【新連載】実践・天体観望記(1)眼視観望でフィルターワーク・M42は赤いのか?
みなさんこんにちは!性懲りもなくまた新連載を始めます。名付けて「実践・天体観望記」。
写真ばかりじゃないぞ。「宇宙は美しい。」この眼で眺める星空・宇宙の美しさを探訪する、天リフ編集長の観望記!第1回は「フィルターを使って天体を観望してみる」という「変態成分もたっぷり」の企画です!
フィルターを使う天体観望
眼視観望でフィルターを使用することは、ごく普通に行われています。写真撮影と同様に「光害の光を軽減する」「輝線スペクトルで光っている星雲を強調する」のがねらいです。
今回使用したのは上の5つのフィルターです。星雲の輝線を鋭く通すナローバンドフィルターが「Hα 7nm」「OIII 8.5nm」の2種、光害をばっさりカットする「LPS-V4」フィルター、ナローバンドフィルターと光害カットフィルターの中間に位置する「QBPフィルター」です。また、新たにSVBONY様よりご提供いただいた同社の「CLSフィルター」も使用してみました。
これらのフィルターについては以下の天リフ記事もご参照ください!
今回のねらい
「QBPフィルター」と激安「SVBONY CLSフィルター」の使用感やいかに?
これまでも眼視観望で「OIIIフィルター」と「LPS-V4フィルター」は使用したことがありました。OIIIは「とことん淡い星雲を見る」のに適していますし、LPS-V4は光害地でのお手軽観望にも適しています。
今回新たに試してみたかったのがまずこれ。48mmサイズで6千円を切る激安品です。1.25インチなら4千円を切ります。波長特性的には、肉眼で見る限りはLPS-V4と同じくらいの効果があるはず(*)。その通りなら「光害地でのお手軽観望」にも、「遠征地での淡いもの系」にも使えることになります。
(*)リンク先の商品ページに波長特性グラフが掲載されています。
もうひとつはこちら、サイトロンジャパンの「QBPフィルター」。写真用途に大流行しつつある「ワンショットナローバンド」向けの製品です。透過波長域がガチのナローバンドよりは広く、これまでの光害カットフィルターよりは狭い。これを眼視で使うとどうなるのか?
M42は赤いのか?!
オリオン大星雲は赤いのか?オリオン大星雲は古くから「ピンク色」と書かれた本があるにもかかわらず「色なんて見えないよ」という意見もあり、昨年以来眼視フリークの間で話題になっていました。これについては以下のブログに詳しく書かれています。
Light_Bucket18のブログ・M42 トラペジウム付近の色に関する考察
https://blogs.yahoo.co.jp/light_bucket18/35538268.html
ざっくりまとめると「気のせい(写真の印象による作用)」もあるが「自分も含め信頼できる確認事例が複数ある」、「暗順応した眼では確認できない」「そらし眼は逆効果」というものでした。
今回のねらいはフィルターを使えば「赤いオリオン大星雲」はよりはっきり見えるのか?それを検証しようというもの。さて、どうでしょうか?!
補足2019.2.10)
人間の眼を構成する「桿体細胞」「錐体細胞」の特性の違いについての記述がないというご指摘をいただきました。引用記事のLight_Bucket18のブログにも言及されていましたので特に今回はその件には触れませんでしたが、記事末に補足しています。
実視検証
では早速実視結果といきましょう。使用した望遠鏡は、後でも触れますが口径104mmの3枚玉アポクロマート鏡筒「FOT104」。接眼レンズはWilliam OpticsのSWAN40mm(16倍)とPENTAXのXW20mm(32倍)、NikonのNAV-HW12.5mm(10mm相当、65倍)です。対象はオリオン大星雲M42。観望地は九州では並クラスの遠征地、福岡県の東峰村・小石原です。
注)本項に以下掲載する画像は「眼視の感覚、雰囲気」を写真で表現した「イメージ」です。できるだけ印象を再現したつもりですが、筆者個人のバイアスや、見る人の個人差が大きいことが予測されます。あくまでひとつの参考意見としてごらんください。
フィルターなし
まず、フィルターなしで。いやー、M42はいつ見ても美しいですね!特に中心から2時の方向と7時の方向に広がる羽根のような部分、キラキラ光るトラペジウムとその付近の鋭い複雑な切れ込み、南西に広がる光芒のグラデーションが素晴らしい。
ちなみに、16倍だとかなり背景の空は明るく、M42そのものも小さいこともあってあまり見栄えがしません。32倍だと背景もだんだん締まってくるのですが、やはり圧巻は10mmの65倍。視野一杯に広がって壮観な眺め。
で・・・M42は赤く見えるのか?結論からいって「赤く」は見えませんでした。ピンクにも見えません。ほんのり赤みを帯びている・・・ようにも見えません。でも、じっくり見ていると中心部とそのすこし回りの色が少し違うような・・気がします。気のせい?かもしれないけど、やっぱり違う。そんな感じです。
IDAS LPS-V4
続いてIDAS社のLPS-V4フィルター。このフィルターは「強めの光害カットフィルター」。500nm付近のOIII・Hβの青緑と、656nm付近のHαを通し、水銀輝線を含む緑〜青色、ナトリウム輝線を含む黄色はばっさりカットします。肉眼で見ると青緑色に見えます。
実視してみると・・・第一印象は「全部青緑」。星も青緑、星雲の中心も青緑。背景の空は16倍でもそれなりに暗く締まっています。星雲はよりはっきりと浮かび上がり、一目で「効果があるなあ」という感じです。
その反面、青緑一色なのがちょっと残念。ずっと見続けているとだんだん眼の補正が効いてきて不自然さは減ってくるのですが「なんか普通じゃないことしているな」感があります。
SVBONY CLS
ファーストライトのSVBONYのCLSフィルター。このフィルターは波長特性はLPS-V4と似ているのですが、違いは赤のバンドが若干広いこと。640nm付近からは長波長側をすべて通します。肉眼で見るとVPS-V4同様青緑色ですが、少しマゼンタに寄っていて、より赤い光を多く通すことを表しています。
実視してみると・・・第一印象は「ちょっと青緑ぽいかなあ」。でも星の色はそんなにも偏って感じず、やや青緑がかった程度で、LPS-V4ほど偏りが強くない印象です。背景の明るさはLPS-V4と同じくらい。大星雲の中心すぐ外側はほんのりマゼンタがかった感じ。そして・・大星雲の中心部はマゼンタっぽさが消えて、逆に青緑色っぽく感じます。理屈はともあれ大星雲の「赤」が確認できた(気がする?)ぞ!
昼間に白色光にかざしてみると、LPS-V4との色の差はあまり感じないのですが、実視してみると思いのほか大きな色味の違いを感じました。人間の眼は「オートホワイトバランス補正」の能力が備わっています。LPS-V4はその能力を超える色の偏りがあるためいつまでも青緑っぽく見え、SVBONY CLSの場合は補正能力範囲にあるため青緑の偏りが低減され、OIII優位の大星雲の中心部分の色と、その周辺の色の違いがより明らかになるのでしょうか(*)。
(*)「出典のない独自の研究」であることにご注意ください^^;
この色の見え方を抜きにしても、今回使用したフィルターの中では一番楽しめました。星の色・明るさが一番自然で星雲もほどよく強調されます。
サイトロン QBP
昨年末に発売されたQBPフィルターは「光害地でも天体写真が撮れる」と大人気のフィルター。色合いははっきりマゼンタ系に振れた暗い色で、より光害カット・輝線強調効果が増すはず。高まる期待。
実視してみると・・・「ちょっと暗いかな」。でも16倍だとちょうどいい感じに引き締まり、じっくり暗順応が進むのを待つと大星雲の淡い広がりが見えてきます。大星雲の色も星の色も、ややマゼンタ系っぽいですが、透過光量がそもそも少ないせいか、明るい星を以外はあまり色は感じません。大星雲の色はSVBONY CLSほどではないのですが、確かに中心と周辺部で違う気がします。光量が豊富な大口径で使用するともっと色の違いが見えてくるのかもしれませんね。
Baader OIII 8.5nm
半値幅が非常に狭いナローバンドフィルターです。肉眼で見ると暗い青緑。少々の光害があっても、このフィルターを使用すれば網状星雲やバラ星雲のような淡い対象を眼視で見ることができます。
実視してみると・・「背景が真っ暗だ〜」。大星雲が漆黒の背景にぽっかりと浮かび上がってきます。ただし、暗順応がマスト。最初はすごく暗くて見にくいのですが、暗順応が進むにつれて世界が変わってきます。ああ、世界は大星雲と私だけ。この淡い光に吸い込まれるよう。上の画像ではその雰囲気を表せていないのが残念。
星の色は明るい星は青緑色ですが、星雲には色をほとんど感じません。そもそも星があんまり見えない。「星がきらめいて美しい」という感じではなく、視力テストをされているようです。そういう意味ではマニア向け。「これでしか見えない淡い極限に挑むツール」というべきでしょうか。
Baader Hα7nm
こちらも半値幅が非常に狭いナローバンドフィルター。写真用途では、水素輝線のモクモクがこれでもかといわんばかりに写る魔法のフィルターです。
実視してみると・・「何にも見えなぁぁーぃ」。星ひとつ見えません。完全な闇。何かの間違いかと思ってもう一度フィルターを外して確認しましたが、やっぱり何も見えない。656nmの赤い水素輝線は人間の眼はあまり感じないことは頭でわかってはいましたが、ここまで何も見えないとはびっくり。肉眼はHαにはいかに無力であることよ。
このことは、逆にSVBONY CLS やQBPフィルターで見た時に感じた「赤い光」は、Hα輝線ではないということです。それよりも短い(620nm〜650nmくらい?)連続光の色なのではないでしょうか。オリオン大星雲を見た時、仮に赤く見えたとしても、それはHαの光ではない。そんな気がしました。
写真ではどうか
同じ晩に「ノーマルカメラ」「ノーフィルター」で撮影したM42はこんな感じです。Hαの感度が非常に低いノーマルカメラなので、波長特性的には「肉眼で見たM42の姿」に近いものと考えられます。この写真を見る限り、M42の中で「青優位」は中心部分と「羽根」の部分であることがわかります。
バラ星雲とトールのかぶと星雲
参考までに、バラ星雲とトールのかぶと星雲も見てみました。バラ星雲は空の暗い場所であれば、ノーフィルターでも楽勝?で見える散光星雲です。ただし、かなり大きいため、倍率を低めにして「星雲の外側」も視野に入るようにしないと、星雲の存在に気がつかないことがあります(*)。
(*)視野全体が霞んだようにぼんやりとほの明るく見えるため。
ざっくりバラ星雲もトールのかぶと星雲も、ノーフィルターで確認することができました。オリオン大星雲よりもずっと淡いこれらの星雲では、フィルターの効果はさらに大きく感じました。バラ星雲もトールのかぶと星雲も、じっくり眼を暗順応させればOIIIが一番明瞭なのですが、前述のとおり「硬派な」観望になります。星もしっかり見えるLPS-V4とSVBONY-CLSが輝度的にはやはりバランスがいい感じ。色み的には青緑すぎないCLSの方が筆者的には好みでした。
今回使用した機材
鏡筒
口径104mm、焦点距離650mmの3枚玉高性能アポクロマート「FOT104」。以前天リフでもレビューした「FOT85」の上位バージョンです。光学性能の高さは折り紙付き。はっきりいって、眼視観望では文句の付けようがありません。
同時出動していたFSQ106EDも眼視用途に高性能を発揮するのですが、接眼部の繰り出し量が短く、正立ミラーEMSを使用した際に一部のアイピースでピントが出ません。反面、FOT104は繰り出し量は十分。使用している全てのアイピースでピントが出ました。
このFOT104については、近日中に詳細をレビュー予定です。お楽しみに!
正立ミラー・MATSUMOTO-EMS
知る人ぞ知る「メガネのマツモト」製の2回反射式正立ミラーEMSです。淡い天体の細部を見ようとする場合、写真の画像と比べながら見ることが多くなりますが、その際には「鏡像でない=正像」の、2回反射のミラーないしはプリズムは必需品です。
今回使用したのは「銀ミラー」のEMS-US。銀ミラーはアルミメッキや誘電体コートよりも長波長側の反射率が高いのが特徴。「オリオン大星雲の赤」を試すにはうってつけ。「US」モデルはミラーのサイズが一番小さなモデルですが、XW-20mmの32.5倍であれば周辺がけられることはありませんでした。
架台
Sky-WatcherのEQ5赤道儀、自動導入が付いて10万円を切る価格。5kgのバランスウェイトが2個も付属していて(*)、かなりの重量機材でもとりあえず載せることができます。これ、コスパ最強の眼視用自動導入赤道儀です。
(*)今回はなんとウェイトを持ってくるのを忘れるという大失態・・・小型のウェイトを鈴なりにしてごまかしました^^;;
昨年発売された「WiFiアダプタ」を装着すると、スマホ・タブレットのアプリ「SynScan」から全ての操作が可能になり、アライメント・導入・設定すべてにおいてはるかに使いやすくなります。個人的には購入大推奨のオプションです(*)。
(*)WiFiアダプタを購入して以来、従来の「ハンドコントローラ」を使用することはなくなりました。
さらに、今回はアプリ「SkySafari(*)」を併用。ビジュアルなタブレット画面から、タッチ操作でナビゲーションと導入が可能。WiFiアダプタとセットでオススメです。
(*)今回は少し古いのですが「SkySafari 5 Plus」を使用しました。無料版は自動導入に対応していないことにご注意ください。
今回使用した小物アイテム
観望用椅子
眼視観望の際は「椅子に腰掛けて見る」ことがかなり重要。立ち姿勢・しゃがみ姿勢では、体がぶれて対象をしっかり見ることができません。この椅子は眼視フリークの標準とも言われている製品で、高さを簡単に変えることができ、屈折機からドブソニアンまで広い用途で使用できます。
重量が7キロほどあり若干重いのが弱点ですが、その分堅牢でブレがありません。眼視観望ではなくてはならない機材の一つ。
アイピースケース
眼視観望にハマりだすとアイピースが増殖してきます。そうなってくると問題になるのが交換・持ち運びの手間と夜露対策。昨年の暮れにアイピースボックス用に買ったアルミケースです。お値段も手頃、とりあえず一通り収まって満足度高。緩衝材のウレタンの経年変化によるべたつきが起きないか若干心配ですが・・・このへんの知見をお持ちの方はぜひコメントください!
余談ですが、このアイテムちょっと気になってるんですが・・・ヒーター付きの「インナー」バッグ。アイピースを入れて釣り用のクーラーボックスに入れておけば露よけ対策は万全かも?使用されたことのある方がいらっしゃれば、ぜひ感想を教えてください!
まとめ
いかがでしたか?
眼視観望でフィルター。高価なOIIIやHβなどの「ナローバンド」フィルターは、高価なこともあり「ガチマニア」なアイテムですが、そこまでいかなくても写真用の比較的安価な光害カットフィルターでも十分星雲の強調効果が得られます。ライトな観望派の方にもオススメできると思います。
M42は「全天一明るい」「様々な波長の光を含む」「輝線も連続光も強い」など、いろんな意味で「特別」な星雲ですが、フィルターを1枚かますだけで、光害地でも遠征地でも、いろんな姿を見ることができると再認識しました。写真撮影用に「光害カット」「ナローバンド」フィルターをお持ちの方は、ぜひ眼視でも試してみてはいかがでしょうか。
また、「肉眼ではHαは全く見えない」「Hαの光を感じなくてもM42の色の違いは識別できる」というなんともショッキングな結果!これは編集長の幻視なのか、それとも一般的な事実なのか?!読者の皆様のチャレンジとご報告をお待ちしたいと思います。
写真全盛の天文界ではありますが、天リフでは「写真も眼視も、星空と宇宙を楽しむ手段の一つ!」というコンセプトで、これからも眼視関連記事も続々?掲載予定です。ご期待ください!
今夜も皆様の天文ライフが楽しいものでありますように。それでは、次回またお会いしましょう。
補足
桿体細胞と錐体細胞
人間の眼の網膜にある映像を感じる細胞(視細胞)は、「桿体細胞」と「錐体細胞」の2つからなることは良く知られています。人間の眼が暗所で色を感じにくいのは、色を感じることのできる錐体細胞が「低感度」であるためです。
wikipedia 錐体細胞
https://ja.wikipedia.org/wiki/錐体細胞
「錐体細胞」は解像力が高く色を感じることができますが、網膜の中心付近のごく狭い範囲にしか存在しません。しかも感度が低く、暗い場所ではあまり働きません。
Wikipedia 桿体細胞
https://ja.wikipedia.org/wiki/桿体細胞
一方、「桿体細胞」は非常に高感度ですが、色を識別することができず、錐体細胞の周辺に広く分布しています(*)。
(*)いわゆる「そらし目」はこの事実から派生するテクニックです。
桿体細胞、錐体細胞の波長による感度
眼の常識・非常識
http://y-ok.com/eye/eyesight/eyesight-2.html
桿体細胞と錐体細胞の波長別の感度曲線。高感度の「桿体細胞」はいってみればモノクロですが、その感度のピークは520nm前後にあるようです。また「錐体細胞」はデジタルカメラのカラーセンサー同様に、RGBそれぞれの色に対する細胞として存在しています。
「R画素」に相当する「L錐体」の感度域のピークは575nm前後。これは「赤」というよりも黄色からオレンジに相当します。上のグラフを見るかぎり、水素のHα輝線(656nm)の感度は相当に低いことが分かるでしょう(*)。
(*)L錐体の感度が青の400〜450nmにも感度があることは今回初めて知りました。青の外側がなぜ「紫(マゼンタ、赤+青)」なのか不思議に思っていましたが、これが理由なのでしょうか。
Hαの赤が見えにくい二重の理由
眼視でHαの赤を感じにくい理由は2つあります。一つめは、暗い対象では人間の眼はそもそも色を感じにくいこと。もう一つは、色を感じる錐体細胞の「R画素」の感度域が、Hαのような「長い波長」では感度低いこと。非改造カメラですら、赤の感度は630nm程度までは普通にあるのとは大きな違いです。
オリオン大星雲は色を感じないほど暗いのだろうか
誰が見ても火星は赤く見えます。一方で、オリオン大星雲中心部はかなり輝度が高いにもかかわらず、色はほとんど感じられません。バラ星雲のような非常に暗い星雲ならともかく、錐体細胞が働いても不思議ではない(のかどうかについては具体的データは持たないのですが)オリオン大星雲になぜ色が感じられないのでしょうか。
本稿のテーマはここにあります。オリオン大星雲が暗すぎるから色を感じないのか(*)。それとも、色を感じることができるレベルにあるにもかかわらず、R成分の主要な要素であるHαの感度が低いために「白く」見えるからなのか。であれば、フィルターを使用することでBG成分とR成分の差を際立たせ、「白く見える」中にも色の差がより感じられるようになるのではないか。
(*)自宅ベランダで同一機材で「R2フィルター」を使用してオリオン大星雲を見たところ、星雲の中心部は「真っ赤」に見えました。(Hαは相変わらず真っ暗)「オリオン大星雲は色を全く感じないほど暗くはない」といえる気がしています。
この着想が事実なのか、単なる思い込みなのかついては、今後の検証を待ちたいと思います。
- 本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
- 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
- 製品の購入およびお問い合わせは各製品の製造元または販売店にお願いいたします。
- 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
- 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
- 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
機材協力(敬称略、順不同):
- スタークラウド:[FOT104鏡筒]
- SVBONY:[CLSフィルター 48mmサイズ]
- メガネのマツモト:[EMS-US]
https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/02/03/7833/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-150x150.jpg天体観賞(観望)実践・天体観望記みなさんこんにちは!性懲りもなくまた新連載を始めます。名付けて「実践・天体観望記」。 写真ばかりじゃないぞ。「宇宙は美しい。」この眼で眺める星空・宇宙の美しさを探訪する、天リフ編集長の観望記!第1回は「フィルターを使って天体を観望してみる」という「変態成分もたっぷり」の企画です! フィルターを使う天体観望 眼視観望でフィルターを使用することは、ごく普通に行われています。写真撮影と同様に「光害の光を軽減する」「輝線スペクトルで光っている星雲を強調する」のがねらいです。 今回使用したのは上の5つのフィルターです。星雲の輝線を鋭く通すナローバンドフィルターが「Hα 7nm」「OIII 8.5nm」の2種、光害をばっさりカットする「LPS-V4」フィルター、ナローバンドフィルターと光害カットフィルターの中間に位置する「QBPフィルター」です。また、新たにSVBONY様よりご提供いただいた同社の「CLSフィルター」も使用してみました。 これらのフィルターについては以下の天リフ記事もご参照ください! https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/12/7301/ 今回のねらい 「QBPフィルター」と激安「SVBONY CLSフィルター」の使用感やいかに? これまでも眼視観望で「OIIIフィルター」と「LPS-V4フィルター」は使用したことがありました。OIIIは「とことん淡い星雲を見る」のに適していますし、LPS-V4は光害地でのお手軽観望にも適しています。 今回新たに試してみたかったのがまずこれ。48mmサイズで6千円を切る激安品です。1.25インチなら4千円を切ります。波長特性的には、肉眼で見る限りはLPS-V4と同じくらいの効果があるはず(*)。その通りなら「光害地でのお手軽観望」にも、「遠征地での淡いもの系」にも使えることになります。 (*)リンク先の商品ページに波長特性グラフが掲載されています。 もうひとつはこちら、サイトロンジャパンの「QBPフィルター」。写真用途に大流行しつつある「ワンショットナローバンド」向けの製品です。透過波長域がガチのナローバンドよりは広く、これまでの光害カットフィルターよりは狭い。これを眼視で使うとどうなるのか? M42は赤いのか?! オリオン大星雲は赤いのか?オリオン大星雲は古くから「ピンク色」と書かれた本があるにもかかわらず「色なんて見えないよ」という意見もあり、昨年以来眼視フリークの間で話題になっていました。これについては以下のブログに詳しく書かれています。 Light_Bucket18のブログ・M42 トラペジウム付近の色に関する考察 https://blogs.yahoo.co.jp/light_bucket18/35538268.html ざっくりまとめると「気のせい(写真の印象による作用)」もあるが「自分も含め信頼できる確認事例が複数ある」、「暗順応した眼では確認できない」「そらし眼は逆効果」というものでした。 今回のねらいはフィルターを使えば「赤いオリオン大星雲」はよりはっきり見えるのか?それを検証しようというもの。さて、どうでしょうか?! 補足2019.2.10) 人間の眼を構成する「桿体細胞」「錐体細胞」の特性の違いについての記述がないというご指摘をいただきました。引用記事のLight_Bucket18のブログにも言及されていましたので特に今回はその件には触れませんでしたが、記事末に補足しています。 実視検証 では早速実視結果といきましょう。使用した望遠鏡は、後でも触れますが口径104mmの3枚玉アポクロマート鏡筒「FOT104」。接眼レンズはWilliam OpticsのSWAN40mm(16倍)とPENTAXのXW20mm(32倍)、NikonのNAV-HW12.5mm(10mm相当、65倍)です。対象はオリオン大星雲M42。観望地は九州では並クラスの遠征地、福岡県の東峰村・小石原です。 注)本項に以下掲載する画像は「眼視の感覚、雰囲気」を写真で表現した「イメージ」です。できるだけ印象を再現したつもりですが、筆者個人のバイアスや、見る人の個人差が大きいことが予測されます。あくまでひとつの参考意見としてごらんください。 フィルターなし まず、フィルターなしで。いやー、M42はいつ見ても美しいですね!特に中心から2時の方向と7時の方向に広がる羽根のような部分、キラキラ光るトラペジウムとその付近の鋭い複雑な切れ込み、南西に広がる光芒のグラデーションが素晴らしい。 ちなみに、16倍だとかなり背景の空は明るく、M42そのものも小さいこともあってあまり見栄えがしません。32倍だと背景もだんだん締まってくるのですが、やはり圧巻は10mmの65倍。視野一杯に広がって壮観な眺め。 で・・・M42は赤く見えるのか?結論からいって「赤く」は見えませんでした。ピンクにも見えません。ほんのり赤みを帯びている・・・ようにも見えません。でも、じっくり見ていると中心部とそのすこし回りの色が少し違うような・・気がします。気のせい?かもしれないけど、やっぱり違う。そんな感じです。 IDAS LPS-V4 続いてIDAS社のLPS-V4フィルター。このフィルターは「強めの光害カットフィルター」。500nm付近のOIII・Hβの青緑と、656nm付近のHαを通し、水銀輝線を含む緑〜青色、ナトリウム輝線を含む黄色はばっさりカットします。肉眼で見ると青緑色に見えます。 実視してみると・・・第一印象は「全部青緑」。星も青緑、星雲の中心も青緑。背景の空は16倍でもそれなりに暗く締まっています。星雲はよりはっきりと浮かび上がり、一目で「効果があるなあ」という感じです。 その反面、青緑一色なのがちょっと残念。ずっと見続けているとだんだん眼の補正が効いてきて不自然さは減ってくるのですが「なんか普通じゃないことしているな」感があります。 SVBONY CLS ファーストライトのSVBONYのCLSフィルター。このフィルターは波長特性はLPS-V4と似ているのですが、違いは赤のバンドが若干広いこと。640nm付近からは長波長側をすべて通します。肉眼で見るとVPS-V4同様青緑色ですが、少しマゼンタに寄っていて、より赤い光を多く通すことを表しています。 実視してみると・・・第一印象は「ちょっと青緑ぽいかなあ」。でも星の色はそんなにも偏って感じず、やや青緑がかった程度で、LPS-V4ほど偏りが強くない印象です。背景の明るさはLPS-V4と同じくらい。大星雲の中心すぐ外側はほんのりマゼンタがかった感じ。そして・・大星雲の中心部はマゼンタっぽさが消えて、逆に青緑色っぽく感じます。理屈はともあれ大星雲の「赤」が確認できた(気がする?)ぞ! 昼間に白色光にかざしてみると、LPS-V4との色の差はあまり感じないのですが、実視してみると思いのほか大きな色味の違いを感じました。人間の眼は「オートホワイトバランス補正」の能力が備わっています。LPS-V4はその能力を超える色の偏りがあるためいつまでも青緑っぽく見え、SVBONY CLSの場合は補正能力範囲にあるため青緑の偏りが低減され、OIII優位の大星雲の中心部分の色と、その周辺の色の違いがより明らかになるのでしょうか(*)。 (*)「出典のない独自の研究」であることにご注意ください^^; この色の見え方を抜きにしても、今回使用したフィルターの中では一番楽しめました。星の色・明るさが一番自然で星雲もほどよく強調されます。 サイトロン QBP 昨年末に発売されたQBPフィルターは「光害地でも天体写真が撮れる」と大人気のフィルター。色合いははっきりマゼンタ系に振れた暗い色で、より光害カット・輝線強調効果が増すはず。高まる期待。 実視してみると・・・「ちょっと暗いかな」。でも16倍だとちょうどいい感じに引き締まり、じっくり暗順応が進むのを待つと大星雲の淡い広がりが見えてきます。大星雲の色も星の色も、ややマゼンタ系っぽいですが、透過光量がそもそも少ないせいか、明るい星を以外はあまり色は感じません。大星雲の色はSVBONY CLSほどではないのですが、確かに中心と周辺部で違う気がします。光量が豊富な大口径で使用するともっと色の違いが見えてくるのかもしれませんね。 Baader OIII 8.5nm 半値幅が非常に狭いナローバンドフィルターです。肉眼で見ると暗い青緑。少々の光害があっても、このフィルターを使用すれば網状星雲やバラ星雲のような淡い対象を眼視で見ることができます。 実視してみると・・「背景が真っ暗だ〜」。大星雲が漆黒の背景にぽっかりと浮かび上がってきます。ただし、暗順応がマスト。最初はすごく暗くて見にくいのですが、暗順応が進むにつれて世界が変わってきます。ああ、世界は大星雲と私だけ。この淡い光に吸い込まれるよう。上の画像ではその雰囲気を表せていないのが残念。 星の色は明るい星は青緑色ですが、星雲には色をほとんど感じません。そもそも星があんまり見えない。「星がきらめいて美しい」という感じではなく、視力テストをされているようです。そういう意味ではマニア向け。「これでしか見えない淡い極限に挑むツール」というべきでしょうか。 Baader Hα7nm こちらも半値幅が非常に狭いナローバンドフィルター。写真用途では、水素輝線のモクモクがこれでもかといわんばかりに写る魔法のフィルターです。 実視してみると・・「何にも見えなぁぁーぃ」。星ひとつ見えません。完全な闇。何かの間違いかと思ってもう一度フィルターを外して確認しましたが、やっぱり何も見えない。656nmの赤い水素輝線は人間の眼はあまり感じないことは頭でわかってはいましたが、ここまで何も見えないとはびっくり。肉眼はHαにはいかに無力であることよ。 このことは、逆にSVBONY CLS やQBPフィルターで見た時に感じた「赤い光」は、Hα輝線ではないということです。それよりも短い(620nm〜650nmくらい?)連続光の色なのではないでしょうか。オリオン大星雲を見た時、仮に赤く見えたとしても、それはHαの光ではない。そんな気がしました。 写真ではどうか 同じ晩に「ノーマルカメラ」「ノーフィルター」で撮影したM42はこんな感じです。Hαの感度が非常に低いノーマルカメラなので、波長特性的には「肉眼で見たM42の姿」に近いものと考えられます。この写真を見る限り、M42の中で「青優位」は中心部分と「羽根」の部分であることがわかります。 バラ星雲とトールのかぶと星雲 参考までに、バラ星雲とトールのかぶと星雲も見てみました。バラ星雲は空の暗い場所であれば、ノーフィルターでも楽勝?で見える散光星雲です。ただし、かなり大きいため、倍率を低めにして「星雲の外側」も視野に入るようにしないと、星雲の存在に気がつかないことがあります(*)。 (*)視野全体が霞んだようにぼんやりとほの明るく見えるため。 ざっくりバラ星雲もトールのかぶと星雲も、ノーフィルターで確認することができました。オリオン大星雲よりもずっと淡いこれらの星雲では、フィルターの効果はさらに大きく感じました。バラ星雲もトールのかぶと星雲も、じっくり眼を暗順応させればOIIIが一番明瞭なのですが、前述のとおり「硬派な」観望になります。星もしっかり見えるLPS-V4とSVBONY-CLSが輝度的にはやはりバランスがいい感じ。色み的には青緑すぎないCLSの方が筆者的には好みでした。 今回使用した機材 鏡筒 口径104mm、焦点距離650mmの3枚玉高性能アポクロマート「FOT104」。以前天リフでもレビューした「FOT85」の上位バージョンです。光学性能の高さは折り紙付き。はっきりいって、眼視観望では文句の付けようがありません。 同時出動していたFSQ106EDも眼視用途に高性能を発揮するのですが、接眼部の繰り出し量が短く、正立ミラーEMSを使用した際に一部のアイピースでピントが出ません。反面、FOT104は繰り出し量は十分。使用している全てのアイピースでピントが出ました。 このFOT104については、近日中に詳細をレビュー予定です。お楽しみに! 正立ミラー・MATSUMOTO-EMS 知る人ぞ知る「メガネのマツモト」製の2回反射式正立ミラーEMSです。淡い天体の細部を見ようとする場合、写真の画像と比べながら見ることが多くなりますが、その際には「鏡像でない=正像」の、2回反射のミラーないしはプリズムは必需品です。 今回使用したのは「銀ミラー」のEMS-US。銀ミラーはアルミメッキや誘電体コートよりも長波長側の反射率が高いのが特徴。「オリオン大星雲の赤」を試すにはうってつけ。「US」モデルはミラーのサイズが一番小さなモデルですが、XW-20mmの32.5倍であれば周辺がけられることはありませんでした。 架台 Sky-WatcherのEQ5赤道儀、自動導入が付いて10万円を切る価格。5kgのバランスウェイトが2個も付属していて(*)、かなりの重量機材でもとりあえず載せることができます。これ、コスパ最強の眼視用自動導入赤道儀です。 (*)今回はなんとウェイトを持ってくるのを忘れるという大失態・・・小型のウェイトを鈴なりにしてごまかしました^^;; 昨年発売された「WiFiアダプタ」を装着すると、スマホ・タブレットのアプリ「SynScan」から全ての操作が可能になり、アライメント・導入・設定すべてにおいてはるかに使いやすくなります。個人的には購入大推奨のオプションです(*)。 (*)WiFiアダプタを購入して以来、従来の「ハンドコントローラ」を使用することはなくなりました。 さらに、今回はアプリ「SkySafari(*)」を併用。ビジュアルなタブレット画面から、タッチ操作でナビゲーションと導入が可能。WiFiアダプタとセットでオススメです。 (*)今回は少し古いのですが「SkySafari 5 Plus」を使用しました。無料版は自動導入に対応していないことにご注意ください。 今回使用した小物アイテム 観望用椅子 眼視観望の際は「椅子に腰掛けて見る」ことがかなり重要。立ち姿勢・しゃがみ姿勢では、体がぶれて対象をしっかり見ることができません。この椅子は眼視フリークの標準とも言われている製品で、高さを簡単に変えることができ、屈折機からドブソニアンまで広い用途で使用できます。 重量が7キロほどあり若干重いのが弱点ですが、その分堅牢でブレがありません。眼視観望ではなくてはならない機材の一つ。 アイピースケース 眼視観望にハマりだすとアイピースが増殖してきます。そうなってくると問題になるのが交換・持ち運びの手間と夜露対策。昨年の暮れにアイピースボックス用に買ったアルミケースです。お値段も手頃、とりあえず一通り収まって満足度高。緩衝材のウレタンの経年変化によるべたつきが起きないか若干心配ですが・・・このへんの知見をお持ちの方はぜひコメントください! 余談ですが、このアイテムちょっと気になってるんですが・・・ヒーター付きの「インナー」バッグ。アイピースを入れて釣り用のクーラーボックスに入れておけば露よけ対策は万全かも?使用されたことのある方がいらっしゃれば、ぜひ感想を教えてください! まとめ いかがでしたか? 眼視観望でフィルター。高価なOIIIやHβなどの「ナローバンド」フィルターは、高価なこともあり「ガチマニア」なアイテムですが、そこまでいかなくても写真用の比較的安価な光害カットフィルターでも十分星雲の強調効果が得られます。ライトな観望派の方にもオススメできると思います。 M42は「全天一明るい」「様々な波長の光を含む」「輝線も連続光も強い」など、いろんな意味で「特別」な星雲ですが、フィルターを1枚かますだけで、光害地でも遠征地でも、いろんな姿を見ることができると再認識しました。写真撮影用に「光害カット」「ナローバンド」フィルターをお持ちの方は、ぜひ眼視でも試してみてはいかがでしょうか。 また、「肉眼ではHαは全く見えない」「Hαの光を感じなくてもM42の色の違いは識別できる」というなんともショッキングな結果!これは編集長の幻視なのか、それとも一般的な事実なのか?!読者の皆様のチャレンジとご報告をお待ちしたいと思います。 写真全盛の天文界ではありますが、天リフでは「写真も眼視も、星空と宇宙を楽しむ手段の一つ!」というコンセプトで、これからも眼視関連記事も続々?掲載予定です。ご期待ください! 今夜も皆様の天文ライフが楽しいものでありますように。それでは、次回またお会いしましょう。 補足 桿体細胞と錐体細胞 人間の眼の網膜にある映像を感じる細胞(視細胞)は、「桿体細胞」と「錐体細胞」の2つからなることは良く知られています。人間の眼が暗所で色を感じにくいのは、色を感じることのできる錐体細胞が「低感度」であるためです。 wikipedia 錐体細胞 https://ja.wikipedia.org/wiki/錐体細胞 「錐体細胞」は解像力が高く色を感じることができますが、網膜の中心付近のごく狭い範囲にしか存在しません。しかも感度が低く、暗い場所ではあまり働きません。 Wikipedia 桿体細胞 https://ja.wikipedia.org/wiki/桿体細胞 一方、「桿体細胞」は非常に高感度ですが、色を識別することができず、錐体細胞の周辺に広く分布しています(*)。 (*)いわゆる「そらし目」はこの事実から派生するテクニックです。 桿体細胞、錐体細胞の波長による感度 眼の常識・非常識 http://y-ok.com/eye/eyesight/eyesight-2.html 桿体細胞と錐体細胞の波長別の感度曲線。高感度の「桿体細胞」はいってみればモノクロですが、その感度のピークは520nm前後にあるようです。また「錐体細胞」はデジタルカメラのカラーセンサー同様に、RGBそれぞれの色に対する細胞として存在しています。 「R画素」に相当する「L錐体」の感度域のピークは575nm前後。これは「赤」というよりも黄色からオレンジに相当します。上のグラフを見るかぎり、水素のHα輝線(656nm)の感度は相当に低いことが分かるでしょう(*)。 (*)L錐体の感度が青の400〜450nmにも感度があることは今回初めて知りました。青の外側がなぜ「紫(マゼンタ、赤+青)」なのか不思議に思っていましたが、これが理由なのでしょうか。 Hαの赤が見えにくい二重の理由 眼視でHαの赤を感じにくい理由は2つあります。一つめは、暗い対象では人間の眼はそもそも色を感じにくいこと。もう一つは、色を感じる錐体細胞の「R画素」の感度域が、Hαのような「長い波長」では感度低いこと。非改造カメラですら、赤の感度は630nm程度までは普通にあるのとは大きな違いです。 オリオン大星雲は色を感じないほど暗いのだろうか 誰が見ても火星は赤く見えます。一方で、オリオン大星雲中心部はかなり輝度が高いにもかかわらず、色はほとんど感じられません。バラ星雲のような非常に暗い星雲ならともかく、錐体細胞が働いても不思議ではない(のかどうかについては具体的データは持たないのですが)オリオン大星雲になぜ色が感じられないのでしょうか。 本稿のテーマはここにあります。オリオン大星雲が暗すぎるから色を感じないのか(*)。それとも、色を感じることができるレベルにあるにもかかわらず、R成分の主要な要素であるHαの感度が低いために「白く」見えるからなのか。であれば、フィルターを使用することでBG成分とR成分の差を際立たせ、「白く見える」中にも色の差がより感じられるようになるのではないか。 (*)自宅ベランダで同一機材で「R2フィルター」を使用してオリオン大星雲を見たところ、星雲の中心部は「真っ赤」に見えました。(Hαは相変わらず真っ暗)「オリオン大星雲は色を全く感じないほど暗くはない」といえる気がしています。 この着想が事実なのか、単なる思い込みなのかついては、今後の検証を待ちたいと思います。 本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは各製品の製造元または販売店にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。 機材協力(敬称略、順不同): スタークラウド: SVBONY: メガネのマツモト: 編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
興味深く拝見しましたが、人間の目の暗順応に伴う感度域の変化についての考察が、完全に欠落していたのが残念です。
人間の目は 明るいところで働く視細胞と 暗いところで働く視細胞とでは 感度域ご全く異なります。
これについては眼視観測者のほとんどの人が認識不足で 、教科書にもほとんど掲載されていない有様です。
天文書で唯一言及されているのは 吉田正太郎先生の著書だけです。
惑星など明るい天体を観察する時や 光害で明るい空て観察する時は 色を感じる錘体とという視細胞でモノを見ますが、
彗星のような微光天体を観察する時は 目は暗順応により 桿体という色は認識しないが感度の高い視細胞に切り替わるのです。
この錐体と悍体の感度域の違いが 目で見た印象と写真で見る印象の違いの理由です。
これについては昨年の星の広場の50周年の集まりでも発表させて頂きました。
詳しくは私のブログをご参照頂ければ幸いです。
ムササビの星空ノート
アメブロです
リンクを貼らなくて申し訳ありません。
ご指摘ありがとうございます。初出時はあえて桿体・錐体の詳細については触れませんでしたが、補足として追加しました。
眼で見える色を論ずるときには、物理的な色と感覚的な色の違いを考慮する必要があります。光源が違っても。白い紙は白く見えるという現象で、視覚物理の教科書には「色の恒常性」として書かれています。そのような眼の特性に対応するため、デジカメにはホワイトバランス調整機能が備わっています。
色の恒常性は順応性と言われることもあり、例えば白色光で照明された環境からタングステン光で照明された環境に移動すると、最初の瞬間は白い壁が黄色っぽく感じられるけれど、しばらくすると白く感じるようになる現象です。また、様々な色のパッチで構成されるルービックキューブのグレーパッチは、周りのパッチの色が何色かで、感じる色が変わるという色の錯視もよく知られた現象です。
そのような色の順応に関して、私が天体観測をしていてこれはすごいと感じた現象は、Hα太陽望遠鏡で太陽を直視した時です。接眼鏡を覗いた瞬間は、Hα太陽は真っ赤に見えますが、すぐ鮮やかさがなくなりピンクからオレンジ系の色に感じられるようになり、物理的な色とは違う色に感じられてしまいます。そして、眼を接眼鏡から少し離して接眼鏡から漏れるHα太陽の光と、望遠鏡の周りの色々な色が混じった光景を一緒に見れる状態にすると、さっきまでオレンジぽかった接眼鏡の中のHα太陽の色は真っ赤に見えてきます。
つまり、望遠鏡で見える天体の色を実験的に確認し議論する時には、明るさ変化に伴う錐体・桿体の分光感度特性の違いに加えて、眼の順応性(色の恒常性)に影響する様々な条件をどう設定するかを配慮しないと、天体の色の話をしているのか眼の特性の話をしているのか、分からなくなってしまいます。
なお、光量が十分とれる大口径の望遠鏡で見た時にM42が何色に見えるかについては、例えばSky&Telescopeの2017年12月号34ページに、口径70cmの望遠鏡を使ってカラースケッチされた画像が載っていて、トラペジウムの周りは緑色で左下に細長い赤いベルトが描かれています。
子供の頃、電気コタツにもぐって遊んでいたら、最初は真っ赤だったものがだんだんオレンジになり、こたつを出ると部屋の明かりの色が全く変わって見えた経験がありました。Hα太陽もそれと同じような作用なのでしょうね。
今回の検証はフィルターを使った「色眼鏡」経由なので本来の天体の色の話にはなっていないと思っています。今思っている仮説は「目の色順応ができる程度のRGBバランス」でかつ「OIII輝線が強調されるような狭めのGバンド」であれば、GとRの輝度差が強調されて「色の違い」が視認できるのではないか、というものです。
次回は、暗順応・色順応の前後の違いも意識して、20cmのC8でも試してみます。
「OIII輝線が強調されるような狭めのGバンド」って、どういう意味でしょうか? 天文台で撮られた星雲のスペクトル写真を見ると、Hα輝線もOⅢ輝線もその半値幅はフィルターのバンド幅より十分に狭いと思われますので、フィルターを通してもHα輝線とOⅢ輝線の強度比は変わらないと思います。変わるのは、光害や夜光の連続スペクトル光がフィルターで弱められて、星雲以外の部分の空が暗く見える効果だと思いますが・・・。
以下を仮定します。
1.「人間の眼は、OIII輝線と比べてHα輝線の感度は極端に低い」
2. 大星雲の「連続スペクトル」成分だけで見ると色の差はほとんどない
このとき、大星雲の「色の違い」はOIII輝線成分の多寡で決まることになります。
BGバンドの帯域の狭いフィルターを使用すれば、この色の違いが増幅されると推測しました。色を感じないほどに光量を減らさず、RGBの強度比を人間の眼の色順応可能な範囲にとどめるようなフィルターを使用すれば、OIIIの多寡に応じた色の違いが視認出来るのではないか、という仮説です。
仮定1.は多分その通りですが、2.がどうかはよくわかりません。
そういう仮定で実験されたのですね。しかし、例えばぐんま天文台で撮られたM42のスペクトルデータを見ると、M42は輝線だけで光っていて、連続スペクトルは発していないようですよ。
http://www.astron.pref.gunma.jp/images/gcs/M42sp.gif
なるほどー。スペクトルのグラフありがとうございます。
でも面積でいうと連続光の寄与もそれなりにあるのではないでしょうか。ピークが鋭すぎて正確な数字はわかりませんが、連続成分も半分〜1/3くらいはあるように見えます。連続光はかなり青いのですね。光らせている星が青いということですね。
いや、連続光は市街光ですよ。
http://www.astron.pref.gunma.jp/instruments/gcs.html
市街光なら色温度はもっと低いのではないでしょうか?大星雲のどの部分のデータかによっても市街光の評価は変わるのでこのグラフからは断定できない気がします。
R2フィルターで星雲の存在が視認できたこととHαで全く星雲が見えなかったことから大星雲の連続光のR成分は確かに存在すると思うのですが。
それでは、ぐんま天文台でスペクトルを撮影された方を知っているので、一度聞いてみますので、しばらく時間をください。
新着記事毎回楽しみにしています。
今回の記事とても興味深く読ませていただきました。
しかし、フィルターを駆使してとはいえ、10cmでM42の色の検出を試みるのは前代未聞では?
私自身は残念ながら天体の色を見たことはありません。また医学、生理学の知識もありません。
一天文ファンの私としての興味は、見えるのか見えないのか、見えるとしたらどんな条件でなら見えるのかにつき、メカニズム的なところは枝葉に過ぎないと思っています。
それを踏まえてのコメントです。
天体の色については雑誌、ブログ等色々目にしてきましたが、一番興味深かったのが多分「天文ガイド」だったと思うのですが、オーストラリアでM42を見るといった内容の記事でした。
その記事ではオーストラリアの天文愛好家の間では、M42はピンク、青、緑の極彩色の天体だと普通に認識されているとありました。
20cmくらいのシュミカセで充分見えるようです。
条件の良いオーストラリアでは議論の対象にすらなっていないという内容でしたね。
国内では、あるベテランの方が、76cmドブでM42の色を見たとの記事(これも多分天文ガイド)がありましたし、84cm初代チロ望遠鏡で惑星観測で高名な小石川さんがM31の中心部分が黄色みがかっているのを確認したという記事(多分星の手帳)もありました。
ブログだったと思うのですが、M8とM20の色の検出にチャレンジされた方もいました。
はっきりとは覚えていないのですが、M8はピンクに見えM20の色は見えなかったと書かれていたと思います。
海外の記事では、お化けサイズのドブソニアンでM57の色(グリーン)を見たとの記事もありました。
私は十分に良い条件なら、天体はその神秘的な色を見せてくれるものと思っています。
どうですか?編集長。
問題提起した責任を取り、編集長自らオーストラリアに赴くというのは?
オーストラリアでは不足というのであればアタカマ砂漠でも。
ぜひ編集長に最終的かつ不可逆的にこの問題を解決してもらいたいですね。
私は、理屈は後回しにしてもまず試してみる、行動する、の編集長の姿勢にとても好感を持ちます。
これからも常識や固定観念にとらわれない記事を期待しています。
健康と車の運転には注意してください。
いろいろと興味深い情報をありがとうございます。雑誌は一度引退した以降は全くといっていいほど見ていないので、大変助かります。思えば小学生の頃は無邪気に「M42はピンク」と疑わずに見ていた気もしますね。小林・バーガー・ミロン彗星の「独立発見」のときは確かに青緑に感じたのですが。
わかりました。責任を取ってオージーで検証してきましょう!実はワディファームに4月に行ってきます。ηカリーナ、M8、タランチュラあたりですかね。
10cmでHαで見た感触では、Hα輝線は眼視に全く寄与していないのですが、大口径ドブでもほんとにそうなのかも気になりますね。口径が大きかろうと面積当たりの輝度は同じはずですが大口径では眼全体に入る光量が違うはずなのでそれも今後比較したいポイントです。
>これからも常識や固定観念にとらわれない記事を期待しています。
>健康と車の運転には注意してください
ありがとうございます!
海外レポート楽しみにしています。
大口径なら公共天文台を利用する手もありますね。時間の制約があるのが難点ですが。
九州ならば、宮崎の中小屋天文台、熊本の南阿蘇ルナ天文台、福岡の星の文化館
四国ならば、阿南市科学センター
関西ならば、紀美野町立みさと天文台
あたりが良さそうです。
恒星社厚生閣の「全国公開天文台ガイド」が詳しいです。