筆者が審査員の一人としてかかわった、オプトロン社の星景写真コンテストの結果が発表されています。

以下、選ばれた10作品をご紹介していきましょう。
(順序はOptolong社のHPに掲載された順ですが、この順は同一順位の中での作品の評価を表しているものではありません)

一位



マレーシアのSammax Chongさんの作品。星空の下、テントの横でくつろぐ風景。こんな場所で、こんな風に星空を楽しんでみたいと感じさせます。星空と風景のバランスも良く完成度の高い作品です。

この作品を含め、入賞作には人工光を配した作品が多く見られます。星空の撮影において人工光を使うことには様々な議論がありますが、私個人としてはこの作品は必然性のある効果的な使い方と感じました。テントに光を灯すことは誰にも止めることはできません。

個人的には人物の表情がもう少し大きければとベスト作品のリストから落としてしまっていましたが、他の審査員の高評価が私の選択ミスをカバーしました。

中国の陈建华さんの作品。ふたご座流星群の夜、星空と流星を別々のカメラで撮影し、コンポジットした作品です。今回の6人の審査員の中では最も評価の高かった作品の一つです。

この作品については、大きな議論がありました。(まあ私が疑義を呈したのですが)
同じ場所で撮影した画像ですから、応募基準は満たしています。しかし、この作品の是非については、いろいろな意見があるでしょう。

この作品は、例えばInstagramのような場では、圧倒的なLikeを集めることは間違いありません。その意味でも、非常に強い力を持った優れた作品です。しかし、何時間もかけて流星の画像を丁寧にコンポジットすることをしなくても、このような奇跡的な瞬間が起きることがあります。例えば2001年のしし座流星群の晩などです。

私たちには、これまで見たこともないような奇跡の瞬間を体験し、それを写真として記録する可能性が開かれています。にもかかわらず、それを安直に(とはいっても、なかなか真似のできない苦労と技術が凝らされていますが)模倣することに、それほどまでに高い評価が与えられるべきなのか?

また、この作品の技法はより安直に奇跡を量産する可能性を持っています。流星は一つ一つには細かな個性がありますが、総体として見れば個性が極めて小さい存在です。あらかじめ用意された「流星雨の画像」を、手持ちの作品に一発でコンポジットするようなアプリは、簡単に開発することができるでしょう(「Snow」のように)。また、それを模倣と見抜くことは簡単ではありません。

いずれにしても、この作品がより多くの審査員に支持され1位として選出されたことは事実であり、現在のデジタル写真表現の置かれている場所を示すものでもあります。

二位

中国の柏乐さんの作品。砂漠の中の1本の木にぶら下がった一つの灯火。その前で少女が祈っています。さまざまなストーリーを想起させる、内面に強く訴える作品です。

個人的には、この作品は例え完全なコラージュであったとしても、高く評価します。作者が意図した表現において、コラージュであるかどうかは大きな差はないと考えるからです。
(私はこの作品がコラージュであるとは考えていませんし、その可能性を指摘するものでもありません)

チェコのOliver Benešさんの作品。岩山の上に立つ人、昇る天の川。おそらく自然光のみで撮影されていると推察しますが、天の川の明るい部分のシルエットで自然の険しさとその中の小さな人間の存在を描いています。

「天の川・(砂漠・岩山などの自然)・人物のシルエット」は、本コンテストでも応募の多かったジャンルですが、その中では群を抜いて強い印象を与える作品でした。編集子の乏しい想像力ではこのジャンルが今後どこに行くのか全くわかりませんが、数多くのフォトグラファーの創造性によって、さらに多くの良い作品がつくられていくのでしょう。



ニュージーランドのPaul Wilsonさんの作品。タイトルの「Carpe noctem」は「夜を掴む」という意味の ラテン語。

強烈な色彩で日本人から見ると「海外風」と受け止められるのかもしれません。事実、この作品は夕焼けの際の前景と、夜の星空をミックスしたものです。個人的にはこのような「時間差合成」で撮影された作品はあまり高く評価はしませんが、多くの人に強い印象を与える作品であることは確かです。

三位

マレーシアのSammax Chongさんの作品。

ある意味ありふれた、夕焼けの中の月と金星です。しかし、個人的にはこのありふれた光景の美しさはもっと評価されるべきと思いますし、それをより美しく表現することに注力された作者には敬意を表します。

実のところ、予備審査では私は「ありふれた感」とやや強すぎる彩度を理由に高評価リストには入れていませんでした。むしろ自分の選択が正しかったのかと悔やんでもいます。

月、空、地上風景を別の露出時間で撮影し合成していますが、これはマスク処理で補正するのと本質的にはかわらず、むしろ最も暗い地上に十分な露出をかけることで作品のクオリティを上げることに貢献しています。

中国の王晋さんの作品。皆既月食は自然の生み出す希な「特別な夜」の一つです。その数少ない「血のような月夜」の機会に見られる冬の天の川をパノラマ合成でとらえた作品です。

この作品も、私のベストリストからは外してしまっていたものです。「珍しい現象が珍しさ故に高評価が与えられる」ことに対する葛藤があったのは事実です。数年に1回、位置からみると10年に1回ともいえる皆既月食がダメで、33年に1回のしし座流星雨が良いというのも微妙なダブルスタンダードですね。自分の審査眼の未熟さを考えさせられました。

中国の王晋さんの作品。パノラマによる天の川アーチは多数の応募がありました。天の川アーチは適切な前景と確実な撮影技術があれば、誰でも「ある程度」はハッとさせる作品を撮ることができます。その中でこの作品は一つ抜き出たものを感じました。

薄明光と街灯りに照らされた鮮烈な空と、水田に映った静かな星空の対比が印象的で(若干やりすぎも感じますが)、パノラマであることの「必然性」を感じる作品です。

中国の曹冲林さんの作品。中国の柏乐さんの作品と似たテーマですが、個人的にはこちらの作品の方が好きです。黒い服をまとった女性は何を思い、手に持つライトは何を照らしているのか。デスノートのラストシーンで弥海砂が祈るシーンがリフレインし、強烈なバイアスがかかってしまい、この作品が自分の中では今回のベストでした。

そういう個人的な感情の想起は、公正な立場であるべき審査員としては良くないのかもしれません。しかし、たった一つの小さな灯りが作品を大きく彩ることがあるという事実は、より多くの人に認められてほしいと思います。

日本の西沢政芳さんの作品。蝦夷富士、羊蹄山に沈む冬の王者オリオン座です。比較明合成ではない1枚撮りの光跡撮影は繊細な星の色を表現することのできる優れた手法です。作者の丁寧な画像処理もあり、非常に繊細でありながら雄大で、宇宙と自然の美しさを余すところなく表現しています。

作者はしばしば「この手の作品は一般にはウケない」と嘆いていらっしゃいますが、この作品は多くの審査員から高く評価されました。これが今回私にとって最も嬉しいことでした。

審査を通じて

応募された全作品をご覧になればわかりますが、選ばれた作品以外にも優れた作品が多数ありました(つい先日APODに選出された作品もありました)。その差はほんのわずかです。審査である以上、何らかの方法で順位を決定しなくてはなりません。その決定方法のわずかな違いによっても結果は異なったものになった可能性もあります。

しかし、6人の審査員が選んだこれらの結果に私は満足しています。何よりも、素晴らしい作品を応募いただいた作者のみなさんに、深い感謝と敬意を表したいと思います。 https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/0d50568499a6ad77f2ab64695635a44a-675x1024.pnghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/07/0d50568499a6ad77f2ab64695635a44a-150x150.png編集部星景写真筆者が審査員の一人としてかかわった、オプトロン社の星景写真コンテストの結果が発表されています。 以下、選ばれた10作品をご紹介していきましょう。 (順序はOptolong社のHPに掲載された順ですが、この順は同一順位の中での作品の評価を表しているものではありません) 一位 マレーシアのSammax Chongさんの作品。星空の下、テントの横でくつろぐ風景。こんな場所で、こんな風に星空を楽しんでみたいと感じさせます。星空と風景のバランスも良く完成度の高い作品です。 この作品を含め、入賞作には人工光を配した作品が多く見られます。星空の撮影において人工光を使うことには様々な議論がありますが、私個人としてはこの作品は必然性のある効果的な使い方と感じました。テントに光を灯すことは誰にも止めることはできません。 個人的には人物の表情がもう少し大きければとベスト作品のリストから落としてしまっていましたが、他の審査員の高評価が私の選択ミスをカバーしました。 中国の陈建华さんの作品。ふたご座流星群の夜、星空と流星を別々のカメラで撮影し、コンポジットした作品です。今回の6人の審査員の中では最も評価の高かった作品の一つです。 この作品については、大きな議論がありました。(まあ私が疑義を呈したのですが) 同じ場所で撮影した画像ですから、応募基準は満たしています。しかし、この作品の是非については、いろいろな意見があるでしょう。 この作品は、例えばInstagramのような場では、圧倒的なLikeを集めることは間違いありません。その意味でも、非常に強い力を持った優れた作品です。しかし、何時間もかけて流星の画像を丁寧にコンポジットすることをしなくても、このような奇跡的な瞬間が起きることがあります。例えば2001年のしし座流星群の晩などです。 私たちには、これまで見たこともないような奇跡の瞬間を体験し、それを写真として記録する可能性が開かれています。にもかかわらず、それを安直に(とはいっても、なかなか真似のできない苦労と技術が凝らされていますが)模倣することに、それほどまでに高い評価が与えられるべきなのか? また、この作品の技法はより安直に奇跡を量産する可能性を持っています。流星は一つ一つには細かな個性がありますが、総体として見れば個性が極めて小さい存在です。あらかじめ用意された「流星雨の画像」を、手持ちの作品に一発でコンポジットするようなアプリは、簡単に開発することができるでしょう(「Snow」のように)。また、それを模倣と見抜くことは簡単ではありません。 いずれにしても、この作品がより多くの審査員に支持され1位として選出されたことは事実であり、現在のデジタル写真表現の置かれている場所を示すものでもあります。 二位 中国の柏乐さんの作品。砂漠の中の1本の木にぶら下がった一つの灯火。その前で少女が祈っています。さまざまなストーリーを想起させる、内面に強く訴える作品です。 個人的には、この作品は例え完全なコラージュであったとしても、高く評価します。作者が意図した表現において、コラージュであるかどうかは大きな差はないと考えるからです。 (私はこの作品がコラージュであるとは考えていませんし、その可能性を指摘するものでもありません) チェコのOliver Benešさんの作品。岩山の上に立つ人、昇る天の川。おそらく自然光のみで撮影されていると推察しますが、天の川の明るい部分のシルエットで自然の険しさとその中の小さな人間の存在を描いています。 「天の川・(砂漠・岩山などの自然)・人物のシルエット」は、本コンテストでも応募の多かったジャンルですが、その中では群を抜いて強い印象を与える作品でした。編集子の乏しい想像力ではこのジャンルが今後どこに行くのか全くわかりませんが、数多くのフォトグラファーの創造性によって、さらに多くの良い作品がつくられていくのでしょう。 ニュージーランドのPaul Wilsonさんの作品。タイトルの「Carpe noctem」は「夜を掴む」という意味の ラテン語。 強烈な色彩で日本人から見ると「海外風」と受け止められるのかもしれません。事実、この作品は夕焼けの際の前景と、夜の星空をミックスしたものです。個人的にはこのような「時間差合成」で撮影された作品はあまり高く評価はしませんが、多くの人に強い印象を与える作品であることは確かです。 三位 マレーシアのSammax Chongさんの作品。 ある意味ありふれた、夕焼けの中の月と金星です。しかし、個人的にはこのありふれた光景の美しさはもっと評価されるべきと思いますし、それをより美しく表現することに注力された作者には敬意を表します。 実のところ、予備審査では私は「ありふれた感」とやや強すぎる彩度を理由に高評価リストには入れていませんでした。むしろ自分の選択が正しかったのかと悔やんでもいます。 月、空、地上風景を別の露出時間で撮影し合成していますが、これはマスク処理で補正するのと本質的にはかわらず、むしろ最も暗い地上に十分な露出をかけることで作品のクオリティを上げることに貢献しています。 中国の王晋さんの作品。皆既月食は自然の生み出す希な「特別な夜」の一つです。その数少ない「血のような月夜」の機会に見られる冬の天の川をパノラマ合成でとらえた作品です。 この作品も、私のベストリストからは外してしまっていたものです。「珍しい現象が珍しさ故に高評価が与えられる」ことに対する葛藤があったのは事実です。数年に1回、位置からみると10年に1回ともいえる皆既月食がダメで、33年に1回のしし座流星雨が良いというのも微妙なダブルスタンダードですね。自分の審査眼の未熟さを考えさせられました。 中国の王晋さんの作品。パノラマによる天の川アーチは多数の応募がありました。天の川アーチは適切な前景と確実な撮影技術があれば、誰でも「ある程度」はハッとさせる作品を撮ることができます。その中でこの作品は一つ抜き出たものを感じました。 薄明光と街灯りに照らされた鮮烈な空と、水田に映った静かな星空の対比が印象的で(若干やりすぎも感じますが)、パノラマであることの「必然性」を感じる作品です。 中国の曹冲林さんの作品。中国の柏乐さんの作品と似たテーマですが、個人的にはこちらの作品の方が好きです。黒い服をまとった女性は何を思い、手に持つライトは何を照らしているのか。デスノートのラストシーンで弥海砂が祈るシーンがリフレインし、強烈なバイアスがかかってしまい、この作品が自分の中では今回のベストでした。 そういう個人的な感情の想起は、公正な立場であるべき審査員としては良くないのかもしれません。しかし、たった一つの小さな灯りが作品を大きく彩ることがあるという事実は、より多くの人に認められてほしいと思います。 日本の西沢政芳さんの作品。蝦夷富士、羊蹄山に沈む冬の王者オリオン座です。比較明合成ではない1枚撮りの光跡撮影は繊細な星の色を表現することのできる優れた手法です。作者の丁寧な画像処理もあり、非常に繊細でありながら雄大で、宇宙と自然の美しさを余すところなく表現しています。 作者はしばしば「この手の作品は一般にはウケない」と嘆いていらっしゃいますが、この作品は多くの審査員から高く評価されました。これが今回私にとって最も嬉しいことでした。 審査を通じて 応募された全作品をご覧になればわかりますが、選ばれた作品以外にも優れた作品が多数ありました(つい先日APODに選出された作品もありました)。その差はほんのわずかです。審査である以上、何らかの方法で順位を決定しなくてはなりません。その決定方法のわずかな違いによっても結果は異なったものになった可能性もあります。 しかし、6人の審査員が選んだこれらの結果に私は満足しています。何よりも、素晴らしい作品を応募いただいた作者のみなさんに、深い感謝と敬意を表したいと思います。編集部発信のオリジナルコンテンツ