みなさんこんにちは!台風に大雨、なかなか日本列島は厳しい季節となっています。被災されてしまった方々には深くお見舞い申し上げます。星好きが星空を楽しめる日本であることを祈りつつ、天リフは今日も平常運転、今回はビクセンの「R200SS」の撮影記です!
ビクセンR200SSとは
軸上無収差!クラシックニュートン
ビクセン「R200SS」はニュートン式の反射望遠鏡。口径は200mm、焦点距離800mm。F値は4。4ですよ、F8でもF5.6でもない、F4。明るいです。「ハチゴロー」なんかメじゃありません!これがなんといまどき12万円ちょっと。カメラレンズの10分の1のお値段。「ニュートン反射」のここがスゴイ、その1。安い。
しかも!「ニュートン式反射」のここがスゴイ、その2。軸上無収差。光軸上では「すべての収差」がゼロ、点が完全な点に結像します。色収差も球面収差もゼロ。アイザック・ニュートンさん、偉い。350年も前に、「幾何光学的」には完全無欠の光学系を発明していたのです(*)。
(*)マジレスすると、波動光学的にいえば完全無欠もけっこう怪しくなってきます。「副鏡」とその支持金具による「回折」のために、中心部でも像が若干悪化します。でもカメラレンズ的基準なら「完璧」に近いといえるでしょう。「回折」がマジ問題になるのは、天体望遠鏡のような極限の解像度が要求される用途だけです。
2022/3/24追記)
ビクセンR200SSはロングセラーの製品で、最新モデルと古いモデルでは細かい点でいろいろな差異があるようです。下の引用記事は主鏡セル周りの固定が安定せず星像がゆがんだり流れたりすることがあった個体をセル固定バーツを最新型に換装することで改善されたと書かれています。
R200SSのメンテナンス
コレクタPH
だいぶアオリましたが、ニュートン式反射にもちゃんと欠点があります。完全無欠なのは中心だけ。周辺にいくほど「コマ収差」と「像面湾曲」によって像が悪化します。特に問題になるのはコマ収差。ニュートン反射のコマ収差は、上のスポット図の通り、もう教科書通りの典型的なコマ収差です。
そこで登場するのが「コマコレクタ」と呼ばれる補正レンズです。話が長くなるので結論だけにしますが、焦点面の前に何枚かのレンズを入れて、コマ収差と像面湾曲を補正します。
これまた話が長くなるので結論だけにしますが、コマコレクタで現在一番高性能と言われているのが「Wynneタイプ」と呼ばれる構成。それがビクセンの「コレクタPH」。収差を補正するだけでなく、ほんのちょっぴり明るくなります。性能は上のスポット図を見れば一目瞭然ですが、フルサイズ最周辺でもほとんど流れない、高性能な製品です(*)。
(*)実はコレクタPHは実売5万円以上。安かったはずのニュートン反射がちょっとお高くなってしまうのですが、それでも鏡筒と合わせて17万円ちょっと。「760mmF3.8」がこの値段で手に入るのは、やっぱりニュートン反射ならではです。
エクステンダーPH
現代に甦るクラシックニュートン!?ビクセン・エクステンダーPHキット
もうひとつ、コレクタPHと別に「エクステンダーPH」もあります。こちらは焦点距離を1.4倍にし焦点距離1120mm(F5.6)とするもので、銀河や惑星状星雲などのより小さい天体を撮影するのに好適。上の記事もご参考に!
撮影のねらいと使用機材
見せてもらおうか、R200SSの実力とやらを
今回の狙いはただ一つ。見せてもらおうか、R200SSの実力とやらを。F3.8の明るさ。760mmの焦点距離。フルサイズのイメージサークル。この3つ発揮してもらおう、というわけです。
とはいえ、久しぶりの好天だったので暗夜がたった1時間の「ほぼ満月期」の中を飛び出してきてしまいました。RGBではあんまりガチなことはできそうにありません。試写と割り切って(*)、明るい対象を短めの露出時間で撮り、月の出以降はナローバンドでガッツリいくことにしました。
(*)なんだか最近、試写と割り切ることが多くなりましたwww
最強、最安赤道儀。EQ5GOTO
赤道儀は、個人的に最近ますます信頼度の上がっているEQ5GOTOです。割り切ってオートガイドなし。歯数144枚のこの赤道儀、ピリオディックモーションの周期は最大10分。仮にピリオディックモーションが±30秒角あるとしても、30秒露出ならなんとか許容範囲におさまる計算(*)。
(*)追尾誤差を正弦波と仮定、30秒角×sin(360/20=18°)=30×0.309=9秒角。焦点距離760mmの500ルール値は15秒角×(500/760)=9.9秒角。
安いニュートン反射に補正レンズだけちょっと贅沢して、オートガイドなしの安い赤道儀で短秒多数枚。この組み合わせ、おそらくコンセプト的には最安・最強のディープスカイシステムでしょう(*)。短秒多数枚の作戦が取れるのにも、F3.8という明るさが大きく貢献しています。
(*)鏡筒はさらに安い製品の選択肢もありますが、ちょっと贅沢してビクセン製品^^;;;;
リザルトその1。M8とM20
最終画像
ではさっそくリザルトをごらん頂きましょう。まずは2フレームモザイクのM8とM20です。撮影準備に手間取ってしまい、結局半分月明かりの中の撮影になってしまいました。総露出16分×2のお手軽撮影ですが、まあこれなら上出来でしょう^^
光軸とピント
ピント合わせには「トライバーティノフマスク」を使用しました。元々シュミカセC8用なので無理矢理です。パーマセルテープで鏡筒の前に貼り付けて使用。上の右の画像を見る限りは、まあ光軸もピントも問題なさそうです。
上の左は焦点外像。斜鏡の影が右にすこしずれているのは、元々斜鏡が偏芯して取り付けてあるからでしょうか。明るいところで見れば、接眼部のスリーブはスパイダーの十字の真ん中に見えているので大丈夫なはずです。
星像はどうか
中央と四隅の星像を拡大してみました。ピントをきっちり追い込んだつもりなのですが、ちょっとボテッとしているのは温度順応不足なのでしょうか。薄明直後からの撮影は、温度順応や気温変化、光害の影響などあまりよろしくないのですが、まあファーストライトなんでよしとしましょう^^
それでも、四隅でも星像の崩れはほとんど感じません。色ハロも極小。強調しても星のへりが変に着色しないのはさすがの反射望遠鏡です。
今回は大胆にもフラット補正はなしですが、思っていたよりもずっと光量は平坦です。四隅は少し陰りますが、この程度なら画像処理でなんとでもなるレベル。この作例ではPhotoshopのレンズ補正でだいたい合わせた後「セルフフラット」で補正しました。
「セルフフラット」による補正
「セルフフラット」による補正のビフォー・アフター。PSのレンズ補正でざっくり補正した2コマを、PSのPhoto Mergeでつなぎ合わせたのが左の元画像。これをごにょごにょと作った(*)中の「セルフフラット」で減算し、レベル調整で整えたのが右の補正後画像です。
(*)ハイライトを輝度選択して「塗りつぶし(コンテンツに応じる)」して星を消し、さらに残った星と星雲の残骸も「塗りつぶし(コンテンツに応じる)」、ガウスぼかし100pxしたもの。この方法は星消しのやり方が違うだけで「ビニングフラット補正」と考え方は同じです。
セルフフラットに天の川や星雲の残骸が浮いていることから見てもわかるように、この補正方法はかなり「適当」なやり方です。本来の対象の濃淡を消してしまっているかもしれません。淡い部分を描出することはたぶんできないでしょう。しかし、メジャー天体の明るい部分が主題なら、じゅうぶん使える方法です。
リザルトその2。M17
最終画像
同じやり方でもう一枚。M17です。総露出は20分。こちらは日の丸構図なのでフラット補正はさらに楽です^^
スパイダーによる光条は?
ニュートン反射のトレードマーク?十字の美しい光条。M17の右上のオレンジ色の星を拡大してみました。形は整っていますし、一応虹色も出ています。光条の美しさにこだわる向きには若干不満かも知れませんが、ノーマルでこれならじゅうぶん満足できるのではないでしょうか。スパイダーマスクを自作して「エッジを鋭く」「遮蔽を太く」すれば、もっと光条をキレイに出すこともできると思います。
ライブビューで星雲がよく見える
証拠画像を残しておけばよかったと後悔しているのですが、さすが高感度番長のα7S、ライブビュー画面でM8もM20もM17もくっきりはっきりよく見えました。このため構図の微調整は楽々。見たとおりに架台のコントローラで操作するだけです。対象を「電視」しながら撮影するのはなかなか楽しく、これで一晩10対象も撮ればかなり「やったぞ感」があるのではないでしょうか^^
リザルトその3。クレセント星雲NGC6888
最終リザルト
そんな楽しい撮影ばかりではなく、もうちょっとガチでストイックな撮影にもチャレンジ。ナローバンドです。こちらが最終リザルト、AOO合成です。丸くトリミングしているのは、フィルターが37mm径のものなので元々かなりケラレているからです。
クレセント星雲をガチで狙うのは今回が初めてでした。総露出時間85分、ナローのガチ撮りにしては少ない露出時間ですが、なんだか「ノミ」みたい^^ 淡く「ノミ」を取り巻くOIIIの淡いところも無理矢理ですが描出できて、ちょっと満足^^ それにしてもこの付近はHαのるつぼですね^^
【連載11】実践・天体写真撮影記「Baaderウルトラナローバンド」でベランダ撮影・ 3.5nmは違うのだよ!
使用したBaaderの「ウルトラナローバンドフィルター」については、こちらの記事もご参照くださいね!
導入に苦しむ
しかし「ウルトラナローバンド」なので、ライブビューではさすがのα7Sでも何も見えません^^;;実はEG5GOTOのアライメントでちょっとトラブってしまい(*)、完全手動導入を強いられてしまいました。デネブも手動導入でピント合わせ、サドルの方向にだいたい振ってISO40万で1コマ撮ってはネット画像と照合^^; 必死のパッチで導入したプロセスが上の画像。
(*)EQ5のSynScanアプリ専用にしているAndroid端末をしばらく使っていなかったので時計がリセットされてしまい、アライメントが全くできず。家でWiFiに接続して時計を合わせておくべきでした。現地で時計を設定してもよかったのですが、慣れないAndroidで設定を探すのを放棄^^;;; 横着に横着を重ねて泥沼というパターンです。
ウルトラナローだと、ライブビューでは星はほんのかすかに数個しか見えません。テスト撮影でクレセント星雲のありかがわかっても、その後微調整するのが難しい。これは自動導入でGOTOできたとしてもたぶん同じ。次回はしっかりアライメントして、構図もしっかりシミュレートして、赤緯赤経値で一発GOTOする必要がありそうです(*)。
(*)ライブビューの感度が高くなく、バリアングルでもないEOS6Dなら、間違いなく挫折していたと思われます。
今回はダークありで
「F3.8」と明るいR200SSですが、α7Sの「30秒縛り」のナローバンドでは、極端な露出不足となることが想定されます。今回はISo25600で撮りましたが、それでもヒストグラムはかなり左寄り。ふだんはダーク減算はしない筆者ですが、今回はさすがにまじめにダークを引いてみました。
ダークの有無でどう違うか?上の画像をごらんください。かなり強調していますが、シャドー部の縞ノイズの出方が明らかに異なることがわかります。こんなに差があるのなら、ダークは引いた方が良いですね。
ダークは減算はどんなときに必要なのか
ただし、中間調からハイライトにかけてはほとんど差異を認めることができません。この結果を踏まえ、現在筆者が持っている仮説は以下の通りです。
- 十分露出を与えた場合(ヒストグラムの山が中央より右)はダークの効果はわずか
- 露出不足でヒストグラムが左に寄るほどダークは効果がある
- 気温が高いとき、センサーに輝点ノイズが多いときほど効果がある
3は当たり前のことですが、1,2も「固定ノイズ」が「読み出しノイズ」であると考えると合点がいきます。短秒・多数枚撮影の場合、全てのコマに読み出しノイズが乗ることになり、枚数が多いほど影響が大きくなりますが、読み出しノイズは数e程のオーダー。信号が十分大きければ無視できるほどですが、露出不足で信号が小さい場合ほど影響が大きくなるのでしょう。
というわけで、ナローの短秒多数枚の時(特に夏場)は、面倒でもダークを引こうと決心したのでした^^;;
「ハイパス」でディテールを強調する
星雲のディテールを描出するために、今回は「ハイパス」を使用しています。Hα画像でその効果を見てみましょう。
こちらがハイパス処理前。ハイパス処理は「画面を荒らす」処理なので、ノイズも浮いてしまいます。それを軽減するために、まずシャドウのみに強めのノイズ処理をかけます。全体にノイズ処理をかけてしまうと、中間調・ハイライトのディテールが失われてしまうためです。
ノイズ処理あり・なしで、ハイパス2px処理をかけたときの違い。ハイパスでディテールを強調すると、ノイズも強調されてしまうということですね。
ハイパス処理のキモは「半径」をいくつにするか。半径が小さいほどディテールが、大きいほど「もわもわ」が強調されます。今回はクレセント星雲の微細なディテールを強調したいので、半径を小さくしました。1pxでもけっこう効果がありますね。最終作例では1px、2px、4pxを1:0.3:0.2くらいでブレンドしました。
【連載】画像処理ワンポイント(4)・ハイパスでうねりを出す【中級・マニア向け】
ハイパスについてはこちらの天リフ記事もご参考に!「効きを見ながら、控えめに、控えめに!」
まとめ
いかがでしたか?
ファーストライトにしてはまあまあ上出来でしたが、この先の本格運用はそんなに甘くないと思っています。まずは露よけ対策。今回は短時間の撮影の上に湿度も低く、ほとんど夜露は降りませんでしたが、この先秋〜冬はそうはいかないはず。主鏡はともかく斜鏡の曇りをどうやって食い止めるか・・・乞うご期待です^^;;
もうひとつ、反射望遠鏡特有の美しい光条。ノーマル仕様ではちょっと割れてしまうみたいですね。ただし、筆者は特にそのあたりは(まだ?)こだわらないので、特に何かする予定はありません。
むしろ、接眼部の位置(角度)をどうするかの方が課題。ニュートン反射、特にwynneコレクタを付けた状態では、かなりカメラが横に飛び出します。どこを向いても使いやすく、たわみの影響が少ない角度はどこなのか。これはもう少しシミュレーションしてみなければと思っています。
懸念していた光軸合わせについては、今のところ「ノータッチ」なのですが、特に問題は出ていません。R200SSは副鏡の支持金具も主鏡セルもかなり堅牢。少々のことでは狂わないようです。機械なのでこの先どうなるかはわかりませんが・・・
(*)伝説化?している「使いこなすためにはまず光軸調整を完璧にマスターしてください」と取説に書かれた某社の天体望遠鏡のこともあり、かなりビビッていたのですが^^;;
というわけで、この先もいろいろな対象で試してみたいと思っています。F4の明るさを生かして、小さな淡目の対象、例えばペルセウスのNGC1333やオリオンのM78なんかを。また、ナローバンドで面白そうな明るい対象、トールのかぶと星雲やオリオン大星雲、ガム星雲の中の赤青入り交じったあたりとか。口径20cmの真価を発揮させてみたいですね!
それでは皆様のご武運をお祈りしております。また次回お会いしましょう!
機材協力:
- (株)ビクセン [R200SS、コレクタPH]
- 国際光器[Baadar ウルトラナローバンドフィルター]
https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/10/21/9716/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/10/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/10/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg編集部レビュー望遠鏡実践・天体写真撮影記みなさんこんにちは!台風に大雨、なかなか日本列島は厳しい季節となっています。被災されてしまった方々には深くお見舞い申し上げます。星好きが星空を楽しめる日本であることを祈りつつ、天リフは今日も平常運転、今回はビクセンの「R200SS」の撮影記です!
ビクセンR200SSとは
軸上無収差!クラシックニュートン
ビクセン「R200SS」はニュートン式の反射望遠鏡。口径は200mm、焦点距離800mm。F値は4。4ですよ、F8でもF5.6でもない、F4。明るいです。「ハチゴロー」なんかメじゃありません!これがなんといまどき12万円ちょっと。カメラレンズの10分の1のお値段。「ニュートン反射」のここがスゴイ、その1。安い。
しかも!「ニュートン式反射」のここがスゴイ、その2。軸上無収差。光軸上では「すべての収差」がゼロ、点が完全な点に結像します。色収差も球面収差もゼロ。アイザック・ニュートンさん、偉い。350年も前に、「幾何光学的」には完全無欠の光学系を発明していたのです(*)。
(*)マジレスすると、波動光学的にいえば完全無欠もけっこう怪しくなってきます。「副鏡」とその支持金具による「回折」のために、中心部でも像が若干悪化します。でもカメラレンズ的基準なら「完璧」に近いといえるでしょう。「回折」がマジ問題になるのは、天体望遠鏡のような極限の解像度が要求される用途だけです。
2022/3/24追記)
ビクセンR200SSはロングセラーの製品で、最新モデルと古いモデルでは細かい点でいろいろな差異があるようです。下の引用記事は主鏡セル周りの固定が安定せず星像がゆがんだり流れたりすることがあった個体をセル固定バーツを最新型に換装することで改善されたと書かれています。
https://so-nano-car.com/r200ss-maintenance
コレクタPH
だいぶアオリましたが、ニュートン式反射にもちゃんと欠点があります。完全無欠なのは中心だけ。周辺にいくほど「コマ収差」と「像面湾曲」によって像が悪化します。特に問題になるのはコマ収差。ニュートン反射のコマ収差は、上のスポット図の通り、もう教科書通りの典型的なコマ収差です。
そこで登場するのが「コマコレクタ」と呼ばれる補正レンズです。話が長くなるので結論だけにしますが、焦点面の前に何枚かのレンズを入れて、コマ収差と像面湾曲を補正します。
これまた話が長くなるので結論だけにしますが、コマコレクタで現在一番高性能と言われているのが「Wynneタイプ」と呼ばれる構成。それがビクセンの「コレクタPH」。収差を補正するだけでなく、ほんのちょっぴり明るくなります。性能は上のスポット図を見れば一目瞭然ですが、フルサイズ最周辺でもほとんど流れない、高性能な製品です(*)。
(*)実はコレクタPHは実売5万円以上。安かったはずのニュートン反射がちょっとお高くなってしまうのですが、それでも鏡筒と合わせて17万円ちょっと。「760mmF3.8」がこの値段で手に入るのは、やっぱりニュートン反射ならではです。
エクステンダーPH
https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/08/22/9226/
もうひとつ、コレクタPHと別に「エクステンダーPH」もあります。こちらは焦点距離を1.4倍にし焦点距離1120mm(F5.6)とするもので、銀河や惑星状星雲などのより小さい天体を撮影するのに好適。上の記事もご参考に!
撮影のねらいと使用機材
見せてもらおうか、R200SSの実力とやらを
今回の狙いはただ一つ。見せてもらおうか、R200SSの実力とやらを。F3.8の明るさ。760mmの焦点距離。フルサイズのイメージサークル。この3つ発揮してもらおう、というわけです。
とはいえ、久しぶりの好天だったので暗夜がたった1時間の「ほぼ満月期」の中を飛び出してきてしまいました。RGBではあんまりガチなことはできそうにありません。試写と割り切って(*)、明るい対象を短めの露出時間で撮り、月の出以降はナローバンドでガッツリいくことにしました。
(*)なんだか最近、試写と割り切ることが多くなりましたwww
最強、最安赤道儀。EQ5GOTO
赤道儀は、個人的に最近ますます信頼度の上がっているEQ5GOTOです。割り切ってオートガイドなし。歯数144枚のこの赤道儀、ピリオディックモーションの周期は最大10分。仮にピリオディックモーションが±30秒角あるとしても、30秒露出ならなんとか許容範囲におさまる計算(*)。
(*)追尾誤差を正弦波と仮定、30秒角×sin(360/20=18°)=30×0.309=9秒角。焦点距離760mmの500ルール値は15秒角×(500/760)=9.9秒角。
安いニュートン反射に補正レンズだけちょっと贅沢して、オートガイドなしの安い赤道儀で短秒多数枚。この組み合わせ、おそらくコンセプト的には最安・最強のディープスカイシステムでしょう(*)。短秒多数枚の作戦が取れるのにも、F3.8という明るさが大きく貢献しています。
(*)鏡筒はさらに安い製品の選択肢もありますが、ちょっと贅沢してビクセン製品^^;;;;
リザルトその1。M8とM20
最終画像
ではさっそくリザルトをごらん頂きましょう。まずは2フレームモザイクのM8とM20です。撮影準備に手間取ってしまい、結局半分月明かりの中の撮影になってしまいました。総露出16分×2のお手軽撮影ですが、まあこれなら上出来でしょう^^
光軸とピント
ピント合わせには「トライバーティノフマスク」を使用しました。元々シュミカセC8用なので無理矢理です。パーマセルテープで鏡筒の前に貼り付けて使用。上の右の画像を見る限りは、まあ光軸もピントも問題なさそうです。
上の左は焦点外像。斜鏡の影が右にすこしずれているのは、元々斜鏡が偏芯して取り付けてあるからでしょうか。明るいところで見れば、接眼部のスリーブはスパイダーの十字の真ん中に見えているので大丈夫なはずです。
星像はどうか
中央と四隅の星像を拡大してみました。ピントをきっちり追い込んだつもりなのですが、ちょっとボテッとしているのは温度順応不足なのでしょうか。薄明直後からの撮影は、温度順応や気温変化、光害の影響などあまりよろしくないのですが、まあファーストライトなんでよしとしましょう^^
それでも、四隅でも星像の崩れはほとんど感じません。色ハロも極小。強調しても星のへりが変に着色しないのはさすがの反射望遠鏡です。
今回は大胆にもフラット補正はなしですが、思っていたよりもずっと光量は平坦です。四隅は少し陰りますが、この程度なら画像処理でなんとでもなるレベル。この作例ではPhotoshopのレンズ補正でだいたい合わせた後「セルフフラット」で補正しました。
「セルフフラット」による補正
「セルフフラット」による補正のビフォー・アフター。PSのレンズ補正でざっくり補正した2コマを、PSのPhoto Mergeでつなぎ合わせたのが左の元画像。これをごにょごにょと作った(*)中の「セルフフラット」で減算し、レベル調整で整えたのが右の補正後画像です。
(*)ハイライトを輝度選択して「塗りつぶし(コンテンツに応じる)」して星を消し、さらに残った星と星雲の残骸も「塗りつぶし(コンテンツに応じる)」、ガウスぼかし100pxしたもの。この方法は星消しのやり方が違うだけで「ビニングフラット補正」と考え方は同じです。
セルフフラットに天の川や星雲の残骸が浮いていることから見てもわかるように、この補正方法はかなり「適当」なやり方です。本来の対象の濃淡を消してしまっているかもしれません。淡い部分を描出することはたぶんできないでしょう。しかし、メジャー天体の明るい部分が主題なら、じゅうぶん使える方法です。
リザルトその2。M17
最終画像
同じやり方でもう一枚。M17です。総露出は20分。こちらは日の丸構図なのでフラット補正はさらに楽です^^
スパイダーによる光条は?
ニュートン反射のトレードマーク?十字の美しい光条。M17の右上のオレンジ色の星を拡大してみました。形は整っていますし、一応虹色も出ています。光条の美しさにこだわる向きには若干不満かも知れませんが、ノーマルでこれならじゅうぶん満足できるのではないでしょうか。スパイダーマスクを自作して「エッジを鋭く」「遮蔽を太く」すれば、もっと光条をキレイに出すこともできると思います。
ライブビューで星雲がよく見える
証拠画像を残しておけばよかったと後悔しているのですが、さすが高感度番長のα7S、ライブビュー画面でM8もM20もM17もくっきりはっきりよく見えました。このため構図の微調整は楽々。見たとおりに架台のコントローラで操作するだけです。対象を「電視」しながら撮影するのはなかなか楽しく、これで一晩10対象も撮ればかなり「やったぞ感」があるのではないでしょうか^^
リザルトその3。クレセント星雲NGC6888
最終リザルト
そんな楽しい撮影ばかりではなく、もうちょっとガチでストイックな撮影にもチャレンジ。ナローバンドです。こちらが最終リザルト、AOO合成です。丸くトリミングしているのは、フィルターが37mm径のものなので元々かなりケラレているからです。
クレセント星雲をガチで狙うのは今回が初めてでした。総露出時間85分、ナローのガチ撮りにしては少ない露出時間ですが、なんだか「ノミ」みたい^^ 淡く「ノミ」を取り巻くOIIIの淡いところも無理矢理ですが描出できて、ちょっと満足^^ それにしてもこの付近はHαのるつぼですね^^
https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/08/05/9173/
使用したBaaderの「ウルトラナローバンドフィルター」については、こちらの記事もご参照くださいね!
導入に苦しむ
しかし「ウルトラナローバンド」なので、ライブビューではさすがのα7Sでも何も見えません^^;;実はEG5GOTOのアライメントでちょっとトラブってしまい(*)、完全手動導入を強いられてしまいました。デネブも手動導入でピント合わせ、サドルの方向にだいたい振ってISO40万で1コマ撮ってはネット画像と照合^^; 必死のパッチで導入したプロセスが上の画像。
(*)EQ5のSynScanアプリ専用にしているAndroid端末をしばらく使っていなかったので時計がリセットされてしまい、アライメントが全くできず。家でWiFiに接続して時計を合わせておくべきでした。現地で時計を設定してもよかったのですが、慣れないAndroidで設定を探すのを放棄^^;;; 横着に横着を重ねて泥沼というパターンです。
ウルトラナローだと、ライブビューでは星はほんのかすかに数個しか見えません。テスト撮影でクレセント星雲のありかがわかっても、その後微調整するのが難しい。これは自動導入でGOTOできたとしてもたぶん同じ。次回はしっかりアライメントして、構図もしっかりシミュレートして、赤緯赤経値で一発GOTOする必要がありそうです(*)。
(*)ライブビューの感度が高くなく、バリアングルでもないEOS6Dなら、間違いなく挫折していたと思われます。
今回はダークありで
「F3.8」と明るいR200SSですが、α7Sの「30秒縛り」のナローバンドでは、極端な露出不足となることが想定されます。今回はISo25600で撮りましたが、それでもヒストグラムはかなり左寄り。ふだんはダーク減算はしない筆者ですが、今回はさすがにまじめにダークを引いてみました。
ダークの有無でどう違うか?上の画像をごらんください。かなり強調していますが、シャドー部の縞ノイズの出方が明らかに異なることがわかります。こんなに差があるのなら、ダークは引いた方が良いですね。
ダークは減算はどんなときに必要なのか
ただし、中間調からハイライトにかけてはほとんど差異を認めることができません。この結果を踏まえ、現在筆者が持っている仮説は以下の通りです。
十分露出を与えた場合(ヒストグラムの山が中央より右)はダークの効果はわずか
露出不足でヒストグラムが左に寄るほどダークは効果がある
気温が高いとき、センサーに輝点ノイズが多いときほど効果がある
3は当たり前のことですが、1,2も「固定ノイズ」が「読み出しノイズ」であると考えると合点がいきます。短秒・多数枚撮影の場合、全てのコマに読み出しノイズが乗ることになり、枚数が多いほど影響が大きくなりますが、読み出しノイズは数e程のオーダー。信号が十分大きければ無視できるほどですが、露出不足で信号が小さい場合ほど影響が大きくなるのでしょう。
というわけで、ナローの短秒多数枚の時(特に夏場)は、面倒でもダークを引こうと決心したのでした^^;;
「ハイパス」でディテールを強調する
星雲のディテールを描出するために、今回は「ハイパス」を使用しています。Hα画像でその効果を見てみましょう。
こちらがハイパス処理前。ハイパス処理は「画面を荒らす」処理なので、ノイズも浮いてしまいます。それを軽減するために、まずシャドウのみに強めのノイズ処理をかけます。全体にノイズ処理をかけてしまうと、中間調・ハイライトのディテールが失われてしまうためです。
ノイズ処理あり・なしで、ハイパス2px処理をかけたときの違い。ハイパスでディテールを強調すると、ノイズも強調されてしまうということですね。
ハイパス処理のキモは「半径」をいくつにするか。半径が小さいほどディテールが、大きいほど「もわもわ」が強調されます。今回はクレセント星雲の微細なディテールを強調したいので、半径を小さくしました。1pxでもけっこう効果がありますね。最終作例では1px、2px、4pxを1:0.3:0.2くらいでブレンドしました。
https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/06/7201/
ハイパスについてはこちらの天リフ記事もご参考に!「効きを見ながら、控えめに、控えめに!」
まとめ
いかがでしたか?
ファーストライトにしてはまあまあ上出来でしたが、この先の本格運用はそんなに甘くないと思っています。まずは露よけ対策。今回は短時間の撮影の上に湿度も低く、ほとんど夜露は降りませんでしたが、この先秋〜冬はそうはいかないはず。主鏡はともかく斜鏡の曇りをどうやって食い止めるか・・・乞うご期待です^^;;
もうひとつ、反射望遠鏡特有の美しい光条。ノーマル仕様ではちょっと割れてしまうみたいですね。ただし、筆者は特にそのあたりは(まだ?)こだわらないので、特に何かする予定はありません。
むしろ、接眼部の位置(角度)をどうするかの方が課題。ニュートン反射、特にwynneコレクタを付けた状態では、かなりカメラが横に飛び出します。どこを向いても使いやすく、たわみの影響が少ない角度はどこなのか。これはもう少しシミュレーションしてみなければと思っています。
懸念していた光軸合わせについては、今のところ「ノータッチ」なのですが、特に問題は出ていません。R200SSは副鏡の支持金具も主鏡セルもかなり堅牢。少々のことでは狂わないようです。機械なのでこの先どうなるかはわかりませんが・・・
(*)伝説化?している「使いこなすためにはまず光軸調整を完璧にマスターしてください」と取説に書かれた某社の天体望遠鏡のこともあり、かなりビビッていたのですが^^;;
というわけで、この先もいろいろな対象で試してみたいと思っています。F4の明るさを生かして、小さな淡目の対象、例えばペルセウスのNGC1333やオリオンのM78なんかを。また、ナローバンドで面白そうな明るい対象、トールのかぶと星雲やオリオン大星雲、ガム星雲の中の赤青入り交じったあたりとか。口径20cmの真価を発揮させてみたいですね!
それでは皆様のご武運をお祈りしております。また次回お会いしましょう!
機材協力:
(株)ビクセン
国際光器編集部山口
千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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