2019年3月早々にデリバー開始予定の注目のWilliam Opticsの新製品「RedCat51」。天リフでは「天文ハウスTOMITA」様よりデモ機を借用することができました。早速、レビューをお届けしたいと思います。

天文ハウスTOMITA RedCat51
http://www.y-tomita.co.jp/telescope/williamoptics/redcat51.html

RedCat51とは

「RedCat51」は「William Optics社(以下WO社と略)」が開発中の新商品で、異常低分散硝材「FPL51」と「FPL53」を各1枚使用した「ペッツバール型」の「4枚玉アポクロマート」です。口径は51mm、焦点距離は250mm、F4.9。フルサイズで周辺まで良像が得られる(主に)写真用の鏡筒です(*)。



(*)今回は使用していませんが、専用の眼視用天頂プリズムも発売されるそうです。

「(改良)ペッツバール型(*)」の光学系は、タカハシのFSQ106EDやFSQ85ED(P)でも採用されているレイアウトです。写真鏡筒としての最大のメリットはフラットナーやレデューサなどの「補正レンズ」を使用しなくても写真撮影に使えること。

(*)歴史的な当初の「ペッツバール型」とは異なり、前群が分離型、後群2枚の間隔を大きく空けた構成になっています。

それに加えて「RedCat51」では、ヘリコイド式のピント合わせや筐体と一体設計された三脚座など、カメラレンズのような手軽さで使用できるのがユニークなところ。その鏡筒の実力はいかに?

下の天リフ記事もご参照ください!

William Optics社製4枚玉鏡筒「RedCat 51」

 

クール&シンプル&コンパクト

六本ヒゲの猫のイラストがRedCatのトレードマーク。ヒゲはバーティノフマスクの光条を表しています。本体に比べて十二分に大きなケースなので運搬時の衝撃の心配も少なそう。

専用のケースの中には鏡筒が一本。超シンプルです。左上の白い箱は別売のカメラアダプタですが、商品構成はこれだけ。間仕切りを調節すればカメラアダプタ装着状態でも収納できるでしょう。

セットアップ完了。鏡筒が短いので片持ちフォークで運用可能でした。

ケースから取りだしてやったことは、「カメラアダプタの取り付け」「フードを反転して取り付け」「アリガタプレートをひっくり返す(*)」の3つだけ。赤道儀に装着してヒーターとカメラボディを取り付ければ撮影準備完了。

(*)ビクセンアリガタ用の状態だったので六角レンチで外して裏返してアルカスイス状態に変更しました。後述。

アルカスイス・ビクセン両対応の三脚座と鏡筒バンド

鏡筒バンドと三脚座が標準で付属しています。鏡筒バンドは70-200mmクラスの望遠レンズのそれよりも一回り大きく幅広。2点式ではありませんが、デジタル一眼での運用であれば問題ないでしょう。

素晴らしい工夫が、鏡筒バンドに装着するアリガタが「リバーシブル」であること。片側がビクセン規格、単体側がアルカスイス規格になっていて、2本のネジを外してひっくり返すことでどちらででも使用することができます。これはぜひ他社でも実現してほしいところ。

ヘリコイド式ピント合わせ機構

ピント合わせはカメラレンズと同様に「ヘリコイド式」になっています。ロックリングも付いていて、うっかりヘリコイドに触れてピント位置が狂わないようになっているのも嬉しい配慮。ヘリコイドは若干重めですがスムーズに動作します。手持ちのEF70-200mmF4L ISやEF300mmF2.8L ISのようなカメラレンズのヘリコイドよりは微調整がしやすいように感じました。

ヘリコイドは全群繰り出し式で、4枚のレンズを収めたユニット全体が前後に移動します(*)。ストロークは30mm以上あり、カメラレンズと同じとまではいきませんが、それなりに「寄って」撮影ができます(**)。

(*)このためカメラを可動部を介さず鏡筒に固定でき、接眼部のたわみの問題から解放されるのがメリット。レンズ群が軽量な小型鏡筒ならではのレイアウトといえるでしょう。

(**)実測値で被写体・センサー面までの距離が最短2.85mでした。

無限遠にピントが出た状態での繰り出し位置。左端が対物レンズとセル。

手持ちのカメラ(EOS 6D SEO SP4)では、5mmほど繰り出した状態で無限遠にピントが出ました(*)。

(*)普通のカメラレンズとしても使うのであればこのくらいで良いと思うのですが、眼視など接眼部側の自由度を上げる意味ではもう少し鏡筒を詰めて、焦点位置を外側に引き出してもいいような気もします。

「クリアバーティノフマスク」標準搭載

透明なアクリルプレートの上に細い溝が刻んであって、光条が大きく明るくなる仕組み。キャップの表面にはトレードマークの「猫」が描かれています。

最近の光学系は非常に高性能化していて、ピントのズレにシビアになってきています。そこでよく使用されるのが「バーティノフマスク」ですが、RedCat51にはそれがなんと標準付属しています。

レンズキャップの中に「クリアバーティノフマスク」が仕込まれていて、「キャップのキャップ」を外すことでバーティノフマスクに早変わり。これも素晴らしい工夫。

キャップはかぶせ式。実戦的にはねじ込み式は取り外しが面倒なのでかぶせ式は大歓迎。

レンズキャップを付けたところ。この猫のキャップの内側に「クリアバーティノフマスク」が仕込まれています。

EOS 6D ISO1600 5秒

光条の実写画像。ノートリミング。シリウスなので明るくて当然ですが^^;; EOS 6Dのライブビュー画面では2等星でも余裕でピント合わせ可能でした。ライブビューの暗所性能が高い最近のミラーレスであればさらに暗い星でもピント合わせ可能でしょう。

カメラ回転装置標準搭載

もうひとつ実戦的に便利な機能、カメラ回転装置が標準搭載。鏡筒の接眼部側についているツマミを緩めるとカメラを360度回転させることができます。この部分の工作精度も気になっていましたが、緩みなくスムーズに回転します。細かく検証した訳ではないのですが、感触的には十二分に信頼できそうに感じました。

回転部分には1度刻みで目盛が打たれています。実際に使用するのは主に90度単位でしょうが、撮影現場での水平出しの追い込みや、縦横を切り替えたときの再現性という意味では、細かな目盛は歓迎でしょう。

上質な内面反射防止処理

ここまでごらん頂いてわかるように、「RedCat51」の工業製品としての仕上げは大変上質で高級感があります。それと同じくらいに、光学製品としての仕上げも丁寧であると感じました。

レンズフードの内側。起毛処理がされていて、内面反射が抑えられています。

 

対物レンズは当然ですがフルマルチコート(左)。鏡筒内部には幾重ものバッフルが入っていて、内面反射を抑制しています。

 

接眼側から見たところ。鏡筒内部の内面反射が少なく、こちらも上質な仕上げ。

第四レンズ。対物レンズから大きく離れたこの凹レンズが(改良)ペッツバール型の特徴。黒塗りに手抜きされたところはありませんでした。レンズの縁もコバ塗りされているように見えます。

極限まで強調をかけるディープスカイ撮影では、ほんのわずかな内面反射でも「同心円状のムラ」となって現れてしまうことがあります。特に重要なのがカメラに近い側の内面反射処理(*)。

(*)基本的にはフラット処理で補正できる「はず」なのですが、必ずしもそうではないことはガチ系の方はご存じの通りです^^;; 筆者の経験では、フラット補正前のこのようなムラは、カメラレンズも含めてかなり製品によって多寡があると感じています。

今回のRedCat51の試写では、まだそこまで追い込んだ撮影はできていませんが、後述するフラット画像では不規則なムラは少なく素直な感じで、大きな問題は感じられませんでした。

カメラアダプター

カメラアダプターは別売。接眼部の末端はM48のオスネジになっていて、この部分にねじ込むようになっています(*)。非常に剛性感があってカメラの固定に問題はありませんでした。

左が今回使用したWO社製マウント、実測値で光路長10.25mm。右はタカハシのM54オス・M48メスのマウント。M48メスで使用する際の光路長は実測で18mmあり、無限遠ではピントが出ませんでした。他社製のアダプタを使用する際は光路長に要注意。

実はサードパーティのカメラマウントは「(かなり)ゆるめ」のものから「(かなり)きつめ」のものまで、かなりバラツキがあります。今回使用したWO社のマウントは、純正レンズと同じくらいの硬さでちょうどよい感じでした。

各パーツと重量

鏡筒一式、カメラマウントも付けた状態で1712g。キャップを外せば1580gほど。シグマの105mmF1.4Artよりも65gほど軽い勘定。このくらいの重量であれば、小型の赤道儀でも運用可能でしょう。



 

カメラアダプタは131g、鏡筒バンドとプレートで288g。標準のリバーシブルアリガタを薄いアルカスイスの汎用品に換装すればもう少し軽量化できるでしょう。まあそうしなくても十分軽いのですが^^

フードが153g。キャップは133g。

レンズ本体以外をすべて外して、カメラレンズと比較してみました。右のレンズはEF70-200mmF4L IS(初代)。フードも三脚座もいろいろ付けているのでフェアな比較ではありませんが、まあざっくり同じくらいです^^

フィルターの装着方法

一般的に、直焦点鏡筒でフィルターを使用する場合、製品によって取り付け位置やフィルターサイズがちまちで、なかなか頭の痛い問題です。

適合ヘックスキーのサイズは1.27mmでした。手持ちのヘックスキーには、この小さいサイズがなかったのでホームセンターで買ってきました。このセットは398円。

RedCatの場合、カメラ回転装置に取り付けられたリングを外してその内側に48mm径のフィルターを装着します。リングは3本のイモネジをゆるめて回転させることで外すことができます。

リングとカメラ回転装置の取付部の径は実測56mmでした。57mmだとBORGのリングが装着できるのですが。

リングを外してフィルターを装着したところ。フィルターと後玉の枠はかなり接近し、フィルター枠がセルの外周を覆うような形になります。

フィルターをねじ込んだ状態では、フィルター枠はリングの内側に隠れるぐらいに沈み込んだ形になります。枠が薄すぎたり強くねじ込みすぎると外せなくなる可能性があるので注意が必要です。

ここでご紹介した方法でRedCat51でフィルターを使用する場合、「現場でフィルター交換する」のは大変かもしれません。別の方法として鏡筒先端に装着できるかと試してみました。

 

この写真は対物レンズ側に52mm径のフィルターを「置いてみた」だけの状態。とりあえずすっぽりはまりますが、セルにフィルターネジは切られていないので、無理矢理テープ等で止めるしかありませんね。やるなら自己責任でお願いいたします^^;;;

対物レンズの口径は51mmなので52mmのフィルターを装着すると若干光量を損することになるでしょう。48mm径フィルターではなおさらです。誰が悪いという問題ではないのですが、いい方法はないものですかねえ(*)。いろいろ悩ましいですが、仮に対物セルに52mmか55mmのネジが切られていれば、ちょっと嬉しい気がします。

(*)ミラーレス一眼でマウントアダプタの中に48mmフィルターを収納できるようになればファイナルアンサーになるでしょう。天体用途であれば電子連動は不要ですから、どこかのメーカーが製品化してくれることを期待しています。

注意点

RedCat51のフードは、このクラスの小型望遠鏡にしてはかなり深めであるにもかかわらず、ひっくり返して収納するととてもコンパクトになるのはとても良いところ。

一方で、フードの着脱・反転操作はちょっと神経を使います。フードを外した状態では対物レンズのセルが「むき出し」になるのです。このときに手を滑らせて鏡筒を落としたりすると眼も当てられません(*)。この操作は注意深くやさしく、可能なら架台に搭載した状態で行うのが吉でしょう。

(*)何であれ落としちゃダメだろ!というツッコミが聞こえてきそうですが、カメラレンズ感覚でフードを外すとその瞬間はレンズが「片手持ち」になるのです。

 

 

対物レンズのセルには光軸調整用と思われるネジが付いています。ロックペイントがかけられているので「触れちゃイケナイ感」を醸し出していますが、うっかり?回してしまわないようにしましょう^^

 

この写真は「良くない例」です。このような使用方法はやらないべきです。

フィルター装着方法でいろいろ悩んでいたときに試した方法。結論は×です。カメラアダプタはM48ネジで装着するのですが、「物理的」にはこの間に48mm径のフィルターを入れることができていまいます。しかしこの方法はアダプタをしっかり固定できないためやるべきではありません。光路長的にもピントが出ない可能性があります。

追記)鏡筒バランス

鏡筒のバランス位置について質問があったので追記します。上の図はEOS6Dを装着しヘリコイドが無限遠のときのバランス位置を実測したもの。プレートを「前側」に伸ばす場合は鏡筒バンド末端ぎりぎり、バンドをひっくり返して「後側」にする場合はちょうど鏡筒バンド付近がバランス位置です。

今回の撮影では何も考えず、上の「プレート前側」で使用しましたが、反対の「プレート後側」にした方がバランスは良かったかもしれません(*)。6Dよりも重いカメラの場合はそうするべきでしょう。

(*)この場合、カメラのグリップをプレート側にするとプレートに干渉します。写真の向きであればぎりぎり干渉はしていないのですが、リモートスイッチを取り付けるとケーブルと干渉します。

逆に、ミラーレスやCMOSカメラのような軽いカメラの場合は「プレート前側」で使用すべきですね。

ますます細かい話ですが(^^;;)プレートは中央にも溝が切ってあるのですが、ここで止めると2点止めすることができません。6Dだけで考えるとこの位置がいいんですがねえ。ミゾがひとつながりなら自由度は増すのですが、そうすると2個の1/4ネジ穴が使えなくなるし。まあ楽しく悩みましょう^^

試写速報

岩本彗星を撮影中。赤道儀はSWAT-310(V-Spec β)

たった1日のみの試写ですが、作例を上げておきます。まだ半月が西の空に残る夜で条件はよくありませんでしたが。。暗夜での撮影はまた機会を見てレポートしたいと思います。

EOS6D(SEO-SP4) RedCat51(fl250mm F4.9) ISO1600 60sec*44 加算平均 flat*16 福岡県東峰村小石原 SWAT-310(V-Spec β)

岩本彗星(C/2018 Y1)。ノートリミングです。収差を見る意味で、ダメージ系の画像処理(明瞭度、ノイズ低減、収差補正など)は行なわず、かぶり補正とトーンカーブ補正・彩度強調のみを行っています。NGC2903(画像青枠内)の等倍拡大を見ると、星像径も小さくかなり細部まで解像していることがわかります。

FlatAidProで作成

上の画像の四隅等倍拡大。四隅で若干の星像の変形はあるものの流れはほとんどありません。意地悪なほど彩度強調していますが、色ハロもわずかです。

こちらはカラーバランスのみを補正した無調整フラット画像。カメラはEOS 6D(SEO SP4)です。「フラット不要」とまではいきませんが、なかなか周辺光量も豊富です。この程度であれば、フルサイズでもあまり苦しまずに補正することができそうです(*)。

(*)ミラーボックスけられがほとんど気にならない印象です。これは最終レンズを小径化し焦点面に近い位置に配置した改良ペッツバール型の長所でもあります。

周辺減光よりもセンサーのゴミが・・・orz。

ヒストグラムを思い切り切り詰めるとこんな感じ。最周辺部で落ち込むタイプで、APS-Cで使用する場合はほとんどフラット補正は必要ないかもしれません。

EOS6D(SEO-SP4) RedCat51(fl250mm F4.9) ISO1600 60sec*30 flat*16 福岡県東峰村小石原 SWAT-310(V-Spec β)

もうひとつ作例。オリオン大星雲です。温度順応前のまだ鏡筒が「ホカホカ」の状態でスタートしたので、撮影中にピント位置がずれて少し甘くなってしまいました(*)。焦点距離250mmとはいえ、やはり温度順応は重要ですね。

(*)等倍拡大すると最周辺が同心円側に少し流れています。一般に周辺の流れは、ピント位置によっても同心円・放射状に変わることがあります。使用したRedCat51の場合、ピントを追い込めば周辺像の流れはほぼなくなるようです。

まとめ

いかがでしたか?

最初に手にした印象は「とにかくカッチョイイ!」。そしてカメラアダプタを装着すればすぐに使える。今回夕方17時に天文ハウスTOMITA様で実機を受け取って、そのまま撮影に出かけて19時20分に最初のシャッターを切るという強行軍?でしたが、何の迷いもややこしい組立もなく撮影に入ることができました。細かな仕様がよく考えられていて、とても使いやすい鏡筒でした。

写真性能については、ガチ撮り作例がまだ撮れていないので現時点では断言しませんが、相当に良い感触です。

しかも価格は本体のみで7.8万円(税別)。カメラアダプタを購入しても支払総額は10万円切り。鏡筒バンドや補正レンズ、リング類を買い足す必要もありません。さらに「クリアバーティノフマスク」内蔵。

カメラレンズの使いやすさと、高性能天体望遠鏡の写真性能を合わせ持った優れた製品だと感じました。この価格とコンパクトさを生かして「ツインシステム」に組むのもいいかもしれませんね!

K-ASTEC BLOG 光軸調整プレートAP60-19060の紹介
http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2018/12/ap60-19060-e802.html

今回は「デモ機」をお借りしましたが、編集部では別途自費購入し「スモールシステムで楽しむ天体写真」を引き続き実践していく予定です。そちらもお楽しみに!

追記2/18)拡張パーツの状況

K-ASTEC様よりRedCat51用のオプションの開発動向がアナウンスされています。

RED CAT51用オプションの開発について
http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2019/02/red-cat51-8ede.html 
http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2019/02/red-cat51-8ede.html

写真はガイドカメラを装着するしたところ。鏡筒バンドには2個のM4ネジがありますがそこに装着できるアルカスイス互換のシステムのようです。

他には「冷却CCDカメラ用の電動フォーカサー」「ツイン鏡筒システムにするためのプレート」が検討されているようです。新しい情報があれば追記していく予定です。


  • 本記事は天文ハウスTOMITA様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
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https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg編集部レビュー望遠鏡望遠鏡2019年3月早々にデリバー開始予定の注目のWilliam Opticsの新製品「RedCat51」。天リフでは「天文ハウスTOMITA」様よりデモ機を借用することができました。早速、レビューをお届けしたいと思います。 天文ハウスTOMITA RedCat51 http://www.y-tomita.co.jp/telescope/williamoptics/redcat51.html RedCat51とは 「RedCat51」は「William Optics社(以下WO社と略)」が開発中の新商品で、異常低分散硝材「FPL51」と「FPL53」を各1枚使用した「ペッツバール型」の「4枚玉アポクロマート」です。口径は51mm、焦点距離は250mm、F4.9。フルサイズで周辺まで良像が得られる(主に)写真用の鏡筒です(*)。 (*)今回は使用していませんが、専用の眼視用天頂プリズムも発売されるそうです。 「(改良)ペッツバール型(*)」の光学系は、タカハシのFSQ106EDやFSQ85ED(P)でも採用されているレイアウトです。写真鏡筒としての最大のメリットはフラットナーやレデューサなどの「補正レンズ」を使用しなくても写真撮影に使えること。 (*)歴史的な当初の「ペッツバール型」とは異なり、前群が分離型、後群2枚の間隔を大きく空けた構成になっています。 それに加えて「RedCat51」では、ヘリコイド式のピント合わせや筐体と一体設計された三脚座など、カメラレンズのような手軽さで使用できるのがユニークなところ。その鏡筒の実力はいかに? 下の天リフ記事もご参照ください! https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/11/26/7004/   クール&シンプル&コンパクト 専用のケースの中には鏡筒が一本。超シンプルです。左上の白い箱は別売のカメラアダプタですが、商品構成はこれだけ。間仕切りを調節すればカメラアダプタ装着状態でも収納できるでしょう。 ケースから取りだしてやったことは、「カメラアダプタの取り付け」「フードを反転して取り付け」「アリガタプレートをひっくり返す(*)」の3つだけ。赤道儀に装着してヒーターとカメラボディを取り付ければ撮影準備完了。 (*)ビクセンアリガタ用の状態だったので六角レンチで外して裏返してアルカスイス状態に変更しました。後述。 アルカスイス・ビクセン両対応の三脚座と鏡筒バンド 鏡筒バンドと三脚座が標準で付属しています。鏡筒バンドは70-200mmクラスの望遠レンズのそれよりも一回り大きく幅広。2点式ではありませんが、デジタル一眼での運用であれば問題ないでしょう。 素晴らしい工夫が、鏡筒バンドに装着するアリガタが「リバーシブル」であること。片側がビクセン規格、単体側がアルカスイス規格になっていて、2本のネジを外してひっくり返すことでどちらででも使用することができます。これはぜひ他社でも実現してほしいところ。 ヘリコイド式ピント合わせ機構 ピント合わせはカメラレンズと同様に「ヘリコイド式」になっています。ロックリングも付いていて、うっかりヘリコイドに触れてピント位置が狂わないようになっているのも嬉しい配慮。ヘリコイドは若干重めですがスムーズに動作します。手持ちのEF70-200mmF4L ISやEF300mmF2.8L ISのようなカメラレンズのヘリコイドよりは微調整がしやすいように感じました。 ヘリコイドは全群繰り出し式で、4枚のレンズを収めたユニット全体が前後に移動します(*)。ストロークは30mm以上あり、カメラレンズと同じとまではいきませんが、それなりに「寄って」撮影ができます(**)。 (*)このためカメラを可動部を介さず鏡筒に固定でき、接眼部のたわみの問題から解放されるのがメリット。レンズ群が軽量な小型鏡筒ならではのレイアウトといえるでしょう。 (**)実測値で被写体・センサー面までの距離が最短2.85mでした。 手持ちのカメラ(EOS 6D SEO SP4)では、5mmほど繰り出した状態で無限遠にピントが出ました(*)。 (*)普通のカメラレンズとしても使うのであればこのくらいで良いと思うのですが、眼視など接眼部側の自由度を上げる意味ではもう少し鏡筒を詰めて、焦点位置を外側に引き出してもいいような気もします。 「クリアバーティノフマスク」標準搭載 最近の光学系は非常に高性能化していて、ピントのズレにシビアになってきています。そこでよく使用されるのが「バーティノフマスク」ですが、RedCat51にはそれがなんと標準付属しています。 レンズキャップの中に「クリアバーティノフマスク」が仕込まれていて、「キャップのキャップ」を外すことでバーティノフマスクに早変わり。これも素晴らしい工夫。 レンズキャップを付けたところ。この猫のキャップの内側に「クリアバーティノフマスク」が仕込まれています。 光条の実写画像。ノートリミング。シリウスなので明るくて当然ですが^^;; EOS 6Dのライブビュー画面では2等星でも余裕でピント合わせ可能でした。ライブビューの暗所性能が高い最近のミラーレスであればさらに暗い星でもピント合わせ可能でしょう。 カメラ回転装置標準搭載 もうひとつ実戦的に便利な機能、カメラ回転装置が標準搭載。鏡筒の接眼部側についているツマミを緩めるとカメラを360度回転させることができます。この部分の工作精度も気になっていましたが、緩みなくスムーズに回転します。細かく検証した訳ではないのですが、感触的には十二分に信頼できそうに感じました。 回転部分には1度刻みで目盛が打たれています。実際に使用するのは主に90度単位でしょうが、撮影現場での水平出しの追い込みや、縦横を切り替えたときの再現性という意味では、細かな目盛は歓迎でしょう。 上質な内面反射防止処理 ここまでごらん頂いてわかるように、「RedCat51」の工業製品としての仕上げは大変上質で高級感があります。それと同じくらいに、光学製品としての仕上げも丁寧であると感じました。 レンズフードの内側。起毛処理がされていて、内面反射が抑えられています。   対物レンズは当然ですがフルマルチコート(左)。鏡筒内部には幾重ものバッフルが入っていて、内面反射を抑制しています。   接眼側から見たところ。鏡筒内部の内面反射が少なく、こちらも上質な仕上げ。 第四レンズ。対物レンズから大きく離れたこの凹レンズが(改良)ペッツバール型の特徴。黒塗りに手抜きされたところはありませんでした。レンズの縁もコバ塗りされているように見えます。 極限まで強調をかけるディープスカイ撮影では、ほんのわずかな内面反射でも「同心円状のムラ」となって現れてしまうことがあります。特に重要なのがカメラに近い側の内面反射処理(*)。 (*)基本的にはフラット処理で補正できる「はず」なのですが、必ずしもそうではないことはガチ系の方はご存じの通りです^^;; 筆者の経験では、フラット補正前のこのようなムラは、カメラレンズも含めてかなり製品によって多寡があると感じています。 今回のRedCat51の試写では、まだそこまで追い込んだ撮影はできていませんが、後述するフラット画像では不規則なムラは少なく素直な感じで、大きな問題は感じられませんでした。 カメラアダプター カメラアダプターは別売。接眼部の末端はM48のオスネジになっていて、この部分にねじ込むようになっています(*)。非常に剛性感があってカメラの固定に問題はありませんでした。 実はサードパーティのカメラマウントは「(かなり)ゆるめ」のものから「(かなり)きつめ」のものまで、かなりバラツキがあります。今回使用したWO社のマウントは、純正レンズと同じくらいの硬さでちょうどよい感じでした。 各パーツと重量 鏡筒一式、カメラマウントも付けた状態で1712g。キャップを外せば1580gほど。シグマの105mmF1.4Artよりも65gほど軽い勘定。このくらいの重量であれば、小型の赤道儀でも運用可能でしょう。   カメラアダプタは131g、鏡筒バンドとプレートで288g。標準のリバーシブルアリガタを薄いアルカスイスの汎用品に換装すればもう少し軽量化できるでしょう。まあそうしなくても十分軽いのですが^^ フードが153g。キャップは133g。 レンズ本体以外をすべて外して、カメラレンズと比較してみました。右のレンズはEF70-200mmF4L IS(初代)。フードも三脚座もいろいろ付けているのでフェアな比較ではありませんが、まあざっくり同じくらいです^^ フィルターの装着方法 一般的に、直焦点鏡筒でフィルターを使用する場合、製品によって取り付け位置やフィルターサイズがちまちで、なかなか頭の痛い問題です。 RedCatの場合、カメラ回転装置に取り付けられたリングを外してその内側に48mm径のフィルターを装着します。リングは3本のイモネジをゆるめて回転させることで外すことができます。 リングを外してフィルターを装着したところ。フィルターと後玉の枠はかなり接近し、フィルター枠がセルの外周を覆うような形になります。 フィルターをねじ込んだ状態では、フィルター枠はリングの内側に隠れるぐらいに沈み込んだ形になります。枠が薄すぎたり強くねじ込みすぎると外せなくなる可能性があるので注意が必要です。 ここでご紹介した方法でRedCat51でフィルターを使用する場合、「現場でフィルター交換する」のは大変かもしれません。別の方法として鏡筒先端に装着できるかと試してみました。   この写真は対物レンズ側に52mm径のフィルターを「置いてみた」だけの状態。とりあえずすっぽりはまりますが、セルにフィルターネジは切られていないので、無理矢理テープ等で止めるしかありませんね。やるなら自己責任でお願いいたします^^;;; 対物レンズの口径は51mmなので52mmのフィルターを装着すると若干光量を損することになるでしょう。48mm径フィルターではなおさらです。誰が悪いという問題ではないのですが、いい方法はないものですかねえ(*)。いろいろ悩ましいですが、仮に対物セルに52mmか55mmのネジが切られていれば、ちょっと嬉しい気がします。 (*)ミラーレス一眼でマウントアダプタの中に48mmフィルターを収納できるようになればファイナルアンサーになるでしょう。天体用途であれば電子連動は不要ですから、どこかのメーカーが製品化してくれることを期待しています。 注意点 RedCat51のフードは、このクラスの小型望遠鏡にしてはかなり深めであるにもかかわらず、ひっくり返して収納するととてもコンパクトになるのはとても良いところ。 一方で、フードの着脱・反転操作はちょっと神経を使います。フードを外した状態では対物レンズのセルが「むき出し」になるのです。このときに手を滑らせて鏡筒を落としたりすると眼も当てられません(*)。この操作は注意深くやさしく、可能なら架台に搭載した状態で行うのが吉でしょう。 (*)何であれ落としちゃダメだろ!というツッコミが聞こえてきそうですが、カメラレンズ感覚でフードを外すとその瞬間はレンズが「片手持ち」になるのです。     対物レンズのセルには光軸調整用と思われるネジが付いています。ロックペイントがかけられているので「触れちゃイケナイ感」を醸し出していますが、うっかり?回してしまわないようにしましょう^^   フィルター装着方法でいろいろ悩んでいたときに試した方法。結論は×です。カメラアダプタはM48ネジで装着するのですが、「物理的」にはこの間に48mm径のフィルターを入れることができていまいます。しかしこの方法はアダプタをしっかり固定できないためやるべきではありません。光路長的にもピントが出ない可能性があります。 追記)鏡筒バランス 鏡筒のバランス位置について質問があったので追記します。上の図はEOS6Dを装着しヘリコイドが無限遠のときのバランス位置を実測したもの。プレートを「前側」に伸ばす場合は鏡筒バンド末端ぎりぎり、バンドをひっくり返して「後側」にする場合はちょうど鏡筒バンド付近がバランス位置です。 今回の撮影では何も考えず、上の「プレート前側」で使用しましたが、反対の「プレート後側」にした方がバランスは良かったかもしれません(*)。6Dよりも重いカメラの場合はそうするべきでしょう。 (*)この場合、カメラのグリップをプレート側にするとプレートに干渉します。写真の向きであればぎりぎり干渉はしていないのですが、リモートスイッチを取り付けるとケーブルと干渉します。 逆に、ミラーレスやCMOSカメラのような軽いカメラの場合は「プレート前側」で使用すべきですね。 試写速報 たった1日のみの試写ですが、作例を上げておきます。まだ半月が西の空に残る夜で条件はよくありませんでしたが。。暗夜での撮影はまた機会を見てレポートしたいと思います。 岩本彗星(C/2018 Y1)。ノートリミングです。収差を見る意味で、ダメージ系の画像処理(明瞭度、ノイズ低減、収差補正など)は行なわず、かぶり補正とトーンカーブ補正・彩度強調のみを行っています。NGC2903(画像青枠内)の等倍拡大を見ると、星像径も小さくかなり細部まで解像していることがわかります。 上の画像の四隅等倍拡大。四隅で若干の星像の変形はあるものの流れはほとんどありません。意地悪なほど彩度強調していますが、色ハロもわずかです。 こちらはカラーバランスのみを補正した無調整フラット画像。カメラはEOS 6D(SEO SP4)です。「フラット不要」とまではいきませんが、なかなか周辺光量も豊富です。この程度であれば、フルサイズでもあまり苦しまずに補正することができそうです(*)。 (*)ミラーボックスけられがほとんど気にならない印象です。これは最終レンズを小径化し焦点面に近い位置に配置した改良ペッツバール型の長所でもあります。 ヒストグラムを思い切り切り詰めるとこんな感じ。最周辺部で落ち込むタイプで、APS-Cで使用する場合はほとんどフラット補正は必要ないかもしれません。 もうひとつ作例。オリオン大星雲です。温度順応前のまだ鏡筒が「ホカホカ」の状態でスタートしたので、撮影中にピント位置がずれて少し甘くなってしまいました(*)。焦点距離250mmとはいえ、やはり温度順応は重要ですね。 (*)等倍拡大すると最周辺が同心円側に少し流れています。一般に周辺の流れは、ピント位置によっても同心円・放射状に変わることがあります。使用したRedCat51の場合、ピントを追い込めば周辺像の流れはほぼなくなるようです。 まとめ いかがでしたか? 最初に手にした印象は「とにかくカッチョイイ!」。そしてカメラアダプタを装着すればすぐに使える。今回夕方17時に天文ハウスTOMITA様で実機を受け取って、そのまま撮影に出かけて19時20分に最初のシャッターを切るという強行軍?でしたが、何の迷いもややこしい組立もなく撮影に入ることができました。細かな仕様がよく考えられていて、とても使いやすい鏡筒でした。 写真性能については、ガチ撮り作例がまだ撮れていないので現時点では断言しませんが、相当に良い感触です。 しかも価格は本体のみで7.8万円(税別)。カメラアダプタを購入しても支払総額は10万円切り。鏡筒バンドや補正レンズ、リング類を買い足す必要もありません。さらに「クリアバーティノフマスク」内蔵。 カメラレンズの使いやすさと、高性能天体望遠鏡の写真性能を合わせ持った優れた製品だと感じました。この価格とコンパクトさを生かして「ツインシステム」に組むのもいいかもしれませんね! K-ASTEC BLOG 光軸調整プレートAP60-19060の紹介 http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2018/12/ap60-19060-e802.html 今回は「デモ機」をお借りしましたが、編集部では別途自費購入し「スモールシステムで楽しむ天体写真」を引き続き実践していく予定です。そちらもお楽しみに! 追記2/18)拡張パーツの状況 K-ASTEC様よりRedCat51用のオプションの開発動向がアナウンスされています。 RED CAT51用オプションの開発について http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2019/02/red-cat51-8ede.html  写真はガイドカメラを装着するしたところ。鏡筒バンドには2個のM4ネジがありますがそこに装着できるアルカスイス互換のシステムのようです。 他には「冷却CCDカメラ用の電動フォーカサー」「ツイン鏡筒システムにするためのプレート」が検討されているようです。新しい情報があれば追記していく予定です。 本記事は天文ハウスTOMITA様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 製品の購入およびお問い合わせは各販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2019年2月)のものです。使用した個体はデモ機であり、製品版では仕様が異なる場合があります。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ