http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press_20190125_02_KBO_web_01.pdf

昨日テレビの全国ニュースでも大きく報道された「太陽系外縁天体の発見」について、ネット上の情報をまとめました。

この発見には、天文学的な大きな意義だけでなく、最近のめざましい天文機材の性能向上によって、新しいアイデアとそれを実践する行動力があれば「小規模な観測機材でも天文学の最先端の研究が可能である」ことを示すものです。

天文学的な意義

エッジワース・カイパーベルトとは

東北大学・史上初、太陽系の果てに極めて小さな始原天体を発見
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/01/press-20190125-02-KBO.html
詳細のニュースリリース(PDF)http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press_20190125_02_KBO_web_01.pdf

我々の太陽系は、「惑星」「準惑星」「小惑星」「彗星」など、さまざまな天体がひとつの大きな円盤(黄道面)の周囲に分布しています。この円盤の「海王星以遠(30天文単位より遠く)」は「エッジワース・カイパーベルト(EKB)」と呼ばれ(*)、数多くの小さな天体「エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)」が分布しているものと考えられています。

(*)狭義では約50天文単位まで、広義では数百天文単位までの領域。

Wikipedia エッジワース・カイパーベルト
https://ja.wikipedia.org/wiki/エッジワース・カイパーベルト

「あるはず」の「見えない」ものを観測するアイデア

この「エッジワース・カイパーベルト天体」には、「直径数キロ程度」という極めて小さな天体を含め、おびただしい「微少天体」が多数分布していると考えられていました(*)。

(*)あまりにも遠いため、エッジワース・カイパーベルトに存在する天体はこれまで「望遠鏡で観測可能な大きなもの」しか、「直接」観測することができませんでした。それでも、2006年時点で1,000以上が発見されています。

しかし、そういった「微少な天体」はあまりにも暗すぎて、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)でも直接その光を捉えることは不可能です(*)。

(*)HSTの限界等級は28等級。14等級である冥王星の直径は約2400kmですから、同じ反射率と距離の直径2.4kmの天体は29等級になります。

そこで考えられたのは「恒星の掩蔽」という現象を観測するというアイデア。上の動画は今回観測された「掩蔽」ですが、ある星がほんの0.2秒間ほどわずかに暗くなっています。これは、ごく小さな天体が恒星の前を通過して、日食のように恒星の光を遮ったのです。

微惑星はどのくらいあるのか

今回の発見は、まだ「1例」だけの観測ですが、理論的な微惑星の分布モデルから予測されるよりも「早く」検出されました。理論モデル通りだとしたら、発見までにもっと長い時間(*)がかかっていたはず、というわけです(*)。

(*)今回は「60時間」の観測で最初の1例が発見されました。

今後の観測によって、より多くの掩蔽現象が観測されれば、より詳しい微惑星の分布状況やや新たな謎が見つかることでしょう。

本当に微惑星なのか

「まだ1例のみ」であり、今回の現象が他の要因である可能性も完全に否定されたわけではありません。「もっと近くてもっと小さな物体による掩蔽」である可能性もあるかもしれません。この可能性を議論する知識は筆者にはありませんが、今後の観測例の積み重ねによって明らかになってゆくことでしょう。

2019/1/31追記)

さすがのアストロアーツ記事。

アストロアーツ・小型望遠鏡で発見、約50億km彼方にある直径3km弱の小天体
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10457_kbo

使用された観測機材

RASAアストログラフとCMOSカメラASI1600MM

アマチュア天文家であれば、今回の観測で使用した機材を見ると「え!アレか!」と思われることでしょう。架台はタカハシのEM200。鏡筒はセレストロンのRASA。カメラは(たぶん)ASI 1600MM(冷却タイプ)でしょう。RASAは口径28cm F2.2の明るいアストログラフですが、レデューサを介してさらにF1.58まで明るくしているようです。

観測の概要

観測は「背景に星が多い=掩蔽の可能性が高い」「黄道面にある」という条件から、いて座の銀河中心付近の領域が、またこの領域を良い条件で観測できる場所として宮古島が、それぞれ選ばれたそうです。

望遠鏡の横にテントを立てて観測する風景は、アマチュアの天体観測・撮影さながらです。60時間ということは、梅雨明け後の安定した空であれば10晩程度でしょうか。「予定より早く発見できた」ということは、当初の腹づもりでは最初の発見までもっともっと時間がかかると腹をくくっていたと想像されます。

今回の成果によって、もっと予算が充てられ、観測機材・環境ともにさらに充実するとよいですね。

「動画」による観測の可能性

天体は「暗い」ため、これまでは短くても数十秒くらいの露出時間をかけた写真による観測が主流です。一方、最近は非常に高性能なデジタルセンサーの登場で、今回の観測のような「秒」オーダーで発生する事象にまで対象が広がってきています。

先日の皆既月食で起きた「発光現象」もその一つ。皆既月食で「たまたま」発生したのかもしれませんが、地球照を継続的に観測すれば、もしかしたら思いのほかこの手の現象が観測できるかも?

宇宙では、まだ想像もつかないようなこういった「秒オーダーで発生する事象」が、まだ潜んでるかもしれません。

まとめ

天文学は、アマチュアの貢献が比較的大きな学問でしたが、観測衛星や可視光以外の電磁波(電波、赤外線、X線など)による観測など、アマチュアには手出しもできない領域が多くなってきています。

しかし今回の発見は「可視光でも、地上からでも、アマチュア機材でやれる新しいことがある」という可能性を示すものだといえます。昨今のデジタル機材の特徴を生かした、新しい発想を持つ観測者やプロジェクトが、今後生まれてくることに大いに期待するものです。

 

 

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/01/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-5-150x150.jpg編集部新着サイエンスTPOD昨日テレビの全国ニュースでも大きく報道された「太陽系外縁天体の発見」について、ネット上の情報をまとめました。 この発見には、天文学的な大きな意義だけでなく、最近のめざましい天文機材の性能向上によって、新しいアイデアとそれを実践する行動力があれば「小規模な観測機材でも天文学の最先端の研究が可能である」ことを示すものです。 天文学的な意義 エッジワース・カイパーベルトとは 東北大学・史上初、太陽系の果てに極めて小さな始原天体を発見 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2019/01/press-20190125-02-KBO.html 詳細のニュースリリース(PDF)http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press_20190125_02_KBO_web_01.pdf 我々の太陽系は、「惑星」「準惑星」「小惑星」「彗星」など、さまざまな天体がひとつの大きな円盤(黄道面)の周囲に分布しています。この円盤の「海王星以遠(30天文単位より遠く)」は「エッジワース・カイパーベルト(EKB)」と呼ばれ(*)、数多くの小さな天体「エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)」が分布しているものと考えられています。 (*)狭義では約50天文単位まで、広義では数百天文単位までの領域。 Wikipedia エッジワース・カイパーベルト https://ja.wikipedia.org/wiki/エッジワース・カイパーベルト 「あるはず」の「見えない」ものを観測するアイデア この「エッジワース・カイパーベルト天体」には、「直径数キロ程度」という極めて小さな天体を含め、おびただしい「微少天体」が多数分布していると考えられていました(*)。 (*)あまりにも遠いため、エッジワース・カイパーベルトに存在する天体はこれまで「望遠鏡で観測可能な大きなもの」しか、「直接」観測することができませんでした。それでも、2006年時点で1,000以上が発見されています。 しかし、そういった「微少な天体」はあまりにも暗すぎて、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)でも直接その光を捉えることは不可能です(*)。 (*)HSTの限界等級は28等級。14等級である冥王星の直径は約2400kmですから、同じ反射率と距離の直径2.4kmの天体は29等級になります。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1090386876022706176 そこで考えられたのは「恒星の掩蔽」という現象を観測するというアイデア。上の動画は今回観測された「掩蔽」ですが、ある星がほんの0.2秒間ほどわずかに暗くなっています。これは、ごく小さな天体が恒星の前を通過して、日食のように恒星の光を遮ったのです。 微惑星はどのくらいあるのか https://twitter.com/tsumura_isas6/status/1090111971515555840 今回の発見は、まだ「1例」だけの観測ですが、理論的な微惑星の分布モデルから予測されるよりも「早く」検出されました。理論モデル通りだとしたら、発見までにもっと長い時間(*)がかかっていたはず、というわけです(*)。 (*)今回は「60時間」の観測で最初の1例が発見されました。 今後の観測によって、より多くの掩蔽現象が観測されれば、より詳しい微惑星の分布状況やや新たな謎が見つかることでしょう。 本当に微惑星なのか https://twitter.com/notactor/status/1090364344112574464 https://twitter.com/notactor/status/1090446683769470976 「まだ1例のみ」であり、今回の現象が他の要因である可能性も完全に否定されたわけではありません。「もっと近くてもっと小さな物体による掩蔽」である可能性もあるかもしれません。この可能性を議論する知識は筆者にはありませんが、今後の観測例の積み重ねによって明らかになってゆくことでしょう。 2019/1/31追記) さすがのアストロアーツ記事。 アストロアーツ・小型望遠鏡で発見、約50億km彼方にある直径3km弱の小天体 http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10457_kbo 使用された観測機材 RASAアストログラフとCMOSカメラASI1600MM https://twitter.com/tsumura_isas6/status/1090108574292795394 アマチュア天文家であれば、今回の観測で使用した機材を見ると「え!アレか!」と思われることでしょう。架台はタカハシのEM200。鏡筒はセレストロンのRASA。カメラは(たぶん)ASI 1600MM(冷却タイプ)でしょう。RASAは口径28cm F2.2の明るいアストログラフですが、レデューサを介してさらにF1.58まで明るくしているようです。 観測の概要 https://twitter.com/tsumura_isas6/status/1090110104895012865 観測は「背景に星が多い=掩蔽の可能性が高い」「黄道面にある」という条件から、いて座の銀河中心付近の領域が、またこの領域を良い条件で観測できる場所として宮古島が、それぞれ選ばれたそうです。 望遠鏡の横にテントを立てて観測する風景は、アマチュアの天体観測・撮影さながらです。60時間ということは、梅雨明け後の安定した空であれば10晩程度でしょうか。「予定より早く発見できた」ということは、当初の腹づもりでは最初の発見までもっともっと時間がかかると腹をくくっていたと想像されます。 今回の成果によって、もっと予算が充てられ、観測機材・環境ともにさらに充実するとよいですね。 「動画」による観測の可能性 天体は「暗い」ため、これまでは短くても数十秒くらいの露出時間をかけた写真による観測が主流です。一方、最近は非常に高性能なデジタルセンサーの登場で、今回の観測のような「秒」オーダーで発生する事象にまで対象が広がってきています。 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1088206256127434752 先日の皆既月食で起きた「発光現象」もその一つ。皆既月食で「たまたま」発生したのかもしれませんが、地球照を継続的に観測すれば、もしかしたら思いのほかこの手の現象が観測できるかも? 宇宙では、まだ想像もつかないようなこういった「秒オーダーで発生する事象」が、まだ潜んでるかもしれません。 まとめ https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1090382915639234560 天文学は、アマチュアの貢献が比較的大きな学問でしたが、観測衛星や可視光以外の電磁波(電波、赤外線、X線など)による観測など、アマチュアには手出しもできない領域が多くなってきています。 しかし今回の発見は「可視光でも、地上からでも、アマチュア機材でやれる新しいことがある」という可能性を示すものだといえます。昨今のデジタル機材の特徴を生かした、新しい発想を持つ観測者やプロジェクトが、今後生まれてくることに大いに期待するものです。    編集部発信のオリジナルコンテンツ