一般ニュースでも大きく報道されていますが、大変痛ましい事故が起きました。「棚田」で有名な新潟県の「星峠」で車が道路から田んぼに転落し、運転していた方が死亡されました。

しかも、星峠の同じ場所での死亡事故はこれが2件目とのことです。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。

目次

事故の概要

FNN PRIME 去年も転落事故が… 観光名所・星峠の棚田 車転落で1人死亡【十日町市】
https://www.fnn.jp/posts/1622NST/201905051801_NST_NST

報道されている内容以上の憶測は避けますが、以下の通りです。



  • 普通乗用車が15m下の棚田に転落、運転していた方は死亡
  • 現場は「星峠の棚田」と呼ばれる観光名所
  • 去年も車の転落事故が発生している
  • 事故発生時、車はライトを消灯していたとの情報

上記とは別の、別のニュース動画(現在は削除されている模様)では「推測に過ぎない」との前置きで「ライト消灯」の理由が語られていましたが、その内容については筆者も頷かざるをえないところがあります。

人が集まる場所は「荒れてしまう」

近年、デジタルカメラの性能が向上し、星空の写真を撮影するしきいは大きく下がりました。また「インスタ映え」に代表される写真ブーム、絶景ブームもあり、「映える星空」が撮影できるスポットには、多くの愛好家が集中している事情があります。

多くの人が集中すると何が起きるか。さまざまな意味で、荒れます

場所取り、身勝手な「邪魔物の排除」。私有地にわがもの顔で進入する。ゴミの放置。トイレ以外での用足し。「お山の大将」の我が物顔。

しかし、この手の事象は本題ではありません。ネットを賑わすそんな「炎上」ネタは枚挙にきりがありませんが、星空・風景・鉄道、そして「写真愛好家」に限らず、あらゆる分野で起きうることでもあります。「(法律などの)ルールとしてやってはならないこと」「人として、モラルとしてやってはならないこと」を破る人が一定数存在するのはある意味仕方ありません。

解決すべき問題は、全ての人がルールを守り高いモラルを持ったとしても、それでも「人が集まる場所は荒れる(*)」こと、そしてそれ以前に「ルールの勘違い」をなくすことです。

(*)例えば、多くの登山者が訪れることで道がえぐられ、山の自然環境そのものが破壊されるようなケースです。こうなってしまうと入山を規制する以外の対策はないかもしれません。

「星空撮影ルール」はなぜ生まれるのか

星の光は弱く、暗いものです。街灯りや車のライトばかりでなく、小さな懐中電灯の明かりや、カメラのモニタや動作中ランプですら、星空を見たり撮ったりする際の「邪魔者」になってしまいます。

最高のロケーション、最高の星空。シャッターを開けて撮影開始。よし、会心の作だ!そのとき前の道路にヘッドライトをつけた1台の車が!あぁぁぁ、、台無しだ・・・残念、悲しいですよね。気を取り直して再度撮影開始。今度こそ!でもそのとき、前にいる誰かが懐中電灯をつけてしまった・・また台無しだ・・・

かなり温厚な人でも「イラッ」とくるでしょう。筆者もその側の人間であることは否定しません。また、人間ができた人ほど「自分が逆の立場になりたくない」と思うでしょう。「皆が気持ちよく撮影できるように、ムダなライトはつけないようにしよう」そう思うでしょう。皆がそう思うと、それが「マナー」になり「ルール」になっていきます。そのことは否定しないし、むしろそうあるべきだと思います(*)。そこに「勘違い」がなければ・・・

(*)その結果、「変なルール」「無意味なマナー」が生まれることももちろんあるのですが、そうならないように合意を形成する努力を怠っていいはずはありません。

走行時はライトを消しちゃダメ!「星空撮影ルール」の勘違い

「東京の街灯りが邪魔だから、ちょっと発電所を破壊してくるわ」そんな人はたぶんいません。いるとしたら、それはテロリストです。

でも「車のヘッドライトが邪魔だから、ちょっと消すように言ってくるわ」という人がいます。これは「あり」でしょうか、「なし」でしょうか?そこが自分の土地なら「あり」でしょう。でも、公道で、しかも走行中の車にそれを要求することは、法令違反を強要することです。断じて「なし」です。それはルールの勘違いです。

逆に、「星空撮影の仲間」に配慮して、ヘッドライトを消して車を動かすのも、断じて「なし」です。「法令違反」ですし、それで一人の命が奪われることさえありうるのです。車に乗ってエンジンを掛けた時点で、あなたは法令を守るべきドライバーです。「星空撮影のルール」は忘れるべきで、忖度もすべきではありません。いらぬ忖度・配慮は、大事にしてきたつもりだった自分のフィールドそのものを壊すことにもなるのです。

夜間に車に乗ってエンジンを掛けたら、ライトを点灯する。

すべてはこのことを守った上での話です。星峠の事故がこのことに対する「勘違い」が原因かどうかはわかりませんが、あらためて強調しておきたいと思います。

「フィールドは誰のものか」の勘違い

もうひとつ、大きな勘違いを指摘しなくてはなりません。あなたがいる場所は誰のものですか?あなたの土地なら何も言いません。でもそうでないなら・・・その場所は「あなた以外の誰かのもの」であるはずです。ルールやマナーがあったとしても、それはあなたが勝手に決めるものではありません。

筆者は星峠に行ったことはないので詳しくはわかりませんが、そこでどんなに多くの車が通り、多くのライトが星空を照らしたとしても、それは「ごく普通にありうること」です。一晩中灯りが絶えず、撮りたいものが撮れなかったとしても、仕方のないことです。

「(自分以外の)誰かの場所で、撮らせてもらっている」このことを勘違いしてはいけません。

「愛好家ルール」は必要なのか

冒頭とは別の削除されたニュース動画では「愛好家ルールが関係?」との表現がタイトルにあり「トンデモなルールを主張するヲタクどもの勝手なルール(愛好家ルール)で人が死んだ」と一方的に受け止められる可能性があります。でも、今回の件がライト消灯が原因だとするとまさしくその通りで、猛省すべきであることは先に書いたとおりです。

しかし、「愛好家ルール」が存在することが悪である、というわけではないと筆者は考えています守るべき上位のルールとマナーの範囲内であれば、「愛好家ルール」は必要であり、そのルールの意味や目的を「愛好家のコミュニティ」と「より上位の社会」に対して発信し、理解を得るべきです。

「ルール・マナーの強制」「同調圧力」の問題もあり、ルールやマナーを形成しようとすることそのものが、何かと逆風で煙たがられる側面は大いにありますが、それでも「愛好家ルール」は必要であると筆者は考えています。

いろいろな考え方や指向があり、全員が満足するルールは存在しないし、強制できるものではないとしても、「愛好家全体のコミュニティ」が「世の中」で理解され、より多くの人が楽しく活動できるように何らかの合意を形成すべきだと考えています。

「星空愛好家のルール(マナー)」QA集(草案)

というわけで、「星空愛好家ルール(マナー)」について筆者が思うところをQA集としてまとめてみました。ただし、これは「星空愛好家」に呼びかけたいルールであり、それ以外の一般の方は対象として想定していません。(一般の方に対しても当たり前の内容もありますが)

ぜひ広くご意見を伺いつつ、合意形成に役立つことを願っています。

5/9追記)

勢いで書いた部分もあり、あらためて考え直してみると、「細かすぎるマニュアル化」はネタとしては成り立っても(用足しなど中途半端にネタ成分を入れたのも失敗でした)本来の趣旨を離れたものになると感じていて、別の形で書きなおすつもりです。その際には本節は削除するかもしれません。

勘違い防止

車のライトはいつ点灯・消灯すべきですか?

夜間で走行中は点灯です。安全に停止したら消灯。発進前には点灯し、安全を確認してから発進です。

駐車場は公道ですか?

もちろんです。封鎖された私有地以外は公道です。

ロープやコーンがじゃまだったので、どかして進入しました。

だめです。不法侵入です。

道を歩くとき懐中電灯などを灯していいのですか?

もちろんです。車のヘッドライト同様、安全確保のための点灯は必須です。

動物が近寄ってきたのでエサをあげました。

だめです。特に野生の動物にはエサをあげてはだめです。理由はぐぐってください。

車について

ハイビームやフォグランプは使っていいのですか?

走行中は交通法規に従ってください。駐車場内でも第三者の存在が確認された時点でロービーム、霧など理由がないかぎりフォグランプは消灯です。

ドアを開けると車内灯が灯ってしまいます。

星空撮影に出かける際は室内灯は「常に消灯」の設定が推奨です(長押しで常時消灯、など)。車によっては消灯不可能なものもありますが、それは仕方ありません。

エンジンをかけっぱなしにしてもいいのですか?その際ライトは付けてもよいのですか?

騒音・排気ガスの問題があるため、エンジンは必要な場合以外は、すみやかに停止するのがよいと思います。星空撮影が目的なら、ライトも安全を確認次第すみやかに消灯しましょう。



北海道在住です。エンジンを切ると凍死するのでいつも掛けっぱなしですが、構わないでしょうか?

身の安全は何よりも優先です。道民にとっては常識らしい(*)ので、むしろ内地の人間は「エンジンを切ると命の危険がある状況があり得る」ことを忘れないようにしましょう。

(*)極寒地ではエンジンを切って冷え切ってしまうと二度とエンジンがかからなくなり、遭難する危険がある。

車中泊するときの注意を教えてください。

まずその場所が車中泊禁止の場所でないことを確認し、定められたルールに従いましょう。可能な場所であれば、あとは一般・星空愛好家に迷惑がかからないことを基準に判断・行動してください。

「灯り」について

ライトは赤色がいいのですか?

昔は赤色が目を刺激しないという理由で推奨されていましたが、最近のLED赤ライトは肉眼では感じない波長の光の比率が高く、写真撮影にはむしろ弊害になるケースが指摘されています。(肉眼では暗いのに写真では明るい)。

最近の研究では、人間の視覚の特性からみて、星空のような暗い場所で暗順応(暗いものがより良く見えるように数分〜10分程度で目が「モードチェンジ」すること)と、細かなものを見る能力のバランスが取れるのは、赤色光ではなく「電球色」であるとの説が有力になってきました。「赤色がよい」は「過去の勘違い」になる可能性があります。個人的意見としても「電球色」の灯りが推奨です。特に、移動する際の安全確認のためには、赤色は不向きです。白色ないしは電球色が推奨です。

ライトを付けたら怒鳴られました。

見知らぬ人を怒鳴りつける人はいろいろ残念ですが、第三者が「邪魔かも?」と感じるようなケースでの点灯の場合、「灯り付けてもいいですかー?」と確認するのが吉です。

ライトはいつ灯していいのでしょうか?

特に理由も目的もなくライトを灯すことは、周辺に敵を増やすことになります。逆に理由と目的があれば、灯してください。必要最小限の明るさにとどめること、周囲に一声掛ければなおよしです。

移動の際のライトは頭につける(ヘッドライト)べきですか?(5/8追加)

ケースバイケースです。ヘッドライトは両手が使えるのがメリットです。急な坂道や安全確保のために両手が必要な場合はヘッドライトが推奨です。逆に平坦な道の場合、頭に付けるよりも手で持って足元を照らした方がよい場合もあります。(ヘッドライトでは足元を照らしにくい)

スマホを使ってもいいのですか?

星空撮影が目的なら、ひまつぶしでスマホを見るのは他人に迷惑がかからない状況に限るのが吉です。また、スマホ画面は一番暗い設定にし、「ナイトシフト」に設定するなど「ブルーライト成分」が少なくなるようにしましょう。

カメラの動作ランプがじゃまだと言われました。

デジタルカメラは暗闇では、けっこう明るい(主に赤色の)ランプが灯る場合があります。「AF補助光」や「セルフタイマーの動作確認ランプ」は特に邪魔になります。星空撮影では不要なケースが大半なので、OFFになるように事前に設定しておきましょう。

露出中やメモリカード書き込み中のランプもそれに準じます。こちらは消灯できない場合もあるため、黒いテープで目張りするのが吉です。

カメラのモニターの光がじゃまだと言われました。

ミラーレスカメラのモニターは頭の痛い存在です。これを完全消灯すると何もできない場合もあります。まず、一番暗くなる設定にしておきましょう。また、バリアングルの場合は可能な範囲で下向き(裏向き)にするのも一手です。電子ファインダーがついている場合は、そちらのみをONにすれば光の漏れは最小になります(が使いにくい)。決定版はありません。なるべく迷惑にならないように工夫してみてください。

暗闇でもカメラを操作できるようにならないとだめですか?

「暗闇でも手探りで全部操作できるようになってからフィールドに来やがれ」という意見もあります。このレベルを一般に強制するのはなかなか難しいと思いますが、暗闇でも操作できるまで練習するのは、すばやくカメラを操作ができるようになり、自分のためにもなります。少なくとも、てきぱき操作できるようになるのは良いことばかりです。

自販機の光がじゃまです。

残念ですが、自販機の存在はあるものとして受け入れてください。まちがっても、ぶっ壊したりしてはいけません。

公衆トイレの光がじゃまです。

こちらもあるものとして受け入れましょう。ただし、自動感応型・手動点灯型の場合もあります。そんな場合に「ライトが付くからトイレに行くな!」と強制するのは論外ですが、工夫の余地はあります。

いつまでもヘッドライトを灯したままの車がいて困っています。

お願いしたら消してもらえるかもしれませんが、どうなるかは自己責任です。相手が変な人で無用のトラブルに巻き込まれる危険もあります。そっとしておいて心の中で「このクソ野郎!」と念力をかけるくらいが穏当な対応と思われます。

投光器を持ち込んでライトアップしている人がいます。

暗い状態で撮影したい人には迷惑極まりない話ですが、それを意に介さない方を説得するのは極めて困難でしょう。別の場所に移動するか、立ち去るまで待つか、あなたの「人間力」で勝負に出るか、それはあなたがお決めになることです。

空に向かってライトをレーザー風に灯してインスタ映えさせたいです。

周囲に多くの人がいる場合、その多くを敵に回すことになります。でも、あなたの行為を否定したり、やめさせる権限も誰にもありません。個人的には、今一番グレーで来年の評価がどうなるかわからない課題と思いますが、反感を持って強く否定する人も多くいます。

灯りで文字を書いて記念写真を撮ってもいいですか?

観光ガイド的星見ツアーでは記念品的によく撮影される手法ですね。空にライトを照らすことよりはずっと「反感」を持たれることは少ないと思いますし、個人的にはそういう楽しみ方を奪う方向に圧力をかけるのはいかがなものかと思っています。お願いですが、その場に「暗い環境で星を撮りたい系の人たち」がいる場合は、一声かけていただけるとより和むと思います。

誰もいない場所ならライトを好きなだけ灯してもいいのですか?

誰もいない場所なら誰も止める人はいません。ご自分で判断してください。「隣の山からでも人工光は邪魔」という意見もありますが、個人的にはそこまで気にするのはすこし窮屈に感じます。

周辺環境に対する配慮

仲間と盛り上がってつい大きな声を出してしまいます。

気持ちはよく分かりますし、たぶん自分もやっているかもしれません。同業に「うるさい!」と言われたら「すみません」を謝って静かにしましょう。でも住民の方に「うるさい!」と言われたとしたら、それはたぶんあなたに問題がありますし、その場所が以前のような場所でなくなるかもしれない爆弾をあなたは残したことになります。

くれぐれも夜はお静かに。

トイレが我慢できません。そのへんで用足ししてもいいのですか?

だめです。パンツに出すか、コンビニ袋に出して持ち帰るかを選んでください。事前に深い穴を掘ってきちんと埋めるなら許してくれる人もいるかもしれませんが、場所によります。

とにかくトイレはトイレで済ましてから現場入りしましょう。それでも・・・(以下自粛)。

5/9追記)複数の方からご指摘をいただきました。「携帯トイレ」を常備しておけば、悲惨な状況におちいることを防止できます。

カップラーメンのスープが飲みきれません。そのへんに捨ててもいいですか?

だめです。残りカスまで全部飲んでください。1時間待てば大抵飲みきれます。

タバコは吸ってもいいのですか?

筆者も喫煙者なのですが、以下のルールを自分に課している「つもり」です。これは明日にでも(より厳しい方向に)変わるかもしれません。

  • 「禁煙」の場所では吸わない
  • 第三者がいるときは「吸っていいですか」と声を掛ける
  • 吸い殻は持ち帰り
  • 風の強い日は灰を落とさない、もみ消さない(火種を飛ばさない)

すでにダメ出しを受けるレベルかもしれませんが。

第三者に対する配慮

現場で人と出会ったときに、挨拶はすべきですか?

にっこり笑って(たとえ顔が見えなくても)挨拶することは、ほとんどマイナスになることはありません。でも、一人静かにいたい人も多いので、それはあなたの考え方次第です。ただし、初対面の人にしつこく話しかけるのは止めた方がいいのは一般社会と同じです。

人がいたので挨拶しましたが無視されました。

内気な人、集中しきっていて聞こえないとき、などいろいろありますので、気にする必要はありません。あなたが嫌われたから、というケースはまずないと思います。

人が多くてライトが途切れません。どうしたらいいですか?

どうしようもありませんね。粘り強く待ち続けるか、場所を変えましょう。他人を呪わない方が余計なストレスを抱えなくて済むと思います。

ルールを守らない人がいます。

どう対処するかはそのルールの適用範囲(法律、一般道徳、ローカルルール、あなたの信条など)次第です。くどいですが「星空愛好家のローカルルール(がもしあったとして)」を守らない人の存在は普通にあるもの」です。どう対処するかは自分で判断する必要があるでしょう。

まとめ

いかがでしたか。「ひとりの人が、死んでいるんだ」その事実を受け止め、「愛好家」と「世の中」が共存できるように、効果のあるルールないしはマナーが浸透すること、多くの人が星空の美しさを楽しめることを願っています。


参考)

【連載】天体撮影のトリセツ【第七回】満天の星に出会うためには(3/3)
https://torisetsu.biz/news/2017/1002_w008_tentai7_03.html

「赤ライト」については、前述のQA集のように、若干状況が変わっています。

 

 

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/05/974ffb9fa39b0048d69699be4f8eb2ec.pnghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/05/974ffb9fa39b0048d69699be4f8eb2ec-150x150.png編集部天文コラム一般ニュースでも大きく報道されていますが、大変痛ましい事故が起きました。「棚田」で有名な新潟県の「星峠」で車が道路から田んぼに転落し、運転していた方が死亡されました。 https://youtu.be/CzJaQkKqzLM しかも、星峠の同じ場所での死亡事故はこれが2件目とのことです。なぜこんなことが起きてしまったのでしょうか。 事故の概要 FNN PRIME 去年も転落事故が… 観光名所・星峠の棚田 車転落で1人死亡【十日町市】 https://www.fnn.jp/posts/1622NST/201905051801_NST_NST 報道されている内容以上の憶測は避けますが、以下の通りです。 普通乗用車が15m下の棚田に転落、運転していた方は死亡 現場は「星峠の棚田」と呼ばれる観光名所 去年も車の転落事故が発生している 事故発生時、車はライトを消灯していたとの情報 上記とは別の、別のニュース動画(現在は削除されている模様)では「推測に過ぎない」との前置きで「ライト消灯」の理由が語られていましたが、その内容については筆者も頷かざるをえないところがあります。 人が集まる場所は「荒れてしまう」 近年、デジタルカメラの性能が向上し、星空の写真を撮影するしきいは大きく下がりました。また「インスタ映え」に代表される写真ブーム、絶景ブームもあり、「映える星空」が撮影できるスポットには、多くの愛好家が集中している事情があります。 多くの人が集中すると何が起きるか。さまざまな意味で、荒れます。 場所取り、身勝手な「邪魔物の排除」。私有地にわがもの顔で進入する。ゴミの放置。トイレ以外での用足し。「お山の大将」の我が物顔。 しかし、この手の事象は本題ではありません。ネットを賑わすそんな「炎上」ネタは枚挙にきりがありませんが、星空・風景・鉄道、そして「写真愛好家」に限らず、あらゆる分野で起きうることでもあります。「(法律などの)ルールとしてやってはならないこと」「人として、モラルとしてやってはならないこと」を破る人が一定数存在するのはある意味仕方ありません。 解決すべき問題は、全ての人がルールを守り高いモラルを持ったとしても、それでも「人が集まる場所は荒れる(*)」こと、そしてそれ以前に「ルールの勘違い」をなくすことです。 (*)例えば、多くの登山者が訪れることで道がえぐられ、山の自然環境そのものが破壊されるようなケースです。こうなってしまうと入山を規制する以外の対策はないかもしれません。 「星空撮影ルール」はなぜ生まれるのか 星の光は弱く、暗いものです。街灯りや車のライトばかりでなく、小さな懐中電灯の明かりや、カメラのモニタや動作中ランプですら、星空を見たり撮ったりする際の「邪魔者」になってしまいます。 最高のロケーション、最高の星空。シャッターを開けて撮影開始。よし、会心の作だ!そのとき前の道路にヘッドライトをつけた1台の車が!あぁぁぁ、、台無しだ・・・残念、悲しいですよね。気を取り直して再度撮影開始。今度こそ!でもそのとき、前にいる誰かが懐中電灯をつけてしまった・・また台無しだ・・・ かなり温厚な人でも「イラッ」とくるでしょう。筆者もその側の人間であることは否定しません。また、人間ができた人ほど「自分が逆の立場になりたくない」と思うでしょう。「皆が気持ちよく撮影できるように、ムダなライトはつけないようにしよう」そう思うでしょう。皆がそう思うと、それが「マナー」になり「ルール」になっていきます。そのことは否定しないし、むしろそうあるべきだと思います(*)。そこに「勘違い」がなければ・・・ (*)その結果、「変なルール」「無意味なマナー」が生まれることももちろんあるのですが、そうならないように合意を形成する努力を怠っていいはずはありません。 走行時はライトを消しちゃダメ!「星空撮影ルール」の勘違い 「東京の街灯りが邪魔だから、ちょっと発電所を破壊してくるわ」そんな人はたぶんいません。いるとしたら、それはテロリストです。 でも「車のヘッドライトが邪魔だから、ちょっと消すように言ってくるわ」という人がいます。これは「あり」でしょうか、「なし」でしょうか?そこが自分の土地なら「あり」でしょう。でも、公道で、しかも走行中の車にそれを要求することは、法令違反を強要することです。断じて「なし」です。それはルールの勘違いです。 逆に、「星空撮影の仲間」に配慮して、ヘッドライトを消して車を動かすのも、断じて「なし」です。「法令違反」ですし、それで一人の命が奪われることさえありうるのです。車に乗ってエンジンを掛けた時点で、あなたは法令を守るべきドライバーです。「星空撮影のルール」は忘れるべきで、忖度もすべきではありません。いらぬ忖度・配慮は、大事にしてきたつもりだった自分のフィールドそのものを壊すことにもなるのです。 夜間に車に乗ってエンジンを掛けたら、ライトを点灯する。 すべてはこのことを守った上での話です。星峠の事故がこのことに対する「勘違い」が原因かどうかはわかりませんが、あらためて強調しておきたいと思います。 「フィールドは誰のものか」の勘違い もうひとつ、大きな勘違いを指摘しなくてはなりません。あなたがいる場所は誰のものですか?あなたの土地なら何も言いません。でもそうでないなら・・・その場所は「あなた以外の誰かのもの」であるはずです。ルールやマナーがあったとしても、それはあなたが勝手に決めるものではありません。 筆者は星峠に行ったことはないので詳しくはわかりませんが、そこでどんなに多くの車が通り、多くのライトが星空を照らしたとしても、それは「ごく普通にありうること」です。一晩中灯りが絶えず、撮りたいものが撮れなかったとしても、仕方のないことです。 「(自分以外の)誰かの場所で、撮らせてもらっている」このことを勘違いしてはいけません。 「愛好家ルール」は必要なのか 冒頭とは別の削除されたニュース動画では「愛好家ルールが関係?」との表現がタイトルにあり「トンデモなルールを主張するヲタクどもの勝手なルール(愛好家ルール)で人が死んだ」と一方的に受け止められる可能性があります。でも、今回の件がライト消灯が原因だとするとまさしくその通りで、猛省すべきであることは先に書いたとおりです。 しかし、「愛好家ルール」が存在することが悪である、というわけではないと筆者は考えています。守るべき上位のルールとマナーの範囲内であれば、「愛好家ルール」は必要であり、そのルールの意味や目的を「愛好家のコミュニティ」と「より上位の社会」に対して発信し、理解を得るべきです。 「ルール・マナーの強制」「同調圧力」の問題もあり、ルールやマナーを形成しようとすることそのものが、何かと逆風で煙たがられる側面は大いにありますが、それでも「愛好家ルール」は必要であると筆者は考えています。 いろいろな考え方や指向があり、全員が満足するルールは存在しないし、強制できるものではないとしても、「愛好家全体のコミュニティ」が「世の中」で理解され、より多くの人が楽しく活動できるように何らかの合意を形成すべきだと考えています。 「星空愛好家のルール(マナー)」QA集(草案) というわけで、「星空愛好家ルール(マナー)」について筆者が思うところをQA集としてまとめてみました。ただし、これは「星空愛好家」に呼びかけたいルールであり、それ以外の一般の方は対象として想定していません。(一般の方に対しても当たり前の内容もありますが) ぜひ広くご意見を伺いつつ、合意形成に役立つことを願っています。 5/9追記) 勢いで書いた部分もあり、あらためて考え直してみると、「細かすぎるマニュアル化」はネタとしては成り立っても(用足しなど中途半端にネタ成分を入れたのも失敗でした)本来の趣旨を離れたものになると感じていて、別の形で書きなおすつもりです。その際には本節は削除するかもしれません。 勘違い防止 車のライトはいつ点灯・消灯すべきですか? 夜間で走行中は点灯です。安全に停止したら消灯。発進前には点灯し、安全を確認してから発進です。 駐車場は公道ですか? もちろんです。封鎖された私有地以外は公道です。 ロープやコーンがじゃまだったので、どかして進入しました。 だめです。不法侵入です。 道を歩くとき懐中電灯などを灯していいのですか? もちろんです。車のヘッドライト同様、安全確保のための点灯は必須です。 動物が近寄ってきたのでエサをあげました。 だめです。特に野生の動物にはエサをあげてはだめです。理由はぐぐってください。 車について ハイビームやフォグランプは使っていいのですか? 走行中は交通法規に従ってください。駐車場内でも第三者の存在が確認された時点でロービーム、霧など理由がないかぎりフォグランプは消灯です。 ドアを開けると車内灯が灯ってしまいます。 星空撮影に出かける際は室内灯は「常に消灯」の設定が推奨です(長押しで常時消灯、など)。車によっては消灯不可能なものもありますが、それは仕方ありません。 エンジンをかけっぱなしにしてもいいのですか?その際ライトは付けてもよいのですか? 騒音・排気ガスの問題があるため、エンジンは必要な場合以外は、すみやかに停止するのがよいと思います。星空撮影が目的なら、ライトも安全を確認次第すみやかに消灯しましょう。 北海道在住です。エンジンを切ると凍死するのでいつも掛けっぱなしですが、構わないでしょうか? 身の安全は何よりも優先です。道民にとっては常識らしい(*)ので、むしろ内地の人間は「エンジンを切ると命の危険がある状況があり得る」ことを忘れないようにしましょう。 (*)極寒地ではエンジンを切って冷え切ってしまうと二度とエンジンがかからなくなり、遭難する危険がある。 車中泊するときの注意を教えてください。 まずその場所が車中泊禁止の場所でないことを確認し、定められたルールに従いましょう。可能な場所であれば、あとは一般・星空愛好家に迷惑がかからないことを基準に判断・行動してください。 「灯り」について ライトは赤色がいいのですか? 昔は赤色が目を刺激しないという理由で推奨されていましたが、最近のLED赤ライトは肉眼では感じない波長の光の比率が高く、写真撮影にはむしろ弊害になるケースが指摘されています。(肉眼では暗いのに写真では明るい)。 最近の研究では、人間の視覚の特性からみて、星空のような暗い場所で暗順応(暗いものがより良く見えるように数分〜10分程度で目が「モードチェンジ」すること)と、細かなものを見る能力のバランスが取れるのは、赤色光ではなく「電球色」であるとの説が有力になってきました。「赤色がよい」は「過去の勘違い」になる可能性があります。個人的意見としても「電球色」の灯りが推奨です。特に、移動する際の安全確認のためには、赤色は不向きです。白色ないしは電球色が推奨です。 ライトを付けたら怒鳴られました。 見知らぬ人を怒鳴りつける人はいろいろ残念ですが、第三者が「邪魔かも?」と感じるようなケースでの点灯の場合、「灯り付けてもいいですかー?」と確認するのが吉です。 ライトはいつ灯していいのでしょうか? 特に理由も目的もなくライトを灯すことは、周辺に敵を増やすことになります。逆に理由と目的があれば、灯してください。必要最小限の明るさにとどめること、周囲に一声掛ければなおよしです。 移動の際のライトは頭につける(ヘッドライト)べきですか?(5/8追加) ケースバイケースです。ヘッドライトは両手が使えるのがメリットです。急な坂道や安全確保のために両手が必要な場合はヘッドライトが推奨です。逆に平坦な道の場合、頭に付けるよりも手で持って足元を照らした方がよい場合もあります。(ヘッドライトでは足元を照らしにくい) スマホを使ってもいいのですか? 星空撮影が目的なら、ひまつぶしでスマホを見るのは他人に迷惑がかからない状況に限るのが吉です。また、スマホ画面は一番暗い設定にし、「ナイトシフト」に設定するなど「ブルーライト成分」が少なくなるようにしましょう。 カメラの動作ランプがじゃまだと言われました。 デジタルカメラは暗闇では、けっこう明るい(主に赤色の)ランプが灯る場合があります。「AF補助光」や「セルフタイマーの動作確認ランプ」は特に邪魔になります。星空撮影では不要なケースが大半なので、OFFになるように事前に設定しておきましょう。 露出中やメモリカード書き込み中のランプもそれに準じます。こちらは消灯できない場合もあるため、黒いテープで目張りするのが吉です。 カメラのモニターの光がじゃまだと言われました。 ミラーレスカメラのモニターは頭の痛い存在です。これを完全消灯すると何もできない場合もあります。まず、一番暗くなる設定にしておきましょう。また、バリアングルの場合は可能な範囲で下向き(裏向き)にするのも一手です。電子ファインダーがついている場合は、そちらのみをONにすれば光の漏れは最小になります(が使いにくい)。決定版はありません。なるべく迷惑にならないように工夫してみてください。 暗闇でもカメラを操作できるようにならないとだめですか? 「暗闇でも手探りで全部操作できるようになってからフィールドに来やがれ」という意見もあります。このレベルを一般に強制するのはなかなか難しいと思いますが、暗闇でも操作できるまで練習するのは、すばやくカメラを操作ができるようになり、自分のためにもなります。少なくとも、てきぱき操作できるようになるのは良いことばかりです。 自販機の光がじゃまです。 残念ですが、自販機の存在はあるものとして受け入れてください。まちがっても、ぶっ壊したりしてはいけません。 公衆トイレの光がじゃまです。 こちらもあるものとして受け入れましょう。ただし、自動感応型・手動点灯型の場合もあります。そんな場合に「ライトが付くからトイレに行くな!」と強制するのは論外ですが、工夫の余地はあります。 いつまでもヘッドライトを灯したままの車がいて困っています。 お願いしたら消してもらえるかもしれませんが、どうなるかは自己責任です。相手が変な人で無用のトラブルに巻き込まれる危険もあります。そっとしておいて心の中で「このクソ野郎!」と念力をかけるくらいが穏当な対応と思われます。 投光器を持ち込んでライトアップしている人がいます。 暗い状態で撮影したい人には迷惑極まりない話ですが、それを意に介さない方を説得するのは極めて困難でしょう。別の場所に移動するか、立ち去るまで待つか、あなたの「人間力」で勝負に出るか、それはあなたがお決めになることです。 空に向かってライトをレーザー風に灯してインスタ映えさせたいです。 周囲に多くの人がいる場合、その多くを敵に回すことになります。でも、あなたの行為を否定したり、やめさせる権限も誰にもありません。個人的には、今一番グレーで来年の評価がどうなるかわからない課題と思いますが、反感を持って強く否定する人も多くいます。 灯りで文字を書いて記念写真を撮ってもいいですか? 観光ガイド的星見ツアーでは記念品的によく撮影される手法ですね。空にライトを照らすことよりはずっと「反感」を持たれることは少ないと思いますし、個人的にはそういう楽しみ方を奪う方向に圧力をかけるのはいかがなものかと思っています。お願いですが、その場に「暗い環境で星を撮りたい系の人たち」がいる場合は、一声かけていただけるとより和むと思います。 誰もいない場所ならライトを好きなだけ灯してもいいのですか? 誰もいない場所なら誰も止める人はいません。ご自分で判断してください。「隣の山からでも人工光は邪魔」という意見もありますが、個人的にはそこまで気にするのはすこし窮屈に感じます。 周辺環境に対する配慮 仲間と盛り上がってつい大きな声を出してしまいます。 気持ちはよく分かりますし、たぶん自分もやっているかもしれません。同業に「うるさい!」と言われたら「すみません」を謝って静かにしましょう。でも住民の方に「うるさい!」と言われたとしたら、それはたぶんあなたに問題がありますし、その場所が以前のような場所でなくなるかもしれない爆弾をあなたは残したことになります。 くれぐれも夜はお静かに。 トイレが我慢できません。そのへんで用足ししてもいいのですか? だめです。パンツに出すか、コンビニ袋に出して持ち帰るかを選んでください。事前に深い穴を掘ってきちんと埋めるなら許してくれる人もいるかもしれませんが、場所によります。 とにかくトイレはトイレで済ましてから現場入りしましょう。それでも・・・(以下自粛)。 5/9追記)複数の方からご指摘をいただきました。「携帯トイレ」を常備しておけば、悲惨な状況におちいることを防止できます。 カップラーメンのスープが飲みきれません。そのへんに捨ててもいいですか? だめです。残りカスまで全部飲んでください。1時間待てば大抵飲みきれます。 タバコは吸ってもいいのですか? 筆者も喫煙者なのですが、以下のルールを自分に課している「つもり」です。これは明日にでも(より厳しい方向に)変わるかもしれません。 「禁煙」の場所では吸わない 第三者がいるときは「吸っていいですか」と声を掛ける 吸い殻は持ち帰り 風の強い日は灰を落とさない、もみ消さない(火種を飛ばさない) すでにダメ出しを受けるレベルかもしれませんが。 第三者に対する配慮 現場で人と出会ったときに、挨拶はすべきですか? にっこり笑って(たとえ顔が見えなくても)挨拶することは、ほとんどマイナスになることはありません。でも、一人静かにいたい人も多いので、それはあなたの考え方次第です。ただし、初対面の人にしつこく話しかけるのは止めた方がいいのは一般社会と同じです。 人がいたので挨拶しましたが無視されました。 内気な人、集中しきっていて聞こえないとき、などいろいろありますので、気にする必要はありません。あなたが嫌われたから、というケースはまずないと思います。 人が多くてライトが途切れません。どうしたらいいですか? どうしようもありませんね。粘り強く待ち続けるか、場所を変えましょう。他人を呪わない方が余計なストレスを抱えなくて済むと思います。 ルールを守らない人がいます。 どう対処するかはそのルールの適用範囲(法律、一般道徳、ローカルルール、あなたの信条など)次第です。くどいですが「星空愛好家のローカルルール(がもしあったとして)」を守らない人の存在は普通にあるもの」です。どう対処するかは自分で判断する必要があるでしょう。 まとめ いかがでしたか。「ひとりの人が、死んでいるんだ」その事実を受け止め、「愛好家」と「世の中」が共存できるように、効果のあるルールないしはマナーが浸透すること、多くの人が星空の美しさを楽しめることを願っています。 参考) 【連載】天体撮影のトリセツ【第七回】満天の星に出会うためには(3/3) https://torisetsu.biz/news/2017/1002_w008_tentai7_03.html 「赤ライト」については、前述のQA集のように、若干状況が変わっています。      編集部発信のオリジナルコンテンツ