【特別企画】編集長、起業動機を語る【ロングインタビュー(2)】
年末年始スペシャル企画、天リフ編集部が編集長山口千宗氏に迫るロングインタビュー第2回!
なぜ「天リフ」を始めたのか?前職での経験、天文への復帰から起業までを語ります。
目次
なぜ天リフを始めたのか?前史
ー前回は「メディア」について熱く語っていただきましたが、長かったので簡単にまとめてもらえませんか?
山口:はい。簡単に言うと、ネットの時代になって20年経った今でも旧4大メディアはしぶとく生き残っている。でもその「生き残り方」は様々で、新聞・テレビ・ラジオは本質的には変わっておらず、唯一一番逆風にさらされた「雑誌」メディアが一番環境に適応しつつある。でも、天文などの極めてマイナーな分野のメディアは読者も事業者もその流れから取り残されてしまっている、というお話しでした。
ー長い前置きでしたね。今日は改めて「なぜ天リフを始めたか」を聞かせてください。
山口:はい。実は天リフを始める前に在籍していた会社で「雑誌的な立ち位置のニュースアプリ」の企画開発をしていました。
山口:企画を始めたのは今から5年ほど前です。当時はたぶん雑誌メディアが一番寒い時期でしたが「このまま雑誌メディアが滅びるはずがない」という信念で、雑誌の役割をネット時代に置き換えたメディアを作りたいと考えていました。
ーアプリの外観がなんだか天リフに似てますね。
山口:ええ。。スマートニュースとグノシーくらいには似ています。技術的には全く別物ですが、見かけが似てしまうのは仕方ありません・・もっと違う顔にしたかったのですが。
ーそのアプリは成功されたのでしょうか。
山口:いえ、大成功していたら今ここにはいません^^;
まだアプリ自体は存続しているので失敗というわけではないのですが、求められている事業規模と、獲得できた読者がミスマッチでした。
浦島太郎から天文に復帰
ー要するに、面白くなかったと。
山口:まあそういうことです。それぞれの分野の専門性を持たない中で、幕の内弁当的に雑誌メディアを目指したわけですが、IT技術でできることはそれぞれの分野の「ごく浅い表層」をなめることだけでした。
まとめサイトなりには面白いけど浅かった。浅いレベルで多様なセグメントを集積化したとしても、読者にとって魅力にはならなかったのです。「極めて情報集約的で専門性の高い業務」を広く浅く自動化できるという狙いが甘かったということです。
ー掘り下げが足りなかった。
山口:はい。総花的ではだめで、もっと深く掘り下げないとダメだろうと思い始めていたちょうどその頃です。2013年の暮、アイソン彗星がやってきました。30年ぶりの天文再開です。元々好きだったこと、一般写真の撮影を10年ほどやっていたこともあり、すぐにどっぷりはまりました。
でも最初は全くの浦島太郎です。近くに詳しい人もいないし、全てネットの情報を頼りに独学で勉強しました。その時、何が役に立って何が役に立たなかったのか。その経験が天リフに繋がっています。
ー山口さんは1980年代ごろに天文少年だったそうですが、そのころと比べてどうでしたか?
山口:昔と比較して、天文の世界は全く様変わりしていました。望遠鏡は高性能になっていていろんなバリエーションがある。赤道儀はデフォルトでモータードライブ搭載で、当時夢だった「オートガイド」が当たり前。写真はデジタルに移行していて高度で面倒な処理をしないとキレイな写真が撮れない。自分のように何も知らない状態で飛び込むと、わからないことだらけの世界でした。
情報はほとんどネットから
ー情報源としては何が一番役に立ちましたか?
山口:一番は何といっても吉田隆行さんの「天体写真の世界」です。望遠鏡の選び方から画像処理まで、ほとんど全ての情報が書かれています。毎日モニタが割れるほどiPadで眺めていました。
でも、吉田さんのサイトはやや古いことと、入門者向けなのであまり突っ込んだことが書かれていないので、その次はブログ漁りです。よっちゃんさん、ほんまかさん、ぴんたんさん、sloさん、星羊翁さん、utoさん・・吉田さんを含め「七大巨匠」と勝手に呼んでいたブログをはじめ、様々なブログをもうどっぷりと読み込みました。
ー天文雑誌や書籍は読まなかったのですか?
山口:ほぼ全く。1年ほどブログやSNSの情報で勉強した頃にようやく星ナビと天文ガイドを買いました。2015年の一月号です。
正直いって、天体写真に関してだけいえば、有益な情報はあまりありませんでした。既にネットに出ている情報、昔ながらの定型的な情報、天文イベントの情報、宇宙科学の情報、読み物、そしてフォトコン。ページ数は増えてはいますが。「これ一冊読んだら、来月まで待たせるの?それまで何するの?ネットでしょ!」そんな感じです。
ー天文雑誌が一番進歩していなかったと。
山口:いや、そんな言い方をするつもりはありません。でも、天文雑誌は市場のニーズに応えられていない・・そう感じざるを得ませんでした。この世界には満たされていないニーズがある。それを確信しました。
天文界のほとんどすべてをFacebookで学んだ
ー山口さんはFacebookでも活動されていますね。こちらはどうでしょう?
山口:最初に「拉致」されたのが「デジタル天体写真(デジ天)」です。私のような初心者から、ハイレベルな方が多数参加されていてとても活発でした。SNSのいいところは、レスポンスがリアルタイムであることです。ブログはまとまった情報をじっくり読むのに適していますが、SNSは今投稿すれば3秒後に反応が返ってきます。
ここで交流させていただいた多くの方々に私は育てられたといっても過言ではありません。「山口はワシが育てた」といわれても全く違和感を感じません。
ーでは、SNSは天文雑誌に代わるメディアになるのでしょうか?
山口:それはないでしょう。Facebookの検索などのアーカイブ的機能の弱点が仮に改善されたとしても、SNS上の情報はどこまでいってもフローの情報です。「ストック」として長い時間読み継がれるような形にまで整理されていないものがほとんどです。コミュニケーションをリアル同様に楽しめるのは素晴らしいですが、やはりそれを補う別のメディアの存在が必須ではないでしょうか。
ーそれを天リフで実現したいと考えられたわけですね。
山口:まさにそのとおりです。
脱サラ、そして起業
ー前職を退職されたのはいつでしょうか。その時には「天リフ」の起業を考えられていたのでしょうか?
山口:サラリーマン生活にピリオドを打ったのは2015年末です。自分のエンジニアとしての、またチームをマネジメントする能力に限界を感じていたこともあります。
これから先のあまり長くない人生は、組織に属さず独力で、家族二人がなんとか食える程度を稼げるようになろう、と考えていました。天リフの起業はそのときからの既定路線です。正直食えるようになるかどうかの見通しはありませんでした。ただ、取り残された小さなマーケットなので、やり方次第では可能性はあるだろうと思っていました。それの考えは今でも変わっていません。
ー脱サラされて2年になるわけですが、今日までの歩みを簡単に振り返ってください。
山口:前職に在職中はかなり多忙で、天文活動は年に数えるほどしかできておらず、脱サラした時点ではまだまだ天文に関する経験も人脈も不足でした。まず1年間は準備期間として、とことん天文活動を「フルタイム」でやってみることにしました。「天文最優先」の「プロの天文ファン」です。
それと並行して、天リフのサーバシステムの開発を行っていました。前職で類似のシステムを手がけていたとはいえ、ゼロからプログラムを書いて動かすわけですから、こちらも正味半年ほどの時間がかかりました。
ーサーバシステムとしてはどのような実装なのでしょうか?
山口:人様に自慢するような出来ではないのですが、お名前.comのVPS環境を使用していて、フィードやSNSからのデータ収集システムとアプリケーションサーバはnode.jsを使用して書いています。クライアント側はhtml5とcss3の動的ページ、編集部ブログはwordpressです。
ユーザ登録やデータのアップロード機能を特に持たないほぼ表示専用のシステムなので、サーバ負荷的には低い構造です。配信データはほぼメモリに上がっていて軽いため、当分サーバ増強の心配はなさそうです。一度でいいからサーバが落ちるほどバズって欲しいのですがw
はたしてマネタイズできるのか
ーサイトのマネタイズ(収益化)についてはどんな見通しをもっていたのですか?
山口:webサイトのビジネスの根幹は「いかに多くの人にアクセスしてもらえるか」にかかっています。どんなに見栄えが良くていい情報があったとしても、アクセスがなければ何の意味もありません。逆に、一定規模のアクセスを獲得できれば、収益化の手段は必ずあるはずだ、と思っていました。
ーどのくらいのアクセスがあればよいのでしょうか?
山口:当時毎日のように眺めていたのがこのページです。
PV数でわかるブロガー番付|あなたのブログはどのレベル?
http://ebloger.net/bloger-ranking/
月間3000pvから一億pvまで、アクセスが10倍上がると2ランクアップします。ネットの世界は清々しいほどの階級社会です。1ランク昇進するにはアクセスを3倍以上にしなくてはなりません。これでいうと、月間pvが10万程度の現在の天リフは、ようやく「トップアマ」になったところです。
このサイトの記述によると、広告の挿入やアフィリエイトで、1pv当たり0.3円程度の広告収入が目安となっています。月間20万円の収益を得たければ、だいたい70万pvが必要になる勘定です。
しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。現在天リフにはAdsenseとアマゾンのアフィリエイトを入れていますが、pv当たりの収益は0.05円にも満たない状態です。広告をあまり盛り盛り貼っていないせいもありますが、単純にアドネットワークに乗っかるだけではやはり無理っぽい感じでした。
ーなるほど。それは苦しいですね・・・
山口:ある程度予想はしていましたが、これほど寂しいとは思っていませんでした。pv当たりの広告単価がどんどん下がっている上に、天文のようなマイナー分野では大手のアドネットワークが流す広告では刺さるものが圧倒的に少なくなってしまうのでしょう。アフィリエイトも望遠鏡や赤道儀などはアマゾンで売られていないものが大半で、なかなかマッチしたものが少ないというのもあります。
ーアクセス数は今後どのくらいまで伸ばせそうですか?
山口:若干分野は違いますが、このサイトをこれまでベンチマーク対象として見てきました。実質個人の運営に近いサイトですが、月間70万pv程度あります。現在のアクセスを7倍にするのは簡単ではありませんが、このレベルを次の目標として考えています。
広告価値を高めるためには
ーアドネットワーク利用では厳しそうですね。それ以外にはどのような収益化の手段があるのでしょうか。
山口:はい。やはり、天リフ独自の広告サービス・マーケティングサービスを持ち、直接クライアント様と取引させていただく形をメインにしなくては事業の継続は難しいと考えています。幸いにも、現在5社様からご出広いただけるまでになっており、2018年中にどこまで増やすことができるかが勝負です。
ー天文雑誌の広告ページは号当たり25ページほどあります。ページ単価を仮に20万とすれば月間500万円。この役割の一部を天リフが担うことができればなんとかなりませんか?
山口:それは2つの意味で難しいと考えています。雑誌に広告を出されている企業様が天リフにもすんなり広告を出していただけるのなら話は簡単です。
しかし、広告を出す立場で考えると、出広先を追加ないしはスイッチするには明確なメリットと動機が必要です。これまで20万だったから次も20万、ということはありえません。スイッチする際に費用対効果の見直しがされると考えるべきでしょう。天リフの効果はともかく、雑誌広告の効果を計ることはほとんど不可能です。もしかしたらその際に劇的に単価は下がるかもしれません。
ーもう一つの理由とは?
山口:そもそも天リフが天文雑誌の役割を完全に代替できるとは思っていませんし、それを目指すつもりもありません。従来の雑誌と雑誌広告のモデルは頭の中からいったん消し去って、新しい枠組みを始めるべきでしょう。現在果たしているメディアの役割と、本来果たすべきメディアの役割はたぶん違うと思うのです。それをどうやって実現していくかが質的な面での2018年度の課題です。
幸いにも競合はどこにもいなかった
ー天リフにとっての「競合=ライバル」はどこでしょうか?
山口:海外には月間200万訪問者というCloudyNightsというサイトがありますが、幸いなことに競合は日本にはどこにもありませんでした。これは実にラッキーなことです。
始めてみて思い知ったのですが、こんな小さなマーケットにわざわざ資本を投下して新規参入する物好きなどいるはずがない、というのが実感です。
ー今後も競合は出てこないのでしょうか?
山口:ビジネスが健全に成長していくのであれば必ず競合が出てくるはずです。可能性は3つあります。一つ目は、私のような物好きが現れること。資金がある程度あって強力なメンバーが複数いれば、手強い存在です。でも、そんな物好きが、もしいらっしゃるのなら、ぜひ一緒にやらせていただきたいです。
ーははは。第2の変態現るですね。
山口:はい。そうなると嬉しいのですが。
もう一つは天文雑誌が本気でネットに取り組むことです。
天文雑誌が今持っている業界のネットワークと読者層は脅威です。簡単にはあきらめないつもりですが、もしそうなってしまったら天文雑誌の外注ないしはバイトとして糊口をしのぐようなBプランも考えなくてはなりません。
もし私に億単位の資金がもしあれば、資本家としてこのテーマに取り組めるといいですよねえ・・・その意味で年末ジャンボには大いに期待していますw
天文趣味にはもっとポテンシャルがあるはず
ーここ数年、流星群のニュースがYahoo!のトップに出たり、カメラメーカーの作例写真に星景が増えてきています。かなり前の案件ですが三菱自動車のプロモーションも驚きでした。そういう動きとリンクすることはできないのでしょうか。
山口:はい、それが第3のシナリオです。ネットメディアの大手が代理店も巻き込んで天文分野に新規参入することです。天文趣味にはもっとメジャーになるポテンシャルがあります。ニッチな趣味を扱うネットメディアが「登山」くらいのレンジにまで下りてきている以上、いずれその日が来るでしょう。それが明日であってもちっとも驚きません。
ーそういえば星ナビさんはカドカワですね。
山口:ですねえ。。二番目と三番目のシナリオはリンクするかもしれませんね。。
いずれにしても、その場合は新規のユーザ層の開拓が前提条件になるとみています。既存の天文マーケットだけを狙いにする形で大手が参入することはまずあり得ないでしょう。
でも仮に人工流星が2020年の東京で飛ぶことにでもなれば、それをターゲットに大手スポンサーの広告の受け皿になれるような新メディアが出てくるかもしれません。
ーもしそうなったら「天リフ」はどうするのですか?
山口:さあ・・・個人運営の弱小メディアとはもう別世界です。地道にマニア向けサイトに徹するか、「アドバイザーやります!」とでも言って売りこみに行きますかね・・
ーありがとうございました。後半は妄想全開でしたね。次回もその調子でお願いします。次回は「編集長」としてコンテンツ面でのお話をお聞きしたいと思います。
山口:はい、よろしくお願いします。ありがとうございました。 https://reflexions.jp/tenref/orig/2017/12/30/2994/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/12/IMG_5014_m2-1024x538.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2017/12/IMG_5014_m2-150x150.jpg編集長ロングインタビュー編集長、起業動機を語る 年末年始スペシャル企画、天リフ編集部が編集長山口千宗氏に迫るロングインタビュー第2回! なぜ「天リフ」を始めたのか?前職での経験、天文への復帰から起業までを語ります。 なぜ天リフを始めたのか?前史 ー前回は「メディア」について熱く語っていただきましたが、長かったので簡単にまとめてもらえませんか? 山口:はい。簡単に言うと、ネットの時代になって20年経った今でも旧4大メディアはしぶとく生き残っている。でもその「生き残り方」は様々で、新聞・テレビ・ラジオは本質的には変わっておらず、唯一一番逆風にさらされた「雑誌」メディアが一番環境に適応しつつある。でも、天文などの極めてマイナーな分野のメディアは読者も事業者もその流れから取り残されてしまっている、というお話しでした。 ー長い前置きでしたね。今日は改めて「なぜ天リフを始めたか」を聞かせてください。 山口:はい。実は天リフを始める前に在籍していた会社で「雑誌的な立ち位置のニュースアプリ」の企画開発をしていました。 山口:企画を始めたのは今から5年ほど前です。当時はたぶん雑誌メディアが一番寒い時期でしたが「このまま雑誌メディアが滅びるはずがない」という信念で、雑誌の役割をネット時代に置き換えたメディアを作りたいと考えていました。 ーアプリの外観がなんだか天リフに似てますね。 山口:ええ。。スマートニュースとグノシーくらいには似ています。技術的には全く別物ですが、見かけが似てしまうのは仕方ありません・・もっと違う顔にしたかったのですが。 ーそのアプリは成功されたのでしょうか。 山口:いえ、大成功していたら今ここにはいません^^; まだアプリ自体は存続しているので失敗というわけではないのですが、求められている事業規模と、獲得できた読者がミスマッチでした。 浦島太郎から天文に復帰 ー要するに、面白くなかったと。 山口:まあそういうことです。それぞれの分野の専門性を持たない中で、幕の内弁当的に雑誌メディアを目指したわけですが、IT技術でできることはそれぞれの分野の「ごく浅い表層」をなめることだけでした。 まとめサイトなりには面白いけど浅かった。浅いレベルで多様なセグメントを集積化したとしても、読者にとって魅力にはならなかったのです。「極めて情報集約的で専門性の高い業務」を広く浅く自動化できるという狙いが甘かったということです。 ー掘り下げが足りなかった。 山口:はい。総花的ではだめで、もっと深く掘り下げないとダメだろうと思い始めていたちょうどその頃です。2013年の暮、アイソン彗星がやってきました。30年ぶりの天文再開です。元々好きだったこと、一般写真の撮影を10年ほどやっていたこともあり、すぐにどっぷりはまりました。 でも最初は全くの浦島太郎です。近くに詳しい人もいないし、全てネットの情報を頼りに独学で勉強しました。その時、何が役に立って何が役に立たなかったのか。その経験が天リフに繋がっています。 ー山口さんは1980年代ごろに天文少年だったそうですが、そのころと比べてどうでしたか? 山口:昔と比較して、天文の世界は全く様変わりしていました。望遠鏡は高性能になっていていろんなバリエーションがある。赤道儀はデフォルトでモータードライブ搭載で、当時夢だった「オートガイド」が当たり前。写真はデジタルに移行していて高度で面倒な処理をしないとキレイな写真が撮れない。自分のように何も知らない状態で飛び込むと、わからないことだらけの世界でした。 情報はほとんどネットから ー情報源としては何が一番役に立ちましたか? 山口:一番は何といっても吉田隆行さんの「天体写真の世界」です。望遠鏡の選び方から画像処理まで、ほとんど全ての情報が書かれています。毎日モニタが割れるほどiPadで眺めていました。 でも、吉田さんのサイトはやや古いことと、入門者向けなのであまり突っ込んだことが書かれていないので、その次はブログ漁りです。よっちゃんさん、ほんまかさん、ぴんたんさん、sloさん、星羊翁さん、utoさん・・吉田さんを含め「七大巨匠」と勝手に呼んでいたブログをはじめ、様々なブログをもうどっぷりと読み込みました。 ー天文雑誌や書籍は読まなかったのですか? 山口:ほぼ全く。1年ほどブログやSNSの情報で勉強した頃にようやく星ナビと天文ガイドを買いました。2015年の一月号です。 正直いって、天体写真に関してだけいえば、有益な情報はあまりありませんでした。既にネットに出ている情報、昔ながらの定型的な情報、天文イベントの情報、宇宙科学の情報、読み物、そしてフォトコン。ページ数は増えてはいますが。「これ一冊読んだら、来月まで待たせるの?それまで何するの?ネットでしょ!」そんな感じです。 ー天文雑誌が一番進歩していなかったと。 山口:いや、そんな言い方をするつもりはありません。でも、天文雑誌は市場のニーズに応えられていない・・そう感じざるを得ませんでした。この世界には満たされていないニーズがある。それを確信しました。 天文界のほとんどすべてをFacebookで学んだ ー山口さんはFacebookでも活動されていますね。こちらはどうでしょう? 山口:最初に「拉致」されたのが「デジタル天体写真(デジ天)」です。私のような初心者から、ハイレベルな方が多数参加されていてとても活発でした。SNSのいいところは、レスポンスがリアルタイムであることです。ブログはまとまった情報をじっくり読むのに適していますが、SNSは今投稿すれば3秒後に反応が返ってきます。 ここで交流させていただいた多くの方々に私は育てられたといっても過言ではありません。「山口はワシが育てた」といわれても全く違和感を感じません。 ーでは、SNSは天文雑誌に代わるメディアになるのでしょうか? 山口:それはないでしょう。Facebookの検索などのアーカイブ的機能の弱点が仮に改善されたとしても、SNS上の情報はどこまでいってもフローの情報です。「ストック」として長い時間読み継がれるような形にまで整理されていないものがほとんどです。コミュニケーションをリアル同様に楽しめるのは素晴らしいですが、やはりそれを補う別のメディアの存在が必須ではないでしょうか。 ーそれを天リフで実現したいと考えられたわけですね。 山口:まさにそのとおりです。 脱サラ、そして起業 ー前職を退職されたのはいつでしょうか。その時には「天リフ」の起業を考えられていたのでしょうか? 山口:サラリーマン生活にピリオドを打ったのは2015年末です。自分のエンジニアとしての、またチームをマネジメントする能力に限界を感じていたこともあります。 これから先のあまり長くない人生は、組織に属さず独力で、家族二人がなんとか食える程度を稼げるようになろう、と考えていました。天リフの起業はそのときからの既定路線です。正直食えるようになるかどうかの見通しはありませんでした。ただ、取り残された小さなマーケットなので、やり方次第では可能性はあるだろうと思っていました。それの考えは今でも変わっていません。 ー脱サラされて2年になるわけですが、今日までの歩みを簡単に振り返ってください。 山口:前職に在職中はかなり多忙で、天文活動は年に数えるほどしかできておらず、脱サラした時点ではまだまだ天文に関する経験も人脈も不足でした。まず1年間は準備期間として、とことん天文活動を「フルタイム」でやってみることにしました。「天文最優先」の「プロの天文ファン」です。 それと並行して、天リフのサーバシステムの開発を行っていました。前職で類似のシステムを手がけていたとはいえ、ゼロからプログラムを書いて動かすわけですから、こちらも正味半年ほどの時間がかかりました。 ーサーバシステムとしてはどのような実装なのでしょうか? 山口:人様に自慢するような出来ではないのですが、お名前.comのVPS環境を使用していて、フィードやSNSからのデータ収集システムとアプリケーションサーバはnode.jsを使用して書いています。クライアント側はhtml5とcss3の動的ページ、編集部ブログはwordpressです。 ユーザ登録やデータのアップロード機能を特に持たないほぼ表示専用のシステムなので、サーバ負荷的には低い構造です。配信データはほぼメモリに上がっていて軽いため、当分サーバ増強の心配はなさそうです。一度でいいからサーバが落ちるほどバズって欲しいのですがw はたしてマネタイズできるのか ーサイトのマネタイズ(収益化)についてはどんな見通しをもっていたのですか? 山口:webサイトのビジネスの根幹は「いかに多くの人にアクセスしてもらえるか」にかかっています。どんなに見栄えが良くていい情報があったとしても、アクセスがなければ何の意味もありません。逆に、一定規模のアクセスを獲得できれば、収益化の手段は必ずあるはずだ、と思っていました。 ーどのくらいのアクセスがあればよいのでしょうか? 山口:当時毎日のように眺めていたのがこのページです。 PV数でわかるブロガー番付|あなたのブログはどのレベル? http://ebloger.net/bloger-ranking/ 月間3000pvから一億pvまで、アクセスが10倍上がると2ランクアップします。ネットの世界は清々しいほどの階級社会です。1ランク昇進するにはアクセスを3倍以上にしなくてはなりません。これでいうと、月間pvが10万程度の現在の天リフは、ようやく「トップアマ」になったところです。 このサイトの記述によると、広告の挿入やアフィリエイトで、1pv当たり0.3円程度の広告収入が目安となっています。月間20万円の収益を得たければ、だいたい70万pvが必要になる勘定です。 しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。現在天リフにはAdsenseとアマゾンのアフィリエイトを入れていますが、pv当たりの収益は0.05円にも満たない状態です。広告をあまり盛り盛り貼っていないせいもありますが、単純にアドネットワークに乗っかるだけではやはり無理っぽい感じでした。 ーなるほど。それは苦しいですね・・・ 山口:ある程度予想はしていましたが、これほど寂しいとは思っていませんでした。pv当たりの広告単価がどんどん下がっている上に、天文のようなマイナー分野では大手のアドネットワークが流す広告では刺さるものが圧倒的に少なくなってしまうのでしょう。アフィリエイトも望遠鏡や赤道儀などはアマゾンで売られていないものが大半で、なかなかマッチしたものが少ないというのもあります。 ーアクセス数は今後どのくらいまで伸ばせそうですか? 山口:若干分野は違いますが、このサイトをこれまでベンチマーク対象として見てきました。実質個人の運営に近いサイトですが、月間70万pv程度あります。現在のアクセスを7倍にするのは簡単ではありませんが、このレベルを次の目標として考えています。 広告価値を高めるためには ーアドネットワーク利用では厳しそうですね。それ以外にはどのような収益化の手段があるのでしょうか。 山口:はい。やはり、天リフ独自の広告サービス・マーケティングサービスを持ち、直接クライアント様と取引させていただく形をメインにしなくては事業の継続は難しいと考えています。幸いにも、現在5社様からご出広いただけるまでになっており、2018年中にどこまで増やすことができるかが勝負です。 ー天文雑誌の広告ページは号当たり25ページほどあります。ページ単価を仮に20万とすれば月間500万円。この役割の一部を天リフが担うことができればなんとかなりませんか? 山口:それは2つの意味で難しいと考えています。雑誌に広告を出されている企業様が天リフにもすんなり広告を出していただけるのなら話は簡単です。 しかし、広告を出す立場で考えると、出広先を追加ないしはスイッチするには明確なメリットと動機が必要です。これまで20万だったから次も20万、ということはありえません。スイッチする際に費用対効果の見直しがされると考えるべきでしょう。天リフの効果はともかく、雑誌広告の効果を計ることはほとんど不可能です。もしかしたらその際に劇的に単価は下がるかもしれません。 ーもう一つの理由とは? 山口:そもそも天リフが天文雑誌の役割を完全に代替できるとは思っていませんし、それを目指すつもりもありません。従来の雑誌と雑誌広告のモデルは頭の中からいったん消し去って、新しい枠組みを始めるべきでしょう。現在果たしているメディアの役割と、本来果たすべきメディアの役割はたぶん違うと思うのです。それをどうやって実現していくかが質的な面での2018年度の課題です。 幸いにも競合はどこにもいなかった ー天リフにとっての「競合=ライバル」はどこでしょうか? 山口:海外には月間200万訪問者というCloudyNightsというサイトがありますが、幸いなことに競合は日本にはどこにもありませんでした。これは実にラッキーなことです。 始めてみて思い知ったのですが、こんな小さなマーケットにわざわざ資本を投下して新規参入する物好きなどいるはずがない、というのが実感です。 ー今後も競合は出てこないのでしょうか? 山口:ビジネスが健全に成長していくのであれば必ず競合が出てくるはずです。可能性は3つあります。一つ目は、私のような物好きが現れること。資金がある程度あって強力なメンバーが複数いれば、手強い存在です。でも、そんな物好きが、もしいらっしゃるのなら、ぜひ一緒にやらせていただきたいです。 ーははは。第2の変態現るですね。 山口:はい。そうなると嬉しいのですが。 もう一つは天文雑誌が本気でネットに取り組むことです。 天文雑誌が今持っている業界のネットワークと読者層は脅威です。簡単にはあきらめないつもりですが、もしそうなってしまったら天文雑誌の外注ないしはバイトとして糊口をしのぐようなBプランも考えなくてはなりません。 もし私に億単位の資金がもしあれば、資本家としてこのテーマに取り組めるといいですよねえ・・・その意味で年末ジャンボには大いに期待していますw 天文趣味にはもっとポテンシャルがあるはず ーここ数年、流星群のニュースがYahoo!のトップに出たり、カメラメーカーの作例写真に星景が増えてきています。かなり前の案件ですが三菱自動車のプロモーションも驚きでした。そういう動きとリンクすることはできないのでしょうか。 山口:はい、それが第3のシナリオです。ネットメディアの大手が代理店も巻き込んで天文分野に新規参入することです。天文趣味にはもっとメジャーになるポテンシャルがあります。ニッチな趣味を扱うネットメディアが「登山」くらいのレンジにまで下りてきている以上、いずれその日が来るでしょう。それが明日であってもちっとも驚きません。 ーそういえば星ナビさんはカドカワですね。 山口:ですねえ。。二番目と三番目のシナリオはリンクするかもしれませんね。。 いずれにしても、その場合は新規のユーザ層の開拓が前提条件になるとみています。既存の天文マーケットだけを狙いにする形で大手が参入することはまずあり得ないでしょう。 でも仮に人工流星が2020年の東京で飛ぶことにでもなれば、それをターゲットに大手スポンサーの広告の受け皿になれるような新メディアが出てくるかもしれません。 ーもしそうなったら「天リフ」はどうするのですか? 山口:さあ・・・個人運営の弱小メディアとはもう別世界です。地道にマニア向けサイトに徹するか、「アドバイザーやります!」とでも言って売りこみに行きますかね・・ ーありがとうございました。後半は妄想全開でしたね。次回もその調子でお願いします。次回は「編集長」としてコンテンツ面でのお話をお聞きしたいと思います。 山口:はい、よろしくお願いします。ありがとうございました。編集部山口 千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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