Yahoo!Japanに「“昼間”の天体観測会 望遠鏡で見ると太陽は「真っ赤」 大分」というニュースが掲載され、その危険性が指摘されています。当該記事は本日夕方削除されたようですが、失明の危険を伴う行為(観測会そのものではなく、動画を見て不注意に太陽を見る人が出る危険)が注意喚起なしに動画で掲載されていました。

本記事では、当該記事の背景と今後の再発防止について記述します。ぜひマスコミ関係者様には、ご理解と注意をお願いしたいと思います。

「危険な観測会が実施されたという誤解」が拡散しています。本記事・元ツイは無理解による安易な報道を批判するもので、今回の観測会のような、特殊な望遠鏡を使用し専門家の指導の下で安全に実施される観測会は全く問題視しておりません。誤解(の誤解)が拡散することを懸念し、元ツイは削除しました。

(*)昨夜8/22 20時ごろではまだ2000favくらいだったのですが、8/23 午前3時には1.8万にバズっていました。拡散すればするほど誤った理解が拡散してしまうようで残念です。

問題その1・誤解を招く安易な報道

当該の記事はすでに削除されているため、記憶を頼りに問題を整理します。

最大の問題は、以下の2つが当該記事・動画中で全く触れられていないこと。

  1. 本来、太陽は絶対に天体望遠鏡で直視してはいけないもの
  2. 例外的に太陽を安全に見る方法があり、専門家の指導の元でそれを行っている

この2つは天文に携わる教育関係者では常識で、今回の観測会を現場で指導された方は当然認識されていたはず(*1)で、取材する側にもおそらく何度も何度も念押ししているはずですが、記事・動画に編集される際にそこが完全に欠落してしまったのでしょう(*2)。

(*1)教育界・天文業界の長年の努力で「太陽見るな」はウザいほどの常識になっています。

(*2)ここの実体は正直わかりません。制作の最後で尺が足りなくて現場の意向を無視されたなど、可能性はいくつも指摘できますが、発信元メディア様による自己検証を望むものです。

悪いことに、動画の前半で「日本で最も普及している初心者向け天体望遠鏡」を使って天体を導入する練習風景が流れ、後半で子供達が太陽を観察している風景が流れました。この2つを合わせると「ボクの家にある望遠鏡で太陽を見てみたい!→眼が焼ける」という事故が起きてしまう危険を感じるものでした。

繰り返しになりますが、制作側に「太陽を見るための特殊な望遠鏡で行われた観察会」という認識が皆無であったのが最大の問題です(*)。

(*)記事見出しにある「望遠鏡で見ると太陽は真っ赤」という表現にそれが表れています。「真っ赤」なのは、特定の波長の光だけを通す特殊な太陽専用フィルターによるものです。当該記事を見ると普通は「へえ、太陽って望遠鏡で見ると赤く見えるのね!」と誤解することでしょう。

問題その2・「誤解の誤解」の拡散

元ツイが拡散するにつれ「危険な観測会が実施されている!アホか!」的な誤解が増えてきました。その結果と推測しますが、10時間ほどで1.8万いいねを越える状態となりました。

観測会の主催者に対しては、そんな誤解をした人からの不当な「クレーム」が殺到しているかもしれません。26日に開催される予定の2回目の観測会が中止になってしまうことさえ危惧されます。本意ではなかったのですが、もしそうであれば深くお詫びします。

逆に元記事を公開したYahoo!JAPAN様は、記事を削除するだけではなくきちんとした訂正を入れるべきではないでしょうか?まだ本件は終わっていません。

「太陽を見てはいけない」のか?

「太陽は絶対に見てはならないのか」。答はもちろんNoです。

天体望遠鏡を手にした人は、天体望遠鏡をそこにある天体に向ける自由を獲得します。しかしうっかり太陽に向けてしまうと「大変なこと=失明」が起きます。大事なことは「なぜ太陽に向けてはいけないか」を使用者が理解すること。

太陽は地球にとってかけがえのない存在である一方で、そのエネルギーは人間の体を簡単に損なっていまうほどの暴力性を持つこと。自然に対する畏敬の念と、コントロールできることとできないことを知る、貴重な機会の一つといえるのではないでしょうか。

太陽望遠鏡で見た太陽、国立天文台撮影。特定の波長の光のみを通す特殊なフィルターが使用されています。今回の観測会では、これに近い太陽の姿が見られたはずです。

とはいえ、「子供に太陽を見せる」ことをイベントとして安全に実施するのは、危険を伴う部活の顧問のなり手がいなくなってしまうのと同じ意味で、「割に合わない」仕事です。それでも「子供達に太陽の姿をその目で体験してもらいたい」と考えるのは、それに値する価値のある体験だと考えるからです。今回の件は観測会の実施においては何の問題もないであろうことは、改めて強調しておきます。教育現場が萎縮してしまう方向に作用することだけは避けなければならないと思います(*)。

(*)「危険だからやめる」という判断もまた、否定されるものではありません。しかし、この危険は銃器の操作を教えるよりははるかに低く、フグ調理よりもまだ低いと個人的には判断しますがいかがでしょうか。

再発防止のために

「太陽を見るな」の注意書き。左はマニア向け天体望遠鏡、右は子供向けの工作型天体望遠鏡。

「天体望遠鏡で太陽を見るな」の認識は、じゅうぶんに広まっているといえるでしょう。再発防止のポイントはここではありません。

正論を申し上げると、メディアは情報の発信プロセスにおいて、最低限の当事者相互でのチェックを行うべきです。今回であれば、予定校(ないしは映像)を観測会主催者にチェックしてもらえれば、すぐに「これはあかんやつです」というフィードバックが得られたはずです。

しかし、よほどセンシティブなものでない限り制作現場ではそのようになっていないと推測します。面倒くさい(=コストがかかる)からです。制作現場の属人的リテラシーに頼るしかないのが現状で、それはもう不可能であることを本件は示しています。

正論で解決できない以上、別の方法を考えなくてはなりません。

  1. 「太陽望遠鏡」を含む「正しい太陽観察の仕方」の認知を広める努力をさらに重ねる
  2. 「太陽観測」の取材を受ける際はその危険と正しい観測方法についての理解を取材側に強く求める
  3. 事前のコンテンツチェックができない取材は受けない(テレビには出ない)

この3点くらいでしょうか。テレビの情報番組・ニュース番組への露出は、その瞬間の効果はまだバカにできないものがありますが、持続性の観点ではほとんど効果はありません。テレビの取材を受けることは効果が薄いと判断しやめてしまうのが一番現実的かもしれません。

まとめ

いかがでしたか?

マスメディアから発信される情報の中心がネットになった今、「アクセス数第一主義」によってよりキャッチーであることが優先されるあまり、様々な情報が断片化される傾向が強まっていると感じています。

さらに、テレビ・新聞などのオールドメディア様、すでにオールドメディア化しつつある大手ポータル様においては、収益性の低下のしわ寄せが制作現場に押し寄せ、専門性やチェック体制が弱体化していく傾向に歯止めがかかりません。

これらの多くは「御社のご事情」であり、自助努力でなんとかせい、というお話です。誰の責任なのか、それは価値を持続できていないマスコミ様ご自身の問題。種々の保護を受けた業界であることを改めてご自覚いただき、体制の変革を望むものです。

しかし、大手メディア様の質に向上の兆しも見えない現状では、できる人ができる努力をするしかありません。「ミニメディア」の端くれである当メディア「天文リフレクションズ」においては、せめてもやれることをという訳で、本記事を制作したものです。

さらには・・・条件反射で情報を拡散してしまう方のなんと多いことか。当方としては元ツイは観測会に批判の鉾先が向かわないように慎重に行ったつもりなのですが、まだ足りませんでした。メディアは民度の鏡なのかもしれません。次の世代に少しでもマトモな世の中を引き継げるように、微力ながら努めたいと思います。

おい、みんな、もうちょっとだけしっかりしようよ!

ありがとうございます。涙が出ました^^

https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/08/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集部特選ピックアップ太陽望遠鏡Yahoo!Japanに「“昼間”の天体観測会 望遠鏡で見ると太陽は「真っ赤」 大分」というニュースが掲載され、その危険性が指摘されています。当該記事は本日夕方削除されたようですが、失明の危険を伴う行為(観測会そのものではなく、動画を見て不注意に太陽を見る人が出る危険)が注意喚起なしに動画で掲載されていました。 本記事では、当該記事の背景と今後の再発防止について記述します。ぜひマスコミ関係者様には、ご理解と注意をお願いしたいと思います。 Yahoo!の元記事は削除されたようです。とりあえずは良かったですが、放送を見て誤解した事故が起きないことを祈るばかり・・・ — 天リフ編集部 (@tenmonReflexion) August 22, 2022 「危険な観測会が実施されたという誤解」が拡散しています。本記事・元ツイは無理解による安易な報道を批判するもので、今回の観測会のような、特殊な望遠鏡を使用し専門家の指導の下で安全に実施される観測会は全く問題視しておりません。誤解(の誤解)が拡散することを懸念し、元ツイは削除しました。 (*)昨夜8/22 20時ごろではまだ2000favくらいだったのですが、8/23 午前3時には1.8万にバズっていました。拡散すればするほど誤った理解が拡散してしまうようで残念です。 問題その1・誤解を招く安易な報道 当該の記事はすでに削除されているため、記憶を頼りに問題を整理します。 最大の問題は、以下の2つが当該記事・動画中で全く触れられていないこと。 本来、太陽は絶対に天体望遠鏡で直視してはいけないもの 例外的に太陽を安全に見る方法があり、専門家の指導の元でそれを行っている この2つは天文に携わる教育関係者では常識で、今回の観測会を現場で指導された方は当然認識されていたはず(*1)で、取材する側にもおそらく何度も何度も念押ししているはずですが、記事・動画に編集される際にそこが完全に欠落してしまったのでしょう(*2)。 (*1)教育界・天文業界の長年の努力で「太陽見るな」はウザいほどの常識になっています。 (*2)ここの実体は正直わかりません。制作の最後で尺が足りなくて現場の意向を無視されたなど、可能性はいくつも指摘できますが、発信元メディア様による自己検証を望むものです。 悪いことに、動画の前半で「日本で最も普及している初心者向け天体望遠鏡」を使って天体を導入する練習風景が流れ、後半で子供達が太陽を観察している風景が流れました。この2つを合わせると「ボクの家にある望遠鏡で太陽を見てみたい!→眼が焼ける」という事故が起きてしまう危険を感じるものでした。 繰り返しになりますが、制作側に「太陽を見るための特殊な望遠鏡で行われた観察会」という認識が皆無であったのが最大の問題です(*)。 (*)記事見出しにある「望遠鏡で見ると太陽は真っ赤」という表現にそれが表れています。「真っ赤」なのは、特定の波長の光だけを通す特殊な太陽専用フィルターによるものです。当該記事を見ると普通は「へえ、太陽って望遠鏡で見ると赤く見えるのね!」と誤解することでしょう。 問題その2・「誤解の誤解」の拡散 記事も削除されたようだが、それでは臭いものに蓋をするという対応に過ぎない。ジャーナリズムとして、真っ当な対応とはとても思えない。 いろいろな意味でとても残念。。。 — hoshirokuman (@hoshirokuman) August 22, 2022 元ツイが拡散するにつれ「危険な観測会が実施されている!アホか!」的な誤解が増えてきました。その結果と推測しますが、10時間ほどで1.8万いいねを越える状態となりました。 観測会の主催者に対しては、そんな誤解をした人からの不当な「クレーム」が殺到しているかもしれません。26日に開催される予定の2回目の観測会が中止になってしまうことさえ危惧されます。本意ではなかったのですが、もしそうであれば深くお詫びします。 逆に元記事を公開したYahoo!JAPAN様は、記事を削除するだけではなくきちんとした訂正を入れるべきではないでしょうか?まだ本件は終わっていません。 「太陽を見てはいけない」のか? 「太陽は絶対に見てはならないのか」。答はもちろんNoです。 天体望遠鏡を手にした人は、天体望遠鏡をそこにある天体に向ける自由を獲得します。しかしうっかり太陽に向けてしまうと「大変なこと=失明」が起きます。大事なことは「なぜ太陽に向けてはいけないか」を使用者が理解すること。 太陽は地球にとってかけがえのない存在である一方で、そのエネルギーは人間の体を簡単に損なっていまうほどの暴力性を持つこと。自然に対する畏敬の念と、コントロールできることとできないことを知る、貴重な機会の一つといえるのではないでしょうか。 とはいえ、「子供に太陽を見せる」ことをイベントとして安全に実施するのは、危険を伴う部活の顧問のなり手がいなくなってしまうのと同じ意味で、「割に合わない」仕事です。それでも「子供達に太陽の姿をその目で体験してもらいたい」と考えるのは、それに値する価値のある体験だと考えるからです。今回の件は観測会の実施においては何の問題もないであろうことは、改めて強調しておきます。教育現場が萎縮してしまう方向に作用することだけは避けなければならないと思います(*)。 (*)「危険だからやめる」という判断もまた、否定されるものではありません。しかし、この危険は銃器の操作を教えるよりははるかに低く、フグ調理よりもまだ低いと個人的には判断しますがいかがでしょうか。 再発防止のために 「天体望遠鏡で太陽を見るな」の認識は、じゅうぶんに広まっているといえるでしょう。再発防止のポイントはここではありません。 正論を申し上げると、メディアは情報の発信プロセスにおいて、最低限の当事者相互でのチェックを行うべきです。今回であれば、予定校(ないしは映像)を観測会主催者にチェックしてもらえれば、すぐに「これはあかんやつです」というフィードバックが得られたはずです。 しかし、よほどセンシティブなものでない限り制作現場ではそのようになっていないと推測します。面倒くさい(=コストがかかる)からです。制作現場の属人的リテラシーに頼るしかないのが現状で、それはもう不可能であることを本件は示しています。 正論で解決できない以上、別の方法を考えなくてはなりません。 「太陽望遠鏡」を含む「正しい太陽観察の仕方」の認知を広める努力をさらに重ねる 「太陽観測」の取材を受ける際はその危険と正しい観測方法についての理解を取材側に強く求める 事前のコンテンツチェックができない取材は受けない(テレビには出ない) この3点くらいでしょうか。テレビの情報番組・ニュース番組への露出は、その瞬間の効果はまだバカにできないものがありますが、持続性の観点ではほとんど効果はありません。テレビの取材を受けることは効果が薄いと判断しやめてしまうのが一番現実的かもしれません。 まとめ いかがでしたか? マスメディアから発信される情報の中心がネットになった今、「アクセス数第一主義」によってよりキャッチーであることが優先されるあまり、様々な情報が断片化される傾向が強まっていると感じています。 さらに、テレビ・新聞などのオールドメディア様、すでにオールドメディア化しつつある大手ポータル様においては、収益性の低下のしわ寄せが制作現場に押し寄せ、専門性やチェック体制が弱体化していく傾向に歯止めがかかりません。 これらの多くは「御社のご事情」であり、自助努力でなんとかせい、というお話です。誰の責任なのか、それは価値を持続できていないマスコミ様ご自身の問題。種々の保護を受けた業界であることを改めてご自覚いただき、体制の変革を望むものです。 しかし、大手メディア様の質に向上の兆しも見えない現状では、できる人ができる努力をするしかありません。「ミニメディア」の端くれである当メディア「天文リフレクションズ」においては、せめてもやれることをという訳で、本記事を制作したものです。 さらには・・・条件反射で情報を拡散してしまう方のなんと多いことか。当方としては元ツイは観測会に批判の鉾先が向かわないように慎重に行ったつもりなのですが、まだ足りませんでした。メディアは民度の鏡なのかもしれません。次の世代に少しでもマトモな世の中を引き継げるように、微力ながら努めたいと思います。 おい、みんな、もうちょっとだけしっかりしようよ! 天リフさんを信頼するのはこういうところですよね。 https://t.co/ZKphxEf5Uf — 長谷川喜洋★星のソムリエ®/Yoshihiro Hasegawa (@hiro_ghap1) August 22, 2022 ありがとうございます。涙が出ました^^編集部発信のオリジナルコンテンツ