皆さんこんにちは!

ノーマルカメラはHαの感度が低くて赤い星雲が写らなぁぁーい

マニアの間では、天体写真に使うカメラは「IR改造(天体改造)」が常識。



でも、ノーマル機じゃだめなんですか?!

広い宇宙の天体は、赤色ばかりじゃない。非改造機でも美しく撮れる天体はたくさんあるはず!というわけで、ノーマル機でガチ撮りしてみました。

撮影のねらい

オリオン大星雲をノーマル機でガチ撮りする

EOS5D3(ノーマル)30秒 FSQ106ED(F3.6)

非改造機のフィルターなしではHαの赤はあまり出てきませんが、青がしっかり出てきてこれはこれで良い感じです。非改造機でのM42は、もっと撮られてもいい対象ですね!これは一度ガチ撮りしてみたくなります。

以前天リフで「天体用フィルター大比較」という記事を掲載しました。この比較の中で「ノーマル機」によるオリオン大星雲が意外といい感じで「一度ガチ撮りしてみたくなります」と書きましたが、その実践です。

今夜はM42しか撮らない」という勢いで臨みました!

【天体用フィルター】QBP、AstroDuo、LPS-V4大比較

光害カットフィルターSVBONY CLS

とはいえ、M42のように赤のHα「以外」の光量が豊富な天体は希少です。「ノーマル機」の赤の感度の低さを補う方法も試してみたい。そこで今回は「光害カットフィルター」を試してみました。こちらも「ガチ撮り」です。

SVBONY様より、光害カットフィルター「CLS」のサンプルのご提供を受けたところだったので、早速それを使ってみました。波長特性としてはLPS-V4(*)に近く、OIIIとHαを中心に、それ以外をばっさりとカットするタイプです。

(*)LPS-V4は680nmよりも長い波長をカットするのに対して、SVBONY-CLSは長波長側は素通しです。赤外カットフィルターが装着されたカメラ向けの製品です。

中央がSVBONYのCLS。iPadの上に置いて見てみると、LPS-V4よりは赤みを帯びていて、QBPよりはずっと緑傾向であることがわかります。改造機との相性に注目。

今回使用した機材

FSQ106ED

鏡筒バンドとプレートはK-ASTEC。トッププレートのアルカスイスクランプにガイド鏡を装着します。レデューサを使用せずF5の直焦点で使用する場合は、2インチスリーブに延長筒とカメラを接続します。

今回はカメラ側の写りの評価が第一目的でもあり、安定した高性能で編集部の使用実績も一番多い、「主砲」FSQ106EDを選択。購入からもうすぐ丸五年。今さらこの鏡筒の優秀さは語る必要もありませんが、写真用途にも眼視用途にも最高の1本です。

SXP赤道儀

撮影は1月27日の晩。寒波が通過した翌日で、撮影地には雪が。

こちらも安定の「主砲台^^」を選択。最近赤道儀が急激に増殖した編集部ですが、実は大砲(中砲??)が乗るのはこの架台だけ、FSQのパートナーとして指名。三脚はSXG-HAL130。ハーフピラーを付けて三脚との干渉が少なくなるようにしています。

オートガイドはビクセン純正の「アドバンスユニット(*)」を使用。PCレスでオートガイドができるのがいいところ。ガイドスコープはタカハシのGT-40です。

(*)現在は製造中止になっています。

EOS5D MarkIII

左がEOS5DMarkIII。天体以外にも使用するのでストラップを付けています。右は天体改造機の初代6D(SEO-SP4)。

使用するカメラは当然ですがノーマル機、EOS5D MarkIIIです。2012年3月の発売直後に購入し、丸7年になろうかというカメラですが(*)十分に現役。デジタル一眼としてはもう何の不満もありません。一般写真用や編集部の「業務用」にも使用するので、改造せずに使っています。

(*)5D初代からの買い換えです。当時は33万もしました。まさに「遠い目」・・・

正直いって、改造機と非改造機を2台持ちするのはいろんな意味で無駄を感じてしまいます。改造なしで使えるなら、もっと柔軟に活用できるのに・・・その意味でも今回の試写結果によっては、天体用としての出動頻度がもっと上がるかも。

撮影記

22:34 M42を撮影中。オリオンは南中を過ぎたところ。α7S EF8-15mmF4 F4 30秒 ISO3200

今回の出動はひさびさの「遠征」。場所はいつもの福岡県東峰村小石原です。前日にそれなりの雪が積もったせいか、誰もおらず貸し切り状態。足場がぬかるんでいないかちょっと不安でしたが、地面に雪は残っていなかったのは幸い。

途中の嘉麻峠は全面ザラメ雪と氷結路でした。今シーズンのはじめにタイヤを交換したのですが、さすがのブリザック、それまで履いていた7シーズン目の中古DSXとは比較にならない安定性。痛い出費でしたが、安全には替えられません・・

0:26 α7S EF8-15mmF4L ISO6400 30秒

慣れた機材の組み合わせなので、5kgのバランスウェイトを忘れてきた(*)以外はw、撮影にはスムーズに進行しました。FSQは温度変化でピントがずれやすいので、途中何回かピントを合わせ直しました。大星雲の下にある2.7等級のオリオン座ι(イオタ)星を使用。クリアバーティノフマスクを使用すれば楽勝。

(*)実はもう1セットAP赤道儀を持ってきていたのですが、ウェイト不足で出動見送りになりましたorz

01:23 撤収直前。こういう風景に出会えるのも遠征のご褒美の一つ。EOS5D3 サムヤン35mm カメラ内HDR合成

撤収直前。月が昇ってきたら撤収するのは織り込み済み。都合良く?下弦の月と共に雲が湧いてきたので、車に積んだカメラと三脚を再度出して記念写真。

画像処理とリザルト・フィルターなしの場合

いつものように前置きが長くなりましたが、リザルトを見ていきましょう。まずはフィルターなしの場合です。

素材画像

raw画像のカメラ撮って出し設定のサムネイル一覧

ライトフレームは34枚撮像。ISO1600で4分、34枚です。総露出2時間16分。ノーマル機のメリットの一つは、撮って出し状態でもカラーバランスが崩れていないところ。

1枚画像を詳しく見てみます。左が無補正ですが、ヒストグラムの山も幅もよく揃っています。周辺光量の豊富なFSQ106EDだけあって、補正なしでも周辺減光はほとんど目立ちません。

しかし、トーンカーブを断崖状態にして「超強調」してみると、一気にアラが出てきてしまいます。右辺の減光はミラーボックスによるケラレ。周辺減光も出てきました。上辺が暗いのは背景のかぶりの差でしょうか。色もズレ始めています。

白飛びは我慢する

オリオン大星雲は、中心と周辺の輝度差が激しい天体の一つ。淡い部分を出すために長時間露出をかけると、中心部はすぐに白飛びしてしまいます。その白飛びの状況を見てみましょう。

上の画像の左側は、4分露出の画像をレベル調整でシャドーを順に詰めていったもの。詰めるにつれて飛んでいたハイライトが戻ってきているのですが、目一杯詰めても白いままの部分が残りますよね。これが「白飛び」。元画像で白飛びした部分は、どんなに画像処理をしても、その画像からは階調は戻りません。

一方、右は露出を5段階少なく撮影した画像です。こちらは左の画像で白飛びしていた部分もしっかり階調が残っていますね(*)。



(*)それでもトラペジウム付近は飽和してしまっています。

大星雲の中心部の階調も表現された最終画像を得るためには、上の画像のような「多段階露出」による複数の画像を使用して、何らかの方法で合成する必要があります。この詳細は別記事に譲る(*)ことにして、今回は先に進めましょう。

(*)「画像処理ワンポイント」で近日掲載予定です!

フラット処理後のコンポジット済み素材画像

RStackerでフラット補正後、Photoshopでtiff現像、DSSで加算平均・σ=2.0でコンポジット

今回は真面目にフラット画像を撮像して処理しました。オリオン大星雲付近は「分子雲のるつぼ」なので、以前紹介した「星消しシェーディング画像減算法」ではうまくいかないとみての判断です。

フラット撮像中。MacBookProの液晶画面を使用。

ミラーボックスのケラレがきちんと補正できていないものの(*)、結果はまあまあ良好。これなら普通にグラデーションマスクだけでムラを取りきることができるでしょう。

(*)この方式によるフラット撮像では「光源と対物レンズの距離」が結果に影響するのではないかとにらんでいます。詳細はぼちぼち検証予定です。

グラデーションマスクによるかぶり補正

次にかぶり補正。強調用のレイヤー(上2つのレイヤー)を入れた状態で、グラデーションマスクで補正しました。比較的素直な元画像で、3つのレイヤーでだいたいの補正は終了。とことん強調するならもうすこし追い込む必要があるでしょうが、今回は「あっさり目」の仕上げの方針で行きます。

強調処理

ここから先の強調処理はいろいろやり方があると思いますが、Camera rawでまずあっさり目に強調。大星雲中心部の白飛びを抑制するために「ハイライト」を押さえ、「明瞭度」を上げてうねりを出します。黒レベルとコントラストを調整し、彩度も大きく上げました。

トーンカーブを調整し、もう少し強調。彩度もさらに上げました。

ノイズ処理

2時間露出のあっさり目の強調とはいえ、等倍で見ると中輝度部でもノイズが浮いています。Camera raw で輝度15、カラー25でノイズ低減。この程度のノイズ処理であればあまりディテールは失われません。

できあがり

課題はいろいろありますが、とりあえずはできあがり。まだ押す余地もありますし、背景が緑っぽいのもやや不満。大星雲の外側はもっとブルー押しにしたい気もする。ですが、この作例は「非改造機のいじらないママの色」を見ていただく意味でも色別の色相シフトや色別のトーンカーブ補正はしていません。

さらに強調すると・・

破綻覚悟でもっともっと強調して、なんでもアリでやりまくると、このくらい出てきます(*)。ノーマル機でもモクモク分子雲撮像は可能である、といえるのではないでしょうか。

(*)ここまで強調するのなら露出時間はさらに倍、3倍は欲しくなってきます。ムラと本来の画像を区別するためにも、リファレンス画像を調べて処理すべきところ。

いずれにしても、はっきりいえることがあります。オリオン大星雲はノーマル機でも美しい。むしろノーマル機の方が美しいとさえ思います。

画像処理とリザルト・SVBONY CLSフィルターの場合

次は光害カットフィルター「SVBONY CLS」を使用した画像です。

素材画像

raw画像のカメラ撮って出し設定のサムネイル一覧

ライトフレームは計16枚撮像。月の出・雲の出もあって、実際に使えたのは12枚、総露出時間48分。ちょっと不足気味ですがやむなし。ちなみに、CLSフィルターを使用すると背景の色はごらんのような青緑色になります。

フラット処理後のコンポジット済み素材画像

左:コンポジット後画像 右:コンポジット後画像をカラーバランス補正後トーンカーブで強調 いずれもRStackerでフラット補正後DSSでコンポジット

干渉フィルターを使用するとフラット処理を入れても周辺部の色むらが浮いてきます。困りますねえ・・・しかしこの程度のムラはある意味干渉フィルターの宿命(*)。地道に処理します。

(*)一般的に、干渉フィルターは斜めに入射した光に対しては波長特性が変わるため、周辺部で色ムラが発生することがあります。ちなみに、使用したフィルター個体はフィルター外周部の波長特性(色)が若干違っているように見えました。メーカー様に問い合わせたところ「実使用には影響はない」とこのことでしたが、強調の度合によっては影響があるかもしれません。

できあがり

周辺のかぶり補正はあきらめて、中心部だけトリミングして処理してみました。フィルターなしと比べて、全体的に赤い成分が強くなっています。SVBONY CLSはHα以外の赤い光の帯域が狭い「青緑色」のフィルターですが、その状態でカラーバランスをニュートラルに補正すると結果的に赤を強調することになるのです。

フィルターなしと比較して、画像処理(かぶり補正、カラーバランス補正)は「かなり面倒」になりますが(*)、改造機にほどはいかないにせよ、非改造機でもかなり赤を強調することができました!

(*)中途のプロセスは省略してしまいましたが、グラデーションマスクを多用しました。背景の色は輝度マスクをかけた上でPhotoshopのカラーバランスで補正しています。

まとめ

いかがでしたか?

ノーマル機にはノーマル機の良さがある!改造機でしか天体写真を撮らないのは、天文ライフをちょっとだけ損しているかも!そんな結論に達しました。

特に「オリオン大星雲」はHαとOIIIの「両方」の輝線スペクトルが強く、輝線以外の連続光も豊富で、様々な波長の光に満ちています。そこに改造機やフィルターでHαを強調しすぎると、赤一辺倒になってしまいます。オリオン大星雲こそノーマル機で撮るべきではないでしょうか。

Hαの感度がかなり弱いという欠点も、フィルターをうまく使えばかなり補えそうです。QBPやSTC Astro DUO、「純Hα」など、ナローバンドフィルターをフル活用して「フィルターあり・なしカラー合成」するなど、いろんな「変態技」が駆使できそう。

左:M8付近 ノーマルEOS M + Astronomik CLSフィルター 中:網状星雲 改造EOS6D 右:北アメリカ星雲 改造α7S + IRカットフィルター

今シーズンは、M8干潟星雲やM16/17、北アメリカ星雲、網状星雲など、「非改造機」でさらにいろいろな「メジャー天体」のガチ撮りをやってみたいと思います。リザルトはこの連載でご報告していきますのでお楽しみに!


機材協力:

  • SVBONY [CLSフィルター(48mm径)]

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2019/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集部天体写真実践・天体写真撮影記皆さんこんにちは! ノーマルカメラはHαの感度が低くて赤い星雲が写らなぁぁーい。 マニアの間では、天体写真に使うカメラは「IR改造(天体改造)」が常識。 でも、ノーマル機じゃだめなんですか?! 広い宇宙の天体は、赤色ばかりじゃない。非改造機でも美しく撮れる天体はたくさんあるはず!というわけで、ノーマル機でガチ撮りしてみました。 撮影のねらい オリオン大星雲をノーマル機でガチ撮りする 非改造機のフィルターなしではHαの赤はあまり出てきませんが、青がしっかり出てきてこれはこれで良い感じです。非改造機でのM42は、もっと撮られてもいい対象ですね!これは一度ガチ撮りしてみたくなります。 以前天リフで「天体用フィルター大比較」という記事を掲載しました。この比較の中で「ノーマル機」によるオリオン大星雲が意外といい感じで「一度ガチ撮りしてみたくなります」と書きましたが、その実践です。 「今夜はM42しか撮らない」という勢いで臨みました! https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/12/12/7301/ 光害カットフィルターSVBONY CLS とはいえ、M42のように赤のHα「以外」の光量が豊富な天体は希少です。「ノーマル機」の赤の感度の低さを補う方法も試してみたい。そこで今回は「光害カットフィルター」を試してみました。こちらも「ガチ撮り」です。 SVBONY様より、光害カットフィルター「CLS」のサンプルのご提供を受けたところだったので、早速それを使ってみました。波長特性としてはLPS-V4(*)に近く、OIIIとHαを中心に、それ以外をばっさりとカットするタイプです。 (*)LPS-V4は680nmよりも長い波長をカットするのに対して、SVBONY-CLSは長波長側は素通しです。赤外カットフィルターが装着されたカメラ向けの製品です。 今回使用した機材 FSQ106ED 今回はカメラ側の写りの評価が第一目的でもあり、安定した高性能で編集部の使用実績も一番多い、「主砲」FSQ106EDを選択。購入からもうすぐ丸五年。今さらこの鏡筒の優秀さは語る必要もありませんが、写真用途にも眼視用途にも最高の1本です。 SXP赤道儀 こちらも安定の「主砲台^^」を選択。最近赤道儀が急激に増殖した編集部ですが、実は大砲(中砲??)が乗るのはこの架台だけ、FSQのパートナーとして指名。三脚はSXG-HAL130。ハーフピラーを付けて三脚との干渉が少なくなるようにしています。 オートガイドはビクセン純正の「アドバンスユニット(*)」を使用。PCレスでオートガイドができるのがいいところ。ガイドスコープはタカハシのGT-40です。 (*)現在は製造中止になっています。 EOS5D MarkIII 使用するカメラは当然ですがノーマル機、EOS5D MarkIIIです。2012年3月の発売直後に購入し、丸7年になろうかというカメラですが(*)十分に現役。デジタル一眼としてはもう何の不満もありません。一般写真用や編集部の「業務用」にも使用するので、改造せずに使っています。 (*)5D初代からの買い換えです。当時は33万もしました。まさに「遠い目」・・・ 正直いって、改造機と非改造機を2台持ちするのはいろんな意味で無駄を感じてしまいます。改造なしで使えるなら、もっと柔軟に活用できるのに・・・その意味でも今回の試写結果によっては、天体用としての出動頻度がもっと上がるかも。 撮影記 今回の出動はひさびさの「遠征」。場所はいつもの福岡県東峰村小石原です。前日にそれなりの雪が積もったせいか、誰もおらず貸し切り状態。足場がぬかるんでいないかちょっと不安でしたが、地面に雪は残っていなかったのは幸い。 途中の嘉麻峠は全面ザラメ雪と氷結路でした。今シーズンのはじめにタイヤを交換したのですが、さすがのブリザック、それまで履いていた7シーズン目の中古DSXとは比較にならない安定性。痛い出費でしたが、安全には替えられません・・ 慣れた機材の組み合わせなので、5kgのバランスウェイトを忘れてきた(*)以外はw、撮影にはスムーズに進行しました。FSQは温度変化でピントがずれやすいので、途中何回かピントを合わせ直しました。大星雲の下にある2.7等級のオリオン座ι(イオタ)星を使用。クリアバーティノフマスクを使用すれば楽勝。 (*)実はもう1セットAP赤道儀を持ってきていたのですが、ウェイト不足で出動見送りになりましたorz 撤収直前。月が昇ってきたら撤収するのは織り込み済み。都合良く?下弦の月と共に雲が湧いてきたので、車に積んだカメラと三脚を再度出して記念写真。 画像処理とリザルト・フィルターなしの場合 いつものように前置きが長くなりましたが、リザルトを見ていきましょう。まずはフィルターなしの場合です。 素材画像 ライトフレームは34枚撮像。ISO1600で4分、34枚です。総露出2時間16分。ノーマル機のメリットの一つは、撮って出し状態でもカラーバランスが崩れていないところ。 1枚画像を詳しく見てみます。左が無補正ですが、ヒストグラムの山も幅もよく揃っています。周辺光量の豊富なFSQ106EDだけあって、補正なしでも周辺減光はほとんど目立ちません。 しかし、トーンカーブを断崖状態にして「超強調」してみると、一気にアラが出てきてしまいます。右辺の減光はミラーボックスによるケラレ。周辺減光も出てきました。上辺が暗いのは背景のかぶりの差でしょうか。色もズレ始めています。 白飛びは我慢する オリオン大星雲は、中心と周辺の輝度差が激しい天体の一つ。淡い部分を出すために長時間露出をかけると、中心部はすぐに白飛びしてしまいます。その白飛びの状況を見てみましょう。 上の画像の左側は、4分露出の画像をレベル調整でシャドーを順に詰めていったもの。詰めるにつれて飛んでいたハイライトが戻ってきているのですが、目一杯詰めても白いままの部分が残りますよね。これが「白飛び」。元画像で白飛びした部分は、どんなに画像処理をしても、その画像からは階調は戻りません。 一方、右は露出を5段階少なく撮影した画像です。こちらは左の画像で白飛びしていた部分もしっかり階調が残っていますね(*)。 (*)それでもトラペジウム付近は飽和してしまっています。 大星雲の中心部の階調も表現された最終画像を得るためには、上の画像のような「多段階露出」による複数の画像を使用して、何らかの方法で合成する必要があります。この詳細は別記事に譲る(*)ことにして、今回は先に進めましょう。 (*)「画像処理ワンポイント」で近日掲載予定です! フラット処理後のコンポジット済み素材画像 今回は真面目にフラット画像を撮像して処理しました。オリオン大星雲付近は「分子雲のるつぼ」なので、以前紹介した「星消しシェーディング画像減算法」ではうまくいかないとみての判断です。 ミラーボックスのケラレがきちんと補正できていないものの(*)、結果はまあまあ良好。これなら普通にグラデーションマスクだけでムラを取りきることができるでしょう。 (*)この方式によるフラット撮像では「光源と対物レンズの距離」が結果に影響するのではないかとにらんでいます。詳細はぼちぼち検証予定です。 グラデーションマスクによるかぶり補正 次にかぶり補正。強調用のレイヤー(上2つのレイヤー)を入れた状態で、グラデーションマスクで補正しました。比較的素直な元画像で、3つのレイヤーでだいたいの補正は終了。とことん強調するならもうすこし追い込む必要があるでしょうが、今回は「あっさり目」の仕上げの方針で行きます。 強調処理 ここから先の強調処理はいろいろやり方があると思いますが、Camera rawでまずあっさり目に強調。大星雲中心部の白飛びを抑制するために「ハイライト」を押さえ、「明瞭度」を上げてうねりを出します。黒レベルとコントラストを調整し、彩度も大きく上げました。 トーンカーブを調整し、もう少し強調。彩度もさらに上げました。 ノイズ処理 2時間露出のあっさり目の強調とはいえ、等倍で見ると中輝度部でもノイズが浮いています。Camera raw で輝度15、カラー25でノイズ低減。この程度のノイズ処理であればあまりディテールは失われません。 できあがり 課題はいろいろありますが、とりあえずはできあがり。まだ押す余地もありますし、背景が緑っぽいのもやや不満。大星雲の外側はもっとブルー押しにしたい気もする。ですが、この作例は「非改造機のいじらないママの色」を見ていただく意味でも色別の色相シフトや色別のトーンカーブ補正はしていません。 さらに強調すると・・ 破綻覚悟でもっともっと強調して、なんでもアリでやりまくると、このくらい出てきます(*)。ノーマル機でもモクモク分子雲撮像は可能である、といえるのではないでしょうか。 (*)ここまで強調するのなら露出時間はさらに倍、3倍は欲しくなってきます。ムラと本来の画像を区別するためにも、リファレンス画像を調べて処理すべきところ。 いずれにしても、はっきりいえることがあります。オリオン大星雲はノーマル機でも美しい。むしろノーマル機の方が美しいとさえ思います。 画像処理とリザルト・SVBONY CLSフィルターの場合 次は光害カットフィルター「SVBONY CLS」を使用した画像です。 素材画像 ライトフレームは計16枚撮像。月の出・雲の出もあって、実際に使えたのは12枚、総露出時間48分。ちょっと不足気味ですがやむなし。ちなみに、CLSフィルターを使用すると背景の色はごらんのような青緑色になります。 フラット処理後のコンポジット済み素材画像 干渉フィルターを使用するとフラット処理を入れても周辺部の色むらが浮いてきます。困りますねえ・・・しかしこの程度のムラはある意味干渉フィルターの宿命(*)。地道に処理します。 (*)一般的に、干渉フィルターは斜めに入射した光に対しては波長特性が変わるため、周辺部で色ムラが発生することがあります。ちなみに、使用したフィルター個体はフィルター外周部の波長特性(色)が若干違っているように見えました。メーカー様に問い合わせたところ「実使用には影響はない」とこのことでしたが、強調の度合によっては影響があるかもしれません。 できあがり 周辺のかぶり補正はあきらめて、中心部だけトリミングして処理してみました。フィルターなしと比べて、全体的に赤い成分が強くなっています。SVBONY CLSはHα以外の赤い光の帯域が狭い「青緑色」のフィルターですが、その状態でカラーバランスをニュートラルに補正すると結果的に赤を強調することになるのです。 フィルターなしと比較して、画像処理(かぶり補正、カラーバランス補正)は「かなり面倒」になりますが(*)、改造機にほどはいかないにせよ、非改造機でもかなり赤を強調することができました! (*)中途のプロセスは省略してしまいましたが、グラデーションマスクを多用しました。背景の色は輝度マスクをかけた上でPhotoshopのカラーバランスで補正しています。 まとめ いかがでしたか? ノーマル機にはノーマル機の良さがある!改造機でしか天体写真を撮らないのは、天文ライフをちょっとだけ損しているかも!そんな結論に達しました。 特に「オリオン大星雲」はHαとOIIIの「両方」の輝線スペクトルが強く、輝線以外の連続光も豊富で、様々な波長の光に満ちています。そこに改造機やフィルターでHαを強調しすぎると、赤一辺倒になってしまいます。オリオン大星雲こそノーマル機で撮るべきではないでしょうか。 Hαの感度がかなり弱いという欠点も、フィルターをうまく使えばかなり補えそうです。QBPやSTC Astro DUO、「純Hα」など、ナローバンドフィルターをフル活用して「フィルターあり・なしカラー合成」するなど、いろんな「変態技」が駆使できそう。 今シーズンは、M8干潟星雲やM16/17、北アメリカ星雲、網状星雲など、「非改造機」でさらにいろいろな「メジャー天体」のガチ撮りをやってみたいと思います。リザルトはこの連載でご報告していきますのでお楽しみに! 機材協力: SVBONY  編集部発信のオリジナルコンテンツ