星雲のモクモクが手軽に楽しめるモノクロナローバンド撮影。連載第2回は、「ナローでおもしろい星雲」です。

Hαは全天に広がっている

全天Hα画像。 https://faun.rc.fas.harvard.edu/dfink/skymaps/halpha/jpegs/comp_big.jpg より。 – Spherical Image – RICOH THETA



Douglas Finkbeiner, dfinkbeiner@cfa.harvard.edu

まず、この画像をごらんください。ナローバンドの全天写真です。この画像はバージニア工科大学などのいくつかの研究機関が行った全天サーベイ画像を合成し全天画像としたものです。

なんだか凄い火の玉みたいですが、あちらこちらで輝いている雲はすべてわが銀河系内の電離水素によるもの。すごく淡いものも含まれていますが、ここの写真に写っているものすべてがモノクロナローバンドの撮影対象になります

Hα線は宇宙空間に最も広く存在する水素が発する光。このためナローバンドの他の輝線OIIIやSIIとは違って、銀河系全体に広く大量に広がっているのです。

 

そして、

その全部がおもしろい

のです。

冬の星雲ピックアップ

ケフェウス座のIC1396から、ほ座のガム星雲までを切り出してみました。面白い対象が目白押しです。その中からいくつかご紹介しましょう。

メジャー系代表格・カリフォルニア星雲

EOS6D(SEO-SP4) FSQ106ED+645RD 4min*18 Baader Hα7nm ISO6400 福岡県小石原

カラーでも人気で、とても明るく写しやすい対象です。
この作例は380mmのモザイクなし。総露出時間72分ですが、中心部の細かな構造から周辺の淡い部分までがばっちり。

モノクロでは、星雲の構造をより明瞭に描き出すことができます。前回でも触れましたが、RGBカラーだと中心部の構造は主に「赤色」となるため、画像にはデータとして存在していても、視覚的にはあまりはっきりとは認識できないためです。

淡い系代表格・Sh2-240

EOS6D(SEO-SP4) EF300mmF2.8LIS Baader Hα7nm 2min*99、30sec*150 ISO6400〜ISO25600 福岡県小石原

淡い方の代表格。総露出時間4時間半。300mmモザイクなし。
前掲の全天画像から「このくらいの淡さなら、これくらいの露出で写る」という感覚がわかっていただけるでしょうか。

この作例は遠征地でのものですが、10時間over露出で23区内で撮影された方もいらっしゃいます。ベランダでどこまで撮れるか?というのもテーマのひとつになります。

ベランダの好対象・馬の首星雲

FSQ106ED+645RD α7S ISO3200 4min×32 福岡市内ベランダ

ベランダ撮り。380mm、総露出2時間。
馬の首は明るく、ベランダでも良く写る対象です。

この作例はディテールが甘くいろいろ冴えませんが、上手に撮れば垂直方向のフィラメント構造と、水平方向の縞状の模様がもっと明瞭に描き出せるはず。

少々条件が悪くてもこの程度には写るという例です。

ファーストライトなら・M42

α7S FSQ106ED F5 ISO8000 30秒 Baader Hα7nm

何にもしなくてもこのくらい写る例。
30秒露出1枚の撮って出しです。これから始めるなら、ファーストライトのオススメは何といっても長焦点でのM42。どんな露出時間でもそれぞれなりの微細構造がとらえられます。

段階露出をしてHDR合成するのにも、いい練習になるでしょう。手の込んだ画像処理をする場合、色を気にしなくていいモノクロは恰好の練習材料になります。



広がり系・Sh2-310

α7S SIGMA85mmF1.4Art F2.030sec*75 240sec*20 Baader Hα7nm 福岡県小石原

わし星雲IC2177から南側に広がった領域。85mmのモザイクなし、総露出約2時間。

RGBカラーではなかなか作品にしづらい構図ですが、ナローバンドだとこの通り。
OIIIやSIIと違っては銀河に沿って広く分布しているので、モノクロHαナローバンドは、どんな焦点距離でもそれぞれの面白さがあります。85mmは広がった対象向き。

RGBカラーではかなり無理目の淡い領域であってもナローバンドならあぶりだすことができます。モザイクすればさらに広がったものまで対象になるでしょう。

広角星野・オリオン座付近

α7S SIGMA50mmF1.4Art F2.8 30sec×39 ISO12800 Bander Hα7nm みつえ高原

もう少し広角のレンズで。50mmでの撮影です。
露出時間が20分と少なく、強めのノイズ処理をかけたためディテールがかなり失われてしまいましたが、淡い部分もちゃんと写っています。

短めのレンズを使用する場合、輝度の高い領域(この作例ではM42や馬の首星雲、バラ星雲など)がツブレてしまうのがHαナローバンドの弱点。そこにこだわると短時間露出の画像を別途撮影しHDR合成する技が必要になってきます。

モクモクの描出・バーナードループ

α7S EF300mmF2.8LIS F2.8 baader Hα7nm ISO12800 30sec*40〜60  9フレームモザイク ISO400  15sec*30(M42のみ)福岡県小石原

既出の作例ですが、短秒画像でM42のツブレを抑制した例。300mmの30分露出を9枚モザイク。

いわゆる「モクモク(またはウネウネ)」というのは、あまり「細かくない(空間周波数の低い)」濃淡構造のこと。
モクモクを強調するのはハイパスが効果的ですが、画像を荒らす副作用があります。それを目立たなくするにはモザイクが効果的。

この作例は1枚30分露出なので元々かなり荒れているのですが、9枚モザイクの効果でびっくりするほどモクモクを出すことができました。

RGBカラーでここまで強調すると、色的に破綻して不自然になってしまいがちです。強い強調にも比較的寛容なのもモノクロのメリットです。

ディテール追求・くらげ星雲

α7S EF300mmF2.8L IS 30sec*431 ISO12800 Baader Hα7nm 福岡県小石原

くらげ星雲からモンキー星雲。
300mm1枚撮り、総露出3時間45分。こちらはモザイクと違ってたっぷり露出してクオリティを上げる戦略です。

上の画像の等倍切り出し。
このくらいの露出をかけると、淡めの部分にも非常に複雑な構造がひそんでいるのを描出できるようになります。
でも、引きだとサッパリわかりません。この手の対象はむしろトリミング前提のDrizzleにするか、もっと長焦点の方がよいでしょう。

この連載では大きな声で言えませんがw、こういうモノクロでは一本調子になってしまう対象は、実はRGB/SAOカラーで撮ってみたいものです^^;

夏から秋の星雲

折角なので、夏から秋の対象も。
作例はさすがに「ごちそうさま」状態でしょうから別の機会に。

南天の天の川沿い

日本から見られない南天の天の川も、Hαで満ちています。
なんといってもでかいのはガム星雲。そして明るいηカリーナ星雲。大小マゼラン雲の中も、明るい領域があちこちに。

筆者はまだ経験がないのですが、いつか南半球でも撮ってみたいものですね^^

まとめ

いかがでしたか?
「モノクロナローバンド」の無限ともいえる撮影対象のほんの一部を垣間見ていただきました。

この全天画像を眺めていると、あんなとこやこんなとこも撮って見たい!という思いがつのって、10杯くらいご飯が食べられそうです^^

筆者のこの秋の目標は「エリダヌス・バブル」。でも何mmでモザイクするか、いろいろ迷ってます^^

次回は「モノクロナローバンド」入門の第一関門、フィルター選びについてです。お楽しみに!

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/09/045c8ae643d274097bf89ce22c637130-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/09/045c8ae643d274097bf89ce22c637130-150x150.jpg編集部天体写真モノクロナローバンドで星雲を撮る  星雲のモクモクが手軽に楽しめるモノクロHαナローバンド撮影。連載第2回は、「Hαナローでおもしろい星雲」です。 Hαは全天に広がっている 全天Hα画像。 https://faun.rc.fas.harvard.edu/dfink/skymaps/halpha/jpegs/comp_big.jpg より。 - Spherical Image - RICOH THETA Douglas Finkbeiner, dfinkbeiner@cfa.harvard.edu まず、この画像をごらんください。Hαナローバンドの全天写真です。この画像はバージニア工科大学などのいくつかの研究機関が行った全天サーベイ画像を合成し全天画像としたものです。 なんだか凄い火の玉みたいですが、あちらこちらで輝いている雲はすべてわが銀河系内の電離水素によるもの。すごく淡いものも含まれていますが、ここの写真に写っているものすべてがモノクロHαナローバンドの撮影対象になります。 Hα線は宇宙空間に最も広く存在する水素が発する光。このためナローバンドの他の輝線OIIIやSIIとは違って、銀河系全体に広く大量に広がっているのです。   そして、 その全部がおもしろい のです。 冬の星雲ピックアップ ケフェウス座のIC1396から、ほ座のガム星雲までを切り出してみました。面白い対象が目白押しです。その中からいくつかご紹介しましょう。 メジャー系代表格・カリフォルニア星雲 カラーでも人気で、とても明るく写しやすい対象です。 この作例は380mmのモザイクなし。総露出時間72分ですが、中心部の細かな構造から周辺の淡い部分までがばっちり。 モノクロでは、星雲の構造をより明瞭に描き出すことができます。前回でも触れましたが、RGBカラーだと中心部の構造は主に「赤色」となるため、画像にはデータとして存在していても、視覚的にはあまりはっきりとは認識できないためです。 淡い系代表格・Sh2-240 淡い方の代表格。総露出時間4時間半。300mmモザイクなし。 前掲の全天画像から「このくらいの淡さなら、これくらいの露出で写る」という感覚がわかっていただけるでしょうか。 この作例は遠征地でのものですが、10時間over露出で23区内で撮影された方もいらっしゃいます。ベランダでどこまで撮れるか?というのもテーマのひとつになります。 ベランダの好対象・馬の首星雲 ベランダ撮り。380mm、総露出2時間。 馬の首は明るく、ベランダでも良く写る対象です。 この作例はディテールが甘くいろいろ冴えませんが、上手に撮れば垂直方向のフィラメント構造と、水平方向の縞状の模様がもっと明瞭に描き出せるはず。 少々条件が悪くてもこの程度には写るという例です。 ファーストライトなら・M42 何にもしなくてもこのくらい写る例。 30秒露出1枚の撮って出しです。これから始めるなら、ファーストライトのオススメは何といっても長焦点でのM42。どんな露出時間でもそれぞれなりの微細構造がとらえられます。 段階露出をしてHDR合成するのにも、いい練習になるでしょう。手の込んだ画像処理をする場合、色を気にしなくていいモノクロは恰好の練習材料になります。 広がり系・Sh2-310 わし星雲IC2177から南側に広がった領域。85mmのモザイクなし、総露出約2時間。 RGBカラーではなかなか作品にしづらい構図ですが、Hαナローバンドだとこの通り。 OIIIやSIIと違ってHαは銀河に沿って広く分布しているので、モノクロHαナローバンドは、どんな焦点距離でもそれぞれの面白さがあります。85mmは広がった対象向き。 RGBカラーではかなり無理目の淡い領域であってもHαナローバンドならあぶりだすことができます。モザイクすればさらに広がったものまで対象になるでしょう。 広角星野・オリオン座付近 もう少し広角のレンズで。50mmでの撮影です。 露出時間が20分と少なく、強めのノイズ処理をかけたためディテールがかなり失われてしまいましたが、淡い部分もちゃんと写っています。 短めのレンズを使用する場合、輝度の高い領域(この作例ではM42や馬の首星雲、バラ星雲など)がツブレてしまうのがHαナローバンドの弱点。そこにこだわると短時間露出の画像を別途撮影しHDR合成する技が必要になってきます。 モクモクの描出・バーナードループ 既出の作例ですが、短秒画像でM42のツブレを抑制した例。300mmの30分露出を9枚モザイク。 いわゆる「モクモク(またはウネウネ)」というのは、あまり「細かくない(空間周波数の低い)」濃淡構造のこと。 モクモクを強調するのはハイパスが効果的ですが、画像を荒らす副作用があります。それを目立たなくするにはモザイクが効果的。 この作例は1枚30分露出なので元々かなり荒れているのですが、9枚モザイクの効果でびっくりするほどモクモクを出すことができました。 RGBカラーでここまで強調すると、色的に破綻して不自然になってしまいがちです。強い強調にも比較的寛容なのもモノクロのメリットです。 ディテール追求・くらげ星雲 くらげ星雲からモンキー星雲。 300mm1枚撮り、総露出3時間45分。こちらはモザイクと違ってたっぷり露出してクオリティを上げる戦略です。 上の画像の等倍切り出し。 このくらいの露出をかけると、淡めの部分にも非常に複雑な構造がひそんでいるのを描出できるようになります。 でも、引きだとサッパリわかりません。この手の対象はむしろトリミング前提のDrizzleにするか、もっと長焦点の方がよいでしょう。 この連載では大きな声で言えませんがw、こういうモノクロでは一本調子になってしまう対象は、実はRGB/SAOカラーで撮ってみたいものです^^; 夏から秋の星雲 折角なので、夏から秋の対象も。 作例はさすがに「ごちそうさま」状態でしょうから別の機会に。 南天の天の川沿い 日本から見られない南天の天の川も、Hαで満ちています。 なんといってもでかいのはガム星雲。そして明るいηカリーナ星雲。大小マゼラン雲の中も、明るい領域があちこちに。 筆者はまだ経験がないのですが、いつか南半球でも撮ってみたいものですね^^ まとめ いかがでしたか? 「モノクロHαナローバンド」の無限ともいえる撮影対象のほんの一部を垣間見ていただきました。 この全天画像を眺めていると、あんなとこやこんなとこも撮って見たい!という思いがつのって、10杯くらいご飯が食べられそうです^^ 筆者のこの秋の目標は「エリダヌス・バブル」。でも何mmでモザイクするか、いろいろ迷ってます^^ 次回は「モノクロHαナローバンド」入門の第一関門、フィルター選びについてです。お楽しみに!  編集部発信のオリジナルコンテンツ