みなさんこんにちは!

天体望遠鏡、何本お持ちですか?天リフの熱心な読者の方には「2本以上」という方がけっこういらっしゃるのではないでしょうか?「カメラ」もそうですが、趣味の機材は目的や用途によって最適なセレクトが異なることが多く、ハマるにつれて機材が増殖してしまいます(*)。

(*)俗に「沼」と呼ばれる状態です。



では、「まだ天体望遠鏡を所有していない人」が「最初の1本」を選ぶとき、何を選べば一番失敗が少ないのでしょうか。もちろん予算や用途によって最適解はさまざまなのですが、万人向けのリコメンドとして、実はシンプルな解があると天リフでは考えています。

ビクセンオンラインストア・Vixen 天体望遠鏡 ビクセンSD81SII鏡筒
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ビクセンSD81SII鏡筒。接眼レンズは付属しません。https://www.vixen-m.co.jp/item/26083_6.html

今回ご紹介する「ビクセンSD81SII鏡筒」は、その「シンプルな解」の一つです。「手ごろな価格」「初心者でも持てあまさないサイズと重量」「よく見える」「本格的な天体写真にもチャレンジできる」など、オールラウンドな用途に対応できる汎用性を備えていて、俗にいう「迷ったらこれにしとけ!」的スタンダード機です。

本記事では、主に「まだ望遠鏡を持っていない」方を対象に「ビクセンSD81SIIでどんなことできるのか」「なぜビクセンSD81SIIが万人向けなのか」を、詳しくレビューしていきます。専門的な解説も含まれていますが、できるだけわかりやすく機材チョイスの「勘所」をピックアップしていきます。

用途・目的・使用者の指向によっては、別の機材が最適解であることももちろんあります。でも、本記事で触れた内容は、現在・未来の機材選びにきっと役立つことでしょう。

【天体望遠鏡の原点】ビクセンSD三兄弟レビュー・2枚玉高性能アポクロマート天体望遠鏡【どれを選ぶ?】

ビクセンSD81SIIには口径違いの「兄」があります。こちらの記事もあわせてどうぞ!

目次

活用事例 万能フォトビジュアル望遠鏡ビクセンSD81SIIで見る・撮る

眼視による天体観測・この眼で宇宙を見る

ベランダから木星を見ているところ。映えない絵ですが、冴えないおじさんであっても宇宙の生の姿を目にすることは「視福」の体験です。

天体望遠鏡を手に入れて、誰もが真っ先に見るものはやはり月と惑星でしょう。漆黒の空に明るく輝く月の姿を眺めると、この天体が宇宙に浮かぶ地球の「兄弟(*)」であることの不思議さを実感します。荒々しい地形(クレーター)や、滑らかな地形(海)の対比も興味深いものです。

(*)似ているところもあるものの、全体的には地球とは「似ても似つかぬ」姿です。

昨今はネットを検索すれば月の地形の映像は、宇宙探査機によって撮影された極めて精細なものも含めて、それこそ山のように出てきます。しかし、天体の「生の姿」を眺める体験は、モニタ画面でみる画像とはまったく違う感動があります。

ビクセンSD81SIIは口径81mmの小型望遠鏡ですが、スーパーED(SDガラス)レンズを採用した高性能の対物レンズは、素晴らしい見え味の像を結びます。感覚的な表現ですがこの「見え味」は「混じりっ気なしの高純度の映像(*)」とでもいいましょうか。天体のありのままの姿が、そのまま見えているという感動です。

(*)光学的には「混じりっ気がないこと」を「人間の眼が感じる結像状態が、光学的な理論値にどこまで近づいているか」という尺度「ストレール比」で表わします。「完全無欠」を100%とすると、ビクセンSD81SIIは「95%」を達成しています。この数値は「素人には完全無欠な光学系との区別がほぼ付かないレベル」です。90%なら優秀な光学系、EDレンズを使用しない廉価なアクロマート望遠鏡(F=12)で80%程度です。

本レビューシリーズ記事の「開封ライブ」より。ビクセン・SDシリーズの3つの望遠鏡の見え比べをしました。金星の輝く縁と、欠け際のグラデーションが感動的な印象でした。クリックで動画が再生します。https://www.youtube.com/live/_amBiS2sLK0?feature=share

実際のところは月と惑星を「望遠鏡で見る」体験は、もっと低価格の望遠鏡(例えばビクセン製ポルタIIA80Mf)でも十分に楽しむことができるのですが、ビクセンSD81SIIのような高性能望遠鏡で見るリアリティには及びません。それを一番実感するのが月と惑星です。低価格の望遠鏡では、天体の像に「色にじみ」や「フレア」といった、「本来は見えないはずのもの(光学的に言うと収差と呼ばれる結像を乱す現象)」が混じっているのです。

土星の環、木星の縞模様、満ち欠けする金星の輝きと欠け際、火星の不気味な赤色と白く輝く極冠。とても遠くにある小さくしか見えない惑星ですが、惑星の姿を体感する「眼福」の時間を楽しむなら、高性能なスーパーEDレンズを使用したアポクロマート屈折式望遠鏡が一番です(*)。

(*)「反射式望遠鏡」なら同じ価格でより大口径の望遠鏡が手に入りますが、コントラストやヌケの点では屈折式望遠鏡が勝ります。

天体望遠鏡の性能は(特に眼で天体を見る場合においては)基本的に対物レンズの大きさ(口径)で決まります。ビクセンSD81SIIの対物レンズの有効径は81mm。決して大きくはありません。しかし、大口径の望遠鏡はより高価になるだけでなく、より大きく重くなってしまいます。しかも、日本の気象条件では大口径の望遠鏡の能力を十分に発揮できる条件はそうは多くありません(*)。口径81mmのビクセンSD81SIIはその点「機動性」と「性能」のバランスがよく、宇宙の神秘を気軽に、存分に体験することができます

(*)惑星や月がよく見えるために一番大事なのは、実は大気の揺らぎが少ない(シーイングが良い)ことなのですが、日本では夏場を除いてあまり良い日が多くありません。小型の望遠鏡は機動性が高く「サッと出してサッと見る」ことができるため、シーイングの良い日のチャンスを逃しにくいというメリットがあります。大きな望遠鏡はなかなか展開するまでが大変(面倒くさい^^;;)なのです。

ディープスカイ天体撮影・深宇宙の天体の姿をとらえる

ビクセンSD81SIIで撮影したはくちょう座の北アメリカ星雲。空の条件が良くない上に総露光時間が少なくノイジーな画像で恐縮です。SDレデューサーHDキット 496mmF6.1 EOS6D(SEO-SP4) ISO5000 2分18枚、総露光36分。ダーク2分20枚、フラット40枚。SXP赤道儀 。ビクセン暗視野ファインダーII 7倍50mm ASI120MM ASIRAIRでオートガイド 山口県角島で撮影。

ネットや図鑑で見た美しい天体写真を見て「自分も撮ってみたい!」と思って天文趣味を始めた方は数多くいらっしゃいます。この記事をお読みになっている貴方もそのお一人かもしれませんね。

上の作例は、天体写真の対象として有数の人気を誇るはくちょう座の北アメリカ星雲を、ビクセンSD81SIIで撮影したものです。このような「本格的」な天体撮影は、望遠鏡本体だけでなく、後述する補正レンズやカメラ・赤道儀式の架台など、さまざまな追加機材が必要になりますが、ビクセンSD81SIIは天体撮影にも優秀な性能を発揮する望遠鏡です。

難しい話は一切省くと、天体写真において重要な天体望遠鏡の性能は大きく3つです。一つは「星が小さい≒シャープ」であること。二つめは星の「色にじみが少ない」こと。三つめが「画面全体で結像性能が均質(*)」であることです。ビクセンSD81SIIは、この3つのすべてを高いレベルでクリアしています。「ガチ」な天体撮影にもチャレンジできるのです。

(*)この条件を満たすためには、ビクセンSD81SII本体のみでは不十分です。そのために「レデューサー」「フラットナー」と呼ばれる「補正レンズ」が別途必要になります。

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デジタル天体観測(電視観望)・眼で見えない天体をカジュアルに楽しむ

「デジタル天体観測(電視観望)」の例。ビクセンSD81SIIに装着したデジタルカメラ「EOS 6D(天体用改造)」の映像を天体専用撮像システム「ASIAIR」でライブスタック中。天体の映像はスマートフォンに表示され、画像を自動で順次重ね合わせることで、時間とともに天体の姿がはっきりと浮かび上がってきます。中心に見える赤と緑の塊がこぎつね座の惑星状星雲、M27亜鈴状星雲。

近年、クオリティ重視の「ガチな天体撮影」とは別のコンセプトとして、短時間(数秒〜数十秒)の露光で撮影したデジタル映像をPCやスマートフォンにリアルタイムに(*1)表示して、カジュアルにその場で楽しむ「デジタル天体観測(電視観望*2)」というスタイルが広まってきました。

(*1)暗い天体の光を長時間蓄積してはっきりと見えるようにするため、スマホの「ナイトモード撮影」のように画像データを順次蓄積(加算平均)するソフトウェアを使用する方法が主流です。このため、実際には動画撮影のようなリアルタイムではありません。

(*2)天文趣味の世界では「電視観望」という言葉が広く使われていますが、本記事では前提知識のない方でもイメージしやすいように「デジタル天体観測」という呼称を使用しています。

難しい話は一切省くと、暗い天体の姿を捉える能力においては、人間の眼とカメラでは100倍以上(*)の差があります。しかも、人間の眼は極端に暗い対象の色を感じることができません。

(*)光が「そこにあること」を検知する能力はある部分では人間の眼の方が高いのですが、人間の眼はイメージセンサーと違って光を「蓄積」することができないため、この部分で圧倒的に差がつきます。

アンドロメダ銀河M31の天体写真(左:口径13cmの反射望遠鏡で撮影)と、ビクセンSD81SIIの30倍で肉眼で見たイメージ(右:再現映像)の比較。

このため、図鑑やネットで見かけるような天体写真のイメージを期待して天体望遠鏡を購入した方が、実際に見える天体の「しょぼい」姿を見てがっかりされる(*)という、残念な事象が多く見られます。ところが「デジタル天体観測(電視観望)」なら、一気に能力が100倍以上にアップし、さらに色も付いた天体の姿を見ることができるのです。

(*)人口密度の高い日本では、ほとんどの市街地の空は街明かりで照らされているため、肉眼で暗い天体を見るのはそもそも難しいという問題もあります。一方で「デジタル天体観測(電視観望)」の場合、強力な「光害カットフィルター」を使用することで都市部でも天体観測が可能になります。

左)ベランダに設置したSD81SII。右)ライブスタック中のM8干潟星雲。無線接続した撮像用コンピュータからの映像をリアルタイムに表示中。SDレデューサーHDキット使用、カメラは4/3センサーのASI294MC(非冷却モデル)、赤道儀はAPマウント。

もちろん、ビクセンSD81SIIは「デジタル天体観測(電視観望)」にも対応できます(*)。上の画像は、ベランダに設置したビクセンSD81SIIに天体専用のカメラを接続し、部屋の中から望遠鏡を操作しているところ。色々と細かな機材を操作する必要はありますが、デジタル天体観測(電視観望)なら、外に設置した望遠鏡を別の場所(室内)から操作できるのです。

(*)専門的な話をすると、ビクセンSD81SIIは焦点距離がやや長い(625mm)ため、小さなセンサー(1/3〜2/3インチ前後)を搭載した天体用CMOSカメラ(3万円〜6万円程度)では、視野がやや狭くて使いにくいところがあります。センサーサイズが「1〜4/3インチ」程度の天体用CMOSカメラがちょうどいいバランスなのですが、8〜10万円程度とやや高価になります。

シュミット・電視観望実践ハンドブック
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「電視観望(デジタル天体観測)」についてもっと詳しく知りたい方は、ネットで検索すると様々な情報を見つけることができます。冊子にまとまったものとしては、上のリンクのガイドブックが丁寧に分かりやすく書かれていてオススメです。

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カジュアルにスマホで撮ろう・月と惑星

スマートフォンを望遠鏡の接眼レンズにかざして月を撮影しているところ。考え方としては、眼を置く位置にスマートフォンのカメラレンズを置けば、眼で見たとおりの映像が撮れるというもの。このような撮影方法は「コリメート方式」と呼ばれています。

肉眼で「視福」の月や惑星の姿を眼にしたら、それを写真に残したいというのは誰もが思うことでしょう。月や惑星は、天の川や星雲と比較して圧倒的に明るい(面積当たりの輝度が高い)ので(*)、比較的簡単に撮影することができます。

(*)超ざっくりいって、1万倍くらいの差があります。

最も簡単な撮影方法は、上の画像のように、眼で見る代わりにスマホを天体望遠鏡の接眼レンズにかざして「パチリ」と撮ること。慣れないと(慣れても?)スマホの位置決めが難しいのですが、練習して何度もやれば、なんとか撮影することが可能です。

左) 焦点距離20mmの接眼レンズXW20で約32倍、トリミング 右)焦点距離6mmの接眼レンズSRで104倍 周辺部に若干色滲みが出ていますが、これは接眼レンズ側で発生しているもの。ビクセンSD81SII iPhone11

上の画像は、ビクセンSD81SIIにiPhone11をかざして撮影したもの。スマホの標準のカメラアプリは、暗黒の背景に浮かび上がる月に対しては露出オーバーになってしまうため、露出補正をかける必要があります。マニュアル露出が可能なカメラアプリ(上の左の画像では「AstroShader」を使用しました)の方がうまくいくようです。

スマホ・手持ちでの月の撮影は簡単なようで意外と難しいのですが「困難を克服するゲーム」と思って、根気よくいろいろと試してみてください。

この画像で使用している鏡筒はビクセンSD81SIIではなく、SDシリーズ最大モデルの「ビクセンSD115SII」です。

もう少し知恵がついてくると、スマホを接眼レンズに固定する「スマホアダプター」が欲しくなってきます。上のスマホアダプターはネットで2000円程度で購入できるものですが、曲がりなりにも(*)スマホの固定が可能になり、ずっと撮影しやすくなります。

(*)スマホを最適な位置に取り付けるのは正直いってなかなか難しいです。また、接眼レンズの形状によっては、使用できない場合があります。

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ビクセンからもスマートフォン撮影用のアダプタが発売されています。直販価格で10,890円となかなのお値段ですが、スマホの位置を微動ネジで調整できる、天体望遠鏡の接眼レンズにしっかり固定できるなど、この手の製品の中では有数の「本格的」な製品です。面倒な苦労をしたくないなら、十分検討する価値があります。

Vixen 天体望遠鏡 スマートフォン用カメラアダプター
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こちらにスマホを使用した撮影の実演動画をアップしています。ぜひごらんください!

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ビクセンSD81SIIで見て楽しめる星雲と星団

夏の星雲星団の「横綱級」、いて座の散光星雲(+散開星団)M8干潟星雲。上の画像は口径10cmの屈折式望遠鏡で実際に撮影した画像(左:15秒露光)と、肉眼で見たイメージ(右:倍率約50倍、実視野約2°)の比較。

前の項で「天体写真のイメージを期待していたらぜんぜんそうは見えずにがっかり」というお話をしましたが、全ての天体がそうだというわけではありません。小口径の天体望遠鏡で見ても、いや、逆に小口径の天体望遠鏡だからこそ(*)美しく見える天体はたくさんあります。

(*)大口径の望遠鏡はより光を多く集められるため、銀河や広がった星雲を見る際には圧倒的なパワーを発揮しますが、倍率が高くなるため大きく広がった天体を見るには必ずしも適さない場合があります。

難しい話は一切省くと、狙い目は「銀河」や「星雲」ではなく「星団」です。そして、なるべく空の暗い郊外で見ること。天の川が肉眼ではっきり見えるような条件のよい場所なら、何も考えず「天の川の方向に望遠鏡を向ける」だけでも、無数の星々の感動的なキラメキを見ることができるでしょう。

例えば、上の画像の「M8干潟星雲」はオススメの一つ。写真では星雲に埋もれてよく分からないのですが、望遠鏡で見るとぼんやりした星雲の中にたくさんの星々が群れた「散開星団」がキラキラと輝いて見えます。

左)おうし座のプレアデス星団M45(すばる) 右)ペルセウス座の二重星団。肉眼の印象になるべく近づけてみましたが、実際に天体望遠鏡で見た印象では星々ははるかに力強く輝いています。現在のデジタル技術では散開星団の美しさを再現することはまだまだ困難なのです。口径10cmの天体望遠鏡で撮影した天体写真を加工しています。

秋の星空では、無数の星が集まった星団が2つ並んだペルセウス座の二重星団(h-χ)や、青い明るい星が十数個かたまっているM45プレアデス星団(すばる)がオススメ。

見どころの散開星団は、ネットで検索するといろいろと情報が出てきますが、まずは「メシエ天体(*)」の散開星団がオススメです。口径81mmのビクセンSD81SIIは散開星団を見るには最適な望遠鏡の一つであると、天リフ編集長は力強く断言します!

(*)「メシエ天体」には、「M〇〇(〇〇は1〜110までの数字)」という「カタログ番号」が付けられています。メシエ天体のうち、散開星団は26個あります。これらはどれも見て楽しめるものです。メシエ天体には比較的明るい天体が多く、散開星団以外にもビクセンSD81SIIで見て楽しめる天体がいくつもあります。

アストロアーツ・メシエ天体ガイド
https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/intro3-j.shtml
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各部の特徴

外観とサイズ

それでは、ビクセンSD81SIIの各部を詳しく見ていきましょう。まずは外観から。ビクセンSD81SIIの鏡筒の外径は90mm、全長は585mm。コンパクトで使いやすい大きさです。重量は鏡筒バンド一式・キャップ込みの上画像の構成で約2.9kg(実測値)と、このクラスの天体望遠鏡では軽量。コンパクトで持ち運びしやすいのはビクセンSD81SIIの大きな美点です。

対物レンズ・スーパーEDレンズと円形スペーサーの採用

左)フードを外して対物レンズをのぞき込んだところ。改良前の製品「SD81S」にあった3つの錫箔の出っ張りがなくなっています。右)レンズセル部の拡大。どれが「リング型スペーサー」なのかは一見しただけではよくわかりませんでした。少なくとも、スペーサーによる目立った遮蔽はなさそうです。

ビクセンSD81SIIの対物レンズは、2枚のレンズからできています。このような2枚構成(2枚玉)は最もシンプルな構成ですが、うち1枚に「スーパーEDガラス(*)」を採用することで、色にじみ(色によって焦点距離がわずかに異なる収差)を極小にし、理論的な限界に近い性能を叩き出しています。

(*)「色にじみ」を補正する能力の極めて高い特殊なガラス材。ビクセンSDシリーズではオハラ社のFPL-53が使用されています。「スーパー」の付かない「無印ED」である「FPL-51」と比べて、色滲みを1/2程度にすることができます。スーパーEDはガラス材そのものも高価なのですが、硬度が小さく柔らかいため精密な研磨を行うためには特殊な技術が必要になり、さらに高価になります。

左がSDシリーズの前世代モデル。レンズの周囲に3つの銀色の錫箔がはさまっているのがわかります。右はSDシリーズの最新モデル。錫箔の突起がなくなっています。中西アキオが語るSD103SII・SD115SIIの魅力 https://www.vixen.co.jp/activity/sd2/

2枚のレンズで最大の光学性能を発揮するために、各レンズの形状(曲率)や間隔はコンピューターでシミュレーションして、最適な値になるように設計されています。その結果、2枚のレンズは定められた間隔の、ごくわずかの「すき間」を持たせるように配置されています。このすき間の間隔を設計値通りに正確に組み立てるため、ビクセンSD81SIIの以前のバージョン「SD81S」などでは、上の左の画像に見られるような「小さな3つの錫箔」を挟むことで実現していました(*)。

(*)このような実装は、古くから各社の多くの天体望遠鏡で採用されています。ちなみに「すき間」を空ける理由は、近接した面のレンズの曲率を微妙に変えることで、レンズの収差補正を向上させているからです。

81S鏡筒シリーズ スペーサー交換キャンペーンhttps://www.vixen.co.jp/activity/sd81s2_campaign/ に掲載された画像を切り出し

ところが、この「錫箔による突起」によってレンズを通過した光が「回折」することで、明るい星のまわりの滲みに6本の影(割れ)が出る問題がありました。

具体的には、上の画像の左が「錫箔あり」の前モデルです。明るい一等星アンタレスの周辺の光芒に6本のスジが入っていることがわかります。眼視で天体を観測する際には大きな問題にはならないのですが「星像の美しさ」が問われる天体写真では、あまり歓迎されるものではありませんでした。

「ビクセンSD81SII」などのビクセンSDシリーズの最新モデル「SII」世代では、このような錫箔の代わりにごく薄い円形のスペーサーリングに置き換えられました。この変更により、SDシリーズ鏡筒は天体写真においても死角のない製品となったのです。

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鏡筒バンドとハンドル

左)ビクセンSD81SIIの鏡筒バンド。新品ではなく貸し出し用機材なのでアリガタのキズはご容赦^^;; 右)鏡筒バンド各部を分解したところ。鏡筒バンド一式で実測794g。

ビクセンSDシリーズには鏡筒バンド一式が標準付属。上部には「キャリーハンドル(取っ手)」が付いていて、持ち運びの際にとても便利(*)。

(*)筒状の天体望遠鏡を持ち運びするには、このような「つかみどころ」がないと大変不便です。

バンドそのものは2個の幅広のリング形状で、2つのツマミを締めることで望遠鏡を固定します。ツマミを緩めると鏡筒を回転させることができ、鏡筒の向きの調整(望遠鏡の姿勢によってはファインダーの角度が変わり覗きにくくなる場合があるため)が可能。また前後にも簡単に移動でき、鏡筒バランスの調整も可能。

左)下がアリガタ。上がアリミゾ。右)アリミゾにアリガタを差し込んだところ。台形の部分の片側をネジで押すことでアリガタとアリミゾがしっかり固定されます。

ハンドルの反対側には「アリガタ」が付いています。「アリガタ」とは、台形の形状をしたプレートで、対応する「アリミゾ」に簡単に脱着できるようになっています。この機構によって、異なる架台であっても、アリガタ/アリミゾ規格(*)が同一であれば装着して使用することができます。

(*)この機構を最初に採用したのはビクセンで、業界標準として広く採用されています。本機のような45mm幅のアリガタ・アリミゾは「ビクセン規格」と呼ばれています。なお、細かくいうと、「ほとんど互換」なのですが細かな形状の違いによって装着できない製品の組み合わせもあります。

接眼部

左)上から見たところ。中央の丸いノブはドロチューブ固定クランプ。右に置かれているのは2インチスリーブを差し込むためのアダプタ(付属)。右)下から見たところ。二個の合焦ハンドルの間には4つのネジがあり、ピント合わせの「固さ」を調整することができます。

接眼レンズやカメラを装着したり、ピント合わせの機構を持つ「接眼部」は、天体望遠鏡の鏡筒の中で対物レンズの次に重要なパーツです。ビクセンSD81SIIの接眼部はダイキャスト製の頑丈で精巧なもので、スムーズにピント合わせを行うことが可能です。

上)ドロチューブを最も深く組み入れた状態 下)最も繰り出した状態。ドロチューブに装着しているのは「SDフラットナーHDキット」と「直焦ワイドアダプター60DX」。ドロチューブ先端にはM60のメスネジが切られています。

ドロチューブ(ピント合わせによって出し入れされる円筒)を最も深く組み入れた状態(上)と最も繰り出した状態(下)。繰り出し量は約80mmあり、十分な量を確保しています。

ドロチューブの繰り出し量は基本的には長いほど使いやすいものになります。鏡筒のパイプを短くして小型化でき、様々なパーツを交換する際の柔軟性も高くなる(*)からです。一方であまりに長すぎると、対物レンズの光を遮ってしまったり(ケラレ)、機材を安定して支えることができなくなります。SDシリーズの80mmという繰り出し量は、順当なバランスといえるでしょう。

(*)繰り出し量が小さくても「アダプターリング」などを使用して適切に光路長を調整すればよいのですが、さまざまなリングを機材によって交換するのはとても煩雑で、俗に「リング沼(地獄)」と言われることもあります。

左)接眼部を鏡筒から取り外したところ。銀色の円筒がドロチューブ。右)取り外した接眼部を対物レンズ側から見たところ。中央の上下には平面状の棒に歯が切られた「ラックギア」が装着されています。写真では隠れていますが、2本の合焦ハンドルの中央には「ピニオンギア」が装着されていて、ラックギアとかみ合ってドロチューブを上下に動かすことができます。ラックギアの左右と反対側にはドロチューブを囲むように突起が3つあり、その摩擦によってドロチューブを支えています。

ピント合わせはギアの噛み合わせによって行う「ラックアンドピニオン」方式(*)です。使用した実機はやや使い込まれた状態でしたが、ピントの移動は固くもなく緩すぎるでもなく、ちょうどいい感じでスムーズに動作しました。

(*)「ラックアンドピニオン」方式とは別に、ギアを使用せず摩擦によって動作させる「クレイフォード式」があります。両者の比較は一長一短ですが、より重い機材を安定して搭載できるのはラックアンドピニオン方式です。

ピント合わせを行う状態では、ドロチューブは完全に固定されているわけではなく、ギアとドロチューブの摩擦によって支えられています。このため、重い機材を装着して望遠鏡を天頂に向けると、機材の重力を摩擦力で支えきれずピント位置が移動してしまうことがあります。これを防ぐための機構が「ドロチューブ固定クランプ」です。このクランプを軽く締めれば(*)ピントが勝手にずれることはまずありません。

(*)クランプの締めすぎはよくありません。機構上クランプを締める操作はドロチューブを一方向に押すことになるため、わずかに光軸がずれてしまいます。軽く優しく締めるのがコツです。

左)ビクセンSD81SIIのドロチューブを接眼レンズ側から見たところ。3枚の遮光環が入っています。右)筆者所有のA社製口径76mmフローライト望遠鏡。ドロチューブ内に遮光環はなく、ギザギザ」の入った表面に黒塗装のみが施されています。

ビクセンSD81SIIの接眼部の美点は、ドロチューブ側にも遮光環が入っていること。月のような明るい天体を見た時のコントラスト向上に寄与しているものと思われます(*)。これは大変好感が持てます。

(*)上の2本の望遠鏡で月を見比べしているときにけっこう見え味に差があることに気がつきました。A社製望遠鏡は鏡筒径が80mmと細身なため、遮光環を入れるクリアランスがそもそもないのかもしれません。筆者がこれまで見てきた屈折望遠鏡の中では、高級機も含めてドロチューブ内にも遮光環が入っていた製品は実は初めてです。

望遠鏡を空に向け、接眼レンズを外してドロチューブ末端から対物側を撮影。露光条件・現像条件は同一です。左)ビクセンSD81SII 右)筆者所有のA社製口径76mmフローライト望遠鏡。

上の画像のように対物レンズを空に向け、接眼レンズを付けずに素通しで覗いてみたとき、対物レンズ以外の場所は「完全に暗黒」であるのが理想です。鏡筒が「単純な筒だけ」だと、鏡筒の内面で反射した光が焦点面まで届いてしまい、コントラストを大きく低下させてしまいます。

このため、天体望遠鏡は必ず内部をつや消しの黒で塗装し、さらに鏡筒内で乱反射した迷光が接眼部に入り込まないよう「遮光環」が複数枚、鏡筒の中に設置されています。この造りの良し悪しが望遠鏡の性能(コントラスト)を大きく左右するのです。

ただ、ドロチューブ内にまで遮光環が設置された望遠鏡は最近では少ないように感じています(*)。上の画像の左がビクセンSD81SII、右はドロチューブ内に遮光環がない他社製品ですが、その差は一目瞭然です。

(*)遮光環は対物光学系に合わせて径と位置を決める必要がありますが、接眼部が「汎用部品」として使用されることが多くなってきた昨今では、そこまでの考慮ができないのかもしれません。

Vixen 天体望遠鏡 ビクセンSD81SII鏡筒 https://www.vixen.co.jp/product/26083_6/

ビクセン社の商品ページに掲載されているビクセンSD81SIIの光路図。緑色の矢印の部分に設置されているのが遮光環です(*)。

(*)なお、この遮光環は2017年にSDシリーズ初代が発売された際に、写真撮影でのケラレが少なくなるように配置が改良されています。参考(https://www.vixen.co.jp/vixen_cms/wp-content/uploads/2017/06/20170607a.pdf)。

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ファインダー

Vixen 天体望遠鏡 XYスポットファインダーII (天体用) https://www.vixen.co.jp/product/26502_2/
無料画像サイト「いらすとや」の「望遠鏡を覗く男の子」

ファインダーは、望遠鏡に対象を導入するために使用する「照準器」です。ビクセンSD81SIIには、上の画像のような「等倍スポットファインダー」が標準付属になっています。これは対象が拡大して見える「望遠鏡」ではなく、透明な板にLEDで赤い点を表示させ、「素通し」で肉眼で見た対象の像の上に、赤い点が重なるように望遠鏡を動かして天体を導入するものです。

このような「等倍スポットファインダー」は比較的歴史が新しく、以前は視野内に十字線の入った、「口径30mm6倍」「口径50mm7倍」クラスの光学望遠鏡が使用されることが大半でした。

余談ですが、このような「光学式ファインダー」は古い世代にとっては天体望遠鏡のシンボルでもありました。上の画像は無料画像サイト「いらすとや」の画像ですが、鏡筒と三脚に加えて「ファインダー」がしっかり描き込まれています。

時代とともにファインダーの役割は若干変わってきています(*)。最近ではこのような「等倍スポットファインダー」も広く使われるようになってきています。残念ながら、今回お借りした貸出機には「等倍スポットファインダー」が含まれていなかったため詳しくレビューすることはできませんでしたが、筆者の経験上、このクラスの望遠鏡の一般的な使用においては「等倍スポットファインダー」で何ら問題ない(むしろ使いやすい)といえると思います。

(*)このあたりの事情はなかなか複雑なのですが、近年の傾向としては「ファインダーは標準付属にせず、ユーザーの選択にまかせる」という考え方が増えてきているようです。

接眼部のファインダーアリミゾに、社外品の天体撮影用ガイドスコープとCMOSカメラを装着したところ。カメラで星の動きを監視し、星を自動で正確に追尾(オートガイド)するためのものです。

「等倍スポットファインダー」をはじめとするファインダーは、接眼部に設置された小型の「アリミゾ」に装着します。このアリミゾは鏡筒本体のアリガタ/アリミゾよりも一回り小さな規格で、こちらも「ビクセン規格ファインダーアリミゾ/アリガタ」と呼ばれていて、業界標準となっています。上の画像はファインダー台座に他社製のガイド鏡とガイドカメラを装着した例ですが、ビクセン(互換)規格の製品であれば他社の製品も基本的に装着が可能になっています。

天体撮影のために必要な別売パーツ

フラットナーとレデューサー

フラットナーの有無による比較。2枚玉の光学系では像面湾曲と非点収差を十分に補正することができないため周辺像が悪化してしまいます。特にF値の明るい光学系ほど顕著です。左)SD81SII+SDフラットナーHDキット 右)SD81SII補正レンズなし

ビクセンSD81SIIで天体写真を撮影する場合「補正レンズ」と呼ばれる別売パーツが必要です。上の画像はビクセンSD81SIIを「そのままの2枚構成の対物レンズだけ」で撮影した場合(右)と、写真用の収差補正レンズである「フラットナー」を装着した場合(左)の比較です。フラットナーを使用しないと、周辺像が流れてピントもずれていることがわかります。

このように、2枚玉・3枚玉の天体望遠鏡は、「素のまま」では天体写真には不向きです。これは視野の中心の性能に「全振り」しているからです(*)。天体写真では視野周辺まで良像であることが求められますが、そのためにはさらに追加のレンズ群が必要になります。

(*)天体望遠鏡の命はまずは「中心像」です。ここがきちんとできていれば周辺像は後からいくらでも補正できる、というのが補正レンズの考え方です。最近では対物レンズの枚数を4枚、5枚と増やすことで補正レンズなしでも高い写真性能を発揮する天体望遠鏡が増えてきましたが、レンズ枚数を増やすと高価格の製品となります。大きな前玉の枚数が増えると重量も大きく増加してしまいます。

このような「周辺まで良像にする」ための光学系が「補正レンズ」です。補正レンズには大別して「フラットナー(*)(対物レンズの焦点距離を大きく変えない)」「レデューサー(対物レンズの焦点距離を短くする)」「エクステンダー(対物レンズの焦点距離を長くする)」の3種類があります。

(*)周辺像を悪化させる光学的な主な要因は、焦点を結ぶ面が平面にならず湾曲していることですが(像面湾曲と非点収差)、この湾曲した像面を平坦にするのが「フラットナー」の主な働きです。

左)フラットナー構成 右)レデューサー構成。上は望遠鏡に装着した状態、下は取り外した状態です。装着するにはドロチューブ末端のリングを外してねじ込みます。フラットナー構成で使用する場合はビクセンSD81SIIのみ追加の「スペーサーリング」が必要です。なお、カメラアダプターは別売です。

ビクセンのSDシリーズでは、フラットナーとレデューサーが用意されています。フラットナーのみの「SDフラットナーHDキット(焦点距離を625mm→644mmに1.03倍し、 F値が7.7→7.9になる)」が実売約3万円、「SDレデューサーHDキット(焦点距離を625mm→496mmに0.79倍し、 F値が7.7→6.1になる)」が実売約5.6万円です。

Vixen 天体望遠鏡 SDフラットナーHDキット
https://www.vixen.co.jp/product/37246_1/
Vixen 天体望遠鏡 SDレデューサーHDキット
https://www.vixen.co.jp/product/37245_4/
Vixen 天体望遠鏡 レデューサーHDキット
https://www.vixen.co.jp/product/37247_8/
Vixen 天体望遠鏡 直焦ワイドアダプター60DX
https://www.vixen.co.jp/product/38751_9/

「SDレデューサーHDキット」はフラットナーも含まれていて、構成を組み替えればフラットナーとして使用することもできます(*)。つまり、2通りの焦点距離を選択できることになります。また、最初はフラットナーだけを購入し、後からレデューサーを追加購入することも可能です。

(*)光学系が1群2枚の「フラットナー部」と2群2枚の「レデューサー部」の組み合わせになっていて、レデューサーとして使用する場合は「フラットナー部」と「レデューサー部」の両方を使用する方式になっています。

天体写真のデジタル化以前に設計された補正レンズは性能がいまひとつであることが多かったのですが(*)、2017年発売の上記フラットナー・レデューサーはデジタル時代のスタンダードとして新設計されたもので、大変高性能です。他社製品と比較しても最高レベルのひとつといってよいかと思います。

(*)カメラレンズ同様、デジタル化によって光学系に要求される性能要件が大幅に高まったのが大きな理由の一つです。「補正レンズ」は対物光学系とのマッチング(光学設計そのものや補正レンズを配置する位置の最適化)がとても重要なのですが、その考慮が不十分な製品では、周辺の流れが目立つことがありました。

その分やや高価になるのですが、それでも「補正レンズ要らず」の4枚玉、5枚玉の製品よりは安価です。「2枚玉対物レンズ+高性能な補正レンズ」は、最もコスパの高い天体写真用望遠鏡であるといえるでしょう。

レデューサーを対物側から見たところ。6本の止めねじが付いたパーツは「直焦ワイドアダプター60DX」です。

SD用のレデューサー・フラットナーには、とてもレベルの高い内面反射処理が施されています。レンズの表面反射は一面あたり透過率が「99.9%以上(*1)」の「ASコーティング」で、これは光学製品として最高レベルのものです。

左がフラットナー構成、右がレデューサー構成。

鏡筒内の内面反射はセンサー面に近いほど悪影響を与えるため、補正レンズの内面反射防止処理は極めて重要です。上の画像はSD鏡筒用のフラットナーとレデューサーを明るい空に向けてカメラマウント側から見たところ。内部の反射防止処理も上質で手抜きがなく、文句のつけようがありません。

フラット画像の比較。青空を均一な光源であるとみなして望遠鏡を向けて撮影したもの。淡い天体をあぶり出すために一般の写真では考えられないほど強く強調する天体写真では、光学系の「周辺減光」が大敵となります。このような画像をあらかじめ撮影しておき、画像処理の際に「フラット補正」することで周辺減光を補正することができますが、天体写真を難しくしてしまう要素の一つでもあります。点在する黒点はセンサーの「ゴミ」。フラット補正によってこのようなゴミによる陰りも補正することができます。

SDシリーズ用の補正レンズは「周辺光量」が豊富なことも美点。上の画像はフラットナー・レデューサーそれぞれのフラット画像のコントラストを強調したものですが、フラットナーでは周辺までほぼ減光がないことがわかります。

メーカーの公表値によるとSD81とSDフラットナーHDの組み合わせの場合周辺光量は89%、SDレデューサーHDキットの場合でも72%を確保しています。

精密なピント合わせ・デュアルスピードフォーカサーと電動フォーカサー(EAF)

別売オプションの「デュアルスピードフォーカサー」の取付。片側の合焦ハンドルを取り外して装着します。

標準装備ではありませんが、より精密なピント合わせを行えるようにするための「デュアルスピードフォカサー」を装着することができます。これは標準の合焦ハンドルの片方と交換することで、減速比約7:1の微動が可能になるというものです。

以前、同じビクセンの天体望遠鏡「FL55SS(レデューサーを使用した場合焦点距離237mmF4.3)」をレビューした際は、精密なピント合わせにはデュアルスピードフォーカサーは大変ありがたい存在でした。しかし、レデューサー構成でも焦点距離496mmF6.1とややF値の大きいSDシリーズでは、FL55SSほどにはピント合わせはシビアでなく、ある程度慣れればデュアルスピードフォーカサなしでも十分ピント合わせが可能(*)であると感じました。

(*)ドロチューブのクランプをほんのわずかだけ締めた状態にすること、繰り入れ側からごくゆっくり繰り出しながら調整する感覚をつかむこと、何度か往復させながらピントの山の位置を見極めること、この3つがポイントです。

もちろん、デュアルスピードフォーカサーがあるに越したことはありません。予算に余裕があれば「買い」なのですが、ビクセンSDシリーズ用の純正品は実売2.5万円弱とけっこうなお値段がします。本格的な天体写真にチャレンジしたいのであれば、むしろEAF(電動フォーカサー)を購入する手があります。EAFを使用すればより正確に、自動でピント合わせを行うことも可能です(*)。

(*)EAFを装着する場合はデュアルスピードフォカサーは逆に不要になります。また、ビクセン社からはEAFは販売されていません。社外製品を別途購入して装着する必要があります。

精密なピント合わせの難しさには、大きく3つの要素(①合焦ハンドルの微調整操作が難しい②合焦位置の判断が難しい③合焦ハンドルを操作する際にどうしても望遠鏡が細かくブレてしまう)があります。デュアルスピードフォーカサーは主に①の要因と③の要因の一部を解決してくれますが、②に対してはまったく無力です。一方でEAFなら①②③のいずれも解決することができます。

ZWO EAF(電動フォーカサー)
https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000008153/
K-ASTEC EAF-AD V2(ビクセン鏡筒用EAF取付アダプター)
https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000009325/
ビクセンFL55SS鏡筒にEAF(電動フォーカサー)を搭載した例。中央左の赤い箱がEAF。「クラッチ付きEAFアダプター」によって手動でのピント操作も可能になっています。ただし、ビクセンSD81SIIに対応した製品は未発売のようです。http://k-astec.cocolog-nifty.com/main/2023/06/post-9b13a8.html

ただし、EAFを装着すると手動でのフォーカス操作ができなくなります。眼視用途で使用するためにはボタン操作でEAFを動かすためのハンドコントローラーか、「クラッチ」を介することで手動でもピント調整を可能にした製品が必要です。

48mm径フィルターの装着

左:「直焦ワイドアダプター60DX」のレンズ側マウント部の上に載せた「M56フィルター変換アダプター48/52」 右)M56フィルター変換アダプター48/52」にデュアルナローバンドフィルター「L-eXtreme」を装着したところ
Vixen 天体望遠鏡 M56フィルター変換アダプター48/52
https://www.vixen.co.jp/product/37239_3/

近年、天体写真やデジタル天体観測(電視観望)において、フィルターワークの重要性がきわめて大きくなってきています。最大の理由は、強力な「光害カットフィルター」を使用することで、これまで不可能と考えられていた市街地・都会での天体撮影・観測が可能になったことです。



このため、多様なフィルターを簡単に装着できることがより重視されるようになってきました。これまでビクセン製の天体望遠鏡は「52mm」サイズのフィルター径に対応していましたが、最近発売された「M56フィルター変換アダプター48/52」によって、より種類の多い「48mm」サイズのフィルターも使用可能になりました。

眼視用途で使う際に必要な別売パーツ

SDシリーズの接眼レンズは別売

赤丸の中が「接眼レンズ(アイピース)」

天体望遠鏡で天体を「見る」ためには、接眼レンズ(アイピース)が必須です。知っている人には当たり前なのですが、知らなければ望遠鏡を使うことができません(*)。そして、ビクセンSD81SIIには接眼レンズは付属しません。最初の望遠鏡にビクセンSD81SIIを購入するとき、接眼レンズも合わせて手に入れないと、天体の姿を「見る」ことはできないのです(写真しか撮らないのなら不要ですが・・それはあまりにもったいないことです)。

(*)実際「天体望遠鏡を持っているけど覗いても何も見えない」という相談に話を聞いてみたら、実は「接眼レンズを付けずに見ていた」という事例もあるそうです。

それでは、どのような接眼レンズを選べばいいのでしょうか?接眼レンズは各社から様々な製品が販売されていて、目的に合った最適な接眼レンズの解もまたひとつではないのですが「コレを買っとけ!」的な例をいくつかご紹介しましょう。

オススメの倍率の組み合わせ

筆者が所有する「安い」「めちゃ安い」カテゴリの接眼レンズ。少なくとも視野の中心であれば、どれも普通によく見えます。

接眼レンズは高倍率用と低倍率用の2本が最低でも必要です。天体を導入する際には実視界が広くなる低倍率が必須。高倍率を使用する場合でも、まず低倍率で視野の中心に対象を導入してから、接眼レンズを交換します。

ビクセンSD81SIIの場合、2本揃えるなら低倍率用は「20mm(31倍)」、高倍率用はできれば「3mm(207倍)」少なくとも「5mm(125倍)」が欲しいところ。これに中倍率用「10mm〜7mm(62〜90倍)」を1本加えて3本あれば、一通りの用途に足りるでしょう。

「用途」をもう少し補足すると、低倍率(30倍前後)では実視界2°前後と広い範囲を見ることができるので、天体の導入や天の川を広く流して見るのに向いています。中倍率(60〜90倍)は月の全体が無理なく眺められる倍率で、星雲・星団をじっくり見るのにも適した倍率です。惑星や月面の詳細を見るには100倍以上の高倍率が必要で、自動追尾できる安定した架台なら200〜300倍あってもいいくらいです(*)。

(*)以前は「口径mm×2倍(口径81mmなら162倍)」が光学的な限界でそれ以上倍率を上げても意味がない」という考え方が多かったのですが、ビクセンSD81SIIのような昨今の優秀な光学系なら「口径mm×4倍(口径81mmなら324倍)」くらいまで、思い切って倍率を上げた方がよく見えます。

知っておくべき接眼レンズのスペック

筆者の所有する接眼レンズのうち使用頻度の高いもの。最もよく使うのが上列左から2つ目のPENTAX XW20。「高い」の部類ですが、性能のバランスがよく覗きやすく間違いのない製品です。惑星を見るときは主に上列左から4つ目のTeleVue Radian 3mmを使用。下段の右2本は見かけ視界100度で素晴らしい体験ができるのですが、大きくて重いので「ここ一番」のときに使います。

難しい話は一切省くと、接眼レンズで一番大事なスペックはまず「焦点距離」です。これによって倍率が決まり(*)、対象の見える大きさが決まります。焦点距離が長いほど倍率は低くなり対象は小さく見えますが、逆に見える範囲(視野)が広くなります。逆に焦点距離が短いほど倍率は高くなり対象は大きく見えますが見える範囲(視野)が狭くなります。

(*)倍率=対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離。ビクセンSD81SII(焦点距離625mm)の場合、焦点距離20mmの接眼レンズを使うと倍率は約31倍、10mmで約63倍、5mmで約125倍になります。

次に大事なスペックは「見かけ視界の広さ」です。視界が広いほど、同じ倍率でも広い範囲を見ることができます。見かけ視界が50度未満は「狭い」、50〜65度あれば「ふつう」、65〜80度あれば「広視界」、100度あれば「超広視界」くらいの感覚です。一般的には広視界になるほどレンズ構成が複雑になるため、高価になります。ビクセンSD81SIIくらいよく見える望遠鏡なら、なるべく広めの接眼レンズを選びたいものです。ただし、惑星を見る場合は中心像がよく見えることの方が重要になるため、視界の広さはアドバンテージにはなりません。

3つ目に大事なスペックは「価格」です。現実的にはこれが一番大事かもしれませんね。昨今は低価格でも良く見える接眼レンズが増えてきたのは喜ばしいことですが「尖った」スペックの良く見える接眼レンズはやはり高価です。5000円以下の接眼レンズは「めちゃ安い」、1万円以下なら「安価」、1〜3万円が「ふつう」、3万〜5万円は「高価」、ここから先は青天井で「めっちゃ高い」です。

そのほかに、望遠鏡との接続規格(ほとんどが1.25インチと2インチの2つです)、光学的なレンズ構成(形式)による違い(実に多くのバリエーションがあります)などがあります。

ビクセン製の接眼レンズでいえば、NPLシリーズが「安価」「普通の視界」、SLVシリーズが価格も見かけ視界も「ふつう」、SSWシリーズ(*)が「高価」「広視界」といえるでしょう。

(*)最新のカタログには記載されておらず、在庫品のみの販売となっているようです。

最適な接眼レンズの選択は?

長々と書きましたが、難しい話は一切省いて、天リフ編集長の独断で2通りの選択肢をオススメしたいと思います。

趣味なら本気で。よく見える2本をまず手に入れる

せっかくビクセンSD81SIIのような高性能の望遠鏡を手に入れるのであれば、接眼レンズも少々高くても良いものを使いたい。そんな方には、低倍率用には「高価」「広視界」のPENTAX XW20ないしはバーダーのモーフィアス17mmを。高倍率用にはビクセンHRシリーズ(*)と同じくらい評価の高い、タカハシ・TOE(2.5/3.3/4mm)を。

(*)惑星用に最高に素晴らしい製品だったのですが、残念ながら終売になってしまいました。

性能はいずれも折り紙付きです。よく見えることは天リフ編集長が保証します。

まず、安い製品で体験しそこから先は後で考える

「自分にとっての最適な選択は、今はまだできないだろう」「どこまで眼視で使うかまだわからないし」「まずは少ない投資で体験し経験値を積もう」。その後で先をもう一度考える方針です。そんな方には、ビクセン製の純正品「NPLシリーズ」で20mm、10mm、4mmの3本をセレクトするのはいかがでしょうか。2万円でお釣りがきます(*)。これで満足できるならそれがたぶん最適な選択です。

(*)海外製品では1本1000円クラスの超低価格品もあります。それでもそこそこ普通に見えます。ただし、ここ最近は円安のせいもあってだいぶ価格が上昇してきています。

天文リフレクションズ・アイピース探訪
https://reflexions.jp/tenref/orig/category/%e9%80%a3%e8%bc%89/%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%83%94%e3%83%bc%e3%82%b9%e6%8e%a2%e8%a8%aa/

こちらは、マニア向けに書いた接眼レンズ(アイピース)レビューの連載記事です。ご興味があればぜひどうぞ!

90°視のためのツール

下がビクセンSD81SIIに標準付属の「フリップミラー」。ノブを回転させることでミラーを上下に動かすことができ、直視と90°視をワンタッチで切り替えることができます。上の列の3つは筆者が使用している社外品。左は像の悪化が少ない2枚ミラーの90度視デバイス「EMS」。中はアミチプリズムを使用した2インチ対応の正立プリズム。右は最もシンプルな1回反射の天頂プリズム。

屈折式の天体望遠鏡では、地平高度の高い天体を見る際に「直視」では首が苦しくなって大変です。そこで光路を90度曲げて見やすくするための「天頂ミラー」や「天頂プリズム」がほぼ必須のものになります。

ビクセンSD81SIIには「フリップミラー」が付属しています。フリップミラーは簡単な操作で「90度視」と「直視」を切り替えることができ「天頂ミラー」として使うこともできます。なのでビクセンSD81SIIの場合、まずは90度視用のパーツを購入する必要はありません(*)。

(*)フリップミラーは2インチスリーブの接眼レンズには対応していないため、一部の超広視界・長焦点の接眼レンズは使用できないことに注意が必要です。ただし困るケースはごく一部です。ピンポイントにいうと、焦点距離17mm以上でかつ見かけ視界100度以上の超広視界接眼レンズが使用できないことです。

オリオン大星雲M42。左が本来の姿(正像)、右はフリップミラーのような一回反射の鏡像。M42を「見慣れる」と、鏡像に違和感を感じるようになります。

ただし、フリップミラーは「一回反射式」なので、対象が裏返しの「鏡像」になります。月や惑星など多くの天体では鏡像であっても大きな問題になることはほぼないのですが(*)、形状が明瞭に認識できる天体(M42オリオン大星雲やM45すばるなど)では鏡像が「気持ち悪い」と感じてしまうことがあります。

(*)月面の地形を詳細まで把握している人は「鏡像は気持ち悪い」と感じることもあるようです。

90度視と正像【望辞苑・第2回】

筆者は常々、多くの人に天体は鏡像ではなく正像で見て欲しいと願っています。こちらは「90度視と正像」についてマニア向けに書いた記事ですが、ご参考まで!

「最初の架台(マウント)」に何を選ぶか?

「架台」は「命(対物レンズ)」の次に大事なもの

天体望遠鏡の「命」は天体の光を集めて像を結ぶための「対物レンズ」ですが、その「命」の次に大事なものが、天体望遠鏡を搭載する「架台」です。

天体望遠鏡は、とても高い倍率(小型天体望遠鏡の場合、最大100倍〜300倍程度)で対象を拡大して見るための道具です。ヤワな架台では、対象がブルブル震えてよく見えません。さらに、天体は地球の自転(日周運動)とともに少しづつ動いているのですが、倍率を上げるとこの動きが拡大され、みるみる視野の中から対象が逃げていきます。天体望遠鏡本体をしっかり支え、天体の日周運動を追いかける(追尾)するための架台はとても大事な機能なのです。

では「最初の1本」の天体望遠鏡にビクセンSD81SIIを選んだとして、搭載する架台にはどんなものを選べばいいのでしょうか?本項では、ビクセン社製の架台を中心に、マッチングのいい架台をいくつかご紹介しましょう。

小型経緯台

ポルタII経緯台にビクセンSD81SIIを搭載したところ。なお、ファインダーは別売品の「暗視野ファインダーII 7倍50mm」です。三脚はVixen APP-TL130三脚

経緯台式の架台とは望遠鏡を水平・垂直の2つの軸で動かす機構をもったものです。日本で購入できる経緯台式架台の代表選手は、上の画像のビクセン製「ポルタII」です。ポルタIIは「初心者向け」カテゴリの製品ですが、使いやすさ・安定度のいずれも優秀で評価の高い製品です。実売価格も三脚付きで3万円強とお手ごろ。このカテゴリから選ぶなら、まず間違いのない製品です。

ただし、ポルタIIは「手動式」です。大きく動かすときは鏡筒をつかんで上下左右に手で動かし、細かく天体を追尾するときは2つの軸に付いている「微動ハンドル」を回すことで行います。このため、天体を導入は星図を頼りに自分で行わなくてはなりませんし、日周運動で動く天体を手動で追いかける必要があります。また天体撮影では、日周運動で流れないような短時間露光で撮影できる、月や惑星のような明るい天体しか撮ることができません。

この前提で満足できるのであれば、オススメできる製品です。将来「赤道儀式架台」にグレードアップしたときでも「サブ架台(*)」として末永く使用できるでしょう。

(*)後述する赤道儀式架台は「極軸合わせ」が必要であるなど、設置にそれなりの手間がかかります。ポルタIIのような「サッと出してすぐ使える経緯台架台」は、1台あるとなかなか重宝します。

最近では、経緯台式架台にもコンピューター制御の電動式の製品が出てきています。スマートフォンと連動することで、アプリから対象を指定して天体を自動で導入することもできますし、日周運動も追尾することができます。「ライブスタック」によるデジタル天体観測(電視観望)にも使用できます。

こちらの商品は、自動導入対応の経緯台架台の代表的な製品「AZ-GTi」ですが、手動式よりも若干高価になるものの、上手に使いこなせば(*)とても便利に使用することができるでしょう。

(*)より少ない前提知識で使えるのは、間違いなく「手動式」の架台です。超ざっくり言うと、月と惑星を見るだけなら手動式経緯台が最も簡単です。電動式架台を使いこなすには、設置やアプリの操作などに一定の知識と習熟が必要になります。

小型赤道儀

ビクセン製の「APマウント(赤道儀)」。標準付属のバランスウェイトでは重量不足で、この状態では望遠鏡側がやや重いアンバランス状態です。追加ウェイトが必要でしょう。なお、この画像の構成では社外品の駆動装置を装着しています。

赤道儀式架台(赤道儀)とは、天体の日周運動を正確に追尾するために、回転軸のひとつを地球の自転軸と平行に設置できるようにした架台です。赤道儀では、天体を一つの軸(赤経軸)の等速回転だけで追尾することができ、天体を視野の中心だけでなく端まで全て正確に追尾(*)することができます。このため、長時間の露出を要する天体写真では、赤道儀が必須になります。

(*)経緯台式架台では視野の中心は追尾できますが、視野の周辺が回転してしまいます。

ビクセン・APマウント
https://www.vixen.co.jp/product/tls1020101/

上の画像は、ビクセン社製の小型赤道儀「APマウント(改造品)」にビクセンSD81SIIを搭載したところ。APマウントは最大搭載重量6kgと大型の機材を搭載することはできませんが、ビクセンSD81SIIなら余裕で搭載が可能。

ただし「APマウント」は天体を自動導入する機能は持っていません(*)。商品構成によっては自動追尾機能も持たないモデルもあります。購入を検討される際はその点に注意が必要です。

(*)別売の「ワイヤレスユニット」を使用すれば自動導入が可能になるとの情報がありますが(現時点では公式には未サポートになっています)、導入速度はかなり遅いものになります。

【新連載】最強!赤道儀伝説(1)・ビクセンAPマウント

APマウントについての詳細は、こちらの記事で詳しくレビューしています。ご興味のある方はご参考に!

中型赤道儀

Vixen 天体望遠鏡 SX2赤道儀WL https://www.vixen.co.jp/product/25049_3/

ビクセン社製の自動導入が可能な赤道儀で最も低価格なモデルがSX2-WL赤道儀です。以前はSX赤道儀は「追尾は自動だが導入は手動」だったのですが、WiFi経由でアプリと接続できる「ワイヤレスユニット」の登場で、標準で自動導入に対応するようになりました。

このクラスの赤道儀であれば、本格的な天体写真にも無理なくチャレンジできますし、望遠鏡の安定度も格段に向上します。価格は三脚なしで実売16万円〜20万円程度です。

協栄産業・SX2-WL赤道儀
https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000009033/

先にご紹介したAPマウントと比較すると若干高価になりますが、架台の安定度や自動導入対応など、オススメできるのは間違いなくこちらです。サイズ感とのバランスではビクセンSD81SIIにはやや大きき過ぎる気もしますが、その分安定して観測・撮影が可能になります。

なお、ビクセン社製以外の他社製品でも優れた架台が販売されていますが、どれを選べばいいのか初めての方はいろいろ戸惑うことが多いと思います。天体望遠鏡専門店に相談されるのもよいでしょう。

天文ショップに行ってみよう!【全国版】天体望遠鏡専門店徹底ガイド

「ビクセンSD81SII」の弱点・選ぶ前に考慮すべきこと

これまでご紹介してきたように、ビクセンSD81SIIは「最初の1本にふさわしいスタンダード」な天体望遠鏡です。眼視に良し、写真に良し、使いやすく手ごろな価格。しかし、もちろん全ての用途で完璧・万能ではありません。

本節では、前項までの内容と一部重複する部分もありますが、ビクセンSD81SIIの「用途によっては考慮すべきこと」をまとめました。望遠鏡選びの助けになると幸いです。

眼視観望:口径80mmクラスの限界

大マゼラン雲の中にある「タランチュラ星雲」を眼視で見た印象の再現。左は口径80mm30倍、右は口径400mm100倍。総光量には25倍もの差があります。見え方には圧倒的な差があり、まるで別の天体のようでした。天体の光を増幅することも蓄積することもできない眼視観測では、口径の差は埋めようのない差となります。

ビクセンSD81SIIの魅力は、何といってもスーパーEDガラスを使用したことによる眼視性能の高さです。惑星や月のすっきりとシャープな見え味は、口径50mm〜60mmクラスの写真用途メインのF値の明るい望遠鏡とは一線を画するものがあります。焦点距離も長めなので、高倍率も比較的無理なく出すことができます(焦点距離4mmの接眼レンズを使用した際に約150倍)。

しかし、銀河や星雲のような淡い天体を眼視で楽しむには、口径80mmは若干力不足です。例えば、M42オリオン大星雲は普通にしっかり見えるものの、ディテールの迫力を本当に味わいたいなら口径80mmでは全く足りません。

とにかく、ディープスカイ(特に銀河・星雲)の眼視観望においては、口径80mmはまさに「入り口にすぎない(さらに上を求めるとまだまだ先がある)」ことは認識しておく必要があります(*)。

(*)眼視観望をメインに考えるなら、ビクセンSD81SIIよりもう一回り口径の大きな「SD103SII」「SD115SII」をチョイスする手もあります。

(広告)Vixen 天体望遠鏡 SD115SII鏡筒

写真撮影:F8はやや暗い・対象を選び総露光時間をたっぷりと

ビクセンSD81SII SDフラットナーHDキット EOS6D(天体改造) ISO5000 1コマ2分露光  SXP赤道儀でオートガイド フラット補正・ダーク補正適用。

「美しい天体写真」の基本要件は、ノイズが少なく対象がはっきりと写っていることです。いかにノイズの少ない画像を得るかが最重要なのです。

一方で、難しい話は一切省くと、天体写真において同じ総露光時間(*1)であれば、画像のノイズ(より正確には、ノイズと信号の比=SN比)はF値が大きいほど大きくなります。例を挙げると「1時間」の露光をかけて天体写真を撮影したとき、F8の光学系よりもF4の光学系はS/Nが4倍になります。同じ露光時間なら明るさに比例してS/Nが向上する。別の言い方をすると、同じF値(明るさ)なら、露光時間に比例してS/Nが向上します。このロジックは「大正義」と呼んでよいでしょう(*2)。

(*1)天体写真では、1コマ当たりの露光時間は最大でも10分程度にどどめ、同じ対象を何枚も撮影してその画像データを専用のソフトウェアで「加算平均」する手法が一般的になっています。ここでいう「総露光時間」とは「1コマ当たりの露光時間×枚数」のことです。

(*2)「大正義」とは本サイトでたびたび使用する言い回しです。世の中のほとんどの事象には「2面性」があるものですが、そうではなくて「ほぼ全面的にその通りだと考えてよさそう」な事象のことを「大正義」と呼んでいます。

上の画像は同じ対象を総露光時間を変えて比較したもの(等倍トリミング)ですが、総露光時間が長くなるほどノイズが減り、対象がより明瞭に浮かび上がってくるのがわかるでしょう。それでも、2分18枚の総露光36分でもまだまだ不足です。2時間(120分)程度露光を積み重ねれば、鑑賞作品レベルになりそうです。

ビクセン製品を中心に代表的な天体望遠鏡を口径とF値のグラフにプロットした図。SDシリーズは屈折式アストログラフやニュートン反射よりは絞り値1段〜2段分ほど暗くなります。露光時間に換算すると2倍〜4倍程度。

ビクセンSD81SIIにフラットナーを装着した場合、焦点距離は644mm、明るさを表すF値は7.9となります。この「約F8」というF値は決して明るいとはいえません。むしろ「暗い」です。しかし、ここからが大事なのですが、F値が暗い分は総露光時間を長くすることでカバーすることができるのです。

ただし、逆に「長い露光時間が必要になる」ことからは逃れることはできません。暗い淡い天体を限られた時間内で撮影したい場合は、明るい望遠鏡の優位性は揺るぎません。そういう目的であればより「明るい鏡筒」を選ぶべきでしょう。

「星が割れない」SII世代のメリットが最も生きる「すばる(M45プレアデス星団)」を撮影してみました。使用したフラットナーは社外品で像質は純正品同様ですが四隅の陰りが若干目立ちました。ビクセンSD81SII タカハシマルチフラットナーx1.04(マルチCAリング76)  α7S(天体改造) 総露光時間1時間45分 ISO25600 1コマ30秒露光×209枚スタック  SWAT-350赤道儀 フラット補正・ダーク補正適用 APS-C程度にトリミング 熊本県ヒゴタイ公園で撮影

しかし、発想を変えて「明るい天体」を中心に撮影するのであれば、無理に明るい鏡筒は必要ではありません。M42オリオン大星雲、M8干潟星雲、M45すばる、M31アンドロメダ銀河など、暗い鏡筒でも十分お手軽に撮影できる天体はたくさんあります。明るい高価な望遠鏡に手を出すのは、こういった天体をまず一通り撮影し、天体を撮影する様々な技術をマスターしてからでも遅くはありません。

Fが暗いことによるメリットもあります。色収差など、写真の結像を阻害する「収差」はF値が大きく(暗く)なるほど小さくなります。ピントのずれにも寛容になるため、特に初心者では失敗が少なくなります。特にビクセンSD81SIIとSDフラットナーHDの組み合わせの場合周辺光量が89%もあり、ほぼフラット補正が不要なレベルです。さらに、暗いF値の望遠鏡はよりシンプルで安価(*)。コスパが良いのです。

(*)F値を明るくするには、レンズの枚数を増やしたり非球面の光学系を採用したりするなど、より複雑な設計が必要になり、それが製品価格にはねかえってきます。

写真撮影:F8はやや暗い・レデューサーの効果

ビクセンSD81SIIのフラットナー構成(左:焦点距離644mm)とレデューサー構成(右:焦点距離496mm)の画角の比較。当然ながらレデューサー構成の方が広い範囲が写っています。EOS6D(天体改造) ISO5000 2分20枚 SXP赤道儀でオートガイド フラット補正・ダーク補正適用。スタック後レベル補正と彩度強調のみ

Fの暗さをカバーする意味では「レデューサー」を使用するのもよいプランです。ビクセン製の「SDレデューサーHDキット」は実勢価格6万円強とそれなりのお値段がしますが、F値が7.9から6.1と明るくなり、その分総露光時間を短くすることができます。「明るさは時短」もまた大正義といえるでしょう。

レデューサーのもう一つのメリットは、写せる範囲が広くなることです。ビクセンSD81SII+フラットナーの場合の焦点距離は644mmとかなり長め。小さな天体をクローズアップするのにはよいのですが、 大きめの天体を撮ると狭苦しいこともあり、構図を決めることがより難しくなります。レデューサーを装着した「焦点距離496mm」であれば、余裕を持って撮影することができ、より初心者向けといえます。

上の画像は北アメリカ星雲をフラットナー・レデューサーでそれぞれ同じ総露光時間で撮影した画像の下処理段階のものですが、画角だけでなくノイズレベルの違いにも注目。レデューサーを使用した方が単位面積当たりの光量が多くなるため、ノイズが少なくなっています。ビクセンSD81SIIのレデューサーは若干周辺光量が少なくなるものの、フラットナーと同じフルサイズのイメージサークルを持ち、周辺像もフラットナーと同程度に良好です(*)。同じ総露光時間の場合、より多くの光を取り込めるようになるのは大きなメリットでしょう。

(*)光学系によっては、レデューサーを使用した場合イメージサークルが小さくなったり、周辺の画質が低下し結局トリミングせざるをえなくなる製品もあります。イメージサークルが小さくなってしまうと画角も小さくなってしまうので、レデューサーの効果が十分発揮できなくなることになります。

はくちょう座の網状星雲。ナローバンド撮影では光量が極端に少なくなるため、レデューサーを使用することは大きなアドバンテージになります。ビクセンSD81SII SDレデューサーHDキット(496mmF6.1)  α7S(天体改造) 総露光時間2時間30分 ISO25600 1コマ30秒露光×301枚スタック  L-eXtreme フィルター SWAT-350赤道儀 フラット補正・ダーク補正適用 熊本県ヒゴタイ公園で撮影

とはいえ、F値が暗め鏡筒での天体写真撮影では、どうしても1コマ当たりの光量が不足するため、総露光時間を長くする(多数枚撮影してスタックする)だけでなく、ダーク減算やさまざまな天体写真独特の画像処理テクニックが要求される側面もあります(*)。

(*)前向きにとらえると、F8クラスの光学系は天体写真技術を取得するには最適です。

上の作例は、星雲の光だけを通す特殊なフィルターで撮影したはくちょう座の網状星雲。ISO25600まで上げても1コマ画像では極端な露光不足でザラザラでしたが、ダーク補正をきちんと行い300枚もの枚数をスタック(画像を重ね合わせてノイズを平均化する処理)し丁寧な画像処理を行うことで、網状星雲の微細なフィラメント構造を写し取ることができました。

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写真撮影:F8はやや長い・架台の追尾精度と天体の導入

赤道儀による追尾精度の差の例。ビクセンSD81SIIとほぼ同じクラス(口径76mm焦点距離約600mm)の望遠鏡をオートガイドありで1コマ2分露光で撮影したもの。左が小型の赤道儀で追尾、右はビクセンの中型赤道儀SXPで追尾。5枚続けて撮影し、赤緯方向に等間隔ずらして比較明合成しました。カメラはEOS6D。中型赤道儀はしっかり点像を保っているものの、小型赤道儀ではオートガイドでも追尾しきれず流れています。30秒くらいまで1コマの露光時間を切り詰めればほぼ点になりました。

「F8はやや長い」。実は明るさとは別の意味で「F8」というスペックが持つ特性があります。ビクセンSD81SIIのフラットナー使用時の焦点距離は644mm。レデューサー使用時でも496mm。けっこう長いです。この焦点距離で正確に追尾(ガイド)するには、それなりにしっかりした架台(赤道儀)が必要になります。

また、画角が狭くなり対象を導入したり適切な構図を決める難易度も上がります。初心者なら、自動導入ができる架台がほぼ必須になります。1コマ当たり2分、5分といった露光時間をかけたいなら、オートガイドも必要になってきます。

「ディープスカイの天体写真しかやらない」のであれば、むしろ口径60mm焦点距離300〜400mm程度(F5〜6 )の望遠鏡の方が使いやすいでしょう。例えば、ビクセン社の小型天体望遠鏡「FL55SS」は非常にコンパクトな筐体ながら、高い写真撮影性能と使いやすい明るさを備えています。

【これはミニVSDか?】ビクセンFL55SSレビュー

デジタル天体観測(電視観望)にはややオーバースペック

最近大流行の電視観望(天体をカメラのデジタル映像で観望する楽しみ方)では、望遠鏡の光学系にあまり高い分解能や集光力は要求されません。このため、口径40mm、焦点距離150mm程度でも十分楽しむことができます。もちろんビクセンSD81SIIでも電視観望は可能なのですが、センサーサイズの小さな低価格のCMOSカメラでは画角が狭くなりすぎるため、ちょっと使いにくくなってしまいます。

コスパは高いが金額は小さくない

ビクセン社の入門機、口径80mmアクロマート天体望遠鏡「ポルタIIA80Mf」と、SD81SIIに同じ架台「ポルタII」を組み合わせた場合の価格の比較。

ビクセンSD81SIIの実売価格は13万円弱。スーパーEDレンズを採用したアポクロマート天体望遠鏡としては最安級なのですが、決して「安い買い物」ではありません。そこまで予算は出せないよ、という場合はより低価格な製品を選ぶのがよいでしょう。あまり選択肢は多くはありませんが、同じビクセン社の口径80mmアクロマート天体望遠鏡「ポルタIIA80Mf」なら1/3近い価格になります。ただし、性能と拡張性は大きく妥協することになります。

ビクセンの良心・「愛機活躍サポートプロジェクト」

改良を重ねてきたロングセラー天体望遠鏡

ビクセンのSDシリーズの原型は、光学設計的には約20年前の2004年発売の「ED81S」「ED103S」にさかのぼるといってよいでしょう。口径81mm・焦点距離625mm・口径比F7.7の2枚玉という現在のスペックがここで確立しました。以降約20年の間イナーチェンジを重ねつつ(*)、今回の最新モデル「ビクセンSD81SII」に至っています。 発売以来20年、時代のニーズに応じた改良が行われてきたロングセラーモデルなのです。

(*)大きな変更としては、ED81SII→SD81Sで写真撮影を考慮した鏡筒内の遮光環の改良が、SD81S→SD81SIIで2枚のレンズ間のスペーサーを3点錫箔式からリングスペーサーに変更されています。

旧製品が新製品相当に・「愛機活躍サポートプロジェクト」

特筆すべきことは、マイナーチェンジにおいて「アップグレードサービス(*)」が提供されていることです。古い鏡筒のユーザーであっても改良された新モデル相当への改造を行ってくれるのです。有料サービスですが、今回の「スペーサーを錫箔からリング型に変更」する場合、ビクセンSD81Sは¥17,600(消費税込、送料別)となっています。オーバーホール(分解清掃、グリスアップ、調整)込みでこの価格ですので、とても良心的といえるでしょう。

(*)正式名称はSD81SをSD81SII相当にする改造が「スペーサー交換キャンペーン」、ED81SIIをSD81S相当にする改造が「 デジタル対応SD改造サービス」。「アップグレードサービス」は筆者が簡単な言葉に変換したもので、ビクセン社の正式な呼称ではありません。

『103S/115S 鏡筒シリーズ スペーサー交換』キャンペーン特設サイト
https://www.vixen.co.jp/activity/103s2_115s2_campaign/

さらに、上位モデルの「SD103S/SD115S」「ED103S/ED115S」の場合、2024年6月までの約1年間、改造費用が約40%程度割引になります。旧製品に対してもこのようなサポートが継続的に行われるのはすばらしいことです。歴史のある日本企業の良心、といってもよいのではないでしょうか。

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最初の1本目の天体望遠鏡として

ビクセンSD81SIIの一番のオススメは「最初の一本」です。「天体望遠鏡でいろいろ見たり撮ったりしてみたい」というある意味漠然としたニーズに、最も広く対応できるのが口径80mmF8クラスの天体望遠鏡。シンプルな2枚玉構成はコスパも高く、スーパーEDガラスを使用した対物レンズは最高レベルの高性能。より安価な製品もありますが、一本目だからといってケチる必要はありません。「よく見える」望遠鏡は、ライトなニーズにも最高の体験をもたらしてくれますし、「ガチ」な撮影用途にも十分に対応できます。

何度も繰り返しますが「迷ったら、これにしとけ」です。

ベテランのサブ機として

ビクセンSD81SIIは鏡筒バンド・プレート込みで2.9kg(実測値)、とても軽量・コンパクト。小型の経緯台に搭載すれば気軽な眼視用途に。小型の赤道儀に搭載してサブ撮影機材としても利用可能。大型機材を振り回すガチな方のサブ機材にも最適(*)です。

(*)「ベテランのサブ機としても有用」ということは、逆に貴方がいつか「ベテラン」になったときには、ビクセンSD81SIIは「優秀なサブ機」として使える、ということです。

皆既日食遠征・月食撮影用に

2023年4月20日の西オーストラリア皆既日食遠征。成澤広幸さんが持ち込まれたビクセンSD81SII。軽量化を優先し「ハンドル」は外してあります。銀マットに包まれているのでビクセンのロゴは「V」しか見えませんが^^;; 右はキャンピングカーの後部座席に無造作?に置かれたビクセンSD81SII。その隣で寝袋に包まれているのが筆者所有のA社の口径76mmフローライト望遠鏡。このレビュー企画が日食前に終わっていたらビクセンSD81SIIにしたかも^^;;

一生にそう何度も体験できない究極の天体ショーが皆既日食。次に日本で見られる皆既日食は2035年9月なので、今後12年間は皆既日食を見たいなら海外に行くしかありませんが、旅行ケースにもすっぽり収納できるビクセンSD81SIIは日食遠征に最適。口径81mm・焦点距離644mはコロナと太陽が広めに収まる焦点距離で、静止画・動画・眼視のどれにでも「ちょうどいい」スペックです(*)。

(*)写真用途を重視した口径60mmクラスの明るい天体望遠鏡は、皆既日食用途には焦点距離が短すぎるのが辛いところです。究極の皆既日食用望遠鏡は何か?と考え始めると、また別の記事が一本書けますが、、初めて日食に行く人にも自信をもって「迷ったらこれにしとけ!」と言えるのがビクセンSD81SIIです。

実は筆者はこの日食用にA社製の口径76mmフローライト望遠鏡を購入し持ち込みました。「鏡筒が分割式なのでカメラバッグに入れて機内持ち込みできる」「1.7倍のエクステンダーが使え(*1)、フルサイズカメラのライブ配信で太陽がちょうどいい大きさになる」という2つの理由からでした。今改めてビクセンSD81SIIと比較してみると、前者のメリットは実はさほど大きくありませんでした。機内持込にこだわらなければ、分割できなくても運搬できるのです(*2)。

(*1)このメリットは確かに大きく、その意味ではビクセンSD81SIIで使用できる高性能なエクステンダーがあるとなお良いのですが。逆に4/3サイズのセンサーのカメラを使用するのであれば、エクステンダーなしがベストマッチでしょう。

(*2)外装が頑丈なハードタイプの旅行ケースであることが前提です。口径10cmのフローライト屈折を持ち込んでいた人もいらっしゃいました。分割鏡筒は便利な反面、ホコリの混入という別の問題を抱えることにもなります。

皆既日食だけでなく、皆既月食の撮影にもビクセンSD81SIIはベストマッチです。次の日本で見られる皆既月食は2025年とまだ先ですが、ビクセンSD81SIIはきっと大活躍してくれるはずです。そして、2035年9月の日本で見られる皆既日食は・・・ビクセンSD81SIIで見てみませんか!?

まとめ

SD81SIIで網状星雲を撮影中。「SDレデューサーHDキット」を使用すれば焦点距離 496mmF6.1となり、小型の赤道儀でも使いやすい焦点距離とF値になります。

いかがでしたか?

写真撮影も眼視観望も、どちらも高いレベルで楽しめる。そしてコンパクトで取り回しのよいサイズ、口径80mmクラスのスーパーアポクロマート機では一番の低価格。ビクセンSD81SIIは、はじめて購入する天体望遠鏡にも、ベテランのサブ鏡筒にも、すべての方に安心してオススメできオールラウンドに活用できる、まさしく「天体望遠鏡の原点」といってよい製品だと確信しました。

もちろん、天体望遠鏡は屈折式・反射式をはじめ、この望遠鏡以外にもさまざまな特徴を持った製品があります。「貴方にとっての最高の望遠鏡」はひとつとは限りません。

しかし・・「これから天文趣味を始めたい」と考えるエントリユーザーに「貴方の目的は何ですか?」という問いかけから始めるのは、あまりに非現実的でアンフレンドリーではないでしょうか。

知らないことが多いから、やりたいことがまだ定まっていないから初心者なのです。そんな中、いろいろな製品がありすぎて迷うようであれば、「ビクセンSD81SII」のような、F8クラスのスーパーED級のレンズを使用した2枚玉アポクロマート望遠鏡が、最も広い用途をカバーでき失敗が少ないと筆者は断言します。

そして2本目の天体望遠鏡を手にすることがあったとしても、「ビクセンSD81SII」は有能なサブ機として活躍してくれるに違いありません。

それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。ぜひ、楽しい天文ライフを満喫してくださいね!

【天体望遠鏡の原点】ビクセンSD三兄弟レビュー・2枚玉高性能アポクロマート天体望遠鏡【どれを選ぶ?】

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  • 本記事で使用した望遠鏡は、ED81SII鏡筒を「スペーサー交換キャンペーン」および「 デジタル対応SD改造サービス」で改造したものです。各部の詳細は現在販売されているビクセンSD81SIIとは細部で異なる場合があります。
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活用事例 万能フォトビジュアル望遠鏡ビクセンSD81SIIで見る・撮る 眼視による天体観測・この眼で宇宙を見る 天体望遠鏡を手に入れて、誰もが真っ先に見るものはやはり月と惑星でしょう。漆黒の空に明るく輝く月の姿を眺めると、この天体が宇宙に浮かぶ地球の「兄弟(*)」であることの不思議さを実感します。荒々しい地形(クレーター)や、滑らかな地形(海)の対比も興味深いものです。 (*)似ているところもあるものの、全体的には地球とは「似ても似つかぬ」姿です。 昨今はネットを検索すれば月の地形の映像は、宇宙探査機によって撮影された極めて精細なものも含めて、それこそ山のように出てきます。しかし、天体の「生の姿」を眺める体験は、モニタ画面でみる画像とはまったく違う感動があります。 ビクセンSD81SIIは口径81mmの小型望遠鏡ですが、スーパーED(SDガラス)レンズを採用した高性能の対物レンズは、素晴らしい見え味の像を結びます。感覚的な表現ですがこの「見え味」は「混じりっ気なしの高純度の映像(*)」とでもいいましょうか。天体のありのままの姿が、そのまま見えているという感動です。 (*)光学的には「混じりっ気がないこと」を「人間の眼が感じる結像状態が、光学的な理論値にどこまで近づいているか」という尺度「ストレール比」で表わします。「完全無欠」を100%とすると、ビクセンSD81SIIは「95%」を達成しています。この数値は「素人には完全無欠な光学系との区別がほぼ付かないレベル」です。90%なら優秀な光学系、EDレンズを使用しない廉価なアクロマート望遠鏡(F=12)で80%程度です。 実際のところは月と惑星を「望遠鏡で見る」体験は、もっと低価格の望遠鏡(例えばビクセン製ポルタIIA80Mf)でも十分に楽しむことができるのですが、ビクセンSD81SIIのような高性能望遠鏡で見るリアリティには及びません。それを一番実感するのが月と惑星です。低価格の望遠鏡では、天体の像に「色にじみ」や「フレア」といった、「本来は見えないはずのもの(光学的に言うと収差と呼ばれる結像を乱す現象)」が混じっているのです。 土星の環、木星の縞模様、満ち欠けする金星の輝きと欠け際、火星の不気味な赤色と白く輝く極冠。とても遠くにある小さくしか見えない惑星ですが、惑星の姿を体感する「眼福」の時間を楽しむなら、高性能なスーパーEDレンズを使用したアポクロマート屈折式望遠鏡が一番です(*)。 (*)「反射式望遠鏡」なら同じ価格でより大口径の望遠鏡が手に入りますが、コントラストやヌケの点では屈折式望遠鏡が勝ります。 天体望遠鏡の性能は(特に眼で天体を見る場合においては)基本的に対物レンズの大きさ(口径)で決まります。ビクセンSD81SIIの対物レンズの有効径は81mm。決して大きくはありません。しかし、大口径の望遠鏡はより高価になるだけでなく、より大きく重くなってしまいます。しかも、日本の気象条件では大口径の望遠鏡の能力を十分に発揮できる条件はそうは多くありません(*)。口径81mmのビクセンSD81SIIはその点「機動性」と「性能」のバランスがよく、宇宙の神秘を気軽に、存分に体験することができます。 (*)惑星や月がよく見えるために一番大事なのは、実は大気の揺らぎが少ない(シーイングが良い)ことなのですが、日本では夏場を除いてあまり良い日が多くありません。小型の望遠鏡は機動性が高く「サッと出してサッと見る」ことができるため、シーイングの良い日のチャンスを逃しにくいというメリットがあります。大きな望遠鏡はなかなか展開するまでが大変(面倒くさい^^;;)なのです。 ディープスカイ天体撮影・深宇宙の天体の姿をとらえる ネットや図鑑で見た美しい天体写真を見て「自分も撮ってみたい!」と思って天文趣味を始めた方は数多くいらっしゃいます。この記事をお読みになっている貴方もそのお一人かもしれませんね。 上の作例は、天体写真の対象として有数の人気を誇るはくちょう座の北アメリカ星雲を、ビクセンSD81SIIで撮影したものです。このような「本格的」な天体撮影は、望遠鏡本体だけでなく、後述する補正レンズやカメラ・赤道儀式の架台など、さまざまな追加機材が必要になりますが、ビクセンSD81SIIは天体撮影にも優秀な性能を発揮する望遠鏡です。 難しい話は一切省くと、天体写真において重要な天体望遠鏡の性能は大きく3つです。一つは「星が小さい≒シャープ」であること。二つめは星の「色にじみが少ない」こと。三つめが「画面全体で結像性能が均質(*)」であることです。ビクセンSD81SIIは、この3つのすべてを高いレベルでクリアしています。「ガチ」な天体撮影にもチャレンジできるのです。 (*)この条件を満たすためには、ビクセンSD81SII本体のみでは不十分です。そのために「レデューサー」「フラットナー」と呼ばれる「補正レンズ」が別途必要になります。 デジタル天体観測(電視観望)・眼で見えない天体をカジュアルに楽しむ 近年、クオリティ重視の「ガチな天体撮影」とは別のコンセプトとして、短時間(数秒〜数十秒)の露光で撮影したデジタル映像をPCやスマートフォンにリアルタイムに(*1)表示して、カジュアルにその場で楽しむ「デジタル天体観測(電視観望*2)」というスタイルが広まってきました。 (*1)暗い天体の光を長時間蓄積してはっきりと見えるようにするため、スマホの「ナイトモード撮影」のように画像データを順次蓄積(加算平均)するソフトウェアを使用する方法が主流です。このため、実際には動画撮影のようなリアルタイムではありません。 (*2)天文趣味の世界では「電視観望」という言葉が広く使われていますが、本記事では前提知識のない方でもイメージしやすいように「デジタル天体観測」という呼称を使用しています。 難しい話は一切省くと、暗い天体の姿を捉える能力においては、人間の眼とカメラでは100倍以上(*)の差があります。しかも、人間の眼は極端に暗い対象の色を感じることができません。 (*)光が「そこにあること」を検知する能力はある部分では人間の眼の方が高いのですが、人間の眼はイメージセンサーと違って光を「蓄積」することができないため、この部分で圧倒的に差がつきます。 このため、図鑑やネットで見かけるような天体写真のイメージを期待して天体望遠鏡を購入した方が、実際に見える天体の「しょぼい」姿を見てがっかりされる(*)という、残念な事象が多く見られます。ところが「デジタル天体観測(電視観望)」なら、一気に能力が100倍以上にアップし、さらに色も付いた天体の姿を見ることができるのです。 (*)人口密度の高い日本では、ほとんどの市街地の空は街明かりで照らされているため、肉眼で暗い天体を見るのはそもそも難しいという問題もあります。一方で「デジタル天体観測(電視観望)」の場合、強力な「光害カットフィルター」を使用することで都市部でも天体観測が可能になります。 もちろん、ビクセンSD81SIIは「デジタル天体観測(電視観望)」にも対応できます(*)。上の画像は、ベランダに設置したビクセンSD81SIIに天体専用のカメラを接続し、部屋の中から望遠鏡を操作しているところ。色々と細かな機材を操作する必要はありますが、デジタル天体観測(電視観望)なら、外に設置した望遠鏡を別の場所(室内)から操作できるのです。 (*)専門的な話をすると、ビクセンSD81SIIは焦点距離がやや長い(625mm)ため、小さなセンサー(1/3〜2/3インチ前後)を搭載した天体用CMOSカメラ(3万円〜6万円程度)では、視野がやや狭くて使いにくいところがあります。センサーサイズが「1〜4/3インチ」程度の天体用CMOSカメラがちょうどいいバランスなのですが、8〜10万円程度とやや高価になります。 シュミット・電視観望実践ハンドブック https://www.syumitto.jp/SHOP/SY0030.html 「電視観望(デジタル天体観測)」についてもっと詳しく知りたい方は、ネットで検索すると様々な情報を見つけることができます。冊子にまとまったものとしては、上のリンクのガイドブックが丁寧に分かりやすく書かれていてオススメです。 カジュアルにスマホで撮ろう・月と惑星 肉眼で「視福」の月や惑星の姿を眼にしたら、それを写真に残したいというのは誰もが思うことでしょう。月や惑星は、天の川や星雲と比較して圧倒的に明るい(面積当たりの輝度が高い)ので(*)、比較的簡単に撮影することができます。 (*)超ざっくりいって、1万倍くらいの差があります。 最も簡単な撮影方法は、上の画像のように、眼で見る代わりにスマホを天体望遠鏡の接眼レンズにかざして「パチリ」と撮ること。慣れないと(慣れても?)スマホの位置決めが難しいのですが、練習して何度もやれば、なんとか撮影することが可能です。 上の画像は、ビクセンSD81SIIにiPhone11をかざして撮影したもの。スマホの標準のカメラアプリは、暗黒の背景に浮かび上がる月に対しては露出オーバーになってしまうため、露出補正をかける必要があります。マニュアル露出が可能なカメラアプリ(上の左の画像では「AstroShader」を使用しました)の方がうまくいくようです。 スマホ・手持ちでの月の撮影は簡単なようで意外と難しいのですが「困難を克服するゲーム」と思って、根気よくいろいろと試してみてください。 もう少し知恵がついてくると、スマホを接眼レンズに固定する「スマホアダプター」が欲しくなってきます。上のスマホアダプターはネットで2000円程度で購入できるものですが、曲がりなりにも(*)スマホの固定が可能になり、ずっと撮影しやすくなります。 (*)スマホを最適な位置に取り付けるのは正直いってなかなか難しいです。また、接眼レンズの形状によっては、使用できない場合があります。 ビクセンからもスマートフォン撮影用のアダプタが発売されています。直販価格で10,890円となかなのお値段ですが、スマホの位置を微動ネジで調整できる、天体望遠鏡の接眼レンズにしっかり固定できるなど、この手の製品の中では有数の「本格的」な製品です。面倒な苦労をしたくないなら、十分検討する価値があります。 Vixen 天体望遠鏡 スマートフォン用カメラアダプター https://www.vixen.co.jp/product/39199_8/  こちらにスマホを使用した撮影の実演動画をアップしています。ぜひごらんください! ビクセンSD81SIIで見て楽しめる星雲と星団 前の項で「天体写真のイメージを期待していたらぜんぜんそうは見えずにがっかり」というお話をしましたが、全ての天体がそうだというわけではありません。小口径の天体望遠鏡で見ても、いや、逆に小口径の天体望遠鏡だからこそ(*)美しく見える天体はたくさんあります。 (*)大口径の望遠鏡はより光を多く集められるため、銀河や広がった星雲を見る際には圧倒的なパワーを発揮しますが、倍率が高くなるため大きく広がった天体を見るには必ずしも適さない場合があります。 難しい話は一切省くと、狙い目は「銀河」や「星雲」ではなく「星団」です。そして、なるべく空の暗い郊外で見ること。天の川が肉眼ではっきり見えるような条件のよい場所なら、何も考えず「天の川の方向に望遠鏡を向ける」だけでも、無数の星々の感動的なキラメキを見ることができるでしょう。 例えば、上の画像の「M8干潟星雲」はオススメの一つ。写真では星雲に埋もれてよく分からないのですが、望遠鏡で見るとぼんやりした星雲の中にたくさんの星々が群れた「散開星団」がキラキラと輝いて見えます。 秋の星空では、無数の星が集まった星団が2つ並んだペルセウス座の二重星団(h-χ)や、青い明るい星が十数個かたまっているM45プレアデス星団(すばる)がオススメ。 見どころの散開星団は、ネットで検索するといろいろと情報が出てきますが、まずは「メシエ天体(*)」の散開星団がオススメです。口径81mmのビクセンSD81SIIは散開星団を見るには最適な望遠鏡の一つであると、天リフ編集長は力強く断言します! (*)「メシエ天体」には、「M〇〇(〇〇は1〜110までの数字)」という「カタログ番号」が付けられています。メシエ天体のうち、散開星団は26個あります。これらはどれも見て楽しめるものです。メシエ天体には比較的明るい天体が多く、散開星団以外にもビクセンSD81SIIで見て楽しめる天体がいくつもあります。 アストロアーツ・メシエ天体ガイド https://www.astroarts.co.jp/alacarte/messier/intro3-j.shtml 各部の特徴 外観とサイズ それでは、ビクセンSD81SIIの各部を詳しく見ていきましょう。まずは外観から。ビクセンSD81SIIの鏡筒の外径は90mm、全長は585mm。コンパクトで使いやすい大きさです。重量は鏡筒バンド一式・キャップ込みの上画像の構成で約2.9kg(実測値)と、このクラスの天体望遠鏡では軽量。コンパクトで持ち運びしやすいのはビクセンSD81SIIの大きな美点です。 対物レンズ・スーパーEDレンズと円形スペーサーの採用 ビクセンSD81SIIの対物レンズは、2枚のレンズからできています。このような2枚構成(2枚玉)は最もシンプルな構成ですが、うち1枚に「スーパーEDガラス(*)」を採用することで、色にじみ(色によって焦点距離がわずかに異なる収差)を極小にし、理論的な限界に近い性能を叩き出しています。 (*)「色にじみ」を補正する能力の極めて高い特殊なガラス材。ビクセンSDシリーズではオハラ社のFPL-53が使用されています。「スーパー」の付かない「無印ED」である「FPL-51」と比べて、色滲みを1/2程度にすることができます。スーパーEDはガラス材そのものも高価なのですが、硬度が小さく柔らかいため精密な研磨を行うためには特殊な技術が必要になり、さらに高価になります。 2枚のレンズで最大の光学性能を発揮するために、各レンズの形状(曲率)や間隔はコンピューターでシミュレーションして、最適な値になるように設計されています。その結果、2枚のレンズは定められた間隔の、ごくわずかの「すき間」を持たせるように配置されています。このすき間の間隔を設計値通りに正確に組み立てるため、ビクセンSD81SIIの以前のバージョン「SD81S」などでは、上の左の画像に見られるような「小さな3つの錫箔」を挟むことで実現していました(*)。 (*)このような実装は、古くから各社の多くの天体望遠鏡で採用されています。ちなみに「すき間」を空ける理由は、近接した面のレンズの曲率を微妙に変えることで、レンズの収差補正を向上させているからです。 ところが、この「錫箔による突起」によってレンズを通過した光が「回折」することで、明るい星のまわりの滲みに6本の影(割れ)が出る問題がありました。 具体的には、上の画像の左が「錫箔あり」の前モデルです。明るい一等星アンタレスの周辺の光芒に6本のスジが入っていることがわかります。眼視で天体を観測する際には大きな問題にはならないのですが「星像の美しさ」が問われる天体写真では、あまり歓迎されるものではありませんでした。 「ビクセンSD81SII」などのビクセンSDシリーズの最新モデル「SII」世代では、このような錫箔の代わりにごく薄い円形のスペーサーリングに置き換えられました。この変更により、SDシリーズ鏡筒は天体写真においても死角のない製品となったのです。 鏡筒バンドとハンドル ビクセンSDシリーズには鏡筒バンド一式が標準付属。上部には「キャリーハンドル(取っ手)」が付いていて、持ち運びの際にとても便利(*)。 (*)筒状の天体望遠鏡を持ち運びするには、このような「つかみどころ」がないと大変不便です。 バンドそのものは2個の幅広のリング形状で、2つのツマミを締めることで望遠鏡を固定します。ツマミを緩めると鏡筒を回転させることができ、鏡筒の向きの調整(望遠鏡の姿勢によってはファインダーの角度が変わり覗きにくくなる場合があるため)が可能。また前後にも簡単に移動でき、鏡筒バランスの調整も可能。 ハンドルの反対側には「アリガタ」が付いています。「アリガタ」とは、台形の形状をしたプレートで、対応する「アリミゾ」に簡単に脱着できるようになっています。この機構によって、異なる架台であっても、アリガタ/アリミゾ規格(*)が同一であれば装着して使用することができます。 (*)この機構を最初に採用したのはビクセンで、業界標準として広く採用されています。本機のような45mm幅のアリガタ・アリミゾは「ビクセン規格」と呼ばれています。なお、細かくいうと、「ほとんど互換」なのですが細かな形状の違いによって装着できない製品の組み合わせもあります。 接眼部 接眼レンズやカメラを装着したり、ピント合わせの機構を持つ「接眼部」は、天体望遠鏡の鏡筒の中で対物レンズの次に重要なパーツです。ビクセンSD81SIIの接眼部はダイキャスト製の頑丈で精巧なもので、スムーズにピント合わせを行うことが可能です。 ドロチューブ(ピント合わせによって出し入れされる円筒)を最も深く組み入れた状態(上)と最も繰り出した状態(下)。繰り出し量は約80mmあり、十分な量を確保しています。 ドロチューブの繰り出し量は基本的には長いほど使いやすいものになります。鏡筒のパイプを短くして小型化でき、様々なパーツを交換する際の柔軟性も高くなる(*)からです。一方であまりに長すぎると、対物レンズの光を遮ってしまったり(ケラレ)、機材を安定して支えることができなくなります。SDシリーズの80mmという繰り出し量は、順当なバランスといえるでしょう。 (*)繰り出し量が小さくても「アダプターリング」などを使用して適切に光路長を調整すればよいのですが、さまざまなリングを機材によって交換するのはとても煩雑で、俗に「リング沼(地獄)」と言われることもあります。 ピント合わせはギアの噛み合わせによって行う「ラックアンドピニオン」方式(*)です。使用した実機はやや使い込まれた状態でしたが、ピントの移動は固くもなく緩すぎるでもなく、ちょうどいい感じでスムーズに動作しました。 (*)「ラックアンドピニオン」方式とは別に、ギアを使用せず摩擦によって動作させる「クレイフォード式」があります。両者の比較は一長一短ですが、より重い機材を安定して搭載できるのはラックアンドピニオン方式です。 ピント合わせを行う状態では、ドロチューブは完全に固定されているわけではなく、ギアとドロチューブの摩擦によって支えられています。このため、重い機材を装着して望遠鏡を天頂に向けると、機材の重力を摩擦力で支えきれずピント位置が移動してしまうことがあります。これを防ぐための機構が「ドロチューブ固定クランプ」です。このクランプを軽く締めれば(*)ピントが勝手にずれることはまずありません。 (*)クランプの締めすぎはよくありません。機構上クランプを締める操作はドロチューブを一方向に押すことになるため、わずかに光軸がずれてしまいます。軽く優しく締めるのがコツです。 ビクセンSD81SIIの接眼部の美点は、ドロチューブ側にも遮光環が入っていること。月のような明るい天体を見た時のコントラスト向上に寄与しているものと思われます(*)。これは大変好感が持てます。 (*)上の2本の望遠鏡で月を見比べしているときにけっこう見え味に差があることに気がつきました。A社製望遠鏡は鏡筒径が80mmと細身なため、遮光環を入れるクリアランスがそもそもないのかもしれません。筆者がこれまで見てきた屈折望遠鏡の中では、高級機も含めてドロチューブ内にも遮光環が入っていた製品は実は初めてです。 上の画像のように対物レンズを空に向け、接眼レンズを付けずに素通しで覗いてみたとき、対物レンズ以外の場所は「完全に暗黒」であるのが理想です。鏡筒が「単純な筒だけ」だと、鏡筒の内面で反射した光が焦点面まで届いてしまい、コントラストを大きく低下させてしまいます。 このため、天体望遠鏡は必ず内部をつや消しの黒で塗装し、さらに鏡筒内で乱反射した迷光が接眼部に入り込まないよう「遮光環」が複数枚、鏡筒の中に設置されています。この造りの良し悪しが望遠鏡の性能(コントラスト)を大きく左右するのです。 ただ、ドロチューブ内にまで遮光環が設置された望遠鏡は最近では少ないように感じています(*)。上の画像の左がビクセンSD81SII、右はドロチューブ内に遮光環がない他社製品ですが、その差は一目瞭然です。 (*)遮光環は対物光学系に合わせて径と位置を決める必要がありますが、接眼部が「汎用部品」として使用されることが多くなってきた昨今では、そこまでの考慮ができないのかもしれません。 ビクセン社の商品ページに掲載されているビクセンSD81SIIの光路図。緑色の矢印の部分に設置されているのが遮光環です(*)。 (*)なお、この遮光環は2017年にSDシリーズ初代が発売された際に、写真撮影でのケラレが少なくなるように配置が改良されています。参考(https://www.vixen.co.jp/vixen_cms/wp-content/uploads/2017/06/20170607a.pdf)。 ファインダー ファインダーは、望遠鏡に対象を導入するために使用する「照準器」です。ビクセンSD81SIIには、上の画像のような「等倍スポットファインダー」が標準付属になっています。これは対象が拡大して見える「望遠鏡」ではなく、透明な板にLEDで赤い点を表示させ、「素通し」で肉眼で見た対象の像の上に、赤い点が重なるように望遠鏡を動かして天体を導入するものです。 このような「等倍スポットファインダー」は比較的歴史が新しく、以前は視野内に十字線の入った、「口径30mm6倍」「口径50mm7倍」クラスの光学望遠鏡が使用されることが大半でした。 余談ですが、このような「光学式ファインダー」は古い世代にとっては天体望遠鏡のシンボルでもありました。上の画像は無料画像サイト「いらすとや」の画像ですが、鏡筒と三脚に加えて「ファインダー」がしっかり描き込まれています。 時代とともにファインダーの役割は若干変わってきています(*)。最近ではこのような「等倍スポットファインダー」も広く使われるようになってきています。残念ながら、今回お借りした貸出機には「等倍スポットファインダー」が含まれていなかったため詳しくレビューすることはできませんでしたが、筆者の経験上、このクラスの望遠鏡の一般的な使用においては「等倍スポットファインダー」で何ら問題ない(むしろ使いやすい)といえると思います。 (*)このあたりの事情はなかなか複雑なのですが、近年の傾向としては「ファインダーは標準付属にせず、ユーザーの選択にまかせる」という考え方が増えてきているようです。 「等倍スポットファインダー」をはじめとするファインダーは、接眼部に設置された小型の「アリミゾ」に装着します。このアリミゾは鏡筒本体のアリガタ/アリミゾよりも一回り小さな規格で、こちらも「ビクセン規格ファインダーアリミゾ/アリガタ」と呼ばれていて、業界標準となっています。上の画像はファインダー台座に他社製のガイド鏡とガイドカメラを装着した例ですが、ビクセン(互換)規格の製品であれば他社の製品も基本的に装着が可能になっています。 天体撮影のために必要な別売パーツ フラットナーとレデューサー ビクセンSD81SIIで天体写真を撮影する場合「補正レンズ」と呼ばれる別売パーツが必要です。上の画像はビクセンSD81SIIを「そのままの2枚構成の対物レンズだけ」で撮影した場合(右)と、写真用の収差補正レンズである「フラットナー」を装着した場合(左)の比較です。フラットナーを使用しないと、周辺像が流れてピントもずれていることがわかります。 このように、2枚玉・3枚玉の天体望遠鏡は、「素のまま」では天体写真には不向きです。これは視野の中心の性能に「全振り」しているからです(*)。天体写真では視野周辺まで良像であることが求められますが、そのためにはさらに追加のレンズ群が必要になります。 (*)天体望遠鏡の命はまずは「中心像」です。ここがきちんとできていれば周辺像は後からいくらでも補正できる、というのが補正レンズの考え方です。最近では対物レンズの枚数を4枚、5枚と増やすことで補正レンズなしでも高い写真性能を発揮する天体望遠鏡が増えてきましたが、レンズ枚数を増やすと高価格の製品となります。大きな前玉の枚数が増えると重量も大きく増加してしまいます。 このような「周辺まで良像にする」ための光学系が「補正レンズ」です。補正レンズには大別して「フラットナー(*)(対物レンズの焦点距離を大きく変えない)」「レデューサー(対物レンズの焦点距離を短くする)」「エクステンダー(対物レンズの焦点距離を長くする)」の3種類があります。 (*)周辺像を悪化させる光学的な主な要因は、焦点を結ぶ面が平面にならず湾曲していることですが(像面湾曲と非点収差)、この湾曲した像面を平坦にするのが「フラットナー」の主な働きです。 ビクセンのSDシリーズでは、フラットナーとレデューサーが用意されています。フラットナーのみの「SDフラットナーHDキット(焦点距離を625mm→644mmに1.03倍し、 F値が7.7→7.9になる)」が実売約3万円、「SDレデューサーHDキット(焦点距離を625mm→496mmに0.79倍し、 F値が7.7→6.1になる)」が実売約5.6万円です。 Vixen 天体望遠鏡 SDフラットナーHDキット https://www.vixen.co.jp/product/37246_1/ Vixen 天体望遠鏡 SDレデューサーHDキット https://www.vixen.co.jp/product/37245_4/ Vixen 天体望遠鏡 レデューサーHDキット https://www.vixen.co.jp/product/37247_8/ Vixen 天体望遠鏡 直焦ワイドアダプター60DX https://www.vixen.co.jp/product/38751_9/ 「SDレデューサーHDキット」はフラットナーも含まれていて、構成を組み替えればフラットナーとして使用することもできます(*)。つまり、2通りの焦点距離を選択できることになります。また、最初はフラットナーだけを購入し、後からレデューサーを追加購入することも可能です。 (*)光学系が1群2枚の「フラットナー部」と2群2枚の「レデューサー部」の組み合わせになっていて、レデューサーとして使用する場合は「フラットナー部」と「レデューサー部」の両方を使用する方式になっています。 天体写真のデジタル化以前に設計された補正レンズは性能がいまひとつであることが多かったのですが(*)、2017年発売の上記フラットナー・レデューサーはデジタル時代のスタンダードとして新設計されたもので、大変高性能です。他社製品と比較しても最高レベルのひとつといってよいかと思います。 (*)カメラレンズ同様、デジタル化によって光学系に要求される性能要件が大幅に高まったのが大きな理由の一つです。「補正レンズ」は対物光学系とのマッチング(光学設計そのものや補正レンズを配置する位置の最適化)がとても重要なのですが、その考慮が不十分な製品では、周辺の流れが目立つことがありました。 その分やや高価になるのですが、それでも「補正レンズ要らず」の4枚玉、5枚玉の製品よりは安価です。「2枚玉対物レンズ+高性能な補正レンズ」は、最もコスパの高い天体写真用望遠鏡であるといえるでしょう。 SD用のレデューサー・フラットナーには、とてもレベルの高い内面反射処理が施されています。レンズの表面反射は一面あたり透過率が「99.9%以上(*1)」の「ASコーティング」で、これは光学製品として最高レベルのものです。 鏡筒内の内面反射はセンサー面に近いほど悪影響を与えるため、補正レンズの内面反射防止処理は極めて重要です。上の画像はSD鏡筒用のフラットナーとレデューサーを明るい空に向けてカメラマウント側から見たところ。内部の反射防止処理も上質で手抜きがなく、文句のつけようがありません。 SDシリーズ用の補正レンズは「周辺光量」が豊富なことも美点。上の画像はフラットナー・レデューサーそれぞれのフラット画像のコントラストを強調したものですが、フラットナーでは周辺までほぼ減光がないことがわかります。 メーカーの公表値によるとSD81とSDフラットナーHDの組み合わせの場合周辺光量は89%、SDレデューサーHDキットの場合でも72%を確保しています。 精密なピント合わせ・デュアルスピードフォーカサーと電動フォーカサー(EAF) 標準装備ではありませんが、より精密なピント合わせを行えるようにするための「デュアルスピードフォカサー」を装着することができます。これは標準の合焦ハンドルの片方と交換することで、減速比約7:1の微動が可能になるというものです。 以前、同じビクセンの天体望遠鏡「FL55SS(レデューサーを使用した場合焦点距離237mmF4.3)」をレビューした際は、精密なピント合わせにはデュアルスピードフォーカサーは大変ありがたい存在でした。しかし、レデューサー構成でも焦点距離496mmF6.1とややF値の大きいSDシリーズでは、FL55SSほどにはピント合わせはシビアでなく、ある程度慣れればデュアルスピードフォーカサなしでも十分ピント合わせが可能(*)であると感じました。 (*)ドロチューブのクランプをほんのわずかだけ締めた状態にすること、繰り入れ側からごくゆっくり繰り出しながら調整する感覚をつかむこと、何度か往復させながらピントの山の位置を見極めること、この3つがポイントです。 もちろん、デュアルスピードフォーカサーがあるに越したことはありません。予算に余裕があれば「買い」なのですが、ビクセンSDシリーズ用の純正品は実売2.5万円弱とけっこうなお値段がします。本格的な天体写真にチャレンジしたいのであれば、むしろEAF(電動フォーカサー)を購入する手があります。EAFを使用すればより正確に、自動でピント合わせを行うことも可能です(*)。 (*)EAFを装着する場合はデュアルスピードフォカサーは逆に不要になります。また、ビクセン社からはEAFは販売されていません。社外製品を別途購入して装着する必要があります。 精密なピント合わせの難しさには、大きく3つの要素(①合焦ハンドルの微調整操作が難しい②合焦位置の判断が難しい③合焦ハンドルを操作する際にどうしても望遠鏡が細かくブレてしまう)があります。デュアルスピードフォーカサーは主に①の要因と③の要因の一部を解決してくれますが、②に対してはまったく無力です。一方でEAFなら①②③のいずれも解決することができます。 ZWO EAF(電動フォーカサー) https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000008153/ K-ASTEC EAF-AD V2(ビクセン鏡筒用EAF取付アダプター) https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000009325/ ただし、EAFを装着すると手動でのフォーカス操作ができなくなります。眼視用途で使用するためにはボタン操作でEAFを動かすためのハンドコントローラーか、「クラッチ」を介することで手動でもピント調整を可能にした製品が必要です。 48mm径フィルターの装着 Vixen 天体望遠鏡 M56フィルター変換アダプター48/52 https://www.vixen.co.jp/product/37239_3/ 近年、天体写真やデジタル天体観測(電視観望)において、フィルターワークの重要性がきわめて大きくなってきています。最大の理由は、強力な「光害カットフィルター」を使用することで、これまで不可能と考えられていた市街地・都会での天体撮影・観測が可能になったことです。 このため、多様なフィルターを簡単に装着できることがより重視されるようになってきました。これまでビクセン製の天体望遠鏡は「52mm」サイズのフィルター径に対応していましたが、最近発売された「M56フィルター変換アダプター48/52」によって、より種類の多い「48mm」サイズのフィルターも使用可能になりました。 眼視用途で使う際に必要な別売パーツ SDシリーズの接眼レンズは別売 天体望遠鏡で天体を「見る」ためには、接眼レンズ(アイピース)が必須です。知っている人には当たり前なのですが、知らなければ望遠鏡を使うことができません(*)。そして、ビクセンSD81SIIには接眼レンズは付属しません。最初の望遠鏡にビクセンSD81SIIを購入するとき、接眼レンズも合わせて手に入れないと、天体の姿を「見る」ことはできないのです(写真しか撮らないのなら不要ですが・・それはあまりにもったいないことです)。 (*)実際「天体望遠鏡を持っているけど覗いても何も見えない」という相談に話を聞いてみたら、実は「接眼レンズを付けずに見ていた」という事例もあるそうです。 それでは、どのような接眼レンズを選べばいいのでしょうか?接眼レンズは各社から様々な製品が販売されていて、目的に合った最適な接眼レンズの解もまたひとつではないのですが「コレを買っとけ!」的な例をいくつかご紹介しましょう。 オススメの倍率の組み合わせ 接眼レンズは高倍率用と低倍率用の2本が最低でも必要です。天体を導入する際には実視界が広くなる低倍率が必須。高倍率を使用する場合でも、まず低倍率で視野の中心に対象を導入してから、接眼レンズを交換します。 ビクセンSD81SIIの場合、2本揃えるなら低倍率用は「20mm(31倍)」、高倍率用はできれば「3mm(207倍)」少なくとも「5mm(125倍)」が欲しいところ。これに中倍率用「10mm〜7mm(62〜90倍)」を1本加えて3本あれば、一通りの用途に足りるでしょう。 「用途」をもう少し補足すると、低倍率(30倍前後)では実視界2°前後と広い範囲を見ることができるので、天体の導入や天の川を広く流して見るのに向いています。中倍率(60〜90倍)は月の全体が無理なく眺められる倍率で、星雲・星団をじっくり見るのにも適した倍率です。惑星や月面の詳細を見るには100倍以上の高倍率が必要で、自動追尾できる安定した架台なら200〜300倍あってもいいくらいです(*)。 (*)以前は「口径mm×2倍(口径81mmなら162倍)」が光学的な限界でそれ以上倍率を上げても意味がない」という考え方が多かったのですが、ビクセンSD81SIIのような昨今の優秀な光学系なら「口径mm×4倍(口径81mmなら324倍)」くらいまで、思い切って倍率を上げた方がよく見えます。 知っておくべき接眼レンズのスペック 難しい話は一切省くと、接眼レンズで一番大事なスペックはまず「焦点距離」です。これによって倍率が決まり(*)、対象の見える大きさが決まります。焦点距離が長いほど倍率は低くなり対象は小さく見えますが、逆に見える範囲(視野)が広くなります。逆に焦点距離が短いほど倍率は高くなり対象は大きく見えますが見える範囲(視野)が狭くなります。 (*)倍率=対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離。ビクセンSD81SII(焦点距離625mm)の場合、焦点距離20mmの接眼レンズを使うと倍率は約31倍、10mmで約63倍、5mmで約125倍になります。 次に大事なスペックは「見かけ視界の広さ」です。視界が広いほど、同じ倍率でも広い範囲を見ることができます。見かけ視界が50度未満は「狭い」、50〜65度あれば「ふつう」、65〜80度あれば「広視界」、100度あれば「超広視界」くらいの感覚です。一般的には広視界になるほどレンズ構成が複雑になるため、高価になります。ビクセンSD81SIIくらいよく見える望遠鏡なら、なるべく広めの接眼レンズを選びたいものです。ただし、惑星を見る場合は中心像がよく見えることの方が重要になるため、視界の広さはアドバンテージにはなりません。 3つ目に大事なスペックは「価格」です。現実的にはこれが一番大事かもしれませんね。昨今は低価格でも良く見える接眼レンズが増えてきたのは喜ばしいことですが「尖った」スペックの良く見える接眼レンズはやはり高価です。5000円以下の接眼レンズは「めちゃ安い」、1万円以下なら「安価」、1〜3万円が「ふつう」、3万〜5万円は「高価」、ここから先は青天井で「めっちゃ高い」です。 そのほかに、望遠鏡との接続規格(ほとんどが1.25インチと2インチの2つです)、光学的なレンズ構成(形式)による違い(実に多くのバリエーションがあります)などがあります。 ビクセン製の接眼レンズでいえば、NPLシリーズが「安価」「普通の視界」、SLVシリーズが価格も見かけ視界も「ふつう」、SSWシリーズ(*)が「高価」「広視界」といえるでしょう。 (*)最新のカタログには記載されておらず、在庫品のみの販売となっているようです。 最適な接眼レンズの選択は? 長々と書きましたが、難しい話は一切省いて、天リフ編集長の独断で2通りの選択肢をオススメしたいと思います。 趣味なら本気で。よく見える2本をまず手に入れる せっかくビクセンSD81SIIのような高性能の望遠鏡を手に入れるのであれば、接眼レンズも少々高くても良いものを使いたい。そんな方には、低倍率用には「高価」「広視界」のPENTAX XW20ないしはバーダーのモーフィアス17mmを。高倍率用にはビクセンHRシリーズ(*)と同じくらい評価の高い、タカハシ・TOE(2.5/3.3/4mm)を。 (*)惑星用に最高に素晴らしい製品だったのですが、残念ながら終売になってしまいました。 性能はいずれも折り紙付きです。よく見えることは天リフ編集長が保証します。 まず、安い製品で体験しそこから先は後で考える 「自分にとっての最適な選択は、今はまだできないだろう」「どこまで眼視で使うかまだわからないし」「まずは少ない投資で体験し経験値を積もう」。その後で先をもう一度考える方針です。そんな方には、ビクセン製の純正品「NPLシリーズ」で20mm、10mm、4mmの3本をセレクトするのはいかがでしょうか。2万円でお釣りがきます(*)。これで満足できるならそれがたぶん最適な選択です。 (*)海外製品では1本1000円クラスの超低価格品もあります。それでもそこそこ普通に見えます。ただし、ここ最近は円安のせいもあってだいぶ価格が上昇してきています。 天文リフレクションズ・アイピース探訪 https://reflexions.jp/tenref/orig/category/%e9%80%a3%e8%bc%89/%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%83%94%e3%83%bc%e3%82%b9%e6%8e%a2%e8%a8%aa/ こちらは、マニア向けに書いた接眼レンズ(アイピース)レビューの連載記事です。ご興味があればぜひどうぞ! 90°視のためのツール 屈折式の天体望遠鏡では、地平高度の高い天体を見る際に「直視」では首が苦しくなって大変です。そこで光路を90度曲げて見やすくするための「天頂ミラー」や「天頂プリズム」がほぼ必須のものになります。 ビクセンSD81SIIには「フリップミラー」が付属しています。フリップミラーは簡単な操作で「90度視」と「直視」を切り替えることができ「天頂ミラー」として使うこともできます。なのでビクセンSD81SIIの場合、まずは90度視用のパーツを購入する必要はありません(*)。 (*)フリップミラーは2インチスリーブの接眼レンズには対応していないため、一部の超広視界・長焦点の接眼レンズは使用できないことに注意が必要です。ただし困るケースはごく一部です。ピンポイントにいうと、焦点距離17mm以上でかつ見かけ視界100度以上の超広視界接眼レンズが使用できないことです。 ただし、フリップミラーは「一回反射式」なので、対象が裏返しの「鏡像」になります。月や惑星など多くの天体では鏡像であっても大きな問題になることはほぼないのですが(*)、形状が明瞭に認識できる天体(M42オリオン大星雲やM45すばるなど)では鏡像が「気持ち悪い」と感じてしまうことがあります。 (*)月面の地形を詳細まで把握している人は「鏡像は気持ち悪い」と感じることもあるようです。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/02/19/7945/?rel=author 筆者は常々、多くの人に天体は鏡像ではなく正像で見て欲しいと願っています。こちらは「90度視と正像」についてマニア向けに書いた記事ですが、ご参考まで! 「最初の架台(マウント)」に何を選ぶか? 「架台」は「命(対物レンズ)」の次に大事なもの 天体望遠鏡の「命」は天体の光を集めて像を結ぶための「対物レンズ」ですが、その「命」の次に大事なものが、天体望遠鏡を搭載する「架台」です。 天体望遠鏡は、とても高い倍率(小型天体望遠鏡の場合、最大100倍〜300倍程度)で対象を拡大して見るための道具です。ヤワな架台では、対象がブルブル震えてよく見えません。さらに、天体は地球の自転(日周運動)とともに少しづつ動いているのですが、倍率を上げるとこの動きが拡大され、みるみる視野の中から対象が逃げていきます。天体望遠鏡本体をしっかり支え、天体の日周運動を追いかける(追尾)するための架台はとても大事な機能なのです。 では「最初の1本」の天体望遠鏡にビクセンSD81SIIを選んだとして、搭載する架台にはどんなものを選べばいいのでしょうか?本項では、ビクセン社製の架台を中心に、マッチングのいい架台をいくつかご紹介しましょう。 小型経緯台 経緯台式の架台とは望遠鏡を水平・垂直の2つの軸で動かす機構をもったものです。日本で購入できる経緯台式架台の代表選手は、上の画像のビクセン製「ポルタII」です。ポルタIIは「初心者向け」カテゴリの製品ですが、使いやすさ・安定度のいずれも優秀で評価の高い製品です。実売価格も三脚付きで3万円強とお手ごろ。このカテゴリから選ぶなら、まず間違いのない製品です。 ただし、ポルタIIは「手動式」です。大きく動かすときは鏡筒をつかんで上下左右に手で動かし、細かく天体を追尾するときは2つの軸に付いている「微動ハンドル」を回すことで行います。このため、天体を導入は星図を頼りに自分で行わなくてはなりませんし、日周運動で動く天体を手動で追いかける必要があります。また天体撮影では、日周運動で流れないような短時間露光で撮影できる、月や惑星のような明るい天体しか撮ることができません。 この前提で満足できるのであれば、オススメできる製品です。将来「赤道儀式架台」にグレードアップしたときでも「サブ架台(*)」として末永く使用できるでしょう。 (*)後述する赤道儀式架台は「極軸合わせ」が必要であるなど、設置にそれなりの手間がかかります。ポルタIIのような「サッと出してすぐ使える経緯台架台」は、1台あるとなかなか重宝します。 最近では、経緯台式架台にもコンピューター制御の電動式の製品が出てきています。スマートフォンと連動することで、アプリから対象を指定して天体を自動で導入することもできますし、日周運動も追尾することができます。「ライブスタック」によるデジタル天体観測(電視観望)にも使用できます。 こちらの商品は、自動導入対応の経緯台架台の代表的な製品「AZ-GTi」ですが、手動式よりも若干高価になるものの、上手に使いこなせば(*)とても便利に使用することができるでしょう。 (*)より少ない前提知識で使えるのは、間違いなく「手動式」の架台です。超ざっくり言うと、月と惑星を見るだけなら手動式経緯台が最も簡単です。電動式架台を使いこなすには、設置やアプリの操作などに一定の知識と習熟が必要になります。 小型赤道儀 赤道儀式架台(赤道儀)とは、天体の日周運動を正確に追尾するために、回転軸のひとつを地球の自転軸と平行に設置できるようにした架台です。赤道儀では、天体を一つの軸(赤経軸)の等速回転だけで追尾することができ、天体を視野の中心だけでなく端まで全て正確に追尾(*)することができます。このため、長時間の露出を要する天体写真では、赤道儀が必須になります。 (*)経緯台式架台では視野の中心は追尾できますが、視野の周辺が回転してしまいます。 ビクセン・APマウント https://www.vixen.co.jp/product/tls1020101/ 上の画像は、ビクセン社製の小型赤道儀「APマウント(改造品)」にビクセンSD81SIIを搭載したところ。APマウントは最大搭載重量6kgと大型の機材を搭載することはできませんが、ビクセンSD81SIIなら余裕で搭載が可能。 ただし「APマウント」は天体を自動導入する機能は持っていません(*)。商品構成によっては自動追尾機能も持たないモデルもあります。購入を検討される際はその点に注意が必要です。 (*)別売の「ワイヤレスユニット」を使用すれば自動導入が可能になるとの情報がありますが(現時点では公式には未サポートになっています)、導入速度はかなり遅いものになります。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2019/02/24/7744/ APマウントについての詳細は、こちらの記事で詳しくレビューしています。ご興味のある方はご参考に! 中型赤道儀 ビクセン社製の自動導入が可能な赤道儀で最も低価格なモデルがSX2-WL赤道儀です。以前はSX赤道儀は「追尾は自動だが導入は手動」だったのですが、WiFi経由でアプリと接続できる「ワイヤレスユニット」の登場で、標準で自動導入に対応するようになりました。 このクラスの赤道儀であれば、本格的な天体写真にも無理なくチャレンジできますし、望遠鏡の安定度も格段に向上します。価格は三脚なしで実売16万円〜20万円程度です。 協栄産業・SX2-WL赤道儀 https://www.kyoei-tokyo.jp/shopdetail/000000009033/ 先にご紹介したAPマウントと比較すると若干高価になりますが、架台の安定度や自動導入対応など、オススメできるのは間違いなくこちらです。サイズ感とのバランスではビクセンSD81SIIにはやや大きき過ぎる気もしますが、その分安定して観測・撮影が可能になります。 なお、ビクセン社製以外の他社製品でも優れた架台が販売されていますが、どれを選べばいいのか初めての方はいろいろ戸惑うことが多いと思います。天体望遠鏡専門店に相談されるのもよいでしょう。 https://reflexions.jp/tenref/navi/enjoy/goout/9782/ 「ビクセンSD81SII」の弱点・選ぶ前に考慮すべきこと これまでご紹介してきたように、ビクセンSD81SIIは「最初の1本にふさわしいスタンダード」な天体望遠鏡です。眼視に良し、写真に良し、使いやすく手ごろな価格。しかし、もちろん全ての用途で完璧・万能ではありません。 本節では、前項までの内容と一部重複する部分もありますが、ビクセンSD81SIIの「用途によっては考慮すべきこと」をまとめました。望遠鏡選びの助けになると幸いです。 眼視観望:口径80mmクラスの限界 ビクセンSD81SIIの魅力は、何といってもスーパーEDガラスを使用したことによる眼視性能の高さです。惑星や月のすっきりとシャープな見え味は、口径50mm〜60mmクラスの写真用途メインのF値の明るい望遠鏡とは一線を画するものがあります。焦点距離も長めなので、高倍率も比較的無理なく出すことができます(焦点距離4mmの接眼レンズを使用した際に約150倍)。 しかし、銀河や星雲のような淡い天体を眼視で楽しむには、口径80mmは若干力不足です。例えば、M42オリオン大星雲は普通にしっかり見えるものの、ディテールの迫力を本当に味わいたいなら口径80mmでは全く足りません。 とにかく、ディープスカイ(特に銀河・星雲)の眼視観望においては、口径80mmはまさに「入り口にすぎない(さらに上を求めるとまだまだ先がある)」ことは認識しておく必要があります(*)。 (*)眼視観望をメインに考えるなら、ビクセンSD81SIIよりもう一回り口径の大きな「SD103SII」「SD115SII」をチョイスする手もあります。 写真撮影:F8はやや暗い・対象を選び総露光時間をたっぷりと 「美しい天体写真」の基本要件は、ノイズが少なく対象がはっきりと写っていることです。いかにノイズの少ない画像を得るかが最重要なのです。 一方で、難しい話は一切省くと、天体写真において同じ総露光時間(*1)であれば、画像のノイズ(より正確には、ノイズと信号の比=SN比)はF値が大きいほど大きくなります。例を挙げると「1時間」の露光をかけて天体写真を撮影したとき、F8の光学系よりもF4の光学系はS/Nが4倍になります。同じ露光時間なら明るさに比例してS/Nが向上する。別の言い方をすると、同じF値(明るさ)なら、露光時間に比例してS/Nが向上します。このロジックは「大正義」と呼んでよいでしょう(*2)。 (*1)天体写真では、1コマ当たりの露光時間は最大でも10分程度にどどめ、同じ対象を何枚も撮影してその画像データを専用のソフトウェアで「加算平均」する手法が一般的になっています。ここでいう「総露光時間」とは「1コマ当たりの露光時間×枚数」のことです。 (*2)「大正義」とは本サイトでたびたび使用する言い回しです。世の中のほとんどの事象には「2面性」があるものですが、そうではなくて「ほぼ全面的にその通りだと考えてよさそう」な事象のことを「大正義」と呼んでいます。 上の画像は同じ対象を総露光時間を変えて比較したもの(等倍トリミング)ですが、総露光時間が長くなるほどノイズが減り、対象がより明瞭に浮かび上がってくるのがわかるでしょう。それでも、2分18枚の総露光36分でもまだまだ不足です。2時間(120分)程度露光を積み重ねれば、鑑賞作品レベルになりそうです。 ビクセンSD81SIIにフラットナーを装着した場合、焦点距離は644mm、明るさを表すF値は7.9となります。この「約F8」というF値は決して明るいとはいえません。むしろ「暗い」です。しかし、ここからが大事なのですが、F値が暗い分は総露光時間を長くすることでカバーすることができるのです。 ただし、逆に「長い露光時間が必要になる」ことからは逃れることはできません。暗い淡い天体を限られた時間内で撮影したい場合は、明るい望遠鏡の優位性は揺るぎません。そういう目的であればより「明るい鏡筒」を選ぶべきでしょう。 しかし、発想を変えて「明るい天体」を中心に撮影するのであれば、無理に明るい鏡筒は必要ではありません。M42オリオン大星雲、M8干潟星雲、M45すばる、M31アンドロメダ銀河など、暗い鏡筒でも十分お手軽に撮影できる天体はたくさんあります。明るい高価な望遠鏡に手を出すのは、こういった天体をまず一通り撮影し、天体を撮影する様々な技術をマスターしてからでも遅くはありません。 Fが暗いことによるメリットもあります。色収差など、写真の結像を阻害する「収差」はF値が大きく(暗く)なるほど小さくなります。ピントのずれにも寛容になるため、特に初心者では失敗が少なくなります。特にビクセンSD81SIIとSDフラットナーHDの組み合わせの場合周辺光量が89%もあり、ほぼフラット補正が不要なレベルです。さらに、暗いF値の望遠鏡はよりシンプルで安価(*)。コスパが良いのです。 (*)F値を明るくするには、レンズの枚数を増やしたり非球面の光学系を採用したりするなど、より複雑な設計が必要になり、それが製品価格にはねかえってきます。 写真撮影:F8はやや暗い・レデューサーの効果 Fの暗さをカバーする意味では「レデューサー」を使用するのもよいプランです。ビクセン製の「SDレデューサーHDキット」は実勢価格6万円強とそれなりのお値段がしますが、F値が7.9から6.1と明るくなり、その分総露光時間を短くすることができます。「明るさは時短」もまた大正義といえるでしょう。 レデューサーのもう一つのメリットは、写せる範囲が広くなることです。ビクセンSD81SII+フラットナーの場合の焦点距離は644mmとかなり長め。小さな天体をクローズアップするのにはよいのですが、 大きめの天体を撮ると狭苦しいこともあり、構図を決めることがより難しくなります。レデューサーを装着した「焦点距離496mm」であれば、余裕を持って撮影することができ、より初心者向けといえます。 上の画像は北アメリカ星雲をフラットナー・レデューサーでそれぞれ同じ総露光時間で撮影した画像の下処理段階のものですが、画角だけでなくノイズレベルの違いにも注目。レデューサーを使用した方が単位面積当たりの光量が多くなるため、ノイズが少なくなっています。ビクセンSD81SIIのレデューサーは若干周辺光量が少なくなるものの、フラットナーと同じフルサイズのイメージサークルを持ち、周辺像もフラットナーと同程度に良好です(*)。同じ総露光時間の場合、より多くの光を取り込めるようになるのは大きなメリットでしょう。 (*)光学系によっては、レデューサーを使用した場合イメージサークルが小さくなったり、周辺の画質が低下し結局トリミングせざるをえなくなる製品もあります。イメージサークルが小さくなってしまうと画角も小さくなってしまうので、レデューサーの効果が十分発揮できなくなることになります。 とはいえ、F値が暗め鏡筒での天体写真撮影では、どうしても1コマ当たりの光量が不足するため、総露光時間を長くする(多数枚撮影してスタックする)だけでなく、ダーク減算やさまざまな天体写真独特の画像処理テクニックが要求される側面もあります(*)。 (*)前向きにとらえると、F8クラスの光学系は天体写真技術を取得するには最適です。 上の作例は、星雲の光だけを通す特殊なフィルターで撮影したはくちょう座の網状星雲。ISO25600まで上げても1コマ画像では極端な露光不足でザラザラでしたが、ダーク補正をきちんと行い300枚もの枚数をスタック(画像を重ね合わせてノイズを平均化する処理)し丁寧な画像処理を行うことで、網状星雲の微細なフィラメント構造を写し取ることができました。 写真撮影:F8はやや長い・架台の追尾精度と天体の導入 「F8はやや長い」。実は明るさとは別の意味で「F8」というスペックが持つ特性があります。ビクセンSD81SIIのフラットナー使用時の焦点距離は644mm。レデューサー使用時でも496mm。けっこう長いです。この焦点距離で正確に追尾(ガイド)するには、それなりにしっかりした架台(赤道儀)が必要になります。 また、画角が狭くなり対象を導入したり適切な構図を決める難易度も上がります。初心者なら、自動導入ができる架台がほぼ必須になります。1コマ当たり2分、5分といった露光時間をかけたいなら、オートガイドも必要になってきます。 「ディープスカイの天体写真しかやらない」のであれば、むしろ口径60mm焦点距離300〜400mm程度(F5〜6 )の望遠鏡の方が使いやすいでしょう。例えば、ビクセン社の小型天体望遠鏡「FL55SS」は非常にコンパクトな筐体ながら、高い写真撮影性能と使いやすい明るさを備えています。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2018/08/29/6094/ デジタル天体観測(電視観望)にはややオーバースペック 最近大流行の電視観望(天体をカメラのデジタル映像で観望する楽しみ方)では、望遠鏡の光学系にあまり高い分解能や集光力は要求されません。このため、口径40mm、焦点距離150mm程度でも十分楽しむことができます。もちろんビクセンSD81SIIでも電視観望は可能なのですが、センサーサイズの小さな低価格のCMOSカメラでは画角が狭くなりすぎるため、ちょっと使いにくくなってしまいます。 コスパは高いが金額は小さくない ビクセンSD81SIIの実売価格は13万円弱。スーパーEDレンズを採用したアポクロマート天体望遠鏡としては最安級なのですが、決して「安い買い物」ではありません。そこまで予算は出せないよ、という場合はより低価格な製品を選ぶのがよいでしょう。あまり選択肢は多くはありませんが、同じビクセン社の口径80mmアクロマート天体望遠鏡「ポルタIIA80Mf」なら1/3近い価格になります。ただし、性能と拡張性は大きく妥協することになります。 ビクセンの良心・「愛機活躍サポートプロジェクト」 改良を重ねてきたロングセラー天体望遠鏡 ビクセンのSDシリーズの原型は、光学設計的には約20年前の2004年発売の「ED81S」「ED103S」にさかのぼるといってよいでしょう。口径81mm・焦点距離625mm・口径比F7.7の2枚玉という現在のスペックがここで確立しました。以降約20年の間イナーチェンジを重ねつつ(*)、今回の最新モデル「ビクセンSD81SII」に至っています。 発売以来20年、時代のニーズに応じた改良が行われてきたロングセラーモデルなのです。 (*)大きな変更としては、ED81SII→SD81Sで写真撮影を考慮した鏡筒内の遮光環の改良が、SD81S→SD81SIIで2枚のレンズ間のスペーサーを3点錫箔式からリングスペーサーに変更されています。 旧製品が新製品相当に・「愛機活躍サポートプロジェクト」 特筆すべきことは、マイナーチェンジにおいて「アップグレードサービス(*)」が提供されていることです。古い鏡筒のユーザーであっても改良された新モデル相当への改造を行ってくれるのです。有料サービスですが、今回の「スペーサーを錫箔からリング型に変更」する場合、ビクセンSD81Sは¥17,600(消費税込、送料別)となっています。オーバーホール(分解清掃、グリスアップ、調整)込みでこの価格ですので、とても良心的といえるでしょう。 (*)正式名称はSD81SをSD81SII相当にする改造が「スペーサー交換キャンペーン」、ED81SIIをSD81S相当にする改造が「 デジタル対応SD改造サービス」。「アップグレードサービス」は筆者が簡単な言葉に変換したもので、ビクセン社の正式な呼称ではありません。 『103S/115S 鏡筒シリーズ スペーサー交換』キャンペーン特設サイト https://www.vixen.co.jp/activity/103s2_115s2_campaign/ さらに、上位モデルの「SD103S/SD115S」「ED103S/ED115S」の場合、2024年6月までの約1年間、改造費用が約40%程度割引になります。旧製品に対してもこのようなサポートが継続的に行われるのはすばらしいことです。歴史のある日本企業の良心、といってもよいのではないでしょうか。 どんな人に向いているか 最初の1本目の天体望遠鏡として ビクセンSD81SIIの一番のオススメは「最初の一本」です。「天体望遠鏡でいろいろ見たり撮ったりしてみたい」というある意味漠然としたニーズに、最も広く対応できるのが口径80mmF8クラスの天体望遠鏡。シンプルな2枚玉構成はコスパも高く、スーパーEDガラスを使用した対物レンズは最高レベルの高性能。より安価な製品もありますが、一本目だからといってケチる必要はありません。「よく見える」望遠鏡は、ライトなニーズにも最高の体験をもたらしてくれますし、「ガチ」な撮影用途にも十分に対応できます。 何度も繰り返しますが「迷ったら、これにしとけ」です。 ベテランのサブ機として ビクセンSD81SIIは鏡筒バンド・プレート込みで2.9kg(実測値)、とても軽量・コンパクト。小型の経緯台に搭載すれば気軽な眼視用途に。小型の赤道儀に搭載してサブ撮影機材としても利用可能。大型機材を振り回すガチな方のサブ機材にも最適(*)です。 (*)「ベテランのサブ機としても有用」ということは、逆に貴方がいつか「ベテラン」になったときには、ビクセンSD81SIIは「優秀なサブ機」として使える、ということです。 皆既日食遠征・月食撮影用に 一生にそう何度も体験できない究極の天体ショーが皆既日食。次に日本で見られる皆既日食は2035年9月なので、今後12年間は皆既日食を見たいなら海外に行くしかありませんが、旅行ケースにもすっぽり収納できるビクセンSD81SIIは日食遠征に最適。口径81mm・焦点距離644mはコロナと太陽が広めに収まる焦点距離で、静止画・動画・眼視のどれにでも「ちょうどいい」スペックです(*)。 (*)写真用途を重視した口径60mmクラスの明るい天体望遠鏡は、皆既日食用途には焦点距離が短すぎるのが辛いところです。究極の皆既日食用望遠鏡は何か?と考え始めると、また別の記事が一本書けますが、、初めて日食に行く人にも自信をもって「迷ったらこれにしとけ!」と言えるのがビクセンSD81SIIです。 実は筆者はこの日食用にA社製の口径76mmフローライト望遠鏡を購入し持ち込みました。「鏡筒が分割式なのでカメラバッグに入れて機内持ち込みできる」「1.7倍のエクステンダーが使え(*1)、フルサイズカメラのライブ配信で太陽がちょうどいい大きさになる」という2つの理由からでした。今改めてビクセンSD81SIIと比較してみると、前者のメリットは実はさほど大きくありませんでした。機内持込にこだわらなければ、分割できなくても運搬できるのです(*2)。 (*1)このメリットは確かに大きく、その意味ではビクセンSD81SIIで使用できる高性能なエクステンダーがあるとなお良いのですが。逆に4/3サイズのセンサーのカメラを使用するのであれば、エクステンダーなしがベストマッチでしょう。 (*2)外装が頑丈なハードタイプの旅行ケースであることが前提です。口径10cmのフローライト屈折を持ち込んでいた人もいらっしゃいました。分割鏡筒は便利な反面、ホコリの混入という別の問題を抱えることにもなります。 皆既日食だけでなく、皆既月食の撮影にもビクセンSD81SIIはベストマッチです。次の日本で見られる皆既月食は2025年とまだ先ですが、ビクセンSD81SIIはきっと大活躍してくれるはずです。そして、2035年9月の日本で見られる皆既日食は・・・ビクセンSD81SIIで見てみませんか!? まとめ いかがでしたか? 写真撮影も眼視観望も、どちらも高いレベルで楽しめる。そしてコンパクトで取り回しのよいサイズ、口径80mmクラスのスーパーアポクロマート機では一番の低価格。ビクセンSD81SIIは、はじめて購入する天体望遠鏡にも、ベテランのサブ鏡筒にも、すべての方に安心してオススメできオールラウンドに活用できる、まさしく「天体望遠鏡の原点」といってよい製品だと確信しました。 もちろん、天体望遠鏡は屈折式・反射式をはじめ、この望遠鏡以外にもさまざまな特徴を持った製品があります。「貴方にとっての最高の望遠鏡」はひとつとは限りません。 しかし・・「これから天文趣味を始めたい」と考えるエントリユーザーに「貴方の目的は何ですか?」という問いかけから始めるのは、あまりに非現実的でアンフレンドリーではないでしょうか。 知らないことが多いから、やりたいことがまだ定まっていないから初心者なのです。そんな中、いろいろな製品がありすぎて迷うようであれば、「ビクセンSD81SII」のような、F8クラスのスーパーED級のレンズを使用した2枚玉アポクロマート望遠鏡が、最も広い用途をカバーでき失敗が少ないと筆者は断言します。 そして2本目の天体望遠鏡を手にすることがあったとしても、「ビクセンSD81SII」は有能なサブ機として活躍してくれるに違いありません。 それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。ぜひ、楽しい天文ライフを満喫してくださいね! https://reflexions.jp/tenref/orig/2023/10/13/15738/ こちらもあわせてお読みください!! 本記事は(株)ビクセンより協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。 本記事で使用した望遠鏡は、ED81SII鏡筒を「スペーサー交換キャンペーン」および「 デジタル対応SD改造サービス」で改造したものです。各部の詳細は現在販売されているビクセンSD81SIIとは細部で異なる場合があります。 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。 記事中の製品仕様および価格は執筆時(2023年8月)のものです。 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。編集部発信のオリジナルコンテンツ