星見屋.com PresentsED硝材を2枚使用した口径85mmの「分離式3枚玉」小型望遠鏡、Founder Optics FOT85。今回は眼視でのレビューです。「3枚玉分離式アポクロマート」の威力はどんな風に発揮されるのでしょうか?!
星見屋.com FOT85
http://www.hoshimiya.com/?pid=126042047

はじめに・・・最高レベルの眼視鏡筒

さまざまな対象を、いろいろな鏡筒といろいろなアイピースで比較していたため、ずいぶんと時間がかかってしまいました。ようやくですが、FOT85の眼視レポートをお届けします。

これまで何度も何度も眼視での実視レビューを行ない、いろいろ比較してみたのですが、結局、文章で書けることは以下のような感覚的な「印象」でしかありません。

「針で突いたようなシャープな点像」
「クリアで抜けのいい視界」
「色づきがほとんど見られない輝星や月の縁」
「きれいに揃ったディフラクションリングと内外像」
「過剰倍率を与えても鮮明な像」

一方で、この客観性の乏しい感覚的な評価ではなく、さまざまな定量的なテスト手法が存在します。たとえばその一つがこれ。

対称で色ズレのない内外像と、真っ直ぐで色づきのないロンキー縞は、色収差と球面収差が高いレベルで補正されていることを意味しています。

6/3追記)

ロンキーテスト結果の評価について高槻幸弘様より貴重なご意見をコメントで頂戴しました。
様々な天体望遠鏡のロンキーテスト結果については、以下の書籍(絶版)が非常に参考になります。

6/3追記終わり)

これは見る人が見れば非常に素晴らしい結果です。ただ、このテスト結果は客観的であるがために逆に「どうよく見えるのか」は語ってくれないのです。

今回のレビューで使用した接眼レンズの一部。敢えて常用の1本を挙げるとすると・・・

しかも、眼視の場合「接眼レンズ(アイピース)」の占める比重がとても大きくなります。接眼レンズは様々な焦点距離と設計コンセプトがあり、これまた一概には比較できません。

何よりも「眼視の体験」は写真で伝えることができません。写真用としての評価なら、よい作例があればそれが雄弁に語ってくれるのですが。

しかし、一つはっきり言えることがあります。FOT85は、まぎれもなく最高レベルの眼視鏡筒の一つです。正直いって、同口径の他の鏡筒と比較しても非の打ち所がありませんでした。この鏡筒で見たものは、全て私の中に素晴らしい体験として刻み込まれています。

本稿では、できるだけ客観的・具体的に、この鏡筒のもたらした「眼視体験」お伝えしたいと思います。

地上風景を見る

FOT85がやってきて、まずはじめに見たものはベランダからの地上風景(遠方のビル群)です。地上風景は天体望遠鏡にとってなかなか厳しいテストで、一通りの収差をチェックすることができます。特に「Side by Side(2本の望遠鏡を並べて交互に見比べる)」で比較すると、かなり明瞭に性能差をあぶり出すことができます。

軸上色収差

例えば軸上色収差。軸上色収差とは、光の波長によって結像位置が光軸方向にずれる現象ですが、この現象は構造物と空の境界線などの輝度差の大きな部分で顕著に現れます。

左:BORG76、167倍。右:FOT85、187倍。接眼レンズはRadian3mm。

上の写真はFOT85、BORG76(アクロマート)の結像状況の比較。アイピースはRadian3mmです。

これを見ると左のBORG76では、アクロマート鏡筒で発生する色収差の存在が一目瞭然です。一方で、FOTでは、色収差の存在がほとんど判別できません。アクロマートと比較しても仕方ないと言えばそうなのですが、EDや蛍石などの特殊な硝材を使用したアポクロマートのメリットはここにあります。

手持ちの4枚玉アポクロマート鏡筒FSQ106EDとも比較してみました。あまりシーイングが良くなかったせいもありますが、FOT85とFSQ106EDでは、ほとんど全くといっていいほど差が分かりませんでした(*)。

(*)月や惑星でFOT85とFSQ106EDを比較してみても、200倍前後の高倍率では正直いって明るさ以外の差を感じることはほとんどありませんでした。しかし、絶好のシーイングの状況では口径分の差は出るものと思われます。

別の機会に口径8cmクラスの2枚玉のアポクロマート、口径85mmの4枚玉アポクロマートとも比較しました。FOT85が焦点内外像における紫や赤の色ズレが最も少なく、勝っているように感じました。

球面収差

地上風景での球面収差の補正具合は「対象がどのくらいシャープに見えるか」に現れてきます(*)。

(*)「碍子(がいし)」などに反射する太陽を点像と見なしてチェックする方法もあります。

某オフ会で機材の見え味の比較中。左は85mm4枚玉アポ、右が89mmのマクストフ望遠鏡。中央がFOT85。

この差も、Side by Sideで見るとかなりはっきりと現れてきます。このシャープ感においても、FOT85が明らかに高性能でした。口径85mmの4枚玉アポクロマートとの比較でも勝っているように感じました。

周辺像

2枚玉・3枚玉のアポクロマートは、周辺像で問題になる像面湾曲・非点収差をそもそも補正していない(できない)ので、かなり意地悪なチェックになります。広視界アイピースで見ると周辺ほどボケるのは仕方ありません。

ビルのタイルなどを見ると、周辺部では縦方向と横方向(*)のピント位置が大きく異なることもわかります。これは非点収差によるものです。

図はFOT85の非点収差図ですが、この傾向は全ての2枚玉・3枚玉の屈折光学系ではほとんど共通のものです。

 

(*)より正確には、同心円(サジタル)方向、放射状(メリジオナル)方向。

低倍率のコリメート撮影による画像の比較。この倍率の写真では、BORG76でのエッジの色づき以外には、ほとんど差がわかりません。また、像面湾曲による差もほとんど気になりません。使用した接眼レンズは北軽井沢観測所のRPL18mm、倍率28倍〜31倍。

このため、周辺像の比較では、写真用に像面湾曲と非点収差が補正された4枚玉のFSQ106EDがはっきり勝ります。ただ、体感的に差が明瞭なのは、イーソスやニコンNAV-HWのような見かけ視界100°の接眼レンズを使用した低倍率の場合のみです。実際に星を見た場合には、昼間の風景ほどピント位置の差は気になりませんでした。

この差が気になる場合は、写真用途同様にフラットナーを使用する方法もありますが、光路長に注意する必要があります。純正フラットナーを使用してみましたが、直視の場合はよいのですが、正立プリズムと併用する場合はピントが出ませんでした(*)。

(*)接眼レンズとの組み合わせもあり、一概にはいえないことをお断りしておきます。

月と惑星を見る

月面

ヌケのよい像が視野いっぱいに広がる月面の観望は、小型高性能アポクロマートの得意分野です。全く色づきのないクリアでシャープな像は素晴らしいものです。色収差がほぼないことによる「気持ちよさ」が堪能できます。3枚玉アポならではの体験と言えるでしょう。

イーソス6mm。なんとなく小さく見えますが、2インチスリーブなのででかいです。

FOTの場合、イーソス6mmを装着して93倍。この倍率では見かけ視界60°の接眼レンズでも月は全て視野内に収まるのですが、100°アイピースだと視野いっぱいに広がる暗い空とその上にぽっかり浮かび上がる大きな月の迫力が圧倒的です。

ただし、正立プリズムで高倍率の場合は、クレーターのエッジの色づきが若干目立ちました。月をシャープ感を損なわずに見るには、やはりミラーの方がオススメです。

FOT85は焦点距離が560mmなので、口径×2くらいの高倍率を得るには3.3mmの接眼レンズが必要になります。3枚玉アポクロマートの性能をフルに発揮するためには、より高性能の接眼レンズを使用したいところです。今回、高倍率用にはRadian3mmとZeissの4mmアッベオルソを使用しましたが、どちらも甲乙付けがたい見え味でした。

セレストロンの2.5xバローに、プルーセルの改良版であるRPL18mmを装着。FOT85では77倍でやや倍率不足ですが、アイレリーフが長く覗きやすいのが魅力。2インチスリーブの2.5倍バローは汎用性の高さがメリット。

今回は試せていませんが、5倍程度の高倍率のバローと20mm前後の構成枚数の少ないアッベ・プルーセルを組み合わせるのも渋い構成でしょう。

惑星

口径85mmで惑星がどの程度見えるのか?しょせん、口径85mmでは大して見えないのではないか?そんな疑問を感じられる方もいらっしゃるでしょう。私もそう思っていました。

これは、半分は事実です。シーイングのよい条件で、口径20cmのシュミカセ(C8)と比べて見ましたが、「どこまで細かい部分が見えるか」については、歴然と違います。大口径は正義。理想的条件ではかなうはずもありません。

しかし、口径85mmがよく見えないかというと、それも違います。かなりよく見えます。木星は2本ないしは3本の縞とその間の「もわもわ」がはっきり視認できますし、土星のカシニはくっきり。

「何をもってよく見えるとするか」。解像度だけではなく、コントラストも大きな指標です。探査機ジュノーからの画像を、左はコントラストだけを極端に下げたもの、右は画像の解像度だけを1/3に下げたもの。出典:NASA, ESA, and A. Simon [GSFC] via AP
一般に「優れた屈折望遠鏡はシャープネスとコントラストにおいては、より大口径の反射望遠鏡を上回る」という説があります(*)。

(*)斜鏡の中央遮蔽の有無、筒内気流の影響、筒内の内面反射の問題、光軸が狂いやすい反射の問題、シュミカセの場合は補正板で発生する収差など、様々な理由が複合していると考えています。

感覚的になりますが、今回比較してみて、この説も大いに納得できると感じたことが多々ありました。「シャープ感」「すっきり感」の差、といいましょうか。

また、屈折同士の比較でも、短焦点のアクロマートとアポクロマート鏡筒には別次元ともいえる差があるのですが、FOTと他の同等口径のアポクロマート鏡筒とでは、確かな差を感じました。細かな部分の見え方・コントラストともにが違うのです。

FOT85による木星。スマホコリメート1枚撮り。しょぼい作例で恐縮ですが、眼視ではこの3倍くらいは?よく見えます。3枚玉アポクロマートではほとんど色収差がないため、逆に大気の屈折による色収差の存在が顕著になってきます。

もう一つ。口径106mmのFSQ106EDと比較しても、あまり遜色のない見え方であったことは、明記しておかなくてはなりません。土星の場合は口径差による像の暗さが若干気になりますが、木星の場合はほとんど変わりのない見え方でした。

さらに、「ベランダに出してすぐの状態」でC8と比較すると、FOTの圧勝です。温度順応していないシュミカセははっきり言ってボヤボヤ。「すぐ取りだしてすぐよく見える」屈折望遠鏡のメリットは、もっと評価されてもよいのではないでしょうか。

ディープスカイを見る

散開星団

個人的意見で恐縮ですが、散開星団が一番美しく楽しめるのは、倍率30倍前後ではないでしょうか。視野いっぱいに星屑が広がり、その中にギュッと凝縮した星団が見える。二重星団やぎょしゃ座のM36・M37のように、複数の星団が同一視野に見えるとなおさら美しい光景が広がります。

FOT+イーソス17mmで見える二重星団の範囲はこのくらい。実際には周辺まで全て見渡すのは困難ですが、こんな感じが視野いっぱいに広がります。

焦点距離560mmのFOTの場合、この一番美味しい倍率は、焦点距離17mm〜25mm程度の接眼レンズを使用した場合です。今回試した中では、イーソス17mm、XW-20mm、RPL25mmあたりがそれに相当します。

ただし・・この体験は、短焦点アクロマートでもそれなりに楽しめました。これは、筆者の眼が老化が進んでいるせいかもしれません。例えば、M46のような微光星がびっしり詰まった星団の場合は、アポクロマートの鋭像がより生きてくるかもしれません。

また、イーソス17mmを使用した場合は、FSQ106EDのフラットフィールドさに軍配が上がりました。逆に、XW-20のような70°程度の接眼レンズでは、あまり違いを感じませんでした。

ちなみに、焦点距離の長いシュミカセなどの光学系では、焦点距離2000mmなら40mmを使用しても50倍。倍率が大きすぎて、散開星団がまばらになって迫力が逆に落ちてしまいます。散開星団は短焦点アポクロマート屈折の良さが大いに生きる対象と言えるでしょう(*)。

(*)口径20cmF4程度のニュートン反射にコマコレと40mmを付けて見てみたいものです。

系外銀河

M51、M101、しし座のトリオ星雲、M81/82などを見てみました。系外銀河の場合は、やはり口径差が如実に出てきます。

FOT85で低倍率(30倍程度)で見ると、系外銀河は小さくて、あまり構造まで視認できません。かといって、倍率を上げてしまうと暗くなってしまいます。

系外銀河は100倍くらいの高倍率、もっといえば200倍くらいで見るぼうが、M51の渦巻きやM82のザワザワ感などが楽しめます。そのためにはやはり大口径が有利です。

散光星雲

オリオン大星雲M42、バラ星雲、トールのかぶと星雲などを見てみました。中心部の輝度が高いM42を100倍〜200倍の高倍率で見ると口径85mmのFOT85でもなかなかの迫力です。蛇足ではありますが、M42は低倍率だけでなく、是非高倍率でも見てほしい対象です。

バラ星雲のイメージ画像。空の条件の良い場所で低倍率で見るとこれぐらいの感じに見えます。OIIIフィルターなどを使用するともっと明瞭に見えます。ただし、グロビュールのような細かな構造はわかりません。

バラ星雲のような淡く広がった散光星雲は、口径が小さい屈折でも、低倍率の広視野が生きる対象です。特にOIIIフィルターやLPS-V4のようなネビュラフィルターを使用して最低有効倍率で見ると想像以上にはっきりと見ることができます。まあ、この用途では3枚玉アポクロマートでなくてもいいのですが^^;;

球状星団

M3、M15を見てみました。驚いたのは、口径85mmのFOT85、イーソス6mmで93倍で、球状星団のツブツブがかなり分解できることでした。100°の視野は全く生かしていませんが^^;; 高倍率にしてもシャープ感を失わない高性能アポクロマートの威力といえましょう。

もちろん、球状星団は系外銀河同様、大口径の高倍率で見る方が楽しめるのですが、系外銀河ほどには口径の差はないように感じました。

今回使用した接眼レンズ

今回のレビューで使用した接眼レンズのうち、FOT85との相性が良いと感じたものをいくつかご紹介しておきます。

ペンタックスXW-20

編集部所有。非常に評価の高い製品。4群6枚、70°。税込約2.9万円。周辺像は悪くはないのですが、イーソスほど端までシャープというわけはありません。見かけ視界70°、スペック的には何も尖ったところがないのですが、なぜか一番使用頻度の高い接眼レンズです。

FOT85に付けると28倍。オリオン大星雲のトラペジウムのシャープ感が最高。C8に付けると100倍。焦点距離20mm、この倍率レンジが使いやすさの元でしょうか。BORG76アクロとの組み合わせも良好。

北軽井沢観測所・RPLシリーズ

プルーセルの2つのレンズ群を非対称にすることでより収差補正を改善した接眼レンズ。コンパクトでヌケのよい気持ちよい見え味。左から45mm、30mm、25mm、18mm。右端はC8付属のプルーセル25mm。これと比べるとRPLがクラシックなオルソと同じくらいコンパクトであることがわかります。
スタークラウド・RPL(リアルプローセル)シリーズhttp://www.starcloud.jp/SHOP/RPL.html

スタークラウド様よりお借りしているもの。低価格でよく見える接眼レンズです。視野は62°と控えめですが、2群4枚でとてもヌケのよい製品です。32mm、40mm、45mmと長焦点側が充実していますが、こちらはシュミカセ向き。FOT85には25mm(22倍)と18mm(31倍)がよく合います。バローとの相性が良く、中倍率・高倍率もカバーできます。

100°アイピース

ニコンNAV-12.5HW。イーソスほど太くありませんが、長くて存在感十分。見え味は最高なのですが、90°プリズムと併用すると回転方向のモーメントが大きくなるので回転しないようにしっかり固定する必要があります。この場合、チャック式のFOT85の接眼部はとても使いやすく感じました。

編集部所有のエース格、ニコンNAV-12.5HW。焦点距離10mm相当となる補正レンズを常用しています。FOT85と組み合わせると56倍。少し高めの倍率になりますが、銀河流しに最高。最周辺以外はほぼ完璧な像を結ぶ究極の1本です。

ただし、この手の接眼レンズはかなり重量・長さがあるため(*)、安定して固定できる接眼部が必要です。その点、FOT85の接眼部はチャック式で堅固に固定できるため安心です。

知人からの借用品、イーソス6mm、17mm(写真は17mm)。FOT85に付けると93倍と33倍。ニコンNAVには周辺は若干負けますが、それでもイーソス、さすがのイーソスです。6mmで見る月、17mmでの星野は圧巻。ただし、ニコンNAV-HWにも言えることですが、焦点位置が他のアイピースと激しく異なるので使いにくいのが玉に瑕。

Radian3mmとツァイスオルソ4mm

左:クラシックなアッベオルソはアイレリーフが短く覗きにくいのが欠点ですが、中心部しか使わない用途ではあまり苦になりません。右:Radian3mmはアイレリーフが長く覗きやすいのがメリットですが、意外とアイポイントがシビアです。

FOT85で口径×2程度の倍率を得るためには、バローレンズを使用するか、3mm前後の接眼レンズが必要になります。

編集部所有のRadian3mmは、短焦点ながらアイレリーフ20mmと覗きやすく、見かけ視界62度と広いのが特徴。惑星・月面・ディープスカイにも使える良い製品です。ただしすでにディスコンなので、FOT85には惑星専用ならビクセンHRやタカハシTOEなどの短焦点接眼レンズがオススメでしょう(*)。

(*)別の鏡筒での比較ですが、ビクセンHR・タカハシTOEは視野は40°少しと狭いものの、非常によい見え味でした。

ツァイスのアッベオルソ4mmは24.5mmスリーブの年代物、知人からの借用品。多くの人が賞賛するだけあってひと味違う鋭像です。見かけ視界は42°と狭くアイレリーフも短く覗きにくいのですが、このようなクラシックな単焦点オルソも高倍率向けです。

眼視で最高の性能を発揮するために

眼視観望では、最高の性能を発揮するためにはいくつか注意すべきところがあります。対物レンズの性能を十分に発揮できるような良い接眼レンズを使うこともその一つです。ここでは、それ以外にも大事になる要素を簡単に整理しておきましょう。

ミラーかプリズムか

左から2インチ正立プリズム、2インチ正立ミラー、1.25インチ正立プリズム。

正立プリズム

眼視観望の基本は正立プリズムであるといってよいと思います。1面の反射だけの鏡像ではやはり違和感を感じてしまいますし、星図とも照合しにくくなります。

正像と鏡像のオリオン大星雲の比較。メジャー天体はやはり鏡像ではなく、見慣れた正立像で見たいものです。

今回は主に2インチの正立プリズムを使用しましたが、高倍率ではミラーを併用しています。

Wikipedia・Amici roof prism
https://en.wikipedia.org/wiki/Amici_roof_prism

アミチ型の正立プリズムのしくみ。視野の中央にプリズムのエッジ部分が横切る形になります。このため、高倍率で明るい恒星や惑星を視野中心で見ると、光のスジが見られることがあるのが欠点の一つです。

天頂ミラー

しかし、(正立)プリズムにはいくつか欠点があります。反射やガラスの吸収による光量の損失もあるのですが、最大の問題は高倍率使用時の像の乱れ。特にF値の小さめの光学系の場合、色収差と球面収差の影響が小さくありません(*)。

(*)長焦点のアクロマートレンズの場合、逆に対物側の収差とプリズムの収差が相殺し合ってプリズムのほうが好結果をとなる組み合わせもあるようですが、短焦点のアポクロマートの場合はミラーが優位と考えられます。

正立プリズムにRadian 3mmやアッベ4mmを使用した場合、明らかに像が悪化(色づき、ディフラクションリングの乱れ)しているのが確認できました。

惑星や月面を高倍率で見る場合は、天頂ミラーを一つ別に持っておくことをオススメします。高倍率専用であれば、2インチでなくても小型の1.25インチでもよいかもしれません。

温度順応

分離式3枚玉アポクロマートは、2枚玉と比較してより温度変化に敏感と言われています。少なくとも1時間くらいは外気になじませるのが吉です。ただ、感覚的ではありますが、シュミカセと比較してずっと寛容であると感じました。

イスの使用

惑星・月面・ディープスカイのいずれの場合でも、眼視の場合は安定した姿勢で見ることはたいへん重要です。しっかりとしたイスに腰掛けて姿勢を安定させて見ないと(*)、本当に細かな部分や暗い対象は見えてきません。

(*)イスに腰掛けても自分の心臓の鼓動がジャマになることすらあります。止めるわけにはいかないのですが^^;;

上の写真は、世界中の天文愛好家で使用されているものです。筆者にとって「買って良かった」のベスト3に入るグッズです。

オススメの架台

眼視用途でFOT85と組み合わせる架台にはどんなものがいいでしょうか?

自動導入赤道儀

SXPならFOT85は余裕の搭載。この夜は写真撮影も行ったのでガイド鏡が付いていますが、それでも1.3kgのウェイトがこの位置です。

筆者のメイン架台SXP。何も考えなくても使える自動導入赤道儀です。使い勝手は抜群ですが、FOT85と組み合わせるには若干過剰気味でしょうか。もうすこしライトな装備のほうがFOTにはカッコイイ気がします^^;(*)

(*)じゃあ具体的にどんな架台なんだよ、という突っ込みはナシで^^;;;

経緯台

FOT85ユーザのお一人、佃様の構成。架台は国際光器のフォトン経緯台、ビクセンハーフピラー併用。左:エンコーダー + NEXUS II を組み込んでSky Safari対応にしたもの。右:Daystar Quark を組み合わせて太陽をHαで観望中。画像提供:佃安彦様

超高性能な望遠鏡でお気楽に観望するのも渋いスタイル。
星図が頭に入っていて手動導入が問題なくできる人には、フリーストップの経緯台マウントもライトタックルな感じで有力な選択肢です。

写真のフォトン経緯台の場合は、エンコーダーを入れてSky Safariで導入支援という今風の使い方も可能。
FOTは鏡筒バンドとアイピース込みでも5キロを越えない程度なので、ポルタIIをはじめこの手の経緯台マウントに余裕で搭載可能です。

ポータブル赤道儀

SWAT-310赤道儀のシンプルフォークに若干パーツを追加した構成例。三脚はK-ASTEC社のPTP-C22カーボン2段三脚。

こちらは少し攻撃的?な構成。1軸ポタ赤にフォーク式架台での運用。ベランダでのお手軽観望には自動追尾はとても便利。少し時間を置いても対象が逃げないので、撮影の合間にお気楽に観望できます。

高倍率での本気な観測や撮影にはちょっと強度不足を感じますが、ドイツ式に組むなどもう少し強化すれば、さらにイケている構成になる気がしています。

「眼視」で求められる性能とは

過去記事と重複する部分もありますが、眼視の際に重要となる性能ファクターを整理しておきます。

軸上色収差

軸上色収差が残存していると、月や惑星の縁に色が付いて見え、強拡大した際の解像度・コントラストを低下させます。

FOT85の収差図。波長ごとの結像状態(色収差と球面収差)を示しています。全ての波長がほぼ最大0.1mm程度に収まっています。特にD線(588nm)はほとんど真っ直ぐで良好な球面収差補正です。

 

軸上色収差は2枚玉のアクロマートの宿命であり、F値を大きくする以外に対策はありませんでしたが、FOT85のような分離型3枚玉をはじめとする最近のアポクロマートでは、上の図のように別次元のレベルで補正されています。

一方で、輝度の低いディープスカイ(星雲星団など)の観望では、人間の眼の色識別能力が低下しているため、さほど気になりません。

球面収差

球面収差は、色収差と同じくらい・条件によってはそれ以上に、天体望遠鏡の眼視性能を大きく左右する要素です。球面収差が残存していると、対象からの光が一点(レイリー円(*))に収束せず、ボケてしまいます。

(*)光が波の性質を持つことによる、理想的な点像が結像する大きさを持った円。口径と光の波長によってレイリー円の大きさは理論的に決定されます。

 星爺から若人へ・アポクロマートという用語
http://tentai.asablo.jp/blog/2015/09/05/

上の図は、典型的な2枚玉アクロマートレンズの収差図。
肉眼で感度の高い緑のe線(546nm)と黄色のD線(588nm)の収差の補正を最優先しています。赤・青・紫はけっこう遠くに飛んでしまっている(軸上色収差が多く残っている)上に、直線から外れてナナメになってしまっています(球面収差)。

軸上色収差が良好に補正された高性能のアポクロマート光学系では、収差補正のレベルが上がっているだけにこのような色ごとの残存球面収差(色の球面収差)が問題になってきます。「針で突いたような点像」を実現するためには、全ての色で球面収差が良好に補正されていなければならないのです。

球面収差は、限界まで拡大しないディープスカイの直焦点においては若干寛容です。写真鏡筒として評判の高いタカハシのεシリーズが「アストロカメラ」を謳い、眼視での使用を推奨していないのはそのためです。

さらに、2枚玉・3枚玉アポクロマートのような高レベルの収差補正がなされた光学系の場合、限界レベルの球面収差の補正の善し悪しを比較するには、シーイングの影響も考慮しなくてはなりません。地上であれ天体であれ、レイリー円がきちんと円に見えるような条件はあまり多くありません。

今回のレビューでは、そこまでのレベルの検証が必ずしもじゅうぶんできたとは言えないことをお断りしておきます。

周辺像(像面湾曲・非点収差・コマ収差)

一方で、眼視の場合は周辺像の悪化は写真ほど問題になりません。そもそも、人間の眼では高い解像力を持つのは中心のごく一部しかないからです(*)。

(*)網膜の面積のほんの1%以下しかない「黄班部中心窩」という部分。

このため、仮に見かけ視界100°や80°といった広視界の接眼レンズを使用したとしても、中心部と周辺部を同時に高い解像力で見ることはできません。意識的・ないしは無意識的に、視線を中心・周辺と細かく移動させることになります。

このあたり、「どれほど周辺部の像の悪化が気になるか」は、個人差も大きく一概にはいえません。また、周辺部でピント位置が異なってくる「像面湾曲」の場合は、視度の調整能力がじゅうぶん高い若年層の場合はかなりカバーすることも可能です。

内面反射(コントラスト)

例えば、月面と地球照のような極端に輝度差のある対象の場合、内面反射の多寡は大きく見え味(特に暗部のヌケの良さ)に影響します。

一方で、内面反射やレンズ表面の反射によるコントラストの悪化については定量的な計算や計測が難しく、具体的に比較したものはあまり見かけません。2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡においては、黒塗り塗装と絞り環の配置で大半の性能が決まってきますが、このクラスの丁寧に作られた屈折望遠鏡ではさほど大きな差はないといえます。

画像処理でコントラストやレベルを補正できる写真用途、特に拡大撮影では、内面反射処理の善し悪しはあまり問題視されることが少ないようです。

歪曲

対物レンズ側の歪曲収差は、2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡では光学的にどれも「弱い糸巻き型の歪曲」が残る設計しかなく、問題視されることはほぼないようです。写真用途の場合でも「歪曲が少ないとモザイクが楽になる」という記述を見かけますが、実際にはソフトで自動処理可能ですし根本的な問題ではないでしょう。

眼視の場合、歪曲収差の差は接眼レンズ側によるものが大半です。ただし、天体では「直線」で構成された対象はほぼ皆無ですので、少々の歪曲は気にならないといえます。

一方で、地上のビル群などを見る場合は歪曲収差はそれなりに気になります。あまり大きく歪曲するようだと見ていて疲れてしまいますが、双眼鏡ならともかく天体を見る用途で単純に歪曲(直線の歪み)をとりたてて問題視する理由は薄いといえます。

むしろ、100°などの広視界接眼レンズでは直線の歪曲を補正せず、角倍率の歪曲を補正するという考え方がむしろ多いようです。

ナグラーやイーソスは歪曲収差がひどい(?)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tomoyu/inst/co405.htm

(?)は編集部が追記。このタイトルは逆説的なもので、「直線の歪曲収差はひどいが、それは角倍率の歪曲の補正を優先したための仕様である」というのが趣旨です。

まとめ

いかがでしたか。

口径85mmの眼視鏡筒では最高の1本

今回の眼視レビューを通じて、連載第1回でFOT85を「眼視寄りのフォトビジュアル鏡筒」と形容したことは、間違っていなかったと確信しました。そして付け加えるべきことがあります。

この鏡筒は口径85mmの眼視鏡筒では「最高の製品のひとつ」であると断言できます。3枚玉アポクロマート、焦点距離560mmと「長め(*)」であることもプラスに作用した完璧に近い軸上色収差・球面収差の補正。

(*)FSQ85EDの焦点距離は450mm(F5.6)、BORG90FL、SKY90は焦点距離500mm(F5.6)です。

「口径85mmでここまで見える」。
アマチュア天文愛好家にとって、一生モノといってもよいくらいではないでしょうか。

手が届く、軽々と持てる、口径85mm

ただし、口径は85mmです。
惑星では、好シーイングの下の大口径のシュミカセにはかないませんし、ディーブスカイでは大口径のドブソニアンにもかないません。

FOT85で眼視観望中。FOT85は黒いので暗所では潰れてしまいます^^;;; 同架しているのはBORG76アクロマート。

しかし口径85mmのメリットもたくさんあります。手の届く価格。長すぎない屈折鏡筒の扱いやすさ、小型軽量であることによる機動力。高倍率での惑星・月面から低倍率・広視界でのディープスカイ観望まで少し長めの85mmF6.6」を生かした幅広いスタイルは、眼視観望の楽しみ方を大きく広げてくれることでしょう。

とにかく、使っていて感じたのは「口径以外には(*)一切の不満がない」ところでした。これこそが最高の贅沢といえるでしょう。

(*)口径85mmに不満がある向きには、一回り口径の大きなモデル(D=104mm、fl=650mm、F6.25)もあります。

クラス最高レベルの見え味を、あなたの手元に

これから本格的に眼視観望をはじめてみようという方にとっては、FOT85の23万円(税抜)という価格は高めに感じられるかもしれません。しかし、最初からクラス最高級のものを手に入れてみたいものであれば・・FOT85は大いにオススメできる製品です。

また、将来新しい望遠鏡が(たぶんそれはもっと大口径のものでしょう)欲しくなった時にも、FOT85は「小型軽量のサブ鏡筒」として使い続けることができるでしょう。

さらに「大型機材の運用がちょっとしんどくなってきた」「機材のダウンサイジングをしたい」「でも性能には妥協したくない」と思っているベテランの方にとっても、最適な選択の一つではないでしょうか。

本格的な天体望遠鏡をはじめて手にする方から、ガチな眼視派のサブ鏡筒として、そしてガチな写真派のフォトビジュアル鏡筒として。FOT85は新しいフォトビジュアルのスタンダードになるのではないかと感じてます。


おまけ・眼の劣化と年齢

実は筆者は、5年ほど前に天文を再開したときは眼視をやるつもりはありませんでした。眼があんまり良くないからです。

しかし、今では手遅れになる前に眼視をやっておいて良かったと痛切に思っています。そのことについて少しだけ書きたいと思います。

近視と乱視の影響

元々、若い頃から近視と乱視が強かったのですが、この2つは意外と大きな問題にはなりません。最近の接眼レンズはアイレリーフが長いのでメガネをかけた状態でも覗きやすく、乱視を補正した状態で見ることができます。さらに、最近流行りの口径×3〜4のような過剰倍率で見る場合は乱視を含めた「眼の解像力の個人差」の影響はさらに少なくなります。(*)

(*)私見ですが、過剰倍率のメリットの一つはこれではないかと考えています。

また、近視・遠視はピント調整さえすれば無問題です。老眼もほぼ無限遠しか見ない天体ではあまり問題にならないのですが、前述したようにピント調整能力が低下すると周辺部の像面湾曲を補正できなくなるデメリットはあります。

加齢の影響

人間の眼は、残念ながら加齢による老化が顕著な器官です。筆者の年齢は54。いろんな部分にかなり老化が来ています。その意味では眼視のレビューアーとして不適格な部分があるかもしれないことをお断りしておかなくてはなりません。

筆者の場合、問題になるのは以下の3つです。

白内障

日本眼科学会・白内障
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/suisho_hakunai.jsp

白内障の影響は、月を見る場合に特に顕著。筆者の場合日常生活にはさして問題がないごく初期段階なのですが、フレアが出たように、対象の周りがぼんやり明るくなってしまいます。また、内面反射やレンズ面での反射による迷光の影響も大きい気がします(*)。フレアのチェックをする際は進行の少ない左目で確認するようにしています。

(*)ほぼ同じ光学系でモノコート・マルチコートの双眼鏡を見比べたことがあるのですが、圧倒的にマルチコートの方がフレアが少なく明瞭だった経験があります。

飛蚊症

日本眼科学会・飛蚊症
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_hibun.jsp

健康な若い眼でも飛蚊症は一定量あるのですが(*)、加齢してくると特定の場所に必ず「飛蚊(モヤモヤしたゴミのような影が像の中を飛び回る現象)」が現れるようになります。
特に高倍率時に顕著。過剰倍率で月面を見ることは逆に飛蚊症のよい診断になるのではないかと思えるほど。

飛蚊症は気持ち悪いものですが、よほどのものでない限りは、眼視性能を顕著に低下させるものではないといえます。

網膜の劣化

日本眼科学会・加齢黄斑変性
http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_karei.jsp

一番問題になるのはこれでしょう。眼の中で主に解像力を司る「黄斑部」の細胞が老化してしまう現象です。
この症状が進行すると、メガネで矯正しても視力が一定以上でなくなります。筆者の場合、これが直接の原因かは不明ですが、若い頃には1.5をクリアできた矯正視力が現在では1.0程度になってしまいました。

若者でも老人でも眼視は楽しめる

あえて「病気自慢」のようなことを書いたのには理由があります。「眼が良くないからといって眼視が楽しめないということはない」それが言いたかったのです。

正直、若い頃の眼に戻って今見ている対象を見たらどんなに素晴らしいだろうと思うことはあります。100°アイピースいっぱいに広がる二重星団が、全て針で突いたような点像で見られたなら・・・

でも、それは望んでも叶わないこと。そんな風に見えなくても、二重星団は十分に美しいし、良い望遠鏡と接眼レンズで見た星空はやっぱりその分だけ美しい。眼視の絶対能力は年齢に依存するが、眼視の楽しみは年齢ほどには関係ない。齢五十を超えて眼視に復帰した高齢者の率直な感想です。

また、筆者がその年齢の頃には、今ほどよく見える機材は存在しませんでした。10代、20代の若者にこそ、良い望遠鏡で星空を経験して欲しいと切に願うものです。


・本記事は星見屋.com様にご協力いただき、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。

・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

第1回レビューはこちらです。

最高の小型屈折望遠鏡はコレか!?【連載第1回】Founder Optics FOT85レビュー

第2回レビューはこちらです。

外観インプレッション【連載第2回】Founder Optics FOT85レビュー

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/05/57618b7f622c4baad1aa63ff63438745-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/05/57618b7f622c4baad1aa63ff63438745-150x150.jpg編集部望遠鏡FOT85星見屋.com PresentsED硝材を2枚使用した口径85mmの「分離式3枚玉」小型望遠鏡、Founder Optics FOT85。今回は眼視でのレビューです。「3枚玉分離式アポクロマート」の威力はどんな風に発揮されるのでしょうか?! 星見屋.com FOT85 http://www.hoshimiya.com/?pid=126042047 はじめに・・・最高レベルの眼視鏡筒 さまざまな対象を、いろいろな鏡筒といろいろなアイピースで比較していたため、ずいぶんと時間がかかってしまいました。ようやくですが、FOT85の眼視レポートをお届けします。 これまで何度も何度も眼視での実視レビューを行ない、いろいろ比較してみたのですが、結局、文章で書けることは以下のような感覚的な「印象」でしかありません。 「針で突いたようなシャープな点像」 「クリアで抜けのいい視界」 「色づきがほとんど見られない輝星や月の縁」 「きれいに揃ったディフラクションリングと内外像」 「過剰倍率を与えても鮮明な像」 一方で、この客観性の乏しい感覚的な評価ではなく、さまざまな定量的なテスト手法が存在します。たとえばその一つがこれ。 対称で色ズレのない内外像と、真っ直ぐで色づきのないロンキー縞は、色収差と球面収差が高いレベルで補正されていることを意味しています。 6/3追記) ロンキーテスト結果の評価について高槻幸弘様より貴重なご意見をコメントで頂戴しました。 様々な天体望遠鏡のロンキーテスト結果については、以下の書籍(絶版)が非常に参考になります。 6/3追記終わり) これは見る人が見れば非常に素晴らしい結果です。ただ、このテスト結果は客観的であるがために逆に「どうよく見えるのか」は語ってくれないのです。 しかも、眼視の場合「接眼レンズ(アイピース)」の占める比重がとても大きくなります。接眼レンズは様々な焦点距離と設計コンセプトがあり、これまた一概には比較できません。 何よりも「眼視の体験」は写真で伝えることができません。写真用としての評価なら、よい作例があればそれが雄弁に語ってくれるのですが。 しかし、一つはっきり言えることがあります。FOT85は、まぎれもなく最高レベルの眼視鏡筒の一つです。正直いって、同口径の他の鏡筒と比較しても非の打ち所がありませんでした。この鏡筒で見たものは、全て私の中に素晴らしい体験として刻み込まれています。 本稿では、できるだけ客観的・具体的に、この鏡筒のもたらした「眼視体験」お伝えしたいと思います。 地上風景を見る FOT85がやってきて、まずはじめに見たものはベランダからの地上風景(遠方のビル群)です。地上風景は天体望遠鏡にとってなかなか厳しいテストで、一通りの収差をチェックすることができます。特に「Side by Side(2本の望遠鏡を並べて交互に見比べる)」で比較すると、かなり明瞭に性能差をあぶり出すことができます。 軸上色収差 例えば軸上色収差。軸上色収差とは、光の波長によって結像位置が光軸方向にずれる現象ですが、この現象は構造物と空の境界線などの輝度差の大きな部分で顕著に現れます。 上の写真はFOT85、BORG76(アクロマート)の結像状況の比較。アイピースはRadian3mmです。 これを見ると左のBORG76では、アクロマート鏡筒で発生する色収差の存在が一目瞭然です。一方で、FOTでは、色収差の存在がほとんど判別できません。アクロマートと比較しても仕方ないと言えばそうなのですが、EDや蛍石などの特殊な硝材を使用したアポクロマートのメリットはここにあります。 手持ちの4枚玉アポクロマート鏡筒FSQ106EDとも比較してみました。あまりシーイングが良くなかったせいもありますが、FOT85とFSQ106EDでは、ほとんど全くといっていいほど差が分かりませんでした(*)。 (*)月や惑星でFOT85とFSQ106EDを比較してみても、200倍前後の高倍率では正直いって明るさ以外の差を感じることはほとんどありませんでした。しかし、絶好のシーイングの状況では口径分の差は出るものと思われます。 別の機会に口径8cmクラスの2枚玉のアポクロマート、口径85mmの4枚玉アポクロマートとも比較しました。FOT85が焦点内外像における紫や赤の色ズレが最も少なく、勝っているように感じました。 球面収差 地上風景での球面収差の補正具合は「対象がどのくらいシャープに見えるか」に現れてきます(*)。 (*)「碍子(がいし)」などに反射する太陽を点像と見なしてチェックする方法もあります。 この差も、Side by Sideで見るとかなりはっきりと現れてきます。このシャープ感においても、FOT85が明らかに高性能でした。口径85mmの4枚玉アポクロマートとの比較でも勝っているように感じました。 周辺像 2枚玉・3枚玉のアポクロマートは、周辺像で問題になる像面湾曲・非点収差をそもそも補正していない(できない)ので、かなり意地悪なチェックになります。広視界アイピースで見ると周辺ほどボケるのは仕方ありません。 ビルのタイルなどを見ると、周辺部では縦方向と横方向(*)のピント位置が大きく異なることもわかります。これは非点収差によるものです。 図はFOT85の非点収差図ですが、この傾向は全ての2枚玉・3枚玉の屈折光学系ではほとんど共通のものです。   (*)より正確には、同心円(サジタル)方向、放射状(メリジオナル)方向。 このため、周辺像の比較では、写真用に像面湾曲と非点収差が補正された4枚玉のFSQ106EDがはっきり勝ります。ただ、体感的に差が明瞭なのは、イーソスやニコンNAV-HWのような見かけ視界100°の接眼レンズを使用した低倍率の場合のみです。実際に星を見た場合には、昼間の風景ほどピント位置の差は気になりませんでした。 この差が気になる場合は、写真用途同様にフラットナーを使用する方法もありますが、光路長に注意する必要があります。純正フラットナーを使用してみましたが、直視の場合はよいのですが、正立プリズムと併用する場合はピントが出ませんでした(*)。 (*)接眼レンズとの組み合わせもあり、一概にはいえないことをお断りしておきます。 月と惑星を見る 月面 ヌケのよい像が視野いっぱいに広がる月面の観望は、小型高性能アポクロマートの得意分野です。全く色づきのないクリアでシャープな像は素晴らしいものです。色収差がほぼないことによる「気持ちよさ」が堪能できます。3枚玉アポならではの体験と言えるでしょう。 FOTの場合、イーソス6mmを装着して93倍。この倍率では見かけ視界60°の接眼レンズでも月は全て視野内に収まるのですが、100°アイピースだと視野いっぱいに広がる暗い空とその上にぽっかり浮かび上がる大きな月の迫力が圧倒的です。 ただし、正立プリズムで高倍率の場合は、クレーターのエッジの色づきが若干目立ちました。月をシャープ感を損なわずに見るには、やはりミラーの方がオススメです。 FOT85は焦点距離が560mmなので、口径×2くらいの高倍率を得るには3.3mmの接眼レンズが必要になります。3枚玉アポクロマートの性能をフルに発揮するためには、より高性能の接眼レンズを使用したいところです。今回、高倍率用にはRadian3mmとZeissの4mmアッベオルソを使用しましたが、どちらも甲乙付けがたい見え味でした。 今回は試せていませんが、5倍程度の高倍率のバローと20mm前後の構成枚数の少ないアッベ・プルーセルを組み合わせるのも渋い構成でしょう。 惑星 口径85mmで惑星がどの程度見えるのか?しょせん、口径85mmでは大して見えないのではないか?そんな疑問を感じられる方もいらっしゃるでしょう。私もそう思っていました。 これは、半分は事実です。シーイングのよい条件で、口径20cmのシュミカセ(C8)と比べて見ましたが、「どこまで細かい部分が見えるか」については、歴然と違います。大口径は正義。理想的条件ではかなうはずもありません。 しかし、口径85mmがよく見えないかというと、それも違います。かなりよく見えます。木星は2本ないしは3本の縞とその間の「もわもわ」がはっきり視認できますし、土星のカシニはくっきり。 一般に「優れた屈折望遠鏡はシャープネスとコントラストにおいては、より大口径の反射望遠鏡を上回る」という説があります(*)。 (*)斜鏡の中央遮蔽の有無、筒内気流の影響、筒内の内面反射の問題、光軸が狂いやすい反射の問題、シュミカセの場合は補正板で発生する収差など、様々な理由が複合していると考えています。 感覚的になりますが、今回比較してみて、この説も大いに納得できると感じたことが多々ありました。「シャープ感」「すっきり感」の差、といいましょうか。 また、屈折同士の比較でも、短焦点のアクロマートとアポクロマート鏡筒には別次元ともいえる差があるのですが、FOTと他の同等口径のアポクロマート鏡筒とでは、確かな差を感じました。細かな部分の見え方・コントラストともにが違うのです。 もう一つ。口径106mmのFSQ106EDと比較しても、あまり遜色のない見え方であったことは、明記しておかなくてはなりません。土星の場合は口径差による像の暗さが若干気になりますが、木星の場合はほとんど変わりのない見え方でした。 さらに、「ベランダに出してすぐの状態」でC8と比較すると、FOTの圧勝です。温度順応していないシュミカセははっきり言ってボヤボヤ。「すぐ取りだしてすぐよく見える」屈折望遠鏡のメリットは、もっと評価されてもよいのではないでしょうか。 ディープスカイを見る 散開星団 個人的意見で恐縮ですが、散開星団が一番美しく楽しめるのは、倍率30倍前後ではないでしょうか。視野いっぱいに星屑が広がり、その中にギュッと凝縮した星団が見える。二重星団やぎょしゃ座のM36・M37のように、複数の星団が同一視野に見えるとなおさら美しい光景が広がります。 焦点距離560mmのFOTの場合、この一番美味しい倍率は、焦点距離17mm〜25mm程度の接眼レンズを使用した場合です。今回試した中では、イーソス17mm、XW-20mm、RPL25mmあたりがそれに相当します。 ただし・・この体験は、短焦点アクロマートでもそれなりに楽しめました。これは、筆者の眼が老化が進んでいるせいかもしれません。例えば、M46のような微光星がびっしり詰まった星団の場合は、アポクロマートの鋭像がより生きてくるかもしれません。 また、イーソス17mmを使用した場合は、FSQ106EDのフラットフィールドさに軍配が上がりました。逆に、XW-20のような70°程度の接眼レンズでは、あまり違いを感じませんでした。 ちなみに、焦点距離の長いシュミカセなどの光学系では、焦点距離2000mmなら40mmを使用しても50倍。倍率が大きすぎて、散開星団がまばらになって迫力が逆に落ちてしまいます。散開星団は短焦点アポクロマート屈折の良さが大いに生きる対象と言えるでしょう(*)。 (*)口径20cmF4程度のニュートン反射にコマコレと40mmを付けて見てみたいものです。 系外銀河 M51、M101、しし座のトリオ星雲、M81/82などを見てみました。系外銀河の場合は、やはり口径差が如実に出てきます。 FOT85で低倍率(30倍程度)で見ると、系外銀河は小さくて、あまり構造まで視認できません。かといって、倍率を上げてしまうと暗くなってしまいます。 系外銀河は100倍くらいの高倍率、もっといえば200倍くらいで見るぼうが、M51の渦巻きやM82のザワザワ感などが楽しめます。そのためにはやはり大口径が有利です。 散光星雲 オリオン大星雲M42、バラ星雲、トールのかぶと星雲などを見てみました。中心部の輝度が高いM42を100倍〜200倍の高倍率で見ると口径85mmのFOT85でもなかなかの迫力です。蛇足ではありますが、M42は低倍率だけでなく、是非高倍率でも見てほしい対象です。 バラ星雲のような淡く広がった散光星雲は、口径が小さい屈折でも、低倍率の広視野が生きる対象です。特にOIIIフィルターやLPS-V4のようなネビュラフィルターを使用して最低有効倍率で見ると想像以上にはっきりと見ることができます。まあ、この用途では3枚玉アポクロマートでなくてもいいのですが^^;; 球状星団 M3、M15を見てみました。驚いたのは、口径85mmのFOT85、イーソス6mmで93倍で、球状星団のツブツブがかなり分解できることでした。100°の視野は全く生かしていませんが^^;; 高倍率にしてもシャープ感を失わない高性能アポクロマートの威力といえましょう。 もちろん、球状星団は系外銀河同様、大口径の高倍率で見る方が楽しめるのですが、系外銀河ほどには口径の差はないように感じました。 今回使用した接眼レンズ 今回のレビューで使用した接眼レンズのうち、FOT85との相性が良いと感じたものをいくつかご紹介しておきます。 ペンタックスXW-20 編集部所有。非常に評価の高い製品。4群6枚、70°。税込約2.9万円。周辺像は悪くはないのですが、イーソスほど端までシャープというわけはありません。見かけ視界70°、スペック的には何も尖ったところがないのですが、なぜか一番使用頻度の高い接眼レンズです。 FOT85に付けると28倍。オリオン大星雲のトラペジウムのシャープ感が最高。C8に付けると100倍。焦点距離20mm、この倍率レンジが使いやすさの元でしょうか。BORG76アクロとの組み合わせも良好。 北軽井沢観測所・RPLシリーズ スタークラウド・RPL(リアルプローセル)シリーズhttp://www.starcloud.jp/SHOP/RPL.html スタークラウド様よりお借りしているもの。低価格でよく見える接眼レンズです。視野は62°と控えめですが、2群4枚でとてもヌケのよい製品です。32mm、40mm、45mmと長焦点側が充実していますが、こちらはシュミカセ向き。FOT85には25mm(22倍)と18mm(31倍)がよく合います。バローとの相性が良く、中倍率・高倍率もカバーできます。 100°アイピース 編集部所有のエース格、ニコンNAV-12.5HW。焦点距離10mm相当となる補正レンズを常用しています。FOT85と組み合わせると56倍。少し高めの倍率になりますが、銀河流しに最高。最周辺以外はほぼ完璧な像を結ぶ究極の1本です。 ただし、この手の接眼レンズはかなり重量・長さがあるため(*)、安定して固定できる接眼部が必要です。その点、FOT85の接眼部はチャック式で堅固に固定できるため安心です。 知人からの借用品、イーソス6mm、17mm(写真は17mm)。FOT85に付けると93倍と33倍。ニコンNAVには周辺は若干負けますが、それでもイーソス、さすがのイーソスです。6mmで見る月、17mmでの星野は圧巻。ただし、ニコンNAV-HWにも言えることですが、焦点位置が他のアイピースと激しく異なるので使いにくいのが玉に瑕。 Radian3mmとツァイスオルソ4mm FOT85で口径×2程度の倍率を得るためには、バローレンズを使用するか、3mm前後の接眼レンズが必要になります。 編集部所有のRadian3mmは、短焦点ながらアイレリーフ20mmと覗きやすく、見かけ視界62度と広いのが特徴。惑星・月面・ディープスカイにも使える良い製品です。ただしすでにディスコンなので、FOT85には惑星専用ならビクセンHRやタカハシTOEなどの短焦点接眼レンズがオススメでしょう(*)。 (*)別の鏡筒での比較ですが、ビクセンHR・タカハシTOEは視野は40°少しと狭いものの、非常によい見え味でした。 ツァイスのアッベオルソ4mmは24.5mmスリーブの年代物、知人からの借用品。多くの人が賞賛するだけあってひと味違う鋭像です。見かけ視界は42°と狭くアイレリーフも短く覗きにくいのですが、このようなクラシックな単焦点オルソも高倍率向けです。 眼視で最高の性能を発揮するために 眼視観望では、最高の性能を発揮するためにはいくつか注意すべきところがあります。対物レンズの性能を十分に発揮できるような良い接眼レンズを使うこともその一つです。ここでは、それ以外にも大事になる要素を簡単に整理しておきましょう。 ミラーかプリズムか 正立プリズム 眼視観望の基本は正立プリズムであるといってよいと思います。1面の反射だけの鏡像ではやはり違和感を感じてしまいますし、星図とも照合しにくくなります。 今回は主に2インチの正立プリズムを使用しましたが、高倍率ではミラーを併用しています。 Wikipedia・Amici roof prism https://en.wikipedia.org/wiki/Amici_roof_prism アミチ型の正立プリズムのしくみ。視野の中央にプリズムのエッジ部分が横切る形になります。このため、高倍率で明るい恒星や惑星を視野中心で見ると、光のスジが見られることがあるのが欠点の一つです。 天頂ミラー しかし、(正立)プリズムにはいくつか欠点があります。反射やガラスの吸収による光量の損失もあるのですが、最大の問題は高倍率使用時の像の乱れ。特にF値の小さめの光学系の場合、色収差と球面収差の影響が小さくありません(*)。 (*)長焦点のアクロマートレンズの場合、逆に対物側の収差とプリズムの収差が相殺し合ってプリズムのほうが好結果をとなる組み合わせもあるようですが、短焦点のアポクロマートの場合はミラーが優位と考えられます。 正立プリズムにRadian 3mmやアッベ4mmを使用した場合、明らかに像が悪化(色づき、ディフラクションリングの乱れ)しているのが確認できました。 惑星や月面を高倍率で見る場合は、天頂ミラーを一つ別に持っておくことをオススメします。高倍率専用であれば、2インチでなくても小型の1.25インチでもよいかもしれません。 温度順応 分離式3枚玉アポクロマートは、2枚玉と比較してより温度変化に敏感と言われています。少なくとも1時間くらいは外気になじませるのが吉です。ただ、感覚的ではありますが、シュミカセと比較してずっと寛容であると感じました。 イスの使用 惑星・月面・ディープスカイのいずれの場合でも、眼視の場合は安定した姿勢で見ることはたいへん重要です。しっかりとしたイスに腰掛けて姿勢を安定させて見ないと(*)、本当に細かな部分や暗い対象は見えてきません。 (*)イスに腰掛けても自分の心臓の鼓動がジャマになることすらあります。止めるわけにはいかないのですが^^;; 上の写真は、世界中の天文愛好家で使用されているものです。筆者にとって「買って良かった」のベスト3に入るグッズです。 オススメの架台 眼視用途でFOT85と組み合わせる架台にはどんなものがいいでしょうか? 自動導入赤道儀 筆者のメイン架台SXP。何も考えなくても使える自動導入赤道儀です。使い勝手は抜群ですが、FOT85と組み合わせるには若干過剰気味でしょうか。もうすこしライトな装備のほうがFOTにはカッコイイ気がします^^;(*) (*)じゃあ具体的にどんな架台なんだよ、という突っ込みはナシで^^;;; 経緯台 超高性能な望遠鏡でお気楽に観望するのも渋いスタイル。 星図が頭に入っていて手動導入が問題なくできる人には、フリーストップの経緯台マウントもライトタックルな感じで有力な選択肢です。 写真のフォトン経緯台の場合は、エンコーダーを入れてSky Safariで導入支援という今風の使い方も可能。 FOTは鏡筒バンドとアイピース込みでも5キロを越えない程度なので、ポルタIIをはじめこの手の経緯台マウントに余裕で搭載可能です。 ポータブル赤道儀 こちらは少し攻撃的?な構成。1軸ポタ赤にフォーク式架台での運用。ベランダでのお手軽観望には自動追尾はとても便利。少し時間を置いても対象が逃げないので、撮影の合間にお気楽に観望できます。 高倍率での本気な観測や撮影にはちょっと強度不足を感じますが、ドイツ式に組むなどもう少し強化すれば、さらにイケている構成になる気がしています。 「眼視」で求められる性能とは 過去記事と重複する部分もありますが、眼視の際に重要となる性能ファクターを整理しておきます。 軸上色収差 軸上色収差が残存していると、月や惑星の縁に色が付いて見え、強拡大した際の解像度・コントラストを低下させます。   軸上色収差は2枚玉のアクロマートの宿命であり、F値を大きくする以外に対策はありませんでしたが、FOT85のような分離型3枚玉をはじめとする最近のアポクロマートでは、上の図のように別次元のレベルで補正されています。 一方で、輝度の低いディープスカイ(星雲星団など)の観望では、人間の眼の色識別能力が低下しているため、さほど気になりません。 球面収差 球面収差は、色収差と同じくらい・条件によってはそれ以上に、天体望遠鏡の眼視性能を大きく左右する要素です。球面収差が残存していると、対象からの光が一点(レイリー円(*))に収束せず、ボケてしまいます。 (*)光が波の性質を持つことによる、理想的な点像が結像する大きさを持った円。口径と光の波長によってレイリー円の大きさは理論的に決定されます。  星爺から若人へ・アポクロマートという用語 http://tentai.asablo.jp/blog/2015/09/05/ 上の図は、典型的な2枚玉アクロマートレンズの収差図。 肉眼で感度の高い緑のe線(546nm)と黄色のD線(588nm)の収差の補正を最優先しています。赤・青・紫はけっこう遠くに飛んでしまっている(軸上色収差が多く残っている)上に、直線から外れてナナメになってしまっています(球面収差)。 軸上色収差が良好に補正された高性能のアポクロマート光学系では、収差補正のレベルが上がっているだけにこのような色ごとの残存球面収差(色の球面収差)が問題になってきます。「針で突いたような点像」を実現するためには、全ての色で球面収差が良好に補正されていなければならないのです。 球面収差は、限界まで拡大しないディープスカイの直焦点においては若干寛容です。写真鏡筒として評判の高いタカハシのεシリーズが「アストロカメラ」を謳い、眼視での使用を推奨していないのはそのためです。 さらに、2枚玉・3枚玉アポクロマートのような高レベルの収差補正がなされた光学系の場合、限界レベルの球面収差の補正の善し悪しを比較するには、シーイングの影響も考慮しなくてはなりません。地上であれ天体であれ、レイリー円がきちんと円に見えるような条件はあまり多くありません。 今回のレビューでは、そこまでのレベルの検証が必ずしもじゅうぶんできたとは言えないことをお断りしておきます。 周辺像(像面湾曲・非点収差・コマ収差) 一方で、眼視の場合は周辺像の悪化は写真ほど問題になりません。そもそも、人間の眼では高い解像力を持つのは中心のごく一部しかないからです(*)。 (*)網膜の面積のほんの1%以下しかない「黄班部中心窩」という部分。 このため、仮に見かけ視界100°や80°といった広視界の接眼レンズを使用したとしても、中心部と周辺部を同時に高い解像力で見ることはできません。意識的・ないしは無意識的に、視線を中心・周辺と細かく移動させることになります。 このあたり、「どれほど周辺部の像の悪化が気になるか」は、個人差も大きく一概にはいえません。また、周辺部でピント位置が異なってくる「像面湾曲」の場合は、視度の調整能力がじゅうぶん高い若年層の場合はかなりカバーすることも可能です。 内面反射(コントラスト) 例えば、月面と地球照のような極端に輝度差のある対象の場合、内面反射の多寡は大きく見え味(特に暗部のヌケの良さ)に影響します。 一方で、内面反射やレンズ表面の反射によるコントラストの悪化については定量的な計算や計測が難しく、具体的に比較したものはあまり見かけません。2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡においては、黒塗り塗装と絞り環の配置で大半の性能が決まってきますが、このクラスの丁寧に作られた屈折望遠鏡ではさほど大きな差はないといえます。 画像処理でコントラストやレベルを補正できる写真用途、特に拡大撮影では、内面反射処理の善し悪しはあまり問題視されることが少ないようです。 歪曲 対物レンズ側の歪曲収差は、2枚玉・3枚玉の屈折望遠鏡では光学的にどれも「弱い糸巻き型の歪曲」が残る設計しかなく、問題視されることはほぼないようです。写真用途の場合でも「歪曲が少ないとモザイクが楽になる」という記述を見かけますが、実際にはソフトで自動処理可能ですし根本的な問題ではないでしょう。 眼視の場合、歪曲収差の差は接眼レンズ側によるものが大半です。ただし、天体では「直線」で構成された対象はほぼ皆無ですので、少々の歪曲は気にならないといえます。 一方で、地上のビル群などを見る場合は歪曲収差はそれなりに気になります。あまり大きく歪曲するようだと見ていて疲れてしまいますが、双眼鏡ならともかく天体を見る用途で単純に歪曲(直線の歪み)をとりたてて問題視する理由は薄いといえます。 むしろ、100°などの広視界接眼レンズでは直線の歪曲を補正せず、角倍率の歪曲を補正するという考え方がむしろ多いようです。 ナグラーやイーソスは歪曲収差がひどい(?) http://www7a.biglobe.ne.jp/~tomoyu/inst/co405.htm (?)は編集部が追記。このタイトルは逆説的なもので、「直線の歪曲収差はひどいが、それは角倍率の歪曲の補正を優先したための仕様である」というのが趣旨です。 まとめ いかがでしたか。 口径85mmの眼視鏡筒では最高の1本 今回の眼視レビューを通じて、連載第1回でFOT85を「眼視寄りのフォトビジュアル鏡筒」と形容したことは、間違っていなかったと確信しました。そして付け加えるべきことがあります。 この鏡筒は口径85mmの眼視鏡筒では「最高の製品のひとつ」であると断言できます。3枚玉アポクロマート、焦点距離560mmと「長め(*)」であることもプラスに作用した完璧に近い軸上色収差・球面収差の補正。 (*)FSQ85EDの焦点距離は450mm(F5.6)、BORG90FL、SKY90は焦点距離500mm(F5.6)です。 「口径85mmでここまで見える」。 アマチュア天文愛好家にとって、一生モノといってもよいくらいではないでしょうか。 手が届く、軽々と持てる、口径85mm ただし、口径は85mmです。 惑星では、好シーイングの下の大口径のシュミカセにはかないませんし、ディーブスカイでは大口径のドブソニアンにもかないません。 しかし口径85mmのメリットもたくさんあります。手の届く価格。長すぎない屈折鏡筒の扱いやすさ、小型軽量であることによる機動力。高倍率での惑星・月面から低倍率・広視界でのディープスカイ観望まで「少し長めの85mmF6.6」を生かした幅広いスタイルは、眼視観望の楽しみ方を大きく広げてくれることでしょう。 とにかく、使っていて感じたのは「口径以外には(*)一切の不満がない」ところでした。これこそが最高の贅沢といえるでしょう。 (*)口径85mmに不満がある向きには、一回り口径の大きなモデル(D=104mm、fl=650mm、F6.25)もあります。 クラス最高レベルの見え味を、あなたの手元に これから本格的に眼視観望をはじめてみようという方にとっては、FOT85の23万円(税抜)という価格は高めに感じられるかもしれません。しかし、最初からクラス最高級のものを手に入れてみたいものであれば・・FOT85は大いにオススメできる製品です。 また、将来新しい望遠鏡が(たぶんそれはもっと大口径のものでしょう)欲しくなった時にも、FOT85は「小型軽量のサブ鏡筒」として使い続けることができるでしょう。 さらに「大型機材の運用がちょっとしんどくなってきた」「機材のダウンサイジングをしたい」「でも性能には妥協したくない」と思っているベテランの方にとっても、最適な選択の一つではないでしょうか。 本格的な天体望遠鏡をはじめて手にする方から、ガチな眼視派のサブ鏡筒として、そしてガチな写真派のフォトビジュアル鏡筒として。FOT85は新しいフォトビジュアルのスタンダードになるのではないかと感じてます。 おまけ・眼の劣化と年齢 実は筆者は、5年ほど前に天文を再開したときは眼視をやるつもりはありませんでした。眼があんまり良くないからです。 しかし、今では手遅れになる前に眼視をやっておいて良かったと痛切に思っています。そのことについて少しだけ書きたいと思います。 近視と乱視の影響 元々、若い頃から近視と乱視が強かったのですが、この2つは意外と大きな問題にはなりません。最近の接眼レンズはアイレリーフが長いのでメガネをかけた状態でも覗きやすく、乱視を補正した状態で見ることができます。さらに、最近流行りの口径×3〜4のような過剰倍率で見る場合は乱視を含めた「眼の解像力の個人差」の影響はさらに少なくなります。(*) (*)私見ですが、過剰倍率のメリットの一つはこれではないかと考えています。 また、近視・遠視はピント調整さえすれば無問題です。老眼もほぼ無限遠しか見ない天体ではあまり問題にならないのですが、前述したようにピント調整能力が低下すると周辺部の像面湾曲を補正できなくなるデメリットはあります。 加齢の影響 人間の眼は、残念ながら加齢による老化が顕著な器官です。筆者の年齢は54。いろんな部分にかなり老化が来ています。その意味では眼視のレビューアーとして不適格な部分があるかもしれないことをお断りしておかなくてはなりません。 筆者の場合、問題になるのは以下の3つです。 白内障 日本眼科学会・白内障 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/suisho_hakunai.jsp 白内障の影響は、月を見る場合に特に顕著。筆者の場合日常生活にはさして問題がないごく初期段階なのですが、フレアが出たように、対象の周りがぼんやり明るくなってしまいます。また、内面反射やレンズ面での反射による迷光の影響も大きい気がします(*)。フレアのチェックをする際は進行の少ない左目で確認するようにしています。 (*)ほぼ同じ光学系でモノコート・マルチコートの双眼鏡を見比べたことがあるのですが、圧倒的にマルチコートの方がフレアが少なく明瞭だった経験があります。 飛蚊症 日本眼科学会・飛蚊症 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/hoka_hibun.jsp 健康な若い眼でも飛蚊症は一定量あるのですが(*)、加齢してくると特定の場所に必ず「飛蚊(モヤモヤしたゴミのような影が像の中を飛び回る現象)」が現れるようになります。 特に高倍率時に顕著。過剰倍率で月面を見ることは逆に飛蚊症のよい診断になるのではないかと思えるほど。 飛蚊症は気持ち悪いものですが、よほどのものでない限りは、眼視性能を顕著に低下させるものではないといえます。 網膜の劣化 日本眼科学会・加齢黄斑変性 http://www.nichigan.or.jp/public/disease/momaku_karei.jsp 一番問題になるのはこれでしょう。眼の中で主に解像力を司る「黄斑部」の細胞が老化してしまう現象です。 この症状が進行すると、メガネで矯正しても視力が一定以上でなくなります。筆者の場合、これが直接の原因かは不明ですが、若い頃には1.5をクリアできた矯正視力が現在では1.0程度になってしまいました。 若者でも老人でも眼視は楽しめる あえて「病気自慢」のようなことを書いたのには理由があります。「眼が良くないからといって眼視が楽しめないということはない」それが言いたかったのです。 正直、若い頃の眼に戻って今見ている対象を見たらどんなに素晴らしいだろうと思うことはあります。100°アイピースいっぱいに広がる二重星団が、全て針で突いたような点像で見られたなら・・・ でも、それは望んでも叶わないこと。そんな風に見えなくても、二重星団は十分に美しいし、良い望遠鏡と接眼レンズで見た星空はやっぱりその分だけ美しい。眼視の絶対能力は年齢に依存するが、眼視の楽しみは年齢ほどには関係ない。齢五十を超えて眼視に復帰した高齢者の率直な感想です。 また、筆者がその年齢の頃には、今ほどよく見える機材は存在しませんでした。10代、20代の若者にこそ、良い望遠鏡で星空を経験して欲しいと切に願うものです。 ・本記事は星見屋.com様にご協力いただき、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 ・記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。 第1回レビューはこちらです。 http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/3494 第2回レビューはこちらです。 http://reflexions.jp/blog/ed_tenmon/archives/4380編集部発信のオリジナルコンテンツ