ビクセンから7月末に発売されたFL55SS鏡筒。ビクセン様のご厚意でお借りすることができました。編集部では約一ヶ月間、写真に眼視に、この鏡筒を試用してきました。その結果、煽りでも忖度でもなく「眼視・写真用途両方で非常に優れた製品である」と断言します。正直欲しい。天体写真を始めた頃の自分にプレゼントしてやりたいと心から思います^^

前置きはこのくらいにして、レビュー結果を一気にお届けします!

FL55SSとはどんな製品か

最後に出てきた「高性能ミニ望遠鏡」

FL55SSは、CP+2017,2018で参考出品されていたビクセンの小型望遠鏡で、7月26日に発売された「口径55mm」のフローライト2枚玉天体望遠鏡。

このクラスには、タカハシのFS-60CBやBORG55FLなどのすでに有力な製品があり、そんな中で最後に出てきたこの製品に注目が集まっています。

これは「ミニVSD」か?!

【これは「ミニVSD」か?】ビクセンよりFL55SSが新発売

その意味では今回のこの製品はビクセンの大きなチャレンジであると前向きにとらえたいと思います。
量販店の店頭に25万円の望遠ズームレンズと、19.4万円のFL55SSとレデューサのセットがあるとき、これから天体写真を始めてみようと思う人はどちらに手が出るのか。そのへんも含めて、FL55SSのレポートを待ちたいものですね。

天リフでは発表の日にカタログスペックからこの記事を書きました。周辺減光がほとんどなくて、周辺まで良像。これは「ミニVSD」ではないかと(*).

(*)他人事のように「FL55SSのレポートを待ちたいものですね」と書きましたが^^;; 結局自分で書かせていただけることになりました。ビクセン様、ありがとうございます。

どこが「ミニVSD」なのか?

FL55SSのファーストライトは7/28の皆既月食。重量級のVSDと違って、こういう写真を気楽に撮ってみる気になるのはFL55SSならでは。輝度差が激しい対象ですがヌケの良さにも注目。FL55SS+フラットナー、EOS6D(改)

まあVSDを使ったことがない編集子が「ミニVSD!」と叫んでも説得力は乏しいのですが、本家VSDについては吉田隆行さんの以下のレポートが参考になります。

天体写真の世界・VSD100 F3.8レビュー
http://ryutao.main.jp/equip_vixen_vsd100.html

これに即して、ここがミニVSDである!という部分とそうでない部分をまとめてみました。

ここがミニVSDだ!

  • 周辺減光の少なさ(VSDよりもさらに豊富な周辺光量)
  • 星像が周辺まで均質(VSDより若干負けるが)
  • ユーザに優しい(軽量コンパクトで手軽にハイレベルな天体写真を撮影できる)

ここはVSD以上!

  • クラス最高レベルの眼視性能(VSDは写真オンリー)
  • レデューサ構成の場合6群7枚のレンズ構成(VSDは5群5枚)(*)

(*)枚数が多けりゃいいというものではありませんが・・

ここはミニVSDとは呼べない・・・

  • 接眼部がラックピニオン(VSDは15条螺旋のヘリコイド)

また、お値段も「ミニVSD」であることを指摘しておかなくてはなりません。

また前置きになってしまいました^^ それでは、FL55SSをつぶさに見ていくことにしましょう。

各部の外観と構成

補正レンズなし、純正アリガタの「素」の状態。ドロチューブをいっぱいに伸ばしたところ。ストロークは実測で64mm。

重量とサイズ

装着しているデュアルスピードフォーカサーは別売(税別2.8万円、重量170g)です。

FL55SSの重量は、付属のビクセン規格アリガタを除けば約1.2kg。タカハシのFS60CBと同じくらいですが、焦点距離が300mmと短いぶん全長は280mmと10cmほど短く、とてもコンパクト。

レデューサ、直焦ワイドアダプター60DX(別売、税抜1.6万円)を装着した状態で全長31cm。中型のカメラバッグに収まりました。

フードは固定式で取り外すことはできませんが、小ぶりなカメラバッグにも収納できるのはとても便利。ただし・・写真では隠れていますが、ドロチューブのピントリングが左右に出っ張っているのがかなり邪魔。これは片側だけで十分ではないでしょうか。

上質なコーティングと内面反射処理

右はレデューサ。反射率0.1%の「ASコーティング」。フィルム面に近い補正レンズは、ムラのない画像を得るためにはコーティングと内面反射処理が重要。これはなかなかイイ感じです。

左は対物レンズ。こちらは普通の^^マルチコーティングだそうですが、バランスとしては補正レンズを優先すべきでしょう。対物レンズも補正レンズも、外装・つや消しの仕上げも良く高級感があります。

左:ドロチューブ側から対物レンズを見たところ。ドロチューブ内部は細かなスジが切ってあり、内面反射が非常に少ないのが美点。手抜きのない造りです。右:レデューサ+フラットナーをマウント側から見たところ。こちらも内面反射処理が上質、レンズもコバ塗りされていました。

鏡筒の外径は80mm、ドロチューブ内径は実測で58mm。口径55mmの対物レンズに対しては十分な余裕があります。レデューサ・フラットナーも光路を遮るものが全くなく、周辺光量が豊富であることがうなずけます。実写した結果でも、ムラのない非常に素直なフラット特性で、抜けのいい光学系だと感じました。

アリガタ

ビクセン規格の長さ21cmほどのアリガタプレートが付属します。見かけほどは重くはないのですが、それでも重量は273gでかなり存在感があります。鏡筒とのバランス的には、やはりここはアルカスイスプレートに換装したくなります。

鏡筒にはプレートを取り付ける台座があるのですが、重量バランス的に眼視でも写真でも、バランス位置はもっと後方、ピントリングの付近になるため、直接三脚に取り付けるのには若干無理があります。

編集部では長めのアルカスイスプレートに換装して使用しました。こちらの方がコンパクトで140gほど軽量化できました。アリガタは別売にして価格を少しでも下げて欲しいところです。

鏡筒径は80mmでFS60CBやBORG等の80mm鏡筒用のバンドなどが使用できますが、台座がある関係で装着位置は限定されます。ガイド鏡を装着したい場合はちょっと工夫が要りそう。アルカスイスプレートの鏡筒下あたりに装着するのがよいかもしれません。焦点距離的にはオートガイドなしでも使える範囲なので、簡単な運用を想定してこの仕様としたのでしょう。

接眼部

ドロチューブに一部グリスが浮いているところがありました。拭き取っていいのかな?

接眼部はラックピニオン式。ドロチューブは対物レンズよりも太いM60mm、内径58mmで、ケラレの心配はありません。これはGood。ドロチューブには固定用のクランプが付きますが、クランプを締めるとごくわずかに対象がずれるのがわかります。デジカメ(EOS6D)では特に問題を感じませんでしたが、冷却CCDのような重量級のカメラを取り付ける際には、強化が必要かもしれません。

左:デュアルスピードフォーカサーを装着したところ。中:左側のピントノブを外したところ。小さなサイズの鏡筒なので片側だけで十分、出っ張ってかさばるので外してしまいました。右:標準付属のピントノブ。実はアルミの削り出しで高級感があるのは良いのですが、2個で117g。1個外すだけでも58gの軽量化です。

ただ、デュアルスピードフォーカサーがオプションなのが残念。焦点距離が短い分ピントが浅く、眼視でも写真用途でもほぼ必須です。これは最初から付属にして欲しいところ。

デュアルスピードフォーサの取り付け

デュアルスピードフォーカサーを使用する場合、自分で取り付けなくてはなりません。取説を読めば普通にできるのですが、逆に経験がない場合は取説を読まないと無理。ロックネジを外すのが結構固くて神経を使いました。プラスドライバーも必須なので、初心者には厄介かもしれません。繰り返しになりますが、デュアルスピードフォーカサーは標準付属として取り付けた状態で出荷すべきでしょう(*)。

(*)もうひとつの考え方として、ラックピニオンは粗動用と割り切って、M60対応の薄くて堅牢なヘリコイドを付けるというのもありかもしれません。粗動があればストロークは数mmあれば十分。ピントの追い込み用にバーニヤがあれば完璧、そうなればまさに「ミニVSD」なのですが。

フラットナーとレデューサ

専用のフラットナー(左)とレデューサ(右)。フラットナー単体で使用する場合は専用の延長筒の内側にねじ込むようになっています。レデューサを使用する場合はレデューサの内側にフラットナーをねじ込みます。

カメラアダプタを装着した総重量はごらんの通り。フラットナー+レデューサの場合は、ちょっとしたカメラ用レンズくらいの重量になります。

レデューサを使用した237mmF4.3の構成の場合の総システム重量。片側のピントノブを外せば-58gの1724g、純正アリガタの場合は+140gの1922g。70-200mmF2.8クラスのカメラレンズより300gほど重い重量です。

EOS6Dを装着した最終形態。この状態でピントが出ています。総重量は2479g(実測)。しっかりしたポータブル赤道儀なら十分運用可能な重さ。この状態でバランス位置はドロチューブの銀色の付近になります。

プレートの長さと取り付け方によっては、カメラアダプタのネジとプレートが干渉することがありますが、「直焦ワイドアダプター60DX」は短いネジも付属しているので、適宜換装すれば干渉は防げるでしょう。

ちなみに、カメラの縦横構図の切替は、直焦ワイドアダプター60DXの6本のネジを緩めて回転させることで行います。ちょっとめんどくさいですが、これは仕方ないでしょう。

 

カメラレンズとの大きさの比較

FL55SSのライバルはタカハシFS-60CBであり、BORG55FLなのですが、写真用途だけで考えると実はカメラレンズもライバルです。キヤノンの300mmF2.8L IS(2550g:生産終了品)と、EF200mmF4L IS(760g)と並べてみました。

ごらんの通り、300mmF2.8よりはずっと小型軽量で、200mmF4よりは大きく重くなります。どちらも天体適性の高い優秀なレンズですが、FL55SSと比較してどうなのでしょうか。今回は300mmについては試写していますので後ほど比較画像をごらんいただきます。200mmについては残念ながら今回は実写比較できなかったのですが、別の機会を見て試写画像をごらんいただきたいと思います。

FL55SSの写真性能(レデューサ編)

FL55SSで北アメリカ星雲を撮影中。月夜のナローバンドです。

お待ちかね。フラットナー+レデューサで焦点距離237mm、F4.3での構成での試写結果です。

作例1)バンビの横顔

FL55SS 237mm EOS6D(SEO-SP4) ISO3200 60sec*48、ISO400 8sec*15 ダーク、フラットなし SWAT-310 ノートリミング FlatAidProで対数現像、飽和復元合成 福岡県小石原にて

定番のバンビの横顔を総露出時間48分で。フラットフレームは使用していません。PSの周辺減光補正をコンポジット後にほんの少しだけかけています。

フラット処理は、ほぼ不要

コンポジット直後の画像をレベル切り詰めだけした状態。左の縁が少し暗くなっているのはミラーボックスけられ。周辺減光はそれよりも少なく、この程度の強調ではあまり目立ちません。

FL55SSの最大の美点は周辺光量の豊富さと不規則なムラの少なさにあります。FL55SSの場合、レデューサ使用時の周辺光量はフルサイズ隅で86%もあります。

天体望遠鏡にせよカメラレンズにせよ、周辺減光はざっくりとはソフトで簡単に補正できるのですが、問題は不規則なムラ。FL55SSの場合は太さに余裕のある鏡筒とドロチューブ、内面反射防止が行き届いたレデューサ・フラットナーのお陰もあって不規則なムラが極めて少なく、PSの周辺減光補正のみでフラットをほぼ補正することができます。これは画像処理に不慣れな初心者には大きなアドバンテージ

ハロの少ない整った星像

↑の画像を彩度+50したもの。400%拡大。

もうひとつの美点は、輝星の星像が「割れない」こと。明るいカメラレンズや、錫箔の入ったレンズでは輝星に割れたようなハロがとりまくことがありますが、それが非常に少なくなっています。

周辺像の評価

FlatAidProの等倍星像チャート機能で作成。コンポジット直後の画像をPSで彩度+60、コントラスト+100しています。フラット補正なしの等倍チャートで輝度差がここまで少ないことにも、ぜひ驚いてください^^

周辺の等倍画像。中心の最小星像は2*2ピクセルから3*3ピクセル。色ハロも少なく素晴らしい結像特性です。最周辺では若干流れがあり完全な点像ではありませんが、倍率色収差も少なく、フルサイズ周辺でこの星像であれば「素晴らしい」と評価してよいのではないでしょうか。

作例2)ナローバンドで北アメリカ星雲

ビクセンFL55SS 237mm SONY α7S Baadar Hα7nm 30sec*330 ISO12800 フラットなし、ダーク*30 SWAT-310 福岡県小石原

もうひとつ作例を。Hαナローバンドでの北アメリカ星雲です。本当はもっと普通の作例を撮りたかったのですが、あいにく月が大きく、ナローバンドでの撮影になってしまいました。

FlatAidProの等倍星像チャート機能で作成。コンポジット直後の画像をモノクロ化し、PSで明るさ+150、コントラスト+100しています。

こちらも等倍チャートを。Hαの単色だと周辺像の様相が若干変わっています。放射状の流れ、特に左上の流れがやや大きくなっていますが、若干ピント位置が追い込めていない可能性もあります。FL55SSの場合、最周辺部の星像はピント位置によって流れ方が変わるようです(*)。最小星像径が10μのオーダーですから、ピントの追い込みもなかなか大変です。これがFL55SSを使いこなす一番のポイントになるでしょう。

(*)主に非点収差に起因しているものと推測します。

使いこなしの鍵はピント合わせ

サイズが全く合っていないのでパーマセルテープで綱渡り装着^^;; 右は実写画像。土星の光条がほぼ視野全体まで広がっています。ライブビューで合わせる場合は、明るい二次回折像または三次回折像を使用しました。

今回、ピント合わせにはWO社の「透明バーティノフマスク」を使用しました。アクリル板に細かな線がびっしり引いてあり、ライブビューでも2等星程度であればじゅうぶんピント合わせが可能になっています。

透明バーティノフマスク・William Optics社

ポータブル赤道儀との相性

FL55SSのレデューサ構成の場合、焦点距離は237mm。ポータブル赤道儀を使用してオートガイドなしで十分運用可能な焦点距離です。上の画像は今回の作例撮影で使用したSWAT-310ですが、このようなフォーク型の構成で使用しました。プレートの位置を適切に設定すれば、全天死角なし・イナバウアー自在です。これは実に使いやすい構成でした。

AP-SMマウント。税別13万円。赤経モーターとスターブックワンが付属。ウェイト別で重量3.6kg。極軸望遠鏡は別売です。ビクセンのHPには残念ながらFL55SSとの組み合わせの例がありませんでしたが、おそらくかなりカッコイイはず^^

ビクセン社の赤道儀もご紹介しておきます^^;; FL55SSと組み合わせる場合、AP赤道儀がベストマッチでしょう。オートガイドなしであればモーターは赤経側だけでOK。赤緯微動も付いているので構図合わせや眼視での使用もバッチリ。

FL55SSの写真性能(フラットナー編)

続いて、フラットナーで焦点距離312mm、F5.7の構成での試写結果です。

作例3)北アメリカ星雲

FL55SS フラットナー使用 EOS6D(SEO-SP4) 120sec*26 ISO3200 フラット・ダークなし SWAT-310 FlatAidProで対数現像、飽和復元合成 福岡県小石原にて

薄雲の影響で若干星が滲んでいますが、デネブの像も乱れがほとんど無く、非常にバランスのいいシャープな星像です。

フラット処理は「不要」

こちらもコンポジット直後の画像をレベル補正のみで強調してみました。フラットナー使用時の周辺光量はフルサイズ隅でなんと96%、周辺減光はほぼ皆無。ミラーボックスの蹴られ(画像下端)があるものの、ほんの少しトリミングすれば、実質的にフラット処理は不要といってよいレベルでしょう(*)。

(*)センサーのゴミ対策・より均一な背景レベルを得る意味では、フラット処理を行った方がよりよい結果が得られることがあります。

周辺像の評価

コンポジット直後の画像を、Photoshopで彩度+60、コントラスト+100.

等倍星像チャート。中心の星像径はレデューサ使用時と同程度で極めてシャープ。最周辺像は若干いびつになっていますが、レデューサ使用時よりも良像です。

サンニッパとガチ勝負

キヤノンのサンニッパ、EF300mmF2.8L IS(一つ前のモデル)と比較してみました。

EOS6D(SEO-SP4) EF300mmF2.8L IS F2.8 ISO3200 30秒×14枚 SWAT-310 福岡県小石原 周辺減光はPSのプロファイル補正を使用 コンポジット直後の画像を、Photoshopで彩度+60、コントラスト+100.

等倍チャート。天候の関係で露出時間を十分取れなかったため、厳密な比較ではありません。

実際のところ、サンニッパのカメラレンズは各社がメンツをかけて開発している製品でもあり、一世代前の製品でもかなりの高性能です。中心部の星像は2*2ないしは3*3ピクセル。周辺像は若干肥大してはいますが、流れも少なくさすがの高性能です。

ただし、FL55SSと比較して、色収差の点ではやや劣っています。特に、周辺部の青ハロ・赤ハロが若干気になります。

EF300mmF2.8L IS 絞りF2.8 プロファイル補正なし、1枚画像をレベル補正

また、周辺光量は上の画像の通りかなり落ちます。イヤなムラもほとんどなく、プロファイル補正でほぼ補正できるのですが、素のママではけっこうな周辺減光です。デネブの光芒が真っ二つに割れてしまっているのにも注目。これが若干悲しいところ。

デネブ周辺を拡大してみました。左がFL55SS、右が328。この現象は鏡筒というよりも、明るい光学系をミラーボックスを持つカメラで使用する場合の宿命です。

EF300mmF2.8L IS F2.8 絞りF4、120秒、プロファイル補正なし、1枚画像をレベル補正

F4に絞ると周辺減光は改善はしますが、依然として残っています。デネブの光芒の割れはなくなりましたが、絞り羽根による8本の光条が出ています。(これは好みの分かれるところですが・・・)

「ガチ勝負」と煽りましたが^^;; 完全な同一条件・同一対象での勝負は今回はお預け。サンニッパも天体用には優れたレンズです。というか、お値段を考えればサンニッパから見ると「負けたら恥」レベル。解放での周辺像はサンニッパの勝ちですが、それ以外はむしろ勝っているかも。

FL55SSの眼視性能

使用前は「口径55mmで眼視してもねえ・・」と思っていたのですが、実際に覗いてみてびっくり。実に良く見えます。FS55SSを写真専用にしてしまうのは実にもったいない。ぜひ眼視でも使ってみてください。アイピースと天頂プリズム・ミラーは付属しないのですが、このためだけに買う価値はあります。

高倍率で使用する

HR2.0mmアイピースを付けて150倍の構成。これが実に良く見えます。天頂プリズムは付属しません。後述しますが、高倍率でプリズムを使用すると若干見え味が悪くなります。

上の写真はビクセンの秘密兵器?HR2.0mmアイピースを装着したところ。この状態でピントが出ています。プリズム・ミラーを使用せず直視する場合は、付属の延長筒を使用します。

ペルセウス座流星群の夜、火星を観望中。ダストストームが晴れてきて白く輝く極冠が見えていました。土星はカシニの空隙もなんとなくわかります。星まつりで実際に覗いた人からも驚きの声が上がったと聞きましたが、これは騙されたと思って一度見て欲しいレベル(*)。Fの明るい口径55mmでも、きちんと作れば(そしてシーイングが良ければ)すごく良く見えるのです。

(*)某所の星まつりでは、常識を覆されてその場にうずくまる人もいたとかいないとか・・

低倍率で使用する

こちらは手持ちのペンタックスXW-20mmを取り付けたところ。15倍、実視野5°弱。フラットナーを入れていないので周辺は少し流れますが、これで天の川を流すとめちゃ気持ちいい!

フラットナーは眼視には対応していないとのことでしたが、直視の場合はピントが出ました。フランジバックは適当なので最適な性能は出ていないと思いますが、それでもフラットナー無しよりは周辺像は良くなります。これなら・・・ニコンのWX双眼鏡とガチ勝負したくなるかも・・^^;

ちなみに、フラットナー使用時のドロチューブ末端からピント面までの距離は129mm。専用のアダプタを自作すれば、正立プリズムならピントを出せるかもしれません。1.25インチのEMS(正立ミラー)の光路長は122mmですが、これもなんとかなるかも?どなたか、FL55SSの双眼とか、いかがですか^^;;;

HRアイピースについて

今回試用したHR1.6mmとHR2.0mm。FL55SSではそれぞれ188倍と150倍になります。口径mm×3を越える過剰倍率ですが、像の破綻もなく迫力の見え味。

最近注目されているのが「過剰倍率」。口径100mmで400倍とか、口径50mmで200倍といった、従来高倍率の限界とされてきた「(口径mm)の2倍まで」を越えた高倍率のことです(*)。

(*)「ある限界以上は、倍率をむやみに高くしてもぼけた像が大きくなるだけで、良く見えるようにはならない」というのは変わらない真実なのですが、より高性能な光学系においては、その目安はもっと高い倍率にあるというのが昨今の考え方になっています。ただし、過剰倍率では「飛蚊(角膜上のゴミや眼球内のムラのためモヤモヤした像が飛び回る現象)」の影響が大きくなり、人によっては気持ち悪さを感じる場合があります。

ビクセンのHRアイピースは、この過剰倍率をF値が小さな望遠鏡でも簡単に実現できる、1.6mm、2.0mm。2.4mm、3.4mmという極めて焦点距離の短い製品です。今回、1.6mmと2.0mmをお借りして使用してみました。

コーティングは反射率0.1%以下のASコート。内面反射処理も丁寧。対物側には絞り環があって迷光を遮断するようになっています。

結論からいって、大変よく見えます。これは少し控えめかもしれません。ものすごくよく見えます。いくつかのオフ会で眼視のベテランの方に感想を伺っても、よい評価しか聞きません。

具体的な特徴としては、コーティングと内面反射処理が非常に上質でコントラストが高いこと、アイレリーフが10mmと短いものの眼の位置に寛容でブラックアウト(*1)がほとんどなく「見やすい」こと、見かけ視野を43度を押さえ視野周辺での像の悪化を極力抑えていること(*2)、などが挙げられます。

(*1)アイレリーフの長い広視野・短焦点のアイピースは、眼の位置がずれると視野の一部が「マメのさや」のような形で陰る現象が出ることがあります。

(*2)低価格品まで含めて大抵のアイピースは「視野の中心」での像の悪化はほとんどないため、惑星のような小さな対象の場合は注意深く「中心」に導入すれば収差的な問題はほとんど差異はないのですが、現実には常にぴったり中心に導入することは難しく、結果的に像の悪化を招くことになります。

欠点を挙げるとすると、目当てのゴムが固定であるため、メガネ着用の際に全視野を見渡せないことがあることくらいでしょうか(*)。

(*)過剰倍率の場合は瞳径が小さくなるため乱視の影響が少なくなり、メガネを外して見た場合でも像の悪化は少なくなります。編集子は2Dほど乱視が入っていますが、高倍率ではメガネを外しています。

天頂プリズムの注意

これはFL55SSというよりも、F値の小さな短焦点鏡筒全般に言えることですが、高倍率の性能をフルに発揮するには天頂プリズムがネックになる場合があります。プリズムに入射する光線が垂直からずれることによって収差を発生させるのです。

昼間の風景を高倍率で見た状態をスマートフォンでコリメート撮像してみました。こちらはHR1.6mmの場合。天頂プリズムを使用すると明らかに像が悪化しています。

こちらはHR2.0mmの場合。1.6mmほどではありませんが、色づきが多くなり、結像も若干甘くなっています。

月面の場合。地上風景ほどはっきりと差はわかりませんが、プリズムありの方が縁が色づいています。

実際問題「天頂プリズムを使うな」と言われてしまうと代替品に困る現状もあります。メーカー・販売店様には「良く見える1.25インチの天頂ミラー」「お手頃な値段の良く見える1.25インチ正立ミラー」の良い製品をぜひ推して欲しいものです。あと数年間は惑星の高度は皆低いので直視でもなんとかなりますが、それを過ぎると苦しくなってしまうので・・・

ポータブル赤道儀との相性

7月28日の皆既月食、FL55SSで。ポータブル赤道儀SWAT-310に搭載。自動追尾なので月食の間ずっと視野の中。雲間の皆既の月も見失いません。

高倍率で使用する場合、手動追尾の経緯台ではなかなか大変。かといって、FL55SSのような小型の鏡筒を大げさな赤道儀に載せるのもバランスが悪い。そんな場合には「ポータブル赤道儀」がけっこう使えます。赤緯の微動がないと導入にはちょっと苦労しますが、一度導入すればあとは自動追尾。惑星をじっくり長時間眺めることができます。

どんなユーザーに適しているのか

FL55SSのメリット(イメージ画像)

年齢、コメントは編集部が作成したもので、登場する人物とは全く関係ありません。フリー素材「PAKUTASO」を使用しています。https://www.pakutaso.com

上の画像は思い切りベタに、FL55SSのメリットを表したイメージ画像です。小さなサイズを生かした機動性、フォト鏡筒としてF4.3の十分な明るさと最高レベルの性能。フラット補正のやりやすさと色ハロの少ない強い強調に耐える星像。そしてカメラレンズにはない「天体望遠鏡」としての高い性能。

天文趣味では、熱が高じるほどに「大型機材」に向かってしまいがちですが、FL55SSはそれだけではない新しい楽しみ方を広げてくれるのではないでしょうか。

でも、お高いんでしょう?

残念ながらけっこうお高いです。フラットナー・レデューサと鏡筒で19.4万円。これに必需品のデュアルスピードフォーカサー(2.8万円)と直焦ワイドアダプター60DX(1.6万円)を足すと23.8万円。

(*)価格は全て税抜です。

しかし、「ビクセン、また妙に高い製品を出しやがって」というような批判は適切ではありません。眼視・写真用途の双方で、これまでの製品の中では最高の部類といえる性能です。高くても欲しくなる、高くても買ってしまう、そして使ってみて買って良かったと満足できる。そんな製品は「良い製品」と言ってよいのではないでしょうか。

まあしかし、最後に価格を決めるのは「市場」です。もう少し「こなれてくる」ことには期待したいと思います^^;;

まとめ

いかがでしたか?小型軽量でありながら、写真・眼視用途の両方で高い性能を発揮するFL55SSは「ミニ望遠鏡」の新しいスタンダードともいえるパフォーマンスを発揮してくれました。初心者からガチ写真派まで、これ1本あるだけで天文の楽しみを大きく広げてくれるものでしょう。

その一方で、お値段は高いです。性能はVSD級ですが、お値段もVSD級。でも買うか買わないかを決めるのは貴方。それだけの魅力がこの製品にあるか。ずばり「ある」と考えます。

ただし、製品のパッケージングについては改良の余地があるかもしれません。ビクセン規格のアリガタはこの鏡筒のサイズには大きすぎるし、マイクロフォーカサは用途から見ても標準付属にすべきです。フラットナー単体を買ったユーザへのレデューサの販売形態も現状では明確ではありません(*)。

(*)カタログには「フラットナー単体」と「フラットナーとレデューサのセット」はあるのですが、「レデューサ単体」がまだありません。

画像処理が楽」という初心者に大きく訴求する性能を持っているのに、それをフルに発揮するにはいろいろなパーツを選んで揃える必要があるのは、販売上しきいを高くしてしまっている気もします。写真用途で必要なパーツをすべてセットにしたお買い得感のあるパッケージがあれば、もっと訴求するような気がします。

防湿庫に収納中。横たわる姿もカワイイ。見るたびにニヤケそう^^

しかし、それらの要素を差し引いても、なおFL55SSには大きな魅力があります。写真用途でも眼視用途でも、こんなに小さくてもストレートに楽しめる。「フラット処理」というこれまでの天文趣味で初心者の前に立ちはだかる「壁」を低くしたというだけでも、画期的なものだと感じました。

正直いって、安く済ませたいのなら他にも選択肢はあります。でも、この製品でしか体験できないものが確かにある。それこそが、今後の天体望遠鏡に必要なものではないでしょうか。


・本記事は(株)ビクセン様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。

・記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。

・製品の購入およびお問い合わせは(株)ビクセン様、天文ショップ様宛にお願いいたします。

・本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。

・特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。

・記事中の製品仕様および価格は執筆時(2018年8月)のものです。

・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/thumb-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/08/thumb-150x150.jpg編集部HOT!FL55SSレビューFL55SSビクセンから7月末に発売されたFL55SS鏡筒。ビクセン様のご厚意でお借りすることができました。編集部では約一ヶ月間、写真に眼視に、この鏡筒を試用してきました。その結果、煽りでも忖度でもなく「眼視・写真用途両方で非常に優れた製品である」と断言します。正直欲しい。天体写真を始めた頃の自分にプレゼントしてやりたいと心から思います^^ 前置きはこのくらいにして、レビュー結果を一気にお届けします! FL55SSとはどんな製品か 最後に出てきた「高性能ミニ望遠鏡」 FL55SSは、CP+2017,2018で参考出品されていたビクセンの小型望遠鏡で、7月26日に発売された「口径55mm」のフローライト2枚玉天体望遠鏡。 このクラスには、タカハシのFS-60CBやBORG55FLなどのすでに有力な製品があり、そんな中で最後に出てきたこの製品に注目が集まっています。 これは「ミニVSD」か?! http://reflexions.jp/tenref/orig/2018/07/23/5804/ その意味では今回のこの製品はビクセンの大きなチャレンジであると前向きにとらえたいと思います。 量販店の店頭に25万円の望遠ズームレンズと、19.4万円のFL55SSとレデューサのセットがあるとき、これから天体写真を始めてみようと思う人はどちらに手が出るのか。そのへんも含めて、FL55SSのレポートを待ちたいものですね。 天リフでは発表の日にカタログスペックからこの記事を書きました。周辺減光がほとんどなくて、周辺まで良像。これは「ミニVSD」ではないかと(*). (*)他人事のように「FL55SSのレポートを待ちたいものですね」と書きましたが^^;; 結局自分で書かせていただけることになりました。ビクセン様、ありがとうございます。 どこが「ミニVSD」なのか? まあVSDを使ったことがない編集子が「ミニVSD!」と叫んでも説得力は乏しいのですが、本家VSDについては吉田隆行さんの以下のレポートが参考になります。 天体写真の世界・VSD100 F3.8レビュー http://ryutao.main.jp/equip_vixen_vsd100.html これに即して、ここがミニVSDである!という部分とそうでない部分をまとめてみました。 ここがミニVSDだ! 周辺減光の少なさ(VSDよりもさらに豊富な周辺光量) 星像が周辺まで均質(VSDより若干負けるが) ユーザに優しい(軽量コンパクトで手軽にハイレベルな天体写真を撮影できる) ここはVSD以上! クラス最高レベルの眼視性能(VSDは写真オンリー) レデューサ構成の場合6群7枚のレンズ構成(VSDは5群5枚)(*) (*)枚数が多けりゃいいというものではありませんが・・ ここはミニVSDとは呼べない・・・ 接眼部がラックピニオン(VSDは15条螺旋のヘリコイド) また、お値段も「ミニVSD」であることを指摘しておかなくてはなりません。 また前置きになってしまいました^^ それでは、FL55SSをつぶさに見ていくことにしましょう。 各部の外観と構成 重量とサイズ FL55SSの重量は、付属のビクセン規格アリガタを除けば約1.2kg。タカハシのFS60CBと同じくらいですが、焦点距離が300mmと短いぶん全長は280mmと10cmほど短く、とてもコンパクト。 フードは固定式で取り外すことはできませんが、小ぶりなカメラバッグにも収納できるのはとても便利。ただし・・写真では隠れていますが、ドロチューブのピントリングが左右に出っ張っているのがかなり邪魔。これは片側だけで十分ではないでしょうか。 上質なコーティングと内面反射処理 右はレデューサ。反射率0.1%の「ASコーティング」。フィルム面に近い補正レンズは、ムラのない画像を得るためにはコーティングと内面反射処理が重要。これはなかなかイイ感じです。 左は対物レンズ。こちらは普通の^^マルチコーティングだそうですが、バランスとしては補正レンズを優先すべきでしょう。対物レンズも補正レンズも、外装・つや消しの仕上げも良く高級感があります。 鏡筒の外径は80mm、ドロチューブ内径は実測で58mm。口径55mmの対物レンズに対しては十分な余裕があります。レデューサ・フラットナーも光路を遮るものが全くなく、周辺光量が豊富であることがうなずけます。実写した結果でも、ムラのない非常に素直なフラット特性で、抜けのいい光学系だと感じました。 アリガタ ビクセン規格の長さ21cmほどのアリガタプレートが付属します。見かけほどは重くはないのですが、それでも重量は273gでかなり存在感があります。鏡筒とのバランス的には、やはりここはアルカスイスプレートに換装したくなります。 編集部では長めのアルカスイスプレートに換装して使用しました。こちらの方がコンパクトで140gほど軽量化できました。アリガタは別売にして価格を少しでも下げて欲しいところです。 鏡筒径は80mmでFS60CBやBORG等の80mm鏡筒用のバンドなどが使用できますが、台座がある関係で装着位置は限定されます。ガイド鏡を装着したい場合はちょっと工夫が要りそう。アルカスイスプレートの鏡筒下あたりに装着するのがよいかもしれません。焦点距離的にはオートガイドなしでも使える範囲なので、簡単な運用を想定してこの仕様としたのでしょう。 接眼部 接眼部はラックピニオン式。ドロチューブは対物レンズよりも太いM60mm、内径58mmで、ケラレの心配はありません。これはGood。ドロチューブには固定用のクランプが付きますが、クランプを締めるとごくわずかに対象がずれるのがわかります。デジカメ(EOS6D)では特に問題を感じませんでしたが、冷却CCDのような重量級のカメラを取り付ける際には、強化が必要かもしれません。 ただ、デュアルスピードフォーカサーがオプションなのが残念。焦点距離が短い分ピントが浅く、眼視でも写真用途でもほぼ必須です。これは最初から付属にして欲しいところ。 デュアルスピードフォーサの取り付け デュアルスピードフォーカサーを使用する場合、自分で取り付けなくてはなりません。取説を読めば普通にできるのですが、逆に経験がない場合は取説を読まないと無理。ロックネジを外すのが結構固くて神経を使いました。プラスドライバーも必須なので、初心者には厄介かもしれません。繰り返しになりますが、デュアルスピードフォーカサーは標準付属として取り付けた状態で出荷すべきでしょう(*)。 (*)もうひとつの考え方として、ラックピニオンは粗動用と割り切って、M60対応の薄くて堅牢なヘリコイドを付けるというのもありかもしれません。粗動があればストロークは数mmあれば十分。ピントの追い込み用にバーニヤがあれば完璧、そうなればまさに「ミニVSD」なのですが。 フラットナーとレデューサ 専用のフラットナー(左)とレデューサ(右)。フラットナー単体で使用する場合は専用の延長筒の内側にねじ込むようになっています。レデューサを使用する場合はレデューサの内側にフラットナーをねじ込みます。 カメラアダプタを装着した総重量はごらんの通り。フラットナー+レデューサの場合は、ちょっとしたカメラ用レンズくらいの重量になります。 レデューサを使用した237mmF4.3の構成の場合の総システム重量。片側のピントノブを外せば-58gの1724g、純正アリガタの場合は+140gの1922g。70-200mmF2.8クラスのカメラレンズより300gほど重い重量です。 EOS6Dを装着した最終形態。この状態でピントが出ています。総重量は2479g(実測)。しっかりしたポータブル赤道儀なら十分運用可能な重さ。この状態でバランス位置はドロチューブの銀色の付近になります。 プレートの長さと取り付け方によっては、カメラアダプタのネジとプレートが干渉することがありますが、「直焦ワイドアダプター60DX」は短いネジも付属しているので、適宜換装すれば干渉は防げるでしょう。 ちなみに、カメラの縦横構図の切替は、直焦ワイドアダプター60DXの6本のネジを緩めて回転させることで行います。ちょっとめんどくさいですが、これは仕方ないでしょう。   カメラレンズとの大きさの比較 FL55SSのライバルはタカハシFS-60CBであり、BORG55FLなのですが、写真用途だけで考えると実はカメラレンズもライバルです。キヤノンの300mmF2.8L IS(2550g:生産終了品)と、EF200mmF4L IS(760g)と並べてみました。 ごらんの通り、300mmF2.8よりはずっと小型軽量で、200mmF4よりは大きく重くなります。どちらも天体適性の高い優秀なレンズですが、FL55SSと比較してどうなのでしょうか。今回は300mmについては試写していますので後ほど比較画像をごらんいただきます。200mmについては残念ながら今回は実写比較できなかったのですが、別の機会を見て試写画像をごらんいただきたいと思います。 FL55SSの写真性能(レデューサ編) お待ちかね。フラットナー+レデューサで焦点距離237mm、F4.3での構成での試写結果です。 作例1)バンビの横顔 定番のバンビの横顔を総露出時間48分で。フラットフレームは使用していません。PSの周辺減光補正をコンポジット後にほんの少しだけかけています。 フラット処理は、ほぼ不要 FL55SSの最大の美点は周辺光量の豊富さと不規則なムラの少なさにあります。FL55SSの場合、レデューサ使用時の周辺光量はフルサイズ隅で86%もあります。 天体望遠鏡にせよカメラレンズにせよ、周辺減光はざっくりとはソフトで簡単に補正できるのですが、問題は不規則なムラ。FL55SSの場合は太さに余裕のある鏡筒とドロチューブ、内面反射防止が行き届いたレデューサ・フラットナーのお陰もあって不規則なムラが極めて少なく、PSの周辺減光補正のみでフラットをほぼ補正することができます。これは画像処理に不慣れな初心者には大きなアドバンテージ。 ハロの少ない整った星像 もうひとつの美点は、輝星の星像が「割れない」こと。明るいカメラレンズや、錫箔の入ったレンズでは輝星に割れたようなハロがとりまくことがありますが、それが非常に少なくなっています。 周辺像の評価 周辺の等倍画像。中心の最小星像は2*2ピクセルから3*3ピクセル。色ハロも少なく素晴らしい結像特性です。最周辺では若干流れがあり完全な点像ではありませんが、倍率色収差も少なく、フルサイズ周辺でこの星像であれば「素晴らしい」と評価してよいのではないでしょうか。 作例2)ナローバンドで北アメリカ星雲 もうひとつ作例を。Hαナローバンドでの北アメリカ星雲です。本当はもっと普通の作例を撮りたかったのですが、あいにく月が大きく、ナローバンドでの撮影になってしまいました。 こちらも等倍チャートを。Hαの単色だと周辺像の様相が若干変わっています。放射状の流れ、特に左上の流れがやや大きくなっていますが、若干ピント位置が追い込めていない可能性もあります。FL55SSの場合、最周辺部の星像はピント位置によって流れ方が変わるようです(*)。最小星像径が10μのオーダーですから、ピントの追い込みもなかなか大変です。これがFL55SSを使いこなす一番のポイントになるでしょう。 (*)主に非点収差に起因しているものと推測します。 使いこなしの鍵はピント合わせ 今回、ピント合わせにはWO社の「透明バーティノフマスク」を使用しました。アクリル板に細かな線がびっしり引いてあり、ライブビューでも2等星程度であればじゅうぶんピント合わせが可能になっています。 http://reflexions.jp/tenref/orig/2018/07/03/5670/ ポータブル赤道儀との相性 https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1022728302673285120 FL55SSのレデューサ構成の場合、焦点距離は237mm。ポータブル赤道儀を使用してオートガイドなしで十分運用可能な焦点距離です。上の画像は今回の作例撮影で使用したSWAT-310ですが、このようなフォーク型の構成で使用しました。プレートの位置を適切に設定すれば、全天死角なし・イナバウアー自在です。これは実に使いやすい構成でした。 ビクセン社の赤道儀もご紹介しておきます^^;; FL55SSと組み合わせる場合、AP赤道儀がベストマッチでしょう。オートガイドなしであればモーターは赤経側だけでOK。赤緯微動も付いているので構図合わせや眼視での使用もバッチリ。 FL55SSの写真性能(フラットナー編) 続いて、フラットナーで焦点距離312mm、F5.7の構成での試写結果です。 作例3)北アメリカ星雲 薄雲の影響で若干星が滲んでいますが、デネブの像も乱れがほとんど無く、非常にバランスのいいシャープな星像です。 フラット処理は「不要」 こちらもコンポジット直後の画像をレベル補正のみで強調してみました。フラットナー使用時の周辺光量はフルサイズ隅でなんと96%、周辺減光はほぼ皆無。ミラーボックスの蹴られ(画像下端)があるものの、ほんの少しトリミングすれば、実質的にフラット処理は不要といってよいレベルでしょう(*)。 (*)センサーのゴミ対策・より均一な背景レベルを得る意味では、フラット処理を行った方がよりよい結果が得られることがあります。 周辺像の評価 等倍星像チャート。中心の星像径はレデューサ使用時と同程度で極めてシャープ。最周辺像は若干いびつになっていますが、レデューサ使用時よりも良像です。 サンニッパとガチ勝負 キヤノンのサンニッパ、EF300mmF2.8L IS(一つ前のモデル)と比較してみました。 等倍チャート。天候の関係で露出時間を十分取れなかったため、厳密な比較ではありません。 実際のところ、サンニッパのカメラレンズは各社がメンツをかけて開発している製品でもあり、一世代前の製品でもかなりの高性能です。中心部の星像は2*2ないしは3*3ピクセル。周辺像は若干肥大してはいますが、流れも少なくさすがの高性能です。 ただし、FL55SSと比較して、色収差の点ではやや劣っています。特に、周辺部の青ハロ・赤ハロが若干気になります。 また、周辺光量は上の画像の通りかなり落ちます。イヤなムラもほとんどなく、プロファイル補正でほぼ補正できるのですが、素のママではけっこうな周辺減光です。デネブの光芒が真っ二つに割れてしまっているのにも注目。これが若干悲しいところ。 デネブ周辺を拡大してみました。左がFL55SS、右が328。この現象は鏡筒というよりも、明るい光学系をミラーボックスを持つカメラで使用する場合の宿命です。 F4に絞ると周辺減光は改善はしますが、依然として残っています。デネブの光芒の割れはなくなりましたが、絞り羽根による8本の光条が出ています。(これは好みの分かれるところですが・・・) 「ガチ勝負」と煽りましたが^^;; 完全な同一条件・同一対象での勝負は今回はお預け。サンニッパも天体用には優れたレンズです。というか、お値段を考えればサンニッパから見ると「負けたら恥」レベル。解放での周辺像はサンニッパの勝ちですが、それ以外はむしろ勝っているかも。 FL55SSの眼視性能 使用前は「口径55mmで眼視してもねえ・・」と思っていたのですが、実際に覗いてみてびっくり。実に良く見えます。FS55SSを写真専用にしてしまうのは実にもったいない。ぜひ眼視でも使ってみてください。アイピースと天頂プリズム・ミラーは付属しないのですが、このためだけに買う価値はあります。 高倍率で使用する 上の写真はビクセンの秘密兵器?HR2.0mmアイピースを装着したところ。この状態でピントが出ています。プリズム・ミラーを使用せず直視する場合は、付属の延長筒を使用します。 ペルセウス座流星群の夜、火星を観望中。ダストストームが晴れてきて白く輝く極冠が見えていました。土星はカシニの空隙もなんとなくわかります。星まつりで実際に覗いた人からも驚きの声が上がったと聞きましたが、これは騙されたと思って一度見て欲しいレベル(*)。Fの明るい口径55mmでも、きちんと作れば(そしてシーイングが良ければ)すごく良く見えるのです。 (*)某所の星まつりでは、常識を覆されてその場にうずくまる人もいたとかいないとか・・ 低倍率で使用する こちらは手持ちのペンタックスXW-20mmを取り付けたところ。15倍、実視野5°弱。フラットナーを入れていないので周辺は少し流れますが、これで天の川を流すとめちゃ気持ちいい! https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1022693778379833345 フラットナーは眼視には対応していないとのことでしたが、直視の場合はピントが出ました。フランジバックは適当なので最適な性能は出ていないと思いますが、それでもフラットナー無しよりは周辺像は良くなります。これなら・・・ニコンのWX双眼鏡とガチ勝負したくなるかも・・^^; ちなみに、フラットナー使用時のドロチューブ末端からピント面までの距離は129mm。専用のアダプタを自作すれば、正立プリズムならピントを出せるかもしれません。1.25インチのEMS(正立ミラー)の光路長は122mmですが、これもなんとかなるかも?どなたか、FL55SSの双眼とか、いかがですか^^;;; HRアイピースについて 最近注目されているのが「過剰倍率」。口径100mmで400倍とか、口径50mmで200倍といった、従来高倍率の限界とされてきた「(口径mm)の2倍まで」を越えた高倍率のことです(*)。 (*)「ある限界以上は、倍率をむやみに高くしてもぼけた像が大きくなるだけで、良く見えるようにはならない」というのは変わらない真実なのですが、より高性能な光学系においては、その目安はもっと高い倍率にあるというのが昨今の考え方になっています。ただし、過剰倍率では「飛蚊(角膜上のゴミや眼球内のムラのためモヤモヤした像が飛び回る現象)」の影響が大きくなり、人によっては気持ち悪さを感じる場合があります。 ビクセンのHRアイピースは、この過剰倍率をF値が小さな望遠鏡でも簡単に実現できる、1.6mm、2.0mm。2.4mm、3.4mmという極めて焦点距離の短い製品です。今回、1.6mmと2.0mmをお借りして使用してみました。 結論からいって、大変よく見えます。これは少し控えめかもしれません。ものすごくよく見えます。いくつかのオフ会で眼視のベテランの方に感想を伺っても、よい評価しか聞きません。 具体的な特徴としては、コーティングと内面反射処理が非常に上質でコントラストが高いこと、アイレリーフが10mmと短いものの眼の位置に寛容でブラックアウト(*1)がほとんどなく「見やすい」こと、見かけ視野を43度を押さえ視野周辺での像の悪化を極力抑えていること(*2)、などが挙げられます。 (*1)アイレリーフの長い広視野・短焦点のアイピースは、眼の位置がずれると視野の一部が「マメのさや」のような形で陰る現象が出ることがあります。 (*2)低価格品まで含めて大抵のアイピースは「視野の中心」での像の悪化はほとんどないため、惑星のような小さな対象の場合は注意深く「中心」に導入すれば収差的な問題はほとんど差異はないのですが、現実には常にぴったり中心に導入することは難しく、結果的に像の悪化を招くことになります。 欠点を挙げるとすると、目当てのゴムが固定であるため、メガネ着用の際に全視野を見渡せないことがあることくらいでしょうか(*)。 (*)過剰倍率の場合は瞳径が小さくなるため乱視の影響が少なくなり、メガネを外して見た場合でも像の悪化は少なくなります。編集子は2Dほど乱視が入っていますが、高倍率ではメガネを外しています。 天頂プリズムの注意 これはFL55SSというよりも、F値の小さな短焦点鏡筒全般に言えることですが、高倍率の性能をフルに発揮するには天頂プリズムがネックになる場合があります。プリズムに入射する光線が垂直からずれることによって収差を発生させるのです。 昼間の風景を高倍率で見た状態をスマートフォンでコリメート撮像してみました。こちらはHR1.6mmの場合。天頂プリズムを使用すると明らかに像が悪化しています。 こちらはHR2.0mmの場合。1.6mmほどではありませんが、色づきが多くなり、結像も若干甘くなっています。 月面の場合。地上風景ほどはっきりと差はわかりませんが、プリズムありの方が縁が色づいています。 実際問題「天頂プリズムを使うな」と言われてしまうと代替品に困る現状もあります。メーカー・販売店様には「良く見える1.25インチの天頂ミラー」「お手頃な値段の良く見える1.25インチ正立ミラー」の良い製品をぜひ推して欲しいものです。あと数年間は惑星の高度は皆低いので直視でもなんとかなりますが、それを過ぎると苦しくなってしまうので・・・ ポータブル赤道儀との相性 高倍率で使用する場合、手動追尾の経緯台ではなかなか大変。かといって、FL55SSのような小型の鏡筒を大げさな赤道儀に載せるのもバランスが悪い。そんな場合には「ポータブル赤道儀」がけっこう使えます。赤緯の微動がないと導入にはちょっと苦労しますが、一度導入すればあとは自動追尾。惑星をじっくり長時間眺めることができます。 どんなユーザーに適しているのか FL55SSのメリット(イメージ画像) 上の画像は思い切りベタに、FL55SSのメリットを表したイメージ画像です。小さなサイズを生かした機動性、フォト鏡筒としてF4.3の十分な明るさと最高レベルの性能。フラット補正のやりやすさと色ハロの少ない強い強調に耐える星像。そしてカメラレンズにはない「天体望遠鏡」としての高い性能。 天文趣味では、熱が高じるほどに「大型機材」に向かってしまいがちですが、FL55SSはそれだけではない新しい楽しみ方を広げてくれるのではないでしょうか。 でも、お高いんでしょう? 残念ながらけっこうお高いです。フラットナー・レデューサと鏡筒で19.4万円。これに必需品のデュアルスピードフォーカサー(2.8万円)と直焦ワイドアダプター60DX(1.6万円)を足すと23.8万円。 (*)価格は全て税抜です。 しかし、「ビクセン、また妙に高い製品を出しやがって」というような批判は適切ではありません。眼視・写真用途の双方で、これまでの製品の中では最高の部類といえる性能です。高くても欲しくなる、高くても買ってしまう、そして使ってみて買って良かったと満足できる。そんな製品は「良い製品」と言ってよいのではないでしょうか。 まあしかし、最後に価格を決めるのは「市場」です。もう少し「こなれてくる」ことには期待したいと思います^^;; まとめ いかがでしたか?小型軽量でありながら、写真・眼視用途の両方で高い性能を発揮するFL55SSは「ミニ望遠鏡」の新しいスタンダードともいえるパフォーマンスを発揮してくれました。初心者からガチ写真派まで、これ1本あるだけで天文の楽しみを大きく広げてくれるものでしょう。 その一方で、お値段は高いです。性能はVSD級ですが、お値段もVSD級。でも買うか買わないかを決めるのは貴方。それだけの魅力がこの製品にあるか。ずばり「ある」と考えます。 ただし、製品のパッケージングについては改良の余地があるかもしれません。ビクセン規格のアリガタはこの鏡筒のサイズには大きすぎるし、マイクロフォーカサは用途から見ても標準付属にすべきです。フラットナー単体を買ったユーザへのレデューサの販売形態も現状では明確ではありません(*)。 (*)カタログには「フラットナー単体」と「フラットナーとレデューサのセット」はあるのですが、「レデューサ単体」がまだありません。 「画像処理が楽」という初心者に大きく訴求する性能を持っているのに、それをフルに発揮するにはいろいろなパーツを選んで揃える必要があるのは、販売上しきいを高くしてしまっている気もします。写真用途で必要なパーツをすべてセットにしたお買い得感のあるパッケージがあれば、もっと訴求するような気がします。 しかし、それらの要素を差し引いても、なおFL55SSには大きな魅力があります。写真用途でも眼視用途でも、こんなに小さくてもストレートに楽しめる。「フラット処理」というこれまでの天文趣味で初心者の前に立ちはだかる「壁」を低くしたというだけでも、画期的なものだと感じました。 正直いって、安く済ませたいのなら他にも選択肢はあります。でも、この製品でしか体験できないものが確かにある。それこそが、今後の天体望遠鏡に必要なものではないでしょうか。 ・本記事は(株)ビクセン様より機材の貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の費用と判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 ・記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 ・製品の購入およびお問い合わせは(株)ビクセン様、天文ショップ様宛にお願いいたします。 ・本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承下さい。 ・特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 ・記事中の製品仕様および価格は執筆時(2018年8月)のものです。 ・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ