間もなく打ち上げられる「アルテミス計画」のSLSロケット。成功すれば「オリオン宇宙船」が月の軌道を周回することになります。これって「ISSみたいに地球から見えるの?」でしょうか?少し考えてみました。

Sources: NASA、https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/083000403/ 縮尺は正確ではありません。

※本記事は成澤広幸さんのこのツイートがきっかけで制作しました。ありがとうございます^^

「オリオン宇宙船」の見かけの明るさ(光度)を概算する

国際宇宙ステーションISSは、条件がよいときには「-2等級(木星くらいの明るさ)」に見えます。ところがISSは地球上空わずか400kmほどを周回しています。宇宙スケールではとても近いのです

一方、月までの平均距離は約38万km 。計算を簡単にするため40万キロと置くと、ISSまでの距離の1000倍遠いことになります。これは光度に換算すると15等級も暗くなる(*)ことを意味し、オリオン宇宙船の大きさがISSと同じだとしても-2+15=13等級という暗さ。

(*)見かけの明るさは距離の自乗に反比例して暗くなります。1000倍遠いと1000*1000=100万分の1に暗くなります。100倍の明るさの違いを光度に換算すると5等級。100万=100*100*100なので15等級。

では、オリオン宇宙船とISSの大きさはどのくらい違うのでしょうか。wikipediaによるとオリオン宇宙船の直径は5メートル、ISSの全長は73メートル。明るさは見かけの表面積でほぼ決まりますが、太陽電池パネルなどの形状は複雑なので、乱暴ですが「オリオン宇宙船はISSの1/100の表面積」と仮定しましょう。そうなるとさらに5等級暗い18等級となります。

結論。月周回時のオリオン宇宙船の明るさは18等級程度である(1*)。これは地上に存在するどんな大型の天体望遠鏡をもってしても肉眼で見ることは困難な暗さですが、高性能のアマチュア向け天体望遠鏡でも写真撮影は不可能ではない程度の暗さです。かなり厳しい(*2)。うーん、ちょっと残念ですね。

(*1)表面積についてより正確なデータをお持ちの方は、ぜひコメントでお知らせください!

(*2)さらに悪いことに、月の表面が明るく輝いているため、オリオン宇宙船が月に近すぎると観測が困難になります。しかし、オリオン宇宙船は月からかなり離れた(最大7万km)軌道を描くらしいので、その意味ではかなり見やすい条件のときもあるはずです。

「月面を通過するとき」に見えないか?

出典:毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20211120/k00/00m/040/051000c

もうひとつ、別のチャンスがあります。上の画像はISSが月面を横切った際の画像ですが、これと同じようにオリオン宇宙船が月の明るい部分を横切ることがあれば、影となって見えるかもしれません。

しかし、ここでも「1000倍遠い」という問題がからんできます。ISSの見かけの大きさは月の直径の約1/85、24秒角。この1/1000はわずか0.024秒角。これは光学望遠鏡の分解能を大幅に下回っています(*)。さらにオリオン宇宙船はISSの1/10以下の大きさ。月周回時の月面通過を地球から観測するのはほぼ不可能でしょう。これまた残念!!

(*)口径10cmの天体望遠鏡の分解能は理論値で約1秒角、口径1mでも約0.1秒角にすぎません。

「月に到達するまで」のチャンス

NASA発表のより詳細な軌道イメージ 縮尺は正確ではありません。

しかしまだガッカリするには早いです。月周回軌道に入ると遠くなりすぎますが、打ち上げ直後・ないしは帰還の直前の地球からまだ遠くないところなら、より明るい状態のオリオン宇宙船を観測できる可能性があります。

例えば、地球から4万km離れた位置では、5等級明るい13等級。うーん、まだ暗いですね。では4000km(*)なら?10等級明るい8等級。これならじゅうぶんチャンスがありますね!

(*)このくらいの近距離なのは、ほぼ打ち上げ直後の段階です。むしろ「打ち上げ後、どこまでSLS/オリオン宇宙船を追いかけ続けられるのか」という問題に近いです。

でも、この段階では見かけ上かなり高速で宇宙船は移動しているはずですから、どうやって望遠鏡やカメラを正確にオリオン宇宙船に向けるのか?という問題を解決しなければなりません。

NASAが打ち上げ後にSLS/オリオン宇宙船の正確な軌道を公表してくれれば、コンピュータで正確に見かけの位置を計算して天体望遠鏡を向けることは現在の技術ではじゅうぶん可能ではありますが、そこまでの連係プレーがはたして実現可能なのか?実は誰かがすでに考えて実行しようとしているのか?残念ながら筆者の知る限りでは情報がありません(*)。すみません!!

(*)何か情報をお持ちの方は、ぜひお知らせ下さい!

2022/9.2追記)

アストロピクス・アルテミス1、打ち上げから帰還までの予定(2022年9月3日打ち上げの場合)
https://astropics.bookbright.co.jp/artemis-i

9月3日打ち上げの想定で、帰還までのSLS/オリオン宇宙船の予想の詳細が解説されています。

まとめ

いかがでしたか?

アポロ宇宙船が月に人類を送り込んで50年超。その後の50年で、さまざまな技術が大幅に進みました。アポロの時代では「月の近くにいる宇宙船を地球から見る」など、発想もしかなったことかもしれませんが、現代の技術では「不可能ではない」レベルになっているのです(*)。

(*)逆に、あれほど明るく見えるISSとの対比から「月がいかに遠いのか」ということが実感できるでしょう。

とはいえ、相当に困難なことであるというのが本記事の結論。でもこれ実現できればスゴイことですよ!どなたか、チャレンジしてみませんか?!

https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/09/RDABU44JVVDEFI6O3VN4FLXMQM-1024x576.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/09/RDABU44JVVDEFI6O3VN4FLXMQM-150x150.jpg編集部特選ピックアップアルテミス計画間もなく打ち上げられる「アルテミス計画」のSLSロケット。成功すれば「オリオン宇宙船」が月の軌道を周回することになります。これって「ISSみたいに地球から見えるの?」でしょうか?少し考えてみました。 人工衛星やISSと同じような感じで観察できるんだべか https://t.co/PBDZh7PD9w — 成澤 広幸(Hiroyuki Narisawa) (@Marmalade_boya) September 1, 2022 ※本記事は成澤広幸さんのこのツイートがきっかけで制作しました。ありがとうございます^^ 「オリオン宇宙船」の見かけの明るさ(光度)を概算する 根拠はありませんがオリオン宇宙船の見かけの面積がISSの1/100とするとさらに5等級暗い18等級。これは天体望遠鏡で肉眼で見るにはかなり難しく、写真であればなんとか写せるくらいです。 — 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) September 1, 2022 国際宇宙ステーションISSは、条件がよいときには「-2等級(木星くらいの明るさ)」に見えます。ところがISSは地球上空わずか400kmほどを周回しています。宇宙スケールではとても近いのです 一方、月までの平均距離は約38万km 。計算を簡単にするため40万キロと置くと、ISSまでの距離の1000倍遠いことになります。これは光度に換算すると15等級も暗くなる(*)ことを意味し、オリオン宇宙船の大きさがISSと同じだとしても-2+15=13等級という暗さ。 (*)見かけの明るさは距離の自乗に反比例して暗くなります。1000倍遠いと1000*1000=100万分の1に暗くなります。100倍の明るさの違いを光度に換算すると5等級。100万=100*100*100なので15等級。 では、オリオン宇宙船とISSの大きさはどのくらい違うのでしょうか。wikipediaによるとオリオン宇宙船の直径は5メートル、ISSの全長は73メートル。明るさは見かけの表面積でほぼ決まりますが、太陽電池パネルなどの形状は複雑なので、乱暴ですが「オリオン宇宙船はISSの1/100の表面積」と仮定しましょう。そうなるとさらに5等級暗い18等級となります。 結論。月周回時のオリオン宇宙船の明るさは18等級程度である(1*)。これは地上に存在するどんな大型の天体望遠鏡をもってしても肉眼で見ることは困難な暗さですが、高性能のアマチュア向け天体望遠鏡でも写真撮影は不可能ではない程度の暗さです。かなり厳しい(*2)。うーん、ちょっと残念ですね。 (*1)表面積についてより正確なデータをお持ちの方は、ぜひコメントでお知らせください! (*2)さらに悪いことに、月の表面が明るく輝いているため、オリオン宇宙船が月に近すぎると観測が困難になります。しかし、オリオン宇宙船は月からかなり離れた(最大7万km)軌道を描くらしいので、その意味ではかなり見やすい条件のときもあるはずです。 「月面を通過するとき」に見えないか? もうひとつ、別のチャンスがあります。上の画像はISSが月面を横切った際の画像ですが、これと同じようにオリオン宇宙船が月の明るい部分を横切ることがあれば、影となって見えるかもしれません。 しかし、ここでも「1000倍遠い」という問題がからんできます。ISSの見かけの大きさは月の直径の約1/85、24秒角。この1/1000はわずか0.024秒角。これは光学望遠鏡の分解能を大幅に下回っています(*)。さらにオリオン宇宙船はISSの1/10以下の大きさ。月周回時の月面通過を地球から観測するのはほぼ不可能でしょう。これまた残念!! (*)口径10cmの天体望遠鏡の分解能は理論値で約1秒角、口径1mでも約0.1秒角にすぎません。 「月に到達するまで」のチャンス しかしまだガッカリするには早いです。月周回軌道に入ると遠くなりすぎますが、打ち上げ直後・ないしは帰還の直前の地球からまだ遠くないところなら、より明るい状態のオリオン宇宙船を観測できる可能性があります。 例えば、地球から4万km離れた位置では、5等級明るい13等級。うーん、まだ暗いですね。では4000km(*)なら?10等級明るい8等級。これならじゅうぶんチャンスがありますね! (*)このくらいの近距離なのは、ほぼ打ち上げ直後の段階です。むしろ「打ち上げ後、どこまでSLS/オリオン宇宙船を追いかけ続けられるのか」という問題に近いです。 でも、この段階では見かけ上かなり高速で宇宙船は移動しているはずですから、どうやって望遠鏡やカメラを正確にオリオン宇宙船に向けるのか?という問題を解決しなければなりません。 NASAが打ち上げ後にSLS/オリオン宇宙船の正確な軌道を公表してくれれば、コンピュータで正確に見かけの位置を計算して天体望遠鏡を向けることは現在の技術ではじゅうぶん可能ではありますが、そこまでの連係プレーがはたして実現可能なのか?実は誰かがすでに考えて実行しようとしているのか?残念ながら筆者の知る限りでは情報がありません(*)。すみません!! (*)何か情報をお持ちの方は、ぜひお知らせ下さい! 2022/9.2追記) アストロピクス・アルテミス1、打ち上げから帰還までの予定(2022年9月3日打ち上げの場合) https://astropics.bookbright.co.jp/artemis-i 9月3日打ち上げの想定で、帰還までのSLS/オリオン宇宙船の予想の詳細が解説されています。 まとめ いかがでしたか? アポロ宇宙船が月に人類を送り込んで50年超。その後の50年で、さまざまな技術が大幅に進みました。アポロの時代では「月の近くにいる宇宙船を地球から見る」など、発想もしかなったことかもしれませんが、現代の技術では「不可能ではない」レベルになっているのです(*)。 (*)逆に、あれほど明るく見えるISSとの対比から「月がいかに遠いのか」ということが実感できるでしょう。 とはいえ、相当に困難なことであるというのが本記事の結論。でもこれ実現できればスゴイことですよ!どなたか、チャレンジしてみませんか?!編集部発信のオリジナルコンテンツ