプリにフィードバックして、「自分の観望記録ノート」を持てるようになると、すごく励みになる気がします。ほかにも「あなたは天体を10個見ました!トロフィーを差し上げます」とか、30個、50個、100個と増えるにつれてメダルが増えるとか。「8惑星コンプリート」「有名な天体コンプリート(*)」「ちょっと難しい暗い天体を20個を見てみよう」のようなクエスト系もあると面白いかもしれません(**)。

(*)球状星団や楕円銀河のような「ワンパターン(^^;;)」な天体をたくさん見るのは、ある意味「苦行」に近い部分もあるのですが、それを「クエスト(試練)」としてしまえば、面白く遊べそうです。

(**)これまで見た天体の内容によって「称号」が変わっていくとかも面白そう。「駆け出し一等星ハンター」「銀河マニア」「闇の暗黒星雲大王」とか^^;;;

このあたりはソフトウェアの強化次第で、後からなんとでも拡張できるはずです。ユーザー目線のより面白い天体観測のやり方を提案できるようなアプリになると、もっと素晴らしいと思います!

「カメラを使わないスマホ」との違い

「星どこナビ」を搭載したレイメイ藤井のRXA103

実はスマホを望遠鏡に取り付けて導入支援を行える製品は、天リフで以前レビューしたレイメイ藤井の「星どこナビ」などがすでに存在します。しかし決定的な違いは、スマホ内蔵カメラによる位置解決を行っているかどうか。これが従来の技術よりはるかに高い精度(*)を実現したStarSense Explorerの大きな進歩点といえるでしょう。

(*)スマホの方位センサー(地磁気センサー)は周辺の磁性体に影響を受けやすく、あまり高い精度を出すことができません。せいぜいファインダーの視野内に導入できるくらいでしょうか。ちなみにGPSセンサーでも方位を検出できますが、これは移動していることが前提で一箇所にじっとしている場合には判別できません。

StarSense Explorerの使い方

StarSense Explorerの使い方はとてもカンタンです。ときおり変な?訳語が出て戸惑うこともありましたが(*)、マニュアルなしでもじゅうぶん使えるレベルです。

(*)今後アップデートされていくとは思いますが、より初心者でもわかりやすい簡潔な訳語に改善されることが望まれます。

アプリをインストールする

このリンクはAppleストアですが、Google Playストアからもダウンロードできます。 https://apps.apple.com/jp/app/celestron-starsense-explorer/id1368600689

まずアプリをインストールします。StarSense Explorerは無料アプリなので、インストールして試すだけなら、対応スマホがあれば誰でも可能です。

ただし、フル機能(スマホのカメラによる位置解決)を使用するには、製品に添付されたラインセンスキーの入力が必要です。一つのキーで最大5台のスマホが使用可能です。

ちなみに、望遠鏡モデルの選択は星図アプリ上の視野円の大きさに連動しています(*)。LT80AZの場合は、1.1°と0.4°の2つの視野円が表示されます。

(*)ほかにも何か望遠鏡によって挙動がかわる部分があるのかもしれません。ちなみに視野円の大きさの設定はアライメント終了時に反映されます。

鏡筒(架台)にスマホを取り付ける

スマホは専用のドック(クレイドル)に装着します。ドックには1枚の大きな平面鏡があって、スマホの画面が望遠鏡の方向に対して使いやすい角度になるようになっています。

右上の画像は鏡越しに見たスマホのカメラ。はじめて使う際は、カメラがこの画像のように見えるように調整しておくとよいでしょう。

これは実は重要で、鏡なしで直視する形だと、望遠鏡を天頂方向に向けたときに、スマホ画面が「下向き」になってすごく見にくくなってしまうのです。

このドックは良くできていて(*)、ワンタッチでスマホを脱着でき、後述のアライメントでのカメラの位置合わせも、2つのネジでカンタンに行うことができます。

(*)スマホを脱着した場合の位置の再現性もじゅうぶん高く、再アライメントしなくてもそこそこ使える感触でした。

アライメント

StarSense Explorerは言ってみれば「電子ファインダー」です。眼で見る代わりに、スマホのセンサーとカメラを使用して向いている方角を検知します。このため、光学ファインダーの光軸合わせに相当する作業(アライメント)が必要になります。しかし、光学ファインダーの光軸合わせよりもはるかにカンタン

作業は2ステップ。まず、スマホのカメラがケラレなく空を見られるように、鏡とカメラの位置関係を調整します。この作業は一度済ませておけば、違うスマホを装着しない限りほぼ不要です(*)。

(*)この調整はかなりラフでも問題は少ないようです。iPhone6とiPhone11を何も調整せずに入れ替えて使用しても、さほどずれることなく実用レベルで使用できました。

スマホのカメラレンズとミラーの位置調整機構。前後左右の2軸のラックピニオンがあって、矢印のツマミを回してそれぞれ平行移動が可能になっています。iPhone11のカメラの場合、スマホカメラはほぼケラレなく全ての視野がとらえられました(下画像左)。

 

左は拡大前の画面。かなり小さいので、正確に合わせるには画面をピンチで拡大します。最大で右の画面くらいに拡大ができます。

次に、地上の遠くの対象物を望遠鏡の中心に導入し、スマホの画面に表示される十字線と合わせます。光学ファインダーのようにネジを回す必要はなく、画面をタッチしてスライドさせるだけ。そのままではさすがに細かすぎてわかりにくいので、画面をピンチして拡大するのが推奨。

筆者がやってみた感覚では、このアライメントは目分量でも±0.1°程度の精度は十分出せると感じました。ポイントは、架台が決して堅牢ではないため、スマホ画面と接眼レンズの像を交互に見て、うっかりずれてしまったまま(*)アライメントを完了させないことです。

(*)スマホ画面にタッチする必要があるので、その際に鏡筒がずれてしまうことがあります。わずかであれば問題なのですが、ガクッと動くこともあるので、アライメント完了前に望遠鏡に振れないように注意しながら、スマホ画面と望遠鏡の視野を最終確認するようにしましょう。

マニュアルでは、アライメントは昼間のうちに済ませることを推奨しています。ある程度慣れれば、夜景の灯火でも(*)合わせられますが、少なくとも購入した最初は昼間に一度行っておくのがよいでしょう。

(*)スマホのカメラで目視できるくらい明るい星(惑星やシリウスなど)で行うことも不可能ではありません。星は日周運動で動きますが、素早くアライメントできるように慣れてさえいれば、精度的には問題なさそうでした。

後は天体に向けるだけ

アライメントを済ませたら、どこかの空に向けてみましょう。少し待つとスマホのカメラが自動的に空を撮影し、星並びから向きを判別して望遠鏡の方角に星図画面を合わせてくれます。後は望遠鏡を自由に振り回すだけです。

ただし、星並びが最初に判別されるまでの間は、星図はあさっての向きを指していることがあります。スマホの方位(磁気)センサーは使用していない感じでした。ただし、一度でも星並びが判別できれば、アプリをバックグラウンドにしない限りは(*)、そのときの情報をもとに星図と望遠鏡の向きが連動して表示されます。

(*)iOSの場合。Androidの場合は挙動が違うかもしれません。

目標の天体の指定方法

いくら便利で簡単な導入システムであったとしても、知らない対象・発見できない対象を導入することはできません(*)。天体の知識を持たない人に、いかにして「見ておもしろい」天体を見つけてもらえるかが鍵になります。

(*)これは「自動導入」でもまったく同じです。

左下の★マークが「今夜のオススメ」、検索マークがジャンル別の対象リストです。

StarSense Explorerでは、メニューバーの「★」アイコンをタップすると「今夜のベストオブジェクト」の一覧が表示されます(*)。月や惑星・有名な星雲星団などが画像付きで見られるので、気になる対象をタップするだけ。数も多すぎず、初めて使う人でもまずはこれを頼りにすれば、一通り楽しむことができるでしょう。

(*)本稿執筆時(アプリのバージョンは1.05)では、一覧表示ではカタログ番号以外の対象の「名前(愛称)」がまだ日本語訳されていませんでした。メシエ天体も「メシエ(M)」ではなく「Messier」の表示です。詳細画面では日本語ですが、一部英語のままの天体があるようです。なお、「都市表示可能」は「都市部の空でも見える天体ですよ」、「暗い空が見える」は「暗い空で見るのがおすすめですよ」の意味だと推測します。

メニューの検索アイコンをタップすると、ジャンル別に天体を一覧することもできます。メシエ天体は110個すべてが網羅されています。カルドウェル天体は日本ではあまりなじみがないようですが、北アメリカ星雲・網状星雲などのメシエカタログにない有名どころを109個網羅したカタログなので、カタログ番号を知らなくても画像を頼りに巡ってみる価値の十分ある天体ばかりです。

他にも、明るい恒星・二重星・アステリズム(明るい星並び)・星座のリストがあります。どれもじゅうぶんに楽しめ、対象を見つけるのに役立つでしょう。



 

文字列で検索することも可能。「M16」「NGC7293」などのカタログ番号も使用できますが、IC番号では検索できませんでした。「シリウス」や「北アメリカ星雲」などの日本語名も検索できないようです(*)。

(*)完全な日本語化は大変だとは思いますが、せっかくの初心者でも使える良いツールなので、ビクセンの「スターブックテン」ですでに実現できていることでもあり、ぜひ早期により完全な日本語対応を実現して欲しいものです。

上手に使うコツ

待つべき時は待つ

アプリ画面には、現在の「スターセンス」の状態に応じて、きめ細かくガイダンスが表示されます。左から、①昼間で星がみつからないとき②望遠鏡が静止しておらず星を認識できなかったとき③星の認識に成功したとき④月夜のとき

StarSense Explorerは、たえず(*)星空をカメラで撮影し望遠鏡の向きの情報を修正しています。しかし、望遠鏡を動かしたり手で触れて「ブレ」ているときは、星の位置が検出できないことがあります。望遠鏡の方向を大きく動かしたときや、対象の導入の最後の「追い込み」の前は、位置解決が行われるまで望遠鏡に手を触れずに少し待つ(10秒〜)のがよいでしょう。

(*)画面のメッセージを見る限り6秒に一回程度撮影しているように見えます。

星が見えている方向に向ける

StarSense Explorerのカメラが実際に捉えている視野。アプリを使う際にはカメラ画像は一切表示されず、カメラの存在を意識すべき箇所もないのですが「この範囲をカメラが見ている」感覚を把握しておけば、雲が多いときなど役に立つかもしれません。

雲や地上物、マンションの庇などで星空が隠れている場合は、その方向の星をStarSense Explorerはとらえることができません。位置判別がうまくいかない場合は、カメラを一星が番よく見えている位置に向けることで、位置判別の確率が上がります。このとき、カメラの中心は望遠鏡の向きと少しずれていることに気を付けると良いでしょう。LT 80AZの場合は、望遠鏡の中心よりも上側をより広く捉えるようになっています(*)。ベランダの庇ギリギリの対象の場合、対象よりやや下側に望遠鏡を向けることで、星を捉えやすくなるようです。

星図アプリと星を照らし合わせる

再掲。NGC7293らせん星雲の導入例。

暗い天体の場合、対象を望遠鏡の視野内のどこかに導入できていたとしても、すぐには視認できないことが普通です。ここから先の世界は、やはり経験がものをいいます。みえるかどうかギリギリの天体の場合、最後の同定手段は「星並び」です。アプリの画面と実際の星を照らし合わせて見つけ出すしかありません。付属の接眼レンズを使用する場合はアプリの視野円が助けになりますし、星図アプリは自在に拡大・縮小が可能なので、紙の星図を使うよりははるかに楽だといえます。

対応するスマホとStarSense Explorerの導入精度

じゅうぶんな導入精度

視野中心に対象を導入し、その状態のスマホ画面をキャプチャしています。月明のないときにSQM=17.5程度の光害地(福岡市荒津)で。月明無し、快晴。iPhone11.

StarSense Explorerの導入精度はどのくらいなのでしょうか。実使用時の導入状況の例が上の画像です。全7回のうち、5回は0.4°の視野円におさまりました(±0.2°)。しかし、±0.5°程度にずれることもあります。具体的に0.5度のずれは、1.1度(36倍)の視野内には収まるが「視野の端っこ」くらいにある誤差です。

精度を統計的に評価できるほどのデータはないのですが、体感的には「ほぼ確実に1.1度の視野内に入る」「半分くらいは真ん中近くに入る」といえると思います(*)。

(*)導入精度は空の条件にも左右されるようです。空の状態が良い場所では、0.4度の視野円に収まる確度が上がるように感じました。より多くの星をカメラで捉えることができるので精度が上がるのでしょうか。

アライメント時の画面。左が望遠鏡のコリメート画像、中と右はスマホの画像。

アライメントの誤差は導入精度に直結するはずですが、特に十字線アイピースなどを使わず目分量でアライメントしたとしても、ていねいに行えばアライメントの誤差が問題になることは少ないと感じました。上の画像は実際にアライメントしている時の実視野とスマホ画面ですが、この状態で±0.1°程度のアライメント精度が出ているはずです。

導入精度はアライメント精度以外の要素がより大きいようなので、アライメントはあまり神経質にならなくても大丈夫でしょう。

月明のないときにSQM=17.5程度の光害地(福岡市荒津)で。月齢10の月が南天にある状態。北天には地上灯火はなく、天気は快晴でした。スマホはiPhone11.同じ日に月没後にSQM=20.5程度の場所で使用したときは0.4°の視野円内にほぼ導入できました。

スマホカメラによる位置解決の精度の再現性を見るために、ほとんど日周運動のない北極星を望遠鏡の視野の中心に導入した状態で望遠鏡を固定し、StarSense Explorerが位置解決を実行する度に画面をキャプチャし、画像を重ね合わせてみました。全11回の位置解決のぶれは±0.15°程度でしょうか(*)。

(*)中心から0.3度ほどずれていますが、StarSense Explorerの誤差には①アライメント誤差②位置解決の誤差(*)③位置解決毎のランダムなぶれの3つの要因が考えられます。③のランダムなぶれは、空の条件とあまり関係なくいつも発生しているように感じた一方で、②の誤差は空の条件が悪いと(光害、月、薄雲など)大きくなるように感じました。基準となる星の数が十分多ければ②の誤差は星像径くらいまで小さくできるはずですが、スマホの広角カメラのではそこまでの精度は出せないのかもしれません。

StarSense Explorerの総合的な位置解決の精度と誤差の要因については、これだけの検証では結論は出せませんが、最悪に近い条件(月齢10、光害地)であっても±0.5°程度は期待できそうな感触でした。この精度なら中心ドンピシャではなくても、視野に確実に導入できることになります。総合的に十分な導入精度であると感じました。

要求されるスマホの要件

カメラの性能

StarSense Explorerはスマホのカメラ性能が一定レベル以上でないとうまく動作しません。これは、望遠鏡の向きを星並びをカメラで撮影することで判別しているため、当然のことです。カメラの低照度性能が低いと判別可能な星の数が少なくなり、望遠鏡の向きを認識することができなくなります。街灯りで空が照らされた市街地や、強い街灯や月などが星の近くにあるときも同様です。

左)天の川が見える場所なら薄明中でも普通に動作します。中)福岡市港湾部のSQM17.5の場所(中央区荒津)。iPhone6Sでも余裕。右)自宅ベランダ。上階の庇と隣接マンションの燈火でiPhone6Sはほぼ×、iPhone11なら問題なし。

今回、スマホは「iPhone6S」と「iPhone11」の2つを使用しましたが、天の川が見える空ではどちらも問題なく向きを認識することができました。近隣に灯りが少なければ、3等星程度まで見える光害地(SQM17.5程度)であっても問題なく認識できました。ただし、隣のマンションの燈火に照らされる自宅のベランダでは、iPhone6Sでは認識率が著しく低下(*)しました。

(*)明るい星が少ない秋の南東付近の空の場合。明るい星が多いオリオン座周辺の場合はiPhone6Sでも問題なく認識しました。

星を正しく認識できたときの2つの機種の精度の差は特に感じませんでしたが、「星を認識できるかどうか」については明らかな差があるようです。

カメラ以外の要件

アプリが動作するバージョンのOSであることは当然ですが、カメラ以外にも備えるべきセンサーなどのいくつか要件があるようです。セレストロン社のHPに対応機種リスト(動作確認済・動作するはずだが未確認・対応要件外)があります。ビクセンからも対応機種に関する注意がリリースされていますので、事前によく確認が必要です(*)。

(*)StarSense Explorerの仕組みとして、星の位置から望遠鏡の向きを同定し、以降はジャイロセンサーと加速度センサーで望遠鏡の「相対的な動き」を認識しているものと推測します。この2つのセンサーの「分解能」が低いと十分な導入精度が得られないことになります。

事前にアプリをインストールして動作対象かをチェックする

StarSense Explorerのインストールは無料で誰でも可能です。インストールすればアプリが機種を認識し動作対象かどうかをチェックしてくれるようです。ユーザーにとっては自分のスマホが全て。購入した後に非対応に気づくのは悲しすぎます^^;; 購入前にまずアプリをインストールして起動してみることをオススメします。

月明かりと雲の影響

月齢10の月が南天にある状態ですが無事認識してくれました。北天には地上灯火はなく、天気は快晴でした。スマホはiPhone11.月明のないときにSQM=17.5程度の光害地(福岡市荒津)で。

月明りがある状態でStarSense Explorerを起動すると「月の近くではうまくいかないかもしれないよ」という意味のメッセージが表示されますが、それでも条件によっては認識してくれるようです。上の画像は月と木星がすぐ近くにある状況ですが、この状態でも位置認識は無事実行されました。ただし、精度は若干低めで1.1度の視野円からはみだすこともありました。

雲の影響については残念ながら確認できませんでしたが、当然ながら目標周辺が雲で完全に隠されてしまうと位置解決はできません。その場合は、前回解決した位置情報を元にスマホのセンサー(ジャイロ、加速度)でナビゲートされます。前回解決した望遠鏡の向きから離れるほど誤差は大きくなりますが(*)、あまり大きく離れない限りは普通の星座アプリよりは高い精度で位置を認識してくれるように感じました。

(*)3°くらいの誤差は普通に出ます。「望遠鏡を動かしたときは(位置解決が実行されるまで)少し待つ」必要があるのはこのためです。

製品バリエーション

日本での販売は4機種

参考価格は天リフ調べ。

StarSense Explorerを搭載した天体望遠鏡は、国内では上記の4機種が販売されているようです。今回お借りした製品「LT80AZ」は、口径80mm・焦点距離900mmの屈折式モデルです。

DX経緯台のスマホ装着部。専用のバヨネット規格で片持ちフォークの鏡筒の反対側にはめ込むようになっています。

「DX」で始まる型番の製品は「DX経緯台」という上下水平微動装置のある上位モデルで、三脚も一回り太め。ビクセン規格のアリガタ対応、スマホは架台側に装着します。「LT」で始まる型番の製品は上下微動装置のみの簡易版経緯台で、アリガタには対応せず、スマホは鏡筒側に装着します。

付属する接眼レンズは全機種10mmと25mmの2個。倍率は総じて低めで、特にバローレンズの付属しない上位モデル2機種は最高倍率が65倍程度。惑星を観察するには明らかに不足です。高倍率にも耐えられるはずの上位クラスの架台なのですから、これは焦点距離5mm前後の接眼レンズを追加すべきでしょう(*)。

(*)現在の構成では、DXシリーズの位置づけが若干不明瞭な気がします。低倍率で観望することを主目的にしたパッケージングなのでしょうか。初めての購入者なら、惑星も月も高倍率で見たくなると思いますが・・・筆者の個人的なリコメンドは、価格が手ごろで初めての人にとってオールラウンドで使いやすいLT80AZです

天体望遠鏡としてのクオリティ

https://www.vixen.co.jp/post/200626k-2/

LT70AZ以外の全機種を天体望遠鏡ショップの店頭で見てみましたが、米国市場が主であるセレストロン社の「アメリカン」なデザインテイストはともかく、質感的にも各部の造り的にも、ビクセンのポルタIIシリーズと比較すると、若干の差を感じてしまうところがないわけではありません。StarSense Explorerを、より使いやすく安定しているポルタIIやAP赤道儀で使いたい(*)、という思いは激しくつのります。

(*)大事なことなのでこの後何度も繰り返します。

しかし、仮に廉価クラスの天体望遠鏡であったとしても、StarSense Explorerがあればユーザー体験が一変するのは間違いありません。そのくらいのパワーをStarSense Explorerは持っています。何が一番ユーザーを幸せにできるのか。それは実際に使ったユーザーとその総和である市場が今後決めることとなるでしょう。

StarSense Explorerの単体販売はあるのか

セレストロン社の主力ラインナップである自動導入対応のシュミットカセグレン望遠鏡群。https://www.vixen.co.jp/product/tls10181/

胎内星まつりのライブ動画でのビクセン社のコメントから判断する限り、セレストロン社はStarSense Explorerを「エントリ機種向け」と明確に位置づけているようです。ここから上を望むなら、NexStarなどの自動導入架台を使ってほしい、というコンセプトです。

これはある意味当然で、自動導入機能をすでに持っている架台では、StarSense Explorerの存在意義は大幅に低下します。企業経営の観点でもユーザー利益の観点でも、より上位のセレストロン社製品にStarSense Explorerを搭載するメリットは少ないといえるでしょう。

一方で、StarSense Explorerの単体販売の可能性はどうでしょうか。汎用のネジ規格を備え、ユーザーが自分が所有している望遠鏡に装着できるようなコンセプトです。筆者なら、15,000円なら即買いです。20,000円でも十分検討の余地がありますし、25,000円でも購入するかもしれません(*)。

(*)StarSense Explorerシリーズの一番低価格の製品「LT 70AZ」は実売税込3万円弱。どうしてもStarSense Explorerを使いたければ、これを購入して鏡筒からドックを取り外し、自分でアダプタを用意するのが現在可能なユーザー側での対応です。

この「単体版」の製品は、セレストロン社の主力である中型・大型の自動導入機とは、実はバッティングしないはずです。8インチのシュミカセを軽快に振り回せる小型経緯台は世の中にほとんど存在しないからです。セレストロン社以外のユーザー(*)にも単体製品を販売する方が、セレストロン社にとっても利益になると考えますが、どうでしょうか。(**)。

(*)日本の場合、最も恩恵を受けることができるのはポルタIIユーザーでしょう。

(**)StarSense Explorerがあれば、これまでマニアだけのものだった中・大型ドブソニアンが、エントリ層にも使いこなせるようになる可能性があります。これとシュミカセのバッティングを恐れるというのであれば、一定の合理性はありますが。

いずれにしても、その実現のためのキープレイヤーは、他ならぬビクセンであることは間違いないでしょう。

屈折式望遠鏡「LT 80AZ」について

LT80AZの化粧箱。文字は英語です。

天体望遠鏡としてのLT80AZについて、各部の外観や実視した感触を簡単にまとめておきます。

光学性能

対物レンズは4面モノコート、錫箔分離式。フードとセルの押さえ部はプラです。

対物レンズはアクロマート。接眼部・付属品ともに廉価グレードの鏡筒ですが、実際に天体を見てみると予想以上によく見えました。木星の縞模様、土星のカシニの空隙、火星の極冠と模様はいずれもクリアです。焦点距離900mmのF11とやや長めの焦点距離のせいか、EDレンズ採用のF7機にはさすがに負けますが、色収差もさほど目立ちません。

アイピースとバローレンズ、正立プリズム

接眼レンズは25mm、10mmとも全面モノコート、正立プリズムとバローレンズはノンコートでした。

接眼レンズは25mm(36倍)と10mm(90倍)が付属します。形式の刻印はありません。見かけ視野は40〜45°程度の普通のものです。外観・コーティング・内面反射処理などのクオリティは廉価クラスですが、特に問題はなく、普通によく見えました。

付属の2倍のバローレンズも、外見はいかにも廉価品なのですが、色消しレンズを使用しているようで、直視の構成なら普通に良く見えます。むしろバローありの方が良く見えるのではないかと感じるくらいです。ただし、正立プリズムを使用する場合は脱着が面倒(*)で、高倍率だと対象がすぐ逃げてしまうのがネックです。

(*)対物、バロー、正立プリズム、接眼レンズの順で接続するのですが(対物、正立プリズム、バロー、接眼レンズの順では合焦しない)いったん正立プリズムを外さなくてはならないため。

付属のプリズムが1回反射の裏像ではなく正立プリズムであるのは、StarSense Explorerで星図アプリと見えている星を照合するために当然のことといえます。正立プリズムは、光学的には輝星に光条が出るなど若干の像の悪化は避けられませんが、これも合格点といえる見え味でした(*)。

(*)プリズムの面が光軸に対して傾いていると視野中心でも像面の方向に色滲みが出ることがあります。なお、36倍では視野周辺がほんのわずか陰ることがある感じでした。

総じて光学性能については、価格とクラスを考えれば特に大きな問題は感じませんでした。

接眼部

ストロークは実測134mmあって十分すぎるほどの長さです。

接眼部はドロチューブ含めてプラ製ですが、特にがたつきもなく、ストロークが長いにもかかわらず安定しています。重いカメラを接続するわけでもないので、何の問題もない印象でした(*)。ピント合わせはラックピニオン式です。

(*)唯一、ラックギアのグリスが指についてべたつくことがあるのには注意が必要です。

架台

比較のためポルタIIと並べてみました。三脚を縮めた状態・延ばした状態の地上高はポルタIIより若干低いものの大きな差はありません。

しかし、架台は決して使いやすいとも、安定しているともいえず、ポルタIIのレベルを期待してはいけません。この口径・重量の鏡筒にとっては、実用限界に近いレベルといえるでしょう。その一方、ポルタIIよりもずっと軽量なので部屋からの出し入れはとても楽です(*)。小学生くらいのお子さんでも自力運用可能なサイズだといえます。

(*)鏡筒の取り外しがアリガタのように簡単ではないので、車に積み込むのはちょっと面倒かもしれません。

アリガタには非対応

セレストロンの「C」のロゴをあしらったハンドル(左上)が耳軸の止めネジ。左右2個あって、締め具合を調整すればフリーストップになります。ただしその際は上下微動棒のクランプを緩める必要があります。

架台の構造上、鏡筒と架台の取付は2本の耳軸となり、アリガタ対応ではありません。優秀なStarSense Explorerを積んだ良く見える鏡筒なので、ぜひともポルタIIにも搭載してより気持ちよく使いたいのですが、これは仕方ないでしょう。

微動装置と操作感

左がめいっぱい天頂方向に向けた状態、右が水平方向にめいっぱい下に向けた状態です。

水平方向は微動なしのフリーストップ。上下方向は微動付ですが、微動を使うにはクランプを締める必要があります。フォークが短いため、三脚との干渉で天頂に向けることはできませんでした(*)。

(*)とはいえ、経緯台の天頂は導入操作が難しいエリアでもあるので、逆にほどよい制限かもしれません。

それでも、StarSense Explorerのおかげで導入は圧倒的に楽です。対象を見ることと「追尾する試練」に集中することができます。ゲーム開始時点でいきなりエリクサーを20個持っているくらいの感覚です。「導入」という最初で最大の壁がクリアされれば、微動がなくても架台がヤワでも、微妙に押したり引いたりしてなんとかなるものだと感じました(*)。

(*)だだしヤワな架台は風が強く吹くとお手上げではあります。

ドットファインダーが付属

低価格帯の天体望遠鏡では、実用にならないような光学ファインダーが付属することも多いのですが、StarSense Explorerがあればファインダーは事実上不要になります。それでも、アライメントを想定してかドットファインダーが付属します。別になくてもいい気はしますが、あって困るものでもありません。雲が多くてStarSense Explorerがうまく動作しないようなときに役立つことでしょう。

まとめ

自宅ベランダからオリオン大星雲をお手軽観望中。サクッと眺めるのに最適。StarSense Explorerの技術によって、これまで以上に多くの人たちが、星空を楽しめるようなることでしょう。

いかがでしたか?

新しい未来への扉が開かれた。大げさではなく、そんな風に感じました。StarSense Explorerを使うと、私たちがなぜ星を見るのか、そしてなぜそれに感動するのかを、あらためて体験することができます。これってやっぱり楽しいよ。忘れかけていた星空へのときめきを感じずにはいられません。

扉はまだ開いたばかりです。これからさらに、予想できる変化も予想できない変化もあることでしょう。IT技術によって、これまで星空に関心がなかったような人たちを含めて、そのライフスタイルをほんの少し変えられるところまで来ているのです。

より多くの人たちが、この技術をめいっぱい楽しみ、星空を体験できることを願ってやみません。


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https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-150x150.jpg編集部望遠鏡望遠鏡みなさんこんにちは! 天体の導入はお得意ですか?スターホッピングの匠の技を身につけなくても、らくらく「手動」天体導入ができる時代が、ついにやってきました! 今回ご紹介する、セレストロン社の「StarSense Explorer 」は、とにかくスゴイ。望遠鏡に取り付けたスマホのアプリ(SkySafari風)が、カーナビのように目的の天体までナビゲートしてくれます。そして鏡筒を振り回すのは「モーター」じゃなくて「あなたの手」。ギュイーンと振って、目的の天体に向けて微調整、そしてロックオン! この感覚。「これだよ、父さん!僕が欲しかったのはこれなんだよ!」天文マニア5万人が待ち焦がれていた、そしてこれから星空を楽しむ500万人の天文ファン予備軍のための、新時代の天体望遠鏡をさっそくご紹介していきましょう! StarSense Explorerの使用体験 百聞は一見にしかず https://youtu.be/iGCbz5_GGR4 まず、上の動画をごらんになってください!一生懸命編集しました^^ StarSense Explorerをぜひ仮想体験してみましょう! 目標が明快 続いてStarSense Explorerの「何がイイのか」を順にひもといていきましょう。上の画像は目標の天体を指定した直後の状態ですが、オレンジ色の矢印が天体に向かって伸びています。目標が常に明確にアプリに表示されているのです。「君の今の目標は火星なんだよ」「その火星はこっちだよ」まさに「勇者よ、まず北にゆけ!」状態です。 導入のプロセスが「見える」 目標に向かうプロセスが可視化されていることは、何かを成し遂げる上でとても重要な要素。StarSense Explorerの場合、望遠鏡の向きを変えると矢印がリアルタイムに変化していき、対象に近づくと対象円と目標天体が表示され、どのくらい近づいているかが一目瞭然になります。「今何をやっているのか」「目標まであとどのくらいなのか」がいつも確認できることで、心折れやすい弱き人間を励ましてくれるのです。 導入の達成感 無事目標の天体が(ほぼ)導入できると、視野円が赤から緑に変わります。やったぜ、目標クリア!。個人的にはここで画面に花火があがってもいいくらい(*)だと思いました^^ (*)ASI AIRのPoler Alignment機能では、正しく設置できると画面に花火が上がります。 難易度は対象次第・淡い天体を見つける試練 しかし本当のご褒美と試練はこれからです。アプリは「ここだ!」と言った。でもゲームはまだ終わっていません。さあ、接眼レンズを覗いてあなたの眼で天体の姿を見てみましょう。惑星のような明るい天体なら、覗いた瞬間にその姿を視野の中に見つけられるはずです! 一方で、例えば「らせん星雲(NGC7293)」のような淡い天体の場合は、すぐには見つからないことでしょう。視野の中をじっくり探してみましょう。きっとどこかに見えているはず!でも空が良くなかったり、経験が不足している場合は、見られないかもしれません。しかし、これは勇者に課せられた乗り越えるべき「試練」です^^ ご褒美は美しい天体の姿 目標の天体は見つかりましたか?無事みつけられたら、何だか無上のヨロコビが湧いてくるはず。慎重に、視野の真ん中になるように望遠鏡を調整しましょう。自動追尾してくれるわけではないので、星は少しづつ動いて逃げていきます。ピントをしっかり合わせて、じっくり天体を眺めてみましょう。最大のご褒美は今まさに眼にしている天体のナマの姿なのです!さらにじわじわと感動がこみ上げてくるに違いありません! 「ゲーム感覚」の意味 StarSense Explorerの広告コピーには「望遠鏡を覗かずゲーム感覚で星を探せる!」とあります。筆者は感覚の古い人間なのでしょうか、この「ゲーム感覚」の意味がよくわかりませんでした。しかし実際に使ってみると、「ゲーム感覚」と呼ばれる事象の多くの要素(*)が盛り込まれていることがわかります。 (*)「ゲーム感覚」には明確な定義は存在しないようですが、「目標の可視化」「段階的な難易度設定」「プロセスの可視化」「達成感」「ご褒美と試練」「ペナルティ」「レベルアップ」「誰かのために頑張る」「仲間」などの要素があるようです。定義というより、これはゲームそのものから学んだ方がよさそうですね。 天リフ的には、StarSense Explorerの最大のご褒美は「美しい天体の姿」であることを重ねて強調しておきたいと思います^^ もっと「ご褒美」があってもいいかな? ここから先は要望レベルなのですが、「レベルアップ」や「ご褒美と試練」など、さらに工夫できる可能性があると感じました。人間が「何らかの”仕事”なり”遊び”を、より楽しく能率的にやるためにゲームの要素をとりいれる」というのが「ゲーミフィケーション」ですが、そんな要素をまだまだ取り入れられる気がします。 導入した天体が「見えた!」のか「見えなかった!」のかをアプリにフィードバックして、「自分の観望記録ノート」を持てるようになると、すごく励みになる気がします。ほかにも「あなたは天体を10個見ました!トロフィーを差し上げます」とか、30個、50個、100個と増えるにつれてメダルが増えるとか。「8惑星コンプリート」「有名な天体コンプリート(*)」「ちょっと難しい暗い天体を20個を見てみよう」のようなクエスト系もあると面白いかもしれません(**)。 (*)球状星団や楕円銀河のような「ワンパターン(^^;;)」な天体をたくさん見るのは、ある意味「苦行」に近い部分もあるのですが、それを「クエスト(試練)」としてしまえば、面白く遊べそうです。 (**)これまで見た天体の内容によって「称号」が変わっていくとかも面白そう。「駆け出し一等星ハンター」「銀河マニア」「闇の暗黒星雲大王」とか^^;;; このあたりはソフトウェアの強化次第で、後からなんとでも拡張できるはずです。ユーザー目線のより面白い天体観測のやり方を提案できるようなアプリになると、もっと素晴らしいと思います! 「カメラを使わないスマホ」との違い 実はスマホを望遠鏡に取り付けて導入支援を行える製品は、天リフで以前レビューしたレイメイ藤井の「星どこナビ」などがすでに存在します。しかし決定的な違いは、スマホ内蔵カメラによる位置解決を行っているかどうか。これが従来の技術よりはるかに高い精度(*)を実現したStarSense Explorerの大きな進歩点といえるでしょう。 (*)スマホの方位センサー(地磁気センサー)は周辺の磁性体に影響を受けやすく、あまり高い精度を出すことができません。せいぜいファインダーの視野内に導入できるくらいでしょうか。ちなみにGPSセンサーでも方位を検出できますが、これは移動していることが前提で一箇所にじっとしている場合には判別できません。 StarSense Explorerの使い方 StarSense Explorerの使い方はとてもカンタンです。ときおり変な?訳語が出て戸惑うこともありましたが(*)、マニュアルなしでもじゅうぶん使えるレベルです。 (*)今後アップデートされていくとは思いますが、より初心者でもわかりやすい簡潔な訳語に改善されることが望まれます。 アプリをインストールする まずアプリをインストールします。StarSense Explorerは無料アプリなので、インストールして試すだけなら、対応スマホがあれば誰でも可能です。 ただし、フル機能(スマホのカメラによる位置解決)を使用するには、製品に添付されたラインセンスキーの入力が必要です。一つのキーで最大5台のスマホが使用可能です。 ちなみに、望遠鏡モデルの選択は星図アプリ上の視野円の大きさに連動しています(*)。LT80AZの場合は、1.1°と0.4°の2つの視野円が表示されます。 (*)ほかにも何か望遠鏡によって挙動がかわる部分があるのかもしれません。ちなみに視野円の大きさの設定はアライメント終了時に反映されます。 鏡筒(架台)にスマホを取り付ける スマホは専用のドック(クレイドル)に装着します。ドックには1枚の大きな平面鏡があって、スマホの画面が望遠鏡の方向に対して使いやすい角度になるようになっています。 これは実は重要で、鏡なしで直視する形だと、望遠鏡を天頂方向に向けたときに、スマホ画面が「下向き」になってすごく見にくくなってしまうのです。 このドックは良くできていて(*)、ワンタッチでスマホを脱着でき、後述のアライメントでのカメラの位置合わせも、2つのネジでカンタンに行うことができます。 (*)スマホを脱着した場合の位置の再現性もじゅうぶん高く、再アライメントしなくてもそこそこ使える感触でした。 アライメント StarSense Explorerは言ってみれば「電子ファインダー」です。眼で見る代わりに、スマホのセンサーとカメラを使用して向いている方角を検知します。このため、光学ファインダーの光軸合わせに相当する作業(アライメント)が必要になります。しかし、光学ファインダーの光軸合わせよりもはるかにカンタン。 作業は2ステップ。まず、スマホのカメラがケラレなく空を見られるように、鏡とカメラの位置関係を調整します。この作業は一度済ませておけば、違うスマホを装着しない限りほぼ不要です(*)。 (*)この調整はかなりラフでも問題は少ないようです。iPhone6とiPhone11を何も調整せずに入れ替えて使用しても、さほどずれることなく実用レベルで使用できました。 スマホのカメラレンズとミラーの位置調整機構。前後左右の2軸のラックピニオンがあって、矢印のツマミを回してそれぞれ平行移動が可能になっています。iPhone11のカメラの場合、スマホカメラはほぼケラレなく全ての視野がとらえられました(下画像左)。   次に、地上の遠くの対象物を望遠鏡の中心に導入し、スマホの画面に表示される十字線と合わせます。光学ファインダーのようにネジを回す必要はなく、画面をタッチしてスライドさせるだけ。そのままではさすがに細かすぎてわかりにくいので、画面をピンチして拡大するのが推奨。 筆者がやってみた感覚では、このアライメントは目分量でも±0.1°程度の精度は十分出せると感じました。ポイントは、架台が決して堅牢ではないため、スマホ画面と接眼レンズの像を交互に見て、うっかりずれてしまったまま(*)アライメントを完了させないことです。 (*)スマホ画面にタッチする必要があるので、その際に鏡筒がずれてしまうことがあります。わずかであれば問題なのですが、ガクッと動くこともあるので、アライメント完了前に望遠鏡に振れないように注意しながら、スマホ画面と望遠鏡の視野を最終確認するようにしましょう。 マニュアルでは、アライメントは昼間のうちに済ませることを推奨しています。ある程度慣れれば、夜景の灯火でも(*)合わせられますが、少なくとも購入した最初は昼間に一度行っておくのがよいでしょう。 (*)スマホのカメラで目視できるくらい明るい星(惑星やシリウスなど)で行うことも不可能ではありません。星は日周運動で動きますが、素早くアライメントできるように慣れてさえいれば、精度的には問題なさそうでした。 後は天体に向けるだけ アライメントを済ませたら、どこかの空に向けてみましょう。少し待つとスマホのカメラが自動的に空を撮影し、星並びから向きを判別して望遠鏡の方角に星図画面を合わせてくれます。後は望遠鏡を自由に振り回すだけです。 ただし、星並びが最初に判別されるまでの間は、星図はあさっての向きを指していることがあります。スマホの方位(磁気)センサーは使用していない感じでした。ただし、一度でも星並びが判別できれば、アプリをバックグラウンドにしない限りは(*)、そのときの情報をもとに星図と望遠鏡の向きが連動して表示されます。 (*)iOSの場合。Androidの場合は挙動が違うかもしれません。 目標の天体の指定方法 いくら便利で簡単な導入システムであったとしても、知らない対象・発見できない対象を導入することはできません(*)。天体の知識を持たない人に、いかにして「見ておもしろい」天体を見つけてもらえるかが鍵になります。 (*)これは「自動導入」でもまったく同じです。 StarSense Explorerでは、メニューバーの「★」アイコンをタップすると「今夜のベストオブジェクト」の一覧が表示されます(*)。月や惑星・有名な星雲星団などが画像付きで見られるので、気になる対象をタップするだけ。数も多すぎず、初めて使う人でもまずはこれを頼りにすれば、一通り楽しむことができるでしょう。 (*)本稿執筆時(アプリのバージョンは1.05)では、一覧表示ではカタログ番号以外の対象の「名前(愛称)」がまだ日本語訳されていませんでした。メシエ天体も「メシエ(M)」ではなく「Messier」の表示です。詳細画面では日本語ですが、一部英語のままの天体があるようです。なお、「都市表示可能」は「都市部の空でも見える天体ですよ」、「暗い空が見える」は「暗い空で見るのがおすすめですよ」の意味だと推測します。 メニューの検索アイコンをタップすると、ジャンル別に天体を一覧することもできます。メシエ天体は110個すべてが網羅されています。カルドウェル天体は日本ではあまりなじみがないようですが、北アメリカ星雲・網状星雲などのメシエカタログにない有名どころを109個網羅したカタログなので、カタログ番号を知らなくても画像を頼りに巡ってみる価値の十分ある天体ばかりです。 他にも、明るい恒星・二重星・アステリズム(明るい星並び)・星座のリストがあります。どれもじゅうぶんに楽しめ、対象を見つけるのに役立つでしょう。   文字列で検索することも可能。「M16」「NGC7293」などのカタログ番号も使用できますが、IC番号では検索できませんでした。「シリウス」や「北アメリカ星雲」などの日本語名も検索できないようです(*)。 (*)完全な日本語化は大変だとは思いますが、せっかくの初心者でも使える良いツールなので、ビクセンの「スターブックテン」ですでに実現できていることでもあり、ぜひ早期により完全な日本語対応を実現して欲しいものです。 上手に使うコツ 待つべき時は待つ StarSense Explorerは、たえず(*)星空をカメラで撮影し望遠鏡の向きの情報を修正しています。しかし、望遠鏡を動かしたり手で触れて「ブレ」ているときは、星の位置が検出できないことがあります。望遠鏡の方向を大きく動かしたときや、対象の導入の最後の「追い込み」の前は、位置解決が行われるまで望遠鏡に手を触れずに少し待つ(10秒〜)のがよいでしょう。 (*)画面のメッセージを見る限り6秒に一回程度撮影しているように見えます。 星が見えている方向に向ける 雲や地上物、マンションの庇などで星空が隠れている場合は、その方向の星をStarSense Explorerはとらえることができません。位置判別がうまくいかない場合は、カメラを一星が番よく見えている位置に向けることで、位置判別の確率が上がります。このとき、カメラの中心は望遠鏡の向きと少しずれていることに気を付けると良いでしょう。LT 80AZの場合は、望遠鏡の中心よりも上側をより広く捉えるようになっています(*)。ベランダの庇ギリギリの対象の場合、対象よりやや下側に望遠鏡を向けることで、星を捉えやすくなるようです。 星図アプリと星を照らし合わせる 暗い天体の場合、対象を望遠鏡の視野内のどこかに導入できていたとしても、すぐには視認できないことが普通です。ここから先の世界は、やはり経験がものをいいます。みえるかどうかギリギリの天体の場合、最後の同定手段は「星並び」です。アプリの画面と実際の星を照らし合わせて見つけ出すしかありません。付属の接眼レンズを使用する場合はアプリの視野円が助けになりますし、星図アプリは自在に拡大・縮小が可能なので、紙の星図を使うよりははるかに楽だといえます。 対応するスマホとStarSense Explorerの導入精度 じゅうぶんな導入精度 StarSense Explorerの導入精度はどのくらいなのでしょうか。実使用時の導入状況の例が上の画像です。全7回のうち、5回は0.4°の視野円におさまりました(±0.2°)。しかし、±0.5°程度にずれることもあります。具体的に0.5度のずれは、1.1度(36倍)の視野内には収まるが「視野の端っこ」くらいにある誤差です。 精度を統計的に評価できるほどのデータはないのですが、体感的には「ほぼ確実に1.1度の視野内に入る」「半分くらいは真ん中近くに入る」といえると思います(*)。 (*)導入精度は空の条件にも左右されるようです。空の状態が良い場所では、0.4度の視野円に収まる確度が上がるように感じました。より多くの星をカメラで捉えることができるので精度が上がるのでしょうか。 アライメントの誤差は導入精度に直結するはずですが、特に十字線アイピースなどを使わず目分量でアライメントしたとしても、ていねいに行えばアライメントの誤差が問題になることは少ないと感じました。上の画像は実際にアライメントしている時の実視野とスマホ画面ですが、この状態で±0.1°程度のアライメント精度が出ているはずです。 導入精度はアライメント精度以外の要素がより大きいようなので、アライメントはあまり神経質にならなくても大丈夫でしょう。 スマホカメラによる位置解決の精度の再現性を見るために、ほとんど日周運動のない北極星を望遠鏡の視野の中心に導入した状態で望遠鏡を固定し、StarSense Explorerが位置解決を実行する度に画面をキャプチャし、画像を重ね合わせてみました。全11回の位置解決のぶれは±0.15°程度でしょうか(*)。 (*)中心から0.3度ほどずれていますが、StarSense Explorerの誤差には①アライメント誤差②位置解決の誤差(*)③位置解決毎のランダムなぶれの3つの要因が考えられます。③のランダムなぶれは、空の条件とあまり関係なくいつも発生しているように感じた一方で、②の誤差は空の条件が悪いと(光害、月、薄雲など)大きくなるように感じました。基準となる星の数が十分多ければ②の誤差は星像径くらいまで小さくできるはずですが、スマホの広角カメラのではそこまでの精度は出せないのかもしれません。 StarSense Explorerの総合的な位置解決の精度と誤差の要因については、これだけの検証では結論は出せませんが、最悪に近い条件(月齢10、光害地)であっても±0.5°程度は期待できそうな感触でした。この精度なら中心ドンピシャではなくても、視野に確実に導入できることになります。総合的に十分な導入精度であると感じました。 要求されるスマホの要件 カメラの性能 StarSense Explorerはスマホのカメラ性能が一定レベル以上でないとうまく動作しません。これは、望遠鏡の向きを星並びをカメラで撮影することで判別しているため、当然のことです。カメラの低照度性能が低いと判別可能な星の数が少なくなり、望遠鏡の向きを認識することができなくなります。街灯りで空が照らされた市街地や、強い街灯や月などが星の近くにあるときも同様です。 今回、スマホは「iPhone6S」と「iPhone11」の2つを使用しましたが、天の川が見える空ではどちらも問題なく向きを認識することができました。近隣に灯りが少なければ、3等星程度まで見える光害地(SQM17.5程度)であっても問題なく認識できました。ただし、隣のマンションの燈火に照らされる自宅のベランダでは、iPhone6Sでは認識率が著しく低下(*)しました。 (*)明るい星が少ない秋の南東付近の空の場合。明るい星が多いオリオン座周辺の場合はiPhone6Sでも問題なく認識しました。 星を正しく認識できたときの2つの機種の精度の差は特に感じませんでしたが、「星を認識できるかどうか」については明らかな差があるようです。 カメラ以外の要件 アプリが動作するバージョンのOSであることは当然ですが、カメラ以外にも備えるべきセンサーなどのいくつか要件があるようです。セレストロン社のHPに対応機種リスト(動作確認済・動作するはずだが未確認・対応要件外)があります。ビクセンからも対応機種に関する注意がリリースされていますので、事前によく確認が必要です(*)。 (*)StarSense Explorerの仕組みとして、星の位置から望遠鏡の向きを同定し、以降はジャイロセンサーと加速度センサーで望遠鏡の「相対的な動き」を認識しているものと推測します。この2つのセンサーの「分解能」が低いと十分な導入精度が得られないことになります。 事前にアプリをインストールして動作対象かをチェックする StarSense Explorerのインストールは無料で誰でも可能です。インストールすればアプリが機種を認識し動作対象かどうかをチェックしてくれるようです。ユーザーにとっては自分のスマホが全て。購入した後に非対応に気づくのは悲しすぎます^^;; 購入前にまずアプリをインストールして起動してみることをオススメします。 月明かりと雲の影響 月明りがある状態でStarSense Explorerを起動すると「月の近くではうまくいかないかもしれないよ」という意味のメッセージが表示されますが、それでも条件によっては認識してくれるようです。上の画像は月と木星がすぐ近くにある状況ですが、この状態でも位置認識は無事実行されました。ただし、精度は若干低めで1.1度の視野円からはみだすこともありました。 雲の影響については残念ながら確認できませんでしたが、当然ながら目標周辺が雲で完全に隠されてしまうと位置解決はできません。その場合は、前回解決した位置情報を元にスマホのセンサー(ジャイロ、加速度)でナビゲートされます。前回解決した望遠鏡の向きから離れるほど誤差は大きくなりますが(*)、あまり大きく離れない限りは普通の星座アプリよりは高い精度で位置を認識してくれるように感じました。 (*)3°くらいの誤差は普通に出ます。「望遠鏡を動かしたときは(位置解決が実行されるまで)少し待つ」必要があるのはこのためです。 製品バリエーション 日本での販売は4機種 StarSense Explorerを搭載した天体望遠鏡は、国内では上記の4機種が販売されているようです。今回お借りした製品「LT80AZ」は、口径80mm・焦点距離900mmの屈折式モデルです。 「DX」で始まる型番の製品は「DX経緯台」という上下水平微動装置のある上位モデルで、三脚も一回り太め。ビクセン規格のアリガタ対応、スマホは架台側に装着します。「LT」で始まる型番の製品は上下微動装置のみの簡易版経緯台で、アリガタには対応せず、スマホは鏡筒側に装着します。 付属する接眼レンズは全機種10mmと25mmの2個。倍率は総じて低めで、特にバローレンズの付属しない上位モデル2機種は最高倍率が65倍程度。惑星を観察するには明らかに不足です。高倍率にも耐えられるはずの上位クラスの架台なのですから、これは焦点距離5mm前後の接眼レンズを追加すべきでしょう(*)。 (*)現在の構成では、DXシリーズの位置づけが若干不明瞭な気がします。低倍率で観望することを主目的にしたパッケージングなのでしょうか。初めての購入者なら、惑星も月も高倍率で見たくなると思いますが・・・筆者の個人的なリコメンドは、価格が手ごろで初めての人にとってオールラウンドで使いやすいLT80AZです 天体望遠鏡としてのクオリティ LT70AZ以外の全機種を天体望遠鏡ショップの店頭で見てみましたが、米国市場が主であるセレストロン社の「アメリカン」なデザインテイストはともかく、質感的にも各部の造り的にも、ビクセンのポルタIIシリーズと比較すると、若干の差を感じてしまうところがないわけではありません。StarSense Explorerを、より使いやすく安定しているポルタIIやAP赤道儀で使いたい(*)、という思いは激しくつのります。 (*)大事なことなのでこの後何度も繰り返します。 しかし、仮に廉価クラスの天体望遠鏡であったとしても、StarSense Explorerがあればユーザー体験が一変するのは間違いありません。そのくらいのパワーをStarSense Explorerは持っています。何が一番ユーザーを幸せにできるのか。それは実際に使ったユーザーとその総和である市場が今後決めることとなるでしょう。 StarSense Explorerの単体販売はあるのか 胎内星まつりのライブ動画でのビクセン社のコメントから判断する限り、セレストロン社はStarSense Explorerを「エントリ機種向け」と明確に位置づけているようです。ここから上を望むなら、NexStarなどの自動導入架台を使ってほしい、というコンセプトです。 これはある意味当然で、自動導入機能をすでに持っている架台では、StarSense Explorerの存在意義は大幅に低下します。企業経営の観点でもユーザー利益の観点でも、より上位のセレストロン社製品にStarSense Explorerを搭載するメリットは少ないといえるでしょう。 一方で、StarSense Explorerの単体販売の可能性はどうでしょうか。汎用のネジ規格を備え、ユーザーが自分が所有している望遠鏡に装着できるようなコンセプトです。筆者なら、15,000円なら即買いです。20,000円でも十分検討の余地がありますし、25,000円でも購入するかもしれません(*)。 (*)StarSense Explorerシリーズの一番低価格の製品「LT 70AZ」は実売税込3万円弱。どうしてもStarSense Explorerを使いたければ、これを購入して鏡筒からドックを取り外し、自分でアダプタを用意するのが現在可能なユーザー側での対応です。 この「単体版」の製品は、セレストロン社の主力である中型・大型の自動導入機とは、実はバッティングしないはずです。8インチのシュミカセを軽快に振り回せる小型経緯台は世の中にほとんど存在しないからです。セレストロン社以外のユーザー(*)にも単体製品を販売する方が、セレストロン社にとっても利益になると考えますが、どうでしょうか。(**)。 (*)日本の場合、最も恩恵を受けることができるのはポルタIIユーザーでしょう。 (**)StarSense Explorerがあれば、これまでマニアだけのものだった中・大型ドブソニアンが、エントリ層にも使いこなせるようになる可能性があります。これとシュミカセのバッティングを恐れるというのであれば、一定の合理性はありますが。 いずれにしても、その実現のためのキープレイヤーは、他ならぬビクセンであることは間違いないでしょう。 屈折式望遠鏡「LT 80AZ」について 天体望遠鏡としてのLT80AZについて、各部の外観や実視した感触を簡単にまとめておきます。 光学性能 対物レンズはアクロマート。接眼部・付属品ともに廉価グレードの鏡筒ですが、実際に天体を見てみると予想以上によく見えました。木星の縞模様、土星のカシニの空隙、火星の極冠と模様はいずれもクリアです。焦点距離900mmのF11とやや長めの焦点距離のせいか、EDレンズ採用のF7機にはさすがに負けますが、色収差もさほど目立ちません。 アイピースとバローレンズ、正立プリズム 接眼レンズは25mm(36倍)と10mm(90倍)が付属します。形式の刻印はありません。見かけ視野は40〜45°程度の普通のものです。外観・コーティング・内面反射処理などのクオリティは廉価クラスですが、特に問題はなく、普通によく見えました。 付属の2倍のバローレンズも、外見はいかにも廉価品なのですが、色消しレンズを使用しているようで、直視の構成なら普通に良く見えます。むしろバローありの方が良く見えるのではないかと感じるくらいです。ただし、正立プリズムを使用する場合は脱着が面倒(*)で、高倍率だと対象がすぐ逃げてしまうのがネックです。 (*)対物、バロー、正立プリズム、接眼レンズの順で接続するのですが(対物、正立プリズム、バロー、接眼レンズの順では合焦しない)いったん正立プリズムを外さなくてはならないため。 付属のプリズムが1回反射の裏像ではなく正立プリズムであるのは、StarSense Explorerで星図アプリと見えている星を照合するために当然のことといえます。正立プリズムは、光学的には輝星に光条が出るなど若干の像の悪化は避けられませんが、これも合格点といえる見え味でした(*)。 (*)プリズムの面が光軸に対して傾いていると視野中心でも像面の方向に色滲みが出ることがあります。なお、36倍では視野周辺がほんのわずか陰ることがある感じでした。 総じて光学性能については、価格とクラスを考えれば特に大きな問題は感じませんでした。 接眼部 接眼部はドロチューブ含めてプラ製ですが、特にがたつきもなく、ストロークが長いにもかかわらず安定しています。重いカメラを接続するわけでもないので、何の問題もない印象でした(*)。ピント合わせはラックピニオン式です。 (*)唯一、ラックギアのグリスが指についてべたつくことがあるのには注意が必要です。 架台 しかし、架台は決して使いやすいとも、安定しているともいえず、ポルタIIのレベルを期待してはいけません。この口径・重量の鏡筒にとっては、実用限界に近いレベルといえるでしょう。その一方、ポルタIIよりもずっと軽量なので部屋からの出し入れはとても楽です(*)。小学生くらいのお子さんでも自力運用可能なサイズだといえます。 (*)鏡筒の取り外しがアリガタのように簡単ではないので、車に積み込むのはちょっと面倒かもしれません。 アリガタには非対応 架台の構造上、鏡筒と架台の取付は2本の耳軸となり、アリガタ対応ではありません。優秀なStarSense Explorerを積んだ良く見える鏡筒なので、ぜひともポルタIIにも搭載してより気持ちよく使いたいのですが、これは仕方ないでしょう。 微動装置と操作感 水平方向は微動なしのフリーストップ。上下方向は微動付ですが、微動を使うにはクランプを締める必要があります。フォークが短いため、三脚との干渉で天頂に向けることはできませんでした(*)。 (*)とはいえ、経緯台の天頂は導入操作が難しいエリアでもあるので、逆にほどよい制限かもしれません。 それでも、StarSense Explorerのおかげで導入は圧倒的に楽です。対象を見ることと「追尾する試練」に集中することができます。ゲーム開始時点でいきなりエリクサーを20個持っているくらいの感覚です。「導入」という最初で最大の壁がクリアされれば、微動がなくても架台がヤワでも、微妙に押したり引いたりしてなんとかなるものだと感じました(*)。 (*)だだしヤワな架台は風が強く吹くとお手上げではあります。 ドットファインダーが付属 低価格帯の天体望遠鏡では、実用にならないような光学ファインダーが付属することも多いのですが、StarSense Explorerがあればファインダーは事実上不要になります。それでも、アライメントを想定してかドットファインダーが付属します。別になくてもいい気はしますが、あって困るものでもありません。雲が多くてStarSense...編集部発信のオリジナルコンテンツ