【安くてよく写る】SVBONY SV555レビュー【口径54mmアストログラフ】
みなさんこんにちは!
いま日本国に吹き荒れる物価高と円安の嵐。カメラ機材を含む天文機材は軒並み値上げとなり、コロナ以前から風景が一変してしまいました。かつて10万円で買えた機材も、今では5割アップしていることも珍しくありません。
そんな中、低価格で高性能な天文機材を提供してきたSVBONY社が放った意欲作が「SV555アストログラフ」です。口径54mm・焦点距離243mm、ペッツバール構成の5枚玉の小型鏡筒ですが、カタログ価格は109,980円・直販価格86,580円です(*)。おそらくこのクラスでは最安級でしょう。
(*)2025年2月20日現在
2.22訂正とお詫び)初出時に口径が「55mm」となっていましたが、54mmの誤りでした。訂正しお詫び申し上げます。
SVBONY SV555 アストログラフ 写真用天体望遠鏡(公式)
https://www.svbony.jp/sv555-astrograph#F9395A
SVBONY SV555アストログラフ(SVBONY Japan/Amazon.co.jp)
天体望遠鏡界隈では、近年ひじょうに高性能なアストログラフが、各社から相次いで発売されています。スーパーEDレンズを複数枚使用し、レンズ構成も4枚玉にとどまらず、5枚玉、6枚玉などが登場してきています。そんな中で「ノーマルEDレンズ1枚」のSV555は勝負になるのでしょうか?どんな位置づけ・棲み分けとなるのでしょうか?
本記事では、そんなSV555について、仔細にレビューしていきます!
目次
SV555とは、どんな天体望遠鏡(アストログラフ)か?
5枚玉ペッツバール構成
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上の画像はSV555の光路図。最前群が3枚玉。この前群は同社の3枚玉アポクロマート鏡筒SV550シリーズと同様、真ん中の凸レンズ(EDレンズ)を2枚の凹レンズで挟んだ形になっています。
中間の大きな凸レンズ、最後群の凹レンズが距離を大きく離して配置され、高性能アストログラフで多用される「(変形)ペッツバール構成」となっています。乱暴に表現すると、ペッツバール構成で周辺の流れを良好に補正した上で、高価なSD(スーパーED)レンズを使わないことでコストダウンを実現し、一方で前玉を3枚玉とすることで性能向上を図った、といえるでしょう。
ノーマルED1枚での色収差は?
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フラッグシップ級の高性能鏡筒では、1枚ないしは複数枚のSD(スーパーED)レンズを使うことが当たり前になっている昨今、ノーマルED1枚のみで色収差補正が満足にできているのかという心配が出てきます。
上の画像は縦収差図(波長別に光軸上からレンズ外縁までの合焦位置をグラフにしたもの:軸上色収差と球面収差が評価できる)です。いわゆる「アンダーコレクション」型の補正で直線ではありません(*1)。しかし注目したいのが、どの波長も「だいたい同じ曲がりになっている」こと。つまり「赤はピントが合っているが青はボケている」とはならず、残存収差によるボケは「白色」となります。このため、強く強調することで赤ハロ・青ハロが目立ってくる現象(*2)は最小になっているのです。
(*1)収差補正が完璧な場合、全ての色に対して直線となります。SV555の「曲がり」の最大値は0.2mm程度。これは他社製のSDレンズ使用機の4倍ほどの大きさになりますが、外周部の径ベースで40%(光量ベースでは64%)の部分だけで見るとほぼ同等です。
(*2)極端な強調を行うディープスカイ天体写真にとっては、この現象は大敵です。
後節で見ていただく実写作例でもこの特性が確認できました。ノーマルEDレンズ一枚でも色ハロのほとんどない鏡筒が実現できるのです(*)。
(*)若干球面収差が残存するため、ベストの焦点位置ではわずかにハロが星像を取り囲む形になります。詳細は後節の「星像チェック」をご参照ください。
良好な周辺像
SV555で特筆できるのが良好な周辺像。上の画像はスポット図ですが、APS-C最周辺となる像高14mmでもスポット像の乱れはほぼ皆無。フルサイズ最周辺付近の像高22mmでもほとんど崩れはありません。最小スポット径は10〜15μ程度(*1)で、他社のSDガラスを使用した製品と遜色ありません。これはピクセルピッチ4μクラスの微細ピッチセンサー(*2)を使用しても充分満足できるレベルです。
(*1)スーパーEDレンズかEDレンズなのかは軸上色収差補正においては大きく効いていきますが、周辺の流れ(コマ・アス・像面湾曲)に関してはあまり差異はありません。
(*2)フルサイズなら6000万画素クラス。ソニーセンサーの場合、IMX455/571/533に相当
高いコスパ・低価格で高性能
満足できる高性能を安く実現した。これがSV555の最大の特長です。
高価な製品が高性能であることは、いってみれば「当たり前」のことです。昨今の天体望遠鏡の高性能化は大いに喜ぶべきことなのですが、あまりに高価格化してしまうとユーザーの裾野が先細りしてしいまいます。「高性能だけど高価格」な製品だけでなく「そこそこ高性能で低価格」な製品も必要なのです。
筆者は当初「ノーマルED1枚で高性能なアストログラフが実現できるのか」については懐疑的でしたが、実際に使ってみて大いに感心しました。SV555の設計コンセプトと実装レベル、そして得られるリザルトは素晴らしいものです。エンジニアリングの力を「究極の高性能」を実現することに振るのではなく「コスパの高いバランスのよい性能」の実現に振り向けた、といえるでしょう。
各部外観
パッケージ
製品はキレイな化粧箱に、取説と各パーツが発泡素材に収納されています。
鏡筒本体はさらにソフトケースに収納されています。鏡筒・アリガタ、鏡筒ハンドルも付属。さらにEAF(電動フォーカサー)を使用するための金具とベルト、プーリー、鏡筒バンドとアリガタの間隔を延ばすスペーサーも付属。ワンパッケージでほぼ全てが揃います(*)。
(*)カメラアダプタは別売です。
鏡筒部
鏡筒は金属製でずっしりと重量があります(実測約1900g)。絞りリングとヘリコイド式のピントリングを持ち、大型のカメラ望遠レンズのような感じです。
レンズの先端には72mm径のフィルターが装着できます。レンズキャップもカメラレンズ同様のスプリングではめ込む方式のものが付属します。フードは固定式ですが、元々短い鏡筒なので嵩張って困ることはないでしょう。
レンズ後端はM48P0.75の雄ネジが切られたプレートが装着されていて、カメラアダプタや接続リングが装着できるようになっています。後端のプレートからの推奨光路長は55mmです。
鏡筒内の内面反射は、最後群とその1つ前のレンズの間のスリーブ内での反射が若干気になります。鏡筒の内径を思いきり太くして遮光リングを入れれば解決するのでしょうが、小型の鏡筒では外形寸法の制約もあります。さまざまなトレードオフがあることは理解しますが、ここはぜひ工夫でもう一段の内面反射減少を望みたいところです。
極めて少ない口径食と割れの少ない美しい星像
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一方で、口径食の少なさ・周辺光量の豊富さは大変優秀。口径食による星の「割れ」はほとんどなく、周辺星像が乱れることはありません(*)。後節のフラット画像も参照ください。
(*)逆に中心でもほんのわずかに光条がみられますが、レンズセルか絞り羽根のわずかな突起が原因なのでしょうか。ただし、この程度の光条を問題にし始めると、はたして満足できる望遠鏡は世界のどこにあるのか?というレベルの話になってきます。
恐らくディープスカイ撮影の用途でSV555を「絞って使う」ことはほぼないと推測しますが、カメラレンズ同様に絞り込むほど絞り羽根による回折光条が発生するものと思われます(*)。
(*)今回は試しきれなかったのですが「ごくわずかに絞る(口径で数mm程度)」ことによって、輝星像がよりキレイになる可能性があるかもしれません。検証された方がいらしたら、ぜひ情報をお寄せください。
鏡筒バンド
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鏡筒バンドは美しい削り出し仕上げのアルミ材。鏡筒への装着や持ち運びにも便利な鏡筒ハンドルも付属。
鏡筒ハンドルはビクセン互換のファインダーアリミゾになっていて、ガイド鏡やASIAIRなどのパーツを装着することが可能。
鏡筒バンドの止めねじはM5のローレットネジですが、頭が小さく指では締め込み不足になりがち。M5のキャップスクリューも付属しているので、鏡筒に付けっぱなしにするならこちらを使用した方がよいでしょう(*)。
(*)締め付けが緩いと撮影中に鏡筒にがズレてきたり、EAFが終点で停止せず鏡筒が回転してしまう場合がありました。
アリガタプレートはアルカスイス互換のミゾも切ってあるのですが、裏返して装着する場合は長いネジが別に必要になります。特にEAFを併用する場合は「ゲタ(上画像右)」を安定して装着することができません。ビクセン互換アリガタと割り切って使った方がよいでしょう。
回転装置
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鏡筒末端部には回転装置が付いています。目盛・指標がとても大きく見やすいのはグッド。好みの問題もあるでしょうが、細い目盛がたくさん刻まれているよりも、太い線と大きな文字のほうが、特に高齢者には優しいですね^^
フィルターの装着
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一応、48mm径のフィルターを鏡筒内部に装着することが可能です。「一応」としたのは、フィルター装着のためには上の画像のような細かな作業が必要だからです(*)。
(*)筆者の個人的感想としては、撮影現場であまりやりたいとは思わない作業です。
デジタル一眼レフカメラを使用する場合、フィルター装着は事実上この方法しかないので頑張るしかありませんが、天体用CMOSカメラの場合は「フィルタードロワー」を使用すれば解決します。
上の画像はSVBONY社の天体用CMOSカメラ「SV405CC」にフィルタードロワー「SV226」を装着したもの。このように簡単にフィルターを差し込むことができます。
こちらはその作例。長時間露光で一晩一対象しか撮らないなら現場でのフィルターの換装は不要なのですが、、でもフィルタードロワーは便利ですね!
ピント合わせとEAF(電動フォーカサー)
合焦機構
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SV555はカメラレンズ風のヘリコイド式。ピントリングには∞マークなどの距離指標が刻印されています。ピントリングは2025年1月出荷のロットから、無限遠マークよりもやや先まで回転するようになっています(*)。
(*)それ以前のロットでは上画像中の無限遠マークで止まる形だったのですが、温度変化や個体差、EAF動作時にVカーブを描くためには合焦点を越えて動作する必要があることなどから改良されています。
今回使用した実機の環境では、上画像の右の状態(無限遠マークと164ft目盛の中間くらい)で合焦しました。フィルターを装着すると合焦位置はさらに近距離側に移動します。
なお、SV555の合焦機構は「光学系全体を繰り出す」のではなく、最後群レンズのみを前後させる形式です。このため、ピント合わせによって光学特性が変化することが考えられます。バックフォーカスはできるかぎり推奨値に合わせておくのがよいでしょう(*)。
(*)筆者は主に鏡筒後端に実測光路長10.3mmのEFマウントアダプタリングを装着して使用しました。2mm厚のフィルターも使用しましたが周辺像に大きな変化はなく、バックフォーカスにはさほどシビアではないように感じました。
EAFキットが標準装備
標準でEAF(電動フォーカサー)が使用できるのもSV555の魅力の1つ。上の画像のようにピントリングの凹凸にピッタリはまるベルトとプーリーが付属します。
EAFはアリガタプレートの上に装着する形になりますが、その際に鏡筒バンドに付属のスペーサーを取り付けて「ゲタを履かせる」形になります。装着はさほど難しくはありませんが、最後にベルトのテンションを張るところは注意が必要かもしれません(*)。
(*)筆者は黒い取付金具とアリガタプレートの締め付けを1mmほど緩めておき、EAFをプレート側に引っ張って固定してから、最後に黒い取付金具を締め付けることでテンションを張りました。
EAFを使用したピント合わせの実際
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EAFでピント合わせを行う場合はフォーカスの刻み値の設定が重要です。あまり細かすぎると「Vカーブ」をうまく描けなかったり、動作の所要時間が無駄に長くなってしまいます。粗すぎるとピント合わせの精度が低下します。当方の環境ではStep Size=100でイイ感じに動作してくれました(*)。
(*)EAFの1ステップ当たりの焦点面の移動量ですが、2mm厚(光路長変化0.7mm)のフィルターの有無で1200ステップ数ほどの合焦位置の差がありました。これから計算すると100ステップ当たりの焦点面移動量は約60μmとなります。一方でF4.5のSV555のエアリーディスク直径は6μm(波長550nmの場合)で、ピント移動による錯乱円の径が6μmとなる焦点移動量は6*4.5=27μm、EAFのステップ換算では約47ステップです。±50ステップの精度でピントを追い込めれば理論的には最大でもエアリーディスク程度のボケに収まる計算になります。
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ピントをEAFで合わせた直後の状態。ASIAIRの「Detect」表示(*)で星像径は1.93ピクセルです。これは星像径がほぼ2ドット、センサーの解像度と光学性能がほぼ一致しているか、センサーの解像度がむしろ不足している状態を意味します。フルサイズ6200万画素のカメラでこれですから、SV555の光学性能は充分高いといえるでしょう。
(*)ソフトウェアによる星像径評価値は、同じ画像の場合であってもソフトによって値が異なることに注意が必要です。ASIAIRの「Detect」表示は若干小さめに出るようです。もちろんシーイングの良し悪しによっても変動します。
バーティノフマスクを使用したピント合わせ
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バーティノフマスクでも充分高精度なピント合わせが可能です。上の画像はフォーカス位置を50ステップづつずらして連続撮影したものですが、ステップ値「3450」と「3250」では明らかに光条が非対称です。光条的には「3350」あたりがベスト位置だと考えられますが、その前後でも実用上大きな問題とはならないでしょう。この実写結果から、バーティノフマスクを使用すればEAFの±50ステップの精度でピント合わせが可能であるといってよいでしょう(*)。
EAFを装着すればピント合わせを自動化できるメリットがありますが(*)、気温の変動が大きくない環境であればバーティノフマスクでも充分運用可能だと感じました。
(*)「一晩放置撮影する」ようなケースでは、撮影シーケンスにピント合わせを自動で組み込めるEAFが威力を発揮するでしょう。
逆に、バーティノフマスクやEAFの助けなしに安定してピントを追い込むのはかなり難度が高いと感じました。よいリザルトを得るためには、バーティノフマスクかEAFのどちらかを使用されることを強く推奨します。
光学系の評価
周辺光量(フラット画像)
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SV555は非常に周辺光量が豊富です。上の画像はフルサイズの天体用CMOSカメラASI6200MC Proを使用した場合のフラット画像ですが、周辺減光は極めて少なくなっています。筆者のこれまで使用した鏡筒の中でもかなり上位クラスに位置します(*)。周辺光量はフラッグシップ級に優秀といっても過言ではありません。
(*)補正前のフラット画像をダウンロードしてご確認ください。リンク先は記事末に記載しています。
さらに注目なのが一眼レフカメラの場合に「ミラーボックスケラレ」がほとんどみられないこと(*)。これは焦点距離が短いことと、最後群の凹レンズにより光束が広げられる形になっているからでしょう。
(*)減光が円形成分だけでなく若干矩形成分も含まれている理由が気になるのですが、こちらの原因は不明です。少なくとも鏡筒側の特性によるものではないと考えられます。
ミラーボックスケラレの多寡について。ミラーボックスケラレはカメラ側の構造が原因で、直接的な鏡筒の問題ではありませんが、光学系の設計によって影響の強く出る光学系と出にくい光学系があります。上段は強く出る場合。下段は出ない場合です。 https://t.co/1wD0EkM706 pic.twitter.com/zthA1sGOqN — 黒・天リフ (@black_tenref) February 5, 2025
ちなみにこちらは「ミラーボックスケラレ」の発生原理のイメージ図。ミラーボックスケラレはフラットで補正しきれないことが多いのですが、SV555の場合はその心配は少なそうです。
星像チェック
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それでは、SV555の性能を仔細にチェックしてみましょう。チェック対象はこちらの作例、デジタルカメラEOS6Dを使用して撮影したM45すばる星団です。上の画像はいろいろ画像処理を行った最終リザルトですが、星像をきっちりチェックする意味で、強調処理を極力シンプル・明快にした次の画像でチェックします。
上の画像は、ノンリニアな処理はPixInsightのSTF(ScreenTranferFunction)とphotoshopの彩度強調+70のみ、当然BXTはなしです。この画像の四隅・中央を拡大してみましょう。
いかがですか?
一辺200μmで四隅から中央までを切り出しました。左下隅がわずかにコマ収差風に伸びている以外は、均質で色ハロも少ない素晴らしい星像。これが10万円を切るアストログラフの星像とはにわかに信じられないレベルですね。
スタック直後の元画像をPixInsightのFWHMEccentricityで評価してみました(*)。2xのDrizzle処理を行っているため、星像径は実際にはこの1/2、中央値で2.4px相当です。EOS 6Dのピクセルピッチは5.76μmですから星像径は14μm。さすがにエアリーディスクよりは大きいですが、第一級の性能といえるでしょう。
(*)参考)ブログ「星降る場所を求めて」https://tarkungh.net/fwhmeccentricity-script/
若干左右で星像径に変化がありますが、これは微妙なカメラのスケアリングの狂いや鏡筒側の光軸・芯出しの問題かもしれません。その差はごくわずかで十二分な良像です。
さらに細かいところを見ていきましょう。上の画像はピント位置をEAFで50ステップづつ移動して撮影しました。絞りも開放のF4.5と一段絞ったF7.1の2つの条件で撮影しています。
まず特筆すべきことは、最周辺でも星像の流れがほとんどないこと。また、収差図から予測されたことですが、輝星の色ハロもほとんど感じられません。
5枚玉のペッツバール構成で周辺像の乱れを最小にし、若干の球面収差を甘受する代わりに色による球面収差の補正を極力同じになるようにした設計コンセプト通りの結像です(*)。
(*)「SD 望遠鏡 収差図」などでネットを検索すると、さまざまな収差図が掲載されていますが、それを見るとほとんどの天体望遠鏡では「色収差と球面収差のバランスを取る(上図のように各色の球面収差の傾向がバラバラになったとしても、0.7の輪帯付近で各色の焦点距離が一致するようにする)」ことに設計の主眼が置かれていることがわかります。その結果、残存球面収差の傾向も色によって異なるために星像に「色ハロ」が取りまくことになります。
次に「一定の残存収差を甘受した」球面収差を見てみましょう。上の画像から中央部のピント位置と絞りによる画像変化を切り出し、球面収差図と重ねてみました。
焦点内外の星像はアンダーコレクション型における典型的な傾向を示しています。焦点位置3600付近(外像)では星像の芯(中央部を透過した光が結像)をハロ(外周部を通過した若干ボケた星像)がとりまく形です。一方で焦点位置3400付近(内像)では境界の明瞭な、ややボケて大きくなった円盤上となっています。
ベストなピント位置と考えられる焦点位置3400付近では、わずかにハロが輝星を取りまくものの、充分に満足できる星像です。
絞りによる星像の変化も球面収差図通りの結果です。F4.5をF7.1に絞ることによって、外像ではピントがよりズレている外周部の光を使用しないためハロが減ってより明瞭に。内像では逆に絞ったほどの星像径の縮小は見られません。天体写真用途でSV555を絞って使うことはあまり想定できないとは思いますが、絞ることによって外像側では星像改善効果はありますが、内像側ではあまり効果はありません。何より、絞って使う場合は「絞った状態でピントを合わせる」ことが重要です(*)。
(*)カメラレンズ的に言えば「絞り込むことによる焦点移動が存在する」といえます。これはアンダーコレクション型の光学系で一般的に起きる事象です。
実戦的なピント合わせにおいては、これらのややこしい話を意識して何かをする必要はないでしょう。普通にバーティノフマスクやEAFでフォーカスを追い込めば、ベストの結像となります。ただし「外像側では少しハロが出る」「内像側では輪郭の明瞭なボケ像」になることは覚えておいて損はないでしょう。また、内像側ではごくわずかな青ハロが、外像側では逆にごくわずかな赤ハロ傾向となります。これも球面収差図通りの結果です。
BXT(BlurEXterminator)の効果
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みんな大好き、BXT(BlurEXterminator)。その効果はSV555でも絶大です。上の画像はBXT処理後の画像を一辺200μmで切り出したもの。はい、素晴らしいです。コマっぽい左下の星像も補正され、もうほぼ完璧です。
PixInsightのFWHMEccentricityによる評価。2xDrizzleの効果もあって(*)星像径は1/3弱ほどにまで小さくなりました。中央値で0.85px相当、4.9μm。なんとエアリーディスク径(6μm)以下です。
(*)光学系にセンサーの解像度が負けている状態(アンダーサンプリング)の画像では、スタック時に「Drizzle」を指定し画素数をかさ上げすることで、BXTの効果がより顕著になります。
BXTは大変強力なツールです。決してライセンス料はお安くはありませんが、、SV555のポテンシャルをフル発揮する意味でも、使って損はないでしょう。
どんな人に向いているか
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天体写真入門の最初の1本に
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「これからディープスカイ天体写真を始めてみたい」方に最適な製品のひとつがSV555だといえるでしょう。周辺減光も色ハロも少なく画像処理の苦労が少ない(*1)、焦点距離が短めで追尾精度やシーイングの影響を受けにくい(*2)、筐体がコンパクトで小型の赤道儀でも運用できるなど、初心者にも優しいアストログラフといえるでしょう。
(*1)ただし超ガチ目線では、収差補正のバランス上、中間輝星が若干肥大する傾向があります。ぜひBXTのようなデコンボリューションツールをマスターすることをオススメします。
(*2)「受けにくい」とはいえ、あくまで比較論です。SV555は短焦点の243mmですが、高性能である分だけ、悪絶なシーイングの日には大きな影響を受けることがありました。
上の作例は4/3(フォーサーズ)センサー搭載の天体用ミラーレスカメラ「E-M1MarkIII Astro」で撮影したものですが、フラット処理は行っていません。APS-Cよりも小さなセンサーであれば、フラット処理は行わなくてもさほど大きな問題にはならないようです。
「広い画角」のアストログラフ、サブ鏡筒として
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フルサイズセンサーと組み合わせるとかなり広い画角のアストログラフになります。APS-Cセンサーの場合フルサイズ換算約370mm程度になりますが、この場合も使いやすいワイド画角といえるでしょう。
上の作例は火山星雲。冬の星座が沈み夏の銀河が昇るまでの春の空でじっくり撮影したい対象です。SV555ならコンパクト機材でほぼ放置に近い形で使うことができます。サブ機としてもオススメです。
アストログラフもダウンサイジング・小さくてもよく写る!
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口径50mmクラスの高性能アストログラフ全般に言えることですが、小さな筐体は機材の設置・展開が楽。大型鏡筒・大型架台での遠征撮影はなかなかシンドイものです。SV555なら、一昔前の口径80〜100mmクラスの屈折鏡筒と同程度、ないしはそれ以上の写りが得られます。「これからは小型・高性能鏡筒で、手軽に・身軽に撮影したい」という方にもうってつけです。
電視観望にも使いやすい焦点距離
短めの焦点距離243mmは、小サイズセンサーのCMOSカメラを使用した電視観望にもベストチョイス。口径54mmF4.8と光量が豊富なので、最近流行のスマート望遠鏡と比較して、より短い総露光時間で低ノイズのリザルトが得られるでしょう。ただし、小型でも意外と重量があるので(EAFなしの構成で2.45kg)、架台の選択には慎重に。
SV555に望むこと
軽量化
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SV555は見かけよりはずっしり重いです。他社製の同クラスのアストログラフと比較してもやや重めです。
重いとはいっても絶対重量としては3kgを切る軽量なのですが、やはりより軽いに越したことはありません。ユーザーの1つの希望として「もうちょっと軽いといいなあー」と申し上げておきます。
大きめの収納ケースが欲しい
鏡筒を収納するケースが付属しますが、「鏡筒バンドを外した状態」でなければ収納できません。天体写真で使用する場合、鏡筒バンドは通常付けっぱなしにするでしょうから、実質的には運搬用には使えません。組み上げた状態で収納できる大きめのケースが付属すれば最高なのですが(*)。
(*)「しゃれた外観の緩衝材付き」と割り切ればいいのかもしれませんが・・・
鏡筒内面のさらなる反射防止対策
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前項でも触れましたが、SV555は若干内面反射が気になります(*1)。内面反射は例えば上の作例のように、画角外に極めて明るい星がある場合にも問題になることがあります。画角外・右下のシリウスによる内面反射により、ごく淡いものではありますが虹色のゴーストが現れています。この現象は決してSV555だけの問題ではありません。シリウスとこのIC2177や、馬頭星雲とアルニタクなど、輝星が画角内・近傍にある場合は「運次第(*2)」でこのようなゴーストが発生することは普通にあることです。が、ユーザーとしては「なんとか頑張って改善してください」と言う以外にはありません。
(*1)少し古い情報ですが「内面反射対策をうるさく言うのは主に日本人」という話を聞いたことがありました。光害地で撮影されるシーンが多いせいかとは思いますが、ディープスカイ撮影において内面反射防止は極めて重要ですので、なんとかさらなる改善を願いたいものです。
(*2)鏡筒内のどの部分に輝星の光が入射するかはユーザーはほぼ予測不可能。運悪く反射率の高い場所に入射するとこんなことになります。
初回ロット以降に施された改良
SVBONY社には、ユーザーの声を迅速に製品に反映してくれる印象があります。筆者は2024年12月よりSV555のレビューを開始しましたが、前節で言及した「鏡筒バンドの止めねじをヘックスキー対応に」「ピントリングを無限遠を越えて回るように」という要望は、2025年1月以降出荷の製品に反映されました。この姿勢は高く評価できると思います。
一方で、本節で取り上げた「軽量化」「収納ケース」「内面反射防止対策」の件は、簡単に反映できないものと思いますが「きちんと声を上げれば次の製品開発に役立てもらえるのではないか?」という期待感があります(*)。
(*)ぜひぜひご検討をお願いします!
まとめ
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いかがでしたか?
10万円を切る価格にもかかわらず、非常に高いレベルの性能を実現したSV555。ディープスカイ天体写真の裾野を広げる意味でも、天文界隈にとって大きな存在価値を持つ製品だと感じました。「SD(スーパーED)レンズを使わない」中でもこの性能を実現した設計コンセプト、そしてそれを製品としてしっかり実現した製造品質と技術も、高く評価されるべきものだと思います(*)。
(*)低価格の製品では「設計通りには製造されていない」ことがしばしばありますが、SV555の場合は収差図通りの撮影結果となったことには驚きました。とはいえ、この鏡筒が「クラス最安値」カテゴリであることを忘れてはいけません。むしろ「よくこの価格でこの性能を実現してくれたっ!」と賞賛されるべきでしょう。
豊富な周辺光量と中央・四隅まで安定した星像を結ぶ点では、第一級の性能だといえます。唯一、球面収差をアンダーコレクション型としたことにより、わずかに星を取りまく「白いハロ」が残存します(*)。ここだけが唯一、SD(スーパーED)レンズをふんだんに採用したフラッグシップ級のアストログラフとの差異といえるでしょう。
(*)このハロの存在は等倍拡大しない限り視認できないでしょう。青や赤に着色した「色ハロ」は強調した際にカラーバランスを大きく損ないますが、白いハロではその問題がありません。ハロが色付きしていないのがSV555ならではの設計上の工夫であり美点であるといえます。
「安いけどよく写る」「フラッグシップに一番近い廉価機」。SV555は、きっとあなたの天文ライフを豊かなものにしてくれるでしょう。
それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます!
元画像を見てみたい・処理してみたい方に
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SV555の真の性能を見ていただくために、今回撮影した作例画像のスタック後/SPCC処理後のリニア画像(BXT処理前)と大サイズのjpegファイルの一部をダウンロード可能にしています。サイズはとてもデカいので、通信環境にご注意ください。撮影データは記事中の作例画像をご参照ください。
強調前fits(SPCCのみ、BXTなし) | リザルトjpeg | 備考 | |
作例[1] オリオン座中心部 |
1.47GB | 5.9MB | |
作例[2] M45すばる |
1GB | 7.2MB | |
作例[3] sh2-308 ミルクポット星雲 |
1.5MB | ||
作例[4] ぎょしゃ座勾玉星雲 |
2.7MB | ||
作例[5] 火山星雲付近 |
6.5MB | ||
作例[6] バラ星雲 |
11.8MB | ||
フラット画像(EOS6D) | 40.3MB | モノクロディベイヤー前Tiff画像 | |
フラット画像(ASI6200MCP) | 122.3MB | モノクロディベイヤー前Tiff画像 | |
フォーカス位置移動チェック画像 | 1.5MB |
- 本記事はSVBONY より協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
- 記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
- 製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
- 本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。
- 特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
- 記事中の製品仕様および価格は注記のないものを除き執筆時(2025年2月)のものです。
- 記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
https://reflexions.jp/tenref/orig/2025/02/21/17373/https://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2025/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-1024x576.jpghttps://reflexions.jp/tenref/orig/wp-content/uploads/sites/4/2025/02/fc6927a4cd7fc6f068de9eb5d3ae4aff-2-150x150.jpg望遠鏡望遠鏡SVBONY,SV555みなさんこんにちは!
いま日本国に吹き荒れる物価高と円安の嵐。カメラ機材を含む天文機材は軒並み値上げとなり、コロナ以前から風景が一変してしまいました。かつて10万円で買えた機材も、今では5割アップしていることも珍しくありません。
そんな中、低価格で高性能な天文機材を提供してきたSVBONY社が放った意欲作が「SV555アストログラフ」です。口径54mm・焦点距離243mm、ペッツバール構成の5枚玉の小型鏡筒ですが、カタログ価格は109,980円・直販価格86,580円です(*)。おそらくこのクラスでは最安級でしょう。
(*)2025年2月20日現在
2.22訂正とお詫び)初出時に口径が「55mm」となっていましたが、54mmの誤りでした。訂正しお詫び申し上げます。
SVBONY SV555 アストログラフ 写真用天体望遠鏡(公式)https://www.svbony.jp/sv555-astrograph#F9395A
SVBONY SV555アストログラフ(SVBONY Japan/Amazon.co.jp)
天体望遠鏡界隈では、近年ひじょうに高性能なアストログラフが、各社から相次いで発売されています。スーパーEDレンズを複数枚使用し、レンズ構成も4枚玉にとどまらず、5枚玉、6枚玉などが登場してきています。そんな中で「ノーマルEDレンズ1枚」のSV555は勝負になるのでしょうか?どんな位置づけ・棲み分けとなるのでしょうか?
本記事では、そんなSV555について、仔細にレビューしていきます!
SV555とは、どんな天体望遠鏡(アストログラフ)か?
5枚玉ペッツバール構成
上の画像はSV555の光路図。最前群が3枚玉。この前群は同社の3枚玉アポクロマート鏡筒SV550シリーズと同様、真ん中の凸レンズ(EDレンズ)を2枚の凹レンズで挟んだ形になっています。
中間の大きな凸レンズ、最後群の凹レンズが距離を大きく離して配置され、高性能アストログラフで多用される「(変形)ペッツバール構成」となっています。乱暴に表現すると、ペッツバール構成で周辺の流れを良好に補正した上で、高価なSD(スーパーED)レンズを使わないことでコストダウンを実現し、一方で前玉を3枚玉とすることで性能向上を図った、といえるでしょう。
ノーマルED1枚での色収差は?
フラッグシップ級の高性能鏡筒では、1枚ないしは複数枚のSD(スーパーED)レンズを使うことが当たり前になっている昨今、ノーマルED1枚のみで色収差補正が満足にできているのかという心配が出てきます。
上の画像は縦収差図(波長別に光軸上からレンズ外縁までの合焦位置をグラフにしたもの:軸上色収差と球面収差が評価できる)です。いわゆる「アンダーコレクション」型の補正で直線ではありません(*1)。しかし注目したいのが、どの波長も「だいたい同じ曲がりになっている」こと。つまり「赤はピントが合っているが青はボケている」とはならず、残存収差によるボケは「白色」となります。このため、強く強調することで赤ハロ・青ハロが目立ってくる現象(*2)は最小になっているのです。
(*1)収差補正が完璧な場合、全ての色に対して直線となります。SV555の「曲がり」の最大値は0.2mm程度。これは他社製のSDレンズ使用機の4倍ほどの大きさになりますが、外周部の径ベースで40%(光量ベースでは64%)の部分だけで見るとほぼ同等です。
(*2)極端な強調を行うディープスカイ天体写真にとっては、この現象は大敵です。
後節で見ていただく実写作例でもこの特性が確認できました。ノーマルEDレンズ一枚でも色ハロのほとんどない鏡筒が実現できるのです(*)。
(*)若干球面収差が残存するため、ベストの焦点位置ではわずかにハロが星像を取り囲む形になります。詳細は後節の「星像チェック」をご参照ください。
良好な周辺像
SV555で特筆できるのが良好な周辺像。上の画像はスポット図ですが、APS-C最周辺となる像高14mmでもスポット像の乱れはほぼ皆無。フルサイズ最周辺付近の像高22mmでもほとんど崩れはありません。最小スポット径は10〜15μ程度(*1)で、他社のSDガラスを使用した製品と遜色ありません。これはピクセルピッチ4μクラスの微細ピッチセンサー(*2)を使用しても充分満足できるレベルです。
(*1)スーパーEDレンズかEDレンズなのかは軸上色収差補正においては大きく効いていきますが、周辺の流れ(コマ・アス・像面湾曲)に関してはあまり差異はありません。
(*2)フルサイズなら6000万画素クラス。ソニーセンサーの場合、IMX455/571/533に相当
高いコスパ・低価格で高性能
満足できる高性能を安く実現した。これがSV555の最大の特長です。
高価な製品が高性能であることは、いってみれば「当たり前」のことです。昨今の天体望遠鏡の高性能化は大いに喜ぶべきことなのですが、あまりに高価格化してしまうとユーザーの裾野が先細りしてしいまいます。「高性能だけど高価格」な製品だけでなく「そこそこ高性能で低価格」な製品も必要なのです。
筆者は当初「ノーマルED1枚で高性能なアストログラフが実現できるのか」については懐疑的でしたが、実際に使ってみて大いに感心しました。SV555の設計コンセプトと実装レベル、そして得られるリザルトは素晴らしいものです。エンジニアリングの力を「究極の高性能」を実現することに振るのではなく「コスパの高いバランスのよい性能」の実現に振り向けた、といえるでしょう。
各部外観
パッケージ
製品はキレイな化粧箱に、取説と各パーツが発泡素材に収納されています。
鏡筒本体はさらにソフトケースに収納されています。鏡筒・アリガタ、鏡筒ハンドルも付属。さらにEAF(電動フォーカサー)を使用するための金具とベルト、プーリー、鏡筒バンドとアリガタの間隔を延ばすスペーサーも付属。ワンパッケージでほぼ全てが揃います(*)。
(*)カメラアダプタは別売です。
鏡筒部
鏡筒は金属製でずっしりと重量があります(実測約1900g)。絞りリングとヘリコイド式のピントリングを持ち、大型のカメラ望遠レンズのような感じです。
レンズの先端には72mm径のフィルターが装着できます。レンズキャップもカメラレンズ同様のスプリングではめ込む方式のものが付属します。フードは固定式ですが、元々短い鏡筒なので嵩張って困ることはないでしょう。
レンズ後端はM48P0.75の雄ネジが切られたプレートが装着されていて、カメラアダプタや接続リングが装着できるようになっています。後端のプレートからの推奨光路長は55mmです。
鏡筒内の内面反射は、最後群とその1つ前のレンズの間のスリーブ内での反射が若干気になります。鏡筒の内径を思いきり太くして遮光リングを入れれば解決するのでしょうが、小型の鏡筒では外形寸法の制約もあります。さまざまなトレードオフがあることは理解しますが、ここはぜひ工夫でもう一段の内面反射減少を望みたいところです。
極めて少ない口径食と割れの少ない美しい星像
一方で、口径食の少なさ・周辺光量の豊富さは大変優秀。口径食による星の「割れ」はほとんどなく、周辺星像が乱れることはありません(*)。後節のフラット画像も参照ください。
(*)逆に中心でもほんのわずかに光条がみられますが、レンズセルか絞り羽根のわずかな突起が原因なのでしょうか。ただし、この程度の光条を問題にし始めると、はたして満足できる望遠鏡は世界のどこにあるのか?というレベルの話になってきます。
恐らくディープスカイ撮影の用途でSV555を「絞って使う」ことはほぼないと推測しますが、カメラレンズ同様に絞り込むほど絞り羽根による回折光条が発生するものと思われます(*)。
(*)今回は試しきれなかったのですが「ごくわずかに絞る(口径で数mm程度)」ことによって、輝星像がよりキレイになる可能性があるかもしれません。検証された方がいらしたら、ぜひ情報をお寄せください。
鏡筒バンド
鏡筒バンドは美しい削り出し仕上げのアルミ材。鏡筒への装着や持ち運びにも便利な鏡筒ハンドルも付属。
鏡筒ハンドルはビクセン互換のファインダーアリミゾになっていて、ガイド鏡やASIAIRなどのパーツを装着することが可能。
鏡筒バンドの止めねじはM5のローレットネジですが、頭が小さく指では締め込み不足になりがち。M5のキャップスクリューも付属しているので、鏡筒に付けっぱなしにするならこちらを使用した方がよいでしょう(*)。
(*)締め付けが緩いと撮影中に鏡筒にがズレてきたり、EAFが終点で停止せず鏡筒が回転してしまう場合がありました。
アリガタプレートはアルカスイス互換のミゾも切ってあるのですが、裏返して装着する場合は長いネジが別に必要になります。特にEAFを併用する場合は「ゲタ(上画像右)」を安定して装着することができません。ビクセン互換アリガタと割り切って使った方がよいでしょう。
回転装置
鏡筒末端部には回転装置が付いています。目盛・指標がとても大きく見やすいのはグッド。好みの問題もあるでしょうが、細い目盛がたくさん刻まれているよりも、太い線と大きな文字のほうが、特に高齢者には優しいですね^^
フィルターの装着
一応、48mm径のフィルターを鏡筒内部に装着することが可能です。「一応」としたのは、フィルター装着のためには上の画像のような細かな作業が必要だからです(*)。
(*)筆者の個人的感想としては、撮影現場であまりやりたいとは思わない作業です。
デジタル一眼レフカメラを使用する場合、フィルター装着は事実上この方法しかないので頑張るしかありませんが、天体用CMOSカメラの場合は「フィルタードロワー」を使用すれば解決します。
上の画像はSVBONY社の天体用CMOSカメラ「SV405CC」にフィルタードロワー「SV226」を装着したもの。このように簡単にフィルターを差し込むことができます。
こちらはその作例。長時間露光で一晩一対象しか撮らないなら現場でのフィルターの換装は不要なのですが、、でもフィルタードロワーは便利ですね!
ピント合わせとEAF(電動フォーカサー)
合焦機構
SV555はカメラレンズ風のヘリコイド式。ピントリングには∞マークなどの距離指標が刻印されています。ピントリングは2025年1月出荷のロットから、無限遠マークよりもやや先まで回転するようになっています(*)。
(*)それ以前のロットでは上画像中の無限遠マークで止まる形だったのですが、温度変化や個体差、EAF動作時にVカーブを描くためには合焦点を越えて動作する必要があることなどから改良されています。
今回使用した実機の環境では、上画像の右の状態(無限遠マークと164ft目盛の中間くらい)で合焦しました。フィルターを装着すると合焦位置はさらに近距離側に移動します。
なお、SV555の合焦機構は「光学系全体を繰り出す」のではなく、最後群レンズのみを前後させる形式です。このため、ピント合わせによって光学特性が変化することが考えられます。バックフォーカスはできるかぎり推奨値に合わせておくのがよいでしょう(*)。
(*)筆者は主に鏡筒後端に実測光路長10.3mmのEFマウントアダプタリングを装着して使用しました。2mm厚のフィルターも使用しましたが周辺像に大きな変化はなく、バックフォーカスにはさほどシビアではないように感じました。
EAFキットが標準装備
標準でEAF(電動フォーカサー)が使用できるのもSV555の魅力の1つ。上の画像のようにピントリングの凹凸にピッタリはまるベルトとプーリーが付属します。
EAFはアリガタプレートの上に装着する形になりますが、その際に鏡筒バンドに付属のスペーサーを取り付けて「ゲタを履かせる」形になります。装着はさほど難しくはありませんが、最後にベルトのテンションを張るところは注意が必要かもしれません(*)。
(*)筆者は黒い取付金具とアリガタプレートの締め付けを1mmほど緩めておき、EAFをプレート側に引っ張って固定してから、最後に黒い取付金具を締め付けることでテンションを張りました。
EAFを使用したピント合わせの実際
EAFでピント合わせを行う場合はフォーカスの刻み値の設定が重要です。あまり細かすぎると「Vカーブ」をうまく描けなかったり、動作の所要時間が無駄に長くなってしまいます。粗すぎるとピント合わせの精度が低下します。当方の環境ではStep Size=100でイイ感じに動作してくれました(*)。
(*)EAFの1ステップ当たりの焦点面の移動量ですが、2mm厚(光路長変化0.7mm)のフィルターの有無で1200ステップ数ほどの合焦位置の差がありました。これから計算すると100ステップ当たりの焦点面移動量は約60μmとなります。一方でF4.5のSV555のエアリーディスク直径は6μm(波長550nmの場合)で、ピント移動による錯乱円の径が6μmとなる焦点移動量は6*4.5=27μm、EAFのステップ換算では約47ステップです。±50ステップの精度でピントを追い込めれば理論的には最大でもエアリーディスク程度のボケに収まる計算になります。
ピントをEAFで合わせた直後の状態。ASIAIRの「Detect」表示(*)で星像径は1.93ピクセルです。これは星像径がほぼ2ドット、センサーの解像度と光学性能がほぼ一致しているか、センサーの解像度がむしろ不足している状態を意味します。フルサイズ6200万画素のカメラでこれですから、SV555の光学性能は充分高いといえるでしょう。
(*)ソフトウェアによる星像径評価値は、同じ画像の場合であってもソフトによって値が異なることに注意が必要です。ASIAIRの「Detect」表示は若干小さめに出るようです。もちろんシーイングの良し悪しによっても変動します。
バーティノフマスクを使用したピント合わせ
バーティノフマスクでも充分高精度なピント合わせが可能です。上の画像はフォーカス位置を50ステップづつずらして連続撮影したものですが、ステップ値「3450」と「3250」では明らかに光条が非対称です。光条的には「3350」あたりがベスト位置だと考えられますが、その前後でも実用上大きな問題とはならないでしょう。この実写結果から、バーティノフマスクを使用すればEAFの±50ステップの精度でピント合わせが可能であるといってよいでしょう(*)。
EAFを装着すればピント合わせを自動化できるメリットがありますが(*)、気温の変動が大きくない環境であればバーティノフマスクでも充分運用可能だと感じました。
(*)「一晩放置撮影する」ようなケースでは、撮影シーケンスにピント合わせを自動で組み込めるEAFが威力を発揮するでしょう。
逆に、バーティノフマスクやEAFの助けなしに安定してピントを追い込むのはかなり難度が高いと感じました。よいリザルトを得るためには、バーティノフマスクかEAFのどちらかを使用されることを強く推奨します。
光学系の評価
周辺光量(フラット画像)
SV555は非常に周辺光量が豊富です。上の画像はフルサイズの天体用CMOSカメラASI6200MC Proを使用した場合のフラット画像ですが、周辺減光は極めて少なくなっています。筆者のこれまで使用した鏡筒の中でもかなり上位クラスに位置します(*)。周辺光量はフラッグシップ級に優秀といっても過言ではありません。
(*)補正前のフラット画像をダウンロードしてご確認ください。リンク先は記事末に記載しています。
さらに注目なのが一眼レフカメラの場合に「ミラーボックスケラレ」がほとんどみられないこと(*)。これは焦点距離が短いことと、最後群の凹レンズにより光束が広げられる形になっているからでしょう。
(*)減光が円形成分だけでなく若干矩形成分も含まれている理由が気になるのですが、こちらの原因は不明です。少なくとも鏡筒側の特性によるものではないと考えられます。
ミラーボックスケラレの多寡について。ミラーボックスケラレはカメラ側の構造が原因で、直接的な鏡筒の問題ではありませんが、光学系の設計によって影響の強く出る光学系と出にくい光学系があります。上段は強く出る場合。下段は出ない場合です。 https://t.co/1wD0EkM706 pic.twitter.com/zthA1sGOqN
— 黒・天リフ (@black_tenref) February 5, 2025
ちなみにこちらは「ミラーボックスケラレ」の発生原理のイメージ図。ミラーボックスケラレはフラットで補正しきれないことが多いのですが、SV555の場合はその心配は少なそうです。
星像チェック
それでは、SV555の性能を仔細にチェックしてみましょう。チェック対象はこちらの作例、デジタルカメラEOS6Dを使用して撮影したM45すばる星団です。上の画像はいろいろ画像処理を行った最終リザルトですが、星像をきっちりチェックする意味で、強調処理を極力シンプル・明快にした次の画像でチェックします。
上の画像は、ノンリニアな処理はPixInsightのSTF(ScreenTranferFunction)とphotoshopの彩度強調+70のみ、当然BXTはなしです。この画像の四隅・中央を拡大してみましょう。
いかがですか?
一辺200μmで四隅から中央までを切り出しました。左下隅がわずかにコマ収差風に伸びている以外は、均質で色ハロも少ない素晴らしい星像。これが10万円を切るアストログラフの星像とはにわかに信じられないレベルですね。
スタック直後の元画像をPixInsightのFWHMEccentricityで評価してみました(*)。2xのDrizzle処理を行っているため、星像径は実際にはこの1/2、中央値で2.4px相当です。EOS 6Dのピクセルピッチは5.76μmですから星像径は14μm。さすがにエアリーディスクよりは大きいですが、第一級の性能といえるでしょう。
(*)参考)ブログ「星降る場所を求めて」https://tarkungh.net/fwhmeccentricity-script/
若干左右で星像径に変化がありますが、これは微妙なカメラのスケアリングの狂いや鏡筒側の光軸・芯出しの問題かもしれません。その差はごくわずかで十二分な良像です。
さらに細かいところを見ていきましょう。上の画像はピント位置をEAFで50ステップづつ移動して撮影しました。絞りも開放のF4.5と一段絞ったF7.1の2つの条件で撮影しています。
まず特筆すべきことは、最周辺でも星像の流れがほとんどないこと。また、収差図から予測されたことですが、輝星の色ハロもほとんど感じられません。
5枚玉のペッツバール構成で周辺像の乱れを最小にし、若干の球面収差を甘受する代わりに色による球面収差の補正を極力同じになるようにした設計コンセプト通りの結像です(*)。
(*)「SD 望遠鏡 収差図」などでネットを検索すると、さまざまな収差図が掲載されていますが、それを見るとほとんどの天体望遠鏡では「色収差と球面収差のバランスを取る(上図のように各色の球面収差の傾向がバラバラになったとしても、0.7の輪帯付近で各色の焦点距離が一致するようにする)」ことに設計の主眼が置かれていることがわかります。その結果、残存球面収差の傾向も色によって異なるために星像に「色ハロ」が取りまくことになります。
次に「一定の残存収差を甘受した」球面収差を見てみましょう。上の画像から中央部のピント位置と絞りによる画像変化を切り出し、球面収差図と重ねてみました。
焦点内外の星像はアンダーコレクション型における典型的な傾向を示しています。焦点位置3600付近(外像)では星像の芯(中央部を透過した光が結像)をハロ(外周部を通過した若干ボケた星像)がとりまく形です。一方で焦点位置3400付近(内像)では境界の明瞭な、ややボケて大きくなった円盤上となっています。
ベストなピント位置と考えられる焦点位置3400付近では、わずかにハロが輝星を取りまくものの、充分に満足できる星像です。
絞りによる星像の変化も球面収差図通りの結果です。F4.5をF7.1に絞ることによって、外像ではピントがよりズレている外周部の光を使用しないためハロが減ってより明瞭に。内像では逆に絞ったほどの星像径の縮小は見られません。天体写真用途でSV555を絞って使うことはあまり想定できないとは思いますが、絞ることによって外像側では星像改善効果はありますが、内像側ではあまり効果はありません。何より、絞って使う場合は「絞った状態でピントを合わせる」ことが重要です(*)。
(*)カメラレンズ的に言えば「絞り込むことによる焦点移動が存在する」といえます。これはアンダーコレクション型の光学系で一般的に起きる事象です。
実戦的なピント合わせにおいては、これらのややこしい話を意識して何かをする必要はないでしょう。普通にバーティノフマスクやEAFでフォーカスを追い込めば、ベストの結像となります。ただし「外像側では少しハロが出る」「内像側では輪郭の明瞭なボケ像」になることは覚えておいて損はないでしょう。また、内像側ではごくわずかな青ハロが、外像側では逆にごくわずかな赤ハロ傾向となります。これも球面収差図通りの結果です。
BXT(BlurEXterminator)の効果
みんな大好き、BXT(BlurEXterminator)。その効果はSV555でも絶大です。上の画像はBXT処理後の画像を一辺200μmで切り出したもの。はい、素晴らしいです。コマっぽい左下の星像も補正され、もうほぼ完璧です。
PixInsightのFWHMEccentricityによる評価。2xDrizzleの効果もあって(*)星像径は1/3弱ほどにまで小さくなりました。中央値で0.85px相当、4.9μm。なんとエアリーディスク径(6μm)以下です。
(*)光学系にセンサーの解像度が負けている状態(アンダーサンプリング)の画像では、スタック時に「Drizzle」を指定し画素数をかさ上げすることで、BXTの効果がより顕著になります。
BXTは大変強力なツールです。決してライセンス料はお安くはありませんが、、SV555のポテンシャルをフル発揮する意味でも、使って損はないでしょう。
どんな人に向いているか
天体写真入門の最初の1本に
「これからディープスカイ天体写真を始めてみたい」方に最適な製品のひとつがSV555だといえるでしょう。周辺減光も色ハロも少なく画像処理の苦労が少ない(*1)、焦点距離が短めで追尾精度やシーイングの影響を受けにくい(*2)、筐体がコンパクトで小型の赤道儀でも運用できるなど、初心者にも優しいアストログラフといえるでしょう。
(*1)ただし超ガチ目線では、収差補正のバランス上、中間輝星が若干肥大する傾向があります。ぜひBXTのようなデコンボリューションツールをマスターすることをオススメします。
(*2)「受けにくい」とはいえ、あくまで比較論です。SV555は短焦点の243mmですが、高性能である分だけ、悪絶なシーイングの日には大きな影響を受けることがありました。
上の作例は4/3(フォーサーズ)センサー搭載の天体用ミラーレスカメラ「E-M1MarkIII Astro」で撮影したものですが、フラット処理は行っていません。APS-Cよりも小さなセンサーであれば、フラット処理は行わなくてもさほど大きな問題にはならないようです。
「広い画角」のアストログラフ、サブ鏡筒として
フルサイズセンサーと組み合わせるとかなり広い画角のアストログラフになります。APS-Cセンサーの場合フルサイズ換算約370mm程度になりますが、この場合も使いやすいワイド画角といえるでしょう。
上の作例は火山星雲。冬の星座が沈み夏の銀河が昇るまでの春の空でじっくり撮影したい対象です。SV555ならコンパクト機材でほぼ放置に近い形で使うことができます。サブ機としてもオススメです。
アストログラフもダウンサイジング・小さくてもよく写る!
口径50mmクラスの高性能アストログラフ全般に言えることですが、小さな筐体は機材の設置・展開が楽。大型鏡筒・大型架台での遠征撮影はなかなかシンドイものです。SV555なら、一昔前の口径80〜100mmクラスの屈折鏡筒と同程度、ないしはそれ以上の写りが得られます。「これからは小型・高性能鏡筒で、手軽に・身軽に撮影したい」という方にもうってつけです。
電視観望にも使いやすい焦点距離
短めの焦点距離243mmは、小サイズセンサーのCMOSカメラを使用した電視観望にもベストチョイス。口径54mmF4.8と光量が豊富なので、最近流行のスマート望遠鏡と比較して、より短い総露光時間で低ノイズのリザルトが得られるでしょう。ただし、小型でも意外と重量があるので(EAFなしの構成で2.45kg)、架台の選択には慎重に。
SV555に望むこと
軽量化
SV555は見かけよりはずっしり重いです。他社製の同クラスのアストログラフと比較してもやや重めです。
重いとはいっても絶対重量としては3kgを切る軽量なのですが、やはりより軽いに越したことはありません。ユーザーの1つの希望として「もうちょっと軽いといいなあー」と申し上げておきます。
大きめの収納ケースが欲しい
鏡筒を収納するケースが付属しますが、「鏡筒バンドを外した状態」でなければ収納できません。天体写真で使用する場合、鏡筒バンドは通常付けっぱなしにするでしょうから、実質的には運搬用には使えません。組み上げた状態で収納できる大きめのケースが付属すれば最高なのですが(*)。
(*)「しゃれた外観の緩衝材付き」と割り切ればいいのかもしれませんが・・・
鏡筒内面のさらなる反射防止対策
前項でも触れましたが、SV555は若干内面反射が気になります(*1)。内面反射は例えば上の作例のように、画角外に極めて明るい星がある場合にも問題になることがあります。画角外・右下のシリウスによる内面反射により、ごく淡いものではありますが虹色のゴーストが現れています。この現象は決してSV555だけの問題ではありません。シリウスとこのIC2177や、馬頭星雲とアルニタクなど、輝星が画角内・近傍にある場合は「運次第(*2)」でこのようなゴーストが発生することは普通にあることです。が、ユーザーとしては「なんとか頑張って改善してください」と言う以外にはありません。
(*1)少し古い情報ですが「内面反射対策をうるさく言うのは主に日本人」という話を聞いたことがありました。光害地で撮影されるシーンが多いせいかとは思いますが、ディープスカイ撮影において内面反射防止は極めて重要ですので、なんとかさらなる改善を願いたいものです。
(*2)鏡筒内のどの部分に輝星の光が入射するかはユーザーはほぼ予測不可能。運悪く反射率の高い場所に入射するとこんなことになります。
初回ロット以降に施された改良
SVBONY社には、ユーザーの声を迅速に製品に反映してくれる印象があります。筆者は2024年12月よりSV555のレビューを開始しましたが、前節で言及した「鏡筒バンドの止めねじをヘックスキー対応に」「ピントリングを無限遠を越えて回るように」という要望は、2025年1月以降出荷の製品に反映されました。この姿勢は高く評価できると思います。
一方で、本節で取り上げた「軽量化」「収納ケース」「内面反射防止対策」の件は、簡単に反映できないものと思いますが「きちんと声を上げれば次の製品開発に役立てもらえるのではないか?」という期待感があります(*)。
(*)ぜひぜひご検討をお願いします!
まとめ
いかがでしたか?
10万円を切る価格にもかかわらず、非常に高いレベルの性能を実現したSV555。ディープスカイ天体写真の裾野を広げる意味でも、天文界隈にとって大きな存在価値を持つ製品だと感じました。「SD(スーパーED)レンズを使わない」中でもこの性能を実現した設計コンセプト、そしてそれを製品としてしっかり実現した製造品質と技術も、高く評価されるべきものだと思います(*)。
(*)低価格の製品では「設計通りには製造されていない」ことがしばしばありますが、SV555の場合は収差図通りの撮影結果となったことには驚きました。とはいえ、この鏡筒が「クラス最安値」カテゴリであることを忘れてはいけません。むしろ「よくこの価格でこの性能を実現してくれたっ!」と賞賛されるべきでしょう。
豊富な周辺光量と中央・四隅まで安定した星像を結ぶ点では、第一級の性能だといえます。唯一、球面収差をアンダーコレクション型としたことにより、わずかに星を取りまく「白いハロ」が残存します(*)。ここだけが唯一、SD(スーパーED)レンズをふんだんに採用したフラッグシップ級のアストログラフとの差異といえるでしょう。
(*)このハロの存在は等倍拡大しない限り視認できないでしょう。青や赤に着色した「色ハロ」は強調した際にカラーバランスを大きく損ないますが、白いハロではその問題がありません。ハロが色付きしていないのがSV555ならではの設計上の工夫であり美点であるといえます。
「安いけどよく写る」「フラッグシップに一番近い廉価機」。SV555は、きっとあなたの天文ライフを豊かなものにしてくれるでしょう。
それでは、皆様のハッピー天文ライフをお祈り申し上げます!
元画像を見てみたい・処理してみたい方に
SV555の真の性能を見ていただくために、今回撮影した作例画像のスタック後/SPCC処理後のリニア画像(BXT処理前)と大サイズのjpegファイルの一部をダウンロード可能にしています。サイズはとてもデカいので、通信環境にご注意ください。撮影データは記事中の作例画像をご参照ください。
強調前fits(SPCCのみ、BXTなし)
リザルトjpeg
備考
作例オリオン座中心部
1.47GB
5.9MB
作例M45すばる
1GB
7.2MB
作例 sh2-308 ミルクポット星雲
1.5MB
作例ぎょしゃ座勾玉星雲
2.7MB
作例 火山星雲付近
6.5MB
作例 バラ星雲
11.8MB
フラット画像(EOS6D)
40.3MB
モノクロディベイヤー前Tiff画像
フラット画像(ASI6200MCP)
122.3MB
モノクロディベイヤー前Tiff画像
フォーカス位置移動チェック画像
1.5MB
本記事はSVBONY より協賛および機材貸与を受け、天文リフレクションズ編集部が独自の判断で作成したものです。文責は全て天文リフレクションズ編集部にあります。
記事に関するご質問・お問い合わせなどは天文リフレクションズ編集部宛にお願いいたします。
製品の購入およびお問い合わせはメーカー様・販売店様にお願いいたします。
本記事によって読者様に発生した事象については、その一切について編集部では責任を取りかねますことをご了承ください。
特に注記のない画像は編集部で撮影したものです。
記事中の製品仕様および価格は注記のないものを除き執筆時(2025年2月)のものです。
記事中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標です。
編集部山口
千宗kojiro7inukai@gmail.comAdministrator天文リフレクションズ編集長です。天リフOriginal
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