編集長、天リフを語る
年末年始スペシャル企画、天リフ編集部が編集長山口千宗氏に迫るロングインタビュー第3回!
いわゆる「キュレーションサイト」として始まった「天文リフレクションズ」。編集長の立場でコンテンツとしての天リフを語ります。

 

「2017年最大の投資でした」と語る編集長山口氏のMacBookPro、2015midモデル。

2017年3月、天リフ黎明期

ー前回は「なぜ天リフを始めたか」について熱く語っていただきました。実際始めてみていかがでしたか?

山口サイトを一般向けに公開したのは2017年の2/28でした。この記事が最初の編集部ブログのエントリーです。

試験運用を開始しました。

自分でも天文関連の情報収集はRSSリーダーから天リフに移行していましたので、ある程度受け入れられるのではないかと予測していました。

ー当初はどのくらいのアクセスがあったのでしょうか?

山口3月度のページビュー遷移です。
7日目に600pvくらいを記録し「おっ!これならすぐに3000行くかな?」と思ったのですが甘かったw
このピークは自分のFacebook友達への告知による初回アクセス分だけで、以降は低迷が続きました・・・

ーメゲませんでしたか?

山口どこのWebサイトも「当初三ヵ月は鳴かず飛ばず」という話もきいていたので予測の範囲だったのですが、数字が大きく下がるのを見るとやっぱり心がざわつきます。Webサイトは水商売。上がることもあれば下がることもある、と思い知りました。

すぐにやってきた「全自動」の限界

ー開始当初はどんな編集方針だったのでしょうか?

山口まず「自動収集した記事を再配信する」というモデルがどの程度ユーザにとって有効なのかを検証したいと考えていました。天リフでは「編集部ブログ」と「ピックアップ」以外は、基本的に記事を自動で収集し配信するだけなので人手はほとんどかかっていません。この範囲で十分なアクセスを獲得できればこれほど楽な話はありません^^;

ーで、甘かったとw

山口いえ、想定の範囲内ですw

これは5月末までの三ヶ月間のpv推移です。増減はありますが、4月中旬ですでに頭打ち感がでてきました。やはり自動収集・配信だけでは、それなりに使ってもらえたとしても「飛ばない」のです。これまで天リフを見たことがない人に使ってもらうためには、これまで天リフを見たことがない人たちにメッセージを飛ばさなくてはなりません。自動収集・配信の記事は飛ばない。それが明確になりました。

ーどのような対策をされたのでしょうか?

山口オリジナル記事を増やしました。5月のGW後は、一日3記事を目標に記事を書きました。

ー効果はありましたか?

山口:アクセス増のためには記事数は正義です。粗製濫造はいけませんが、書かないよりはマシです。その中からはヒットも出てきます。5月中旬のピークは例のSONYの星喰い問題によるものです。変な言い方ですが、天リフのアクセス数のアップに星喰いはほんとに貢献しています。たまたま自分がα7Sユーザーで、以前からこの問題を追いかけていたのがラッキーでした。

天文ファンの「外に飛ばす」には?

ーよっちゃんさんのトークに出るようになったのもその頃ですね。

山口はい、トーク出演も天リフのアクセス増加に大きく貢献しています。特に「潜在天文ファン」にリーチできたことが大きいです。
サービス開始当初は、デジ天などの天文系のFacebookグループでの告知がかなり効果的でした。でもこの方法だと「既存の天文マニア」にしかメッセージが届きません。既存の天文メディアの限界を超えるべく立ち上げた天リフだったのですが、それは逆に自分自身を宣伝するための適当なメディアが世の中にはないということでもあったのです。

ー今は「外に飛ばす」ことはできているのですか?

山口いえ・・つい最近もよっちゃんさんにいじめられるくらいですから・・
ちなみに「飛ばす」というワードはこのトークが由来です。

メディアがリーチを広げていくには、自分よりもリーチが広いメディアに乗っかるのが「手っ取り早い」方法です。でも、受け身で乗っかるだけではその効果はそんなに長くは続きません。

自分自身で「飛ばす」努力を続けるしかありませんね。今のところ「継続」くらいしか 具体的な方法はないのですが・・

編集長、変態を語る

ー当初の天リフは「遠くに飛ばす」よりもむしろ「変態」コンセプトで内向きに向かう印象が強かったように思います。

山口はい。何しろゼロからの出発だったので、自分の一番近くにあって一番よく理解している「コアな天文ファン」を掴むことがまず最優先事項でした。

http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/category/連載/変態とは最上級の褒め言葉

山口そのコンセプトに100%沿ったのがこの連載企画でした。
世の中には様々なマニアな趣味がありますが、天文趣味の変態性は出色です。これは天文界が絶対に失ってはならないものだと強く信じています。

連載「変態とは最上級の褒め言葉」より

なのに、天文雑誌では「変態性」についてはあまり取り上げられません。一般人が引いてしまうのでしかたないですが、こういう形でメインに押し出すことができるのもネットメディアの強みではないかと思っています。いきなりゲリラ戦というわけです。

ー連載が第四回で止まっていますが、続編はあるのですか?

山口もちろんです。天リフ自体はよりライト層に広げていきたいと考えていますが、コアなマニアに対する向き合い方を変えるつもりは全くありません。ただ一人メディアの限界でなかなか記事を書けなくて・・・記事の生産性については実は重大な経営課題なので、次回以降でまた触れたいと思います。

「今日の一枚」のねらいと編集方針

ー当初から今まで続いている唯一の企画が「今日の一枚」ですね。これについて語ってください。

山口「唯一」は余計です・・
当初の最大の狙いは読者獲得でした。自分の写真が無名のメディアであれクレジット入りで掲載される。撮影者様に喜んでいただければ、読者1名獲得です。また、SNS上で喜びの声をシェアしてもらえれば、お友達ネットワークにもリーチします。

編集部ピックアップ「今日の一枚」

ーずいぶんと計算高いんですね・・

山口まあやれることは何でもやらないといけませんから・・
予想外だったのがピックアップに掲載されることで「家族の天文に対する理解、リスペクトが上がった」という声でした。「お父さん、なんか変なことごそごそやってたけど、こういうことだったのね。凄ーい!」というわけです。

ーなるほど。家庭内の平和にも貢献していると(笑)

もう一つは、編集者としての自分の勉強のためです。よい作品をネットから見つける。それに対して「何が良いのか」「何が読み取れるのか」「作品の実用的な役立て方」のメッセージを読者に届ける。「今日の一枚」の運用は実はけっこう手間がかかっているのですが、ものすごく勉強になっています。

ーほかにも「ねらい」はあるのですか?

山口1年運営すれば300作品ほどになるわけですが、これをいずれアーカイブ化しようと思っています。「今日の一枚ギャラリー」みたいなものですね。ただ作品アーカイブにGoogle画像検索以上の価値を持たせるには何か足りない気がしていて、それが見えてからですね。

「その人だけの何か」を伝えられるか

ー「今日の一枚」はどのような基準で選定されているのでしょうか?

山口作品を並べて順位を付けるフォトコンではないので、写真作品として優れていることは勿論ですが、それ以外のものを重視しています。「写真として優れている」というのは結局は主観ですし、飛び抜けた人の作品ばかりになっても読者数は増えません^^;;

ー「凄い作品を量産されている」方はたくさんいらっしゃいますものね。

山口はい。そういう作品は別にメディアが何かしなくても、自然とネットで拡散して読者に届いていきますから。APODImage of the Dayのような権威を主張できるメディアでもないですし。
敢えて言えば「その作品がネットに投下された理由」を読者に伝えることができるか、その理由に読者が共感できるか、でしょうか。

ー「理由」とは具体的に何なんでしょうか?

山口天体写真を始める人は、皆自発的に何かを「撮りたい」と思って始めるわけです。そこにあるものを自分なりの視点で表現したい。その動機は最も尊いものです。

撮影を続けるにつれて、その人なりのテーマと表現方法がより具体的に作られていきます。分子雲のあぶり出し、星の色の究極の表現。自分の住む場所への愛情。大好きな星と風景、などなど。そういったテーマに取り組む中、一つの「自己新」が生まれる。そんな作品をピックアップさせていただければ最高です。

「キュレーション」に価値はあるのか

ー最近はあまり「キュレーションメディア」という言葉を聞かなくなりましたが、天リフはいわゆる「まとめ」的な「キュレーションメディア」にカテゴライズされると思います。ずばり、「キュレーションメディア」に価値はあるのでしょうか。

山口直球ですね。では直球でお答えします。キュレーションメディアに価値がないはずがありません。メディアに価値があるかどうかはコンテンツが「自家製」なのかどうかとは本来関係ないと考えています。

ーでも世間の認識はそうではない気がしますが。

山口キュレーションという言葉が下火になったのは、グレーゾーンを業界ごとスクラムで越えるような事件のせいだと思いますが、個人的にはあれはネット資本主義の不幸な誤作動だと思っています。

読売新聞広告局ポータルサイト・ネット上の情報の「まとめ」というキュレーション・メディアの役割
http://adv.yomiuri.co.jp/ojo_archive/tokusyu/20121005/201210toku4.html

あの事件はネット的キュレーションに潜むマイナスの可能性を一式あぶり出してくれましたが、プラスの可能性は何も示してくれませんでした。信頼できる情報だけが生き残る、という本質以外には。

ー「Curation」とは元々は美術館や博物館の展示企画の意味です。

山口はい。その意味では「今日の一枚」は古典的なキューレーションを意識しています。天リフ博物館の日替わり企画です。これにどういう意味がありうるかはお話しした通りです。

ーしかし、ネット的な「Curation」には「他人の褌で相撲を取る」的な悪いニュアンスがどうしてもつきまといます。

山口よく「一次メディア=情報の最初の発信元としてのメディア」とそうでない「二次(以降)」のメディアが対置して評されますね。勿論、一次のほうが上位、というニュアンスでです。
クリエーター視点でいえばそれは当然です。創作者はリスペクトされなくてはなりません。でも「編集者視点」で見ると、一次情報なのか二次情報なのかは権利とコスト、効率の問題であって、読者が求めている・読者に提供すべきものは何なのかとは無関係です。読者目線で言えば一次メディアも二次メディアも関係ない、そう考えています。情報を整理し読者に発信することは、紙だろうとネットだろうと関係ない、メディアの本来の役割であるはずです。

ーではなぜネットの時代になって「キュレーション」というコンセプトが「上がって」きたのでしょうか。

山口ネットの公開情報は誰にでも簡単にリンクやコピーができてしまいますから。それに尽きます。ネット以前はメディアには一次情報しかありませんでした。この一次情報を旧メディアは結果的に検索エンジンに無料で渡してしまった。そうして生まれたのがやりたい放題の世界です。そこで「キュレーションメディア」が暴走し破綻した。イマココ、です。もう一度「メディアの本来の役割」に立ち返って考えるべき時だと思います。大事なことなのでもう一度言いますが、信頼できる情報だけが生き残る、ということです。

メディアは「信頼」を提供できるのか

ー「信頼」できる情報ですか。でも、ネットは玉石混交と昔から言われています。SNSもブログも結局は「個人」による情報発信です。そういう情報を集めるだけで信頼を担保できるのでしょうか?

山口前回、私が天文界に復帰した際にほとんどをネットで学んだというお話しをしました。その際にある製品をブログの記事で知って購入したのですが、かなり後になってある部分では同等以上のものが無料で存在したことを知ってがっくりきたことがあります。
また、自分がブログで推した製品にある問題があって間接的に問題を大きくしてしまったと感じたこともありました。
この2つの例を回避できるような「信頼できる別の情報源」ははたして存在しうるのか。少なくとも現状ではどこにも存在しなかった。それは断言できます。

ー信頼できるメディアはどこにもない、ということなのでしょうか。

山口いえ。そもそも「信頼できるメディア」って何だったんだろう?ということです。

ガベージニュース・若年層の諸メディアへの信頼度をグラフ化してみる
http://www.garbagenews.net/archives/1104107.html
2008年・BPO調べ

かつて「メディアの情報は常に正しい」という幻想が世の中を満たしていた時代がありました。この幻想を信じている人は今では少数派でしょう。でも多くの人はやはり「有象無象の個人よりも大手メディアの方がまだ信頼できる」と考えているのではないでしょうか。

ーはい、私も一般論としてはそうだという気がします。

山口嘘だけで固めたもっとらしい詐欺サイトや、思い込みだけで間違った情報を声高に発信しているようなサイトは、大手メディアの方がより少ないでしょう。
でも、こういった「明確な悪意」や「極端な未熟さ」というものは「信頼」以前のものではないでしょうか。

伝える意志をもって情報を発信すること

ーでは「信頼」とは何なんでしょうか?

山口その前に一つだけ話をさせてください。天リフで数多くの個人ブログを拝見させていただいた中で、個人ブログといわゆるプロの「メディア」で決定的に違うと感じた点があります。
それは「情報を伝えようとする意志」の強さです。自分が言いたいことを読み手にどのくらい伝えたいと思っているか。読み手に伝えるための工夫や手間をどのくらいかけているか。

ープロのメディアとしては当然のことですよね。

山口はい。伝わってなんぼですから。個人のブログの場合は自分用の備忘録や日記の位置づけもありますから、良い悪いの話ではありません。ただ、個人であっても、プロのメディア並み・またはそれ以上の「伝える意志」を持った方がいらっしゃいます。そういった方々が発信される情報は、もはや「ネットは玉石混交」というステレオタイプに埋もれさせるべきではありません。逆に、伝えようとする意志、伝えたい内容があまり感じられない自己満足の情報発信は、大手メディアでも昔から存在したとは思いませんか?

ーあ、そうですね。(・・・自主規制・・・)
で、「信頼」の話です。

信頼されるメディアたるための4箇条

山口この機会に「信頼されるメディアたるための4箇条」を作りました。

  1. 伝える意志をもって情報を発信せよ
  2. 読者の求める情報を発信せよ
  3. 読者に気づきをもたらす情報を発信せよ
  4. 誤りはすぐに正せ

ーなんか普通ですね。これをやるだけでメディアは信頼されるんでしょうか?「正しい情報」はいらないのですか?

山口これは必要条件ですが、これだけでは十分ではないでしょう。これを愚直にやりますよ、という天リフの宣言だとご理解ください。「何が正しいのか」は最終的に読者が判断することですから。

ー既存のメディアはこの条件を満たしていないのでしょうか?

山口1.はプロですから当然高いレベルで満たしています。問題は4.です。紙メディアはそもそも誤りをすぐ正すことが物理的に不可能です。なので、「誤りを出さない」方向に向かわざるを得ません。結果、責任を持ちきれない「二次情報」はハナから見向きもしなくなります。

ー「ソースは2ch」とは死んでも書けないプライドもあるのでしょうね。

山口さあ、それはどうでしょう?
さらに情報過多の時代ですから、読者の求める情報のレベルは質も量も飛躍的に上がっています。自前の一次情報だけでは「読者の求める」レベルを満たすことは不可能です。「気づき」においてはなおさらです。

ーなるほど。情報の主戦場がネットになった現在では、ネットベースでないとスピードと量についていけないし、二次情報も含めた読者のための情報発信をメディアは積極的にやるべきだ、ということですね。

山口はい、まとめていただいてありがとうございます。

ー最後は妄想というかずいぶん大それたお話になりましたね。読者としては大それた話は別になくてもいいので、面白い有益な情報発信を望んでいると思います。「宣言」を実現できるようがんばってください。

次回は堅い話は置いて、山口さんと天文のこれまでのかかわりについてお聞かせ下さい。ありがとうございました。

山口こちらこそありがとうございました。

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/12/IMG_5003_m2-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/12/IMG_5003_m2-150x150.jpg編集部編集長ロングインタビュー  編集長、天リフを語る 年末年始スペシャル企画、天リフ編集部が編集長山口千宗氏に迫るロングインタビュー第3回! いわゆる「キュレーションサイト」として始まった「天文リフレクションズ」。編集長の立場でコンテンツとしての天リフを語ります。   2017年3月、天リフ黎明期 ー前回は「なぜ天リフを始めたか」について熱く語っていただきました。実際始めてみていかがでしたか? 山口:サイトを一般向けに公開したのは2017年の2/28でした。この記事が最初の編集部ブログのエントリーです。 http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/27 自分でも天文関連の情報収集はRSSリーダーから天リフに移行していましたので、ある程度受け入れられるのではないかと予測していました。 ー当初はどのくらいのアクセスがあったのでしょうか? 山口:3月度のページビュー遷移です。 7日目に600pvくらいを記録し「おっ!これならすぐに3000行くかな?」と思ったのですが甘かったw このピークは自分のFacebook友達への告知による初回アクセス分だけで、以降は低迷が続きました・・・ ーメゲませんでしたか? 山口:どこのWebサイトも「当初三ヵ月は鳴かず飛ばず」という話もきいていたので予測の範囲だったのですが、数字が大きく下がるのを見るとやっぱり心がざわつきます。Webサイトは水商売。上がることもあれば下がることもある、と思い知りました。 すぐにやってきた「全自動」の限界 ー開始当初はどんな編集方針だったのでしょうか? 山口:まず「自動収集した記事を再配信する」というモデルがどの程度ユーザにとって有効なのかを検証したいと考えていました。天リフでは「編集部ブログ」と「ピックアップ」以外は、基本的に記事を自動で収集し配信するだけなので人手はほとんどかかっていません。この範囲で十分なアクセスを獲得できればこれほど楽な話はありません^^; ーで、甘かったとw 山口:いえ、想定の範囲内ですw これは5月末までの三ヶ月間のpv推移です。増減はありますが、4月中旬ですでに頭打ち感がでてきました。やはり自動収集・配信だけでは、それなりに使ってもらえたとしても「飛ばない」のです。これまで天リフを見たことがない人に使ってもらうためには、これまで天リフを見たことがない人たちにメッセージを飛ばさなくてはなりません。自動収集・配信の記事は飛ばない。それが明確になりました。 ーどのような対策をされたのでしょうか? 山口:オリジナル記事を増やしました。5月のGW後は、一日3記事を目標に記事を書きました。 ー効果はありましたか? 山口:アクセス増のためには記事数は正義です。粗製濫造はいけませんが、書かないよりはマシです。その中からはヒットも出てきます。5月中旬のピークは例のSONYの星喰い問題によるものです。変な言い方ですが、天リフのアクセス数のアップに星喰いはほんとに貢献しています。たまたま自分がα7Sユーザーで、以前からこの問題を追いかけていたのがラッキーでした。 天文ファンの「外に飛ばす」には? ーよっちゃんさんのトークに出るようになったのもその頃ですね。 山口:はい、トーク出演も天リフのアクセス増加に大きく貢献しています。特に「潜在天文ファン」にリーチできたことが大きいです。 サービス開始当初は、デジ天などの天文系のFacebookグループでの告知がかなり効果的でした。でもこの方法だと「既存の天文マニア」にしかメッセージが届きません。既存の天文メディアの限界を超えるべく立ち上げた天リフだったのですが、それは逆に自分自身を宣伝するための適当なメディアが世の中にはないということでもあったのです。 ー今は「外に飛ばす」ことはできているのですか? 山口:いえ・・つい最近もよっちゃんさんにいじめられるくらいですから・・ ちなみに「飛ばす」というワードはこのトークが由来です。 https://youtu.be/2zDJkHOKMz8 メディアがリーチを広げていくには、自分よりもリーチが広いメディアに乗っかるのが「手っ取り早い」方法です。でも、受け身で乗っかるだけではその効果はそんなに長くは続きません。 自分自身で「飛ばす」努力を続けるしかありませんね。今のところ「継続」くらいしか 具体的な方法はないのですが・・ 編集長、変態を語る ー当初の天リフは「遠くに飛ばす」よりもむしろ「変態」コンセプトで内向きに向かう印象が強かったように思います。 山口:はい。何しろゼロからの出発だったので、自分の一番近くにあって一番よく理解している「コアな天文ファン」を掴むことがまず最優先事項でした。 http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/category/連載/変態とは最上級の褒め言葉 山口:そのコンセプトに100%沿ったのがこの連載企画でした。 世の中には様々なマニアな趣味がありますが、天文趣味の変態性は出色です。これは天文界が絶対に失ってはならないものだと強く信じています。 なのに、天文雑誌では「変態性」についてはあまり取り上げられません。一般人が引いてしまうのでしかたないですが、こういう形でメインに押し出すことができるのもネットメディアの強みではないかと思っています。いきなりゲリラ戦というわけです。 ー連載が第四回で止まっていますが、続編はあるのですか? 山口:もちろんです。天リフ自体はよりライト層に広げていきたいと考えていますが、コアなマニアに対する向き合い方を変えるつもりは全くありません。ただ一人メディアの限界でなかなか記事を書けなくて・・・記事の生産性については実は重大な経営課題なので、次回以降でまた触れたいと思います。 「今日の一枚」のねらいと編集方針 ー当初から今まで続いている唯一の企画が「今日の一枚」ですね。これについて語ってください。 山口:「唯一」は余計です・・ 当初の最大の狙いは読者獲得でした。自分の写真が無名のメディアであれクレジット入りで掲載される。撮影者様に喜んでいただければ、読者1名獲得です。また、SNS上で喜びの声をシェアしてもらえれば、お友達ネットワークにもリーチします。 ーずいぶんと計算高いんですね・・ 山口:まあやれることは何でもやらないといけませんから・・ 予想外だったのがピックアップに掲載されることで「家族の天文に対する理解、リスペクトが上がった」という声でした。「お父さん、なんか変なことごそごそやってたけど、こういうことだったのね。凄ーい!」というわけです。 ーなるほど。家庭内の平和にも貢献していると(笑) もう一つは、編集者としての自分の勉強のためです。よい作品をネットから見つける。それに対して「何が良いのか」「何が読み取れるのか」「作品の実用的な役立て方」のメッセージを読者に届ける。「今日の一枚」の運用は実はけっこう手間がかかっているのですが、ものすごく勉強になっています。 ーほかにも「ねらい」はあるのですか? 山口:1年運営すれば300作品ほどになるわけですが、これをいずれアーカイブ化しようと思っています。「今日の一枚ギャラリー」みたいなものですね。ただ作品アーカイブにGoogle画像検索以上の価値を持たせるには何か足りない気がしていて、それが見えてからですね。 「その人だけの何か」を伝えられるか ー「今日の一枚」はどのような基準で選定されているのでしょうか? 山口:作品を並べて順位を付けるフォトコンではないので、写真作品として優れていることは勿論ですが、それ以外のものを重視しています。「写真として優れている」というのは結局は主観ですし、飛び抜けた人の作品ばかりになっても読者数は増えません^^;; ー「凄い作品を量産されている」方はたくさんいらっしゃいますものね。 山口:はい。そういう作品は別にメディアが何かしなくても、自然とネットで拡散して読者に届いていきますから。APODやImage of the Dayのような権威を主張できるメディアでもないですし。 敢えて言えば「その作品がネットに投下された理由」を読者に伝えることができるか、その理由に読者が共感できるか、でしょうか。 ー「理由」とは具体的に何なんでしょうか? 山口:天体写真を始める人は、皆自発的に何かを「撮りたい」と思って始めるわけです。そこにあるものを自分なりの視点で表現したい。その動機は最も尊いものです。 撮影を続けるにつれて、その人なりのテーマと表現方法がより具体的に作られていきます。分子雲のあぶり出し、星の色の究極の表現。自分の住む場所への愛情。大好きな星と風景、などなど。そういったテーマに取り組む中、一つの「自己新」が生まれる。そんな作品をピックアップさせていただければ最高です。 「キュレーション」に価値はあるのか ー最近はあまり「キュレーションメディア」という言葉を聞かなくなりましたが、天リフはいわゆる「まとめ」的な「キュレーションメディア」にカテゴライズされると思います。ずばり、「キュレーションメディア」に価値はあるのでしょうか。 山口:直球ですね。では直球でお答えします。キュレーションメディアに価値がないはずがありません。メディアに価値があるかどうかはコンテンツが「自家製」なのかどうかとは本来関係ないと考えています。 ーでも世間の認識はそうではない気がしますが。 山口:キュレーションという言葉が下火になったのは、グレーゾーンを業界ごとスクラムで越えるような事件のせいだと思いますが、個人的にはあれはネット資本主義の不幸な誤作動だと思っています。 読売新聞広告局ポータルサイト・ネット上の情報の「まとめ」というキュレーション・メディアの役割 http://adv.yomiuri.co.jp/ojo_archive/tokusyu/20121005/201210toku4.html あの事件はネット的キュレーションに潜むマイナスの可能性を一式あぶり出してくれましたが、プラスの可能性は何も示してくれませんでした。信頼できる情報だけが生き残る、という本質以外には。 ー「Curation」とは元々は美術館や博物館の展示企画の意味です。 山口:はい。その意味では「今日の一枚」は古典的なキューレーションを意識しています。天リフ博物館の日替わり企画です。これにどういう意味がありうるかはお話しした通りです。 ーしかし、ネット的な「Curation」には「他人の褌で相撲を取る」的な悪いニュアンスがどうしてもつきまといます。 山口:よく「一次メディア=情報の最初の発信元としてのメディア」とそうでない「二次(以降)」のメディアが対置して評されますね。勿論、一次のほうが上位、というニュアンスでです。 クリエーター視点でいえばそれは当然です。創作者はリスペクトされなくてはなりません。でも「編集者視点」で見ると、一次情報なのか二次情報なのかは権利とコスト、効率の問題であって、読者が求めている・読者に提供すべきものは何なのかとは無関係です。読者目線で言えば一次メディアも二次メディアも関係ない、そう考えています。情報を整理し読者に発信することは、紙だろうとネットだろうと関係ない、メディアの本来の役割であるはずです。 ーではなぜネットの時代になって「キュレーション」というコンセプトが「上がって」きたのでしょうか。 山口:ネットの公開情報は誰にでも簡単にリンクやコピーができてしまいますから。それに尽きます。ネット以前はメディアには一次情報しかありませんでした。この一次情報を旧メディアは結果的に検索エンジンに無料で渡してしまった。そうして生まれたのがやりたい放題の世界です。そこで「キュレーションメディア」が暴走し破綻した。イマココ、です。もう一度「メディアの本来の役割」に立ち返って考えるべき時だと思います。大事なことなのでもう一度言いますが、信頼できる情報だけが生き残る、ということです。 メディアは「信頼」を提供できるのか ー「信頼」できる情報ですか。でも、ネットは玉石混交と昔から言われています。SNSもブログも結局は「個人」による情報発信です。そういう情報を集めるだけで信頼を担保できるのでしょうか? 山口:前回、私が天文界に復帰した際にほとんどをネットで学んだというお話しをしました。その際にある製品をブログの記事で知って購入したのですが、かなり後になってある部分では同等以上のものが無料で存在したことを知ってがっくりきたことがあります。 また、自分がブログで推した製品にある問題があって間接的に問題を大きくしてしまったと感じたこともありました。 この2つの例を回避できるような「信頼できる別の情報源」ははたして存在しうるのか。少なくとも現状ではどこにも存在しなかった。それは断言できます。 ー信頼できるメディアはどこにもない、ということなのでしょうか。 山口:いえ。そもそも「信頼できるメディア」って何だったんだろう?ということです。 ガベージニュース・若年層の諸メディアへの信頼度をグラフ化してみる http://www.garbagenews.net/archives/1104107.html かつて「メディアの情報は常に正しい」という幻想が世の中を満たしていた時代がありました。この幻想を信じている人は今では少数派でしょう。でも多くの人はやはり「有象無象の個人よりも大手メディアの方がまだ信頼できる」と考えているのではないでしょうか。 ーはい、私も一般論としてはそうだという気がします。 山口:嘘だけで固めたもっとらしい詐欺サイトや、思い込みだけで間違った情報を声高に発信しているようなサイトは、大手メディアの方がより少ないでしょう。 でも、こういった「明確な悪意」や「極端な未熟さ」というものは「信頼」以前のものではないでしょうか。 伝える意志をもって情報を発信すること ーでは「信頼」とは何なんでしょうか? 山口:その前に一つだけ話をさせてください。天リフで数多くの個人ブログを拝見させていただいた中で、個人ブログといわゆるプロの「メディア」で決定的に違うと感じた点があります。 それは「情報を伝えようとする意志」の強さです。自分が言いたいことを読み手にどのくらい伝えたいと思っているか。読み手に伝えるための工夫や手間をどのくらいかけているか。 ープロのメディアとしては当然のことですよね。 山口:はい。伝わってなんぼですから。個人のブログの場合は自分用の備忘録や日記の位置づけもありますから、良い悪いの話ではありません。ただ、個人であっても、プロのメディア並み・またはそれ以上の「伝える意志」を持った方がいらっしゃいます。そういった方々が発信される情報は、もはや「ネットは玉石混交」というステレオタイプに埋もれさせるべきではありません。逆に、伝えようとする意志、伝えたい内容があまり感じられない自己満足の情報発信は、大手メディアでも昔から存在したとは思いませんか? ーあ、そうですね。(・・・自主規制・・・) で、「信頼」の話です。 信頼されるメディアたるための4箇条 山口:この機会に「信頼されるメディアたるための4箇条」を作りました。 伝える意志をもって情報を発信せよ 読者の求める情報を発信せよ 読者に気づきをもたらす情報を発信せよ 誤りはすぐに正せ ーなんか普通ですね。これをやるだけでメディアは信頼されるんでしょうか?「正しい情報」はいらないのですか? 山口:これは必要条件ですが、これだけでは十分ではないでしょう。これを愚直にやりますよ、という天リフの宣言だとご理解ください。「何が正しいのか」は最終的に読者が判断することですから。 ー既存のメディアはこの条件を満たしていないのでしょうか? 山口:1.はプロですから当然高いレベルで満たしています。問題は4.です。紙メディアはそもそも誤りをすぐ正すことが物理的に不可能です。なので、「誤りを出さない」方向に向かわざるを得ません。結果、責任を持ちきれない「二次情報」はハナから見向きもしなくなります。 ー「ソースは2ch」とは死んでも書けないプライドもあるのでしょうね。 山口:さあ、それはどうでしょう? さらに情報過多の時代ですから、読者の求める情報のレベルは質も量も飛躍的に上がっています。自前の一次情報だけでは「読者の求める」レベルを満たすことは不可能です。「気づき」においてはなおさらです。 ーなるほど。情報の主戦場がネットになった現在では、ネットベースでないとスピードと量についていけないし、二次情報も含めた読者のための情報発信をメディアは積極的にやるべきだ、ということですね。 山口:はい、まとめていただいてありがとうございます。 ー最後は妄想というかずいぶん大それたお話になりましたね。読者としては大それた話は別になくてもいいので、面白い有益な情報発信を望んでいると思います。「宣言」を実現できるようがんばってください。 次回は堅い話は置いて、山口さんと天文のこれまでのかかわりについてお聞かせ下さい。ありがとうございました。 山口:こちらこそありがとうございました。編集部発信のオリジナルコンテンツ