【短期集中連載】ASI AIR PROレビュー(4)ライブスタック編・時短撮影と電視観望の新兵器
「ASI AIR」がさらにパワーアップした第2世代の製品「ASI AIR PRO」。集中連載の第4回は「ASI AIR PRO」で追加された新機能「ライブスタック編」。最近話題の電視観望から、お手軽な時短撮影まで簡単に楽しむことができます。その使い方と活用事例をご紹介したいと思います!
(*)特別協賛とは、本記事のサムネイルおよび記事中にスポンサー様の特別広告枠を掲載することにより対価をいただく形です。記事そのものの編集ポリシーは通常の天リフ記事と同等です。
なお、「ライブスタック」機能はハードウェア的にもパワーアップされた「ASI AIR PRO」でのみ新たに使用できる機能です。今回使用したアプリ「ASI AIR」はバージョン1.41のβ版。不具合を含めて、詳細は最新の製品版と異なる可能性があることをあらかじめお断りしておきます。
目次
ASI AIR PROのライブスタック機能
【短期集中連載】ASI AIR PROレビュー(2)アプリ編・さらに進化したASI AIR
ASI AIRのライブスタック機能の基本的なところは、本連載の「(2)アプリ編」で簡単にまとめていますが、軽くおさらいしておきましょう。
ライブスタックは「メインカメラ画面」で「Preview」や「Focus」の指定と並んで新たに追加された「Live」を選択します。
ASI AIRのライブスタック機能は、PC版ソフトの「SharpCap」と違って「あまり考えなくても使える」のが大きな特長です。普通の撮影と同じようにメインカメラのGainなどの設定を行って、Lightフレームの露出時間を設定するだけです(*)。
(*)フラットやダークを指定してより高品質の画像を得ることもできますが、その詳細は後述します。
右の丸い「撮影開始」ボタンをタップしたら、あとは放置するだけ。撮影を繰り返して、画像をスタックし、画面が再更新される流れが続きます。頃合いを見計らって、右下のダウンロードボタンをタップすればリザルトがASI AIRに保存されます。
では、このライブスタックはどう活用できるのでしょうか。その使用事例を順に見ていくことにしましょう。
ライブスタックで電視観望
最近、星ナビでも取り上げられた、デジタル時代の申し子「電視観望」。肉眼の限界を超えた、「色」のついたライブ感のある映像。大型モニターに接続すれば大人数でも見られる。WiFiでリモート制御すれば部屋のコタツの中からもぬくぬく観望。その面白さとメリットに多くの注目が集まっています。
その鍵になるのがライブスタック機能ですが、広い意味では、ライブスタックは電視観望の一部であるとともに、天体撮影の手法の一つであるといえます。まず、そのことについてつぶさに見ていきましょう。
「ライブ感」でみた電視観望
電視観望といっても、機材とその使い方にはいろいろなバリエーションがあります。上の図は電視観望の「ライブ感」と「手軽さ」の軸で、いくつかの手法を分類したものです。
ライブ感は具体的には画像のフレームレートの高低で決まってきます。フレームレートが高いほどライブ感は増すのですが、逆に1フレーム当たりの露出時間が短くなるため淡い対象の描写には不利になります。ISO1000万でノイズレスのカメラが存在すれば全ての問題は解決するのですが^^;;; 現実にはそんなカメラは存在しません。
そこで、ライブ動画よりも長め(といっても5秒から60秒くらい)の露出時間で撮影した画像をリアルタイムにコンポジットし、静止画でありながらライブ感を持たせた「ライブスタック」という手法があみだされたわけです。
デジタルカメラのライブ動画
α7Sの動画モードの超高感度を生かし、手持ちコリメート方式で撮影した「観望動画」です。 ノイズが多いのはご愛敬ですが、眼視での見え方とほぼ遜色なく、リアルタイムで星雲星団を「観望」できます。色つきになるところは眼視以上^^
まず、一番ライブ感の高いのは、α7Sのような高感度のデジタルカメラによるライブ動画です。α7Sの場合、1フレームの露出時間を最長で1/4秒まで設定することができます。このくらいのフレームレートであればじゅうぶん「ライブ動画」といえるでしょう。
明るいレンズを装着してISO値を10万くらいに上げれば、30fps(毎秒30コマ)でも北アメリカ星雲くらいまではなんとか写ります。飛行機・人工衛星の光跡ばかりでなく、流星の短痕なども捉えられますし、音声も同時に録音されるので、最もリアリティのある画像が得られます。
その反面、1フレーム当たりの光量が少なくならざるをえず、淡い対象には限界があります。ISO10万の動画はノイズも多く、露出時間をかけた画像との差は歴然。暗い光学系ではさらに厳しくなります。
「おもしろい電視観望」が楽しめるのは、M42やM8などの明るい星雲や、輝度の高い惑星状星雲や銀河、球状星団などの比較的明るい対象に限られます。輝度の高い天体は小さいものが多いことから、おのずと大口径・長焦点の機材が有利。その意味では「機材のハードル」が高いといえるでしょう。
PCソフトSharpCapによるライブスタック
次にライブ感が高いのはPCで稼働するソフト「SharpCap」によるライブスタック。動作するPC環境にもよりますが、4秒露出でライブスタックを行えば、約4秒毎に画像がスタックされて更新されていきます。このくらいなら、ライブ動画と1枚撮りの間くらいのライブ感といえるでしょう。
露出時間を短くすればライブ感は上がっていきますが、ライブ動画とは根本的に仕組みが異なるため、あまり露出時間を短くしても特徴が生きません。淡い対象でも捉えられる2秒〜30秒くらいの露出時間を、対象によって使い分ける方が多いようです。
ShapCapのメリットの一つが、柔軟な表示画像の調整。明るさ・ホワイトバランス、レベル調整など、上の画像のように画像調整の自由度が6つあります。上手にやればかなり淡い部分まであぶりだすことが可能です。
しかし、SharpCapの操作は決して簡単ではありません。カメラの設定も画像の強調も、自由度が高い反面、能力を100%引き出すには細かな使い方をしっかり理解しておく必要があります(*)。そのハードルをクリアすれば、現時点では最もパワフルな電視観望が可能でしょう。
(*)ライブスタックの設定でもいくつかのパラメータがあり、無事行えるようになるまで若干のハードルがあります。とはいえ、ガチ撮り天体写真で学ぶべきことの多さに比べれば、かわいいものです^^;;;
ASI AIR PROのライブスタック
ASI AIR PROの最大の特徴は、操作が一本道でわかりやすいことです。カメラの設定も基本的にはゲインと露出時間だけ。画像の調整も「AUTO」を選択しておけばそこそこ強調された画像が表示されます。なにより、スマホ・タブレットで簡単に操作できるので、フィールドでも室内でも、最もお気楽な電視観望が可能です。
その反面、CPU処理能力の高いPCと比較すると、若干ライブスタック処理のリアルタイム性に限界があります。例えば、5秒露出の設定でライブスタックを開始すると、最初に画像が表示されるまで15秒程度要し、少し待たされる感じです(*)。
(*)このスタック処理の待ち時間を考慮すると、15秒〜60秒くらいの比較的長めの露出時間設定にする方が、画面の見栄えも歩留まりも良さそうに感じました。なお、タイムラグはWiFiの通信速度やスマホの能力にも依存すると思われます。あくまで筆者の環境での一例であることをお断りしておきます。
表示画像の調整も、AUTOの表示が簡単で強力な反面、自分で調整できるのはヒストグラムの上下レベルの切り詰めだけで(*)、画面の小さなスマホで使う場合は、事実上AUTO設定の一択になると感じました(**)。
(*)SharpCapのように、レベルの中央を調整できないのは地味に痛いです。スマホではスライダーが近接して使いづらいと判断したのでしょう。これはひとつの設計思想だと思いますが、別窓でスライダーを大きく表示するなど、もうひと工夫して対応することを要望したいところです。
(**)アプリ1.41で「Nonlinear Stretch」のオプションが追加されましたが、まだ強調度合はおとなしい感じです。あまり複雑にするのも考えものですが、このへんの強調の自由度が上がるとSharpCapとの差は縮まることでしょう。
「1枚撮り」でも電視観望
「ライブスタックで電視観望」と「1枚撮り」の境目は実はあいまいです。「最初の画像が表示されるまでの待ち時間」が少々長くてもいいのなら「1枚撮りで電視観望」も、アリではないでしょうか。上の画像は明るいカメラレンズでの1枚撮り画像ですが、馬頭星雲もバーナードループもしっかり姿を見せ始めています。「ライブスタック」は強力なツールですが、電視観望を手軽に楽しむためには「(さらにお手軽な)1枚撮り」も、ひとつの手段であるといえるでしょう。
ASI AIR PROのライブスタック電視観望例
ライブスタックの最大のメリットは「手軽さ」にあります。鏡筒を対象に向けて撮影を開始する。あとはひたすらソフトが頑張ってくれて、それなりにキレイな画像が手元のスマホやタブレットに表示され、露出を重ねる毎にキレイになってゆく・・・
そんな事例をいくつかご紹介しましょう。
ベランダから電視観望
光害地のベランダ。でもライブスタックを使えば、かなり本格的な電視観望を楽しめます。今夜の対象は、冬の王者オリオン大星雲です。
明るいオリオン大星雲は5秒露出でもしっかりすぎるほど写ります。当初はgain390で撮影を始めたのですが、ヒストグラムを見ると飽和寸前。電視観望オンリーならこちらの方が見栄えがするのですが、ここではダイナミックレンジ重視でgainを最低の「0」に設定にしてみました。この効果は次項以降で見えてきます。
gainを0にすると、画面のプレビュー表示はかなり地味になります。理論的にはgainを変えても画像処理をほどこせば(ほぼ)同じ仕上がりが得られるのですが、ASI AIR PROのAutoストレッチでは、gainも露出時間も、仕上がりを大きく左右するようです。特に電視観望の場合は、gainは最大にして露出時間も長めにする方が、スマホ画面上の見栄えが良くなります。
画面をピンチして拡大し、ヒストグラムを広げてみました。gainを下げた効果で、トラペジウムも白トビすることなくキレイに4つ見えています。こんなふうに、拡大したり、画像の強調度合を変えてみたり、ライブスタックしながらいろいろ遊ぶことができます。
カメラレンズで電視観望
明るいカメラレンズ「キャノンEF135mmF2.0」での電視観望を遠征地で試してみました。淡い星雲はどこまで見えてくるのでしょうか。
gain390、30秒露出で6枚スタックしたところ。電視観望的にはここまで露出をかければもう十分。バーナードループもしっかり出てきました。フィルターはZWOのDuo Bandを使用しています(*)。
(*)このフィルターは赤の帯域が狭く、QBPフィルターよりもさらにHII領域の強調効果があります。カラーバランスが緑に転ばないか心配していたのですが、ASI AIRのオートホワイトバランスの効果か、ほとんどそれは感じられませんでした。
せっかくの遠征地なので、フィルターをほぼブロードバンドの光害カットフィルター「LPS-P2」に換装。30秒露出のスタック1枚目ですが、もうこれで十分な感じ。F2.0の威力で、総露出は30秒もあれば十分な電視観望クオリティです。青ハロが目立ちますが^^;;;
昨今多くの人が指摘しているように、色収差補正が不十分なカメラレンズでは、特にワンショットナローバンド撮影で赤ハロ・緑ハロが出ることがあります。上の画像はZWO Duoフィルターでピント位置を変えた状態ですが、わずかの違いでハロの出方が大きく変わることがわかります(*)。
(*)このレンズ(EF135mmF2.0)の場合、HaとOIIIのピント位置は両立せず、ハロを出さないピント位置では全体に甘い星像になってしまうようです。
この日撮影した総露出120秒のライブスタック画像を、保存したfitsファイルから思い切り強調してみました。短い露出時間でも、かなり淡い部分までデータが記録されていることがわかります。
アプリASI AIRの表示画面でここまで強調するのは難しいですが、今後プレビュー画面が機能拡張されていけば、さらに見栄えのする電視観望が可能になってくることでしょう。
固定撮影でライブスタック
ライブスタックの基本は短秒多数枚。ガイド精度はほとんど問題ではなくなります。では、追尾なしの固定撮影でどのくらい星を追いかけてくれるのでしょうか。実際に試してみました。
赤道儀の電源を切って、2秒露出に設定します。
2秒3枚のスタックでも馬頭星雲の姿が浮き出してきます。
33枚目、順調にライブスタック中。まだスタックエラーは出ていません。しかし、日周運動でオリオン座はどんどん西に動いていくため、右側に星がなくなった「影」の部分が広がってきます。
撮影開始から4分後(*)。スタックエラーが出始めました。カゲリも広がってきたのでこのくらいが限界のようです。
(*)1コマ当たりの所要時間は約6秒。露出時間が2秒ですから、1コマ当たり4秒ほどスタック処理などに要しているようです。超短秒のライブスタックをASI AIR PROで行う場合は、このオーバーヘッドを考慮する必要がありそうです。
画像を拡大してみました。少し東西に流れていますね。焦点距離135mmの場合、2秒間でのセンサー上の星の移動距離は約20μ。厳しい基準で見ると点像にはなりませんが、電視観望クオリティならこれで十分でしょう。
しっかりした赤道儀で追尾する方がもちろん有利ですが、ライブスタックの「追尾力」はオートガイドなしの赤道儀撮影で大いに生きてくることでしょう。
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ライブスタックで「時短撮影」
最近ブログやTwitterで「時短撮影(時短観望)」という言葉を見かけるようになりました。「がっつり一晩一対象」というアプローチももちろんアリですし、それで見えてくる新しい世界があります。でもその反対に、よりお手軽に・時間をかけず・いろいろな対象を楽しみたい、という「時短撮影」をここでは提案したいと思います。
そのための鍵となる手法がライブスタック。ライブスタックは「電視観望」のだけのためのものではありません。ライブスタックを活用すれば、短秒多数枚でオートガイドを省略することも可能ですし、なにより撮影後のコンポジットなどの下処理が圧倒的に楽になります。
それではその事例を見ていきましょう。
ベランダから短秒多数枚でオリオン大星雲
ででん!まずはリザルトから。電視観望の例でご紹介した、オリオン大星雲の短秒多数枚のライブスタック画像。ライブスタックでお手軽観望した後は、保存したfits画像を気合を入れて画像処理。なんと一粒で二度おいしい!
ベランダ撮影なので極軸合わせも単に北に向けただけの適当合わせ、オートガイドもなし、総露出時間15分弱の時短撮影ですが、トラペジウムを含めて大星雲のディテールを描出できてなかなか満足です^^
ライブスタックでは、何もしないと延々スタックが続いていく(*)ので、「いつスタックをやめるか」の判断に困ってしまいます^^;; この時は極軸のズレでどんどん写野がせまくなっていくのでこのへんで止めました。
(*)次項の「春の銀河祭り」の例のように、多数の対象を連続して撮るときはあらかじめスタックの最大枚数が同じになるように設定しておきたいのですが。Lightフレームも枚数設定をできるようにしてほしいものです。ついでに終わったらビープ音も鳴らしてほしいですね^^
ちょっと恥ずかしいスタック直後画像の撮って出し。極軸合わせを適当にしてしまうと、こんなふうに対象がどんどん中心からずれていってしまいます。
このときはダークもなぜか合ってくれず(*)、ダークなしで撮像したため、輝点ノイズが赤緯方向のズレと合わさって見事なピリオディクモーションのサインカーブを描きました^^;;;;
それでも短秒露出のライブスタックなら、この動きを全てキャンセルして「追尾」してくれるのです。ガイドエラーに強いのはライブスタックの大きなメリットのひとつでしょう。
(*)gain390で撮像すると合ってくれたのですが。もちろんライトとダークのgainは合わせています。こちらも原因は謎です。
長焦点・短秒多数枚で春の銀河祭り
ででん!こちらもいきなりリザルトから。春の(ほぼ)銀河祭りです。全てASI AIR PROのライブスタックを使用して撮影しました。1コマの露出は平均4分。「補正レンズなし」の日の丸構図一本勝負。「オートガイドなし」「フラットなし」「フィルターなし」の「ナシナシ撮影」です(*)。
(*)ASI294MCの場合、アンプグローもあるので時短撮影でもダークは入れるのが吉です。後述しますがASI AIR PROの場合、ダークの撮像と指定はとっても簡単です。
撮影の開始から終了まで90分ほど、1対象当たり10分ほどでした(*)。このペースで一晩6時間がんばれば、36対象撮れる勘定です。メシエマラソンだってできるかもしれませんね^^
(*)この時はなぜかPlate Solveがうまくいかず全敗で、導入にはスターブックテンを使用しました。自動中心導入が普通に動けば、もっとインターバルを短くできたことでしょう。
露出時間の設定は30秒にしました。2000mmでオートガイドなしで30秒はちょっと長すぎで、対象によっては少し流れてしまうのですが、10秒では短すぎて露出時間の歩留まりが悪くなる(*)ためこの設定にしました。
(*)コンポジット処理のタイムラグがあるため、露出時間が短いほど実露光時間を稼げなくなってしまいます。
1枚画像ではザラザラだったものが、8枚コンポジットが進むとだいぶなめらかになり(*)、銀河のディテールが浮き上がってきます。
(*)1枚画像と8枚画像の差は圧倒的。30分露出と4時間露出と同じくらい違います^^
スマホの画面ではハイライトが潰れてしまっていますが、これは表示上だけ。ダウンロードしたfitsファイルにはちゃんと階調が残っています。上の画像はFlatAidPro(*)の対数現像で高輝度圧縮し、トーンカーブ強調をかけただけの状態。この程度の周辺減光とゴミ^^;;;なら、PSでわりと簡単に消すことができます。
(*)fitsファイルを扱えるソフトはあまり種類がありませんが、画像をプレビューする用途も含めてFlatAidProは強力です。
ここまでくれば後は「例のソフト」Topaz Denoize AIでがっつりノイズ処理とシャープ処理。あれま、こんなに滑らかに。暗部のノイズだけ見れば、露出時間を4倍ほど伸ばしたくらいの効果がありそうですね。
とはいえ、最終画像を拡大してみると当然ですがアラが目立ちます。このレベルで満足できないからこそガチ派は何時間も何十時間も露光を積み重ねるのです。でも発想を変えて「等倍拡大しない」「そこそこのレベルで満足する」なら、じゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。
今回はお手軽撮影とは裏腹に画像処理ではいろんな技を使いまくりましたが、それでも処理時間はトータル60分ほど(*)。慣れてしまえば手順は全画像一本道なので、ひたすら作業する簡単なお仕事でした^^
(*)「料理の鉄人」にだって制限時間があります。撮影と画像処理の両方に制限時間を設けて「春の銀河祭り20対象一晩勝負」とかやってみると面白そうですね^^
ライブスタックを使いこなす
ダーク減算でさらに高画質に
天体用CMOSカメラの吐き出す画像は、基本的には「何も足さない・何も引かない」Pure Rawのデータです。輝点ノイズやアンプグローを補正するためにはダーク減算が必要です。
アンプグローは対象の輝度が低くなるほど影響が出てきます。上の画像はナローバンドの例ですが、右上のアンプグローがバーナードループよりも明るくなってしまっているのがわかります。ブロードバンドの日の丸構図の場合はごまかしがまだききますが、ライブスタックでダーク減算を行うのは簡単で時間もあまりかからないので、ダーク減算は手抜きしないことをオススメします(*)。
(*)ゼロ・アンプグローを謳うASI6200などでは、また状況が変わってくるかもしれません。
ダーク画像の取得はライブスタックのウィンドウで指定します。露出時間とビニングモード、枚数を指定するだけ(*)。後はLight画像同様に撮像すれば、コンポジットされたダークファイルが保存されます。フラット・バイアスの指定と撮像も同様です。
(*)ライトフレームとダーク・バイアスのゲイン(ダークは露出時間も)は同じにしなければなりません。一方、フラットはゲイン0で撮像することが推奨されているようです。
撮像したダークファイルはライトフレームの撮像画面でファイル名を指定します。
ライブスタックのダーク・フラットなどのファイルを指定する画面。ライトフレームも含めて、メモリに保存されているファイルが一切合切一覧されてしまいます(*)。ライトフレームは別ディレクトリにするなど、もう少し指定しやすくなるといいですね。
(*)ファイル名の自動生成ルールや管理方法はもう少しブラッシュアップしてほしいものです。ダーク・バイアス・フラットは撮像対象が変わっても使い回せるはずなのですが、ファイル名には最後にGOTOした対象の名前が先頭に入ってしまったり・・
フラット撮像の所要時間は30秒露出の20枚でもわずか10分ほど。ライブスタックの場合は「事前に」取得する必要がありますが、よほど気温が変化しない限り使い回せます。時短撮影であっても、サクッとやっておくのが吉でしょう。
フラット補正はやっぱり普通に難しい^^;;
フラットは天体写真で最も難しいといえます。それはASI AIR PROを使用したところで変わりません^^;;;
オリオン大星雲の作例でもフラット撮像を試みたのですが、普通に合いませんでした(TT)。過補正ですね・・・何が悪いのかは現状不明。フラット道は厳しい・・・
もちろんバッチリ合うこともあります。上は「薄明フラット」の適用例。カメラレンズで広い星野を撮る(見る)場合は、フラット補正の有無が仕上がりに大きく影響します。よいフラットが得られればかなり使い回しができるので、いろいろ工夫してよいフラットを探し求めてみましょう^^
薄明フラットの撮影には今回フリーストップの経緯台マウント、スコープテックのZEROを使用してみました。薄明の空はかなり均質な無限遠光源なのでフラット撮像向きです。
試しにいろいろな方角に向けてフラットを撮像して比較してみました。自動でストレッチ(強調)できるASI AIRなら、輝度差が歴然。薄明の空で一番均質なのは天頂であることがわかりました。それでも太陽の方角が一番明るいはずなので、それを回転で均質化するというコンセプトです。これはけっこう成功した感じです。薄明フラット撮像ツールとしてフリーストップ経緯台が注目される日も近い?
スタック枚数はどこに記録されるか
現時点(アプリver1.41)では、ライブスタックでのスタック枚数はfitsヘッダにのみ記録されているようです。このため、撮影後データを整理する際には、fitsヘッダが表示できる専用のソフトを使用して、ファイルを1個づつ開いて調べなければなりません。これは地道にとてもめんどくさい。ファイル名にも記録するようにしてほしいものです(*)。
(*)LightRoomやBridgeのようなソフトがfitsに対応してヘッダ情報とサムネイルが一覧できるようになればこの問題は全て解決するのですが。fitsファイルを一括でtifに変換してfitsヘッダをexifに変換するようなツールも欲しくなります。
まとめ
4回にわたってお届けした集中連載、いかがでしたか?
電視観望にも時短撮影にもライブスタックが大活躍。ASI AIR PROはこの機能だけでもアップグレードする価値があると感じました!ガチ撮りにも、時短撮影にも、電視観望にも。ASI AIR PROは多方面で、かなり使える!それが今回の連載での実感でした(*)。
(*)しかし・・微妙に動きが怪しいところがいくつか見られました。アプリのバージョンは2/8リリースの1.4.1-4.66ですが、もう少しデバッグしてからリリースしてほしいものです。今後の早期の品質改善に期待したいところです。
今回は試せていないのですが、ライブスタック機能はZWOの天体用CMOSカメラだけでなく、EOSやニコンのデジタルカメラでも使うことができます。こちらはまた時期を改めてレポートしたいと思います。
それでは4回の集中連載にお付き合いいただきありがとうございました!またお会いしましょう!
- 本連載は星見屋.com様に機材貸与および特別協賛をいただき、天文リフレクション編集部が独自の責任で企画・制作したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
- 本記事で使用したASI AIR PROは評価機です。また使用したソフトはver1.4.1のベータ(4.66)版です。本記事における挙動に関する記述は2/15時点でのものです。製品版での動作と異なる可能性があります。
- 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
- 使用した天体用CMOSカメラは全てASI294MC(非冷却)です。
- 本記事は極力客観的に実視をもとに作成していますが、本記事によって発生した読者様の事象についてはその一切について責任を負いかねますことをご了承ください。
- 文中の商品名・会社名は各社の商標および登録商標です。
- 機材の価格・仕様は執筆時(2020年2月)のものです。
- 「ASI AIR PRO」のご購入およびご購入のご相談は星見屋.com様にお願いいたします。
https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/02/24/10150/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/02/dd5d41273c68547a2f493d77e67fa790-1024x768.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2020/02/dd5d41273c68547a2f493d77e67fa790-150x150.jpgレビュー天体用カメラ天体用カメラASI AIRこの記事の内容星見屋.com 特別協賛!(*) 「ASI AIR」がさらにパワーアップした第2世代の製品「ASI AIR PRO」。集中連載の第4回は「ASI AIR PRO」で追加された新機能「ライブスタック編」。最近話題の電視観望から、お手軽な時短撮影まで簡単に楽しむことができます。その使い方と活用事例をご紹介したいと思います! (*)特別協賛とは、本記事のサムネイルおよび記事中にスポンサー様の特別広告枠を掲載することにより対価をいただく形です。記事そのものの編集ポリシーは通常の天リフ記事と同等です。 なお、「ライブスタック」機能はハードウェア的にもパワーアップされた「ASI AIR PRO」でのみ新たに使用できる機能です。今回使用したアプリ「ASI AIR」はバージョン1.41のβ版。不具合を含めて、詳細は最新の製品版と異なる可能性があることをあらかじめお断りしておきます。 ASI AIR PROのライブスタック機能 https://reflexions.jp/tenref/orig/2020/02/07/10151/#ver14Pro ASI AIRのライブスタック機能の基本的なところは、本連載の「(2)アプリ編」で簡単にまとめていますが、軽くおさらいしておきましょう。 ライブスタックは「メインカメラ画面」で「Preview」や「Focus」の指定と並んで新たに追加された「Live」を選択します。 ASI AIRのライブスタック機能は、PC版ソフトの「SharpCap」と違って「あまり考えなくても使える」のが大きな特長です。普通の撮影と同じようにメインカメラのGainなどの設定を行って、Lightフレームの露出時間を設定するだけです(*)。 (*)フラットやダークを指定してより高品質の画像を得ることもできますが、その詳細は後述します。 右の丸い「撮影開始」ボタンをタップしたら、あとは放置するだけ。撮影を繰り返して、画像をスタックし、画面が再更新される流れが続きます。頃合いを見計らって、右下のダウンロードボタンをタップすればリザルトがASI AIRに保存されます。 では、このライブスタックはどう活用できるのでしょうか。その使用事例を順に見ていくことにしましょう。 ライブスタックで電視観望 最近、星ナビでも取り上げられた、デジタル時代の申し子「電視観望」。肉眼の限界を超えた、「色」のついたライブ感のある映像。大型モニターに接続すれば大人数でも見られる。WiFiでリモート制御すれば部屋のコタツの中からもぬくぬく観望。その面白さとメリットに多くの注目が集まっています。 その鍵になるのがライブスタック機能ですが、広い意味では、ライブスタックは電視観望の一部であるとともに、天体撮影の手法の一つであるといえます。まず、そのことについてつぶさに見ていきましょう。 「ライブ感」でみた電視観望 電視観望といっても、機材とその使い方にはいろいろなバリエーションがあります。上の図は電視観望の「ライブ感」と「手軽さ」の軸で、いくつかの手法を分類したものです。 ライブ感は具体的には画像のフレームレートの高低で決まってきます。フレームレートが高いほどライブ感は増すのですが、逆に1フレーム当たりの露出時間が短くなるため淡い対象の描写には不利になります。ISO1000万でノイズレスのカメラが存在すれば全ての問題は解決するのですが^^;;; 現実にはそんなカメラは存在しません。 そこで、ライブ動画よりも長め(といっても5秒から60秒くらい)の露出時間で撮影した画像をリアルタイムにコンポジットし、静止画でありながらライブ感を持たせた「ライブスタック」という手法があみだされたわけです。 デジタルカメラのライブ動画 https://youtu.be/_Qv02PUpLTk α7Sの動画モードの超高感度を生かし、手持ちコリメート方式で撮影した「観望動画」です。 ノイズが多いのはご愛敬ですが、眼視での見え方とほぼ遜色なく、リアルタイムで星雲星団を「観望」できます。色つきになるところは眼視以上^^ まず、一番ライブ感の高いのは、α7Sのような高感度のデジタルカメラによるライブ動画です。α7Sの場合、1フレームの露出時間を最長で1/4秒まで設定することができます。このくらいのフレームレートであればじゅうぶん「ライブ動画」といえるでしょう。 https://youtu.be/7EBtQegPRBU 明るいレンズを装着してISO値を10万くらいに上げれば、30fps(毎秒30コマ)でも北アメリカ星雲くらいまではなんとか写ります。飛行機・人工衛星の光跡ばかりでなく、流星の短痕なども捉えられますし、音声も同時に録音されるので、最もリアリティのある画像が得られます。 その反面、1フレーム当たりの光量が少なくならざるをえず、淡い対象には限界があります。ISO10万の動画はノイズも多く、露出時間をかけた画像との差は歴然。暗い光学系ではさらに厳しくなります。 「おもしろい電視観望」が楽しめるのは、M42やM8などの明るい星雲や、輝度の高い惑星状星雲や銀河、球状星団などの比較的明るい対象に限られます。輝度の高い天体は小さいものが多いことから、おのずと大口径・長焦点の機材が有利。その意味では「機材のハードル」が高いといえるでしょう。 PCソフトSharpCapによるライブスタック 次にライブ感が高いのはPCで稼働するソフト「SharpCap」によるライブスタック。動作するPC環境にもよりますが、4秒露出でライブスタックを行えば、約4秒毎に画像がスタックされて更新されていきます。このくらいなら、ライブ動画と1枚撮りの間くらいのライブ感といえるでしょう。 露出時間を短くすればライブ感は上がっていきますが、ライブ動画とは根本的に仕組みが異なるため、あまり露出時間を短くしても特徴が生きません。淡い対象でも捉えられる2秒〜30秒くらいの露出時間を、対象によって使い分ける方が多いようです。 ShapCapのメリットの一つが、柔軟な表示画像の調整。明るさ・ホワイトバランス、レベル調整など、上の画像のように画像調整の自由度が6つあります。上手にやればかなり淡い部分まであぶりだすことが可能です。 しかし、SharpCapの操作は決して簡単ではありません。カメラの設定も画像の強調も、自由度が高い反面、能力を100%引き出すには細かな使い方をしっかり理解しておく必要があります(*)。そのハードルをクリアすれば、現時点では最もパワフルな電視観望が可能でしょう。 (*)ライブスタックの設定でもいくつかのパラメータがあり、無事行えるようになるまで若干のハードルがあります。とはいえ、ガチ撮り天体写真で学ぶべきことの多さに比べれば、かわいいものです^^;;; ASI AIR PROのライブスタック ASI AIR PROの最大の特徴は、操作が一本道でわかりやすいことです。カメラの設定も基本的にはゲインと露出時間だけ。画像の調整も「AUTO」を選択しておけばそこそこ強調された画像が表示されます。なにより、スマホ・タブレットで簡単に操作できるので、フィールドでも室内でも、最もお気楽な電視観望が可能です。 その反面、CPU処理能力の高いPCと比較すると、若干ライブスタック処理のリアルタイム性に限界があります。例えば、5秒露出の設定でライブスタックを開始すると、最初に画像が表示されるまで15秒程度要し、少し待たされる感じです(*)。 (*)このスタック処理の待ち時間を考慮すると、15秒〜60秒くらいの比較的長めの露出時間設定にする方が、画面の見栄えも歩留まりも良さそうに感じました。なお、タイムラグはWiFiの通信速度やスマホの能力にも依存すると思われます。あくまで筆者の環境での一例であることをお断りしておきます。 表示画像の調整も、AUTOの表示が簡単で強力な反面、自分で調整できるのはヒストグラムの上下レベルの切り詰めだけで(*)、画面の小さなスマホで使う場合は、事実上AUTO設定の一択になると感じました(**)。 (*)SharpCapのように、レベルの中央を調整できないのは地味に痛いです。スマホではスライダーが近接して使いづらいと判断したのでしょう。これはひとつの設計思想だと思いますが、別窓でスライダーを大きく表示するなど、もうひと工夫して対応することを要望したいところです。 (**)アプリ1.41で「Nonlinear Stretch」のオプションが追加されましたが、まだ強調度合はおとなしい感じです。あまり複雑にするのも考えものですが、このへんの強調の自由度が上がるとSharpCapとの差は縮まることでしょう。 「1枚撮り」でも電視観望 「ライブスタックで電視観望」と「1枚撮り」の境目は実はあいまいです。「最初の画像が表示されるまでの待ち時間」が少々長くてもいいのなら「1枚撮りで電視観望」も、アリではないでしょうか。上の画像は明るいカメラレンズでの1枚撮り画像ですが、馬頭星雲もバーナードループもしっかり姿を見せ始めています。「ライブスタック」は強力なツールですが、電視観望を手軽に楽しむためには「(さらにお手軽な)1枚撮り」も、ひとつの手段であるといえるでしょう。 ASI AIR PROのライブスタック電視観望例 ライブスタックの最大のメリットは「手軽さ」にあります。鏡筒を対象に向けて撮影を開始する。あとはひたすらソフトが頑張ってくれて、それなりにキレイな画像が手元のスマホやタブレットに表示され、露出を重ねる毎にキレイになってゆく・・・ そんな事例をいくつかご紹介しましょう。 ベランダから電視観望 光害地のベランダ。でもライブスタックを使えば、かなり本格的な電視観望を楽しめます。今夜の対象は、冬の王者オリオン大星雲です。 明るいオリオン大星雲は5秒露出でもしっかりすぎるほど写ります。当初はgain390で撮影を始めたのですが、ヒストグラムを見ると飽和寸前。電視観望オンリーならこちらの方が見栄えがするのですが、ここではダイナミックレンジ重視でgainを最低の「0」に設定にしてみました。この効果は次項以降で見えてきます。 gainを0にすると、画面のプレビュー表示はかなり地味になります。理論的にはgainを変えても画像処理をほどこせば(ほぼ)同じ仕上がりが得られるのですが、ASI AIR PROのAutoストレッチでは、gainも露出時間も、仕上がりを大きく左右するようです。特に電視観望の場合は、gainは最大にして露出時間も長めにする方が、スマホ画面上の見栄えが良くなります。 画面をピンチして拡大し、ヒストグラムを広げてみました。gainを下げた効果で、トラペジウムも白トビすることなくキレイに4つ見えています。こんなふうに、拡大したり、画像の強調度合を変えてみたり、ライブスタックしながらいろいろ遊ぶことができます。 カメラレンズで電視観望 明るいカメラレンズ「キャノンEF135mmF2.0」での電視観望を遠征地で試してみました。淡い星雲はどこまで見えてくるのでしょうか。 gain390、30秒露出で6枚スタックしたところ。電視観望的にはここまで露出をかければもう十分。バーナードループもしっかり出てきました。フィルターはZWOのDuo Bandを使用しています(*)。 (*)このフィルターは赤の帯域が狭く、QBPフィルターよりもさらにHII領域の強調効果があります。カラーバランスが緑に転ばないか心配していたのですが、ASI AIRのオートホワイトバランスの効果か、ほとんどそれは感じられませんでした。 せっかくの遠征地なので、フィルターをほぼブロードバンドの光害カットフィルター「LPS-P2」に換装。30秒露出のスタック1枚目ですが、もうこれで十分な感じ。F2.0の威力で、総露出は30秒もあれば十分な電視観望クオリティです。青ハロが目立ちますが^^;;; 昨今多くの人が指摘しているように、色収差補正が不十分なカメラレンズでは、特にワンショットナローバンド撮影で赤ハロ・緑ハロが出ることがあります。上の画像はZWO Duoフィルターでピント位置を変えた状態ですが、わずかの違いでハロの出方が大きく変わることがわかります(*)。 (*)このレンズ(EF135mmF2.0)の場合、HaとOIIIのピント位置は両立せず、ハロを出さないピント位置では全体に甘い星像になってしまうようです。 この日撮影した総露出120秒のライブスタック画像を、保存したfitsファイルから思い切り強調してみました。短い露出時間でも、かなり淡い部分までデータが記録されていることがわかります。 アプリASI AIRの表示画面でここまで強調するのは難しいですが、今後プレビュー画面が機能拡張されていけば、さらに見栄えのする電視観望が可能になってくることでしょう。 固定撮影でライブスタック ライブスタックの基本は短秒多数枚。ガイド精度はほとんど問題ではなくなります。では、追尾なしの固定撮影でどのくらい星を追いかけてくれるのでしょうか。実際に試してみました。 赤道儀の電源を切って、2秒露出に設定します。 2秒3枚のスタックでも馬頭星雲の姿が浮き出してきます。 33枚目、順調にライブスタック中。まだスタックエラーは出ていません。しかし、日周運動でオリオン座はどんどん西に動いていくため、右側に星がなくなった「影」の部分が広がってきます。 撮影開始から4分後(*)。スタックエラーが出始めました。カゲリも広がってきたのでこのくらいが限界のようです。 (*)1コマ当たりの所要時間は約6秒。露出時間が2秒ですから、1コマ当たり4秒ほどスタック処理などに要しているようです。超短秒のライブスタックをASI AIR PROで行う場合は、このオーバーヘッドを考慮する必要がありそうです。 画像を拡大してみました。少し東西に流れていますね。焦点距離135mmの場合、2秒間でのセンサー上の星の移動距離は約20μ。厳しい基準で見ると点像にはなりませんが、電視観望クオリティならこれで十分でしょう。 しっかりした赤道儀で追尾する方がもちろん有利ですが、ライブスタックの「追尾力」はオートガイドなしの赤道儀撮影で大いに生きてくることでしょう。 (広告)天体撮影用アクセサリも星見屋 ライブスタックで「時短撮影」 最近ブログやTwitterで「時短撮影(時短観望)」という言葉を見かけるようになりました。「がっつり一晩一対象」というアプローチももちろんアリですし、それで見えてくる新しい世界があります。でもその反対に、よりお手軽に・時間をかけず・いろいろな対象を楽しみたい、という「時短撮影」をここでは提案したいと思います。 そのための鍵となる手法がライブスタック。ライブスタックは「電視観望」のだけのためのものではありません。ライブスタックを活用すれば、短秒多数枚でオートガイドを省略することも可能ですし、なにより撮影後のコンポジットなどの下処理が圧倒的に楽になります。 それではその事例を見ていきましょう。 ベランダから短秒多数枚でオリオン大星雲 ででん!まずはリザルトから。電視観望の例でご紹介した、オリオン大星雲の短秒多数枚のライブスタック画像。ライブスタックでお手軽観望した後は、保存したfits画像を気合を入れて画像処理。なんと一粒で二度おいしい! ベランダ撮影なので極軸合わせも単に北に向けただけの適当合わせ、オートガイドもなし、総露出時間15分弱の時短撮影ですが、トラペジウムを含めて大星雲のディテールを描出できてなかなか満足です^^ ライブスタックでは、何もしないと延々スタックが続いていく(*)ので、「いつスタックをやめるか」の判断に困ってしまいます^^;; この時は極軸のズレでどんどん写野がせまくなっていくのでこのへんで止めました。 (*)次項の「春の銀河祭り」の例のように、多数の対象を連続して撮るときはあらかじめスタックの最大枚数が同じになるように設定しておきたいのですが。Lightフレームも枚数設定をできるようにしてほしいものです。ついでに終わったらビープ音も鳴らしてほしいですね^^ ちょっと恥ずかしいスタック直後画像の撮って出し。極軸合わせを適当にしてしまうと、こんなふうに対象がどんどん中心からずれていってしまいます。 このときはダークもなぜか合ってくれず(*)、ダークなしで撮像したため、輝点ノイズが赤緯方向のズレと合わさって見事なピリオディクモーションのサインカーブを描きました^^;;;; それでも短秒露出のライブスタックなら、この動きを全てキャンセルして「追尾」してくれるのです。ガイドエラーに強いのはライブスタックの大きなメリットのひとつでしょう。 (*)gain390で撮像すると合ってくれたのですが。もちろんライトとダークのgainは合わせています。こちらも原因は謎です。 長焦点・短秒多数枚で春の銀河祭り ででん!こちらもいきなりリザルトから。春の(ほぼ)銀河祭りです。全てASI AIR PROのライブスタックを使用して撮影しました。1コマの露出は平均4分。「補正レンズなし」の日の丸構図一本勝負。「オートガイドなし」「フラットなし」「フィルターなし」の「ナシナシ撮影」です(*)。 (*)ASI294MCの場合、アンプグローもあるので時短撮影でもダークは入れるのが吉です。後述しますがASI AIR PROの場合、ダークの撮像と指定はとっても簡単です。 撮影の開始から終了まで90分ほど、1対象当たり10分ほどでした(*)。このペースで一晩6時間がんばれば、36対象撮れる勘定です。メシエマラソンだってできるかもしれませんね^^ (*)この時はなぜかPlate Solveがうまくいかず全敗で、導入にはスターブックテンを使用しました。自動中心導入が普通に動けば、もっとインターバルを短くできたことでしょう。 露出時間の設定は30秒にしました。2000mmでオートガイドなしで30秒はちょっと長すぎで、対象によっては少し流れてしまうのですが、10秒では短すぎて露出時間の歩留まりが悪くなる(*)ためこの設定にしました。 (*)コンポジット処理のタイムラグがあるため、露出時間が短いほど実露光時間を稼げなくなってしまいます。 1枚画像ではザラザラだったものが、8枚コンポジットが進むとだいぶなめらかになり(*)、銀河のディテールが浮き上がってきます。 (*)1枚画像と8枚画像の差は圧倒的。30分露出と4時間露出と同じくらい違います^^ スマホの画面ではハイライトが潰れてしまっていますが、これは表示上だけ。ダウンロードしたfitsファイルにはちゃんと階調が残っています。上の画像はFlatAidPro(*)の対数現像で高輝度圧縮し、トーンカーブ強調をかけただけの状態。この程度の周辺減光とゴミ^^;;;なら、PSでわりと簡単に消すことができます。 (*)fitsファイルを扱えるソフトはあまり種類がありませんが、画像をプレビューする用途も含めてFlatAidProは強力です。 ここまでくれば後は「例のソフト」Topaz Denoize AIでがっつりノイズ処理とシャープ処理。あれま、こんなに滑らかに。暗部のノイズだけ見れば、露出時間を4倍ほど伸ばしたくらいの効果がありそうですね。 とはいえ、最終画像を拡大してみると当然ですがアラが目立ちます。このレベルで満足できないからこそガチ派は何時間も何十時間も露光を積み重ねるのです。でも発想を変えて「等倍拡大しない」「そこそこのレベルで満足する」なら、じゅうぶん楽しめるのではないでしょうか。 今回はお手軽撮影とは裏腹に画像処理ではいろんな技を使いまくりましたが、それでも処理時間はトータル60分ほど(*)。慣れてしまえば手順は全画像一本道なので、ひたすら作業する簡単なお仕事でした^^ (*)「料理の鉄人」にだって制限時間があります。撮影と画像処理の両方に制限時間を設けて「春の銀河祭り20対象一晩勝負」とかやってみると面白そうですね^^ ライブスタックを使いこなす ダーク減算でさらに高画質に 天体用CMOSカメラの吐き出す画像は、基本的には「何も足さない・何も引かない」Pure Rawのデータです。輝点ノイズやアンプグローを補正するためにはダーク減算が必要です。 アンプグローは対象の輝度が低くなるほど影響が出てきます。上の画像はナローバンドの例ですが、右上のアンプグローがバーナードループよりも明るくなってしまっているのがわかります。ブロードバンドの日の丸構図の場合はごまかしがまだききますが、ライブスタックでダーク減算を行うのは簡単で時間もあまりかからないので、ダーク減算は手抜きしないことをオススメします(*)。 (*)ゼロ・アンプグローを謳うASI6200などでは、また状況が変わってくるかもしれません。 ダーク画像の取得はライブスタックのウィンドウで指定します。露出時間とビニングモード、枚数を指定するだけ(*)。後はLight画像同様に撮像すれば、コンポジットされたダークファイルが保存されます。フラット・バイアスの指定と撮像も同様です。 (*)ライトフレームとダーク・バイアスのゲイン(ダークは露出時間も)は同じにしなければなりません。一方、フラットはゲイン0で撮像することが推奨されているようです。 撮像したダークファイルはライトフレームの撮像画面でファイル名を指定します。 ライブスタックのダーク・フラットなどのファイルを指定する画面。ライトフレームも含めて、メモリに保存されているファイルが一切合切一覧されてしまいます(*)。ライトフレームは別ディレクトリにするなど、もう少し指定しやすくなるといいですね。 (*)ファイル名の自動生成ルールや管理方法はもう少しブラッシュアップしてほしいものです。ダーク・バイアス・フラットは撮像対象が変わっても使い回せるはずなのですが、ファイル名には最後にGOTOした対象の名前が先頭に入ってしまったり・・ フラット撮像の所要時間は30秒露出の20枚でもわずか10分ほど。ライブスタックの場合は「事前に」取得する必要がありますが、よほど気温が変化しない限り使い回せます。時短撮影であっても、サクッとやっておくのが吉でしょう。 フラット補正はやっぱり普通に難しい^^;; フラットは天体写真で最も難しいといえます。それはASI AIR PROを使用したところで変わりません^^;;; オリオン大星雲の作例でもフラット撮像を試みたのですが、普通に合いませんでした(TT)。過補正ですね・・・何が悪いのかは現状不明。フラット道は厳しい・・・ もちろんバッチリ合うこともあります。上は「薄明フラット」の適用例。カメラレンズで広い星野を撮る(見る)場合は、フラット補正の有無が仕上がりに大きく影響します。よいフラットが得られればかなり使い回しができるので、いろいろ工夫してよいフラットを探し求めてみましょう^^ https://youtu.be/0QKP1ZMVzZ0 薄明フラットの撮影には今回フリーストップの経緯台マウント、スコープテックのZEROを使用してみました。薄明の空はかなり均質な無限遠光源なのでフラット撮像向きです。 試しにいろいろな方角に向けてフラットを撮像して比較してみました。自動でストレッチ(強調)できるASI AIRなら、輝度差が歴然。薄明の空で一番均質なのは天頂であることがわかりました。それでも太陽の方角が一番明るいはずなので、それを回転で均質化するというコンセプトです。これはけっこう成功した感じです。薄明フラット撮像ツールとしてフリーストップ経緯台が注目される日も近い? スタック枚数はどこに記録されるか 現時点(アプリver1.41)では、ライブスタックでのスタック枚数はfitsヘッダにのみ記録されているようです。このため、撮影後データを整理する際には、fitsヘッダが表示できる専用のソフトを使用して、ファイルを1個づつ開いて調べなければなりません。これは地道にとてもめんどくさい。ファイル名にも記録するようにしてほしいものです(*)。 (*)LightRoomやBridgeのようなソフトがfitsに対応してヘッダ情報とサムネイルが一覧できるようになればこの問題は全て解決するのですが。fitsファイルを一括でtifに変換してfitsヘッダをexifに変換するようなツールも欲しくなります。 まとめ 4回にわたってお届けした集中連載、いかがでしたか? 電視観望にも時短撮影にもライブスタックが大活躍。ASI AIR PROはこの機能だけでもアップグレードする価値があると感じました!ガチ撮りにも、時短撮影にも、電視観望にも。ASI AIR PROは多方面で、かなり使える!それが今回の連載での実感でした(*)。 (*)しかし・・微妙に動きが怪しいところがいくつか見られました。アプリのバージョンは2/8リリースの1.4.1-4.66ですが、もう少しデバッグしてからリリースしてほしいものです。今後の早期の品質改善に期待したいところです。 今回は試せていないのですが、ライブスタック機能はZWOの天体用CMOSカメラだけでなく、EOSやニコンのデジタルカメラでも使うことができます。こちらはまた時期を改めてレポートしたいと思います。 それでは4回の集中連載にお付き合いいただきありがとうございました!またお会いしましょう! 本連載は星見屋.com様に機材貸与および特別協賛をいただき、天文リフレクション編集部が独自の責任で企画・制作したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。 ...編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
貴重なレビュー、ありがとうございます。ぜひProへのバージョンアップしたくなりました。質問です。Canonのデジカメをメインカメラとした場合、ライブスタック画像の保存先をカメラにすることはできますか?
まだためしていないのですが確認次第追記したいと思います。おそらく無理だと推測しています。
初めてメール致します。戸田市の中村と申します。
【短期集中連載】ASI AIR PROレビュー(4)ライブスタック編・時短撮影と電視観望の新兵器を読ませて頂きました。非常に素晴らしく、今後参考にさせて頂きたいと思います。
と申しますのは、今数か月前からSharpCapを用いて星雲星団などを見始めたばかりの初心者です。まだSharpCapも十分に使いこなせていません。
そこで本連載を読んでの質問ですが、二つほどご教授頂ければと思います。
(1)私の機材は先生と同じBKP130にZWOASI290MCを付けて観ております。しかし、見れる画角が約0.5度程度でしかなく、M42の中心部分しか入りません。先生のはもっと広く、画角的には1.5度ないしは2度以上あるように見えます。これはどうしてでしょうか。何か特別な工夫をされているのでしょうか。
(2)SharpCapではFitsファイルになっており、それを今の自分は観ることが出来ず、一番簡単な”Save Exactly as seen”を使って見ています。今の私にはこのレベルで十分ですが、Fitsファイルを簡単に見る方法がありましたらお教え頂けますと幸いです。
初心者の質問でまったく恐縮ですが、宜しくお願い致します。
コメントありがとうございます。
(1)センサーサイズの違いですね。ASI290MCのセンサーサイズは1/2.8インチ(対角6.46 mm)で、ASI294MCは4/3(対角23.2mm)なので、焦点距離に換算すると3倍強の差があります。
(2)fitsファイルをブラウズするいいツールがないのが辛いところですね。一覧できるツールは私も欲しいのですが、いまのところ見つけられていません。私は1枚画像を確認するときはFitsLibetrator3を使用しています。その他にはDeep Sky Stacker、FlatAidProあたりでしょうか。ステライメージでも開けます。
モンゴルでご一緒した清瀬です。コロナであまり出歩けないので、自宅観望が増えました。ASIAIRを去年秋に導入し、まだあまり習熟していないうちにPROにチェンジし、昨日が初ライトでした。ガイドが何かで切断したあと再接続すると「All Equipment must be connected first」というメッセージが出て、ガイドに進めないという現象が起き、12時ごろふて寝してしまいましたが。
今年もモンゴルに行きたいと思っていますが、一体どうなることやら。早く終息してほしいですね。
清瀬様 ご無沙汰しております^^
一応AIRは起動後の機材の取り外しは自動認識してくれるはずなのですが、時折うまくいかないこともあるようです。そういうときはあっさり再起動しています。基本的にはPROは旧ASI AIRの上位互換ですが、ファームは頻繁にアップデートされているので、まめにストアから更新した方がよいと思います。
モンゴルは厳しい入国制限でコロナ防いでいますね。逆に「開国」の判断まで時間かかるかもしれませんね。
早く収束して欲しいものです。