サイトロンジャパン StellaScan 2×40 Mono

ブログ「星のつぶやき」に、サイトロンジャパンのガリレオ式単眼鏡「StellaScan 2×40 Mono」のレビュー記事が掲載されています。



ブログ主のHIROPON(@hiropon_hp2)様は天リフ読者にはお馴染みかと思いますが、安定のレビュー記事で、光害地で肉眼をアシストするような使い方など、大いに参考になります。ぜひご一読をオススメします。

「StellaScan 2×40 Mono」の限界等級

Twitterのピックアップでは触れませんでしたが、注目は「限界等級」に対する考察。根拠となる情報は全て公知のものなのですが、「ガリレオ式低倍率単眼鏡」の限界等級については商品サイト等でも明確な記述がないこと(*)、SQM値と限界等級の関係込みで数値化した記事をこれまで見なかったので、注目してみました。

(*)笠井トレーディングの「WideBino28(2.3倍)」の商品ページでは、「肉眼よりも1~2等暗い星まで明瞭に見え」と表現されています。

空の明るさと肉眼での極限等級の関係 「7.93 – 5*log(1+104.32-SQM/5)」のグラフ。「人がどこまで星を検出・識別できるのかという生理学の問題」として実験結果をもとに種々の要因を加味し導出されたもの。 https://hpn.hatenablog.com/entry/2022/07/14/193631

このグラフは1990年のB. Schaeferの論文に掲載された式から計算したもので(*)、空の明るさ(SQM値)とそのときの肉眼の極限等級を示しています。一言でいうと「人間の眼」を生理学的に実験・検証した結果、背景が暗くなるとより暗い星まで見えるが、背景が暗いほどその寄与は少なく、限界等級は一定の値に収斂するということです。(無限に背景が暗くなっても、人間の眼の能力以上に暗い星は見えない)

(*)参考)Star Watching -瞳のお話- 極限等級http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/sw/pupil/pupil1.htm  HIROPONさんに教えていただいた記事ですが、非常に面白い考察です。ご興味のある方はぜひご一読ください。なお、元論文ではこの式が成り立つのは「SQM>18.4」とされていますが上記グラフはその制限を無視して描画されています。

画像提供:HIROPON様

望遠鏡など光学系を介した場合の限界等級(瞳径7mmの時に見える最も暗い星の等級)はどうなるでしょうか?先の論文では「7.93 + 5*log(D/7)- 5*log(1+104.32-SQM/5)、Dは口径」とされていますので、StellaScan2×40は倍率2倍、瞳径7mm、口径14mmとすると、上記のグラフになります。5*log(D/7) ≒1.5等級暗い星まで見えることになります。

「SQMが16.1と泣きたくなるほど酷い(限界等級2.3等)」HIROPONさんのご自宅の場合でも、3.8等級まで見える計算。これなら余裕で北極星を視認できますね。

倍率をかける効果

ここから先はStellaScanから離れた話になりますが、倍率を自由に変えることができる天体望遠鏡の場合、倍率を上げて背景を暗くすることで、限界等級を上げることができます。



点光源である星は倍率を上げても(回折や収差、大気の揺らぎがある範囲を超えない限りは)同じ輝度の点像ですが、背景は倍率を上げると自乗で暗くなるからです。

具体的には、瞳径1mm(口径mm*10倍、口径80mmなら80倍)のときの背景輝度は、瞳径7mmの最低有効倍率のときと比べて、SQM換算で4等級分も背景が暗くなります。SQM17の空の場合、先のグラフにあてはめると3等級も暗い星まで見えることになります。光害地であるほど、点像である星を見る場合は高倍率が有効である(*)、ということは特筆すべきことでしょう。

(*)星雲のような面積を持った対象にはこのロジックはあてはまりません。散開星団もまばらになってしまうので効果は薄いでしょう。小さな球状星団に対しては大きな効果があるものと推測されます。

Star Watching -瞳のお話- 極限等級
http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/sw/pupil/pupil1.htm
 

『望遠鏡の限界等級は倍率に関係なく口径で決まる』という誤解が広く蔓延しているように思えるが、倍率も口径と同じぐらい大切な要素なのだ。

再掲しますが、倍率と限界等級の関係はこちらの記事が大変参考になります。星を見る上で「倍率を上げて背景を暗くする」ことが重要であるとの認識は近年広まってきてはいますが、その効果は光害地ほど顕著である。その点を強調したいと思います(*)。

(*)なお、ガリレオ式低倍率単眼鏡では、倍率が少々違っていても(2倍、3倍など)背景輝度を暗くする効果はありません。光害地だからといって高倍率を選んでも、背景を暗くする効果はないことに注意が必要です。一方で、倍率が高い分実質的な口径は大きくなるため、限界等級はその分上がることになります。

まとめ

いかがでしたか?

「肉眼とあまり変わらない感覚の広視野」「ひとつひとつの星がより輝いて見える」という「ガリレオ式低倍率単眼鏡」のメリットは近年認知が進み、星好きの必須アイテムになりつつあります。肉眼をアシストしてくれる「ガリレオ式低倍率単眼鏡」をお手許にいかがでしょうか?

星座双眼鏡、百花繚乱。笠井トレーディングがCS-BINO 2×40を発売。


本記事の作成においてはHIROPONさんに大変有用なご教示をいただき、質疑をさせていただきました。深く感謝申し上げます。

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/Ien7eaoT.png-small.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/07/Ien7eaoT.png-small-150x150.jpg編集部特選ピックアップStellaScan,限界等級サイトロンジャパン StellaScan 2x40 Mono ブログ「星のつぶやき」に、サイトロンジャパンのガリレオ式単眼鏡「StellaScan 2x40 Mono」のレビュー記事が掲載されています。 SIGHTRONの「StellaView 2x40 Mono」。ガリレオ式のいわゆる「星座望遠鏡」。「アイレリーフ10mm、実視界24°」「一般的な双眼鏡と比べると圧倒的な広視野」「肉眼では見えない星まで良く見えます」「北極星がぐっと確認しやすくなった」。 星のつぶやきよりピックアップ。 https://t.co/AYE5FO5GxZ — 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) July 15, 2022 https://hpn.hatenablog.com/entry/2022/07/14/193631 ブログ主のHIROPON(@hiropon_hp2)様は天リフ読者にはお馴染みかと思いますが、安定のレビュー記事で、光害地で肉眼をアシストするような使い方など、大いに参考になります。ぜひご一読をオススメします。 「StellaScan 2x40 Mono」の限界等級 Twitterのピックアップでは触れませんでしたが、注目は「限界等級」に対する考察。根拠となる情報は全て公知のものなのですが、「ガリレオ式低倍率単眼鏡」の限界等級については商品サイト等でも明確な記述がないこと(*)、SQM値と限界等級の関係込みで数値化した記事をこれまで見なかったので、注目してみました。 (*)笠井トレーディングの「WideBino28(2.3倍)」の商品ページでは、「肉眼よりも1~2等暗い星まで明瞭に見え」と表現されています。 このグラフは1990年のB. Schaeferの論文に掲載された式から計算したもので(*)、空の明るさ(SQM値)とそのときの肉眼の極限等級を示しています。一言でいうと「人間の眼」を生理学的に実験・検証した結果、背景が暗くなるとより暗い星まで見えるが、背景が暗いほどその寄与は少なく、限界等級は一定の値に収斂するということです。(無限に背景が暗くなっても、人間の眼の能力以上に暗い星は見えない) (*)参考)Star Watching -瞳のお話- 極限等級http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/sw/pupil/pupil1.htm  HIROPONさんに教えていただいた記事ですが、非常に面白い考察です。ご興味のある方はぜひご一読ください。なお、元論文ではこの式が成り立つのは「SQM>18.4」とされていますが上記グラフはその制限を無視して描画されています。 望遠鏡など光学系を介した場合の限界等級(瞳径7mmの時に見える最も暗い星の等級)はどうなるでしょうか?先の論文では「7.93 + 5*log(D/7)- 5*log(1+104.32-SQM/5)、Dは口径」とされていますので、StellaScan2×40は倍率2倍、瞳径7mm、口径14mmとすると、上記のグラフになります。5*log(D/7) ≒1.5等級暗い星まで見えることになります。 「SQMが16.1と泣きたくなるほど酷い(限界等級2.3等)」HIROPONさんのご自宅の場合でも、3.8等級まで見える計算。これなら余裕で北極星を視認できますね。 倍率をかける効果 ここから先はStellaScanから離れた話になりますが、倍率を自由に変えることができる天体望遠鏡の場合、倍率を上げて背景を暗くすることで、限界等級を上げることができます。 点光源である星は倍率を上げても(回折や収差、大気の揺らぎがある範囲を超えない限りは)同じ輝度の点像ですが、背景は倍率を上げると自乗で暗くなるからです。 具体的には、瞳径1mm(口径mm*10倍、口径80mmなら80倍)のときの背景輝度は、瞳径7mmの最低有効倍率のときと比べて、SQM換算で4等級分も背景が暗くなります。SQM17の空の場合、先のグラフにあてはめると3等級も暗い星まで見えることになります。光害地であるほど、点像である星を見る場合は高倍率が有効である(*)、ということは特筆すべきことでしょう。 (*)星雲のような面積を持った対象にはこのロジックはあてはまりません。散開星団もまばらになってしまうので効果は薄いでしょう。小さな球状星団に対しては大きな効果があるものと推測されます。 Star Watching -瞳のお話- 極限等級 http://www2e.biglobe.ne.jp/~isizaka/nstar/sw/pupil/pupil1.htm  『望遠鏡の限界等級は倍率に関係なく口径で決まる』という誤解が広く蔓延しているように思えるが、倍率も口径と同じぐらい大切な要素なのだ。 再掲しますが、倍率と限界等級の関係はこちらの記事が大変参考になります。星を見る上で「倍率を上げて背景を暗くする」ことが重要であるとの認識は近年広まってきてはいますが、その効果は光害地ほど顕著である。その点を強調したいと思います(*)。 (*)なお、ガリレオ式低倍率単眼鏡では、倍率が少々違っていても(2倍、3倍など)背景輝度を暗くする効果はありません。光害地だからといって高倍率を選んでも、背景を暗くする効果はないことに注意が必要です。一方で、倍率が高い分実質的な口径は大きくなるため、限界等級はその分上がることになります。 まとめ いかがでしたか? 「肉眼とあまり変わらない感覚の広視野」「ひとつひとつの星がより輝いて見える」という「ガリレオ式低倍率単眼鏡」のメリットは近年認知が進み、星好きの必須アイテムになりつつあります。肉眼をアシストしてくれる「ガリレオ式低倍率単眼鏡」をお手許にいかがでしょうか? https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/05/05/8582/ 本記事の作成においてはHIROPONさんに大変有用なご教示をいただき、質疑をさせていただきました。深く感謝申し上げます。  編集部発信のオリジナルコンテンツ