みなさんこんにちは!レナード彗星(C/2021 A1)はいかがでしたか?2020年のネオワイズ彗星(C/2020 F3)に続いて、肉眼級の彗星がまたやってきましたね!彗星の明るさは予想よりも暗いことが(体感的に^^;;)多いのですが、レナード彗星の場合はいい方に転んでくれました!
天リフ編集部では、当初予想を大きく超えた熱量で、レナード彗星を追いかけることになりました。その理由は12月中旬以降の「後半戦」の思いがけないアウトバーストの連発。星ナビ誌の記事によれば、5日周期でバーストが繰り返していたようです。
本記事では、前編と後編の2回に分けて、天リフ編集部でのリザルトを振り返っていきたいと思います!
11月27日・CometPBフィルターの効果・福岡県糸島市で
静かに始まったレナード彗星
レナード彗星はかなり前から「肉眼等級まで明るくなる」と予測されていたのですが、意外にも直前まで盛り上がりに欠けていました。実は天リフも「いいとこ肉眼でかすかにぼんやり見える程度だろう。まあ2,3回撮れればいいかな」程度の認識でした。
こちらは11月6日のツイート。「12月に4等級」とさらりと流し、「12月まで好条件(以降はダメでしょ)」という醒めた調子で、煽り成分は最小^^
順調に増光、そして初出撃。
その後レナード彗星は順調に増光し、尾も少しずつ明瞭に。11/19日の満月を過ぎ、月がそこそこ細くなってきたら撮りにいくかと思っていました。そして27日の早朝に出撃。
この時は実はレナードは半分オマケで、ZWOのEAFのテスト撮影が主目的でした(*)。雲が途切れ途切れに流れたのはまだしも、強風には閉口。歩留まりは最悪級で、ほとんどコマを稼げませんでした。
(*)この時点でのやる気のなさが伺えます^^;;
Comet BPフィルターの効果
リザルト。総露出の少なさは「みんな大好き、Topaz Denoise AI」の力を借りて無理矢理カバー。Comet BPフィルターの効果で大きなコマが明瞭に。だいぶやる気が出てきました^^
Comet BPフィルターの効果比較。だいぶ光量が削られるので淡いダストテールには不利になりますが、青緑色のコマはノーフィルターの場合よりも強調されて大きく写ります。
ただし、Comet BPフィルターが本来効果を発揮するはずの彗星のCN輝線(388nm)やC3輝線(405nm)は、天体改造機もノーマル機もデジカメのUV/IRカットフィルターでカットされてしまい、素通しの天体用CMOSカメラと比べて不利。このため、一つ上の作例ではUV/IRカットフィルターを除去したフィルターレス(素通し)のα7Sを使用しています。フィルターレス(クリア改造)のデジカメはやや特殊(*)なので、CBPフィルターの特性をフルに生かすには、天体用CMOSカメラが吉かもしれません。
(*)赤外撮影にも使えるのですが、カメラレンズで使用する場合に難があります。ブロードバンドRGB撮影する場合にはマウント側にUV/IRを入れる必要がある、バックフォーカスが大きくずれるので広角レンズで周辺が(激)流れする場合がある、など。
レンズのゴミ・・・
手抜きでフラットを撮らなかったのですが、ごらんのようにセンサーのゴミが酷い^^;; この撮影の後、意を決して「ペッタン棒」でセンサーの掃除をしました。さらに、以降の撮影では極力フラットを撮ることになります^^;
11月30日・福岡市自宅から
寝過ごして固定撮影^^;;
27日の撮影以降、出撃する気満々でいたのですが、なかなかお天気が安定しません。晴れ間をぬって自宅ベランダからチョー手抜き撮影。300mm望遠レンズで赤道儀なしの固定撮影(*)。
(*)寝過ごしてしまって赤道儀を出す時間がなかった^^;;
市街地のライブビューで視認できる明るさに
星座アプリを空にかざして当たりをつけて導入します。幸いにも特徴的な星並びが近くにあり、割とらくちんに導入成功。上の画像はライブビューの拡大画像ですが、ちゃんと彗星の姿を見ることができました。
300mm望遠・1秒多数枚のリザルト
露出時間は日周運動で流れないように1秒。ひたすら連写します。実は「300mm1秒」の露出時間では、シャッターショックの影響を避けるためにはかなり頑丈な三脚が必要になります(*)。そこでシャッターショックのないミラーレスカメラの静音モードを使用しています。
(*)筆者の体感ですが、300mmを越えるとミラーショックの影響が顕著に現れ始めます。低感度で3分、5分と露出をかける場合は大した問題にはならないのですが、数秒以下の露出時間だとモロにぶれの影響を受けてしまいます。その意味でレフ機は仮にミラーアップしたとしても、短秒多数枚撮影には不向きといえます。
雲が多くて総露出は50秒止まりでしたが、ベランダのお手軽撮影でここまで写ってまあまあ満足^^「次こそは、月明かりのない遠征地で!」気持ちが盛り上がります。
12月5日・噴煙の上の彗星・熊本県草千里で
草千里を目指す
レナード彗星の前半戦のハイライトは、12月3日の球状星団M3への最接近。12/4の晩は、天気予報的には久住より北は雲が多そうだったので、思い切って阿蘇・草千里まで遠出。
実は草千里に撮影に来るのは初めて。最近活発な阿蘇山の噴煙がどうなるか心配だったのですが、北西の季節風ならまあ大丈夫だろうという楽観的?な読み。
草千里は1100mほど標高があり、冷え込むことが予想されます。薄明終了前の上の画像を撮った時点で気温はすでに氷点下(*)。この場所は回避してもう少し下のポイントに移動。
(*)風も強くて帰りたくなるほどでした^^;;
彗星が昇るまで
彗星が昇るまでにはたっぷりと時間があります。色々とレビュー用の試写を行いました。雲が多く半分くらいは寝てましたが・・・^^
本題の彗星からは外れるのですが、CometBPフィルターを使用したオリオン座中心部。三つ星やランニングマンの青色が豊かに出るのは、短波長域を通すCometBPフィルターとクリア改造カメラならでは。Commet BPフィルターは、光害カット効果はQuad BPフィルターほどは期待できないのですが、空の暗い場所では星の色を残しつつ輝線星雲の強調する効果がいい感じです。詳しくはこちらの中川光学研究室ブログもどうぞ。
こちらは非改造機での星座写真。よしみカメラ様ご提供のサンプル品、ボディ側に装着するクリップタイプのソフトフィルターを使用しています。フィールドでも着脱できる使いやすいフィルター枠にLeeのソフトフィルターを内蔵したもの。こちらの記事もご参照ください!
レナード出待ち
この日の天文薄明開始は5:30ごろ。その時点でのレナードの地平高度は約35度(*)。レナードの撮影は4:30からの一時間が勝負と考えていました。
(*)思えばこの段階では地平高度が35度もあったのですね。後半戦では10度〜5度のレベルので撮影になりました。
午前3時ごろ。球状星団M3を頼りにレナード彗星を探します。やがて、木立の中にレナードが昇ってきました!地平高度が上がるのを少し待って連写を開始。ひたすら撮り続けます。
4:40ごろの撮影風景。黄色の○の中に見える小さな尾を引いたものがレナード彗星。後半戦の地平線スレスレのレナードと比べるとめっちゃ高いですね^^ 阿蘇の噴煙も風向き的に問題なし。しかし期待していた「阿蘇噴煙と彗星の勇姿」のコラボにはほど遠かった^^;
リザルト(1) シンプルに彗星基準合成する
それでは順にリザルトをみてゆきましょう。まずはFSQ106ED+レデューサで焦点距離380mmで。この焦点距離の画角では球状星団M3は同一視野に入りませんでしたが、さすがの迫力。若干トリミングしていますが、彗星の尾は視野をはみ出す勢いの長さです。
彗星基準の単純な加算平均コンポジット(*)のため、星は彗星の移動量の分だけ流れた光跡になっています。このため背景が若干うるさくなり、彗星の淡い部分は見にくくなります。
(*)彗星基準コンポジットにはDeep Sky Stacker(DSS)を使用しています。DSSでは、最初のコマと最後のコマ、そして最もスコアの高い画像の3つの画像に対して彗星核を基準点として指定することで、あとは自動で彗星基準コンポジットをやってくれます。
こちらは加算平均の際に「σクリップ」のオプションを使用した画像。「σクリップ」はコンポジットの際に画素単位で輝度値のバラツキを計算し、一定範囲を超えた値ははじいてしまう設定です。このため星の光跡を大幅に弱く(暗く)することができます。上の画像は「σ=1」でコンポジットしました。輝度値が標準偏差の1.0倍以上外れたデータが除外されることになります(*)。
(*)「σクリップ」は人工衛星の光跡を消すような目的で有効なのですが、その場合のσは筆者は2.0を使用しています。σの値を小さくするほど、「外れた輝度値」がより除外されるため光跡が弱くなりますが、コンポジットによるノイズ平均化の意味では不利になるようです。
除外されるとはいっても、周辺が滲んで大きくなっている明るい星を完全に消すことはできません。強調すればするほど「消し残り」が浮いてきてしまうのですが、これはどうしようもありません(*)。
(*)コンポジット前の画像にStarNet++のような星消しツールを適用すれば、星の光跡は少なくできるかもしれませんが、それでも完全に消すのは難しいようです。
それでも、光跡を弱めた効果で淡いテイルがそこそこ描出できました。イオンテイルの細かい構造はまだ顕著ではなかった(*)ようで残念ですが、これはこれでよしとしましょう。
(*)この後、レナード彗星が太陽に近づくにつれイオンテイルの微細構造が顕著になり、日々変化するさまが世界各地で観測されています。
リザルト(2) 彗星も恒星も流さない画像処理
もうひとつ、300mm望遠レンズでのリザルト。画角が一まわり広いので、球状星団M3(右下)と、うしかい座の球状星団MGC5466(左上)も同一視野に収めることができました。強調を控えめにしたこともあって彗星核の周りに広がった青緑色のコマに透明感が。いかにも彗星らしい雰囲気です^^
上の作例では、彗星も恒星もどちらも流れていませんが、この画像を得るために涙ぐましい画像処理をしています。簡単にそのプロセスを見てみましょう。
上の画像はベースになる2枚の画像。左は恒星基準のコンポジットですが、45分間の間に彗星が動いて流れてしまっています。右は彗星基準でコンポジットしたものですが、今度は逆に恒星が流れてしまっています。この2枚の画像から「恒星だけ」の画像と「彗星だけ」の画像を分離し、両者を重ね合わせることでどちらも流れない画像を作るのですが。。
まず、彗星基準の画像に残った光跡を一つ一つ手作業で消していきます(*)。二度とやりたくない系の作業です。
(*)実戦的には、画面の星の光跡を全部消す必要な無く、彗星と重なり合った部分を消すだけで充分です。なお、今回ご紹介したやり方は一つのやり方にしか過ぎません。StarNet++のような「星消しツール」で消す方法もありますが、これはこれで枚数が多いと大変な作業になります。今のところ「銀の弾丸」は発明されていない模様です。
恒星基準の画像から彗星を消すのも、Photoshopで手作業です。今回は、輝度選択(一部手作業)で「星だけ画像」を作り、彗星は塗りつぶして消しました。本来あるはずの星も幾つか消えてしまっているので、科学的な写真ではありません。
こうして作った星だけ画像に彗星のみ画像を比較明合成してようやく完成。等倍拡大すると彗星の淡いテイル部分に星の痕跡が若干残っていますが、まあ許してください^^;;
リザルト(3) 近赤外でも撮ってみた
もう一つ、近赤外でも撮ってみました。素通しの天体用CMOSカメラ(ASI294MC)に赤のR2フィルターを使用しています。青緑色のコマやイオンテイルの光はカットされてしまうので、彗星核とダストが太陽に照らされているところだけが写ることになります。
ダストテイルはそこそこ長く写っているようですが、焦点距離が105mmと短いので小さな彗星には若干ディテール不足。ノイズとσクリップで消せなかった光跡が渾然一体としてしまいザラザラ感大。あまりぱっとしませんね^^;;
頭部を等倍拡大してみました。予想どおり、コマを除いた頭部だけが写っています。近赤外で撮影したのは、低空の大気の吸収を低減することでより淡いテールが写ることを期待してのことでしたが、あまり効果はなかったようです(*)。光害地や極端に低空の場合では出番があるかもしれませんが、通常のケースでは普通にブロードバンドカラーで撮る方が良さそうです。
(*)もっとゲインを下げて1コマの露出時間を長くすれば良かったかも。彗星の動きが速いことを想定した30秒露出でしたが、そんなに短時間露出しなければならないほどの微細構造はありませんでした。「淡い長い尾を撮る」のが目的であれば、彗星は少々流れても露出時間を長くする方が有利かもしれませんね。
12月9日・長いテイル・大分県釈迦岳で
どんどん地球に近づくレナード彗星
レナード彗星と地球の最接近は12月12日23時。12/5に0.4天文単位だった距離は12/8には0.3天文単位になり、前回の撮影よりおよそ25%ほど近い勘定。近い=大きい=明るいですから、彗星はより立派に見えるはず。というわけで、9日の早朝にも出撃。
シンプル機材構成で速攻遠征
この日は彗星だけに狙いを絞り、深夜12時すぎに出撃。標高が約1100mと高く、東の視界の開けた大分県の釈迦岳へ。福岡市内の自宅から約2時間弱。彗星の尾が長くなってきたこともあり、より焦点距離の短い300mmのカメラレンズと、250mmのRedCat51をチョイス。前回の撮影の経験を生かし、フィルターは使用せずブロードバンドRGBに絞って鏡筒2本体制。ほぼ同じ焦点距離で撮った画像をさらにコンポジットする作戦。赤道儀はポータブル赤道儀のSWAT-310とSWAT-350の2台。
この日の撮影は動画にしています。ぜひごらんください!
リザルト
300mm望遠+EOS6Dで総露出24分、RedCa51+α7Sで50分。総露出74分のコンポジットです。画像処理はシグマクリップ(σ=1.0) で各々をコンポジット後、1:1で加算平均。恒星基準画像にはEOS 6Dの画像を使用。星のみ画像の作成にはStarExterminatorを使用しました。偶然流星が飛び込んできたコマがあったので、そこから流星のみを位置を合わせて切り貼っています。
相変わらず彗星本体には微光星の光跡が残ってしまっていますが、彗星基準コンポジットのおかげでごく細いイオンテールの吹き出しが確認できます。
この日の撮影は、ユニテック社のブログでもご紹介いただきました。ありがとうございます^^
空気が透明で人工光のない場所では、薄明の開始から朝焼けまで、刻一刻と明るさと色を変えていく空の美しさがドラマチック。薄明の空でフラット画像を取得して撤収後、家路につきました。
まとめ
いかがでしたか?
思いのほか記事が長くなってしまったので、後半戦は別記事でお届けします。明け方の東空の前半戦だけでも十二分に楽しめたのですが、実は夕方の西空に回ってからの後半戦の方が熱かったというのが実感(*)。後半の記事は鋭意執筆中ですので、まもなくお届けできる予定です。お楽しみに!
(*)当初の予想では、後半戦は彗星の地平高度が低いため、あまり期待されていなかったようです。
それでは皆様のご武運をお祈りしております。また次回お会いしましょう!
↓後編につづきます!
【連載18】実践・天体撮影記・「レナード彗星C/2021 A1追っかけ記」後編
参考リンク
「あるぺ☆」さんのtogetterまとめ
Twitter界隈でのレナード彗星の秀逸なまとめ。前半・後半に分けて、主だった撮影・眼視の記録から国立天文台や天文雑誌・サイトまで、膨大な情報が時系列に網羅されている労作です。こちらは前半です。
機材協力:
https://reflexions.jp/tenref/orig/2022/02/13/13415/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/02/ee44bb0d47f2b96c9804a4ba9831d325-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2022/02/ee44bb0d47f2b96c9804a4ba9831d325-150x150.jpg編集部実践・天体写真撮影記天文現象みなさんこんにちは!レナード彗星(C/2021 A1)はいかがでしたか?2020年のネオワイズ彗星(C/2020 F3)に続いて、肉眼級の彗星がまたやってきましたね!彗星の明るさは予想よりも暗いことが(体感的に^^;;)多いのですが、レナード彗星の場合はいい方に転んでくれました!
天リフ編集部では、当初予想を大きく超えた熱量で、レナード彗星を追いかけることになりました。その理由は12月中旬以降の「後半戦」の思いがけないアウトバーストの連発。星ナビ誌の記事によれば、5日周期でバーストが繰り返していたようです。
本記事では、前編と後編の2回に分けて、天リフ編集部でのリザルトを振り返っていきたいと思います!
11月27日・CometPBフィルターの効果・福岡県糸島市で
静かに始まったレナード彗星
レナード彗星はかなり前から「肉眼等級まで明るくなる」と予測されていたのですが、意外にも直前まで盛り上がりに欠けていました。実は天リフも「いいとこ肉眼でかすかにぼんやり見える程度だろう。まあ2,3回撮れればいいかな」程度の認識でした。
https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1456793640827645955
こちらは11月6日のツイート。「12月に4等級」とさらりと流し、「12月まで好条件(以降はダメでしょ)」という醒めた調子で、煽り成分は最小^^
順調に増光、そして初出撃。
その後レナード彗星は順調に増光し、尾も少しずつ明瞭に。11/19日の満月を過ぎ、月がそこそこ細くなってきたら撮りにいくかと思っていました。そして27日の早朝に出撃。
この時は実はレナードは半分オマケで、ZWOのEAFのテスト撮影が主目的でした(*)。雲が途切れ途切れに流れたのはまだしも、強風には閉口。歩留まりは最悪級で、ほとんどコマを稼げませんでした。
(*)この時点でのやる気のなさが伺えます^^;;
Comet BPフィルターの効果
リザルト。総露出の少なさは「みんな大好き、Topaz Denoise AI」の力を借りて無理矢理カバー。Comet BPフィルターの効果で大きなコマが明瞭に。だいぶやる気が出てきました^^
Comet BPフィルターの効果比較。だいぶ光量が削られるので淡いダストテールには不利になりますが、青緑色のコマはノーフィルターの場合よりも強調されて大きく写ります。
ただし、Comet BPフィルターが本来効果を発揮するはずの彗星のCN輝線(388nm)やC3輝線(405nm)は、天体改造機もノーマル機もデジカメのUV/IRカットフィルターでカットされてしまい、素通しの天体用CMOSカメラと比べて不利。このため、一つ上の作例ではUV/IRカットフィルターを除去したフィルターレス(素通し)のα7Sを使用しています。フィルターレス(クリア改造)のデジカメはやや特殊(*)なので、CBPフィルターの特性をフルに生かすには、天体用CMOSカメラが吉かもしれません。
(*)赤外撮影にも使えるのですが、カメラレンズで使用する場合に難があります。ブロードバンドRGB撮影する場合にはマウント側にUV/IRを入れる必要がある、バックフォーカスが大きくずれるので広角レンズで周辺が(激)流れする場合がある、など。
レンズのゴミ・・・
手抜きでフラットを撮らなかったのですが、ごらんのようにセンサーのゴミが酷い^^;; この撮影の後、意を決して「ペッタン棒」でセンサーの掃除をしました。さらに、以降の撮影では極力フラットを撮ることになります^^;
11月30日・福岡市自宅から
寝過ごして固定撮影^^;;
27日の撮影以降、出撃する気満々でいたのですが、なかなかお天気が安定しません。晴れ間をぬって自宅ベランダからチョー手抜き撮影。300mm望遠レンズで赤道儀なしの固定撮影(*)。
(*)寝過ごしてしまって赤道儀を出す時間がなかった^^;;
市街地のライブビューで視認できる明るさに
星座アプリを空にかざして当たりをつけて導入します。幸いにも特徴的な星並びが近くにあり、割とらくちんに導入成功。上の画像はライブビューの拡大画像ですが、ちゃんと彗星の姿を見ることができました。
300mm望遠・1秒多数枚のリザルト
露出時間は日周運動で流れないように1秒。ひたすら連写します。実は「300mm1秒」の露出時間では、シャッターショックの影響を避けるためにはかなり頑丈な三脚が必要になります(*)。そこでシャッターショックのないミラーレスカメラの静音モードを使用しています。
(*)筆者の体感ですが、300mmを越えるとミラーショックの影響が顕著に現れ始めます。低感度で3分、5分と露出をかける場合は大した問題にはならないのですが、数秒以下の露出時間だとモロにぶれの影響を受けてしまいます。その意味でレフ機は仮にミラーアップしたとしても、短秒多数枚撮影には不向きといえます。
雲が多くて総露出は50秒止まりでしたが、ベランダのお手軽撮影でここまで写ってまあまあ満足^^「次こそは、月明かりのない遠征地で!」気持ちが盛り上がります。
12月5日・噴煙の上の彗星・熊本県草千里で
草千里を目指す
レナード彗星の前半戦のハイライトは、12月3日の球状星団M3への最接近。12/4の晩は、天気予報的には久住より北は雲が多そうだったので、思い切って阿蘇・草千里まで遠出。
実は草千里に撮影に来るのは初めて。最近活発な阿蘇山の噴煙がどうなるか心配だったのですが、北西の季節風ならまあ大丈夫だろうという楽観的?な読み。
草千里は1100mほど標高があり、冷え込むことが予想されます。薄明終了前の上の画像を撮った時点で気温はすでに氷点下(*)。この場所は回避してもう少し下のポイントに移動。
(*)風も強くて帰りたくなるほどでした^^;;
彗星が昇るまで
彗星が昇るまでにはたっぷりと時間があります。色々とレビュー用の試写を行いました。雲が多く半分くらいは寝てましたが・・・^^
本題の彗星からは外れるのですが、CometBPフィルターを使用したオリオン座中心部。三つ星やランニングマンの青色が豊かに出るのは、短波長域を通すCometBPフィルターとクリア改造カメラならでは。Commet BPフィルターは、光害カット効果はQuad BPフィルターほどは期待できないのですが、空の暗い場所では星の色を残しつつ輝線星雲の強調する効果がいい感じです。詳しくはこちらの中川光学研究室ブログもどうぞ。
こちらは非改造機での星座写真。よしみカメラ様ご提供のサンプル品、ボディ側に装着するクリップタイプのソフトフィルターを使用しています。フィールドでも着脱できる使いやすいフィルター枠にLeeのソフトフィルターを内蔵したもの。こちらの記事もご参照ください!
レナード出待ち
この日の天文薄明開始は5:30ごろ。その時点でのレナードの地平高度は約35度(*)。レナードの撮影は4:30からの一時間が勝負と考えていました。
(*)思えばこの段階では地平高度が35度もあったのですね。後半戦では10度〜5度のレベルので撮影になりました。
午前3時ごろ。球状星団M3を頼りにレナード彗星を探します。やがて、木立の中にレナードが昇ってきました!地平高度が上がるのを少し待って連写を開始。ひたすら撮り続けます。
4:40ごろの撮影風景。黄色の○の中に見える小さな尾を引いたものがレナード彗星。後半戦の地平線スレスレのレナードと比べるとめっちゃ高いですね^^ 阿蘇の噴煙も風向き的に問題なし。しかし期待していた「阿蘇噴煙と彗星の勇姿」のコラボにはほど遠かった^^;
リザルト(1) シンプルに彗星基準合成する
それでは順にリザルトをみてゆきましょう。まずはFSQ106ED+レデューサで焦点距離380mmで。この焦点距離の画角では球状星団M3は同一視野に入りませんでしたが、さすがの迫力。若干トリミングしていますが、彗星の尾は視野をはみ出す勢いの長さです。
彗星基準の単純な加算平均コンポジット(*)のため、星は彗星の移動量の分だけ流れた光跡になっています。このため背景が若干うるさくなり、彗星の淡い部分は見にくくなります。
(*)彗星基準コンポジットにはDeep Sky Stacker(DSS)を使用しています。DSSでは、最初のコマと最後のコマ、そして最もスコアの高い画像の3つの画像に対して彗星核を基準点として指定することで、あとは自動で彗星基準コンポジットをやってくれます。
こちらは加算平均の際に「σクリップ」のオプションを使用した画像。「σクリップ」はコンポジットの際に画素単位で輝度値のバラツキを計算し、一定範囲を超えた値ははじいてしまう設定です。このため星の光跡を大幅に弱く(暗く)することができます。上の画像は「σ=1」でコンポジットしました。輝度値が標準偏差の1.0倍以上外れたデータが除外されることになります(*)。
(*)「σクリップ」は人工衛星の光跡を消すような目的で有効なのですが、その場合のσは筆者は2.0を使用しています。σの値を小さくするほど、「外れた輝度値」がより除外されるため光跡が弱くなりますが、コンポジットによるノイズ平均化の意味では不利になるようです。
除外されるとはいっても、周辺が滲んで大きくなっている明るい星を完全に消すことはできません。強調すればするほど「消し残り」が浮いてきてしまうのですが、これはどうしようもありません(*)。
(*)コンポジット前の画像にStarNet++のような星消しツールを適用すれば、星の光跡は少なくできるかもしれませんが、それでも完全に消すのは難しいようです。
それでも、光跡を弱めた効果で淡いテイルがそこそこ描出できました。イオンテイルの細かい構造はまだ顕著ではなかった(*)ようで残念ですが、これはこれでよしとしましょう。
(*)この後、レナード彗星が太陽に近づくにつれイオンテイルの微細構造が顕著になり、日々変化するさまが世界各地で観測されています。
リザルト(2) 彗星も恒星も流さない画像処理
もうひとつ、300mm望遠レンズでのリザルト。画角が一まわり広いので、球状星団M3(右下)と、うしかい座の球状星団MGC5466(左上)も同一視野に収めることができました。強調を控えめにしたこともあって彗星核の周りに広がった青緑色のコマに透明感が。いかにも彗星らしい雰囲気です^^
上の作例では、彗星も恒星もどちらも流れていませんが、この画像を得るために涙ぐましい画像処理をしています。簡単にそのプロセスを見てみましょう。
上の画像はベースになる2枚の画像。左は恒星基準のコンポジットですが、45分間の間に彗星が動いて流れてしまっています。右は彗星基準でコンポジットしたものですが、今度は逆に恒星が流れてしまっています。この2枚の画像から「恒星だけ」の画像と「彗星だけ」の画像を分離し、両者を重ね合わせることでどちらも流れない画像を作るのですが。。
まず、彗星基準の画像に残った光跡を一つ一つ手作業で消していきます(*)。二度とやりたくない系の作業です。
(*)実戦的には、画面の星の光跡を全部消す必要な無く、彗星と重なり合った部分を消すだけで充分です。なお、今回ご紹介したやり方は一つのやり方にしか過ぎません。StarNet++のような「星消しツール」で消す方法もありますが、これはこれで枚数が多いと大変な作業になります。今のところ「銀の弾丸」は発明されていない模様です。
恒星基準の画像から彗星を消すのも、Photoshopで手作業です。今回は、輝度選択(一部手作業)で「星だけ画像」を作り、彗星は塗りつぶして消しました。本来あるはずの星も幾つか消えてしまっているので、科学的な写真ではありません。
こうして作った星だけ画像に彗星のみ画像を比較明合成してようやく完成。等倍拡大すると彗星の淡いテイル部分に星の痕跡が若干残っていますが、まあ許してください^^;;
リザルト(3) 近赤外でも撮ってみた
もう一つ、近赤外でも撮ってみました。素通しの天体用CMOSカメラ(ASI294MC)に赤のR2フィルターを使用しています。青緑色のコマやイオンテイルの光はカットされてしまうので、彗星核とダストが太陽に照らされているところだけが写ることになります。
ダストテイルはそこそこ長く写っているようですが、焦点距離が105mmと短いので小さな彗星には若干ディテール不足。ノイズとσクリップで消せなかった光跡が渾然一体としてしまいザラザラ感大。あまりぱっとしませんね^^;;
頭部を等倍拡大してみました。予想どおり、コマを除いた頭部だけが写っています。近赤外で撮影したのは、低空の大気の吸収を低減することでより淡いテールが写ることを期待してのことでしたが、あまり効果はなかったようです(*)。光害地や極端に低空の場合では出番があるかもしれませんが、通常のケースでは普通にブロードバンドカラーで撮る方が良さそうです。
(*)もっとゲインを下げて1コマの露出時間を長くすれば良かったかも。彗星の動きが速いことを想定した30秒露出でしたが、そんなに短時間露出しなければならないほどの微細構造はありませんでした。「淡い長い尾を撮る」のが目的であれば、彗星は少々流れても露出時間を長くする方が有利かもしれませんね。
12月9日・長いテイル・大分県釈迦岳で
どんどん地球に近づくレナード彗星
レナード彗星と地球の最接近は12月12日23時。12/5に0.4天文単位だった距離は12/8には0.3天文単位になり、前回の撮影よりおよそ25%ほど近い勘定。近い=大きい=明るいですから、彗星はより立派に見えるはず。というわけで、9日の早朝にも出撃。
シンプル機材構成で速攻遠征
この日は彗星だけに狙いを絞り、深夜12時すぎに出撃。標高が約1100mと高く、東の視界の開けた大分県の釈迦岳へ。福岡市内の自宅から約2時間弱。彗星の尾が長くなってきたこともあり、より焦点距離の短い300mmのカメラレンズと、250mmのRedCat51をチョイス。前回の撮影の経験を生かし、フィルターは使用せずブロードバンドRGBに絞って鏡筒2本体制。ほぼ同じ焦点距離で撮った画像をさらにコンポジットする作戦。赤道儀はポータブル赤道儀のSWAT-310とSWAT-350の2台。
https://youtu.be/TSCrccAtuRk
この日の撮影は動画にしています。ぜひごらんください!
リザルト
300mm望遠+EOS6Dで総露出24分、RedCa51+α7Sで50分。総露出74分のコンポジットです。画像処理はシグマクリップ(σ=1.0) で各々をコンポジット後、1:1で加算平均。恒星基準画像にはEOS 6Dの画像を使用。星のみ画像の作成にはStarExterminatorを使用しました。偶然流星が飛び込んできたコマがあったので、そこから流星のみを位置を合わせて切り貼っています。
相変わらず彗星本体には微光星の光跡が残ってしまっていますが、彗星基準コンポジットのおかげでごく細いイオンテールの吹き出しが確認できます。
この日の撮影は、ユニテック社のブログでもご紹介いただきました。ありがとうございます^^
空気が透明で人工光のない場所では、薄明の開始から朝焼けまで、刻一刻と明るさと色を変えていく空の美しさがドラマチック。薄明の空でフラット画像を取得して撤収後、家路につきました。
まとめ
いかがでしたか?
思いのほか記事が長くなってしまったので、後半戦は別記事でお届けします。明け方の東空の前半戦だけでも十二分に楽しめたのですが、実は夕方の西空に回ってからの後半戦の方が熱かったというのが実感(*)。後半の記事は鋭意執筆中ですので、まもなくお届けできる予定です。お楽しみに!
(*)当初の予想では、後半戦は彗星の地平高度が低いため、あまり期待されていなかったようです。
それでは皆様のご武運をお祈りしております。また次回お会いしましょう!
↓後編につづきます!
https://reflexions.jp/tenref/orig/2022/02/15/13468/
参考リンク
「あるぺ☆」さんのtogetterまとめ
Twitter界隈でのレナード彗星の秀逸なまとめ。前半・後半に分けて、主だった撮影・眼視の記録から国立天文台や天文雑誌・サイトまで、膨大な情報が時系列に網羅されている労作です。こちらは前半です。
https://twitter.com/alpe_terashima/status/1480383660872593410
機材協力:
ユニテック株式会社
よしみカメラ編集部山口
千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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