矢継ぎばやに「画像処理ワンポイント」。今回は「平成最後の?肉眼彗星ウィルタネン彗星(46P)特別企画として「動きの速い彗星の処理」をお届けします!

「動きの速い彗星」を撮ると何が起きるか

2018年11月29日 22h20m〜23h00m FSQ106ED 645レデューサ EOS6D(SEO-SP4) ISO3200 30秒 恒星基準で74枚加算平均合成 ダーク、フラットなし カラーバランス・トーンカーブのみで補正 SXP赤道儀 福岡県小石原

彗星が明るくなるときは、太陽にも地球にも接近していることが多いため、かなり速く星空の中を移動していきます。まさに今近づきつつあるウィルタネン彗星を37分間撮影したものが上の画像。

拡大すると、はっきり彗星の中心の「核」が流れてしまっているのがわかりますね。今回のテーマは、こういった「動きの速い彗星」をうまく画像処理するための方法です。

総露出時間を短くする

一番簡単な対処は「露出時間を短くする」こと。上の画像は、同じ画像素材を総露出時間(コンポジット枚数)を変えた比較。総露出時間を短くするほど、彗星の流れが少なくなっています。

しかし、当然ではありますが、枚数が少なくなるほどノイズが増加してしまいます。この兼ね合いをどうするかが悩みどころ。彗星は元々ぼんやりとしていて、核の周りの中心部は明るく白飛びしがちなので、少々流れていても目立たないこともあります。彗星の実際のディテールの出方を見ながら、ちょうどいい頃合いになる枚数を調整してみましょう。上の例では37分はさすがに流れすぎた感じですが、8分〜16分ならじゅうぶんアリな気がします。

彗星基準のコンポジット

彗星基準 74枚コンポジット

2つめの対処は「彗星基準」でコンポジットすること。上の作例はDSS(Deep Sky Stacker)を使用して、彗星の核を基準にコンポジットしたものです。星は流れてしまっていますが、彗星はきっちり止まっています。彗星基準でコンポジットしてみると、ウィルタネン彗星の「核」はとても小さく明るいことがわかります。また、核のごく近傍から、11時の方向に尾が伸びているのがはっきり認められます。彗星の「核」や「尾」のディテールを追求したいような場合は、この方法がオススメです。

DSSによる彗星基準コンポジット

彗星基準のコンポジットは、それなりに手間がかかります。DSSを使用した彗星基準コンポジットの方法を簡単にご紹介しておきましょう(*)。

(*)ステライメージの場合、もう少し楽な方法で実現できるようです。
参考)https://www.astroarts.co.jp/products/stlimg7/article/comet/metcalf-j.shtml

流れとしては、通常通り基準星を取得した上で、画面右の「彗星モード」のボタンをクリックし、彗星の基準位置(核)を指定します。この指定、なんと「全てのコマ」に対して行わなければなりません(泣)。枚数が多いほど面倒です^^;;(*)

2019/12/4追記)73コマの元画像の場合、5コマ指定した時点で「Commetタブ」が現れることを確認しました。全部指定する必要はない模様です。これなら現実的ですね。

2019/12/10追記)「撮り始めの最初のフレームと、最後に撮ったフレームと、レジストレーション後に最高スコアとなった画像の三つ」を指定すれば彗星基準のコンポジットが可能になるとの情報をいただきました。ホシミスト3013様、ありがとうございます。

ホシミスト3013の天体撮影記・DeepSkyStackerでの彗星核基準メトカーフスタック
https://plaza.rakuten.co.jp/aabckenfuji/diary/201812080000/

こちらの記事が大いに参考になります!

(*)昔、一部の指定だけでやったような気がするのですが・・・全部指定しないと「commet」のタブが表示されませんでした。ちなみに、ステライメージは2つの基準位置と移動量のパラメータを入力すれば自動でやってくれるようです。

彗星の位置指定を行うと、「Stacking Parameter」の設定画面にCommetタブが現れます。ここで「Commet Stacking」をチェックすると彗星基準のコンポジットになります。

Zero Gravity DeepSkyStackerによる恒星・彗星スタッキング
https://keepwb.wordpress.com/2013/11/18/deepskystackerによる恒星・彗星スタッキング/

上のリンク先のブログに、ていねいな解説記事があります。参考になるのでぜひごらん下さい!

彗星も星も流さない方法・DSSの場合

だんだん欲が出てくるのが人間というもの。「彗星も星も流したくない!」そんな欲張りな人のための方法も、DSSには「一応」用意されています。

方法は簡単。「Comet」タブで「Stars + Comet Stacking」のチェックを選ぶだけです。

こんな感じで、とりあえず彗星も恒星も流れていないことがわかります。でも、核がなんだか流れている画像と流れていない画像が重なったようになっていますね・・・

しかも、強い強調をかけると、変なムラムラが出てきてしまいました。ソフトウェア処理の限界なのでしょうか。DSSの「両方流さないコンポジット」は簡単に使える反面、こんな風な「汚い」画像になることがあるので「万能」ではありません(*)。

(*)個人の価値観次第ですが・・・かなり微妙な感じです。

彗星も星も流さない方法「手作業」の場合

別の方法も試してみました。この方法は編集子の「我流」ですので、参考程度に聞き流してくださいね。

まず、恒星基準でコンポジットしておきます。

次に、彗星基準でコンポジットします。このとき「Median Kappa-Sigma clipping」を指定するのがミソ。(追記:Medianは必須ではありません。Median指定の有無で微妙に星の消え方が異なりますが、どちらであるべきかという情報は得られていません。)

あら不思議、星がほとんど消えているではありませんか。「Kappa-Sigma clipping」とは、合成する画素のうち、大きく値がずれているものを除外してしまうアルゴリズム。彗星基準の場合、星は移動していくので、特定の画素でみると「異常値」とみなされはじかれてしまい、こんな風にほとんど星を消すことができます(*)。

(*)DSSの「Stars + Comet Stacking」を実行すると、スタック処理が2回走ります。おそらく、恒星基準・彗星基準の2枚の画像を生成するところまでは同じような処理なのでしょう。

この星消し画像と恒星基準画像を「ハメコミ合成」するのですが、ここからがケースバイケース。作例のウィルタネン彗星の場合、コマが大きく広がっていて流れが問題になる部分は核の周辺のみ。そこで、褒められた方法ではないのですが、核の周辺のみを切り貼りします。

範囲選択して、

境界をぼかしてからコピーペースト。このレイヤーを恒星基準画像に重ね合わせます。

できあがり。核周辺の輝度分布は本来の姿から微妙にずれているのでもはや科学写真ではありませんが、許してください^^;; この路線で考えると、彗星が該当箇所から離れてしまってから撮影した画像に、星消しの彗星画像を比較明合成する手もあるかもしれません。

やり方は他にもいろいろあるかと思います。いろいろ工夫してみてください。

Medianとシグマクリップには要注意

最後にひとつ。恒星基準でコンポジットする場合、単純な加算平均ではなく、「Median(中央値)」や「シグマクリップ」を使用すると「副作用」が起きることがあります。

上の例は74コマの素材画像を加算平均・シグマクリップ(Kappa-Sigma clipping)の例。彗星が動いているため、彗星基準で星が消えるのと同じ理由で、彗星の核が変になってしまっています。彗星をより自然に表現するには、単純な加算平均が推奨です。ただし、人工衛星を簡単に消すことはできなくなります。彗星のコンポジットの際には、これらの設定と効果を意識して行う必要があります。

ウィルタネン彗星(46P)撮影のオススメ

いろいろと書いてきましたが「彗星が流れる」のが、いいのか悪いのかはケースバイケース。今回のウィルタネン彗星の場合、「何事もなければ(ハーストなどが起きない限り)」長焦点で拡大しても、今とあまり変わらないぼんやり大きな姿が写るだけで、むしろ彗星が流れるのは上等として、長時間露出で周辺の星野と合わせ込んだ方が面白いかもしれません。

上の画像は12月16日ごろの彗星の位置に、11月29日の画像をはめ込んだ合成写真。尾もマスクでトッピングしています^^;; 彗星は流れていますが、それはそれ。十分絵になります。

こんな風に写るのかどうかは定かではありませんが、分子雲が浮き出すぐらいの強調をかければ、大きさ的にはそれほどかけはなれたものにはならないと予測します。

とにかく、今回のウィルタネン彗星は月明かりをのぞけばほぼ一晩撮影ができます。流れるかどうかは後処理に任せて、撮影の際は後処理を意識して多めのコマ数を撮っておくのがオススメです。その際、画像処理の自由度を考えると30秒、長くても1分くらいの短めの露出がよいかもしれません。

まとめ

いかがでしたか?

これからますます地球に接近し、どんどん動きの速くなるウィルタネン彗星。いずれ来るであろう?「今世紀最大の大彗星」に備えて、この機会に「動きの速い彗星」を美しく処理する方法を、撮影条件の良いウィルタネン彗星でマスターしておくのはいかがでしょうか?

 

 

http://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x538.jpghttp://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2018/12/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集部画像処理ワンポイント新着矢継ぎばやに「画像処理ワンポイント」。今回は「平成最後の?肉眼彗星」ウィルタネン彗星(46P)特別企画として「動きの速い彗星の処理」をお届けします! 「動きの速い彗星」を撮ると何が起きるか 彗星が明るくなるときは、太陽にも地球にも接近していることが多いため、かなり速く星空の中を移動していきます。まさに今近づきつつあるウィルタネン彗星を37分間撮影したものが上の画像。 拡大すると、はっきり彗星の中心の「核」が流れてしまっているのがわかりますね。今回のテーマは、こういった「動きの速い彗星」をうまく画像処理するための方法です。 総露出時間を短くする 一番簡単な対処は「露出時間を短くする」こと。上の画像は、同じ画像素材を総露出時間(コンポジット枚数)を変えた比較。総露出時間を短くするほど、彗星の流れが少なくなっています。 しかし、当然ではありますが、枚数が少なくなるほどノイズが増加してしまいます。この兼ね合いをどうするかが悩みどころ。彗星は元々ぼんやりとしていて、核の周りの中心部は明るく白飛びしがちなので、少々流れていても目立たないこともあります。彗星の実際のディテールの出方を見ながら、ちょうどいい頃合いになる枚数を調整してみましょう。上の例では37分はさすがに流れすぎた感じですが、8分〜16分ならじゅうぶんアリな気がします。 彗星基準のコンポジット 2つめの対処は「彗星基準」でコンポジットすること。上の作例はDSS(Deep Sky Stacker)を使用して、彗星の核を基準にコンポジットしたものです。星は流れてしまっていますが、彗星はきっちり止まっています。彗星基準でコンポジットしてみると、ウィルタネン彗星の「核」はとても小さく明るいことがわかります。また、核のごく近傍から、11時の方向に尾が伸びているのがはっきり認められます。彗星の「核」や「尾」のディテールを追求したいような場合は、この方法がオススメです。 DSSによる彗星基準コンポジット 彗星基準のコンポジットは、それなりに手間がかかります。DSSを使用した彗星基準コンポジットの方法を簡単にご紹介しておきましょう(*)。 (*)ステライメージの場合、もう少し楽な方法で実現できるようです。 参考)https://www.astroarts.co.jp/products/stlimg7/article/comet/metcalf-j.shtml 流れとしては、通常通り基準星を取得した上で、画面右の「彗星モード」のボタンをクリックし、彗星の基準位置(核)を指定します。この指定、なんと「全てのコマ」に対して行わなければなりません(泣)。枚数が多いほど面倒です^^;;(*) 2019/12/4追記)73コマの元画像の場合、5コマ指定した時点で「Commetタブ」が現れることを確認しました。全部指定する必要はない模様です。これなら現実的ですね。 2019/12/10追記)「撮り始めの最初のフレームと、最後に撮ったフレームと、レジストレーション後に最高スコアとなった画像の三つ」を指定すれば彗星基準のコンポジットが可能になるとの情報をいただきました。ホシミスト3013様、ありがとうございます。 ホシミスト3013の天体撮影記・DeepSkyStackerでの彗星核基準メトカーフスタック https://plaza.rakuten.co.jp/aabckenfuji/diary/201812080000/ こちらの記事が大いに参考になります! (*)昔、一部の指定だけでやったような気がするのですが・・・全部指定しないと「commet」のタブが表示されませんでした。ちなみに、ステライメージは2つの基準位置と移動量のパラメータを入力すれば自動でやってくれるようです。 彗星の位置指定を行うと、「Stacking Parameter」の設定画面にCommetタブが現れます。ここで「Commet Stacking」をチェックすると彗星基準のコンポジットになります。 Zero Gravity DeepSkyStackerによる恒星・彗星スタッキング https://keepwb.wordpress.com/2013/11/18/deepskystackerによる恒星・彗星スタッキング/ 上のリンク先のブログに、ていねいな解説記事があります。参考になるのでぜひごらん下さい! 彗星も星も流さない方法・DSSの場合 だんだん欲が出てくるのが人間というもの。「彗星も星も流したくない!」そんな欲張りな人のための方法も、DSSには「一応」用意されています。 方法は簡単。「Comet」タブで「Stars + Comet Stacking」のチェックを選ぶだけです。 こんな感じで、とりあえず彗星も恒星も流れていないことがわかります。でも、核がなんだか流れている画像と流れていない画像が重なったようになっていますね・・・ しかも、強い強調をかけると、変なムラムラが出てきてしまいました。ソフトウェア処理の限界なのでしょうか。DSSの「両方流さないコンポジット」は簡単に使える反面、こんな風な「汚い」画像になることがあるので「万能」ではありません(*)。 (*)個人の価値観次第ですが・・・かなり微妙な感じです。 彗星も星も流さない方法「手作業」の場合 別の方法も試してみました。この方法は編集子の「我流」ですので、参考程度に聞き流してくださいね。 まず、恒星基準でコンポジットしておきます。 次に、彗星基準でコンポジットします。このとき「Median Kappa-Sigma clipping」を指定するのがミソ。(追記:Medianは必須ではありません。Median指定の有無で微妙に星の消え方が異なりますが、どちらであるべきかという情報は得られていません。) あら不思議、星がほとんど消えているではありませんか。「Kappa-Sigma clipping」とは、合成する画素のうち、大きく値がずれているものを除外してしまうアルゴリズム。彗星基準の場合、星は移動していくので、特定の画素でみると「異常値」とみなされはじかれてしまい、こんな風にほとんど星を消すことができます(*)。 (*)DSSの「Stars + Comet Stacking」を実行すると、スタック処理が2回走ります。おそらく、恒星基準・彗星基準の2枚の画像を生成するところまでは同じような処理なのでしょう。 この星消し画像と恒星基準画像を「ハメコミ合成」するのですが、ここからがケースバイケース。作例のウィルタネン彗星の場合、コマが大きく広がっていて流れが問題になる部分は核の周辺のみ。そこで、褒められた方法ではないのですが、核の周辺のみを切り貼りします。 範囲選択して、 境界をぼかしてからコピーペースト。このレイヤーを恒星基準画像に重ね合わせます。 できあがり。核周辺の輝度分布は本来の姿から微妙にずれているのでもはや科学写真ではありませんが、許してください^^;; この路線で考えると、彗星が該当箇所から離れてしまってから撮影した画像に、星消しの彗星画像を比較明合成する手もあるかもしれません。 やり方は他にもいろいろあるかと思います。いろいろ工夫してみてください。 Medianとシグマクリップには要注意 最後にひとつ。恒星基準でコンポジットする場合、単純な加算平均ではなく、「Median(中央値)」や「シグマクリップ」を使用すると「副作用」が起きることがあります。 上の例は74コマの素材画像を加算平均・シグマクリップ(Kappa-Sigma clipping)の例。彗星が動いているため、彗星基準で星が消えるのと同じ理由で、彗星の核が変になってしまっています。彗星をより自然に表現するには、単純な加算平均が推奨です。ただし、人工衛星を簡単に消すことはできなくなります。彗星のコンポジットの際には、これらの設定と効果を意識して行う必要があります。 ウィルタネン彗星(46P)撮影のオススメ いろいろと書いてきましたが「彗星が流れる」のが、いいのか悪いのかはケースバイケース。今回のウィルタネン彗星の場合、「何事もなければ(ハーストなどが起きない限り)」長焦点で拡大しても、今とあまり変わらないぼんやり大きな姿が写るだけで、むしろ彗星が流れるのは上等として、長時間露出で周辺の星野と合わせ込んだ方が面白いかもしれません。 上の画像は12月16日ごろの彗星の位置に、11月29日の画像をはめ込んだ合成写真。尾もマスクでトッピングしています^^;; 彗星は流れていますが、それはそれ。十分絵になります。 こんな風に写るのかどうかは定かではありませんが、分子雲が浮き出すぐらいの強調をかければ、大きさ的にはそれほどかけはなれたものにはならないと予測します。 とにかく、今回のウィルタネン彗星は月明かりをのぞけばほぼ一晩撮影ができます。流れるかどうかは後処理に任せて、撮影の際は後処理を意識して多めのコマ数を撮っておくのがオススメです。その際、画像処理の自由度を考えると30秒、長くても1分くらいの短めの露出がよいかもしれません。 まとめ いかがでしたか? これからますます地球に接近し、どんどん動きの速くなるウィルタネン彗星。いずれ来るであろう?「今世紀最大の大彗星」に備えて、この機会に「動きの速い彗星」を美しく処理する方法を、撮影条件の良いウィルタネン彗星でマスターしておくのはいかがでしょうか?    編集部発信のオリジナルコンテンツ