高感度のソニー製ミラーレスカメラを小型衛星に搭載し、宇宙の視点を広く一般に開放することを目指す、ソニーの「STAR SPHERプロジェクト」。年末の衛星打ち上げに向けて、さまざまな準備が進んでいるようですが、先日7/7にYouTubeで「エンジニアトーク」イベントが開催され、動画のアーカイブが公開されています。



STAR SPHERプロジェクトとは?

STAR SPHERE
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/starsphere/
宇宙を解放!「STAR SPHERE」プロジェクトの裏側
https://sony-startup-acceleration-program.com/article389.html

「STAR SPHERプロジェクト」をご存じない方のために、簡単に説明しておきます。実現目標をシンプルに表現すると「地上から操作できる高性能カメラを小型衛星に搭載し、宇宙と地球を自由に撮影可能にする」ことです。

宇宙空間から星や地球を撮りたいというのは自然な欲求。国際宇宙ステーションISSに配備されたデジタルカメラで撮影された地上の夜景やオーロラの画像は、みなさんもネットでご覧になっていることでしょう。しかし、宇宙船は撮影のためだけに設計されているわけでもありません。小さな窓から、限られた時間、限られた方角(*)を撮影することしかできませんでした。

(*)宇宙船の窓は主に地上を向いていて、地球の反対側=宇宙を撮るには適さないそうです。

何よりも、そんな欲求を実現するには宇宙飛行士になるしかなかったのです。

「STAR SPHERプロジェクト」では、端々に「宇宙を開放する」というコンセプトワードが登場しますが、まさにこれ。「誰もが、自らの眼と手で、宇宙が体験できる」。そんな世界の実現を目指しています。

https://youtu.be/uFqGajHUkGI?t=331 クリックすると1分少々の「コンセプトムービー 」が再生されます。

どう実現するかの「エンジニア目線」トーク

前置きが長くなりそうなので、天文ファンの読者の皆様が食いつけそうなところをご紹介しましょう。今回の動画は、「STAR SPHERプロジェクト」に主に技術面でかかわるエンジニアの方々のトーク。天文ファンがふだん使うのとあまり変わらない機材(*)を宇宙空間で運用する苦労話や、直感的に操作するためのシミュレータの話題などが満載。要するに技術的には「宇宙にカメラを設置したリモート撮影」なのです。地上でのリモート撮影にも通じる?ノウハウがあるかも?

(*)使用しているカメラが何かは不明ですが、α7SIII相当のフルサイズ高感度センサーを搭載しているのでしょうか。レンズは銘板にぼかしが入っていて非公開ですが、筐体を見ればマニアなら「お察し」できるかも。

https://youtu.be/uFqGajHUkGI?t=1288 クリックで該当部分が再生されます。

真空の宇宙空間では放射線の影響が避けられません。地上で行われた試験では、なんとレンズが「茶ばみ」を起こしてしまったとのこと(*)。トリウムレンズの黄変問題と同じことなのでしょうか。

(*)最終サービスでは解決されるようです。察するに何らかのカラープロファイル補正の仕組みが入るのかもしれません。

他にも「空気がない」ため対流による放熱が期待できないなどの違いがあるそうです。一方で、半導体まわりは意外と?放射線に強く、大きな問題は出なかったとのこと。

https://youtu.be/uFqGajHUkGI?t=1482 クリックで該当部分が再生されます。

こちらは宇宙空間と同じ真空と温度条件を再現した試験の様子。この円筒の中に衛星を入れて、動作を検証されたそうです。民生品のソニーカメラは、当然ながら宇宙で動作することは想定されていません。この試験ではレンズの機械部のグリスが真空環境で蒸発し、レンズを曇らせてしまうという事象(*)が発生。グリスを取り除いたり適切な素材に変更したりすることで対応されたそうです。

(*)つい最近「中古品のオールドツァイス双眼鏡の多くでは、グリスの揮発に伴う内部の曇りが見られる」というツイートを見かけましたが、それと同根の問題なのかもしれませんね。

このプロジェクトはソニー・JAXA・東京大学の3者の共同で進められていて、JAXAのメンバーもこのセッションに参加されていましたが、JAXAのエンジニア目線では「(問題をおこさないように)宇宙では機械の可動部分をなくす発想で設計する」そうです。もちろん民生品のカメラは逆で、動くべきところが意図通り正確に動くことで性能が実現されているのですが、このあたりの発想の違いとそれが収束していくプロセスも興味深いものでした。

https://youtu.be/uFqGajHUkGI?t=1908 クリックで該当部分が再生されます

逆に衛星とカメラをコントロールする「シミュレータ」の開発では、ゲームやスマホなどの開発に長けたソニーの力が発揮されています。上の画像がそのシミュレータ画面ですが、衛星の位置と地球の姿がビジュアルに表示され、スマホアプリのような操作性でカメラを制御することができます。JAXAのエンジニアが「僕もこんな画面で撮りたい(*)」とぽつり。



(*)「グリグリ」操作できるUIは衛星開発側の立場では必要ではなく、コマンドベースで専門のオペレータが制御する機能があれば充分なので、ここまで凝ったUIは普通はあり得ないとのことです。

ごく一部を抜粋しましたが、天文フリーク/科学フリークなら、間違いなく最後まで視聴できるセッションでした!

クラウドファンディング

https://www.sony.com/ja/SonyInfo/starsphere/ クリックで外部サイトが開きます。
ソニー×宇宙|STAR SPHEREプロジェクト第1期クルー募集
https://readyfor.jp/projects/starsphere?rf03

このプロジェクトに「普通の人」はどうやったら参加することができるのか?現在クラウドファンディングで「第一期クルー」の募集が始まっています。締め切りは8月23日。目標金額は1000万円ですが、金額の達成によらず遂行されるスキーム(All in 方式)になっています。

「実際に何らかの形で撮影ができる」のは15,000円のコースから。5万円〜のコース(予約金扱い、別途45万円が必要*)では「衛星を貸し切った」プレミアムな宇宙体験が可能。

(*)クラウドファンディングのシステム上返金が不可能なため、衛星打ち上げに失敗するなどのリスクを最小化するためにこのような設定となっているそうです。

この金額が高いのか安いのかは、現時点では誰も断言できないでしょう。「プライスレスな夢をお金で買う」という意味では、クラウドファンディングという形態にマッチするものと言えるかもしれません。

まとめ

いかがでしたか?

「宇宙の視点」を全ての人に。とてもシンプルなコンセプトですが、それを実現するには現在進行形のものも含めて、多岐にわたるハードルがあります。継続可能な事業にするにはどうすればいいのか?(ビジネス)、宇宙での体験は、どんな人にどんな感動をもたらしうるのか?(エンターテイメント)、これまで存在しなかったものを世の中にどうやって知らしめるのか(コミュニケーション)、などなど・・

筆者が感じるに「STAR SPHERプロジェクト」は、「宇宙を自由に目にしたい、体験したい」という誰もが感じる素朴な欲求を、既存の社会と経済の枠組みの中で実現しようとする、一つの大きな冒険であり挑戦なのではないでしょうか。

その意味では、「宇宙を体験する(*)」ことに価値を見いだし日々実践している我々天文ファンと思いが通じないはずがありません。今回ご紹介した動画の中にも多くの共感と気づきがありました。ぜひご視聴ください!

(*)地球の重力と大気の束縛の中からではありますが。。。

衛星の打ち上げは本年中となる見込みだそうです。筆者も何からの形で(*)第一期クルーに参加したいと思っています。「ファーストライト」の日を楽しみに待ちたいと思います。

(*)「プレミアム宇宙体験コース」にしたいのはやまやまなのですが、、たぶん「撮影体験コース」を申し込むと思います^^

 

2021年7月に天リフのイベントで、ソニーグループの清水様よりご講演いただきました!内容は当時のもので、現時点では変更されている場合があります。

 

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/39c9c825ca8dd4d6f8ece233ec7897e0-1024x571.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/39c9c825ca8dd4d6f8ece233ec7897e0-150x150.jpg編集部特選ピックアップ宇宙開発これは面白い!「宇宙から 宇宙を、地球を、自分で撮る」STAR SPHERプロジェクトエンジニアトーク。民生品のソニーカメラを人工衛星に搭載する様々な苦労とそこから得られた「宇宙の視点」を語るライブ配信のアーカイブ。これが200再生というのは間違ってる^^;;https://t.co/DI6YVtF4gI pic.twitter.com/Kux2Y7S2ya — 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) July 19, 2022 高感度のソニー製ミラーレスカメラを小型衛星に搭載し、宇宙の視点を広く一般に開放することを目指す、ソニーの「STAR SPHERプロジェクト」。年末の衛星打ち上げに向けて、さまざまな準備が進んでいるようですが、先日7/7にYouTubeで「エンジニアトーク」イベントが開催され、動画のアーカイブが公開されています。 STAR SPHERプロジェクトとは? STAR SPHERE https://www.sony.com/ja/SonyInfo/starsphere/ 宇宙を解放!「STAR SPHERE」プロジェクトの裏側 https://sony-startup-acceleration-program.com/article389.html 「STAR SPHERプロジェクト」をご存じない方のために、簡単に説明しておきます。実現目標をシンプルに表現すると「地上から操作できる高性能カメラを小型衛星に搭載し、宇宙と地球を自由に撮影可能にする」ことです。 宇宙空間から星や地球を撮りたいというのは自然な欲求。国際宇宙ステーションISSに配備されたデジタルカメラで撮影された地上の夜景やオーロラの画像は、みなさんもネットでご覧になっていることでしょう。しかし、宇宙船は撮影のためだけに設計されているわけでもありません。小さな窓から、限られた時間、限られた方角(*)を撮影することしかできませんでした。 (*)宇宙船の窓は主に地上を向いていて、地球の反対側=宇宙を撮るには適さないそうです。 何よりも、そんな欲求を実現するには宇宙飛行士になるしかなかったのです。 「STAR SPHERプロジェクト」では、端々に「宇宙を開放する」というコンセプトワードが登場しますが、まさにこれ。「誰もが、自らの眼と手で、宇宙が体験できる」。そんな世界の実現を目指しています。 どう実現するかの「エンジニア目線」トーク 前置きが長くなりそうなので、天文ファンの読者の皆様が食いつけそうなところをご紹介しましょう。今回の動画は、「STAR SPHERプロジェクト」に主に技術面でかかわるエンジニアの方々のトーク。天文ファンがふだん使うのとあまり変わらない機材(*)を宇宙空間で運用する苦労話や、直感的に操作するためのシミュレータの話題などが満載。要するに技術的には「宇宙にカメラを設置したリモート撮影」なのです。地上でのリモート撮影にも通じる?ノウハウがあるかも? (*)使用しているカメラが何かは不明ですが、α7SIII相当のフルサイズ高感度センサーを搭載しているのでしょうか。レンズは銘板にぼかしが入っていて非公開ですが、筐体を見ればマニアなら「お察し」できるかも。 真空の宇宙空間では放射線の影響が避けられません。地上で行われた試験では、なんとレンズが「茶ばみ」を起こしてしまったとのこと(*)。トリウムレンズの黄変問題と同じことなのでしょうか。 (*)最終サービスでは解決されるようです。察するに何らかのカラープロファイル補正の仕組みが入るのかもしれません。 他にも「空気がない」ため対流による放熱が期待できないなどの違いがあるそうです。一方で、半導体まわりは意外と?放射線に強く、大きな問題は出なかったとのこと。 こちらは宇宙空間と同じ真空と温度条件を再現した試験の様子。この円筒の中に衛星を入れて、動作を検証されたそうです。民生品のソニーカメラは、当然ながら宇宙で動作することは想定されていません。この試験ではレンズの機械部のグリスが真空環境で蒸発し、レンズを曇らせてしまうという事象(*)が発生。グリスを取り除いたり適切な素材に変更したりすることで対応されたそうです。 (*)つい最近「中古品のオールドツァイス双眼鏡の多くでは、グリスの揮発に伴う内部の曇りが見られる」というツイートを見かけましたが、それと同根の問題なのかもしれませんね。 このプロジェクトはソニー・JAXA・東京大学の3者の共同で進められていて、JAXAのメンバーもこのセッションに参加されていましたが、JAXAのエンジニア目線では「(問題をおこさないように)宇宙では機械の可動部分をなくす発想で設計する」そうです。もちろん民生品のカメラは逆で、動くべきところが意図通り正確に動くことで性能が実現されているのですが、このあたりの発想の違いとそれが収束していくプロセスも興味深いものでした。 逆に衛星とカメラをコントロールする「シミュレータ」の開発では、ゲームやスマホなどの開発に長けたソニーの力が発揮されています。上の画像がそのシミュレータ画面ですが、衛星の位置と地球の姿がビジュアルに表示され、スマホアプリのような操作性でカメラを制御することができます。JAXAのエンジニアが「僕もこんな画面で撮りたい(*)」とぽつり。 (*)「グリグリ」操作できるUIは衛星開発側の立場では必要ではなく、コマンドベースで専門のオペレータが制御する機能があれば充分なので、ここまで凝ったUIは普通はあり得ないとのことです。 ごく一部を抜粋しましたが、天文フリーク/科学フリークなら、間違いなく最後まで視聴できるセッションでした! クラウドファンディング ソニー×宇宙|STAR SPHEREプロジェクト第1期クルー募集 https://readyfor.jp/projects/starsphere?rf03 このプロジェクトに「普通の人」はどうやったら参加することができるのか?現在クラウドファンディングで「第一期クルー」の募集が始まっています。締め切りは8月23日。目標金額は1000万円ですが、金額の達成によらず遂行されるスキーム(All in 方式)になっています。 「実際に何らかの形で撮影ができる」のは15,000円のコースから。5万円〜のコース(予約金扱い、別途45万円が必要*)では「衛星を貸し切った」プレミアムな宇宙体験が可能。 (*)クラウドファンディングのシステム上返金が不可能なため、衛星打ち上げに失敗するなどのリスクを最小化するためにこのような設定となっているそうです。 この金額が高いのか安いのかは、現時点では誰も断言できないでしょう。「プライスレスな夢をお金で買う」という意味では、クラウドファンディングという形態にマッチするものと言えるかもしれません。 まとめ いかがでしたか? 「宇宙の視点」を全ての人に。とてもシンプルなコンセプトですが、それを実現するには現在進行形のものも含めて、多岐にわたるハードルがあります。継続可能な事業にするにはどうすればいいのか?(ビジネス)、宇宙での体験は、どんな人にどんな感動をもたらしうるのか?(エンターテイメント)、これまで存在しなかったものを世の中にどうやって知らしめるのか(コミュニケーション)、などなど・・ 筆者が感じるに「STAR SPHERプロジェクト」は、「宇宙を自由に目にしたい、体験したい」という誰もが感じる素朴な欲求を、既存の社会と経済の枠組みの中で実現しようとする、一つの大きな冒険であり挑戦なのではないでしょうか。 その意味では、「宇宙を体験する(*)」ことに価値を見いだし日々実践している我々天文ファンと思いが通じないはずがありません。今回ご紹介した動画の中にも多くの共感と気づきがありました。ぜひご視聴ください! (*)地球の重力と大気の束縛の中からではありますが。。。 衛星の打ち上げは本年中となる見込みだそうです。筆者も何からの形で(*)第一期クルーに参加したいと思っています。「ファーストライト」の日を楽しみに待ちたいと思います。 (*)「プレミアム宇宙体験コース」にしたいのはやまやまなのですが、、たぶん「撮影体験コース」を申し込むと思います^^   <span data-mce-type='bookmark' style='display: inline-block; width: 0px; overflow: hidden; line-height: 0;' class='mce_SELRES_start'></span> 2021年7月に天リフのイベントで、ソニーグループの清水様よりご講演いただきました!内容は当時のもので、現時点では変更されている場合があります。    編集部発信のオリジナルコンテンツ