丹羽雅彦さん写真展「時空を越えた贈りもの」【編集長突撃レポート(10)】
みなさんこんにちは!「宇宙」はお好きですか?「アート」はお好きですか?
7月28日から丹羽雅彦さんの個展「時空を超えた贈りもの —宇宙は不思議で美しい—」が、東京・表参道の「DA VINCI PROJECT」で8月13日(日)まで開催されます。丹羽雅彦さんはかの「チリリモート(*)」の首謀者のお一人でもあり、精力的な活動をされている天体写真家のお一人です。
(*)南米チリに遠隔操作可能な天体望遠鏡を設置し有志グループで共同利用する枠組み
こちらの個展に先日プレ取材に伺い、丹羽雅彦さんの熱い想いと作品に触れてきました。本記事はそのレポートです。結論を一言で書くと「ぜひ行くべき・強く推奨(5段階の5)です!
開廊時刻は平日18時〜21時、土日祝日は13時〜18時。7月28日〜8月13日まで。入場無料。基本的に丹羽さんは上記期間中は在廊予定とのことです。
目次
訪問記
「アート」の場で
丹羽雅彦さんから「個展やることになりました!」との連絡をもらったのが6月。↑の案内状をいただきました。
案内状に書かれている言葉は「写真展」です。「天体写真」という言葉はどこにもありません。おそらく丹羽雅彦さんのターゲットはいわゆる「天体写真愛好家」の外側にも向いているのだな、と感じました。
7月某日。丹羽雅彦さんより写真展開催前の事前取材のオファーをいただき、大喜びで訪問。会場のギャラリーに一歩足を入れた瞬間、ここは”アートの場”なんだと感じました。
とても暑い日で、ギャラリーの入り口のテーブルでまず一休み。冷たい飲み物をいただきながら、お話を伺います。驚いたのは、このギャラリーは「プライベートギャラリー」、つまりこの場所も展示されている作品も、個人の所有物であるということです。延べ面積は公共の美術館を除けば都内最大クラスとのこと。丹羽雅彦さんの個人的な知り合いでもあるオーナー様の協力もあって今回の写真展が実現したそうです。
現代アートの数々
エントランス裏に展示されているこの作品は、ファインアーティストのGrimesさんの作品。アート素人の筆者は知るはずもありませんでしたが、なんと彼女の息子の愛称は「リトルX」、父親はイーロン・マスクさんとのこと。ツイ廃&STARLINKユーザーの筆者的には感無量。
広いギャラリーの各所にアート作品が展示されています。丹羽雅彦さんの作品展はどの部屋であるんだ^^;; 案内板がないとたぶん見つけるまでにかなりの時間がかかりそう。
「この中です」と案内されたギャラリーの一角。
エース作品、ほ座超新星残骸(ガム星雲)
こちらが案内状にも掲載されている本写真展のエース作品。「ほ座超新星残骸(ガム星雲)」(*1)をナローバンドで撮影し6パネルモザイクした縦1.5m横1.0mの巨大なパネル。圧倒的な存在感で、広大な宇宙の一角に驚くほど精緻なディテールをもった構造物が存在していることが、直感レベルで伝わってきます。あえて「星消し(*2)」画像とし、モノクロで仕上げたところにも「宇宙は不思議で美しい。」という写真展のコンセプトが感じられます。この作品だけを見るためだけでも、丹羽雅彦さんの写真展を見る価値があります。
(*1)1300光年彼方にある、100万年前に「超新星爆発」を起こした星が撒き散らした「残骸」。
(*2)天体写真ではごく淡い(暗い)星雲状の天体を強調するために、星(恒星)を専用のソフトウェアで消去することが近年行われるようになってきています。通常は別々に強調処理した後に重ね合わせて星を復元するのですが、この作品は星を消した状態を完成作品としています。
これぐらいのサイズのプリントになると、1枚のプリント料金も跳ね上がるため何度も試し刷りするわけにはいかず、部分切り出しのサンプルを何度も出力して最終的な仕上がりを調整されたとのこと。さらに、作品の性格や置かれる場所に応じて照明もチューニングする必要があり、展示作品を決めてからのプロセスが想像以上に大変だったそうです。
その甲斐あってか「神は細部に宿る」をまさに体現する作品となっています。眼を皿のようにして近づいて見ても、数歩引いて全体を見渡しても、いつまでも飽きないものがあります。この「物体」が1300光年も彼方にあることを前提知識として持てば、微細なまるで生物の細胞(ないしは腫瘍^^;;)のようなフィラメント構造もまた光年オーダーの広がりであることに気がつきます。
「マクロな宇宙という存在が持つ、ミクロな存在との類似性」は丹羽雅彦さんも何度も仰っていたことですが、アート作品の空間であるギャラリーに、そんな「身近な自然世界の普遍性」が切り出して置かれることで、ある大きな力が生まれてくるように感じました。
天体写真家として
私は宇宙を⻑い時間かけて旅してきた⼀粒⼀粒の光をとらえ⼤切に表現したい。そんな想いで作品を作っています。
広⼤な宇宙を旅してきた光の粒⼦による美しく不思議な贈りものをぜひ受け取っていただきたく思います。
丹羽雅彦さんの個展挨拶文の一節ですが、今回の作品群のアート作品としての表現手法を語るのに最も適切な言葉ではないでしょうか。天体写真家が作品に込める苦労と情熱の多くは「宇宙の彼方からやってくる微弱な”光の粒”を丁寧に集めてその美しさをとらえる」ことに向けられます。そのために、暗い空に天体望遠鏡を設置し、長い長い露出時間をかけて、微弱な光を可視化するための技術を駆使しているのです。
今回の撮影対象のセレクトは、主に宇宙の不思議な造形を体現した天体。これら4つの天体は、いずれも宇宙の多様性を示すものといえるでしょう。個人的ワガママをいえば、この4作品も1m×1.5mのサイズで見たかったですが、それは次の機会を待ちたいと思います^^
いくつかの作品は、このように厚い透明アクリル版に置物風に加工された形でも展示されています。こちらはいずれ販売もされるようですので、欲しい方は会場で丹羽雅彦さんにどうぞ。
プリントならではの美しさと表現
丹羽さんによると「モニタで見た時に最も美しく見えるデータをそのままプリントしても思った仕上がりにならない」そうです。このことは、昨年の山野泰照さんの写真展、KAGAYAさんの写真展でも同じようなお話を筆者は伺いました。天体写真家がプリント写真展を開催する際には間違いなく直面するテーマなのでしょう。
「プリントとモニタ画面はまるで違う」。という言葉もよく耳にします。今回丹羽雅彦さんからも何度も伺いましたが、この事実は写真展の会場で実際に作品を目にすれば腑に落ちることでしょう。右下のM83銀河の中心核の輝きと淡い周辺の腕、そして点在する「赤ポチ(銀河内の星形成領域に含まれている水素ガスが放つ光)」のコントラストとグラデーションは、プリント作品ならではの表現だと感じました。
丹羽雅彦さんについて
本節では丹羽雅彦さんをご存じない一般の方に対して、簡単にご紹介させていただこうと思います。
本業は天体写真。会社勤めは副業
「自分の本業は天体写真」であると丹羽雅彦さん本人が公言されています^^ 筆者の天文界隈以外での知人からは、この「立ち位置(取り組み姿勢?)」に複数の共感が寄せられました。なお、丹羽雅彦さんの「副業」はお名前だけでググっても見つけるのが困難です(メガネ屋さんに同姓同名の方がいらっしゃるため)が、少し頑張れば探せるかも?
チリにリモート観測所を設置。普及に尽力。
丹羽雅彦さんが「宇宙を⻑い時間かけて旅してきた⼀粒⼀粒の光をとらえる」ことができる理由の一つは、チリに設置されたリモート観測所にあります。実は、安定した天候と暗い空をもつ海外では、天体写真愛好家向けの観測所ホスティングサービスが近年急速に増えています。丹羽雅彦さんはこのサービスを日本に紹介し普及する活動を熱心に行われていて、その結果「初回ロット完売(適当な表現です^^;;)」となり、多数の同類(リモート観測所ユーザー)を生みました。プロデューサー・ビジネスマンとしての丹羽雅彦さんの力が発揮されたといえるでしょう。
天体写真専用の画像処理ソフトウェアの解説本を執筆
丹羽雅彦さんが「⼀粒⼀粒の光をとらえ⼤切に表現」することができる理由の一つは、「PixInsight」という天体写真専用の画像処理ソフトウェアを駆使されているからですが、ご自分で解説本も執筆されています。PixInsightは非常に優れた先進的な製品なのですが、現在の日本の出版業界では書籍化することが困難なほどニッチなため(海外書籍の日本語訳もまだありません)、丹羽雅彦さんの著作は日本の天体写真愛好家にとって貴重な情報源となっています。
ブログ「たのしい天体観測」
ブログ・たのしい天体観測
https://masahiko.me/
丹羽雅彦さんのこれまでの活動と最新情報にご興味のある方は、丹羽雅彦さんのブログをご参照ください!
アートとしての天体写真
天体写真をはじめてずっと私の頭から離れないのが、「天体写真がアート作品として成立するか」というテーマです。
たのしい天体観測・ケンタウルスA 〜 天体写真は30年後も鑑賞可能なアート作品になるか?
https://masahiko.me/centaurus-a-art/
天体写真はアート作品として成立するのか。上のリンクは丹羽雅彦さんのブログのエントリですが、今回展示されている「ケンタウルスA(上画像右)」について、そのテーマで語られています。
筆者は、他者に見られるという意図を持って創作する以上はそれはアートである、という立場ですが、実際に作品群を拝見してこれなら他のアート作品の中でも存在感を発揮できているのではないか?と感じました。
筆者はアートの素人なので、上記見解が的を射ているのかは不明ですが、ぜひ読者の皆様ご自身が、ご自身の目で「これはアートなのか」を確かめていただけるといいなと思っています。
また、天体写真ファンなら「見て絶対損をしない」ことを天文メディアの端くれとして保証できます。ぜひ、ご家族・ご友人・ご恋人同伴で、ごらんになってください(無料です)。
DA VINCI PROJECTについて
当ギャラリーは表参道・青山を拠点とし、グローバルで活躍する現代アーティストとのつながりを構築し、その作品を扱っています。現在主要なコレクションは、Trevor Andrew(Gucci Ghost)、YougJake、Grimesです。このような、まだ日本では知られていない海外の若手アーティストを中心にご紹介していきます。日本のマーケットと参画するアーティストの双方にアイディアやインスピレーションをもたらし、ひいては明るくポジティブな創造性あふれる社会への一助になればと考えています。
ダ・ヴィンチ・プロジェクトについて
https://davincitokyo.base.shop/about
筆者はアート界隈にはまるで知見がないため、HPの記載からの引用を記載しておきます^^;;「グローバルで活躍する現代アーティスト」「まだ日本では知られていない若手」「日本のアート市場とアーティスト双方にアイデアやインスピレーションを」このあたりがキーワードなのでしょうか。
この文脈で推察すると、まだ世間に知られていない天体写真家と天体写真作品にも「グローバルな現代アート(アーティスト)」に「アイデアとインスピレーションをもたらしうる」との判断がギャラリー側にもあったのではないでしょうか。だとすると、たいへん喜ばしいことです^^
会場までのアクセス。東京メトロ表参道駅B1出口より徒歩5分です。
まとめ
いかがでしたか?
今回の丹羽雅彦さんの個展は、決して展示点数は多くありませんが、1枚1枚の作品に丹羽雅彦さんの熱い想いと深い技術が込められています。「ディープスカイ天体写真は、人の心の深い部分に訴えかけられるようなアートになりうるのか」というテーマに対する一つの回答であると感じずにはいられませんでした。
もうひとつ、これは天リフ編集長の個人的な想いでもあるのですが、天体写真とは「わかる人にだけわかる世界」だけにとどまるものではきっとないはずです。宇宙の姿をよりリアルに捉えるという営みは主に科学という文脈で進化してきました。また、近年ではデジタル技術を駆使することで科学の一線を越えた領域にまで拡大してきています。そうやって生まれた作品は、クリエーターの自己満足にとどまらない影響力を持てるのではないか?
天体写真をアートという場に堂々と置いたとき、誰にどんなメッセージを伝えることができるか。この写真展で撒かれた種が今後どう育っていくかに注目です! https://reflexions.jp/tenref/orig/2023/07/28/15575/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2023/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集長突撃レポートみなさんこんにちは!「宇宙」はお好きですか?「アート」はお好きですか? 7月28日から丹羽雅彦さんの個展「時空を超えた贈りもの —宇宙は不思議で美しい—」が、東京・表参道の「DA VINCI PROJECT」で8月13日(日)まで開催されます。丹羽雅彦さんはかの「チリリモート(*)」の首謀者のお一人でもあり、精力的な活動をされている天体写真家のお一人です。 (*)南米チリに遠隔操作可能な天体望遠鏡を設置し有志グループで共同利用する枠組み こちらの個展に先日プレ取材に伺い、丹羽雅彦さんの熱い想いと作品に触れてきました。本記事はそのレポートです。結論を一言で書くと「ぜひ行くべき・強く推奨(5段階の5)です! 開廊時刻は平日18時〜21時、土日祝日は13時〜18時。7月28日〜8月13日まで。入場無料。基本的に丹羽さんは上記期間中は在廊予定とのことです。 https://dvp.co.jp/masahikoniwa-exhibition/ 訪問記 「アート」の場で 丹羽雅彦さんから「個展やることになりました!」との連絡をもらったのが6月。↑の案内状をいただきました。 案内状に書かれている言葉は「写真展」です。「天体写真」という言葉はどこにもありません。おそらく丹羽雅彦さんのターゲットはいわゆる「天体写真愛好家」の外側にも向いているのだな、と感じました。 7月某日。丹羽雅彦さんより写真展開催前の事前取材のオファーをいただき、大喜びで訪問。会場のギャラリーに一歩足を入れた瞬間、ここは”アートの場”なんだと感じました。 とても暑い日で、ギャラリーの入り口のテーブルでまず一休み。冷たい飲み物をいただきながら、お話を伺います。驚いたのは、このギャラリーは「プライベートギャラリー」、つまりこの場所も展示されている作品も、個人の所有物であるということです。延べ面積は公共の美術館を除けば都内最大クラスとのこと。丹羽雅彦さんの個人的な知り合いでもあるオーナー様の協力もあって今回の写真展が実現したそうです。 現代アートの数々 エントランス裏に展示されているこの作品は、ファインアーティストのGrimesさんの作品。アート素人の筆者は知るはずもありませんでしたが、なんと彼女の息子の愛称は「リトルX」、父親はイーロン・マスクさんとのこと。ツイ廃&STARLINKユーザーの筆者的には感無量。 広いギャラリーの各所にアート作品が展示されています。丹羽雅彦さんの作品展はどの部屋であるんだ^^;; 案内板がないとたぶん見つけるまでにかなりの時間がかかりそう。 「この中です」と案内されたギャラリーの一角。 エース作品、ほ座超新星残骸(ガム星雲) こちらが案内状にも掲載されている本写真展のエース作品。「ほ座超新星残骸(ガム星雲)」(*1)をナローバンドで撮影し6パネルモザイクした縦1.5m横1.0mの巨大なパネル。圧倒的な存在感で、広大な宇宙の一角に驚くほど精緻なディテールをもった構造物が存在していることが、直感レベルで伝わってきます。あえて「星消し(*2)」画像とし、モノクロで仕上げたところにも「宇宙は不思議で美しい。」という写真展のコンセプトが感じられます。この作品だけを見るためだけでも、丹羽雅彦さんの写真展を見る価値があります。 (*1)1300光年彼方にある、100万年前に「超新星爆発」を起こした星が撒き散らした「残骸」。 (*2)天体写真ではごく淡い(暗い)星雲状の天体を強調するために、星(恒星)を専用のソフトウェアで消去することが近年行われるようになってきています。通常は別々に強調処理した後に重ね合わせて星を復元するのですが、この作品は星を消した状態を完成作品としています。 これぐらいのサイズのプリントになると、1枚のプリント料金も跳ね上がるため何度も試し刷りするわけにはいかず、部分切り出しのサンプルを何度も出力して最終的な仕上がりを調整されたとのこと。さらに、作品の性格や置かれる場所に応じて照明もチューニングする必要があり、展示作品を決めてからのプロセスが想像以上に大変だったそうです。 その甲斐あってか「神は細部に宿る」をまさに体現する作品となっています。眼を皿のようにして近づいて見ても、数歩引いて全体を見渡しても、いつまでも飽きないものがあります。この「物体」が1300光年も彼方にあることを前提知識として持てば、微細なまるで生物の細胞(ないしは腫瘍^^;;)のようなフィラメント構造もまた光年オーダーの広がりであることに気がつきます。 「マクロな宇宙という存在が持つ、ミクロな存在との類似性」は丹羽雅彦さんも何度も仰っていたことですが、アート作品の空間であるギャラリーに、そんな「身近な自然世界の普遍性」が切り出して置かれることで、ある大きな力が生まれてくるように感じました。 天体写真家として 私は宇宙を⻑い時間かけて旅してきた⼀粒⼀粒の光をとらえ⼤切に表現したい。そんな想いで作品を作っています。 広⼤な宇宙を旅してきた光の粒⼦による美しく不思議な贈りものをぜひ受け取っていただきたく思います。 丹羽雅彦さんの個展挨拶文の一節ですが、今回の作品群のアート作品としての表現手法を語るのに最も適切な言葉ではないでしょうか。天体写真家が作品に込める苦労と情熱の多くは「宇宙の彼方からやってくる微弱な”光の粒”を丁寧に集めてその美しさをとらえる」ことに向けられます。そのために、暗い空に天体望遠鏡を設置し、長い長い露出時間をかけて、微弱な光を可視化するための技術を駆使しているのです。 今回の撮影対象のセレクトは、主に宇宙の不思議な造形を体現した天体。これら4つの天体は、いずれも宇宙の多様性を示すものといえるでしょう。個人的ワガママをいえば、この4作品も1m×1.5mのサイズで見たかったですが、それは次の機会を待ちたいと思います^^ いくつかの作品は、このように厚い透明アクリル版に置物風に加工された形でも展示されています。こちらはいずれ販売もされるようですので、欲しい方は会場で丹羽雅彦さんにどうぞ。 プリントならではの美しさと表現 丹羽さんによると「モニタで見た時に最も美しく見えるデータをそのままプリントしても思った仕上がりにならない」そうです。このことは、昨年の山野泰照さんの写真展、KAGAYAさんの写真展でも同じようなお話を筆者は伺いました。天体写真家がプリント写真展を開催する際には間違いなく直面するテーマなのでしょう。 「プリントとモニタ画面はまるで違う」。という言葉もよく耳にします。今回丹羽雅彦さんからも何度も伺いましたが、この事実は写真展の会場で実際に作品を目にすれば腑に落ちることでしょう。右下のM83銀河の中心核の輝きと淡い周辺の腕、そして点在する「赤ポチ(銀河内の星形成領域に含まれている水素ガスが放つ光)」のコントラストとグラデーションは、プリント作品ならではの表現だと感じました。 丹羽雅彦さんについて 本節では丹羽雅彦さんをご存じない一般の方に対して、簡単にご紹介させていただこうと思います。 本業は天体写真。会社勤めは副業 「自分の本業は天体写真」であると丹羽雅彦さん本人が公言されています^^ 筆者の天文界隈以外での知人からは、この「立ち位置(取り組み姿勢?)」に複数の共感が寄せられました。なお、丹羽雅彦さんの「副業」はお名前だけでググっても見つけるのが困難です(メガネ屋さんに同姓同名の方がいらっしゃるため)が、少し頑張れば探せるかも? チリにリモート観測所を設置。普及に尽力。 丹羽雅彦さんが「宇宙を⻑い時間かけて旅してきた⼀粒⼀粒の光をとらえる」ことができる理由の一つは、チリに設置されたリモート観測所にあります。実は、安定した天候と暗い空をもつ海外では、天体写真愛好家向けの観測所ホスティングサービスが近年急速に増えています。丹羽雅彦さんはこのサービスを日本に紹介し普及する活動を熱心に行われていて、その結果「初回ロット完売(適当な表現です^^;;)」となり、多数の同類(リモート観測所ユーザー)を生みました。プロデューサー・ビジネスマンとしての丹羽雅彦さんの力が発揮されたといえるでしょう。 天体写真専用の画像処理ソフトウェアの解説本を執筆 丹羽雅彦さんが「⼀粒⼀粒の光をとらえ⼤切に表現」することができる理由の一つは、「PixInsight」という天体写真専用の画像処理ソフトウェアを駆使されているからですが、ご自分で解説本も執筆されています。PixInsightは非常に優れた先進的な製品なのですが、現在の日本の出版業界では書籍化することが困難なほどニッチなため(海外書籍の日本語訳もまだありません)、丹羽雅彦さんの著作は日本の天体写真愛好家にとって貴重な情報源となっています。 ブログ「たのしい天体観測」 ブログ・たのしい天体観測 https://masahiko.me/ 丹羽雅彦さんのこれまでの活動と最新情報にご興味のある方は、丹羽雅彦さんのブログをご参照ください! アートとしての天体写真 天体写真をはじめてずっと私の頭から離れないのが、「天体写真がアート作品として成立するか」というテーマです。 たのしい天体観測・ケンタウルスA 〜 天体写真は30年後も鑑賞可能なアート作品になるか? https://masahiko.me/centaurus-a-art/ 天体写真はアート作品として成立するのか。上のリンクは丹羽雅彦さんのブログのエントリですが、今回展示されている「ケンタウルスA(上画像右)」について、そのテーマで語られています。 筆者は、他者に見られるという意図を持って創作する以上はそれはアートである、という立場ですが、実際に作品群を拝見してこれなら他のアート作品の中でも存在感を発揮できているのではないか?と感じました。 筆者はアートの素人なので、上記見解が的を射ているのかは不明ですが、ぜひ読者の皆様ご自身が、ご自身の目で「これはアートなのか」を確かめていただけるといいなと思っています。 また、天体写真ファンなら「見て絶対損をしない」ことを天文メディアの端くれとして保証できます。ぜひ、ご家族・ご友人・ご恋人同伴で、ごらんになってください(無料です)。 DA VINCI PROJECTについて 当ギャラリーは表参道・青山を拠点とし、グローバルで活躍する現代アーティストとのつながりを構築し、その作品を扱っています。現在主要なコレクションは、Trevor Andrew(Gucci Ghost)、YougJake、Grimesです。このような、まだ日本では知られていない海外の若手アーティストを中心にご紹介していきます。日本のマーケットと参画するアーティストの双方にアイディアやインスピレーションをもたらし、ひいては明るくポジティブな創造性あふれる社会への一助になればと考えています。 ダ・ヴィンチ・プロジェクトについて https://davincitokyo.base.shop/about 筆者はアート界隈にはまるで知見がないため、HPの記載からの引用を記載しておきます^^;;「グローバルで活躍する現代アーティスト」「まだ日本では知られていない若手」「日本のアート市場とアーティスト双方にアイデアやインスピレーションを」このあたりがキーワードなのでしょうか。 この文脈で推察すると、まだ世間に知られていない天体写真家と天体写真作品にも「グローバルな現代アート(アーティスト)」に「アイデアとインスピレーションをもたらしうる」との判断がギャラリー側にもあったのではないでしょうか。だとすると、たいへん喜ばしいことです^^ 会場までのアクセス。東京メトロ表参道駅B1出口より徒歩5分です。 まとめ いかがでしたか? 今回の丹羽雅彦さんの個展は、決して展示点数は多くありませんが、1枚1枚の作品に丹羽雅彦さんの熱い想いと深い技術が込められています。「ディープスカイ天体写真は、人の心の深い部分に訴えかけられるようなアートになりうるのか」というテーマに対する一つの回答であると感じずにはいられませんでした。 もうひとつ、これは天リフ編集長の個人的な想いでもあるのですが、天体写真とは「わかる人にだけわかる世界」だけにとどまるものではきっとないはずです。宇宙の姿をよりリアルに捉えるという営みは主に科学という文脈で進化してきました。また、近年ではデジタル技術を駆使することで科学の一線を越えた領域にまで拡大してきています。そうやって生まれた作品は、クリエーターの自己満足にとどまらない影響力を持てるのではないか? 天体写真をアートという場に堂々と置いたとき、誰にどんなメッセージを伝えることができるか。この写真展で撒かれた種が今後どう育っていくかに注目です!編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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