みなさんこんにちは!好評連載の画像処理ワンポイント、今回もウィルタネン彗星に便乗?したテーマです。今回もテーマはシンプル。とにかく強調してみる、です。

「尾がなくてつまらない」「ぼやっとしてるだけ」との評価の多いウィルタネン彗星ですが、実は淡い淡い尾が伸びてるんです。それをとにかく「あぶり出して」みましょう。

素材画像

EOS5DMarkIII(非改造) EF400mmF2.8L IS II 1コマ当たり露出時間15秒 ISO6400 rawファイルをphotoshop camera rawでカラーバランスのみ調整後tiff出力した310枚をσクリップ(σ=2.0)で彗星基準加算平均合成 ビクセンAP赤道儀ノーガイド フラット、ダークなし

素材画像はこちらです。12月14/15日の晩のウィルタネン彗星です。総露出時間は75分ほど。310枚の画像を「σクリップ」で彗星基準で合成したので、背景の星がほとんど消えて彗星のみになっています(*)。



(*)このあたりの処理ノウハウは「画像処理ワンポイント(3)動きの速い彗星の処理」参照。

この画像を力の限り強調していきます。

強調の基本は「切り詰め」と「立てる」

レベル補正での強調例

素材画像を「レベル補正」を使って強調します。まず、上の赤丸の「シャドウスライダ」を右にスライドさせて、下のレベルを切り詰めます。

切り詰めた状態。「どこまで切り詰めるか」は、ヒストグラムの左のすそ野あたりです。上の図のようにすそ野とピークの間くらいにすると一発で済ませられますが、実践的にはいくつかレベル補正レイヤーを重ねて少しづつやる方が確実です。

次に、上の丸の「中間調スライダ」を左に寄せていきます。お!なんとなくテールが10時の方向に見えてきたような。

参考までに、レベル補正ではなくトーンカーブで強調した例も上げておきます。やっていることは結果的にはあまり変わりません。左端を裾野までスライドさせ(切り詰め)、山のあたりでカーブを大きく持ち上げて(立てて)います(*)。

(*)強調に「レベル補正」と「トーンカーブ」のどちらを使うかは、好みの範囲だと思います。トーンカーブの方がより柔軟ですが、慣れないうちは「訳がわからない」ことになることもあるので、初級者はレベル補正から始める方がよいかもしれません。

「強調」って何をやってるの?

この「強調」という操作は、オペレーションとしてはこの3つの手順通りで何も難しいところはありません。でも、これが「実際のところ何を意味しているのか」をきっちり理解するのはさほど簡単なことではありません(*)。

(*)これを他人に説明できれば初級者は卒業、レベルだと思います。

ヒストグラムの意味

素材画像のヒストグラムを、もうすこし詳しく見ながらその意味を考えてみましょう。

まず、ヒストグラムの山のてっぺん(山頂)。これは、画像の中で最も広い部分を占める輝度を示しています。天体写真の場合は、一般にこれは背景の平均輝度になります。乱暴にいえばこれより明るい部分が宇宙からの光で、これより暗い部分は「ゴミ」です。

この山頂から右は、微光星や星雲などの淡い部分、星などの高輝度部分と続いていきますが、星の面積は画像全体からすると微々たるものなので、ヒストグラムは急激に落ちて、最大輝度までを地を這うように続いてゆきます(*)。

(*)余談ですが、前回の記事で解説したような「白飛び」してしまう理由はここにあります。ヒストグラムからは何もないように見える高輝度部をうっかり切り詰めてしまうからです。

山頂からの左は、主に背景のムラとノイズ。ムラもノイズもなければ、山頂から左は鋭い崖になるはずなのですが、ムラとノイズの分だけ幅をもつ結果になります。そして一番左が背景光。街灯りや大気光、天の川などの星明かりになります。

強調によって起きること

レベル調整による強調で何が起きたのかをヒストグラムからみてみましょう。「シャドウスライダー」ですそ野の左を切り詰めたことで、背景光は「ざっくり」切り捨てられました。つまり「光害がなかったこと」になりました(*)。

(*)この例では結果としてはそうはなっていないんですが、目的としては、という意味です。

また、中間調スライダーを左に振ることにより、淡い星雲などのヒストグラムの幅を広げ、より広い階調をもてるようにしました(*)。逆に高輝度部の幅は狭まり、階調が圧縮されました。

(*)狭い意味ではこれが「強調」です。

しかし、その結果として山頂と裾野の間=背景のムラ・ノイズも拡大されてしまうことになりました。

強調による破綻とその対策(1)背景のムラ

素材画像を強調してみたものの、これは一目わかるように完全に破綻しています。このままではこれ以上の強調の余地が全くありません。その原因は大きく2つ。周辺減光(背景のムラ)とカラーバランスの崩れです。

この2つをなんとかしない限り、淡い部分だけを取りだして強調したくても不可能。せっかく素材画像の中にはそれが眠っているのに・・・・

Camera rawフィルターで周辺減光を補正する

周辺減光を補正するには、天体写真の教科書では「フラットフレーム」を使用することになっていますが(*)、ここではもっと簡単で安直な方法を使用します。

(*)天体写真で一番難しいのはこの「フラットフレーム」の作成と適用でしょう。

Photoshopには「Camera rawフィルター」という非常に優れた仕組みがあります。これの「レンズ補正」の「周辺光量補正」を使ってみましょう。

まず、処理前の画像のレイヤーを「複製」しておきましょう。



Camera rawフィルターを起動します。

「レンズ補正」タブの中の、

「周辺光量補正」を使用します。

調整方法のサンプル動画。ポイントは1つ。ヒストグラムの幅が一番狭くなるところを探します(*)。先に説明したように、周辺減光の存在がヒストグラムの山を広げているからです。

(*)エラソウに書いていますが、この事実、実はつい最近気がつきました。かなり使えます^^

初期状態と最適に調整した状態の比較。このくらい幅が狭くなります。また、幅がせまくなることによってきっちり合っていなかったカラーバランスの崩れが目立つようになってきました。素材画像は、Rが強すぎ、Bが弱すぎたようです。

Camera rawフィルター実行後。かなり改善しましたね!

レベル補正をさらに切り詰めて強調してみます。より明瞭に尾が出てきました!周辺減光を補正することで、さらなる強調の余地が生まれたのです。

Camera rawの補正はほんの少し過補正気味にしておいて、不透明度の調整で追い込むのも一手です。

強調による破綻(2)ホワイトバランスの崩れ

さて。次の破綻をなんとかしましょう。ホワイトバランスの調整です。上の画像のヒストグラムを見ると、周辺減光を補正することで、素材画像の時点では追い込めていなかったホワイトバランスの崩れが顕在化していることがわかります。

ホワイトバランスの調整は、今回はCamera rawフィルターでやってみましょう。「ホワイトバランス」の2つのスライダーを動かして、色別のヒストグラムが一致するように調整します。

「色温度-7、色かぶり0」で山が一致しました。

強調前の「素材画像」を補正する

できあがり。細かくいうとまだまだ破綻は残っています。上下にミラーボックスの被りが残っているし、右側にはアンプノイズとおぼしき赤いムラが浮いてきています。ノイズも多いし、彗星のコマが弱々しくて寂しい(*)。

(*)このあたりを細かくコントロールできる意味では、トーンカーブの方がレベル補正よりも優れています。

しかし。大事なことが一つあります。

ここまでの補正は、すべて「強調前の素材画像」に対してのみ行ってきました。レベル調整のレイヤーを非表示に変更すれば、いつでも強調前の状態に戻ることができます。

そう、ここから強調と仕上げが始まるのです。これまで長々とやってきたことは、「激しく強調したときの破綻ができるだけ少なくなるように、素材画像を微調整する」ことだったのです。強調処理の基本中の基本は、かぶり補正やカラーバランスの補正は強調前の画像に対して行うこと。強く強調して破綻した画像は、素材画像から何らかの大事な情報が失われてしまっていたり、修復困難なほどに崩れてしまっているからです。

周辺減光とカラーバランスを補正した素材画像を、トーンカーブのみで強調してみました。まあ作品としては不満が多いですが、淡い尾をあぶり出すという目的は一応果たせました!

まとめ

いかがでしたか?

レベル補正・トーンカーブ・Camera rawフィルターの「ホワイトバランス」と「周辺減光補正」、この4つしか今回は使っていません。「激しく強調する」プロセスは、決して難しいものではありません。「破綻させない」「破綻する可能性のある部分は、やり直せる状態を維持して作業する」ことに注意すれば、すこし慣れればこの程度の強調は誰にでも実現できるものだと思います。

ただし、その大前提として、ノイズの少ない素材画像がなければなりません。また、今回は比較的クセの少ない素直な光学系で、撮影地も光害の少ない場所でした。そのあたりの違いによって、画像処理の苦労は何倍にもなってしまうのですが(*)、そこから先は基本に沿って地道にやるしかありません。

(*)今回はかぶり補正で「グラデーションマスク」を一切使っていませんが、ある意味奇跡に近いほどの幸運です。グラデーションマスクの使用例は別の機会で詳しく解説したいと思います。

それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。次回またお会いしましょう!


機材協力:(株)ビクセン (AP赤道儀https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-6-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-6-150x150.jpg編集部画像処理ワンポイント画像処理みなさんこんにちは!好評連載の画像処理ワンポイント、今回もウィルタネン彗星に便乗?したテーマです。今回もテーマはシンプル。とにかく強調してみる、です。 「尾がなくてつまらない」「ぼやっとしてるだけ」との評価の多いウィルタネン彗星ですが、実は淡い淡い尾が伸びてるんです。それをとにかく「あぶり出して」みましょう。 素材画像 素材画像はこちらです。12月14/15日の晩のウィルタネン彗星です。総露出時間は75分ほど。310枚の画像を「σクリップ」で彗星基準で合成したので、背景の星がほとんど消えて彗星のみになっています(*)。 (*)このあたりの処理ノウハウは「画像処理ワンポイント(3)動きの速い彗星の処理」参照。 この画像を力の限り強調していきます。 強調の基本は「切り詰め」と「立てる」 レベル補正での強調例 素材画像を「レベル補正」を使って強調します。まず、上の赤丸の「シャドウスライダ」を右にスライドさせて、下のレベルを切り詰めます。 切り詰めた状態。「どこまで切り詰めるか」は、ヒストグラムの左のすそ野あたりです。上の図のようにすそ野とピークの間くらいにすると一発で済ませられますが、実践的にはいくつかレベル補正レイヤーを重ねて少しづつやる方が確実です。 次に、上の丸の「中間調スライダ」を左に寄せていきます。お!なんとなくテールが10時の方向に見えてきたような。 参考までに、レベル補正ではなくトーンカーブで強調した例も上げておきます。やっていることは結果的にはあまり変わりません。左端を裾野までスライドさせ(切り詰め)、山のあたりでカーブを大きく持ち上げて(立てて)います(*)。 (*)強調に「レベル補正」と「トーンカーブ」のどちらを使うかは、好みの範囲だと思います。トーンカーブの方がより柔軟ですが、慣れないうちは「訳がわからない」ことになることもあるので、初級者はレベル補正から始める方がよいかもしれません。 「強調」って何をやってるの? この「強調」という操作は、オペレーションとしてはこの3つの手順通りで何も難しいところはありません。でも、これが「実際のところ何を意味しているのか」をきっちり理解するのはさほど簡単なことではありません(*)。 (*)これを他人に説明できれば初級者は卒業、レベルだと思います。 ヒストグラムの意味 素材画像のヒストグラムを、もうすこし詳しく見ながらその意味を考えてみましょう。 まず、ヒストグラムの山のてっぺん(山頂)。これは、画像の中で最も広い部分を占める輝度を示しています。天体写真の場合は、一般にこれは背景の平均輝度になります。乱暴にいえばこれより明るい部分が宇宙からの光で、これより暗い部分は「ゴミ」です。 この山頂から右は、微光星や星雲などの淡い部分、星などの高輝度部分と続いていきますが、星の面積は画像全体からすると微々たるものなので、ヒストグラムは急激に落ちて、最大輝度までを地を這うように続いてゆきます(*)。 (*)余談ですが、前回の記事で解説したような「白飛び」してしまう理由はここにあります。ヒストグラムからは何もないように見える高輝度部をうっかり切り詰めてしまうからです。 山頂からの左は、主に背景のムラとノイズ。ムラもノイズもなければ、山頂から左は鋭い崖になるはずなのですが、ムラとノイズの分だけ幅をもつ結果になります。そして一番左が背景光。街灯りや大気光、天の川などの星明かりになります。 強調によって起きること レベル調整による強調で何が起きたのかをヒストグラムからみてみましょう。「シャドウスライダー」ですそ野の左を切り詰めたことで、背景光は「ざっくり」切り捨てられました。つまり「光害がなかったこと」になりました(*)。 (*)この例では結果としてはそうはなっていないんですが、目的としては、という意味です。 また、中間調スライダーを左に振ることにより、淡い星雲などのヒストグラムの幅を広げ、より広い階調をもてるようにしました(*)。逆に高輝度部の幅は狭まり、階調が圧縮されました。 (*)狭い意味ではこれが「強調」です。 しかし、その結果として山頂と裾野の間=背景のムラ・ノイズも拡大されてしまうことになりました。 強調による破綻とその対策(1)背景のムラ 素材画像を強調してみたものの、これは一目わかるように完全に破綻しています。このままではこれ以上の強調の余地が全くありません。その原因は大きく2つ。周辺減光(背景のムラ)とカラーバランスの崩れです。 この2つをなんとかしない限り、淡い部分だけを取りだして強調したくても不可能。せっかく素材画像の中にはそれが眠っているのに・・・・ Camera rawフィルターで周辺減光を補正する 周辺減光を補正するには、天体写真の教科書では「フラットフレーム」を使用することになっていますが(*)、ここではもっと簡単で安直な方法を使用します。 (*)天体写真で一番難しいのはこの「フラットフレーム」の作成と適用でしょう。 Photoshopには「Camera rawフィルター」という非常に優れた仕組みがあります。これの「レンズ補正」の「周辺光量補正」を使ってみましょう。 まず、処理前の画像のレイヤーを「複製」しておきましょう。 Camera rawフィルターを起動します。 「レンズ補正」タブの中の、 「周辺光量補正」を使用します。 https://youtu.be/PU-eMBGIYIQ 調整方法のサンプル動画。ポイントは1つ。ヒストグラムの幅が一番狭くなるところを探します(*)。先に説明したように、周辺減光の存在がヒストグラムの山を広げているからです。 (*)エラソウに書いていますが、この事実、実はつい最近気がつきました。かなり使えます^^ 初期状態と最適に調整した状態の比較。このくらい幅が狭くなります。また、幅がせまくなることによってきっちり合っていなかったカラーバランスの崩れが目立つようになってきました。素材画像は、Rが強すぎ、Bが弱すぎたようです。 Camera rawフィルター実行後。かなり改善しましたね! レベル補正をさらに切り詰めて強調してみます。より明瞭に尾が出てきました!周辺減光を補正することで、さらなる強調の余地が生まれたのです。 Camera rawの補正はほんの少し過補正気味にしておいて、不透明度の調整で追い込むのも一手です。 強調による破綻(2)ホワイトバランスの崩れ さて。次の破綻をなんとかしましょう。ホワイトバランスの調整です。上の画像のヒストグラムを見ると、周辺減光を補正することで、素材画像の時点では追い込めていなかったホワイトバランスの崩れが顕在化していることがわかります。 ホワイトバランスの調整は、今回はCamera rawフィルターでやってみましょう。「ホワイトバランス」の2つのスライダーを動かして、色別のヒストグラムが一致するように調整します。 「色温度-7、色かぶり0」で山が一致しました。 強調前の「素材画像」を補正する できあがり。細かくいうとまだまだ破綻は残っています。上下にミラーボックスの被りが残っているし、右側にはアンプノイズとおぼしき赤いムラが浮いてきています。ノイズも多いし、彗星のコマが弱々しくて寂しい(*)。 (*)このあたりを細かくコントロールできる意味では、トーンカーブの方がレベル補正よりも優れています。 しかし。大事なことが一つあります。 ここまでの補正は、すべて「強調前の素材画像」に対してのみ行ってきました。レベル調整のレイヤーを非表示に変更すれば、いつでも強調前の状態に戻ることができます。 そう、ここから強調と仕上げが始まるのです。これまで長々とやってきたことは、「激しく強調したときの破綻ができるだけ少なくなるように、素材画像を微調整する」ことだったのです。強調処理の基本中の基本は、かぶり補正やカラーバランスの補正は強調前の画像に対して行うこと。強く強調して破綻した画像は、素材画像から何らかの大事な情報が失われてしまっていたり、修復困難なほどに崩れてしまっているからです。 周辺減光とカラーバランスを補正した素材画像を、トーンカーブのみで強調してみました。まあ作品としては不満が多いですが、淡い尾をあぶり出すという目的は一応果たせました! まとめ いかがでしたか? レベル補正・トーンカーブ・Camera rawフィルターの「ホワイトバランス」と「周辺減光補正」、この4つしか今回は使っていません。「激しく強調する」プロセスは、決して難しいものではありません。「破綻させない」「破綻する可能性のある部分は、やり直せる状態を維持して作業する」ことに注意すれば、すこし慣れればこの程度の強調は誰にでも実現できるものだと思います。 ただし、その大前提として、ノイズの少ない素材画像がなければなりません。また、今回は比較的クセの少ない素直な光学系で、撮影地も光害の少ない場所でした。そのあたりの違いによって、画像処理の苦労は何倍にもなってしまうのですが(*)、そこから先は基本に沿って地道にやるしかありません。 (*)今回はかぶり補正で「グラデーションマスク」を一切使っていませんが、ある意味奇跡に近いほどの幸運です。グラデーションマスクの使用例は別の機会で詳しく解説したいと思います。 それでは、皆様のご武運をお祈り申し上げます。次回またお会いしましょう! 機材協力:(株)ビクセン (AP赤道儀)編集部発信のオリジナルコンテンツ