【連載3】実践・天体写真撮影記・光害上等、ご近所でウィルタネン彗星46P
皆さんこんにちは!ウィルタネン彗星の接近が間近になってきました!明るさは3等級に届くかという勢い、肉眼でも見えているとの情報。SNSでは「ウィルタネン祭り」の様相を呈しています!
とはいえ、お天気とお休みのコンビネーションが気になるところ。平日にどっぷり遠征はなかなかできませんからね・・・そこで!今回は「なるべくご近所でライトなスタイル」をコンセプトに、ウィルタネン彗星の撮影に行ってきました!
目次
撮影のねらい
光害上等、あんまり遠くに行かない
ウィルタネン彗星は地球にかなり近づく反面、ぼーっと広がっていて(*)空の暗い場所でないと良く見えないという情報があります。眼視では少なくともその通りでしょう。でも、写真ならいけるんじゃね?
(*)「ボーッと広がってんじゃねえよ!!」というチコちゃんの怒りの声が聞こえそうw
というわけで、自宅から70kmのいつもの場所は回避して、あえて「福岡市内に留まる」線で場所をセレクトしました(結局行き当たりばったりだったんですけどねw)。
機材構成はシンプルに、さっさと出かけてさっさと帰還
撮影に出かけたのは12月10日(月)の晩。実は晴れるという想定を全くしていなくて、夕方5時ごろ気がついたら快晴だったのです。むむむ。今からフル装備での出撃は困難(しんどい)である。機材は1セットのみにして、できるだけ負担のない形にしました。
光害回避・・近赤外線で撮影
といいつつ、漫然と光害の中で撮影して苦労してあぶり出すだけではつまらない。光害地だからといって光害カットフィルターを使うのも芸がない。そこで!「SC72フィルター」を使用した近赤外線(IR)撮影を試みることにしました(*)。
(*)このフィルター、これまでもベランダからの銀河撮影などで成果を挙げています。
波長特性を見てください。HαもSIIもばっさり通しません。通すのはほとんど肉眼では見えない近赤外光だけ。これなら光害もばっさり。しかもコマやイオンテイルの青緑色の光もばっさり通しません。主に太陽光の散乱による連続光で光っているダストテールが強調されて「長い尾」が写るのではないか?そんな淡い期待も・・・
メイン機材の紹介
主砲:FSQ106ED+SXP赤道儀
今回は潔く主砲のFSQ106ED+645RDの1本。架台はSXP。ガイド鏡は髙橋GT-40にWATECのアナログカメラ。アドバンスユニットでのオートガイド体制です。メインカメラはα7S。このカメラは「フィルターレス改造」なので、700nmより長い近赤外線にも感度が残っているためです(*)。
(*)SEO-SP4やHKIRなどの天体改造カメラは、700nmより長い波長をカットするフィルターが付いているため、赤外線の撮影には適しません。
撮影記
出動を決断したのが18時ごろ。彗星が南中するのは23時ごろなので20時に出発すれば余裕。時間があればQBPとAstroDuoの比較もしてみようと思っていたので、自宅を19時半頃に出ました。
なんと、強力だったナトリウム灯
最初に向かったのは近所の港。以前、満月の夜にM42を撮影した場所です(*)。まあすごく明るい場所なんですが「光害上等」のコンセプトなら適地かと思っていました。
(*)こちらもそのうち撮影記をアップ予定です。
しかし。赤外で撮ってみると・・・右下の黄色いランプがえらく明るいことが判明。これ、普通のナトリウム灯じゃないのかな?(*)これはかなりやる気をなくしますね・・・
(*)ぐぐってみると、ナトリウム灯は700nmより長い波長はほとんど出していないように見えるのですが。
場所替え
わかっていたこととはいえ、周囲の明るさにちょっと萎えてしまって場所替えを決意。もう少しナトリウムが少なくてマシなところを求めてさまよいます。ただし福岡市内は出ないこと^^;;
経緯は全部略しますが、1時間ほどさまよってたどりついたのが上の場所。自宅から15km。福岡市の西のはずれ、糸島市との境あたりです。
3大都市圏のように延々と街が続いている場合は、光の海から逃れるのは容易ではありません。でも地方都市であれば、ほんの10kmであっても郊外に移動すればかなり空は暗くなります。
この場所で撮影するのは初めて。F4、30秒、ISO1600でこのくらいの明るさなので、街中というにはちょっと暗すぎる気もしますが、いつも行く小石原よりは2EV以上は明るい感じです。でもナローバンドならけっこう使えるかも・・
空の暗さを同一条件で比較してみました。中央が今回の撮影地、右がしらびそ高原。まるで違います^^;; 左は福岡市内中心部の最初撤退した場所の近く。それと比べると、天頂付近の暗さがかなり違うことがわかります。
いざ撮影!
1台体制なので設置はらくちんです。気温は6°くらいですが風もなく、15分程で撮影準備終了。21:25撮影開始です。30秒露出の30枚1セットを3セット撮影しました。
1枚画像。ISOは6400。ヒストグラムは真ん中です。赤外撮影の場合、Rセンサーに感度があるのは勿論ですが、B、Gも少し感度があります。Hαナローバンドの時よりもさらに感度がある印象。それでも、Gはザラザラだったので捨てて、Bは太陽光のホワイトバランスの画像を加算平均してモノクロ化しました。
撮影中。鏡筒の上にウィルタネン彗星が。もう少し彗星が派手ならなあ・・・
折角なので通常のRGBカラーでも撮影しました。こちらは6D(SEO-SP4)。フィルターはなし。ISO800の30秒露出です。さすが4等級。凄いぜ、ウィルタネン彗星。1枚撮りでこれなら、しっかり彗星が出てくれそう。
しかし・・・RGBと赤外であんまい顕著な違いがない感じですね・・赤外ではもうちょっと尾が出てほしかったんですけど・・
この日は深夜から曇り、朝には雨の予報でした。上の画像は22:40ごろ。少し雲が出てきました。撤収前に、サイトロンのQBPフィルターとSTCのAstro Duoの比較画像を1枚撮りでサクッと撮って、この日の撮影は終了。さっさと撤収して、日付が変わる前に自宅に帰還しました。
画像処理とリザルト
今回の画像処理は、基本的に前回と同じ。彗星基準と恒星基準でσクリップでスタックし、星消しした彗星基準画像を比較明合成しました。
彗星基準のコンポジット画像を超強調したもの。フラットはPSの周辺減光補正のみ。10時半の方向に尾が伸びていますが、どこまで伸びているのかは・・・心眼のバイアス次第ですね^^
彗星追尾の場合、彗星の移動方向にノイズを引っ張ってしまいます。次回はダークを引いた方が良さそう。クールファイル処理にもチャレンジしてみるか・・・
赤外の最終画像。もう少しテールはあぶり出せたかもしれませんが、このくらいで許してください^^;;;
こちらがRGBカラーの最終画像。青緑色のコマは赤外画像よりもずっと広がっているのに対して、中央集光はゆるやかになっています。また、確かに赤外画像の方が真円からの崩れが大きく、尾の方向に扁平になっていることがわかります。
さらに、赤外画像とRGB画像を合成してみました。おお。確かに、赤外成分が彗星の尾の方向に広がっていることがわかります。ダストによる散乱は長波長側が多いため、赤外画像ではダスト成分が主になっているからでしょう。
ちょっと地味ですけど・・・まあ、違いがわかったの良いことにしましょう^^ 欲を言えば・・・光害地ではなく、空の暗いところでこれをやるべきだった!!wwww
彗星の画像処理については、↓こちらの記事が参考になります^^
使用した小物アイテム
赤外用フィルター
赤外撮影用のフィルターは、フジの75mm角のシート型フィルターを48mm径のUVフィルターに両面テープで貼り付けて使用しています。平面性が良くなかったり、もう少しマシな方法があると良いのですが、薄いフィルターなのでまあ実用にはなります。
キャスター
今回から、荷物の車への積み卸しを楽にするためキャスターを導入しました。効果抜群。今回の撮影では1往復で済みました!これで出動率がアップするかも。「よく使われる機材が良い機材である」といいますが、機材の稼働率を上げると自然と機材は「よりよい機材」にグレードアップすることになります^^
ちなみにこのキャスター、ちょっと高めですが、底板がメッシュ状になっていて軽く、ガラガラ音があまり反響しません。畳んだときにしっかり自立するのもいいところ。普段はキャスターは無用の長物なので、さりげなく隅に立てて置けることは、家庭内平和のためにも重要です^^
まとめ
いかがでしたか?ウィルタネン彗星をひたすら煽っている天リフですが^^;; 「尾がなくて面白くない」なんてことはありません!!尾がなくはない!短いだけですw
短い尾でもそれなりに面白いし、工夫次第で楽しみ方はいろいろ広がるはず。今回はちょっと変態チックな試みでしたが、明るい彗星はいろんな工夫の余地があると思います。
それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。また次回お会いしましょう!
https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/11/7270/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-3-150x150.jpg天体写真実践・天体写真撮影記皆さんこんにちは!ウィルタネン彗星の接近が間近になってきました!明るさは3等級に届くかという勢い、肉眼でも見えているとの情報。SNSでは「ウィルタネン祭り」の様相を呈しています! とはいえ、お天気とお休みのコンビネーションが気になるところ。平日にどっぷり遠征はなかなかできませんからね・・・そこで!今回は「なるべくご近所でライトなスタイル」をコンセプトに、ウィルタネン彗星の撮影に行ってきました! 撮影のねらい 光害上等、あんまり遠くに行かない ウィルタネン彗星は地球にかなり近づく反面、ぼーっと広がっていて(*)空の暗い場所でないと良く見えないという情報があります。眼視では少なくともその通りでしょう。でも、写真ならいけるんじゃね? (*)「ボーッと広がってんじゃねえよ!!」というチコちゃんの怒りの声が聞こえそうw というわけで、自宅から70kmのいつもの場所は回避して、あえて「福岡市内に留まる」線で場所をセレクトしました(結局行き当たりばったりだったんですけどねw)。 機材構成はシンプルに、さっさと出かけてさっさと帰還 撮影に出かけたのは12月10日(月)の晩。実は晴れるという想定を全くしていなくて、夕方5時ごろ気がついたら快晴だったのです。むむむ。今からフル装備での出撃は困難(しんどい)である。機材は1セットのみにして、できるだけ負担のない形にしました。 光害回避・・近赤外線で撮影 といいつつ、漫然と光害の中で撮影して苦労してあぶり出すだけではつまらない。光害地だからといって光害カットフィルターを使うのも芸がない。そこで!「SC72フィルター」を使用した近赤外線(IR)撮影を試みることにしました(*)。 (*)このフィルター、これまでもベランダからの銀河撮影などで成果を挙げています。 波長特性を見てください。HαもSIIもばっさり通しません。通すのはほとんど肉眼では見えない近赤外光だけ。これなら光害もばっさり。しかもコマやイオンテイルの青緑色の光もばっさり通しません。主に太陽光の散乱による連続光で光っているダストテールが強調されて「長い尾」が写るのではないか?そんな淡い期待も・・・ メイン機材の紹介 主砲:FSQ106ED+SXP赤道儀 今回は潔く主砲のFSQ106ED+645RDの1本。架台はSXP。ガイド鏡は髙橋GT-40にWATECのアナログカメラ。アドバンスユニットでのオートガイド体制です。メインカメラはα7S。このカメラは「フィルターレス改造」なので、700nmより長い近赤外線にも感度が残っているためです(*)。 (*)SEO-SP4やHKIRなどの天体改造カメラは、700nmより長い波長をカットするフィルターが付いているため、赤外線の撮影には適しません。 撮影記 出動を決断したのが18時ごろ。彗星が南中するのは23時ごろなので20時に出発すれば余裕。時間があればQBPとAstroDuoの比較もしてみようと思っていたので、自宅を19時半頃に出ました。 なんと、強力だったナトリウム灯 最初に向かったのは近所の港。以前、満月の夜にM42を撮影した場所です(*)。まあすごく明るい場所なんですが「光害上等」のコンセプトなら適地かと思っていました。 (*)こちらもそのうち撮影記をアップ予定です。 しかし。赤外で撮ってみると・・・右下の黄色いランプがえらく明るいことが判明。これ、普通のナトリウム灯じゃないのかな?(*)これはかなりやる気をなくしますね・・・ (*)ぐぐってみると、ナトリウム灯は700nmより長い波長はほとんど出していないように見えるのですが。 場所替え わかっていたこととはいえ、周囲の明るさにちょっと萎えてしまって場所替えを決意。もう少しナトリウムが少なくてマシなところを求めてさまよいます。ただし福岡市内は出ないこと^^;; 経緯は全部略しますが、1時間ほどさまよってたどりついたのが上の場所。自宅から15km。福岡市の西のはずれ、糸島市との境あたりです。 3大都市圏のように延々と街が続いている場合は、光の海から逃れるのは容易ではありません。でも地方都市であれば、ほんの10kmであっても郊外に移動すればかなり空は暗くなります。 この場所で撮影するのは初めて。F4、30秒、ISO1600でこのくらいの明るさなので、街中というにはちょっと暗すぎる気もしますが、いつも行く小石原よりは2EV以上は明るい感じです。でもナローバンドならけっこう使えるかも・・ 空の暗さを同一条件で比較してみました。中央が今回の撮影地、右がしらびそ高原。まるで違います^^;; 左は福岡市内中心部の最初撤退した場所の近く。それと比べると、天頂付近の暗さがかなり違うことがわかります。 いざ撮影! 1台体制なので設置はらくちんです。気温は6°くらいですが風もなく、15分程で撮影準備終了。21:25撮影開始です。30秒露出の30枚1セットを3セット撮影しました。 1枚画像。ISOは6400。ヒストグラムは真ん中です。赤外撮影の場合、Rセンサーに感度があるのは勿論ですが、B、Gも少し感度があります。Hαナローバンドの時よりもさらに感度がある印象。それでも、Gはザラザラだったので捨てて、Bは太陽光のホワイトバランスの画像を加算平均してモノクロ化しました。 撮影中。鏡筒の上にウィルタネン彗星が。もう少し彗星が派手ならなあ・・・ 折角なので通常のRGBカラーでも撮影しました。こちらは6D(SEO-SP4)。フィルターはなし。ISO800の30秒露出です。さすが4等級。凄いぜ、ウィルタネン彗星。1枚撮りでこれなら、しっかり彗星が出てくれそう。 しかし・・・RGBと赤外であんまい顕著な違いがない感じですね・・赤外ではもうちょっと尾が出てほしかったんですけど・・ この日は深夜から曇り、朝には雨の予報でした。上の画像は22:40ごろ。少し雲が出てきました。撤収前に、サイトロンのQBPフィルターとSTCのAstro Duoの比較画像を1枚撮りでサクッと撮って、この日の撮影は終了。さっさと撤収して、日付が変わる前に自宅に帰還しました。 画像処理とリザルト 今回の画像処理は、基本的に前回と同じ。彗星基準と恒星基準でσクリップでスタックし、星消しした彗星基準画像を比較明合成しました。 彗星基準のコンポジット画像を超強調したもの。フラットはPSの周辺減光補正のみ。10時半の方向に尾が伸びていますが、どこまで伸びているのかは・・・心眼のバイアス次第ですね^^ 彗星追尾の場合、彗星の移動方向にノイズを引っ張ってしまいます。次回はダークを引いた方が良さそう。クールファイル処理にもチャレンジしてみるか・・・ 赤外の最終画像。もう少しテールはあぶり出せたかもしれませんが、このくらいで許してください^^;;; こちらがRGBカラーの最終画像。青緑色のコマは赤外画像よりもずっと広がっているのに対して、中央集光はゆるやかになっています。また、確かに赤外画像の方が真円からの崩れが大きく、尾の方向に扁平になっていることがわかります。 さらに、赤外画像とRGB画像を合成してみました。おお。確かに、赤外成分が彗星の尾の方向に広がっていることがわかります。ダストによる散乱は長波長側が多いため、赤外画像ではダスト成分が主になっているからでしょう。 ちょっと地味ですけど・・・まあ、違いがわかったの良いことにしましょう^^ 欲を言えば・・・光害地ではなく、空の暗いところでこれをやるべきだった!!wwww 彗星の画像処理については、↓こちらの記事が参考になります^^ https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/03/7126/ 使用した小物アイテム 赤外用フィルター 赤外撮影用のフィルターは、フジの75mm角のシート型フィルターを48mm径のUVフィルターに両面テープで貼り付けて使用しています。平面性が良くなかったり、もう少しマシな方法があると良いのですが、薄いフィルターなのでまあ実用にはなります。 キャスター 今回から、荷物の車への積み卸しを楽にするためキャスターを導入しました。効果抜群。今回の撮影では1往復で済みました!これで出動率がアップするかも。「よく使われる機材が良い機材である」といいますが、機材の稼働率を上げると自然と機材は「よりよい機材」にグレードアップすることになります^^ ちなみにこのキャスター、ちょっと高めですが、底板がメッシュ状になっていて軽く、ガラガラ音があまり反響しません。畳んだときにしっかり自立するのもいいところ。普段はキャスターは無用の長物なので、さりげなく隅に立てて置けることは、家庭内平和のためにも重要です^^ まとめ いかがでしたか?ウィルタネン彗星をひたすら煽っている天リフですが^^;; 「尾がなくて面白くない」なんてことはありません!!尾がなくはない!短いだけですw 短い尾でもそれなりに面白いし、工夫次第で楽しみ方はいろいろ広がるはず。今回はちょっと変態チックな試みでしたが、明るい彗星はいろんな工夫の余地があると思います。 それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。また次回お会いしましょう! https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/01/7085/ 編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
コメントを残す