年2回更新?の連載、「最強!赤道儀伝説」。古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていきます!第3回はビクセンのポータブル赤道儀「ポラリエU」と「ポラリエ(初代)」です。
実は筆者が天文復帰した2013年、初めて購入した赤道儀が「ポラリエ(初代)」でした。その後、さまざまな「パーツ沼」を経て今でも現役主力機として活躍中です。そして満を持して発売された新型「ポラリエU」。こちらは(株)ビクセン様のご厚意で実機をお借りすることができました。
この2世代でのポラリエの進化や「ポラリエ」共通の特長などをふまえ、これまた平成から令和の「最強ポータブル赤道儀」の一つである両機種を詳しくご紹介していきましょう。
すべての点で上位互換の「ポラリエU」
ポラリエUとポラリエ(初代)。この2つはどう違うのでしょうか。まず、最初に一つ結論を述べておきます。「ポラリエUは価格以外は全てポラリエ(初代)の上位互換である」と。その違いをさらっと見ていきましょう。
より小型軽量・高性能になったポラリエU
ポラリエUとポラリエ(初代)の外観の比較。ポラリエ(初代)は薄型でコンパクトですが、ずっしりと重く本体重量740g(電池別)。ポラリエUは ずんぐりした形状ですが、これまた突起が少なく収納しやすいデザインで本体重量575g(電池別)。搭載荷重が大きくなっている(*)のにもかかわらず、より軽量になっています。
(*)メーカー公称の搭載重量は、「標準雲台ベース」を使用した状態で、ポラリエ(初代)が2.0kg(回転中心からの距離が10cmのとき)、ポラリエUが2.5kg(同)です。「マルチ雲台ベース」などを使用して東西のバランスをしっかりとった状態で運用すれば、さらに重量のある機材を搭載できます。
ポラリエUを手に取ると心配になるほど軽いのですが、この違いは主に外装(ポラリエUはプラ、ポラリエ初代は金属)と、よりスリムになったウォームホイールの軸部の違いによるものでしょう(上画像)。これらの軽量化にもかかわらず、剛性感はむしろ向上している印象です。本気を出せば天文機材はまだまだ軽くできる、ということではないでしょうか。
さらに、ポラリエ(初代)から外装部にはネジが存在せず、すっきりしたデザインでしたが、ポラリエUではさらにそれが徹底し、ネジの頭が露出した部分が一切なくなっています(*)。
(*)ポラリエ(初代)では、電池ボックスの蓋を開けたところにビスがありました。
価格
ただし、価格には大きな差があります。ビクセンのオンラインストアではポラリエUが税込68,200円、ポラリエ(初代)が税込37,634円。倍近く違います。
しかし、ポラリエUは「より軽量である」ことも含めて、全ての点でポラリエ(初代)に勝っています。基本スペックが上がっただけでなく、拡張性や操作性においても、ポラリエUはポラリエ(初代)を上回っていて、劣っているところは何もありません。ポラリエ(初代)でできたことは、ほぼ全てポラリエUでも可能(*)。予算に余裕があるならポラリエU一択であることは間違いありません。
(*)後述しますが、初代ポラリエで内蔵されていた傾斜計とコンパスがポラリエUでは省略されているなどの違いがあります。
ポラリエ最強!伝説・その1
最強!本格的ディープスカイ撮影
ポラリエは初代から高い追尾精度には定評がありました。しかし、ポラリエ単体だけではその性能を十分に発揮できず、さまざまな強化パーツが必要でした。
ポラリエUでもその事情は変わらないのですが、ポラリエUでは基本構造が見直されて赤経軸の安定度が増したことと、三脚・架台頭部の接続仕様がよりスマートになったことから、強化構成がより組みやすくなりました。
この作例は焦点距離250mmで1コマ1分露出ですが、風による影響を除けば歩留まりはほぼ100%です。この焦点距離で「1分露出」ならまず流れることはありませんでした。
軽量なポータブル赤道儀の場合、追尾エラーの原因は恒星時追尾のピリオディックモーション以外にも、機材のたわみ・極軸のずれ・三脚の沈み込み・対象の赤緯など、さまざまな要因があります。一概に「ポラリエUなら、250mmで3分露出も大丈夫!」と断言することはできませんが、「1分露出ならまず大丈夫」だといえます(*)。
(*)実戦的には、試写して画像を拡大し明らかに流れを感じはじめる露出時間の半分にすれば、ほぼ100%の歩留まりになります。
Hα(赤)とOIII(青緑)の光だけを通す「ワンショットナローバンド」による作例。ブロードバンドでの撮影なら1コマ1分で不足を感じることはあまりないのですが、光量が極端に乏しくなるナローバンドでの撮影では露出時間を長くしたいもの。1コマ3分露出で各コマを細かく見ると流れているのですが、コンポジットしてしまえばごらんのとおりほぼ点像です(*)。
(*)フィルターを各コマの画像を等倍に拡大してみると、ごくわずかに各コマの星像が一様ではなく流れがあります。後は撮影者がどこまで許容するかの問題ですね^^;;
かつて、筆者はポラリエ(初代)に強化パーツを使用して望遠撮影をしていましたが「かなり無理してる」感を常に感じていました。それと比較するとポラリエUの安定感は1ランク違います。焦点距離300mmクラスの本格的なディープスカイ撮影が「無理なく」可能になったといえます。
最強!星空雲台
天の川をもっと美しく撮りたい。星景写真派のそんな願いを叶えるのがポータブル赤道儀です。上の画像は赤道儀で追尾した画像と、追尾を止めた固定撮影の画像をコンポジットしたものですが、より鮮明で精細に天の川をとらえることができました。
上の画像は固定撮影30秒の一枚撮り。鑑賞距離ではさほど流れは感じず、これでも十分作品としては成り立つのですが、等倍拡大するとはっきりと流れています。「500ルール(*)」が教える24mmレンズの限界露出時間は20秒ですが、高性能化した現代のデジタルカメラとレンズではかなり甘い基準で、その倍に厳しくした10秒露出でも流れてしまいます。天の川の「精細感」を表現するには、やはりきっちり赤道儀で追尾することが必要になります。
(*)「500÷レンズの焦点距離」秒までなら、固定撮影でも流れずに撮影できるという目安。「鑑賞距離」で流れないという基準なら500ルールでも十分ですが、等倍表示でも点像であるとするならば「200ルール」くらいが妥当でしょう。
作例をもうひとつ。こちらもポラリエ(初代)による固定撮影・追尾撮影の合成です。焦点距離の短いカメラレンズで撮影する場合は、追尾精度も耐荷重もあまり問題になりません。ポラリエ(初代)でも、ポラリエUとほとんど差がなく活用できるものと思います。
星景写真でポラリエを使用する場合は、拡張パーツは特に必要ありません。極軸微動装置も極軸望遠鏡も、あると便利ですが必須ではありません。上の画像のような標準構成で、シンプルにまさに「星空雲台」のコンセプトで、星空撮影を楽しむことができるでしょう。
最小構成でポラリエU/ポラリエ(初代)を使用する際、ポラリエならではの非常に優れた仕組みがあることを特記しておきます。
ポラリエの「標準雲台ベース」には、UNC1/4ネジでカメラ雲台を装着するのですが、実はこのネジは通常は引っ込んでいます(上画像①)。カメラ雲台を装着する際は、「標準雲台ベース」を取り外して、反対側の突起を軽く押すと、ネジが出てきます(上画像②)。カメラ雲台を回転させてねじ込みます(上画像③)。このとき、かなり強い力でしっかりと締め込むことができます。最後に「標準雲台ベース」を2本の止めネジでポラリエに装着してできあがり(上画像④)。
この仕組みが優れているのは、カメラ雲台を取り付ける際に、本体のギアに無理な力がかけられてしまうことを未然に防止し、雲台をよりしっかりとねじ込むことができることにあります(*)。
(*)架頭のネジに直接雲台をねじ込むタイプの製品では、弱い力で装着するとカメラが東側にあるときに雲台が緩んでしまうことがあります。逆に思い切り力をかけるとギアを傷めてしまう危険があります。ポラリエのギア類は金属製ですが、プラ製のギアでは破損してしまう例もあるようです。
さらに、収納時にネジが出っ張らないことで、他の機材を傷つけたりねじ山が傷付いたりすることもありません。この機構は、地味ながらも製品の特性とユーザーの利便性に配慮された、素晴らしい設計であるといえるでしょう。
最強!モーションタイムラプス
「ポラリエU」では「モーションタイムラプス」のための機能が追加されました。モーションタイムラプスとは、上の作例(*)のように水平方向や垂直方向にカメラを回転させ、より「動きのある」タイムラプスを撮影する手法です。
(*)芸のない作例で恐縮です^^;;;;ビクセン公式チャンネルの 北山輝泰さんの作例をぜひごらんください!
ポラリエUでは「SMS(Shoot-Move-Shoot)」の撮影が可能になりました。これは、モーションタイムラプス撮影の際に、コマとコマの間だけ架台を回転することで、撮影中の星の流れを最小にするための機能です。「shoot(撮影)」の際は停止、次の「shoot」までのインターバルで架台が回転します。
モーションタイムラプス機能の追加で、ポラリエUの活用シーンはさらに広がったといえるでしょう。
ポラリエU/ポラリエ(初代)の特徴と比較
それでは、ポラリエUとポラリエ(初代)の各部を詳しく見ていきましょう。
スイッチオンですぐ使えるコンパクトな「星空雲台」
基本的にポラリエにはややこしい操作や設定は何もありません。スイッチを入れて、動作モードを設定するだけです。一度操作してみれば、迷うことなく誰でも使うことができるでしょう。
ただしポラリエUでは、北半球・南半球モードを電源スイッチと同じスライドスイッチで切り替える形になりました(*)。北半球が「N」、南半球が「S」。これを間違うと「倍速」で流れてしまうので要注意です。
(*)ポラリエ(初代)では、電池ボックスの中の小さなスイッチで行います。先の尖ったドライバなどが必要なので簡単ではなかったのですが、逆に初心者には存在を意識させず誤操作が少なくなる形でした。
動作モードの「恒星時追尾(★)」「1/2恒星時追尾」「太陽時追尾」「月追尾」の4つは両ポラリエで共通ですが、ポラリエUでは「C(カスタム:0.0倍〜10.0倍までをアプリで設定)」が追加されています(*)。
(*)使い道としては、例えば「0.7倍速」のような設定にして、1/2恒星時追尾よりも星の流れを少なくするなどが考えられます。
ちなみに、ポラリエUの電源をONすると、モード表示部が流れるように(*)点灯してして起動するのですが、よくみるとN方向にONするときとS方向にONするときで、流れる方向が逆になっています。これは日周運動の回転方向と同じ。少しでも誤操作を減らすための配慮だそうです。
(*)アラフィフ以上の中高年には「電子フラッシャーのように」と表現すれば伝わるでしょう^^
カメラ雲台などを取り付ける「標準雲台ベース」の取付部の勘合規格は同じで、新旧で互換性があります。底部の三脚側のネジ穴は初代はUNC1/4インチ専用ですが、ポラリエUではUNC3/8インチ・UNC1/4インチの両対応になり、アルカスイス互換のアリガタにもなっています。
ポラリエUの標準雲台ベースは、ローレット部が一回り大きくなり、ずっと締めやすくなりました。さらに、六角レンチ(ヘックスキー)で増し締めも可能。初代では角度によっては締めにくいことがあり、使用中に緩んでしまうこともあったのですが、これはたいへん大きな改良です。
ポラリエUの本体には、モーションタイムラプスを想定してか、角度目盛が刻まれ水準器も追加されています。目盛の指標は付属のシールを貼り付けます。このシールは後述する「クイックリリースパノラマクランプ」でも使用可能です。
三脚用のネジ穴はこちらの面にもあり、モーションタイムラプスで水平回転させる際に使用できます。後述する極軸望遠鏡の止め金具もこのネジ穴に装着します。
少なくなった「死角」
ポラリエ(初代)は横長の構造のため、上の画像のように南中時の縦構図でカメラとポラリエ本体が干渉してしまうことがありました。ポラリエUでは筐体が縦長になったため、このような干渉が発生する可能性が大きく減っています。
一方で、上画像右のように、南中北天の撮影(*)の際にはかなり狭苦しい態勢になります。縦長のポラリエUの方が若干余裕がありますが、苦しいことにはかわりありません。これは極軸部先端に自由雲台を接続したポータブル赤道儀の宿命で、解決するにはドイツ型やフォーク型の構成を取るしかありません。
(*)カシオペヤ座やみなみじゅうじ座の南中時がこの体勢になります。このような体勢のとき、カメラがバリアングルモニターだと使い勝手が大幅に改善します。
本格的な撮影でも使える拡張性
ポラリエ(初代)は「星空雲台」というライト感のあるニックネームからもわかるように、当初はあまり「ガチ」ではない撮影を想定していたものと推測します。しかし、実際はかなりレベルの高い追尾精度をもっていたことから、さまざまな「強化パーツ」が後から出てきました。
これらの強化パーツは、付属の「標準雲台ベース」を換装する形でしたが、ポラリエUでは従来の仕様を継承しつつも、より安定して強化パーツが取り付けられる構造になりました。
ポラリエUの架頭部の3本のM4ネジを外すと、六個のM6ネジ穴が現れます(*)。このネジ穴には別売のクイックリリースパノラマクランプを装着することができ、架頭をアルカスイス互換(**)にすることができます。
(*)間隔は35mmではありません。
(**)ビクセンでは「アルカスイス互換」の仕様を「薄型アタッチメント(プレート)」と呼称しています。
アスカスイス互換のクランプ・プレートは、ビクセン規格のアリガタと比較すると重量機材で使用するには強度の点で劣りますが、より小型軽量にシステムを組めることと、非常に数多くの互換パーツが市場に流通しているのがメリットです。小型軽量なポラリエUには、こちらの方がよりマッチしているといえるでしょう。
後述しますが、ポラリエの「標準雲台ベース」に汎用のパノラマ雲台を装着するか、別売の「ポラリエ用マルチ雲台ベース」を装着しても同じようなことができます。しかし、上の画像を見てもわかるとおり、クイックリリースパノラマクランプを使用する方がより軽量で、取付もM6の2点止めでより堅固。用途に応じて選べるにようになったのは大きな進化といえるでしょう。
ちなみに、ポラリエUの架頭部の「3点止め」の接合部ですが、同じビクセン社のAPマウントとは互換性はありません。ネジの太さも間隔も、一回り小さくなっています。
ポラリエU/ポラリエ(初代)のシステム拡張
ポラリエUを「ドイツ式赤道儀」や「片持ちフォーク赤道儀」の構成に組めば、東西のバランスをきっちり合わせることが可能になりシステムがより安定することで、重量級の望遠レンズや小型の天体望遠鏡を使用した天体撮影までが視野に入ってきます。上の構成では、カメラ・レンズを合わせて5〜6kg程度の機材を搭載していますが、剛性的には十分な感じです。
ポラリエ(初代)では、ポラリエ本体と上下微動雲台の固定がボトルネックになることがありましたが、アルカスイス互換システムになったポラリエUでは、その点でも安定度が上がっています。
ちなみに、このようなドイツ式構成を組む場合に外してはならない注意点があります。上の画像では赤緯側に自由雲台を使用していますが、これはオススメできない構成。構図合わせのために雲台をフリーにすると大きくバランスが崩れてしまい、重量機材を支えきれなくなってしまいます。ドイツ式に組む場合は、赤緯側は最低でもバランスを取った状態で可動できる粗動機構が必要です。
望遠レンズを使用しない場合でも、ドイツ式やフォーク式に拡張することには意味があります。バランスがしっかり取れたドイツ式やフォーク式では、追尾がより安定するだけでなく、構図あわせが楽になり、死角もより少なくなります。
ポラリエの架頭部をアルカスイス互換にしておけば、市場に多数流通しているさまざまなアルカスイス互換パーツを組み合わせた構成が可能になります。ドイツ式やフォーク式など、工夫一つでいろいろな形態が可能でしょう。こういう構成をあれこれ試してみるのも、ポータブル赤道儀の楽しみの一つですね^^
アプリでさらに便利に・高機能に
ポラリエUはWiFiを搭載していて、専用のアプリからモーションタイムラプスや星野撮影を行うことができます。ここで鍵になるのが「シャッターコントロール」です。カメラをバルブモードに設定しておけば、ポラリエUが自動的にシャッター開閉を行う形の連続撮影が可能になります。
ポラリエUの本体にあるカメラ制御用のステレオミニジャックとカメラを接続するケーブルは、各社のカメラに対応した7種類が発売されています。ほぼすべての一眼カメラに対応しているといってよいでしょう。
アプリ「Polarie U」のタイムラプスの設定画面。露光時間とそのときの回転速度、インターバル(待機)時間とそのときの回転速度、撮影枚数を設定します。便利なのは、全体の回転角と方向を画面上に表示してくれるところ。これなら回転角をシミュレーションしながら設定をチューニングできるでしょう。
タイムラプスの応用が「星景・天体写真」モード。こちらは撮影・インターバルで追尾速度は設定した速度で一定。「2秒間隔で、1分、60枚」のように設定します(*)。
(*)一軸駆動でもあるので「ディザリング」の機能はありません。
さらに凝っているのが「ブラケット」モード。露出時間を3通り(*)設定して「多段階露光」が可能になっています。
(*)かならず3通り設定しないといけない・各露光時間の枚数は全て同じ、という制約があるようで、使いこなしはよく考える必要があるでしょう。シャッターケーブルでの制御のため、ISO値を変えることはできません。「露光2段階」で「枚数を個別に設定できる」方が筆者にとってはありがたいですが、そのあたりは今後のユーザーのフィードバック次第でしょう。
現在の進捗状況がアプリで確認できること(*)、タイマーリモコンよりも時間・枚数の設定が簡単であること、ケーブルがブラブラしないことなど、タイマーリモコンを使用して連続撮影をするよりもはるかに便利です。これはぜひ活用したい機能です。
(*)ちなみに、動作中にアプリを終了させたりWiFiが切断しても大丈夫でした。接続が復活すればほどなくステータスも最新化されます。
ポラリエの電源
ポラリエUの電源は、単三電池ないしはUSBからの給電です。初代ポラリエは単三電池2本で2時間動作可能でしたが、ポラリエUは単三電池4本で稼働時間が7時間まで伸びました(*)。USBの給電も初代はUSB-miniでしたが、USB-Cとなりました。細かいところですが嬉しい改良です。
(*)初代ポラリエは実感値としてはもう少し電池が持つ印象ですが、それでも一晩はちょっと無理。ポラリエUなら満充電しておけばなんとか持つでしょう。撮影中の電池切れの心配が少なくなるのは大きいです。ポラリエUのWiFi使用時は電池の減りが早くなるとされていますが、これが実際どれくらいかは確認できていません。
ポラリエの収納
コンパクトなポラリエは、カメラバッグにレンズやカメラと同じ感覚で収納できます。ポラリエ初代は長方形だったので、カメラボディと同じくらいの間仕切りが必要でしたが、ポラリエUはレンズ一本分で収納が可能。これは明らかにコンパクトです。さらに「マルチ雲台ベース」を装着した場合の収納性はポラリエUの圧勝です(*)。
(*)ポラリエ(初代)では、マルチ雲台ベースを装着するとカメラバッグにうまくおさまらないような嵩張った状態になってしまいかなり不便。かといって、脱着には小さなイモネジ3個を緩める必要がありそれも現実的ではありませんでした。
ポラリエの極軸合わせ
ポータブル赤道儀を活用する上で、避けて通れないのが極軸合わせです。これをいかに簡単に・スマートに、そして目的に応じた精度で行えるかが、使いやすさにも作品の仕上がりを大きく左右します。
極軸合わせに求められる精度
ポラリエのような1軸駆動のポータブル赤道儀では、どの程度の極軸合わせの精度が必要なのでしょうか。極軸合わせのツールとして古くから使用されてきた「極軸望遠鏡」では、少なくともパターン上では1分角程度の誤差を認識できてしまいます。このため、使う側も「そのくらいの精度で合わせなければ!」と思ってしまうのですが、実際にはもっとラフでも問題ないのです。
乱暴に結論だけを言ってしまうと、赤経方向のピリオディックエラーが仮に±27秒角とすると、ギアの歯数が144枚なら極軸合わせの精度は機材の焦点距離に関係なく「40分角」あれば十分です(*)。この精度で合わせれば、ピリオディックエラーによる誤差を極軸のずれによる誤差が上回ることはありません。短時間露出の範囲では、極軸のずれによる誤差をピリオディックエラーよりもやたら小さくしても、トータルの追尾精度は大して向上しないのです。
(*)露出時間が2.5分(ウォームギア1/4回転分)より短い場合。この仮説の詳細については、別途天リフ記事で詳しく解説する予定です。
レンズの焦点距離が短くなると、さらにラフな極軸合わせでも問題なくなります。星景写真でよく使用される24mm広角レンズの場合なら、仮に極軸が3°ずれていても、4分間の露出時間での星の流れは22μ(*)です。星景写真で4分の露出時間はかなり長めで、通常は30秒〜2分程度あれば十分でしょう。それなら極軸のずれはさらに大きくても問題ないことになります。
(*)「天体写真の世界・追尾に必要な精度と赤道儀」参照。この22μという値は「500ルール」よりも1.5倍厳しい基準です。
とはいえ、正確に合わせるにこしたことはありませんし、「どんなやり方ならどこまでの精度が出せるか」が明らかでなければ、この目安も活用できません。以下、さまざまな極軸合わせの方法について、目標精度と合わせて見ていきましょう。
「のぞき穴」による極軸合わせ(目標精度1〜2°角)
ポラリエを使うならぜひマスターしておきたい方法が「のぞき穴」を使用した極軸合わせです。のぞき穴の実視界は約9度程度なので、こののぞき穴に北極星を入れさえすれば、4.5度の極軸精度が得られることになります。広角レンズを使用した星野写真では十分に実用になることでしょう。
しかし、この手法で精度を1度以内に追い込むのは難しいでしょう。暗闇では尚更です。眼の位置が上下左右に少し振れただけでも、視野円の中心がずれてしまうからです。
ポラリエUでは、こののぞき穴が若干使いやすく改良されました。ポラリエ初代では本体が肉眼の視野を大きく遮ってしまうため、北極星を中に入れるのがやや難しかったのですが、ポラリエUでは画像のように穴の外側もある程度見えているため、特に初心者にはより合わせやすいでしょう(*)。
(*)逆にポラリエUでは穴の周囲が全て黒なので、眼の位置の偏りが判断不可能です。ポラリエ(初代)の場合は目元の穴の外周が白なので、ほの明るい場所なら穴から見える空の円と外周の白い円が同心になるようにすることで、眼の位置をある程度正確に中央に置くことができます。
より正確に合わせたい場合は、上の画像のように眼の位置を大きく離すことで、穴の視界が狭くなり眼の位置の偏りの影響も受けにくくなります。
のぞき穴方式は荒っぽいようですが、ある程度慣れてくれば2°程度の精度はコンスタントに出せるのではないかと思います。本記事の星景の作例では、すべてこの方法で極軸合わせをしています。
北極星を使わない極軸合わせ(目標精度2°〜5°角)
北極星による極軸合わせは、「北極星を見つける」というところからはじまる初心者には、なかなか難しいところがあります。
初代ポラリエでは、本体に「方位磁石」と「傾斜計」が内蔵されています。傾斜計はともかくも方位磁石の実用性はちょっと微妙ですが、「だいたいの方向に向ける」用途としては使えるでしょう(*)。
(*)それでも広角レンズの1分露出程度までなら十分です。
もう一つ、別売の「ポーラーメーター」を使用する方法もあります。近傍に鉄筋のような磁性体がある場所では使えませんが、方位磁石は1°単位で目盛が振られたなかなか本格的なものです。北極星を使用したのぞき穴合わせを難しく感じるようなら、使ってみるのもアリでしょう。
光学式極軸望遠鏡による極軸合わせ(目標精度10分角以下)
望遠レンズを使用した撮影など、1°よりも極軸の精度を上げたい場合には、光学式極軸望遠鏡が必要になってきます。
ポラリエUでは、極軸望遠鏡を上の画像のように「極望アーム(*)」を使用して「横付け」する形になりました。構成によっては機材を搭載機材を外さないと(**)極軸望遠鏡が使用できなかったポラリエ(初代)からの大きな改良点です。
(*)本体への取付はUNC3/8ネジ(太ネジ)です。例えばSWATシリーズの極軸望遠鏡ステーはM6なので、相互に互換性がないことに注意が必要です。3/8<->1/4と同じような3/8<->M6の変換アダプタがあるとよいのですが、筆者には見つけられませんでした。
(**)機材の重量が大きいと、たわみや地面への沈み込みで、機材を外すとかなりズレてしまいます。
光学式極軸望遠鏡を使用すれば、10分角程度の精度は出すことができるでしょう。逆に、様々な誤差(極軸望遠鏡の光軸、パターンの芯出し、極望アームの接合面の精度など)によってそれ以上の精度をコンスタントに求めるのは難しいといえます(*)。
(*)極軸誤差が10分角なら、前掲のロジックに従えば、±7秒角のピリオディックモーションの赤道儀でも十分許容できる範囲です。
なお、ポラリエ(初代)用の極軸望遠鏡は、ポラリエUとは互換性がありませんが、アダプタを外すことで両方で使用できるようになる無償取り外しサービスが実施されています(*)。
(*)極軸望遠鏡はそれなりのお値段がするのですが、将来にわたって同じ製品が様々な機種に使用できれば「一生(半生?)もの」のツールになります。これは大変ありがたいサービスです。
「電子極望」による極軸合わせ(目標精度数分角以下)
さらに設置精度を追求するなら、PoleMasterやASI AIRの「Poler Alignment」などの「電子的な」極軸合わせの出番です。この方法なら数分角程度以下にまで誤差を追い込めるでしょう。
ただし、ポラリエのような軽量なポータブル赤道儀において、そこまでの設置精度が要求されるのか、設置できても維持できるのか(*)はやや疑問です。むしろ「自分が慣れた方法が機材が違ってもそのまま使えるメリット」のほうが大きいかもしれません。
(*)三脚の沈みこみや、勘合部・擦動部の微妙なズレなど、小型の軽量機材では様々なズレ要素があります。
ポラリエを「35°傾斜」させる方法
小型のポータブル赤道儀のシステム構成で一番悩むのが「極軸を緯度に合わせて」約35°傾けることと、極軸合わせのためにそれを上下左右に調整する方法です。ポラリエの場合、一番安直な方法は上の画像のように「自由雲台」のようなカメラ雲台を使用する方法ですが、細かな上下左右の調整が難しい上、雲台そのものにそれなりの重量(*)があります。
(*)上の画像の雲台は実測425g。ポラリエU本体とあまり変わりません。
極軸望遠鏡を使用せず、のぞき穴でラフに極軸合わせをする場合にイチオシなのがこの構成。わずか63gのパーツですが、ポラリエU・ポラリエ(初代)の両方で使用できる便利なパーツです。筆者もポラリエ(初代)から愛用しています。
より正確な極軸合わせを行うには、上下左右の微動装置がついた専用の極軸微動雲台が便利です。各社からさまざまな製品が出ていますが、こちらはビクセン純正のポラリエ(初代)用の極軸微動雲台。勘合仕様の関係でポラリエ(初代)専用になります。
さらに堅牢で重量機材の搭載にも対応した(公称耐荷重8kg)のが、近く発売されるビクセンの極軸微動雲台DX。残念ながら今回は試用できませんでしたが、昨年の各所の星まつりでも展示されていた製品で、剛性はなかなかのものです。
架頭がアルカスイス互換なのでポラリエUをそのままワンタッチで装着でき、ビクセン仕様の45mm径の三脚(AP三脚など)に搭載するアダプタも付属しています。特に、傾斜角度が0°から90度まで可変できるのには注目。日食などの海外遠征で低緯度・高緯度地方に出かけるときでも使えます。
ポラリエ最強!伝説・その2
最強!遠征システム
軽量なポラリエは、海外や離島の遠征にも最適。空の暗い場所でたっぷり露出をかけて、天の川をしっかり写しだすことができます。上の画像は、ポラリエ(初代)を使用して、西オーストラリアで撮影した南天の天の川。暗黒星雲の入り乱れた星野を24mmの広角レンズでとらえました。
上の画像を撮影中のポラリエ(初代)。カメラと三脚を除いた、本体・カメラ雲台で約1kg。メイン機材としてもサブ機材としても、余裕で持って行ける重量です。「ポラリエU」ならさらに180gほど軽量になります。
離島での遠征で。フットワークを生かしてあちこちのロケーションを巡る撮影では、ポラリエの機動性が大いに発揮されます。撮影機材を2セット持って余裕で徒歩で移動できるのは、軽量なポータブル赤道儀ならではのメリットです。
最強!パノラマ星野撮影
「ガチな星野写真」であっても、短い焦点距離なら強化パーツなしのポラリエの守備範囲。優秀なカメラレンズを少し絞って使用すれば、かなり攻めた撮影が可能です。さそり座・いて座・へびつかい座の銀河を50mmレンズの2枚モザイクで撮影しました。
24mmの広角レンズを縦位置で横4枚モザイクして、冬の大三角からおとめ座のスピカまでを「星座写真」としてとらえてみました。強化パーツなしのポラリエでも、いろいろな星野写真の可能性があります。
ノーマル構成のポラリエからの、最もコスパの高いライトな強化方法をひとつご紹介しましょう。カメラ用のパノラマ雲台を「標準雲台ベース」に装着するだけです。これで赤経方向のスムーズな粗動が可能になり、パノラマ雲台の角度目盛を使ったモザイク撮影も可能に。カメラ雲台の脱着もアルカスイス対応でより簡単になります(*)。
(*)上のオリオン座からスピカまでのモザイク撮影ではこのシステムを使用しています。
最強!オートガイド
「ポラリエU」では、オートガイド端子が追加されました。1軸ガイドではありますが、オートガイドすることで、より長時間の露出でも安定した追尾が可能になります。
残念ながら、今回はオートガイドを活用した「ならでは」の作例は、時間切れで撮れていないのですが、機会があればきちんと使ってみたいと思います。
ちなみに、ポラリエUでオートガイドが生きるのはどんなシーンなのでしょうか。ポラリエの軽量さを生かすのであれば、PCを持ち込んでオートガイド構成を組むのはちょっとバランスが悪いでしょう。1軸駆動で自動導入もできませんから、ステラショットのような高機能ソフトも生かせません。MGENやASI AIRのような、PCレスでオートガイドが可能なシステムを組むのが一番マッチする気がします。オートガイドで露出時間を4分,6分くらいまで伸ばすことができれば、ナローバンドやF値が暗めの鏡筒で威力を発揮することでしょう。
ポラリエUの追尾精度
ポラリエ(初代)の追尾精度の高さには定評がありました。この高精度はポラリエUでも継承されているようで、実写した画像は焦点距離250mm・露出時間1分でも全く問題ないレベルでした。これならこのサイズの小型ポータブル赤道儀として十分な精度であるといってよいと思いますが、これをもう少し定量的に検証してみました。
追尾精度の検証例
焦点距離250mmの鏡筒をポラリエUに搭載し、5秒露出で15分間連写し、それらのデータを枚数を変えてコンポジットしたものが上の画像(等倍切り出し)です。クリックで大きくなるので、目を皿のようにしてチェックしてみてください^^
ここでひとつ注意しておくべきことがあります。一定量のガイドエラーが存在する場合、「加算平均」によるコンポジットと「比較明」によるコンポジットでは、比較明の方が誤差により敏感になり、ざっくり倍くらい誤差の印象が変わります(*)。ディープスカイ撮影では通常「加算平均」しますから、以下加算平均の結果を評価してみようと思います。
(*)比較明合成した方がFWHM(full width at half maximum:半値全幅)が大きくなるからです。
明らかに(鑑賞距離でも)加算平均の8分は流れています。そこで、4分以下の加算平均の結果を細かく見てみましょう。同じ画像を2倍拡大して抜き出してみました。目を皿のようにして見れば、1分でもわずかに星像は真円ではありませんが、2分・4分で極端に悪くなっているようには見えません。筆者の基準で見れば、4分は合格ラインぎりぎり、2分なら問題なしとします(*)。
(*)解像度の限界を追求する「ラッキーイメージング」的な撮影なら、1分も不合格になるかもしれません。そのあたりは撮影者の考え方と感覚にも大きく依存するでしょう。ちなみに、比較明の画像で見れば、4分は不合格、2分がぎりぎり合格です。
上記の計測で概算したピリオディックエラーは約±20秒角でした。ビクセンのAXD2のように±2.8秒角を謳う製品があるくらいですから、この精度は赤道儀として決してパーフェクトではありません。しかし、±20秒角のピリオディックエラーが存在しても、星像の流れは現実にはこの程度です。後は、この誤差が存在する前提でそれをどう使うかです。ぶっちゃけ、流れない露出時間で撮ることです(*)。
(*)実際の撮影現場では、等倍拡大して厳密に流れを評価するのは難しいことも多いでしょう。筆者は初物の機材で撮るときは、露出時間を変えて何枚か試写して「明らかに流れると感じる露出時間の1/2にする」ことにしています。
ここでひとつ、別のシミュレーションをごらんください。上の画像は理論的に計算された理想的な光学系による星像を、少しずつずらしてコンポジットしたものです。この画像を見て、あなたならどの流れまでを合格点としますか?
筆者の基準なら、真ん中の画像「3/3(FWHM)」が合格ラインです。いいかえると「最小星像径(FWHM)」と同じ流れまでなら許容できる」です(*)。この基準はかなり一般性があるのではないかと感じています。
(*)先の実写画像に即していえば、最小星像径(FWHM)は約4pxでした。4px分の流れは上記光学系では23秒角ほど。ピリオディックエラーの周期は144枚歯のポラリエUの場合10分間、1/4回転分のエラーに相当することになり、上記シミュレーションとほぼ整合します。
「赤道儀の追尾精度」は、天文機材にとってあらゆる点で難しい数値です。数字に踊らされず、機材を有効活用する上で参考にしていただけると幸いです。
ちなみに、今回はポラリエ(初代)とポラリエUの追尾精度の比較は行っておらず、筆者には、ポラリエUの方がより追尾精度(工作精度)が高い、と断言する具体的なエビデンスはありません。しかし、ポラリエ(初代)とポラリエUでは、機材の剛性や拡張構成時の安定性など、ピリオディックエラー以外の誤差要素に大きな差があると感じています。ポラリエUの方が本来の追尾精度を発揮しやすい構造になっていることははっきりいえるでしょう。
1/2恒星時追尾の活用
もうひとつ、追尾精度つながりで「1/2恒星時追尾」について触れておきます。
ポラリエをはじめ、たいていのポータブル赤道儀には「1/2恒星時追尾」の機能が付いています。この機能は「星を追尾すると地上風景が流れてしまう」という問題を軽減するためのもので、通常の半分の速度で追尾することで「地上も星も少し流れるがその分露出時間を倍稼げる」というものです。
上の画像はその比較例。追尾なしで60秒だと星は明らかに流れてしまい、通常の恒星時追尾の60秒だと逆に地上が明らかに流れてしまいます。ところが1/2恒星時追尾なら「どちらも少し流れるが許せる範囲」になります。
1/2恒星時追尾を活用すると、露出時間を倍稼げることになり、特に暗めのレンズでの画質向上に大きく貢献します。ぜひ活用したいものですね!
どんなユーザーに向いているか
赤道儀デビュー機としてのポラリエ(初代)とポラリエU
固定撮影の星景写真から始めて「もっとキレイな星空を撮りたい」と思った人が、最初に手にする赤道儀として、価格も手ごろで使いやすいポラリエ(初代)はうってつけです。
もう少し「ガチ」なマインドを持ったマニア予備軍で、予算に余裕があれば、デビュー機はポラリエUの方がより発展性があるでしょう。基本的には「(ほぼ)完全上位互換」なので、一度財布から諭吉が出ていってしまった後では、後悔する余地はほぼありません^^;;
星景写真派の「赤道儀」として
腰を落ち着けて撮るディープスカイとは違って、フットワークを生かしてさまざまなロケーションを巡る星景撮影では、機材はできるだけシンプルで小型軽量にしたいもの。そうなるとおのずと三脚のみの固定撮影が中心になってくるでしょう。
しかし「雲台感覚」で使える小型のポータブル赤道儀があれば、撮影の自由度がだんぜん上がります。漆黒の空でもう一段露出時間を長くしたいときは「1/2恒星時追尾」という手段がありますし、絶好のロケーションで星空のクオリティも上げたいときは、コンポジット前提の追尾撮影も1セット撮っておくこともできます。
ポラリエUなら、モーションタイムラプスというバリエーションがさらに増えます。ポータブル赤道儀は、星景撮影にとっても強力なユーティリティプレイヤーとなることでしょう。
ガチ天体写真派のサブ機として
市街地に住む大半の天文ファンにとって、満天の星の下で天体写真を撮るチャンスはそう多くはありません。数少ないチャンスにできるだけ機材を稼働させたい。ガチマニアはそうやって2台目、3台目のシステムが増えてゆくのですが「ライトな手のかからないサブ機」として、1軸駆動のポータブル赤道儀は最適です。
拡張性も追尾精度も高いポラリエUなら、手持ちのパーツを流用して比較的安価にシステムを組むことも可能でしょう。モーションタイムラプスで撮影地の記録を残せることも魅力的です。
ポラリエU/ポラリエ(初代)に望むこと
ポラリエ(初代)で不満だった点はポラリエUであらかた改良され、より高度な撮影にはポラリエU、手軽な撮影にはポラリエ(初代)と棲み分けが可能になり、もう不満らしい不満はほとんどなくなりました。しかし、細かい点ではいくつか要望したい点があります。
ポラリエ(初代)の「標準雲台ベース」の強化
ポラリエUで架頭部(標準雲台ベース)が改良され、より安定した締め付けが可能になりました。重量差もほとんどないことですし、これはポラリエ(初代)でもぜひ同じものを採用してほしいものです。
実はポラリエU/ポラリエ初代の「標準雲台ベース」の規格は、ビクセンの経緯台「モバイルポルタ」のアリミゾ取付部と互換性があります。このパーツが単体販売されれば、モバイルポルタのアリミゾを、より軽量な「アルカスイス互換」に換装することもできるのです。パーツ単体で販売もぜひ検討していただきたいところです。
アプリの操作性(ポラリエU)
ポラリエUで採用されたスマホ・タブレット用のアプリは、発売後すぐにバージョン1.1で「星空撮影モード」が、さらにバージョン1.2で「ブラケット撮影モード」が追加されるなど、スピーディに改良されてきています。この勢いでお願いしたい機能追加があります。
とにかく1枚だけシャッターを切る機能です。一連の撮影を始める前に構図や追尾の確認をするために、枚数を設定に関係なく「同じ設定で1枚だけ撮影する」ボタンか、「とにかくカメラのレリーズを押すだけ(*)」のボタンがあるとさらに便利になると思います。
(*)筆者は本撮影前の構図確認のために、「ISO値を3段ほど上げて」「露出時間を3段ほど短くして」試写することが多いのですが、ISO値の制御はリモコン端子では不可能なので無理として、設定はカメラ側で変える前提で「シャッターを切るだけ」の目的です。
素通しファインダー(覗き穴)
極軸合わせのための、ポラリエ(初代)の「覗き穴」とポラリエUの「素通しファインダー」ですが、前述の通り十分実用になるものの、使いやすさの点では一長一短です。北極星を穴に入れやすい点で、少なくとも初心者にとってはポラリエUの「素通しファインダー」の方が使いやすいでしょう。より低価格で初心者向けであるはずのポラリエ(初代)にも、「素通しファインダー」を付属させることはできないでしょうか。
モーションタイムラプスの回転速度
ポラリエUの最高速度は10倍速。SMS(ショット・ムーブ・ショット)専用の機材と比較するとやや遅めです。この速度をもっと上げることができれば、モーションタイムラプスの際のインターバル時間をより短くし、同じ回転角ならフレームレートをより上げる・1コマの露光時間を長くすることができます。星空用のタイムラプスの場合はあまり速い動きは必要ないので優先度は高くないとは思うのですが、20倍速に上がるだけでも撮影の自由度がより高くなるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?
軽量コンパクトな本体と、スイッチオンですぐ使える簡単な操作。「赤道儀」の入門機として不動に地位を確保した「ポラリエ(初代)」。そして、より軽量化された上にさまざまな強化・改良がほどこされた「ポラリエU」。小型のポータブル赤道儀として、誰にでもオススメできる最も完成度の高い製品の一つであることは間違いありません(*)。
(*)ポラリエUには、天リフ的「ゼット(Z):もうこれ以上改良の余地がないくらい完成度の高い製品」の称号を贈りたいと思います。
ポラリエ(初代)は今後も併売されると聞いています。ポラリエUが出た後でも、初代ポラリエの魅力は変わりません(*)。ニーズに合わせたユーザーの選択肢を提供するという意味で、この2台が存在することはとても重要で、強力です。2つのポラリエがさらなる天文ファン・星空撮影ファンを開拓し、楽しみの幅を広げてくれるものと思います!
(*)筆者も「ポラリエ(初代)」を今後も使っていくつもりです。でも「ポラリエU」にアップグレードしたい・・・^^
「最強の赤道儀」が天文ファンを熱くする!それではまた次回お会いしましょう。
おまけ・赤道儀の入門者の方へ
今回の記事はいつもながらのマニア向けガチ記事ですが、もっと易しく・初めて赤道儀を使う方向けに書いた記事を2つご紹介しておきます。どちらも主に「ポラリエ(初代)」を例として取り上げています。ぜひご参照くださいね!
クリックで「トリセツ」連載記事にジャンプします。
前編は「ポータブル赤道儀」が必要になるのはなぜか?そしてポータブル赤道儀があればどんなことができるようになるか、そして代表的なポータブル赤道儀を三機種ご紹介しました。
クリックで「トリセツ」連載記事にジャンプします。
後編は「ポータブル赤道儀の使い方」。ビクセンの「ポラリエ」を例に、設置方法・極軸合わせの実戦的方法、各種使いこなしのノウハウを解説。
- 本記事は(株)ビクセンより機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
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- 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年3月)のものです。
- 記事中で使用したアプリ「ポラリエU」のバージョンは1.2です。
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https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/04/02/10758/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/03/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-7-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/03/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-7-150x150.jpg編集部レビューマウントマウント最強赤道儀伝説年2回更新?の連載、「最強!赤道儀伝説」。古今東西?の「最強の赤道儀」をレビューしていきます!第3回はビクセンのポータブル赤道儀「ポラリエU」と「ポラリエ(初代)」です。
実は筆者が天文復帰した2013年、初めて購入した赤道儀が「ポラリエ(初代)」でした。その後、さまざまな「パーツ沼」を経て今でも現役主力機として活躍中です。そして満を持して発売された新型「ポラリエU」。こちらは(株)ビクセン様のご厚意で実機をお借りすることができました。
この2世代でのポラリエの進化や「ポラリエ」共通の特長などをふまえ、これまた平成から令和の「最強ポータブル赤道儀」の一つである両機種を詳しくご紹介していきましょう。
ビクセンオンラインストア・星空雲台ポラリエU
https://www.vixen-m.co.jp/item/35491_7.html
ビクセンオンラインストア・星空雲台ポラリエ
https://www.vixen-m.co.jp/item/35505_1.html
すべての点で上位互換の「ポラリエU」
ポラリエUとポラリエ(初代)。この2つはどう違うのでしょうか。まず、最初に一つ結論を述べておきます。「ポラリエUは価格以外は全てポラリエ(初代)の上位互換である」と。その違いをさらっと見ていきましょう。
より小型軽量・高性能になったポラリエU
ポラリエUとポラリエ(初代)の外観の比較。ポラリエ(初代)は薄型でコンパクトですが、ずっしりと重く本体重量740g(電池別)。ポラリエUは ずんぐりした形状ですが、これまた突起が少なく収納しやすいデザインで本体重量575g(電池別)。搭載荷重が大きくなっている(*)のにもかかわらず、より軽量になっています。
(*)メーカー公称の搭載重量は、「標準雲台ベース」を使用した状態で、ポラリエ(初代)が2.0kg(回転中心からの距離が10cmのとき)、ポラリエUが2.5kg(同)です。「マルチ雲台ベース」などを使用して東西のバランスをしっかりとった状態で運用すれば、さらに重量のある機材を搭載できます。
ポラリエUを手に取ると心配になるほど軽いのですが、この違いは主に外装(ポラリエUはプラ、ポラリエ初代は金属)と、よりスリムになったウォームホイールの軸部の違いによるものでしょう(上画像)。これらの軽量化にもかかわらず、剛性感はむしろ向上している印象です。本気を出せば天文機材はまだまだ軽くできる、ということではないでしょうか。
さらに、ポラリエ(初代)から外装部にはネジが存在せず、すっきりしたデザインでしたが、ポラリエUではさらにそれが徹底し、ネジの頭が露出した部分が一切なくなっています(*)。
(*)ポラリエ(初代)では、電池ボックスの蓋を開けたところにビスがありました。
価格
ただし、価格には大きな差があります。ビクセンのオンラインストアではポラリエUが税込68,200円、ポラリエ(初代)が税込37,634円。倍近く違います。
しかし、ポラリエUは「より軽量である」ことも含めて、全ての点でポラリエ(初代)に勝っています。基本スペックが上がっただけでなく、拡張性や操作性においても、ポラリエUはポラリエ(初代)を上回っていて、劣っているところは何もありません。ポラリエ(初代)でできたことは、ほぼ全てポラリエUでも可能(*)。予算に余裕があるならポラリエU一択であることは間違いありません。
(*)後述しますが、初代ポラリエで内蔵されていた傾斜計とコンパスがポラリエUでは省略されているなどの違いがあります。
ポラリエ最強!伝説・その1
最強!本格的ディープスカイ撮影
ポラリエは初代から高い追尾精度には定評がありました。しかし、ポラリエ単体だけではその性能を十分に発揮できず、さまざまな強化パーツが必要でした。
ポラリエUでもその事情は変わらないのですが、ポラリエUでは基本構造が見直されて赤経軸の安定度が増したことと、三脚・架台頭部の接続仕様がよりスマートになったことから、強化構成がより組みやすくなりました。
この作例は焦点距離250mmで1コマ1分露出ですが、風による影響を除けば歩留まりはほぼ100%です。この焦点距離で「1分露出」ならまず流れることはありませんでした。
軽量なポータブル赤道儀の場合、追尾エラーの原因は恒星時追尾のピリオディックモーション以外にも、機材のたわみ・極軸のずれ・三脚の沈み込み・対象の赤緯など、さまざまな要因があります。一概に「ポラリエUなら、250mmで3分露出も大丈夫!」と断言することはできませんが、「1分露出ならまず大丈夫」だといえます(*)。
(*)実戦的には、試写して画像を拡大し明らかに流れを感じはじめる露出時間の半分にすれば、ほぼ100%の歩留まりになります。
Hα(赤)とOIII(青緑)の光だけを通す「ワンショットナローバンド」による作例。ブロードバンドでの撮影なら1コマ1分で不足を感じることはあまりないのですが、光量が極端に乏しくなるナローバンドでの撮影では露出時間を長くしたいもの。1コマ3分露出で各コマを細かく見ると流れているのですが、コンポジットしてしまえばごらんのとおりほぼ点像です(*)。
(*)フィルターを各コマの画像を等倍に拡大してみると、ごくわずかに各コマの星像が一様ではなく流れがあります。後は撮影者がどこまで許容するかの問題ですね^^;;
かつて、筆者はポラリエ(初代)に強化パーツを使用して望遠撮影をしていましたが「かなり無理してる」感を常に感じていました。それと比較するとポラリエUの安定感は1ランク違います。焦点距離300mmクラスの本格的なディープスカイ撮影が「無理なく」可能になったといえます。
最強!星空雲台
天の川をもっと美しく撮りたい。星景写真派のそんな願いを叶えるのがポータブル赤道儀です。上の画像は赤道儀で追尾した画像と、追尾を止めた固定撮影の画像をコンポジットしたものですが、より鮮明で精細に天の川をとらえることができました。
上の画像は固定撮影30秒の一枚撮り。鑑賞距離ではさほど流れは感じず、これでも十分作品としては成り立つのですが、等倍拡大するとはっきりと流れています。「500ルール(*)」が教える24mmレンズの限界露出時間は20秒ですが、高性能化した現代のデジタルカメラとレンズではかなり甘い基準で、その倍に厳しくした10秒露出でも流れてしまいます。天の川の「精細感」を表現するには、やはりきっちり赤道儀で追尾することが必要になります。
(*)「500÷レンズの焦点距離」秒までなら、固定撮影でも流れずに撮影できるという目安。「鑑賞距離」で流れないという基準なら500ルールでも十分ですが、等倍表示でも点像であるとするならば「200ルール」くらいが妥当でしょう。
作例をもうひとつ。こちらもポラリエ(初代)による固定撮影・追尾撮影の合成です。焦点距離の短いカメラレンズで撮影する場合は、追尾精度も耐荷重もあまり問題になりません。ポラリエ(初代)でも、ポラリエUとほとんど差がなく活用できるものと思います。
星景写真でポラリエを使用する場合は、拡張パーツは特に必要ありません。極軸微動装置も極軸望遠鏡も、あると便利ですが必須ではありません。上の画像のような標準構成で、シンプルにまさに「星空雲台」のコンセプトで、星空撮影を楽しむことができるでしょう。
最小構成でポラリエU/ポラリエ(初代)を使用する際、ポラリエならではの非常に優れた仕組みがあることを特記しておきます。
ポラリエの「標準雲台ベース」には、UNC1/4ネジでカメラ雲台を装着するのですが、実はこのネジは通常は引っ込んでいます(上画像①)。カメラ雲台を装着する際は、「標準雲台ベース」を取り外して、反対側の突起を軽く押すと、ネジが出てきます(上画像②)。カメラ雲台を回転させてねじ込みます(上画像③)。このとき、かなり強い力でしっかりと締め込むことができます。最後に「標準雲台ベース」を2本の止めネジでポラリエに装着してできあがり(上画像④)。
この仕組みが優れているのは、カメラ雲台を取り付ける際に、本体のギアに無理な力がかけられてしまうことを未然に防止し、雲台をよりしっかりとねじ込むことができることにあります(*)。
(*)架頭のネジに直接雲台をねじ込むタイプの製品では、弱い力で装着するとカメラが東側にあるときに雲台が緩んでしまうことがあります。逆に思い切り力をかけるとギアを傷めてしまう危険があります。ポラリエのギア類は金属製ですが、プラ製のギアでは破損してしまう例もあるようです。
さらに、収納時にネジが出っ張らないことで、他の機材を傷つけたりねじ山が傷付いたりすることもありません。この機構は、地味ながらも製品の特性とユーザーの利便性に配慮された、素晴らしい設計であるといえるでしょう。
最強!モーションタイムラプス
https://youtu.be/DVl32F4Xwyg
「ポラリエU」では「モーションタイムラプス」のための機能が追加されました。モーションタイムラプスとは、上の作例(*)のように水平方向や垂直方向にカメラを回転させ、より「動きのある」タイムラプスを撮影する手法です。
(*)芸のない作例で恐縮です^^;;;;ビクセン公式チャンネルの 北山輝泰さんの作例をぜひごらんください!
ポラリエUでは「SMS(Shoot-Move-Shoot)」の撮影が可能になりました。これは、モーションタイムラプス撮影の際に、コマとコマの間だけ架台を回転することで、撮影中の星の流れを最小にするための機能です。「shoot(撮影)」の際は停止、次の「shoot」までのインターバルで架台が回転します。
モーションタイムラプス機能の追加で、ポラリエUの活用シーンはさらに広がったといえるでしょう。
ポラリエU/ポラリエ(初代)の特徴と比較
それでは、ポラリエUとポラリエ(初代)の各部を詳しく見ていきましょう。
スイッチオンですぐ使えるコンパクトな「星空雲台」
基本的にポラリエにはややこしい操作や設定は何もありません。スイッチを入れて、動作モードを設定するだけです。一度操作してみれば、迷うことなく誰でも使うことができるでしょう。
ただしポラリエUでは、北半球・南半球モードを電源スイッチと同じスライドスイッチで切り替える形になりました(*)。北半球が「N」、南半球が「S」。これを間違うと「倍速」で流れてしまうので要注意です。
(*)ポラリエ(初代)では、電池ボックスの中の小さなスイッチで行います。先の尖ったドライバなどが必要なので簡単ではなかったのですが、逆に初心者には存在を意識させず誤操作が少なくなる形でした。
動作モードの「恒星時追尾(★)」「1/2恒星時追尾」「太陽時追尾」「月追尾」の4つは両ポラリエで共通ですが、ポラリエUでは「C(カスタム:0.0倍〜10.0倍までをアプリで設定)」が追加されています(*)。
(*)使い道としては、例えば「0.7倍速」のような設定にして、1/2恒星時追尾よりも星の流れを少なくするなどが考えられます。
ちなみに、ポラリエUの電源をONすると、モード表示部が流れるように(*)点灯してして起動するのですが、よくみるとN方向にONするときとS方向にONするときで、流れる方向が逆になっています。これは日周運動の回転方向と同じ。少しでも誤操作を減らすための配慮だそうです。
(*)アラフィフ以上の中高年には「電子フラッシャーのように」と表現すれば伝わるでしょう^^
カメラ雲台などを取り付ける「標準雲台ベース」の取付部の勘合規格は同じで、新旧で互換性があります。底部の三脚側のネジ穴は初代はUNC1/4インチ専用ですが、ポラリエUではUNC3/8インチ・UNC1/4インチの両対応になり、アルカスイス互換のアリガタにもなっています。
ポラリエUの標準雲台ベースは、ローレット部が一回り大きくなり、ずっと締めやすくなりました。さらに、六角レンチ(ヘックスキー)で増し締めも可能。初代では角度によっては締めにくいことがあり、使用中に緩んでしまうこともあったのですが、これはたいへん大きな改良です。
ポラリエUの本体には、モーションタイムラプスを想定してか、角度目盛が刻まれ水準器も追加されています。目盛の指標は付属のシールを貼り付けます。このシールは後述する「クイックリリースパノラマクランプ」でも使用可能です。
三脚用のネジ穴はこちらの面にもあり、モーションタイムラプスで水平回転させる際に使用できます。後述する極軸望遠鏡の止め金具もこのネジ穴に装着します。
少なくなった「死角」
ポラリエ(初代)は横長の構造のため、上の画像のように南中時の縦構図でカメラとポラリエ本体が干渉してしまうことがありました。ポラリエUでは筐体が縦長になったため、このような干渉が発生する可能性が大きく減っています。
一方で、上画像右のように、南中北天の撮影(*)の際にはかなり狭苦しい態勢になります。縦長のポラリエUの方が若干余裕がありますが、苦しいことにはかわりありません。これは極軸部先端に自由雲台を接続したポータブル赤道儀の宿命で、解決するにはドイツ型やフォーク型の構成を取るしかありません。
(*)カシオペヤ座やみなみじゅうじ座の南中時がこの体勢になります。このような体勢のとき、カメラがバリアングルモニターだと使い勝手が大幅に改善します。
本格的な撮影でも使える拡張性
ポラリエ(初代)は「星空雲台」というライト感のあるニックネームからもわかるように、当初はあまり「ガチ」ではない撮影を想定していたものと推測します。しかし、実際はかなりレベルの高い追尾精度をもっていたことから、さまざまな「強化パーツ」が後から出てきました。
これらの強化パーツは、付属の「標準雲台ベース」を換装する形でしたが、ポラリエUでは従来の仕様を継承しつつも、より安定して強化パーツが取り付けられる構造になりました。
ポラリエUの架頭部の3本のM4ネジを外すと、六個のM6ネジ穴が現れます(*)。このネジ穴には別売のクイックリリースパノラマクランプを装着することができ、架頭をアルカスイス互換(**)にすることができます。
(*)間隔は35mmではありません。
(**)ビクセンでは「アルカスイス互換」の仕様を「薄型アタッチメント(プレート)」と呼称しています。
アスカスイス互換のクランプ・プレートは、ビクセン規格のアリガタと比較すると重量機材で使用するには強度の点で劣りますが、より小型軽量にシステムを組めることと、非常に数多くの互換パーツが市場に流通しているのがメリットです。小型軽量なポラリエUには、こちらの方がよりマッチしているといえるでしょう。
後述しますが、ポラリエの「標準雲台ベース」に汎用のパノラマ雲台を装着するか、別売の「ポラリエ用マルチ雲台ベース」を装着しても同じようなことができます。しかし、上の画像を見てもわかるとおり、クイックリリースパノラマクランプを使用する方がより軽量で、取付もM6の2点止めでより堅固。用途に応じて選べるにようになったのは大きな進化といえるでしょう。
ちなみに、ポラリエUの架頭部の「3点止め」の接合部ですが、同じビクセン社のAPマウントとは互換性はありません。ネジの太さも間隔も、一回り小さくなっています。
ポラリエU/ポラリエ(初代)のシステム拡張
ポラリエUを「ドイツ式赤道儀」や「片持ちフォーク赤道儀」の構成に組めば、東西のバランスをきっちり合わせることが可能になりシステムがより安定することで、重量級の望遠レンズや小型の天体望遠鏡を使用した天体撮影までが視野に入ってきます。上の構成では、カメラ・レンズを合わせて5〜6kg程度の機材を搭載していますが、剛性的には十分な感じです。
ポラリエ(初代)では、ポラリエ本体と上下微動雲台の固定がボトルネックになることがありましたが、アルカスイス互換システムになったポラリエUでは、その点でも安定度が上がっています。
ちなみに、このようなドイツ式構成を組む場合に外してはならない注意点があります。上の画像では赤緯側に自由雲台を使用していますが、これはオススメできない構成。構図合わせのために雲台をフリーにすると大きくバランスが崩れてしまい、重量機材を支えきれなくなってしまいます。ドイツ式に組む場合は、赤緯側は最低でもバランスを取った状態で可動できる粗動機構が必要です。
望遠レンズを使用しない場合でも、ドイツ式やフォーク式に拡張することには意味があります。バランスがしっかり取れたドイツ式やフォーク式では、追尾がより安定するだけでなく、構図あわせが楽になり、死角もより少なくなります。
ポラリエの架頭部をアルカスイス互換にしておけば、市場に多数流通しているさまざまなアルカスイス互換パーツを組み合わせた構成が可能になります。ドイツ式やフォーク式など、工夫一つでいろいろな形態が可能でしょう。こういう構成をあれこれ試してみるのも、ポータブル赤道儀の楽しみの一つですね^^
アプリでさらに便利に・高機能に
ポラリエUはWiFiを搭載していて、専用のアプリからモーションタイムラプスや星野撮影を行うことができます。ここで鍵になるのが「シャッターコントロール」です。カメラをバルブモードに設定しておけば、ポラリエUが自動的にシャッター開閉を行う形の連続撮影が可能になります。
ポラリエUの本体にあるカメラ制御用のステレオミニジャックとカメラを接続するケーブルは、各社のカメラに対応した7種類が発売されています。ほぼすべての一眼カメラに対応しているといってよいでしょう。
アプリ「Polarie U」のタイムラプスの設定画面。露光時間とそのときの回転速度、インターバル(待機)時間とそのときの回転速度、撮影枚数を設定します。便利なのは、全体の回転角と方向を画面上に表示してくれるところ。これなら回転角をシミュレーションしながら設定をチューニングできるでしょう。
タイムラプスの応用が「星景・天体写真」モード。こちらは撮影・インターバルで追尾速度は設定した速度で一定。「2秒間隔で、1分、60枚」のように設定します(*)。
(*)一軸駆動でもあるので「ディザリング」の機能はありません。
さらに凝っているのが「ブラケット」モード。露出時間を3通り(*)設定して「多段階露光」が可能になっています。
(*)かならず3通り設定しないといけない・各露光時間の枚数は全て同じ、という制約があるようで、使いこなしはよく考える必要があるでしょう。シャッターケーブルでの制御のため、ISO値を変えることはできません。「露光2段階」で「枚数を個別に設定できる」方が筆者にとってはありがたいですが、そのあたりは今後のユーザーのフィードバック次第でしょう。
現在の進捗状況がアプリで確認できること(*)、タイマーリモコンよりも時間・枚数の設定が簡単であること、ケーブルがブラブラしないことなど、タイマーリモコンを使用して連続撮影をするよりもはるかに便利です。これはぜひ活用したい機能です。
(*)ちなみに、動作中にアプリを終了させたりWiFiが切断しても大丈夫でした。接続が復活すればほどなくステータスも最新化されます。
ポラリエの電源
ポラリエUの電源は、単三電池ないしはUSBからの給電です。初代ポラリエは単三電池2本で2時間動作可能でしたが、ポラリエUは単三電池4本で稼働時間が7時間まで伸びました(*)。USBの給電も初代はUSB-miniでしたが、USB-Cとなりました。細かいところですが嬉しい改良です。
(*)初代ポラリエは実感値としてはもう少し電池が持つ印象ですが、それでも一晩はちょっと無理。ポラリエUなら満充電しておけばなんとか持つでしょう。撮影中の電池切れの心配が少なくなるのは大きいです。ポラリエUのWiFi使用時は電池の減りが早くなるとされていますが、これが実際どれくらいかは確認できていません。
ポラリエの収納
コンパクトなポラリエは、カメラバッグにレンズやカメラと同じ感覚で収納できます。ポラリエ初代は長方形だったので、カメラボディと同じくらいの間仕切りが必要でしたが、ポラリエUはレンズ一本分で収納が可能。これは明らかにコンパクトです。さらに「マルチ雲台ベース」を装着した場合の収納性はポラリエUの圧勝です(*)。
(*)ポラリエ(初代)では、マルチ雲台ベースを装着するとカメラバッグにうまくおさまらないような嵩張った状態になってしまいかなり不便。かといって、脱着には小さなイモネジ3個を緩める必要がありそれも現実的ではありませんでした。
ポラリエの極軸合わせ
ポータブル赤道儀を活用する上で、避けて通れないのが極軸合わせです。これをいかに簡単に・スマートに、そして目的に応じた精度で行えるかが、使いやすさにも作品の仕上がりを大きく左右します。
極軸合わせに求められる精度
ポラリエのような1軸駆動のポータブル赤道儀では、どの程度の極軸合わせの精度が必要なのでしょうか。極軸合わせのツールとして古くから使用されてきた「極軸望遠鏡」では、少なくともパターン上では1分角程度の誤差を認識できてしまいます。このため、使う側も「そのくらいの精度で合わせなければ!」と思ってしまうのですが、実際にはもっとラフでも問題ないのです。
乱暴に結論だけを言ってしまうと、赤経方向のピリオディックエラーが仮に±27秒角とすると、ギアの歯数が144枚なら極軸合わせの精度は機材の焦点距離に関係なく「40分角」あれば十分です(*)。この精度で合わせれば、ピリオディックエラーによる誤差を極軸のずれによる誤差が上回ることはありません。短時間露出の範囲では、極軸のずれによる誤差をピリオディックエラーよりもやたら小さくしても、トータルの追尾精度は大して向上しないのです。
(*)露出時間が2.5分(ウォームギア1/4回転分)より短い場合。この仮説の詳細については、別途天リフ記事で詳しく解説する予定です。
レンズの焦点距離が短くなると、さらにラフな極軸合わせでも問題なくなります。星景写真でよく使用される24mm広角レンズの場合なら、仮に極軸が3°ずれていても、4分間の露出時間での星の流れは22μ(*)です。星景写真で4分の露出時間はかなり長めで、通常は30秒〜2分程度あれば十分でしょう。それなら極軸のずれはさらに大きくても問題ないことになります。
(*)「天体写真の世界・追尾に必要な精度と赤道儀」参照。この22μという値は「500ルール」よりも1.5倍厳しい基準です。
とはいえ、正確に合わせるにこしたことはありませんし、「どんなやり方ならどこまでの精度が出せるか」が明らかでなければ、この目安も活用できません。以下、さまざまな極軸合わせの方法について、目標精度と合わせて見ていきましょう。
「のぞき穴」による極軸合わせ(目標精度1〜2°角)
ポラリエを使うならぜひマスターしておきたい方法が「のぞき穴」を使用した極軸合わせです。のぞき穴の実視界は約9度程度なので、こののぞき穴に北極星を入れさえすれば、4.5度の極軸精度が得られることになります。広角レンズを使用した星野写真では十分に実用になることでしょう。
しかし、この手法で精度を1度以内に追い込むのは難しいでしょう。暗闇では尚更です。眼の位置が上下左右に少し振れただけでも、視野円の中心がずれてしまうからです。
ポラリエUでは、こののぞき穴が若干使いやすく改良されました。ポラリエ初代では本体が肉眼の視野を大きく遮ってしまうため、北極星を中に入れるのがやや難しかったのですが、ポラリエUでは画像のように穴の外側もある程度見えているため、特に初心者にはより合わせやすいでしょう(*)。
(*)逆にポラリエUでは穴の周囲が全て黒なので、眼の位置の偏りが判断不可能です。ポラリエ(初代)の場合は目元の穴の外周が白なので、ほの明るい場所なら穴から見える空の円と外周の白い円が同心になるようにすることで、眼の位置をある程度正確に中央に置くことができます。
より正確に合わせたい場合は、上の画像のように眼の位置を大きく離すことで、穴の視界が狭くなり眼の位置の偏りの影響も受けにくくなります。
のぞき穴方式は荒っぽいようですが、ある程度慣れてくれば2°程度の精度はコンスタントに出せるのではないかと思います。本記事の星景の作例では、すべてこの方法で極軸合わせをしています。
北極星を使わない極軸合わせ(目標精度2°〜5°角)
北極星による極軸合わせは、「北極星を見つける」というところからはじまる初心者には、なかなか難しいところがあります。
初代ポラリエでは、本体に「方位磁石」と「傾斜計」が内蔵されています。傾斜計はともかくも方位磁石の実用性はちょっと微妙ですが、「だいたいの方向に向ける」用途としては使えるでしょう(*)。
(*)それでも広角レンズの1分露出程度までなら十分です。
もう一つ、別売の「ポーラーメーター」を使用する方法もあります。近傍に鉄筋のような磁性体がある場所では使えませんが、方位磁石は1°単位で目盛が振られたなかなか本格的なものです。北極星を使用したのぞき穴合わせを難しく感じるようなら、使ってみるのもアリでしょう。
光学式極軸望遠鏡による極軸合わせ(目標精度10分角以下)
望遠レンズを使用した撮影など、1°よりも極軸の精度を上げたい場合には、光学式極軸望遠鏡が必要になってきます。
ポラリエUでは、極軸望遠鏡を上の画像のように「極望アーム(*)」を使用して「横付け」する形になりました。構成によっては機材を搭載機材を外さないと(**)極軸望遠鏡が使用できなかったポラリエ(初代)からの大きな改良点です。
(*)本体への取付はUNC3/8ネジ(太ネジ)です。例えばSWATシリーズの極軸望遠鏡ステーはM6なので、相互に互換性がないことに注意が必要です。3/8<->1/4と同じような3/8<->M6の変換アダプタがあるとよいのですが、筆者には見つけられませんでした。
(**)機材の重量が大きいと、たわみや地面への沈み込みで、機材を外すとかなりズレてしまいます。
光学式極軸望遠鏡を使用すれば、10分角程度の精度は出すことができるでしょう。逆に、様々な誤差(極軸望遠鏡の光軸、パターンの芯出し、極望アームの接合面の精度など)によってそれ以上の精度をコンスタントに求めるのは難しいといえます(*)。
(*)極軸誤差が10分角なら、前掲のロジックに従えば、±7秒角のピリオディックモーションの赤道儀でも十分許容できる範囲です。
なお、ポラリエ(初代)用の極軸望遠鏡は、ポラリエUとは互換性がありませんが、アダプタを外すことで両方で使用できるようになる無償取り外しサービスが実施されています(*)。
(*)極軸望遠鏡はそれなりのお値段がするのですが、将来にわたって同じ製品が様々な機種に使用できれば「一生(半生?)もの」のツールになります。これは大変ありがたいサービスです。
「電子極望」による極軸合わせ(目標精度数分角以下)
さらに設置精度を追求するなら、PoleMasterやASI AIRの「Poler Alignment」などの「電子的な」極軸合わせの出番です。この方法なら数分角程度以下にまで誤差を追い込めるでしょう。
ただし、ポラリエのような軽量なポータブル赤道儀において、そこまでの設置精度が要求されるのか、設置できても維持できるのか(*)はやや疑問です。むしろ「自分が慣れた方法が機材が違ってもそのまま使えるメリット」のほうが大きいかもしれません。
(*)三脚の沈みこみや、勘合部・擦動部の微妙なズレなど、小型の軽量機材では様々なズレ要素があります。
ポラリエを「35°傾斜」させる方法
小型のポータブル赤道儀のシステム構成で一番悩むのが「極軸を緯度に合わせて」約35°傾けることと、極軸合わせのためにそれを上下左右に調整する方法です。ポラリエの場合、一番安直な方法は上の画像のように「自由雲台」のようなカメラ雲台を使用する方法ですが、細かな上下左右の調整が難しい上、雲台そのものにそれなりの重量(*)があります。
(*)上の画像の雲台は実測425g。ポラリエU本体とあまり変わりません。
極軸望遠鏡を使用せず、のぞき穴でラフに極軸合わせをする場合にイチオシなのがこの構成。わずか63gのパーツですが、ポラリエU・ポラリエ(初代)の両方で使用できる便利なパーツです。筆者もポラリエ(初代)から愛用しています。
より正確な極軸合わせを行うには、上下左右の微動装置がついた専用の極軸微動雲台が便利です。各社からさまざまな製品が出ていますが、こちらはビクセン純正のポラリエ(初代)用の極軸微動雲台。勘合仕様の関係でポラリエ(初代)専用になります。
さらに堅牢で重量機材の搭載にも対応した(公称耐荷重8kg)のが、近く発売されるビクセンの極軸微動雲台DX。残念ながら今回は試用できませんでしたが、昨年の各所の星まつりでも展示されていた製品で、剛性はなかなかのものです。
架頭がアルカスイス互換なのでポラリエUをそのままワンタッチで装着でき、ビクセン仕様の45mm径の三脚(AP三脚など)に搭載するアダプタも付属しています。特に、傾斜角度が0°から90度まで可変できるのには注目。日食などの海外遠征で低緯度・高緯度地方に出かけるときでも使えます。
ポラリエ最強!伝説・その2
最強!遠征システム
軽量なポラリエは、海外や離島の遠征にも最適。空の暗い場所でたっぷり露出をかけて、天の川をしっかり写しだすことができます。上の画像は、ポラリエ(初代)を使用して、西オーストラリアで撮影した南天の天の川。暗黒星雲の入り乱れた星野を24mmの広角レンズでとらえました。
上の画像を撮影中のポラリエ(初代)。カメラと三脚を除いた、本体・カメラ雲台で約1kg。メイン機材としてもサブ機材としても、余裕で持って行ける重量です。「ポラリエU」ならさらに180gほど軽量になります。
離島での遠征で。フットワークを生かしてあちこちのロケーションを巡る撮影では、ポラリエの機動性が大いに発揮されます。撮影機材を2セット持って余裕で徒歩で移動できるのは、軽量なポータブル赤道儀ならではのメリットです。
最強!パノラマ星野撮影
「ガチな星野写真」であっても、短い焦点距離なら強化パーツなしのポラリエの守備範囲。優秀なカメラレンズを少し絞って使用すれば、かなり攻めた撮影が可能です。さそり座・いて座・へびつかい座の銀河を50mmレンズの2枚モザイクで撮影しました。
24mmの広角レンズを縦位置で横4枚モザイクして、冬の大三角からおとめ座のスピカまでを「星座写真」としてとらえてみました。強化パーツなしのポラリエでも、いろいろな星野写真の可能性があります。
ノーマル構成のポラリエからの、最もコスパの高いライトな強化方法をひとつご紹介しましょう。カメラ用のパノラマ雲台を「標準雲台ベース」に装着するだけです。これで赤経方向のスムーズな粗動が可能になり、パノラマ雲台の角度目盛を使ったモザイク撮影も可能に。カメラ雲台の脱着もアルカスイス対応でより簡単になります(*)。
(*)上のオリオン座からスピカまでのモザイク撮影ではこのシステムを使用しています。
最強!オートガイド
「ポラリエU」では、オートガイド端子が追加されました。1軸ガイドではありますが、オートガイドすることで、より長時間の露出でも安定した追尾が可能になります。
残念ながら、今回はオートガイドを活用した「ならでは」の作例は、時間切れで撮れていないのですが、機会があればきちんと使ってみたいと思います。
ちなみに、ポラリエUでオートガイドが生きるのはどんなシーンなのでしょうか。ポラリエの軽量さを生かすのであれば、PCを持ち込んでオートガイド構成を組むのはちょっとバランスが悪いでしょう。1軸駆動で自動導入もできませんから、ステラショットのような高機能ソフトも生かせません。MGENやASI AIRのような、PCレスでオートガイドが可能なシステムを組むのが一番マッチする気がします。オートガイドで露出時間を4分,6分くらいまで伸ばすことができれば、ナローバンドやF値が暗めの鏡筒で威力を発揮することでしょう。
ポラリエUの追尾精度
ポラリエ(初代)の追尾精度の高さには定評がありました。この高精度はポラリエUでも継承されているようで、実写した画像は焦点距離250mm・露出時間1分でも全く問題ないレベルでした。これならこのサイズの小型ポータブル赤道儀として十分な精度であるといってよいと思いますが、これをもう少し定量的に検証してみました。
追尾精度の検証例
焦点距離250mmの鏡筒をポラリエUに搭載し、5秒露出で15分間連写し、それらのデータを枚数を変えてコンポジットしたものが上の画像(等倍切り出し)です。クリックで大きくなるので、目を皿のようにしてチェックしてみてください^^
ここでひとつ注意しておくべきことがあります。一定量のガイドエラーが存在する場合、「加算平均」によるコンポジットと「比較明」によるコンポジットでは、比較明の方が誤差により敏感になり、ざっくり倍くらい誤差の印象が変わります(*)。ディープスカイ撮影では通常「加算平均」しますから、以下加算平均の結果を評価してみようと思います。
(*)比較明合成した方がFWHM(full width at half maximum:半値全幅)が大きくなるからです。
明らかに(鑑賞距離でも)加算平均の8分は流れています。そこで、4分以下の加算平均の結果を細かく見てみましょう。同じ画像を2倍拡大して抜き出してみました。目を皿のようにして見れば、1分でもわずかに星像は真円ではありませんが、2分・4分で極端に悪くなっているようには見えません。筆者の基準で見れば、4分は合格ラインぎりぎり、2分なら問題なしとします(*)。
(*)解像度の限界を追求する「ラッキーイメージング」的な撮影なら、1分も不合格になるかもしれません。そのあたりは撮影者の考え方と感覚にも大きく依存するでしょう。ちなみに、比較明の画像で見れば、4分は不合格、2分がぎりぎり合格です。
上記の計測で概算したピリオディックエラーは約±20秒角でした。ビクセンのAXD2のように±2.8秒角を謳う製品があるくらいですから、この精度は赤道儀として決してパーフェクトではありません。しかし、±20秒角のピリオディックエラーが存在しても、星像の流れは現実にはこの程度です。後は、この誤差が存在する前提でそれをどう使うかです。ぶっちゃけ、流れない露出時間で撮ることです(*)。
(*)実際の撮影現場では、等倍拡大して厳密に流れを評価するのは難しいことも多いでしょう。筆者は初物の機材で撮るときは、露出時間を変えて何枚か試写して「明らかに流れると感じる露出時間の1/2にする」ことにしています。
ここでひとつ、別のシミュレーションをごらんください。上の画像は理論的に計算された理想的な光学系による星像を、少しずつずらしてコンポジットしたものです。この画像を見て、あなたならどの流れまでを合格点としますか?
筆者の基準なら、真ん中の画像「3/3(FWHM)」が合格ラインです。いいかえると「最小星像径(FWHM)」と同じ流れまでなら許容できる」です(*)。この基準はかなり一般性があるのではないかと感じています。
(*)先の実写画像に即していえば、最小星像径(FWHM)は約4pxでした。4px分の流れは上記光学系では23秒角ほど。ピリオディックエラーの周期は144枚歯のポラリエUの場合10分間、1/4回転分のエラーに相当することになり、上記シミュレーションとほぼ整合します。
「赤道儀の追尾精度」は、天文機材にとってあらゆる点で難しい数値です。数字に踊らされず、機材を有効活用する上で参考にしていただけると幸いです。
ちなみに、今回はポラリエ(初代)とポラリエUの追尾精度の比較は行っておらず、筆者には、ポラリエUの方がより追尾精度(工作精度)が高い、と断言する具体的なエビデンスはありません。しかし、ポラリエ(初代)とポラリエUでは、機材の剛性や拡張構成時の安定性など、ピリオディックエラー以外の誤差要素に大きな差があると感じています。ポラリエUの方が本来の追尾精度を発揮しやすい構造になっていることははっきりいえるでしょう。
1/2恒星時追尾の活用
もうひとつ、追尾精度つながりで「1/2恒星時追尾」について触れておきます。
ポラリエをはじめ、たいていのポータブル赤道儀には「1/2恒星時追尾」の機能が付いています。この機能は「星を追尾すると地上風景が流れてしまう」という問題を軽減するためのもので、通常の半分の速度で追尾することで「地上も星も少し流れるがその分露出時間を倍稼げる」というものです。
上の画像はその比較例。追尾なしで60秒だと星は明らかに流れてしまい、通常の恒星時追尾の60秒だと逆に地上が明らかに流れてしまいます。ところが1/2恒星時追尾なら「どちらも少し流れるが許せる範囲」になります。
1/2恒星時追尾を活用すると、露出時間を倍稼げることになり、特に暗めのレンズでの画質向上に大きく貢献します。ぜひ活用したいものですね!
どんなユーザーに向いているか
赤道儀デビュー機としてのポラリエ(初代)とポラリエU
固定撮影の星景写真から始めて「もっとキレイな星空を撮りたい」と思った人が、最初に手にする赤道儀として、価格も手ごろで使いやすいポラリエ(初代)はうってつけです。
もう少し「ガチ」なマインドを持ったマニア予備軍で、予算に余裕があれば、デビュー機はポラリエUの方がより発展性があるでしょう。基本的には「(ほぼ)完全上位互換」なので、一度財布から諭吉が出ていってしまった後では、後悔する余地はほぼありません^^;;
星景写真派の「赤道儀」として
腰を落ち着けて撮るディープスカイとは違って、フットワークを生かしてさまざまなロケーションを巡る星景撮影では、機材はできるだけシンプルで小型軽量にしたいもの。そうなるとおのずと三脚のみの固定撮影が中心になってくるでしょう。
しかし「雲台感覚」で使える小型のポータブル赤道儀があれば、撮影の自由度がだんぜん上がります。漆黒の空でもう一段露出時間を長くしたいときは「1/2恒星時追尾」という手段がありますし、絶好のロケーションで星空のクオリティも上げたいときは、コンポジット前提の追尾撮影も1セット撮っておくこともできます。
ポラリエUなら、モーションタイムラプスというバリエーションがさらに増えます。ポータブル赤道儀は、星景撮影にとっても強力なユーティリティプレイヤーとなることでしょう。
ガチ天体写真派のサブ機として
市街地に住む大半の天文ファンにとって、満天の星の下で天体写真を撮るチャンスはそう多くはありません。数少ないチャンスにできるだけ機材を稼働させたい。ガチマニアはそうやって2台目、3台目のシステムが増えてゆくのですが「ライトな手のかからないサブ機」として、1軸駆動のポータブル赤道儀は最適です。
拡張性も追尾精度も高いポラリエUなら、手持ちのパーツを流用して比較的安価にシステムを組むことも可能でしょう。モーションタイムラプスで撮影地の記録を残せることも魅力的です。
ポラリエU/ポラリエ(初代)に望むこと
ポラリエ(初代)で不満だった点はポラリエUであらかた改良され、より高度な撮影にはポラリエU、手軽な撮影にはポラリエ(初代)と棲み分けが可能になり、もう不満らしい不満はほとんどなくなりました。しかし、細かい点ではいくつか要望したい点があります。
ポラリエ(初代)の「標準雲台ベース」の強化
ポラリエUで架頭部(標準雲台ベース)が改良され、より安定した締め付けが可能になりました。重量差もほとんどないことですし、これはポラリエ(初代)でもぜひ同じものを採用してほしいものです。
実はポラリエU/ポラリエ初代の「標準雲台ベース」の規格は、ビクセンの経緯台「モバイルポルタ」のアリミゾ取付部と互換性があります。このパーツが単体販売されれば、モバイルポルタのアリミゾを、より軽量な「アルカスイス互換」に換装することもできるのです。パーツ単体で販売もぜひ検討していただきたいところです。
アプリの操作性(ポラリエU)
ポラリエUで採用されたスマホ・タブレット用のアプリは、発売後すぐにバージョン1.1で「星空撮影モード」が、さらにバージョン1.2で「ブラケット撮影モード」が追加されるなど、スピーディに改良されてきています。この勢いでお願いしたい機能追加があります。
とにかく1枚だけシャッターを切る機能です。一連の撮影を始める前に構図や追尾の確認をするために、枚数を設定に関係なく「同じ設定で1枚だけ撮影する」ボタンか、「とにかくカメラのレリーズを押すだけ(*)」のボタンがあるとさらに便利になると思います。
(*)筆者は本撮影前の構図確認のために、「ISO値を3段ほど上げて」「露出時間を3段ほど短くして」試写することが多いのですが、ISO値の制御はリモコン端子では不可能なので無理として、設定はカメラ側で変える前提で「シャッターを切るだけ」の目的です。
素通しファインダー(覗き穴)
極軸合わせのための、ポラリエ(初代)の「覗き穴」とポラリエUの「素通しファインダー」ですが、前述の通り十分実用になるものの、使いやすさの点では一長一短です。北極星を穴に入れやすい点で、少なくとも初心者にとってはポラリエUの「素通しファインダー」の方が使いやすいでしょう。より低価格で初心者向けであるはずのポラリエ(初代)にも、「素通しファインダー」を付属させることはできないでしょうか。
モーションタイムラプスの回転速度
ポラリエUの最高速度は10倍速。SMS(ショット・ムーブ・ショット)専用の機材と比較するとやや遅めです。この速度をもっと上げることができれば、モーションタイムラプスの際のインターバル時間をより短くし、同じ回転角ならフレームレートをより上げる・1コマの露光時間を長くすることができます。星空用のタイムラプスの場合はあまり速い動きは必要ないので優先度は高くないとは思うのですが、20倍速に上がるだけでも撮影の自由度がより高くなるのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?
軽量コンパクトな本体と、スイッチオンですぐ使える簡単な操作。「赤道儀」の入門機として不動に地位を確保した「ポラリエ(初代)」。そして、より軽量化された上にさまざまな強化・改良がほどこされた「ポラリエU」。小型のポータブル赤道儀として、誰にでもオススメできる最も完成度の高い製品の一つであることは間違いありません(*)。
(*)ポラリエUには、天リフ的「ゼット(Z):もうこれ以上改良の余地がないくらい完成度の高い製品」の称号を贈りたいと思います。
ポラリエ(初代)は今後も併売されると聞いています。ポラリエUが出た後でも、初代ポラリエの魅力は変わりません(*)。ニーズに合わせたユーザーの選択肢を提供するという意味で、この2台が存在することはとても重要で、強力です。2つのポラリエがさらなる天文ファン・星空撮影ファンを開拓し、楽しみの幅を広げてくれるものと思います!
(*)筆者も「ポラリエ(初代)」を今後も使っていくつもりです。でも「ポラリエU」にアップグレードしたい・・・^^
「最強の赤道儀」が天文ファンを熱くする!それではまた次回お会いしましょう。
おまけ・赤道儀の入門者の方へ
今回の記事はいつもながらのマニア向けガチ記事ですが、もっと易しく・初めて赤道儀を使う方向けに書いた記事を2つご紹介しておきます。どちらも主に「ポラリエ(初代)」を例として取り上げています。ぜひご参照くださいね!
クリックで「トリセツ」連載記事にジャンプします。
前編は「ポータブル赤道儀」が必要になるのはなぜか?そしてポータブル赤道儀があればどんなことができるようになるか、そして代表的なポータブル赤道儀を三機種ご紹介しました。
クリックで「トリセツ」連載記事にジャンプします。
後編は「ポータブル赤道儀の使い方」。ビクセンの「ポラリエ」を例に、設置方法・極軸合わせの実戦的方法、各種使いこなしのノウハウを解説。
本記事は(株)ビクセンより機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。
特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
記事中の製品仕様および価格は執筆時(2020年3月)のものです。
記事中で使用したアプリ「ポラリエU」のバージョンは1.2です。
記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部山口
千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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