天文機材のネット通販を営む「星見屋」さんの公式Twitterアカウントで「天体鑑賞」という言葉(コンセプト)が提案されています。

観測じゃない、観望ともちょっと違う、美しい天体を「かんしょう」する、という場合「観賞」ではなく「鑑賞」が正しい漢字だと感じました。そしてものすごく納得しました。

「星を見る行為」を何と呼ぶのか?

小さな一つのつぶやきですが、天文趣味クラスタのこれまでと今後のあり方を見つめ直す、とても重要な考え方を含んでいると感じました。

天文趣味クラスタの中には「星を見る」という行為を日々楽しみ、(暗い)空の下で宇宙の姿と光をこの眼で感じることに至上の喜びを感じる人たちがいます。

では、その行為を何と呼んでいたのでしょうか?

「眼視観望」「天体観望」「観望」「眼視」。このあたりがよく使われているように思います。

しかし、その言葉は一般の人にどのくらい通じるでしょうか?

https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/眼視

実は「眼視」という言葉は一般的な辞書には存在しません(*)。字を見れば「眼デ視ル」という意味を推測できますが、会話の中で「ガンシ」という言葉は通じにくいかもしれません。

(*)実は筆者も、今回辞書を引いてみるまで「眼視」が広辞苑にすら存在しないことを知りませんでした。 

https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/観望

「観望」という言葉は、辞書上にも存在します。ただ、「天体望遠鏡で狭い範囲を注視して観察する」ことと「景色を眺め渡す」ことは、ちょっとニュアンスが違うような気がします。

何より「観望」という言葉は、日常会話の中であまり使われるものではない気がします。「新緑の風景を観望してきたよ!」とか「山登りの醍醐味は山頂からの風景の観望ですね」とか、あまり言わないですよね。

天体観賞ないしは天体鑑賞

そこで、元ツイです。観測でも観望でもない「鑑賞(かんしょう)」。「鑑賞:〔楽しむ〕enjoy;〔真価を認めて味わう〕appreciate」



https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/鑑賞
https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/観賞

元ツイは実は「観賞」ではなく「鑑賞」がしっくりくる、というさらに先のお話なのですが、本記事の文脈ではあまり大きな違いはないかもしれません。「美しい天体をじっくり見て、美しさを味わう行為」を表す、より適切な言葉はなんだろうか。それは「観測」や「観望」よりも、「かんしょう(観賞ないしは鑑賞)」のほうが、しっくりするのではないか(*)。

(*)「かんしょう」という言葉は話し言葉としても普通に意味が通じる気がします。

実は「星を見せる会社」を標榜するビクセン社では、意識して「天体観望会」ではなく「天体鑑賞会(観賞会)」という呼び名を使用されています(*)。この考え方と実績は、もっと注目されるべきものかもしれません。

(*)ビクセン社のHPを見る限り「鑑賞」「観賞」の両方が使われているようです。

「天体観望」はダメなの?「天体観測」は?

wikipedia 天体観望
https://ja.wikipedia.org/wiki/天体観望

学問的な観点や特定の目的を持たず、ただ「星を見て楽しむこと」を目的として星空を見る点で、天体観測とは異なる。天体観望の場合には、晴れた夜、家の外に出て空を見上げただけというのも含まれるためである。

それでは「天体観望」は「ダメ」なのでしょうか。そんなことはありません。広辞苑に「天体観望」は収録されていませんが、wikipediaには「天体観望」という項目が存在します。「天体観望」は、古くから使われている立派な言葉です。

歴史的な成り立ちとしては「天体観望」という言葉は、「科学的・学問的な目的を持った天体観測」とは違う行為であるという主張から始まったのではないでしょうか。「科学的姿勢がない行為は天体観測ではない」という言説に対して「いや、別に科学じゃないし。星を見て楽しんでいるだけだよ。じゃあ僕たちは『観望』って呼ぶよ」的な、天文クラスタ内で流れがあったのかも?(*)。

(*)全部個人の想像ですが、この時代に「天体鑑賞」という言葉を使うのはさすがに急進的?すぎたのかもしれませんね。

https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/観測

でも一般には「天体観望」よりはむしろ「天体観測」が普通に使われていますよね。広辞苑を見る限り、観測が「科学的・学問的目的を持つ」とは明記されているわけではなく「観察」と同じように使っても間違いではないように見えます。

「BUMP OF CHICKEN」の名曲も「天体観測」。望遠鏡で星を眺めているときに通りすがりの人から「何をしているんですか?」と尋ねられたら、「天体観測です」と答えるのが一番スムーズな会話でしょう(*)。

(*)古くからの天文マニアからは「いやそれは観測じゃない」という反論(指導?)が返ってくることも。それが面倒くさいので「観測」という言葉を忌避するという立場もあったりして。

まとめ・「生きた言葉」で会話するために

いかがでしたか?

以前も書きましたが「言葉狩り」なぞはしたくもありません。「天体観望」や「眼視観望」などの言葉でこれまで通り会話が成り立つコミュニティの中では、使い慣れた言葉・好きな言葉でコミュニケーションすればよいと思います。

しかし、宇宙の姿と光をこの眼で感じることは素晴らしい趣味なんだよということを外に向かって発信したり訴求する場合には、違う言葉を選ぶという選択もあるのではないでしょうか。その有力候補として「星空鑑賞」「星空観賞」「天体鑑賞」「天体観賞」はいかがでしょうか?

というわけで、天リフでも「眼視観望」に対する立ち位置を再検討したいと思います。「コンポジット」同様、過去に遡って書き換えるのは大変ですね・・・当面は「星空(天体)鑑賞(眼視観望)」くらいの書き方にしますかね。。

「星空鑑賞」 おっしゃるとおりですね!タイトルなど若干変更しました!

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/08/bijutsu_kansyo2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/08/bijutsu_kansyo2-150x150.jpg編集部特選ピックアップ天体観賞天文機材のネット通販を営む「星見屋」さんの公式Twitterアカウントで「天体鑑賞」という言葉(コンセプト)が提案されています。 観測じゃない、観望ともちょっと違う、美しい天体を「かんしょう」する、という場合「観賞」ではなく「鑑賞」が正しい漢字だと感じました。そしてものすごく納得しました。 「天体鑑賞」 大鹿村でこだわりと工夫満載の双眼望遠鏡を持ち込んでいらした方との会話の中で出てきたワードです。 観測じゃない、観望ともちょっと違う、美しい天体を「かんしょう」する、という場合「観賞」ではなく「鑑賞」が正しい漢字だと感じました。そしてものすごく納得しました。 — Hoshimiya(星見屋)公式 (@Hoshimiya_Shop) August 9, 2022 観賞と鑑賞の違いを確かめるのにネットの翻訳サイトにかけてみると「鑑賞:〔楽しむ〕enjoy;〔真価を認めて味わう〕appreciate」とありました。すごくしっくりきました。小さくて淡い天体を快適に鑑賞をできるように機材にもこだわるわけです。そして見えた天体にappreciate。 なんかぴったりです — Hoshimiya(星見屋)公式 (@Hoshimiya_Shop) August 9, 2022 「星を見る行為」を何と呼ぶのか? 小さな一つのつぶやきですが、天文趣味クラスタのこれまでと今後のあり方を見つめ直す、とても重要な考え方を含んでいると感じました。 天文趣味クラスタの中には「星を見る」という行為を日々楽しみ、(暗い)空の下で宇宙の姿と光をこの眼で感じることに至上の喜びを感じる人たちがいます。 では、その行為を何と呼んでいたのでしょうか? 「眼視観望」「天体観望」「観望」「眼視」。このあたりがよく使われているように思います。 しかし、その言葉は一般の人にどのくらい通じるでしょうか? 実は「眼視」という言葉は一般的な辞書には存在しません(*)。字を見れば「眼デ視ル」という意味を推測できますが、会話の中で「ガンシ」という言葉は通じにくいかもしれません。 (*)実は筆者も、今回辞書を引いてみるまで「眼視」が広辞苑にすら存在しないことを知りませんでした。  眼視、辞書に載っていないとは思いもよらず😱 調べてみたけど、確かに無い! — 宙ねこ (@sora5tm) August 10, 2022 「観望」という言葉は、辞書上にも存在します。ただ、「天体望遠鏡で狭い範囲を注視して観察する」ことと「景色を眺め渡す」ことは、ちょっとニュアンスが違うような気がします。 何より「観望」という言葉は、日常会話の中であまり使われるものではない気がします。「新緑の風景を観望してきたよ!」とか「山登りの醍醐味は山頂からの風景の観望ですね」とか、あまり言わないですよね。 天体観賞ないしは天体鑑賞 「天体鑑賞」 大鹿村でこだわりと工夫満載の双眼望遠鏡を持ち込んでいらした方との会話の中で出てきたワードです。 観測じゃない、観望ともちょっと違う、美しい天体を「かんしょう」する、という場合「観賞」ではなく「鑑賞」が正しい漢字だと感じました。そしてものすごく納得しました。 — Hoshimiya(星見屋)公式 (@Hoshimiya_Shop) August 9, 2022 そこで、元ツイです。観測でも観望でもない「鑑賞(かんしょう)」。「鑑賞:〔楽しむ〕enjoy;〔真価を認めて味わう〕appreciate」 元ツイは実は「観賞」ではなく「鑑賞」がしっくりくる、というさらに先のお話なのですが、本記事の文脈ではあまり大きな違いはないかもしれません。「美しい天体をじっくり見て、美しさを味わう行為」を表す、より適切な言葉はなんだろうか。それは「観測」や「観望」よりも、「かんしょう(観賞ないしは鑑賞)」のほうが、しっくりするのではないか(*)。 (*)「かんしょう」という言葉は話し言葉としても普通に意味が通じる気がします。 観望会は本当に伝わり難いです。 — た・かっち☆新 (@crescentmoon_NG) August 11, 2022 実は「星を見せる会社」を標榜するビクセン社では、意識して「天体観望会」ではなく「天体鑑賞会(観賞会)」という呼び名を使用されています(*)。この考え方と実績は、もっと注目されるべきものかもしれません。 (*)ビクセン社のHPを見る限り「鑑賞」「観賞」の両方が使われているようです。 「天体観望」はダメなの?「天体観測」は? wikipedia 天体観望 https://ja.wikipedia.org/wiki/天体観望 学問的な観点や特定の目的を持たず、ただ「星を見て楽しむこと」を目的として星空を見る点で、天体観測とは異なる。天体観望の場合には、晴れた夜、家の外に出て空を見上げただけというのも含まれるためである。 それでは「天体観望」は「ダメ」なのでしょうか。そんなことはありません。広辞苑に「天体観望」は収録されていませんが、wikipediaには「天体観望」という項目が存在します。「天体観望」は、古くから使われている立派な言葉です。 歴史的な成り立ちとしては「天体観望」という言葉は、「科学的・学問的な目的を持った天体観測」とは違う行為であるという主張から始まったのではないでしょうか。「科学的姿勢がない行為は天体観測ではない」という言説に対して「いや、別に科学じゃないし。星を見て楽しんでいるだけだよ。じゃあ僕たちは『観望』って呼ぶよ」的な、天文クラスタ内で流れがあったのかも?(*)。 (*)全部個人の想像ですが、この時代に「天体鑑賞」という言葉を使うのはさすがに急進的?すぎたのかもしれませんね。 でも一般には「天体観望」よりはむしろ「天体観測」が普通に使われていますよね。広辞苑を見る限り、観測が「科学的・学問的目的を持つ」とは明記されているわけではなく「観察」と同じように使っても間違いではないように見えます。 「BUMP OF CHICKEN」の名曲も「天体観測」。望遠鏡で星を眺めているときに通りすがりの人から「何をしているんですか?」と尋ねられたら、「天体観測です」と答えるのが一番スムーズな会話でしょう(*)。 (*)古くからの天文マニアからは「いやそれは観測じゃない」という反論(指導?)が返ってくることも。それが面倒くさいので「観測」という言葉を忌避するという立場もあったりして。 まとめ・「生きた言葉」で会話するために いかがでしたか? 以前も書きましたが「言葉狩り」なぞはしたくもありません。「天体観望」や「眼視観望」などの言葉でこれまで通り会話が成り立つコミュニティの中では、使い慣れた言葉・好きな言葉でコミュニケーションすればよいと思います。 しかし、宇宙の姿と光をこの眼で感じることは素晴らしい趣味なんだよということを外に向かって発信したり訴求する場合には、違う言葉を選ぶという選択もあるのではないでしょうか。その有力候補として「星空鑑賞」「星空観賞」「天体鑑賞」「天体観賞」はいかがでしょうか? というわけで、天リフでも「眼視観望」に対する立ち位置を再検討したいと思います。「コンポジット」同様、過去に遡って書き換えるのは大変ですね・・・当面は「星空(天体)鑑賞(眼視観望)」くらいの書き方にしますかね。。 「鑑賞」はともかく、「天体」ってどうなんだろう。 「天体」だとどうしてもディープスカイ的な印象を引きずる。 「星空」「夜空」じゃだめなのかなぁ。 — はんべ (@hanbefurai) August 11, 2022 「星空鑑賞」 おっしゃるとおりですね!タイトルなど若干変更しました!  編集部発信のオリジナルコンテンツ