みなさんこんにちは!ASIAIR、便利ですよね。オートガイドやフォーカサー・ローテーターなどのデバイスの制御はもちろん、「プレートソルビング機能(撮影した画像の星並びから望遠鏡の向きを自動的に検知する」や「プラン機能・オートラン機能(設定した撮影シーケンスを自動的に実行する」など、難しい天体撮影を簡単にする機能が満載で、多くの天体写真ファンに活用されています。

ところで、赤道儀は何をお使いですか?当然ですが、ビクセン赤道儀でもASIAIRが使えまただ、ビクセンの最新のコントローラー「ワイヤレスユニット」ではASIAIRへの対応が若干遅れたこともあって(*)、ワイヤレスユニットでASIAIRを使用することに躊躇されている方がいらっしゃるかもしれません。

(*)ワイヤレスユニットの発売が2022年3月、ASIAIRがワイヤレスユニットに対応したアップデートが2024年3月。



実は筆者もワイヤレスユニットへの移行をためらっていたところがあったのですが(*)、今回あらためてワイヤレスユニットを使用してみたところ、非常に軽快に・簡単に使用することができました。大事なことなので繰り返しますが、ビクセン赤道儀+ワイヤレスユニットでも、ASIAIRはちゃんと使えます。本記事では、その具体的な接続方法や使用上の注意点をわかりやすくまとめました。

(*)仕事柄、確実に使える前の環境を使う方が安心だろうという理由だったのですが、逆にSTAR BOOK TENで正しくない設定(Auto Flip DEC Output After MedirianをONにしていなかった)で使用していたことが今回判明し、もっと早く検証・移行しておくべきだったと後悔しております・・・

Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニット
https://www.vixen.co.jp/product/25029_5/

ASIAIRは非常に多くの種類の架台に対応していますが、逆に架台毎に接続方法が異なったり、微妙に設定を変更しなければならないこともあります。ビクセン赤道儀をお使いの皆様とこれからビクセン赤道儀を使用される皆様が、迷うことなくASIAIRを活用できるよう、本記事を捧げたいと思います!

目次

ビクセン赤道儀とワイヤレスユニット、そしてASIAIR

最新の赤道儀コントローラー「ワイヤレスユニット」

従来製品(右)のSTAR BOOK TEN(スターブックテン)は、液晶画面とキーを持つ専用のコントローラーでしたが、ワイヤレスユニット(左)はスマーフォンまたはタブレットで使用するため、コントローラーは圧倒的に小型になっています。ケーブルも不要になりました。
Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニット
https://www.vixen.co.jp/product/25029_5/

まず、ワイヤレスユニット(上画像左)について簡単に解説しておきます。ワイヤレスユニットは2022年3月に発売された、それまでの「STAR BOOK TEN(スターブックテン、上画像右)」に代わるビクセン赤道儀の最新のコントローラーです。最大の特徴は専用のコントローラー筐体を持たず、スマートフォン・タブレットで動作する専用アプリ「STAR BOOK Wireless」からWiFi通信で赤道儀を制御する形になったことです。

これにより、赤道儀とコントローラーの接続がシンプルになり、電源ケーブル以外の架台に接続するケーブルがなくなりました。アプリSTAR BOOK Wirelessは操作性がSTAR BOOK TENとできるだけ同じになるように設計されていて、従来のSTAR BOOK TENユーザーにとっても違和感のないものとなっています(*)

(*)寒冷地で手袋を使用した場合など、STAR BOOK TENのキー操作が勝るケースもありますが、スマホがここまで広く普及した現在、多くのユーザーが日常で使用しているスマホで操作できるメリットを評価するべきでしょう。

前モデルのSTAR BOOK TENは生産終了となり、ビクセンの赤道儀セットも順次ワイヤレスユニットへの置き換えが進み、ローエンドモデルであるSX2赤道儀・2軸駆動対応のAP-WLマウントも、標準で自動導入対応となりました(*)。

(*)ワイヤレスユニット登場以前は、SX2・AP赤道儀には自動導入対応の「STAR BOOK TEN」ではなく、十字キー操作のみの「STAR BOOK ONE」が同梱されていました。なお、AP赤道儀の1軸駆動モデル(AP-SMマウント:STAR BOOK ONEコントローラー同梱)と手動モデル(APマウント:付属コントローラーなし)は自動導入対応ではありません。

2025年6月に最上位モデルのAXD2が「WL」モデルとなったことで、ビクセン製の2軸駆動赤道儀の全てがワイヤレスユニット版となりました。

ASIAIRとビクセン赤道儀

左)初代ASIAIR。プラ製の汎用のラズパイ筐体を使用。中)ASIAIR PRO。専用のアルミ削り出し筐体になりました。右)ASIAIR Plus。ストレージがマイクロSDカードからeMMCに変更、アンテナが追加され通信がより安定しました。 なお、筐体に装着しているアルカプレート・クランプは付属のものではありません。

「ASIAIR」は中国のZWO社が開発・販売している、天体撮影用の統合制御デバイスです。2018年の発売以来年々進化を続けていて、カメラ・赤道儀だけでなく、フィルターホイールやフォーカサー、ローテーターなどの様々な周辺デバイスをコントロール可能で、天体写真ファンにとってなくてはならないツールの一つになっています。

ASIAIRは市販されている多くの赤道儀と接続が可能ですが、そのためにはASIAIRに「接続ドライバのようなもの(*)」が実装される必要があります。赤道儀によっては未対応だったり、対応までに時間を要するものもあるのですが、ビクセン赤道儀の場合STAR BOOK TENに対応したのが2019年7月、ワイヤレスユニットに対応したのは2024年の3月です。

(*)筆者は正確なソフトウェアの内部構造を把握していないので「接続ドライバのようなもの」と表記しました。この「接続ドライバのようなもの」はASIAIRの一部の機能で、ユーザーが明示的にインストールするものではありません。

ワイヤレスユニット(左)とSTAR BOOK TEN(右)のセットアップ比較。ワイヤレスユニットによりケーブルが減り、よりすっきりしました。鏡筒はビクセンのSDP65SSです。

上の画像(左)はワイヤレスユニットとASIAIRを使用したセットアップイメージです。STAR BOOK TENの場合、LANケーブルでASIAIR本体とSTAR BOOK TENを接続する必要がありましたが(右)、WiFi接続となったワイヤレスユニットではそれが不要になっています。赤道儀とSTAR BOOK TENを接続する太いケーブルも不要になり、ずっとシンプルな接続となりました。

なお、ASIAIRを使用してオートガイドを行う場合(*)、ワイヤレスユニットのST4端子にケーブルを接続する必要はありません。

(*)ASIAIRの接続先架台を「Vixen Wireless Unit」にした場合。「on camera ST4」を指定した場合はケーブル接続が必要ですが、この場合は自動導入に対応しないため、この方法をあえて使用するメリットはほとんどないでしょう

ワイヤレスユニットの起動と設定 

ワイヤレスユニットの電源ON

架台にワイヤレスユニットを接続し電源を投入すると、ワイヤレスユニットの本体の「電源インジケーター」が点灯します(左)。ほどなく(数秒後)「無線接続インジケーター」も赤色に灯ります(中)。この状態でワイヤレスユニットのWiFiネットワークに端末が接続可能になり、ワイヤレスユニットに接続する端末が存在するときは「無線接続インジケーター」が青色になります(右)。

ワイヤレスユニットを赤道儀のコネクタに接続したら電源をONしてみましょう。上の画像中のように「無線接続インジケーター」が点灯していればWiFi接続可能な状態です。

ワイヤレスユニットのWiFiに接続する

iPhoneの場合。「設定」の「Wi-Fi」画面を開きます。

次に、端末(スマートフォンまたはタブレット)の設定画面から、ワイヤレスユニットのWiFiネットワークに接続します。上の画像左のように「VixenWirelessUnitNNNN(Nは数字)」のように表示されているのがワイヤレスユニットのWiFiです。

選択すると初回接続時にはWiFiのパスワードを訊いてきます。初期パスワードは「1234567890」ですので、それを入力します。上の画像右のようになっていれば接続OKです。

アプリSTAR BOOK Wirelessのインストール

https://www.vixen.co.jp/app/star-book-wireless/ こちらのリンク先からダウンロードが可能です。

ワイヤレスユニットを使用する場合、アプリSTAR BOOK Wirelessをインストールしたスマートフォンまたはタブレットが必須です。対応OSはiPhoneまたはAndroid。アプリストアから最新バージョンのアプリをインストールしておきましょう。

アプリSTAR BOOK Wirelessの起動

ワイヤレスユニットのWiFiに接続した場合のアプリSTAR BOOK Wirelessの標準的な起動画面フロー。 ワイヤレスユニットのWiFiに接続していない場合は、軌道要素ダウンロードの画面となります。

次に、アプリSTAR BOOK Wirelessを起動します。このとき「前回の設定を使用する」を選択すると、最後にワイヤレスユニットの電源をOFFしたときの架台の向きとアライメント情報を復元することができます。これはSTAR BOOK TENでも実装されている機能です。逆に、STAR BOOK Wirelessアプリで接続せず、いきなりASIAIRから接続した場合は、初回接続時に架台が初期化(西向き水平のホームポジションに向いていることになる)されることに注意が必要です。

架台に接続し星図画面が開いたら、画面をスワイプして架台が動作することを確認しておきましょう。アプリSTAR BOOK Wirelessは起動時・自動導入終了時には常に「スコープモード」になっています。

ASIAIRを使用する場合、アプリSTAR BOOK Wirelessは、ワイヤレスユニットの設定を変更・確認する場合など以外は基本的に立ち上げる必要はありませんが、最新のファームウェアアップデートのチェックや架台の設定を確認する意味でも、使用する日の最初にまずアプリSTAR BOOK Wirelessからワイヤレスユニットに接続することをオススメします。

必ずSSIDとパスワードを変更しておこう

左)出荷時のデフォルト設定 右)SSID/パスワード変更後 WiFiの設定を変更するとワイヤレスユニット本体を電源OFF/ONと再接続が必要になります。ちょっと面倒ですが初回だけの操作なので、忘れずにやっておくようにしましょう。

STAR BOOK Wirelessアプリを初めて起動した際には、まず最初に「設定/無線LAN」の画面から、WiFiネットワークのSSIDを「自分のどの機材なのかが判別できる名前」に、パスワードは初期値とは異なる値に、変更しておきましょう。

これはとても大事なことで、この設定変更をせずに撮影地に出かけた際、近くにワイヤレスユニットを使用している人がいた場合に「どれが自分のワイヤレスユニットなのかわからなくなる」のです。逆に、他の人が自分のワイヤレスユニットに接続してしまうかもしれません。そうなってしまうと、自分の架台が予期せず他人に操作されてしまうことになり、撮影が台無しになる危険があるのです(*)。

(*)経験者語る。これはASIAIRのWiFi設定でも同様です。WiFiデバイスの黎明期では問題になりませんでしたが、今や有名撮影地では各種機材のWiFiが飛び交っています。「自分であること」が判別できるSSIDに必ず変更するようにしましょう。なお、実戦的に一番ヤバイのは「WiFi機器に現地で初めて接続する人」です。この人が自分の機器にうっかり接続してしまわないように、SSIDとパスワードを変更する必要があるのです。

2024年の「星をもとめて」会場でのWiFiネットワーク。名前変更している人少ないですね・・2025年7月現在(天リフ調べ)、天文機器のSSID/パスワードの変更率は50%程度とまだまだ低いのが現状です。いらぬ事故を防ぐ意味でも、SSIDとパスワードは変更することを推奨します!

「極軸を合わせた赤道儀」に設定しておく

STAR BOOK Wirelessアプリを起動したら、設定を確認しておきましょう。ASIAIRを使用しPlate Solveが使える環境の場合は、「極軸を合わせている赤道儀」に設定しておくことを推奨します。「極軸を合わせていない赤道儀」に設定すると、極軸合わせが正確でない場合でも3点以上のアライメントを行うことで、極軸のずれを考慮したより正確な自動導入が可能になりますが、ASIAIRを使用する場合はASIAIRがPlate Solveで正確に自動導入してくれるので、その必要性はほとんどなくなります。

また、「極軸を合わせていない赤道儀」の場合、自動追尾の際にも極軸のずれを考慮した追尾となります。眼視観望やオートガイドなしで撮影する場合は有用な機能ですが、オートガイドで天体撮影を行う場合、逆に正確な追尾の妨げになる場合があるため、「極軸を合わせた赤道儀」としておくのがセオリーです(*)。

(*)オートガイドで常に対象に向いているはずなのに、架台はそれとは関係なく極軸がズレた分の追尾補正を行うことになるため、逆に追尾精度を下げてしまう結果になります。STAR BOOK TENでもそのように推奨されています。

子午線越えの設定

左)子午線の東の天体はテレスコープウエスト、子午線の西の天体ではテレスコープイーストで導入する設定。子午線を5°越えた時点で追尾は自動停止します。右)子午線をの手前30 °までの天体はテレスコープイースト(いわゆる「イナバウアー」状態)で導入します。また、子午線の手前30°より東の天体はテレスコープウエストで導入しますが、子午線を越えても30°まではテレスコープウエストのまま追尾を続けます(イナバウアーで追尾継続)。

もうひとつ確認しておくべき設定は「子午線越え」の設定です。この設定は子午線越えによる東西反転をどのタイミングで行うかの設定で、例えば、子午線を越える「前」の天体をテレスコープイーストで導入し、東西反転させずに連続撮影できるようになります。

筆者の場合、三脚と鏡筒の干渉がほぼないような場合は「EAST 30°」に設定するようにしています(この場合、南中2時間前までの天体は必ずテレスコープ・イーストで導入されます)。ただし、三脚と鏡筒の干渉は「大事件」ですので、慣れるまでは「EAST 0°」に設定し子午線越えで反転ないしは停止するようにするのが無難です。

なお、子午線越えの「強制追尾停止」と「自動導入」の設定はワイヤレスユニット本体側に記憶されているため、STAR BOOK Wirelessを一切使用せずASIAIRだけで使用する場合、最後に設定された情報で動作します(*)。

(*)「鏡筒反転メッセージ」はワイヤレスユニットではなくアプリ側で記憶される設定となります。また、アプリ1.10 ファームウェア2.31以前では、ワイヤレスユニットが記憶する子午線越え設定とアプリに表示されている子午線越え設定が一致しないことがある不具合があります。

ASIAIRのAuto Meridian Flipを行うかどうかは、AutorunまたはPlanの撮影の際に指定します。星図からのGotoやpreviewで動作している際の子午線反転は架台側の設定に基づいて動作します。

ASIAIRには別に「Auto Mridian Flip」の機能があります。これは子午線反転を自動で行い、Plate Solveによってその前後での望遠鏡の向きを自動的に一致させてくれる機能です(*)。この機能を使う場合は、子午線越え設定は「EAST 0°」で問題ないでしょう。

(*)ローテーターを使用してない場合は、構図の傾きまでは合わせてくれません。

Auto Meridian Flipの詳細設定はMountメニューの中にあります。
Auto Meridian Flipの詳細設定画面。ここでは「子午線越えの何分前に撮影を停止するか」「子午線越えの何分後に東西反転するか」を指定しますが、通常は0/0で設定しておけばいいでしょう。なお、ここの設定を行ってもAutoRun/PlanでMeridianFlipをONにしないと動作しないことに注意しましょう。

STAR BOOK Wirelessのそのほかの設定は、ASIAIRで使用するならほぼ気にする必要はなく、初期値のままで基本的にOKです(*)。

(*)「架台詳細設定」に「オートガイド速度補正」という項目がありますが、これはST4でガイドする際の設定なので、ASIAIRでオートガイドする場合は気にする必要はありません。同じ設定はASIAIR側の「Agressiveness(DEC Aggr/RA Aggr)」の設定で行います。

ASIAIRの設定

※本記事はASIAIRのインストール方法や基本操作をある程度理解している方を対象にしています。ASIAIRの詳細の解説については割愛し、ワイヤレスユニットでの使用方法に限定して記述しています。

ステーションモード

次はASIAIRの接続・設定です。一番大事なことはASIAIRのWiFiを「ステーションモード」にすることです。「ステーションモード」とは、ASIAIRを別のWiFiネットワークの「子機」として接続する方法なのですが、ここでは一般的な概念や使用法の解説は省いて「ワイヤレスユニットを使うためにはどうすればいいか」に絞って解説します。

端末のWiFi設定をワイヤレスユニットからASIAIRに切り替えます。

ASIAIR筐体の電源をONにして、ピーッという音が鳴ったら、端末のWiFiをASIAIRに(上の画像の「ASIAIR_Tenref_plus」)接続します。

次に、ASIAIRアプリを起動します。この時点では架台もカメラも接続されている必要はありません。上部メニュー左のWiFiアイコンをタップします。

Networkのstation modeが空欄になっていますね。これはステーションモードが設定されていない状態です。そこで、WiFiのASIAIR_Tenref_plusをタップしWiFiの詳細設定を行います。

画面下の「Station Mode」をタップします。すると、現在使用可能なWiFiネットワーク一覧が表示されます。つまり、ASIAIRが「端末」で、使用可能な別のWiFiネットワークにASIAIRが接続しにいくのです。

ワイヤレスユニットを起動している状態であれば、この一覧の中にさきほど設定したワイヤレスユニットのSSIDがあるはずです。それをタップして選択します。初回接続時にはパスワードを訊いてくるので入力します。一度入力すればパスワードはASIAIRが覚えてくれるので、次回以降は自動的に接続されます。

無事ステーションモードでワイヤレスユニットに接続された状態。ASIAIRからワイヤレスユニットの架台に接続するためには、このように「ASIAIRがワイヤレスユニットにステーションモードで接続している」必要があります。接続トラブルの時には真っ先に確認が必要なポイントです。

ちなみに、ステーションモードで使用する際はWiFiは2.4Gネットワークでなければなりません。これも地味に重要なポイントですが、5Gネットワークで接続している際にはちゃんと上のようなアラートが表示されるので大ハマりすることはないでしょう。

ASIAIRを架台(ワイヤレスユニット)に接続する

ステーションモードでワイヤレスユニットのWiFiに接続できたら、次はASIAIRを架台に接続します。ASIAIRの上のメニューから「mount(望遠鏡のアイコン)」を選択します。

右上のマウント一覧のプルダウンメニューから「Vixen Wireless Unit」を選択します。

画面にはIPアドレスとポートの指定欄もありますが、初期値のままで変更する必要はありません。右のスライドスイッチをタップして接続します。

この画面で接続に失敗することが時折あります。一般にASIAIRと架台の接続は時折失敗することがあります。失敗したらもう一度接続してみましょう(*)。それでもうまくいかない場合は、いったんMount画面を抜けて再度入り直す、それでもダメならASIAIRアプリを終了して再起動する、などを試してみてください。

(*)これまでの使用経験では、他社製架台を含めてWiFiネットワークの選択直後の接続は失敗する確率が高いように感じています。接続後少し(30秒程度?)待ってから接続するのが確実です。

接続が無事終了した状態。これで架台をASIAIRから動かせるはずです。

プレビュー画面に戻って架台を動かしてみましょう。架台に接続すると、プレビュー画面に十字キーが表示されるようになります。タップしてマウントが動くことを確認しましょう。

なお、ASIAIRとワイヤレスユニットを接続した直後は、追尾(Track)がOFFになることは知っておいて損はありません(*)。TrackがOFFの状態であっても、何らかの対象を導入すればその時点でTrackはONになります。

(*)西向き水平のホームポジションの状態ではTrackをONにすることができません。これはビクセン赤道儀では「地平線下」では追尾がOFFになるためです。当初筆者はこれに気がつかず「追尾がONにならない!なんでだっ!」と中ハマりしました。

ASIAIRが架台に接続されていれば、ASIAIRから対象を指定した自動導入が可能になります。左下の北斗七星のアイコンをタップして星図(atlas)を表示してみてください。上の画像のように「西向き水平」のホームポジションを指しているはずです。ここから好きな対象にTargetの赤いインジケーターを動かして、GOTOボタンを押せば自動導入が始まります(*)。

(*)プレビュー画面の検索窓に対象をキー入力で選択してGoToすることも可能です。

よほどの光害地やナローバンドでなければ、露光時間は2秒で充分です。

メインカメラが接続されていてピントが合っていれば、Plate Solveで極めて正確な自動導入が可能になります。そのためには上の画像のように「Mount」の「Go To Auto-Center」をONにしておきます。この設定では、GoTo後に指定された露光時間でメインカメラで撮影し、Plate Solveで現在の向きを取得し対象が中央に導入されるように補正されます。

オートガイドの設定

ややこしい設定がほぼ不要なのがASIAIRのオートガイドの美点ですが、ワイヤレスユニットを含むビクセン架台で重要な設定が一つあります。それは「Auto Flip DEC Output After Medirian」のチェックをONにしておくこと。これは東西反転の際にキャリブレーション情報を「赤経も赤緯も」反転(flip)させる設定です(*)。ちなみにチェックがOFFの場合は赤経のみが反転されます。

(*)ASIAIRのヘルプでは、この設定を行う必要がある架台には「OnStep、セレストロンAVX/CGE/CGEM/CGX、LX200Classic、Vixen Wireless Unit」が該当すると書かれていますが、STARBOOK TENを選択した場合もこの設定が必要です。不覚にも筆者はそれを認識しておらず、東西反転時には再キャリブレーションしていました・・・

その他のオートガイドの設定で重要なのはガイド鏡の焦点距離です。これは正確な数字を入力しておきましょう。その他の設定は通常は変更の必要はありません(*)。

(*)この画面の設定ではありませんが、ガイドカメラの露光時間の設定も重要です。通常は2秒程度に設定すればよいでしょう。

アライメント

まず結論(極論)から言うと、Plate Solveが可能な状態でASIAIRとワイヤレスユニットを使用する場合、アライメントは不要です。アライメントを行わなくても、Plate Solveと「Go To Auto-Center」の組み合わせで正確に対象を中心に導入することができます。



もう少し現実的には「極軸がそこそこ正確に合っている」場合、3スターアライメントは不要でワンスターアライメントで充分です。ビクセンの赤道儀は「極軸を合わせた赤道儀」で使用する場合は基本的にワンスターアライメントで動作する(*)からです。

(*)より正確にいえば、「極軸を合わせた赤道儀」で複数のアライメントを行った場合、「導入対象に最も近いアライメント情報」を基準にワンスターアライメントで導入が行われます。鏡筒や架台のたわみ、鏡筒の赤緯軸との直交からのズレなどが存在する場合、これによってより正確に導入することが可能になるからです。

実戦的には、ある対象を撮影したい場合、アライメントを行わずにいきなり対象にGoToして(*)、GoToが完了したらASIAIRの「sync」ボタンを押す、という対応で何の問題もなく使用することができます。

(*)クランプフリーにして向けてはいけません。ビクセン赤道儀では基本的にホームポジション以降のクランプフリー操作はNGです。

使用上の注意点

最新のアップデートを適用する

STAR BOOK Wirelessアプリは常に最新の状態に更新しておきましょう。ワイヤレスユニットのファームアップデートが必要な場合は、起動時に更新を行うかを訊いてきますので、こちらもアップデートしておきましょう(*)。

(*)直近では2025年8月7日リリースのバージョン(アプリ1.12、ワイヤレスユニット2.40)で「ASIAIRからワイヤレスユニットに接続した際に架台がホームポジションに常に強制リセットされる」という問題が修正されています。これは「ちょっと調子が悪いなー、ASIAIRとワイヤレスユニットの接続をいったん切って再接続しよう」とやると、いきなりホームポジションからやり直しになってしまい、けっこう辛い思いをする問題でした。また「前回の設定を使用する」がASIAIRでは事実上使えなくなっていました。

ASIAIRも基本は「最新の状態に更新しておく」なのですが、ASIAIRはアップデートがかなり頻繁で「常に最新にせよ」というのはやや危険なところがあります。現に、現在の最新バージョンは「2.4.1」ですが、その一つ前の「2.4.0」には複数の大きめの不具合があり、2.4.1でほぼ改修されたという経緯があります。3桁目の枝番バージョンアップ(2.4.0->2.4.1など)はすぐに適用するべきですが、1桁目・2桁目のバージョンアップ(2.x->3.0や2.3.x-<2.4.0など)は、しばらく待って様子を見るのも一手です。

端末のWiFi接続先は「ASIAIR」にする

ASIAIRで撮影を行う場合、スマホのWiFi接続先は「ワイヤレスユニットのWiFi」ではなく「ASIAIRのWiFi」にすることを強く推奨します。実際には「ワイヤレスユニットのWiFi」に接続しても一連の機能は全て動作したのですが(*1)、ワイヤレスユニットは「WiFiルーター」としては非力なためか、撮像画像をスマホにプレビュー表示するまでの時間が10倍くらいかかるようになってしまいます(*2)。

(*1)ビクセン社では「そのような接続方法は推奨しない」との見解でした。

(*2)このような「赤道儀のWiFiを親機にする」接続の場合、他社製品でも同じく転送速度が低下してしまう場合がありました。一方で「宅内のWiFiルーターを親機にする」場合、速度低下はなく、5G接続の場合は逆に高速になりました。

実戦的には「設定を確認したい」ためにワイヤレスユニットのWiFiにスマホを接続した場合は「忘れずにASIAIRのWiFiに繋ぎ直せ」となります。その日の撮影の最初にSTAR BOOK Wirelessを起動して設定を確認したら、あとはASIAIRのWiFiに繋ぎなおして以降はそのままにする、というのが間違いの少ない使い方になるでしょう。

複数端末から同時接続をしない

ワイヤレスユニットとSTAR BOOK Wirelessアプリの接続は「1:1」が原則です。実際には接続できてしまうのが悩ましいところではありますが、複数端末から同時接続して操作すると予期せぬ動作をすることがあります。別の端末からSTAR BOOK Wirelessを使用する場合は、必ずアプリを終了してから接続するようにしましょう。

なお、2台の端末で「1台はSTAR BOOK Wireless」「もう一台はASIAIR」という使い方も非推奨です。この運用でも2台のクライアントがワイヤレスユニットに接続することになるからです。

複数の赤道儀を運用する場合はそれぞれ専用端末を用意する

昨今複数の赤道儀を展開して撮影する方が増えてきました。ビクセン赤道儀にASIAIRとワイヤレスユニットの場合もしかりです。こんな複数架台運用の場合は潔く複数の端末をそれぞれ専用に用意することを推奨します。これはASIAIRアプリやSTAR BOOK Wirelessが「複数架台同時接続」を使いやすい形で実装していない以上は仕方ありません(*)。もちろん注意深くアプリとWiFiの接続先を切り替えれば使えるのですが、少なくとも筆者はその環境でうまく使える自信は全くありません。

(*)PCなら複数のウィンドウを立ち上げて複数の環境を同一画面で制御できますが、画面の狭いスマホでは難しいでしょう。ASIAIRはステーションモードで同一ネットワーク配下に複数のASIAIRが存在する場合に「環境(接続先)をスイッチ」する機能がありますが「同時に」複数の環境を見ることはできません。

「前回の設定を使用する」を使う場合の注意

STAR BOOK TENの時代からビクセンの赤道儀は「最後に電源OFFした時点の設定(望遠鏡の向きとアライメント情報)を復元する」機能(前回の設定を使用する)があります。これはベランダ撮影で別の日に撮影する場合などで便利な機能で、アライメントを省略できるなどのメリットがありました。

ワイヤレスユニット(STAR BOOK Wireless)でも同じ機能があり、STAR BOOK Wirelessの起動時に「前回の設定を使用するのか、赤道儀を初期化するのか」を選択することができます。ただし、STAR BOOK WirelessよりもASIAIRが先にワイヤレスユニットに接続した場合は常に初期化されます。「前回の設定を使用」したい場合は、まずSTAR BOOK Wirelessでワイヤレスユニットに接続する必要があります。

なお、この際に復元される情報は「架台の物理座標」と「架台のアライメント情報」の2つです。子午線越えの設定情報はワイヤレスユニット側で記憶されているものがそのまま使用されますが、アプリ側に表示される設定情報とは一致しない可能性あります(次項参照)。

重要:各種設定は必ずアプリと架台を接続した状態で行う

現存する不具合で注意すべきことがあります。ワイヤレスユニットに接続しない状態でアプリ画面の「架台詳細設定」および「子午線越え設定」を行なっても、基本的にワイヤレスユニットに反映されません(*)。

(*)ワイヤレスユニットに接続していない状態では設定変更ができないようになると間違いにくくなると思いますが、現時点では仕様で、今後の対応は現時点では未定だそうです。

通信が切れる、接続できないなどのネットワークトラブル

ブログ等の使用事例を見ると「ネットワーク接続が不安定」という記事をチラホラ見かけます。WiFiネットワークの接続問題には端末OSを含む様々な事象が複合しているものと推測します。筆者の知見では分かりかねる部分も多そうなのですが、重要なポイントをいくつか明確にしておきます。

通信断があったとしても架台は対象を追尾し続けている

端末がワイヤレスユニットの電波到達圏外に移動し接続できなくなった場合でも、ワイヤレスユニットの電源がOFFにならない限りは架台は正常に追尾を継続しています。電波圏内に復帰し接続が回復した時点で、STAR BOOK Wirelessアプリの表示は架台と同期し、現在の望遠鏡の向きが正しく更新されます。

これはASIAIRでも同様です。端末がASIAIRの電波到達圏外に移動し接続できなくなったとしても、Autorunなどの撮影は正常に継続されています。電波圏内に復帰すれば、ASIAIRアプリの情報は正しく最新化されます。

ASIAIRとワイヤレスユニットの通信断があった場合はASIAIRは架台を正しく制御できなくなる

一方で、ASIAIRからワイヤレスユニットに対するステーションモード接続が切断した場合は、ASIAIRからのガイド補正信号やGoToの指示ができなくなるため、撮影は正常に継続しません。「ASIAIR Pro」などの一部の電波の弱いASIAIR筐体では、これによる通信トラブルの可能性を否定できません(*)。

(*)筆者が「ASIAIR Pro」とSXP赤道儀を使用した際に、ASIAIRのステーションモード接続画面上のワイヤレスユニットの電波強度は「3/4」の状態になることがありました。

スマートフォン側のWiFi接続の「自動切り替わり」の問題

一般的に、スマートフォンのWiFi接続は、何らかの理由で接続中のWiFiと接続できなくなった場合に「接続可能な別のWiFiを自動的に探して再接続しようとする」場合があります(*)。また「インターネットに接続されていないWiFiに接続している」場合、ユーザー側にWiFi接続を継続するかどうの判断を求めるダイアログを表示したり、ユーザーからの明示的な指示がない場合WiFiを切断してしまう場合があります。

(*)iPhoneの場合、WiFiネットワーク毎に「自動接続」の設定があります。例えば、いつも使用する宅内LANの「自動接続」をOFFにしておくと、勝手に宅内LANに切り替わることを抑止できます。

これはけっこうやっかいな問題で、回避するには「機内モードに設定する」「モバイルインターネット接続をOFFにする」などの対処が必要になります。

また、アプリバージョン1.12から「設定/画面表示維持」のオプションが追加されています。これをONにすると、STAR BOOK Wirelessアプリを開いている状態ではスマホの自動スリープが無効になり、WiFiの「自動切り替わり」の可能性を減らすことができるようになりました。

WiFiの輻輳による通信障害

無線通信は有限の資源です。同じ環境に多数のWiFiアクセスポイント・端末が存在する場合、通信速度が低下したり接続断が起きることは避けられない事象です。これを完全に回避する方法は存在しないのですが「チャンネル」を変更することで回避・軽減できる場合があります。WiFiルーターによっては「電波状況をみて自動的にチャンネルを選択・切替」するものもあり、ユーザーが手動でチャンネルを変更できる製品もあります。

ワイヤレスユニットはチャンネルは固定(出荷時設定は5ch)で、ユーザーが設定画面で変更できます(*)。ASIAIRにはチャンネル指定の画面はなく、自動設定されているように見えます。

(*)ワイヤレスユニットがチャンネルの自動設定を実装すれば通信はより安定するのかもしれませんが、定量的効果については筆者の知見外で何も言えません。

という状況の中でユーザーができることは「何をやってもダメな場合、とりあえずチャンネル変更を試してみる」ことです。逆に、メーカー側としても「通信が安定しない場合、チャンネルを変更することで、通信が安定する場合があります」以上のことは言えないのが現実です。

実際のところ、繫がらないときはどうしたらいいの?

「WiFiが繫がらない(端末のWiFi設定画面でSSIDを選択しても接続エラーになる)」ことはどんな環境でも普通に起きます。繫がらなければ、リトライする。まずこれが基本です。何度やってもダメなら、接続しているソフトウェア(ASIAIR、STAR BOOK Wireless、端末のOS)を再起動してみましょう。または、WiFi側(ワイヤレスユニットやASIAIR筐体)の電源のOFF/ONを試してみましょう。それでもダメならワイヤレスユニットのチャンネルを変更してみましょう。出荷時設定は5chですが、まず変更するなら1chか11chです。

それでもダメな場合、電源を別のものに変えてみましょう。筆者の経験では電圧低下によりASIAIRの動作が不安定になることが過去ありました。

筆者の個人的所見

以下は、完全に筆者の私見です。「ワイヤレスユニットはすぐ通信が切れる・不安定だ」という言説は正しくないと感じています。普通に繫がるし普通に操作できます。発売当初に使用したとき、直近に使用したとき、いずれも同じ印象を受けました。直近でも室内でテストしている中で通信がうまくいかずエラーになったことは一度もありませんでした。

一方で、通信以外のSTAR BOOK Wirelessアプリは「枯れている」という印象はあまり受けません。怪しい?挙動が存在しました(*)。しかし、この問題はビクセン社の努力によって時間の問題で解決するでしょう。

(*)全てビクセン社にレポートしていますので、優先順位の判断の後、順次対応されることでしょう。2025年8月7日公開のアプリバージョン1.12・ワイヤレスユニットバージョン2.40でもそのいくつかが対応されています。

だたし、直近遠征先で「何もできなくなった」ことが一度だけあります。ワイヤレスユニットのWiFiにスマホからも接続できなくなったり、接続できてもSTAR BOOK Wirelessアプリからワイヤレスユニットに繫がらない状態が継続しました。電源OFF/ONでも繫がりません。同じ環境を自宅で再現して試したのですが、問題は起きませんでした。何か当方の使い方や環境に問題があったのかもしれないし(*)、何か潜在するものがあるのかもしれません。次に再現することがあれば徹底的に調べたいと思います。

(*)いわゆる「おま環(おまえの環境だけで起きていて他では起きていない現象を指すネットスラング)」かもしれません。

Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニット
https://www.vixen.co.jp/product/25029_5/

なお本記事と一部重複しますが、上記リンク先のページの後半にワイヤレスユニットのネットワーク接続問題に対する対処法が記載されています。

ワイヤレスユニットwith ASIAIRの使用事例

SXP赤道儀の場合

SXP赤道儀で、間もなく南中するM8を撮影中。

実際にワイヤレスユニットを使用して撮影してみました。こちらの例では架台はSXP赤道儀です。筆者は長年この赤道儀を愛用していましたが、ワイヤレスユニットとASIAIRを実戦導入するのは実は初めて。事前に室内で周到に準備した甲斐もあってか、ノートラブル・歩留まり100%のほぼ完璧な撮影でした。

機材の設置も楽です。STAR BOOK TENの場合は、赤道儀とコントローラーを繋ぐやや太めの「スターブックケーブル」、コントローラーとASIAIRを接続するLANケーブルが必要になるのですが、ワイヤレスユニットならどちらも不要。架台にワイヤレスユニットを差し込むだけなのでとてもラクチンでした。

SDP65SS(口径65mmF5.5)ASI6200MCP フィルターなし gain100 2分32枚 フラットなし、MGCなし、SPCC・BXT・NXTあり  SXP赤道儀(ワイヤレスユニット使用) ASIAIRで撮影 熊本県産山村

撮影に使用した鏡筒は今回ビクセン様からお借りした「SDP65SS」です。この鏡筒はVSD90SSと比べても決してひけをとらない高性能で、中心像・周辺像ともに極めてシャープ。素晴らしい写りでした。

Vixen 天体望遠鏡 SDP65SS鏡筒
https://www.vixen.co.jp/product/26202_1/

子午線越え前後の撮影でしたので、ASIAIRの「Auto Meridian Flip(東西反転を自動的に行い、構図も反転の前後で回転方向を除き正しく合わせる)」機能を使用して撮影しました。東西反転に伴う構図調整を含め正しく動作し、問題なく撮影を継続することができました。これはなかなか便利な機能です。

AP赤道儀の場合

AP赤道儀で北アメリカ星雲を撮影しているところ。インジケーターの青いLEDはデフォルトでは若干明るめですが、ワイヤレスユニットの設定で暗くする・消灯することができます。

もうひとつ、ビクセン社の「AP赤道儀」でも使用してみました。ワイヤレスユニット以前のAP赤道儀は、2軸駆動モデルであっても自動導入機能のない「スターブックワン」が標準付属でしたが、ワイヤレスユニットを使用することで、上位機種のSX/AXJ/AXD赤道儀同様に自動導入が可能になります。

SDP65SS(口径65mmF5.5) ASI6200MCP 2分45枚 フラットなし、MGCなし、SPCC・BXT・NXTあり AP赤道儀 (ワイヤレスユニット使用)ASIAIRで撮影 熊本県産山村

AP赤道儀による撮影。今回使用してみて、AP赤道儀のコンパクトさと追尾精度の高さには感心しました。焦点距離360mmのSDP65SS鏡筒ですが、ガイドエラーは1枚もなく、ほぼ完璧な撮影となりました。ワイヤレスユニットでAP赤道儀の存在価値は数段上がったといえるのではないでしょうか。

自動導入の速度は最大100倍速と高速ではないのですが、一晩であまり多くの対象を撮影しない使い方なら、極端な不自由を感じることは少ないでしょう(*)。

(*)裏技的な使い方として、ホームポジションを無視して、いきなり望遠鏡をクランプフリーで「ざっくり」導入してから、Plate Solveで正確に導入する方法があります。実は上の作例もそのようにして撮影しています。ただし、この使い方では東西反転の際にキャリブレーション情報を手動で反転させる必要がある、クランプフリー動作によって架台の認識する子午線位置がシフトするため、子午線反転のタイミングの予測が難しくなる、アライメントを複数回行った場合にクランプフリー動作前のアライメント情報が残っていると正しく導入できなくなる場合があるなどの問題があるため、基本は「メーカーNG」の使い方です。特に、初心者向けの使い方ではありません。

ワイヤレスユニットに対する要望

十字キーの操作

STAR BOOK Wirelessには「十字キー」による操作インターフェースがありません。その代わりにSCOPE MODEで画面をスワイプすると「スワイプした方向」に架台が動きます。

しかしこの「スワイプした方向」が若干の曲者で、星図表示モードを「高度方位」とした場合は星図の向きと一致するのですが、「赤緯赤経」とした場合は星図の向きと一致しなくなります(上画像左、中。常に画面の上下スワイプが南北の動作、左右スワイプが東西の動作となります)。感じ方に個人差はあるとは思いますが、この動作は決して直感的ではありません。無意識に操作するとつい「星図上の方向」に指を動かしてしまうのです(*)。

(*)一つの案ですが、画面上に「SNEW」の文字を入れた十字キーを表示するのはどうでしょうか?(上画像右)これなら、従来通りの操作と十字キーの操作を両立させられますし、不要なら設定で非表示にすることもできるでしょう。もう一つの案は、STAR BOOK TENの操作体系から離れることになりますが、「赤緯赤経」表示の際は星図を常に「北上」に表示することです。なおSTAR BOOK TENの場合、十字キーの赤緯・赤経両方を押下すると赤緯軸・赤経軸を同時に動かすことができますが(ナナメ動作が可能)、STAR BOOK Wirelessではナナメにスワイプしてもナナメ動作にはなりません。ナナメスワイプによるナナメ動作が実現すれば、星図表示を現状のままで直感的動作になるのですが。

STAR BOOK TENと全く同じ機能と操作性を提供することがゴールではないはずです(*)。スマートフォンを使用した際にどんな操作体系がベストなのか、ユーザーの声を聞きつつ熟成されていくことを願うものです。

(*)ASIAIRの例でいうと、過去何度も大きな操作体系の変更があり、細かな仕様はバージョンアップの都度変更されています。

ファームアップの際にSSID/Passwordが初期化されてしまう

ワイヤレスユニットのファームアップデートを実行すると、WiFiの接続情報(SSIDとパスワード)が初期化されてしまいます。これはかなり不便で、以前の情報をどこかにメモしておかないと、ASIAIRのステーションモードの設定も再度やり直す必要が出てきます。「面倒くさいからそのままでいいや」と初期値のままで使用していると、人の多い撮影地で他人のワイヤレスユニットに誤接続したり誤接続されたりする危険が増大します。

ここはぜひ、ファームアップデートを行っても初期化されないような対応をお願いしたいところです。

ステーションモードの実装

ワイヤレスユニット自体はステーションモードが実装されていません。他社の多くのWiFi対応赤道儀でステーションモードが実装されている昨今、ぜひ対応してほしいところです。

ステーションモードがあると何が便利になるかというと、「ASIAIRからワイヤレスユニットにステーションモード接続」する代わりに、「ワイヤレスユニットからASIAIRにステーションモード接続」できることです。これによりASIAIRのステーションモードは宅内LANに接続できるようになり、宅内LANに接続できる場所ならどこでも接続できるようになる(*1)、インターネット接続を生かしたまま使用できるなどのメリットが生まれます(*2)。

(*1)これによる副次的なメリットには、ASIAIRやSeestarなどの様々なステーションモードに対応した天文機器を、WiFiネットワークを切り替えることなく1台の端末から操作できることがあります。

(*2)筆者は自宅ベランダでASIAIRを使用する際、メッシュWiFiで構築した宅内LANにASIAIRからステーションモード接続しています。STAR BOOK TENならLANケーブルでASIAIRに接続できるためこの状態で使用できるのですが、ワイヤレスユニットの場合はASIAIRのステーションモードをワイヤレスユニットで使ってしまうので、ASIAIRを宅内LANに接続できなくなります。

人工天体の追尾など、STAR BOOK TEN機能のキャッチアップ

※ビクセンのSTAR BOOK TENの人工天体追尾機能を使用した例。

STAR BOOK WirelessはSTAR BOOK TENの後継製品ですが、STAR BOOK TENに存在する機能で実装されていないものがあります。その一つが「人工衛星」の導入です。STAR BOOK TENでは、軌道要素を入力しシステムの時刻を正確に合わせることでISSの自動追尾が可能なのですが、この機能は「ほしい人はぜひほしい!」のではないでしょうか。

その他細かい点では「有名な天体」の登録数がずいぶん少なくなっている、架台が認識する観測地の緯度経度を表示できない(*1)、架台の認識する時刻を変更することができない(*2)、大気差の補正に対応していない(*3)などがあります。

(*1)起動時に任意の値に設定することはできるのですが、以降表示する手段がありません。GPSから取得されればほぼ問題はないのですが、GPSを持たないタブレットの時は少し気になります。

(*2)ISSを自動追尾する際に、STAR BOOK TENではシステムの時刻を未来の「ISSの通過予測時刻」に設定することで、架台の動作をシュミレーションすることができました。

(*3)よぼどの低空でない限り、大気差で導入に失敗することはないでしょうが、2024年秋の紫金山アトラス彗星(C/2023 A3)のように水平線ギリギリの対象の場合はかなり重要な問題になります。(地平線上にある天体は大気差によって地平高度約35分角まで浮き上がる)。もうひとつ、GPSで標高が取得できるのであれば、眼高差(地平伏角)を考慮した地平線下判断補正が可能になると嬉しいです。紫金山アトラス彗星(C/2023 A3)を山の上から狙ったときに、彗星が見えているはずなのに架台が地平線下と認識して自動導入できなかったことがありました。標高差が1000mあると大気差と合わせて補正なしの場合と比較して約1°ほど地平線は下がることになります。

今後、STAR BOOK TENで実現されていない新機能がどんどん導入されると嬉しいですね。

有線接続対応

ワイヤレスユニットはガイドケーブル用のコネクタ以外の、USBなどの物理端子を備えていません。WiFiで接続することが大前提となります。これは一つの考え方だとは思うのですが、現実には上のアンケートからは、30%程度のユーザーは有線接続を使用したいと考えているようです。これは「有線による安定した接続」を重視したい、ということだと思います。

簡単な話ではないことは承知の上ですが、USBポートでの有線接続がサポートされると、これらの「有線派」のニーズも取り入れることができると思います。

さらなる品質向上・ユーザーコミュニティの活用

今回ワイヤレスユニットとSTAR BOOK Wirelessを使用して感じたことは、ソフトウェアを含むシステムとしての完成度にはまだ改善の余地があるということです。もちろん通常の動作においては一通り動作ているのですが、特殊な操作や細かい挙動において改修すべき点や仕様の詰めが必要であろう部分がありました(*)。もう少し様々な環境での動作確認や、あるべき挙動(仕様)についてのアナウンスがあれば、システムの安定性やユーザーの安心感が向上すると思われます。

(*)ここでは個別には指摘しません。今後のアップデートの際に追記していきたいと思います。

もうひとつ、システムの品質向上や機能改善のために、ユーザーコミュニティの力をもっと借りるべきではないでしょうか。例えば、ASIAIRではβテスターのコミュニティがあり、公開前のβ版をTest Flightからダウンロードして使用することができます。そして、熱心なユーザーからのレポートやQAが日々やりとりされています。

システムの機能がどんどん高度化していく昨今、製品開発・保守においていかにしてユーザーコミュニティの力を活用するかは企業にとって製品の競争力を左右するものになってきています。ビクセン製品でもそのようなコミュニティを開設し運営してはどうでしょうか。

まとめ

ワイヤレスユニット+ASIAIRで撮影中。架台はSXP赤道儀、鏡筒はSDP65SS。

いかがでしたか?

天体撮影をより簡単にしてくれる「ASIAIR」ですが、その威力はビクセン赤道儀の最新のコントローラー「ワイヤレスユニット」でも遺憾なく発揮されます。小型の「AP赤道儀」から大型の「AXD2赤道儀」まで豊富なラインナップのビクセン赤道儀ですが、その全てが「ワイヤレスユニット」に対応し、より少ないケーブル接続でシンプルに制御することが可能。特にエントリモデルである「AP赤道儀」や「SX2赤道儀」でも自動導入・自動撮影が可能になるのは大きな魅力です。

正直言って、さらなるアプリの完成度向上など要望したいことは多々あります。ただし、少なくともASIAIRで使用する限りにおいては「ワイヤレスユニットは黒子」。不満に感じる点はほとんどないことでしょう。

ぜひワイヤレスユニットとASIAIRを活用して、快適な天体撮影をお楽しみください!それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます!


  • 本記事は(株)ビクセンより協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
  • 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
  • 本記事執筆の際に使用したワイヤレスユニットのファームウェアとアプリSTAR BOOK Wirelessのバージョンは「ワイヤレスユニット2.40」「STAR BOOK Wireless1.12」、端末OSはiOS18.6、iPadOS18.6です。
  • 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
  • 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。
  • 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
  • 記事中の製品仕様および価格は注記のないものを除き執筆時(2025年7月)のものです。
  • 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。

  https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2025/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-1024x576.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2025/07/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-1-150x150.jpg編集部マウントマウントビクセン,ワイヤレスユニットみなさんこんにちは!ASIAIR、便利ですよね。オートガイドやフォーカサー・ローテーターなどのデバイスの制御はもちろん、「プレートソルビング機能(撮影した画像の星並びから望遠鏡の向きを自動的に検知する」や「プラン機能・オートラン機能(設定した撮影シーケンスを自動的に実行する」など、難しい天体撮影を簡単にする機能が満載で、多くの天体写真ファンに活用されています。 ところで、赤道儀は何をお使いですか?当然ですが、ビクセン赤道儀でもASIAIRが使えます。ただ、ビクセンの最新のコントローラー「ワイヤレスユニット」ではASIAIRへの対応が若干遅れたこともあって(*)、ワイヤレスユニットでASIAIRを使用することに躊躇されている方がいらっしゃるかもしれません。 (*)ワイヤレスユニットの発売が2022年3月、ASIAIRがワイヤレスユニットに対応したアップデートが2024年3月。 実は筆者もワイヤレスユニットへの移行をためらっていたところがあったのですが(*)、今回あらためてワイヤレスユニットを使用してみたところ、非常に軽快に・簡単に使用することができました。大事なことなので繰り返しますが、ビクセン赤道儀+ワイヤレスユニットでも、ASIAIRはちゃんと使えます。本記事では、その具体的な接続方法や使用上の注意点をわかりやすくまとめました。 (*)仕事柄、確実に使える前の環境を使う方が安心だろうという理由だったのですが、逆にSTAR BOOK TENで正しくない設定(Auto Flip DEC Output After MedirianをONにしていなかった)で使用していたことが今回判明し、もっと早く検証・移行しておくべきだったと後悔しております・・・ Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニットhttps://www.vixen.co.jp/product/25029_5/ ASIAIRは非常に多くの種類の架台に対応していますが、逆に架台毎に接続方法が異なったり、微妙に設定を変更しなければならないこともあります。ビクセン赤道儀をお使いの皆様とこれからビクセン赤道儀を使用される皆様が、迷うことなくASIAIRを活用できるよう、本記事を捧げたいと思います! ビクセン赤道儀とワイヤレスユニット、そしてASIAIR 最新の赤道儀コントローラー「ワイヤレスユニット」 Vixen 天体望遠鏡 ワイヤレスユニットhttps://www.vixen.co.jp/product/25029_5/ まず、ワイヤレスユニット(上画像左)について簡単に解説しておきます。ワイヤレスユニットは2022年3月に発売された、それまでの「STAR BOOK TEN(スターブックテン、上画像右)」に代わるビクセン赤道儀の最新のコントローラーです。最大の特徴は専用のコントローラー筐体を持たず、スマートフォン・タブレットで動作する専用アプリ「STAR BOOK Wireless」からWiFi通信で赤道儀を制御する形になったことです。 これにより、赤道儀とコントローラーの接続がシンプルになり、電源ケーブル以外の架台に接続するケーブルがなくなりました。アプリSTAR BOOK Wirelessは操作性がSTAR BOOK TENとできるだけ同じになるように設計されていて、従来のSTAR BOOK TENユーザーにとっても違和感のないものとなっています(*)。 (*)寒冷地で手袋を使用した場合など、STAR BOOK TENのキー操作が勝るケースもありますが、スマホがここまで広く普及した現在、多くのユーザーが日常で使用しているスマホで操作できるメリットを評価するべきでしょう。 前モデルのSTAR BOOK TENは生産終了となり、ビクセンの赤道儀セットも順次ワイヤレスユニットへの置き換えが進み、ローエンドモデルであるSX2赤道儀・2軸駆動対応のAP-WLマウントも、標準で自動導入対応となりました(*)。 (*)ワイヤレスユニット登場以前は、SX2・AP赤道儀には自動導入対応の「STAR BOOK TEN」ではなく、十字キー操作のみの「STAR BOOK ONE」が同梱されていました。なお、AP赤道儀の1軸駆動モデル(AP-SMマウント:STAR BOOK ONEコントローラー同梱)と手動モデル(APマウント:付属コントローラーなし)は自動導入対応ではありません。 2025年6月に最上位モデルのAXD2が「WL」モデルとなったことで、ビクセン製の2軸駆動赤道儀の全てがワイヤレスユニット版となりました。 ASIAIRとビクセン赤道儀 「ASIAIR」は中国のZWO社が開発・販売している、天体撮影用の統合制御デバイスです。2018年の発売以来年々進化を続けていて、カメラ・赤道儀だけでなく、フィルターホイールやフォーカサー、ローテーターなどの様々な周辺デバイスをコントロール可能で、天体写真ファンにとってなくてはならないツールの一つになっています。 ASIAIRは市販されている多くの赤道儀と接続が可能ですが、そのためにはASIAIRに「接続ドライバのようなもの(*)」が実装される必要があります。赤道儀によっては未対応だったり、対応までに時間を要するものもあるのですが、ビクセン赤道儀の場合STAR BOOK TENに対応したのが2019年7月、ワイヤレスユニットに対応したのは2024年の3月です。 (*)筆者は正確なソフトウェアの内部構造を把握していないので「接続ドライバのようなもの」と表記しました。この「接続ドライバのようなもの」はASIAIRの一部の機能で、ユーザーが明示的にインストールするものではありません。 上の画像(左)はワイヤレスユニットとASIAIRを使用したセットアップイメージです。STAR BOOK TENの場合、LANケーブルでASIAIR本体とSTAR BOOK TENを接続する必要がありましたが(右)、WiFi接続となったワイヤレスユニットではそれが不要になっています。赤道儀とSTAR BOOK TENを接続する太いケーブルも不要になり、ずっとシンプルな接続となりました。 なお、ASIAIRを使用してオートガイドを行う場合(*)、ワイヤレスユニットのST4端子にケーブルを接続する必要はありません。 (*)ASIAIRの接続先架台を「Vixen Wireless Unit」にした場合。「on camera ST4」を指定した場合はケーブル接続が必要ですが、この場合は自動導入に対応しないため、この方法をあえて使用するメリットはほとんどないでしょう。 ワイヤレスユニットの起動と設定  ワイヤレスユニットの電源ON ワイヤレスユニットを赤道儀のコネクタに接続したら電源をONしてみましょう。上の画像中のように「無線接続インジケーター」が点灯していればWiFi接続可能な状態です。 ワイヤレスユニットのWiFiに接続する 次に、端末(スマートフォンまたはタブレット)の設定画面から、ワイヤレスユニットのWiFiネットワークに接続します。上の画像左のように「VixenWirelessUnitNNNN(Nは数字)」のように表示されているのがワイヤレスユニットのWiFiです。 選択すると初回接続時にはWiFiのパスワードを訊いてきます。初期パスワードは「1234567890」ですので、それを入力します。上の画像右のようになっていれば接続OKです。 アプリSTAR BOOK Wirelessのインストール ワイヤレスユニットを使用する場合、アプリSTAR BOOK Wirelessをインストールしたスマートフォンまたはタブレットが必須です。対応OSはiPhoneまたはAndroid。アプリストアから最新バージョンのアプリをインストールしておきましょう。 アプリSTAR BOOK...編集部発信のオリジナルコンテンツ